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特表2024-544066最適化されたパルスエネルギー及び走査線ステップを有するフェムト秒レーザを使用する角膜レンチクル切開
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-27
(54)【発明の名称】最適化されたパルスエネルギー及び走査線ステップを有するフェムト秒レーザを使用する角膜レンチクル切開
(51)【国際特許分類】
   A61F 9/008 20060101AFI20241120BHJP
【FI】
A61F9/008 120A
A61F9/008 120B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024532265
(86)(22)【出願日】2022-11-30
(85)【翻訳文提出日】2024-06-28
(86)【国際出願番号】 IB2022061559
(87)【国際公開番号】W WO2023100081
(87)【国際公開日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】17/457,034
(32)【優先日】2021-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.BLUETOOTH
(71)【出願人】
【識別番号】510281612
【氏名又は名称】エーエムオー ディベロップメント エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】カティブザデ・ニマ
(72)【発明者】
【氏名】ビン・リ
(72)【発明者】
【氏名】フ・ホン
(57)【要約】
「高速走査-低速掃引」走査方式を使用して、対象の眼にレンチクルを形成するための眼科手術用レーザシステム及び方法。高周波スキャナが、高速走査線を形成し、この走査線は、レンチクルの表面の緯度の緯線に接して配置され、次いで、1回の掃引でレンチクルの表面の経度の経線に沿って低速掃引軌道で移動される。異なる経線に沿って複数の掃引が実施されて、レンチクル表面全体が形成され、走査線の配向は、連続する掃引間で回転される。眼にレーザ誘起マークを残さずに組織ブリッジのない切開を生成するために、40nJ~70nJのレーザパルスエネルギーが使用され、掃引速度は、走査線ステップ(連続する走査線の中心間の距離)が1.7μm~2.3μmであるように制御される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼科手術用レーザシステムであって、
複数のレーザパルスを含むパルスレーザビームを生成するように構成されたレーザ源と、
前記パルスレーザビームを対象の眼における標的組織に送達するように構成されたレーザ送達システムと、
前記パルスレーザビームを事前に定義された周波数で前後に走査するように構成された高周波スキャナと、
前記パルスレーザビームを偏向させるように構成されたXYスキャナであって、前記高周波スキャナとは別個である、XYスキャナと、
前記パルスレーザビームの焦点深度を変更するように構成されたZスキャナと、
前記レーザ源、前記高周波スキャナ、前記XYスキャナ、及び前記Zスキャナを制御して、前記対象の眼におけるレンズの少なくとも1つのレンチクル切開を集合的に形成する複数の掃引を連続的に形成するように構成されたコントローラであって、前記レンズが、頂点及び前記頂点を通過するZ軸を画定する曲面を有し、各掃引が、
前記レーザ源を制御して、40nJ~70nJのパルスエネルギーを有する前記パルスレーザビームを生成することと、
前記高周波スキャナを制御して、前記パルスレーザビームを偏向させて走査線を形成することであって、前記走査線が、事前に定義された長さを有し、かつ前記レンズの緯度の緯線に接する直線であり、前記緯度の緯線が、前記Z軸に垂直であり、かつ前記頂点までの画定された距離を有する前記レンズの表面上の円である、形成することと、
前記XYスキャナ及び前記Zスキャナを制御して、前記レンズの経度の経線に沿って前記走査線を移動させることであって、前記経度の経線が、前記頂点を通過し、かつ前記Z軸の周りの画定された角度位置を有する曲線であり、前記走査線が、1.7μm~2.3μmの走査線ステップを生成する掃引速度で移動され、前記走査線ステップが、連続する走査線の中心間の距離である、移動させることと、によって形成される、コントローラと、を備え、
前記複数の掃引が、互いに異なるそれぞれの前記経度の経線に沿って順次連続的に形成される、眼科手術用レーザシステム。
【請求項2】
前記走査線ステップが、前記レンチクル切開の縁部において1.7μm~2.0μmであり、前記レンチクル切開の中心において2.0μm~2.3μmである、請求項1に記載の眼科手術用レーザシステム。
【請求項3】
前記走査線ステップが、各掃引全体にわたって一定である、請求項1に記載の眼科手術用レーザシステム。
【請求項4】
前記走査線ステップが、事前に定義された半径方向距離内の前記レンチクル切開の前記中心からの半径方向距離の線形関数である、請求項1に記載の眼科手術用レーザシステム。
【請求項5】
前記走査線ステップが、事前に定義された半径方向距離内の前記レンチクル切開の前記中心からの半径方向距離の二次以上の多項式関数である、請求項1に記載の眼科手術用レーザシステム。
【請求項6】
前記パルスレーザビームが、2~40MHzの繰り返し率を有し、前記高周波スキャナが、0.5kHz及び20kHzの走査周波数を有する共振スキャナであり、前記走査線の所定の長さが、200μm~1200μmである、請求項1に記載の眼科手術用レーザシステム。
【請求項7】
前記パルスレーザビームが、1015~1065nmの波長、200fs未満のパルス持続時間、及び前記標的組織における1.3μm以下のレーザ焦点直径を有する、請求項1に記載の眼科手術用レーザシステム。
【請求項8】
前記高周波スキャナから、走査されたパルスレーザビームを受け取るように配置されたプリズムを更に備え、前記コントローラが、前記プリズムを回転させて、連続する掃引間で前記走査線の配向を回転させるように構成されている、請求項1に記載の眼科手術用レーザシステム。
【請求項9】
前記少なくとも1つのレンチクル切開が、上部レンチクル切開及び底部レンチクル切開を含み、前記曲面が、前記上部レンチクル切開に対応する前記レンズの上面であり、前記レンズが、前記底部レンチクル切開に対応し、かつ別の頂点を画定する底面を更に含み、前記上部レンチクル切開を形成する前記掃引の各々に対する前記走査線が、前記レンズの前記上面の前記頂点を通って前記レンズの前記上面にわたって移動され、前記底部レンチクル切開を形成する前記掃引の各々に対する前記走査線が、前記レンズの前記底面の前記別の頂点を通って前記レンズの前記底面にわたって移動される、請求項1に記載の眼科手術用レーザシステム。
【請求項10】
眼科手術用レーザシステムを使用してレンチクル切開を形成するための方法であって、
レーザ源によって、複数のレーザパルスを含むパルスレーザビームを生成する工程と、
レーザ送達システムによって、前記パルスレーザビームを対象の眼における標的組織に送達する工程と、
高周波スキャナによって、前記パルスレーザビームを事前に定義された周波数で前後に走査する工程と、
XYスキャナによって、前記パルスレーザビームを偏向させる工程であって、前記XYスキャナが、前記高周波スキャナとは別個である、偏向させる工程と、
Zスキャナによって、前記パルスレーザビームの焦点深度を変更する工程と、
コントローラによって、前記レーザ源、前記高周波スキャナ、前記XYスキャナ、及び前記Zスキャナを制御して、前記対象の眼におけるレンズの少なくとも1つのレンチクル切開を集合的に形成する複数の掃引を連続的に形成する工程であって、前記レンズが、頂点及び前記頂点を通過するZ軸を画定する曲面を有し、各掃引を、
前記レーザ源を制御して、40nJ~70nJのパルスエネルギーを有する前記パルスレーザビームを生成することと、
前記高周波スキャナを制御して、前記パルスレーザビームを偏向させて走査線を形成することであって、前記走査線が、事前に定義された長さを有し、かつ前記レンズの緯度の緯線に接する直線であり、前記緯度の緯線が、前記Z軸に垂直であり、かつ前記頂点までの画定された距離を有する前記レンズの表面上の円である、形成することと、
前記XYスキャナ及び前記Zスキャナを制御して、前記レンズの経度の経線に沿って前記走査線を移動させることであって、前記経度の経線が、前記頂点を通過し、かつ前記Z軸の周りの画定された角度位置を有する曲線であり、前記走査線が、1.7μm~2.3μmの走査線ステップを生成する掃引速度で移動され、前記走査線ステップが、連続する走査線の中心間の距離である、移動させることと、によって形成することを含む、形成する工程と、を含み、
前記複数の掃引が、互いに異なるそれぞれの前記経度の経線に沿って順次連続的に形成される、方法。
【請求項11】
前記走査線ステップが、前記レンチクル切開の縁部において1.7μm~2.0μmであり、前記レンチクル切開の中心において2.0μm~2.3μmである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記走査線ステップが、各掃引全体にわたって一定である、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記走査線ステップが、事前に定義された半径方向距離内の前記レンチクル切開の前記中心からの半径方向距離の線形関数である、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記走査線ステップが、事前に定義された半径方向距離内の前記レンチクル切開の前記中心からの半径方向距離の二次以上の多項式関数である、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記パルスレーザビームが、2~40MHzの繰り返し率を有し、前記高周波スキャナが、0.5kHz及び20kHzの走査周波数を有する共振スキャナであり、前記走査線の所定の長さが、200μm~1200μmである、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記パルスレーザビームが、1015~1065nmの波長、200fs未満のパルス持続時間、及び前記標的組織における1.3μm以下のレーザ焦点直径を有する、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
前記高周波スキャナから、走査されたパルスレーザビームを受け取るように配置されたプリズムによって、連続する掃引間で前記走査線の配向を回転させることを更に含む、請求項10に記載の方法。
【請求項18】
前記少なくとも1つのレンチクル切開が、上部レンチクル切開及び底部レンチクル切開を含み、前記曲面が、前記上部レンチクル切開に対応する前記レンズの上面であり、前記レンズが、前記底部レンチクル切開に対応し、かつ別の頂点を画定する底面を更に含み、前記上部レンチクル切開を形成する前記掃引の各々に対する前記走査線が、前記レンズの前記上面の前記頂点を通って前記レンズの前記上面にわたって移動され、前記底部レンチクル切開を形成する前記掃引の各々に対する前記走査線が、前記レンズの前記底面の前記別の頂点を通って前記レンズの前記底面にわたって移動される、請求項10に記載の方法。
【請求項19】
眼科手術用レーザシステムであって、
複数のレーザパルスを含むパルスレーザビームを生成するように構成されたレーザ源と、
前記パルスレーザビームを対象の眼における標的組織に送達するように構成されたレーザ送達システムと、
前記パルスレーザビームを事前に定義された周波数で前後に走査するように構成された高周波スキャナと、
前記パルスレーザビームを偏向させるように構成されたXYスキャナであって、前記高周波スキャナとは別個である、XYスキャナと、
前記パルスレーザビームの焦点深度を変更するように構成されたZスキャナと、
前記レーザ源、前記高周波スキャナ、前記XYスキャナ、及び前記Zスキャナを制御して、前記標的組織に床切断部を集合的に形成する複数の掃引を連続的に形成するように構成されたコントローラであって、各掃引が、
前記レーザ源を制御して、40nJ~70nJのパルスエネルギーを有する前記パルスレーザビームを生成することと、
前記高周波スキャナを制御して、前記パルスレーザビームを偏向させて走査線を形成することであって、前記走査線が、事前に定義された長さを有する直線である、形成することと、
前記XYスキャナを制御して、前記走査線を所定の方向に沿って移動させることであって、前記走査線が、1.7μm~2.3μmの走査線ステップを生成する掃引速度で移動され、前記走査線ステップが、連続する走査線の中心間の距離である、移動させることと、によって形成される、コントローラと、を備える、眼科手術用レーザシステム。
【請求項20】
前記走査線ステップが、各掃引全体にわたって一定である、請求項19に記載の眼科手術用レーザシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2021年11月30日に出願された米国特許出願第17/457,034号の利益を主張するものであり、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
(発明の分野)
本発明の実施形態は、概して、レーザ支援眼科処置に関し、より詳細には、角膜におけるレンチクル切開のためのシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0003】
近視(近眼)、遠視、及び乱視などの視力障害は、眼鏡又はコンタクトレンズを使用して矯正することができる。あるいは、眼の角膜は、必要な光学的矯正を提供するために、外科的に再形成することができる。眼の手術は、屈折問題を矯正するためにコンタクトレンズ又は眼鏡を使用することを回避するための選択的処置としてそれを追求する一部の患者、及び白内障などの有害な状態を矯正するためにそれを追求する他の患者にとって一般的になってきている。そして、レーザ技術における最近の発展に伴い、レーザ手術は、眼科処置のために選択される技術になりつつある。
【0004】
異なるレーザ眼手術システムは、様々な処置及び徴候に対して異なるタイプのレーザビームを使用する。これらは、例えば、紫外線レーザ、赤外線レーザ、及び近赤外線、超短パルスレーザを含む。超短パルスレーザは、短くは10フェムト秒、長くは3ナノ秒のパルス持続時間、及び300nm~3000nmの波長の放射線を放射する。
【0005】
特に、眼科におけるフェムト秒レーザの導入以来、これらのレーザは、近視及び乱視を治療するためのフェムト秒レーザ支援インサイチュ角膜曲率形成術(femtosecond laser-assisted in situ keratomileusis、FS-LASIK)屈折処置、及びレーザ支援白内障手術において広く使用されてきた。機械的技術と比較して、フェムト秒レーザの主な利点の中には、白内障前嚢切開術及びレンズ断片化を実施する際の、またラメラフラップ形成における優れた精度及び再現性がある。フェムト秒レーザの短いパルス持続時間及び高い繰り返し率は、組織の光切開に必要とされるレーザ誘起プラズマ及びキャビテーション気泡の形成において、ピコ秒及びナノ秒レーザを用いるものよりも低いレベルのエネルギーの印加を可能にする。近赤外波長範囲内の組織によるレーザ光の低吸収と組み合わされたより低いパルスエネルギーは、フェムト秒レーザ支援眼科処置における隣接組織への熱影響及び付随的損傷を大幅に低減する。
【0006】
角膜を再形成するための従来の外科的アプローチは、レーザ支援インサイチュ角膜曲率形成術(laser assisted in situ keratomileusis、LASIK)、光屈折矯正角膜切除術(photorefractive keratectomy、PRK)、及び角膜レンチクル摘出術を含む。
【0007】
LASIK処置では、超短パルスレーザが使用されて角膜フラップを切断し、エキシマレーザからの紫外線ビームによる光切除のために角膜実質を露出させる。角膜実質の光切除は、角膜を再形成し、近視、遠視、乱視などの屈折状態を矯正する。フラップが形成されないPRK処置では、上皮層が最初に除去され、次いで、いくらかの実質材料がエキシマレーザによって除去される。上皮層は、処置後数日以内に成長して戻る。
【0008】
角膜レンチクル摘出処置では、角膜フラップの形成後にエキシマレーザによって角膜組織を切除する代わりに、この技術は、摘出のためのレンチクルを形成するために交差する2つ又はそれ以上のフェムト秒レーザ切開による組織除去を含む。レンチクルの摘出は、視力矯正を達成するために角膜の形状及びその屈折力を変化させる。レンチクルの摘出は、角膜フラップの形成を伴って、又は伴わずにのいずれかで実施することができる。フラップなし処置では、前角膜の無傷の部分に屈折性レンチクルが形成され、小さな切開を通して除去される。手術用眼科レーザシステムの高速走査-低速掃引方式を使用する角膜レンチクル摘出のための方法は、2016年3月31日に公開された「Systems And Methods For Lenticular Laser Incision」と題された米国特許出願公開第20160089270号、及び2020年2月13日に公開された「High Speed Corneal Lenticular Incision Using A Femtosecond Laser」と題された米国特許出願公開第20200046558号に記載されている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施形態は、患者の視野の中心領域における不必要なレーザエネルギー暴露を低減し、かつ切開を形成するために必要とされる時間を低減することができる、パルスレーザを使用するレンチクル切開方法を提供する。
【0010】
一態様では、本発明の実施形態は、複数のレーザパルスを含むパルスレーザビームを生成するように構成されたレーザ源と、パルスレーザビームを対象の眼における標的組織に送達するように構成されたレーザ送達システムと、パルスレーザビームを事前に定義された周波数で前後に走査するように構成された高周波スキャナと、パルスレーザビームを偏向させるように構成されたXYスキャナであって、高周波スキャナとは別個である、XYスキャナと、パルスレーザビームの焦点深度を変更するように構成されたZスキャナと、レーザ源、高周波スキャナ、XYスキャナ、及びZスキャナを制御して、対象の眼におけるレンズの少なくとも1つのレンチクル切開を集合的に形成する複数の掃引を連続的に形成するように構成されたコントローラであって、レンズが、頂点及び頂点を通過するZ軸を画定する曲面を有し、各掃引が、レーザ源を制御して、40nJ~70nJのパルスエネルギーを有するパルスレーザビームを生成することと、高周波スキャナを制御して、パルスレーザビームを偏向させて走査線を形成することであって、走査線が、事前に定義された長さを有し、かつレンズの緯度の緯線に接する直線であり、緯度の緯線が、Z軸に垂直であり、かつ頂点までの画定された距離を有するレンズの表面上の円である、形成することと、XYスキャナ及びZスキャナを制御して、レンズの経度の経線に沿って走査線を移動させることであって、経度の経線が、頂点を通過し、かつZ軸の周りの画定された角度位置を有する曲線であり、走査線が、1.7μm~2.3μmの走査線ステップを生成する掃引速度で移動され、走査線ステップが、連続する走査線の中心間の距離である、移動させることと、によって形成される、コントローラと、を含み、複数の掃引が、互いに異なるそれぞれの経度の経線に沿って順次連続的に形成される、眼科手術用レーザシステムを提供する。
【0011】
別の態様では、本発明の実施形態は、眼科手術用レーザシステムを使用してレンチクル切開を形成するための方法であって、レーザ源によって、複数のレーザパルスを含むパルスレーザビームを生成する工程と、レーザ送達システムによって、パルスレーザビームを対象の眼における標的組織に送達する工程と、高周波スキャナによって、パルスレーザビームを事前に定義された周波数で前後に走査する工程と、XYスキャナによって、パルスレーザビームを偏向させる工程であって、XYスキャナが、高周波スキャナとは別個である、偏向させる工程と、Zスキャナによって、パルスレーザビームの焦点深度を変更する工程と、コントローラによって、レーザ源、高周波スキャナ、XYスキャナ、及びZスキャナを制御して、対象の眼におけるレンズの少なくとも1つのレンチクル切開を集合的に形成する複数の掃引を連続的に形成する工程であって、レンズが、頂点及び頂点を通過するZ軸を画定する曲面を有し、各掃引を、レーザ源を制御して、40nJ~70nJのパルスエネルギーを有するパルスレーザビームを生成することと、高周波スキャナを制御して、パルスレーザビームを偏向させて走査線を形成することであって、走査線が、事前に定義された長さを有し、かつレンズの緯度の緯線に接する直線であり、緯度の緯線が、Z軸に垂直であり、かつ頂点までの画定された距離を有するレンズの表面上の円である、形成することと、XYスキャナ及びZスキャナを制御して、レンズの経度の経線に沿って走査線を移動させることであって、経度の経線が、頂点を通過し、かつZ軸の周りの画定された角度位置を有する曲線であり、走査線が、1.7μm~2.3μmの走査線ステップを生成する掃引速度で移動され、走査線ステップが、連続する走査線の中心間の距離である、移動させることと、によって形成することを含む、形成する工程と、を含み、複数の掃引が、互いに異なるそれぞれの経度の経線に沿って順次連続的に形成される、方法を提供する。
【0012】
更に別の態様では、本発明の実施形態は、複数のレーザパルスを含むパルスレーザビームを生成するように構成されたレーザ源と、パルスレーザビームを対象の眼における標的組織に送達するように構成されたレーザ送達システムと、パルスレーザビームを事前に定義された周波数で前後に走査するように構成された高周波スキャナと、パルスレーザビームを偏向させるように構成されたXYスキャナであって、高周波スキャナとは別個である、XYスキャナと、パルスレーザビームの焦点深度を変更するように構成されたZスキャナと、レーザ源、高周波スキャナ、XYスキャナ、及びZスキャナを制御して、標的組織に床切断部を集合的に形成する複数の掃引を連続的に形成するように構成されたコントローラであって、各掃引が、レーザ源を制御して、40nJ~70nJのパルスエネルギーを有するパルスレーザビームを生成することと、高周波スキャナを制御して、パルスレーザビームを偏向させて走査線を形成することであって、走査線が、事前に定義された長さを有する直線である、形成することと、XYスキャナを制御して、走査線を所定の方向に沿って移動させることであって、走査線が、1.7μm~2.3μmの走査線ステップを生成する掃引速度で移動され、走査線ステップが、連続する走査線の中心間の距離である、移動させることと、によって形成される、コントローラと、を含む、眼科手術用レーザシステムを提供する。
【0013】
この概要及び以下の詳細な説明は、例示的、例証的、及び説明的なものに過ぎず、特許請求の範囲に記載される本発明を制限するのではなく、その更なる説明を提供することを目的とする。開示される実施形態の更なる特徴及び利点は、以下の説明に記載され、一部はその説明から明らかとなるか、又は本発明の実践によって習得されることができる。本発明の目的及び他の利点は、詳細な説明、特許請求の範囲、及び添付の図面において特に指摘される構造によって実現及び達成される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
本発明の新規な特徴が、添付の特許請求の範囲において詳細に述べられる。特徴及び利点についてのより良い理解は、発明の原理を使用する例示的な実施形態を記載する以下の詳細な説明、及び添付の図面を参照することによって容易になり得、異なる図全体にわたって、同様の数字は、同様の部品を指す。しかしながら、同様の部品は、必ずしも同様の参照番号を有するわけではない。更に、図面は、縮尺通りではなく、むしろ、本発明の原理を例示することに重点が置かれている。全ての図は、概念を伝えることを目的とし、相対的なサイズ、形状、及び他の詳細な属性は、そのまま又は精密に図示されるよりもむしろ、概略的に例示され得る。
図1】本発明の一実施形態による、レンチクル切開方法を実施するために使用され得る手術用眼科レーザシステムの斜視図である。
図2】本発明の一実施形態による、レンチクル切開方法を実施するために使用され得る手術用眼科レーザシステムの別の斜視図である。
図3】本発明の一実施形態による、レンチクル切開方法を実施するために使用され得る手術用眼科レーザシステムのコントローラの簡略図である。
図4】本発明の一実施形態による、手術用眼科レーザシステムの例示的な走査を例解する。
図5】本発明の一実施形態による、手術用眼科レーザシステムの高速走査-低速掃引方式を使用した例示的な表面切開を例解する。
図6】本発明の一実施形態による、手術用眼科レーザシステムの高速走査線と意図される球形切開表面との間の幾何学的関係を例解する。
図7】本発明の一実施形態による、手術用眼科レーザシステムを使用した例示的なレンチクル切開を例解する。
図8】レーザ走査線を掃引することによって形成されるレーザ焦点の波パターンを概略的に例解する。
図9A】本発明の一実施形態を含む3つの実施例について、レンチクル中心からの半径方向距離の関数として走査線ステップを概略的に例解する。
図9B図9Aの3つの実施例について、レンチクル中心からの半径方向距離の関数として平均エネルギー密度を概略的に例解する。
図10】本発明の一実施形態による、レンチクル切開処理を例解するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態は、概して、レーザ支援眼科処置のためのシステム及び方法を対象とし、より具体的には、角膜レンチクル切開のためのシステム及び方法を対象とする。
【0016】
図面を参照すると、図1は、患者の眼の組織12に切開を行うためのシステム10を示す。システム10は、パルスレーザビームを生成することができるレーザ14と、パルスレーザビームのパルスエネルギーを変化させるためのエネルギー制御モジュール16と、パルスレーザビームの高速走査線を生成するための高速走査線移動制御モジュール20(後でより詳細に説明する)と、コントローラ22と、レーザ走査線を移動させ、組織12に送達するための低速走査線移動制御モジュール28と、を含むが、これらに限定されない。好適な制御ソフトウェアを動作させるプロセッサなどのコントローラ22は、高速走査線移動制御モジュール20、低速走査線移動制御モジュール28、及びエネルギー制御モジュール16と動作可能に結合されて、パルスレーザビームの走査線を組織12上又は組織12内の走査パターンに沿って方向付ける。この実施形態では、システム10は、ビームスプリッタ26、及びパルスレーザビームのフィードバック制御機構(図示せず)のためにコントローラ22に結合された撮像デバイス24を更に含む。しかしながら、他のフィードバック方法も使用され得る。一実施形態では、パルスのパターンは、治療表の形態で、有形の記憶媒体の機械可読データにまとめられ得る。治療表は、監視システムフィードバックシステム(図示せず)から提供されるフィードバックデータに応答して、自動画像分析システムからコントローラ22へのフィードバック入力に従って調整され得る。
【0017】
レーザ14は、パルスレーザビームを提供することができるフェムト秒レーザを含み得、パルスレーザビームは、局所的な光切断(例えば、レーザ誘起光学破壊)などの光学的処置において使用され得る。局所的な光切断は、高精度材料処理を生成するために、組織若しくは他の材料の表面又はその下に配置することができる。例えば、マイクロ光学走査システムを使用して、パルスレーザビームを走査して、材料に切開を生成し、材料のフラップを形成し、材料内にポケットを形成し、材料の除去可能な構造を形成するなどしてもよい。「走査(scan)」又は「走査(scanning)」という用語は、所望の経路に沿った、又は所望のパターンでのパルスレーザビームの焦点の移動を指す。
【0018】
他の実施形態では、レーザ14は、眼内の1つ又は2つ以上の眼内標的を光分解することができる複数の紫外線レーザパルスを含む紫外線レーザビームを送達するように構成されたレーザ源を備え得る。
【0019】
レーザシステム10は、様々な材料(例えば、有機、無機、又はそれらの組み合わせ)を光改変するために使用され得るが、レーザシステム10は、いくつかの実施形態では眼科用途に好適である。これらの場合、集束光学部品は、表面組織のプラズマ媒介(例えば、非UV)光切除のために、パルスレーザビームを眼に向けて(例えば、角膜上又は角膜内に)、又は組織の実質内光切断のために、角膜の実質内に向ける。これらの実施形態では、手術用レーザシステム10はまた、パルスレーザビームを眼に向かって走査する前に、角膜の形状を変化させる(例えば、平坦化又は湾曲させる)レンズを含み得る。
【0020】
図2は、レーザシステム10の別の例示的な図を示す。図2は、小型フェムト秒レーザシステムの可動XYスキャナ(又は可動XYステージ)28を含むレーザ送達システムの構成要素を示す。この実施形態では、システム10は、フェムト秒発振器、又はファイバ発振器ベースの低エネルギーレーザを使用する。これにより、レーザをはるかに小さくすることが可能になる。レーザ-組織相互作用は、低密度プラズマモードにある。そのようなレーザのためのレーザパラメータの例示的なセットは、40~100nJ範囲のパルスエネルギー及び2~40MHz範囲のパルス繰り返し率(又は「繰り返し率」)を含む。高速Zスキャナ25及び共振スキャナ21は、レーザビームを走査線回転器23に向ける。眼科処置で使用される場合、システム10はまた、固定円錐ノーズ31と、患者の眼と係合するコンタクトレンズ32と、を有する患者インターフェース設計を含む。患者インターフェースの円錐31の内側にビームスプリッタを配置して、眼全体を視覚化光学系を介して撮像することが可能になる。いくつかの実施形態では、システム10は、1.1μmの半値全幅(Full Width at Half Maximum、FWHM)焦点スポットサイズを生成する0.6の開口数(numerical aperture、NA)を有する光学系と、0.2~1.2mmの走査線を生成する共振スキャナ21と、を使用し得、XYスキャナは、共振走査線を1.0mmのフィールドに走査する。プリズム23(例えば、ドーブ(Dove)又はペシャン(Pechan)プリズムなど)は、共振走査線をXY平面上の任意の方向に回転させる。高速Zスキャナ25は、切開深さを設定する。低速走査線移動制御モジュールは、高速Zスキャナ25よりも遅いので低速Zスキャナと称される、Z走査能力を有する対物レンズ27を担持する可動XYステージ28を採用する。可動XYステージ28は、対物レンズを移動させて、X方向及びY方向におけるレーザ走査線の走査を実現させる。対物レンズは、組織内のレーザ走査線の深さを変化させる。エネルギー制御及び自動Zモジュール16は、減衰器などを含む、レーザパルスエネルギーを制御するための適切な構成要素を含み得る。深度基準を提供するために、共焦点又は非共焦点撮像システムを採用する自動Zモジュールも含み得る。小型フェムト秒レーザシステム10は、治療中に患者が直立して座るようなデスクトップシステムであってもよい。これは、ある特定の光機械アーム機構の必要性を排除し、レーザシステムの複雑さ、サイズ、及び重量を大幅に低減する。あるいは、小型レーザシステムは、患者が横になっている間に治療される従来のフェムト秒レーザシステムとして設計され得る。
【0021】
図3は、レーザシステム10を制御し、以下に詳細に説明する工程のうちの少なくともいくつかを実行するために、本発明の一実施形態によるレーザシステム10によって使用され得る例示的なコントローラ22の簡略ブロック図を例解する。コントローラ22は典型的には、バスサブシステム54を介して多数の周辺デバイスと通信し得る少なくとも1つのプロセッサ52を含む。これらの周辺デバイスとしては、メモリサブシステム58及びファイルストレージサブシステム60を含むストレージサブシステム56、ユーザインターフェース入力デバイス62、ユーザインターフェース出力デバイス64、並びにネットワークインターフェースサブシステム66を挙げることができる。ネットワークインターフェースサブシステム66は、外部ネットワーク68及び/又は他のデバイスへのインターフェースを提供する。ネットワークインターフェースサブシステム66は、LAN、WLAN、Bluetooth、他の有線及び無線インターフェースなど、当技術分野で知られている1つ又は2つ以上のインターフェースを含む。
【0022】
ユーザインターフェース入力デバイス62としては、キーボード、ポインティングデバイス(マウス、トラックボール、タッチパッド、又はグラフィックス端末など)、スキャナ、フットペダル、ジョイスティック、ディスプレイに組み込まれたタッチスクリーン、オーディオ入力デバイス(声認識システム、マイクロフォン、及び他の種類の入力デバイスなど)を挙げることができる。一般に、用語「入力デバイス」は、情報をコントローラ22に入力するための、様々な従来の、専有デバイス及び方法を含むことを意図している。
【0023】
ユーザインターフェース出力デバイス64としては、ディスプレイサブシステム、プリンタ、ファックスマシン、又は音声出力デバイスなどの非視覚的ディスプレイを挙げることができる。ディスプレイサブシステムは、液晶ディスプレイ(liquid crystal display、LCD)、発光ダイオード(light emitting diode、LED)ディスプレイ、タッチスクリーンディスプレイなどのフラットパネルデバイスであり得る。ディスプレイサブシステムは、音声出力デバイスなどの非視覚的ディスプレイもまた提供することができる。一般に、用語「出力デバイス」は、情報をコントローラ22からユーザに出力するための、様々な従来の、専有デバイス及び方法を含むことを意図している。
【0024】
ストレージサブシステム56は、本発明の様々な実施形態の機能性を付与する、基本的なプログラミング及びデータ構築物を記憶することができる。例えば、本明細書に記載するように、本発明の方法の機能性を実装するデータベース及びモジュールを、ストレージサブシステム56に記憶することができる。これらのソフトウェアモジュールは、一般にプロセッサ52によって実行される。配置された環境において、ソフトウェアモジュールは、複数のコンピュータシステム上で記憶され、複数のコンピュータシステムのプロセッサにより実行され得る。ストレージサブシステム56は典型的には、メモリサブシステム58及びファイルストレージサブシステム60を含む。
【0025】
メモリサブシステム58は典型的には、プログラムの実行中の命令及びデータを記憶するための、メインランダムアクセスメモリ(random access memory、RAM)70、並びに不変の命令が記憶される読出し専用メモリ(read only memory、ROM)72を含む多数のメモリを含む。ファイルストレージサブシステム60は、プログラム及びデータファイルのための永続的(不揮発性)ストレージを提供する。ファイルストレージサブシステム60としては、関連する取り外し可能なメディアが付いたハードディスクドライブ、コンパクトディスク(Compact Disk、CD)ドライブ、光学ドライブ、DVD、固体メモリ、及び/又は他の取り外し可能なメディアを挙げることができる。1つ又は2つ以上のドライブは、コントローラ22に連結した、他の場所にある他の接続したコンピュータの遠隔位置に位置することができる。本発明の機能性を実装するモジュールは、ファイルストレージサブシステム60により記憶することができる。
【0026】
バスサブシステム54は、コントローラ22の様々な構成要素及びサブシステムが互いに、意図した通りに通信可能になる機構を提供する。コントローラ22の様々なサブシステム及び構成要素は、同じ物理的位置にある必要はないが、配置されたネットワーク内の様々な位置に配置されることができる。バスサブシステム54は、概略的に1つのバスとして示されているが、バスサブシステムの代替の実施形態では、複数のバスを使用することができる。
【0027】
コンピュータ及びネットワークの性質は刻々と変化するために、図3で描写されたコントローラ22の説明は、本発明の一実施形態のみを例解する目的のための一例としてのみ意図されている。図3に描写された構成要素よりも多い又は少ない構成要素を有するコントローラ22の多くの他の構成が可能である。
【0028】
当業者によって理解されるべきであるように、追加の構成要素及びサブシステムが、レーザシステム10とともに含まれ得る。例えば、レーザビーム内のエネルギー分布を制御するための、空間及び/又は時間積算器が含まれてもよい。切除排出物吸引器/フィルタ、吸引器、及び手術用レーザシステムの他の付随的な構成要素は、当技術分野で公知であり、システム内に含まれ得る。加えて、撮像デバイス又はシステムが、レーザビームを誘導するために使用され得る。
【0029】
好ましい実施形態では、ビーム走査は、本明細書では高速走査線方式とも称される「高速走査-低速掃引」走査方式で実現されることができる。この方式は、2つの走査機構からなり、第1に、高周波高速スキャナを使用して、ビームを前後に走査し、短い高速走査線を生成し(例えば、図2の共振スキャナ21)、第2に、高速走査線が、はるかに遅いX、Y、及びZ走査機構(例えば、可動X-Yステージ28及び低速Z走査を有する対物レンズ27、並びに高速Zスキャナ25)によってゆっくりと掃引される。図4は、約1mm(例えば、0.9mm~1.1mm、より一般的には、0.2mm~1.2mm)の高速走査線410及び約25m/秒の走査速度を生成するための8kHz(例えば、7kHz~9kHz、より一般的には、0.5kHz~20kHz)共振スキャナ21と、約0.1m/秒よりも小さい走査速度(掃引速度)を有するX、Y、及びZ走査機構と、を使用する、レーザシステム10の走査例を例解する。高速走査線410は、光ビーム伝播方向に垂直であってもよく、すなわち、それは常にXY平面に平行である。低速掃引420の軌道は、X、Y、及びZ走査デバイス(例えば、XYスキャナ28及び高速Zスキャナ25)によって描かれる任意の3次元曲線とすることができる。「高速走査-低速掃引」走査方式の利点は、比較的低コストで高い焦点品質を達成することができる小視野光学系(例えば、1.5mmの視野直径)のみを使用することである。大きな手術野(例えば、10mm以上の視野直径)は、無制限であってもよいXYスキャナを用いて達成される。
【0030】
図5及び図7A図7Bに示す好ましい実施形態では、レーザシステム10は、好ましい処置の下で「高速走査-低速掃引」走査方式を使用して滑らかなレンチクル切断部を形成する。第1に、3次元レンチクル切断部では、高速走査線は、好ましくは、レンチクルの表面上の緯度510の緯線に接して配置される。緯度の緯線は、表面とZ軸(眼の深さ方向に平行な軸)に垂直な平面との交点、すなわち、Z軸に垂直であり、かつ頂点(Z方向の最高点)までの画定された距離を有するレンズの表面上の円である。例えば、図2のレーザシステム10において、これは、ソフトウェアを介して、例えばコントローラ22を介して、プリズム23を対応する配向に調整することによって実現されることができる。第2に、低速掃引軌道は、好ましくは、レンチクルの表面上の経度520の経線に沿って移動する。経線は、表面とZ軸を通過する平面との交点、すなわち頂点を通過し、Z軸に対して画定された角度方向を有する曲線である。例えば、図2のレーザシステムにおいて、これは、ソフトウェアを介して、例えば、コントローラ22を介して、XYスキャナ28及び高速Zスキャナ25を調整することによって行われることができる。この処置は、XY平面に平行な走査線から開始し、最大直径を有する曲率に従ってレンズの頂点を掃引する(図7Aも参照されたい)。例えば、連続する掃引間でプリズム23を回転させることによって実現されるように、複数の掃引が、Z軸に対して連続する角度方向で実施されて、レンチクル全体を形成する。この好ましい処置では、切開において垂直方向の「ステップ」が存在せず、垂直方向の側部切断部が排除される。本発明において以下に分析されるように、レーザ焦点位置と意図された球面切開との間の偏差も最小化される。
【0031】
図6は、高速走査線610と、例えばレンズの意図された球状切開表面620との間の幾何学的関係、特に走査線610の端点Bと意図された切開表面620上の点Aとの間の距離偏差(δ)を示す。最大偏差δは、点Aと点Bとの間の距離であり、(式(1))によって与えられる:
【0032】
【数1】
式中、Rは、表面切開620の曲率半径であり、Lは、高速走査の長さである。
【0033】
上記の最大偏差解析は球面に関するものであるが、この走査方法はまた、楕円形状などの非球面形状を有する滑らかな切断部を形成するために使用することもできる。このような場合、緯度の緯線や経度の経線は円形ではない可能性がある。
【0034】
近視矯正の例示的な場合において、表面切開の曲率半径は、以下の式(式(2))を使用して、矯正量ΔDによって決定され得る:
【0035】
【数2】
式中、角膜の屈折率である、n=1.376であり、R及びR(本明細書ではR及びRとも称され得る)は、それぞれ、レンチクル切開の上面及び底面の曲率半径である。R=R=Rを有するレンチクル切開の場合(2つの切開表面は、それらが物理的に一致し接触しているため等しい)、(式(3))が得られる:
【0036】
【数3】
【0037】
図7は、3つの例示的な掃引(1Aから1B)、(2Aから2B)、及び(3Aから3B)を例解する、レンチクル切開900の平面図950であり、各掃引は、レンチクル切開頂点955を通過する(すなわち、越える)。切開直径957(DCUT)は、摘出されるべきレンチクル切開直径以上であるべきである。平面図980は、1つの例示的な掃引の平面図を示している。一例では、連続する掃引は、約9°の角度(回転)増分で実施される。
【0038】
要約すると、そのような「高速走査-低速掃引」走査方式を使用して、高速走査線の各掃引は、曲げられたバンドを形成し、曲げられたバンドは、平坦長方形を、その長辺がアーチ形状(経度の経線の形状)を形成する一方、その短辺が直線のままであるように、屈曲させることと同等である。図7の平面図において、矩形形状は掃引を表す。
【0039】
「高速走査-低速掃引」走査方式を使用してレンチクル(又はレンズ)表面が切開された、ヒトの眼における角膜レンチクル摘出臨床試験において、手術後の細隙灯検査の間に、眼におけるレンチクル切断部の縁部の周囲にいくつかの周期的な放射状のマークが観察された。これらのマークは、その放射状に近い外観のために本開示において「スポークホイール」マークと称され、レーザ手術後数ヶ月間持続した。調査を通して、本発明の発明者らは、角膜内の残存スポークホイールマークの主な寄与因子が組織内のレーザパルスのエネルギー密度(単位面積当たりのエネルギー)であると判定し、スポークホイールレーザマークを排除しながら組織ブリッジのないレンチクル切開を達成する好ましいレーザシステム設定を確立した。
【0040】
本発明者らは、スポークホイールマークが、掃引の2つの縁部における比較的高いエネルギー密度によって引き起こされたと考えている。図8に概略的に例解されるように、各走査線は、例えばおよそ8KHz(例えば7.9KHz)の周波数で共振スキャナを使用してパルスレーザビームを走査することによって形成される、走査線幅(例えば900μm)にわたるレーザ焦点の線である。走査線が経線に沿って掃引されると、レーザ焦点は、図8に概略的に例示されるような波パターンを形成する。各走査線の2つの端部(すなわち、掃引の2つの平行な縁部)に向かって、共振スキャナの速度は0に減少し、スポット間距離を減少させ、スポット密度を掃引の縁部付近で増加させる。換言すれば、レーザ走査線の縁部付近にレーザスポットの蓄積が存在する。したがって、局所エネルギー密度は、掃引の中心よりも2つの縁部の近くでより高い。縁部付近のこのより高いエネルギー密度は、観察されたスポークホイールマークを引き起こしたと考えられる。
【0041】
臨床試験で使用したレーザシステム設定は、以下の通りであった。フェムト秒レーザの波長は、1030nmであった。レーザパルスの持続時間は、レーザ焦点において200fs未満であった。角膜組織におけるレーザ焦点スポットの直径は、所望の薄いレンチクル切開界面を達成するために1.3μm未満であった。治療中の組織に送達されるレーザパルスエネルギー値は、大きなキャビテーション気泡の形成を防止するために50nJ~70nJであった。より具体的には、レーザパルスエネルギーは、上部(前部)レンチクル切開については70nJであり、底部(後部)レンチクル切開については60nJであった。レーザ繰り返し率は、10MHzであり、共振スキャナ周波数は、7.9KHzであり、各走査線において632個のレーザ焦点を与えた。走査線幅は、900μmであり、走査線に沿った走査速度は、走査線の中心で約15m/秒であった。ここで、レーザスポット間の平均距離は、一般に、各走査線におけるレーザスポットの数を、線当たり632スポットなど一定に保ちながら、好ましくは400μm~900μmの範囲内で走査線幅を変化させることによって調整可能であることに留意されたい。実際のレンチクル切開では、隣接する掃引の重なり合いにより、レーザスポット間の平均距離は、およそ1μmである。
【0042】
経線に沿った掃引速度は、可変速度であり、レンチクル中心(頂点)でより高く、レンチクル縁部でより低く、走査線ステップΔは、図9Aの線P1に示すように、一定である周辺リング部分を除いて、線形プロファイルにおいて、レンチクルの縁部における0.8μmからレンチクルの中心における2.0μmまで変化した。本開示では、走査線ステップΔ、すなわち、2つの連続するレーザ走査線の中心間の距離(図8参照)が、掃引速度の代用として使用される。
【0043】
これらの設定は、滑らかで組織ブリッジのない角膜レンチクル切開を可能にし、しかしながら、先に述べたように、放射状の「スポークホイール」タイプのレーザ誘起マークが角膜内に生成された。
【0044】
スポークホイールマークを低減又は排除するために、本発明者らは、掃引のエネルギー密度(単位組織面積当たりの組織に堆積されるレーザエネルギーの量)を減少させるべきであると考えた。図8に示されるような掃引パターンの場合、平均エネルギー密度EΔは、EΔ=nE/(WΔ)、すなわち、1つの走査線における総エネルギーを1つの走査線によって広がる面積で除算したものとして計算することができ、式中、nは、走査線当たりのパルス数であり、Eは、パルスエネルギー(レーザパルス当たりのエネルギー)であり、Wは、走査線幅であり、Δは、走査線ステップである(図8参照)。
【0045】
低減されたエネルギー密度の効果を調査するために、他のパラメータを上述の臨床試験と同じに保ちながら、低減されたレーザパルスエネルギーを有するエクスビボブタ眼を使用して、一連のレンチクル切断実験を行った。残存実質床及びレンチクル表面を、表面平滑性、不規則性、及び残存レーザマークについて検査した。これらの実験は、40~70nJのパルスエネルギー範囲内では、パルスエネルギーを40nJに減少させても、スポークホイールマークを有意に減少させないことを明らかにした。より具体的には、レーザパルスエネルギーを、前部切開については70nJから40nJに、後部切開については60nJから40nJに段階的に減少させたエクスビボブタ眼を使用して、レンチクル切断を繰り返した。スポークホイールマークは、エネルギー範囲を通して、40nJの下限レーザパルスエネルギーで、エクスビボブタ眼の残存実質床上で視認可能であった。
【0046】
望ましいパルスエネルギーの範囲は、組織切開の滑らかさなどの実際的な要件によって制約される。例えば、40nJ未満では、レーザパルスエネルギーは、組織のプラズマ閾値に近すぎる傾向があり、したがって、切断はロバストではない。70nJを超えると、キャビテーション気泡は、大きすぎて組織切開に粗さを引き起こす傾向があり、これは次に光散乱を引き起こし、処置された眼の視覚コントラストを低下させる。したがって、高い組織切断品質を得るために、パルスエネルギーは、レンチクル除去の容易さ(パルスエネルギーが高いほど容易である)とレンチクル切開の滑らかさ(パルスエネルギーが低いほど滑らかである)とのバランスをとるように選択されるべきである。一般に、パルスエネルギーは、約40nJ~70nJの範囲にあるべきである。
【0047】
スポークホイールパターンを除去するためにレーザパルスエネルギーを更に低減することは望ましくないことを認識して、走査線ステップΔを変更することによって、すなわち掃引速度を変更することによって、更なる実験を行った。より具体的には、レンチクル切断実験は、エクスビボブタ眼を使用して行われ、レンチクルの縁部における走査線ステップΔは、反復実験において0.8μmから2.0μmまで漸増的に増加される、一方、レンチクル中心における走査線ステップΔは、2.0μmに維持され、縁部と中心との間のΔ値は、半径方向距離(レンチクル中心からの距離)の線形関数であった。レーザパルスエネルギーは、前部レンチクル切開について53nJであり、後部レンチクル切開について50nJであり、両方とも臨床試験で使用されたものより低かった。他の設定は、臨床試験と同じであった。これらの実験は、レンチクル縁部における走査線ステップΔが1.7μm未満であったとき、スポークホイールマークの低減がわずかであることを示した。縁部における走査線ステップΔが1.7μm以上であったとき、スポークホイールマークの存在が著しく減少したことが観察された。縁部における走査線ステップΔが2.0μmであったとき(図9Aにおいて曲線P3によって表され、本開示において「最適化された条件」と称される)、スポークホイールマークはかすかであるか又は視認可能ではなく、切開表面上にディンプルなどの他の表面凹凸はなかった。これは、走査線ステップが、上述のスポークホイールマークの形成及び変調における重要な要因であり、走査線ステップを増加させることが、スポークホイールマークを低減又は排除するのに有効であったことを示す。
【0048】
生きたウサギの眼及びエクスビボの死体の眼を使用した更なる実験もまた、パルスエネルギーが40nJ~70nJの範囲内であり、走査線ステップΔがレンチクル縁部及びレンチクル中心の両方において2.0μmであるとき、スポークホイールマークが首尾よく除去されたことを確認した。
【0049】
スポークホイールマークを排除することに加えて、実験結果はまた、最適化された条件下では、エネルギー密度のより低い値及びレンチクル表面にわたるエネルギー密度のより均一な分布が、より少ない気泡発生及び蓄積、より均一な気泡分布、並びにより平滑なレンチクル及び残存実質床表面をもたらすことを実証した。角膜組織に送達されたレーザエネルギーの総量は、臨床試験で使用された条件と比較して、最適化された条件下で47%減少した。更に、最適化された条件は、レンチクル切開時間を、臨床試験条件下の22~24秒から最適化された条件下の14~18秒に短縮した。
【0050】
上記の実験では、走査線ステップΔを半径方向距離の線形関数として変化させたが、走査線ステップΔは、あるいは、半径方向距離の二次関数、又はより高次の多項式関数、又は別の関数であってもよい。0.8μmの縁部Δ値及び2.0μmの中心Δ値を有する例示的な二次曲線が、図9Aに曲線P2として示されている。この特定の例では、線形曲線P1の場合のような一定の周辺リング部分はない。二次曲線は、同じ縁部値及び中心値を有する線形曲線と比較して、より大きな走査線ステップを提供し、したがって、各所与の半径方向距離においてより低いエネルギー密度を提供する。それはまた、より速いレンチクル切断処置をもたらし、切断中に角膜組織に送達されるレーザエネルギーの総量を減少させる。
【0051】
走査線ステップΔ値が縁部及び中心で等しい(例えば、両方とも2.0μm)とき、線形関数及び二次関数は両方とも平坦な線(図9Aの曲線P3など)に縮退することに留意されたい。
【0052】
図9Aの3つの例について、半径方向距離の関数として、計算された平均エネルギー密度を図9Bに示す。曲線P1及びP2のパルスエネルギーは、60nJ(臨床試験において後部レンチクル切開に使用される値)であり、曲線P3のパルスエネルギーは、50nJ(エクスビボブタ眼実験における後部レンチクル切開に使用される値)である。平均エネルギー密度は、70nJのレーザパルスエネルギー及び0.8μmの走査線ステップΔ(すなわち、臨床試験における前部レンチクル縁部の条件)を使用して計算される、基準エネルギー密度値のパーセンテージとして示される。図9Bに示されるように、曲線P3について、計算された平均エネルギー密度は、掃引全体にわたって基準値の約29%である。エクスビボブタ眼実験(図9Bには図示せず)における前部レンチクル切開では、計算された平均エネルギー密度は、掃引全体にわたって基準値の約30%である。臨床試験条件(曲線P1)下での後部レンチクル切開については、計算された平均エネルギー密度は、基準値の86%(縁部)~34%(中心)である。(図9Bには示されていない)臨床試験条件下での前部レンチクル切開について、計算された平均エネルギー密度は、基準値の100%(縁部)~40%(中心)である。
【0053】
生きたウサギの眼に対する更なる実験では、走査線ステップΔは、レンチクル中心で2.1μmに増加されたが、縁部走査線ステップΔは2.0μmのままであり、満足のいく結果が得られた。
【0054】
より一般的には、好ましい実施形態では、中心における走査線ステップΔは、2.0~2.3μmである。走査線ステップの上限は、複数の考慮事項に基づいている。例えば、2.3μmより高い走査線ステップは、組織内に堆積される不十分なエネルギー密度に起因して、切開において粘着性を引き起こす傾向がある。一方、中心における走査線ステップを増加させることは、レンチクル切断領域の中心における気泡形成及びガス蓄積を低減し得る。
【0055】
角膜レンチクル摘出処置に加えて、上記の最適化された設定は、角膜フラップにおける床切断部などの他の処置における角膜切開に有益である。床切断部は平坦な切断部であり、典型的にはヒンジ部分を有する円形領域を有し、ラスタ走査と称される平行な掃引のセットでレーザ走査線を掃引することによって形成される。一連の実験において、角膜フラップ切開を、異なる条件下でエクスビボブタ眼に実施した。パルスエネルギーが65nJであり、走査線ステップが0.8μmであった場合、各掃引の縁部付近の平行なマーク(それらの外観に起因して芝刈り機様パターンと称される)が、フラップ切断部の残存実質床上に視認可能であった。芝刈り機様パターンは、レンチクル切開におけるスポークホイールマークと同様の機構によって形成されると考えられた。パルスエネルギーが65nJであったが、走査線ステップが2.0μmであった場合、床上に芝刈り機様パターンは存在せず、フラップの側部切断部又は床上に組織ブリッジも存在しなかった。パルスエネルギーを40nJに減少させても、走査線ステップが0.8μmであるとき、芝刈り機パターンは除去されなかった。これらの観察は、フラップ切断部の実質床表面上の芝刈り機タイプのレーザ誘起マークの形成における走査線ステップの重要な役割を確認した。この知見は、レンチクル切開実験での観察と一致した。
【0056】
要約すると、本発明の実施形態は、組織ブリッジのない切開を維持しながら、掃引の縁部付近のレーザ誘起マークを排除する最適化された設定を伴う高速走査-低速掃引レーザ走査方式を使用して、角膜組織を切開するための方法を提供する。最適化された設定は、40nJ~70nJのレーザパルスエネルギー及び1.7μm~2.3μmの走査線ステップを使用する。最適化された設定のための他のシステムパラメータは以下の通りであり、フェムト秒レーザの波長は1030nmであり、より一般的には1015~1065nmである。レーザパルスの持続時間は、レーザ焦点において200fs未満である。角膜組織におけるレーザ焦点の直径は、1.3μm以下である。レーザ繰り返し率は、10MHzであり、より一般的には2~40MHzである。共振スキャナ周波数は、7.9KHzであり、より一般的には0.5~20KHzである。各走査線におけるレーザ焦点の数は、50~2000である。走査線幅は、400μm~900μmであり、より一般的には200μm~1200μmである。最適化された条件は、角膜内のスポークホイールマークを排除し、より滑らかな残存床及びレンチクル表面をもたらし、レンチクル切断領域にわたってより均質な気泡分布を生成する。角膜レンチクル摘出処置において使用される場合、本方法は、レンチクル摘出の容易さを維持し得、そして丸みを帯びた無傷のレンチクル縁部を生成し得る。
【0057】
いくつかの実施形態では、全体的なレンチクル切開処置は、以下の工程で実施される。
1.例えば、近視矯正のための式(3)を使用して、光学矯正の量に基づいてレンチクルの曲率半径を計算する。
2.摘出すべきレンチクル切開の直径を選択する。
3.上述のレーザパルスエネルギー及び走査線ステップパラメータを含むレーザ及び光学システムパラメータを選択する。
4.底面切開を実施する。そうすることで、高速走査線は、好ましくは、緯度の緯線に対して接線方向に保たれ、X、Y、及びZ走査デバイスによって描かれる低速掃引の軌道は、完全な底部切開表面が生成されるまで、1Aから1B(レンチクル切断部の第1の掃引)、2Aから2B(レンチクル切断部の第2の掃引)、3Aから3B(レンチクル切断部の第3の掃引)などのシーケンスで、南極付近の経度の経線に沿って移動する。
5.レンチクル側部(縁部)切開を実施する。
6.底面切開が行われるのと同様の方法で上面切開を実施する。
7.入口切開を実施する。
【0058】
図10は、一実施形態によるレーザシステム10のプロセスを例解する。レーザシステム10は、手術前測定を実施する外科的処置を開始し得る(動作ブロック1010)。例えば、近視矯正のための眼科手術では、近視度数の決定、基準深度位置の決定などが行われる。レーザシステム10は、例えば、上記式(2)及び(3)に示されるように、例えば、手術前測定において決定された近視矯正などの矯正量に基づいて曲率半径を計算し、図7のDCUTによって示されるように、切開の直径を計算する(動作ブロック1020)。DCUTは、摘出されるべきレンチクルの直径(図7のDL)以上である。システムは、パルスエネルギー及び走査線ステップ設定を含む、種々のレーザ及び光学システムパラメータを選択する(動作ブロック1030)。
【0059】
レーザシステム10は、最初に側部切開を実施して、レンチクル表面切開において生成され得るガスのための、及び後の組織摘出のための通気孔を提供する(動作ブロック1040)。次いで、レーザシステム10は、底部レンチクル表面切開(動作ブロック1050)及び上部レンチクル表面切開(動作ブロック1060)を実施する。底部及び上部レンチクル表面切開は、上記のように、経度の経線に沿って高速走査-低速掃引方式を使用して実施される。次いで、レンチクル組織が摘出される(動作ブロック1070)。あるいは、側部切開は、底部及び上部レンチクル表面切開の後に実施され得る。
【0060】
上述の実施形態は、中心領域に送達されるレーザパルスの数を減少させることによって、中心領域付近の冗長なエネルギー蓄積の問題を解決する。
【0061】
本明細書に列挙される全ての特許及び特許出願は、参考によりそれら全体が本明細書に組み込まれる。
【0062】
本発明を説明する文脈(特に、以下の特許請求の範囲の文脈)において、「a」、「an」、及び「the」という用語、並びに同様の指示詞の使用は、本明細書において別段の指示がない限り、又は文脈上明確に矛盾しない限り、単数形及び複数形の両方を包含すると解釈されるものとする。「備える」、「有する」、「含む」、及び「含有する」という用語は、特に明記しない限り、オープンエンドな用語と解釈されるものとする(即ち、「含むが、これらに限定されない」を意味する)。「接続される」という用語は、介在する何かが存在する場合でさえ、部分的若しくは完全に内に含有される、取り付けられる、又は一緒に結合されると解釈されるものとする。本発明における値の範囲の記述は、本明細書において別途記載のない限り、その範囲内に含まれる各々別個の値を個別に参照するための省略様式としての機能を意図しているに過ぎず、各々別個の値は、本明細書に個別に列挙されるかのように、明細書内に組み込まれる。本明細書に記載される全ての方法は、本明細書において別途記載のない限り、又は文脈が明らかに矛盾しない限り、任意の好適な順序で実施することができる。本明細書に提供される全ての例又は例示的な言語(例えば、「等」)の使用は、本発明の実施形態をよりよく説明することのみを意図し、別段に特許請求の範囲に記載される本発明の範囲に制限を課さない。明細書中の文言が含まれないことは、本発明の実践に必須である任意の特許請求の範囲に含まれない要素を示しているとして解釈されなくてはならない。
【0063】
本開示のある特定の実施形態が、ある特定の度合いの特殊性を有する例示形態で示され記載されてきたが、当業者は、実施形態がほんの一例として提供されること、及び本発明の精神又は範囲から逸脱することなく、様々な変更が行われ得ることを理解するであろう。したがって、本開示は、以下の特許請求の範囲及びそれらの同等物によって一般的に表される本発明の精神及び範囲内に入る、全ての修正、代替構成、変化、置換、変更、並びに部品、構造、及び工程の組み合わせ及び配置を包含することが意図される。
【0064】
〔実施の態様〕
(1) 眼科手術用レーザシステムであって、
複数のレーザパルスを含むパルスレーザビームを生成するように構成されたレーザ源と、
前記パルスレーザビームを対象の眼における標的組織に送達するように構成されたレーザ送達システムと、
前記パルスレーザビームを事前に定義された周波数で前後に走査するように構成された高周波スキャナと、
前記パルスレーザビームを偏向させるように構成されたXYスキャナであって、前記高周波スキャナとは別個である、XYスキャナと、
前記パルスレーザビームの焦点深度を変更するように構成されたZスキャナと、
前記レーザ源、前記高周波スキャナ、前記XYスキャナ、及び前記Zスキャナを制御して、前記対象の眼におけるレンズの少なくとも1つのレンチクル切開を集合的に形成する複数の掃引を連続的に形成するように構成されたコントローラであって、前記レンズが、頂点及び前記頂点を通過するZ軸を画定する曲面を有し、各掃引が、
前記レーザ源を制御して、40nJ~70nJのパルスエネルギーを有する前記パルスレーザビームを生成することと、
前記高周波スキャナを制御して、前記パルスレーザビームを偏向させて走査線を形成することであって、前記走査線が、事前に定義された長さを有し、かつ前記レンズの緯度の緯線に接する直線であり、前記緯度の緯線が、前記Z軸に垂直であり、かつ前記頂点までの画定された距離を有する前記レンズの表面上の円である、形成することと、
前記XYスキャナ及び前記Zスキャナを制御して、前記レンズの経度の経線に沿って前記走査線を移動させることであって、前記経度の経線が、前記頂点を通過し、かつ前記Z軸の周りの画定された角度位置を有する曲線であり、前記走査線が、1.7μm~2.3μmの走査線ステップを生成する掃引速度で移動され、前記走査線ステップが、連続する走査線の中心間の距離である、移動させることと、によって形成される、コントローラと、を備え、
前記複数の掃引が、互いに異なるそれぞれの前記経度の経線に沿って順次連続的に形成される、眼科手術用レーザシステム。
(2) 前記走査線ステップが、前記レンチクル切開の縁部において1.7μm~2.0μmであり、前記レンチクル切開の中心において2.0μm~2.3μmである、実施態様1に記載の眼科手術用レーザシステム。
(3) 前記走査線ステップが、各掃引全体にわたって一定である、実施態様1に記載の眼科手術用レーザシステム。
(4) 前記走査線ステップが、事前に定義された半径方向距離内の前記レンチクル切開の前記中心からの半径方向距離の線形関数である、実施態様1に記載の眼科手術用レーザシステム。
(5) 前記走査線ステップが、事前に定義された半径方向距離内の前記レンチクル切開の前記中心からの半径方向距離の二次以上の多項式関数である、実施態様1に記載の眼科手術用レーザシステム。
【0065】
(6) 前記パルスレーザビームが、2~40MHzの繰り返し率を有し、前記高周波スキャナが、0.5kHz及び20kHzの走査周波数を有する共振スキャナであり、前記走査線の所定の長さが、200μm~1200μmである、実施態様1に記載の眼科手術用レーザシステム。
(7) 前記パルスレーザビームが、1015~1065nmの波長、200fs未満のパルス持続時間、及び前記標的組織における1.3μm以下のレーザ焦点直径を有する、実施態様1に記載の眼科手術用レーザシステム。
(8) 前記高周波スキャナから、走査されたパルスレーザビームを受け取るように配置されたプリズムを更に備え、前記コントローラが、前記プリズムを回転させて、連続する掃引間で前記走査線の配向を回転させるように構成されている、実施態様1に記載の眼科手術用レーザシステム。
(9) 前記少なくとも1つのレンチクル切開が、上部レンチクル切開及び底部レンチクル切開を含み、前記曲面が、前記上部レンチクル切開に対応する前記レンズの上面であり、前記レンズが、前記底部レンチクル切開に対応し、かつ別の頂点を画定する底面を更に含み、前記上部レンチクル切開を形成する前記掃引の各々に対する前記走査線が、前記レンズの前記上面の前記頂点を通って前記レンズの前記上面にわたって移動され、前記底部レンチクル切開を形成する前記掃引の各々に対する前記走査線が、前記レンズの前記底面の前記別の頂点を通って前記レンズの前記底面にわたって移動される、実施態様1に記載の眼科手術用レーザシステム。
(10) 眼科手術用レーザシステムを使用してレンチクル切開を形成するための方法であって、
レーザ源によって、複数のレーザパルスを含むパルスレーザビームを生成する工程と、
レーザ送達システムによって、前記パルスレーザビームを対象の眼における標的組織に送達する工程と、
高周波スキャナによって、前記パルスレーザビームを事前に定義された周波数で前後に走査する工程と、
XYスキャナによって、前記パルスレーザビームを偏向させる工程であって、前記XYスキャナが、前記高周波スキャナとは別個である、偏向させる工程と、
Zスキャナによって、前記パルスレーザビームの焦点深度を変更する工程と、
コントローラによって、前記レーザ源、前記高周波スキャナ、前記XYスキャナ、及び前記Zスキャナを制御して、前記対象の眼におけるレンズの少なくとも1つのレンチクル切開を集合的に形成する複数の掃引を連続的に形成する工程であって、前記レンズが、頂点及び前記頂点を通過するZ軸を画定する曲面を有し、各掃引を、
前記レーザ源を制御して、40nJ~70nJのパルスエネルギーを有する前記パルスレーザビームを生成することと、
前記高周波スキャナを制御して、前記パルスレーザビームを偏向させて走査線を形成することであって、前記走査線が、事前に定義された長さを有し、かつ前記レンズの緯度の緯線に接する直線であり、前記緯度の緯線が、前記Z軸に垂直であり、かつ前記頂点までの画定された距離を有する前記レンズの表面上の円である、形成することと、
前記XYスキャナ及び前記Zスキャナを制御して、前記レンズの経度の経線に沿って前記走査線を移動させることであって、前記経度の経線が、前記頂点を通過し、かつ前記Z軸の周りの画定された角度位置を有する曲線であり、前記走査線が、1.7μm~2.3μmの走査線ステップを生成する掃引速度で移動され、前記走査線ステップが、連続する走査線の中心間の距離である、移動させることと、によって形成することを含む、形成する工程と、を含み、
前記複数の掃引が、互いに異なるそれぞれの前記経度の経線に沿って順次連続的に形成される、方法。
【0066】
(11) 前記走査線ステップが、前記レンチクル切開の縁部において1.7μm~2.0μmであり、前記レンチクル切開の中心において2.0μm~2.3μmである、実施態様10に記載の方法。
(12) 前記走査線ステップが、各掃引全体にわたって一定である、実施態様10に記載の方法。
(13) 前記走査線ステップが、事前に定義された半径方向距離内の前記レンチクル切開の前記中心からの半径方向距離の線形関数である、実施態様10に記載の方法。
(14) 前記走査線ステップが、事前に定義された半径方向距離内の前記レンチクル切開の前記中心からの半径方向距離の二次以上の多項式関数である、実施態様10に記載の方法。
(15) 前記パルスレーザビームが、2~40MHzの繰り返し率を有し、前記高周波スキャナが、0.5kHz及び20kHzの走査周波数を有する共振スキャナであり、前記走査線の所定の長さが、200μm~1200μmである、実施態様10に記載の方法。
【0067】
(16) 前記パルスレーザビームが、1015~1065nmの波長、200fs未満のパルス持続時間、及び前記標的組織における1.3μm以下のレーザ焦点直径を有する、実施態様10に記載の方法。
(17) 前記高周波スキャナから、走査されたパルスレーザビームを受け取るように配置されたプリズムによって、連続する掃引間で前記走査線の配向を回転させることを更に含む、実施態様10に記載の方法。
(18) 前記少なくとも1つのレンチクル切開が、上部レンチクル切開及び底部レンチクル切開を含み、前記曲面が、前記上部レンチクル切開に対応する前記レンズの上面であり、前記レンズが、前記底部レンチクル切開に対応し、かつ別の頂点を画定する底面を更に含み、前記上部レンチクル切開を形成する前記掃引の各々に対する前記走査線が、前記レンズの前記上面の前記頂点を通って前記レンズの前記上面にわたって移動され、前記底部レンチクル切開を形成する前記掃引の各々に対する前記走査線が、前記レンズの前記底面の前記別の頂点を通って前記レンズの前記底面にわたって移動される、実施態様10に記載の方法。
(19) 眼科手術用レーザシステムであって、
複数のレーザパルスを含むパルスレーザビームを生成するように構成されたレーザ源と、
前記パルスレーザビームを対象の眼における標的組織に送達するように構成されたレーザ送達システムと、
前記パルスレーザビームを事前に定義された周波数で前後に走査するように構成された高周波スキャナと、
前記パルスレーザビームを偏向させるように構成されたXYスキャナであって、前記高周波スキャナとは別個である、XYスキャナと、
前記パルスレーザビームの焦点深度を変更するように構成されたZスキャナと、
前記レーザ源、前記高周波スキャナ、前記XYスキャナ、及び前記Zスキャナを制御して、前記標的組織に床切断部を集合的に形成する複数の掃引を連続的に形成するように構成されたコントローラであって、各掃引が、
前記レーザ源を制御して、40nJ~70nJのパルスエネルギーを有する前記パルスレーザビームを生成することと、
前記高周波スキャナを制御して、前記パルスレーザビームを偏向させて走査線を形成することであって、前記走査線が、事前に定義された長さを有する直線である、形成することと、
前記XYスキャナを制御して、前記走査線を所定の方向に沿って移動させることであって、前記走査線が、1.7μm~2.3μmの走査線ステップを生成する掃引速度で移動され、前記走査線ステップが、連続する走査線の中心間の距離である、移動させることと、によって形成される、コントローラと、を備える、眼科手術用レーザシステム。
(20) 前記走査線ステップが、各掃引全体にわたって一定である、実施態様19に記載の眼科手術用レーザシステム。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10
【国際調査報告】