(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-21
(54)【発明の名称】電気化学セルを有する電池
(51)【国際特許分類】
H01M 8/18 20060101AFI20241114BHJP
H01M 8/02 20160101ALI20241114BHJP
H01M 8/2455 20160101ALI20241114BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20241114BHJP
H01M 4/92 20060101ALI20241114BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20241114BHJP
H01M 8/00 20160101ALI20241114BHJP
H01M 8/04 20160101ALI20241114BHJP
H01M 8/04186 20160101ALI20241114BHJP
【FI】
H01M8/18
H01M8/02
H01M8/2455
H01M4/90 M
H01M4/90 X
H01M4/92
H01M4/86 B
H01M8/00 Z
H01M8/04 Z
H01M8/04186
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024555265
(86)(22)【出願日】2022-11-15
(85)【翻訳文提出日】2024-07-12
(86)【国際出願番号】 EP2022082004
(87)【国際公開番号】W WO2023084117
(87)【国際公開日】2023-05-19
(32)【優先日】2021-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524184105
【氏名又は名称】リトリシティ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【氏名又は名称】村上 智史
(72)【発明者】
【氏名】ウルリヒ シュティミング
(72)【発明者】
【氏名】マルク ヘニング ディークマン
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
5H018AA08
5H018DD05
5H018EE03
5H018EE08
5H018EE10
5H018EE11
5H018EE12
5H126AA03
5H126FF10
5H126GG11
5H126JJ05
5H126RR01
5H127AA10
5H127AB04
5H127AC07
5H127AC15
5H127BA01
5H127BA15
5H127BA28
5H127BA57
5H127BB03
5H127BB13
5H127BB37
(57)【要約】
【課題】改良されたPOM系EESシステムを提供する。
【解決手段】本発明は、電気エネルギー貯蔵(EES)のための電気化学セルを有する再充電可能な電池に関し、これは、電気エネルギー送達モードで作動可能であり、このモードにおいて、酸化還元活性種の参加及び酸素還元反応(ORR)における酸素の還元によって電気エネルギーを生成し、後に、電気エネルギー貯蔵モードで作動可能であり、このモードにおいて、酸化還元活性種を還元するために電気エネルギーを消費し、酸素発生反応(OER)において酸素を生成し、電気化学セルは、ハイブリッド酸化還元フローセルであり、負の半セル(1)、正の半セル(2)、負の半セル(1)における酸化還元種としてのポリオキソメタレート(POM)を含むネゴライト(3A)、負の半セル(1)と前記正の半セル(2)との間に配置された膜(4)、負の半セル(1)中の負極(5)、正の半セル(2)中の正極(6)、を有し、ポリオキソメタレート(POM)が、多電子移動能を有すること、入口(7)及び出口(8)が、前記負の半セル(1)を、電解質タンク(9)に、ポンプ(11)を備える導管(10)を介して接続しており、それにより、充電されたネゴライトを前記タンク(9)に供給することによって前記電池を充電することができ、又は放電したネゴライトを充電されたネゴライトと交換することによって前記電池を再充電することができること、並びに、正極(6)が、酸素還元反応(ORR)及びその後の酸素発生反応(OER)の触媒を備えており、又は、二機能性の酸素還元反応(ORR)及び酸素発生反応(OER)の触媒を備えていること、を特徴とする、再充電可能な電池。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気エネルギー貯蔵(EES)のための電気化学セルを有する再充電可能な電池であって、
電気エネルギー送達モードで作動可能であり、このモードにおいて、酸化還元活性種の酸化及び酸素還元反応(ORR)における酸素の還元によって電気エネルギーを生成し、後に、電気エネルギー貯蔵モードで作動可能であり、このモードにおいて、酸化還元活性種を還元するために電気エネルギーを消費し、かつ酸素発生反応(OER)において酸素を生成し、
前記電気化学セルは、ハイブリッド酸化還元フローセルであり、
負の半セル(1)、
正の半セル(2)、
前記負の半セル(1)における酸化還元活性種としてのポリオキソメタレート(POM)を含むネゴライト(3A)、
前記負の半セル(1)と前記正の半セル(2)との間に配置された膜(4)、
前記負の半セル(1)中の負極(5)、
前記正の半セル(2)中の正極(6)、
を有し、
前記ポリオキソメタレート(POM)が、多電子移動能を有すること、
入口(7)及び出口(8)が、前記負の半セル(1)を、電解質タンク(9)に、ポンプ(11)を備える導管(10)を介して接続しており、それにより、充電されたネゴライトを前記タンク(9)に供給することによって前記電池を充電することができ、又は放電したネゴライトを充電されたネゴライトと交換することによって前記電池を再充電することができるようになっていること、並びに、
前記正極(6)が、酸素還元反応(ORR)及びその後の酸素発生反応(OER)の触媒を備えており、又は、二機能性の酸素還元反応(ORR)及び酸素発生反応(OER)の触媒を備えていること、
を特徴とする、再充電可能な電池。
【請求項2】
前記電解質タンク(9)が、充電されたネゴライトを前記タンクに供給するための入口、及び放電したネゴライトを排出するための出口を備えている、
請求項1に記載の再充電可能な電池。
【請求項3】
前記電解質タンク(9)が、前記電池から取り外し可能であり、それにより、放電したネゴライトを有するタンクを充電されたネゴライトを有するタンクと交換することによって前記電池を再充電できるようになっている、
請求項1又は2に記載の再充電可能な電池。
【請求項4】
前記膜(4)が、イオン交換膜、透析膜、又はナノ濾過膜である、
請求項1~3のいずれか一項に記載の再充電可能な電池。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の電池であって、
酸素還元反応(ORR)及び/又は酸素発生反応(OER)の前記触媒が、Pd
3Co/N-ドープ還元グラフェン酸化物、PtCo-ナノワイヤ、Pt/Ti
0.9Co
0.1N-ナノ粒子、Mn-オキシド/ガラス状カーボン、Co
3O
4/N-還元弱酸化グラフェン酸化物、の中から選択され、又は、好ましくは、Pt-Ir、IrO
2、Ru-Ir、RuO
2、IrO
2-RuO
2、の中から選択され、より好ましくは、Ir/カーボンブラック、IrO
2/TiO
2、Ru/カーボンブラック、Pt/カーボンブラック、Ir
x(IrO
2)
10-x Pt/TiO
2およびIr/TiO
2の中から選択される、電池。
【請求項6】
前記ポリオキソメタレート(POM)が、2~32の電子、好ましくは2~24の電子、より好ましくは2、3、4、5又は6の電子を移動させる能力を有する、
請求項1~5のいずれか一項に記載の電池。
【請求項7】
前記ポリオキソメタレート(POM)が、[PMo
12O
40]
3-、[PW
12O
40]
3-、[SiW
12O
40]
4-、[ZnW
12O
40]
6-、[H
2W
12O
40]
6-、[P
2W
18O
62]
6-、[CoW
12O
40]
5-、[SiV
3W
9O
40]
7-、[AlO
4Al
6Fe
6(OH)
24(OH
2)
12]
7+、の中から選択される、
請求項1~6のいずれか一項に記載の電池。
【請求項8】
前記負極(5)での酸化還元反応が:
[SiV
3W
9O
40]
10-+4e
- → [SiV
3W
9O
40]
14-;
[CoW
12O
40]
6-+4e
- → [CoW
12O
40]
10-;
[PW
12O
40]
3-+6e
- → [PW
12O
40]
9-;
[SiW
12O
40]
4-+18e
- → [SiW
12O
40]
22-;
[BW
12O
40]
5-+18e
- → [BW
12O
40]
23-;
[P
2W
18O
62]
6-+18e
- → [P
2W
18O
62]
24-;
[H
2W
12O
40]
6-+24e
- → [H
2W
12O
40]
30-;
[PMo
12O
40]
3-+24e
- → [PMo
12O
40]
27-;および
[H
2W
12O
40]
6-+32e
-+OH
- → [HW
12O
40]
39-H
2O
のうちの1つであってよい、
請求項1~7のいずれか一項に記載の電池。
【請求項9】
前記ネゴライト(3A)が、1.5~12の範囲のpH、好ましくは3~10又は6~12の範囲のpH、より好ましくは4~8又は7~12の範囲のpHを有する水溶液である、
請求項1~8のいずれか一項に記載の電池。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の電池を充電する方法であって、
充電されたネゴライトを前記タンクに供給することによって、又は放電したネゴライトを充電されたネゴライトと交換することによって、前記電池を充電する、方法。
【請求項11】
前記充電されたネゴライト及び/又は前記放電したネゴライトを、充電若しくは放電する又は充電若しくは放電した前記セルとは別個に保管する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
充電されたネゴライトを有するタンクを前記電池に供給することによって、前記充電若しくは再充電を行い、又は、放電したネゴライトを有するタンクを充電されたネゴライトを有するタンクと交換することによって、前記充電若しくは再充電を行う、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
請求項10~12のいずれか一項に記載の方法を実行することによって請求項1~9のいずれか一項に記載の電池を充電するためのステーションであって、充電されたネゴライト及び放電したネゴライトを貯蔵する設備を備える、ステーション。
【請求項14】
請求項1~9のいずれか一項に記載の電池の使用であって、定置型、携帯型、又は移動型のデバイス又は用途での、使用。
【請求項15】
請求項1~9のいずれか一項に記載の電池を1又は複数備える、定置型、携帯型、又は移動型のデバイス又は用途。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気活性剤として多電子移動が可能なポリオキソメタレート(POM)を含む電解質を含む電気化学セルを含む電池、対応する電池を充電するための方法、この方法を実施するためのステーション、ならびに定置式、携帯式または移動式のデバイスまたは用途における対応する電池の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
再生エネルギーが支配的な役割を果たすエネルギーシナリオでは、エネルギー管理はエネルギー戦略全体の中心的な部分となる。太陽光発電、風力、水力のような多くの発電源は、消費が発電と異なるときに利用可能であるため、エネルギー管理は、大規模なエネルギー貯蔵を必要とする。今日、インターカレーション電池、酸化還元フロー電池(レドックスフロー電池)、または水素の形態のエネルギー貯蔵などの様々な技術が利用可能である。2つの前者の技術は、それらを輸送するにはあまりにも煩雑であるため、定置式状態でのみ貯蔵可能である。酸化還元フロー電池のエネルギー貯蔵容量は原理的には容易に拡張可能であるが、現在のシステムは重量および体積の点で重要な資源を必要とする。一方、水素は、電気から電気分解によって生成することができ、加圧容器内で、またはパイプラインを介して輸送でき、その場所で、燃料電池を介して水素を電気に戻すことができる。この技術はそれが必要とされる場所で電気を使用する際にかなりの柔軟性を有するが、1つの欠点は、その低い効率であり、電気-水素-電気連鎖に関してはわずか約30%である。水素の他の欠点としては、有意なエネルギー密度を達成するための加圧の必要性、及び、特に水素の既知の反応性に起因する安全性の懸念が挙げられる。
【0003】
エネルギーを消費する多くの現在のモバイルおよびポータブルのデバイスまたは用途はリチウムイオン電池に依存し、なぜならば、これらは高いエネルギー密度を達成し、高いセル電圧を提供し、高い放電電流に耐え(これはハイブリッド乗り物のためのコールドスタータまたは駆動デバイスなどの自動車用途を可能にする)、急速に充電することができ、低い自己放電率(月あたり約3~5%)を有し、高いクーロン効率を有し、サイクル時間、寿命または高い電流出力に影響を及ぼすことなくほぼ完全に放電することができ、異なる必要性などに適合された多数の変形形態で利用可能であるからである。現在のところ、他の技術はもはやポータブルおよびモバイル用途にはほとんど使用されておらず、リチウムイオン電池の市場シェアは電動工具および電動自転車において依然として増加しており、他のいかなる電池タイプも電気自動車にはほとんど使用されておらず、ますます、リチウムイオン電池は定置式貯蔵デバイスに使用されるようになっている。
【0004】
リチウムイオン電池では高い充電率が達成可能であるが、特に自動車分野における、すなわち電気自動車を迅速に充電するための、増大する需要を満たすために必要とされる充電インフラは重要な経済的課題である。それにかかわらず、充電には依然として時間がかかり(ほとんどの場合、非常にかなりの量がかかる)、自動車などのデバイスの大幅な停止、またはデバイスの移動性および/または使い勝手に関する障害(充電されているデバイスは少なくとも充電ステーションに関してはモバイルではなく、デバイスの使い勝手は充電中に少なくとも損なわれる可能性がある)をもたらす。自動車分野に関しては、再充電による停止が移動範囲に影響を及ぼす重要な欠点である。後者は乗り物重量の増加に伴って減少し、例えばトラックでは、再充電及び限られた移動範囲に起因する停止は、非常に経済的な理由から特に費用を要しうる。それにかかわらず、リチウムイオン電池は、深放電、過充電、および過度の温度に敏感であり、それは、それらを使用するデバイスにおける制御電子機器の統合、またはそれに応じて専用の充電デバイスを必要とする。さらに、リチウムイオン電池の理想的な運転温度は10~35℃であり、リチウムイオン電池の放電電流は、より低い温度で制限される。それとは別に、リチウムに対する絶えず増大する需要は、環境に悪影響を及ぼし、特にリチウム採掘が行われる場所で環境に悪影響を及ぼす。リチウムのリサイクルは保護ガスの使用を必要とし、これは、リサイクルが高価であることを意味する。したがって、リチウムの大量使用は、生態学的および経済的な欠点を有する。リチウムイオン電池は、特に、電気的過負荷、機械的損傷、および熱応力にさらされると、点火しやすく、これは、航空輸送に関する厳しい規制の原因であり(リチウムイオン電池は一定容量に達するだけであり、手荷物でのみ許可される)、この電池タイプの残りの安全上の懸念である。
【0005】
また、リチウム電池において生じる電荷移動は、膜を通したリチウムイオンの透過、および電子を取り込む際の電極上へのリチウムの堆積を伴いうることにも注目すべきである。これに関連して、リチウム電池の寿命を損なう相転移および結晶化が起こり得る。
【0006】
したがって、リチウムイオン電池の代替物、特に、リチウムイオン電池の真の代替物を表すように、リチウムイオン電池に匹敵する電力密度およびエネルギー密度を達成しながら、再充電に起因する、あらゆる種類の携帯型、移動型、または定置型デバイスの、比較的短い停止または一時的障害を可能にする代替物が、必要とされている。理想的には、そのような代替案が電気的過負荷、機械的損傷、および/または熱ストレスに際して点火する傾向が少なく、リチウムまたは水素の使用を伴う公知の技術よりも安全上の懸念が少ない必要がある。
【0007】
電気化学セルを含む電池は、電気エネルギー貯蔵(EES)のために使用される。EESは、エネルギー、通常は電気エネルギーを、必要なときに電気エネルギーに変換するために貯蔵することができる形成に、変換するプロセスである。EESは、発電をその供給から切り離すことを可能にする。それは、(i)低需要時に、低発電コストで、または断続的なエネルギー源に起因するときに、電気を貯蔵することを可能にし、(ii)高い需要、高い発電コストの際に、または他の発電手段が利用可能でないときに、電気を貯蔵することを可能にする。
【0008】
充電式電池または二次電池は、蓄電の一形態である。それは化学エネルギーの形成で電気を蓄える。電池は、1つ以上の電気化学セルからなる。各セルは正極および負極と共に、液体、ペースト、または固体の電解質からなる。放電中、2つの電極で電気化学反応が起こり、外部回路を通る電子の流れを生成する。反応は可逆的である。したがって、電極間に外部電圧を印加することにより、二次電池を再充電することができる。電池は閉じたシステム内にエネルギーを蓄積し、電池内の電極は反応し、電池が充電または放電されるときに変化し得る。
【0009】
燃料電池(FC)は、化学エネルギーを電気エネルギーに変換する。それは、燃料と酸化剤の外部供給から電気を生成することによって、これを行う。これらは、電解質の存在下で反応する。反応物は流入し、反応生成物は流出するが、電解質はFC中に留まる。FCは、必要な流れが維持されている限り、実質的に連続的に作動することができる。
【0010】
可逆的FCは、化学物質A(燃料)および化学物質B(酸化剤)を消費して電気を生成し、逆に、電気を消費し、化学物質A(燃料)および化学物質B(酸化剤)を生成し得る、燃料電池である。FCは、反応物を消費し、これは補充される必要がある。さらに、FCの電極は触媒性であり、反応によって変化せず、したがって比較的安定である。
【0011】
異なる燃料および酸化剤が存在する。例えば、燃料として水素、酸化剤として酸素。他の可能な燃料としては炭化水素、アルコールおよび金属が挙げられ、他の可能な酸化剤としては塩素および二酸化塩素が挙げられる。したがって、燃料電池の環境影響は、それらが消費する燃料および反応物、ならびにそれらが生成する生成物に依存することは明らかである。
【0012】
酸化還元フローセル(RFB、レドックスフローセル)は、セルまたはさらにはそれぞれの半セルを通って流れる1つ以上の溶解した酸化還元活性種を電解質が含有している、セルである。
【0013】
典型的なRFBセルは、セパレータによって分割された2つの電極区画(ハーフセル、半セル)からなる。セパレータは、一般に、イオン交換膜であり、これは、半セル間の活性種の交差を防止するが、電荷のバランスをとるために電極区画間のイオンの移動を可能にする。正および負の電解質(ポソライトおよびネゴライトとも呼ばれる)は、外部タンク内に貯蔵され、それぞれの半セル内に圧送される。RFBの電極は、通常、不活性であり、電解質中に可溶性のままである活性種の酸化還元反応のための部位として機能する。電極区画を出ると、電解質は貯蔵タンクに戻され、セルを通って再循環される。個々のRFBセルは、1つのセルを別のセルに接続する伝導性バイポーラプレートを使用することによって、セルスタックを生成するように直列に接続されることができる。セルスタックのアレイ、貯蔵された電解質、およびプラントのバランスは、完全体としてのRFBシステムを構成する。プラントのバランスには、RFBの動作に必要な他のすべての成分、すなわち、ポンプ、プラスチック製配管およびタンク、電力調整システム、ならびにバッテリ監視および制御のためのシステムが含まれる。電気は、ネゴライト中の活性種の還元およびポソライト中の活性種の酸化を伴う電子交換によって、すなわち電気化学反応によって、貯蔵される。電解質、したがってエネルギーは、槽内で(タンク内で)、外部に輸送され、貯蔵され得る。関与する電気化学反応は可逆的であり、したがってRFBを充電、放電および再充電することができる。従来の電池とは対照的に、RFBは電解質溶液中、すなわち、ネゴライト溶液およびポソライト溶液中にエネルギーを貯蔵する。定格電力は、貯蔵容量に依存しない。エネルギーは使用される電解質の量によって決定されるが、電力定格はセルスタックの活性領域および電気化学反応の速度によって決定される。従来のRFBは、システム構成に応じて、高い放電速度で長時間にわたって連続的にエネルギーを放出することができる。
【0014】
FC中では電気活性化学物質(例えば、水素、メタノール、および酸素)は反応器を通って流れ、化学反応において消費されるが、RFBの電解質は反応器内に残り、電気化学反応において反応する。RFBはまた、発生する電子交換が可逆的であるという事実によってFCと区別され、すなわち、RFBは一般に二次電池タイプであり、活性種を置き換えることなく再充電することができる。
【0015】
FCおよびRFBは、電気活性材料がタンクに貯蔵され、その後、電荷移動のために反応器にポンプで送られる(圧送される)ことができるという点で共通している。しかし、FC中の燃焼燃料とは異なり、放電された電解質はRFBでは廃棄されず、それぞれの流れ中に保持され、ネゴライトタンクおよびポソライトタンクへとポンプで戻される。RFBでは、放電された種を再充電することができる。その目的のために、RFBの電流は逆になる。
【0016】
それぞれの半セルの電極は、発生するプロセスに応じて「アノード」または「カソード」と呼ばれる。酸化はアノードで起こり、還元はカソードで起こる。したがって、放電中の負極は、電子の損失が負極で起こる酸化に関連するので、アノードと呼ばれる。放電中の正極は、電子がカソードの側で還元を引き起こすので、カソードと呼ばれる。充電中、電子がこの電極の側で還元を引き起こすため、負極はカソードと呼ばれ、一方、正極はアノードと呼ばれ、なぜならば酸化はアノードの側で起こるからである。すなわち、放電中にアノードとして機能し、充電中にカソードとして機能する電極は本明細書では「負極」と呼ばれ、「負の半セル」に位置し、一方、放電中にカソードとして機能し、充電中にアノードとして機能する電極は、本明細書では「正極」と呼ばれ、「正の半セル」に位置する。負の半セル内に存在する電解質は「負の電解質」または「ネゴライト」と呼ばれ、正の半セル内に存在する電解質は「正の電解質」または「ポソライト」と呼ばれる。
【0017】
FCは液体(例えば、エタノール、メタノール)および気体燃料(例えば、圧縮水素)を使用することができるが、RFBは通常、溶解された酸化還元分子で動作し、そのエネルギーを溶液中に貯蔵する。
【0018】
最も慣用的なRFBシステムは、現在、単一電子酸化還元プロセス、負極でのV(II)/V(III)、正極でのV(IV)/V(V)、を有するバナジウム酸化還元フロー電池(VRB)である。VRBの欠点は、二価/三価バナジウムを含有する電解質のエネルギー密度が限定されており、対応するシステムが遅い応答時間を有することである。それに加えて、VRBの電解質溶液は通常、かなりの量の酸を含み、適切な安全および環境対策を必要とする。
【0019】
EP 0 517 217 A1は、(VRBにおけるような)負極における単一電子酸化還元プロセスV(II)/V(III)が、(多くのFCにおけるような)正極における酸素還元プロセスと組み合わされる、ハイブリッド酸化還元フローセルを記載している。正の半セルは、VRBまたはRFBにおけるよりもはるかに少ない体積を必要とする。このアプローチは従来のVRBと比較して体積および重量を低減するが、このシステムの欠点は、低いエネルギー密度/出力密度、安全性および環境フットプリント(実質的な量の硫酸を含有する電解質による)のままである。米国特許出願公開第2011/0014527号明細書は、電子輸送酸化還元化合物としてポリオキソメタレート(POM)を使用するハイブリッド酸化還元燃料電池の一部である、(ハイブリッド)酸化還元フローセルを記載している。POMは、燃料燃焼によって生成された電子を「運ぶ」ために使用される。記載されている電池は、(i)従来のRFBにおけるように)コンセント電源ソケットを使用する電池のようにして再充電でき、または(ii)燃料を用いて再充電され得る。Nat Commun 5, 3208 (2014)(Liu,W.ら)は、光触媒としてPOMを使用し、燃料として電荷担体およびバイオマスを使用する直接バイオマス-電気ハイブリッド燃料セルを記載している。
【0020】
他の公知のハイブリッド酸化還元フローセルは、負極上の水素(ガス)を酸化し、正極の側に酸化還元電解質、すなわちポソライトを含む。ChakrabartiらはACS Applied Materials & Interfaces 2020,12,48,53869-53878において、このようなセル、すなわち、水素/バナジウムフローセルまたは水素/マンガンフローセルであって、バナジウムまたはマンガン含有酸化還元電解質のいずれかにおける単一電子移動に基づくものを記載しており、関与する電極の改変に基づいて電気化学的性能を高めている。著者らは、ハイブリッドS/空気酸化還元フローセルにも言及している。S/空気システムは、良好な触媒活性を有する電極表面を必要とする、非常に腐食性のアルカリ性条件下で動作するものとして記載されている。S-空気の化学は、報告によれば、ポリスルフィド反応の不可逆性という大きな問題を有する。
【0021】
水素は、比較的高い抽出コストを有する。その物理的および化学的特性は、水素の取り扱い、貯蔵および輸送を複雑にする。高い反応性、特に酸素との高い反応性は、爆発を引き起こすことがあり、セキュリティ上の懸念につながる可能性がある。軽量なガスであるため、水素をかなりの量で液化および貯蔵するために、圧力および/または冷却が必要とされる。したがって、水素ガスを含む手順は、それに応じて適合されたデバイスおよび手順を必要とするという欠点を有する。
【0022】
古いRFBとは対照的に、直近のRFBは、RFB中の定置貯蔵材料としてポリオキソメタレート(POM)を含む電解質を含む。POMは、頂点に位置する酸素原子とのd0金属中心多面体の結合によって形成される化合物のクラスである。POMは、長らく、特に有機化合物の酸化のための触媒として知られている。それらは、高度に可逆的な多電子酸化還元プロセスを受けることができる。多電子交換によって、POMに基づくRFB(POM系RFB)は、POMを使用するRFBにおける酸化還元プロセスの比較的速い動力学に起因して、増大したエネルギー密度およびまたかなり高い出力密度を示す。既知のPOM系RFBは、ネゴライトおよびポソライトのための2つの別個のタンクを必要とする。結果として、システムの全体的なエネルギー密度は制限され、主にタンクのサイズによって決定される。したがって、POMは、従来の単一電子移動酸化還元活性種よりも、エネルギー密度および出力密度の点でかなりの改善を表すにもかかわらず、通常、定置用途に限定される。
【0023】
例えば、H.D.Pratt IIIらのJournal of Power Sources 236 (2013) 259-264は、2つの3電子ポリオキソメタレート酸化還元対(SiVV
3WVI
9O40
7-/SiVIV
3WVI
9O40
10-およびSiVIV
3WVI
9O40
10-/SiVIV
3WV
3WVI
6O40
13-)を利用した、定置貯蔵での使用のための、POM酸化還元系RFBを記載している。EP 3 432 402 A1は、RFBにおけるポソライトとしての[PV14O42]9-およびネゴライトとしての[SiW12O40]4-の使用を記載しており、負の半セルにおける2電子POM酸化還元対[SiW12O40]4-/[SiW12O40]6-、および正の半セルにおける6電子POM酸化還元対[H6PVV
8VIV
6O42]9-/[PVV
14O42]9-を有し、ここで、還元された[PV14O42]9-は、酸素感受性であると記載されている。EP 3 561 932 A1は、同様のPOM化合物LiXHY[PV14O42]を記載している。様々な量での陽イオンLi+の供給は、それぞれの電解質中での溶解度を高めるようである。いくつかの開発は、RFBにおいて電解質として使用される溶液の化学に関する。例えば、EP 3 435 464 A1は、それぞれの電解質中のPOM酸化還元対の化学的安定性を高めるための緩衝液の使用を記載している。他の開発は、POMSを使用するRFBの電極設計に関し、例えば、EP 3 439 093 A1は、対応するRFBの電極の表面形状を記載している。公知のRFBは、ポータブルまたはモバイル用途ではなく、定置用途に見出されるか、またはそのために設計される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
定置型、携帯型、または移動型の用途のいずれに向けられているかにかかわらず、体積および重量、ならびにエネルギーおよび/または電力密度に関してであろうと、改善されたEESデバイスおよび設計に対する永続的な努力が存在する。特に、POM系電解質およびEESとの文脈でのそれらの使用の改善の余地が依然として存在する。したがって、本発明の目的は、改良されたPOM系EESシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上述の課題は、請求項に記載の充電式電池、本発明による電池の再充電方法、前記方法を実施するためのステーション、および請求項に記載の電池の使用によって、解決される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は負の半セル(1)、正の半セル(2)、酸化還元電解質(3)、すなわち、ネゴライト(3A)およびポソライト(3B)、膜(4)、負極(5)、正極(6)、入口(7)および出口(8)、それぞれの電解質タンク(9)、導管(10)およびポンプ(11)を有する従来のRFBの模式図である;
【
図2】
図2は、負の半セル(1)、正の半セル(2)、酸化還元電解質(3、3A)、膜(4)、負極(5)、正極(6)、入口(7)および出口(8)、電解質タンク(9)、導管(10)およびポンプ(11)を有する本発明による電気化学セルを含む電池の模式図である;
【
図3】
図3は、3電極測定セル内における、POMを含むネゴライトを含む負の半セルの定電流パルスに対する電位応答を示す図である;
【
図4】
図4は、以下の実施例1Bに記載されるようにシミュレートされた、本発明による電気化学セルの電圧-電流密度曲線および電力密度-電流密度曲線を示す;
【
図5】
図5は、以下の実施例1Cに記載されるようにシミュレートされた、本発明によるセルのスタックの電圧-電流曲線および電力-電流曲線;
図3の単一セルに基づく、30個のセルおよび20cm×20cmの活性領域を有するシミュレートされたSiW
12
-空気スタックの、電圧-電流曲線および電力-電流曲線を示す;
【
図6】
図6は、従来技術におけるような単一電子移動活性種を含むネゴライトを有する従来のハイブリッド酸化還元フローセルに対する、本発明による電池のシミュレーションされたセルスタックの、電流パルス(電力サージに対応する)に対する電位応答を示す図である;
【
図7A】
図7Aは、市販の自動車で使用される、85kWhリチウム電池を有する2つの異なるPOM系電池の体積および重量電力およびエネルギー密度を比較するラゴンプロットである。
【
図7B】
図7Bは、市販の自動車で使用される、85kWhリチウム電池を有する2つの異なるPOM系電池の体積および重量電力およびエネルギー密度を比較するラゴンプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明による充電式電池は、電気エネルギー貯蔵(EES)のための電気化学セルを備え、電気エネルギー送達モードで作動でき、このモードにおいて、酸化還元活性種の酸化および酸素還元反応(ORR)における酸素の還元によって電気エネルギーを生成し、後に、電気エネルギー貯蔵モードで作動でき、このモードにおいて、酸化還元活性種を還元するために電気エネルギーを消費し、酸素発生反応(OER)において酸素を生成し、負の半セル、正の半セル、負の半セルにおける酸化還元活性種としてのポリオキソメタレートを有するネゴライト、負の半セルと正の半セルとの間に配置された膜、負の半セルにおける負極、正の半セルにおける正極を備えるハイブリッド酸化還元フローセルであり、ポリオキソメタレート(POM)が多電子移動可能であり、入口および出口が、ポンプを備えた導管を介して負の半セルを電解質タンクに接続しており、それにより、電池は、充電されたネゴライトをタンクに供給することによって充電され、または放電されたネゴライトを充電されたネゴライトと交換することによって再充電されることができるようになっており、正極は、酸素還元反応(ORR)および後の酸素発生反応(OER)の触媒を備えており、または、二機能性の酸素還元反応(ORR)および酸素発生反応(OER)の触媒を備えている。
【0028】
したがって、本発明は、公知のハイブリッド酸化還元燃料電池の利点、すなわち、ハイブリッド酸化還元燃料電池を含む燃料電池の迅速な充電性と、ハイブリッドまたは非ハイブリッド酸化還元フロー電池で使用される再充電可能な酸化還元電解質の利点、すなわち、特に燃料電池で使用される多くの燃料と比較した場合の酸化還元電解質の向上した安定性、寿命および安全性とを、組み合わせる。燃料とPOMとの既知の組み合わせは、燃料の供給、燃料の燃焼、およびPOMを電子輸送化合物として使用する電子の移動を必要とする。燃料はその性質に応じて危険なことがあり、環境に応じて使用可能性に制限を課すことがある。燃料の供給には、化学資源および場合によっては電気的資源が必要である。それとは無関係に、燃料の燃焼は化学資源を必要とする。対照的に、放電された電解質は、再充電される化学資源を必要とせず、電気資源は完全に十分である。したがって、本発明の電池は、資源を節約することができる。従来の電解デバイス、酸化還元フローセルなどにおいて放電された酸化還元電解質を再充電する能力は、酸化還元電解質の再充電の、ハイブリッド酸化還元フロー電池の再充電からの、時間的および空間的分離を可能にする。
【0029】
用語「ハイブリッド酸化還元フローセル」は、ネゴライトが外部タンクに貯蔵され、負の半セルにポンプで送り込まれる(圧送される)ことを示す。
【0030】
本発明による電池は、「ハイブリッド酸化還元フロー電池」と呼ぶことができる。「ハイブリッド酸化還元フロー電池」は、異なる媒体がエネルギー貯蔵のために使用されるという点で、「ハイブリッド酸化還元燃料電池」とは異なる。本発明の意味における「ハイブリッド酸化還元フロー電池」ではネゴライトが主なエネルギー貯蔵媒体として働くのに対して、「ハイブリッド酸化還元燃料電池」の主なエネルギー貯蔵媒体は燃料であり、酸化還元電解質は燃料燃焼によって生成された電子をフローセルに輸送するように働く。
【0031】
本明細書で使用される「ネゴライト」という用語は、酸化還元活性種の水溶液または非水溶液に関する。
【0032】
本明細書で使用される「酸化還元活性種(レドックス活性種)」という用語は、電気化学的に還元または酸化され得、それによって電子を貯蔵または放出し得る化合物に関する。化合物の分子式は、このプロセスによって影響されてもされなくてもよい。
【0033】
用語「ポリオキソメタレート」またはその頭字語「POM」は、当業者に公知であり、共有される酸素原子によって一緒に結合されて閉じた3三次元骨格を形成する3つ以上の遷移金属オキシアニオンからなる多原子イオンを指し、ここで、金属原子は、Mo若しくはWから選択される第6族金属原子、またはV、Nb、Taから選択される第5族金属原子のいずれかである。POMは、イソポリメタレート(1種類の金属および酸化物のみから構成される)、ヘテロポリメタレート(1つの金属、酸化物、および主残基オキシアニオン、例えば、リン酸塩、ケイ酸塩、などから構成される)であり得るか、またはそれと異なり得る。本明細書で使用される場合、用語「POM」は、スルフィド、イミドまたは他のO-置換オキソメタレート、すなわち、ポリオキソメタレート骨格の1つ以上の末端酸化物中心が他の配位子、例えば、S2-、Br-、F-、NR2-、ニトロシルまたはアルコキシ基によって置換されているオキソメタレートも含むと理解されるべきである。
【0034】
電池セルの負および正の区画は、膜によって分離される。
【0035】
膜は、プロトンおよびヒドロキシルイオンなどの小さなイオンの輸送を可能にして電気回路を閉じる機能を有するが、ポリオキソメタレートイオンなどのより大きな分子またはイオンの移動を防止する機能を有する。そのような膜は、イオン交換膜、透析膜、ナノ濾過膜などであり得る。
【0036】
イオン交換膜は容易に入手可能であり、十分に確立されているので、イオン交換膜が好ましい。しかしながら、他の膜を使用してもよい。
【0037】
本明細書で使用するとき、用語「イオン交換膜」は、電子絶縁体及び反応物バリアとして作用しながら、電荷のバランスをとるために、半セル間のイオン(陽イオン又はアニオン)の移動を可能にするように設計された膜を指す。
【0038】
本発明の文脈において、膜は、特に酸素(O2)に対するバリアである。対応する膜は、プロトン交換膜燃料セル(PEMFC)などの十分に確立されたセルから当業者に知られている。
【0039】
最も一般的に使用されるイオン交換膜は、商標名Nafion(商標)(Chemours、以前はDuPont)で当業者に公知の変性テトラフルオロエチレン系フルオロポリマーコポリマーに基づき、バルクポリマーマトリックスに添加されるスルホン酸基によるイオン特性またはアイオノマーを有する合成ポリマーである。当業者に公知の他のペルフルオロアイオノマーは例えば、商標名Flemion(商標)、Aciplex(商標)、Gore-Select(商標)で販売されている。陽イオン交換膜とは別に、陰イオン交換膜、例えば、アミン基を含有する側鎖を含むポリフッ化ビニリデン(PVDF)またはフッ素化エチレンプロピレンコポリマー(FEP)、例えば、アミノ化ポリビニルベンジル、に基づく膜を使用してもよく、これらは、膜を通る陰イオン輸送を可能にする。市販の陰イオン交換膜の例は、fumasep(登録商標)からのFAP-330-PEおよびFAP-375-PP、またはXergy Inc.からのDURION(商標)-IIおよびPENTION(商標)シリーズである。
【0040】
負極は、任意の適切な電極材料、例えば、従来技術によるRFB、VRBまたはハイブリッド酸化還元フローセルの負極セルから公知の電極材料から作製され得る。一般的な材料は例えば、カーボンフェルト又はカーボンペーパーとカーボンプラスチックとの様々な形態及び組み合わせである。
【0041】
正極は、酸化腐食に耐性があり酸素還元反応および/または酸素発生反応を触媒的に促進するか、またはそのような触媒を担持することができる、任意の適切な電極材料から作製することができる。1つの一般的な材料はチタンであり、多くの場合、発泡体の形成で見出され、これはさらに触媒で被覆されてもよい。
【0042】
用語「多電子移動」によって意味することが意図されているのは、電気活性種(すなわち、POM)1分子当たり少なくとも2個の電子が電気化学反応の結果として電極(1)上に移動され得、それによって、POMを酸化し、ネゴライトを放電することである。これは、本明細書で上述した従来技術に記載されているように、単一電子移動に使用される電気活性種とは対照的である。
【0043】
「ORR」という頭字語を有する「酸素還元反応」という用語は、分子状酸素(O2)が正極またはその周囲で起こる電気化学反応において解離および還元される反応を指す。対応する反応は、酸素還元反応触媒またはORR触媒によって促進することができる。
【0044】
「OER」という頭字語を有する「酸素発生反応(酸素生成反応)」という用語は、分子状酸素(O2)が、正極またはその周囲で起こる電気化学反応において、酸化によって、例えば水(H2O)の酸化によって、生成される反応を指す。対応する反応は、酸素発生反応触媒またはOER触媒によって促進することができる。
【0045】
現在までのところ、多電子移動が可能な公知のPOM系電解質は、ハイブリッド酸化還元燃料電池を除いて、ハイブリッド酸化還元フロー電池では使用されていない。すなわち、公知のセルの再充電は、従来、電流を印加することによって行われ、これは、比較的遅く、セルの長時間の停止を意味し、または燃焼のための燃料を供給することによって行われ、これは、反応生成物(使用される燃料に応じて汚染物質を含む)および安全上の懸念(やはり使用される燃料に依存する)を意味する。本発明による電池で使用されるハイブリッド酸化還元フローセルは、従来のRFBに勝る利点を有し、すなわち、正の半セルは、水と同様に、酸素が環境から取り込まれるか、または環境中に放出され得るので、より少ない容積および空間を必要とし、これは、液体酸化還元電解質またはポソライトとは対照的であり、これは、追加の機器を必要とし、例えば、タンク、およびポソライトをイオン交換膜および陽極に向かってかつイオン交換膜および陽極から離れるように伝導するための手段などを必要とする。多電子移動が可能なPOMの使用は、ネゴライト中のPOMの多電子移動能力に起因して、(例えば、従来技術に記載された二価/三価バナジウム含有電解質と比較して)エネルギー密度をさらに高める。
【0046】
充電されたPOM系電解質は、比較的低い自己放電率を示し、これは非常に長く持続する。理論に拘束されることを望むものではないが、出願人が考えるところでは、これは、膜を通したPOMの透過を防止するPOMのサイズに起因する可能性があり、かつ/または、酸化還元活性種、すなわちPOM、が溶液中に留まり、リチウム電池中の例えばリチウムなどのような相転移を受けないという事実に起因する可能性がある。
【0047】
したがって、本発明による電池は、経済的および環境的利点の両方を相乗的に組み合わせる。
【0048】
本発明による電池は、必要とされる重量および体積の重要な経済性、ならびに他の強化された特性を有するので、定置型の用途だけでなく、移動型の用途(モバイル用途)、さらには携帯型用途(ポータブル用途)でも非常に期待される。
【0049】
これに使用されるネゴライトは再充電可能であり、再充電は、空間的および時間的に遠隔で行うことができる。つまり、充電されたネゴライトは、燃料のようにタンクに貯蔵されてよい。しかし、従来の燃料のようには消費されない。燃焼された燃料とは対照的に、放電したネゴライトは、充電または電解デバイスを備えたデバイス内で再充電され得る。それは、再充電される前に収集されてよく、したがって、消費者は、同時に、充電されたネゴライトを取得し、かつ放電されたネゴライトを充電されたネゴライトと交換することができる。放電されたネゴライトは、消費者から遠隔で、再充電されてもよい。これは、従来のエネルギー生産プラントにおいて、および/または再生可能エネルギー源によって起こり得る。
【0050】
例えば、風力エネルギーを電気エネルギーに変換する風力タービンは、風があるときはいつでも、放電されたネゴライトを再充電することによって、そのように生成されたエネルギーを処分することができる。次いで、再充電されたネゴライトは、貯蔵されてよく、その後、どこであれ必要とされる場所に輸送されてよい。充電されたネゴライトは、タンクに貯蔵され、従来のガソリンスタンドなどで販売され得る。
【0051】
さらなる利点は、POMの使用が中性に近いpHの水性電解質が使用され得ることを意味することであり、これは、従来の酸化還元電池電解質溶液よりもはるかに毒性が低い(後者は高度に酸性である)。
【0052】
従来の二価/三価バナジウム酸化還元電解質、または従来技術によるハイブリッド酸化還元フローハイブリッドセルで使用されるマンガン系電解質の場合のように、単一のみの電子よりも多くを貯蔵かつ放出するPOMの能力に起因して、比較的高いエネルギー密度を有する電解質が提供され得、さらに、高い酸含有量を必要としない。
【0053】
それに関わらず、またそれに加えて、POM含有電解質は、多電子移動および高い反応速度が関与するという事実のために、従来のフローセル電解質または従来のハイブリッド酸化還元フローセル電解質よりも、はるかに高いエネルギー密度および高い出力密度を可能にする。これにより、本発明による電気化学セルを含む電池は、ピークシェービング用途に有利になる。ピークシェービングは、消費者および電力供給者が同様に、負荷ピークを回避または低減することを可能にする。負荷ピークはネットワークコスト、したがって、ネットワーク使用料に直接影響を及ぼすので、ピークシェービングは重要な経済性を可能にし得る。POMを含む電解質の使用は、単一電子移動システムに基づく従来技術による同等の電気化学セルと比較して、本発明による電気化学セルの、ありうるピークシェービング用途の範囲を広げる。
【0054】
本発明による電池のタンクは、充電されたネゴライトをタンクに供給するための入口と、放電されたネゴライトを排出するための出口とを好ましくは備える。
【0055】
好ましい実施形態によれば、本発明による電池のネゴライトタンクは、電池から取り外し可能であってもよく、その結果、放電されたネゴライトを有するタンクを、充電されたネゴライトを有するタンクと交換することによって、電池を再充電することができる。
【0056】
これは、充填されたネゴライトをタンクに供給するための入口と放電されたネゴライトを排出するための出口とを備えているタンクがさらに有する特徴であってよく、そうでなくてもよい。
【0057】
したがって、着脱可能タンクは、カートリッジと同様に使用し廃棄することができ、タンクが電池の一部である間に放電ネゴライトをタンク排出しそれを充電ネゴライトで補充することと比較して、本発明によるバッテリのより迅速な再充電を可能にする。この実施形態の別の利点は、電池を再充電するためだけに、ポンプおよび/または管などの追加のハードウェアが必要とされないことである。また、カートリッジのようなタンクの取り扱いは、電池を再充電する間にネゴライトをこぼすリスクがより少ないことを意味する。放電されたネゴライト(放電ネゴライト)は、バッテリの充電が行われる場所から空間的および時間的に遠隔で収集および再充電されてよい。
【0058】
本発明による再充電可能電池は、酸化還元活性種の酸化および酸素還元反応(ORR)における酸素の還元によって電気エネルギーを生成する電気エネルギー送達モードで動作することができる。
【0059】
対応する電池は、自動車のようなエネルギーを消費するデバイスでの使用に特に有用である。電気エネルギーは、充電されたネゴライトの形態で迅速に提供されてもよく、これは車載の貯蔵タンクに貯蔵されてもよく、かつ放電された後で、充電されたネゴライトによって迅速に置き換えられてもよい。放電された電解質またはネゴライトの、充電された電解質またはネゴライトによる交換は、デバイス内の電気的再充電よりもはるかに速い。したがって、対応するデバイスは再充電がエネルギー消費デバイス自体の内部で行われるかのように、ほぼ中断なく使用することができる。同時に、正極側の酸化還元活性種は酸素であり、これは空気から取り込まれてもよく、かつ気体の形態である。これは、従来のRFB設計と比較して、低減された重量および体積を効果的に提供する。
【0060】
本発明による電気化学セルを含む再充電可能電池の一実施形態は、さらに、電気エネルギーを消費して酸化還元活性種を還元し酸素発生反応(OER)において酸素を生成する電気エネルギー貯蔵モードで動作することも可能であり、正極(6)が、酸素還元反応(ORR)および酸素発生反応(OER)の触媒を備えており、または二機能性の酸素還元反応(ORR)および酸素発生反応(OER)の触媒を備えることを特徴とする。
【0061】
この実施形態による電気化学セルを含む電池は、消費者から空間的および/または時間的に離れた場所で、したがって消費者から独立して、または慣用的に電流を印加することによって、ネゴライトを充電するために有用である。慣用的な方法で、すなわち電流を印加することによってネゴライトを充電できることは、あらゆる種類の用途に特に有用であるが、特にモバイル用途で有用であり、なぜならば、エネルギー回復を可能にするだけでなく、充電されたネゴライトが容易に利用できない場合に放電されたネゴライトを充電することも可能にする。したがって、時間、電気エネルギー(例えば、利用可能性、カーボンフットプリントおよび/または価格に依存する)、触媒などの様々な資源の使用を、必要性および/または状況に応じて最適化することができる。
【0062】
前述の実施形態による電気化学セルを備える電池は、酸化還元活性種の酸化および酸素還元反応(ORR)における酸素の還元によって電気エネルギーを生成する電気送達モードで作動でき、酸化還元活性種を還元するために電気エネルギーを消費し酸素発生反応(OER)において酸素を生成するエネルギー貯蔵モードで作動でき、正極(6)が、二機能性の酸素還元反応(ORR)および酸素発生反応(OER)の触媒を備えることを特徴とする。
【0063】
この実施形態は、前述の実施形態のすべての利点を組み合わせ、したがって、電力消費デバイスの自律性および汎用性を改善する。言い換えれば、この実施形態の利点は、電気化学セルを有する電池を放電し、かつ、必要に応じて(例えば、迅速性などの理由のために交換オプションを使用すること、および、例えば、経済的理由のために再充電オプションを使用することによって)、第1の実施形態のように、放電されたネゴライトを交換することによって(時間迅速かつ便利であり得る)、または第2の実施形態のように、放電されたネゴライトを慣用的な様式で(すなわち電流を適用して)再充電することによって、利用可能なエネルギーを回復することができることに基づいており、その一方で、単一の触媒を用いることで資源が節約されうるということに基づいている。
【0064】
好ましくは、本発明による電池における電気化学セルの酸素還元反応(ORR)および/または酸素発生反応(OER)の触媒は、下記の中から選択される:Ir、Pt、Ru、Mn-オキシド、Co3O4、Pd3Co、Ir/C、IrO2/TiO2、Ru/C、Pt/C、Mn-オキシド/C、Co3O4/N-還元弱酸化グラフェン酸化物、Pd3Co/N-ドープ還元グラフェン酸化物、PtCo-ナノワイヤ、Pt/Ti0.9Co0.1N-ナノ粒子、Pt+Ir、IrO2、Ru-Ir、RuO2、IrO2-RuO2、IrO2/RuO2、Irx(IrO2)10-x Pt/TiO2およびIr/TiO2。
【0065】
スラッシュ記号「/」は、該当する場合、それぞれの触媒を、それが担持される原料から分離するように理解されるべきである。この文脈において、Cは、カーボン、カーボンブラック、グラフェン、カーボンフェルト等のような、カーボンで作られた支持体を示すものとして理解されるべきである。
【0066】
前述の触媒は、ORR触媒またはOER触媒またはその両方(すなわち、二機能性)であり、例えば、以下の表1に要約される。
【0067】
【表1】
参考文献:
1:J.Am.Chem.Soc.2010,132(39),13612-13614,https://doi.org/10.1021/ja104587v;
2:Chemie Ing.Tech.2020,92(1-2),31-39,https://doi.org/10.1002/cite.201900101;
3:Nat.Mater.2011,10(10),780-786,https://doi.org/10.1038/nmat3087;
4:Sci.Rep.2018,8(1),3591,https://doi.org/10.1038/s41598-018-22001-9;
5:Nano Energy 2014,10,135-143,https://doi.org/10.1016/j.nanoen.2014.09.013;
6:J.Power Sources 2015,284,296-304,https://doi.org/10.1016/J.jpowsour.2015.03.001;
7:Renew.Sustain.Energy Rev.2017,79,585-599,https://doi.org/10.1016/j.rser.2017.05.112.
【0068】
主な二機能性触媒はPt+Ir、IrO2、Ru-Ir、RuO2、IrO2-RuO2、IrO2/RuO2、Irx(IrO2)10-x Pt/TiO2およびIr/TiO2;7である。当業者は、個々の必要性および好みに応じて触媒および担体を選択する方法を知っているであろう。
【0069】
市販の触媒、例えばIr/C、Ru/C、Pt/C(粉末として、例えば、Premetekから入手可能)またはIrO2/TiO2(粉末として、例えば、Umicoreから入手可能)は容易に入手可能であり、他のものは、文献に記載されているように調製することができる。それぞれの刊行物中のMn酸化物は、ガラス状炭素上に担持されていた。実際の用途では、異なる伝導性および耐腐食性支持体を使用することができる。
【0070】
本発明による電気化学セルを含む電池の好ましい態様では、ポリオキソメタレート(POM)が、2~32、好ましくは2~24、より好ましくは2~20、最も好ましくは2~10の電子を移動させることができる。
【0071】
対応するPOMは、当業者の自由裁量である。例えば、32電子還元[H2W12O40]6-の合成は、J.Inorg.Nucl.Chem.1976, Vol.38,pp.807-816.に記載されている。刊行物「Polyoxometalate Molecular Science」(JuanJ.Borras-Almenar,E.Coronado,Achim Muller,M.T.Pope;Springer Science&Business Media, 6 Dec 2012)は、[SiW12O40]4-の24-電子および18-電子還元型を記載している。Dowson型POM([P2W18O62]6-)の例は、Croninら(Nature Chemistry,vol.10,頁1042-1047(2018))によって報告され、18個の電子によって還元された。
【0072】
より多くの数の電子、例えば32の電子を移動させることができるPOMの使用は、ネゴライトのより高いエネルギー密度を可能にするが、より少ない数の電子の移動は、例えば電位に関して、より一定の電気化学的特性を可能にする。
【0073】
本発明による電気化学セルを含む電池の好ましい態様では、ポリオキソメタレート(POM)が、下記の中から選択される:[PMo12O40]3-、[PW12O40]3-、[SiW12O40]4-、[ZnW12O40]6-、[H2W12O40]6-、[P2W18O62]6-、[CoW12O40]5-、[SiV3W9O40]7-、[AlO4Al6Fe6(OH)24(OH2)12]7+。
【0074】
列挙されたPOMは以下の表2に列挙されるように、それぞれ、電子の最大還元度を可能にする。
【0075】
【0076】
本発明による電気化学セルを含む電池の好ましい態様では、負極での酸化還元反応が以下のうちの1つ(部分還元反応を含む)であってよい:
[SiV3W9O40]10-+4e- → [SiV3W9O40]14-;
[CoW12O40]6-+4e- → [CoW12O40]10-;
[PW12O40]3++6e- → [PW12O40]9-;
[SiW12O40]4++18e- → [SiW12O40]22-;
[BW12O40]5-+18e- → [BW12O40]23-;
[P2W18O62]6-+18e- → [P2W18O62]24-;
[H2W12O40]6-+24e- → [H2W12O40]30-;
[PMo12O40]3-+24e- → [PMo12O40]27-;および
[H2W12O40]6-+32e-+OH- → [HW12O40]39+H2O
【0077】
当業者は、プロトンが対応するプロトン結合電荷移動反応に含まれてもよく、電荷バランスはまた、例えばLi+のような陽イオンによって実施されてもよく、pHに依存することを認識するであろうし、これらは、簡略化のために省略されている。
【0078】
ネゴライトのpHは、pH12まで、酸性、中性または塩基性であり得る。
【0079】
しかしながら、好ましくは、本発明による電気化学セルにおいて、ネゴライト(3A)は、1.5~12、好ましくは3~10または6~12、より好ましくは4~8または7~12の範囲のpHを有する水溶液である。
【0080】
それぞれの酸化還元反応は広いpH範囲で効果的に起こり得る一方で、出願人は多電子移動がpH 10または12までのより高いpH値で、より効率的であり得ることを観察した。これが、より高いpH範囲、すなわち3~10または6~12のpHでの作動が好ましい1つの理由である。他の理由は、利用者および環境の両方に対する安全性である。4~8または7~12のpH範囲が特に好ましい。
【0081】
上記の問題は本発明による電池を充電するための方法によってさらに解決され、この方法は、ダンクに充電されたネゴライトを提供することによって電池を充電すること、又は放電したネゴライトを充電されたネゴライトで置き換えることによって電池を充電することを特徴とする。
【0082】
本発明による方法の好ましい実施形態によれば、充電されたネゴライトおよび/または放電されたネゴライトは、それが放電および/若しくは再充電されるまたは放電および/若しくは再充電されたセルとは別個に貯蔵される。
【0083】
本発明者らは電池とは別にネゴライトを貯蔵することにより、電池からだけでなく、放電されたネゴライトを充電するために使用されるセルからも、空間的かつ時間的に遠隔でネゴライトを取り扱うことが可能になることを見出した。エネルギーは文字通り、液体ネゴライト中に貯蔵されることができ、さらなる使用まで貯蔵されてもよい。放電されたネゴライトは、余分なエネルギーが存在する場合にそれを収容するためにデバイス内で働くことができ、ネゴライトが完全に充電されるか、またはほぼ完全に充電されると交換されることができる。これは原則として、ラインで行ってよい、すなわち、放電されたネゴライトを充電することによって余分なエネルギーが蓄積される一方で、充電されたネゴライトを放電されたネゴライトで置き換えることができ、充電されたネゴライトは本発明によるバッテリを再充電するために必要とされるまで、貯蔵され、維持される。
【0084】
貯蔵は、1つ以上のネゴライトタンク、ネゴライトカートリッジ、ネゴライトリザーバなどで行うことができる。したがって、ネゴライトは、液体の輸送可能なエネルギー貯蔵およびエネルギー供給媒体として機能する。それは、タンクトラック、タンクワゴン、管、パイプおよびパイプラインなどの従来の手段によって輸送可能である。液体であるため、ネゴライトはリザーバ、タンク、および他の受容可能体へとポンプで流入しかつポンプで排出しやすい。
【0085】
対応する方法は、ポリオキソメタレート(POM)を含む酸化還元電解質を貯蔵し、分配し、収集するために、ガソリンスタンドなどの既存の資源およびインフラストラクチャを利用することを可能にし、したがって、特にモバイル式および携帯式の用途を含む、広範囲の用途のためのEESを提供しながら、重要な経済性を可能にする。請求項に係る発明に係る方法は、充電されたネゴライトを有するタンクを電池に提供することによって、又は放電されたネゴライトを有するタンクを充電されたネゴライトを有するタンクに置き換えることによって、実行することができる。
【0086】
この場合、タンクは、カートリッジのように機能し、放電したネゴライトのためのさらなるインフラストラクチャ、例えば、受容体、または電池タンクとの間でネゴライトを移動させるためのデバイス、例えば、管、ポンプ、などのさらなるインフラストラクチャを必要とすることなく、交換することができる。
【0087】
前述の問題は、本発明による方法を実施することによって本発明によるバッテリを充電するためのステーションによってさらに解決され、これは、充電されたネゴライトおよび放電されたネゴライトを貯蔵するための設備を有する。
【0088】
充電および放電されたネゴライトを1又は複数の電池タンクとステーション貯蔵タンクとの間で移送する手段は、ステーション内に設けることができる。そのような手段は、従来の燃料ステーションにおけるガソリンポンプに対応するような、ネゴライトポンプを含む。充電されたネゴライトは充電されたネゴライトタンクから第1のチューブを介して電池タンクに供給されてよく、一方で、放電されたネゴライトは、第2のチューブを介して、電池から放電されたネゴライトタンクに移送されてよい。
【0089】
本発明による電池および方法は、電気エネルギー貯蔵(EES)システムまたはデバイス(装置)において使用することができる。
【0090】
対応するEESデバイスの例は、本発明による電池、または対応する電池を含む任意のデバイスである。本発明によるデバイスは例えば、双方向充電を可能にするために使用することができる。
【0091】
このネゴライトは、ネゴライト充電ステーションにおいて充電されてもよく、これは、放電されたネゴライトを充電するためのセルを含み、このセルに、放電された電解質を供給することができ、そしてそこから、充電された電解質を得ることができる。
【0092】
本発明によるセルを含む電池を、定置式、携帯式、または移動式のデバイスまたは用途において使用することは、リチウムおよび/または水素の使用に関連する安全性リスク、ならびに再充電による不必要な停止状態を回避しながら、固定式、携帯式、または移動式のデバイスまたは用途を実現することを可能にするために特に有利である。これらは、リチウムイオン電池に対する重要な利点であり、自動車分野におけるガソリンの使用に関連するインフラストラクチャーに匹敵するインフラストラクチャーを可能にする。
【0093】
個々のデバイス(例えば、個々の電気自動車)の再充電を目的とする、費用がかかり、比較的非効率的な分散型充電インフラストラクチャに投資する代わりに、ガソリンスタンドにネゴライトタンクを設置することができる。放電されたネゴライトはこのようなステーションで迅速に交換することができ、したがって、「再装填される」自動車デバイスの停止状態を、大幅に低減することができる。放電されたネゴライトは、ステーションにおいて、再使用するために電解デバイス内で再充電されてよく、またはそのために他の場所に輸送されることができる。
【0094】
本発明による1つまたは複数のセルを備えた定置式、携帯式、または移動式の装置または用途は、上述の利点を有する。
【0095】
この文脈において、電気自動車、電気トラック、電力駆動体、航空デバイス又は空中デバイス、例えば、航空機、飛行機、ドローン、を含むが、これらに限定されない、あらゆる種類の定置式(固定式)、携帯式又は移動式デバイス又は用途が想像可能であることに留意されたい。
【0096】
詳細な説明
以下、図面を参照して本発明をより詳細に説明する。
【0097】
図1に示されるような従来のRFBシステムは負の半セル(1)および正の半セル(2)ならびに酸化還元電解質(3)、より正確には負の半セル(1)におけるネゴライト(3A)および正の半セル(2)における第2の電解質(3B)を含む。イオン透過性膜(4)は、負の半セル(1)を正の半セル(2)から分離する。負の半セル(1)は負極(5)を備え、正の半セル(2)は正極(6)を備える。
図1に示す電極(5)および(6)は、膜(4)の反対側に位置している。それらはまた、他の場所、例えば膜(4)のそれぞれの表面上に位置してもよく、または電解質によって占有される空間内に突出してもよく、
図1は完全に模式図である。入口(7)および出口(8)は、それぞれの半セルを、ポンプ(11)を備えた導管(10)を介して電解質タンク(9)に接続する。ポンプは、それぞれの酸化還元電解質、すなわち、ネゴライト(3A)およびポソライト(3B)を循環させる働きをする。負のハーフセル(1)内のネゴライト(3A)は、そこに溶解された第1の酸化還元活性種によって電子を貯蔵する。正の半セル(2)中のポソライト(3B)は、電子の受容体であり、電子の受容は、そこに溶解した第2の酸化還元活性種によって媒介される。従来のRFBでは、負の半セル(1)内の第1の酸化還元活性種は、通常、単一の電子を貯蔵し、これが、電極、例えば電極(5)上に移動でき、それによって、第1の酸化還元活性種を酸化し、負の半セル(1)内に含まれるネゴライト(3A)を放電し、一方、単一の電子は正の半セル(2)内のポソライト(3B)内に溶解された第2の酸化還元活性剤へと正極(6)から移動され、それによって、正の半セル(2)側の酸化還元活性種を還元させる。イオンは、プロセスの間に膜を透過することができる。プロセスは、RFBを充電するように逆にされてもよい。従来のRFBに貯蔵することができるエネルギーの量は、それに取り付けられるかまたはそれに組み込まれるタンク(9)の体積、ならびにそれぞれの酸化還元電解質(3)に使用される酸化還元活性種に応じて達成することができるエネルギー密度に依存する。
【0098】
図2に概略的に示す本発明に係る電気エネルギー貯蔵(EES)のための電気化学セルを備えた電池は、電気エネルギー送達モードで作動でき、このモードでは、酸化還元活性種の酸化及び酸素還元反応(ORR)における酸素の還元により電気エネルギーを生成し、後に、電気エネルギー貯蔵モードで作動でき、このモードでは、電気エネルギーを消費して、酸化還元活性種を還元し、酸素発生反応(OER)において酸素を生成し、負の半セル(1)、正の半セル(2)、負の半セル(1)における酸化還元活性種としてのポリオキソメタラート(POM)を有するネゴライトとして機能する酸化還元電解質(3)、膜(4)、例えば、負の半セル(1)と正の半セル(2)との間に配置されたイオン交換膜(4)、負の半セル(1)における負極(5)、正の半セル(2)における正極(6)、によって構成されるハイブリッド酸化還元フローセルを有し、ポリオキソメタレート(POM)は多電子移動を行うことができることを特徴とし、かつ、正極(6)が、酸素還元反応(ORR)及び/又は酸素発生反応(OER)の触媒を備えていることを特徴とする。正極(6)は、触媒による酸素の還元および/または生成を可能にする。POMから負極(1)への多電子移動が起こり得る。使用されるPOMに応じて、2つ以上、例えば5~6の電子が1つのPOM分子から電極(1)上に瞬時に移動されてよく、それによってPOMが酸化され、酸化還元電解質(3)が放電される。これは非常に迅速に起こる。膜(4)は、負の半セル(1)から、正の半セル(2)の側の膜(4)の表面への、かつ正極(6)へのイオンの輸送を媒介し、ここで、電子は空気酸素を還元する。還元された空気酸素は、膜を透過したイオン、例えばプロトンと再結合して、例えば水を生成することができる。入口(7)および出口(8)は、負の半セル(1)を、ポンプ(11)を備えた導管(10)を介して電解質タンク(9)に接続する。本発明によるセルまたはセルのスタックを含む電池が蓄えることができるエネルギーの量は、そこに取り付けられるかまたはそこに組み込まれるタンク(9)の体積、ならびに酸化還元電解質(3)に使用される酸化還元活性剤に応じて達成され得るエネルギー密度に依存する。POMは多電子移動できることを考えると、エネルギー密度は、十分に確立された従来のRFBで使用されるような、単一の電子移動のみが可能である電気活性剤を含有する酸化還元電解質におけるよりも、はるかに高い。
【0099】
図2は単に模式図ものであることを理解されたい。より詳細には、当業者は、1つのセルを別のセルに接続する導電性バイポーラプレートを使用することによって、本発明による電池中の個々の電気化学セルを直列に接続して、セルスタックを製造することができることを理解するであろう。セルスタックのアレイ、貯蔵された電解質、およびプラントのバランスは、本発明による完全な電池を構成する。プラントのバランスは、対応するバッテリの動作に必要な他のすべての成分、すなわち、ポンプ、プラスチック製配管およびタンク、電力調整システム、ならびにバッテリ監視および制御のためのシステムを含む。それにかかわらず、
図2に概略的に示されるセルは単一の電解質タンクに接続されるが、本発明によるセルは代替的に、充電された電解質のための第1のタンクおよび放電された電解質のための第2のタンクに接続されてもよく、すなわち、充電および放電された電解質は本発明による電池内の別個のタンクに貯蔵されてもよいことも理解されるべきである。
【0100】
図3は、3電極測定セルにおける、POMを含むネゴライトを含む負の半セルの定電流パルスに対する電位応答を示す図である。
【0101】
図4は以下の実施例に記載されるように、本発明によるハーフセル測定から得られたデータに基づいて計算される、本発明による異なる電流密度でのセル電圧およびセル電力密度特性を示す。図示の結果はセル設計に関係なくPOMの挙動を強調するように、オーム抵抗(IR補正)によって引き起こされる電位降下によって補正される。
【0102】
図5は、
図4に示される電気化学セルのスタックの電流-電圧特性および電力-電圧特性を示す。得られたデータは、30個のセルのスタックに対応するデータを表すようにスケーリングされ、各セルが400cm
2の活性表面を有する。
図4のように、示された結果は、セル設計およびスタック構成にかかわらず、POMの挙動を強調するようにIR補正される。
図5の図からわかるように、電流120A、電力3.4kWで約80%の効率が得られる。
【0103】
図6は、従来技術による単一電子移動酸化還元活性種を有するハイブリッドフローセルに対する、本発明による電気化学セルの同じスタックに関する、瞬間的な負荷変化を伴う、時間に対する電圧の変化を示す図である。80Aの電流パルス(0.5秒間、10μsの領域の分解能)が印加される。電圧は、初期開回路電圧の最低60%まで降下する。これは、電池が、μs~sの間、高い電力を提供し得ることを意味する。これとは対照的に、単一の電子移動酸化還元活性種を使用するハイブリッドフローセルは130μs後に電圧を示さず、すなわち、スタックは、発電の完全な停止を経験する。2つのシステムの間の関連する差は、バナジウムとは対照的に、POMを含む酸化還元反応のはるかに速い反応速度に起因する。両方のシステムで同等である、電極の二重層静電容量の初期放電に続いて、従来技術によるバナジウム系ハイブリッドフローセルの電流は、バナジウム系酸化還元反応のはるかに遅い反応速度に起因して、維持することができない。
【0104】
これは、ピークシェービング(peak-shaving)、無停電電源(uninterrupted power supply:UPS)用途などの用途における、本発明による電池におけるセルの適合性を示す。
【0105】
POMの多電子移動能力は、さらに、市販の自動車(Tesla(登録商標)Model S(登録商標))で使用される85 kWhリチウム電池と比較して、同等またはより高い重量および体積エネルギー密度ならびにより高い重量および体積電力密度を達成するために使用され得る。
【0106】
比較を、以下の実施例3でより詳細に説明する計算に基づいて行った。
図7Aから分かるように、本発明による2つの異なるPOM系電池のWh/kgで表される重量エネルギー密度は前述の85 kWh電池の重量エネルギー密度と同等であり、一方で、本発明による電池の重量電力密度(W/kgで表される)は明らかに高くなり得る。
【0107】
体積エネルギー密度(Wh/Lで表される)は、同等以上であり得、体積電力密度は
図7Bのラゴンプロットから理解されうるように、本発明によるシステムにおいて明らかに高くなり得る。
【0108】
例
実施例1A:酸化還元活性種としてPOMを含む半セル
半セル実験のために、5mM H4SiW12O40(酸化還元活性種、以下「SiW12」と称する)および1M NaClを支持電解質として含有するネゴライト溶液を調製した。
バルク電気分解を用いて、SiW12は、分子当たり2個の電子によって予備還元された:
【0109】
【0110】
半セルの電位を、3電極セットアップによって決定した。作用電極(WE)は1cm×1cmのカーボンフェルト片(Sigracell GFD 4.6、空気中600℃で3時間加熱)からなり、金ワイヤによって接続されていた。Ag/AgClを参照電極(RE)として使用し、対電極(CE)は、Nafion 117膜によって主区画から分離された1M NaCl中の白金ワイヤを含んだ。
図3に示すように、(WEとして使用されるカーボンフェルトの1cm
2に対して)異なる電流密度の定電流パルスをWEに印加し、得られた電位ジャンプを記録した。
【0111】
以下の表3は、それぞれのパルスの開始後30μsの、安定領域において測定された電位応答を列挙する。電流密度jは、カラム1に示され、電位応答の測定値をカラム2に示す。系のオーミック抵抗は、定電位インピーダンススペクトロスコピーによって0.87Ωであると決定された。電位ジャンプを標準水素電極スケール(SHEスケール)(表3、カラム3)について再計算し、オーミック降下を補正した(表3、カラム4)。したがって、表3は酸化還元活性種としてPOM(ここではSiW12)を含むネゴライトを含む半セル内のスタックの特定の構成設計とは無関係に、酸化還元プロセスの機能性を示す。
【0112】
【0113】
そのようにして得られた結果は、以下の実施例1Bで使用される外挿の基礎を形成する。
【0114】
実施例1B:本発明によるセルのシミュレーション
文献データと共に実施例1Aで得られた結果を用いて、特許請求の範囲に記載の電気化学セルをシミュレートした。
【0115】
この目的のために、50mMのSiW12を有する負の半セルに到達するように外挿を行った。5mM SiW12から50mM SiW12に外挿するために、電位降下は10mA/cm2当たり4mV、徐々に減少すると仮定され、すなわち、電位降下は、活性電極面積の300mA/cm2の電流密度で120 mVより小さい。
【0116】
正の半セルについては、Pt/C触媒を用いたH
2/空気の文献データ、特にNat.Commun.2015,6(1),7343.https://doi.org/10.1038/ncomms8343の
図2のデータを用いた。負の半セルのSiW
12と正の半セルの酸素還元に基づく電池をシミュレートするために、文献データの負の半セル電位はSHEに対して0Vであり、電流密度と共に変化しないと仮定した。このデータおよび外挿された50mM SiW
12データを用いて、セル電圧を様々な電流密度について計算した。
図4は、電圧-電流密度曲線および対応する電力密度-電流密度曲線といった、セルのシミュレーションされた性能を示す。
【0117】
実施例1C:本発明による電気化学セルのスタックからなる電池
【0118】
実施例1Bで得られた結果に基づいて、20cm×20cmの活性領域を有する30個のセルのセルスタックを仮定して、そのスタックの電圧-電流曲線および電力-電流曲線を、
図5に示すように計算した。
図5から分かるように、電流の増加に伴うスタック電圧の減少は比較的小さく、電池の高効率および高電力能をもたらす。
図4は、300mA/cm
2の比較的高い電流密度でさえ、電圧が開回路電圧と比較してわずか約25%だけ低下することを示す。
【0119】
例2: 時間依存電位応答
【0120】
実施例1Aの半セルを使用して、200mA/cm2で0.5秒の電流パルスを印加し、それぞれの電位応答を記録した。5mM SiW12溶液(実施例1Aに記載されるように分子当たり2つの電子によって予備還元された)を使用する測定に加えて、5mM V2+溶液を調製し、酸化電流パルス中に生じる以下の反応との比較のために測定した:
【0121】
【0122】
バナジウムの場合、1M H2SO4を支持電解質として使用し、1M H2SO4中の硫酸水銀電極(MSE)を参照電極として使用した。両方の溶液の結果を、抵抗降下について補正し、SHEスケールに再計算し、次いで、実施例1Bにおいて上述のように、電流10当たり120mV小さい電位降下を仮定することによって50mM溶液に外挿した。0mAで、対SHEで、0.963V、200mA/cm2で0.835Vであり、電流パルスの印加時に電位調整の遅延がないと仮定して、実施例1Bに記載されているように、ポジ型の半セルデータを文献から抽出した。
【0123】
図6は、酸化還元活性種としてV
2+を用いて対応するスタックについて計算されたデータと比較して、実施例1Cで論じたのと同じスタックについて計算された、こうして得られたデータを示す。このシミュレーション実験は、このセットアップにおけるSiW
12が、総電流パルスにわたる限られた電位降下のみで、200mA/cm
2の活性電極面積の電流密度を供給することができることを示し、これは、同じ濃度のバナジウムと比較した場合に優れている。バナジウムの場合の電池電圧は、わずか130ms後に完全に故障する。
【0124】
例3:計算による比較
【0125】
比較のために、Tesla(登録商標)Model S(登録商標)の85kWh電池(85kWhバッテリー)を使用した。この例において、
図7Aおよび7Bならびに本明細書において言及される「85kWh電池(85kWhバッテリー)」は、この電池を示すことが意図される。公的に入手可能なデータに基づいて、この85kWh電池は、それぞれ55ポンドまたは25kgの重さの16個のモジュールを含み(重量エネルギー密度0.21kWh/kgをもたらす)、それぞれの体積は報告によれば16.45Lである(体積エネルギー密度0.32kWh/Lをもたらす)。完全なバッテリパック(すなわち、筐体、バッテリ管理システム、保護等を含む)はさらに重い(報告によれば、1つの情報源によれば約600kg)ことに留意されたい。
【0126】
POMは、最大20の電子またはそれ以上を伴う多電子移動が可能である。
この能力は、比較的高い重量および体積エネルギー密度をもたらし得る。
【0127】
出願人は、以下の表4に与えられる詳細に従って、2つの別個のネゴライト1および2について対応する数字を計算した:
【0128】
【0129】
正極の25℃、1M H+、0.21atm酸素分圧における熱力学的電位は、標準水素電極(SHE)に対して1.219Vである。結果として生じる負極と電極との間の平均電位差は、それに応じて、ネゴライト1については2.17Vに、ネゴライト2については1.57Vになる。
【0130】
体積エネルギー密度は、以下のように計算することができる:
体積エネルギー密度=POM濃度×n×F×AP
(ここで、POM濃度はモル/Lで表され、Fはファラデー定数(96485 As/モルまたは1モルの電子によって運ばれる電荷量)であり、nは交換される電子の数であり、APは平均電圧である)。
【0131】
重量エネルギー密度は、ネゴライト溶液の密度に依存する。1Lの中和された0.5M SiW12溶液(ネゴライト1)は、約、1.625kgのSiW12、0.5kgの水および0.08kgのNaOHを含有し、すなわち、密度は、約2.2kg/Lである。タングステンと比較してモリブデンの重量は少ないため、ネゴライト2の密度は約1.6kg/Lである。どちらの場合も、電解質単独で得られる重量エネルギー密度は、約0.26kWh/kgに相当する。
【0132】
85kWh電池のエネルギー含有量に適合させるためには、約146Lまたは322kgのネゴライト1が必要である。容量的には、これは、85kWh電池よりも小さい(85kWh電池の16個の電池モジュールは、モジュール筐体を含むが、他のすべての筐体、保護ユニット、および電力変換ユニットを除いて、263Lの合計容量を有する)。重量に関して、85kWh電池の16個の電池モジュールは、400kgの総重量を有する。85kWh電池のエネルギー含有量に適合するために、約202Lのネゴライト2が必要であり、約323kgの重さである。
【0133】
完全なシステム比較は、さらなるパラメータを考慮しなければならない。すなわち:
(i)85kWh電池に関して:
- 定格最大連続電流225A、公称電圧22.8V/モジュール(16×22.8V=365V合計):82kW;
(ii)ネゴライト1システムおよびネゴライト2システム:
- 最先端のFCスタックは、約6kW/Lのピーク電力密度を達成する。しかし、これは、おそらくOCVの約70%で動作する約1VのOCVに基づく。動作点が平均電位差の70%であるネゴライト1(2.17V)およびネゴライト2(1.57V)の場合の平均電位差を仮定すると、この電力密度はそれぞれ約12kW/Lおよび9kW/Lに増加するであろう;
(iia)ネゴライト 1システム:
- 12kW/Lでは、150kW/85kWhのシステムが13Lのスタックと146Lのネゴライト1と、チューブ、ポンプ、バッテリー管理システム(BMS)などで構成される。200Lの合計の容積の場合、システムの全体的なエネルギー密度は0.43kWh/Lに達し、これは、85kWhバッテリのそれよりも高い;
- 溶液が322kg、スタックが14kg、ポンプが25kg、タンク、BMS、パイプなどが41kgと仮定すると、システム全体の重量は約400kg(375W/kg、213Wh/kg)である;
(iib)ネゴライト2システム:
- 9kW/Lでは、150kW/85kWhのシステムが17Lのスタックと202Lのネゴライト2とチューブ、ポンプ、BMSなどで構成される。270Lの合計の容積の場合、システムの全体的なエネルギー密度は0.31kWh/Lに達し、これは、85kWh電池のものと同等である;
- 溶液が323kg、スタックが18kg、ポンプが34kg、タンク、BMS、パイプなどが50kgであると仮定すると、システム全体の重量は約425kg(353W/kg、200Wh/kg)である。
【0134】
上記のデータから、16モジュールのみで400kgの重量および263Lの体積を使用して、85 kWh電池は、205W/kg(312W/L)の電力密度および213Wh/kg(323Wh/L)のエネルギー密度を有する。これらの電力密度は、82kWの16モジュール構成の定格連続電力に基づくことに留意されたい。表5は、上記のように計算されたPOMシステムのデータと比較したこのデータを示す。
【0135】
【表5】
重量および体積エネルギー密度はまた、
図7Aおよび7Bのラゴンプロットから得られ得、これは、前表5に示される値を図式的に図示する(重量エネルギーおよび電力密度の比較に関して
図7A参照、体積エネルギーおよび電力密度の比較に関して
図7B参照;「SiW
12-システム」が本実施例3のネゴライト1を装備した電池を示し;「PMo
12」-システムが本実施例3のネゴライト2を装備した電池を示す)。
【符号の説明】
【0136】
1 負の半セル
2 正の半セル
3 酸化還元電解質
3A ネゴライト
3B ポソライト
4 膜
5 負極
6 正極
7 入口
8 出口
9 貯蔵タンク
10 導管
11 ポンプ
【国際調査報告】