(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-21
(54)【発明の名称】FRET酵素基質及び肺がんにおけるその使用
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/37 20060101AFI20241114BHJP
C07K 5/107 20060101ALI20241114BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20241114BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241114BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20241114BHJP
G01N 33/574 20060101ALI20241114BHJP
G01N 33/542 20060101ALI20241114BHJP
A61K 51/08 20060101ALN20241114BHJP
【FI】
C12Q1/37
C07K5/107 ZNA
A61P11/00
A61P35/00
A61K45/00
G01N33/574 A
G01N33/542 A
A61K51/08 200
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024534265
(86)(22)【出願日】2022-12-05
(85)【翻訳文提出日】2024-08-07
(86)【国際出願番号】 PL2022050088
(87)【国際公開番号】W WO2023106945
(87)【国際公開日】2023-06-15
(32)【優先日】2021-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】PL
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521563895
【氏名又は名称】ユルテステ・ソシエテ・アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100106080
【氏名又は名称】山口 晶子
(72)【発明者】
【氏名】レスナー,アダム
(72)【発明者】
【氏名】グルバ,ナタリア
【テーマコード(参考)】
4B063
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ36
4B063QQ79
4B063QR16
4B063QR48
4B063QR58
4B063QS36
4B063QX02
4C084AA02
4C084AA17
4C084NA20
4C084ZA59
4C084ZB26
4C085HH11
4C085KA27
4C085KB44
4C085KB82
4C085LL18
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA13
4H045BA50
4H045EA50
(57)【要約】
本発明は、医療、さらに詳しくはがんの診断、特に肺がんの診断に使用するための新規化合物、診断マーカーに関する。本発明はまた、対象の体液中に存在する、特に肺がん細胞由来の酵素活性を本化合物を用いて検出するためのインビトロ法にも関する。本発明はさらに、本化合物を用いる肺がんのインビトロ診断法、本化合物を含むキット、及び肺がんに特異的な酵素活性を検出するための本化合物の使用、ならびに肺がんの診断のための本化合物の使用にも関する。本発明はまた、肺がんの診断マーカーとして使用するための本化合物、及び本化合物を用いて上記のとおりの肺がんの診断法を実施する手順を含む肺がんの治療法にも関する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式1:
X1
1-Tyr
2-Ile
3-Phe
4-Arg
5-X2
6(式1)
を有する化合物であって、
式中、X1は分子C1を含むか又は分子C1からなり、X2は分子C2を含むか又は分子C2からなり、
ここで、分子C1とC2の対(ペア)は、蛍光供与体と蛍光受容体の対であり、
前記化合物は、酵素的切断を受けて、フラグメントX1-Tyr-Ile-Phe-Arg-OH(フラグメント1)とX2(フラグメント2)になり、分子C1とC2の空間的分離により測定可能な光シグナルを生成する
化合物。
【請求項2】
前記化合物が加水分解的切断、好ましくはタンパク質分解的切断を受ける、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記化合物において、分子C1とC2の対が、2-アミノ安息香酸(ABZ)/5-アミノ-2-ニトロ安息香酸(ANB)、(ABZ)/pNA、ABZ/ANB-NH
2、ABZ/DNP、ABZ/EDDNP、EDANS/DABCYL、TAM/DANSYL、ABZ/Tyr(3-NO
2)からなる群から選ばれ、好ましくは、前記C1とC2の対が、ABZ/pNA又はABZ/ANB-NH
2である、請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
前記化合物が、式2:ABZ-Tyr-Ile-Phe-Arg-ANB-NH
2(式2)を有する化合物であるか、又は式3:ABZ-Tyr-Ile-Phe-Arg-pNA(式3)を有する化合物である、請求項1~3のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項5】
前記化合物が、加水分解的切断を受けて、下記のフラグメント1:ABZ-Tyr-Ile-Phe-Arg-OHとフラグメント2:ANB-NH
2を生成する、請求項4に記載の化合物。
【請求項6】
対象の体液中に存在する、特に肺がん細胞由来の酵素活性を検出するためのインビトロ法であって、
a)体液サンプルを、式1:
X1
1-Tyr
2-Ile
3-Phe
4-Arg
5-X2
6(式1)
を有する化合物と接触させ、
[上記式中、X1は分子C1を含むか又は分子C1からなり、X2は分子C2を含むか又は分子C2からなり、
ここで、分子C1とC2の対(ペア)は、蛍光供与体と蛍光受容体の対であり、
前記化合物は、酵素的切断を受けて、フラグメントX1-Tyr-Ile-Phe-Arg-OH(フラグメント1)とX2(フラグメント2)になる]、そして
b)分子C1とC2の空間的分離によって生成する測定可能な光シグナルを検出する
ことを含むインビトロ法。
【請求項7】
酵素活性が、加水分解活性、好ましくはタンパク質分解活性である、請求項6に記載のインビトロ法。
【請求項8】
前記化合物として、式2:ABZ-Tyr-Ile-Phe-Arg-ANB-NH
2(式2)を有する化合物か、又は式3:ABZ-Tyr-Ile-Phe-Arg-pNA(式3)を有する化合物が使用される、請求項6又は7に記載のインビトロ法。
【請求項9】
前記体液として、尿、好ましくはヒト尿が使用される、請求項6~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
対象における肺がんの有無が検査対象の体液サンプル中の肺がんに特異的な酵素活性を測定することによって検出され、前記酵素活性の不在は肺がんの不在を示すが、前記酵素活性の存在は肺がんの存在を示す、肺がんを診断するためのインビトロ法。
【請求項11】
酵素活性の検出が、請求項6~9のいずれか1項に定義された方法によって実施される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記酵素活性の測定が、式1:
X1
1-Tyr
2-Ile
3-Phe
4-Arg
5-X2
6(式1)
を有する化合物を用いて実施され、
上記式中、X1は分子C1を含むか又は分子C1からなり、X2は分子C2を含むか又は分子C2からなり、
ここで、分子C1とC2の対(ペア)は、蛍光供与体と蛍光受容体の対であり、
前記化合物は、酵素的切断を受けて、フラグメントX1-Tyr-Ile-Phe-Arg-OH(フラグメント1)とX2(フラグメント2)になり、分子C1とC2の空間的分離により測定可能な光シグナルを生成する、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記体液サンプルが、中性又はアルカリ性のpH、好ましくは生理的pHを有する測定緩衝液中で、サンプル対測定緩衝液の比率1:2~1:10の範囲内、好ましくは1:5で前記化合物とインキュベートされる、請求項10~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記化合物が、0.1~10mg/mL、特に0.25~7.5mg/mLの濃度で使用される、請求項10~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記化合物として、式2:ABZ-Tyr-Ile-Phe-Arg-ANB-NH
2(式2)を有する化合物か、又は式3:ABZ-Tyr-Ile-Phe-Arg-pNA(式3)を有する化合物が使用される、請求項10~14に記載の方法。
【請求項16】
前記サンプルとして、尿サンプル、好ましくはヒト尿が使用される、請求項10~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記酵素活性の測定が、300~500nm、好ましくは380~430nmの範囲、特に405nmの吸光強度を、40~60分間、25~40℃、好ましくは36~38℃の範囲内の温度で測定することを含む、請求項10~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
請求項1~5のいずれか1項に定義の化合物と測定緩衝液とを含むキット。
【請求項19】
前記化合物が、式2:ABZ-Tyr-Ile-Phe-Arg-ANB-NH
2(式2)を有する化合物であるか、又は式3:ABZ-Tyr-Ile-Phe-Arg-pNA(式3)を有する化合物である、請求項18に記載のキット。
【請求項20】
肺がんに特異的な酵素活性を検出するための、請求項1~5のいずれか1項に定義の化合物の使用。
【請求項21】
肺がんの診断のための、請求項1~5のいずれか1項に定義の化合物の使用。
【請求項22】
肺がんの診断が、原発性肺がんの検出、肺がんの外科的切除後の微小残存病変の検出、及び/又は肺がんの再発の検出を含む、請求項21に記載の使用。
【請求項23】
前記化合物が、式2:ABZ-Tyr-Ile-Phe-Arg-ANB-NH
2(式2)を有する化合物であるか、又は式3:ABZ-Tyr-Ile-Phe-Arg-pNA(式3)を有する化合物である、請求項21~22のいずれか1項に記載の使用。
【請求項24】
肺がん検出のための診断マーカーとして使用するための、請求項1~5のいずれか1項に定義された化合物。
【請求項25】
前記化合物が、式2:ABZ-Tyr-Ile-Phe-Arg ANB-NH
2(式2)を有する化合物であるか、又は式3:ABZ-Tyr-Ile-Phe-Arg-pNA(式3)を有する化合物である、請求項24に記載の使用のための化合物。
【請求項26】
肺がんの治療法であって、
a)肺がんに特異的な酵素活性の存在を、請求項6~9のいずれか1項に定義の方法によって検査対象の体液サンプル中に検出し、そして
b)前記酵素活性の存在が前記サンプル中に見つかれば、肺がんの治療を対象に適用する
治療法。
【請求項27】
ポイントb)に従って治療の終了後、肺がんに特異的な前記酵素活性が所定の時間間隔でモニターされる、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
サンプルとして、尿サンプル、好ましくはヒト尿が使用されることを特徴とする請求項26又は27に記載の方法。
【請求項29】
前記化合物として、式2:ABZ-Tyr-Ile-Phe-Arg ANB-NH
2(式2)を有する化合物か、又は式3:ABZ-Tyr-Ile-Phe-Arg-pNA(式3)を有する化合物が使用される、請求項26~28のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療、さらに詳しくはがんの診断、特に肺がんの診断に使用するための新規化合物、診断マーカーに関する。本発明はまた、対象の体液中に存在する、特に肺がん細胞由来の酵素活性を本化合物を用いて検出するためのインビトロ検出法、本化合物を用いる肺がんのインビトロ診断法、本化合物を含むキット、肺がんに特異的な酵素活性を検出するための本化合物の使用、肺がんの診断のための本化合物の使用、肺がんの診断マーカーとして使用するための本化合物にも関する。本発明はさらに、上記のとおりの肺がんの診断法を実施する手順を含む肺がんの治療法にも関する。
【背景技術】
【0002】
肺がんは世界で2番目に多い悪性新生物であり、2020年には220万人を超える患者が肺がんになった。肺がんは、遅発性の症状、非常に急速な疾患進行、そして高い死亡率を特徴とする。2020年には約180万人の患者が肺がんで死亡した。肺がんは2030年までは最も致死性のがんであり続けるだろう。肺がんの経過において、早期及び前がん病変は症状を引き起こさない。このため、疾患の早期発見は難しく、早期発見が行われることは稀である。罹患者の大多数でこのがんは意図的に又は他の理由で実施されたX線検査中に局所病変として偶然見つかる。確定(陽性)診断の場合、5年生存率は20%未満のレベルである。現在、患者は、治療選択肢が非常に限られる疾患末期で診断されている。早期発見は良好な予後と関連する。肺がんの外科治療は、肺がんの除去につながりうる唯一の効果的な方法である。残念なことに、外科治療の対象になるのは、肺がんと診断された患者の約30%に過ぎない。根治的外科治療を受けた患者では5年生存率は50%である。肺がんの早期かつ信頼できる診断を可能にする臨床検査も“がんマーカー”も検査セットも存在しない。X線、CTスキャン、MRI又はポジトロン磁気共鳴イメージングといった画像検査法が有効な診断のために使用され、その後腫瘍の生検が行われる。少数の患者集団(5~10%)では特定遺伝子の発現に変化が見られ、この集団に遺伝子検査を受けさせやすくしている。
【0003】
がん細胞の発生、増殖及び播種のプロセスには、多数の酵素、特に加水分解酵素、とりわけタンパク質分解酵素を含む多数の要因が関与していることが知られている。そうした酵素は、タンパク質やペプチドをその小さなフラグメントに、酵素的(加水分解的又はタンパク質分解的)に切断するプロセスを触媒する。がん細胞は、このプロセスによって新しい組織に定着し、腫瘍への効果的な栄養送達を可能にする血管形成(血管新生)過程を増強することにより、増殖拡大することが可能になる。その上、これらの酵素は、腫瘍増殖プロセスにより健常細胞が死滅した結果として存在する。これらすべてのプロセスは、腫瘍に特徴的な、がん細胞の酵素(タンパク質分解)活性という特徴的で特異的な側面を形成している。
【0004】
当該分野では、酵素分解を受けてより小さなフラグメントになると、検査溶液の色を変化又は増加させる発色性ペプチド分子が知られている。この発色効果は、発色性ペプチド分子から発色団(例えば、4-アニリド又は2-アミノ安息香酸)が放出される結果である。この種の発色性分子及びそれらの使用は、例えば、Erlanger BF,Kokowsky N,Cohen W.による“トリプシンの2種の新規発色性基質の調製と性質(The preparation and properties of two new chromogenic substrates of trypsin)”,Arch Biochem Biophys.,November 1961;95:271-8ならびにHojo K,Maeda M,Iguchi S,Smith T,Okamoto H,Kawasaki K.による、アミノ酸とペプチド.XXXV.“固相法によるp-ニトロアニリド類似体の簡易調製法”(Amino acids and peptides. XXXV. “Facile preparation of p-nitroanilide analogs by the solid-phase method”),Chem Pharm Bull(Tokyo),November 2000;48(11):1740-4の出版物により知られている。
【0005】
しかしながら、このクラスの化合物を肺がんの診断に使用することに関する報告はこれまでのところない。
個々の成分を適切な時間及び化学量論条件で結合させて発色性ペプチドを得る方法も先行技術において公知である。結合法は、個々の構成要素(アミノ酸誘導体)を結合させ、残基を洗い流し、保護基を順次除去して再度洗浄するという連続工程からなる。このサイクルをアミノ酸残基ごとに繰り返す。得られたペプチドを酸性条件下での反応により樹脂から分離する。次に、ろ過工程で溶液を樹脂から分離した後、非極性溶媒によって溶液からペプチドを沈殿させる。
【0006】
しかしながら、肺がんの特異的かつ早期の診断に適切な発色性ペプチド化合物やそれらを得る方法は先行技術においては知られていない。
従って、当分野においては、肺がんを非侵襲的及び信頼できる様式で、早期に、高感度に、そして特異的に診断することを可能にする肺がんのための“がんマーカー”と、そのような診断マーカーを用いる診断法及び治療法を求める差し迫ったニーズがある。
【0007】
本発明の目的は、肺がんのための新規で特異的な診断マーカーと、そのようなマーカーを用いた肺がんの非侵襲的、迅速、高感度、及び特異的な早期発見のための診断法(スクリーニングテストにも適切であろう)、ならびにそのようなマーカーを用いた治療法を提供することである。
【0008】
これらの目的は、添付の特許請求の範囲に定義されている本発明によって達成された。一方、その好適な変形については従属クレームに定義されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Erlanger BF, Kokowsky N, Cohen W., “The preparation and properties of two new chromogenic substrates of trypsin”, Arch Biochem Biophys., November 1961; 95:271-8
【非特許文献2】Hojo K, Maeda M, Iguchi S, Smith T, Okamoto H, Kawasaki K. Amino acids and peptides. XXXV. “Facile preparation of p-nitroanilide analogs by the solid-phase method”, Chem Pharm Bull (Tokyo), November 2000; 48(11):1740-4
【発明の概要】
【0010】
本発明は、式1:
X11-Tyr2-Ile3-Phe4-Arg5-X26(式1)
を有する化合物を提供する。
【0011】
式中、X1は分子C1を含むか又は分子C1からなり、X2は分子C2を含むか又は分子C2からなり、
ここで、分子C1とC2の対(ペア)は、蛍光供与体と蛍光受容体の対であり、
前記化合物は、酵素的切断を受けて、フラグメントX1-Tyr-Ile-Phe-Arg-OH(フラグメント1)とX2(フラグメント2)になり、分子C1とC2の空間的分離により測定可能な光シグナルを生成する。
【0012】
本発明による化合物は、好ましくは加水分解的切断、さらに好ましくはタンパク質分解的切断を受ける。
好ましくは、本発明による化合物において、分子C1とC2の対は、2-アミノ安息香酸(ABZ)/5-アミノ-2-ニトロ安息香酸(ANB)、(ABZ)/pNA、ABZ/ANB-NH2、ABZ/DNP、ABZ/EDDNP、EDANS/DABCYL、TAM/DANSYL、ABZ/Tyr(3-NO2)からなる群から選ばれ、さらに好ましくは、C1とC2の対は、(ABZ)/pNA又はABZ/ANB-NH2である。
【0013】
好ましくは、本発明による化合物は、式2:ABZ-Tyr-Ile-Phe-Arg-ANB-NH2(式2)を有する化合物であるか、又は式3:ABZ-Tyr-Ile-Phe-Arg-pNA(式3)を有する化合物である。
【0014】
さらに好ましくは、本発明による化合物は、加水分解的切断を受けて、以下のフラグメント1:ABZ-Tyr-Ile-Phe-Arg-OHとフラグメント2:ANB-NH2を生成する。
【0015】
本発明はさらに、対象の体液中に存在する、特に肺がん細胞由来の酵素活性を検出するためのインビトロ検出法も提供し、該方法は、
a)体液サンプルを、式1:
X11-Tyr2-Ile3-Phe4-Arg5-X26(式1)
を有する化合物と接触させ、
[上記式中、X1は分子C1を含むか又は分子C1からなり、X2は分子C2を含むか又は分子C2からなり、
ここで、分子C1とC2の対(ペア)は、蛍光供与体と蛍光受容体の対であり、
前記化合物は、酵素的切断を受けて、フラグメントX1-Tyr-Ile-Phe-Arg-OH(フラグメント1)とX2(フラグメント2)になる]、そして
b)分子C1とC2の空間的分離によって生成する測定可能な光シグナルを検出する
ことを含む。
【0016】
本発明による酵素活性の検出法において、酵素活性は、好ましくは加水分解活性、さらに好ましくはタンパク質分解活性である。
本発明による酵素活性の検出法において、前記化合物として、好ましくは、式2:ABZ-Tyr-Ile-Phe-Arg-ANB-NH2(式2)を有する化合物か、又は式3:ABZ-Tyr-Ile-Phe-Arg-pNA(式3)を有する化合物が使用される。
【0017】
本発明による酵素活性の検出法において、前記体液として、尿、好ましくはヒト尿が使用される。
本発明はまた、検査対象の体液サンプル中の肺がんに特異的な酵素活性を測定することによって対象における肺がんの有無を検出する、肺がんのインビトロ診断法にも関する。前記酵素活性の不在は肺がんの不在を示すが、前記酵素活性の存在は肺がんの存在を示す。
【0018】
本発明による肺がんの検出/診断法において、酵素活性の検出は、上に定義された酵素活性の検出法によって実施される。
本発明による肺がんの検出/診断法において、前記酵素活性の測定は、式1:
X11-Tyr2-Ile3-Phe4-Arg5-X26(式1)
を有する化合物を用いて実施される。
【0019】
上記式中、X1は分子C1を含むか又は分子C1からなり、X2は分子C2を含むか又は分子C2からなり、
ここで、分子C1とC2の対(ペア)は、蛍光供与体と蛍光受容体の対であり、
前記化合物は、酵素的切断を受けて、フラグメントX1-Tyr-Ile-Phe-Arg-OH(フラグメント1)とX2(フラグメント2)になり、分子C1とC2の空間的分離により測定可能な光シグナルを生成する。
【0020】
本発明による肺がんの検出/診断法において、前記体液サンプルは、好ましくは、中性又はアルカリ性のpH、好ましくは生理的pHを有する測定緩衝液中で、サンプル対測定緩衝液の比率1:2~1:10の範囲内、好ましくは1:5で、前記化合物とインキュベートされる。
【0021】
本発明による肺がんの検出/診断法において、前記化合物は、好ましくは、0.1~10mg/mL、特に0.25~7.5mg/mLの濃度で使用される。
本発明による肺がんの検出/診断法において、前記化合物として、好ましくは、式2:ABZ-Tyr-Ile-Phe-Arg-ANB-NH2(式2)を有する化合物か、又は式3:ABZ-Tyr-Ile-Phe-Arg-pNA(式3)を有する化合物が使用される。
【0022】
本発明による肺がんの検出/診断法において、前記サンプルとして、好ましくは、尿サンプル、さらに好ましくはヒト尿が使用される。
本発明による肺がんの検出/診断法において、前記酵素活性の測定は、好ましくは、300~500nm、さらに好ましくは380~430nmの範囲内、特に405nmの吸光強度を、40~60分間、25~40℃、さらに好ましくは36~38℃の範囲内の温度で測定することを含む。
【0023】
本発明はさらに、上に定義された本発明による任意の化合物と測定緩衝液とを含むキットも提供する。
本発明によるキットにおいて、前記化合物は、好ましくは、式2:ABZ-Tyr-Ile-Phe-Arg-ANB-NH2を有する化合物であるか、又は式3:ABZ-Tyr-Ile-Phe-Arg-pNAを有する化合物である。
【0024】
本発明はまた、肺がんに特異的な酵素活性を検出するための、上に定義された本発明による任意の化合物の使用も提供する。
本発明はまた、肺がんの診断のための、上に定義された本発明による任意の化合物の使用も提供する。
【0025】
好ましくは、そのような使用において、肺がんの診断は、原発性肺がんの検出、肺がんの外科的切除後の微小残存病変の検出、及び/又は肺がんの再発の検出を含む。
好ましくは、本発明による使用における化合物は、式2:ABZ-Tyr-Ile-Phe-Arg-ANB-NH2を有する化合物であるか、又は式3:ABZ-Tyr-Ile-Phe-Arg-pNAを有する化合物である。
【0026】
本発明はさらに、肺がん検出のための診断マーカーとして使用するための、上に定義された本発明による任意の化合物を提供する。
好ましくは、本発明に従って診断マーカーとして使用するための化合物は、式2:ABZ-Tyr-Ile-Phe-Arg-ANB-NH2を有する化合物であるか、又は式3:ABZ-Tyr-Ile-Phe-Arg-pNAを有する化合物である。
【0027】
本発明はさらに、
a)肺がんに特異的な酵素活性の存在を、上に定義されたいずれかの方法によって検査対象の体液サンプル中に検出し、そして
b)前記酵素活性の存在が前記サンプル中に見つかれば、肺がんの治療を対象に適用する、
肺がんの治療法も提供する。
【0028】
好ましくは、本発明による治療法において、ポイントb)に従って治療の終了後、肺がんに特異的な前記酵素活性が所定の時間間隔でモニターされる。
好ましくは、本発明による治療法において、尿サンプル、好ましくはヒト尿がサンプルとして使用される。
【0029】
好ましくは、本発明による治療法において、式2:ABZ-Tyr-Ile-Phe-Arg-ANB-NH2を有する化合物か、又は式3:ABZ-Tyr-Ile-Phe-Arg-pNAを有する化合物が前記化合物として使用される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】
図1は、肺がんを有する被験者の尿サンプルにおける基質切断、すなわちABZ-Tyr-Ile-Phe-Arg-ANB-NH
2のクロマトグラフィー分析の結果を示す。
【
図2】
図2は、肺がんと診断された被験者の尿サンプル(サンプル1~50)と健常被験者から採取した尿(サンプル1Z~25Z)における基質ABZ-Tyr-Ile-Phe-Arg-ANB-NH
2の加水分解率を示す。アラビア数字は選択した尿サンプルの番号を示す。
【
図3】
図3は、肺がんと診断された被験者の尿サンプル(サンプル1)と別の新生物疾患(がん)と診断された被験者から採取した尿サンプル(サンプル2~9)における基質ABZ
1-Tyr
2-Ile
3-Phe
4-Arg
5-ANB
6-NH
2(すなわち式2の化合物)の加水分解の選択性を示す。アラビア数字は所定のがんタイプの番号を示す。各タイプのがんについて試験されたサンプルは、試験された各がんについてそれぞれ20人の異なる患者から得られた。結果は所定のがんタイプについての平均値である。結果を見ると、他のがん患者の尿サンプルと比較して肺がん患者の尿の場合に基質切断の選択性が示されている。
【
図4】
図4は、基質ABZ
1-Tyr
2-Ile
3-Phe
4-Arg5-ANB
6-NH
2の加水分解レベルのpH条件への依存性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は添付の特許請求の範囲に定義されていることは理解されるべきである。本説明においては、本発明の様々な非制限的態様及び実施例を例示する。本発明は、特に明記されない限り、それを実施するために使用される何らかの特別な方法論、プロトコル又は試薬に限定されない。本明細書中で使用されている用語ならびに科学的及び技術的表現は、本発明の技術分野の当業者に通常知られている及び使用されている意味を有する。しかしながら、明確にするために、本特許において使用されている以下の表現/用語及び頭字語は、下記のように理解されるものとする。
【0032】
発色性化合物又は発色性分子は、発色特性を有する化合物を意味する。発色特性は、有色生成物を形成できる化合物の能力を意味する。
蛍光化合物又は蛍光分子は、蛍光特性を有する化合物を意味する。蛍光特性は、蛍光を発する生成物を形成できる化合物の能力を意味する。
【0033】
NMPはN-メチルピロリドンを表す;DMFはジメチルホルムアミドを表す;DCMは塩化メチレン又はジクロロメタンを表す;pNAは4-ニトロアニリン又はパラ-ニトロアニリンを表す;ABZは2-アミノ安息香酸を表し、ANB-NH2は5-アミノ-2-ニトロ安息香酸を表す;Bocはtert-ブチルオキシカルボニル基を表す;Fmocは9-フルオレニルメトキシカルボニル基を表す;そしてTFAはトリフルオロ酢酸を表す。
【0034】
本発明の文脈において、肺がんという用語は、肺にある組織から発生する原発性肺がん(悪性新生物)を意味すると理解されるものとする。最も頻度が高い肺がんは非小細胞肺がん(約90%)であり;それほど頻度が高くないのは小細胞肺がんである。本明細書中で使用されている肺がんという用語は、従って、肺内に位置する組織から発生するすべての悪性肺新生物を含む。
【0035】
本発明の文脈において、肺がんの診断という用語は、この疾患の識別、特に他の診断法が十分高感度でも及び/又は特異的でもない早期の段階での識別を意味すると理解されるものとする。本明細書においては、肺がんの診断は、肺がんの外科的切除後の微小残存病変(MRD)の検出、及び以前に完了した肺がん治療後の肺がんの再発の検出も含む。
【0036】
本発明の文脈において、肺がんの治療という用語は、罹患者の生存時間を著しく延長し、生活の質を改善することを可能にする、疾患の進行の早期での治療を意味すると理解されるものとする。
【0037】
本発明の文脈において、モニターするという用語は、微小残存病変(MRD)すなわち(治療中又は寛解中に)標準的な診断法では検出できない量で生体内に生き残った少数のがん細胞の存在を診断することを意味すると理解されるものとする。
【0038】
本発明の文脈において、対象(被験者)という用語は、肺がんが疑われるヒト対象又は哺乳動物、あるいは肺がんのリスクが高いグループに属するヒト対象又は哺乳動物、又は肺がんの切除後もしくは肺がんの治療終了後のヒト対象又は哺乳動物を意味すると理解されるものとする。対象は好ましくはヒト対象である。
【0039】
本発明による化合物は、発色団の存在による発色特性、及び蛍光特性を有する。すなわち蛍光供与体及び蛍光受容体の分子を含有する。特に肺がんを有する検査対象のテスト体液サンプルとの接触の結果として、色の増加が380~440nmの波長範囲で観察されるようにする一方、そのような効果は健常対象又は別のタイプのがんと診断された対象の体液サンプルとの反応では観察されないように開発されたそれらの構造により、これらの化合物は、肺がんに特異的な酵素活性を検出し、特に特異的及び高感度に肺がんをこのがんの進行の早期でも診断することを可能にする。検査対象は好ましくはヒト対象である。体液は好ましくは尿、さらに好ましくはヒト尿である。
【0040】
本発明の第一の側面において、新規化合物を提供する。この化合物は、式1:
X11-Tyr2-Ile3-Phe4-Arg5-X26(式1)
を有する。式中、X1は、分子C1を含むアミノ酸誘導体又はペプチドフラグメントであるか又はX1はそのような分子C1からなり、X2は、分子C2を含むアミノ酸誘導体又はペプチドフラグメントであるか又はX2はそのような分子C2からなり、分子C1とC2の対は蛍光供与体と蛍光受容体の対である。上付き文字は、本発明による化合物中の後に続く残基の位置及び合成時の残基の結合順を示す。本発明によれば、本文脈において、化学式1は、代替的に残基の番号付けを示さずに表記することもできる。本発明によるすべての化合物のコアは、示された4個のアミノ酸配列(Tyr-Ile-Phe-Arg)を有するテトラペプチドである。これは配列表にも配列番号1として示されている。
【0041】
本発明による化合物は、酵素的切断を受けて、フラグメント:X1-Tyr-Ile-Phe-Arg-OH(フラグメント1)とX2(フラグメント2)になり、分子C1とC2の空間的分離により測定可能な光シグナルを生成する。測定可能な光シグナルは、化合物の酵素的切断後の吸光度/蛍光の変化を測定するための方法によって測定される。好ましくは、分子C1とC2は、10個以下のアミノ酸残基によって互いに分離されることにより、蛍光受容体による蛍光供与体の効率的な消光が確保される。当業者には、鍵となる要因は蛍光供与体と受容体間の距離であることは明白である。従って、分子C1とC2を分離しているアミノ酸配列が折り畳まれてねじれた又は短縮した(condensed)二次構造になった結果、一次構造に比べて分子C1とC2が近接する場合、分子C1とC2間の距離は10個を超えるアミノ酸残基でもよい。
【0042】
本化合物は、その発色特性と、より小さいフラグメントへの酵素的(好ましくはタンパク質分解的)切断を可能にする5位の反応部位の存在により、診断マーカー、特に肺がんの特異的診断バイオマーカーとして、特に肺がんの早期診断に使用するのに特に適している。
【0043】
好適な態様において、本発明による化合物は加水分解的切断、好ましくはタンパク質分解的切断を受ける。
好適な態様において、分子C1とC2の対は、2-アミノ安息香酸(ABZ)/5-アミノ-2-ニトロ安息香酸(ANB)、(ABZ)/pNA、ABZ/ANB-NH2、ABZ/DNP、ABZ/EDDNP、EDANS/DABCYL、TAM/DANSYL、ABZ/Tyr(3-NO2)からなる群から選ばれ、さらに好ましくは、分子C1とC2の対は、ABZ/pNA又はABZ/ANB-NH2である。
【0044】
好適な態様において、本発明による化合物は、
式2:
ABZ1-Tyr2-Ile3-Phe4-Arg5-ANB6-NH2(式2)
を有する化合物であるか、又は
式3:
ABZ1-Tyr2-Ile3-Phe4-Arg5-pNA6(式3)
を有する化合物である。式中、ABZは2-アミノ安息香酸を表し、ANB-NH2は5-アミノ-2-ニトロ安息香酸を表し、pNAは4-ニトロアニリンを表す。
【0045】
本化合物は加水分解的切断を受けて、式2を有する化合物の場合、下記のフラグメント1:ABZ-Tyr-Ile-Phe-Arg-OHとフラグメント2:ANB-NH2を生成する。一方、式3を有する化合物の場合、下記のフラグメント1:ABZ-Tyr-Ile-Phe-Arg-OHとフラグメント2:pNAを生成する。従って、フラグメント2は遊離発色団である。
【0046】
本発明による化合物の酵素的切断の結果、分子C1とC2が空間的に分離すると、測定可能な光シグナルが生成する。なぜならば、蛍光供与体から放出された蛍光がもはや蛍光受容体によって消光されなくなるからである。そのような測定可能な光シグナルは、好ましくは300~500nm、さらに好ましくは380~430nmの波長で検出できる。
【0047】
本発明による化合物は公知方法によって得ることができる。例えば、それらは、Fmoc基(反応の過程で除去される)を有する樹脂の形態の固体支持体上でプロセスを実行するという、発色性ペプチドを得るための方法を用いて得ることができる。例えば、それはアミド樹脂でありうる。例えば、Teenage S RAM又はRinkAmideなどであるが、任意のその他の市販樹脂も使用できる。方法を実行するために使用される樹脂は、適切に調製されるべきである。樹脂の調製は、疎水性溶媒で繰り返し洗浄することによりその体積を増加させるというものである。好ましくは、0.23mmol/gの付着量を有する樹脂を使用する。Fmoc保護基は、20%溶媒溶液で洗浄することにより樹脂から除去されねばならない。
【0048】
次に、発色性ペプチドを得るための公知方法は、個々の成分を適切な時間及び化学量論条件で結合させることを含む。結合法は、個々の構成要素(アミノ酸誘導体)を結合させ、残基を洗い流し、保護基を順次除去して再度洗浄するという連続工程からなる。このサイクルをアミノ酸残基ごとに繰り返す。得られたペプチドを酸性条件下での反応により樹脂から分離する。次に、ろ過工程で溶液を樹脂から分離した後、得られた溶液からペプチドを非極性溶媒によって沈殿させる。このようにして得られたペプチド沈殿物を遠心分離する。
【0049】
本発明による化合物の例示的で詳細な、しかし非制限的な合成法を、以下と、以下の実施例1に記載する。
本発明による化合物の合成法は、好ましくはFmoc基を有する樹脂の形態の固体支持体上で方法を実行するというものである。方法を開始する前に、固体支持体を、疎水性溶媒、好ましくはジメチルホルムアミド、塩化メチレン又はN-メチルピロリドンで繰り返し洗浄することによってその体積を増加させ、Fmoc保護基を、好ましくはジメチルホルムアミド、塩化メチレン又はN-メチルピロリドンなどの溶媒中10~30%ピペリジン溶液で洗浄することによって除去することによって調製する。
【0050】
次に、方法を次の工程で実施する。
a)樹脂上への5-アミノ-2-ニトロ安息香酸(ANB)(又は特許請求の範囲に定義されている本発明に従って使用するのに適切な別の発色団)の付着の前に、固体支持体をN-メチルモルホリン(NMM)のDMF中3~6%溶液で洗浄し、次いでDMFで洗浄した後、ANBのDMF中溶液を調製し、これにTBTU、DMAP、そして最後にジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)を順に、ポリマー付着に対して以下の過剰量すなわち、ANB/TBTU/DMAP/DIPEAを3:3:2:6で加える。このようにして調製された混合物を樹脂に加え、均一になるまで混合する。その後、樹脂を減圧下でろ過し、DMF、DCM及びイソプロパノールなどの溶媒で洗浄した後、樹脂へのANBの結合を、ヘキサフルオロホスフェート-O-(7-アザベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウム(HATU)、次いでヘキサフルオロホスフェート-O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウム(HBTU)を過剰に用いて続ける。終了後、固体支持体をDMF、DCM及びイソプロパノールで順に洗浄し、穏やかに乾燥させる。
【0051】
b)ANBへのアミノ酸残基の結合は、アミノ酸誘導体すなわちFmoc-Arg(OtBu)-OHとの反応によって行われる。ここでは、樹脂に対して少なくとも5倍過剰のアミノ酸誘導体を無水ピリジン中に溶解し、ANBの付着した樹脂と接触させる。この後、全体を-20℃を下回らない温度に冷却し、次いでPOCl3を、使用されたアミノ酸誘導体の量に対して1:1の比率で添加し、全体を混合し、その後混合工程を室温で実施し、次に高めた温度で実施し、反応が完了したら樹脂を減圧下でろ過し、DMF及びMeOHで洗浄し、穏やかに乾燥させた後、得られた中間化合物をアシル化工程に付し、引き続きTyr-Ile-Pheのフラグメントを結合させる。
【0052】
c)得られた中間化合物のアシル化は、アミノ酸誘導体、好ましくは、Fmoc-Phe-OH、続いてFmoc-Ile-OH、次いでFmoc-Tyr(tBu)-OH、そして合成の最終段階でBoc-Abz-OHを用いて実施される。アシル化は、カップリング剤としてジイソプロピルカルボジイミドを用い(過剰に使用される)、残基6から1へと段階的に実行される。各段階の終了後、樹脂をDMFで洗浄し、好ましくは、アミノ酸誘導体の結合をモニターするためのクロラニルテスト(遊離アミノ基の存在を調べるテスト)に付す。
【0053】
d)Fmoc保護基の除去は、DMF中10~30%ピペリジン溶液で洗浄し、続いて各溶媒、すなわちDMF、イソプロパノール及び塩化メチレンで洗浄することによって実施される。
【0054】
e)樹脂からのペプチドの分離は、混合物、すなわちTFA:フェノール:水:TIPSを、それぞれ88:5:5:2 v/v/v/vの比率に維持しながら用いて実施される。混合物を少なくとも1時間、好ましくは3時間撹拌し、得られた沈殿物を減圧下でろ過し、その後ジエチルエーテルで洗浄し、得られたペプチドを遠心分離する。
【0055】
f)最終生成物の調製は、ペプチドを超音波によって水中に溶解し、次いで凍結乾燥に付すことによって実施される。
本発明の第二の側面において、対象の体液中に存在する、特に肺がん細胞由来の酵素活性、好ましくはタンパク質分解活性を検出するためのインビトロ検出法を提供し、該方法は、a)体液サンプルを本発明による化合物と接触させ、そしてb)本発明による化合物中に存在する分子C1とC2の空間的分離によって生成する測定可能な光シグナルを検出することを含む。本側面の好適な態様において、この場合の検査対象はヒト対象である。本側面の別の好適な態様において、体液は尿、特にヒト尿である。
【0056】
本側面の好適な態様において、式2:ABZ-Tyr-Ile-Phe-Arg-ANB-NH2を有する化合物か、又は式3:ABZ-Tyr-Ile-Phe-Arg-pNAを有する化合物が使用される。
【0057】
本発明の第三の側面において、肺がんのインビトロ診断法を提供する。これは、対象における肺がんの有無を、検査対象の体液サンプル中の肺がんに特異的な酵素活性を測定することによって検出するもので、前記酵素活性の不在は肺がんの不在を示すが、前記酵素活性の存在は肺がんの存在を示す。そのような酵素活性の検出は、好ましくは、上記の酵素活性を検出するための方法を用いて実施される。本側面の好適な態様において、対象はヒト対象である。本側面の好適な態様において、体液は尿、特にヒト尿である。本側面の好適な態様において、肺がんに特異的な酵素活性はタンパク質分解活性である。本側面の好適な態様において、式2:ABZ-Tyr-Ile-Phe-Arg-ANB-NH2を有する化合物か、又は式3:ABZ-Tyr-Ile-Phe-Arg-pNAを有する化合物が使用される。
【0058】
さらに、本側面の好適な態様において、本発明による方法における前記酵素活性の測定は、300~500nm、好ましくは380~430nmの範囲内、特に405nmの吸光強度を、40~60分間、25~40℃、好ましくは36~38℃の範囲内の温度で測定することを含む。これによって、吸光度又は蛍光の増加に起因する最大限強い測定可能な光シグナルを得ることが可能になる。
【0059】
さらに、本発明による前記方法の好適な態様において、前記酵素活性の測定は、本発明による化合物を、0.1~10mg/mLの範囲の濃度、さらに好ましくは1mg/mLの濃度で用いて実施される。本発明による前記方法の好適な態様において、試験サンプルは、中性又はアルカリ性のpH、好ましくは生理的pHを有する測定緩衝液中で、本発明による化合物とインキュベートされる。体液サンプルは好ましくはヒト尿であり、サンプル(例えば尿サンプル)対測定緩衝液の比率は、1:2~1:10の範囲、好ましくは1:5である。サンプルは、好ましくは、肺がんの診断を求めて照会された対象から採取する。好ましくは、吸光強度は、300~500nm、好ましくは380~430nmの範囲内、特に405nmで、40~60分間、25~40℃、好ましくは36~38℃の範囲内の温度で測定される。上記条件下で、最大限強い測定可能な光シグナルが、吸光度又は蛍光の増加の結果得られる。
【0060】
第四の側面において、本発明は、本発明によるいずれかの化合物と測定緩衝液とを含むキットを提供する。測定緩衝液は当該技術分野において公知であり、本発明によるキットに使用するのに適切な緩衝液は、例えば、Tris-HCl緩衝液であるが、これに限定されない。好適な態様において、本発明によるキットにおいては、前記化合物は、式2:ABZ-Tyr-Ile-Phe-Arg-ANB-NH2を有する化合物であるか、又は式3:ABZ-Tyr-Ile-Phe-Arg-pNAを有する化合物である。
【0061】
第五の側面において、本発明は、肺がんに特異的な酵素活性を検出するための、本発明による化合物の使用を提供する。第六の側面において、本発明は、肺がんの診断のための、本発明による化合物の使用を提供する。好ましくは、肺がんの診断は、本発明に従って、原発性肺がんの検出、肺がんの外科的切除後の微小残存病変の検出、及び/又は以前に完了した肺がん治療後の肺がんの再発の検出を含む。
【0062】
第七の側面において、本発明は、肺がん検出のための診断マーカーとして使用するための、本発明による化合物を提供する。本側面の好適な態様において、前記化合物は、式2:ABZ-Tyr-Ile-Phe-Arg-ANB-NH2を有する化合物であるか、又は式3:ABZ-Tyr-Ile-Phe-Arg-pNAを有する化合物である。
【0063】
第八の側面において、本発明は、
a)肺がんに特異的な酵素活性の存在を、上に定義された本発明によるいずれかの方法によって検査対象の体液サンプル中に検出し、そして
b)前記酵素活性が前記サンプル中に存在することが見つかった場合、肺がんの治療を対象に適用する、
肺がんの治療法を提供する。
【0064】
治療法の好適な態様において、ポイントb)に従って治療の完了後、肺がんの外科的切除後の微小残存病変又は再発を検出するために、肺がんに特異的な前記酵素活性を当該技術分野で公知のように所定の時間間隔、例えば、毎週、数週間おき、毎月、数ヶ月おき、毎年、又は当業者が適切と考える任意のその他の間隔でモニターする。さらに、本方法の好適な態様において、尿サンプル、好ましくはヒト尿が試験サンプルとして使用される。治療法の好適な態様において、式2:ABZ-Tyr-Ile-Phe-Arg-ANB-NH2(式2)を有する化合物か、又は式3:ABZ-Tyr-Ile-Phe-Arg-pNA(式3)を有する化合物が前記化合物として使用される。
【0065】
本発明の利点は、肺がんをその進行の早期段階で検出することを可能にしながら、肺がんに特異的な酵素活性の特異的で高感度の検出に使用するため、肺がん検出のための診断バイオマーカーとして使用するため、肺がんの迅速で非侵襲的な診断に使用するために適切な特性を有する新規化合物を提供することにある。別の利点は、本発明による診断法がスクリーニングテストにもうまく使用できることである。このことは、がんの進行の早期段階での完全な診断と、その結果としてより効果的な治療を可能にする。早期診断は患者の生存時間を著しく延長する外科治療を可能にする。また、微小残存病変又は再発があれば検出することが可能なため、適用された肺がんの外科治療及び/又は化学療法の有効性をモニターする場合にも重要である。
【0066】
次に、本発明を以下の図面及び以下の実施例で説明するが、これは特許請求の範囲に定義されている本発明の範囲をいかなる様式でも制限することを意図したものではない。
【実施例】
【0067】
本発明を以下の非制限的実施例によって例示する。別段の指示がない限り、以下の実施例では、公知及び/又は市販の装置、方法、反応条件、反応物及びセットが使用されているが、これらは本発明が属する分野で一般的に使用されているものであり、また、それぞれの反応物及びキットの製造業者によって推奨されているものである。
【0068】
実施例1:本発明による化合物の合成
本実施例で、本発明による一つの代表的化合物、すなわち化合物:ABZ1-Tyr2-Ile3-Phe4-Arg5-ANB6-NH2の合成を提供する。本発明による残りのペプチドも同様に合成できる。上付き文字は、本発明による化合物中の後に続く残基の位置及び合成時の残基の結合順を示す。本発明による化合物は、代替的に残基の位置を示さない類似式によって表記することもできる。これによって本発明による化合物中の残基の配列が変更されることはなく、それは不変のままである。
【0069】
1.発色性ペプチドを得る
a)合成の第一段階は発色性ペプチドを得ることであった。これは、Fmoc/tBu化学を用い、すなわち保護を用いて固体支持体上での固相合成により得られた。
【0070】
配列ABZ1-Tyr2-Ile3-Phe4-Arg5-ANB6-NH2を有する化合物[式中、ABZは2-アミノ安息香酸であり、ANB-NH2は5-アミノ-2-安息香酸のアミドであり、ANBは5-アミノ-2-安息香酸である]を、下記のアミノ酸誘導体:Boc-ABZ、Fmoc-Tyr(tBU)、Fmoc-Ile、Fmoc-Phe、Fmoc-Arg(Pbf)を用い、固相化学合成の方法で得た。
【0071】
本発明による化合物、すなわち肺がん検出のための診断マーカーの合成は、5-アミノ-2-安息香酸からANB-NH2アミドへの変換を可能にする固体支持体、すなわちRAPP Polymere(独)社製アミド樹脂TentaGel S RAM(0.23mmol/gの付着量を有する)上で行われた。しかしながら、任意のその他のアミド樹脂、例えばRink Amide(独)を使用することも可能である。
【0072】
化合物の合成は、実験室のシェーカーを用いて手動で行われた。大部分の工程で固相合成用の25mL焼結シリンジを反応器として使用した。
得られたすべての最終化合物は、それらの配列の第1位すなわちN末端に2-アミノ安息香酸(ABZ)を、第6位すなわちC末端に5-アミノ-2-ニトロ安息香酸(ANB)分子を含有していた。ABZはここでは蛍光供与体として作用するが、ANB(5-アミノ-2-安息香酸)は蛍光消光剤として、及び同時に発色団として作用する。
【0073】
ペプチドは、それらの配列中(アミノ酸残基Arg-ANB-NH2の間に位置する、すなわち化合物の5位)に少なくとも及び好ましくは一つの反応部位を含有していた。アミノ酸誘導体を結合させる合成は残基6から1へ、すなわちC末端からN末端へと行われる。
【0074】
b)TentaGel S RAM樹脂へのANBの付着:
ペプチドの合成は、0.23mmol/gの付着量を有するRapp Polymere社製TentaGel S RAM上で実施された。第一の工程で樹脂を調製した(洗浄サイクルによって樹脂を緩ませることも含む)。その後、Fmocアミノ基の保護をNMP中20%ピペリジン溶液で固体支持体から除去した。次いで溶媒洗浄サイクルを実施した。遊離アミノ基の存在を確認するためにクロラニルテストを実施した。
【0075】
溶媒洗浄サイクル:
DMF 1x10分;IsOH 1x10分;DCM 1x10分
Fmoc保護基の除去:
DMF 1x5分;NMP中20%ピペリジン 1x3分;NMP中20%ピペリジン 1x8分
溶媒洗浄サイクル:
DMF 3x2分;IsOH 3x2分;DCM 3x2分
c)クロラニルテスト:
クロラニルテストは、スパチュラで数粒の樹脂を反応器(シリンジ)からガラスアンプルへ移し、その後、トルエン中p-クロラニルの飽和溶液100μLと新鮮アセトアルデヒド50μLをそれに加えるというものであった。10分後、粒子の色の制御を行った。
【0076】
この段階で(テストの実施後)、緑色の粒子が得られた。これは遊離アミノ基が存在する証拠である。樹脂から9-フルオレニルメトキシカルボニル保護基の除去を確認後、次の工程すなわちANB誘導体(5-アミノ-2-ニトロ安息香酸)の結合に進むことが可能となった。
【0077】
d)固体支持体への5-アミノ-2-ニトロ安息香酸の付着
ペプチドライブラリー(ペプチドの混合物)の合成における第一工程は、1gの樹脂上へのANBの付着であった。発色団の結合の前に、反応に使用される樹脂を下記溶媒、すなわちDMF、DCM、そして再度DMFで洗浄し、その後Fmoc保護基を固体支持体の官能基から除去した。Fmoc保護基除去の1サイクルは下記工程を含んでいた。
【0078】
Fmoc保護基の除去:
NMP中20%ピペリジン 1x3分;NMP中20%ピペリジン 1x8分
e)洗浄:
DMF 3x2分;IsOH 3x2分;DCM 3x2分
f)クロラニルテスト
遊離アミノ基を有する樹脂を、DMF中N-メチルモルホリン(NMM)の5%溶液で洗浄し、次いでDMFで洗浄した。Fmoc保護基の除去手順と洗浄サイクルはMerrifield容器中で実施した。別のフラスコでANBをDMF中に溶解し、続いてTBTU、DMAP及び最後にジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)を、ポリマー付着に対して下記の過剰量、すなわち、ANB/TBTU/DMAP/DIPEAを3:3:2:6 v/v/v/vで加えた。このようにして調製された混合物を樹脂に加え、3時間撹拌した。樹脂を減圧下でろ過し、DMF、DCM及びイソプロパノールで洗浄し、全アシル化手順を2回繰り返した。樹脂へのANBの次の結合反応を実施するために、ヘキサフルオロホスフェート-O-(7-アザベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウム(HATU)、次いでヘキサフルオロホスフェート-O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウム(HBTU)を使用した。最後の工程で、樹脂をDMF、DCM及びイソプロパノールで順に洗浄し、風乾した。
【0079】
g)ANBへのC末端アミノ酸残基(Fmoc-Arg(OtBu))の結合
対応するアミノ酸誘導体(樹脂付着に対して9倍モル過剰)をピリジン中に溶解し、ANB付着樹脂を含有するフラスコに移した。温度が-15℃に達するまで全体を冷却した(氷浴:1重量部のNH4Cl、1重量部のNaNO3、1重量部の氷)。所望温度に達したら、POCl3を加え(アミノ酸誘導体の使用量に対して1:1の比率)、全体を磁気撹拌器上で、-15℃で20分間、室温で30分間、そして40℃(油浴)で6時間撹拌した。反応が完了したら、樹脂を減圧下でろ過し、DMF及びMeOHで洗浄し、放置乾燥した。
【0080】
次の段階で、残基をP2位に結合させた(Fmoc-Phe)。
アミノ酸残基の結合ごとにまず樹脂をDMFで5分間洗浄した。ジイソプロピルカルボジイミドを後続の結合のカップリング剤として使用した。手順を2回繰り返した。
【0081】
各アシル化の後、樹脂洗浄サイクルを開始し、次いでクロラニルテストを実施して、樹脂の遊離アミノ酸基へのアミノ酸誘導体の結合をモニターした。
溶媒洗浄サイクル:
DMF 3x2分;IsOH 3x2分;DCM 3x2分
クロラニルテスト:
最初の二つのカップリング手順後、テストを実施した結果、粒子の色は初め緑色、その後灰色であったので、別のアシル化を実施する必要があった。その結果、クロラニルテストで試験した樹脂粒子は無色となった。これは、TentaGel S RAM樹脂にANBが結合した証拠であるので、次のペプチド合成工程に進むことが可能となった。
【0082】
h)後続の保護アミノ酸残基の結合:
反応器内の樹脂と結合フラグメントANB-Arg(Pbf)を共にDMFで洗浄した後、保護アミノ酸誘導体Pheを結合させるために、アミノ基からFmocを脱保護した。
【0083】
Fmoc保護基の除去:
DMF 1x5分;NMP中20%ピペリジン 1x3分;NMP中20%ピペリジン 1x8分
溶媒洗浄サイクル:
DMF 3x2分;IsOH 3x2分;DCM 3x2分
クロラニルテスト:
クロラニルテストは、樹脂粒子の緑色から明らかなように、良好な結果であったため、次の工程、すなわちアミノ酸残基Fmoc-Ile-OHの結合に進むことが可能になった。
【0084】
アミノ酸誘導体の結合
カップリング工程の前に樹脂をDMFで洗浄した。カップリング混合物の組成は、保護セリン残基を結合する場合も不変のままであった。
【0085】
各アシル化の終了後、溶媒洗浄サイクルを特定手順に従って実施し、次いで溶液中の遊離アミノ酸基の存在を調べるクロラニルテストを実施した。
溶媒洗浄サイクル:
DMF 3x2分;IsOH 3x2分;DCM 3x2分
クロラニルテスト:
2回目のアシル化後に実施したテスト中、樹脂粒子は無色であったので、合成の次の工程、すなわち別の保護アミノ酸誘導体Fmoc-Tyr(tBu))と2-アミノ安息香酸分子の導入に進むことが可能であった。カップリング工程は先に論じた手順に従って実施した。
【0086】
前述の残基の結合後に実施したテストは良好な結果を示した。すなわち樹脂粒子は無色であった。
2.固体支持体からのペプチドの取り出し
合成後、ABZ-Tyr-Ile-Phe-Arg-ANB-NH2ペプチドのアミドを固体支持体から取り出し、同時に側鎖保護基を、磁気撹拌器上の丸底フラスコ内で、混合物、すなわちTFA:フェノール:水:TIPS(88:5:5:2、v/v/v/v)を用いて除去した。
【0087】
3時間後、フラスコの内容物を焼結(Schott)漏斗で減圧ろ過し、ジエチルエーテルで洗浄した。得られた沈降物をSIGMA 2K30遠心機(Laboratory Centrifuges)で20分間遠心分離した。遠心分離後に得られた沈殿物を超音波により水中に溶解し、次いで凍結乾燥に付した。本発明による残りの化合物も同様にして得ることができる。
【0088】
本発明による新規化合物の同定/特徴付けはHPLC分析を用いて確認した。HPLC分析の条件は次の通りであった。RP Bio Wide Pore Supelco C8カラム、250mm 4mm、相系A:水中0.1%TFA、B:A中80%アセトニトリル、流速1mL/分、UV検出:226nm。
【0089】
実施された分析により、本発明による化合物が得られたことが確認された。
実施例2:がんマーカーとしての本発明によるペプチドの特性のテスト
本発明による新規化合物の活性を、肺がんと診断された20人の被験者群で、本発明による代表的化合物を用いて調べた。本発明による化合物(式2を有する代表的化合物を含む)の作用機序は、式2を有する化合物の場合、ANB-NH2(5-アミノ-2-ニトロ安息香酸のアミド)又は式3を有する化合物の場合、pNA(パラ-ニトロアニリン)という各発色団の遊離分子の放出をもたらす位置で起こる特定の酵素的切断、さらに詳しくは酵素的加水分解であり、これらは320~480nm、とりわけ380~430nm、特に405nmの波長で吸光度を示す。本発明による残りの化合物も同様の作用機序を特徴とする。この目的のために、本発明による代表的化合物、ABZ1-Tyr2-Ile3-Phe4-Arg5-ANB6-NH2をジメチルスルホキシドに溶解し(0.5mg/mLの濃度で)、この溶液50μLを120μLの緩衝液(200mM Tris-HCl、pH8.0)及び肺がんを患う被験者の尿80μLと混合した。測定は、吸光度の測定用に設計された96ウェルプレート上で実施され、各サンプルは37℃の温度で3回分析された。測定時間は60分であった。測定中、放出される発色団(ANB-NH2)に特徴的な波長を波長405nm(範囲380~430nm)でモニターした。
【0090】
図1に示されているように、肺がんと診断された人から採取された尿を含む無作為選択系のRP HPLC分析によれば、本発明による化合物は、ペプチドフラグメントABZ-Tyr-Ile-Phe-Arg-OHと化合物の発色団基(ANB-NH
2)に切断されたことを示している。
【0091】
測定によれば、溶液の色強度は、肺がんと診断された人から採取されたすべての尿サンプルで時間と共に増加したことが示された。観察された、吸光度の経時的増加の規模は、検査サンプルごとに異なる。健常被験者から採取した20個のサンプルについては、試験した20個の尿サンプルのいずれにおいても診断範囲内で吸光度の増加が観察されなかったため、異なる結果が得られた。
【0092】
実施された試験によれば、肺がん患者の全サンプル1~50とも切断を受けたが、サンプル7と16の場合、基質すなわちABZ-Tyr-Ile-Phe-Arg-ANB-NH
2の切断はサンプル50又は42の場合より効率悪く進行したことが示されている(
図2)。このような結果は、酵素的切断(タンパク質分解)を担う酵素の活性ならびに量の差によるものであろう。さらに、以下の表1に示されている結果は、基質溶液(本発明による化合物)を、健常者(がんと診断されていない、順に1Z~25Zのアラビア数字でマーク)から採取した尿サンプルとインキュベートしても吸光度は増加しない、従って試験化合物の加水分解は起こらないことを示している。この結果は、肺がんに特異的/特徴的なタンパク質分解酵素が存在していないことを示すものである。
【0093】
表1.吸光度分析の結果
【0094】
【0095】
【0096】
【0097】
さらに、基質すなわち本発明による化合物の切断選択性が、検査されるがんに依存していることについても調べた。実施された試験の結果を
図3に示す。それによれば、下記のがん、すなわち、精巣、腸、腎臓、前立腺、膵臓、胆管、肺、卵巣、及び直腸のがんと診断された患者から採取したサンプルとインキュベートされた試験基質すなわちABZ
1-Tyr
2-Ile
3-Phe
4-Arg
5-ANB
6-NH
2は切断を受けず、特定範囲内で吸光度の増加も起こさないことが示されている。試験サンプルは、いずれの場合も、調べたそれぞれのがんから得られた20個のサンプルの混合物であった。このことは、本発明による化合物の切断選択性を示すものであり、当該化合物を肺がんに特異的な酵素活性の特異的検出及び肺がんの特異的診断に適切なものにしている。
【0098】
以下の表2に、各サンプルについて得られた3回の測定結果を示す。
表2.切断選択性の分析結果
【0099】
【0100】
さらに、本発明による代表的化合物のタンパク質分解活性の、反応pHへの依存性についての測定も実施した。実験によれば、研究材料はアルカリ性pHで最大活性を示す少なくとも一つの酵素を有していることが示された(
図4)。
【0101】
実施された分析から、本発明による化合物が、肺がんに特異的な酵素活性の高感度で特異的な検出に適切であること、同様に肺がんの特異的診断にも適切であること、そして肺がんの診断マーカーとしても適切であることが確認された。本発明による化合物の作用機序は、遊離発色団分子の放出をもたらす位置でのそれらの特異的酵素切断にあり、それによって、診断目的、特に本発明による肺がんの診断に使用できる測定可能な光シグナルが発生する。
【配列表】
【国際調査報告】