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特表2024-544130コーティング組成物、並びに、関連機器及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-28
(54)【発明の名称】コーティング組成物、並びに、関連機器及び方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 5/12 20060101AFI20241121BHJP
   A61F 2/82 20130101ALI20241121BHJP
   A61M 25/09 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
B05D5/12 B
A61F2/82
A61M25/09
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024527422
(86)(22)【出願日】2022-11-10
(85)【翻訳文提出日】2024-05-24
(86)【国際出願番号】 US2022079602
(87)【国際公開番号】W WO2023086863
(87)【国際公開日】2023-05-19
(31)【優先権主張番号】63/263,971
(32)【優先日】2021-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506192652
【氏名又は名称】ボストン サイエンティフィック サイムド,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】BOSTON SCIENTIFIC SCIMED,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】デラニー、ジョセフ ティ.
(72)【発明者】
【氏名】クンマイリル、ジョン
(72)【発明者】
【氏名】グロッソ、ポール ブイ.
(72)【発明者】
【氏名】スー、イェン-ハオ
【テーマコード(参考)】
4C267
4D075
【Fターム(参考)】
4C267AA01
4C267AA28
4C267AA41
4C267BB06
4C267GG01
4D075AC41
4D075BB21X
4D075BB49X
4D075CA22
4D075DC30
4D075EA05
4D075EB12
(57)【要約】
基材を処理する方法、例えば、前記基材の上にコーティングを形成する方法、が記載される。この方法は、多官能性分子又は多官能性ポリマー分子を含む溶液を、前記基材の表面の少なくとも一部分に塗布する工程を含んでもよい。その表面は金属や金属合金を含んでもよく、前記多官能性分子又は前記多官能性ポリマー分子は、前記多官能性分子の複数の硫黄基のうちの少なくとも一つの硫黄基を介して前記表面に結合してもよい。この方法は、前記溶液を塗布する前又は塗布した後に、前記多官能性分子とポリマー分子とを合わせて前記多官能性ポリマー分子を形成する工程を含んでもよい。前記ポリマー分子は、前記多官能性分子の内部炭素基又は末端硫黄基と結合し得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材を処理する方法であって、前記方法は、
多官能性分子又は多官能性ポリマー分子を含む溶液を前記基材の表面の少なくとも一部分に塗布する工程であって、前記表面は金属又は金属合金を含んでおり、前記多官能性分子又は前記多官能性ポリマー分子は、前記多官能性分子の複数の硫黄基のうちの少なくとも一つの硫黄基を介して前記表面に結合する、工程と、
前記溶液を塗布する前又は後に、前記多官能性分子とポリマー分子とを合わせることで前記多官能性ポリマー分子を形成する工程であって、前記ポリマー分子が、前記多官能性分子の内部炭素基又は末端硫黄基に結合する、工程と、
を含み、
前記多官能性ポリマー分子は、前記表面の前記少なくとも一部分に結合したコーティングを形成する、
方法。
【請求項2】
前記多官能性分子又は前記多官能性ポリマー分子の前記複数の硫黄基として、少なくとも一つのチアジアゾール基又はジチアゾール基が含まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記多官能性分子として、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール又はその誘導体が含まれる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記溶液を前記表面に塗布する工程に、選択蒸着法又はスタンピング法を含み、それによって、テクスチャ表面を形成する、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記ポリマー分子が親水性又は疎水性であって、前記ポリマー分子が末端チオール基又は末端メタンスルホナート基を有する、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記溶液を前記表面の前記少なくとも一部分に塗布した後、前記ポリマー分子が前記多官能性分子に結合される、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記多官能性分子と極性溶媒及び脱プロトン化用添加剤とを合わせることによって前記溶液を調製する工程をさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ポリマー分子を前記多官能性分子に結合させる前に、前記溶液を塗布された前記表面の少なくとも一部分を加熱する工程をさらに含む、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記多官能性分子がポリブタジエン鎖を有する、請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記ポリマー分子が前記多官能性分子の前記ポリブタジエン鎖の内部炭素と結合される、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記溶液を前記表面の前記少なくとも一部分に塗布する前に、前記ポリマー分子が前記多官能性分子に結合される、請求項1~10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記溶液を調製する工程に、前記多官能性分子を極性溶媒、脱プロトン化用添加剤、及び前記ポリマー分子と合わせる工程が含まれ、前記ポリマー分子が前記多官能性分子の末端硫黄基に結合する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記脱プロトン化用添加剤が水酸化ナトリウムである、請求項7~12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記溶液を前記表面の前記少なくとも一部分に塗布する前に、前記表面をプラズマ又は熱で処理する工程をさらに含む、請求項1~13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記基材が医療機器である、請求項1~14のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概して、医療機器のような基材、例えば金属や金属合金を含む基材に塗布され得るコーティング組成物に関する。例えば、本開示は機器用のコーティングとして有用な組成物と基材の処理方法とを含む。
【背景技術】
【0002】
医療機器は水分によって、またはその不足によって、ある程度の劣化を受ける可能性があるが、特にそのような機器の金属構成部品についてはなおさらである。例えば、流体は経時的に、金属表面の腐食を引き起こす可能性がある。腐食は、複数の医療機器動作不良につながり得る。他の例では、水分や潤滑の欠乏による過度の乾燥は、例えば摩耗及び/又は剥離のような、他の形態の劣化を生じることもある。腐食耐性や潤滑性を医療機器に付与することは、より安価な金属/金属合金の使用と、それによるコストの削減を可能とし、また、使用され得る材料の幅を広げるかもしれない。
【発明の概要】
【0003】
本開示には、例えば、基材を処理する方法が含まれ、その方法は、多官能性分子又は多官能性ポリマー分子を含む溶液を基材の表面の少なくとも一部分に塗布する工程であって、前記表面は金属又は金属合金を含んでおり、前記多官能性分子又は前記多官能性ポリマー分子は、前記多官能性分子の複数の硫黄基のうちの少なくとも一つの硫黄基を介して前記表面に結合する、工程と、前記溶液を塗布する前又は後に、前記多官能性分子とポリマー分子とを合わせることで前記多官能性ポリマー分子を形成する工程であって、前記ポリマー分子が、前記多官能性分子の内部炭素基又は末端硫黄基に結合する、工程と、を含み、前記多官能性ポリマー分子が前記表面の前記少なくとも一部分に結合したコーティングを形成する。
【0004】
少なくとも一つの例では、前記多官能性分子又は前記多官能性ポリマー分子の複数の硫黄基として、少なくとも一つのチアジアゾール基又はジチアゾール基が含まれる。少なくとも一つの別例では、前記多官能性分子として、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール又はその誘導体が含まれる。他の例では、前記溶液を前記表面に塗布する工程は、選択蒸着法又はスタンピング法を含み、それによって、テクスチャ表面を形成する。少なくとも一つの例では、前記ポリマー分子は親水性又は疎水性であり、前記ポリマー分子は末端チオール基又は末端メタンスルホナート基を有する。少なくとも一つの別例では、前記溶液を前記表面の前記少なくとも一部分に塗布した後に、前記ポリマー分子は前記多官能性分子に結合される。
【0005】
本明細書のいくつかの態様によると、本願の方法は、前記多官能性分子と極性溶媒及び脱プロトン化用添加剤とを合わせることによって前記溶液を調製する工程をさらに含んでもよい。少なくとも一つの例では、前記多官能性分子はポリブタジエン鎖を有する。少なくとも一つの他の例では、前記ポリマー分子は、前記多官能性分子のポリブタジエン鎖の内部炭素と結合されている。いくつかの例では、前記溶液を前記表面の前記少なくとも一部分に塗布する前に、前記ポリマー分子が前記多官能性分子に結合してもよい。前記溶液を調製する工程は、前記多官能性分子を極性溶媒、脱プロトン化用添加剤、及び前記ポリマー分子と合わせる工程を含んでよく、前記ポリマー分子は前記多官能性分子の末端硫黄基と結合する。前記脱プロトン化用添加剤は、水酸化ナトリウムでもよい。
【0006】
本明細書のいくつかの態様によると、本願の方法は、前記ポリマー分子を前記多官能性分子に結合させる前に、前記溶液を塗布された前記表面の少なくとも一部分を加熱する工程をさらに含んでもよい。本願の方法は、前記溶液を前記表面の前記少なくとも一部分に塗布する前に、前記表面をプラズマ又は熱で処理する工程をさらに含んでよい。いくつかの例では、前記基材は医療機器である。
【0007】
本開示にはコーティングを備える基材も含まれており、前記基材は金属又は金属合金を含んでおり、前記コーティングは多官能性分子をポリマー分子に結合させることによって形成した多官能性ポリマー分子を含んでおり、前記多官能性分子は複数の硫黄基を有しており、前記ポリマー分子は前記多官能性分子の内部炭素又は末端硫黄基に結合されており、前記複数の硫黄基のうちの少なくとも一つの硫黄基が前記基材の表面に結合している。前記多官能性分子は、少なくとも一つのチアジアゾール基又はジチアゾール基を有してもよい。前記多官能性分子として、例えば、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール又はその誘導体が挙げられる。いくつかの例では、前記ポリマー分子は疎水性又は親水性である。
【0008】
本開示には、医療機器も含まれ、前記医療機器は金属表面と、前記金属表面の少なくとも一部分を覆うコーティングとを含むが、前記コーティングは多官能性分子をポリマー分子と結合させることによって形成した多官能性ポリマー分子を含んでおり、前記多官能性分子は複数の硫黄基を含んでおり、前記ポリマー分子は前記多官能性分子の内部炭素基又は末端硫黄基に結合されており、前記複数の硫黄基のうちの少なくとも一つの硫黄基が金属表面に結合しており、前記コーティングは疎水性又は親水性である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
本明細書に組み込まれ、本明細書の一部を成す添付図面は、様々な例示的な実施形態を示し、詳細な説明とともに、開示された実施例の原理の説明に役立つ。
図1A】本開示のいくつかの態様に従う医療機器の斜視図である。
図1B図1Aの医療機器の一部分の断面図である。
図1C図1Aの医療機器の一部分の断面図である。
図1D】本開示のいくつかの態様に従う医療機器の一部分の断面図である。
図1E】本開示のいくつかの態様に従う医療機器の一部分の断面図である。
図2】本開示の複数の態様に従う、基材処理のスキームである。
図3】本開示の複数の態様に従う、基材処理のスキームである。
図4】本開示の複数の態様に従う、基材処理のスキームである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
上記の概略説明と以下の詳細説明は、いずれも例示的かつ説明的なものにすぎず、特許請求される特徴を制限するものではない。本明細書中で用いられる「含む(comprises)」「含んでいる(comprising)」「有している(having)」「含んでいる(including)」という語又はこれらの他の変形語は、非排他的な包含をカバーすることを意図しているので、列記した要素を含むプロセス、方法、物品又は装置はそれらの要素のみを含むのではなく、明示的に列記されていないか、もしくはそのようなプロセス、方法、物品又は装置に固有の他の要素を含み得る。本開示では、相対的な語、例えば「約」「実質的に」「一般に」「おおよそ」など、は記載の値もしくは特性の±5%のばらつきを示すのに用いられる。
【0011】
本開示の実施例は、一つ以上の技術的制限に対処し得る。しかしながら、本開示の範囲は、添付の特許請求の範囲によって定義されるのであって、特定の課題を解決する能力によってではない。本開示は、金属又は金属合金を含む表面を備える様々な基材に塗布され得るコーティングと、そのコーティングを塗布する方法とを含む。例示的な基材として、ガイドワイヤ、ステント、ドレナージカテーテル、ペースメーカーのリード、ボーンピン、ステープルなどの医療機器、及び、射出成形器具や押出しダイなどを含むほかの機器も挙げられる。本願のコーティングは、そのコーティングの組成に基づいて、所望の特性や特徴を基材に付与する。したがって、本願のコーティングのいくつかの例は親水性であってよく、例えば、基材表面に水分を保持することが望ましい環境に適していてもよいし、本願のコーティングのその他のいくつかの例は疎水性であってよく、例えば、腐食耐性を付与するために水分をはじくことが望ましい環境に適していてもよい。本願のコーティングは、他の特性、例えば、抗体検出、放射線不透過性、防汚性、抗菌性、接触殺傷抗菌性など、を付与してもよい。
【0012】
本願の組成物は、基材の少なくとも一部分にコーティングを付与するために基材に塗布されてよく、又は、基材の表面を全体的に覆ってもよい。
【0013】
図1A~1Eは例示的な基材、例えば医療機器10を示している。図1A~1Cに示すように、機器10はシャフト12を備え、シャフト12は壁122を備え、壁122は金属又は金属合金を含んでよく、そして、シャフト12は壁122の表面全体を覆うコーティング124を備える。いくつかの例において、コーティング124は、基材の表面の一部分のみに、例えば、壁122の表面の(一または複数の)部分または(一または複数の)断面に塗布されてもよい。
【0014】
図1Dは、例えば、医療機器の別のシャフト12’を示しており、シャフト12’は壁122’の様々な部分に塗布されたコーティング124’を備えており、そのため、シャフト12’の特定の領域は、コーティング124’から付与される所望の特性によって官能化され得る。その一方で、他の領域はコーティングされないままである。さらに、図1Eは別例を示し、複数の異なるコーティングを有する機器を示している。図に示すように、前記機器はシャフト12’’を備えており、シャフト12’’は同じ基材に、例えばシャフト12’’の壁122’’に塗布される第1のコーティング124’’と第2のコーティング224’’を備える。したがって、例えば、第1のコーティング124’’を備えるシャフト12’’の領域は、第2のコーティング224’’を備えるシャフト12’’の(一または複数の)領域と異なる特性を有し得る。例えば、第1のコーティング124’’は疎水性であり、一方で、第2のコーティング224’’は親水性であってもよい。
【0015】
したがって、本開示に従う基材は様々な特性を有する可能性があり、例えば、シャフト12’’の様々な部分又は領域は、コーティングの有無、及び、コーティングの化学的特徴によって、水に対して異なった反応をしてもよい。上記のように、本願のコーティングは、親水性又は疎水性とは別の所望の特性を付与できる。一つのコーティング又は複数の異なるコーティングの塗布は、任意選択で、パターンで塗布されるものであってもよい。本開示のコーティングは、限定はされないが、蒸着法又はスタンピング法を含む任意の適切な方法を介して塗布され得る。そのような技術は、テクスチャ表面をつくるのに用いられ得る。いくつかの例では、前記コーティングはエッチング法によって塗布され得る。
【0016】
本開示の態様に従う例示的なコーティング(例えばコーティング124、124’、124’’又は224’’のうちの任意のもの)は、ポリマー分子に結合した多官能性分子を含んでもよい。前記多官能性分子は有機物であってよく、複数の硫黄基を有してよい。例示的な硫黄基として、例えば、チオール基又はジスルフィド基などが挙げられ得る。この複数の硫黄基のうちの少なくとも一つの硫黄基は、基材の表面に共有結合するかもしれない。例えば、前記多官能性分子の一つ以上の硫黄基は、前記基材の金属/金属合金表面に結合し得る。
【0017】
いくつかの例では、前記多官能性分子は、少なくとも一つのチアジアゾール基及び/又は少なくとも一つのジチアゾール基を有し得る。前記多官能性分子のいくつかの例として、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール(DMcT)やビスジメルカプトチアジアゾールエーテル(biDMcTエーテル)、5-エポキシ-1,3,4-チアジアゾール、5-メチル-1,3,4-チアジアゾール、及びそれらの誘導体が挙げられる。理論によって縛られることはないが、チアジアゾール基は、この多官能性分子の電子の非局在化により、有利であるかもしれない。例えば、チアジアゾール基の五員環構造は、基材の表面において金属原子又は錯体との配位をより容易にすることができる。
【0018】
上記のように、前記多官能性分子の少なくとも一つの硫黄基が前記基材に結合し得る一方で、前記多官能性分子は、例えばその末端硫黄基や内部硫黄基又は内部炭素基を介して、ポリマー分子と結合するために利用でき得る。前記多官能性分子は、前記基材へのアンカー基として機能でき、前記ポリマー分子に結合するとさらに官能化され得る。
【0019】
前記ポリマーが多官能性分子に結合すると、前記多官能性分子へ機能性を付与できる。本開示の例示的ポリマー分子として、ポリエチレングリコールのようなポリエーテルが挙げられるが、限定はされない。いくつかの例では、前記ポリマー分子は前記コーティングに疎水性を付与できる。例えば、疎水性のポリマー分子は、シリコン系ポリマーや、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、2-パーフルオロヘキシルエチルチオール、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、及びそれらの誘導体が挙げられ得る。さらに、親水性ポリマー分子の例として、ポリアクリレートやポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルピロリドン、ポリオキサゾリン、ポリビニルアルコール(PVA)、第四級アンモニウム官能化ポリマー、及びそれら誘導体が挙げられ得る。いくつかの例では、前記ポリマー分子は、前記多官能性分子に結合可能な末端チオール基を有してよく、又は、前記ポリマー分子が前記多官能性分子に結合する際に脱離基として機能可能なメタンスルホナート基を有してもよい。他の適切なポリマー分子は、コーティングの他の所望される特性のうち、抗体検出や放射線不透過性、防汚性、抗菌性、接触殺傷抗菌性を付与してもよい。
【0020】
コーティングを基材に塗布する例示的な方法を以下に示す。
【0021】
いくつかの例では、基材は、コーティングを塗布する前、又は、コーティングプロセスの一部として、処理され得る。例えば、本開示の方法は、基材の表面を任意に処理する工程と、多官能性分子を含む溶液を前記基材の表面の少なくとも一部分に塗布する工程(及び、任意選択で、塗布前に前記溶液を調製する工程)と、前記多官能性分子と前記ポリマー分子とを合わせて、例えば、前記多官能性分子と前記ポリマー分子に結合させる工程と、を含む。コーティングを塗布する前に、前記表面を処理する場合、本開示の方法は前記表面を適切な洗浄剤(例えば洗剤)でふき取る工程と、前記表面を(例えば水で)すすぐ工程と、前記表面を乾燥させる工程と、及び/又はプラズマや熱に前記表面を曝す工程と、を含み得る。例えば、プラズマ及び/又は熱は、前記基材表面上の結合基、例えばヒドロキシ基、を活性化し得るが、それによって、前記多官能性分子の硫黄基との共有結合形成のために、そのような基をプライミングできる。そのような処理は、コーティングを塗布する工程に先行してもよい。
【0022】
前記溶液は、少なくとも前記多官能性分子と、適切な溶媒とを含む。以下でさらに述べるように、いくつかの場合では、前記溶液はポリマー分子及び/又は一種以上の添加剤をさらに含んでもよい。前記溶液は、前記多官能性分子を溶媒中に溶解させることによって調製できる。前記溶媒は、有機溶媒及び/又は極性溶媒でよく、前記多官能性分子を溶解できる。例示的な溶媒として、限定はされないものの、テトラヒドロフラン(THF)やアセトン、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、クロロホルム及びジクロロメタンが挙げられる。いくつかの例では、前記溶液は、脱プロトン化用添加剤、例えば、前記多官能性分子の硫黄基を脱プロトン化できる分子、も含む。したがって、例えば、前記脱プロトン化用添加剤は、前記多官能性分子が脱プロトン化された(一または複数の)前記硫黄基を介して前記基材及び/又は前記ポリマー分子と結合させるために、前記多官能性分子を調整し得る。本開示に適した例示的な脱プロトン化用添加剤として、限定はされないが、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、カリウムtert-ブトキシド(BuO)及び水素化ナトリウム(NaH)が挙げられる。いくつかの例では、前記溶液は、1~99wt%の前記多官能性分子と、1~99wt%の前記溶媒と、を含んでもよい。以下でさらに述べるように、前記溶液は、一種以上の追加の添加剤、例えば、前記多官能性分子をさらに修飾する添加剤や、イニシエータなど、を含んでもよい。前記溶液の調製は、前記多官能性分子の溶解を補助するために前記溶液を加熱する工程を任意で含んでもよい。
【0023】
前記溶液は、浸漬コーティング法や噴霧コーティング法のような、適切な技術によって塗布されてもよい。例えば、前記基材の少なくとも一部分を前記溶液に浸漬してもよい。前記多官能性分子は、前記基材の表面に接触すると、この多官能性分子の少なくとも一つの硫黄基を介して前記基材の金属に結合し得る。前記基材表面上にある前記多官能性分子を、前記ポリマー分子と結合できるようにプライミングするために、いくつかの例では、この溶液に覆われた基材は、例えばオーブン内や加熱空気の吹き付けなどで加熱されてもよい。
【0024】
前記多官能性分子は、前記溶液を前記基材に塗布する前又は塗布した後に、前記ポリマー分子に結合してもよい。例えば、前記多官能性分子が前記ポリマー分子と合わせられ、その結果、例えば前記溶液を調製する間に、それら分子種が一緒に結合できるようになる。この多官能性ポリマー結合分子を含む前記溶液は、それからその後に続いて、基材に塗布されてもよい。他の例では、前記多官能性分子が、まず、前記基材表面に結合し、次いでポリマー分子が、その表面に結合した多官能性分子と結合する。前記ポリマー分子は、浸漬コーティング法又は噴霧コーティング法のような、適切な技術を介して、前記の表面に結合した多官能性分子と合わせられてよく、それによって、前記基材に前記コーティングを塗布する。
【0025】
上述したように、前記多官能性分子は、例えば、この多官能性分子の末端硫黄基、内部硫黄基、又は内部炭素基を介して、前記ポリマー分子と結合し得る。前記多官能性分子と前記ポリマー分子との間の結合形成は、例えばラジカル媒介性のチオール-エンクリック反応、可逆的付加-開裂連鎖移動重合、又はニトロキシド媒介重合を含み得る。
【0026】
基材の表面に多官能性分子としてのDMcTが結合した後の、前記ポリマー分子としてのメタンスルホニル末端ポリブタジエンと、前記多官能性分子としてのDMcTとの結合形成の例を図2に示す。
【0027】
例えば、DMcTと溶媒と水酸化ナトリウムとを含む第1の溶液が前記基材に塗布されてよい。この水酸化ナトリウムは、DMcTの脱プロトン化剤として機能し得る。メタンスルホニル末端ポリブタジエンは、メタンスルホニル塩化物とヒドロキシ末端ポリブタジエンとを、例えば適切な溶媒中で、反応させメタンスルホニル末端ポリブタジエンを形成するように、合わせることによって調製できる。例えば、第2の溶液はメタンスルホニル末端ポリブタジエンと、前記第1の溶液と同じ又は異なる溶媒とを含んでもよい。メタンスルホニル末端ポリブタジエンは、基材表面に結合したDMcTと(例えば第2の溶液を前記基材に塗布することによって)合わせられ、その結果、biDMcTエーテル、つまり、図2に示すように基材に結合したDMcT末端ポリブタジエンエーテルを形成する。
【0028】
図3は別の例を示しており、ポリマー分子は基材表面上で多官能性分子と結合し、コーティングを形成する。
【0029】
図3に示すように、多官能性分子としてのDMcTは、水酸化ナトリウムと、例えば適切な溶媒中で、合わせられることで、脱プロトン化され、それによってDMcTナトリウムを形成し得る。このDMcTナトリウムは、次に、メタンスルホニル末端ポリマー分子と合わせられ、それによって、前記DMcTナトリウムの末端硫黄基と前記ポリマー分子間での結合形成を生じさせる。こうして得られた、例えば溶液中の、多官能性ポリマー分子は、次に、適切な技術によって前記基材に塗布され、それによって、図3に示すように、前記多官能性ポリマー分子と前記基材とを、例えば結合形成に利用できる硫黄基を介して結合させる。
【0030】
図4は別の例を示しており、この例では、コーティング形成のために可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)重合が行われ得る。図4に示すように、DMcTは、過酸化水素と、例えば溶液中で、合わせられて反応し、その結果、ジスルフィド結合を含むDMcT二量体を形成し得る。このDMcT二量体は、二硫化炭素、及び、ラジカル開始剤として機能し得るアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)と合わせられ、チオカルボニルチオエステル系ジスルフィドを形成し得る。水素化ホウ素ナトリウムは還元剤として使用され、SH-系RAFT重合鎖移動剤として、末端チオール系チオカルボニルチオエステルを形成し得る。得られた多官能性分子は、基材表面に塗布されてよく、その後、モノマー類を供給することによって、そのポリマー鎖を伸長させるように結合し、それによって、前記基材の表面官能化をもたらす。
【0031】
本開示の範囲から逸脱することなく、様々な修正や変形が本開示に対してなされ得るということは、当業者には明らかであろう。他の実施形態は、本明細書及び本願に開示された発明の実施を考慮することで、当業者には明らかとなるであろう。本明細書や図面及び実施例は例示としてのみと考慮されることを意図し、本発明の真の範囲及び趣旨は以降の特許請求の範囲に示されている。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図2
図3
図4
【国際調査報告】