(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-21
(54)【発明の名称】正浸透膜及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 61/00 20060101AFI20241114BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20241114BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20241114BHJP
B01D 71/48 20060101ALI20241114BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20241114BHJP
B01D 71/02 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
B01D61/00 500
B01D69/12
B01D69/10
B01D71/48
B01D69/02
B01D71/02
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024536325
(86)(22)【出願日】2022-02-28
(85)【翻訳文提出日】2024-06-17
(86)【国際出願番号】 CN2022078136
(87)【国際公開番号】W WO2023035555
(87)【国際公開日】2023-03-16
(31)【優先権主張番号】202111053419.X
(32)【優先日】2021-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524220296
【氏名又は名称】北京宝盛通国際電気工程技術有限公司
【氏名又は名称原語表記】BEIJING BAOSHENGTONG INTERNATIONAL ELECTRIC ENGINEERING TECHNOLOGY CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Room 1020, Building 12, Shifoying Xili, Chaoyang District Beijing 100025, China
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】唐 春
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA14
4D006KA33
4D006KD30
4D006MA09
4D006MA22
4D006MA31
4D006MB09
4D006MB19
4D006MC02
4D006MC18
4D006MC33
4D006MC35
4D006MC37
4D006MC39
4D006MC45
4D006MC48
4D006NA40
4D006NA41
4D006NA46
4D006PB02
4D006PB06
4D006PB08
(57)【要約】
正浸透膜及びその製造方法を提供する。この正浸透膜は、順次積層された膜構造を有し、親水性支持グリッド及び親水性ポリマーフィルム層を含む。支持グリッドは、抗菌ナノ粒子、特にナノAgとナノTiO2の混合物によって改質された不織布又はポリエステルスクリーンである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正浸透膜であって、
前記正浸透膜は、順次積層された膜構造を有し、この積層は、親水性支持グリッド及び親水性ポリマーフィルム層を含み、前記支持グリッドは、抗菌ナノ粒子で改質された不織布又はポリエステルスクリーンであり、前記支持グリッドは、下記の方法により抗菌ナノ粒子の改質を行い、即ち、ナノAgを質量百分率0.1-0.5wt.%、ナノTiO
2を質量百分率0.2-1wt.%で質量百分率2-8wt.%のポリビニルアルコール水溶液に入れ、超音波分散して懸濁液が得られ、支持グリッドをこの懸濁液に浸漬した後、乾燥させ、前記ナノAgの平均粒子径は20nmであり、ナノTiO
2の平均粒子径は5-10nmであり、前記正浸透膜は、0.5mol/L塩化ナトリウム、0.01mol/L硫酸マグネシウムをそれぞれドロー液及びフィード液とし、その膜の透過流束は8-13L/(m
2*h)であり、硫酸マグネシウムの阻止率は97%よりも高く、抗菌率は90%よりも高く、富栄養化の原水に10日間浸漬した後、洗い流してから引き続き試験した結果、その抗菌性は依然として90%以上に保持されることを特徴とする、正浸透膜。
【請求項2】
前記ナノAgとナノTiO
2との質量比は1:2であることを特徴とする、請求項1に記載の正浸透膜。
【請求項3】
前記支持グリッドの厚さは30μm-80μmであり、孔径は100-200メッシュであり、前記正浸透膜の厚さは50μm-100μmであることを特徴とする、請求項2に記載の正浸透膜。
【請求項4】
前記支持グリッドの厚さは30μm、50μm又は70μmであり、孔径は100メッシュ、120メッシュ又は150メッシュであり、前記正浸透膜の厚さは50μm、70μm又は100μmであることを特徴とする、請求項3に記載の正浸透膜。
【請求項5】
前記親水性ポリマー材料は、ポリアクリロニトリル、ポリアクリレート、ポリメチルメタクリレート、酢酸セルロース、三酢酸セルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド及びポリ酢酸ビニルのうちの少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の正浸透膜。
【請求項6】
正浸透膜の製造方法であって、前記方法は、
(a)抗菌改質支持グリッドの製造:前記支持グリッドは親水性不織布又はポリエステルスクリーンであり、前記抗菌改質支持グリッドは、ナノAg、ナノTiO
2改質支持グリッドであり、下記の方法により製造され、即ち、ナノAgを質量百分率0.1-0.5wt.%、ナノTiO
2を質量百分率0.2-1wt.%で質量百分率2-8wt.%のポリビニルアルコール水溶液に入れ、超音波分散して懸濁液を調製し、支持グリッドをこの懸濁液に浸漬した後、乾燥させるステップと、
(b)キャスト液の調製:親水性ポリマーを水溶性溶媒系に入れて混合してキャスト液を調製するステップと、
(c)ステップ(b)で調製されたキャスト液をステップ(a)で製造された抗菌改質支持グリッドが敷かれたガラス板に注ぎ、特定の厚さを有する初期正浸透膜を得るステップと、
(d)初期正浸透膜の外層を処理し、溶媒を除去し、初期正浸透膜の外層に緻密皮層を形成し、第2初期正浸透膜を得るステップと、
(e)第2初期正浸透膜に対して相分離膜形成又は界面膜形成を行い、前記正浸透膜を得るステップと、
を含み、
前記ナノAgの平均粒子径は20nmであり、ナノTiO
2の平均粒子径は5-10nmであり、前記正浸透膜は、0.5mol/L塩化ナトリウム、0.01mol/L硫酸マグネシウムをそれぞれドロー液及びフィード液とした場合、その膜透過流束は8-13L/(m
2*h)であり、硫酸マグネシウムの阻止率は97%よりも高く、抗菌率は90%よりも高く、富栄養化の原水に10日間浸漬した後、洗い流してから引き続き試験した結果、その抗菌性は依然として90%以上に保持されることを特徴とする、製造方法。
【請求項7】
前記支持グリッドの厚さは30μm-80μmであり、孔径は100-200メッシュであり、前記正浸透膜の厚さは50μm-100μmであることを特徴とする、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記支持グリッドの厚さは30μm、50μm又は70μmであり、孔径は100メッシュ、120メッシュ又は150メッシュであり、正浸透膜の厚さは50μm、70μm又は100μmであることを特徴とする、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記親水性ポリマー材料は、ポリアクリロニトリル、ポリアクリレート、ポリメチルメタクリレート、酢酸セルロース、三酢酸セルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド及びポリ酢酸ビニルのうちの少なくとも1種であることを特徴とする、請求項6から8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
下記のステップをさらに含む。
(b-1)ステップ(b)で得られたキャスト液を脱泡し、
前記ステップ(c)は、さらに、ステップ(b-1)で脱泡したキャスト液を親水性支持グリッドが敷かれたガラス板に注ぎ、フィルムアプリケーターを用いて特定の厚さを有する初期正浸透膜を製造し、
前記ステップ(d)の外層処理及び溶媒除去では、得られた初期正浸透膜を空気中に静置し、溶媒を揮発して外層に緻密皮層を形成し、
前記ステップ(e)において、第2初期正浸透膜を脱イオン水に浸漬することにより、ゲル化し、相分離が発生して膜が形成され、
(f)ステップ(e)で得られた正浸透膜を脱イオン水に浸漬して残留有機溶媒を除去し、
(g)正浸透膜を取り出し、脱イオン水で洗い流した後、メタ重亜硫酸ナトリウムの溶液に入れて使用まで保存しておくことを特徴とする、請求項6に記載の製造方法。
【請求項11】
前記親水性支持グリッドは、ポリエステルスクリーンであり、その厚さが30μm、50μm又は70μmであり、孔径が100メッシュ、120メッシュ又は150メッシュであり、前洗浄処理された後に使用され、前洗浄処理ステップにおいて、ポリエステルスクリーンをそれぞれ10%の水酸化ナトリウム、2%の塩酸で1時間浸漬処理して表面に吸着した不純物を除去し、その後、脱イオン水で洗い流し、乾燥させて保存しておき、フィルムアプリケーターで製造された前記初期正浸透膜は、厚さが30μm-100μmであることを特徴とする、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記製造方法のステップ(b)において、混合条件として、30-50℃の温度下で12-48h撹拌して均一に混合し、脱泡方式として、12-36h静置して十分に脱泡し、又は超音波で脱泡を補助し、空気中に静置する条件として、温度25℃以下及び湿度90%以上の環境で30-90秒静置して緻密皮層を形成し、前記製造方法のステップ(f)において、膜を脱イオン水に浸漬する前に、膜を40-50℃の水浴に入れて5-20分間熱処理した後、脱イオン水に入れて残留有機溶媒を除去する浸漬時間は12-36時間であり、前記製造方法のステップ(g)におけるメタ重亜硫酸ナトリウムの濃度は0.5-2%であることを特徴とする、請求項11に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年9月9日に出願された中国特許出願第202111053419.X号の優先権を主張し、その全内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、高分子分離膜及びその製造の技術分野に関し、具体的には、抗菌正浸透膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
正浸透(FO)過程とは、以ドロー液とフィード液との間の浸透圧差を駆動力として、水を低浸透圧の原水側から選択透過膜を透過して自動的に高浸透圧のドロー液側に拡散させる過程を指し、この過程は、外力とエネルギーが必要ではない。
【0004】
限外濾過、ナノ濾過、逆浸透技術などの圧力で駆動する膜分離過程と異なり、正浸透は、低圧又は無圧で操作可能であるため、動作エネルギー消費量が低い。低圧動作の場合、圧力によるケーキ層の形成がなく、膜汚染が低いとの特徴を有する。
【0005】
十分な浸透圧差がある場合、従来の分離膜によって達成できない高水回収率が実現され得る。
【0006】
正浸透の低エネルギー消費量、低膜汚染及び高阻止率などの特徴に基づいて、正浸透技術は、新しい膜分離技術として近年急速に発展し、国内外の研究者の間でも注目され、食品、医薬、エネルギーなどの分野で使用されており、特に海水淡水化、飲料水処理、廃水処理などの多くの分野での応用が期待されている。
【0007】
理想的な正浸透膜は、良好な親水性、高透過流束、高塩阻止率、低内部濃度差、耐用、良好な抗菌性などを同時に有する必要がある。これらは、この分野で近年注目されている研究の方向でもある。例えば、中国特許出願第CN201811285404.4号には、膜の厚さを減少させながら、グラフェンにより膜の強度を増強し、水透過流束を向上させ、内部濃度差の分極を減少させる支持グリッドがなく、グラフェンが添加された正浸透膜が開示されている。中国特許出願第CN201410065806.9号には、三酢酸セルロースにキチンナノ結晶粒子を添加することにより内部濃度差の分極を減少させ、親水性を向上させ、内部濃度差の分極を減少させることが開示されている。この2つの特許技術に開示又は記載されている技術的手段は、抗菌作用を有するが、いずれも正浸透膜の活性層にグラフェン材質又はキチンナノ結晶を添加することで改質された正浸透膜の三酢酸セルロース膜層を提供し、主に解決するのは、水透過流束を向上させ、内部濃度差の分極を減少させるなどの性能問題であり、抗菌効果はあまり高くない。
【0008】
近年、正浸透技術の理解により、正浸透膜はより複雑な水質に適応できるようになるが、従来の技術及び製品において、例えば、上記の特許文献及び特許技術に開示された正浸透膜は、その抗菌性効率が不足するため、複雑で富栄養化の水質における正浸透膜の長時間で効果的な使用を満たすことができず、長時間の使用では、富栄養化の原水は、大量の細菌が原水側に増殖しやすく、膜を汚染して詰めて膜の性能に影響を与えるとの問題を引き起こしやすい。現在、全面的で高性能な正浸透膜を提供することが急務となっており、正浸透効率を向上させる重要な要素となっている。
【発明の概要】
【0009】
本発明の目的は、細菌増殖を抑制し、抗菌効果を向上させることで正浸透膜の性能を向上できる正浸透膜を提供することである。
【0010】
本発明の別の目的は、細菌増殖を抑制し、抗菌効果を向上させることで正浸透膜の性能を向上できる正浸透膜の製造方法を提供することである。
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明は、下記の技術的手段を採用する。
本発明は、正浸透膜に関する。本発明で提供される正浸透膜は、順次積層される膜構造を有する。この積層は、親水性支持グリッド及び親水性ポリマーフィルム層を含む。前記支持グリッドは、抗菌ナノ粒子によって改質された不織布又はポリエステルスクリーンである。
【0012】
本発明の別の好ましい実施形態において、前記抗菌ナノ粒子は、ナノAgとナノTiO2の混合物である。両者の質量比は1:1~1:5である。前記ナノAgの平均粒子径は20nmであり、ナノTiO2の平均粒子径は5-10nmである。好ましくは、前記ナノAgとナノTiO2の質量比は、1:2であり、より好ましくは、ナノAgは0.2wt.%、ナノTiO2は0.4wt.%であり、前記より好ましい比率は、改質懸濁液に対する質量比である。
【0013】
本発明の別の好ましい実施形態において、前記支持グリッドの厚さは30μm-80μmであり、孔径は100-200メッシュである。前記正浸透膜の厚さは、30μm-100μmである。好ましくは、前記支持グリッドの厚さは、30μm、50μm又は70μmであり、孔径は、100メッシュ、120メッシュ又は150メッシュである。好ましくは、正浸透膜の厚さは、30μm、50μm、70μm又は100μmである。
【0014】
本発明の別の好ましい実施形態において、抗菌ナノ粒子によって改質された支持グリッドは、下記の方法により製造される。即ち、ナノAgを質量百分率0.1-0.5wt.%、ナノTiO2を質量百分率0.2-1wt.%で質量百分率2-8wt.%のポリビニルアルコール水溶液に入れ、超音波分散して改質懸濁液を調製し、ポリエステルスクリーンをこの懸濁液に浸漬した後、自然に乾燥させることにより得られる。好ましくは、ナノAgの質量百分率は0.2wt.%であり、ナノTiO2の質量百分率は0.4wt.%であり、ポリビニルアルコール水溶液は4wt.%である。
【0015】
本発明の別の好ましい実施形態において、前記親水性ポリマーの材料は、ポリアクリロニトリル、ポリアクリレート、ポリメチルメタクリレート、酢酸セルロース、三酢酸セルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド及びポリ酢酸ビニルのうちの少なくとも1種である。
【0016】
本発明の別の目的に応じて、本発明は、正浸透膜の製造方法にも関する。前記方法は、
(a)抗菌改質支持グリッドの製造:前記支持グリッドは親水性不織布又はポリエステルスクリーンであるステップと、
(b)キャスト液の調製:親水性ポリマーを水溶性溶媒系に入れて混合してキャスト液を調製するステップと、
(c)ステップ(b)で調製されたキャスト液をステップ(a)で製造された抗菌改質支持グリッドが敷かれたガラス板に注ぎ、特定の厚さを有する初期正浸透膜を得るステップと、
(d)初期正浸透膜の外層を処理し、溶媒を除去し、初期正浸透膜の外層に緻密皮層を形成し、第2初期正浸透膜を得るステップと、
(e)第2初期正浸透膜に対して相分離膜形成又は界面膜形成を行い、前記正浸透膜を得るステップと、
を含む。
【0017】
前記抗菌改質支持グリッドは、ナノAg及びナノTiO2改質ポリエステルスクリーンであり、下記の方法により製造される。即ち、ナノAg及びナノTiO2をポリビニルアルコール水溶液に入れ、懸濁液を調製し、ポリエステルスクリーンをこの懸濁液に浸漬した後、乾燥させ、使用まで保存しておく。
【0018】
前記懸濁液は、下記の方法により得られる。即ち、ナノAgを按質量百分率0.1-0.5wt.%、ナノTiO2を質量百分率0.2-1wt.%で質量百分率2-8wt.%のポリビニルアルコール水溶液に入れ、超音波分散して得られる。好ましくは、前記ナノAgの質量百分率は0.2wt.%であり、ナノTiO2の質量百分率は1wt.%であり、ポリビニルアルコールの質量百分率は4wt.%である。好ましくは、前記ナノAgの質量百分率は0.2wt.%であり、ナノTiO2の質量百分率は0.4wt.%である。
【0019】
前記支持グリッドの厚さは30μm-80μm、孔径は100-200メッシュである。前記正浸透膜の厚さは30μm-100μmである。好ましくは、前記支持グリッドの厚さは30μm、50μm又は70μmであり、孔径は100メッシュ、120メッシュ又は150メッシュである。好ましくは、正浸透膜の厚さは30μm、50μm、70μm又は100μmである。
【0020】
前記親水性ポリマーの材料は、ポリアクリロニトリル、ポリアクリレート、ポリメチルメタクリレート、酢酸セルロース、三酢酸セルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド及びポリ酢酸ビニルのうちの少なくとも1種である。前記溶媒系は、1,4-ジオキサン、アセトン、メタノール及び乳酸の混合液を含む。前記親水性ポリマーの質量百分率は8-15wt.%であり、1,4-ジオキサンの質量百分率は30-60wt.%であり、アセトンの質量百分率は5-20wt.%であり、メタノールの質量百分率は5-10wt.%であり、乳酸の質量百分率は6-8wt.%である。
【0021】
下記のステップをさらに含む。
(b-1)ステップ(b)で得られたキャスト液を脱泡する。
前記ステップ(c)は、さらに、ステップ(b-1)で脱泡したキャスト液を抗菌改質親水性支持グリッドが敷かれたガラス板に注ぎ、フィルムアプリケーターを用いて特定の厚さを有する初期正浸透膜を製造する。
前記ステップ(d)の外層処理及び溶媒除去では、得られた初期正浸透膜を空気中に静置し、溶媒を揮発して外層に緻密皮層を形成する。
前記ステップ(e)において、第2初期正浸透膜を脱イオン水に浸漬することにより、ゲル化し、相分離が発生して膜が形成される。
(f)ステップ(e)で得られた正浸透膜を脱イオン水に浸漬して残留有機溶媒を除去する。
(g)正浸透膜を取り出し、脱イオン水で洗い流した後、メタ重亜硫酸ナトリウムの溶液に入れて使用まで保存しておく。
【0022】
前記親水性支持グリッドは、ポリエステルスクリーンであり、前洗浄処理された後に使用される。前洗浄処理ステップにおいて、ポリエステルスクリーンをそれぞれ10%の水酸化ナトリウム、2%の塩酸で1時間浸漬処理して表面に吸着した不純物を除去し、その後、脱イオン水で洗い流し、乾燥させて保存しておく。フィルムアプリケーターで製造された前記初期正浸透膜は、厚さが30μm-100μmである。
【0023】
前記製造方法のステップ(b)において、混合条件として、30-50℃の温度下で12-48h撹拌して均一に混合し、好ましくは、40℃の温度下で24h撹拌する。前記脱泡方式として、12-36h静置して十分に脱泡し、又は超音波で脱泡を補助し、好ましくは、24時間静置して脱泡する。空気中に静置する条件として、温度25℃以下及び湿度90%以上の環境で30-90秒静置して緻密皮層を形成し、好ましくは温度25℃及び湿度90%の環境で60秒静置する。前記製造方法のステップ(f)において、膜を脱イオン水に浸漬する前に、膜を40-50℃の水浴に入れて5-20分間熱処理した後、脱イオン水に入れて残留有機溶媒を除去する浸漬時間は12-36時間であり、好ましくは、24h浸漬する。前記製造方法のステップ(g)におけるメタ重亜硫酸ナトリウムの濃度は0.5-2%であり、好ましくは、1%の濃度である。
【0024】
本発明で提供される正浸透膜及びその製造方法において、膜の支持グリッド層に抗菌ナノ粒子、特にナノAgとナノTiO2の混合物を完全に覆うように設けることにより、正浸透膜の強度、水透過流束、塩阻止率が低下することなく、効果的で、長時間、全面的な抗菌効果を提供する。本発明において、抗菌ナノ粒子、特にナノAgとナノTiO2の混合物により正浸透膜の支持グリッドを抗菌改質することによって、正浸透膜上の細菌の増殖が抑制され、正浸透性が向上するとともに、浄化・濾過システム全体の安全性が向上する。本発明の抗菌正浸透膜は、複雑な水源の濾過、浄化、特に富栄養化で細菌が増殖しやすい水源の浄化、濾過に適用することができる。また、ナノ銀の安全性は商業的に認められており、その素材は食器や哺乳瓶などのベビー用品に広く使用されている。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の正浸透膜の製造プロセスのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の目的を達成するための技術的手段及び効果をさらに説明するために、以下、図面及び好ましい実施例により、本発明の正浸透膜及びその製造方法、その具体的な実施形態、構造、製造方法、特徴及び機能を説明する。本明細書では、以下の実施例により本発明をさらに説明するが、以下の実施例は本発明を説明擦るものに過ぎず、本発明を制限するものではない。
【0027】
図1は、本発明の正浸透膜の製造プロセスのフローチャートである。具体的なプロセスは下記である。
1.抗菌性支持グリッドの製造:支持グリッドは、親水性不織布又はポリエステルスクリーンである。本発明において、さらに好ましくは、ナノAgとナノTiO
2で改質されたポリエステルスクリーンを製造する。ナノAg及びナノTiO
2をポリビニルアルコール水溶液に入れ、超音波分散して懸濁液を調製し、支持グリッドをこの懸濁液に浸漬した後、自然乾燥させ、使用まで保存しておく。
2.キャスト液の調製:親水性ポリマー材料と有機溶媒系とを均一に混合する。本発明において、さらに親水性ポリマー材料を水溶性有機溶媒系混合液に入れ、30℃-50℃の温度下で12-48h撹拌した後、均一なキャスト液が得られる。本発明において、さらに好ましくは、三酢酸セルロースを1,4-ジオキサン、アセトン、メタノール及び乳酸の混合液に入れ、40℃の温度下で24h撹拌した後、均一なキャスト液が得られる。
3.脱泡:ステップ2で得られたキャスト液を12-36h静置して十分に脱泡し又は超音波脱泡で補助する。本発明において、さらに好ましくは、キャスト液を24h静置して十分に脱泡する。
4.初期正浸透膜の製造:完全に脱泡したキャスト液を製造された抗菌性支持グリッドが敷かれたガラス板に注ぎ、フィルムアプリケーターを用いて特定の厚さを有する初期正浸透膜を製造する。
5.製膜:ステップ4で得られた膜を所定の温度及び湿度の環境下で、空気中で数秒静置して緻密な皮層を形成し、その後、脱イオン水に浸漬することにより、ゲル化し、相分離が発生して膜が形成される。本発明において、好ましくは、温度25℃以下、湿度90%以上の空気中に30-90秒静置する。
6.最適化処理:ステップ5で得られた膜を40-50℃の水浴に入れ、5-20分間熱処理し、その後、脱イオン水に24h浸漬して残留有機溶媒を除去し、さらに最適化された正浸透膜を得る。
7.使用まで保存:正浸透膜を取り出し、脱イオン水で洗い流した後、0.5-2%メタ重亜硫酸ナトリウムの溶液、好ましくは、1%のメタ重亜硫酸ナトリウム溶液に入れ、使用まで保存しておく。必要に応じて使用まで保存しておくかを決定する。
【0028】
以下、本発明で提供される正浸透膜の製造方法をさらに説明する。
ナノAg/TiO2改質ポリエステルスクリーンの製造:ナノAgを質量百分率0.1-0.5wt.%、ナノTiO2を質量百分率0.2-1wt.%で質量百分率2-8wt.%のポリビニルアルコール水溶液に入れ、超音波分散して懸濁液を調製し、ポリエステルスクリーンをこの懸濁液に浸漬した後、自然乾燥させ、使用まで保存しておく。
製造キャスト液:三酢酸セルロースを質量百分率8-15wt.%でアセトン質量百分率5-20wt.%、メタノール質量百分率5-10wt.%及び乳酸質量百分率6-8wt.%、残部位1,4-ジオキサンの混合液に入れ、40℃の温度下で24h撹拌した後、均一なキャスト液が得られ、得られたキャスト液を24h静置して十分に脱泡し又は超音波脱泡で補助する。
完全に脱泡したキャスト液を製造された改質ポリエステルスクリーンが敷かれたガラス板に注ぎ、フィルムアプリケーターを用いて30-100μmの初期正浸透膜を製造する。前のステップで得られた膜を温度25℃及び湿度90%の環境中で空気に60-90秒静置して緻密な皮層を形成し、その後、脱イオン水に浸漬することでゲルし、相分離が発生して膜を形成する。改質ポリエステルスクリーンの厚さは30μm-80μmであり、好ましくは、30μm、50μm又は70μmである。
【0029】
ゲル相分離膜形成により得られた正浸透膜を40-50℃の水浴に入れて5-15分間熱処理し、その後、脱イオン水に24h浸漬して残留有機溶媒を除去すうr。
【0030】
本発明の抗菌性正浸透膜は、0.5mol/L塩化ナトリウム、0.01mol/L硫酸マグネシウムをそれぞれドロー液及びフィード液とすることにより、膜の透過流束は8-13L/(m2*h)に達し、硫酸マグネシウムの阻止率は97%よりも高く、抗菌率は90%よりも高く、抗菌耐久性試験での抗菌率は90%よりも高い。
【0031】
以下、具体的な実施例により本発明をさらに説明する。
【0032】
実施例1
1.厚さ30μm、孔径100メッシュのポリエステルスクリーンをそれぞれ2%の塩酸、10%の水酸化ナトリウムで1時間浸漬処理して表面に吸着した不純物を除去した後、脱イオン水で洗い流し、乾燥させ、使用まで保存しておいた。
2.ナノAg、ナノTiO2改質ポリエステルスクリーンの製造:ナノAgを質量百分率0.2wt.%、ナノTiO2を質量百分率0.4wt.%で質量百分率4wt.%のポリビニルアルコール水溶液に入れ、超音波分散して懸濁液を調製し、ポリエステルスクリーンをこの懸濁液に浸漬した後、自然乾燥させ、使用まで保存しておいた。
3.三酢酸セルロースを質量百分率13wt.%で1,4-ジオキサンの質量百分率54wt.%、アセトンの質量百分率19wt.%、メタノールの質量百分率8wt.%及び乳酸の質量百分率6%の混合液に入れ、40℃の温度下で24h撹拌した後、均一なキャスト液を調製した。
4.ステップ3で得られたキャスト液を24h静置し、十分に脱泡し又は超音波脱泡で補助した。
5.完全に脱泡したキャスト液を、製造された厚さ30μmの改質ポリエステルスクリーンが敷かれたガラス板に注ぎ、フィルムアプリケーターを用いて厚さ50μmの初期正浸透膜を製造した。
6.ステップ5で得られた膜を温度25℃及び湿度90%の環境において空気中に30秒静置し、緻密な皮層を形成し、その後、脱イオン水に浸漬することで、ゲル化し、相分離が発生して膜を形成した。
7.ステップ6で得られた膜を50℃の水浴に入れて15分間熱処理し、その後、脱イオン水に24h浸漬して残留有機溶媒を除去した。
【0033】
膜の性能
上記のステップで製造された正浸透膜は、厚さが50μmであり、0.5mol/L塩化ナトリウム、0.01mol/L硫酸マグネシウムをそれぞれドロー液及びフィード液とした場合、その膜透過流束は12.5L/(m2*h)に達し、硫酸マグネシウムの阻止率は97.8%であり、抗菌率は95%であった。抗菌耐久性試験での抗菌率は93%であった。具体的な性能試験を表1に示す。
【0034】
実施例2
1.厚さ50μm、孔径100メッシュのポリエステルスクリーンをそれぞれ2%の塩酸、10%の水酸化ナトリウムで1時間浸漬処理して表面に吸着した不純物を除去した後、脱イオン水で洗い流し、乾燥させ、使用まで保存しておいた。
2.ナノAg、ナノTiO2改質ポリエステルスクリーンの製造:ナノAgを質量百分率0.2wt.%、ナノTiO2を質量百分率0.4wt.%で質量百分率4wt.%のポリビニルアルコール水溶液に入れ、超音波分散して懸濁液を調製し、ポリエステルスクリーンをこの懸濁液に浸漬した後、自然乾燥させ、使用まで保存しておいた。
3.三酢酸セルロースを質量百分率13wt.%で1,4-ジオキサンの質量百分率54wt.%、アセトンの質量百分率19wt.%、メタノールの質量百分率8wt.%及び乳酸の質量百分率6%の混合液に入れ、40℃の温度下で24h撹拌した後、均一なキャスト液を調製した。
4.得られたキャスト液を24h静置し、十分に脱泡し又は超音波脱泡で補助した。
5.完全に脱泡したキャスト液を、製造された厚さ50μmの改質ポリエステルスクリーンが敷かれたガラス板に注ぎ、フィルムアプリケーターを用いて厚さ70μmの初期正浸透膜を製造した。
6.ステップ5で得られた膜を温度25℃及び湿度90%の環境において空気中に60秒静置し、緻密な皮層を形成し、その後、脱イオン水に浸漬することで、ゲル化し、相分離が発生して膜を形成した。
7.ステップ6で得られた膜を45℃の水浴に入れて20分間熱処理し、その後、脱イオン水に24h浸漬して残留有機溶媒を除去した。
【0035】
膜の性能
上記のステップで製造された正浸透膜は、厚さが70μmであり、0.5mol/L塩化ナトリウム、0.01mol/L硫酸マグネシウムをそれぞれドロー液及びフィード液とした場合、その膜透過流束は11.0L/(m2*h)に達し、硫酸マグネシウムの阻止率は98.1%であり、抗菌率は94%であった。抗菌耐久性試験での抗菌率は92%であった。具体的な性能試験を表1に示す。
【0036】
実施例3
1.厚さ50μm、孔径100メッシュのポリエステルスクリーンをそれぞれ2%の塩酸、10%の水酸化ナトリウムで1時間浸漬処理して表面に吸着した不純物を除去した後、脱イオン水で洗い流し、乾燥させ、使用まで保存しておいた。
2.ナノAg、ナノTiO2改質ポリエステルスクリーンの製造:ナノAgを質量百分率0.2wt.%、ナノTiO2を質量百分率0.4wt.%で質量百分率4wt.%のポリビニルアルコール水溶液に入れ、超音波分散して懸濁液を調製し、ポリエステルスクリーンをこの懸濁液に浸漬した後、自然乾燥させ、使用まで保存しておいた。
3.三酢酸セルロースを質量百分率10wt.%で1,4-ジオキサンの質量百分率57wt.%、アセトンの質量百分率19wt.%、メタノールの質量百分率8wt.%及び乳酸の質量百分率6%の混合液に入れ、40℃の温度下で24h撹拌した後、均一なキャスト液を調製した。
4.得られたキャスト液を24h静置し、十分に脱泡し又は超音波脱泡で補助した。
5.完全に脱泡したキャスト液を、製造された厚さ50μmの改質ポリエステルスクリーンが敷かれたガラス板に注ぎ、フィルムアプリケーターを用いて厚さ100μmの初期正浸透膜を製造した。
6.ステップ5で得られた膜を温度25℃及び湿度90%の環境において空気中に80秒静置し、緻密な皮層を形成し、その後、脱イオン水に浸漬することで、ゲル化し、相分離が発生して膜を形成した。
7.ステップ6で得られた膜を40℃の水浴に入れて15分間熱処理し、その後、脱イオン水に24h浸漬して残留有機溶媒を除去した。
【0037】
膜の性能
上記のステップで製造された正浸透膜は、厚さが100μmであり、0.5mol/L塩化ナトリウム、0.01mol/L硫酸マグネシウムをそれぞれドロー液及びフィード液とした場合、その膜透過流束は10.5L/(m2*h)に達し、硫酸マグネシウムの阻止率は98.2%であり、抗菌率は95%であった。抗菌耐久性試験での抗菌率は93%であった。具体的な性能試験を表1に示す。
【0038】
表1:0.5mol/L塩化ナトリウム、0.01mol/L硫酸マグネシウムをそれぞれドロー液及びフィード液とする膜の性能評価
【0039】
【0040】
表1から分かるように、抗菌性支持グリッドを設けた本発明の正浸透膜は、高い抗菌性を有し、富栄養化の原水に10日間浸漬した後、簡単に洗い流して引き続き試験した結果、その抗菌性は依然として90%以上保持され、膜の透過流束及び塩阻止率性も影響を受けなかった。従来の三酢酸セルロースからなる正浸透膜及び従来製品の正浸透膜が抗菌性を有しないため、浸漬時間の増加に伴って、生物増殖のため、膜の性能が著しく低下した。
【0041】
本発明の実施例において、水酸化ナトリウム、塩酸及びメタ重亜硫酸ナトリウムの濃度は質量比で計算される。
【0042】
本発明で提供される正浸透膜及びその製造方法において、発明された正浸透膜は、抗菌改質支持グリッドを有する正浸透膜であり、富栄養化の原水の環境条件下で細菌の増殖を抑制し、正浸透膜の浸透性を向上させ、正浸透膜が長期間有効に使用でき、正浸透膜システムの使用寿命を延長し、使用コストを削減することができる。
【0043】
本明細書において、特定の実施例により本発明を説明したが、明らかなように、本発明の思想及び範囲から逸脱することなく、様々な修正及び変更を加えることができる。したがって、本発明の明細書及び図面は、説明的なものであり、制限的なものではない。
【国際調査報告】