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特表2024-543653リン酸カリウム塩及びリン酸アンモニウム塩を含むNPK肥料を製造するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-21
(54)【発明の名称】リン酸カリウム塩及びリン酸アンモニウム塩を含むNPK肥料を製造するための方法
(51)【国際特許分類】
   C05G 1/00 20060101AFI20241114BHJP
   C01B 25/30 20060101ALI20241114BHJP
   C01B 25/28 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
C05G1/00 F
C01B25/30 D
C01B25/28 D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024534503
(86)(22)【出願日】2021-12-08
(85)【翻訳文提出日】2024-08-05
(86)【国際出願番号】 EP2021084769
(87)【国際公開番号】W WO2023104299
(87)【国際公開日】2023-06-15
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524217908
【氏名又は名称】フレクシッヒ・パテント・カンパニー・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】トマス・フレクシッヒ
(72)【発明者】
【氏名】フランク・フレクシッヒ
【テーマコード(参考)】
4H061
【Fターム(参考)】
4H061AA02
4H061BB09
4H061BB29
4H061BB55
4H061FF01
4H061GG28
4H061GG29
4H061GG41
4H061GG43
4H061LL02
4H061LL22
4H061LL24
(57)【要約】
本発明は、液体NPK肥料を製造するための方法であって、反応物質であるK2CO3又はKHCO3、NH4HCO3、及びH3PO4を水溶液中で反応させて、リン酸カリウム塩及びリン酸アンモニウム塩、特にK3PO4及び(NH4)3PO4を生成すること;反応が、複数の工程で行われ、少なくとも1つの発熱反応及び少なくとも1つの吸熱反応を含むこと;及び、様々な工程においてそれぞれの反応物質を加える量及び加える速度を調節することによって、反応の温度を制御するために外部の冷却装置又は加熱装置を必要とせずに、反応の温度を制御して、反応全体を通して反応混合物を所望の温度範囲内、好ましくは5℃~50℃の温度範囲内に保つようにすること、を特徴とする、方法に関する。より具体的な実施形態において、本発明による方法は、少なくとも1つの発熱反応が、KHCO3及びKOHを生成するためのK2CO3とH2Oとの反応、並びに/又はK3PO4、CO2、及びH2Oを生成するためのKHCO3とH3PO4との反応を含み、少なくとも1つの吸熱反応が、(NH4)3PO4、CO2、及びH2Oを生成するためのNH4HCO3とH3PO4との反応を含むことを特徴とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも養分である窒素、リン、及びカリウムを含む液体NPK肥料を製造するための方法であって、
反応物質であるK2CO3又はKHCO3、NH4HCO3、及びH3PO4を水溶液中で反応させて、リン酸カリウム塩及びリン酸アンモニウム塩、特にK3PO4及び(NH4)3PO4を生成すること、
反応が、複数の工程で行われ、少なくとも1つの発熱反応及び少なくとも1つの吸熱反応を含むこと、及び、
様々な工程においてそれぞれの反応物質を加える量及び加える速度を調節することによって、反応の温度を制御して、反応全体を通して反応混合物を所望の温度範囲に保つようにすることを特徴とする、方法。
【請求項2】
少なくとも1つの発熱反応が、KHCO3及びKOHを生成するためのK2CO3とH2Oとの反応、並びに/又は、K3PO4、CO2、及びH2Oを生成するためのKHCO3とH3PO4との反応を含むこと、及び、
少なくとも1つの吸熱反応が、(NH4)3PO4、CO2、及びH2Oを生成するためのNH4HCO3とH3PO4との反応を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
反応全体を通して反応混合物を5℃~50℃、好ましくは20℃~50℃の温度範囲に保つことを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
方法の最後の工程において、好ましくは、反応混合物のpHを6.5~7.3の範囲、好ましくは6.5~7.1の範囲、特に好ましくは6.5~6.9の範囲の値に調整することを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも下記の工程:
a)K2CO3又はKHCO3の最初の分量を撹拌しながら水中で混合する工程であって、加える量及び加える速度を調節することにより反応混合物の温度を50℃の最高温度に保つ工程、及び、次いでNH4HCO3の最初の分量を混合し、続いてH3PO4の最初の分量を混合する工程であって、NH4HCO3及びH3PO4を加える量及び加える速度を調節することによって、反応混合物の温度を少なくとも5℃、好ましくは少なくとも20℃の温度に保つ工程と、
b)K2CO3又はKHCO3、H3PO4、及びNH4HCO3のそれぞれの更なる分量をこの順序で混合する工程であって、それぞれの反応物質を加える量及び加える速度を調節することにより反応混合物の温度を、端点値を含む5℃~50℃の範囲、好ましくは20℃~34℃の範囲に保つ工程と、
c)K2CO3又はKHCO3、及びNH4HCO3の総量が加えられるまで、工程b)を繰り返す工程と、
d)任意選択で、工程a)~d)におけるK2CO3又はKHCO3、NH4HCO3、及びH3PO4の総使用量が、K2CO3又はKHCO3:NH4HCO3:H3PO4の所定のモル比に一致するまで、H3PO4の更なる分量を加える工程と、
e)反応混合物のpHが6.5~7.3の範囲の値に達するまで、更なるH3PO4を加える工程と
を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程a)において、K2CO3又はKHCO3の濃度が、1~6mol/l-水の範囲、好ましくは2~4mol/l-水の範囲であり、
NH4HCO3の濃度が、1~3mol/l-水の範囲、好ましくは1~2mol/l-水の範囲であり、
H3PO4の濃度が、1~3mol/l-水の範囲、好ましくは1~2mol/l-水の範囲である
ことを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
工程a)において、K2CO3又はKHCO3の最初の分量が、総使用量の5~20%、好ましくは総使用量の10~15%であり、
NH4HCO3の最初の分量が、総使用量の7~20%、好ましくは総使用量の10~15%であり、
H3PO4の最初の分量が、工程a)~d)における総使用量の30~75%、好ましくは総使用量の50~60%である
ことを特徴とする、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
工程a)において、K2CO3又はKHCO3:NH4HCO3:H3PO4のモル比が、0.05~0.2:0.07~0.2:0.3~0.75の範囲、好ましくは0.1~0.15:0.1~0.15:0.5~0.6の範囲であることを特徴とする、請求項5から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
工程a)~d)におけるK2CO3、NH4HCO3、及びH3PO4の総使用量のモル比K2CO3:NH4HCO3:H3PO4が、0.8~1.2:0.8~1.2:0.8~1.2の範囲、好ましくは約1:1:1の範囲であり、又は、
K2CO3の代わりにKHCO3がそれぞれ使用される場合、工程a)~d)におけるKHCO3、NH4HCO3、及びH3PO4の総使用量から得られるモル比KHCO3:NH4HCO3:H3PO4が、2.4~3.6:2.4~16:1.6~2.4の範囲、好ましくは3:3:2の範囲であることを特徴とする、請求項5から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
工程e)において、反応混合物のpHが、6.5~7.1の範囲、好ましくは6.5~6.9の範囲の値に達するまで、H3PO4を加えることを特徴とする、請求項5から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
少なくとも下記の工程:
a)K2CO3又はKHCO3の最初の分量を撹拌しながらH3PO4の水溶液に加える工程であって、加える量及び加える速度を調節することにより反応混合物の温度を50℃の最高温度に保つ工程、及び、次いでNH4HCO3の最初の分量を混合する工程であって、NH4HCO3を加える量及び加える速度を調節することにより反応混合物の温度を少なくとも5℃、好ましくは少なくとも20℃の温度に保つ工程と、
b)K2CO3又はKHCO3、NH4HCO3、及び任意選択でH3PO4の更なる分量をこの順序で混合する工程であって、それぞれの反応物質を加える量及び加える速度を調節することにより反応混合物の温度を、端点値を含む5℃~50℃の範囲、好ましくは20℃~34℃の範囲に保つ工程と、
c)工程a)~c)におけるK2CO3又はKHCO3、NH4HCO3、及びH3PO4の総使用量が、K2CO3又はKHCO3:NH4HCO3:H3PO4の所定のモル比に一致するまで、工程b)を繰り返す工程と、
d)反応混合物のpHが6.5~7.3の範囲の値に達するまで、更なるH3PO4を加える工程と
を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
工程a)において、H3PO4の濃度が、0.3~1.0mol/l-水の範囲、好ましくは0.5~0.6mol/l-水の範囲であり、
K2CO3又はKHCO3の濃度が、0.05mol~0.2mol/l-反応混合物の範囲、好ましくは0.1mol~0.15mol/l-反応混合物の範囲であり、
NH4HCO3の濃度が、0.07mol~0.2mol/l-反応混合物の範囲、好ましくは0.1mol~0.15mol/l-反応混合物の範囲である
ことを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
工程a)において、K2CO3又はKHCO3の最初の分量が、総使用量の5~20%、好ましくは総使用量の10~15%であり、
NH4HCO3の最初の分量が、総使用量の7~20%、好ましくは総使用量の10~15%であり、
H3PO4の最初の分量が、工程a)~c)における総使用量の30~100%、好ましくは総使用量の50~60%である
ことを特徴とする、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
工程a)において、K2CO3又はKHCO3:NH4HCO3:H3PO4のモル比が、0.05~0.2:0.07~0.2:0.3~1.0の範囲、好ましくは0.1~0.15:0.1~0.15:0.5~0.6の範囲であることを特徴とする、請求項11から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
工程a)~c)におけるK2CO3、NH4HCO3、及びH3PO4の総使用量のモル比K2CO3:NH4HCO3:H3PO4が、0.8~1.2:0.8~1.2:0.8~1.2の範囲、好ましくは約1:1:1の範囲であり、又は、
K2CO3の代わりにKHCO3がそれぞれ使用される場合、工程a)~c)におけるKHCO3、NH4HCO3、及びH3PO4の総使用量から得られるモル比KHCO3:NH4HCO3:H3PO4が、2.4~3.6:2.4~16:1.6~2.4の範囲、好ましくは約3:3:2の範囲であることを特徴とする、請求項11から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
工程d)において、反応混合物のpHが、6.5~7.1の範囲、好ましくは6.5~6.9の範囲の値に達するまで、H3PO4を加えることを特徴とする、請求項11から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
最後の工程における反応混合物のpHの調整を含め、方法の全ての工程が、1~2時間以内に完了することを特徴とする、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
反応の温度を制御するために冷却装置又は加熱装置を使用しないことを特徴とする、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
閉鎖系で行い、反応中に生成されたCO2を回収することを特徴とする、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
NPK肥料、すなわち少なくとも養分である窒素、リン、及びカリウムを含む植物肥料を製造するための複数の方法が先行技術において公知である。
【背景技術】
【0002】
最も単純なアプローチは、挙げた養分の少なくとも1つをそれぞれ含む様々な個々の成分を製造し、続いて、それらを混合して所望のNPK肥料を製造することである。
【0003】
別のアプローチは、必要とされる個々の成分を全て同時に製造することを目的とする。例えば、中国特許出願CN210595276 Uには、塩化カリウム、炭酸水素アンモニウム、及びリン酸が出発物質として用いられる、リン酸一アンモニウム及びリン酸水素カリウムの共同製造のための製造システムが記載されている。中国特許出願CN110423144には、主成分がリン酸水素二カリウムであり、リン酸一アンモニウムと炭酸カリウムとを2:1のモル比で反応させることにより製造されることを特徴とする、水溶性NPK肥料が開示されている。
【0004】
これらの方法では、NPK肥料又はその個々の成分を製造する他の従来の方法と同様に、冷却する(発熱反応の場合)又は加熱する(吸熱反応の場合)ことにより反応の温度を制御し、それらを適切な範囲内に保つことが必要である。このような方策は、製造コストを上昇させ、随伴するエネルギー消費に起因して環境に悪影響を及ぼす。
【0005】
更に、先行技術において公知である方法の多くは、装置の点で複雑であり(例えば、上記特許出願CN210595276 Uに記載されている製造システム)、且つ/又は比較的長い製造時間を伴う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】CN210595276 U
【特許文献2】CN110423144
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
こうした背景の下、本発明の主な目的は、先行技術の不利な点が回避される又は大幅に低減される、NPK肥料を製造するための改良された方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、この目的は、請求項1による方法を提供することによって解決される。本発明のより具体的な態様及び好ましい実施形態は、それ以降の請求項の主題である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、適切な吸熱反応と発熱反応とを連結し、正確に調整することによって、反応の温度を制御するために追加の冷却装置又は加熱装置を使用する必要がなく、必要とされる全ての成分を1つの反応混合物中に有するNPK肥料を製造することが可能であるという驚くべき発見に基づいている。
【0010】
少なくとも養分である窒素、リン、及びカリウムを含む液体NPK肥料を製造するための請求項1に記載の方法は、反応物質であるK2CO3又はKHCO3、NH4HCO3、及びH3PO4を水溶液中で反応させて、リン酸カリウム塩及びリン酸アンモニウム塩を生成し、特にK3PO4及び(NH4)3PO4を生成し、反応は、複数の工程で行われ、少なくとも1つの発熱反応及び少なくとも1つの吸熱反応を含み、反応全体を通して反応混合物を所望の温度範囲に保つように、様々な工程においてそれぞれの反応物質を加える量及び加える速度を調節することによって、反応の温度を制御することを特徴とする。
【0011】
より具体的な実施形態において、本発明による方法は、少なくとも1つの発熱反応が、下記の反応式(1)、(2)、及び(3)による、KHCO3及びKOHを生成するためのK2CO3とH2Oとの反応、並びに/又はK3PO4、CO2、及びH2Oを生成するためのKHCO3とH3PO4との反応を含み、少なくとも1つの吸熱反応が、下記の反応式(4)による、(NH4)3PO4、CO2、及びH2Oを生成するためのNH4HCO3とH3PO4との反応を含む又は構成することを特徴とする。
(1) 3 K2CO3 + 3 H2O → 3 KHCO3 + 3 KOH
(2) 3 KHCO3 + 3 KOH + 2 H3PO4 → 2 K3PO4 + 6 H2O + 3 CO2
(3) 3 KHCO3 + 1 H3PO4 → 1 K3PO4 + 3 H2O + 3 CO2
(4) 3 NH4HCO3 + 1 H3PO4 → 1 (NH4)3PO4 + 3 H2O + 3 CO2
【0012】
当業者は、これらの反応の主な生成物が、水溶液中の反応条件下ではイオンの形態である塩であることを理解するであろう。
【0013】
別段に明記しない限り、本願における範囲の特定は、それぞれの限界値を含む。
【0014】
反応混合物は、典型的には、反応全体を通して5℃~50℃、好ましくは20℃~50℃の温度範囲に保たれる。反応混合物の温度が上限の50℃を超えると、発泡が激しくなり過ぎ、反応が制御できなくなる。20℃未満、特に5℃未満の温度では、反応はかなり遅くなり、いくつかの反応物質、特にNH4HCO3の溶解度は大幅に低下する。
【0015】
本発明による方法の最後の工程において、好ましくは、反応混合物のpHは、6.5~7.3の範囲、好ましくは6.5~7.1の範囲、特に好ましくは6.5~6.9の範囲の値に調整される。
【0016】
本明細書で用いる「リン酸カリウム塩及びリン酸アンモニウム塩」という表現は、基本的に、本発明による方法のpH条件及びモル比の下で水溶液中に存在しうるイオンの形態にある全てのリン酸カリウム塩及びリン酸アンモニウム塩を含む。これらは、特にK3PO4及びK2HPO4、(NH4)3PO4及び(NH4)2HPO4である。
【0017】
pHが約8.5以上では、一般に、K3PO4及び(NH4)3PO4のみが存在するのに対して、pHが6.5~7.5の範囲では、K3PO4とK2HPO4との混合物及び(NH4)3PO4と(NH4)2HPO4との混合物が存在する。pHを6.5~7.3の最終値に調整した後、混合比は、典型的には、K3PO4約45%~55%対K2HPO4約55%~45%の範囲、及び(NH4)3PO4約45%~55%対(NH4)2HPO4約55%~45%の範囲である。
【0018】
より具体的な実施形態において、本発明による方法は、少なくとも下記の工程、
a)K2CO3又はKHCO3の最初の分量を撹拌しながら水中で混合する工程であり、加える量及び加える速度を調節することにより反応混合物の温度を50℃の最高温度に保つ工程、及び、次いでNH4HCO3の最初の分量を混合し、続いてH3PO4の最初の分量を混合する工程であり、NH4HCO3及びH3PO4を加える量及び加える速度を調節することにより反応混合物の温度を少なくとも5℃、好ましくは少なくとも20℃の温度に保つ工程と、
b)K2CO3又はKHCO3、H3PO4、及びNH4HCO3のそれぞれの更なる分量をこの順序で混合する工程であり、それぞれの反応物質を加える量及び加える速度を調節することにより反応混合物の温度を5℃~50℃の範囲、好ましくは20℃~34℃の範囲に保つ工程と、
c)K2CO3又はKHCO3及びNH4HCO3の総使用量が加えられるまで、工程b)を繰り返す工程と、
d)任意選択で、工程a)~d)におけるK2CO3又はKHCO3、NH4HCO3、及びH3PO4の総使用量が、K2CO3又はKHCO3:NH4HCO3:H3PO4の所定のモル比に一致するまで、H3PO4の更なる分量を加える工程と、
e)反応混合物のpHが6.5~7.3の範囲の値に達するまで、更なるH3PO4を加える工程と
を含む。
【0019】
工程a)において、K2CO3又はKHCO3の濃度は、典型的には、0.05~0.2mol/l-水の範囲、好ましくは0.1~0.15mol/l-水の範囲であり、NH4HCO3の濃度は、0.07~0.2mol/l-水の範囲、好ましくは0.1~0.15mol/l-水の範囲であり、H3PO4の濃度は、0.3~0.75mol/l-水の範囲、好ましくは0.1~0.15mol/l-水の範囲である。
【0020】
工程a)において、K2CO3又はKHCO3の最初の分量は、典型的には、総使用量の5~20%、好ましくは総使用量の10~15%であり、NH4HCO3の最初の分量は、総使用量の7~20%、好ましくは総使用量の10~15%であり、H3PO4の最初の分量は、工程a)~d)における総使用量の30~75%、好ましくは総使用量の50~60%である。
【0021】
更に、工程a)において、K2CO3又はKHCO3:NH4HCO3:H3PO4のモル比は、通常、0.05~0.2:0.07~0.2:0.3~0.75の範囲、好ましくは0.1~0.15:0.1~0.15:0.5~0.6の範囲である。
【0022】
工程b)は、工程c)が完了するまで少なくとも1回繰り返されるが、より多くの回数、例えば2~40回又は2~5回、典型的には12~25回繰り返されることも可能である。それぞれの反応物質をより少量ずつ使用して工程b)をより多くの回数繰り返すことによって、より正確な温度制御を達成できる。
【0023】
工程a)~d)におけるK2CO3、NH4HCO3、及びH3PO4の総使用量に起因するモル比K2CO3:NH4HCO3:H3PO4は、0.8~1.2:0.8~1.2:0.8~1.2の範囲で変わりうるが、0.95~1.05:0.95~1.05:0.95~1.05の範囲である反応物質のほぼ等モル比が好ましく、約1:1:1の比が特に好ましい。
【0024】
本発明による方法のこの実施形態においてK2CO3の代わりにKHCO3がそれぞれ使用される場合、工程a)~d)におけるKHCO3、NH4HCO3、及びH3PO4の総使用量に起因するモル比KHCO3:NH4HCO3:H3PO4は、2.4~3.6:2.4~3.6:1.6~2.4の範囲で変わりうるが、2.85~3.15:2.85~3.15:1.9~2.1の範囲である反応物質の比が好ましく、約3:3:2の比が特に好ましい。
【0025】
工程d)においてH3PO4の更なる分量を加えることは、工程a)~c)におけるK2CO3又はKHCO3、NH4HCO3、及びH3PO4の総使用量が、K2CO3又はKHCO3:NH4HCO3:H3PO4の所定のモル比、特に先の段落で規定したモル比に既に一致している場合、場合によっては省略されうるであろう。しかしながら、本発明による方法のこの実施形態は、好ましくは工程d)も含む。
【0026】
本発明による方法のこの変形形態の最後の工程、すなわち通常は工程e)において、反応混合物のpHが6.5~7.3の範囲、好ましくは6.5~7.1の範囲、特に好ましくは6.5~6.9の範囲の値に達するまで、追加のH3PO4が加えられる(典型的には、工程a)~d)における総使用量の約95%~100%)。
【0027】
有利なことに、最後の工程における反応混合物のpHの調整を含め、本発明による方法のこの変形形態の全ての工程は、一般に、1~2時間以内に完了する。典型的には、工程a)の時間は約10分、工程b)~d)の時間は約45~85分、工程e)の時間は約5~25分である。
【0028】
別の具体的な実施形態において、本発明による方法は、少なくとも下記の工程、
a)K2CO3又はKHCO3、好ましくはK2CO3の最初の分量を撹拌しながらH3PO4の水溶液に加える工程であり、加える量及び加える速度を調節することにより反応混合物の温度を50℃の最高温度に保つ工程、及び、次いでNH4HCO3の最初の分量を混合し、NH4HCO3を加える量及び加える速度を調節することにより反応混合物の温度を少なくとも5℃、好ましくは少なくとも20℃の温度に保つ工程と、
b)K2CO3又はKHCO3、NH4HCO3、及び任意選択でH3PO4の更なる分量をこの順序で混合する工程であり、それぞれの反応物質を加える量及び加える速度を調節することにより反応混合物の温度を5℃~50℃の範囲、好ましくは20℃~34℃の範囲に保つ工程と、
c)工程a)~c)におけるK2CO3又はKHCO3、NH4HCO3、及びH3PO4の総使用量が、K2CO3又はKHCO3:NH4HCO3:H3PO4の所定のモル比に一致するまで、工程b)を繰り返す工程と、
e)反応混合物のpHが6.5~7.3の範囲の値に達するまで、更なるH3PO4を加える工程と
を含む。
【0029】
工程a)において、H3PO4の濃度は、典型的には、0.3~0.75mol/l-水の範囲、好ましくは0.4~0.6mol/l-水の範囲であり、K2CO3又はKHCO3の濃度は、0.05~0.2mol/l-反応混合物、好ましくは0.1~0.15mol/l-反応混合物の範囲であり、NH4HCO3の濃度は、0.07~0.2mol/l-反応混合物、好ましくは0.1~0.15mol/l-反応混合物の範囲である。
【0030】
工程a)において、K2CO3又はKHCO3の最初の分量は、典型的には、総使用量の5~20%、好ましくは総使用量の10~15%であり、NH4HCO3の最初の分量は、総使用量の7~20%、好ましくは総使用量の10~15%であり、H3PO4の最初の分量は、工程a)~c)における総使用量の30~100%、好ましくは総使用量の50~60%である。
【0031】
更に、工程a)において、K2CO3又はKHCO3:NH4HCO3:H3PO4のモル比は、通常、0.05~0.2:0.07~0.2:0.3~0.75の範囲、好ましくは0.1~0.15:0.1~0.15:0.5~0.6の範囲である。
【0032】
工程b)は、工程c)が完了するまで少なくとも1回繰り返されるが、より多くの回数、例えば2~40回又は2~5回、典型的には12~25回繰り返されることも可能である。それぞれの反応物質をより少量ずつ使用して工程b)をより多くの回数繰り返すことによって、より正確な温度制御を達成できる。
【0033】
工程b)又はc)においてH3PO4の更なる分量を加えることは、工程a)におけるH3PO4の使用量並びに工程b)~c)におけるK2CO3又はKHCO3及びNH4HCO3の総使用量が、K2CO3又はKHCO3:NH4HCO3:H3PO4の所定のモル比、特に後の段落で規定するモル比に既に一致している場合、省略されうる。この実施形態は、実施例2に記載する。
【0034】
工程a)~c)におけるK2CO3、NH4HCO3、及びH3PO4の総使用量に起因するモル比K2CO3:NH4HCO3:H3PO4は、0.8~1.2:0.8~1.2:0.8~1.2の範囲で変わりうるが、0.95~1.05:0.95~1.05:0.95~1.05の範囲である反応物質のほぼ等モル比が好ましく、約1:1:1の比が特に好ましい。
【0035】
本発明による方法のこの変形形態においてK2CO3の代わりにKHCO3がそれぞれ使用される場合、工程a)~c)におけるKHCO3、NH4HCO3、及びH3PO4の総使用量に起因するモル比KHCO3:NH4HCO3:H3PO4は、2.4~3.6:2.4~3.6:1.6~2.4の範囲で変わりうるが、2.85~3.15:2.85~3.15:1.9~2.1の範囲である反応物質の比が好ましく、約3:3:2の比が特に好ましい。
【0036】
本発明による方法のこの変形形態の最後の工程d)において、反応混合物のpHが6.5~7.3の範囲、好ましくは6.5~7.1の範囲、特に好ましくは6.5~6.9の範囲の値に達するまで、追加のH3PO4が加えられる(典型的には、工程a)~c)における総使用量の約90%~100%)。
【0037】
有利なことに、最後の工程における反応混合物のpHの調整を含め、本発明による方法のこの変形形態の全ての工程は、一般に、1~2時間以内に完了する。典型的には、工程a)の時間は約10分、工程b)~c)の時間は約45~85分、工程d)の時間は約5~25分である。
【0038】
特許請求の範囲に記載の方法の更なる特別な利点は、本発明による発熱の部分反応と吸熱の部分反応とを連結し、調整することにより、外部の冷却装置又は加熱装置が反応の温度を制御するのに不要であることである。
【0039】
本発明による方法は、典型的には、閉鎖系で行われ、反応中に副生成物として生成されたCO2は回収され、任意選択で更なる用途のために提供される。このようにして、本発明による方法による環境汚染は、防止されうる。
【0040】
以下の実施例は、本発明による方法をより詳細に説明することを目的とするが、これらの実施形態の実施例の特定のパラメータ及び方法の条件に本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0041】
容積が15lである撹拌槽において、炭酸カリウム、炭酸水素アンモニウム、及びリン酸を、本発明の方法に従って下記のように反応させ、リン酸三カリウム及びリン酸三アンモニウムを含むNPK肥料を得た。
【0042】
a)本方法の最初の工程では、反応槽に9lの水(温度24.8℃)を満たし、次いで700gのK2CO3を撹拌しながら混合した。激しい発泡が起こり、反応槽の温度は45.6℃まで上昇し、pHは12.83に達した。この発熱の後、まず664gのNH4HCO3を撹拌しながら混合することによって、冷却するために吸熱反応を用いた。激しい発泡が再び起こり、反応槽の温度は40℃まで低下し、pHは12.3まで低下した。その後、242gのH3PO4(78%)を撹拌しながら加えた。温度は更に25.4℃まで低下し、pHは9.78に達した。
【0043】
b)本方法の次の工程では、460gのK2CO3を撹拌しながら反応混合物に加えた。激しい発泡が起こり、反応槽の温度は38.0℃まで上昇し、pHは12.5に達した。その後、322gのH3PO4(78%)を撹拌しながら加えた。温度は再び32.8℃まで低下し、pHは9.98に達した。続いて、再び撹拌しながら更に409gのNH4HCO3を混合すると、激しい発泡が起こり、温度は26.4℃、pHは9.5に低下した。
【0044】
c)この工程で、撹拌しながら340gのK2CO3を反応混合物に加えた。激しい発泡が起こり、反応槽の温度は30.9℃まで上昇し、pHは9.8に達した。その後、436gのH3PO4(78%)を撹拌しながら加えた。温度は31.8℃で安定し、pHは8.9に達した。続いて、再び撹拌しながら更に247gのNH4HCO3を混合すると、激しい発泡が起こり、温度は30.2℃、pHは8.8に低下した。
【0045】
d)撹拌しながら611gのH3PO4(78%)を更に加えた後、温度は30.4℃で安定し、pHは8.5に達した。
【0046】
e)続いて、436gのH3PO4(78%)を撹拌しながら加えて反応混合物を実質的に中和し、炭酸水素塩を炭酸に変換し、CO2として反応混合物から除去した。温度は30.2℃で安定し、pHは7.04に達した。得られた液体NPK肥料混合物の密度は、1.32g/cm3であった。
【0047】
下記のTable 1(表1)は、この実施形態の実施例の工程a)~d)についての必須の反応パラメータをまとめたものである。
【0048】
【表1】
【実施例2】
【0049】
容積が4lである撹拌槽において、炭酸カリウム、炭酸水素アンモニウム、及びリン酸を、本発明の方法に従って下記のように反応させ、リン酸三カリウム及びリン酸三アンモニウムを含むNPK肥料を得た。
【0050】
a)本方法の最初の工程では、0.7lの水(温度22.4℃)を有する反応槽に359gのH3PO4(78%)を満たし、次いで62gのK2CO3を撹拌しながら混合した。激しい発泡が起こり、反応槽の温度は上昇した。この発熱の後、まず201gのNH4HCO3を撹拌しながら混合することによって、冷却するために吸熱反応を用いた。激しい発泡が再び起こり、反応槽の温度は23.6℃まで低下し、pHは4.7まで上昇した。
【0051】
b)本方法の次の工程では、48gのK2CO3を撹拌しながら反応混合物に加えた。激しい発泡が起こり、反応槽の温度は上昇し、pHは更に上昇した。続いて、再び撹拌しながら更に83gのNH4HCO3を混合すると、激しい発泡が起こり、温度は23.6℃、pHは8.1に低下した。
【0052】
c)この工程で、撹拌しながら36.5gのK2CO3を反応混合物に加えた。激しい発泡が起こり、反応槽の温度は上昇し、pHも上昇した。続いて、再び撹拌しながら更に168.7gのNH4HCO3を混合すると、激しい発泡が起こり、温度は23.6℃、pHは8.5に低下した。
【0053】
d)中和のためのリン酸の追加:続いて、331gのH3PO4(78%)を撹拌しながら加えて反応混合物を実質的に中和し、炭酸水素塩を炭酸に変換し、CO2として反応混合物から除去した。温度は23.7℃で安定し、pHは6.7に達した。得られた液体NPK肥料混合物の密度は、1.32g/cm3であった。
【0054】
下記のTable 2(表2)は、この実施形態の実施例の工程a)~d)についての必須の反応パラメータをまとめたものである。
【0055】
【表2】
【国際調査報告】