(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-21
(54)【発明の名称】リサイクル廃原料由来の再生セルロースヤーンの製造方法
(51)【国際特許分類】
D06M 11/00 20060101AFI20241114BHJP
D01F 2/00 20060101ALI20241114BHJP
D06M 16/00 20060101ALI20241114BHJP
C08J 11/02 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
D06M11/00 130
D01F2/00 Z
D06M16/00 A
C08J11/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024533224
(86)(22)【出願日】2022-12-01
(85)【翻訳文提出日】2024-07-29
(86)【国際出願番号】 EP2022084070
(87)【国際公開番号】W WO2023104635
(87)【国際公開日】2023-06-15
(32)【優先日】2021-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518432115
【氏名又は名称】ハイキュ マテリアルズ アーゲー
(71)【出願人】
【識別番号】524209752
【氏名又は名称】テクニクム ラオプホルツ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハイト,マレー
(72)【発明者】
【氏名】エレロ アチェロ,エンリケ
(72)【発明者】
【氏名】ピエレス,ウーヴェ
【テーマコード(参考)】
4F401
4L031
4L035
【Fターム(参考)】
4F401AA02
4F401AB07
4F401BA13
4F401CA54
4F401EA80
4F401FA01Z
4L031AA02
4L031AB01
4L031AB21
4L031AB31
4L031CA02
4L031DA00
4L035AA04
4L035BB04
4L035BB07
4L035GG00
4L035HH10
(57)【要約】
リサイクルセルロース材料からセルロースヤーンを製造する方法であって、該方法は、(a)リサイクルセルロース材料を、溶融イオン液体に溶解させる工程;(b)溶融イオン液体中に溶解若しくは分散した活性物質、又は、溶融イオン液体中でその場で生成した活性物質が、リサイクルセルロース材料中に最初に含まれ、かつ、リサイクルセルロース材料の溶解により溶融イオン液体中に含まれる非セルロース材料を分解する作用を示すように条件を適合させる工程を含み、活性物質は、(a)の間に既に存在することができ、又は、(a)の後で(b)の前若しくは(b)の間に添加することができる、方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リサイクルセルロース材料からセルロースヤーンを製造する方法であって、前記方法は、以下の工程:
(a)リサイクルセルロース材料を、少なくとも溶融イオン液体を含む溶液に溶解させる工程;
(b)前記溶融イオン液体を含む溶液中に溶解若しくは分散した活性物質、又は、前記溶融イオン液体を含む溶液中でその場で生成した活性物質が、前記リサイクルセルロース材料中に最初に含まれ、かつ、前記リサイクルセルロース材料の前記溶解により前記溶融イオン液体を含む溶液中に含まれる、非セルロース材料を分解する作用を示すように条件を適合させる工程を含み、前記活性物質は、(a)の間に既に存在することができ、又は、(a)の後で(b)の前又は(b)の間に添加することができる、方法。
【請求項2】
前記リサイクルセルロース材料が、セルロース廃棄物、リサイクルヤーン、リサイクル布地、リサイクル薄織物、リサイクル衣類、その他のセルロース含有廃棄物ストリームの少なくとも1つから選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記非セルロース材料が、染料、脂肪、その他の有機不純物、例えば、油、ワックス、及び洗剤、並びにそれらの残渣、無機物質、例えば、砂、クレー、水溶性及び非水溶性顔料の少なくとも1つから選択される、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
工程(a)の後で工程(b)の前又は後に、前記リサイクルセルロース材料又は吸収剤の前記溶解により溶解していない又は非溶解性の不純物を分離する工程(c)が存在し、好ましくはこの工程は、濾過、デカンテーション、遠心分離、ふるい分けの少なくとも1つを含む、請求項1~3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記イオン液体を含む溶液が、プロトン性液体、好ましくは水を、好ましくは2%を超える、又は4%を超える、又は5重量%を超える量で含む、請求項1~4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記活性物質が、吸収剤、開裂剤、例えば、生物学的開裂剤、物理的開裂剤及び化学的開裂剤の群から選択され、吸収剤は好ましくは、染料、脂肪不純物、その他の有機不純物の少なくとも1つを吸着する物質の群から選択され、開裂剤は好ましくは、直接開裂剤又は活性化可能な開裂剤、好ましくは電磁線の照射によって活性化される開裂剤の群から選択され、前記開裂剤は、酵素系、例えば、プロテアーゼ、アミラーゼ、ラッカーゼ、オキシドレダクターゼ及びリパーゼ、オゾン、過酸化物、光触媒、並びにそれらの組み合わせの群から選択することができる、請求項1~5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
セルロースポリマーの分子量を低下させる系であって、好ましくは、酵素系、例えば、セルラーゼ若しくはヘミセルラーゼ若しくはセルロースオキシダーゼ、特にエキソグルカナーゼ及び/又はエンドグルカナーゼ、又は電磁線の照射によって活性化される開裂剤、又は強塩基、又はそれらの組み合わせの群から選択されるものが、前記イオン液体を含む溶液に最初から含まれているか、又は、工程(b)の後若しくは存在する場合には(c)の後に補充される、請求項1~6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
工程(b)において、温度を40~120℃の範囲まで上昇させ、好ましくは0.5~24時間の範囲の期間にわたってこの温度で保持する、請求項1~7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
工程(b)の後、又は工程(c)の後に、前記イオン液体を含む溶液に溶解した前記セルロースから前記セルロースヤーンを直接紡績する、請求項1~8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記溶融イオン液体は、1種のプロトン性溶媒又は複数のプロトン性溶媒の混合物を含み、前記プロトン性溶媒が水のみの場合には、前記水は、前記溶液系中に好ましくは5重量%を超える量で存在し、前記溶融イオン液体に溶解したセルロースを凝固媒体中で沈殿させ、ここで、前記凝固媒体は、前記セルロースを溶解させない、前記溶融イオン液体と混和性である溶媒を含み、前記溶融イオン液体は好ましくは、少なくとも1つの5員ないし6員複素環を含む化合物から形成されるカチオンと、プロトン性溶媒とを含み、前記方法は、前記セルロースを溶解させない、前記溶融イオン液体と混和性である溶媒を含む凝固媒体中で、溶解したセルロースを炭水化物の形態で沈殿させることを含む、請求項1~9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記プロトン性溶媒が、
1)前記溶液系中に少なくとも5又は6重量%の量で存在する、唯一のプロトン性溶媒としての水、
2)前記溶液系に対して少なくとも0.1重量%の、アルコール、カルボン酸又はアミン、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール及び1-ブタノール及びアミルアルコール並びに直鎖及び分岐アルコール並びに高級直鎖及び分岐アルコールからなる群から選択される少なくとも1種のプロトン性溶媒;及び
3)水、並びにメタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール及び1-ブタノールからなる群から選択される少なくとも1種のプロトン性溶媒
からなる群から選択される、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記溶融イオン液体が、プロトン性溶媒又はその混合物を含み、前記方法は、凝固媒体中でセルロースを沈殿させることを含み、1種のプロトン性凝固剤又はプロトン性凝固剤の混合物は、前記凝固媒体中に存在し、前記1種のプロトン性凝固剤又はプロトン性凝固剤の混合物の表面張力σは、水の表面張力σの99%~30%であり、各表面張力は、ASTM D 1590-60に準拠して50℃の温度で測定される、請求項1~11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
前記プロトン性凝固剤が、1-ヘキサノール、1-ヘプタノール、1-オクタノール、1-ノナノール、1-デカノール、1-ウンデカノール、1-ドデカノール、1-トリデカノール、1-テトラデカノール、2-エチル-1-ヘキサノール、1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2,3-プロパントリオール、2,2-ジメチル-1,5-プロパンジオール、シクロヘキサノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール及びそれらの混合物から選択され、さらに好ましくは、前記凝固媒体は、5%を超えるカルボン酸を含まない、請求項10~12のいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項記載の方法を用いて製造された、セルロースヤーン。
【請求項15】
テキスタイル、特に衣類の製造のための、好ましくは直接的にテキスタイルプロセス、例えば、かさ高加工;撚糸;カバードヤード;編成;製織;シームレス;他のヤーン、例えば、木綿、ナイロン、ポリエステル、ポリプロピレン、セルロース系、ウール、シルク、ポリウレタンとの丸編み;経編み;ビーミング処理;短繊維;不織布における、請求項12記載のセルロースヤーンの使用であって、前記テキスタイルは好ましくは、デニム;靴下類;インナー;スポーツウェア;ファッション;靴;縫糸;椅子張り;家庭用テキスタイル;工業用テキスタイルの群から選択される、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン液体への溶解と、活性物質の添加によるセルロースポリマーの分解及び着色除去及び/又は分子量分布の変更とに基づく、セルロース含有リサイクル材料のコンディショニング方法に関する。本方法により、リサイクル材料を直接処理し、次いで紡績して繊維を得ることができる。本方法は、広範なポストコンシューマー及びポストインダストリアルリサイクル物品を、再生セルロース繊維の製造への再利用に向けて処理できる点で有利である。
【背景技術】
【0002】
テキスタイル分野でのリサイクルの重要性はますます高まっているが、その実施及び影響は、その究極の可能性にはまだほど遠い。実際、リサイクルされたテキスタイルの大半は、再び同じレベルまでリサイクルされることはなく、リサイクル後に低レベルの用途で、例えば建築資材(断熱材)などとして使用されている。リサイクルされた材料を可能な限り高いレベルで、理想的にはリサイクル原料として使用されたものと同種のテキスタイルの製造に向けて再利用できるようにテキスタイルのリサイクルを可能にする循環的な方法を提供する必要がある。
【0003】
再生セルロースヤーンの持続可能性プロファイルは、リサイクルセルロース原料に基づくセルロース源の使用によりさらに改善することができる。例えば、木綿、ビスコース、リヨセル、その他の形態のセルロースを含む物品のようなポストインダストリアル布地やポストコンシューマー衣料品が挙げられる。付加的なセルロース含有ストリーム(例えば、農業廃棄物、パルプ、細菌由来セルロース、藻類由来セルロースなど)もセルロース源として使用できる。
【0004】
ポストコンシューマー物品を使用する際の主な課題は、以下のとおりである:
・衣料品には染料が使用されているため、色が多岐にわたること;
・物品の使用時に、脂肪、油、鉱物系物質のような不純物が取り込まれること;
・物品中に非セルロース成分が存在すること(例えば、合成ブレンド成分、縫製ヤーン、表面処理剤、ジッパー、ボタンなど)。
【0005】
上記の課題に対処するための従来の処理技術では、精練工程や漂白工程が集中的に行われ、これらの工程では、清浄で無着色のセルロースを提供するために水及びエネルギーが大量に消費される。
【0006】
セルロース以外の成分を除去する従来のアプローチでは、マクロなものについては機械的に分解し、各種繊維成分については選択的に溶解させている。
【0007】
特許文献1は、炭水化物の形態の再生バイオポリマーの製造方法であって、中に溶解したバイオポリマーを含む溶媒系を使用する方法に関する。溶媒系は、溶融イオン液体と、任意にプロトン性溶媒又はそれらの混合物とをベースとする。溶媒系に溶解したバイオポリマーを凝固媒体中で沈殿させ、ここで、この媒体は、プロトン性凝固剤又はプロトン性凝固剤の混合物を含む。該発明による方法は、凝固剤又は凝固剤の混合物の表面張力σが水の表面張力σの99%~30%であることを特徴とし、表面張力は、ASTM D 1590-60に準拠して50℃の温度で測定される。該発明による方法は、経済的でフレキシブルであり、特に短繊維の形態の有利な生成物をもたらし、該短繊維は特に、フィブリル化せず、有利な湿潤・乾燥強度比を有する。
【0008】
特許文献2には、イオン液体を用いた廃テキスタイルの回収方法が開示されている。この方法は、以下の工程を含む:1)廃テキスタイルの前処理:廃テキスタイルを粉砕して、前処理された廃テキスタイルを得る;2)水膨潤及びイオン液体への溶解:前処理された廃テキスタイル、イオン液体及び水を真空条件下で混合及び撹拌し、セルロース含有液体を得る。廃テキスタイルを前処理し、水中で膨潤させた後、溶解過程は均一で穏やかであり、溶解効率は高く、効果は良好であり、廃テキスタイルから不溶物が完全に分離される。溶解により得られたセルロース溶液を使用して、優れた性能を有する再生セルロース原料を製造することができ、分離により得られたポリエステルは、リサイクルされるポリエステル原料としての役割を果たすことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第8841441号明細書
【特許文献2】中国特許出願公開第106146877号明細書
【発明の概要】
【0010】
イオン液体(IL)を用いて製造された再生セルロースヤーンは、ポリエステルやポリアミドなどの合成ポリマーから製造された繊維と比較して、魅力的な繊維特性及びより優れた持続可能性プロファイル(例えば、地球温暖化係数の低減、エネルギー使用量の低減、生分解性)を提供することができる。
【0011】
リサイクルのための上記の重要な課題に取り組む従来のアプローチでは、イオン液体セルロースドープの製造及び後続の繊維紡績の前に、及びそれとは別個に、個別の処理工程が必要となる。
【0012】
本明細書に示すアプローチは、イオン液体を含む媒体中でリサイクルセルロース含有物品を直接処理する手段を提供し、以下を達成する:
・リサイクルセルロース含有物品の直接的な溶解による、後続の繊維紡績用のドープの製造;
・溶解がまず、合成繊維や鉱物系物質などの非水溶性成分を分離除去する役割を果たす;
・イオン液体中に分散した(又はその場で生成した)活性物質が、セルロースに付随する多様な染料を分解し、さらには脂肪やその他の有機不純物を分解する役割を果たす;
・(不活性の無機)吸収剤をIL中に均質に分散させて、不純物、例えば染料やその他の不要成分を特異的に吸収することができる。負荷済みの吸着剤を、濾過によりセルロース-IL溶液から除去し、適切な再生プロセス後に再利用することができる。
【0013】
活性物質は、セルロースポリマー鎖の分子量を低下させて後続の繊維紡績を支援するように選択することもできる。分子量の低下は、ILへのオゾンや他の活性ガスの導入、短波長放射線、例えばUV光への曝露、又は触媒の存在下での光触媒作用により達成することができる。
【0014】
イオン液体中でのセルロース材料の溶解後、活性試薬(例えば、過酸化水素及び/又は酵素及び/又は触媒塩)を添加し、混合物を撹拌しながら40~120℃の温度に加熱し、0.5~24時間にわたってその温度で保持して所望の脱色を達成する。その後、得られた溶液を加熱/冷却して所望の目標温度を達成してから、これを繊維紡績プロセスに直接使用することができる。
【0015】
提案された方法の主な利点は、以下のとおりである:
1.多様な染料が直接的に分解され、及び/又は後続の繊維紡績に直接使用可能なイオン液体処理媒体中で特定の吸収剤により除去されること。広範なリサイクル源を無着色の新たなヤーンの製造に使用できること。
【0016】
2.通常であればヤーンの品質に影響を与えるであろう脂肪、油、その他の有機不純物が分解されること。
【0017】
3.セルロースが選択的に溶解され、不溶性成分(例えば、合成ポリマー成分、鉱物系物質)が分離されること。
【0018】
4.後続の繊維紡績に使用されるイオン液体媒体内で直接処理を行うことにより、通常であれば水やエネルギーが大量に使用されるであろう従来の集中的な前処理工程が回避され、リサイクル経路の持続可能性プロファイルがさらに向上すること。その結果得られる処理経路では、必要な処理工程が少なくなり、セルロース系成分を含むリサイクル廃材料をより直接的に利用することができる。
【0019】
5.国際公開第2007076979号及び国際公開第2009062723号(該文献の開示内容は、本明細書に援用される)に記載されているイオン液体及び繊維紡績プロセスの使用は、水を含むプロトン性成分の有意な存在を許容するイオン液体を用いて有利な再生セルロース繊維を得るための基礎を提供するものである。このプロセスは有利には、後続の繊維紡績の性能に影響を与えることなくその場での脱色及び不純物分解/吸収作用を提供する前処理活性物質を可能にする。この前処理は、含水量の許容度が低いイオン液体系や繊維紡績プロセスでは実現不可能であろう。
【0020】
6.セルロースの重合度(DP)の調整に現在使用されている化学量論的化学物質(例えば、NaOH)ではなく、触媒化学物質(酵素、オゾン、短波長放射線)を使用し、漂白する物質に直接近接してH2O2をその場で発生させることで、バルク相での供給に比べて必要なH2O2の量が減少し、必要な化学薬品が少なくて済む。
【0021】
本発明の重要な特徴の1つは、イオン液体を、例えば、優れた繊維特性を達成すると同時に、水やその他のプロトン性溶媒のレベルを、適切な繊維紡績、ひいては繊維特性に悪影響を及ぼすレベルまで上昇させない触媒成分の導入も可能にしながら、セルロースの溶解や紡績に一定量まで水や他のプロトン性溶媒を許容し得る活性物質の溶解や分散にも使用できることが驚くべきことに見出されたことである。
【0022】
染料及び有機不純物の分解/吸収は、以下のように可能である:
・セルロース成分の溶解に使用されるイオン液体媒体内で、リサイクルセルロースに付随する染料を直接漂白/脱色する。
【0023】
・考えられるアプローチは、以下のとおりである:
有機・無機吸収剤を添加し、不純物の吸収後に濾過により除去し、リサイクルプロセスに供することができる;
過酸化水素又はオゾンをセルロースのイオン液体溶液に添加するか、又は短波長光に曝露するか、又は光触媒作用を生じさせる;
セルロースのイオン液体溶液に酵素を添加することで、過酸化水素のような漂白活性物質をその場で生成する(例えば、H2O2を局所的に生成するセロビオースデヒドロゲナーゼがあるが、ペルオキシダーゼもH2O2を取り込み、漂白可能なラジカルを生成することができる);
例えばラッカーゼなどの酵素を添加して、不純物を脱色及び破壊する。
【0024】
・いずれの場合も、過酸化水素は、残留水(イオン液体プロセスは、残留水の存在を許容する)、酸素及び無着色の残留分解副生成物に分解される。残留副生成物は任意に、分解せずに直接除去することも、イオン液体処理媒体と接触して分解した後に吸着材の使用により除去することもできる。
【0025】
セルロースの分子量の低下は有利であり、以下のように可能である:
・セルロースポリマーの分子量は、繊維紡績性能に、また得られるヤーンの機械的特性にも、直接的な影響を与える;
・(例えば、木綿を多く含む衣料品のような)リサイクルセルロース原料の中には、繊維紡績性能及び繊維特性の向上を可能にするために、セルロースの分子量分布を小さくすることが有利なものもある;
・分子量の低下は、過酸化水素単独の作用によって及び/又はセルロースポリマーを切断して平均分子量を低下させるために選択された他の成分、例えばオゾン、UV光若しくは光触媒の添加によって起こり得る;
・このような添加剤には、酵素及び/又は塩が含まれ得る。イオン液体媒体中のこのような添加剤の作用は、国際公開第2007076979号及び国際公開第2009062723号(該文献の開示内容は、本明細書に援用される)の特徴であるイオン液体中の水の存在によって促進される。
【0026】
染料を脱色するための酵素(例えば、ラッカーゼ)の使用は、洗剤及び洗濯処理において確立された技術である。例えば酵素のような活性物質を、イオン液体処理媒体中での脱色効果の達成に使用することは、本発明の新規の特徴である。
【0027】
リグノセルロース系原料の酸化的転化のためのイオン液体中での過酸化水素の使用は、米国特許第10724060号明細書に記載されているが、該特許には、過酸化水素の作用がリグニンの分解を対象としていることが教示されており、リサイクルセルロース材料に付随する染料などの着色成分の分解への対処はなされていない。米国特許第10724060号明細書にも、セルラーゼ及び/又はヘミセルラーゼの使用について言及されているが、酵素成分は特に、セルロースポリマーの特性を保持しながら分子量を低下させるのではなく、バイオマスをセルロースから糖成分に転化させるために選択されている。米国特許第10724060号明細書では、イオン液体を添加する後続のプロセス工程の前に、水性媒体中で酸化物質と酵素物質とを接触させることに留意することが重要である。
【0028】
国際公開第2016087186号及び米国特許第8445704号明細書には、多糖類の化学修飾及び転化のための処理媒体としてのイオン液体の使用が記載されているが、過酸化水素/オゾン、短波長放射線、光触媒作用及び/又は酵素を使用することによる色や不純物への対処及びセルロース分子量への対処は行われていない。
【0029】
米国特許第11168196号明細書には、混合セルロース/ポリエステル廃棄物の分離を促進するアプローチが記載されているが、セルロース成分の溶解に使用されるイオン液体中での色、不純物及び/又は分子量への積極的な対処に関する規定はない。
【0030】
より全般的に言えば、本発明は、リサイクルセルロース材料からセルロースヤーンを製造する方法であって、該方法は、以下の工程:
(a)リサイクルセルロース材料を、少なくとも溶融イオン液体を含む溶液に溶解させる工程;
(b)溶融イオン液体中に溶解若しくは分散した活性物質、又は溶融イオン液体中でその場で生成した活性物質が、リサイクルセルロース材料中に最初に含まれ、リサイクルセルロース材料の溶解により溶融イオン液体中に含まれる非セルロース材料を分解する作用を示すように条件を適合させる工程を含み、活性物質は、(a)の間に既に存在することができ、又は、(a)の後で(b)の前又は(b)の間に添加することができる、方法に関する。
【0031】
工程(b)による条件の適合は、例えば、溶媒組成の変更、前記活性物質の添加(単独又は担体溶媒中)、前記活性物質の活性化、温度、pHの変更、圧力の変更、例えば照射による活性化エネルギーの導入、又はそのような適合の組み合わせなど、様々な方法で実施することができる。
【0032】
(b)の文脈における活性物質という用語には、リサイクルセルロース材料中に最初に含まれる非セルロース材料を分解する機能を果たすのに適切な適合した物質が含まれ、その例については後述する。
【0033】
リサイクルセルロース材料は好ましくは、セルロース廃棄物、リサイクルヤーン、リサイクル布地、リサイクル薄織物、リサイクル衣類の少なくとも1つから選択される。
【0034】
非セルロース材料は典型的には、染料、脂肪、その他の有機不純物、例えば、油、ワックス及び洗剤残渣、無機物質、例えば、砂又はクレー、水溶性及び非水溶性顔料の少なくとも1つから選択される。
【0035】
工程(a)の後で工程(b)の前又は後に、リサイクルセルロース材料又は吸収剤の溶解により溶解していない又は非溶解性の不純物を分離する工程(c)を設けることが可能であると共に好ましく、好ましくはこの工程は、濾過、デカンテーション、遠心分離、ふるい分けの少なくとも1つを含む。
【0036】
イオン液体溶液は好ましくは、プロトン性液体、好ましくは水を含む。
【0037】
活性物質は好ましくは、吸収剤、開裂剤、例えば、生物学的開裂剤、物理的開裂剤及び化学的開裂剤の群から選択され、吸収剤は好ましくは、染料、脂肪不純物、その他の有機不純物の少なくとも1つを吸着する物質の群から選択され、開裂剤は好ましくは、直接開裂剤又は活性化可能な開裂剤、好ましくは電磁線の照射によって活性化される開裂剤の群から選択され、開裂剤は、酵素系、例えば、プロテアーゼ、オキシドレダクターゼ、アミラーゼ、ラッカーゼ及びリパーゼ、オゾン、過酸化物、光触媒並びにそれらの組み合わせの群から選択することができる。後述の実施例では、活性物質として過酸化水素を使用している。しかし、これは1つの選択肢に過ぎず、上述の物質は、過酸化水素を用いたこの実施例に対する補足的及び/又は代替的な様式で活性物質の機能を果たすことができる。
【0038】
好ましくは、セルロースポリマーの分子量を低下させる系であって、好ましくは、酵素系、例えば、セルラーゼ若しくはヘミセルラーゼ若しくはセルロースオキシダーゼ、特にエンドグルカナーゼ、エキソグルカナーゼ、又は電磁線の照射によって活性化される開裂剤、又は強塩基、又はそれらの組み合わせの群から選択されるものが、イオン液体に最初から含まれているか、又は工程(b)の後若しくは存在する場合には(c)の後に補充される。
【0039】
工程(b)において、温度を好ましくは40~120℃の範囲まで上昇させ、好ましくは0.5~24時間の範囲の期間にわたってこの温度で保持する。
【0040】
工程(b)の後、又は工程(c)の後に、イオン液体に溶解したセルロースからセルロースヤーンを直接紡績することができる。
【0041】
前記溶融イオン液体はさらに好ましくは、1種のプロトン性溶媒又は複数のプロトン性溶媒の混合物を含み、プロトン性溶媒が水のみの場合には、水は、溶液系中に5重量%を超える量で存在し、溶融イオン液体に溶解したセルロースを凝固媒体中で沈殿させ、ここで、凝固媒体は、セルロースを溶解させない、溶融イオン液体と混和性である溶媒を含み、溶融イオン液体は好ましくは、少なくとも1つの5員ないし6員複素環を含む化合物から形成されるカチオンと、プロトン性溶媒とを含み、前記方法は、セルロースを溶解させない、溶融イオン液体と混和性である溶媒を含む凝固媒体中で、溶解したセルロースを炭水化物の形態で沈殿させることを含み、ここで、
前記プロトン性溶媒は、
1)前記溶液系中に少なくとも5又は6重量%の量で存在する、唯一のプロトン性溶媒としての水、
2)前記溶液系に対して少なくとも0.1重量%の、アルコール、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、アミルアルコール並びに直鎖及び分岐アルコール並びに高級直鎖及び分岐アルコールからなる群から選択される少なくとも1種のプロトン性溶媒;及び
3)水、並びにアルコール、カルボン酸又はアミン、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、アミルアルコール並びに直鎖及び分岐アルコール並びに高級直鎖及び分岐アルコールからなる群から選択される少なくとも1種のプロトン性溶媒
からなる群から選択される。
【0042】
イオン液体として作用する好適な系は、例えば米国特許第8163215号明細書又は米国特許第8841441号明細書に記載されているものであり、その開示内容は、イオン液体系に関するものとして本明細書に援用される。
【0043】
本発明の文脈におけるイオン液体は好ましくは、
(A)一般式(I):
[A]+
n[Y]n
- (I)
[式中、nは、1、2、3又は4を表し、[A]+は、第四級アンモニウムカチオン、オキソニウムカチオン、スルホニウムカチオン又はホスホニウムカチオンを表し、[Y]n
-は、1価、2価、3価又は4価のアニオンを表す]の塩であるか、
又は(B)一般式(II)
[A1]+[A2]+[Y]n- (IIa)、
ここで、n=2;
[A1]+[A2][A3]+[y]n- (IIb)、
ここで、n=3;又は
[A1]+[A2]+[A3]+[A4]+[Y]n- (IIc)、
ここで、n=4;
[式中、[A1]+、[A2]+、[A3]+及び[A4]+は互いに独立して、[A]+について挙げられた群から選択され、[Y]n-は、(A)で挙げられた意味を有する]の混合塩である。
【0044】
可能であるのは、例えば1-エチル-3-メチルイミダゾリウムクロリドの使用である。これも実施例で使用されているものであるが、これは1つの選択肢に過ぎず、この一般的な項で挙げられたイオン液体物質は、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムクロリドを用いたこの実施例に対する補足的(イオン液体混合物)及び/又は代替的な様式で同様にそのように作用することができる。特に、メチルイミダゾリウムをベースとする系、特に1-エチル-3-メチルイミダゾリウムをベースとする系、したがって、フルオリド、アセテート又はジシアンアミド、(C2H5)(CH3)C3H3N+
2・N(CN)-
2のような各種アニオンを有する1-エチル-3-メチルイミダゾリウム、さらには1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウム若しくは1-ブチル-3,5-ジメチルピリジニウム、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム、例えば1-ブチル-3,5-ジメチルピリジニウムブロミド、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド又はそれらの組み合わせをベースとする系は、明らかに同一の機能を果たす。
【0045】
イオン液体のカチオン[A]+を形成するのに適した化合物は、例えば、独国特許出願公開第10202838号明細書から知られている。したがってこのような化合物は、酸素、リン、硫黄又は特に窒素原子、例えば少なくとも1個の窒素原子、好ましくは1~10個の窒素原子、特に好ましくは1~5個、非常に特に好ましくは1~3個、特に1~2個の窒素原子を含むことができる。これらは任意に、酸素、硫黄又はリン原子のようなさらなるヘテロ原子を含むこともできる。窒素原子は、イオン液体のカチオンの正電荷の担体として適しており、そこからプロトン又はアルキルラジカルが平衡状態でアニオンに移動して電気的に中性の分子を生成することができる。
【0046】
イオン液体の系はまた、例えば国際公開第2018/138416号(該文献も、イオン液体系に関するものとして本明細書に援用される)に記載されているように、カチオン性の1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エニウム[TBDH]+部分と、式a)、式b)及び式c)
【0047】
【0048】
による群から選択されるアニオンとを含むベースの系であってもよい。
【0049】
さらに別の好ましい実施形態によれば、前記溶融イオン液体は、プロトン性溶媒又はその混合物を含み、前記方法は、凝固媒体中でセルロースを沈殿させることを含み、1種のプロトン性凝固剤又はプロトン性凝固剤の混合物は、凝固媒体中に存在し、1種のプロトン性凝固剤又はプロトン性凝固剤の混合物の表面張力σは、水の表面張力σの99%~30%であり、各表面張力は、ASTM D 1590-60に準拠して50℃の温度で測定され、好ましくは、プロトン性凝固剤は、1-ヘキサノール、1-ヘプタノール、1-オクタノール、1-ノナノール、1-デカノール、1-ウンデカノール、1-ドデカノール、1-トリデカノール、1-テトラデカノール、2-エチル-1-ヘキサノール、1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2,3-プロパントリオール、2,2-ジメチル-1,5-プロパンジオール、シクロヘキサノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール及びそれらの混合物から選択され、さらに好ましくは、凝固媒体は、5%を超えるカルボン酸を含まない。
【0050】
本発明のさらなる態様によれば、本発明は、上述の方法を用いて製造されたセルロースヤーンに関する。
【0051】
本発明のさらに別の態様によれば、本発明は、テキスタイル、特に衣類の製造のための上述のセルロースヤーンの使用に関する。
【0052】
製造されたセルロースヤーンは、多岐にわたるテキスタイルプロセス、例えば、かさ高加工;撚糸;カバードヤード(コアスパンヤーン);編成;製織;シームレス;他のヤーン(例えば、木綿、ナイロン、ポリエステル、ポリプロピレン、セルロース系、ウール、シルク、ポリウレタン)との丸編み;経編み;ビーミング処理;短繊維;不織布に直接使用することができる。製造されたセルロースヤーンは、デニム;靴下類;インナー;スポーツウェア;ファッション;靴;縫糸;椅子張り;家庭用テキスタイル;工業用テキスタイルなどの多岐にわたるテキスタイル形態に直接使用することができる。
【0053】
本発明のさらなる実施形態は、従属請求項に記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0054】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施形態を説明するが、図面は、本発明の好ましい実施形態を説明するためのものであり、これを限定するためのものではない。
【
図1】リサイクルセルロースから再生セルロース繊維への従来の処理の概略的なプロセス工程を本発明と比較して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
図1は、上段に、リサイクルセルロース材料の従来の前処理により色及び不純物を除去した後にイオン液体への溶解及び後続の繊維紡績を行う方法を概略的に示したものである。これに対し、下段に示す本発明では、リサイクルセルロースをイオン液体に直接溶解させることで、色及び不純物をイオン液体ドープ中で直接処理することができ、その後に繊維紡績が行われる。本発明により、従来の方法に比べてプロセスの複雑さを軽減し、エネルギー及び水の使用量を削減することが可能となる。
【0056】
実験例:
100%ビスコースヤーンから構成される編物布地を、実験室の排気染色装置を用いて赤色アゾ染料(Basic Red 46)で染色し、次いで洗浄及び洗濯を行った。布地の小さな(30cm×30cm)一部(約10g)を材料から手で切り取り、さらに約3cm×3cmの小片に切断した。ガラスビーカーに、96gのイオン液体(1-エチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド)及び4gの脱イオン水を準備した。このイオン液体混合物を加熱し、90℃で保持した。添加した材料が溶解して均質な溶液になるまで、布片を溶融イオン液体(IL)に手で混ぜ入れた。最初に製造された溶液は、強い赤色を呈していることが観察された。マグネチックスターラーでの穏やかな撹拌を保持しながら、4gの量の過酸化水素をイオン液体溶液に徐々に添加した。撹拌した溶液を90℃で6時間保持した。得られた溶液は淡赤色を呈し、色強度が著しく低下していることが観察され、これは、溶解したセルロースに付随するアゾ染料物質の分解と一致した。
【0057】
上記で製造した脱色セルロースIL溶液を加熱押出チャンバに装入し、90℃で保持した。チャンバの出口ノズルオリフィスは、20℃で保持された水の凝固浴の上方に、20mmのエアギャップ分離距離で配置されていた。セルロースIL溶液を凝固浴に注入し、固化したセルロースフィラメントを、凝固浴から60℃で保持された後続の水の洗浄浴に約20m/分で引き込むことにより、再生セルロースのモノフィラメントを製造した。製造された再生セルロースフィラメント材料は、過酸化水素によるコンディショニングを行わない場合に製造された濃赤色のフィラメントと比較して、淡赤色を示した。
【国際調査報告】