(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-21
(54)【発明の名称】電池箔スタックのレーザ溶接用の改良溶接法、溶接法、レーザ処理システム、関連するコンピュータプログラム製品
(51)【国際特許分類】
B23K 26/21 20140101AFI20241114BHJP
【FI】
B23K26/21 G
B23K26/21 W
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024529192
(86)(22)【出願日】2022-11-14
(85)【翻訳文提出日】2024-05-15
(86)【国際出願番号】 CN2022131652
(87)【国際公開番号】W WO2023088204
(87)【国際公開日】2023-05-25
(31)【優先権主張番号】202111355727.8
(32)【優先日】2021-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523277518
【氏名又は名称】トルンプフ (チャイナ) カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】TRUMPF (China) Co., Ltd.
【住所又は居所原語表記】No. 68, East Nanjing Road, Taicang, Jiangsu 215400, China
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ウェイユー ワン
(72)【発明者】
【氏名】ゼカイ ホウ
(72)【発明者】
【氏名】フランツ レーロイター
(72)【発明者】
【氏名】ユアン リュー
(72)【発明者】
【氏名】ルー ヂャン
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168BA02
4E168BA62
4E168BA87
4E168CB04
4E168CB07
(57)【要約】
本発明は、電池の集電体の多層アルミニウム箔スタックと、電池の部品とを溶接することによって形成された溶接シームを改良するための改良法であって、多層アルミニウム箔スタックの表面に設けられた溶接シームの溶接シームエッジをレーザ光線によって、溶接シームを形成するための入熱よりも低い入熱で少なくとも1回再溶融する再溶融ステップを少なくとも含む、改良法に関する。本発明は、さらに、対応する溶接法、レーザ処理システム、制御装置およびコンピュータプログラム製品に関する。本発明の利点は:最初の溶接シームの溶融エッジを低い出力で再溶融することによって、凝固プロセス中に新たに形成される溶接シームの溶融エッジ領域における内部応力を減じることができ、これによって、溶融エッジ領域における割れが減じられること;再溶融を繰り返すことによって、割れの長さを減じることができ、割れが、溶接エネルギーの連続的な低下によって不連続となること:である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池の集電体の多層アルミニウム箔スタック(10)と、前記電池の部品(20)とを溶接することによって形成された溶接シーム(30)を改良するための改良法であって、
前記多層アルミニウム箔スタック(10)の表面に設けられた前記溶接シーム(30)の溶接シームエッジをレーザ光線(430)によって、前記溶接シーム(30)を形成するための入熱よりも低い入熱で少なくとも1回再溶融する再溶融ステップを少なくとも含む、改良法。
【請求項2】
前記再溶融ステップにおいて、前記多層アルミニウム箔スタック(10)の前記表面に設けられた前記溶接シーム(30)の溶接シームエッジを前記レーザ光線(430)によって複数回再溶融し、1回目の再溶融のために使用される入熱は、前記溶接シーム(30)を形成するために使用される入熱よりも低く、前記1回目の再溶融後の各再溶融のために使用される入熱は、直前回の再溶融と比較して低減され、各再溶融では、前記直前回の再溶融によって形成された溶接シームエッジが再溶融され、かつ/または
前記再溶融ステップにおいて、前記レーザ光線(430)を前記多層アルミニウム箔スタック(10)に対して相対的に溶接シームエッジに沿ってまたは溶接シームエッジの近傍で該溶接シームエッジに対して平行に移動させ、かつ/または
前記再溶融ステップにおいて、より低い入熱を達成するために、前記レーザ光線(430)のレーザ出力を、前記溶接シーム(30)を形成するためのレーザ出力と比較して低下させ、かつ/または前記多層アルミニウム箔スタック(10)に対して相対的な前記レーザ光線(430)の移動速度を、前記溶接シーム(30)を形成するための移動速度と比較して増速させる、
請求項1記載の改良法。
【請求項3】
各再溶融によって形成された前記溶接シームエッジを、前記直前回の再溶融によって形成された前記溶接シームエッジを起点として前記溶接シーム(30)から離れる方向にオフセットし、かつ/または
個別の再溶融によって形成された前記溶接シームエッジの長さは互いに等しく、かつ/または
各再溶融における溶融池の深さは、再溶融の回数の増加につれて減少させられ、前記多層アルミニウム箔スタック(10)の厚さよりも小さく、かつ/または
再溶融の総回数を、前記溶接シーム(30)が割れに関する要件を満たすように選択する、
請求項2記載の改良法。
【請求項4】
前記電池はリチウムイオン電池であり、かつ/または
前記部品(20)は前記電池の正極である、
請求項1から3までのいずれか1項記載の改良法。
【請求項5】
電池の集電体の多層アルミニウム箔スタック(10)と、前記電池の部品(20)とを溶接するための溶接法であって、
前記多層アルミニウム箔スタック(10)と前記部品(20)とをレーザ光線(430)によって溶接し、これによって、溶接シーム(30)を形成する最初の溶接ステップと、
前記溶接シーム(30)に対して、請求項1から4までのいずれか1項記載の改良法を実施する改良ステップと
を含む、溶接法。
【請求項6】
前記最初の溶接ステップにおいて、前記溶接シーム(30)を前記多層アルミニウム箔スタック(10)の表面に前記レーザ光線(430)の線形の軌道または湾曲させられた軌道によって形成する、請求項5記載の溶接法。
【請求項7】
前記溶接法を走査光学系または固定された溶接ヘッドによって実施し、かつ/または
前記溶接法に先だって、前記多層アルミニウム箔スタック(10)のアルミニウム箔同士を超音波によって互いに前溶接した、
請求項5または6記載の溶接法。
【請求項8】
レーザ処理システム(40)であって、
レーザ光線(430)を発生させるためのレーザ装置(410)と、
少なくとも前記レーザ装置(410)を制御するための制御装置(420)と
を少なくとも備え、
請求項1から4までのいずれか1項記載の改良法または請求項5から7までのいずれか1項記載の溶接法を実施するように構成されている、
レーザ処理システム(40)。
【請求項9】
レーザ処理システム(40)用の制御装置(420)であって、請求項1から4までのいずれか1項記載の改良法または請求項5から7までのいずれか1項記載の溶接法を実施するように構成されている、制御装置(420)。
【請求項10】
コンピュータプログラム製品であって、プロセッサによって実行されると、請求項1から4までのいずれか1項記載の改良法または請求項5から7までのいずれか1項記載の溶接法を実施するコンピュータプログラム命令を含む、コンピュータプログラム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接シームを改良するための改良法、電池の集電体の多層アルミニウム箔スタックと、電池の部品とを溶接するための溶接法、レーザ処理システム、レーザ処理システム用の制御装置およびコンピュータプログラム製品に関する。本発明は、特に、リチウムイオン電池およびレーザ溶接の分野に関する。
【0002】
背景技術
リチウムイオン電池は、別種の電池と比較して種々の観点で優れているため、様々な分野で広く使用されている。
【0003】
リチウムイオン電池では、正の電極が、コバルト酸リチウム(またはマンガン酸ニッケルコバルトリチウム、マンガン酸リチウム、リン酸鉄リチウム等)とアルミニウム箔とから成る集電電極を備えており、負の電極が、黒鉛化炭素材料と銅箔とから成る集電電極を備えている。アルミニウム箔は正の電極の集電体としても使用される。多層アルミニウム箔スタックは、リチウムイオン電池において、より多くの活物質でコーティングすることができるより大きなアルミニウム箔表面を得るために使用される。電池を製造するためには、多層アルミニウム箔スタックが極に有効に接続される必要がある。アルミニウム箔は極めて肉薄であるので、接続のためには、通常、超音波溶接が好適である。通常、極の形状が不規則であるため、通常、シート形態のコネクタが、アルミニウム箔スタックと極との間に追加されている。この場合、まず、アルミニウム箔スタックとコネクタとが超音波溶接によって接続され、その後、溶接割れが生じにくいコネクタがレーザ溶接によって極に接続される。
【0004】
しかしながら、電池セルの軽量化および超急速充電のために、コネクタを省くことが目標とされている。この場合、多層アルミニウム箔スタックを極に直接溶接することが求められている。しかしながら、肉薄のアルミニウム箔には、溶接中、特に溶融の界面エッジのところで極めて割れが生じやすい。このことには、主として:アルミニウム箔の表面がAl2O3酸化物層で覆われていることが多く、この酸化物層の融点および硬さが、母材としてのアルミニウム箔の融点および硬さよりも著しく高く、これによって、酸化物層の部分が溶接プロセス中に完全に溶融することができず、溶接シームエッジに集まり、これによって、溶接シームエッジの硬さが著しく高まり、割れが発生しやすい;アルミニウム箔の厚さが肉薄であるため、溶融池の熱影響部付近のアルミニウム箔が、高い温度の作用下で著しく変形しやすく、このプロセスによって発生させられる引張応力もまた、溶融池割れのリスクを高めることになる;溶接中のレーザエネルギー入力により生じる温度むらおよび材料変形も割れのリスクを高める:といった理由がある。
【0005】
さらに、溶接シームが送り方向に細長いため、溶接シームの溶融池が、送り方向に対して垂直な断面で見たときにU字形である、つまり、溶融池のエッジ輪郭が極めて急傾斜であり、これによって、アルミニウム箔が溶融池のエッジのところで著しく変形させられ、結果的に生じる引張応力によって、溶融池の溶融エッジに連続的な割れが生じやすくなってしまう。
【0006】
開示の概要
本発明の目的は、多層アルミニウム箔スタックを溶接する際に割れを減じることができ、高強度で高品質な溶接シームを提供することができるような、溶接シームを改良するための改良法を提供することである。
【0007】
本発明の第1の態様によれば、電池の集電体の多層アルミニウム箔スタックと、電池の部品とを溶接することによって形成された溶接シームを改良するための改良法であって、多層アルミニウム箔スタックの表面に設けられた溶接シームの溶接シームエッジをレーザ光線によって、溶接シームを形成するための入熱よりも低い入熱で少なくとも1回再溶融する再溶融ステップを少なくとも含む、改良法が提供される。
【0008】
この文脈において、「部品」とは、特に、多層アルミニウム箔スタックと共に溶接される電池の任意の構成要素と解すべきものである。「溶接シーム」とは、特に、多層アルミニウム箔スタックをレーザ光線により部品に溶接することによって形成される任意の形態の溶接シーム、特に従来のように形成される最初の溶接シームと解すべきものである。溶接シームは、多層アルミニウム箔スタックにレーザ光線の線形の軌道、湾曲させられた軌道またはこれに類する軌道によって形成されることが可能である。「多層アルミニウム箔スタックの表面に設けられた溶接シームの溶接シームエッジ」とは、特に、多層アルミニウム箔スタックの表面に設けられた溶接シームの輪郭線、または溶接シームと、この溶接シームの母材としてのアルミニウム箔もしくは溶接シームの溶接止端との間の境界線と解すべきものである。溶接シームエッジは、特に、溶接シームの幅を画定している。「溶接シームの幅」とは、特に、レーザ光線の送り方向に対して横方向の溶接シームの幅と解すべきものである。各再溶融後には、特に、多層アルミニウム箔スタックの表面に新たな溶接シームエッジが形成される。本明細書において、「溶接シームエッジ」という用語は、特に、再溶融に基づき生じる溶接シームの内部の線ではなく、溶接シームと、母材としてのアルミニウム箔との間の境界線を常に指している。「多層アルミニウム箔スタックの表面に設けられた溶接シームの溶接シームエッジを・・・再溶融する」という特徴は、特に、溶接シームの2つの溶接シームエッジの少なくとも一部を再溶融すること、特に2つの溶接シームエッジを完全に再溶融することを網羅している。当然ながら、溶接シームエッジが再溶融されるとき、レーザ光線によって形成される溶融池は、例えば、溶接シームエッジよりも広幅であり、これによって、溶接シームエッジ付近の領域も同時に溶融される。さらに、当然ながら、再溶融後には、溶融された領域が凝固し、ひいては、新たな溶接シームエッジが形成される。
【0009】
本発明の任意選択的な実施形態によれば、再溶融ステップにおいて、多層アルミニウム箔スタックの表面に設けられた溶接シームの溶接シームエッジをレーザ光線によって複数回再溶融し、1回目の再溶融のために使用される入熱は、溶接シームを形成するために使用される入熱よりも低く、1回目の再溶融後の各再溶融のために使用される入熱は、直前回の再溶融と比較して低減され、各再溶融では、直前回の再溶融によって形成された溶接シームエッジが再溶融される。「複数回」という表現は、特に、「少なくとも2回」と解される。各再溶融は、特に、多層アルミニウム箔スタックの表面に設けられた溶接シームの2つの溶接シームエッジに関連する。
【0010】
本発明の任意選択的な実施形態によれば、再溶融ステップにおいて、レーザ光線を多層アルミニウム箔スタックに対して相対的に溶接シームエッジに沿ってまたは溶接シームエッジの近傍でこの溶接シームエッジに対して平行に移動させる。明らかに、レーザ光線の焦点が溶接シームエッジに沿っていなければならないことは必須ではないが、溶接シームエッジがレーザ光線の溶融池の内部にあれば十分である。
【0011】
本発明の任意選択的な実施形態によれば、再溶融ステップにおいて、より低い入熱を達成するために、レーザ光線のレーザ出力を、溶接シームを形成するためのレーザ出力と比較して低下させ、かつ/または多層アルミニウム箔スタックに対して相対的なレーザ光線の移動速度を、溶接シームを形成するための移動速度と比較して増速させる。
【0012】
本発明の任意選択的な実施形態によれば、各再溶融によって形成された溶接シームエッジを、直前回の再溶融によって形成された溶接シームエッジを起点として溶接シームから離れる方向にオフセットする。
【0013】
本発明の任意選択的な実施形態によれば、個別の再溶融によって形成された溶接シームエッジの長さは互いに等しい。ここで、「等しい」とは、特に、「絶対的に等しい」および「実質的に等しい」を網羅していると解すべきものであり、「実質的に等しい」とは、特に、±10%以内、特に±5%以内の偏差を含むことを意味している。
【0014】
本発明の任意選択的な実施形態によれば、各再溶融における溶融池の深さは、再溶融の回数の増加につれて減少させられ、多層アルミニウム箔スタックの厚さよりも小さい。
【0015】
本発明の任意選択的な実施形態によれば、再溶融の総回数を、溶接シームが割れに関する要件を満たすように選択する。
【0016】
本発明の任意選択的な実施形態によれば、電池はリチウムイオン電池である。
【0017】
本発明の任意選択的な実施形態によれば、部品は電池の正極である。
【0018】
本発明の第2の態様によれば、電池の集電体の多層アルミニウム箔スタックと、電池の部品とを溶接するための溶接法であって、多層アルミニウム箔スタックと部品とをレーザ光線によって溶接し、これによって、溶接シームを形成する最初の溶接ステップと、溶接シームに対して、上述した改良法を実施する改良ステップとを含む、溶接法が提供される。
【0019】
本発明の任意選択的な実施形態によれば、最初の溶接ステップにおいて、溶接シームを多層アルミニウム箔スタックの表面にレーザ光線の線形の軌道または湾曲させられた軌道によって形成する。
【0020】
本発明の任意選択的な実施形態によれば、溶接法を走査光学系または固定された溶接ヘッドによって実施する。固定された溶接ヘッドとは、特に、レーザ光線が溶接ヘッドに対して相対的に移動しない溶接ヘッドを指している。
【0021】
本発明の任意選択的な実施形態によれば、溶接法に先だって、多層アルミニウム箔スタックのアルミニウム箔同士を超音波によって互いに前溶接した。
【0022】
本発明の第3の態様によれば、レーザ処理システムであって、レーザ光線を発生させるためのレーザ装置と、少なくともレーザ装置を制御するための制御装置とを少なくとも備え、上述した改良法または上述した溶接法を実施するように構成されている、レーザ処理システムが提供される。
【0023】
本発明の第4の態様によれば、レーザ処理システム用の制御装置であって、上述した改良法または上述した溶接法を実施するように構成されている、制御装置が提供される。
【0024】
本発明の第5の態様によれば、コンピュータプログラム製品であって、プロセッサによって実行されると、上述した改良法または上述した溶接法を実施するコンピュータプログラム命令を含む、コンピュータプログラム製品が提供される。
【0025】
本発明のプラスの効果は:最初の溶接シームの溶融エッジを低い出力で再溶融することによって、凝固プロセス中に新たに形成される溶接シームの溶融エッジ領域における内部応力を減じることができ、これによって、溶融エッジ領域における割れが減じられること;再溶融を繰り返すことによって、割れの長さを減じることができ、割れが、溶接エネルギーの連続的な低下によって不連続となること:である。
【0026】
本発明の原理、特徴および利点は、本発明を添付の図面を参照しながら以下でより詳しく説明することによって、より良好に理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図2】レーザ加工システムの一例の概略的な斜視図である。
【
図3】溶接シームと、割れが生じやすい溶接シームの領域との一例の概略的な平面図である。
【
図4】
図3に示した溶接シームの溶融池の概略的な断面図である。
【
図5】溶接シームと、この溶接シームを本発明により改良する一例との概略的な平面図である。
【
図6】
図5に示した溶接シームの溶融池の概略的な断面図である。
【0028】
好適な実施形態の詳細な説明
本発明により解決すべき技術的な課題、技術的な解決手段および有益な技術的な効果をより明確にするために、本発明を添付の図面および複数の例示的な実施形態を参照しながら以下でさらに詳しく説明することにする。当然ながら、本明細書に記載した特定の実施形態は、本発明の保護範囲を限定するためではなく、本発明を説明するために使用されるにすぎない。
【0029】
まず、図面の明確さおよび簡潔さを目的として、ただ1つの溶接シームエッジ、ただ1つの割れまたは溶接シームの再溶融およびこれに類することによって形成されたただ1つの溶接シームエッジにだけ参照符号を付していることを指摘しておく。
【0030】
図1には、電池の一例が部分断面図で概略的に示してある。本明細書では、電池は、例としてリチウムイオン電池である。しかしながら、本発明の思想をリチウムイオン電池だけに限定せず、別の種類の電池、例えばナトリウムイオン電池に適用してもよいことは明らかである。さらに、本発明の思想を、角型のシェルを備えた電池に限定せず、類似の溶接シームを備えたパウチ型の電池、円筒型の電池および別の形態の電池に適用することもできる。リチウムイオン電池のセルは、例えば多層スタック構造によって形成されている。この多層スタック構造では、それぞれアルミニウム箔と銅箔との間にセパレータが設けられている。これらの層の間には、電池を製造するために必要となる更なる物質が介在させられている。このことは当業者に周知であり、詳しく説明しないことにする。こういったアルミニウム箔層はセルの一端で突出していて、超音波によって前溶接されて、正の電極の集電体を形成している。この正の電極の集電体の多層アルミニウム箔スタック10は、例えば20~130層のアルミニウム箔層を備えている。電池の正の電極は、また、例えば正極、正のタブおよびこれに類するものも備えている。正の電極の集電体は、一般的に正極に接続される必要があり、場合によっては、電池の正のタブまたは別の構成要素に接続される必要もある。このような接続は、通常、溶接によって達成される。例えば、多層アルミニウム箔スタック10と、この多層アルミニウム箔スタック10のうちの一番下側のアルミニウム箔層よりも下側の部品20、例えば正極とは、レーザ光線430によって溶接されて、溶接シーム30を形成する必要がある。
【0031】
図2には、レーザ加工システム40の一例が斜視図で概略的に示してある。例えば、レーザ処理システム40は、溶接および/または
図1の溶接シーム30の改良のために使用される。例えば、レーザ処理システム40は、レーザ光線430を発生させるためのレーザ装置410と、少なくともレーザ装置410を制御するための制御装置420とを備えている。レーザ処理システム40は、さらに、溶接すべき対象(つまり、多層アルミニウム箔スタック10および部品20)を支持するための支持台(
図2には平面として概略的に示した)および/または溶接すべき対象を保持するための固定具およびこれに類するものを備えていてよい。支持台および/または固定具は固定されていてもよいし、可動であってもよい。制御装置420は、必要に応じて、支持台および/または固定具の移動を制御してもよい。レーザ装置410は、例えば走査光学系または固定された溶接ヘッドを備えていてよい。
【0032】
図1に示した電池の集電体の多層アルミニウム箔スタック10が溶接されるときには、
図3に示した溶接シーム30が典型的に使用される。
図3には、この溶接シーム30が平面図で概略的に示してある。長さ対幅比は、
図3では明確さを目的としているにすぎず、実際には、幅が長さよりも著しく短くてよい。溶接シーム30の長さは、例えば20mm~60mmであり、幅は、例えば2mm~6mmである。溶接シーム30は、
図3では、例えば細長い。このような溶接シーム30を形成するためには、レーザ光線430が、一般的に、多層アルミニウム箔スタック10に対して相対的に線形の軌道を進行する。しかしながら、本明細書では、溶接可能な領域の形状およびサイズに応じて別の軌道を使用することも可能である。例えば、レーザ光線430が、送り方向への線形の送り移動に対して付加的に、送り方向に対して横方向への、狭い振幅を有する振動移動を実施してもよい。レーザ光線430の送り方向は、
図3に矢印および符号Vによって示してある。
図3には、溶接シーム30において割れが生じやすい領域340(つまり、最初の溶接シームエッジ300の近くの領域)が、ハッチングした斜線で示してある。溶接シーム30は、2つの最初の溶接シームエッジ300を有しているものの、図面の明確さおよび簡潔さを目的として、両者のうちの一方だけに参照符号が付してある。
図4には、
図3に示した溶接シーム30の溶融池の断面図が概略的に示してある。
図4にも、割れが生じやすい領域340が、ハッチングした斜線で示してある。
図4の断面は、
図3に一点鎖線で概略的に示してある。
【0033】
図5には、溶接シーム30と、この溶接シーム30を本発明により改良する一例とが、平面図で概略的に示してある。溶接シーム30を改良するための改良法は、例えば、
図2のレーザ処理システム40によって実施される。溶接シーム30を改良するための改良法は、少なくとも再溶融ステップを含んでいる。この再溶融ステップでは、多層アルミニウム箔スタック10の表面に設けられた溶接シーム30の溶接シームエッジが、レーザ光線430によって、溶接シーム30を形成するための入熱よりも低い入熱で少なくとも1回再溶融される。最初の溶接シーム30は、改良法を実施するレーザ処理システム40によって形成されてもよい。この場合、レーザ処理システム40は、電池の集電体の多層アルミニウム箔スタック10を電池の部品20に溶接するための溶接法を実施する。溶接法は、最初の溶接ステップと改良ステップとを含んでいる。まず、最初の溶接ステップでは、多層アルミニウム箔スタック10と部品20とがレーザ光線430によって溶接され、これによって、溶接シーム30が形成される。
図5に示した最初の溶接シーム30に関しては、特に、
図3および
図4の最初の溶接シーム30の説明を参照されたい。その後、改良ステップにおいて、溶接シーム30を改良するための上述した改良法が実施される。改良ステップでは、溶接法は、例えば走査光学系または固定された溶接ヘッドによって実施される。しかしながら、最初の溶接ステップと改良ステップとは、互いに異なるレーザ処理システム40によって実施されてもよい。この場合、2つのレーザ処理システム40は、互いに異なる工場に位置していてよい。
【0034】
本明細書では、本発明の改良法または溶接法は、例えば、
図2の制御装置420によって実施される。この制御装置420には、例えば、相応のコンピュータプログラム製品が存在している。このコンピュータプログラム製品は、プロセッサによって実行されると、
図2のレーザ処理システム40を制御して、改良法または溶接法を実施するコンピュータプログラム命令を含んでいる。
【0035】
本発明の任意選択的な実施形態によれば、再溶融ステップにおいて、より低い入熱を達成するために、レーザ光線430のレーザ出力が、溶接シーム30を形成するためのレーザ出力と比較して低下させられ、かつ/または多層アルミニウム箔スタック10に対して相対的なレーザ光線430の移動速度が、溶接シーム30を形成するための移動速度と比較して増速させられる。
【0036】
本発明の例示的な実施形態によれば、再溶融のために使用されるレーザ出力が、溶接のために使用されるレーザ出力の5%~50%である。再溶融のために使用される出力以外のレーザ光線430の別のパラメータ、例えば焦点直径、送り速度等は、最初の溶接と比較して不変のままであってよいが、しかしながら、変更されてもよい。さらに、レーザ光線430のパラメータは各再溶融中に変更されてもよい。例えば、長さ方向に沿った溶接シーム30の後方の区分が、蓄熱効果によって、より多くの割れを有していることがあるため、各再溶融において、溶接シームエッジの後方の区分に対して、前方の区分と異なるレーザ光線パラメータが使用されてよい。
【0037】
本発明の例示的な実施形態によれば、再溶融ステップにおいて、多層アルミニウム箔スタック10の表面に設けられた溶接シーム30の溶接シームエッジが、レーザ光線430によって複数回再溶融される。この場合、1回目の再溶融のために使用される入熱は、溶接シーム30を形成するために使用される入熱よりも低く、1回目の再溶融後の各再溶融のために使用される入熱は、直前回の再溶融と比較して低減され、各再溶融では、直前回の再溶融によって形成された溶接シームエッジが再溶融される。特に、各再溶融は、少なくとも、直前回の再溶融の溶融池が凝固した後に実施される。
図5には、溶接シームエッジが2回再溶融されたことが示してある。
図5には、最初の溶接シーム30が、太くて黒い実線によって表してあり、1回目の再溶融が、細い破線によって表してあり、2回目の再溶融が、より細い破線によって表してある。
図5では、最初の溶接シームエッジ300と、1回目の再溶融によって形成された溶接シームエッジ311と、2回目の再溶融によって形成された溶接シームエッジ322とに参照符号が付してある。
図6には、
図5に示した溶接シーム30の溶融池の断面図が概略的に示してある。断面は、
図5に一点鎖線で概略的に示してある。
図6では、最初の溶接シーム30と、1回目の再溶融中の溶融池310と、2回目の再溶融中の溶融池320とに参照符号が付してある。当然ながら、これらは互いに重なり合っている。
【0038】
本発明の例示的な実施形態によれば、再溶融ステップにおいて、レーザ光線430が、多層アルミニウム箔スタック10に対して相対的に溶接シームエッジに沿ってまたは溶接シームエッジの近傍でこの溶接シームエッジに対して平行に移動させられる。しかしながら、再溶融のための、多層アルミニウム箔スタック10の表面に対するレーザ光線430の別の軌道、例えば、付加的な横方向の振動移動を伴う軌道も可能である。
【0039】
本発明の例示的な実施形態によれば、各再溶融によって形成された溶接シームエッジが、直前回の再溶融によって形成された溶接シームエッジを起点として溶接シーム30から離れる方向にオフセットされている。
図5に示したように、2回目の再溶融によって形成された溶接シームエッジ322は、1回目の再溶融によって形成された溶接シームエッジ311を起点として溶接シーム30から離れる方向にオフセットされている。このことは、溶接シーム30の連続的な広がりと見なすこともできる。しかしながら、再溶融によって形成された溶接シームエッジが、最初の溶接シームエッジ300と同一である、つまり、溶接シーム30の幅が一定のままであることも可能である。
【0040】
本発明の例示的な実施形態によれば、個別の再溶融によって形成された溶接シームエッジの長さは互いに等しい。しかしながら、各再溶融によって、直前回の再溶融よりも僅かに短い(
図5参照)かまたは僅かに長い溶接シームエッジ等を生じさせることも可能である。
【0041】
本発明の例示的な実施形態によれば、
図6に示したように、各再溶融における溶融池の深さは、再溶融の回数の増加につれて減少させられ、多層アルミニウム箔スタック10の厚さよりも小さい。
【0042】
本発明の例示的な実施形態によれば、再溶融の総回数は、溶接シーム30が割れに関する要件を満たすように選択されている。
【0043】
本発明の特定の複数の実施形態を本明細書において詳しく説明したが、これらの実施形態は、説明を目的として提示したにすぎず、本発明の範囲を限定するものと見なすべきではない。本発明の趣旨および範囲から逸脱することなしに、種々の置換、修正および変更が考えられてよい。
【手続補正書】
【提出日】2024-05-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池の集電体の多層アルミニウム箔スタック(10)と、前記電池の部品(20)とを溶接することによって形成された溶接シーム(30)を改良するための改良法であって、
前記多層アルミニウム箔スタック(10)の表面に設けられた前記溶接シーム(30)の溶接シームエッジをレーザ光線(430)によって、前記溶接シーム(30)を形成するための入熱よりも低い入熱で少なくとも1回再溶融する再溶融ステップを少なくとも含む、改良法。
【請求項2】
前記再溶融ステップにおいて、前記多層アルミニウム箔スタック(10)の前記表面に設けられた前記溶接シーム(30)の溶接シームエッジを前記レーザ光線(430)によって複数回再溶融し、1回目の再溶融のために使用される入熱は、前記溶接シーム(30)を形成するために使用される入熱よりも低く、前記1回目の再溶融後の各再溶融のために使用される入熱は、直前回の再溶融と比較して低減され、各再溶融では、前記直前回の再溶融によって形成された溶接シームエッジが再溶融され、かつ/または
前記再溶融ステップにおいて、前記レーザ光線(430)を前記多層アルミニウム箔スタック(10)に対して相対的に溶接シームエッジに沿ってまたは溶接シームエッジの近傍で該溶接シームエッジに対して平行に移動させ、かつ/または
前記再溶融ステップにおいて、より低い入熱を達成するために、前記レーザ光線(430)のレーザ出力を、前記溶接シーム(30)を形成するためのレーザ出力と比較して低下させ、かつ/または前記多層アルミニウム箔スタック(10)に対して相対的な前記レーザ光線(430)の移動速度を、前記溶接シーム(30)を形成するための移動速度と比較して増速させる、
請求項1記載の改良法。
【請求項3】
各再溶融によって形成された前記溶接シームエッジを、前記直前回の再溶融によって形成された前記溶接シームエッジを起点として前記溶接シーム(30)から離れる方向にオフセットし、かつ/または
個別の再溶融によって形成された前記溶接シームエッジの長さは互いに等しく、かつ/または
各再溶融における溶融池の深さは、再溶融の回数の増加につれて減少させられ、前記多層アルミニウム箔スタック(10)の厚さよりも小さく、かつ/または
再溶融の総回数を、前記溶接シーム(30)が割れに関する要件を満たすように選択する、
請求項2記載の改良法。
【請求項4】
前記電池はリチウムイオン電池であり、かつ/または
前記部品(20)は前記電池の正極である、
請求項1から3までのいずれか1項記載の改良法。
【請求項5】
電池の集電体の多層アルミニウム箔スタック(10)と、前記電池の部品(20)とを溶接するための溶接法であって、
前記多層アルミニウム箔スタック(10)と前記部品(20)とをレーザ光線(430)によって溶接し、これによって、溶接シーム(30)を形成する最初の溶接ステップと、
前記溶接シーム(30)に対して、請求項
1記載の改良法を実施する改良ステップと
を含む、溶接法。
【請求項6】
前記最初の溶接ステップにおいて、前記溶接シーム(30)を前記多層アルミニウム箔スタック(10)の表面に前記レーザ光線(430)の線形の軌道または湾曲させられた軌道によって形成する、請求項5記載の溶接法。
【請求項7】
前記溶接法を走査光学系または固定された溶接ヘッドによって実施し、かつ/または
前記溶接法に先だって、前記多層アルミニウム箔スタック(10)のアルミニウム箔同士を超音波によって互いに前溶接した、
請求項5または6記載の溶接法。
【請求項8】
レーザ処理システム(40)であって、
レーザ光線(430)を発生させるためのレーザ装置(410)と、
少なくとも前記レーザ装置(410)を制御するための制御装置(420)と
を少なくとも備え、
請求項
1記載の改良法または請求項
5記載の溶接法を実施するように構成されている、
レーザ処理システム(40)。
【請求項9】
レーザ処理システム(40)用の制御装置(420)であって、請求項
1記載の改良法または請求項
5記載の溶接法を実施するように構成されている、制御装置(420)。
【請求項10】
コンピュータプログラム製品であって、プロセッサによって実行されると、請求項
1記載の改良法または請求項
5記載の溶接法を実施するコンピュータプログラム命令を含む、コンピュータプログラム製品。
【国際調査報告】