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特表2024-543709腫瘍の治療における1,4-ジヒドロ-ナフチリジン系誘導体の使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-21
(54)【発明の名称】腫瘍の治療における1,4-ジヒドロ-ナフチリジン系誘導体の使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4375 20060101AFI20241114BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241114BHJP
   A61K 31/395 20060101ALI20241114BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
A61K31/4375
A61P35/00
A61K31/395
A61P43/00 121
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024537031
(86)(22)【出願日】2022-11-21
(85)【翻訳文提出日】2024-06-18
(86)【国際出願番号】 CN2022133165
(87)【国際公開番号】W WO2023116304
(87)【国際公開日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】202111599362.3
(32)【優先日】2021-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523266350
【氏名又は名称】ニューロドーン ファーマシューティカル カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジャン、ジェンピン
(72)【発明者】
【氏名】リ、フーロン
(72)【発明者】
【氏名】ワン、レイ
(72)【発明者】
【氏名】チェン、ロン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、ウェイドン
(72)【発明者】
【氏名】ファン、ファン
(72)【発明者】
【氏名】アン、ウェンジー
(72)【発明者】
【氏名】ホア、ヤオ
(72)【発明者】
【氏名】フェン、リン
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB05
4C086CB09
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZC75
(57)【要約】
本発明は、腫瘍の治療における1,4-ジヒドロ-ナフチリジン系誘導体の応用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
腫瘍を治療するための医薬品の調製における下記の式Iで表される1,4-ジヒドロ-ナフチリジン系誘導体又はその薬学的に許容される塩の使用。
【化1】

(ここで、R又はRは、水素、ハロゲン、又はC1~C6アルキル基であり、
は、その任意の-CH-が1つ又は2つ以上の-O-で置換されてもよいC1~C6アルキル基であり、
は、水素、又はハロゲンである。)
【請求項2】
腫瘍を治療するための医薬品の調製における下記の化合物1~6から選択されたいずれか一つの1,4-ジヒドロ-ナフチリジン系誘導体又はその薬学的に許容される塩の使用。
S1で示される化合物1:
【化2】

S2で示される化合物2:
【化3】

S3で示される化合物3:
【化4】

S4で示される化合物4:
【化5】

S5で示される化合物5:
【化6】

S6で示される化合物6:
【化7】

【請求項3】
固形腫瘍の治療における前記1,4-ジヒドロ-ナフチリジン系誘導体の使用であることを特徴とする、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
神経系腫瘍の治療における前記1,4-ジヒドロ-ナフチリジン系誘導体の使用であることを特徴とする、請求項2に記載の使用。
【請求項5】
脳腫瘍の治療における前記1,4-ジヒドロ-ナフチリジン系誘導体の使用であることを特徴とする、請求項2に記載の使用。
【請求項6】
神経膠腫の治療における前記1,4-ジヒドロ-ナフチリジン系誘導体の使用であることを特徴とする、請求項2に記載の使用。
【請求項7】
膠芽腫の治療における前記1,4-ジヒドロ-ナフチリジン系誘導体の使用であることを特徴とする、請求項2に記載の使用。
【請求項8】
肝臓癌、結腸癌、胃癌の治療における前記1,4-ジヒドロ-ナフチリジン系誘導体の使用であることを特徴とする、請求項2に記載の使用。
【請求項9】
神経膠腫を治療するために前記1,4-ジヒドロ-ナフチリジン系誘導体をテモゾロミド(temozolomide)と併用することを特徴とする、請求項2に記載の使用。
【請求項10】
神経膠腫を治療するために前記1,4-ジヒドロ-ナフチリジン系誘導体を放射線療法と併用することを特徴とする、請求項2に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
相互参照
本出願は、2021年12月24日中国特許庁に出願され、出願番号202111599362.3、発明の名称「腫瘍の治療における1,4-ジヒドロ-ナフチリジン系誘導体の使用」である中国特許出願の優先権を主張し、その全内容は援用により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、製薬分野に属し、1,4-ジヒドロ-ナフチリジン系誘導体の新たな用途、より具体的には、抗腫瘍薬の製造における1,4-ジヒドロ-ナフチリジン系誘導体の応用に関する。前記腫瘍は、神経系腫瘍及び非神経系腫瘍を含む固形腫瘍である。前記神経系腫瘍としては膠芽腫、神経芽細胞腫などが挙げられる。前記非神経系腫瘍としては肝臓癌、結腸癌、胃癌などが挙げられる。
【背景技術】
【0003】
膠芽腫(Glioblastoma,GBM)は最も一般的な悪性原発性頭蓋内腫瘍であり、神経膠腫の約57%、原発性中枢神経系(central nervous system,CNS)悪性腫瘍の48%(Neuro-oncology,2018.20:p.iv1-iv86)を占める。膠芽腫による死亡率は非常に高い。米国では2000年から2014年までの膠芽腫患者は1年生存率が41.4%、5年生存率がわずか5.8%(CA:a cancer journal for clinicians,2020.70(4):p.299-312)であった。膠芽腫の病因に関しては、電離放射線だけが可能な発症原因として分かれ、まだほとんど解明されていないところである。これは、膠芽腫の予防及び治療に一定の困難をもたらす。
【0004】
悪性度によれば、神経膠腫はグレードI~IVに分類される。その中で、グレードI、IIは悪性度がより低い神経膠腫であり、グレードIII、IVは悪性度がより高い神経膠腫である。膠芽腫の治療法には主に外科的切除、放射線療法、全身療法(化学療法、標的療法)があり、その中で術後のテモゾロミド放射線療法と補助化学療法の同時併用は、新たに診断された膠芽腫の標準治療計画となっている。現在の主な化学療法薬には、テモゾロミドに加えて、ニトロソウレア類、プロカルバジン、プラチナ類、ビンブラスチン類及びカンプトテシン類などが含まれる。しかしながら、従来の化学療法薬の抗腫瘍作用機序は現在の臨床ニーズを満たすことができない。
【0005】
真核細胞において、マクロピノサイトーシスは、細胞外物質が細胞内へ取り込まれ、かつ分子が溶解するための重要な経路である。マクロピノサイトーシスのプロセスは腫瘍細胞に対して二重の影響を及ぼす。栄養が不足した場合には、腫瘍細胞はマクロピノサイトーシス経路を通じて細胞外栄養物質を内部に取り込むことにより腫瘍細胞の増殖が促進されるが、薬剤処理やRAS遺伝子の異常発現によりマクロピノサイトーシスプロセスが過剰的に活性化された場合には、新しい死様式としてメチューシス(Methuosis)が誘発される可能性がある。メチューシスは、プロテアーゼ非依存性の新しい細胞死様式であり、細胞質がマクロピノサイトソームに由来する多数の空胞で満たされていることを主に特徴とする。この死様式は膠芽腫細胞で最初に発見された(Oncogene,1999.18(13):p.2281-90)。さらなる研究により、この死様式はクラスリンに依存しないマクロピノサイトソームの変化によって引き起こされ、最終的に多数の空胞を形成し、細胞の破裂及び死を引き起こすことが発見された(Journal of medicinal chemistry,2012.55(5):p.1940-56)。現在の研究によると、Ras、Rac1、Arf6、Rab7などを含む様々な分子がマクロピノサイトソームの形成に関与していることが発見された(The American journal of pathology,2014.184(6):p.1630-42)。Rac1はアクチンの集合を調節することでマクロピノサイトソームの形成に影響を及ぼす可能性がある。また、Rac1の活性化により、GIT-1を介して活性化されたArf6が減少し、さらにマクロピノサイトソームの循環が妨げられる可能性がある(Molecular cancer research:MCR,2010.8(10):p.1358-74)。また、近年、メタンフェタミン、インドリルカルコン、バキノール-1、MOMIPP、CX-5011などを含むいくつかの小分子化合物が、MKK4、JNK、Rac1などの機序を活性化することによって細胞のメチューシスが誘発されることは続々と発見されていた(Oncotarget 2016,7,55863-55889;BMC cancer 2019,19,77;BBA-Molecular Cell Research 2020,118807)。
【0006】
1,4-ジヒドロ-ナフチリジン系誘導体は、アセチルコリンエステラーゼの活性を阻害できるだけでなく、細胞外カルシウムイオンがカルシウムチャネルを通じて細胞内へ流入することを遮断することもできる化合物である。1,4-ジヒドロ-ナフチリジン系誘導体はコリンエステラーゼの活性を阻害することで、アセチルコリンの加水分解速度が遅くなり、シナプス間隙におけるアセチルコリンレベルが向上し、アルツハイマー病や血管性認知症の治療が図れる(特許番号CN104203945B、特開番号CN106632317A)。また、カルシウムイオンの流入を抑制することにより、虚血への神経細胞の耐性の改善、脳血管の拡張、脳血液供給の改善、ニューロンの保護が図れ、また血管性認知症の患者の認知機能の改善に有効である。
【発明の概要】
【0007】
1,4-ジヒドロ-ナフチリジン系誘導体は、アセチルコリンエステラーゼの活性を阻害できるだけでなく、細胞外カルシウムイオンがカルシウムチャネルを通じて細胞内へ流入することを遮断することもできる化合物であり、アルツハイマー病や血管性認知症の治療に使用できる。これらの化合物は、コリンエステラーゼ阻害やカルシウムチャネル遮断に依存しない新しい作用機序により腫瘍細胞のメチューシスを誘発し、抗腫瘍の作用を発揮することができる。
【0008】
本発明の目的は、新しい機序により腫瘍を治療し、患者の生存期間を効果的に延長できる1,4-ジヒドロ-ナフチリジン系誘導体又はその薬学的に許容される塩を提供することである。
【0009】
具体的には、本発明は、腫瘍を治療するための医薬品の調製における、式Iで表される1,4-ジヒドロ-ナフチリジン系誘導体又はその薬学的に許容される塩の使用を提供する。
【化1】

ここで、R又はRは、水素、ハロゲン又はC1~C6アルキル基であり、
は、任意の-CH-が1つ又は2つ以上の-O-で置換されてもよいC1~C6アルキル基であり、
は、水素又はハロゲンである。
【0010】
具体的には、前記誘導体は、以下の化合物1~6から選択される。
S1で示される化合物1:
【化2】

S2で示される化合物2:
【化3】

S3で示される化合物3:
【化4】

S4で示される化合物4:
【化5】

S5で示される化合物5:
【化6】

S6で示される化合物6:
【化7】

【0011】
上記薬剤は、腫瘍細胞のメチューシスを誘発して空胞化の細胞表現型を現せ、また腫瘍細胞の増殖を阻害して腫瘍の成長を阻害するという役割を果たし、それにより最終的に腫瘍を治療する目的が達成される。
【0012】
そこで、本発明は、抗腫瘍薬の製造における1,4-ジヒドロ-ナフチリジン系誘導体又はその薬学的に許容される塩ならびにその医薬組成物の新たな使用を提供する。
【0013】
前記腫瘍は、神経系腫瘍及び非神経系腫瘍を含む固形腫瘍である。前記神経系腫瘍としては膠芽腫、神経芽細胞腫などが挙げられる。前記非神経系腫瘍としては肝臓癌、結腸癌、胃癌などが挙げられる。
【0014】
具体的には、本発明は、固形腫瘍の治療における1,4-ジヒドロ-ナフチリジン系誘導体の使用を提供する。
【0015】
本発明は、神経系腫瘍の治療における1,4-ジヒドロ-ナフチリジン系誘導体の使用を提供する。
【0016】
本発明は、脳腫瘍の治療における1,4-ジヒドロ-ナフチリジン系誘導体の使用を提供する。
【0017】
また、本発明は、神経膠腫の治療における1,4-ジヒドロ-ナフチリジン系誘導体の使用を提供する。
【0018】
また、本発明は、膠芽腫の治療における1,4-ジヒドロ-ナフチリジン系誘導体の使用を提供する。
【0019】
また、本発明は、肝臓癌、結腸癌、胃癌の治療における1,4-ジヒドロ-ナフチリジン系誘導体の使用を提供する。
【0020】
また、本発明は、神経膠腫の治療における1,4-ジヒドロ-ナフチリジン系誘導体とテモゾロミド(temozolomide)との組み合わせの使用を提供する。
【0021】
また、本発明は、神経膠腫の治療における1,4-ジヒドロ-ナフチリジン系誘導体と放射線療法との組み合わせの使用を提供する。
【0022】
本発明の利点及びプラスの効果:
本発明で提供される腫瘍治療のための新規薬剤としての1,4-ジヒドロ-ナフチリジン系誘導体は、腫瘍細胞のメチューシスを特異的に誘発する薬剤であり、正常細胞への影響が少なく、腫瘍治療のための安全かつ効果的な薬剤の開発に有利である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、1,4-ジヒドロ-ナフチリジン系誘導体によって誘発されたT98細胞の空胞化表現型を示すものである。
図2図2は、S2によって誘発された様々な腫瘍細胞の空胞化を示すものである。
図3図3は、カルシウムチャネル阻害剤によって腫瘍細胞の空胞化が誘発されなかったことを示すものである。
図4図4は、コリンエステラーゼ阻害剤によって腫瘍細胞の空胞化が誘発されなかったことを示すものである。
図5図5は、カルシウムチャネル阻害剤とコリンエステラーゼ阻害剤との併用によって腫瘍細胞の空胞化が誘発されなかったことを示すものである。
図6図6は、2週間のS2投与がヌードマウスの脳内のU87MG神経膠腫の成長曲線に対して与えた影響を示すものである。
図7図7は、2週間のS2投与によりヌードマウスの脳内のU87MG神経膠腫の成長が阻害されたことを示すものである。
図8図8は、S2により神経膠腫の脳同所移植ヌードマウスの生存期間が延長されたことを示すグラフである。
図9図9は、2週間のS2+TMZ併用投与がヌードマウス脳内のU87MG神経膠腫の成長曲線に対して与えた影響を示すものである。
図10図10は、2週間のS2+TMZ併用投与が脳内の神経膠腫の成長に対して与えた影響を示すものである。
図11図11は、S2+TMZ併用投与によりU87MG脳上皮内癌マウスの生存が延長されたことを示すグラフである。
図12図12は、TMZはT98神経膠腫の成長を阻害できず、固形腫瘍の体積及び重量を減少できなかったことを示すものである。
図13図13は、S2によりT98神経膠腫の成長が阻害され、固形腫瘍の体積及び重量が減少したことを示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下の実施例は本発明を例示的に説明するものであり、本発明を限定するものと解釈されないように理解されたい。
【0025】
実施例1 膠芽腫細胞に対する1,4-ジヒドロ-ナフチリジン系誘導体の空胞化誘発作用及び増殖阻害作用に関する研究
1.材料及び方法
1.1 細胞
ヒト神経膠腫細胞系T98G細胞は南京科佰生物科技有限公司(COBIOER BIOSCIENCES CO.,LTD)から購入された。
【0026】
1.2 1,4-ジヒドロ-ナフチリジン系誘導体の番号及び構造
【表1】
【0027】
1.3 化合物溶液の調製
被験対象化合物を一定量秤量し、DMSOで溶解し、最終濃度100mMの均一溶液を作製した。
【0028】
1.4 試薬及び消耗品
【表2】
【0029】
1.5 細胞培養及び細胞表現型の観察
T98G細胞を2回安定に継代し、細胞密度が85%以上に達したら、0.05%トリプシン-EDTAで3分間消化し、細胞を培地に再懸濁し、12ウェルプレートに各ウェル1mLで一定の密度で接種した。24時間培養し、上記で調製した化合物溶液を、培養系中の化合物濃度がそれぞれ5μM、10μM、20μM、40μM、60μMとなるように、群分けの状況に応じて各ウェルにそれぞれ加えた。対照ウェルとして等体積のDMSOを加えた。
【0030】
薬剤添加して6時間処理した後、顕微鏡20×対物レンズで観察し、各ウェルについて5つの視野をランダムに選択して写真を撮影して記録した。観察された視野において、細胞内に境界がはっきりした明るい空胞が現れ、かつ1)直径が3μMを超えた空胞を少なくとも1つ含むこと、及び2)直径が0.5~3μMの範囲内である空胞を3つ以上含むことという2つの条件のうちの任意の一つを少なくとも満たした場合は、メチューシス陽性細胞と認められる。
【0031】
空胞化率R(%)=CELL陽性/(CELL正常+CELL陽性)×100%
ここで、CELL陽性はメチューシス陽性細胞の数を表し、CELL正常は正常な形態の細胞の数を表す。
【0032】
1.6 細胞増殖阻害の検出
T98G細胞を2回安定に継代し、細胞密度が85%以上に達したら、0.05%トリプシン-EDTAで3分間消化し、細胞を再懸濁し、所定の密度で96ウェルプレートに接種し、24時間培養し、培養系の最終濃度が0.41μM、1.23μM、3.7μM、11.1μM、33.3μM、100μMになるように72時間薬剤添加処理を行った後、CellCounting-LiteTM 2.0キットを使用して細胞生存率を検出した。CellCounting-LiteTM 2.0キットの説明書に従って100μL/ウェル試薬を加え、10分間振盪し、多機能プレートリーダーで化学発光値(LUM)を読み取り、細胞の相対生存率を算出した。
【0033】
腫瘍細胞の相対生存率V(%)=(LUM-LUMバックグラウンド)/(LUM正常対照群-LUMバックグラウンド群)×100%
ただし、LUMバックグラウンドは、検出試薬を完全培地ウェルに添加したバックグラウンド読み取り値である。GraphPad Prism 8.0.1統計ソフトウェアを使用して半数阻害濃度(IC50)を推算した。
【0034】
2.実験結果
2.1 1,4-ジヒドロ-ナフチリジン系誘導体によって誘発されたT98G細胞の空胞化
S1、S2((+)-S2及び(-)-S2を含む)、S3、S4、S5及びS6により、T98の空胞化を誘発することができた(図1及び表1)。それらの化合物の中で、S1は空胞化を誘発する活性が最も弱く、S2は空胞化を誘発する活性が最も強かった。
【0035】
【表3】

表中、データは平均値±SDとして表され、「-」は化合物が沈殿析出したから、データが計算されなかったことを表す。
【0036】
2.2 1,4-ジヒドロ-ナフチリジン系誘導体によってT98G細胞増殖が阻害されたこと
表2に示す腫瘍増殖阻害活性IC50から、1,4-ジヒドロ-ナフチリジン系誘導体により神経腫瘍細胞T98Gの増殖を阻害することができたことが分かった。それらの化合物の中で、S1の増殖阻害活性が弱く、空胞化を誘発する活性とほぼ一致した。
【0037】
【表4】
【0038】
実施例2 S2のインビトロでの腫瘍細胞増殖に対する阻害活性に関する研究
1. 材料及び方法
1.1 細胞
ヒト神経膠腫細胞系U87MG、ヒト神経膠腫細胞系T98G及びヒト神経膠腫細胞系U251は南京科佰生物科技有限公司から購入された。ヒト神経膠腫細胞系A172、ヒト神経芽細胞腫細胞SK-N-SH、ヒト肝臓癌細胞系HepG2、マウス結腸癌細胞系CT26.WT及びハムスター卵巣細胞亜株CHO-K1は、Wuhan Pricella Biotechnology Co.,Ltd.から購入された。
【0039】
1.2 試薬及び消耗品
【表5】
【0040】
1.3 投与溶液の調製
S2粉末を精密に秤量し、DMSOで溶解し、母液として濃度100mMの均一溶液を調製した。
【0041】
1.4 細胞培養及び細胞表現型の観察
U87MG、T98G、U251、SK-N-SH、A-172及びHepG2などの細胞をMEM+10%FBS+1%P/S培地に接着培養し、1:3で継代した。CT26.WTをRPMI-1640+10% FBS+1% P/S培地に接着培養し、1:3で継代した。CHO-K1をHam’s F-12K+10% FBS+1% P/S培地に接着培養し、1:3で継代した。
【0042】
上記で使用した細胞を蘇生した後に2回安定に継代し、細胞密度が85%以上に達したら、0.05%トリプシン-EDTAで3分間消化し、培地で細胞を再懸濁し、6ウェルプレートに各ウェル2mLで一定の密度で接種し、24時間培養し、群分けの状況に応じて上記で調製したS2溶液(DMSO最終濃度0.1%)を各ウェルにそれぞれ2μL加え、細胞培養系内のS2濃度が30μMに達するようにした。
【0043】
薬剤添加して6時間処理した後、顕微鏡20×対物レンズで観察し、各ウェルについて5つの視野をランダムに選択して写真を撮影して記録した。観察された視野において、細胞内に境界がはっきりした明るい空胞が現れ、1)直径が3μMを超えた空胞を少なくとも1つ含むこと、2)直径が0.5~3μM範囲内である空胞を3つ以上含むことという2つの条件のうちの任意の一つを少なくとも満たした場合は、メチューシス陽性細胞と認められる(Journal of Medicinal Chemistry 2018 61(12),5424-5434)。
【0044】
空胞化率R(%)=CELL陽性/(CELL正常+CELL陽性)×100%
ここで、CELL陽性はメチューシス陽性細胞の数を表し、CELL正常は正常な形態の細胞の数を表す。
【0045】
1.5 細胞生存率の検出
上記の各種類の細胞を蘇生して2回安定に継代し、細胞密度が85%以上に達したら、0.05%トリプシン-EDTAで3分間消化し、細胞を再懸濁し、所定密度で96ウェルプレートに接種し、24時間培養し、培養系の最終濃度が0.41μM、1.23μM、3.7μM、11.1μM、33.3μM、100μMになるように48時間薬剤添加処理を行った後、Cell Counting-LiteTM 2.0キットを使用して細胞生存率を検出した。Cell Counting-LiteTM 2.0キットの説明書に従って100μL/ウェル試薬を加え、10分間振盪し、多機能プレートリーダーで化学発光値(LUM)読み取り、細胞の相対生存率を算出した。
【0046】
腫瘍細胞の相対生存率V(%)=(LUM-LUMバックグラウンド)/(LUM正常対照群-LUMバックグラウンド群)×100%
ただし、LUMバックグラウンドは、この検出試薬を完全培地ウェルに添加したバックグラウンド読み取り値であった。GraphPad Prism 8.0.1統計ソフトウェアを使用して半数阻害濃度(IC50)を推算した。
【0047】
2. 実験結果
2.1 S2によって誘発された腫瘍細胞の空胞化
S2により、ヒト神経膠腫細胞系U87MG、T98G、U251及びA172、ヒト神経芽腫細胞系SK-N-SHなどの神経腫瘍細胞の空胞化(図2のA~D)を誘発することができ、しかもヒト肝臓癌細胞HepG2及びマウス結腸癌細胞CT26.WTを含む非神経系腫瘍細胞の空胞化(図2のA~D)を誘発することもできた。けれども、S2は非腫瘍細胞系ハムスター卵巣細胞CHO-K1の空胞化を誘発しなかった。
【0048】
2.2 S2によって腫瘍細胞増殖が阻害されたこと
S2は、神経腫瘍細胞及び非神経腫瘍系の増殖を阻害することができたが(IC50は4.7~14.3μMの範囲であった)、非腫瘍細胞系の増殖に対しては阻害作用が非常に弱かった(IC50>100μM)ことが分かった(表3を参考)。
【0049】
【表6】
【0050】
実施例3 T98細胞空胞化表現型に対するAChE阻害剤及びVGCC遮断剤の影響
1. 材料及び方法
1.1 細胞
ヒト神経膠腫細胞系T98GはCOBIOER BIOSCIENCES CO.,LTDから購入された。
【0051】
1.2 試薬及び消耗品
【表7】
【0052】
1.3 投与溶液の調製
被験対象薬剤には、ニフェジピン、ベラパミル、ジルチアゼム、フルナリジン及びドネペジルが含まれた。
【0053】
上記被験対象薬剤を精密に秤量し、DMSOで溶解し、母液として濃度20mMの均一溶液をそれぞれ調製した。
【0054】
1.4 細胞培養及び細胞表現型の観察
T98G細胞を2回安定に継代し、細胞密度が85%以上に達したら、0.05%トリプシン-EDTAで3分間消化し、培地で細胞を再懸濁し、12ウェルプレートに各ウェル1mLで一定の密度で接種した。24時間培養し、上記で調製した化合物溶液を、培養系中の化合物濃度がそれぞれ0.1μM、1μM、5μM、20μMとなるように、群分けの状況に応じて各ウェルにそれぞれ加えた。対照ウェルとして等体積のDMSOを加えた。
【0055】
薬剤添加して6時間処理した後、顕微鏡20×対物レンズで観察した。観察された視野において、細胞内に境界がはっきりした明るい空胞が現れ、かつ1)直径が3μMを超えた空胞を少なくとも1つを含むこと、2)直径が0.5~3μM範囲内である空胞を3つ以上含むことという2つの条件のうちの任意の一つを少なくとも満たした場合は、メチューシス陽性細胞と認められる。
【0056】
2.実験結果
2.1 カルシウムチャネル阻害剤(VGCC)によって腫瘍細胞の空胞化を誘発することができなかったこと
カルシウムチャネル阻害剤であるニフェジピン、ベラパミル、ジルチアゼム、フルナリジン(最大薬物濃度20μM)のいずれかにより、ヒト神経膠腫細胞系T98Gの空胞化細胞表現型を誘発することができなかった(図3)。
【0057】
2.2 コリンエステラーゼ(AChE)阻害剤により腫瘍細胞の空胞化を誘発することができなかったこと
コリンエステラーゼ阻害剤であるドネペジル(最大薬物濃度20μM)により、ヒト神経膠腫細胞系T98Gの空胞化細胞表現型を誘発することができなかった(図4)。
【0058】
2.3 カルシウムチャネル阻害剤とコリンエステラーゼ阻害剤との併用により腫瘍細胞の空胞化を誘発することができなかったこと
カルシウムチャネル阻害剤であるニフェジピン又はベラパミル(20μM)とコリンエステラーゼ阻害剤ドネペジル(20μM)を併用することにより、ヒト神経膠腫細胞系T98Gの空胞化細胞表現型を誘発することができなかった(図5)。
【0059】
実施例4 U87MG-Luc膠芽腫細胞をヌードマウスに同所移植した腫瘍モデルに対するS2の薬効研究試験
1.材料及び方法
1.1実験動物
LINGCHANG BIOTECHBから購入されたALB/c Nudeヌードマウス、雄、SPFグレード、体重20~22g。
【0060】
1.2 試薬及び消耗品
この実験における主な試薬情報は次の通りである。
【表8】
【0061】
1.3 実験設備
この実験における主な設備情報は次の通りである。
【表9】
【0062】
1.4 投与製剤の調製
S2に対して、溶媒として5%エタノール+0.8%ソルトール+5%グルコースを使用した。
調製方法:適量のS2を取り、無水エタノールを所定の比例で加えて超音波で溶解し、ソルトールHS-15を所定の比例で加えて超音波で混合し(痕跡現象がないことを確認)、超音波中、精製水をゆっくりと加えて溶解した後、グルコースを所定の比例で加え、超音波で溶解して溶液を取得し、溶液を4℃で放置して光を避けながら保存した。
【0063】
1.5 実験方法
1.5.1 U87MG-Luc膠芽腫細胞をヌードマウスに同所移植した腫瘍モデルの作製
接種前のU87MG-Luc細胞を0.05%-トリプシン-EDTAで消化し、予冷したPBSで4×10cell/mLになるように再懸濁し、氷の上に置いておいた。ヌードマウスをイソフルランガスで麻酔し、その後麻酔した動物を定位固定装置に腹臥位で固定し、ヌードマウスの頭皮をヨードフォアで消毒し、ヌードマウスの頭皮をメスで矢状に切開し、ヨードフォアで切開部をきれいにし、頭蓋骨を露出させ、ブレグマの前で1.0mM拡張し、右側に2.0mM開き、頭蓋骨ドリルを使用して穴を開けた。10μLのフラットヘッドマイクロシリンジを使用して5μLの細胞懸濁液(2×10細胞)を手動で注射した。なお、針の挿入深さは3.5mM、針の引き抜きは0.5mM、注射時間は約10分間であった。5分間針を止めた後、ゆっくりと針を抜き、滅菌して切開部を縫合し、最後に感染を防ぐために5万単位のペニシリンを筋肉注射した。
【0064】
1.5.2 動物の群分け及び投与
今回の実験はモデル群、TMZ群、S2投薬群-LD(0.25mg/kg)、S2投薬群-MD(0.5mg/kg)、S2投薬群-HD(1mg/kg)の5群に分けた。モデリングされた動物を等しい確率で一重盲検法で各群に分けた。接種後5日目から、薬剤を1日1回、15日間静脈内投与した。モデル群には、溶媒を1日1回、15日間静脈内投与した。
【0065】
1.5.3 脳内の腫瘍細胞の生体内イメージング
接種後4、12、18、25日目に、15mg/mLのD-フルオレセインカリウム塩溶液(溶液は0.22μMのフィルターでろ過滅菌した)200μLを腹腔内注射し、10分後にマウスの生体内イメージングシステム(PE社IVIS Lumina XR)を使用してIVI化学発光検出(明視野+生物発光イメージング)を行った。Living Imageソフトウェアを使用して蛍光強度分析を行い、蛍光強度[p/s]を取得した。蛍光強度のデータにより、実験動物の脳内における腫瘍組織のサイズが反映される。
【0066】
1.5.4 動物の生存期間記録
実験動物の生存状況を検出し、動物の死亡日をタイムリーに記録した。
【0067】
1.6 データの統計分析
定量的データは、平均値±標準誤差として表される。各薬力学指数については、GraphPad Prism(8.0.1)ソフトウェアにより図を作成し、一元配置分散分析(one-way ANOVA)又は二元配置反復分散分析(two-way repeat ANOVA)を行い、そしてFisher’s LSD検定により群間差異を分析し、カプラン・マイヤー法により生存分析を行った。P<0.05の場合は、有意差があると定義した。
【0068】
2. 実験結果
2.1 S2によりヌードマウスの脳に同所移植されたU87MG神経膠腫の成長が阻害されたこと
S2投薬群-MD(0.5mg/kg、IV)及びS2投薬群-HD(1mg/kg、IV)の両方は、溶媒群と比較して脳内のU87MG上皮内腫瘍の増殖を有意に阻害することができた(図6のA及びB)。2週間の投与後、S2投薬群-MD(0.5mg/kg、IV)及びS2投薬群-HD(1mg/kg、IV)は、溶媒群と比較して有意な腫瘍増殖阻害作用を示した。その中で、S2投薬群-HD(1mg/kg、IV)は、腫瘍阻害作用が一番最も強かった(図7のA及びB)。
【0069】
2.2 S2により神経膠腫の脳同所移植ヌードマウスの生存期間が延長されたこと
ログランク検定(Log-rank)により生存曲線分析を行った結果、S2投薬群-MD(0.5mg/kg、IV)及びS2投薬群-HD(1mg/kg、IV)は、溶媒群と比較してU87MG脳上皮内癌マウスの生存率が有意に延長され(図8)、生存期間中央値及び全生存期間が延長された(表4)。
【0070】
【表10】
【0071】
実施例5 U87MG-Luc膠芽腫細胞をヌードマウスに同所移植した腫瘍モデルに対するS2とテモゾロミド(TMZ)との併用の薬効研究試験
1.材料及び方法
1.1 実験動物
実施例4と同じであった。
【0072】
1.2試薬及び消耗品
実施例4と同じであった。
【0073】
1.3 実験設備
実施例4と同じであった。
【0074】
1.4投与製剤の調製
a)S2
溶媒:5%エタノール+0.8%ソルトール+5%グルコース
調製方法:適量のS2を取り、無水エタノールを所定の比例で加えて超音波で溶解し、ソルトールHS-15を所定の比例で加えて超音波で混合し(痕跡現象がないことを確認)、超音波中、精製水をゆっくりと加えて溶解した後、グルコースを所定の比例で加え、超音波で溶解して溶液を取得し、溶液を4℃で放置して光を避けながら保存した。
【0075】
b)TMZ
溶媒:0.9%塩化ナトリウム注射液
調製方法:適量のTMZを秤量し、0.9%塩化ナトリウム注射液を所定の比例で加えて希釈し、均一に混合するまで振盪し、溶液を-20℃で保存した。
【0076】
1.5 実験方法
1.5.1 U87MG-Luc膠芽腫細胞をヌードマウスに同所移植した腫瘍モデルの作製
実施例4と同じであった。
【0077】
1.5.2 動物群分け及び投与
実験には、モデル群、TMZ(3mg/kg)群、S2+TMZ併用投薬群-LD(TMZ 3mg/kgとS2 0.25mg/kg)、S2+TMZ併用投薬群-MD(TMZ 3mg/kgとS2 0.5mg/kg)、及びS2+TMZ併用投薬群-HD(TMZ 3mg/kgとS2 1mg/kg)の4群に分けた。モデリングされた動物を等しい確率で一重盲検法で各群に分けた。接種後8日目から、TMZは8日目及び15日目に2回腹腔内投与し、S2は1日1回、15日間連続して静脈内投与した。
【0078】
1.5.3 脳内の腫瘍細胞の生体内イメージング
接種後7、14、21日目に、15mg/mLのD-フルオレセインカリウム塩溶液(溶液は0.22μMのフィルターでろ過滅菌した)200μLを腹腔内注射し、10分後にマウスの生体内イメージングシステム(PE社IVIS Lumina XR)を使用してIVI化学発光検出(明視野+生物発光イメージング)を行った。Living Imageソフトウェアを使用して蛍光強度分析を行い、蛍光強度[p/s]を取得した。蛍光強度のデータにより、実験動物の脳内における腫瘍組織のサイズが反映された。
【0079】
1.5.4 動物生存期間の記録
実験動物の生存状況を検出し、動物の死亡日をきちんと記録した。
【0080】
1.6 データ統計分析
定量的データは、平均値±標準誤差として表される。各薬力学指数については、GraphPad Prism(8.0.1)ソフトウェアにより図を作成し、一元配置分散分析(one-way ANOVA)又は二元配置反復分散分析(two-way repeat ANOVA)を行い、そしてFisher’s LSD検定により群間差異を分析し、カプラン・マイヤー法により生存分析を行った。P<0.05の場合は、有意差があると定義した。
【0081】
2. 実験結果
2.1 ヌードマウス脳内のU87MG神経膠腫の成長に対するS2+TMZ併用投与の影響
TMZ(3mg/kg、IP)単独投与及びTMZ+S2(0.25、0.5、及び1mg/kg、IV)併用投与は、溶媒群と比較して、いずれも脳内のU87MG上皮内腫瘍の増殖を有意に阻害することができた(図9のA及びB)。2週間の投与後(21日目に)、S2+TMZ併用投薬群は、TMZと比較して、腫瘍増殖阻害作用がより強かった。また、S2(0.5mg/kg)+TMZ併用投薬群はTMZ群よりも腫瘍阻害作用が有意に優れた(図10のA及びB)。
【0082】
2.2 脳上皮内神経膠腫を有するヌードマウスの生存に対するS2+TMZ併用投与の影響
ログランク検定(Log-rank)により生存曲線分析を行った結果、TMZ(3mg/kg、IP)単独投与及びTMZ+S2(0.25、0.5及び1mg/kg、IV)併用投薬群は、溶媒群と比較してマウスの生存時間に有意差があった。TMZ単独投与と比較して、S2(0.5mg/kg)+TMZ併用投与及びS2(1mg/kg)+TMZにより、U87MG脳上皮内癌を有するマウスの生存率が有意に延長され(図11)、また生存期間中央値及び全生存期間が延長された(表5)。
【0083】
【表11】
【0084】
実施例6 NOD SCIDマウス皮下モデルにおけるヒト神経膠腫T98Gに対するS2のインビボ薬力学研究
1.方法及び材料
1.1実験動物
北京維通利華実験動物技術有限公司から購入されたNOD SCID、雌、6~8週齢、体重18~21グラム。
【0085】
1.2 被験薬
Shanghai Aladdin Biochemical Technology Co.,Ltd.から購入されたロット番号B1828132のテモゾロミド(TMZ)
Jiangsu Simovay Medicine Co Ltdから購入されたロット番号D12-20161101-7のS2
【0086】
1.3 投与製剤の調製
18mgのテモゾロミドを秤量し、12mLの1%HPMCに溶解することにより、TMZ(1.5mg/mL)を調製した。
実施例4と同様な調製方法により、S2投与製剤を調製した。
【0087】
1.4 実験方法
1.4.1 T98G膠芽腫細胞をヌードマウスに皮下移植した腫瘍モデルの作製
ヒト神経膠腫T98G細胞をインビトロで培養した。培養条件として、EMEM培地に10%ウシ胎児血清、100U/mLペニシリン及び100μg/mLストレプトマイシンを加え、37℃で5%COインキュベーター内で培養することにした。細胞の数が必要な数に達したら、細胞を収集した。T98G腫瘍細胞(PBS:マトリゲル=1:1)0.2mL(10×10)を各マウスの右背部に皮下接種した。腫瘍平均体積が約147mMに達した時点で群分けて投与を開始した。
【0088】
1.4.2 動物群分け及び投与
第1組の実験には、モデリングされた動物を等しい確率で一重盲検法で10匹ずつに、溶媒群、TMZ群(15mg/kg、PO)の2群に分けた。
【0089】
第2組の実験には、モデリングされた動物を等しい確率で一重盲検法で9匹ずつに、溶媒群、S2群(3mg/kg、IV)の2群に分けた。
【0090】
1.4.3 腫瘍サイズの測定
腫瘍直径をノギスで週に2回測定し、実験終了後、腫瘍重量を測定して写真を撮影した。
【0091】
1.5 データ統計
腫瘍体積の計算式:V=0.5a×b(ただし、a及びbはそれぞれ腫瘍の長径と短径を表す)
抗腫瘍効果は、TGI(%)又は相対腫瘍増殖率T/C(%)により評価された。
抗腫瘍効果TGI(%)は次の式から計算した。
TGI%=[1-(ある処理群における投与終了時の平均腫瘍体積-該処理群における投与開始時の平均腫瘍体積)/(溶媒対照群における治療終了時の平均腫瘍体積-溶媒対照群における治療開始時の平均腫瘍体積)]×100
相対腫瘍増殖率T/C(%)は次の式から計算した。
T/C%=TRTV/CRTV×100
(ただし、TRTVは治療群のRTVを表し、CRTVは陰性対照群のRTVを表す)
相対腫瘍体積(relative tumor volume,RTV)は腫瘍測定結果から下記の計算式により算出された。
RTVの計算式:
RTV=V/V
(ただし、Vは群投与開始時(即ちd)に測定した平均腫瘍体積であり、Vはある測定時の平均腫瘍体積であり、TRTVとCRTVは同じ日で取得したデータである)。
【0092】
統計分析は、実験終了時の各群の腫瘍体積の平均値及び標準誤差(SEM)に基づいて行われた。2つの群間の比較は、T-testを使用して分析された。GraphPad Prism(8.0.1)ですべてのデータ分析を行った。P<0.05の場合は有意差があると考えられた。
【0093】
2.実験結果
2.1 T98腫瘍増殖及び実験終了点の腫瘍重量に対するTMZの影響
溶媒群と比較して、TMZ 15mg/kg群では、腫瘍体積の増殖に対する阻害作用が見られなかった(図12のA~C)。実験終了点で腫瘍を採取して重量を測定したところ、TMZ 15mg/kg群と対照群との間に腫瘍重量に有意差がなかった(図12のD)。この結果は、上記腫瘍体積への阻害と一致した。
【0094】
2.2 T98腫瘍増殖及び実験終了点の腫瘍重量に対するS2の影響
溶媒群と比較して、S2 3mg/kg群では、腫瘍体積の増殖が有意に阻害された(図13のA~C)。実験終了時に腫瘍を採取して重量を測定したところ、S2 3mg/kg群は対照群よりも腫瘍重量が有意に低かった(図13のD)。この結果は、上記腫瘍体積への阻害と一致した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【国際調査報告】