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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-21
(54)【発明の名称】繊維強化複合材の処理方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 11/08 20060101AFI20241114BHJP
   B29B 17/00 20060101ALI20241114BHJP
   C08J 11/10 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
C08J11/08
B29B17/00 ZAB
C08J11/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024532822
(86)(22)【出願日】2022-11-23
(85)【翻訳文提出日】2024-07-30
(86)【国際出願番号】 EP2022082970
(87)【国際公開番号】W WO2023099307
(87)【国際公開日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】21211615.6
(32)【優先日】2021-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524170522
【氏名又は名称】サイエンスコ エスアー
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】フェラオ, ビクトル
(72)【発明者】
【氏名】ビヨー, クロード
(72)【発明者】
【氏名】タドムリ, ラワド
【テーマコード(参考)】
4F401
【Fターム(参考)】
4F401AA21
4F401AB06
4F401AD01
4F401AD08
4F401BA13
4F401CA50
4F401CA51
4F401CA75
4F401CA76
4F401CB01
4F401DC00
4F401EA58
4F401EA62
4F401FA01Y
4F401FA01Z
4F401FA20Z
(57)【要約】
本発明は、繊維強化エポキシ複合材を、レボグルコセノン及び/又はレボグルコセノン誘導体、例えばシレンから選択されるバイオ系溶媒Sと接触させることを含む、繊維強化エポキシ複合材の処理方法であって、処理温度が一般に、繊維強化エポキシ複合材のガラス転移温度を少なくとも10℃超える、方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化エポキシ複合材を処理温度Ttrで溶媒Sと接触させることを含む、前記繊維強化エポキシ複合材の処理方法Mであって、
前記溶媒Sが、レボグルコセノン及び/又はレボグルコセノン誘導体であり、それについてのHSPiPソフトウェアバージョン5.3.06を用いたYamamoto Molecular Breaking Methodを使用する前記溶媒SのSMILESから計算したハンセン溶解度パラメータが、以下の要件を満たし:
16≦δD≦20
16≦δP+δH≦22
2/5≦δH/δP≦9/5
δDが分子間の分散力からのエネルギーであり、δPが分子間の双極子分子間力からのエネルギーであり、δHが分子間の水素結合からのエネルギーであり、3つすべてがMPa0.5で表され、
前記処理温度Ttrが、ASTM E1356-08(2014)に従ってDSCによって決定される前記繊維強化エポキシ複合材のガラス転移温度Tを少なくとも10℃超え、
但し、
ASTM E1356-08(2014)に従ってDSCによってガラス転移温度を検出することができない場合、前記処理温度Ttrが、条件(c1)~(c3)から選択される少なくとも1つの条件を満たし、
条件(c1)は、ガラス転移温度Tg2が、ASTM D7028-07(2015)に従ってDMAによって決定され得、前記処理温度Ttrが前記ガラス転移温度Tg2を少なくとも10℃超えることであり、
条件(c2)は、試行錯誤的実験によって決定される前記処理温度Ttrが、前記処理が前記繊維強化エポキシ複合材を撹拌せずに前記処理温度Ttrで5時間、前記溶媒Sに完全に浸漬した後に決定される場合、少なくとも8%の膨潤率rswで前記溶媒Sによる前記繊維強化エポキシ複合材の膨潤を引き起こすような処理温度であることであり、
条件(c3)が、前記処理温度が少なくとも300℃であることである、方法。
【請求項2】
ガラス転移温度Tを、ASTM E1356-08(2014)に従ってDSCによって検出することができ、前記ガラス転移温度Tを少なくとも30℃超える処理温度Ttrで、少なくとも1時間にわたり、前記繊維強化エポキシ複合材を前記溶媒Sに完全に浸漬することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記繊維強化エポキシが炭素繊維を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記溶媒Sが、18≦δP+δH≦20を特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記溶媒Sが、δH/δP<1によって特徴付けされる、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記溶媒Sがシレンである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記溶媒Sが、δH/δP≧1によって特徴付けされる、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記溶媒Sが、レボグルコセノール及び/又はレボグルコサノールである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
繊維強化エポキシ複合材を膨潤させるための、請求項1において定義される前記溶媒Sの使用、好ましくは、炭素繊維を含む繊維強化エポキシ複合材を膨潤させるためのシレンの使用。
【請求項10】
前記溶媒Sが積層体であり、さらに、前記繊維強化エポキシ複合材の積層体を剥離するためである、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
繊維強化エポキシ複合材と、請求項1において定義される前記溶媒Sとを含む、組成物、好ましくは、前記繊維強化エポキシ複合材が炭素繊維を含み、前記溶媒Sがシレンである、組成物。
【請求項12】
繊維強化エポキシ複合材に含まれるエポキシ樹脂の分解を引き起こすためのプロセスPであって、前記プロセスPが、
a)前記繊維強化エポキシ複合材を前処理に供することであって、前記前処理が、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法Mを適用することを含む、前処理に供することと、
b)このように前処理された前記繊維強化エポキシ複合材を酵素処理及び/又は化学処理に供することと
を含み、
a)及びb)の各々が、1回又は数回実施される、プロセス。
【請求項13】
繊維強化エポキシ複合材のエポキシマトリックス中の酵素又は化学化合物の拡散速度を増加させるための、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法Mの使用。
【請求項14】
繊維強化エポキシ複合材から強化繊維を回収するためのプロセスPであって、
- 請求項12に記載のプロセスPによって前記繊維強化エポキシ複合材に含まれる前記エポキシ樹脂を分解させ、それによって炭素繊維及びエポキシ分解産物を含む材料を得ることと、
- このようにして得られた前記材料から炭素繊維を分離することと
を含む、プロセス。
【請求項15】
強化繊維をリサイクルするためのプロセスPであって、
- 請求項14に記載のプロセスPによって繊維強化エポキシ複合材から炭素繊維を回収することと、
- ポリマーとこのようにして回収された前記炭素繊維とを含む複合材材料を製造することとを含み、前記複合材料が、請求項1~3に記載の方法Mに関する前記繊維強化エポキシ複合材材料と同一であるか又は異なる、プロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化エポキシ複合材を膨潤及び剥離することができる特定の有機溶媒を伴う繊維強化エポキシ複合材の処理方法、関連する複合材-溶媒系組成物、並びに繊維強化エポキシ複合材の分解を引き起こし、そこから繊維を回収し、繊維をリサイクルするための前記処理方法を伴うプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化エポキシ複合材、特に炭素繊維強化エポキシ複合材(エポキシ樹脂に埋め込まれたCFRP)の世界的な需要は、軽量材料の需要が増加したため、ここ数年で急激に増加している。効果的なリサイクル方法が存在しないため、ほとんどの複合材廃棄物は処理/リサイクルされておらず、埋め立て地に送られている。そのような複合材を処理し、そのライフサイクルを完了するための堅牢且つ効果的な方法が依然として必要とされている。
【0003】
エポキシ複合材のリサイクルは、エポキシが通常、温和な条件下で不溶性である高度に架橋された三次元構造であるため、困難な課題を提示する。エポキシ複合材をリサイクルするためのほとんどの努力は、より価値の高い構成成分、すなわち、強化繊維の回収に主に集中してきた。したがって、強化繊維を実質的に損なうことなくエポキシ構成成分の分解を引き起こす可能性があるため、化学処理が優先的に開発された(機械的処理及び熱処理では得られない)。
【0004】
このような化学処理の多くは、Y.Ma and S.Nutt in Polymer Degradation and Stability,2018,153,307-317、特に2頁の導入部に報告されている。この論文では、Ma及びNuttの研究は、一方では炭素繊維強化アミン/エポキシ複合材の酸消化に焦点を当て、他方ではベンジルアルコール及びリン酸三カリウムの過飽和溶液を使用する同じ複合材の解重合に焦点を当てた。どちらの場合も、彼らは、化学処理に起因するエポキシマトリックスの分解が非常に遅く、これは高度に架橋したエポキシマトリックス内部の非常に低い拡散速度に起因することを確認した。
【0005】
エポキシマトリックス内部の拡散速度を高め、それらの分解を加速するために、Ma及びNuttは2つの戦略を開発した。1つは、熱分解することを意図した寿命末期の複合材の破砕に基づいており、したがって明らかに我々の注意を維持しなかった。もう1つは、ポリマーマトリックス中の繊維織布を破壊することなく複合材を物理的に「透過性」(膨潤)にするために、化学処理自体を開始する前に複合材を有機溶媒に浸漬する前処理からなっていた。Ma及びNuttが十分に説明しているように、「溶媒は架橋ネットワークに浸透し、反応物分子が<化学処理自体の間に>より容易に切断可能な結合に到達することを可能にし、よって拡散の律速効果を低減/排除する。ベンジルアルコール、キシレン、ジエチレングリコール、ジメチルエーテル(DGDME)、及びジエチレングリコールメチルエーテル(DGME)を含む様々な溶媒を評価した。試験により、最も有望な前処理溶媒は、マトリックスTを超える40℃で、積層体の厚さ1ミリメートル当たり1.5時間の、ベンジルアルコール(溶媒)であることが決定された。この工程中に化学反応が起こらなかったので、溶媒前処理を繰り返し適用することができた。第2の工程では、前処理された複合材を化学反応(酸消化)に供して、エポキシマトリックスを溶解し、マトリックスから清浄な繊維を分離した。前処理は、拡散の律速効果を低減又は排除し、その後の酸消化によってエポキシ複合材の分解速度を実質的に増加させることが証明された。
【0006】
その効率及び有用性を実証したにもかかわらず、Ma及びNuttの溶媒前処理は依然として大きな欠点を有し、すなわちそれは、石油原料から工業的に製造される溶媒の使用を必要とすることであり;ベンジルアルコール、及びこれらの著者らによって予備試験された低性能溶媒(キシレン、ジエチレングリコール、DGDME及びDGME)も同様である。より詳細には、ベンジルアルコールは、加水分解される塩化ベンジルを介してトルエンから工業的に製造され;別の経路は、トルエンの安息香酸への酸化の副生成物であるベンズアルデヒドの水素化を伴う。持続可能性は、特に化学プロセスを操作する場合、ますます鋭敏な基準になっている。石油産業から与えられた溶媒の使用を必要としないMa及びNuttの溶媒前処理方法と同程度に効率的な前処理方法を提供することが強く必要とされている。バイオ系溶媒に基づくMa及びNuttの溶媒前処理方法と同程度に効率的な溶媒前処理方法、すなわち再生可能な生物学的供給原料から製造することができるもの、理想的には安価で広く入手可能なものを提供することが強く必要とされている。膨潤(Ma及びNuttによって記載されている)及び剥離(これについてはMa及びNuttは言及していない)を含む、エポキシ複合積層体に含有されるエポキシのその後の化学分解を促進する能力において、ベンジルアルコールと同程度に少なくとも全体的に効率的な生物系溶媒を同定する必要がある。
【0007】
Ma及びNuttの溶媒前処理の別の改善の余地は、ベンジルアルコールの膨潤能力に関する。繊維強化複合材の膨潤の増加は、特に高度に架橋されたエポキシ構成成分を含むことが多い最も強力な「硬化」複合材の場合、複合材をさらに透過性にし、拡散の律速効果をさらに低下させるために望ましいことがある。繊維強化エポキシ複合材をベンジルアルコールが可能な範囲よりも大きく膨潤させることができる溶媒、望ましくはバイオ系溶媒を同定する必要がある。
【0008】
これらのニーズはすべて、ここ数年の間に一般的に緑色溶媒に注目が集まっていたにもかかわらず、満たされていないままであった。他の多くの溶剤の中でも、環境に優しい溶媒のRHODIASOLV(登録商標)ファミリー(SOLVAYから市販)、及び生物由来のレボグルコセノン及びその誘導体を列挙することができ、その中で最も有名なものは、確かにCIRCAによって市販されているシレン(ジヒドロレボグルコセノン)である。レボグルコセノンは、セルロースから単一工程で作製され、特にSherwood et al.in Chem.Commun.,2014,50,9650-9652により教示されているように、1工程で容易にシレンに変換することができる。レボグルコセノン及びその誘導体に関する限り、Pachecoらは、ChemSusChem,2016,9,3503-3512において、「Intelligent Approach to Solvent Substitution:The Identification of a New Class of Levoglucosenone derivatives」という表題の非常に印象的な研究を公開した。Pachecoらは、科学文献を詳細に検討することにより、生物系溶媒候補分子として、シレンに加えて164個以上のレボグルコセノン誘導体を同定することができた。それらはすべて、Pachecoの論文に付随する「サポート情報」に記載されている。異なるモデル、特にハンセン溶解度パラメータを使用した理論的アプローチに依存して、Pachecoは、DCM、ニトロベンゼン、NMP、DCM、CHCl、THF、1,2-DCEa、エタノール、アセトン、DMF、DMSO、アセトニトリルなどのいくつかの主要な従来の溶媒を置き換えるための最良の候補となるいくつかのレボグルコセノン誘導体を選択した。164個の候補分子の中で、Pachecoは、Ma及びNuttの前処理におけるベンジルアルコールの良好な置換となる溶媒を開示も示唆もしていない。なおさら、Pachecoは、繊維強化エポキシ複合材をベンジルアルコールができるよりも実質的に大きく膨潤させることができる溶媒としてレボグルコセノン又はレボグルコセノン誘導体を指し示さない。さらに、出願人は、Pachecoによって使用されるハンセン溶解度パラメータが、HSPiPソフトウェアの特定のバージョンを使用して分子SMILESから計算された値を用いた実験によって取得された値の混合であるように思われることに留意しており、これにより、これらの値は互いに矛盾し、そこから導出又は導出可能な結論は、少なくとも、強く挑戦可能である。出願人はまた、Pachecoがかなり古いバージョンのソフトウェア(v4.1.xx、2013)を使用したことにも留意しており、これは、市場に出された最新のもの(v5.3.xx)よりも認知が低い先験的なものである。
【0009】
ここで、実験と信頼性の高いソフトウェア計算とを組み合わせた徹底的な研究の結果として、本出願人は、上記の必要性を満たすことができるレボグルコセノン誘導体の小さなセット(バイオ系溶媒としてのPachecoの候補のわずか28%に対応する)を特定することができ、これは本発明の基礎として役立つ。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、繊維強化エポキシ複合材を処理温度Ttrで溶媒Sと接触させることを含む、繊維強化エポキシ複合材の処理方法Mであって、
溶媒Sが、レボグルコセノン及び/又はレボグルコセノン誘導体であり、それについてのHSPiPソフトウェアバージョン5.3.06を用いたYamamoto Molecular Breaking Methodを使用する溶媒SのSMILESから計算したハンセン溶解度パラメータは、以下の要件を満たし:
16≦δD≦20
16≦δP+δH≦22
2/5≦δH/δP≦9/5
式中、δDが分子間の分散力からのエネルギーであり、δPが分子間の双極子分子間力からのエネルギーであり、δHが分子間の水素結合からのエネルギーであり、3つすべてがMPa0.5で表され、
処理温度Ttrが、ASTM E1356-08(2014)に従ってDSCによって決定される繊維強化エポキシ複合材のガラス転移温度Tを少なくとも10℃超え、
但し、
ASTM E1356-08(2014)に従ってDSCによってガラス転移温度Tを検出することができない場合、処理温度Ttrが条件(c1)~(c3)から選択される少なくとも1つの条件を満たし、
条件(c1)が、ガラス転移温度Tg2が、ASTM D7028-07(2015)に従ってDMAによって決定され得、処理温度Ttrがガラス転移温度Tg2を少なくとも10℃超えることであり、
条件(c2)が、試行錯誤的実験によって決定される処理温度Ttrが、前記処理が、繊維強化エポキシ複合材を、撹拌せずに処理温度Ttrで5時間、溶媒Sに完全に浸漬した後に決定される場合、少なくとも8%の膨潤率rswで溶媒Sによる繊維強化エポキシ複合材の膨潤を引き起こすような処理温度であることであり、
条件(c3)が、処理温度が少なくとも300℃であることである、処理方法Mに関する。
【0011】
本発明は、
- 繊維強化エポキシ複合材を膨潤させるための前述の溶媒Sの使用;
- 繊維強化エポキシ複合材と前述の溶媒Sとを含む組成物;
- 繊維強化エポキシ複合材に含まれるエポキシ樹脂の分解を引き起こすためのプロセスPであって、前記プロセスPは、
a)繊維強化エポキシ複合材を前処理に供することであって、前処理が、前述の方法Mを適用することを含む、前処理に供することと、
b)このように前処理された繊維強化エポキシ複合材を酵素処理及び/又は化学処理に供することと
を含み、
a)及びb)の各々が、1回又は数回実施され、
- 繊維強化エポキシ複合材に埋め込まれたエポキシ樹脂中の酵素又は化合物の拡散速度を増加させるための方法Mの使用
- 繊維強化エポキシ複合材から強化繊維を回収するためのプロセスPであって、
・前述のプロセスPによって繊維強化エポキシ複合材に含まれるエポキシ樹脂を分解させ、それによって炭素繊維及びエポキシ分解生成物を含む材料を得ることと、
・このようにして得られた材料から炭素繊維を分離することと
を含む、プロセスP;並びに
- 強化繊維をリサイクルするためのプロセスPであって、
・前述のプロセスPによって繊維強化エポキシ複合材から炭素繊維を回収することと;
・ポリマーとこのようにして回収された炭素繊維とを含む複合材材料を製造することとを含む、前記複合材が、前述の方法Mに含まれる繊維強化エポキシ複合材材料と同一であるか又は異なることと
を含む、プロセスP
にも関する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
処理方法M
方法Mは、繊維強化エポキシ複合材を処理温度Ttrで溶媒Sと接触させることを含む。
【0013】
方法Mは、繊維強化エポキシ複合材と溶媒Sとの間に接触が確立される限り、原則として、固体、液体、蒸気又は超臨界を含む任意の物理的状態の溶媒Sと共に使用することができる。
【0014】
実施の容易さ及び効率のために、溶媒Sは一般に液体状態である。また、この方法は、有利には大気圧(約1atm=101.325kPa)で操作されるが、真空下又は加圧容器内で操作することも可能である。よって、溶媒Sは、一方で処理温度Ttrよりも低い融点Tを有し、他方で処理温度Ttrよりも高い沸点Tを有する。
【0015】
溶媒Sの融点及び沸点は、示差走査熱量測定(DSC)によって決定することができる。それらは、それぞれ、OECDガイドライン(1995)、試験番号102及び番号103に従って有利に決定される。さらに、前述のガイドラインが指し示すDIN 51005:2021-08に依拠することができる。TA Instruments製のDSC Q2000熱量計を使用することができる。温度プログラムは、10℃/分の速度での一回の加熱からなる。
【0016】
溶媒Sは、繊維強化エポキシ複合材に噴霧又は注入することができる。好ましくは、繊維強化エポキシ複合材は少なくとも部分的に溶媒Sに浸漬される。より好ましくは、繊維強化エポキシ複合材の初期質量(処理前)の少なくとも約半分が溶媒Sに浸漬される。さらにより好ましくは、繊維強化エポキシ複合材は溶媒Sに完全に浸漬される。このようにして、繊維強化エポキシ複合材と溶媒Sとの間に最適な接触を達成することができる。
【0017】
繊維強化エポキシ複合材は、溶媒Sのみと接触させてもよい。或いは、溶媒Sは、溶媒S以外の1種以上の溶媒などの他の薬剤と組み合わせて使用されてもよい。そのような他の溶媒の中でも、緑色、生物系及び/又は環境に優しい溶媒が好ましい。環境に優しい溶媒の例としては、SOLVAYからRHODIASOLV(登録商標)Polarcleanとして市販されているメチル4-(ジメチルカルバモイル)-2-メチルブタノエートが列挙され得る。特定の目的の溶媒S以外のバイオ系溶媒は、そのハンセン溶解度パラメータが溶媒Sについて確立された要件に適合しないレボグルコセノン誘導体である。そのようなレボグルコセノン誘導体の例として、式
【化1】
(通常、それぞれCygnet 0.0、Cygnet 1.0、Cygnet 2.0、Cygnet 1.1及びCygnet 4.0として知られており、これらはすべてδP+δH<16を特徴とする)
のシレンのいくつかのケタールを列挙する価値がある。
【0018】
処理中、繊維強化エポキシ複合材及び溶媒Sは、静止したままであってもよく、又はそれらを互いに相対運動させてもよい。例えば、溶媒Sを撹拌しながら、繊維強化エポキシ複合材を固定面に固定してもよい。繊維強化エポキシ複合材と溶媒Sの両方を撹拌下に保つことも可能である。好ましい実施形態では、繊維強化エポキシ複合材及び溶媒Sは静止状態に保たれる。
【0019】
方法Mに関する溶媒Sと繊維強化エポキシ複合材との重量比は、特に互いに確立される接触の種類に応じて、大幅に変化し得る。例えば、処理が表面的であることを意図する場合、低い重量比を使用することができる。一方、一般に、処理は、繊維強化エポキシ複合材のコアに効果をもたらすことを意図しており、したがって、溶媒Sへの繊維強化エポキシ複合材の完全な浸漬が好ましい。次いで、方法Mに関する溶媒Sは、繊維強化エポキシ複合材の部分的な、好ましくは完全な浸漬を可能にするのに十分な量で使用されることが好ましい。これを念頭に置いて、繊維強化エポキシ複合材に対する溶媒Sの重量比は、一般に少なくとも1であり、少なくとも2、少なくとも5、少なくとも10、少なくとも20、又は少なくとも40であってもよい。一方、経済的な観点から、この比は一般に最大200であり、最大100、最大60、又は最大30であってもよい。
【0020】
繊維強化エポキシ複合材と溶媒Sとが互いに接触する期間の長さ、特に繊維強化エポキシ複合材が溶媒Sに部分的又は完全に浸漬され得る期間の長さは、特に処理温度Ttrに応じてかなりの程度まで変化し得る。前記持続時間は、一般に10分~100時間の範囲である。それは、好ましくは少なくとも30分、より好ましくは少なくとも1時間、さらにより好ましくは少なくとも2時間、さらにより好ましくは少なくとも4時間である。経済的理由から、持続時間は、所望の効果、一般に十分に高い膨潤率rswを有する複合材の膨潤を達成するために必要以下であり得;したがって、最大で50時間、最大で20時間、最大で10時間、又は最大で7時間とすることができる。所望の膨潤率は5%以上であってもよい。所望の膨潤率は、有利には少なくとも8%、好ましくは少なくとも12%、より好ましくは少なくとも15%、さらにより好ましくは少なくとも18%である。
【0021】
繊維強化エポキシ複合材のガラス転移温度T[ASTM E1356-08(2014)に従ってDSCによって測定]と比較して、処理温度Ttrは、上記のように、十分に高い膨潤率rswで複合材の膨潤を達成するのに十分に高くなければならない。方法Mに従って、前述の条件を前提として、処理温度Ttr、特に繊維強化エポキシ複合材が溶媒Sに部分的又は完全に浸漬され得る温度は、ASTM E1356-08(2014)に従ってDSCによって決定される繊維強化エポキシ複合材のガラス転移温度Tを少なくとも10℃超えなければならない。TtrはTを好ましくは少なくとも20℃、より好ましくは少なくとも30℃、さらにより好ましくは少なくとも35℃上回る。TtrはTをさらに摂氏度、例えば少なくとも40℃、さらには少なくとも50℃上回ることがある。しかし、経済的な理由、及びTtrで液体状態のままである可能な限り多数の溶媒Sを手元に有するために、TtrはTを200℃超、好ましくは100℃以下、より好ましくは70℃以下、さらにより好ましくは50℃以下上回ることはないことが有利である。
【0022】
一般に、ガラス転移温度Tは、ASTM E1356-08(2014)に従ってDSCによって繊維強化エポキシ複合材上で検出することができ、そのようなガラス転移温度Tは、処理温度Ttrを決定するための基礎として機能する。Tを決定するために、TA Instruments製のDSC Q2000熱量計装置が有利に使用される。機器は、ベースライン(空セルは、標準DSCプログラム条件下で作動し、すなわち、室温-約20℃-~350℃、10℃/分の発熱速度)及びインジウム較正(100℃~180℃、10℃/分)で十分に較正されている。繊維強化エポキシ複合材試料が調製される。適切な試料質量は、約3~約12mgであってもよく;繊維強化エポキシ複合組成物全体、特にそのエポキシ含有量に応じて調整することができる。試料は、試料が入れられる検体ホルダとの良好な接触を確実にするために、実質的に薄く、実質的に平坦であるのが有利である。検体ホルダは、典型的には、蓋に穴が開けられたAluminum Tzeroパン(TA Instrumentsから入手可能)であり;パンは試験のために密封される。試料は、10℃の加熱速度を使用して室温(約20℃)~350℃まで加熱される。重要なことに、冷却プログラムは適用されず、続いて第2の加熱プログラムが適用される:Tは、第1の唯一の加熱プログラム中に決定され;そうすることによって、この第1の加熱プログラムの完全な完了時にエポキシの架橋度又は他の構造的特徴が実質的に改変されていたであろう試料上のTを決定することが回避される。測定は、50mL/分の窒素フローガス下で行われる。中点温度、すなわち、外挿された開始端と外挿された末端との間の熱流差の/に対応する熱曲線上の点が、ガラス転移温度Tとして定義される。
【0023】
まれに、ガラス転移温度Tは、ASTM E1356-08(2014)に従ってDSCによって検出することができない。この状況は、いくつかの高度に架橋した繊維強化エポキシ複合材で特に起こり得る。次いで、上記で説明されたように、方法Mは、処理温度Ttrが条件(c1)~(c3)から選択される少なくとも1つの条件を満たすという適用可能な主題のままである。
【0024】
本出願人は、いくつかの繊維強化エポキシ複合材について、ASTM D7028-07(2015)に従って動的機械分析(DMA)によってガラス転移温度Tg2を検出することができるが、DSCによっては、ガラス転移温度Tを検出することができないことを観察した。次いで、方法Mは、条件(c1)が満たされる場合に特に適用することができる。条件(c1)は、処理温度Ttrがガラス転移温度Tg2を少なくとも10℃超えることを必要とする。(c1)の好ましい実施形態では、TtrはTg2を少なくとも20℃、より好ましくは少なくとも30℃、さらにより好ましくは少なくとも35℃超える。TtrはTg2をさらにセルシウス度、例えば少なくとも40℃、又はさらに少なくとも50℃超えてもよい。さらに、TtrはTg2を200℃超、好ましくは100℃以下、より好ましくは70℃以下、さらにより好ましくは50℃以下超えて超えないのが有利である。
【0025】
DMA試験には、TA Instruments製のQ800動的機械分析装置を使用することができる。繊維強化エポキシ複合材試料の平坦で清浄な乾燥矩形ストリップ検体は、ASTM規格及び機器製造業者のマニュアルの推奨に従って調製されるのが有利である。検体は、乾燥を確実にするように適切に調整される。2つ以上の検体を各試料について試験することができ、Tg2の保持値は、明らかな傷の結果を除去する可能性があることを条件として、各測定の平均値とする。検体をDMA分析器に入れる。デュアルカンチレバーモードは、35mm(L)、最大15mm(W)及び5mm(T)のクランプサイズで使用される可能性があり;このモードでは、検体は両端でクランプされ、中央で屈曲される。検体は、定歪みモードで1 Hzの公称周波数で振動される。検体は、室温(約20℃)から開始して5℃/分(9°F/分)の速度で、Tg2より少なくとも50℃高い終了温度まで加熱される。窒素がパージガスとして使用されてもよい。貯蔵弾性率(E’)の著しい低下が始まる温度をガラス転移温度(Tg2又は「DMA T」)とし;より正確には、Tg2は、貯蔵弾性率からの2つの接線の交点であると決定される。
【0026】
条件(c2)及び(c3)はまた、ガラス転移温度TをASTM E1356-08(2014)に従ってDSCによって検出することができないそのようなまれな場合に対処する。条件(c2)及び(c3)は、ASTM D7028-07(2015)に従う動的機械分析(DMA)により、ガラス転移温度Tg2を検出できる場合であっても具現化され得る。とはいえ、条件(c2)及び(c3)は、ASTM E1356-08(2014)に従ってDSCによってガラス転移温度Tを検出することができず、ASTM D7028-07(2015)に従って動的機械分析(DMA)によってガラス転移温度Tg2を検出することができない場合に特に有用である。そのような事例は非常にまれであるが、特にいくつかの非常に高度に架橋された繊維強化エポキシ複合材で起こり得る。
【0027】
条件(c2)に従って、試行錯誤的な実験により、繊維強化エポキシ複合材を撹拌せずに処理温度Ttrで5時間、溶媒Sに完全に浸漬した後、溶媒Sによる繊維強化エポキシ複合材の膨潤率rswが最小値rsw,分(ここで、8%)以上となるように処理温度Ttrが決定され;rsw,分は、好ましくは12%、より好ましくは15%、さらにより好ましくは少なくとも18%である。膨潤比rsw≧rsw,分をもたらす処理温度Ttrの決定は、当業者にとって特に容易である。処理が非常に高い温度Ttr(典型的には300℃以上であり、高い膨潤を強く支持/保証する)で操作される場合、単一の実験で一般的に十分であり、このような非常に高い温度で処理を操作することは、沸点Tが300℃をはるかに超える可能性がある溶媒Sとして適切な多くの溶媒が存在するので問題ではない。実際のところ、少なくとも300℃(特に、少なくとも350℃、少なくとも400℃又はさらには少なくとも450℃)の処理温度Ttrで操作された処理の成功の可能性は極めて高く、それは実用的な観点から、すべてではない場合、本質的にすべての硬化エポキシが実質的に300℃未満の温度でより柔らかく、よりゴム状になるためであり;したがって、実際には、繊維強化エポキシ複合材をそのような高い任意に選択された処理温度Ttrで処理することを「単に」提供する条件(c3)を満たすことは、本発明の方法Mを具現化するのに十分良好であることが証明されている。当然のことながら、条件(c2)によれば、300℃よりも実質的に低い温度を処理のために試験することができ、それでもなお成功のかなり高い期待値を有する。処理温度Ttrの最適化及び溶媒Sの選択は、必要に応じて、当業者が日常的に行うように達成することができる。
【0028】
前記で示唆されたように、条件(c3)に従って、処理温度Ttrは少なくとも300℃、場合によっては少なくとも350℃、少なくとも400℃、又はさらに少なくとも450℃であるものとする。条件(c3)を具現化するのに適していると考えられる溶媒Sの非限定的な例は、HSPiPソフトウェアバージョン5.3.06のYamamoto Molecular Breaking Methodを使用して予測されるように、沸点を有するが、Pachecoらによって標識化され、以下の表2~12で使用される溶媒S13、S14、S39、S42、S52、S57、S58、S59、S75、S78、S80、S88、S96、S113、S119、S143、S156、S158、S160、S161及びS164を含む。これらのうち、溶媒S57、S58、S59、S75、S119、S156、S158、S160、S161及びS164は、少なくとも350℃の予測沸点を有し、溶媒S57、S58、S59、S119及びS164は、少なくとも400℃の予測沸点を有し、S57、S58、S59及びS119は、少なくとも450℃の予測沸点を有し、S58は、507℃の予測沸点を有する。これらの溶媒の実験沸点は、シレンを含む様々な溶媒との比較に基づいて、それらの予測沸点よりも幾分高くてもよい。
【0029】
ガラス転移温度TがASTM E1356-08(2014)に従ってDSCによって検出することができないまれな事例では、当業者は以下の方法のいずれかを適用することができる:
- 方法1:ガラス転移温度Tg2が、ASTM D7028-07(2015)に従ってDMAによって決定することができるかどうかをチェックし、そうである場合、ガラス転移温度Tg2を少なくとも10℃超える処理温度Ttrを使用し;次いで、ASTM D7028-07(2015)に従ってDMAによってガラス転移温度を検出することができない場合に限り、条件(c2)及び/又は(c3)を満たす処理温度Ttrを使用する;
- 方法2:ガラス転移温度Tg2をASTM D7028-07(2015)に従ってDMAによって決定することができるかどうかにかかわらず、試行錯誤実験によって、少なくとも8%の膨潤比rswに基づいて条件(c2)を満たす処理温度Ttrを決定する;
- 方法3:ガラス転移温度Tg2を、ASTM D7028-07(2015)に従ってDMAによって決定することができるかどうかにかかわらず、条件(c3)を満たす処理温度Ttr、すなわち少なくとも300℃(場合により少なくとも350℃、少なくとも400℃、又はさらには少なくとも450℃)の処理温度をそのまま使用する。
【0030】
このように処理された繊維強化エポキシ複合材は、熱ろ過により溶媒Sから回収することができる。
【0031】
回収された繊維強化エポキシ複合材は、水、エタノールなどのアルコール及び/又はそれらの混合物で洗浄することができる。
【0032】
繊維強化エポキシ複合材
繊維強化エポキシ複合材は、エポキシ樹脂及び強化繊維を含む。これは、エポキシ樹脂及び強化繊維から本質的になっていてもよく、又はこれらからなっていてもよい。或いは、これは、1種以上の他の構成成分をさらに含んでもよい。
【0033】
強化繊維は、一般に複合材の「マトリックス」と通常呼ばれるエポキシ樹脂に埋め込まれているが、複合材の重量の主要な構成成分は強化繊維であってもよい。これは、典型的には積層体である。
【0034】
エポキシ樹脂の重量は、複合材の総重量に基づいて、一般に少なくとも10重量%、多くの場合少なくとも25重量%である。これは、少なくとも35重量%、少なくとも50重量%又は少なくとも65重量%であり得る。さらに、これは一般に最大90重量%、多くの場合最大75重量%である。
【0035】
同様に、強化繊維の重量は、複合材の総重量に基づいて、一般に少なくとも10重量%、多くの場合少なくとも25重量%である。これは、少なくとも35重量%、少なくとも50重量%又は少なくとも65重量%であり得る。さらに、これは一般に最大90重量%、多くの場合最大75重量%である。
【0036】
強化繊維とエポキシ樹脂との合計重量量は、複合材の総重量に基づいて、一般に50重量%を超える。それは、多くの場合少なくとも80重量%であり、少なくとも90重量%、少なくとも95重量%又は少なくとも99重量%であってもよい。
【0037】
エポキシ樹脂
繊維強化エポキシ複合材に含まれるエポキシ樹脂(又はポリエポキシド)は、一般に硬化生成物である。硬化は、エポキシ樹脂の硬化の強靱化をもたらすために、化学反応が起こるプロセスである。硬化は、UV又は熱の作用下で誘発され得るが、エポキシ樹脂は一般に、硬化剤(curing agent)又は硬化剤(hardener)と通常呼ばれる添加剤の使用によって硬化される。
【0038】
構造的観点から、エポキシ樹脂は一般に架橋生成物であり、架橋構造は通常硬化プロセスから生じる。したがって、ガラス転移温度Tよりはるかに低い温度(又は場合によってはTg2)、例えばガラス転移温度より100℃低い温度では、繊維強化エポキシ複合材に含まれるエポキシ樹脂は、一般に、本発明に関する溶媒Sに実質的に不溶性であるか、本質的に不溶性であるか、又は完全に不溶性であり、これは通常、繊維強化エポキシ複合材を関心のある温度で撹拌せずに溶媒Sに5時間完全に浸漬した後に決定されるように、1.0%未満の膨潤率rswに変換される。本発明の目的の多くの繊維強化エポキシ複合材は、ガラス転移温度T(又は場合によってはTg2)が125℃以上であり;次いで、繊維強化エポキシ複合材を溶媒S中に撹拌せずに室温(約20℃)で5時間完全に浸漬した後に決定されるそれらの膨潤率rswは、典型的には1.0%未満である。本発明にとって目的の繊維強化エポキシ複合材は、好ましくは少なくとも145℃のガラス転移温度T(又は場合によってはTg2)を有し;さらに、それらのガラス転移温度は、一般に最大275℃、多くの場合最大250℃である。
【0039】
本発明の繊維強化エポキシ複合材に含まれるエポキシ樹脂には、ビスフェノール系エポキシ樹脂(エピクロルヒドリンをビスフェノールA及び/又はビスフェノールFと反応させることに基づく可能性がある)、ノボラック(これは、フェノールをメタノールと反応させ、場合によってはその後、得られたノボラックをエピクロルヒドリンと反応させることに基づく可能性がある)、脂肪族エポキシ樹脂、ハロゲン化エポキシ樹脂及びグリシジルアミンエポキシ樹脂(芳香族アミンをエピクロルヒドリンと反応させることによって形成される)が含まれる。
【0040】
本発明の繊維強化エポキシ複合材に含まれるエポキシ樹脂は、1分子当たり少なくとも2つのエポキシド基を有する少なくとも1つのエポキシ化合物に基づくことができる。そのようなエポキシ化合物は、芳香族、脂環式又は脂肪族であり得る。適切な芳香族エポキシ化合物としては、フェノール及びポリフェノールのポリグリシジルエーテル、フルオレン環を有するエポキシ化合物、ナフタレン環を有するエポキシ化合物、ジシクロペンタジエン変性フェノールエポキシ化合物、エポキシ化ノボラック又はクレゾールノボラック化合物、アミンのポリグリシジル付加物(例えば、N,N-ジグリシジルアニリン)、トリグリシジルアミノフェノール(TGAP)、トリグリシジルアミノクレゾール、テトラグリシジルキシレンジアミン、アミノアルコール(トリグリシジルアミノフェノールなど)、ポリカルボン酸のポリグリシジル付加物(フタル酸ジグリシジルなど)、ポリグリシジルシアヌレート(トリグリシジルシアヌレートなど)、グリシジル(メタ)アクリレートと共重合性ビニル化合物(スチレングリシジルメタクリレートなど)とのコポリマーが挙げられる。適切な脂環式エポキシ化合物としては、ビス(2,3-エポキシシクロペンチル)エーテル、ビス(2,3-エポキシシクロペンチル)エーテルとエチレングリコールとのコポリマー、ジシクロペンタジエンジエポキシド、4-ビニルシクロヘキセンジオキシド、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル、3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、1,2,8,9-ジエポキシリモネン(リモネンジオキシド)、3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル、3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキサンカルボキシレート、ビス(3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、2-(7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタ-3-イル)スピロ[1,3-ジオキサン-5,3’-[7]オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタン]、アリルシクロペンテニルエーテルのジエポキシド、1,4-シクロヘキサジエポキシド、1,4-シクロヘキサンエタノールジグリシジルエーテル、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキサンカルボキシレート、ジグリシジル1,2-シクロヘキサンカルボキシレート、3,4-エポキシメチルシクロヘキシルメチルメタクリレート、3-(オキシラン-2-イル)-7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタン、ビス(2,3-エポキシプロピル)シクロヘキサ-4-エン-1,2-ジカルボキシレート、4,5-エポキシテトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステル及びポリ[オキシ(オキシラニル-1,2-シクロヘキサンジイル)]α-ヒドロ-ω-ヒドロキシ-エーテル、ビ-7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタンが挙げられる。適切な脂肪族エポキシ化合物としては、ブタンジオールジグリシジルエーテル、エポキシ化ポリブタジエン、ジペンテンジオキシド、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、アジピン酸ビス[2-(2-ブトキシエチルオキシ)エチル)エチル]、ヘキサンジオールジグリシジルエーテル及び水素化ビスフェノールAエポキシ樹脂が挙げられる。
【0041】
エポキシ樹脂は、好ましくは、
- 1分子あたり少なくとも2つのエポキシド基を有し、且つ少なくとも1つのグリシジルオキシ基を有する少なくとも1つの芳香環を含む少なくとも1種の芳香族化合物A1と、
- 少なくとも1種の硬化剤A2と
に基づく。
【0042】
芳香族化合物A1は、有利には、ビスフェノールのジグリシジルエーテル、特にビスフェノールAジグリシジルエーテルに対応する。硬化剤A2は、アミン又はイミダゾール誘導体であることが多い。
【0043】
より好ましくは、エポキシ樹脂は、好ましくは、
- 1分子あたり少なくとも2つのエポキシド基を有し、且つ少なくとも1つのグリシジルオキシ基を有する少なくとも1つの芳香環を含む少なくとも1種の芳香族化合物A1と、
- 少なくとも1種の硬化剤A2と、
- 任意選択的に、少なくとも1つの追加の化合物A3と
に基づく。
【0044】
いくつかの好ましい実施形態では、エポキシ樹脂は、
- 1分子あたり少なくとも2つのエポキシド基を有し、且つ少なくとも1つのグリシジルオキシ基を有する少なくとも1つの芳香環を含む少なくとも1種の芳香族化合物A1と、
- 少なくとも1種の硬化剤A2と
にのみ基づく。
【0045】
「~に基づくエポキシ樹脂」という表現は、当然のことながら、この組成物に使用される様々な基本成分の混合物及び/又は反応生成物を含むエポキシ樹脂を意味すると理解されるべきであり、これらの一部は、繊維強化エポキシ複合材又はそのような複合材を含む完成品の様々な製造段階、特に一般的に適用される硬化プロセス中、少なくとも部分的に互いに又はそれらの直接化学的周囲と反応することを意図されているか又は反応することが可能である。換言すると、エポキシ樹脂は、後述する少なくとも1種の芳香族化合物A1と、少なくとも1種の硬化剤A2とから製造される。
【0046】
有機化合物A1又はA2に関して本明細書で使用される場合、用語「芳香族」は、1つ以上のアリール部位を含む有機化合物が、典型的には、酸素、窒素及び硫黄のヘテロ原子から選択される1つ以上のヘテロ原子によってそれぞれ任意選択的に中断され得、1つ以上のアリール部位の1つ以上の炭素原子が、典型的には、アルキル、アルコキシル、ヒドロキシアルキル、シクロアルキル、アルコキシアルキル、ハロアルキル、アリール、アルカリール、アラルキルから選択される1つ以上の有機基で任意に置換され得ることを意味する。
【0047】
有機化合物A1又はA2に関して本明細書で使用される場合、「アリール」という用語は、非局在化共役π系を有し、nが0又は正の整数である4n+2に等しい複数のπ電子を有する環式の共平面5~14員の有機基を意味し、環員のそれぞれが炭素原子であるベンゼンなどの化合物、1つ以上の環員がヘテロ原子、典型的には酸素、窒素及び硫黄原子から選択されるヘテロ原子であるフラン、ピリジン、イミダゾール及びチオフェンなどの化合物並びにナフタレン、アントラセン及びフルオレンなどの縮合環系が含まれ、これらの中で、環炭素の1つ以上は、典型的には、アルキル、アルコキシル、ヒドロキシアルキル、シクロアルキル、アルコキシアルキル、ハロアルキル、アリール、アルカリール、ハロ基から選択される1つ以上の有機基で置換され得、例えばフェニル、メチルフェニル、トリメチルフェニル、ノニルフェニル、クロロフェニル又はトリクロロメチルフェニルなどであり得る。
【0048】
本明細書で使用される場合、「エポキシド基」は、隣接エポキシ基、即ち1,2-エポキシ基を意味する。
【0049】
芳香族化合物A1
芳香族化合物A1は、1分子あたり少なくとも2つのエポキシド基を有し、且つ少なくとも1つのグリシジルオキシ基を有する少なくとも1つの芳香環を含む。本発明による芳香族化合物A1は、1分子あたり少なくとも2つのエポキシド基を有し、少なくとも2つのエポキシド基の1つは、少なくとも1つのグリシジルオキシ基を有する芳香環が有するグリシジルオキシ基由来のエポキシド基であり得る。
【0050】
適切な芳香族化合物A1としては、ジグリシジルレゾルシノール、1,2,2-テトラキス(グリシジルオキシフェニル)エタン又は1,1,1-トリス(グリシジルオキシフェニル)メタンなど、フェノール及びポリフェノールのポリグリシジルエーテル;ビスフェノールAのジグリシジルエーテル(ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2,2-プロパン)、ビスフェノールFのジグリシジルエーテル(ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン)、ビスフェノールCのジグリシジルエーテル(ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2,2-ジクロロエチレン)及びビスフェノールSのジグリシジルエーテル(4,4’-スルホニルジフェノール)並びにそれらのオリゴマーなどのビスフェノールのジグリシジルエーテル;芳香族アルコールのポリグリシジルエーテル;エポキシ化ノボラック化合物;エポキシ化クレゾールノボラック化合物;トリグリシジルアミノフェノール(TGAP)などのアミノフェノールのポリグリシジルエーテル;トリグリシジルアミノクレゾールが挙げられる。
【0051】
目的のいくつかの市販の芳香族化合物A1は、p-アミノフェノールのトリグリシジルエーテル(HuntsmanからMY 0510として市販されている)、m-アミノフェノールのトリグリシジルエーテル(HuntsmanからMY 0610として入手可能)、2,2-ビス(4,4’-ジヒドロキシフェニル)プロパンなどのビスフェノールA系材料のジグリシジルエーテル(DowからDER 661として、又はMomentiveからEPON 828として入手可能)、フェノールノボラック樹脂のグリシジルエーテル(DowからDEN 431又はDEN 438として入手可能)、及びジヒドロキシジフェニルメタンのジグリシジル誘導体(HuntsmanからPY 306として入手可能)である。
【0052】
芳香族化合物A1は、好ましくは、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル(ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2,2-プロパン)、ビスフェノールFのジグリシジルエーテル(ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン)、ビスフェノールCのジグリシジルエーテル(ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2,2-ジクロロエチレン)及びビスフェノールSのジグリシジルエーテル(4,4’-スルホニルジフェノール)などのビスフェノールのジグリシジルエーテルから選択される。特に、ビスフェノールAジグリシジルエーテルである。
【0053】
硬化剤A2
エポキシ樹脂の硬化剤は、当業者に周知である。硬化剤A2としては、一級アミン、二級アミン若しくは三級アミンなどのアミン、ケチミン、ポリアミド樹脂、イミダゾール誘導体、ポリメルカプタン、無水物、三フッ化ホウ素アミン錯体、ジシアンジアミド、有機酸ヒドラジド、光硬化剤又は紫外線硬化剤であり得る。
【0054】
硬化剤A2として好適な無水物としては、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水ベンゾフェノントリカルボン酸、エチレングリコールビストリメリテート、グリセロールトリストリメリテート、無水マレイン酸、無水テトラヒドロフタル酸、無水エノメチレンテトラヒドロフタル酸、無水メチルエンドメチルデンテトラヒドロフタル酸、無水ドデセニルコハク酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水ヘキサヒドロ-4-メチルフタル酸、無水コハク酸、無水メチルシクロヘキセンジカルボン酸、アルキルスチレン-無水マレイン酸コポリマー、無水クロレンド酸、ポリアゼライン酸無水物が挙げられる。
【0055】
硬化剤A2として適した例示的なポリアミンとしては、ジエチレントリアミン(DTA)、トリエチレンテトラミン(TTA)、テトラエチレンペンタミン(TEPA)、ジプロペンジアミン(DPDA)、ジエチルアミノプロピルアミン(DEAPA)、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミンと不揮発性アミンとを含む混合物(「アミン248」として公知の混合物など)、N-アミノエチルピペラジン(N-AEP)、メンタンジアミン(MDA)、イソホロンジアミン(IPDA)、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、m-キシリレンジアミン(MXDA)、キシリレンジアミン三量体、メタフェニレンジアミン(MPDA)、ジアミノジフェニルメタン(DDM)、ジアミノジフェニルスルホン(DDS)及び4,4’-メチレンビス(2,6-ジエチルアニリン)が含まれる。
【0056】
硬化剤A2として適切な例示的なイミダゾール誘導体としては、2-メチルイミダゾール、2-フェニル-イミダゾール、3-ベンジル-2-メチルイミダゾール、5-メチル-2-フェニルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、5-エチル-2-メチルイミダゾール及び1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾリウムトリメリテートが挙げられる。
【0057】
硬化剤A2は、好ましくはポリアミンであり、場合によってはイミダゾール化合物であり;ポリアミンは脂肪族又は芳香族であり得る。より好ましくは、硬化剤A2は、いくつかの第一級アミン基を含み、及び/又はイミダゾール化合物である。
【0058】
任意のさらなる化合物A3
可能なさらなる化合物A3として、芳香族化合物A1以外の分子あたり少なくとも2個のエポキシド基を有する化合物、特に分子あたり少なくとも2個のエポキシド基を有する脂環式又は脂肪族化合物が列挙され得る。
【0059】
他の可能な追加の化合物A3として、芳香族モノエポキシ化合物、モノ脂環式エポキシ化合物及び脂肪族モノエポキシ化合物を含む、分子当たり1つのみのエポキシド基を有するモノエポキシド化合物が列挙され得る。例示的なモノエポキシド化合物は、イソブチレンオキシド、スチレンオキシド、3,3’-ビス(クロロメチル)オキサシクロブタン及びオレフィン性モノエポキシド、例えばシクロドデカジエンモノエポキシド、3,4-エポキシ-1-ブテンである。
【0060】
強化繊維
繊維強化エポキシ複合材は、強化繊維を含む。それらは鉱物又は有機であり得る。それらは生物学的供給原料に由来し得;木材繊維も同様である。本発明に従い、強化繊維は、ガラス繊維、玄武岩繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維及び炭素繊維から有利に選択される。ガラス繊維は多くのカテゴリーに存在し、中でも特にM(高引張弾性率用)及びS(高引張強度用)のカテゴリーを列挙する価値がある。玄武岩繊維は、玄武岩の極細繊維からなる材料であり、鉱物である斜長石、輝石、及びオリビンから構成され;これらは、ガラス繊維に幾分類似している。アラミド(すなわち、芳香族ポリアミド)繊維としては、(i)パラアラミド繊維、特にポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(KEVLAR(登録商標)繊維としてDuPontから市販されている)、及びテレフタロイルクロリドとp-フェニレンジアミン及び3,4’-ジアミノジフェニルエーテルの混合物との重縮合によって得られる全芳香族ポリアミドからなる繊維(TECHNORA(登録商標)繊維としてTeijinから入手可能)、及び(ii)NOMEX(登録商標)繊維(DuPontから入手可能)などのメタアラミド繊維が挙げられる。ポリエステル繊維において、ポリエステルは、好ましくは液晶ポリマー、例えば4-ヒドロキシ安息香酸及び6-ヒドロキシナフタレン-2-カルボン酸の重縮合によって得られるものであり;Kurarayによって市販されているVECTRAN(商標)繊維も同様である。
【0061】
強化繊維は、炭素繊維であることが好ましい。炭素繊維(或いは、CF、グラファイト繊維又はグラファイト繊維)の直径は一般に約5~10μmである。それらは、高い剛性、高い引張強度、低い重量対強度比、高い耐薬品性、高い温度耐性及び低い熱膨張を含むいくつかの利点を有する。これらの特性により、炭素繊維は航空宇宙、土木工学、軍事及び競技スポーツにおいて非常に普及している。繊維を作製するための前駆体に応じて、炭素繊維は、乱層状若しくは黒鉛状であってもよく、又は黒鉛状部分と乱層状部分の両方が存在するハイブリッド構造を有してもよい。
【0062】
炭素繊維は、特にPAN系炭素繊維又はピッチ系炭素繊維であってもよい。
【0063】
繊維強化エポキシ複合材では、繊維、特に炭素繊維は不織布であってもよく、又は平織、綾織、ハーネスサテン又は魚織などの織布でパターン化されてもよい。各織物は、いくつかの設計での使用に優れ、他の設計には適さない固有の特性を含む。
【0064】
繊維強化エポキシ複合材の任意の構成成分
エポキシ樹脂及び強化繊維に加えて、繊維強化エポキシ複合材は、熱可塑性樹脂、例えばビスフェノールAポリスルホン(PSU)、ポリエーテルスルホン(PESU)、ポリフェニルスルホン(PPSU)、ポリアミド(PA)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエステル(PE)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリオレフィン(PO)又はそれらの組合せを含むことができる。いくつかの実施形態では、熱可塑性樹脂は粒子形態である。これは強化剤として作用し得る。
【0065】
繊維強化エポキシ複合材の他の可能な構成成分としては、エポキシ樹脂の硬化を強化又は促進する促進剤、並びにコアシェルゴム、難燃剤、湿潤剤、顔料、染料、UV吸収剤、充填剤、導電性粒子及び粘度調整剤などの性能改質剤が挙げられる。
【0066】
溶媒S
溶媒Sは、レボグルコセノン及び/又はレボグルコセノン誘導体である。
【0067】
本明細書で使用される場合、「レボグルコセノン誘導体」という用語は、レボグルコセノン供給原料から合成することができる化学化合物を示すことを意図している。合成は、1つ及び1つのみの反応を必要とし得るか、又はいくつかの連続する反応(工程)を伴う反応スキームが必要とされる。所望のレボグルコセノン誘導体を合成するために必要な連続反応(工程)の数は、大きく異なり得;特に2、3、4、5、6又は7であり得;これは一般に最大10である。本発明に従い溶媒Sを合成するのに適した多くの反応スキームは、Pachecoの論文に添付された「補足情報」のうちの28頁~38頁に記載されており、及び/又は本特許の表題の表14で参照される引用文献に記載されている。レボグルコセノン誘導体の合成は、有利には7回以下、好ましくは5回以下、さらにより好ましくは3回以下の連続反応を必要とする。最も好ましくは、レボグルコセノン誘導体は、レボグルコセノン又はシレンから一反応のみによって合成することができる。
【0068】
溶媒Sの融点及び沸点
溶媒Sの融点は、有利には100℃未満、好ましくは最大50℃であり;より好ましくは、溶媒Sは、室温(約20℃)及び大気圧(約1atm=101.325kPa)で液体である。
【0069】
溶媒Sの沸点は一般に少なくとも100℃である。有利には少なくとも150℃、好ましくは少なくとも175℃、より好ましくは少なくとも200℃である。OECDガイドライン(1995)試験番号103を使用して実験的に決定され、特にSigma-Aldrichの安全性データシートに報告される場合、シレンの沸点は227℃である。
【0070】
溶媒Sのハンセン溶解度パラメータ
HSPiPソフトウェアバージョン5.3.06を用いるYamamoto Molecular Breaking Methodを使用して、溶媒Sの簡易分子入力ライン入力システム(SMILES、Simplified Molecular-Input Line-Entry System)から計算した溶媒Sのハンセン溶解度パラメータは、以下のすべての要件に適合する:
16≦δD≦20
16≦δP+δH≦22
2/5≦δH/δP≦9/5
式中、δD、δP及びδHは先に定義された通りである。
【0071】
δDは、好ましくは少なくとも17、より好ましくは少なくとも18、さらにより好ましくは少なくとも18.5である。
【0072】
重要なのはδP+δHである。好ましくは、δP+δHは、少なくとも17、より好ましくは少なくとも18、さらにより好ましくは少なくとも19である。一方、δP+δHは、最大21であることが好ましく、最大20であることがより好ましい。
【0073】
比δH/δPも非常に重要である。一般に、δH/δPが低いほど溶媒Sの膨潤効果は高い。一方、δH/δPが高いほど、溶媒Sの剥離効果は一般的に高い。溶媒Sの比δH/δPがどのようなものであっても、膨潤効果と達成され得る剥離効果レベルとの間の全体的なバランスを考慮すると、良好な結果が達成され得る。したがって、当業者は、そうすることを望む場合、δH/δPを、前述の方法M、場合によってはプロセスP1のステップb)によって処理された繊維強化エポキシ複合材に関する可能なその後の方法、プロセス又は使用に最適であると考えられる値に容易に調整することができる。特に、δH/δPは、少なくとも1/2、少なくとも2/3、少なくとも4/5、少なくとも1、少なくとも5/4、少なくとも3/2、又は少なくとも7/4であり得る。さらに、δH/δPは、最大7/4、最大3/2、最大5/4、最大1、最大4/5、最大2/3、最大4/7、又は最大1/2であってもよい。
【0074】
溶媒SのグループG1
δH/δP<1を特徴とする第1のグループG1に属する溶媒Sは、一般に、適度に高い剥離度と組み合わせて、繊維強化エポキシ複合材の非常に高い膨潤を引き起こすことができる。
【0075】
いくつかの実施形態では、グループG1の溶媒Sは、好ましくは最大4/5、より好ましくは最大2/3のδH/δPを有する。一方、それらのδH/δPは、好ましくは少なくとも1/2である。
【0076】
溶媒Sとしてシレンを使用する場合、優れた結果が得られた。
【0077】
溶媒SのグループG2
δH/δP≧1を特徴とする別のグループG2に属する溶媒Sは、一般に、適度に高い膨潤率と組み合わせて、非常に高い程度に繊維強化エポキシ複合材の剥離を引き起こすことができる。
【0078】
いくつかの実施形態では、グループG2の溶媒Sは、好ましくは少なくとも5/4、より好ましくは少なくとも3/2のδH/δPを有する。一方、それらのδH/δPは、好ましくは最大7/4である。
【0079】
レボグルコサノール及び/又はレボグルコセノールを溶媒Sとして使用する場合に良好な結果が得られる。レボグルコサノールは、トレオ-レボグルコサノール(1,6-アンヒドロ-3,4-ジデオキシ-β-D-トレオ-ヘキソピラノース、CAS登録番号:39682-49-039682-48-9)、エリスロ-レボグルコサノール(1,6-アンヒドロ-3,4-ジデオキシ-β-D-エリスロ-ヘキソピラノース、CAS登録番号:39682-48-9)又はそれらの混合物として入手可能であり得る。同様に、レボグルコセノールは、トレオ-レボグルコセノール(1,6-アンヒドロ-3,4-ジデオキシ-β-D-トレオ-ヘキサ-3-エノピラノース、CAS登録番号:50705-28-7)、エリスロ-レボグルコセノール(1,6-アンヒドロ-3,4-ジデオキシ-β-D-エリスロ-ヘキサ-3-エノピラノース、CAS登録番号:58394-28-8)又はそれらの混合物として入手可能であり得る。
【0080】
溶媒Sの式
溶媒Sは、以下に示されているように、式(I)~(X)からなる群から選択される一般式のものであってもよい:
【化2】
式中、
(-)は、存在する場合、別の炭素-炭素結合と組み合わさって炭素-炭素二重結合を形成する任意の炭素-炭素結合を示し;
、R及びRは、互いに独立して、(i)水素原子、
(ii)ハロゲン原子、(iii)C~Cアルキル、C~Cアルケニル、C~Cアルキニル又はC~Cアルコキシ、(iv)C~Cアルキル、C~Cアルコキシ及びカルボアルコキシ基-COORであって、式中、RはC~Cアルキルである、カルボアルコキシ基-COOR、又は(v)
【化3】
若しくは-R’-S(=O)-R又は-R’-S(=O)-Rであって、式中、RはC~Cアルキル又はフェニルであり、R’はC~Cアルカンジイル又はC~Cアルケンジイルである、-R’-S(=O)-R又は-R’-S(=O)-Rであり;
は、水素、C~Cアルキル若しくは-R’-OHであるか、又はR’は、C~Cアルカンジイルであり;
は、水素又はC~Cアルキルであり;
及びRは、互いに独立して、(i)水素、(ii)ハロゲン原子、(iii)C~Cアルキル若しくは(iv)C~Cアルキル、C~Cアルコキシ及びカルボアルコキシ基-COORであって、式中、RはC~Cアルキルである、カルボアルコキシ基-COORから選択される一価の基によって1回若しくは2回任意選択で置換されるフェニルであるか、又はその2個の炭素原子が互いに隣接して置換され、
【化4】
環であって、オキシメチレンオキシ基-O-CH-O-を有し、ここで、アスタリスクは、フェニル環の2つの隣接する炭素原子を示す、環を形成し;
は、水素又はC~Cアルコキシであり;
R’は、C~Cアルカンジイルであり、
但し、
及びRは、(i)C~Cアルカンジイル基、(ii)C~Cアルケンジイル基、(iii)-R’~N=N-基であって、式中、R’は、C~Cアルカンジイル基であり、その炭素原子は任意選択的にさらに2回置換され、本明細書において
【化5】
(式中、R’は、nilであるか、又はC~Cアルカンジイルである)として示されるスピロ連結を形成する、-R’~N=N-基、又は(iv)-CH-C(=O)-CH(-COOR)-基であって、式中、Rは、C~Cアルキルである、-CH-C(=O)-CH(-COOR)-基へと組み合わされ、その結果、RとRとは、それらが結合した2個の炭素原子と環を形成し、RとRとがそのように組み合わさって、任意の炭素-炭素結合が存在しない場合、Rが結合した炭素原子は、基R2ビスであって、式中、R2ビスは、C~Cアルキル又はハロゲン原子である、基R2ビスによってさらに置換されていてもよく、
及びは、C~Cアルカンジイル基、C~Cアルケンジイル基又は式
【化6】
のシクロアルケンジイル基へと組み合わされ得る。
【0081】
いくつかの実施形態では、溶媒Sは、以下に詳述するように、部分M 部分M 部分M又は部分Mを含む。
【0082】
部分Mに基づく実施形態
いくつかの実施形態では、溶媒Sは、式(F-I)の部分Mを含み、
【化7】
式中、(-)は、存在する場合、別の炭素-炭素結合と組み合わさって炭素-炭素二重結合を形成する任意の炭素-炭素結合を示し、
アスタリスクを有する炭素原子は、一価又は二価の基で置換されており、少なくとも1個の酸素原子Rを含む。Rは、有利には、(i)オキソ(=O)、(ii)ヒドロキシル(-OH)、(iii)RがC~Cアルキル(好ましくは、メチル)であるアルコキシ(-OR)、(iv)任意選択的に置換されたオキシエチレンオキシ基(-O-R’-O-)であって、式中、R’は、C~Cアルキル基(好ましくは、メチル)又はC~Cヒドロキシアルキル基-R’-OHであって、式中、R’はC~Cアルカンジイル(好ましくは、-CH-)である、C~Cヒドロキシアルキル基-R’-OHで置換されていてもよいエタンジイルである、任意選択的に置換されたオキシエチレンオキシ基(-O-R’-O-)、(v)式-O-CH-C(=O)-CH-の基、(vi)カルボキシアルキル基-R’-COOHであって、式中、R’はC~Cアルカンジイル(好ましくは、-CH-又は-CH-CH-)である、カルボキシアルキル基-R’-COOH、及び(vii)カルボアルコキシアルキル基-R’-COOR基であって、式中、R’はC~Cアルカンジイルであり、RはC~Cアルキルである、カルボアルコキシアルキル基-R’-COOR基から選択される。以下に詳述する実施形態E~Eも同様である。
【0083】
実施形態E
第1の実施形態Eでは、溶媒Sは式(I)のものであり、
【化8】
式中、(-)は、存在する場合、別の炭素-炭素結合と組み合わさって炭素-炭素二重結合を形成する任意の炭素-炭素結合を示し、R及びRは前述の通りであり、式(I)は前述の条件に従う。
【0084】
溶媒Sは、式(Ia)のように、任意の炭素-炭素結合(-)を含んでいてもよく、
【化9】
式中、R及びRは前述の通りであり、式(Ia)は前述の条件に従う。或いは及び好ましくは、任意の炭素-炭素結合(-)は、式(I)に存在せず;次いで、溶媒Sは、式(Ib)によって表すことができ、
【化10】
式中、R及びRは前述の通りであり、式(Ib)は前述の条件に従う。
【0085】
実施形態Eでは、R及びRは、互いに独立して、有利にはH、ハロゲン原子、C~Cアルキル、C~Cアルケニル、C~Cアルコキシ、フェニル、-R’-S(=O)-R又は-R’-S(=O)-Rであって、式中、RはC~Cアルキル又はフェニルであり、R’はC~Cアルカンジイル又はC~Cアルケンジイルである、-R’-S(=O)-R又は-R’-S(=O)-Rであり、
但し、
及びRは、(i)C~Cアルカンジイル基、(ii)C~Cアルケンジイル基、(iii)-R’~N=N-基であって、式中、R’は、C~Cアルカンジイル基であり、その炭素原子は任意選択的にさらに2回置換され、本明細書において
【化11】
(式中、R’はnilであるか、又はC~Cアルカンジイルである)
に示されているスピロ連結を形成する、-R’~N=N-基、又は
(iv)-CH-C(=O)-CH(-COOR)-基であって、式中、Rは、C~Cアルキルである、-CH-C(=O)-CH(-COOR)-基へと組み合わされることを条件とし、その結果、RとRとは、それらが結合した2個の炭素原子と環を形成し、RとRとがそのように組み合わさって、任意の炭素-炭素結合が存在しない場合、Rが結合した炭素原子は、基R2ビスであって、式中、R2ビスは、C~Cアルキル又はハロゲン原子である、基R2ビスによってさらに置換されていてもよい。
【0086】
第1の部分実施形態E11では、R及びRはHである。次いで、溶媒Sは、(1S,5R)-6,8-ジオキサビシクロ[3.2.1]オクタ-2-エン-4-オン(通常及び本明細書ではレボグルコセノンと呼ばれる)又は(1S,5R)-6,8-ジオキサビシクロ[3.2.1]オクタン-4-オン(通常及び本明細書ではシレンと呼ばれる)である。それらの化学構造、SMILES及びハンセンのパラメータを表1に与える。
【0087】
【表1】
【0088】
(1S、5R)-6,8-ジオキサビシクロ[3.2.1]オクタ-2-エン-4-オン(IUPAC名は、Lexichem TK 2.7.0-Pubchemリリース2021.05.07によって計算される)は、通常及び本明細書ではレボグルコセノンと呼ばれ、以下の3つの式のいずれか1つによって区別なく表すことができる:
【化12】
そのCAS登録番号は37112-31-5である。
【0089】
(1S、5R)-6,8-ジオキサビシクロ[3.2.1]オクタ-2-エン-4-オン(IUPAC名は、Lexichem TK 2.7.0-Pubchemリリース2021.05.07によって計算される)は、通常及び本明細書ではシレン又はレボグルコセノンと呼ばれ、以下の3つの式のいずれか1つによって区別なく表すことができる:
【化13】
そのCAS登録番号は53716-82-8である。
【0090】
部分実施形態E11の好ましい溶媒Sは、シレンである。
【0091】
第2の部分実施形態E12では、RはHであり、RはHとは異なる。この部分実施形態E12では、Rは特にC~Cアルキル又はハロゲン原子、特にハロゲン原子、より具体的には臭素原子であり得る。E12による例示的化合物の化学構造、SMILES、ハンセンのパラメータ及び出典参照へのアクセスコードを表2に与える。
【0092】
【表2】
【0093】
第3の部分実施形態E13では、RはHとは異なり、RはHである。この部分実施形態E13では、Rは特にC~Cアルキル、-R’-S(=O)-R又は-R’-S(=O)-Rであり得、式中、R’はC~Cアルカンジイル又はC~Cアルケンジイルであり、RはC~Cアルキル又はフェニルである。特に、Rは-R’-S(=O)-R又は-R’-S(=O)-Ra,であり得、式中、R’は前述の通りであり、Rはフェニルである。E13による例示的化合物の化学構造、SMILES、ハンセンのパラメータ及び出典参照へのアクセスコードを表3に与える。
【0094】
【表3】
【0095】
第4の部分実施形態E14では、RとRとは両方ともHとは異なる。この部分実施形態E14では、R及びRは特にC-Cアルキルであり得るか、又はR及びRは、(i)C~Cアルカンジイル基(特に、-CH-)又は(ii)-R’-N=N-基であって、式中、R’は、C~Cアルカンジイル基(特に、CH-)であり、その炭素原子は任意選択的にさらに2回置換され、本明細書において
【化14】
(式中、R’はnilであるか又はC~Cアルカンジイル(好ましくは、nil)である)に示されているスピロ連結を形成する、-R’-N=N-基へと組み合わされ、その結果、RとRとは、それらが結合した2個の炭素原子を有する環を形成する。部分実施形態E14では、RとRとがそのように組み合わされる場合、Rが結合している炭素原子は、一般に、式(Ib)のように、任意の炭素-炭素結合が式(I)に存在しない場合を含め、基R2ビスによってさらに置換されない。E14による例示的化合物の化学構造、SMILES、ハンセンのパラメータ及び1つ以上の出典参照へのアクセスコードを表4に与える。
【0096】
【表4】
【0097】
実施形態E
第2の実施形態Eでは、溶媒Sは式(II)のものであり、
【化15】
式中、(-)は、存在する場合、別の炭素-炭素結合と組み合わさって炭素-炭素二重結合を形成する任意の炭素-炭素結合を示し、R、R及びRは前述の通りであり、式(II)は前述の条件に従う。
【0098】
溶媒Sは、式(IIa)のように、式(II)の任意の炭素-炭素結合(-)を含んでいてもよく、
【化16】
式中、R、R及びRは前述の通りであり、式(IIa)は前述の条件に従う。或いは及び好ましくは、任意の炭素-炭素結合(-)は、式(II)に存在せず;次いで、溶媒Sは、式(IIb)によって表すことができ、
【化17】
式中、R、R及びRは前述の通りであり、式(IIb)は前述の条件に従う。この条件に従う式(IIb)の溶媒Sは、式(IIc)又は(IId)によって表すことができ、
【化18】
これは、Rが結合している炭素原子が、前述のように基R2ビスでさらに置換されているか否かに応じて決定され、ここで、R12は、先に記載されたようなRとRとの組合せから生じる二価の基であり、R2ビスは、C~Cアルキル又はハロゲン原子である。
【0099】
実施形態Eでは、R、R及びRは、互いに独立して、有利にはH、C~Cアルキル、C~Cアルケニル、C~Cアルキニル、C~Cアルコキシ、ハロゲン原子、
【化19】
-R’-S(=O)-R又は-R’-S(=O)-Rであって、式中、RはC~Cアルキル又はフェニルであり、R’はC~Cアルカンジイル又はC~Cアルケンジイルである、-R’-S(=O)-R又は-R’-S(=O)-Rであり、
但し、
及びRは、(i)C~Cアルカンジイル基、(ii)C~Cアルケンジイル基、(iii)-R’~N=N-基であって、式中、R’は、C~Cアルカンジイル基であり、その炭素原子は任意選択的にさらに2回置換され、本明細書において
【化20】
(式中、R’はnilであるか又はC~Cアルカンジイルである)
に示されているスピロ連結を形成する、-R’~N=N-基、又は
(iv)-CH-C(=O)-CH(-COOR)-基であって、式中、Rは、C~Cアルキルである、-CH-C(=O)-CH(-COOR)-基へと組み合わされ、その結果、RとRとは、それらが結合した2個の炭素原子と環を形成し、RとRとがそのように組み合わさって、任意の炭素-炭素結合が存在しない場合、Rが結合した炭素原子は、基R2ビスであって、式中、R2ビスは、C~Cアルキル又はハロゲン原子である、基R2ビスによってさらに置換されていてもよい。
【0100】
第1の部分実施形態E21では、R、R及びはHである。E21による溶媒Sの化学構造、SMILES、ハンセンのパラメータ及び1つ又は複数の出典参照へのアクセスコードは表5に与えられる。
【0101】
【表5】
【0102】
第2の部分実施形態E22では、R及びRはHであり、RはHとは異なる。この部分実施形態E22では、Rは特にC~Cアルキル、C~Cアルケニル、C~Cアルキニル、
【化21】
又は-R’-S(=O)-Rであってもよく、式中、RはC~Cアルキル又はフェニルであり、R’はC~Cアルカンジイル又はC~Cアルケンジイルである。R
【化22】
である場合、Rはフェニルであることが好ましい。Rが-R’-S(=O)-Rである場合、Rは好ましくはC~Cアルキル、特にメチルである。E22による例示的化合物の化学構造、SMILES、ハンセンのパラメータ及び出典参照へのアクセスコードを表6に与える。
【0103】
【表6】
【0104】
第3の部分実施形態E23では、R又はRはHであるが、それらの両方ではなく、RはHである。この部分実施形態E23では、場合によっては、Hとは異なる基R又はRは、特にC~Cアルキル又はC~Cアルコキシであり得る。部分実施形態E23では、Rは有利にはHであり、RはHとは異なることを意味し;特に、RはC~Cアルコキシであり得る。E23による例示的化合物の化学構造、SMILES、ハンセンのパラメータ及び出典参照へのアクセスコードを表7に与える。
【0105】
【表7】
【0106】
第4の部分実施形態E24では、R及びRはHとは異なり、RはHである。この部分実施形態E24では、R及びRは、互いに独立して、特にC~Cアルキルであり得る。部分実施形態E24では、R1及びRはまた、C~Cアルカンジイル基(特に、メチレン)又はCアルケンジイル基(特にメチレン)へと組み合わせることができ、その結果、RとRとは、それらが結合した2個の炭素原子と環を形成するが、但し、RとRとがそのように組み合わさって、任意の炭素-炭素結合が式(II)に存在しない場合、Rが結合した炭素原子は、上記式(IId)に示されているように、R2ビスがC~Cアルキル又はハロゲン原子である基Rビスでさらに置換することができ、式中、R12は、RとRとの組合せから生じる二価の基である。E24による例示的化合物の化学構造、SMILES、ハンセンのパラメータ及び出典参照へのアクセスコードを表8に与える。
【0107】
【表8】
【0108】
実施形態E、E及びE
実施形態E、E及びEでは、溶媒Sはそれぞれ式(III)
【化23】
[好ましくは、式(IIIb)
【化24】
]、式(IV)
【化25】
[好ましくは、式(IVb)
【化26】
]又は式(V)
【化27】
[好ましくは、式(Vb)
【化28】

式中、(-)は、存在する場合、別の炭素-炭素結合と組み合わさって炭素-炭素二重結合を形成する任意の炭素-炭素結合を示し、R、R、Rは前述の通りであり、上記式は、前述の条件に従う。
【0109】
実施形態E、E及びEでは、R及びRは、互いに独立して、特にH、C~Cアルキル、C~Cアルケニル、C~Cアルコキシ又はハロゲン原子であり得るが、但し、R及びRは、(i)C~Cアルカンジイル基、(ii)C~Cアルケンジイル基又は(iii)-CH-C(=O)-CH(-COOR)-基(式中、RはC~Cアルキルである)に組み合わせることができ;好ましくは、R及びRのいずれかは水素であるか、又はそれらがメチレン基に組み合わされている。さらに、実施形態Eでは、Rは有利には水素又は-CHOHである。
【0110】
実施形態E、E及びEによる例示的化合物の化学構造、SMILES、ハンセンのパラメータ及び出典参照へのアクセスコードを表9に与える。
【0111】
【表9】
【0112】
部分Mに基づくいくつかの溶媒Sは、実施形態E~Eに対応して、上述の式(I)~(V)のいずれにも従わない。一例として、式(XI)の溶媒を挙げることができる。
【化29】
Pachecoらによって標識化されたS119は、出典参照へのアクセスコードとしてAX-IIを有し、そのSMILESはO=C1CC(C)(C)CC2=C1C3CC(O)(O2)C4OCC3O4であり、ハンセンのパラメータとしてδD=18.6、δP=10.9及びδH=8.6を有する。
【0113】
部分Mに基づく実施形態
いくつかの他の実施形態において、溶媒Sは、先に記載された部分Mと異性体である式(F-II)の部分Mを含み、
【化30】
式中、(-)は、存在する場合、別の炭素-炭素結合と組み合わさって炭素-炭素二重結合を形成する任意の炭素-炭素結合を示し、
アスタリスクを有する炭素原子は、少なくとも1個の酸素原子Rを含む一価又は二価の基で置換されている。Rは、有利には、部分Mについて明記される通りである。特に、Rはオキソ(=O)であり得;実施形態Eにおいても同様である。
【0114】
実施形態E
実施形態Eでは、溶媒Sは式(VI)
【化31】
[好ましくは、式(VIb)
【化32】
]のものであり、式中、(-)は、存在する場合、別の炭素-炭素結合と組み合わさって炭素-炭素二重結合を形成する任意の炭素-炭素結合を示し、R及びRは前述の通りであり、式(VI)及び(VIb)は、前述の条件に従う。R及びRは、有利には、式(I)のR及びRと同じ原子又は原子の基を表す。好ましくは、RとRは両方とも水素である。
【0115】
実施形態Eによる例示的化合物の化学構造、SMILES、ハンセンのパラメータ及び出典参照へのアクセスコードを表10に与える。
【0116】
【表10】
【0117】
部分Mに基づく実施形態
いくつかの他の実施形態では、溶媒Sは、式(F-III)の部分Mを含み、
【化33】
式中、(-)は、存在する場合、別の炭素-炭素結合と組み合わさって炭素-炭素二重結合を形成する任意の炭素-炭素結合を示し、
アスタリスクを有する炭素原子は、少なくとも1つの酸素原子RO,2を含む一価の基によって置換されている。RO,2は、有利には、(i)ヒドロキシメチル基-CHOH、(ii)アルコキシメチル基--CHOR(式中、RはC~Cアルキルである)、(iii)ホルミルオキシメチル基-CH-O-C(=O)-H及び(iv)式--CH-O-C(=O)-R(式中、RはC~Cアルキルである)のアルカノイルオキシメチル基から選択される。実施形態E及びEも同様である。
【0118】
実施形態E及びE
実施形態E及びEでは、溶媒Sはそれぞれ式(VII)
【化34】
[好ましくは、式(VIIb)
【化35】
]、又は式(VIII)
【化36】
[好ましくは、式(VIIIb)
【化37】
]のものであり、式中、(-)は、任意の炭素-炭素結合を表し、これは、存在する場合、別の炭素-炭素結合と組み合わさって炭素-炭素二重結合を形成し、式中、R、R及びRは、前述の通りであり、上記式(VII)、(VIIb)、(VIII)及び(VIIIb)は、前述の条件に従う。
【0119】
実施形態E及びEでは、Rは、好ましくは水素又はメチル、より好ましくは水素である。
【0120】
実施形態E及びEでは、好ましくは、(i)RとRとは両方とも水素原子を表すか、又は(ii)R若しくはRの一方が水素原子であるが、他方は、~Cアルキル(好ましくは、メチル)、C~Cアルコキシ(好ましくは、メトキシ)及びカルボアルコキシ基-COORであって、式中、RはC~Cアルキル(好ましくは、メチル)である、カルボアルコキシ基-COORから選択される1つの一価の基によって場合により置換されたフェニル基であるか、若しくはその2つの炭素原子が互いに隣接して、
【化38】
環であって、オキシメチレンオキシ基-O-CH-O-を有し、ここで、アスタリスクは、フェニル環の2つの隣接する炭素原子を示す、環を形成するように置換されているか;又は(iii)R及びRは、C~Cアルカンジイル基若しくはC~Cアルケンジイル基に組み合わされる。
【0121】
実施形態E及びEによる例示的化合物の化学構造、SMILES、ハンセンのパラメータ及び出典参照へのアクセスコードを、それぞれ表11及び12に与える。
【0122】
【表11】
【0123】
【表12】
【0124】
部分Mに基づく実施形態
いくつかの他の実施形態では、溶媒Sは、式(F-IV)の部分Mを含み、
【化39】
式中、アスタリスクを有する炭素原子は、少なくとも1個の酸素原子RO,2含む一価の基で置換されている。部分Mの場合のように、部分MのRO,2は、有利には、(i)ヒドロキシメチル基-CHOH、(ii)アルコキシメチル基-CHOR(式中、RはC~Cアルキルである)、(iii)ホルミルオキシメチル基-CH-O-C(=O)-H及び(iv)式-CH-O-C(=O)-R(式中、RはC~Cアルキルである)のアルカノイルオキシメチル基から選択される。実施形態E及びE10も同様である。
【0125】
実施形態E及びE10
実施形態E及びE10では、溶媒Sはそれぞれ式(IX)
【化40】
又は式(X)であり、
【化41】
式中、R、R、R及びRは先に記載された通りであり、上記式(IX)及び(X)は前記の条件に従うものである。
【0126】
実施形態E及びE10では、Rは、好ましくは水素又はメチル、特にメチルである。
【0127】
及びE10において、好ましくは、(i)RとRとが両方とも水素原子を表すか、又は(ii)R又はRの一方が水素原子であるが、他方がC~Cアルキル基(好ましくは、メチル)であるか、又は(iii)R及びRが、式
【化42】
のC~Cアルカンジイル基、C~Cアルケンジイル基又はシクロアルケンジイル基に組み合わされる。
【0128】
及びE10において、Rは多くの場合C~Cアルコキシ、特にメトキシである。
【0129】
実施形態E及びE10による例示的な化合物の化学構造、SMILES、ハンセンのパラメータ及び出典参照へのアクセスコードを表13に与える。
【0130】
【表13】
【0131】
いくつかの特別な溶媒Sは、M、M、M又はM以外の部分に基づく。一例として、式(XII)の溶媒に言及することができる。
【化43】
Pachecoらによって標識化されたS69は、出典参照へのアクセスコードとしてAM-9aを有し、そのSMILESはN#CCCC(CCl)OC=Oであり、ハンセンのパラメータとしてδD=17.3、δP=12.8及びδH=8.1を有する。
【0132】
上記の表2~12の左列において、溶媒Sは、Pachecoらが使用した標識と同一のラベルS<番号>によって識別され、続いて括弧及びイタリック体で、同様にPachecoらが使用した、出典参照に基づき、それにアクセスできるコードによって識別された。コードが<アルファベット>-<数字>の形式である場合、ダッシュの前のアルファベットは、表14に指定されるように出典参照/引用を指す標識を構成する。ダッシュポイントの後の数字は、元の参照で使用された化合物標識を指す。この理由から、略語、アルファベット、数及びローマ数字が可能であり;一般的なフォーマットは、それぞれの参考文献における化合物の発見を助けるために使用されていない。化合物標識の後に(m)が続く場合、これは参照された構造に対する元の修飾であり、(m2)は第2の構造修飾、(m3)第3の構造修飾などを意味する。いくつかの化合物は、複数の参考文献に現れるので、2つ以上の標識を有し、したがって、各化合物も個別に標識される。
【0133】
【表14】
【0134】
溶媒Sの使用
本発明はまた、繊維強化エポキシ複合材を膨潤させるための溶媒Sの使用に関し、ここで、溶媒S及び繊維強化エポキシ複合材は前述の通りである。
【0135】
好ましくは、繊維強化エポキシ複合材が積層体である場合、さらに繊維強化エポキシ複合材積層体を剥離するために使用される。
【0136】
繊維強化エポキシ複合材を溶媒Sに撹拌せずに処理温度Ttrで5時間完全に浸漬した後の膨潤率は5%以上であり得る。これは、有利には少なくとも8%、好ましくは少なくとも12%、より好ましくは少なくとも15%、さらにより好ましくは少なくとも18%である。
【0137】
発明の他の態様
組成物
本発明はまた、先に定義された繊維強化エポキシ複合材及び先に定義された溶媒Sを含む組成物、例えば前述の方法Mに関する組成物に関する。
【0138】
プロセスP
本発明はまた、繊維強化エポキシ複合材に含まれるエポキシ樹脂の分解を引き起こすためのプロセスPに関し、前記プロセスPは、
a)繊維強化エポキシ複合材を前処理に供することであって、前処理が、先に定義された方法Mを適用することを含む、前処理に供することと、
b)このように前処理された繊維強化エポキシ複合材を酵素処理及び/又は化学処理に供することと
を含み、
a)及びb)の各々は、1回又は数回実施される。
【0139】
いくつかの好ましい実施形態では、b)このように前処理された繊維強化エポキシ複合材を酵素処理に供するが化学処理に供しないことを含むか、又はb)このように前処理された繊維強化エポキシ複合材を酵素処理に供し、次いで1つ以上の化学処理に供することを含む。
【0140】
酵素分解の利点は、環境への影響が少ない一般的に穏やかで安全な条件を意味することである。Eliaz et al.in Materials (Basel),2018,11,2123によって教示されているように、エポキシ樹脂を分解する可能性があるいくつかの細菌は、ロドコッカス-ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)及びオクロバクテリウム・アンスロピ(Ochrobactrum anthropi)である。
【0141】
化学処理が関係する限り、この処理は、有利には、
- 繊維強化エポキシ複合材をリン酸及び/又はその塩の水溶液と接触させることと、
- 繊維強化エポキシ複合材をリン酸及び/又はその塩の有機溶液と接触させることと、
- 繊維強化エポキシ複合材を強ブレンステッド塩基の水溶液と接触させることと、
- 繊維強化エポキシ複合材を酸消化処理に供すること
のうちの少なくとも1つを含む。
【0142】
より好ましくは、プロセスPの工程b)は、
b1)繊維強化エポキシ複合材を酵素と接触させることと、
b2)繊維強化エポキシ複合材をリン酸及び/又はその塩の水溶液と接触させることと、
b3)繊維強化エポキシ複合材を強ブレンステッド塩基の水溶液と接触させることとを含み、
b1)、b2)及びb3)の各々は、1回又は数回実施される。
【0143】
方法Mの使用
本発明はまた、繊維強化エポキシ複合材に埋め込まれたエポキシ樹脂中の酵素又は化学化合物の拡散速度を増加させるための前述の方法Mの使用に関する。
【0144】
有利には、酵素又は化学化合物は、場合によっては、エポキシ樹脂、特に硬化及び/又は架橋エポキシ樹脂と反応することができる酵素及び化学物質から選択される。
【0145】
好ましくは、酵素又は化合物は、場合によっては、繊維強化エポキシ複合材、特に前述のエポキシ樹脂及び繊維強化エポキシ複合材の分解を引き起こすことができる反応又は反応スキームに従ってエポキシ樹脂と反応することができる酵素及び化学物質から選択される。
【0146】
プロセスP及びP
本発明はまた、繊維強化エポキシ複合材から強化繊維を回収するためのプロセスPに関し、これは、
- 前述のプロセスによって繊維強化エポキシ複合材に含まれるエポキシ樹脂を分解させ、それによって炭素繊維及びエポキシ分解生成物を含む材料を得ることと、
- このようにして得られた材料から炭素繊維を分離することと
を含む。
【0147】
これは、強化繊維をリサイクルするためのプロセスPも含み、これは、
- 前述のプロセスPによって繊維強化エポキシ複合材から炭素繊維を回収することと;
- ポリマーとこのようにして回収された炭素繊維とを含む複合材材料を製造することとを含む、前記複合材料が、前述の方法Mに含まれる繊維強化エポキシ複合材材料と同一であるか又は異なることと
を含む。
【0148】
本発明の利点
本発明は、いくつかの利点を有する。
【0149】
本発明は、石油産業から与えられた溶媒の使用を必要としないMa及びNuttの溶媒前処理方法と同程度に効率的な方法を提供する。これは、バイオ系溶媒Sに基づくMa及びNuttの溶媒前処理方法と同程度に効率的な処理方法M、すなわち再生可能な生物学的供給原料から製造することができるものを提供する。潜在的に安価で広く入手可能な溶媒であるか、又はそれになり得るシレンは、適切で好ましい溶媒Sである。
【0150】
上記のようなグループ1又は2のいずれかのバイオ系溶媒Sも、膨潤(Ma及びNuttによって記載されている)及び剥離(これについてはMa及びNuttは言及していない)を含む、エポキシ複合積層体に含有されるエポキシのその後の化学分解を促進する能力において、ベンジルアルコールと同程度に少なくとも全体的に効率的である。
【0151】
上記のような第1族のバイオ系溶媒Sは、繊維強化複合材の膨潤の増加を達成することを可能にし、繊維強化複合材の膨潤の増加は、特に高度に架橋されたエポキシ構成成分を含むことが多い最も強力な「硬化」複合材の場合、複合材をさらに透過性にし、拡散の律速効果をさらに低下させるために望ましいことがある。グループ1のバイオ系溶媒Sは、繊維強化エポキシ複合材をベンジルアルコールが可能な範囲よりも大きく膨潤させることができる。
【実施例
【0152】
実験手順
材料
混合物及びその後のジグリシジルエーテルビスフェノールA(エポキシ源としてのDGEBA)及び4,4’-メチレンビス(2,6-ジエチルアニリン(M-DEA、硬化剤として)の重合によって生成されたエポキシ樹脂(29.48%)によって埋め込まれた16枚の炭素繊維(70.52重量%)を含有する1cm×1cm×0.334cmの複合材試験片。エポキシ樹脂構成成分は架橋ネットワークであり、その簡略化された表現は以下の通りであり得る:
【化44】
式中、nはエポキシ樹脂の繰り返し単位数に相当する整数である。複合材に対してASTM E 1356-08(2014)に従って使用するDSCによって測定した場合、ガラス転移温度は164℃であった。
【0153】
ベンジルアルコール(沸点199℃、分子量M.W.108.1g/mol)は、以下「BZA」と称する。
【0154】
メチル4-(ジメチルカルバモイル)-2-メチルブタノエートは、SOLVAYからRHODIASOLV(登録商標)Polarclean溶媒として市販されている(沸点282℃、M.W.187.2g/mol)、以下「PLC」と称する。
【0155】
シレンは、CYREN(商標)溶媒(沸点227℃、M.W.114g/mol)としてCIRCAから市販されており、以下「CRN」と称する。
【0156】
溶媒処理
溶媒浴を目標温度(以下の実施例では100℃又は200℃)になるまで加熱した。溶媒浴を形成する溶媒に対する複合材試験片の質量比は、1:50であった(溶媒の量は、複合材試験片の溶媒浴への完全な浸漬を可能にするのに十分に高く、それによって結果の良好な再現性を保証した)。溶媒が目標温度に達した場合、試験片を撹拌せずに溶媒浴に完全に浸漬し、撹拌せずにこのような温度で5時間維持した。その後、浸漬した試験片を熱ろ過し、回収した試験片をMilli-Q(登録商標)水(18.2mΩ)及び無水エタノールで交互に洗浄し、複合材試験片のグラムごとに、200mlの各水及びエタノールを使用した。
【0157】
膨潤率及び剥離度
溶媒処理の膨潤効果を推測するために、複合材試験片の質量増加に依存した。膨潤率rsw(%で表す)は、式Equ1を使用して計算した:
【数1】
【0158】
式Equ.1では、m初期及びm最終はそれぞれ、処理前及び処理後の複合材試験片の質量である。
【0159】
溶媒処理の剥離効果を推測するために、複合材試験片から剥離した複合材シートの数に依存した。膨潤率dexf(%で表す)は、式Equ.2を使用して計算した:
【数2】
【0160】
式Equ.2において、nc複合材試験片は、所与の溶媒(1種又は2種以上であり得る)によって処理された純粋な複合材試験片の実際の数であり、Xは、複合材料試験片を形成するために積み重ねられた炭素繊維シートの数である。これらの例では、各複合材試験片は、積み重ねられた16枚の炭素繊維から調製され;したがって、Xは16である。この式において、n複合材シートは、試験片が溶媒処理を受けた後に所与の溶媒について1つ以上の複合材試験片から分離された複合材シートの数である。実際には、エポキシ樹脂に埋め込まれた炭素繊維から形成された正方形又はほぼ正方形の構造を剥離シートとしてカウントし;すべての未処理の複合材試験片は16枚の炭素繊維を含有したので、n複合材シートは試験片によって1~15まで変化し得る。
【0161】
膨潤と剥離の両方が、繊維強化エポキシ複合材の分解を促進するために重要であると考えられるため、両方の効果を効率的に生じさせる溶媒処理が望ましい。複合材試験片の全体的な劣化を反映する性能指数PIdegは、以下のように定義することができる:
PIdeg=1/100・rsw・dexf
PIdegは劣化性能指数であり、rswとdexfとは両方とも%で表され、それぞれ先に定義された膨潤率及び剥離度である。
【0162】
溶媒処理の結果及び考察
溶媒処理の結果を表15に示す。BZAを伴う比較例は、本出願人に知られている最も近い先行技術と見なすことができるものに従っており、すなわち、ポリマーの分解及び安定性におけるMa及びNuttの論文は、背景技術のセクションで解説されている。環境に優しい溶媒であるPLCの例もまた、CRNとの比較のために提供されるが、出願人の知る限りでは、それらは先行技術の一部を形成せず;したがって、それらの提示は、それらが先行技術の一部を形成することになるという出願人による承認として解釈されるべきではない。
【0163】
【表15】
【0164】
溶媒の性質に関係なく、すべての処理CE1~CE3を100℃で行い、すなわち、エポキシ樹脂マトリックスのガラス転移温度未満では、不十分な結果が得られ、複合材試験片の膨潤及び剥離はほとんど生じなかった。本出願人は、エポキシ樹脂マトリックスのガラス転移温度未満では、材料からの分子鎖がおそらく凍結したままであり、立体障害を引き起こし、溶媒に対する物理的障壁として作用すると考えている。
【0165】
一方、エポキシ樹脂マトリックスのガラス転移温度より高い温度、ここでは200℃で処理した場合、すべての複合材試験片(CE4、CE5及びE1)が実質的に分解した。本出願人は、このような温度では、樹脂の自由体積がおそらく増加し、局所的なポリマーセグメントの運動がマトリックス中の溶媒拡散を可能にし、一方では樹脂の膨潤及び複合材試験片の質量増加、他方では複合材試験片の共有結合破壊及び剥離による樹脂の断片化を促進したと考えている。
【0166】
200℃、すなわちエポキシ樹脂マトリックスのガラス転移温度を超えるBZAでの処理は、最高の剥離度を達成することを可能にした。一方、エポキシ試験片は、CRNで最もよく膨潤した(本発明による実施例E1)。エポキシ樹脂マトリックスのガラス転移温度を超えるとCRNの膨潤能力がBZAの膨潤能力をはるかに超えることを当業者が示唆したものはなく;反対に、100℃で得られた結果は、むしろBZAがエポキシ樹脂を膨潤させるためのより良好な候補であるべきであったことを示唆したであろう。いかなる理論にも束縛されるものではないが、本出願人は、CRNの著しく高い膨潤能力は、BZAと比較した場合、そのより低い水素結合力(δH)に起因し得ると考えている。
【0167】
注目すべきことに、実施例E1のように、エポキシ樹脂のガラス転移温度を超えるCRNを有するエポキシ試験片を処理することにより、BZAの剥離に達することなく、適度に高いレベルの剥離を達成することも可能になった。それにもかかわらず、膨潤効果及び達成可能なレベルを含む全体的な分解の観点から、CRNは、CRNのDPI指数から明らかになったように、少なくともBZAとして実行する溶媒として予想外に適格であった。いかなる理論にも束縛されるものではないが、本出願人は、高い分散力(δP)とより低い水素結合力(δH)との適切な組合せのおかげで、CRNの高い全体的分解化性能が達成され得ると考えている。
【0168】
最後に、CRN/BZAの比較において、CRNは、低コストで広く利用可能な再生可能資源であるセルロースから合成することができるバイオ系溶媒であるという重要な利点を有し、これは明らかにBZAの場合ではない。
【0169】
最後に、PLC、CRNなどのいくつかの他の緑色溶媒と比較して、エポキシ樹脂のガラス転移温度を超える溶媒として使用した場合、優れた膨潤及び剥離能力の両方を示した。従来技術では、PLCよりもCRNのそのような優れた劣化性能を示唆するものはない。
【国際調査報告】