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特表2024-543570アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体および三元共重合体を含む低流動性高分子組成物、およびアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体の流動性の減少方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-21
(54)【発明の名称】アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体および三元共重合体を含む低流動性高分子組成物、およびアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体の流動性の減少方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 55/02 20060101AFI20241114BHJP
   C08L 33/14 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
C08L55/02
C08L33/14
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024532342
(86)(22)【出願日】2022-11-25
(85)【翻訳文提出日】2024-05-29
(86)【国際出願番号】 KR2022018804
(87)【国際公開番号】W WO2023106705
(87)【国際公開日】2023-06-15
(31)【優先権主張番号】2113244
(32)【優先日】2021-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515215276
【氏名又は名称】エスケー ジオ セントリック カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】ジャック ギヨーム
(72)【発明者】
【氏名】レルヒ エリザベス
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BG07X
4J002BN15W
4J002CD19X
4J002GC00
4J002GM00
4J002GN00
4J002GQ00
4J002GQ01
(57)【要約】
本開示は、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体および三元共重合体を含む低流動性高分子組成物と、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体の流動性の減少方法に関する。前記低流動性高分子組成物を用いる場合、組成物の粘度調節が容易であって、高分子成形ステップにおける作業性が向上するだけでなく、優れた衝撃強度を有する成形品を多様な形態で製造することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)および三元共重合体を含む低流動性高分子組成物であって、前記三元共重合体は、エチレンに由来の第1繰返し単位、およびグリシジル基を含む第2繰返し単位を含有する、低流動性高分子組成物。
【請求項2】
前記三元共重合体は、グリシジル(メタ)アクリレートに由来の第2繰返し単位、およびメチル(メタ)アクリレートに由来の第3繰返し単位を含む、請求項1に記載の低流動性高分子組成物。
【請求項3】
前記第2繰返し単位は、前記三元共重合体の全重量中に3~20wt%で含まれる、請求項2に記載の低流動性高分子組成物。
【請求項4】
前記第3繰返し単位は、前記三元共重合体の全重量中に20~30wt%で含まれる、請求項2に記載の低流動性高分子組成物。
【請求項5】
前記三元共重合体は、組成物の全重量中に0.1~10重量%で含まれる、請求項1に記載の低流動性高分子組成物。
【請求項6】
メチル(メタ)アクリレートに由来の繰返し単位、およびエチレンに由来の繰返し単位を含有する共重合体をさらに含む、請求項1に記載の低流動性高分子組成物。
【請求項7】
前記共重合体は、組成物の全重量中に1~20重量%で含まれる、請求項6に記載の低流動性高分子組成物。
【請求項8】
下記式1を満たす、請求項1に記載の低流動性高分子組成物。
[式1]MFICOM/MFIABS<1.0
(前記式1中、MFICOMは、低流動性高分子組成物のメルトフローインデックス(g/10min.)であり、MFIABSは、純ABS共重合体のメルトフローインデックスであり、前記メルトフローインデックスはISO 1133-1(2011)に準じて測定されたものである。)
【請求項9】
押出用である、請求項1に記載の低流動性高分子組成物。
【請求項10】
ポリカーボネートを実質的に含まない、請求項1に記載の低流動性高分子組成物。
【請求項11】
前記低流動性高分子組成物を加工して製造された成形品が下記式2を満たす、請求項1に記載の低流動性高分子組成物。
[式2]ISCOM/ISABS>1.0
(ISCOMは、低流動性高分子組成物を加工して製造された成形品の衝撃強度(kJ/m)であり、ISABSは、純ABS共重合体を加工して製造された成形品の衝撃強度であり、前記衝撃強度はISO 179 1eAに準じて測定されたものである。)
【請求項12】
請求項1~11の何れか一項に記載の低流動性高分子組成物を加工して製造された成形品。
【請求項13】
アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)および三元共重合体を含む高分子組成物を押出機により溶融混練するステップを含み、
前記三元共重合体は、エチレンに由来の第1繰返し単位、およびグリシジル基を含む第2繰返し単位を含有する、ABS共重合体の流動性の減少方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体および三元共重合体を含む低流動性高分子組成物、およびアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体の流動性の減少方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)は、優れた耐薬品性、寸法安定性、および加工性などの利点を有しており、洗濯機、TV、冷蔵庫、モニター、複写機、ファクシミリ、自動車のサイドミラー、携帯電話ケース、おもちゃ素材、およびゲーム機などの広範囲な分野で用いられている。
【0003】
前記ABSの成形方法は多様であるが、前記例示の製品は、通常、射出成形により製造されることができる。かかる成形ステップで重要な事項の一つが、溶融された高分子の粘度を意味するメルトフローインデックス(MFI)であり、射出成形では、通常、メルトフローインデックスの高い、すなわち、流動性の良い高分子組成物が用いられている。
【0004】
一方、エコフレンドリーに関する関心が高くなるに伴い、プラスチックのリサイクルの要求が高くなっており、同様に、ABSのリサイクルに関する多くの研究開発が行われている。しかし、ABSをリサイクルする場合には衝撃強度が低下し、特に、上記のような射出成形品をリサイクルする場合、メルトフローインデックスが非常に高いため、シートやプロファイル押出し成形などといった他の成形方法を用いることができないという問題がある。
【0005】
また、ABSは、他の熱可塑性高分子と比べて衝撃強度自体が不足することから、衝撃改質剤(impact modifier)などを添加することでABSの衝撃強度を改良することがある。しかしながら、前記添加剤を投入すると、粘度が低下し、上昇されたメルトフローインデックスを有するため、押出成形時の作業性が低下し、製造された成形品の品質が低下するという問題が依然として存在する。
【0006】
したがって、衝撃強度が向上し、且つ流動性が減少して、押出成形にも有利なメルトフローインデックスを有する高分子組成物の研究開発が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体および三元共重合体を含む低流動性高分子組成物を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体に三元共重合体を含むことで、高分子組成物に低流動性を付与し、シートやプロファイル押出し成形といった低いメルトフローインデックスが求められる成形方法に適した高分子組成物を提供することにある。また、前記低流動性高分子組成物は、改良された作業性および向上した衝撃強度を有する高品質の成形品を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の問題を解決するために、高分子組成物に、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体と、エチレンに由来の第1繰返し単位およびグリシジル基を含む第2繰返し単位を含有する三元共重合体と、を含む場合、高分子組成物のメルトフローインデックスが効果的に減少するだけでなく、前記高分子組成物を用いて、向上した衝撃強度を有する成形品が製造可能であることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
本開示は、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)および三元共重合体を含む低流動性高分子組成物であって、前記三元共重合体は、エチレンに由来の第1繰返し単位、およびグリシジル基を含む第2繰返し単位を含有する、低流動性高分子組成物を提供する。
【0011】
本発明の一実施態様において、前記三元共重合体は、グリシジル(メタ)アクリレートに由来の第2繰返し単位、およびメチル(メタ)アクリレートに由来の第3繰返し単位を含んでよい。
【0012】
本発明の一実施態様において、前記第2繰返し単位は、前記三元共重合体の全重量中に3~20wt%で含まれてよい。
【0013】
本発明の一実施態様において、前記第3繰返し単位は、前記三元共重合体の全重量中に20~30wt%で含まれてよい。
【0014】
本発明の一実施態様において、前記三元共重合体は、組成物の全重量中に0.1~10重量%で含まれてよい。
【0015】
本発明の一実施態様において、前記高分子組成物は、メチル(メタ)アクリレートに由来の繰返し単位、およびエチレンに由来の繰返し単位を含有する共重合体をさらに含んでよい。
【0016】
本発明の一実施態様において、前記共重合体は、組成物の全重量中に1~20重量%で含まれてよい。
【0017】
本発明の一実施態様において、前記低流動性高分子組成物が、下記式1を満たしてもよい。
【0018】
[式1]MFICOM/MFIABS<1.0
(前記式1中、MFICOMは、低流動性高分子組成物のメルトフローインデックス(g/10min.)であり、MFIABSは、純ABS共重合体のメルトフローインデックスであり、前記メルトフローインデックスはISO 1133-1(2011)に準じて測定されたものである。)
【0019】
本発明の一実施態様において、前記低流動性高分子組成物は押出用であってよい。
【0020】
本発明の一実施態様において、前記低流動性高分子組成物は、ポリカーボネートを実質的に含まないものであってよい。
【0021】
本発明の一実施態様において、前記低流動性高分子組成物を加工して製造された成形品が下記式2を満たしてもよい。
【0022】
[式2]ISCOM/ISABS>1.0
(ISCOMは、低流動性高分子組成物を加工して製造された成形品の衝撃強度(kJ/m)であり、ISABSは、純ABS共重合体を加工して製造された成形品の衝撃強度であり、前記衝撃強度はISO 179 1eAに準じて測定されたものである。)
【0023】
本開示は、前述の低流動性高分子組成物を加工して製造された成形品を提供する。
【0024】
本開示は、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)および三元共重合体を含む高分子組成物を押出機により溶融混練(溶融押出)するステップを含み、前記三元共重合体は、エチレンに由来の第1繰返し単位、およびグリシジル基を含む第2繰返し単位を含有する、ABS共重合体の流動性の減少方法を提供することができる。
【発明の効果】
【0025】
本開示は、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体および三元共重合体を含む低流動性高分子組成物を提供することができる。具体的に、前記低流動性高分子組成物は、前記三元共重合体とアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体の相互作用により、低い流動性が求められる押出成形において有利なメルトフローインデックスを付与することができるとともに、これを用いて、向上した衝撃強度を有する成形品を製造することができる。したがって、前記低流動性高分子組成物を用いる場合、組成物の粘度調節が容易であって、高分子の成形ステップにおける作業性が向上するだけでなく、優れた衝撃強度を有する成形品を多様な形態で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明についてより詳細に説明する。但し、下記の実施形態または実施態様は、本発明を詳細に説明するための一つの参照にすぎず、本発明がこれに限定されるものではなく、多様な形態で実現されることができる。
【0027】
また、別に定義されない限り、全ての技術的用語および科学的用語は、本発明が属する当業者の一つにより一般に理解される意味と同一の意味を有する。
【0028】
本発明の説明で用いられる用語は、特定の実施態様を効果的に述べるためのものにすぎず、本発明を制限する意図ではない。
【0029】
また、明細書および添付の特許請求の範囲で用いられる単数の形態は、文脈で別に指示しない限り、複数の形態も含むことを意図する。
【0030】
また、ある部分がある構成要素を「含む」としたときに、これは、別に反対の記載がない限り、他の構成要素を除くのではなく、他の構成要素をさらに含み得ることを意味する。
【0031】
また、本明細書で用いられる数値範囲は、下限値と上限値、およびその範囲内での全ての値、定義される範囲の形態と幅で論理的に誘導される増分、二重限定された全ての値、並びに、互いに異なる形態で限定された数値範囲の上限および下限の全ての可能な組み合わせを含む。本明細書で別に定義しない限り、実験誤差または値の切り上げにより発生する可能性のある数値範囲外の値も、定義された数値範囲に含まれる。
【0032】
本発明に記載の「低流動性」は、高分子組成物においてベース高分子のメルトフローインデックスより低いメルトフローインデックスを有する性質を意味する。具体的に、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体のメルトフローインデックスより低いメルトフローインデックスを有する高分子組成物が、低流動性高分子組成物と定義され得る。
【0033】
本発明に記載の「実質的に含まない」とは、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)100重量部に対して、1重量部以下、具体的に、0.1重量部以下で含むことを意味し得る。例えば、低流動性高分子組成物が「ポリカーボネートまたはマレイン酸無水物官能基を含む高分子を実質的に含まない」とは、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)100重量部に対して、ポリカーボネートまたはマレイン酸無水物官能基を含む高分子を1重量部以下、具体的に、0.1重量部以下で含むことを意味し得る。
【0034】
以下、本発明についてより具体的に説明する。
【0035】
本開示は、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)および三元共重合体を含む低流動性高分子組成物を提供し、前記三元共重合体は、エチレンに由来の第1繰返し単位、およびグリシジル基を含む第2繰返し単位を含有する。
【0036】
前記アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(以下、ABS共重合体)は、ブタジエン、スチレン、およびアクリロニトリルが通常もしくは公知の方法により重合されたアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体であってよい。例示的に、乳化重合法または懸濁重合法により重合された高分子であってよく、市販品が制限されずに使用できる。
【0037】
非制限的な例として、前記ABS共重合体の全重量中において、ブタジエンに由来の繰返し単位が5~50wt%、具体的に20~40wt%、スチレンに由来の繰返し単位が20~70wt%、具体的に25~60wt%、およびアクリロニトリルに由来の繰返し単位が5~40wt%、具体的に10~35wt%であってよい。前記ABS共重合体の重量平均分子量(Mw)は、10,000~500,000g/mol、または50,000~300,000g/mol、または80,000~250,000g/molであってよい。また、前記ABS共重合体のガラス転移温度(Tg)は、70~150℃、または80~130℃であってよく、前記ABS共重合体の溶融温度(Tm)は、150~300℃、または180~250℃であってよい。前記ABS共重合体のメルトフローインデックス(MFI)は、1~100g/10min.、または1~50g/10min.、または5~30g/10min.であってよいが、これに制限されない。
【0038】
一実施態様において、前記三元共重合体は、エチレンに由来の第1繰返し単位、グリシジル(メタ)アクリレートに由来の第2繰返し単位、およびメチル(メタ)アクリレートに由来の第3繰返し単位を含んでよい。具体的に、前記三元共重合体は、エチレンに由来の第1繰返し単位、グリシジルメタクリレートに由来の第2繰返し単位、およびメチルアクリレートに由来の第3繰返し単位を含んでよい。
【0039】
前記三元共重合体は、メチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、およびエチレンが通常もしくは公知の方法により重合された三元共重合体であってよく、または、市販品が制限されずに使用できる。
【0040】
具体的に、前記第2繰返し単位は、前記三元共重合体の全重量中に、0.1~50wt%、具体的に1~30wt%、より具体的に2~20wt%で含まれてよい。また、前記第3繰返し単位は、前記三元共重合体の全重量中に、0.1~50wt%、具体的に5~40wt%、より具体的に20~30wt%で含まれてよい。前記三元共重合体の重量平均分子量(Mw)は、10,000~500,000g/mol、または50,000~250,000g/molであってよく、前記三元共重合体のメルトフローインデックス(MFI、190℃/2.16kg)は、1~100g/10min.、または1~40g/10min.、または1~30g/10min.であってよいが、これに制限されない。上記の範囲を満たす三元共重合体を含む高分子組成物は、メルトフローインデックス(MFI)が効果的に減少し、押出成形における作業性が改良されるだけでなく、製造された成形品の衝撃強度が向上することができる。
【0041】
一実施態様において、前記三元共重合体は、組成物の全重量中に、0.1~20wt%または0.1~10wt%、具体的に0.5~7wt%、より具体的に1~5wt%で含まれてよい。前記範囲を満たす場合、高分子組成物のメルトフローインデックス(MFI)をより容易に調節することができ、さらに向上した衝撃強度を有する成形品を製造することができる。また、前記三元共重合体の含量を適宜調節することで、目標とする高分子組成物のメルトフローインデックス(MFI)、および製造された成形品の衝撃強度を容易に実現することができる。
【0042】
一実施態様において、前記高分子組成物は、メチル(メタ)アクリレートに由来の繰返し単位、およびエチレンに由来の繰返し単位を含有する共重合体をさらに含んでよい。具体的に、メチル(メタ)アクリレートおよびエチレンが通常もしくは公知の方法により重合された共重合体を用いてよく、市販品が制限されずに使用できる。具体的に、前記共重合体は、ポリ(エチレン-co-メチルメタクリレート)またはポリ(エチレン-co-メチルアクリレート)であってよい。
【0043】
非制限的な例として、前記共重合体の全重量中において、メチル(メタ)アクリレートに由来の繰返し単位が1~50wt%、具体的に15~35wt%、エチレンに由来の繰返し単位が50~99wt%、具体的に65~85wt%であってよい。前記共重合体の重量平均分子量(Mw)は、10,000~500,000g/mol、または50,000~250,000g/molであってよく、前記共重合体のメルトフローインデックス(MFI、190℃/2.16kg)は、1~800g/10min.、または1~50g/10min.、または1~45g/10min.であってよいが、これに制限されない。
【0044】
前記共重合体は、組成物の全重量中に、0.1~30wt%、1~20wt%、または1~15wt%で含まれてよい。前記三元共重合体および前記共重合体の重量比は、1:0.1~50、または1:0.5~10であってよいが、これに制限されない。前記高分子組成物は、前記共重合体の含量を適宜調節することで、目標とする高分子組成物のメルトフローインデックス(MFI)、および製造された成形品の衝撃強度を容易に実現することができる。
【0045】
一実施態様において、前記低流動性高分子組成物は、前記アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン高分子の他にも、熱可塑性高分子をさらに含んでよい。非制限的な例として、前記熱可塑性高分子は、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリプロピレン(PP)、ポリアクリレート(polyacrylate)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリアミド(polyamide)、スチレン-アクリロニトリル共重合体(SAN)、およびアクリロニトリル-スチレン-アクリレート(ASA)などからなる群から選択される一つまたはこれらの混合物であってよい。前記熱可塑性高分子は、前記ABS共重合体100重量部に対して、0.1~100重量部または1~50重量部、または1~25重量部で含まれてよいが、これに制限されず、目標とする物性を有する成形品を製造するために、前記組成物の含量を調節してよい。
【0046】
本発明の一実施態様において、前記低流動性高分子組成物は、ポリカーボネートを実質的に含まなくてよい。前記ポリカーボネート(PC)が高分子組成物に含まれる場合、高分子組成物の粘度が却って著しく減少し、低流動性を容易に実現することが困難である点から、好ましくない。
【0047】
本発明の一実施態様において、前記低流動性高分子組成物は、マレイン酸無水物官能基を含む高分子を実質的に含まなくてよい。前記マレイン酸無水物官能基を含む高分子が高分子組成物に含まれる場合、本発明で目的とする好ましい粘度(流動性)を実現することが困難であり得る。
【0048】
本発明の一実施態様において、前記低流動性高分子組成物は、目的および用途に応じて、当該技術分野において一般に用いられる添加剤をさらに含んでよい。例えば、紫外線安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、粘度調節剤、可塑剤、熱安定剤、染料、顔料、着色剤、離型剤、帯電防止剤、抗菌剤、加工助剤、金属不活性化剤、難燃剤、耐摩擦剤、耐摩耗剤、および滑剤などをさらに含んでよい。この際、前記添加剤は、本発明が目的とする物性を阻害しない範囲内で適切な含量で含まれてよい。
【0049】
本発明の一実施態様において、前記低流動性高分子組成物は、下記式1を満たし、具体的に、下記式3を満たしてもよい。
【0050】
[式1]MFICOM/MFIABS<1.0
【0051】
[式3]MFICOM/MFIABS≦0.8
(前記式1および3中、MFICOMは、高分子組成物のメルトフローインデックス(g/10min.)であり、MFIABSは、純ABS共重合体のメルトフローインデックスであり、前記メルトフローインデックスはISO 1133-1(2011)に準じて測定されたものである。)
【0052】
前記式1、具体的に、前記式3を満たす場合、前記高分子組成物は低流動性を有することができ、押出成形において前記高分子組成物がさらに有利なメルトフローインデックスを有して、作業性が向上することができる。
【0053】
本発明は、上述の低流動性高分子組成物を加工して製造された成形品を提供することができる。前記成形品の加工方法としては、通常用いられる方法や公知の方法であれば特に制限されずに使用でき、例えば、射出、押出、プロファイル押出し(profile extrusion)、カレンダリング(calendaring)、およびブロー成形(direct blow)などの方法を用いてよい。特に、前記低流動性高分子組成物は、ABS共重合体および上述の三元共重合体を含むことで、押出成形時に減少したメルトフローインデックス(MFI)を有し、前記低流動性高分子組成物を押出用に用いる場合、加工性がさらに改良されることができ、高品質の成形品を製造することができる。
【0054】
本発明の一実施態様において、前記低流動性高分子組成物を加工して製造された成形品が、下記式2を満たし、具体的に、下記式4を満たすことができる。前記成形品には、フィルム、シートなどの公知の成形品が制限されずに含まれてよい。具体的に、下記式2および式4の成形品はシートであってよい。
【0055】
[式2]ISCOM/ISABS>1.0
【0056】
[式4]ISCOM/ISABS≧1.2
(ISCOMは、低流動性高分子組成物を加工して製造された成形品の衝撃強度(kJ/m)であり、ISABSは、純ABS共重合体を加工して製造された成形品の衝撃強度であり、前記衝撃強度はISO 179 1eAに準じて測定されたものである。)
【0057】
前記低流動性高分子組成物がABS共重合体および上述の三元共重合体を含むことで、前記組成物を用いて製造した成形品は、前記式2、具体的に、前記式4を満たすことにより、優れた衝撃強度を実現することができる。
【0058】
より具体的に、前記低流動性高分子組成物は、前記式1および式2を何れも満たすことができ、具体的に、前記式3および式4を何れも満たすことができる。この場合、減少したメルトフローインデックス(MFI)を有する低流動性高分子組成物を用いて、さらに向上した衝撃強度を有する成形品を製造することができる。
【0059】
本開示は、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)および三元共重合体を含む高分子組成物を押出機により溶融混練するステップを含み、前記三元共重合体は、エチレンに由来の第1繰返し単位、およびグリシジル基を含む第2繰返し単位を含有する、ABS共重合体の流動性の減少方法を提供することができる。
【0060】
前記アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)および三元共重合体についての具体的な説明は上述のとおりであるため省略する。
【0061】
前記ABS共重合体の流動性の減少方法は、ABSの成形ステップでより有利な粘度条件を付与するために行われ、具体的に、ABSの押出成形時に減少されたメルトフローインデックスを得るために、前記ABS共重合体の流動性の減少方法を用いることができる。
【0062】
一実施態様において、前記ABS共重合体の流動性の減少方法は、前記高分子組成物を押出機により溶融混練するステップを含んでよい。前記溶融混練過程は、熱可塑性樹脂を溶融混練する通常の方法であれば特に制限されずに使用可能であり、非制限的な例として、前記溶融混練過程は、200~260℃の温度で、二軸溶融混練押出機を用いて行われてよいが、これに制限されない。次いで、前記高分子組成物を溶融混練し押出機により成形用ペレットを製造することができ、前記製造された成形用ペレットを用いて成形品を製造することができるが、これに制限されない。
【0063】
一実施態様において、前記高分子組成物は、ABS共重合体および三元共重合体をともに含むことで、低流動性を容易に実現することができ、これにより、押出成形のような低流動性が求められる成形方法に適用し、改良された作業性を有することができ、向上した衝撃強度および高品質を有する成形品を製造することができる。
【0064】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより詳細に説明する。但し、下記実施例および比較例は、本発明をより詳細に説明するための一つの例示にすぎず、本発明が下記実施例および比較例により制限されるものではない。
【0065】
本発明の下記実施例および比較例の物性は、次の方法により測定した。
【0066】
[物性評価方法]
1.メルトフローインデックス(Melt Flow Index、MFI)[g/10min.]
ISO 1133-1(2011)に準じて、220℃の温度および10kgの荷重条件でメルトフローインデックス(MFI)を測定した。測定値は下記表1に記載し、測定されたMFI値が下記式1を満たす場合、低流動性を有すると判断した。
【0067】
[式1]MFICOM/MFIABS<1.0
(前記式1中、MFICOMは、実施例および比較例に係る高分子組成物のメルトフローインデックスであり、MFIABSは、純ABS共重合体のメルトフローインデックスである。)
【0068】
2.衝撃強度(Impact strength)[kJ/m
ISO 179 1eAに準じて、Notched Charpy Impact strengthを測定した。測定値は下記表1に記載した。
【0069】
3.曲げ弾性率(Flexural modulus)[MPa]
ISO 178に準じて、曲げ弾性率を測定した。測定値は下記表1に記載した。
【0070】
[実施例1~5および比較例1~2]
アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(Terluran GP22)、エチレン-メチルアクリレート-グリシジルメタクリレートの三元共重合体(Lotader AX8900)、およびエチレン-メチルアクリレート共重合体(Lotryl 29MA03T)を下記表1に記載の原料の含量比で混合し、高分子組成物を製造した。具体的に、下記表1に記載の原料を乾式混合し、二軸押出機の供給部に定量的に連続投入し、溶融混練してペレット化した。前記製造されたペレットを十分に乾燥し、前記物性評価方法に記載の規格に適した試験片を製造して、物性を測定した。
【0071】
【表1】
【0072】
前記表1から分かるように、純ABS共重合体である比較例1と、ABSおよび上述の三元共重合体を含む高分子組成物である実施例1~3とを比較すると、実施例のMFIが効果的に減少しており、且つ向上した衝撃強度を示すことを確認した。
【0073】
前記実施例3と、メチルアクリレート-エチレンの共重合体を含む比較例2とを比較すると、同一量のABS共重合体を含むにもかかわらず、相反するMFIを示しており、前記実施例1~3で、三元共重合体の含量が増加するにつれてMFIがさらに減少した。このことから、本発明の一実施態様に係る高分子組成物は、ABS共重合体および三元共重合体を含むことで、低流動性を効果的に実現することができることが確認できた。
【0074】
以上のように、本明細書では特定の事項と限定された実施形態により本開示が説明されたが、これは、本開示のより全般的な理解のために提供されたものにすぎず、本開示は上記の実施形態に限定されない。本開示が属する分野において通常の知識を有する者であれば、このような記載から多様な修正および変形が可能である。
【0075】
したがって、本発明の思想は上述の実施例に限定して決定されてはならず、添付の特許請求の範囲だけでなく、この特許請求の範囲と均等または等価的変形を有するものは、何れも本発明の思想の範疇に属するといえる。
【国際調査報告】