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  • 特表-タウリンの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-27
(54)【発明の名称】タウリンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 11/00 20060101AFI20241120BHJP
   C12N 9/88 20060101ALN20241120BHJP
   C12N 15/31 20060101ALN20241120BHJP
   C12N 15/60 20060101ALN20241120BHJP
【FI】
C12P11/00 ZNA
C12N9/88
C12N15/31
C12N15/60
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024531729
(86)(22)【出願日】2021-11-29
(85)【翻訳文提出日】2024-07-29
(86)【国際出願番号】 EP2021083369
(87)【国際公開番号】W WO2023094010
(87)【国際公開日】2023-06-01
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】390008969
【氏名又は名称】ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】ルーペルト、プファラー
(72)【発明者】
【氏名】ギュンター、ヴィヒ
【テーマコード(参考)】
4B064
【Fターム(参考)】
4B064AE61
4B064CA02
4B064CA19
4B064CA21
4B064CC03
4B064CC06
4B064CC07
4B064CC10
4B064CC12
4B064CC15
4B064CC24
4B064CD02
4B064CD13
4B064CD20
4B064CD21
4B064CE03
4B064DA01
4B064DA10
(57)【要約】
本発明は、生体内変換によりO-アセチル-L-セリン(OAS)からタウリンを製造する方法である。第1方法工程(生体内変換1)において、亜硫酸塩の存在下で、OASスルフィドリラーゼ(EC4.2.99.8)の群から選択される酵素を用いて、O-アセチル-L-セリン(OAS)からL-システイン酸を生成し、次いで、第2方法工程(生体内変換2)において、L-システイン酸をタウリンに脱炭酸する。このタイプの生体内変換によりタウリンがもたらされる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体内変換によりO-アセチル-L-セリン(OAS)からタウリンを製造する方法であって、
i)第1工程(生体内変換1)において、亜硫酸塩の存在下で、OASスルフィドリラーゼ(EC4.2.99.8)のクラスから選択される酵素を用いて、O-アセチル-L-セリン(OAS)からL-システイン酸を生成し、次いで、
ii)第2工程(生体内変換2)において、L-システイン酸をタウリンに脱炭酸する、
前記方法。
【請求項2】
前記OASスルフィドリラーゼが細菌酵素である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記OASスルフィドリラーゼが発酵生産に由来する、請求項1および2の一方または両方に記載の方法。
【請求項4】
前記亜硫酸塩の濃度が少なくともOASと等モル濃度である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
L-システインスルフィン酸デカルボキシラーゼ(EC4.1.1.29)、アスパラギン酸1-デカルボキシラーゼ(EC4.1.1.11)またはグルタミン酸デカルボキシラーゼ(EC4.1.1.15)のクラスの酵素を用いて、L-システイン酸をタウリンに脱炭酸する、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記L-システインスルフィン酸脱デカルボキシラーゼが配列番号2であるか、該配列と相同な配列である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記L-システインスルフィン酸脱デカルボキシラーゼが発酵生産に由来する、請求項5および6の一方または両方に記載の方法。
【請求項8】
a)OASが発酵によって生産され、
b)OASスルフィドリラーゼ(EC4.2.99.8)のクラスおよびシステインスルフィン酸デカルボキシラーゼ(EC4.1.1.29)のクラスの酵素が発酵によって生産され、
c)OASおよび亜硫酸塩が、ポイントbのOASスルフィドリラーゼによる酵素触媒下で反応してL-システイン酸を形成し、
d)ポイントcのL-システイン酸が、ポイントbのCSAD酵素によってタウリンに脱炭酸される、
請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
すべての方法工程が1つの反応バッチで行われる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
生体内変換2におけるL-システイン酸の生体内変換からのタウリンのモル収率が好ましくは少なくとも60%である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内変換によりO-アセチル-L-セリン(OAS)からタウリンを製造する方法に関するものであり、第1方法工程(生体内変換1)において、亜硫酸塩の存在下で、OASスルフィドリラーゼ(EC4.2.99.8)のクラスから選択される酵素をもちいて、O-アセチル-L-セリン(OAS)からL-システイン酸を生成し、次いで、第2方法工程(生体内変換2)において、L-システイン酸をタウリンに脱炭酸する。この生体内変換の結果としてタウリンがもたらされる。
【0002】
タウリン(2-アミノエタンスルホン酸、CAS番号107-35-7)は、アミノ酸システインおよびメチオニンの分解産物として自然界に存在するアミノスルホン酸である。タウリンはエナジードリンクの成分であり、例えばネコのペットフードや養殖魚にも用いられている(Salze and Davis (2015) Aquaculture 437: 215-229)。しかしながら、タウリンには健康促進効果もあると考えられている(Ripps and Shen (2012), Molecular Vision 18: 2673-2686)。
【0003】
自然界において、タウリンはほぼ動物界にのみ存在し、細菌、藻類または植物に存在する例はわずかしかない。タウリンへの生合成経路は多様であり(概要については、例えばKEGG Pathway Databaseの“Taurine and hypotaurine metabolism”を参照)、とりわけL-システインから開始される。L-システインからタウリンに至る最も重要な合成工程を、式(1)~(5)に示す。
(1)L-システイン+O -> L-システインスルフィン酸
(2)L-システインスルフィン酸+1/2O -> L-システイン酸
(3)L-システインスルフィン酸 ->ヒポタウリン+CO
(4)ヒポタウリン+1/2O -> タウリン
(5)L-システイン酸 -> タウリン+CO
【0004】
(1)第一工程では、L-システインが酵素システインジオキシゲナーゼ(CDO、EC1.13.11.20)によって酸化され、L-システインスルフィン酸(3-スルフィノアラニン、CAS番号207121-48-0)になる。
(2)システインスルフィン酸オキシダーゼ(以前はむしろ仮説的な酵素工程であった)は、L-システインスルフィン酸がさらに酸化されてL-システイン酸((R)-2-アミノ-3-スルホプロピオン酸、CAS番号23537-25-9)になる。
(3)システインスルフィン酸デカルボキシラーゼ(CSAD、EC4.1.1.29)により、L-システインスルフィン酸が脱炭酸されてヒポタウリン(2-アミノエタンスルフィン酸、CAS番号300-84-5)になる。
(4)ヒポタウリンが酸化されてタウリンになるが、これまで十分に説明されていなかった。
(5)(3)と同様の工程で、L-システイン酸が適切なCSAD酵素によって脱炭酸されてタウリンになる。
【0005】
現在、商業的に用いられるタウリンは化学的に生産されている。一つの公知の方法は、例えば、Changshu Yudong Chemical Factoryの方法であり、エチレンから開始されてエチレンイミンを経てタウリンに至る。化学的に生産された原料から持続可能な方法で生産された原料への消費者主導の傾向により、タウリン生産のためのバイオテクノロジー方法の研究がますます進んでいる。従来技術は、適切な生合成遺伝子を生産株で異種発現させ、タウリンまたはその生合成前駆体であるヒポタウリンを生産する代謝工学アプローチに依存している。
【0006】
Honjoh et al. (2010), Amino Acids 38: 173-1183は、コイ(Cyprinus carpio)のCDO遺伝子およびCSAD遺伝子を異種発現する遺伝子組み換え酵母株について説明している。遺伝子組み換え株の増殖にL-システインを添加すると、主生成物としてヒポタウリンが生成され、さらに比較的低い割合のタウリンが生成されることが観察された。Hで処理すると、ヒポタウリンがタウリンに酸化された。S. cerevisiae自体は自身の代謝からシステインを生成することができるが、ヒポタウリンおよびタウリンを生成するには、増殖培地にL-システインを外部から添加する必要があった。
【0007】
Tevatia et al.(2019), Algal Research 40:101491も同様に、コイ由来の異種発現CDOおよびCSAD遺伝子を用いて、藻類Chlamydomonas reinhardtiiにおいてタウリンを生産した。細胞内タウリンの収量は、乾燥バイオマス1gあたりタウリン0.14mgであった。
【0008】
Joo et al.(2018), J. Agric. Food Chem. 66:13454-13463は、振盪フラスコで増殖させたときに0.5g/Lのタウリンを生産する細菌Corynebacterium glutamicumの遺伝子組み換え株について記載してる。タウリンは細胞内に蓄積され、増殖培地には分泌されないことは明らかであった。タウリンの合成は、L-システイン酸合成酵素、システインジオキシゲナーゼおよびL-システインスルフィン酸デカルボキシラーゼの遺伝子を株内で異種発現させることによって達成された。さらに、メチオニンおよびシステインの生合成に関連するリプレッサー遺伝子が不活性化され、同時に硫黄の吸収が改善された。低収量に加えて、タウリンが細胞内で生産されるという事実は、生産物の分離の観点から基本的な欠点であると考えられる。タウリンを放出してさらに処理するには、細胞の複雑な破壊が必要である。
【0009】
WO17213142A1(味の素)は、システイン生産能力を有する菌株でシステインジオキシゲナーゼおよびL-システインスルフィン酸デカルボキシラーゼを異種発現させることによって得られるタウリン生産菌株について記載している。主な生産物は最大収量が450μMのヒポタウリンであり、その後アルカリ処理することによってのみ、低い収量でのみタウリンに変換できる。
【0010】
US9267148B2、US2012/0222148A1、US2018/0028474A1、US2019/0085339、WO2017/176277A1およびWO2019/094051(Plant Sensory Systems)は、システインジオキシゲナーゼおよびL-システインスルフィン酸デカルボキシラーゼの異種発現をさまざまな形で含むタウリンを生産する株および生物を記載している。これらの出願の主な焦点は植物におけるタウリンの生産であるが、収量については何も述べられていない。
【0011】
US20190062757A1(KnipBio)は、タウリンまたはその前駆体を生産するための異種生産株について記載している。
【0012】
従来技術では、異種生産システムにおいてヒポタウリンまたはタウリンを生産するためのさまざまな代謝工学アプローチが開示されている。代謝工学アプローチによる生産量が開示されているが、工業的に用いるには収量が低すぎる。
【0013】
従来技術では、例えば、微生物の直接発酵(EP1191106B1、ワッカー)またはO-アセチル-L-セリンスルフィドリラーゼ(OASスルフィドリラーゼ)により触媒されるOASの生体内変換(EP1247869B1、ワッカー)によって、非タンパク質構成(非天然)アミノ酸を製造する方法も提供されている。これらの方法は、一般式(6)に従って、OASと求核剤との反応を触媒して非タンパク質構成アミノ酸を形成する。
(6)OAS+求核剤 -> 不飽和アミノ酸+酢酸
【0014】
EP1247869B1(ワッカー)においては、セレニド、セレノール、アジド、シアニド、アゾールおよびイソキサゾリノンといったOASスルフィドリラーゼによって触媒されるOASとの反応に対する求核剤としての適合性について、多数の異なる求核剤が試験されている。さらに、一般式H-S-Rのチオ硫酸塩およびチオールの群からの硫黄化合物も用いられ、ラジカルRは、一価の置換または非置換のアルキル、アルコキシ、アリールまたはヘテロアリールラジカルである。
【0015】
これらの方法は、L-システイン酸および/またはタウリンの生産には適していない。
【0016】
本発明の目的は、代謝工学によって生成される異種生産株をバイパスして、生体内変換によってタウリンを製造するバイオテクノロジー方法を提供することである。
【0017】
この目的は、生体内変換によりO-アセチル-L-セリン(OAS)からタウリンを製造する方法であって、第1方法工程(生体内変換1)において、亜硫酸塩の存在下で、OASスルフィドリラーゼ(EC4.2.99.8)のクラスから選択される酵素を用いて、O-アセチル-L-セリン(OAS)からL-システイン酸を生成し、次いで、第2方法工程(生体内変換2)において、L-システイン酸をタウリンに脱炭酸する方法によって達成される。
【0018】
添付の出願Co12102および本発明の実施例に開示されているように、驚くべきことに、亜硫酸の塩(以下、亜硫酸塩またはSO 2-と称する)が反応(6)における求核剤として適しており、EP1247869B1(ワッカー)の拡張として、これまで知られていなかった式(7)の反応において非タンパク質構成アミノ酸であるL-システイン酸の合成(生体内変換1)を可能にすることがわかった。
(7)OAS+SO 2- -> L-システイン酸+酢酸
【0019】
同じく予想外なことに、生体内変換1で生成されたL-システイン酸は、組み換えにより生成されたCSAD酵素によって、式(5)に従って、さらなる処理なしにタウリンに脱炭酸することができた(生体内変換2)。
【0020】
本発明のタウリンの製造方法の利点は、タウリンを製造するために持続可能であり、技術的に実現可能で経済的に実行可能な生体内変換方法である点にある。環境に有害な化学物質は不要である。化石原料は消費されず、有毒な化学廃棄物および/または廃ガスは生成されない。したがって、本発明の製造方法は環境に優しく、持続可能である。さらに、本発明の方法は極端な反応条件や特別な装置を必要とせず、したがって技術的に実施しやすい。このような方法に対する需要が高まっている。
【0021】
本発明の方法によるタウリンは、さらなる処理工程を経ずに直接用いることもでき、既知の方法によって濃縮することもできる。
【0022】
本発明の文脈において、製造方法は以下のように区別される。
1.化学的方法
2.バイオテクノロジー方法
a)代謝工学によるもの
代謝工学(「経路設計」とも呼ばれる)は、生体内変換とは対照的に、遺伝子および調節プロセスの最適化または改変によって生物の代謝経路を変更するバイオテクノロジー方法である。新規または改変された酵素は、酵素の遺伝子をゲノムに補充することによって生物に導入することができ、または内因性酵素の遺伝子を増強または減弱したレベルで発現させることができ、それによって生物に新しい代謝経路を確立するか、または既存の代謝経路を増強または減弱させることができる。代謝工学の目標は、生物において新しい代謝物または細胞内因性代謝物をより高い収率で生成させることである。代謝工学プロセスでは、酵素基質、例えば本発明におけるOAS等の代謝物に特有の出発物質を用いず、代わりに、対象の生物の増殖に必要であり、炭素源(例えば、グルコース)、窒素源(例えば、アンモニウム塩、またはペプトンや酵母エキス等の複合アミノ酸混合物)、および増殖に必要なその他の塩から構成される、増殖培地とも呼ばれる栄養培地のみが用いられる。このような栄養培地は、微生物学的実践から当業者に知られている。
b)生体内変換によるもの
生体内変換は、酵素触媒作用下で1種以上の反応物を生成物に変換することと定義され、酵素基質は酵素とともに反応バッチに添加される。反応バッチでは、本発明におけるOASまたはL-システイン酸等の添加された酵素基質が酵素的に変換される。本発明では、これは、OASについては式(7)に従って亜硫酸塩の存在下でOASスルフィドリラーゼ(EC4.2.99.8)のクラスから選択される酵素によって達成され、L-システイン酸については式(5)に従ってシステインスルフィン酸デカルボキシラーゼ(CSAD、EC4.1.1.29)のクラスから選択される酵素によって達成される。反応物は、化学的または生物工学的生産に由来し得る。本発明の方法で用いられるOASは、例えば、化学合成に由来し得るか、または生産株の発酵による生物工学的生産に由来し得る。本発明の方法で用いられるL-システイン酸は、例えば、化学合成またはOASの生体内変換によるバイオテクノロジーによる生産から得られる。酵素触媒に用いられる酵素は、例えば、発酵による生産株の増殖によるバイオテクノロジーによる製造から得られるか、または酵素を含む生物学的材料(例えば、植物、菌類、藻類、動物の臓器)が用いられる。生産株の増殖からのバイオマスまたは生物学的材料は、そのまま用いることができ、または酵素は、生体内変換の要件に応じてそこから単離される。本発明の方法で用いられる酵素CysMおよびCSADccは、生産株の発酵によるバイオテクノロジーによる製造から得ることができる。
【0023】
本発明の文脈において、反応バッチは、反応物(出発物質)、酵素、および任意に他の反応物の混合物として定義され、その中で反応物は生成物に変換される。
【0024】
本発明の意味における反応の収率は、反応条件下で生成物に変換される、使用される反応物の量として定義される。収率は、絶対量(gまたはmmol)、単位体積あたりの生成物の絶対量(mMまたはg/L)で表される体積収率、または用いられる反応物の割合(反応物および生成物の分子量を考慮)で表される、パーセント収率とも呼ばれる相対収率で表すことができる。
【0025】
発酵は、工業規模で細胞培養物を生産(培養)するための方法工程であり、好ましくは微生物生産株を、培地、温度、pH、酸素供給、および培地の混合の規定条件下で増殖させる。生産株の構成(遺伝子構成)に応じて、発酵の目的は、タンパク質/酵素または代謝産物を、いずれの場合も、さらなる使用のために可能な限り高い収率で生産することである。本発明の方法の構成であるOAS、OASスルフィドリラーゼおよびシステインスルフィン酸デカルボキシラーゼは、発酵によって生産することができる。発酵の最終生成物は、生産株の細胞のバイオマス(発酵細胞)と、バイオマスから除去され、発酵中に増殖培地および発酵細胞によって分泌される代謝産物から形成される発酵培地(発酵上清)とからなる発酵ブロスである。発酵の目的産物は、発酵細胞または発酵培地に存在し得る。例えば、OASは発酵培地に含まれるのに対し、酵素OASスルフィドリラーゼおよびCSADccは発酵細胞に含まれる。
【0026】
オープンリーディングフレーム(ORF、cdsまたはコード配列と同義)は、開始コドンで始まり、停止コドンで終わり、タンパク質のアミノ酸配列をコードするDNAまたはRNAの領域を指す。ORFはコード領域または構造遺伝子とも呼ばれる。
【0027】
遺伝子とは、生物学的に活性なRNAを生成するためのすべての基本情報を含むDNAセクションを指す。遺伝子には、転写によって一本鎖RNAコピーが生成されるDNAセクション、およびこのコピープロセスの調節に関与する発現シグナルが含まれる。発現シグナルには、例えば、少なくとも1つのプロモーター、転写開始点、翻訳開始点、およびリボソーム結合部位(RBS)が含まれる。ターミネーターと1つ以上のオペレーターは、追加の可能な発現シグナルである。
【0028】
mRNAはメッセンジャーRNAとも呼ばれ、タンパク質合成のための遺伝情報を運ぶ一本鎖リボ核酸(RNA)である。mRNAは細胞内の特定のタンパク質の組み立て指示を提供する。mRNA分子は、タンパク質合成に必要なメッセージを遺伝情報(DNA)からタンパク質合成を司るリボソームに伝達する。細胞内では、mRNA分子は、遺伝子に対応するDNAの部分の転写物として形成される。DNAに保存されている遺伝情報は、このプロセスによって変更されることはない。
【0029】
真核生物の遺伝子は、主にモザイク遺伝子と呼ばれるもので、原核生物の遺伝子とは異なりイントロン(遺伝子内領域)と呼ばれる非コード領域も含んでいる。エクソン(発現領域)と呼ばれるコード配列は、真核生物遺伝子のDNAの部分で、RNAに転写された後、リボソームによってタンパク質のアミノ酸配列に翻訳される。DNAがRNAに転写された後、イントロンは一次転写産物から切り離される。イントロンが除去されたタンパク質コードRNAは、メッセンジャーRNA(mRNA)または「成熟」mRNAと呼ばれる。これは、キャッピングやポリアデニル化等のさらなる修飾を受ける。次いで、成熟mRNAのコード領域はタンパク質配列に翻訳される。エクソン/イントロン構造を含む真核生物遺伝子を原核生物で発現させる場合、原核生物ではエクソン/イントロン構造の処理が行われないため、成熟したmRNAのタンパク質配列またはコード領域を、イントロンを含まないDNAに逆翻訳する必要がある。本発明の文脈において、タンパク質配列から誘導される遺伝子配列またはmRNAから誘導される遺伝子配列に言及する場合、意味するのはまさにこの逆翻訳のプロセスである。タンパク質配列またはmRNA配列をDNA配列に逆翻訳すると同時に、配列の最適化、すなわち対応する原核生物のコドン使用法への適応(コドンの最適化)が行われることが好ましい。
【0030】
遺伝子構築物とは、遺伝子が他の遺伝要素(プロモーター、ターミネーター、選択マーカー、複製起点等)に連結されたDNA分子を指す。本発明の文脈における遺伝子構築物は、環状DNA分子であり、プラスミド、ベクターまたは発現ベクターと呼ばれる。遺伝子構築物の遺伝要素は、細胞の成長中にその染色体外遺伝を引き起こし、遺伝子によってコードされるタンパク質を生成する。
【0031】
略語WT(Wt)は野生型を表す。野生型遺伝子とは、進化を通じて自然に発生し、野生型ゲノムに存在する遺伝子の形態を指す。Wt遺伝子のDNA配列は、NCBI等のデータベースで公開されている。
【0032】
生体内変換1:
本発明のタウリンの製造方法では、OASが利用可能であることが必要である。OASを生成するための化学的方法は、例えば、L-セリンのアセチル化によるが、これはL-セリンの価格が高いためコストがかかり、あるいは直接用いることができるラセミ体のO-アセチル-D/L-セリンの生成により、または、例えば溶解によりラセミ体からOASを予め得ることもできる。直接アセチル化の場合、N-アセチル-L-セリン(NAS)が副産物として形成されることがあり、例えばL-セリンのヒドロキシル基またはアミノ基の非選択的アセチル化、または中性からアルカリ性のpH値でのOASからNASへの既知の転位(Tai et al. (1995), Biochemistry 34: 12311-12322)によるが、これらは収量が低下するか、L-セリンのアミノ基に保護基を事前に導入する必要がある。したがって、L-セリンの直接アセチル化は、経済的に実行可能な方法には実用的ではない。
【0033】
OASのバイオテクノロジーによる生産は既知である。これには、システイン代謝の調節が解除され、その結果、高レベルのOASを提供する生物の使用が含まれる。OASを生産するための発酵プロセスは、EP1233067B1(ワッカー)に開示されており、本発明の実施例1に記載されている。
【0034】
大腸菌を用いたOASの生産が好ましく、ブダペスト条約に従ってDSMZ-German Collection of Microorganisms and Cell Cultures GmbH(ブラウンシュヴァイク)にDSM13495番号で寄託されているEscherichia coli(大腸菌)を用いることが特に好ましい。
【0035】
本発明の利点は、例えばEP1233067に従って実施される発酵から得られるOAS含有発酵ブロスを、抽出、吸着、イオン交換クロマトグラフィー、沈殿または結晶化を含むさらなる後処理、精製または単離工程なしで、例えば遠心分離によって粒子状バイオマスを除去した後に発酵上清としてOAS源として本発明の方法に直接用いることができる点にある。この手順は特に経済的であり、不安定な化合物の単離を回避する。
【0036】
当業者であれば、同位体分析を用いて、本発明の方法で用いることを望むOASやL-システイン酸等の物質が化学的生産または発酵生産に由来するかどうかを判断s得ることができる。区別可能な同位体分析方法は、例えばSieper et al., Rapid Commun. Mass Spectrom. (2006) 20: 2521-2527に記載されており、例えば炭素や窒素の同位体比の測定に基づいており、同位体比は、生成物が化学的(石油ベース)生産によるか発酵生産(植物ベースの原材料から)によるかによって異なる。
【0037】
OASスルフィドリラーゼはこれまでさまざまな植物や微生物から単離されてきた。例えば、大腸菌には2種類のOASスルフィドリラーゼ酵素があり、それぞれCysKおよびCysMと呼ばれている。関連する遺伝子も同様に知られており、それぞれcysKおよびcysMと呼ばれている。
【0038】
本発明の意味におけるOASスルフィドリラーゼは、式(8)に従ってOASからタンパク質構成アミノ酸L-システインの合成を触媒できることを特徴とし、この場合に用いられる求核剤は硫化物である。したがって、CysM関連酵素およびCysK関連酵素の両方が、本発明の意味におけるOASスルフィドリラーゼである。
(8)OAS+S2- -> L-システイン+酢酸
【0039】
両酵素は非常に類似した反応機構を有し、L-システインの生合成に関与しているが、CysKと異なり、CysMは式(6)に従ってOASと反応できる求核剤に関して可変の基質スペクトルを有する。例えば、CysKと異なり、CysMはOASとチオ硫酸塩との反応を触媒してS-スルホシステイン(CAS番号1637-71-4)を形成できることが知られている。この反応は、チオ硫酸塩を唯一の硫黄源とする細菌の増殖において重要な役割を果たしている。さらに、EP1247869B1(ワッカー)は、非タンパク質性アミノ酸の製造にCysMを用いることを開示している。
【0040】
好ましくは、本発明の方法は、OASスルフィドリラーゼが細菌酵素であり、特に好ましくはCysMであり、特に好ましくは大腸菌株由来のCysMであることを特徴とする。
【0041】
CysMを含むOASスルフィドリラーゼが、発酵生産、特に好ましくは大腸菌株の発酵、特に好ましくは大腸菌DH5α/pFL145株の発酵に由来することを特徴とする。
【0042】
実施例2は、大腸菌DH5α/pFL145株を用いたCysMの発酵バイオテクノロジー生産の手順を開示する。生産株は、この場合、大腸菌DH5α等の宿主株と、OASスルフィドリラーゼを発現するのに適した遺伝子構築物、好ましくは遺伝子構築物pFL145とからなる。宿主株および遺伝子構築物、ならびに生産株の生産は、EP1247869B1に記載されている。生産株は、ブダペスト条約に従って、DSMZ-German Collection of Microorganisms and Cell Cultures GmbH(ブラウンシュヴァイク)にDSM14088の番号で寄託されている。
【0043】
生産株の発酵によって得られる発酵ブロスは、OASスルフィドリラーゼを含む発酵細胞と発酵培地(発酵上清)とからなる。本発明の方法では、発酵ブロスをさらに処理せずにそのまま用いることもでき、あるいは、例えば遠心分離または濾過によって発酵ブロスから分離した後に、例えば緩衝液中の発酵槽細胞の懸濁液(再懸濁発酵槽細胞)を使用することもできる。実施例2は、大腸菌DH5α/pFL145株の再懸濁CysM含有発酵細胞の製造について記載している。
【0044】
さらに、OASスルフィドリラーゼは、発酵細胞を機械的に破壊した後の細胞ホモジネートの形態、または化学的に透過処理した(例えば、クロロホルムによる)細胞の形態で用いられ、あるいは細胞ホモジネートから粒子成分を除去した後の細胞抽出物として、またはクロマトグラフィー等により精製された酵素として用いられると考えられる。OASスルフィドリラーゼは、さらなる処理を行わずに発酵ブロスとして、再懸濁した発酵槽細胞の細胞懸濁液として、あるいは再懸濁した発酵槽細胞を機械的に破壊した後の細胞ホモジネートとして、あるいは化学的に透過処理した(例えば、クロロホルムによる)細胞の形態で用いることが好ましい。OASスルフィドリラーゼは、再懸濁した発酵細胞の形態、または細胞ホモジネートとして用いることが特に好ましい。OASスルフィドリラーゼ生産株の再懸濁発酵細胞を用いることが特に好ましい。
【0045】
本発明の方法において、OASは、式(7)に従って、OASスルフィドリラーゼの触媒作用下で亜硫酸塩と反応してL-システイン酸を形成する。
【0046】
亜硫酸は、可逆平衡で同時に存在する多数の化学種を形成し、本発明の生体内変換における求核剤としてのそれぞれの適合性は予測できなかった。亜硫酸(HSO)はガス状SOの水溶液であり、二塩基酸として、水溶液のpHに応じて異なる平衡で存在し、前記平衡の種も求核剤としての適合性が異なることが知られている。以下の平衡(9)~(13)が知られている。
(9)SO(気体) <-> SO(溶解)
(10)SO(溶解)+H2O <-> HSO
(11)HSO <-> HSO +H
(12)HSO <->SO 2-+H
(13)2HSO <-> S 2-+H
【0047】
亜硫酸およびその塩は抗菌作用を示すため、食品業界では防腐剤として用いられている。これは、亜硫酸およびその塩が微生物を殺す可能性があることを意味し、これは微生物の生存に必要な酵素の不活性化に起因する。したがって、当業者は、亜硫酸またはその塩を用いるとCysM酵素も不活性化され、EP1247869B1に開示された方法ではL-システイン酸を製造できないと予測するであろう。
【0048】
亜硫酸塩およびOASを生体内変換に用いると、タウリンを製造するバイオテクノロジー方法の出発化合物としてL-システイン酸を生成できることは、当業者にとって驚くべきことであった。
【0049】
原則として、考えられる亜硫酸の塩はすべてこの反応に適している。好ましくは、本発明の方法は、用いられる亜硫酸の塩が、NaSO、KSO、(NHSO、NaHSO(またはその無水物Na)またはKHSOであることを特徴とする。特に好ましくは、用いられる亜硫酸の塩は、NaSO、NaHSO(またはその無水物Na)または(NHSOであり、特に好ましくはNaSOまたはNaHSO(またはその無水物Na)である。
【0050】
亜硫酸の無水物であるガス状二酸化硫黄を用いることが考えられ、これを反応バッチに導入すると、亜硫酸HSOに水和され、pHに応じて、脱プロトン化された形態HSO およびSO 2-と平衡状態になる。
【0051】
好ましくは、本発明の方法は、亜硫酸塩の濃度が少なくともOASと等モル濃度であることを特徴とする。特に好ましくは、亜硫酸塩は少なくとも1.5倍モル過剰であり、特に好ましくは少なくとも5倍モル過剰である。
【0052】
特に好ましい実施形態において、タウリンを製造する方法は、OASスルフィドリラーゼおよびOASの両方が発酵によって生成されることを特徴とする。
【0053】
本発明による生体内変換プロセスの反応物としてのOASは、pH約7からN-アセチル-L-セリン(NAS)に異性化し、その後は亜硫酸塩と反応してL-システイン酸を形成するのに適さなくなる。反応のメカニズムはTai et al. (1995), Biochemistry 34: 12311-12322において研究されており、アシルラジカルのカルボニル炭素に対する脱プロトン化されたアミノ基による分子内求核攻撃が関与している。この反応はpHの低下とともに抑制されるため、化合物は、例えばpH4.0で安定する。
【0054】
したがって、本発明による生体内変換プロセスは、好ましくは、OASからNASへの異性化を最小限に抑えるpH条件下で反応が行われるという点で特徴付けられる。
【0055】
生体内変換1の反応温度は、好ましくは5℃~70℃の間で選択される。好ましくは10℃~60℃の間の反応温度、特に好ましくは15℃~50℃の間、特に好ましくは20℃~40℃の間の反応温度である。
【0056】
バッチ中のOAS濃度は、好ましくは少なくとも1g/L、特に好ましくは少なくとも10g/L、特に好ましくは少なくとも40g/Lである。
【0057】
OASの生体内変換において、用いられるOASのモル量に基づくL-システイン酸のモル収率は、好ましくは少なくとも60%、特に好ましくは少なくとも70%、特に好ましくは少なくとも80%である。
【0058】
生体内変換プロセス1のさらに好ましい実施形態では、基質OASは、いわゆるフィードプロセスで保有宿主(reservoir)からOASスルフィドリラーゼおよび亜硫酸塩からなる反応バッチに計量供給される(実施例5)。OAS含有保有宿主におけるOASからNASへの異性化は、好ましくはpHを≦6.5、特に好ましくはpHを≦6.0、特に好ましくはpHを≦5.5に設定することによって回避される。同時に、反応バッチ内のpHは、L-システイン酸を形成する反応を促進するように調整され、好ましくはpH≦7.5、特に好ましくはpH≦7.0、特に好ましくはpH≦6.5である。
【0059】
式(7)によると、OASからL-システイン酸を形成する反応では、化学量論量の酢酸が放出され、反応が進むにつれてバッチ内のpHの低下をもたらす。過度に低いpHはOASスルフィドリラーゼの活性に影響を与えるため、pHの過度に大きな低下を防ぐことを優先する必要がある。これは、バッチ内の適切な高濃度緩衝液によって受動的に行うか、測定および制御ユニットによって能動的に達成することができる。
【0060】
特に好ましくは、実施例5に開示されているように、測定および制御ユニットによる能動的なpH制御であり、これは、pHが目標値から逸脱した場合に、アルカリ溶液または酸を計量して添加することによって所望のpHを回復する(いわゆるpHスタット法)。
【0061】
生体内変換1は、不連続または連続操作で実行することができる。不連続操作(バッチ操作)では、すべての反応物が反応の途中でバッチに添加され、反応終了後にバッチが処理される。連続操作では、OAS、CysM酵素および亜硫酸塩が反応中に常に計量供給され、生成物L-システイン酸を含む溶液が同時にバッチから除去される。反応物が、反応容器内の滞留時間中に完全に反応して生成物L-システイン酸を形成できるように計量供給される定常状態が確立される。非天然アミノ酸の連続製造方法は、例えば、EP1247869B1(ワッカー)に開示されている。生体内変換1は、好ましくは不連続プロセスである。
【0062】
生体内変換2:
本発明のタウリンの製造方法は、生体内変換1でL-システイン酸を生成し、次いで生体内変換2でL-システイン酸を脱炭酸してタウリンを生成することで構成される。
【0063】
システイン酸からタウリンへの脱炭酸は、化学的に、または生体内変換における酵素触媒によって行うことができる。持続可能ではないと考えられている金属触媒による高温での熱脱炭酸は知られているが、エネルギーを大量に消費し、副産物の割合が高いという欠点がある。
【0064】
好ましくは、本発明の方法は、L-システインスルフィン酸デカルボキシラーゼ(CSAD、EC4.1.1.29)、アスパラギン酸1-デカルボキシラーゼ(EC4.1.1.11)、またはグルタミン酸デカルボキシラーゼ(EC4.1.1.15)のクラスの酵素を用いてL-システイン酸をタウリンに脱炭酸することを特徴とする。
【0065】
L-システイン酸を酵素触媒で脱炭酸してタウリンにするには、L-システインスルフィン酸デカルボキシラーゼ(CSAD、EC4.1.1.29)クラスの酵素が特に好ましい。CSAD酵素は、式(3)に従ってL-システインスルフィン酸を脱炭酸してヒポタウリンにすることが知られている。これらの酵素は、程度の差はあるものの、式(5)に従って基質としてのL-システイン酸を脱炭酸してタウリンにすることもできる。実施例7~11に開示されているように、例えば、Cyprinus carpio(コイ)由来のCSADcc酵素は、L-システイン酸を脱炭酸してタウリンにするのに適している。
【0066】
クラスEC4.1.1.29の酵素(CSAD)は、主に哺乳類を含む後生動物(多細胞動物)に見出される。CSAD活性を有する酵素は、単細胞生物、例えばSynechoccocus属の藻類、および細菌または真菌にも見出される。好ましくは、本発明のタウリンの製造方法は、ヒト(Homo sapiens)、ウシ(Bos taurus)、ラット(Rattus norvegicus)またはマウス(Mus musculus)から選択される哺乳類、およびコイ(Cyprinus carpio)等の魚類からのクラスEC4.1.1.29のCSAD酵素、特に好ましくはヒト(Homo sapiens)、ラット(Rattus norvegicus)またはコイ(Cyprinus carpio)からの酵素を用いることを特徴とする。
【0067】
コイからのCSAD酵素(CSADcc、Cyprinus carpio)が特に好ましい。実施例では、配列番号1のnt31-1530に開示され、CSADcc cdsと呼ばれるcdsのDNA配列を有し、配列番号2のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードし、CSADccと呼ばれる、Cyprinus carpio由来のWt CSAD酵素のタンパク質配列から誘導されるCSADcc酵素が用いられる
【0068】
Wt CSADccアミノ酸配列の基礎を形成するDNA配列は、NCBI(National Center for Biotechnology Information)のデータベースにおいて、GenBank配列ID:AB220585.1(cds:nt82-1584)で入手することができる。対応するWt CSADccアミノ酸配列から派生するのは、大腸菌での発言のためにコドンが最適化され、同一のアミノ酸配列をコードするCSADcc cds DNA配列(配列番号1のnt31-1530)である。コドン最適化には、実施例6で用いたEurofins Genomics GENEiusソフトウェア等の公開されているソフトウェアプログラムが利用可能である。配列番号1のDNAは、Eurofins Genomics等の業者によって提供される既知の方法で合成される。
【0069】
特に好ましくは、L-システインスルフィン酸デカルボキシラーゼは、配列番号2またはこの配列と相同な配列である。
【0070】
相同な配列とは、DNAまたはアミノ酸の配列が少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、特に好ましくは少なくとも95%同一であり、相同配列における各変更が1つ以上のヌクレオチドまたはアミノ酸の挿入、付加、欠失および置換から選択されることを意味するものと理解される。
【0071】
DNAの同一性の度合いは、http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/のblastnアルゴリズムに基づく「nucleotide blast」プログラムによって決定される。2つ以上のヌクレオチド配列をアラインメントするために用いられるアルゴリズムパラメータは、デフォルトのパラメータである。デフォルトの一般パラメータは下記のとおりである:Max target sequences=100;Short queries=「Automatically adjust parameters for short input sequences」;Expect Threshold=10;Word size=28;Automatically adjust parameters for short input sequences=0。対応するデフォルトのスコアリングパラメータは下記のとおりである:Match/Mismatch Scores=1、-2、Gap Costs=Linear。
【0072】
タンパク質配列は、http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/の「protein blast」プログラムを用いて比較される。このプログラムはblastpアルゴリズムを用いる。2つ以上のタンパク質配列をアラインメントするために用いられるアルゴリズムパラメータは、デフォルトのパラメータである。デフォルトの一般パラメータは下記のとおりである:Max target sequences=100;Short queries=「Automatically adjust parameters for short input sequences」;Expect Threshold=10;Word size=3;Automatically adjust parameters for short input sequences=0。デフォルトのスコアリングパラメータは下記のとおりである:Matrix=BLOSUM62;Gap Costs=Existence:11 Extension: 1;Compositional adjustments=Conditional compositional score template adjustment。
【0073】
好ましくは、本発明の方法は、L-システインスルフィン酸デカルボキシラーゼが発酵生産に由来することを特徴とする。大腸菌生産株における対応するCSADcc酵素の組み換え生産は、実施例6に開示されている。この目的のために、CSADcc cdsは、既知の方法で発現ベクター、例えばベクターpKKjにクローニングされ、遺伝子構築物pCSADcc-pKKjが生成される(図1)。生産株は、遺伝子構築物pCSADcc-pKKjを大腸菌宿主株、例えば大腸菌JM105株に同様に既知の方法で形質転換し、得られた生産株大腸菌JM105×pCSADcc-pKKjを用いて、同様に既知の方法でCSADcc酵素を生産することによって生産される。CSADcc酵素は、実験室目的で振盪フラスコ規模で、または発酵によって生産することができる(実施例6)。
【0074】
CSAD酵素は、補因子としてピリドキサールリン酸(PLP、CAS番号54-47-7)を含む。したがって、L-システイン酸をタウリンに変換するための増殖培地または生体内変換バッチにPLPを補充することは、プロセス改善を達成する1つの方法である。PLPはビタミンB6ファミリーに属するため、ピリドキシン(CAS番号65-23-6)、ピリドキサール(CAS番号66-72-8)またはピリドキサミン(CAS番号85-87-0)等のビタミンB6ファミリーの他のメンバーを補充することは、プロセス改善に適した代替手段である。好ましくは、L-システイン酸をタウリンに変換するための生体内変換プロセスは、≧20mg/L、特に好ましくは≧10mg/L、特に好ましくは≧4mg/LのPLPの存在下で実行されることを特徴とする。
【0075】
本発明の方法において、振盪フラスコ内での増殖または発酵によって得られるCSAD酵素、好ましくはCSADccは、さらなる処理を行わずに発酵ブロスとして、または、例えば遠心分離および緩衝液中での発酵細胞の再懸濁(再懸濁された発酵細胞)による細胞の再単離後の細胞懸濁液として用いることができる。さらに、CSAD酵素、好ましくはCSADccは、再懸濁された発酵細胞を機械的に破壊した後の細胞ホモジネートの形態、または化学的に透過処理した(例えば、クロロホルムによる)細胞の形態で用いられ、あるいは細胞ホモジネートから粒子成分を除去した後の細胞抽出物として、またはクロマトグラフィー等により精製された酵素として用いることができる。
【0076】
CSAD酵素(CSADcc)は、さらなる処理を行わずに発酵ブロスとして、再懸濁発酵細胞として、または再懸濁発酵細胞の機械的破壊後の細胞ホモジネートとして用いることが好ましい。特に好ましくは、CSAD酵素は、再懸濁発酵細胞として、または再懸濁発酵細胞の機械的破壊後の細胞ホモジネートとして用いることが好ましい。特に好ましくは、CSAD酵素は、再懸濁発酵細胞の形態で用いることが好ましい。
【0077】
CSAD酵素、好ましくはCSADccによるL-システイン酸のタウリンへの生体内変換は、L-システイン酸のタウリンへの効率的な脱炭酸を可能にするpHおよび温度条件下で行うことが好ましい。
【0078】
生体内変換2が行われる好ましいpH範囲はpH5.0~9.0であり、特に好ましくはpH6.0~8.5、特に好ましくはpH6.5~8.0である。
【0079】
生体内変換2は、好ましくは70℃未満、好ましくは60℃未満、特に好ましくは50℃未満、特に好ましくは40℃未満の温度で行われる。
【0080】
システイン酸の生体内変換からのタウリンのモル収率は、好ましくは少なくとも60%、特に好ましくは少なくとも80%、特に好ましくは少なくとも90%である。
【0081】
システイン酸からタウリンを製造するための生体内変換は、不連続または連続操作で実行することができる。不連続操作(バッチ操作)では、すべての反応物が反応の途中でバッチに添加され、反応終了後にバッチが処理される。連続操作では、CSAD酵素は、例えば膜反応器または支持体上に固定された固定相として投入され、基質L-システイン酸は移動相として計量供給される。移動相と固定相との接触時間は、基質L-システイン酸が完全に反応して生成物タウリンを形成できるように設定される。不連続(バッチ)操作が好ましい。
【0082】
生体内変換1および生体内変換2を含むOASからタウリンを製造するための好ましいプロセスは、以下の工程を含むことを特徴とする。
a)OASが発酵によって生産され、
b)CysM等のOASスルフィドリラーゼ(EC4.2.99.8)のクラスおよびCSADcc等のシステインスルフィン酸デカルボキシラーゼ(EC4.1.1.29)のクラスの酵素が発酵によって生産され、
c)OASおよび亜硫酸または亜硫酸塩が、ポイントbのOASスルフィドリラーゼによる酵素触媒下で反応してL-システイン酸を形成し、
d)ポイントcのL-システイン酸が、ポイントbのCSAD酵素によってタウリンに脱炭酸される。
【0083】
特に好ましくは、工程a、b、cおよびdを含む方法は、生体内変換1において、OASを、CysM触媒反応で、NaSOまたはその無水物の塩であるNaと反応させて、L-システイン酸を形成し、生体内変換2において、生体内変換1からのL-システイン酸を、式(5)に従って、CSAD触媒生体内変換で脱炭酸してタウリンにすることを特徴とする。これらの方法工程は、実施例7~10に開示されている。この目的のために、生体内変換1のOASは、本発明の実施例1に記載されているように、合成により、または生産株の増殖により生産することができる。生産株の増殖によりOASを生産することが好ましい。生体内変換1のCysM酵素は、実施例2に記載されるように、生産株の発酵から得ることができる。生体内変換2で用いられるCSAD酵素は、生産株の増殖から得ることができ、好ましくは、実施例6に記載されるように、大腸菌JM105×pCSADcc-pKKj株の増殖からのCSADcc酵素である。生体内変換1からのL-システイン酸は、実施例8~10に記載されるように、さらなる後処理なしで、または事前の後処理の後に、生体内変換2で用いることができる。当業者は、この目的のために、濾過、遠心分離、抽出、吸着、イオン交換クロマトグラフィー、沈殿、結晶化等のさまざまな方法に精通している。生体内変換2では、さらなる後処理なしで、生体内変換1からのL-システイン酸を用いることが好ましい。
【0084】
タウリンを製造する方法は、式(7)(生体内変換1)に従って、OASおよび亜硫酸塩(亜硫酸とも呼ばれる)からL-システイン酸を酵素的に製造する、これまで説明されていない方法と、式(5)に従って、L-システイン酸をタウリンに酵素的に脱炭酸する方法(生体内変換2)とを、簡単かつ効率的に組み合わせる。すなわち、本発明は、OASからタウリンを製造するための生体内変換1と生体内変換2とを組み合わせた2段階の生体内変換方法である。
【0085】
好ましくは、タウリンの製造のための方法工程(生体内変換1および生体内変換2)は、連続的に、すなわち次々に進行する。方法が、既に説明した好ましい実施形態の工程a~dを含む場合、代替の好ましい実施形態では、方法工程のすべてが1つの反応バッチで行われることを特徴とする。方法工程のすべてが1つの反応バッチで行われる場合、方法はワンポットプロセスまたはワンポット反応とも呼ばれる。これには、タウリン製造のためのすべての反応物がすでに反応バッチ内に存在するか、または簡単に計量投入できるという利点がある。方法を1つの反応バッチで実行することは、経済的な実行可能性を考慮すると特に重要である。
【0086】
例えば、本発明の実施例11の開示によれば、方法工程は1バッチ(ワンポットプロセス)で実行することができ、OASは酵素CysMおよびCSADccの存在下で亜硫酸塩(亜硫酸の塩)と反応する。L-システイン酸は式(7)に従って最初の反応で生成され、式(5)に従ってCSADccによって「in situ」で脱炭酸されてタウリンになる。
【0087】
ワンポットプロセスにおけるOASの反応からのL-システイン酸およびタウリンの生成物分布は、CSADccに対するCysMの活性によって決定される。CSADccを十分に計量添加すると、OASから形成されるL-システイン酸を定量的にタウリンに変換することができる。用いられるOASをL-システイン酸およびタウリンに変換する方法が好ましい。用いられるOASのモル量に基づくL-システイン酸およびタウリンの合計モル収率は、好ましくは60%以上、特に好ましくは70%以上、特に好ましくは80%以上である。用いられるOASのモル量に基づくタウリンのモル収率は、好ましくは25%以上、特に好ましくは50%以上、特に好ましくは80%以上である。
【0088】
ワンポットプロセスに関しては、OASスルフィドリラーゼおよびL-システインスルフィン酸デカルボキシラーゼの遺伝子を1つの株で共発現させ、その株の成長からの細胞を亜硫酸塩の存在下でOASと反応させて生体内変換を行い、最終生成物としてタウリンを生成することが考えられる。
【0089】
本発明の一つの変形例では、代謝工学的アプローチの文脈において、OASスルフィドリラーゼおよびL-システインスルフィン酸デカルボキシラーゼの遺伝子がOAS生産株で発現され、亜硫酸塩(亜硫酸の塩)の存在下でのこのような生産株の増殖によってタウリンが生産されることも考えられる。
【0090】
図は実施例で用いたプラスミドを示す。
【図面の簡単な説明】
【0091】
図1】pCSADcc-pKKj
【0092】
図面で用いられている略語:
AmpR:アンピシリン(β-ラクタマーゼ)耐性を付与する遺伝子
Ori:複製起点
Ptac:tacプロモーター
ECoRI:制限酵素ECoRIの切断部位
HindIII:制限酵素HindIIIの切断部位
CSADcc:CSAD(システインスルフィン酸デカルボキシラーゼ) C.carpio cds
【実施例
【0093】
本発明は、以下の実施例によってさらに説明されるが、これらに限定されるものではない。
【0094】
実施例1:OASの製造
EP1233067B1(ワッカー)に記載され、ブダペスト条約に従ってDSMZ-German Collection of Microorganisms and Cell Cultures GmbH(ブラウンシュヴァイク)にDSM13495番号で寄託されている大腸菌W3110/pACYC-cysEX-GAPDH-ORF306株を用いた。OASは、EP1233067B1に記載されているように発酵によって生成された。発酵の最後に、21%(v/v)リン酸を用いてpHを4.5に設定することにより、OASを安定化した。細胞は、4000rpmで10分間遠心分離(Heraeus Megafuge 1.0 R)して除去した。HPLCで測定した発酵上清中のOAS含有量は15.3g/Lであった。
【0095】
システイン酸およびタウリンのHPLC分析:
実施例で分析した化合物の定量には、OAS、L-システイン酸およびタウリンについてそれぞれ較正したHPLC法を採用した。較正に用いたすべての参照物質は市販品(Sigma-Aldrich)であった。アミノ酸の分析で知られているように、o-フタルジアルデヒドによるプレカラム誘導体化(OPA誘導体化)用の同じメーカーのユニットを備えたAgilent1260 Infinity II HPLCシステムを用いた。OPA誘導体化生成物であるOAS、L-システイン酸およびタウリンを検出するために、HPLCシステムには蛍光検出器が装備されていた。検出器は、励起波長330nm、発光波長450nmに設定された。また、Thermo Scientific(商標)のAccucore(商標) aQカラムScientific、長さ100mm、内径4.6mm、粒子サイズ2.6μm、カラムオーブン内で40℃で熱平衡化したものを用いた。
【0096】
溶出液A:25mMのリン酸ナトリウム、pH6.0。溶出液B:メタノール。分離はグラジエントモードで実行した。0~25分かけて10%溶出液Bから60%溶出液Bに移行し、次いで2分かけて60%溶出液Bから100%溶出液Bに移行し、次いで100%溶出液Bをさらに2分間、流速0.5ml/分で移行した。L-システイン酸の保持時間:3.2分。タウリンの保持時間:14.8分。OASの保持時間:17.0分。
【0097】
実施例2:酵素CysMの生産
EP1247869B1(ワッカー)に記載され、ブダペスト条約に従ってDSMZ-German CollECtion of Microorganisms and Cell Cultures GmbH(ブラウンシュヴァイク)にDSM14088番号で寄託されている大腸菌DH5α/pFL145株を用いた。CysM酵素は、振盪フラスコでの増殖および発酵の両方によって生成された。
A)振盪フラスコでの増殖:大腸菌DH5α/pFL145株の前培養をLbamp培地(10g/lトリプトン(GIBCO(商標))、5g/l酵母エキス(BD Biosciences)、5g/l NaCl、100mg/Lアンピシリン(Sigma-Aldrich))で調製した(37℃、120rpmで一晩増殖)。25mlの前培養物を250mlのLBamp培地(バッフル付き1Lエルレンマイヤーフラスコ)の主培養物の接種物として用いた。主培養物を30℃、110rpmで振盪した。4時間後、細胞密度OD600は1.0/mlに達した(OD600:細胞懸濁液1mlあたりの細胞密度を600nmでの吸光度測定により光度測定;Thermo Scientific(商標)のGenesys(商標)10S UV-Vis分光光度計)。次いで、誘導剤テトラサイクリン(Sigma-Aldrich、最終濃度3mg/L)を添加し、30℃、110rpmでさらに20時間培養を続けた。培養終了時の細胞密度OD600は3/mlであった。
B)大腸菌DH5α/pFL145株を用いたCysMの発酵生産は、EP1247869B1に開示されている。発酵物からの細胞を4000rpmで10分間遠心分離(Heraeus Megafuge 1.0 R)して除去し、KPi6.5緩衝液(0.1M Kリン酸、pH6.5)に懸濁して、細胞密度OD600が90/mlになるようにした。
【0098】
振盪フラスコで培養または発酵した細胞は、遠心分離(15000rpmで10分、SS34ローターを備えるSorvall RC5C遠心分離機)によって分離され、その後の使用に供された。以下に説明するように、細胞ホモジネートの製造のためにさらに用いるために、細胞ペレットを細胞懸濁液としてKPi6.5緩衝液に再懸濁した。細胞懸濁液は、細胞密度OD600が30/mlになるのに十分な量のKPi6.5緩衝液を用いて調製し:例えば、OD600が3/mlである振盪フラスコ培養からの50mlの細胞を遠心分離し、5mlのKPi6.5緩衝液(10倍濃度)に再懸濁するか、またはOD600が90/mlである発酵からの1mlの細胞を3mlのKPi6.5緩衝液(3倍希釈)に再懸濁した。
【0099】
これにより、大腸菌DH5α/pFL145株の細胞が生産され、発酵ブロスから分離され、再懸濁され、本発明の方法におけるOASスルフィドリラーゼCysMとして用いられた。
【0100】
細胞ホモジネートを調製するために、MP BiomedicalsのFastPrep-24(商標) 5G細胞ホモジナイザーを用いた。細胞密度OD600が30/mlであるKPi6.5緩衝液中の細胞懸濁液1mlを、ガラスビーズ(「Lysing Matrix B」)を含むメーカー組み立ての1.5mlチューブで破砕した(6000rpmの振盪周波数で3×20秒、各間隔の間に30秒の休止あり)。得られた細胞ホモジネートを、本発明の方法におけるOASスルフィドリラーゼ(CysM酵素)として直接用いるか、または細胞抽出物の調製に用いた。
【0101】
細胞抽出物を調製するために、得られた細胞ホモジネートを遠心分離し(15,000rpmで10分間、SS34ローターを備えたSorvall RC5C遠心分離機)、上清を細胞抽出物と称し、本発明の方法におけるOASスルフヒドリラーゼ(CysM酵素)として用いるか、またはCysM酵素活性の測定にさらに用いた。
【0102】
「Qubit(登録商標) Protein Assay Kit」を用いて、Thermo Fisher ScientificのQubit3.0 Fluorometerで細胞抽出物のタンパク質含有量を測定した。振盪フラスコ培養からの細胞抽出物のタンパク質含有量は5.3mg/mlであった。発酵からの細胞抽出物のタンパク質含有量は4.0mg/mlであった。
【0103】
CysM酵素活性は、EP1247869B1(ワッカー)に記載のとおりに測定した。このために、OAS(Sigma-Aldrich)をNaSおよび大腸菌DH5α/pFL145株の増殖からの細胞抽出物の存在下で37℃でインキュベートした。KPi6.5緩衝液中でのアッセイ(最終容量0.4ml)には、10mMのOAS(pH5.5の500mMのコハク酸ナトリウム緩衝液中の200mMストック溶液からの添加)、10mMの硫化ナトリウムNaS、および5μlのCysM含有細胞抽出物が含まれていた。CysM反応で生成されたシステインは、Gaitonde (1967), Biochem. J. 104: 627-633の方法に従い、ニンヒドリン(Sigma-Aldrich)を用いて測定した。振盪フラスコで培養した大腸菌DH5α/pFL145株の細胞抽出物中のCysM酵素活性は57.1U/mlであった。振盪フラスコ培養細胞(OD600が3/ml)は細胞抽出物の調製のために10倍に濃縮されていたため、振盪フラスコ培養細胞の酵素活性は5.7U/mlであった。大腸菌DH5α/pFL145株の発酵後の細胞抽出物中のCysM酵素活性は58.1U/mlであった。発酵細胞(OD600が90/ml)は細胞抽出物の調製のためにOD600が30/mlに希釈されていたため、発酵細胞の濃縮(OD600が90/ml)細胞懸濁液中の酵素活性は174.4U/mlであった。
【0104】
大腸菌DH5α/pFL145株の細胞抽出物の特異的CysM酵素活性は、タンパク質1mgあたり10.8Uであった。特異的CysM大腸菌DH5α/pFL145株の発酵後の細胞抽出物の酵素活性は14.5U/mgであった。細胞抽出物の調製中にCysM活性が細胞から完全に放出されたと仮定すると、細胞抽出物で測定されたCysM酵素活性は、以下の実施例のCysM細胞懸濁液中に存在する酵素活性と同等であった。
【0105】
1U/mlCysM酵素活性は、アッセイ条件下で1mlの細胞抽出物中のOASおよびNaSから1分あたり1μmolのシステインが生成されることを意味する(体積活性)。タンパク質1mgあたりのUでの特定のCysM酵素活性は、細胞抽出物の体積活性(U/ml)を細胞抽出物のタンパク質濃度(mg/ml)で割ることによって得られ、細胞抽出物中の1mgのタンパク質に基づくUでのCysM酵素活性として定義される。
【0106】
実施例3:振盪フラスコ培養で生産されたCysMを用いた市販のOASおよびNa SO からのL-システイン酸の生産
2つのバッチを並行して実行した。
バッチ1:100mlの三角フラスコに、まず8.25mlのNaPi6.5緩衝液(50mMのリン酸ナトリウム、pH6.5)を入れ、NaPi6.5緩衝液中の0.2MのNaSO溶液1ml、57.1U/mlの活性(バッチ中の最終濃度2.3U/ml)を有する振盪フラスコ培養からのCysM細胞抽出物(実施例2A)0.4ml、およびpH5.5、0.5Mのコハク酸ナトリウム中の0.2MのOAS×HCl(Sigma-Aldrich)溶液350μlを順次添加した。バッチ容量は10mlであった。
バッチ2:バッチ(NaSOを含まない比較バッチ)はバッチ1と同じ組成であった。バッチ2にはNaSO溶液の代わりに1mlのNaPi6.5緩衝液を添加した。
【0107】
両方のバッチを、チェストシェイカー(Infors)中で、37℃、140rpmでインキュベートした。1時間後および3時間後、各バッチ1mlを80℃で5分間インキュベートして反応を停止し、遠心分離し、上清をHPLCで分析した。HPLCで検出されたL-システイン酸の量を表1に示す。
【0108】
【表1】
【0109】
実施例4:振盪フラスコ培養で生産されたCysMを用いた、発酵からのOAS含有培養上清およびNa SO からのL-システイン酸の生産
100mlの三角フラスコに、OAS含有量が15.3g/Lである大腸菌W3110/pACYC-cysEX-GAPDH-ORF306株の発酵からの細胞培養上清1ml(実施例1より)を入れ、次いでNaPi6.5緩衝液6ml、NaPi6.5緩衝液中の1MのNaSO溶液1ml、および振盪フラスコ増殖からのCysM細胞懸濁液2ml(実施例2Aより、細胞密度OD60030/ml、CysM酵素活性57.1U/ml)を順次添加した。バッチ容量は10mlであった。バッチ中のCysM酵素活性は11.4U/mlであった。バッチをチェストシェーカー(Infors)中で37℃、140rpmでインキュベートした。2時間後、バッチ1mlを80℃で5分間インキュベートし、遠心分離し、上清をHPLCで分析してOASおよびL-システイン酸の含有量を測定した。時間の経過に伴う反応の経過を表2にまとめた。
【0110】
【表2】
【0111】
実施例5:一定pHでのOASの生体内変換によるL-システイン酸の予備生産
0.5Lのサーモスタット付き二重壁ガラス容器(Diehm)を、ホース接続を介してサーモスタット(Lauda)に接続し、温度を37℃に調整した。
【0112】
まず、DH5α/pFL145株(実施例2Bより)の発酵からのKPi6.5緩衝液中のCysM含有細胞懸濁液50ml(OD60090/ml、CysM酵素活性8720U)およびKPi6.5緩衝液中のNaの400g/L溶液6.6ml(13.9mmol、分子量190.1g/mol)を入れた。溶解した状態では、これはNaHSOの27.8mmolに相当した(後で計量投入されるOAS量15.6mmolの1.78倍のモル過剰)。バッチをマグネティックスターラーで撹拌した。バッチにはpH電極(Mettler Toledo)も備えられており、これはpH制御ユニット(TitroLine α滴定装置、Schott)に接続され、製造元の指示に従ってpHスタットモードで操作された。pHスタット条件下では、制御ユニットに接続されたビュレットから2MのNaOHを計量して添加することにより、反応容器内のpHは、反応の全期間にわたって設定pH6.5で一定に保たれた。大腸菌W3110/pACYC-cysEX-GAPDH-ORF306株(実施例1)の発酵からのOAS含有細胞培養上清(OAS含有量:15.3g/L、2.3g、15.64mmol)150mlが、ポンプ(Watson Marlow 101U/R 蠕動ポンプ)を介してリザーバーから0.35ml/分の流量でバッチに計量供給された。
【0113】
反応時間は19時間であった。バッチは開放型反応容器で行われたため、反応終了後のバッチ容量は蒸発により185mlであった。反応開始から0.5時間、3時間および19時間後に、バッチから各1mlのアリコートを取り出し、L-システイン酸の含有量をHPLCで分析した。L-システイン酸の生成の経時変化を表3にまとめる。19時間の反応時間後、バッチ中のL-システイン酸含有量は12,970mg/L(76.65mM)で、これはバッチ容量185mlに対してL-システイン酸の絶対モル収量14.18mmolに相当する。用いたOASの量15.64mmolに基づくと、これは90.1%の収率に相当する。
【0114】
【表3】
【0115】
実施例6:大腸菌によるCaprinus carpio(コイ)由来のCSADccの組換え生産
ベクターpCSADcc-pKKj:
コイ(Cyprinus carpio)由来のシステインスルフィン酸デカルボキシラーゼ(CSAD)のcDNA遺伝子(cDNA:相補DNA、逆転写によりmRNAから単離)は、Honjoh et al. (2010), Amino Acids 38: 1173-1183によって単離され、DNA配列はNCBI(National Center for Biotechnology Information)のデータベースでGenBank配列ID:AB220585.1(cds:nt82-1584)として公開されている。対応するアミノ酸配列は、大腸菌での発現のためにコドン最適化されたDNA配列(公開されているEurofins Genomics GENEiusソフトウェア)を誘導するために用いられ、合成的に生成された(Eurofins Genomics)。合成されたDNAは、配列番号1に開示された配列を有し、遺伝子のcds(以下、CSADccと称する)を含んでいた。cds(配列番号1、nt31-1530)は、配列番号2に開示されたアミノ酸配列を有し、CSADccと呼ばれるタンパク質をコードする。クローニングの目的で、合成されたDNAは、5’末端にECoRI切断部位(配列番号1、nt25-30)を、3’末端にHindIII切断部位(配列番号1、nt1532-1537)を有していた。
【0116】
CSADccの組換え発現に適したベクターpCSADcc-pKKjcds(図1)は、合成DNAをECoRIおよびHindIIIで切断し、既知の方法でECoRI/HindIIIフラグメントとしてECoRIおよびHindIIIで切断したベクターpKKjにクローニングすることによって生成された。EP2670837A1(ワッカー)に開示されている発現ベクターpKKjは、発現ベクターpKK223-3の誘導体である。pKK223-3のDNA配列は、GenBank遺伝子データベースにアクセッション番号M77749.1で開示されている。4.6kbのプラスミドから約1.7kb(M77749.1に開示されているDNA配列のbp262~1947)が除去され、2.9kbの発現ベクターpKKjが得られた。
【0117】
大腸菌JM105xpCSADcc-pKKj生産株:
CSADcccdsは、ベクターpCSADcc-pKKjを既知の方法で大腸菌K12JM105株に形質転換することにより大腸菌で発現された。大腸菌K12JM105株は、DSMZ-German Collection of Microorganisms and Cell Cultures GmbHから株番号DSM3949で市販されている。
【0118】
形質転換からのクローンは、LBampプレート上で選択された。LBampプレートには、10g/lのトリプトン(GIBCO(商標))、5g/lの酵母エキス(BD Biosciences)、5g/lのNaCl、15g/lの寒天、100mg/Lのアンピシリン(Sigma-Aldrich)が含まれていた。クローンは振盪フラスコでの増殖と発酵のために選択された。CSADcc産生株は大腸菌JM105×pCSADcc-pKKjと命名された。CSADcccdsは、IPTG誘導性tacプロモーター(IPTG:イソプロピルβ-チオガラクトシド、Sigma-Aldrich)の制御下で、既知の方法で大腸菌JM105×pCSADcc-pKKjで発現され、CSADcc cdsに機能的に結合した。
【0119】
振盪フラスコ内での増殖:
大腸菌JM105×pCSADcc-pKKj株の前培養をLBamp培地で調製した(37℃、120rpmで一晩培養、Inforsのチェストシェーカー)。
【0120】
2mlの前培養物を、15g/Lのグルコース、5mg/Lのピリドキサールリン酸(PLP、Sigma-Aldrich)、および100mg/Lのアンピシリンを添加した100mlのSM3培地(1Lの三角フラスコ)の主培養の接種物として用いた。主培養は、チェストシェーカー(Infors)で30℃、140rpmで振盪した。4時間の培養時間後、細胞密度OD6002.0に達した。次いで、誘導剤IPTG(Sigma-Aldrich、最終濃度0.4mM)を添加し、チェストシェーカー(Infors)で30℃、140rpmでさらに20時間増殖を続けた。
【0121】
SM3培地の組成:12g/LのKHPO、3g/LのKHPO、5g/Lの(NHSO、0.3g/LのMgSO×7HO、0.015g/LのCaCl×2HO、0.002g/LのFeSO×7HO、1g/LのNaクエン酸塩×2HO、0.1g/LのNaCl、5g/Lのペプトン(Oxoid)、2.5g/Lの酵母エキス(BD Biosciences)、0.005g/LのビタミンB1、1ml/Lの微量元素溶液。
【0122】
微量元素溶液の組成:0.15g/LのNaMoO・2HO、2.5g/LのHBO、0.7g/LのCoCl・6HO、0.25g/LのCuSO・5HO、1.6g/LのMnCl・4HO、0.3g/LのZnSO・7HO。
【0123】
振盪フラスコ培養物から得られた細胞を、遠心分離により分離した。細胞懸濁液を、振盪フラスコ培養物50mlの細胞ペレットを2mlの50mmリン酸ナトリウム、pH7.0(NaPi7.0緩衝液)に再懸濁して調製した。細胞懸濁液は、生体内変換試験に直接用いるか、細胞ホモジネートの調製に用いた。
【0124】
細胞ホモジネートを調製するために、MP BiomedicalsのFastPrep-24 TM 5G細胞ホモジナイザーを用いた。2×1mlの細胞懸濁液を、ガラスビーズ(「Lysing Matrix B」)を含むメーカー組み立ての1.5mlチューブで破砕した(6000rpmの振盪周波数で3×20秒、各間隔の間に30秒の休止を挟んで)。
【0125】
得られた細胞ホモジネート(2ml容量)を、それ以上の処理をすることなく、L-システイン酸からタウリンへの生体内変換に用いた。
【0126】
発酵による増殖:
発酵には、生産株大腸菌JM105xpCSADcc-pKKjを用いた。発酵は、Sartorius BBI Systems GmbHのBiostat B発酵槽(作業容量2L)で行った。
【0127】
振盪フラスコ前培養:
1Lの三角フラスコ中のLBamp培地100mlに、JM105×pCSADcc-pKKj株を含む寒天培地から接種し、インキュベーションシェーカー(Infors)で30℃、速度120rpmで7~8時間培養し、細胞密度OD600が2~4/mlになるまで培養した。
【0128】
発酵槽:
40g/Lグルコースおよび100mg/Lアンピシリンを添加した1.5LのFM2培地に、振盪フラスコ前培養物21.3mlを接種した。発酵条件は、温度30℃、一定pH7.0(25%のNHOHおよび6.8NのHPOで自動補正)、水中の4%v/vのStruktol J673(Schill & Seilacher)の自動計量添加による泡制御、スターラー速度450~1300rpm、滅菌フィルターで滅菌した圧縮空気による1.7vvmでの一定通気(vvm:発酵バッチへの圧縮空気の導入量を、1分間に発酵容量1リットルあたりの圧縮空気のリットル数で表したもの)、pO≧50%であった。酸素分圧pOは撹拌速度によって調節され、16時間の発酵時間後、細胞密度OD600は45/mlに達した。
【0129】
生産発酵槽:
20g/Lのグルコース、0.36g/Lのピリドキシン(ビタミンB6、Sigma-Aldrich)、および100mg/Lのアンピシリンを添加したpH7.0のFM2培地1.35Lに、予備発酵槽培養液150mlを接種した。発酵条件は、温度30℃、一定pH7.0(25%のNHOHおよび6.8NのHPOで自動補正)、水中の4%v/vのStruktol J673(Schill & Seilacher)の自動計量添加による泡制御、スターラー速度450~1300rpm、一定通気1.7vvm、pO≧50%であった。酸素分圧pOは、スターラー速度によって調整した。発酵時間は30時間であった。
【0130】
FM2培地:5g/Lの(NHSO、0.50g/LのNaCl、0.075g/LのFeSO×7HO、1g/LのNaクエン酸塩、0.30g/LのMgSO×7HO、0.015g/LのCaCl×2HO、1.50g/LのKHPO、0.005g/LのビタミンB1(Sigma-Aldrich)、5.00g/Lのペプトン(Oxoid)、2.50g/Lの酵母エキス(Oxoid)、0ml/Lの微量元素溶液(振盪フラスコ培養に用いたものに相当)。
【0131】
まず、発酵槽内のpHを、25%のNHOH溶液を注入して7.0に調整した。発酵中、pHは25%のNHOHまたは6.8NのHPOによる自動補正によって7.0の値に維持された。接種のために、150mlの予備培養物を発酵槽容器に注入した。したがって、初期容量は1.5Lであった。培養物はまず350rpmで撹拌され、1.7vvmの通気速度で通気された。これらの開始条件下で、酸素プローブは接種前に100%飽和に較正された。
【0132】
発酵中のO飽和度(pO)の目標値を50%に設定した。O飽和度が目標値を下回った後、O飽和度を目標値まで戻すために制御カスケードを開始した。これに関連して、撹拌速度は連続的に増加した(最大1300rpmまで)。
【0133】
発酵を30℃の温度で実施した。発酵槽内のグルコース含有量が最初の20g/Lから約5g/Lに低下したら、60%(w/w)のグルコース溶液を連続的に計量投入した。供給速度は、発酵槽内のグルコース濃度がそれ以降2g/Lを超えないように調整した。グルコースは、YSI(米国オハイオ州イエロースプリングス)のグルコース分析装置を用いて測定した。
【0134】
OD600が50/mlに達すると(発酵時間8時間)、誘導剤IPTG(最終濃度0.2mm)を1回添加してCSADcc遺伝子の発現を開始した。誘導後22時間、つまり総発酵時間30時間で発酵を停止した。この時点で、細胞密度OD600は164/mlであった。発酵ブロス1Lを遠心分離し(15,000rpmで10分間、Sorvall RC5C遠心分離機、SS34ローター装備)、発酵上清を捨て、細胞を1LのNaPi7.0緩衝液に再懸濁し、-20℃で50mlずつ保存して、さらなる使用に供した。
【0135】
実施例7:市販のL-システイン酸からの生体内変換によるタウリンの製造
12mgのL-システイン酸×HO(Sigma-Aldrich)を100mlの三角フラスコで量り取り、9.7mlのNaPi7.0緩衝液に溶解した。反応を、JM105×pCSADcc-pKKj(実施例6)の振盪フラスコ増殖からの細胞ホモジネート0.3mlの添加によって開始した。バッチ容量は10mlであった。L-システイン酸×HOのモル濃度は6.41mMであった(L-システイン酸×HOの分子量:187.2g/mol)。バッチを、チェストシェーカー(Infors)で37℃、140rpmでインキュベートした。3時間後、バッチ1mlを80℃で5分間インキュベートし、遠心分離して上清をHPLCで分析した。用いたL-システイン酸は完全に消費された。生成されたタウリンの量は789.4mg/Lであり、モル含有量6.31mM(タウリンの分子量:125.1g/mol)に相当する。したがって、6.41mMのL-システイン酸×H2Oから生成されたタウリンのモル収率は98.4%であった。
【0136】
実施例8:市販のOASからの生体内変換によるタウリンの製造
反応1:OASからのL-システイン酸の生成:
100mlの三角フラスコに、まず6.6mlのKPi6.5緩衝液を入れ、次いで、0.5Mのコハク酸ナトリウム(pH5.5)に溶解した0.2MのOAS×HCl(Sigma-Aldrich)ストック溶液0.4ml、KPi6.5緩衝液中の1MのNaSOの1ml、および振盪フラスコ増殖からのcysM細胞の細胞懸濁液2ml(実施例2Aより、CysM酵素活性は57.1U/ml)を続けて添加した。バッチ容量は10mlであった。バッチ中のCysM酵素の計量量は11.4U/mlであった。OAS×HClのモル濃度は8.00mM(1.47g/L、OASxHClの分子量:183.6g/mol)であった。バッチを、チェストシェーカー(Infors)で37℃、140rpmでインキュベートした。3時間後、バッチ1mlを80℃で5分間インキュベートし、遠心分離し、上清をHPLCで分析した。用いたOASは完全に消費された。生成されたL-システイン酸の量は1350.4mg/Lであり、モル含有量7.98mMに相当する(L-システイン酸の分子量:169.2g/mol)。8.00mMのOAS×HClから生成されたL-システイン酸のモル収率は99.7%であった。
【0137】
反応2:反応1で合成されたL-システイン酸からのタウリンの生成:
100mlの三角フラスコに反応1のバッチ9mlを入れ、1MのKOHでpHを7.0に調整し、JM105×pCSADcc-pKKj株の振盪フラスコ増殖からの細胞ホモジネート1mlを添加した(実施例6)。バッチ容量は10mlであった。反応1からのL-システイン酸含有量は1350.4mg/Lであり、反応2開始時のL-システイン酸含有量は1215.4mg/L(L-システイン酸の分子量169.2で7.18mM)であった。バッチを、チェストシェーカー(Infors)で37℃、140rpmでインキュベートした。3時間後、バッチ1mlを80℃で5分間インキュベートし、遠心分離して上清をHPLCで分析した。用いたL-システイン酸は完全に消費された。タウリン含有量は825.7mg/L(タウリンの分子量125.1g/molで6.60mM)であった。7.18mMのL-システイン酸から生成されたタウリンのモル収率は91.9%であった。
【0138】
実施例9:発酵生産OASとNaHSO および発酵生産CysM酵素との反応からのL-システイン酸のCSADcc触媒変換によるタウリンの生産
100mlの三角フラスコに、5mg/LPLPを含むNaPi7.0緩衝液7ml、L-システイン酸含有量が12,970mg/Lである実施例5のバッチ1ml、およびNaPi7.0緩衝液中のCSADcc細胞(実施例6)2mlを混合した。バッチ容量は10mlであった。バッチ中のL-システイン酸含有量は1,297mg/Lであり、モル含有量7.67mM(L-システイン酸の分子量:169.2g/mol)に相当した。バッチを、チェストシェーカー(Infors)で37℃、140rpmでインキュベートした。4時間後、バッチ1mlを80℃で5分間インキュベートし、遠心分離し、上清をHPLCで分析した。用いたL-システイン酸は完全に消費された。生成されたタウリンの量は925.3mg/Lであり、モル含有量7.40mMに相当する(タウリンの分子量:125.1g/mol)。7.67mMのL-システイン酸から生成されたタウリンのモル収率は96.4%であった。
【0139】
実施例10:タウリンの予備生産
生体内変換1:
0.5Lのサーモスタット付き二重壁ガラス容器(Diehm)を、ホース接続を介してサーモスタット(Lauda)に接続し、温度を37℃に調整した。
【0140】
まず、DH5α/pFL145株(実施例2)の発酵からのKPi6.5緩衝液中のCysM含有細胞懸濁液50ml(OD600が90/ml、CysM酵素活性8720U)およびKPi6.5緩衝液中のNaの400g/L溶液20ml(42.1mmol、分子量190.1g/mol)を入れた。溶解した状態では、これはNaHSOの84.2mmolに相当した(後で計量投入するOAS量51.7mmolの1.63倍のモル過剰)。バッチをマグネティックスターラーで撹拌した。バッチにはpH電極(Mettler Toledo)も備えられており、これはpH制御ユニット(TitroLine α滴定装置、Schott)に接続され、製造元の指示に従ってpHスタットモードで操作された。pHスタット条件下では、制御ユニットに接続されたビュレットから2MのNaOHを計量して添加することにより、反応容器内のpHは、反応の全期間にわたって設定pH6.5で一定に保たれた。大腸菌W3110/pACYC-cysEX-GAPDH-ORF306株(実施例1)の発酵からのOAS含有発酵上清(OAS含有量:19.1g/L、7.6g、51.7mmol)400mlが、ポンプ(Watson Marlow 101U/R 蠕動ポンプ)を介してリザーバーから0.2ml/分の流量でバッチに計量添加された。総反応時間は46時間であった。反応終了後のバッチ容量は500mlであった。反応開始から1時間、3時間、20時間、28時間および46時間後に、各ケースでバッチから1mlのアリコートを取り出し、80℃で5分間インキュベートし、遠心分離し、上清をHPLCで分析してL-システイン酸の含有量を測定した。経時的なL-システイン酸の形成を表4にまとめる。46時間の反応時間後、バッチ中のL-システイン酸含有量は15,370mg/L(90.8mM)であり、これはバッチ容量500mlに対してL-システイン酸の絶対モル収量45.4mmolに相当する。用いたOASの量51.7mmolに基づくと、これは87.8%の収率に相当する。
【0141】
【表4】
【0142】
生体内変換2:
0.3Lのサーモスタット付き二重壁ガラス容器(Diehm)を、ホース接続を介してサーモスタット(Lauda)に接続し、温度を37℃に調整した。
【0143】
L-システイン酸含有生体内変換1の100mlを2.5MのNaOHでpH7.0に調整した。さらに、HOに溶解した1MのDTE(ジチオエリスリトール、Sigma-Aldrich)1ml、NaPi7.0緩衝液に溶解した500mg/LPLP(最終濃度4mg/L)1ml、およびNaPi7.0緩衝液に再懸濁したCSADcc含有発酵細胞20mlを添加した。バッチはマグネティックスターラーで撹拌した。バッチ容量は122mlであった。反応開始時および2時間後、4時間後、6時間後および24時間後に、各ケースでバッチから1mlのアリコートを取り出し、80℃で5分間インキュベートし、遠心分離し、L-システインおよびタウリンの含有量について上清をHPLCで分析した。結果を表5にまとめる。バッチで用いたL-システイン酸のモル量74.4mMに基づいて、タウリン収率(8.8g/L、70.2mM)は94.3%であった。
【0144】
【表5】
【0145】
実施例11:「ワンポット反応」によるOASからのタウリンの生産
反応バッチを、KPi6.5緩衝液の3ml、大腸菌W3110/pACYC-cysEX-GAPDH-ORF306株(実施例1)の発酵からのOAS含有発酵上清の2ml、KPi6.5緩衝液中の1MのNaSOの1ml、DH5α/pFL145株(実施例2B)の発酵からのCysM含有細胞の細胞懸濁液の2ml、およびJM105xpCSADcc-pKKj株(実施例6)の振盪フラスコ増殖からのCSADcc含有細胞の細胞懸濁液の2mlから構成した。バッチ容量は10mlであった。バッチ中のOAS濃度は3.1g/L(20.80mM)であった。バッチ中のNaSO濃度は100mMであった。バッチ内のCysM酵素活性は34.9U/mlであった。
【0146】
反応をpH6.5で行った。バッチはチェストシェーカー(Infors)で37℃、140rpmでインキュベートした。反応開始から24時間後、バッチ1mlを80℃で5分間インキュベートし、遠心分離して上清をHPLCで分析した。L-システイン酸の含有量は1.3g/L(L-システイン酸の分子量169.2g/molで7.68mM)であった。タウリンの含有量は721mg/L(タウリンの分子量125.1g/molで5.76mM)であった。20.80mMのOASから生成された7.68mML-システイン酸のモル収率は36.9%であった。20.80mMのOASから生成された5.76mMタウリンのモル収率は27.7%であった。全体として、OASから生成されたL-システイン酸とタウリンのモル収率は64.6%であった。
図1
【配列表】
2024544052000001.app
【手続補正書】
【提出日】2024-08-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体内変換によりO-アセチル-L-セリン(OAS)からタウリンを製造する方法であって、
i)第1工程(生体内変換1)において、亜硫酸塩の存在下で、OASスルフィドリラーゼ(EC4.2.99.8)のクラスから選択される酵素を用いて、O-アセチル-L-セリン(OAS)からL-システイン酸を生成し、前記生体内変換が能動的なpH制御下で行われ、次いで、
ii)第2工程(生体内変換2)において、L-システイン酸をタウリンに脱炭酸し、
バッチ中のOAS濃度が少なくとも10g/Lであり、
OASスルフィドリラーゼがCysMである
前記方法。
【請求項2】
前記OASスルフィドリラーゼが細菌酵素である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記OASスルフィドリラーゼが大腸菌株に由来するCysMである、請求項1および2の一方または両方に記載の方法。
【請求項4】
前記OASスルフィドリラーゼが発酵生産に由来する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記亜硫酸塩の濃度が少なくともOASと等モル濃度である、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
L-システインスルフィン酸デカルボキシラーゼ(EC4.1.1.29)、アスパラギン酸1-デカルボキシラーゼ(EC4.1.1.11)またはグルタミン酸デカルボキシラーゼ(EC4.1.1.15)のクラスの酵素を用いて、L-システイン酸をタウリンに脱炭酸する、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記L-システインスルフィン酸脱デカルボキシラーゼが配列番号2であるか、該配列と相同な配列である、請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記L-システインスルフィン酸脱デカルボキシラーゼが発酵生産に由来する、請求項およびの一方または両方に記載の方法。
【請求項9】
a)OASが発酵によって生産され、
b)OASスルフィドリラーゼ(EC4.2.99.8)のクラスおよびシステインスルフィン酸デカルボキシラーゼ(EC4.1.1.29)のクラスの酵素が発酵によって生産され、
c)OASおよび亜硫酸塩が、ポイントbのOASスルフィドリラーゼによる酵素触媒下で反応してL-システイン酸を形成し、
d)ポイントcのL-システイン酸が、ポイントbのCSAD酵素によってタウリンに脱炭酸される、
請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
すべての方法工程が1つの反応バッチで行われる、請求項に記載の方法。
【請求項11】
生体内変換2におけるL-システイン酸の生体内変換からのタウリンのモル収率が好ましくは少なくとも60%である、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【国際調査報告】