(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-27
(54)【発明の名称】分散型光ファイバシステムによる路面状態検出
(51)【国際特許分類】
G01H 9/00 20060101AFI20241120BHJP
G01M 99/00 20110101ALI20241120BHJP
【FI】
G01H9/00 E
G01M99/00 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024528490
(86)(22)【出願日】2022-11-16
(85)【翻訳文提出日】2024-05-20
(86)【国際出願番号】 US2022050044
(87)【国際公開番号】W WO2023091447
(87)【国際公開日】2023-05-25
(32)【優先日】2021-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】504080663
【氏名又は名称】エヌイーシー ラボラトリーズ アメリカ インク
【氏名又は名称原語表記】NEC Laboratories America, Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】チェン、 ユハン
(72)【発明者】
【氏名】ホワン、 ミン-ファン
(72)【発明者】
【氏名】ワン、 ティン
(72)【発明者】
【氏名】ザオ、 ジンナン
【テーマコード(参考)】
2G024
2G064
【Fターム(参考)】
2G024AD34
2G024BA21
2G024BA27
2G024CA13
2G024FA01
2G064AB21
2G064BC12
2G064BC33
(57)【要約】
舗装道路の脇に設置され、運転方向と並行な光ファイバセンシングケーブルは、車両の動的負荷下で光センサファイバケーブルに沿って生成されるレイリー後方散乱を使用した分散型光ファイバセンシング(DFOS)によって監視される。劣化した舗装面を示す道路の位置と車両との相互作用により、局所的な信号の独特なパターンが生成され、これらの信号は、平坦な舗装面を示す道路を走行する車両から生じる信号と識別/区別される。機械学習手法は、路面全体の品質を推定し、舗装が劣化した場所を突き止めるために採用される。機械学習モデルの開発には、パワースペクトル密度推定、主成分分析(PCA)、主成分分析と組み合わせたサポートベクターマシン(SVM)、局所バイナリパターン(LBP)、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)が適用される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散型光ファイバセンシング(DFOS)を利用した路面の状態検出のための方法であって、
前記路面と実質的に並行に配置された光センサファイバと、
光パルスを生成し、生成されたパルスを前記光センサファイバに入力し、前記光センサファイバからの後方散乱信号を受信するように構成された、前記光センサファイバと光通信するDFOSインタロゲータと、
前記DFOSインタロゲータで受信されたDFOSデータを分析し、前記光センサファイバに沿った場所で発生する振動アクティビティを前記後方散乱信号から特定するように構成されたインテリジェントアナライザと、
を備え、
ハフ変換法を用いて道路を走行する車両の速度を前記後方散乱信号から特定し、
前記路面の穴/亀裂の位置を特定し、前記穴/亀裂の位置の情報を出力する、方法。
【請求項2】
前記後方散乱信号から注釈付きウォーターフォールプロット画像を生成し、局所バイナリパターンヒストグラムを用いて注釈付き画像の特徴を抽出することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
次元が削減されるように前記注釈付き画像に対して主成分分析(PCA)を実行し、サポートベクターマシン法を分類器として用いて、訓練されたモデルを生成することをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を用いてバイナリ分類データを訓練し、訓練されたモデルを生成することをさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
SVM及びCNNに基づいて訓練されたモデルを配備し、道路の凹凸レベルを検出し、前記のレベルを良好、普通または不良として分類することをさらに含む。請求項4に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般的には分散型光ファイバセンシング(DFOS:distributed fiber optic sensing)システム、方法及び構造に関する。より具体的には、DFOS技術による路面状態検出のためのシステム、方法及び構造を開示する。
【背景技術】
【0002】
路面状態は、車両と道路/舗装構造との相互作用に大きな影響を与える可能性があり、燃料消費量の増加、車両のメンテナンスコストの増加さらには運転者の安全上の問題を引き起こす可能性がある。舗装の保守及び修復作業は、多くの場合、測定された舗装の劣化及び路面の凹凸の状態に基づいて決定される。
【0003】
歩行調査及び画像ベースの機器は、舗装の劣化を検出するために広く使用されているアプローチである。轍の測定及び内部プロファイラは、例えば州の運輸局で舗装の凹凸レベルを測定及び評価するために使用される。しかしながら、これらのアプローチでは、多くの人手を要するフィールド作業試験と後処理が必要であり、スマートインフラを利用した連続的な監視や通信には適合しない。舗装のさらなる損傷を防ぎ、凹凸の路面状態によって生じる政府機関及びユーザのコストを削減するには、異常な路面状態をリアルタイムで早期に検出する必要がある。
【発明の概要】
【0004】
当該技術分野の進歩は、舗装道路脇に沿って配置され、運転方向と並行な光ファイバセンシングケーブルが動的車両荷重下で光センサファイバケーブルに沿って生成されるレイリー後方散乱を用いた分散型光ファイバセンシング(DFOS)よって監視される、道路の分散型光ファイバセンシングを対象とする本開示の態様により行われる。劣化した舗装面を示す道路の位置と車両との相互作用により、局所的な信号の独特なパターンが生成され、これらの信号は、平坦な舗装面を示す道路を走行する車両から生じる信号と識別/区別される。機械学習手法は、路面全体の品質を推定し、舗装が劣化した場所を突き止めるために採用される。機械学習モデルの開発には、パワースペクトル密度推定、主成分分析(PCA:principal component analysis)、主成分分析と組み合わせたサポートベクターマシン(SVM:support vector machine)、局所バイナリパターン(LBP:local binary pattern)、畳み込みニューラルネットワーク(CNN:convolutional neural network)が適用される。
【0005】
本開示のより完全な理解は、添付の図面を参照することで実現される。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、本開示の態様による、例示的なDFOSシステムを示す概略図である。
【0007】
【
図2】
図2は、本開示の態様による、方法の全体的な動作フローを示すフロー図である。
【0008】
【
図3】
図3は、本開示の態様による、自動舗装凹凸レベル検出の例示的なシステム設定を示す概略図である。
【0009】
【
図4】
図4は、本開示の態様による、分析の例示的なフレームワークを示す概略図である。
【0010】
【
図5】
図5は、本開示の態様による、例示的な実験セットアップを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下は、単に本開示の原理を例示するものである。したがって、当業者であれば、本明細書で明示的に説明または図示されていなくても、本開示の主旨及び範囲に含まれる、本開示の原理を具体化する様々な構成を考え出すことができることを理解されたい。
【0012】
さらに、本明細書で挙げる全ての実施例及び条件付き用語は、本開示の原理及び本技術を促進するために本発明者らが提供する概念の理解を助ける教育目的のためだけであることを意味し、具体的に挙げられた実施例及び条件に限定されないと解釈されるべきである。
【0013】
さらに、本開示の原理、態様及び実施形態、並びにその特定の実施例で挙げる本明細書の全ての記載は、その構成及び機能の均等物の両方を含むことを意味する。さらに、そのような均等物には、現在知られている均等物と、将来開発される均等物、すなわち構成に関係なく同じ機能を実現する、開発された要素の両方を含むことを意味する。
【0014】
したがって、例えば、本明細書の任意のブロック図は、本開示の原理を実施する回路の実例を示す概念図であることが当業者には理解されるであろう。
【0015】
本明細書では、特に明記しない限り、図を含む図面は、正確な縮尺率で描かれていない。
【0016】
追加の背景として、分散型光ファイバセンシング(DFOS)は、光ファイバケーブルに沿った任意の場所の環境状態(温度、振動、音響励起振動、伸張レベル等)を検出するための、重要かつ広く利用されている技術であり、光ファイバケーブルはインタロゲータに接続されていることを最初に指摘しておく。周知のように、現代のインタロゲータは、ファイバに対する入力信号を生成し、反射/散乱されてその後に受信する信号を検出/分析するシステムである。該信号は分析され、ファイバに沿って発生する環境条件を示す出力が生成される。受信する信号は、ラマン後方散乱、レイリー後方散乱、ブリルアン後方散乱等のファイバ内の反射によって生じる可能性がある。DFOSでは、複数のモードの速度差を利用した順方向の信号も使用できる。一般性を失うことなく、以下の説明では反射信号を想定しているが、同じアプローチはフォーワード信号にも適用できる。
【0017】
図1は、一般化されたDFOSシステムの概略図である。理解されているように、現代のDFOSシステムには、定期的に光パルス(または任意のコード化された信号)を生成し、それを光ファイバに入力するインタロゲータが含まれている。入力された光パルス信号は光ファイバに沿って伝送される。
【0018】
ファイバに沿った位置において、信号のごく一部が反射され、インタロゲータに返送される。反射信号は、例えば機械的な振動を示す電力レベルの変化等、インタロゲータが検出のために使用する情報を伝達する。理解及び認識されているように、インタロゲータには、当該技術で知られているコヒーレント受信機の構成を採用した、コード化されたDFOSシステムを含むことができる。
【0019】
反射信号は電気ドメインに変換され、インタロゲータで処理される。パルスの入力時間と信号が検出された時間とに基づいて、インタロゲータはファイバのどの位置から信号が来ているかを特定し、ファイバの各位置のアクティビティを感知できる。
【0020】
当業者であれば、インタロゲーション信号に信号コーディングを実施することで、より多くの光パワーをファイバに送信できるようになり、レイリー散乱ベースのシステム(例えば、分散型音響センシング、すなわちDAS)及びブリルアン散乱ベースのシステム(例えば、ブリルアン光時間領域反射測定法、すなわちBOTDR)の信号対雑音比(SNR)を有利に改善できることを理解及び認識するであろう。
【0021】
現在多くの現代的な実施態様で実装されているように、光ファイバケーブルにおけるDFOSシステムには専用ファイバが割り当てられ、異なるファイバで伝送される既存の光通信信号とは物理的に分離されている。しかしながら、帯域幅の需要が爆発的に増加していることを考えると、DFOSの運用のためだけに光ファイバを経済的に運用及びメンテナンスすることはますます困難になってきている。その結果、より大きなマルチファイバケーブルの一部である共通ファイバに通信システムとセンシングシステムとを統合することへの関心が高まっている。
【0022】
運用上、DFOSシステムは、コーディングの実装を備えたレイリー散乱ベースのシステム(例、分散型音響センシングまたはDAS)とブリルアン散乱ベースのシステム(例、ブリルアン光時間領域反射測定法またはBOTDR)であると想定している。このようなコーディング設計により、これらのシステムは、低電力で動作するため、ファイバ通信システムと統合される可能性が高く、光増幅器の応答時間の影響も大きくなる。
【0023】
これまで、DFOSシステムを使用してセンシングデータを周波数領域及び車両軌道において分析することで道路状態を監視する方法を説明した。現在、我々は、DFOSシステムからの時空間データを活用してこれらの方法を強化し、使用中の舗装面の品質を自動でかつ継続的に監視し、大きな劣化(穴や亀裂等)を検出し、迅速な対応と修復のためにオペレータに警告メッセージを送信できるようにしている。
【0024】
当業者であれば理解し認識するように、このようなアプローチには、困難な問題に対するいくつかの解決策が必要である。すなわち、DOFSシステムは、良好な品質の路面だけでなく、劣化した低品質な路面を走行する車両の信号を検出するために、車両が、通常の劣化していない路面を走行する場合だけでなく、劣化した道路、すなわち穴や亀裂等を有する道路を走行する場合に特有の信号特徴を識別する必要がある。
【0025】
したがって、本開示の態様によるシステム、方法及び構造は、少なくとも2つの重要な特徴を含む。1つは、全体的な路面品質を推定することであり、もう1つは、大きな劣化を示すスポットまたは道路の位置を特定することである。この2番目の特徴に関するイベントアルゴリズムについて説明する。ここで言うイベントとは、車両が路面の不良部位を走行する際に生成される異常な運転信号である。
【0026】
図2は、本開示の態様による、方法の全体的な動作フローを示すフロー図である。この図で示すように、本開示の態様による、本発明のシステム及び方法は、幹線道路/車道と平行に配置された光ファイバセンサケーブルの設備を含む。DFOSシステムは、設置された光ファイバセンサケーブルに動作可能に接続され、車両が通過中のインフラ振動のウォーターフォールプロットが生成される。機械学習モデルは、DFOSの走行動作から得られたデータを評価し、路面の凹凸レベルを「良好」、「普通」、「不良」等に評価する。機械学習モデルは、そのようなデータに基づいて道路の異常な場所を検出する。
【0027】
図3は、本発明の態様による、自動舗装凹凸レベル検出の例示的なシステム構成を示す概略図である。上記の内容から分かるように、それはセンシングシステムの配備とデータ分析の2つに分けて説明できる。
【0028】
ステップ1:システムの配備
【0029】
DFOSシステムは、リモート端末/中央オフィスに設置され、リアルタイムで長期にわたる連続的な遠隔監視を提供する。DFOSシステムは、分散型音響センサ(DAS:distributed acoustic sensor)または分散型振動センサ(DVS:distributed vibration sensor)として動作するように構成されてもよい。
【0030】
DFOSシステムは、光センサファイバに動作可能に接続されている。有利なことに、この光センサファイバは、既存の配備済みの電気通信ファイバまたは新たに配備される電気通信ファイバであってもよい。このようなセンサファイバは、DFOSプローブ信号及び散乱信号に加えて、ライブ通信トラフィックを同時に伝送できる。
【0031】
図4は、本発明の態様による、分析の例示的なフレームワークを示す概略図である。
【0032】
ステップ2:データ分析
【0033】
図示した分析のフレームワークは、データを収集して注釈を付与する最初のステップを示している。次に、ハフ(Hough)変換を用いて、検出された線に基づいて車両速度が推定される。
【0034】
路面の穴や亀裂を検出するために2つの方法が採用される。第1の方法は、局所バイナリパターンヒストグラムを用いて、注釈付き画像の特徴を抽出する。次元を削減するために主成分分析(PCA)を採用し、モデルを訓練するために分類器としてサポートベクターマシン(SVM)が考慮される。
【0035】
第2の方法は、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を用いてバイナリ分類データを訓練し、訓練されたモデルを取得する。訓練は画像拡張(image augmentation)から開始する。
【0036】
最後に、SVM及びCNN法に基づいて訓練されたモデルを配備し、舗装上のスピードバンプ及び舗装の凹凸レベルを検出する。
【0037】
ハフ変換
【0038】
ハフ変換は、数学形式で表現できる任意の形状を検出するための一般的な特徴抽出技術である。折れたり曲がったりした形状の検出に効果的であり、線はaとbの2つのパラメータによってy=a・x+bで表現できる。この数式は垂線を表すために使用できないため、法線パラメータ化が一般的に使用される。法線パラメータ化は、次の式で表すように、直線をその法線の角度θと原点からの代数距離ρとで規定する。
【数1】
ここで、
【数2】
である。
【0039】
したがって、線のハフ空間はθとρの2つの次元を有し、線はθ-ρ平面における一意の点(θ0、ρ0)で表すことができる。
【0040】
n個の図点のセット
【数3】
があり、それらに適合する直線のセットが必要であると仮定する。点
【数4】
は、
【数5】
で規定されるθ-ρ平面における正弦曲線に変換できる。同一線上の図点に対応する曲線には共通の交点がある。θ-ρ平面におけるこの点
【数6】
は、同一線上の該点を通る線を定義する。そのため、同一線上の点を検出する確率は、同一点で相交わる曲線を見つける問題に変換できる。
【0041】
局所バイナリパターン(LBP)
【0042】
LBPは、統計的テクスチャ分析と構造的テクスチャ分析の特性を組み合わせた視覚的記述子の一種である。LBPベースのアルゴリズムは、カメラで撮影された画像のエッジの向きとテクスチャの特徴とを抽出することで、路面の舗装の亀裂を検出するために広く使用されている。LBPの利点は、高い識別力、計算の単純さ、グレースケールの変化に対する不変性等がある。これは、グレースケール不変性の2次元テクスチャ分析に基づいて実行される。LBPでは、画像のピクセルは、各ピクセルの近傍を中心値で閾値化し、この閾値処理の結果を2進数で考えることでラベル付けされる。
【0043】
例えば、中心ピクセルの輝度がサンプルピクセルの輝度よりも小さい場合は値「1」が設定され、それ以外の場合は値「0」が設定される。新しいマトリクスはこれらバイナリ値を含み、中心値は無視される。各位置のバイナリ値は、マトリクスから1行ずつ新しいバイナリ値に集約される。該バイナリ値は十進法の値に変換され、マトリクスの中心値として設定される。セルの数を使用して画像を複数のグリッドに分割し、特徴のヒストグラムがプロットされる。
【0044】
正式には、
【数7】
のピクセルが与えられた場合、結果として得られるLBPは、以下の十進法の形式で表すことができる。
【数8】
ここでi
cは中央ピクセルのグレーレベル値であり、i
pは半径Rの円近傍におけるP個の周囲ピクセルであり、関数s(x)は以下で定義される。
【数9】
【0045】
上記定義から、基本的なLBP演算子は、局所近傍におけるピクセル輝度の順序を維持する単調なグレースケール変換に対して不変である。領域を越えて計算されたLBPラベルのヒストグラムは、テクスチャ記述子として利用できる。
【0046】
サポートベクターマシン(SVM)
【0047】
SVMは、特徴空間の変換バージョン内に大きな線形境界を構築することで非線形境界を生成する。SVMの基本原理は、訓練データ間の最大マージンを作成する最適な分離超平面を見つけることである。超平面に最も近い訓練ポイントはサポートベクターと呼ばれる[25]。訓練データは、
【数10】
としたとき、N個のペア
【数11】
で構成される。超平面は次のように定義する。
【数12】
【0048】
ここで、βは単位ベクトル
【数13】
である。f(x)によってもたらされる分類規則は、
【数14】
である。
【0049】
ここで、f(x)は点xから超平面
【数15】
までの符号付距離を与える。
【0050】
クラスは分離されているため、
【数16】
としたとき、関数
【数17】
となる。そのため、異なるクラスの訓練データ間のマージンを最大化する超平面を見つけることができる。
【0051】
最適化問題
【数18】
は、本コンセプトをキャプチャする。但し、
【数19】
とする。バンドは、超平面から両側にM単位離れており、幅は2M単位であり、これをマージンと呼ぶ。したがって、最適化問題は、分離可能なデータのサポートベクター基準の以下の式によってより便利に表現できる。
【数20】
但し、
【数21】
であり、
【数22】
であることに留意する。
【0052】
畳み込みニューラルネットワーク(CNN)
【0053】
CNNは、特に構造健全性の監視のための画像分類に適用される。このネットワークトポロジは、パターンを明示的にプログラムしなくても、データ内のパターンを学習するコンピュータシステムの能力に重点を置いている。CNNは、TheanoやTensorflow等のバックエンドを利用して分類の精度を高めるためにKerasに実装できる。KerasはPythonで書かれた高レベルのニューラルネットワークである。
【0054】
CNNは、畳み込みを実施し、分類に必要な画像の重要な特徴を明らかにし、不要な特徴を無視することで、画像の実際の入力サイズを縮小するために使用される。CNNアーキテクチャは、畳み込み層、最大プーリング層、分類層で構成されている。畳み込み層は複数のフィルタで構成された層であり、各フィルタはプログラムにしたがって入力画像と畳み込み積分される。適用される特徴の数に応じて、畳み込み層によって画像の入力形状が縮小される。画像の特徴マップが得られた。以下の表は、本研究のモデルの訓練に使用された畳み込みネットワークの詳細を示している。
【表1】
【0055】
Kerasニューラルネットワークライブラリは、過学習問題を防ぐために、小さなデータセットに適した画像拡張を実行できる。画像拡張は、特定のパラメータを用いて入力画像を変換し、実行された変換に関係なく全ての画像が同じであることをネットワークに教える方法である。利用可能な画像拡張タイプは多数あり、変更された画像の意味を考慮して画像拡張タイプを選択する必要がある。本研究では、より多くのデータを生成するためのパラメータとして、幅シフト、高さシフト、水平反転が選択される。Kerasにはこのプロセスが組み込まれており、画像データ生成器と呼ばれるクラスによって実行される。
【0056】
データの収集及び準備
【0057】
図5は、本開示の態様による、例示的な実験セットアップを示す概略図である。
【0058】
この図には、中央オフィス(CO:central office)に設置されたDASシステムと道路面に設置されたスピードバンプを使用した例示的な実験セットアップが示されている。車両がスピードバンプを通過すると、生成される振動信号が道路の穴や大きな亀裂等の道路の異常を効果的にシミュレートする。採用されたスピードバンプは、高さ6インチのゴム製の安全バンプであり、光ファイバに対して垂直となるように配置されている。
【0059】
実験走行から収集されたウォーターフォールデータは、ハフ変換にかけられる。変換されたデータから、車両の振動、スピードバンプの特性及び車両速度を判定できる。ハフ変換は、ウォーターフォールの時空間平面での車両通過イベントの位置特定を容易にし、道路の穴や亀裂を示す信号が常に車両の軌道上に現れるため、異常な運転信号の位置を検出する場合にも役に立つ。続く分類器は、道路の穴の位置を検出する時に、ウォーターフォールプロット全体ではなく、車両と隣接する画像パッチを走査する。有利なことに、ウォーターフォール信号は非常にまばらであり、有用な情報を示すデータはごく僅かであるため、計算コストが大幅に削減される。
【0060】
さらに、我々の実験観察により、400か所のセンシングポイントを含む100秒のウィンドウにおいてウォーターフォールトレースが得られた。道路にはスピードバンプが1つしか設置されていないため、プロットには2つのストリップが見られ、各ストリップはスピードバンプを通過する車両の1つの車軸を表す。予想通り、車両が凹凸上を走行しているとき、通常の路面の振動と比べて地面の振動が劇的に増加した。スピードバンプがある場所の強度は、バンプがない場所の強度よりも高かった。
【0061】
さらに別の試験を雨天時に実施し、濡れた路面状態でウォーターフォールトレースが得られた。雨が降った後は地面の振動が弱まることが観察され、路面と車両のタイヤ間の力学的な相互作用、舗装構造の弾性係数、土壌の弾性係数に変化が生じた可能性がある。
【0062】
周知のように、DASは、光ファイバケーブルを用いて地面の揺れを測定する比較的最近に開発された技術である。DASシステムは、レイリー散乱に基づく分散型歪みセンシングを提供できる。光ファイバに沿った動的歪の変化を捉え、周囲の音波場と関連付けることができる。DASにはジオフォン(geophone)と比べていくつかの利点がある。ジオフォンとは異なり、DASはケーブルが細いため、水平チューブや超スリムチューブにおける制限が無い。光ファイバはコストが低く、分散型温度センシング(DTS:Distributed Temperature Sensing)や分散型圧力センシング(DPS:Distributed Pressure Sensing)等を含む他の光ファイバセンサと一緒に設置することが容易である。
【0063】
DASは、ファイバを動かすことなく水平方向の全範囲で測定することが可能であり、データの連続性を保証する。DASシステムでは、高い空間分解能で光ファイバ全体にわたって動的振動を検出できる。舗装構造にDFOSや歪みゲージを新たに配備するのではなく、既存の商用の通信機器やツールを交通や路面状態の監視に利用できる。
【0064】
収集された画像は、バンプ有りとバンプ無しの2つの主要なクラスに分類される。スピードバンプを備える場合、画像は対応する場所で撮影される。サンプルサイズが十分に大きいことを確認するため、凹凸の無い通常の路面のクラスのウォーターフォールプロットから画像がランダムに抽出される。これらの画像のサイズは、PNG(Portable Network Graphics)フォーマットで24×30ピクセルである。
【0065】
2つのデータセットがニュージャージー州中部で収集された。フィールド試験は、それぞれ2019年6月25日と2019年8月7日に実施された。6月25日は晴れており、路面は乾いていた。データセット用に、スピードバンプを備える舗装部位とスピードバンプが無い舗装部位を含む250枚の画像が抽出された。2019年8月7日は雨が降っており、路面や土壌が濡れていた。データセットには、上記の両方のケースを含む120枚の画像が抽出された。2つの試験では気象条件が変化したため、データセットは個別に処理及び分析される。全てのデータ処理及び分析は、必要なモジュールが組み込まれたPythonで実行される。
【0066】
ハフ変換に基づく線検出
【0067】
データのウォーターフォールプロットでは、ハフ変換を利用して、舗装面のバンプによって生成された高強度のポイントまたはストリップを接続することで直線を検出した。線の傾きは車両の速度を示している。直線の数を積算することで車両の数を数えることもできる。推定速度はそれぞれ5.6m/s(20km/h)と6.4m/s(23km/h)であった。コンクリート構造のため、バンプ間の水溜りの位置で振動信号の増強が見られた。
【0068】
LBPとSVMに基づく方法の結果
【0069】
データセットは、訓練データ(90%)と試験データ(10%)の2つのセットに分割される。データの画像にLBPを適用し、結果の画像のヒストグラムを取得した。各ヒストグラムには、各ピクセルの輝度の存在を示す256の位置が含まれ、ヒストグラムは元の画像の特性を表す。結果は、スピードバンプを備える舗装区間で取得したLBPヒストグラムとスピードバンプの無い舗装区間で取得したLBPヒストグラムとが異なることを示した。各画像のLBPヒストグラムは、分類器における特徴として考えることができる。乾燥した道路で収集された、スピードバンプを備える場合と無い場合のLBPヒストグラムを比較すると、該2つのケース間でピクセルの割合に大きな違いがあることが分かる。例えば、ピクセルの輝度が250~255の場合、バンプが無い場合のピクセルの割合は、バンプがある場合よりも明らかに大きくなる。一方、ピクセルの輝度が145~155の場合、バンプが有る場合のピクセルの割合が大きくなる。濡れた路面でも同様の傾向が見られた。
【0070】
路面状態(乾燥/濡れた)はLBPヒストグラムに大きな影響を与える。LBPヒストグラムは、道路の異常を検出するための画像特徴の抽出に効果的であった。
【0071】
乾燥した路面で収集されたデータセットに関して、分類結果の混同行列を作成した。準備として、予測クラスはマトリクスの行で表され、実際のクラスはマトリクスの列で表される。各クラスで予測または予め定義された画像の数に対応するように、色を用いて各領域を区別することができる。偽陽性の数は0であり、偽陰性の数は2であった。予測モデルの精度は97%であった。濡れた路面で収集されたデータセットの分類結果の混同行列は、偽陽性の数が3であり、偽陰性の数が0であることを示した。予測モデルの精度は90%であった。この比較により、天候と路面状態とが予測モデルの開発に重要なパラメータであることが示された。
【0072】
畳み込みニューラルネットワーク法の結果
【0073】
畳み込みニューラルネットワーク法では、各データセットを訓練(72%)、検証(18%)、試験データ(10%)の3つのセットに分割した。分類のためのニューラルネットワークの訓練は5エポックに関して実行され、モデルと重みは将来の展開及び変更のために保存される。精度と損失の曲線をプロットした。乾燥した路面における訓練及び検証データの精度は100%であり、損失は0.48であった。濡れた路面における訓練及び検証データの精度は100%であり、損失は0.16であった。
【0074】
提案する方法間の分類精度の比較結果は、乾燥した路面状態と濡れた路面状態における畳み込みネットワークモデルが高い精度であることを示している。LBPヒストグラムには限られた構造情報しか含まれておらず、時空間の観点から特徴のサイズによって計算の複雑さが増大する可能性がある。但し、畳み込みネットワークの訓練モデルでは、過学習問題を回避するために大規模なデータセットが必要であった。
【0075】
結論として、DFOSは晴天時及び雨天時の地面の振動を捉えるために実装される。道路の異常によって発生する振動信号を再現し、複数車線の道路における車両の位置を特定するために、道路表面にスピードバンプが設置される。LBPヒストグラムは画像の特徴を効果的に特徴付けることができる。LBP及びSVMベースの方法は、道路の異常の検出に効果的である。LBP及びSVMベースの方法と比較して、CNN法は予測モデルの精度を向上させる。但し、過学習問題を克服するには、より多くのデータセットが必要である。DFOSは、交通監視(交通量の集積と車両速度の推定)や道路の異常検出に実用的である。それは、スマート道路に実装できる可能性を秘めている。実験は特定の場所でしか実施できないため、サンプルのサイズは比較的小さいものであった。舗装構造や環境要因等の重要なパラメータは、限られたデータに基づいて訓練されたモデルに含めることができない。より多くのデータセットが収集されれば、精度が向上してアプリケーションが拡張される。今後の研究では、訓練されたモデルを、複数の車線の道路における車両検出のためのリアルタイムエンジンで利用する予定である。この技術は、スライディングウィンドウ技術と組み合わせることで、道路の異常検出にも拡張できる。
【0076】
ここでは、いくつかの具体的な例を用いて本開示を示したが、当業者であれば本教示がそれらに限定されないことを認識するであろう。したがって、本開示は本明細書に添付される特許請求の範囲によってのみ限定されるべきである。
【国際調査報告】