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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-21
(54)【発明の名称】官能化繊維の調製方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 10/02 20060101AFI20241114BHJP
   D04H 1/728 20120101ALI20241114BHJP
   D06M 16/00 20060101ALI20241114BHJP
   C07K 1/22 20060101ALN20241114BHJP
【FI】
D06M10/02 C
D04H1/728
D06M16/00 Z
C07K1/22
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024533049
(86)(22)【出願日】2022-12-02
(85)【翻訳文提出日】2024-08-02
(86)【国際出願番号】 US2022080784
(87)【国際公開番号】W WO2023102503
(87)【国際公開日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】63/285,364
(32)【優先日】2021-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/285,369
(32)【優先日】2021-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/285,373
(32)【優先日】2021-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520030844
【氏名又は名称】ディーディーピー スペシャルティ エレクトロニック マテリアルズ ユーエス リミテッド ライアビリティ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100228005
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 英之
(72)【発明者】
【氏名】トムリンソン イアン
(72)【発明者】
【氏名】フリスク サイモン
(72)【発明者】
【氏名】ディーツ マーティン
【テーマコード(参考)】
4H045
4L031
4L047
【Fターム(参考)】
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA57
4H045BA60
4H045BA62
4H045DA76
4H045EA60
4H045GA26
4L031AA12
4L031AA13
4L031AA18
4L031AA20
4L031BA39
4L031CB05
4L047AA19
4L047AA26
4L047AA29
4L047AB02
4L047AB08
4L047CB10
4L047CC16
4L047EA22
(57)【要約】
0.1~5μmの平均貫通細孔径及び40~90体積%の多孔度を有するナノウェブを官能化して、官能化ナノウェブを製造する方法が記載される。本方法は、ナノウェブを、大気圧プラズマ中でビニルモノマーに曝露し、次いで、他の分子を活性部位に結合することができる分子に曝露することを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.1~5μmの平均貫通細孔径及び40~90体積%の多孔度を有するナノウェブを官能化して、官能化ナノウェブを製造するための方法であって、前記方法が、
a)前記ナノウェブ及びビニルモノマーを大気プラズマに曝露して、被覆されたナノウェブを生成する工程と、
b)前記被覆されたナノウェブと、共有結合を形成することができる分子を含むエアロゾルとを、大気圧プラズマに暴露する工程と
を含む、方法。
【請求項2】
前記ナノウェブが非炭水化物ポリマーである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ナノウェブが、PVDF、ポリアミド、ポリエーテルスルホン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、又はポリイミドを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ビニルモノマーが、少なくとも1つのエポキシ基を含む、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記共有結合を形成することができる分子が、ヒドロキシル、アミン、又はチオール基の少なくとも1つを含む分子を含む、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記エアロゾルが、不揮発性緩衝液を含む、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記ビニルモノマーが、(i)エポキシアルコール、又は(ii)アセチレンアルコールの、エステル又はエーテルを含む、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記分子が、活性部位にタンパク質を結合することができる、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記分子が、少なくとも1つのタンパク質を含む、請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記タンパク質が、活性部位に他のタンパク質を結合することができる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
0.1~5μmの平均貫通細孔径及び40~90体積%の多孔度を有するナノウェブを官能化して、官能化ナノウェブを製造するための方法であって、前記方法が、
a)前記ナノウェブ及びビニルモノマーを大気プラズマに曝露して、被覆されたナノウェブを生成する工程と、
b)前記被覆されたナノウェブを、共有結合を形成することができる分子に曝露する工程と
を含む、方法。
【請求項12】
前記ナノウェブが非炭水化物ポリマーである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ナノウェブが、PVDF、ポリアミド、ポリエーテルスルホン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、又はポリイミドを含む、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
前記ビニルモノマーが、少なくとも1つのエポキシ基を含む、請求項11~13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記共有結合を形成することができる分子が、ヒドロキシル、アミン、又はチオール基の少なくとも1つを含む分子を含む、請求項11~14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記ビニルモノマーが、(i)エポキシアルコール、又は(ii)アセチレンアルコールの、エステル又はエーテルを含む、請求項11~15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
0.1~5μmの平均貫通細孔径及び40~90体積%の多孔度を有するナノウェブを官能化して、タンパク質を含む官能化ナノウェブを製造するための方法であって、前記方法が、
a)前記ナノウェブ、第一のビニルモノマー、及び第二のビニルモノマーを、大気圧プラズマに暴露して、被覆されたナノウェブを生成する工程と、
b)前記被覆されたナノウェブを、共有結合を形成することができる分子に曝露する工程と
を含む、方法。
【請求項18】
前記ナノウェブが非炭水化物ポリマーである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記ナノウェブが、PVDF、ポリアミド、ポリエーテルスルホン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、又はポリイミドを含む、請求項17又は18に記載の方法。
【請求項20】
前記第一のビニルモノマーが、少なくとも1つのエポキシ基を含む、請求項17~19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
少なくとも1つの親水性基を含む第二のビニルモノマーを更に含む、請求項17~20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
前記共有結合を形成することができる分子が、ヒドロキシル、アミン、又はチオール基の少なくとも1つを含む分子を含む、請求項17~21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
前記エアロゾルが不揮発性緩衝液を含む、請求項17~22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
前記第一のビニルモノマーが、(i)エポキシアルコール、又は(ii)アセチレンアルコールの、エステル又はエーテルを含む、請求項17~23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
前記分子が、少なくとも1つのタンパク質を含む、請求項17~24のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
前記タンパク質が、他のタンパク質を活性部位に結合することができる、請求項25に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、クロマトグラフィーに有用な官能化ナノウェブを製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生物製剤、特に、抗体由来の治療薬、例えば、モノクローナル抗体の製造中に、アフィニティ捕捉及び溶出精製工程が、頻繁に使用される。この工程は、最も典型的には、クロマトグラフィー支持体にコンジュゲートされたタンパク質リガンドによる、所望の治療薬の結合を含む。いくつかの支持体材料は、タンパク質リガンドを官能化支持体表面に結合させる前に、表面官能化を必要とする。繊維は、例えば、Z.Ma et al.,J.Chromatogr.B,877(2009)3686-3694に示すように、支持体材料として使用され、繊維は、空気プラズマに曝露し、次いで、メタクリル酸の液相に浸漬して反応させ、官能化繊維を製造する。別の工程では、液相反応において、タンパク質は、タンパク質上のアミノ基を介して、官能化繊維に結合される。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明は、0.1~5μmの平均貫通細孔径及び40~90体積%の多孔度を有する、ナノウェブを官能化して、官能化ナノウェブを製造する方法に関し、前記方法は、
a)前記ナノウェブ及びビニルモノマーを大気プラズマに曝露して、被覆されたナノウェブを生成する工程と、
b)前記被覆されたナノウェブと、共有結合を形成することができる分子、好ましくは、タンパク質を含むエアロゾルとを、大気プラズマに暴露する工程とを含む、方法である。
【0004】
本発明は更に、0.1~5μmの平均貫通細孔径及び40~90体積%の多孔度を有する、ナノウェブを官能化して、タンパク質を含む官能化ナノウェブを製造する方法に関し、前記方法は、
a)前記ナノウェブ及びビニルモノマーを大気プラズマに曝露して、被覆されたナノウェブを生成する工程と、
b)前記被覆されたナノウェブを、(i)他のタンパク質を活性部位に結合することができ、(ii)遊離チオール基を含むタンパク質に、曝露する工程と
を含む、方法である。
【発明を実施するための形態】
【0005】
特に明記されない限り、全ての百分率は、重量百分率(重量%)であり、そして全ての温度は、℃である。特に明記されない限り、平均は算術平均である。特に指定されない限り、全ての操作は、室温(18~25℃)で実施される。「(メタ)アクリレート」、「(メタ)アクリル」、及び「(メタ)アクリルアミド」という用語は、各々、アクリレート又はメタクリレート、アクリル又はメタクリル、及びアクリルアミド又はメタクリルアミド、(集合的に、「アクリルモノマー」)を意味する。アクリルポリマーは、(メタ)アクリル酸、アルキル、グリシジル若しくはヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、アルキル、グリシジル及び/若しくはヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド、又はそれらの組み合わせの、少なくとも50重量%の重合単位を含むポリマーである。炭水化物ポリマーは、糖分子の重合単位を含むポリマー、すなわち、多糖であり、エーテル基又はエステル基を介して官能化された多糖類は、この定義内にあると考えられる。
【0006】
ランダムに分布した繊維のウェブは、一般に、「不織布」と呼ばれる。繊維は、互いに結合されてもよく、又は結合されなくてもよく、好ましくは、結合されない。「ナノウェブ」は、少なくとも1つのナノファイバーを含む、不織布ウェブである。ナノウェブはまた、「ナノファイバーマット」と呼ばれてもよい。好ましくは、ナノウェブ中の繊維は「連続的」であり、すなわち、ウェブを形成するために、1つの連続的な流れの中で敷設される。繊維径は、SEM写真検査によって、決定することができる。好ましくは、繊維は、0.1~1μmの直径を有する。好ましくは、繊維の少なくとも95%は、繊維の長さに基づいて、記載された範囲の直径を有する。好ましくは、繊維の95%未満が記載された範囲の直径を有する場合、繊維径は、少なくとも50回の測定、好ましくは、少なくとも100回の測定の、算術平均である。
【0007】
好ましくは、ナノウェブは、少なくとも0.15μm、好ましくは、少なくとも0.2μm、好ましくは、少なくとも0.25μm、好ましくは、2μm以下、好ましくは、1μm以下、好ましくは、0.5μm以下の、平均貫通細孔径を有する。平均貫通細孔径は、材料ポロメトリー測定から計算された量であり、乾燥試料は様々な流量で空気流に供され、次いで、既知の表面張力の流体で湿潤され、空気流は、材料の最後に湿潤した細孔が空気で排出されるまで、一定に増加する流量で戻される。平均貫通細孔は、湿潤流曲線と交差する乾燥空気流曲線の、1/2勾配から決定される。繊維径と平均貫通細孔径との関係を、決定した。Simmondsらは、不織布の平均繊維径Dfiberから、平均貫通細孔径Dmean,poreを決定するために、以下の関係を提案した(Simmonds GE,Bomberger JD,Bryner MA.Designing nonwovens to meet pore size specifications.J Eng Fibers Fabrics.2007;2 (1),1-15参照)。
mean,pore=0.39267*Dfiber/(1-多孔度)
【0008】
好ましくは、ナノウェブは、40~90体積%、好ましくは、少なくとも50体積%、好ましくは、少なくとも60体積%、好ましくは、85体積%以下、好ましくは、80体積%以下、好ましくは、75体積%以下の、多孔度を有する。ナノファイバーマットを通る流体の流れは、高い多孔度によって促進され、細孔径が小さいと、基材の結合容量が改善すると考えられる。好ましくは、細孔径が、0.1~1ミクロンである場合、多孔度は、50~90体積%である。好ましくは、細孔径が、0.1~0.5ミクロンである場合、多孔度は、65から85体積%であり、多孔度は、以下の式から計算される:
多孔度=1-(繊維の質量(g/cm2))/(ナノファイバーマットの厚み(cm)×ポリマー密度(g/cm3))
【0009】
好ましくは、繊維は、合成ポリマー、好ましくは、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)、ポリ(フッ化ビニリデン-co-トリフルオロエチレン)などのPVDFのコポリマー、ポリアミド、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリイミド、又はそれらの組み合わせを含み、好ましくは、繊維は、PVDF、ポリエーテルスルホン、ナイロン、又はそれらの組み合わせを含む。好ましくは、PVDFポリマーは、100,000~2,000,000、好ましくは、200,000~500,000ダルトンの、数平均分子量を有する。好ましくは、ポリアミドは、5,000~40,000、好ましくは、10,000~20,000の、数平均分子量を有する。好ましくは、ポリエーテルスルホンは、20,000~80,000、好ましくは、40,000~60,000の、数平均分子量を有する。本発明の好ましい実施形態では、繊維は、PVDFを含み、好ましくは、繊維は、少なくとも50重量%、好ましくは、少なくとも80重量%、好ましくは、少なくとも90重量%、好ましくは、少なくとも95重量%のPVDFを含む。
【0010】
好ましくは、ビニルモノマーは、少なくとも1つのエポキシ基を含み、好ましくは、1~4個、好ましくは、1~2個、好ましくは、1個である。好ましくは、ビニルモノマーは、(i)エポキシアルコール、又は(ii)アセチレンアルコールの、エステル又はエーテルを含む。好ましくは、ビニルモノマーは、エポキシアルコール、好ましくは、グリシジルアルコール(例えば、ビニルグリシジルエーテル)のエーテルである。好ましくは、ビニルモノマーは、エポキシアルコールのエステルである。好ましくは、エステルは、(メタ)アクリレートエステルである。好ましくは、エポキシアルコールは、グリシジルアルコールである。好ましくは、ビニルモノマーは、グリシジルアルコールの(メタ)アクリレートエステル、好ましくは、グリシジル(メタ)アクリレートである。
【0011】
好ましい実施形態では、ナノウェブは、少なくとも1つのエポキシ基を含むビニルモノマーの導入前に、少なくとも1つの親水性基を含むビニルモノマーに、プラズマ中で曝露される。好ましくは、親水性基は、ヒドロキシル、カルボン酸、ポリエチレングリコール、メトキシポリエチレングリコールであり、好ましくは、ヒドロキシルである。好ましくは、ビニルモノマーは、エステルアルキル基上に親水性基を有する(メタ)アクリレートエステル、PEG(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、又は(メタ)アクリル酸であり、好ましくは、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、好ましくは、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、2-ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、4-ヒドロキシブチルメタクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、又はそれらの混合物であり、好ましくは、HEMA、又はHEAである。別の好ましい実施形態では、少なくとも1つの親水性基を含むビニルモノマーを、ビニルモノマー、及びナノウェブと同時に接触させる。
【0012】
共有結合を形成することができる分子には、求核基を含む分子が含まれ得るが、これらに限定されない。これらの求核基には、ヒドロキシル、アミン、又はチオール基が含まれ得るが、これらに限定されない。これらの基は、とりわけ、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、核酸、ポリ核酸、ウイルス、及び細胞に見出すことができる。好ましくは、共有結合を形成することができる分子は、タンパク質である。
【0013】
本発明の1つの好ましい実施形態では、繊維、ビニルモノマー、及びタンパク質は、同時にプラズマ環境中に存在する。本発明の別の好ましい実施形態では、最初に、繊維を、プラズマ中でビニルモノマーで官能化し、次いで、官能化繊維を、プラズマ中でタンパク質と接触させる。別の好ましい実施形態では、最初に、繊維を、プラズマ中でビニルモノマーで官能化し、次いで、官能化繊維を、水性媒体中でタンパク質と接触させる。
【0014】
好ましくは、タンパク質は、遊離システインチオール基、すなわち、ジスルフィド結合の一部ではないチオール基(-SH)を含み、前記タンパク質は、他のタンパク質を活性部位に結合することに関して、活性である。好ましくは、遊離システインチオール基を含むタンパク質は、タンパク質結合部位の完全性、すなわち、他のタンパク質を結合するためのタンパク質の活性を、維持するために必要とされない、タンパク質中のジスルフィド結合を開裂させることによって得られる。好ましくは、そのpHで還元されるタンパク質の安定性に応じて、1.5~9.0の間のpHで使用することができる、トリス(2-カルボキシエチルホスフィン)塩酸塩(TCEP.HCl)を使用して、ジスルフィドを還元する。還元のための典型的なpHは、非リン酸緩衝液、例えば、TRIS、HEPES、ホウ酸塩を使用して、pH3~pH8である。TCEPの1つの利点は、それがチオール基を含有せず、したがって、タンパク質の遊離スルフヒドリルを、ナノファイバー上のエポキシド基と反応させる前に、除去を必要としないことである。更なる還元剤には、ジチオスレイトール(DTT)、メルカプトエタノール(ME)、2-メルカプトエチルアミン塩酸塩(2-MEA.HCl)が含まれ、これらは全て、典型的には、中性pH付近で利用される。これらの3つの試薬は、全て遊離チオール基を含み、タンパク質をナノファイバーと反応させ、タンパク質のコンジュゲーション中の競合反応を低減する前に、濾過によってタンパク質から除去することができる。システイン-システインジスルフィド結合は、多くの場合、タンパク質構造を維持する方法として、タンパク質中に見出され、これらのジスルフィド結合の開裂は、タンパク質の変性をもたらし得る。βシート、ヘリックスバンドル、及びヘアピン構造などの他の構造的特徴は、ジスルフィド結合を使用せずに、タンパク質の立体配座を維持することができる。好ましくは、他のタンパク質又は有用な生物学的治療分子の、親和性結合に有用なタンパク質は、組換えにより生成する、又は天然源から単離される。好ましくは、タンパク質は、得られるタンパク質の立体配置安定性に関与しないジスルフィド結合を含むように、組換え生成されたものであり、このタイプの好ましいタンパク質には、プロテインA、プロテインA/G、及びプロテインGが含まれる。他の好ましいタンパク質には、抗体(モノクローナル及びポリクローナル)、組換えにより、又はインタクトな抗体から断片を開裂するための酵素処理後に、生成することができる、認識断片F(ab’)及びF(ab’)2が含まれる(Rosenstein et.al.,Curr Protoc Mol Biol.2020 Jun; 131(1):e119.doi:10.1002/cpmb.119)。好ましくは、F(ab’)2で還元されるジスルフィド結合は、タンパク質の結合部位の遠位にあり、他のタンパク質に結合する能力を失うことなく、開裂して個々の断片を形成することができ、これはおそらく、タンパク質の立体配置を維持するのを補助するジスルフィド結合が、タンパク質の立体配置を維持し、これらのジスルフィドを還元から保護する、β-シートなどのβ-二次構造内で生じるためである。好ましくは、タンパク質は、5~50mMの濃度で、水溶液中に存在する。好ましくは、溶液のpHは、8~9.5、好ましくは、8.5~9.3、好ましくは、8.7~9.1であり、タンパク質の分子量は、150,000ダルトン以下、好ましくは、100,000ダルトン以下、好ましくは、75,000ダルトン以下である。
【0015】
好ましくは、液体エアロゾルとして注入された官能化モノマー及びタンパク質を、ナノファイバー基材に結合させるために、誘電体バリア放電大気圧プラズマプロセスが使用される。誘電体バリア放電プラズマプロセスは、好ましくは、均質なグロー放電プロセスである。大気圧の注入ガスから空間的に均一な低温電子を生成するための、均質なグロー放電プラズマプロセスが、当技術分野で知られている。イオンは、注入されたモノマーと衝突し、基材堆積前に、エアロゾル中で自己重合し得る、イオン化種を生成する。プラズマ生成に適した好ましいガスには、二酸化炭素、窒素、アルゴン、及び/又はヘリウムが含まれる。プラズマ形態のガス、及び注入されたモノマーエアロゾルの流れは、画定された断面積を有するノズルを通過する。好ましくは、不織布ロール物品を処理するために、ノズルは、電極間ギャップ、及び不織布の幅よりも大きい幅を有する、矩形形状である。電極間ギャップは、好ましくは、0.5~10mm、好ましくは、0.8~2mmである。以下の実施例で用いたノズルの断面積は、40cmのノズル幅で、5cm2である。好ましくは、ガス流量は、2~150slm/cm2の範囲であり、slmは、毎分標準リットルの単位であり、ガス体積の標準条件は、温度0℃及び圧力1atm(101kPa)で、好ましくは、60~100slm/cm2である。プラズマヘッドを通過するガス流量は、プラズマヘッドサイズ、及びモノマーで被覆される基材の幅、並びにガスの環境温度及び圧力に依存する。注入されるモノマー流量は、基材の面積当たりに結合するモノマーの量に依存する。モノマーの高い注入速度は、基板上に堆積する前に自己重合をもたらし得る。好ましくは、エアロゾル化モノマーの注入速度は、0.2slm/cm2~5slm/cm2の範囲である。モノマーの希釈は、液体溶液混合の手段、固体モノマーの水又は適切な溶媒への溶解又は懸濁による、及び液体モノマーの純粋な化合物、懸濁液、又は溶媒混合物への、より大きなガス流の導入による、一方又は両方の手段によって達成され得る。好ましい希釈比(溶媒又は担体対モノマー)は、2:1~50:1、好ましくは、3:1~20:1の範囲である。好ましくは、交流電力が供給される被覆電極は、0.9~1.1atm(91~111kPa)の大気圧で、狭いギャップを介してプラズマを生成する。好ましくは、プラズマ源電圧は、1~100kVの範囲であり、好ましくは、5~30kVの範囲である。好ましくは、初期活性化及びモノマーとの反応のための供給電力は、2~300W/cm2、好ましくは、20~200W/cm2、好ましくは、30~160W/cm2の範囲である。好ましくは、タンパク質の存在下での供給電力は、1~100W/cm2、好ましくは、2~40W/cm2、好ましくは、3~20W/cm2の範囲である。好ましくは、基材とプラズマヘッドとの間の距離は、1~10mm、好ましくは、2~5mmである。好ましくは、基材は、モノマーなしの大気圧プラズマプロセスにおいて、二酸化炭素、窒素、アルゴン、及び/又はヘリウムを使用して、前処理される。
【実施例
【0016】
実施例として使用し、表Iに示す、非炭水化物系ポリマーからの不織布ウェブを、https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.chemrev.8b00593に記載されるものと同様のエレクトロスピニングプロセスによって、調製した。同様の非炭水化物ウェブは、米国特許第7,618,579号明細書に記載されている、エレクトロブロープロセスによって、製造することができる。次いで、これらの不織布ウェブを、米国特許第8697587B2号明細書に記載されているように、圧密化されていてもよい。紡糸及び圧密化プロセスは、得られたウェブの多孔度が、35%~95%の間の範囲となり、平均貫通細孔径が、0.1μm~5μmの間となるように調整した。
【0017】
【表1】
【0018】
例示的な不織布基材をプラズマによって前処理し、次いで、官能化剤(「薬剤」)及びプロセス条件を使用して、プラズマ被覆プロセス(例えば、米国特許第8,663,751号明細書、米国特許第9,890,260号明細書、及び米国特許第9,938,388号明細書を参照)によって処理すると、様々な量の薬剤が、プラズマに注入され、基材に施用された。例示的不織布上へのエポキシド又はメタクリル堆積のための、プラズマプロセス条件を、ビニル官能化実施例番号1及び2として、表IIに示す。各ナノファイバー不織布ウェブは、プラズマ処理装置を通る活性化パスに供され、ウェブの上面及び底面は、80slm/cm2及び8slm/cm2の流量、並びに300W/m2の出力レベルで、CO2及びN2のプラズマに曝露される。活性化されたナノファイバーウェブは、80slm/cm2の流量で、N2プラズマを通過する。電極と基材との間の距離は、2mmであった。
【0019】
【表2】
【0020】
官能化実施例1
加水分解した組換えプロテインAを解凍し、溶液1mL当たり11mgのプロテインAの濃度で、脱イオン水を含むネブライザーバイアルに溶解した。溶液をエアロゾル化し、GMAとともにアルゴンプラズマに同時注入する前に、還元反応は行わなかった。タンパク質プラズマを、表IIのビニル官能化実施例1の、移動基材に向けた。プラズマプロセス条件は、60slm/cm2のArでのArとN2ガスの3:1ブレンド、2mmの基板から電極までの距離、40W/cm2のプラズマへの印加電力、及び50:50体積比のプロテインA溶液とGMAの同時注入を用いた、大気圧プラズマプロセスを使用した。溶液を、2slm/cm2の総エアロゾル流量で、3:1の体積比で、追加のArガスで希釈した。プロテインAを有する得られたタンパク質官能化ナノファイバー基材を、飽和結合容量について、そのまま試験した。
【0021】
官能化実施例2
加水分解した組換えプロテインAを解凍し、溶液1mL当たり11mgのプロテインAの濃度で、脱イオン水を含むバイアルに溶解した。溶液をエアロゾル化し、GMAとともにアルゴンプラズマに同時注入する前に、還元反応を行った。プロテインA二量体中のジスルフィド結合に対する還元は、TCEP-HCl(トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩)を使用して、水溶液中で、5~50mMの濃度で、pH6~8で行った[Thermo Fisher Application Notes、https://www.thermofisher.com/us/en/home/references/molecular-probes-the-handbook/thiol-reactive-probes/introduction-to-thiol-modification-and-detection.html参照]。Sephadexカラムを用いて過剰のTCEPを溶液から濾過し、続いて、脱イオン水で溶出した。3M炭酸アンモニウム(AC)を用いて濾過した溶液のpHを調整し、pH9.5になるまで、各1.5mLの濾過した還元プロテインA溶液に0.5mLのACを添加した。pH調整タンパク質プラズマを、表IIのビニル官能化実施例1の、移動基材に向けた。プラズマプロセス条件は、60slm/cm2のArでのArとN2ガスの3:1ブレンド、2mmの基板から電極までの距離、40W/cm2のプラズマへの印加電力、及び50:50体積比のプロテインA溶液とGMAの同時注入を用いた、大気圧プラズマプロセスを使用した。溶液を、2slm/cm2の総エアロゾル流量で、3:1の体積比で、追加のArガスで希釈した。プロテインAを有する得られたタンパク質官能化ナノファイバー基材を、飽和結合容量について、そのまま試験した。
【0022】
官能化実施例3
脱イオン水中の組換えプロテインAの20mg/mL溶液を、50mLバイアル中で調製した。0.5MのTCEPを添加して、ジスルフィド結合を還元し、室温で10分間インキュベートした。反応混合物をSephadexカラムに通して濾過し、103当量のGMAと反応させた後、1Mギ酸アンモニウムで処理した。得られたGMA修飾組換えプロテインA溶液を再び濾過し、次いで、ビニル官能化実施例2に対する官能化実施例2と同じ条件で、HEMAとのコエアロゾルとして、40W/cm2で、Ar/N2大気圧プラズマに注入した。プロテインAを有する得られたタンパク質官能化ナノファイバー基材を、飽和結合容量について、そのまま試験した。
【0023】
官能化実施例4
官能化実施例3で調製したのと同一のGMA修飾溶液を、官能化実施例2と同一のプラズマプロセスで、ビニル官能化実施例2に導入するが、エアロゾルの希釈は7:1に増加させる。プロテインAを有する得られたタンパク質官能化ナノファイバー基材を、飽和結合容量について、そのまま試験した。
【0024】
官能化実施例5
表IIのビニル官能化実施例1は、溶液中で、組換えプロテインA上の反応性システインとコンジュゲートされる。この反応は、TCEP-HCl(トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩)を使用して、プロテインA二量体中のジスルフィド結合を、水溶液中で、5~50mMの濃度で、pH6~8で、最初に還元することを含む[Thermo Fisher出願ノート、https://www.thermofisher.com/us/en/home/references/molecular-probes-the-handbook/thiol-reactive-probes/introduction-to-thiol-modification-and-detection.html参照]。次いで、遊離反応性チオールを有するプロテインAを、塩析緩衝液、例えば、硫酸ナトリウムの存在下で、浸漬したエポキシ活性化ナノファイバーマットと反応させて、繊維の表面上のプロテインAのコーティングを増加させ、その結果、繊維の表面でのプロテインAの局所濃度を増加させ、ナノファイバーマットにコンジュゲートされたプロテインAの量を増加させる[Thermo Fisher出願ノート、https://www.thermofisher.com参照]。
【0025】
比較例1
ビニル官能化実施例2を、飽和結合容量についてはそのまま、すなわち、プラズマ又は溶液ベースのプロテインAとのコンジュゲーションなしで試験する。
飽和結合容量SBCは、膜の直径2.5cmの円板をSwinnexフィルタホルダに入れ、AKTA Pure(商標)を使用して、ヒトIgG(0.2mg/mL)のPBS緩衝液(pH7.4)中10mL溶液を、膜を通して0.5ml/分で溶出することによって、測定することができる。次いで、フィルタを約10床体積のPBS緩衝液で洗浄し、次いで、ヒトIgGを5床体積の緩衝液(例えば、pH3の0.1Mグリシン)で膜から溶出し、変性を回避するために約pH7に迅速に中和し、濃度を、以下の式を使用して、又は溶出曲線の積分によって、分光光度法で測定し、検量線と比較する(例えば、Hahn et.al.Journal of Chromatography A.2005,1093,98)。
【0026】
タンパク質濃度
タンパク質濃度(mg/ml):吸光度×希釈×(分子量/モル吸光係数)
官能化ナノファイバー表面の飽和結合容量測定の結果を、表IIIに示し、大気プラズマ又は溶液ベースのプロセスでプロテインAに曝露した場合の、全構造体の結合能力の性能向上を示す。
【0027】
【表3】
【0028】
官能化実施例6
実施例1のビニル官能化ナノウェブを、マサチューセッツ州ウォルサムのRepligen Corporationによって供給される、プロテインAとコンジュゲートさせた。このタイプのプロテインAは、アミン基を介して、ビニル官能化ナノウェブに結合する。表IVの結果によって実証されたように、プロテインA官能化ナノウェブへのIgGの結合によって、コンジュゲーションの成功が実証された。容量試験は、比較例1の後の段落で上述したように行った。
【0029】
【表4】
【国際調査報告】