(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-28
(54)【発明の名称】複数のコーティングをバー上に有するリファイナー刃物部品
(51)【国際特許分類】
D21D 1/34 20060101AFI20241121BHJP
【FI】
D21D1/34
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024527786
(86)(22)【出願日】2022-12-07
(85)【翻訳文提出日】2024-05-13
(86)【国際出願番号】 CA2022000067
(87)【国際公開番号】W WO2023102642
(87)【国際公開日】2023-06-15
(31)【優先権主張番号】102021132158.1
(32)【優先日】2021-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523151687
【氏名又は名称】アイカワ ファイバー テクノロジーズ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】AIKAWA FIBER TECHNOLOGIES INC.
【住所又は居所原語表記】72 Queen St., Sherbrooke, Quebec J1M 2C3 CANADA
(74)【代理人】
【識別番号】100092680
【氏名又は名称】入江 一郎
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル パターソン
(72)【発明者】
【氏名】イェンス オー ヘイマー
(72)【発明者】
【氏名】ロナルド ジェイ デフォー
(72)【発明者】
【氏名】ロバート ウィリアム グッディング
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055BB03
4L055CB13
4L055EA15
4L055FA30
(57)【要約】
回転軸の周りに回転するとともにステーターと協働してセルロース系繊維を含有するパルプを機械的に処理するローターを有するリファイナーのリファイナー刃物部品が開示される。リファイナー刃物部品は、ローター又はステーターに取付け可能である。リファイナー刃物部品は、基部と、複数の離間したリファイナーバーであって、各リファイナーバーが前表面及び後表面を有する、リファイナーバーとを備える。リファイナーバーのうちの少なくとも1つは、第1のコーティングでコーティングされた前表面と、第2のコーティングでコーティングされた後表面とを有する。第1のコーティング及び第2のコーティングは、異なる化学組成及び/又は異なる物性を有する。代替的に、第1のコーティング及び第2のコーティングは、同じ表面の別個の部分に塗布されてもよい。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸の周りに回転するとともにステーターと協働してセルロース系繊維を含有するパルプを機械的に処理するローターを有するリファイナーのリファイナー刃物部品であって、該リファイナー刃物部品は、前記ローター又は前記ステーターに取付け可能であり、
基部と、
複数の離間したリファイナーバーであって、各リファイナーバーが前表面及び後表面を有する、リファイナーバーと、
を備え、
前記リファイナーバーのうちの少なくとも1つの前記前表面は、前記前表面の少なくとも一部の上に第1のコーティングを有し、前記リファイナーバーのうちの少なくとも1つの前記後表面は、前記後表面の少なくとも一部の上に第2のコーティングを有し、前記第1のコーティング及び前記第2のコーティングは、異なる化学組成又は異なる物性を有する、リファイナー刃物部品。
【請求項2】
前記リファイナーバーの全てが前記第1のコーティング及び前記第2のコーティングを有する、請求項1に記載のリファイナー刃物部品。
【請求項3】
前記物性は少なくとも10%異なる、請求項1又は2に記載のリファイナー刃物部品。
【請求項4】
前記第1のコーティングは前記第2のコーティングよりも厚い、請求項1~3のいずれか一項に記載のリファイナー刃物部品。
【請求項5】
前記前表面上の前記第1のコーティングは第1の距離だけ前記基部の上方に離間され、前記後表面上の前記第2のコーティングは前記第1の距離とは異なる第2の距離だけ前記基部の上方に離間される、請求項1~4のいずれか一項に記載のリファイナー刃物部品。
【請求項6】
前記第1のコーティングは前記第2のコーティングよりも大きい表面積を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載のリファイナー刃物部品。
【請求項7】
前記第1のコーティングは前記第2のコーティングよりも厚い、請求項1~4のいずれか一項に記載のリファイナー刃物部品。
【請求項8】
回転軸の周りに回転するとともにステーターと協働してセルロース系繊維を含有するパルプを機械的に処理するローターを有するリファイナーのリファイナー刃物部品であって、該リファイナー刃物部品は前記ローター又は前記ステーターに取付け可能であり、
基部と、
複数の離間したリファイナーバーであって、各リファイナーバーが表面を有する、リファイナーバーと、
を備え、
前記リファイナーバーのうちの少なくとも1つの前記表面は、前記表面の第1の部分の上に第1のコーティングを有し、前記表面の第2の部分の上に第2のコーティングを有し、前記第1のコーティング及び前記第2のコーティングは、重なり合わず、異なる化学組成又は異なる物性を有する、リファイナー刃物部品。
【請求項9】
前記表面は前記前表面である、請求項8に記載のリファイナー刃物部品。
【請求項10】
前記表面は前記後表面である、請求項8に記載のリファイナー刃物部品。
【請求項11】
前記リファイナーバーの全てが前記第1のコーティング及び前記第2のコーティングを有する、請求項8に記載のリファイナー刃物部品。
【請求項12】
前記物性は少なくとも10%異なる、請求項8~11のいずれか一項に記載のリファイナー刃物部品。
【請求項13】
前記第1のコーティングは前記表面の半径方向外側部分に塗布され、第2のコーティングは前記表面の半径方向内側部分に塗布される、請求項8~12のいずれか一項に記載のリファイナー刃物部品。
【請求項14】
前記表面上に第3のコーティングを更に備え、前記第1のコーティングは前記表面の半径方向外側部分に塗布され、第2のコーティングは前記表面の半径方向中間部分に塗布され、第3のコーティングは前記表面の半径方向内側部分に塗布される、請求項8~12のいずれか一項に記載のリファイナー刃物部品。
【請求項15】
前記第1のコーティングが塗布される前記第1の部分は、前記第2のコーティングが塗布される前記表面の前記第2の部分よりも、前記基部からより大きい高さに位置する、請求項8~12のいずれか一項に記載のリファイナー刃物部品。
【請求項16】
前記第1のコーティングが塗布される前記第1の部分は、前記第2のコーティングが塗布される前記第2の部分よりも大きい表面積を有する、請求項8~15のいずれか一項に記載のリファイナー刃物部品。
【請求項17】
前記第1のコーティングは前記第2のコーティングよりも厚い、請求項8~16のいずれか一項に記載のリファイナー刃物部品。
【請求項18】
ハウジングと、
前記ハウジング内に支持されたステーターと、
回転軸を中心に回転するとともに前記ステーターと協働してセルロース系繊維を含有するパルプを機械的に処理するローターと、
前記ローターに固定された請求項1~17のいずれか一項に記載の第1のリファイナー刃物部品、及び/又は前記ステーターに固定された請求項1~17のいずれか一項に記載の第2のリファイナー刃物部品と、
を備える、リファイナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、紙、板紙、ティッシュ、タオル又は繊維板製品の製造におけるリグノセルロース系材料の製紙及び精錬のためのリファイナーのリファイナー刃物(refiner filling)に関し、より詳細には、リファイナー刃物のバーに関する。
【背景技術】
【0002】
ディスク型リファイナー又は円錐形リファイナーであり得る回転式パルプリファイナーは、ローター及びステーターに取り付けられたリファイナー刃物部品で構成される交換可能なリファイナー刃物を使用して、パルプ懸濁液中のセルロース系繊維を機械的に剪断及び圧縮する。リファイナー刃物部品は、互いに組み立てられる一体型(ユニット型)の構成要素又はセグメントとすることができる。リファイナー刃物部品は、パルプ懸濁液中のセルロース系繊維に対して剪断処理及び圧縮処理を行う複数のリファイナーバーを有する。
【0003】
ディスク型リファイナー及び円錐形リファイナーの両方において、パルプ懸濁液中に研磨剤があると、リファイナー刃物のリファイナーバーの摩耗が加速し、それにより、隣接するバー間の溝の深さが減少する。結果として、リファイナー刃物は、通常、かなり頻繁に交換する必要がある。典型的には、リファイナー刃物は、1ヶ月~2年の耐用年数を有し得るものであり、これは、刃物が摩耗して溝が浅くなると、十分な水力容量(hydraulic capacity)を提供することができなくなるためである。
【0004】
耐用年数を延ばすためにバーの前表面に均一な耐摩耗性コーティングを塗布することが知られているが、このコーティングは、リファイナーバー間の溝容積の大部分を占め、これにより、リファイナー刃物の水力容量を減少させる可能性がある。所望の硬度を実現するために、これらのコーティングは、典型的には、「エキゾチック」合金から作製され、したがって、高価である。硬質コーティングは本質的に堅くて脆いので、過酷な動作条件下でバーの破損を招く可能性がある。
【0005】
したがって、従来技術の欠点のうちの少なくともいくつかに対処する新しいリファイナーバー技術を提供することが非常に望ましい。
【発明の概要】
【0006】
概して、本発明の実施の形態は、複数のコーティングでバーがコーティングされる、リファイナー刃物部品及びリファイナーを提供する。概して、以下でより詳細に説明するように、「複数のコーティング」という表現は、前表面及び/又は後表面が、異なる化学組成及び/又は異なる物性から作製される異なるコーティングを有することを意味する。代替的に、「複数のコーティング」は、バーの特定の表面が、同じ表面の別個の部分に塗布された異なる化学組成及び/又は物性を有する2つ以上の異なるコーティングを有することを意味する。
【0007】
本開示の発明の態様は、回転軸を中心に回転するとともにステーターと協働してセルロース系繊維を含有するパルプを機械的に処理するローターを有するリファイナーのリファイナー刃物部品である。リファイナー刃物部品は、ローター又はステーターに取付け可能である。リファイナー刃物部品は、複数の離間したリファイナーバーを有する。各バーは、前表面及び後表面を有する。リファイナーバーのうちの少なくとも1つは、第1のコーティングを前表面上に有し、第2のコーティングを後表面上に有する。第1のコーティング及び第2のコーティングは、異なる化学組成及び/又は異なる物性を有する。代替的に、本発明の別の態様においては、第1のコーティング及び第2のコーティングは、同じ表面における別個の重なり合わない部分に塗布される。換言すれば、第1のコーティングは表面の第1の部分に塗布され、第2のコーティングは同じ表面における第2の部分に塗布され、その結果、第1のコーティング及び第2のコーティングは、重なり合わず、すなわち、同じ表面における別々の部分に塗布される。
【0008】
上記においては、本発明のいくつかの態様の基本的な理解を提供するために、本発明の簡略化された概要を提示している。この概要は、本発明の網羅的な概要ではない。本発明の本質的な、重要な、又は重大な要素を特定すること、又は本発明の範囲を画定することは意図していない。その唯一の目的は、後に論じる、より詳細な説明の前置きとして、いくつかの概念を簡略化した形で提示することにある。本発明の他の態様については、添付の図面に関連して以下で説明する。
【0009】
本技術の更なる特徴及び利点は、添付の図面と組み合わせて、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態によるローター及びステーターを有するリファイナーの斜視図であり、ステーター上のリファイナー刃物部品の交換を示す図である。
【
図2】
図1のリファイナーの別の斜視図であり、ローター上のリファイナー刃物部品の交換を示す図である。
【
図2A】ディスク型リファイナーのセグメント化された刃物部品の1つの例としての、4つの弧状セグメントとして成形された4つのリファイナー刃物部品の平面図である。
【
図3】第1のコーティングが前表面に塗布され、第2のコーティングが後表面に塗布されたバーを有するリファイナー刃物部品の断面図であり、第1のコーティング及び第2のコーティングは異なる化学組成及び/又は物性を有する。
【
図3A】バーの前表面上に可変特性コーティングを有するリファイナー刃物部品の断面図であり、コーティングはその厚さに応じて変化する特性を有する。
【
図4】第1のコーティング及び第2のコーティングが前表面における別個の重なり合わない部分に塗布されたバーを有するリファイナー刃物部品の断面図であり、第1のコーティング及び第2のコーティングは異なる化学組成及び/又は物性を有する。
【
図5】バーの前表面上に可変特性コーティングを有するリファイナー刃物部品の断面図であり、可変特性コーティングは、異なる化学組成及び/又は物性を有する2つの層を含む。
【
図6】バーの前表面上に可変特性コーティングを有するリファイナー刃物部品の断面図であり、可変特性コーティングは、2つの異なる化学組成及び/又は物性の複数の交互の層を含む。
【
図7】バーの前表面上に可変特性コーティングを有するリファイナー刃物部品の断面図であり、可変特性コーティングは、2つの異なる化学組成及び/又は物性の複数の交互の層を含み、層はまた、バーの高さにわたって様々な範囲に延在する。
【
図8】バーの前表面上に可変特性コーティングを有するリファイナー刃物部品の断面図であり、可変特性コーティングは、異なる化学組成及び/又は物性の5つの層を含む。
【
図9】2つの異なるコーティングがバーの各前表面の2つの別個の半径方向部分に塗布された、本発明の別の実施形態によるリファイナー刃物部品の上面図である。
【
図10】3つの異なるコーティングがバーの各前表面の3つの別個の半径方向部分に塗布された、本発明の別の実施形態によるリファイナー刃物部品の上面図である。
【
図11】本発明の別の実施形態に従って複数のコーティングが塗布され得る、円錐形リファイナー刃物部品が描かれている図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
添付の図面全体を通して、同様の特徴は同様の参照符号によって識別されることに留意されたい。
【0012】
本明細書に開示されるのは、リファイナーバーを有するリファイナー刃物部品の様々な実施形態であり、リファイナーバーのうちの少なくとも1つには、第1のコーティング及び第2のコーティングが、前表面及び後表面にそれぞれ塗布されるか、又は代替的に同じ表面の別個の部分に塗布される。本明細書はまた、上述のような第1のコーティング及び第2のコーティングでコーティングされたリファイナーバーを含む1つ以上のリファイナー刃物部品を有するリファイナーを開示する。
【0013】
図1は、本発明の1つの実施形態による、参照符号10によって全体的に示されるリファイナーの斜視図である。
図1に描かれている実施形態においては、リファイナー10は、ハウジング12と、ステーター14と、ローター16とを有する。ローターは、回転軸の周りに回転するとともにステーターと協働してセルロース系繊維を含有するパルプ(又はパルプ懸濁液)を機械的に処理する。回転軸は、軸方向及び半径方向を規定する。
図1に示されている実施形態においては、リファイナーは、交換可能なリファイナー刃物を有するディスク型リファイナーである。リファイナー刃物は、複数のリファイナー刃物部品から構成される。
図1の例においては、リファイナー刃物部品は、概ね平坦な環状のディスク状又はプレート状構造体(本明細書においては「プレート」ともいう)のセグメントである。しかしながら、リファイナー刃物部品は、円錐形リファイナーにおける円錐形刃物部品であってもよいことが理解されるであろう。本明細書の目的のために、「リファイナー刃物部品」という表現は、平坦なディスク状のプレート若しくはその弧状セグメント、又は円錐形の構造体若しくはその角度付きセグメントを包含するものとして解釈されるものとする。ディスク型リファイナーの場合、リファイナー刃物部品は、一体型の円形プレート、環状プレート、又は他の弧状セグメントと組み立てられて完全な円形若しくは環状プレートを形成する弧状セグメントであってもよい。同様に、円錐形リファイナーの場合、リファイナー刃物部品は、一体型の円錐形(若しくは切頭円錐形)の構造体、又は他の角度付きセグメントと組み立てられて完全な円錐形(若しくは切頭円錐形)の構造体を形成する円錐形(又は切頭円錐形)の角度付きセグメントであってもよい。上記のことから、リファイナー刃物部品は、円形、環状、又は円錐形(すなわち、完全な360度の構成要素を画定する)であってもよく、又はセグメント化されていてもよい(すなわち、場合に応じて、完全な円形又は環状のプレートを形成するために、又は円錐を形成するために、他のそのようなセグメントと組み立てられるように設計された360度未満の弧状又は角度付きの構成要素を画定する)ことを理解されたい。
【0014】
図1においては、ステーター14上のリファイナー刃物部品20の交換が描かれている。リファイナー刃物部品20は、図示されているように、締結具、例えばねじ付き締結具を使用してステーター14に取り付けることができる。この例においては、複数のリファイナー刃物部品20がステーター14に環状の配置で取り付けられてステーター側リファイナープレートを構成している。
図1に描かれている実施形態においては、ステーター14は、ヒンジ機構の周りに枢動してリファイナー刃物部品(複数の場合もある)20の交換を可能にするドア状カバー15に取り付けられている。
【0015】
図2は、
図1のリファイナー10の別の斜視図であり、ローター16上のリファイナー刃物部品20の交換を示している。リファイナー刃物部品20は、図示されているように、締結具、例えばねじ付き締結具を使用してローター16に取り付けることができる。複数のリファイナー刃物部品20が環状の配置でローター16に取り付けられてローター側リファイナープレートを構成している。
図2に描かれている実施形態においては、ローター16は、リファイナー10のハウジング12の内部に取り付けられている。
【0016】
図1及び
図2の実施形態において、リファイナー刃物部品20は、セグメント化されたプレート状の形状を有する交換可能なリファイナー刃物部品である。リファイナーを保守するとき、リファイナー刃物は、摩耗した場合、刃物を構成するリファイナー刃物部品の組立体を交換することによって交換することができる。例えば、
図2Aに示されているように、4つの弧状セグメントとして成形された4つのリファイナー刃物部品を組み立てて、ディスク型リファイナーの完全な環状プレート構造体を提供することができる。各弧状又はセグメント化された刃物部品の角度付き円弧(angular arc)は、これらの例に示されているものとは異ならせてもよい。刃物部品の角度付き円弧は、刃物部品が組み立てられたときにそれらが完全な360度を有する環状の配置を構成するように、例えば、360度、180度、90度、45度、30度、22.5度、20度、15度、10度等とすることができる。
図2Aはまた、環状のリファイナー刃物部品が内径(ID)及び外径(OD)によって特徴付けられ得ることを示している。したがって、リファイナー刃物部品は、内径から外径まで半径方向に延在する。また、弧状又はセグメント化された刃物部品の完全なプレート又は環は、異なる形状の刃物部品、例えば、1つの180度刃物部品と2つの90度刃物部品とを合わせたもの、2つの90度刃物部品と4つの45度刃物部品とを合わせたもの、3つの60度刃物部品と6つの30度刃物部品とを合わせたもの等から構成されてもよいことが理解されるであろう。
【0017】
図3~
図10に示されているように、リファイナー刃物部品20は基部22を有する。基部は、いくつかの実施形態においては軸方向に均一な厚さを有し得るが、代替的に、不均一な厚さを有してもよい。基部は、
図2Aに描かれているように内径IDから外径ODまで半径方向に延在する。リファイナー刃物部品20は、複数の離間したリファイナーバー30(「ブレード」としても知られる)を有する。バーは、均一又は不均一な溝幅で離間させることができ、すなわち、隣接するバー間の間隔を異ならせるか又は一定とすることができる。任意選択で、リファイナーバーはスペーサ24によって離間させることができるが、他の実施態様においては、スペーサがなくてもよい。各バーは、外径に向かって延在する、すなわち、略半径方向に延在するバー長さBLによって画定され、基部から略軸方向に突出するバー高さBHによって画定される。バー高さは、一定としても異ならせてもよい。いくつかの実装形態においては、バー高さは、例えば、3mm~14mmの範囲内にある値とすることができる。
【0018】
図3及び
図4に描かれている実施形態においては、バーは、2つの異なるコーティング、すなわち、第1のコーティング及び第2のコーティングでコーティングされる。これらの実施形態においては、第1のコーティング及び第2のコーティングは、異なる化学組成及び/又は異なる物性を有する。換言すれば、一方のコーティングの化学組成及び/又は物性は、他方のコーティングの化学組成及び/又は物性とは異なる。例えば、
図3に示されているように、前表面及び後表面は、異なる化学組成で作製された、及び/又は異なる物性を有する、異なるコーティングを有し得る。コーティングは、そのコーティング厚さを通して、特定の物性又は化学組成において、いくつかの僅かな自然の差違を有し得るため、本明細書の目的のために、物性又は化学組成の差異は、コーティングの物性又は化学組成の平均値、中間値、又は公称値の差異を指すことを理解されたい。換言すれば、コーティング断面にわたる平均物性は、特定のコーティングの公称物性を表すものとして理解することができる。したがって、異なる物性を有する異なるコーティングは、特定の物性についてのそれぞれの平均値が、例えば10%超で異なる。
【0019】
図3は、それぞれが前表面32と後表面38とを有するバー30を有するリファイナー刃物部品20の断面図である。第1のコーティング34がバー30の前表面32に塗布され、第2のコーティング36がバー30の後表面38に塗布される。この実施形態においては、第1のコーティング34は第1の化学組成物から構成され、第2のコーティングは第1の化学組成物とは異なる第2の化学組成物から構成される。代替的に、別の実施形態においては、第1のコーティング34及び第2のコーティング36は、コーティングが同じ化学組成であるか否かに関わらず、異なる物性を有する。
【0020】
本明細書の目的のために、異なる化学組成物は、第1の化学組成物の少なくとも1つの物性が第2の化学組成物の物性と少なくとも10%異なるように、第1の化学組成物及び第2の化学組成物が異なる化学式を有することを意味すると理解されるものとする。
【0021】
コーティングは、単一の化合物若しくは物質(単一の化学組成を有する)から作製されてもよく、又は複数の化合物又は物質から作製されてもよい。各コーティングは、複数の物性、例えば、機械的、熱的及び電気的特性を有する。物性としては、硬度、靱性又は耐衝撃性、多孔性、弾性、延性、耐摩耗性又は耐腐食性、引張強度、圧縮強度、疲労強度、腐食性、クリープ、及び表面粗さが挙げられるが、これらに限定されない。
【0022】
コーティングは単一の物性に関してのみ異なり得るが、コーティングは複数の物性に関して異なり得る。
【0023】
1つの特定の実施形態においては、第1のコーティング及び第2のコーティングは、同じ化学組成から作製される(すなわち、第1のコーティング及び第2のコーティングは同じ化学式を有する)が、異なる物性をもたらす熱処理又は異なる製造プロセスの結果として、異なる物性を有する。
【0024】
1つの実施形態においては、第1のコーティング及び第2のコーティングの物性は、50%超で異なり得る。別の実施形態においては、物性は25%超で異なり得る。更に別の実施形態においては、物性は10%超で異なり得る。コーティングの1つの物性は或る特定の量だけ異なり得る一方で別の物性は別の量だけ異なり得ることが理解されるであろう。例えば、第1のコーティングは、延性が第2のコーティングよりも50%高く、耐摩耗性が第2のコーティングよりも30%高く、耐衝撃性が第2のコーティングよりも15%高いものであり得る。
【0025】
図3に描かれている実施形態においては、第1のコーティング34は図示のように第2のコーティング36のコーティング厚さよりも大きいコーティング厚さを有するが、他の実施形態においては、第1のコーティング及び第2のコーティングの厚さは等しくてもよく、或いは、後表面上の第2のコーティングは、前表面上の第1のコーティングよりも厚くてもよい。
図3においては、コーティングはスペーサ24から短い距離で始まり、バーの全高BHまで延在する。他の実施形態においては、コーティングは、バー30の全高BH未満にわたって延在し、及び/又はスペーサ24の上方(又はスペーサ24が存在しない場合は基部22の上方)の異なる高さで始まってもよい。1つの実施形態においては、第1のコーティングの表面積は、第2のコーティングの表面積とは異なり得る。他の実施形態においては、バーのいくつかのセクションは、両面がコーティングされてもよく、片面のみがコーティングされてもよく、又はいずれの面もコーティングされなくてもよい。
【0026】
図3Aには、バー30の前表面32のみに塗布された可変特性コーティング34が描かれており、すなわち、後表面にはコーティングが塗布されていないが、変形形態においては、後表面上にコーティングがあってもよいことが理解されるであろう。この実施形態においては、コーティング34は、コーティングの厚さに応じて変化する物性を有する。
図3Aに示されているグラフにおいては、変化が非線形であるが、他の場合においては変化が線形であってもよい。特性変化の方向、勾配及び形状もまた変化し得る。バー30自体の特性もまた、それらの厚さに応じて、線形又は非線形のいずれかで変化し得る。1つの特定の実施形態において、物性は、少なくとも10%変化する。
【0027】
図4に描かれている別の実施形態においては、第1のコーティング34aが表面の第1の部分に塗布され、第2の(同じ側の)コーティング34bが同じ表面の第2の部分に塗布されている。第1のコーティング34a及び第2のコーティング34bは、異なる化学組成及び/又は異なる物性を有する。この例においては、表面の第1の部分及び第2の部分は、連続して隣接しており、したがって、第1のコーティング34a及び第2のコーティング34bもまた連続して隣接している。変形形態においては、第1のコーティング34aと第2のコーティング34bとの間に小さな隙間があってもよい。この例においては、第1のコーティング及び第2のコーティングは、バー30の同じ表面(例えば、前表面32)上に塗布された別個の重なり合わないコーティングである。
図4に描かれている実施形態においては、第1のコーティング34a及び第2のコーティング34bは、バー30の前表面32に塗布され、後表面には塗布されない。しかしながら、変形形態においては、後表面も同様に第1のコーティング及び第2のコーティングを有してもよいことが理解されるであろう。
図4の実施形態においては、第1のコーティングは前表面上の下側コーティングであってもよく、第2のコーティングは前表面上の上側コーティングであってもよい(又はその逆であってもよい)。下側コーティングは、上側コーティングよりもスペーサ24及び基部22に近いので、下側と考えられる。バー30の同じ表面上の第1のコーティング及び第2のコーティングは、並列コーティング、コーティングの交互ストリップ、同心コーティング、又はコーティングの任意の他の好適な配列、パターン、若しくは幾何学形状であってもよい。
【0028】
図5には、可変特性コーティングの別の例が示されている。この例においては、コーティングは、層(すなわち、コーティング層)から交互に構成される。
図5においては、2つの層、すなわち第1の層40及び第2の層42がある。
図5に例として示されているように、第1の層40は、バー30の前表面32に塗布される。第2の層42は、この図に示されているように、第1の層40に塗布される。この例においては、第1の層40及び第2の層42は、同じ寸法(例えば、同じ厚さ及び同じ垂直範囲)を有するが、第1の層40及び第2の層42は、異なる寸法、例えば、異なる厚さ及び/又は異なる垂直範囲を有してもよいことが理解されるであろう。第1の層40及び第2の層42は、異なる化学組成及び/又は異なる物性を有することができる。例えば、第1の層40は衝撃を吸収するために高度に弾性とすることができ、一方、第2の層は摩耗又は腐食を最小限にするために高度に耐摩耗性とすることができる。
図5は前表面上の層のみを示しているが、バーは後表面上にも層を有していてもよいし、或いは後表面上のみに層を有していてもよい。
【0029】
図6は、バー30が5つの層、すなわち第1の層40、第2の層42、第3の層44、第4の層46、及び第5の層48を含む可変特性コーティングでコーティングされた、リファイナー刃物部品の断面図である。
図5には2つの層を有するコーティングが描かれており、
図6には5つの層を有するコーティングが描かれているが、層の数は3つ、4つ、6つ等であってもよいことが理解されるであろう。
図6に示されているように、この例においては、第1の層40、第3の層44、及び第5の層48は、第1の化学組成物から作製され、及び/又は第1の組の物性を有し、第2の層42及び第4の層46は、第2の化学組成物から作製され、及び/又は第2の組の物性を有する。したがって、
図6の可変特性コーティングは、交互の層(すなわち、交互の化学組成及び/又は交互の物性を有する層)から構成される。
【0030】
図6における層40~48は同じ寸法を有するが、
図7に例として示されるように、異なる寸法の層を有する可変特性コーティングを提供することが可能である。
図6に示されているように、
図7に示されている可変特性コーティングは、バー30の前表面に連続的に塗布された5層のコーティングを含む。具体的には、
図7において、層40~48のそれぞれは、異なる垂直範囲を有する。この特定の構成においては、図示されているように、第1の層が最大の垂直範囲を有し、第2の層、第3の層、第4の層、及び第5の層が連続して続く。
図6及び
図7の両方に示されているような層は、代替的に、バーの前表面に塗布される代わりに、又はそれに加えて、バーの後表面に塗布され得ることが理解されるであろう。また、前表面及び後表面は、異なる数及び/又は構成の層を有し得ることも理解されるであろう。
【0031】
図8は、前表面上に5つの異なる層、すなわち第1の層40、第2の層42、第3の層44、第4の層46、及び第5の層48を含む可変特性コーティングを示している。層は、変形形態においては、後表面上に配設されてもよい。代替的に、バーは、前表面及び後表面の両方に層を有してもよい。バーはまた、前表面及び後表面上に異なる数の層でコーティングされてもよい。この例においては、5つの層のそれぞれは、異なる化学組成で作製されてもよく、及び/又は異なる物性を有してもよい。
【0032】
1つの実施形態においては、異なるコーティングは、コーティングの異なる層状構造から形成することができる。例えば、第1のコーティングが第1の層、第2の層及び第3の層をこの順序で有する場合、第2のコーティングは、異なる順序の層、例えば、第2の層、第1の層及び第3の層、又は第3の層、第1の層及び第2の層等の構造とすることができる。したがって、第1のコーティングは、第2のコーティングとは異なる層構造を有する。
【0033】
図9は、第1のコーティング50及び第2のコーティング52がバー30の別個の半径方向部分に塗布される、本発明の別の実施形態によるリファイナー刃物部品20の上面図である。例として示されているように、第1のコーティング50及び第2のコーティング52は、バー30の前表面上のバー長さBLに沿って塗布される。第1のコーティング50がバーの半径方向外側部分に塗布され、第2のコーティング52がバーの半径方向内側部分に塗布される。第1のコーティング及び第2のコーティングは、前表面の代わりに、又は前表面に加えて、後表面に塗布されてもよい。
【0034】
図10は、3つのコーティングがバーの前表面に塗布された、本発明の別の実施形態によるリファイナー刃物部品20の上面図である。第1のコーティング50がバーの半径方向外側部分に塗布され、第2のコーティング52がバーの半径方向中間部分に塗布され、第3のコーティング54がバーの半径方向内側部分に塗布される。第1のコーティング50、第2のコーティング52、及び第3のコーティング54は、前表面の代わりに、又は前表面に加えて、後表面に塗布されてもよい。
【0035】
バーの異なる半径方向の別個の部分を覆う異なるコーティングが
図9及び
図10に示されているが、変形形態においては、特定のバーの1つの部分と隣接する部分との間に移行領域があってもよく、その結果、1つ以上のコーティング特性又は化学組成が、離散的で段階的に変化するのではなく、漸次的又は漸進的(gradual or progressive)に変化することが理解されるであろう。第1の部分、第2の部分、及び第3の部分の物性又は化学組成は、特定の特性又は化学組成の平均又は中間値(average or mean value)に関して定義されてもよい。1つの実施形態においては、バーの半径方向長さに沿った1つのコーティングと別のコーティングとの間の平均又は中間特性の差は、機能的に有意な量だけ、例えば10%以上の量だけ変化する。
【0036】
図11には、本発明の別の実施形態に従って複数のコーティングが塗布され得る、円錐形リファイナー刃物部品20が描かれている。円錐形リファイナー刃物部品20は、
図11に示されているように、内径ID及び外径ODによって特徴付けられる。円錐形リファイナー刃物部品20のリファイナーバー30は、上述したような2つの別個のコーティングを有し、これらのコーティングは、上述した全ての異なる方法で異ならせることができる。この例では、円錐形リファイナー刃物部品20は、完全な円錐形の構造体を画定する単一のユニット型構成要素であるが、円錐形リファイナー刃物部品は、他のセグメント化された円錐形リファイナー刃物部品と組み立てられて完全な円錐形(又は切頭円錐形)の構造体を構成するセグメント化された円錐形刃物部品であってもよいことが理解されるであろう。
【0037】
いくつかの実施形態においては、全てのリファイナーバーの前表面が二重コーティングを有する、すなわち、リファイナーバーの全てが第1のコーティング及び第2のコーティングでコーティングされる。他の実施形態においては、リファイナーバーの前表面の一部のみが第1のコーティング及び第2のコーティングを有する。例えば、コーティングされたバーとコーティングされていないバーを交互に設けるパターンが実装されてもよい。別の例として、3番目又は4番目毎にバーをコーティングしてもよい。逆に、3番目又は4番目毎にバーをコーティングしなくてもよい。
【0038】
いくつかの実施形態においては、コーティングは、バー長さの全体に沿って延在する。他の実施形態においては、コーティングは、バー長さに沿って部分的にのみ延在する。例えば、コーティングは、バー長さの90%、80%、70%、60%、50%、40%、30%、20%、10%等にわたって延在してもよい。別の例として、1つのバーを第1のパーセンテージでコーティングし、次のバーを異なるパーセンテージでコーティングしてもよい。いくつかの実施形態において、コーティングは、バーの基部から上部まで延在し、すなわち、コーティングは、バー高さの全体を覆う。他の実施形態においては、コーティングは、バー高さの一部のみにわたって延在する。例えば、コーティングは、基部より高い点、例えば、中間点、高さの4分の1、高さの3分の1、高さの5分の1、高さの6分の1、高さの8分の1、高さの3分の2、高さの4分の3、又は基部の上方の任意の他の点で始まってもよい。例えば、コーティングは、高さの4分の1と中間点との間の点で始まってもよい。換言すれば、1つの実施形態においては、コーティングは、バーの高さの20%~45%の高さで基部の上方の点で始まり、次いで、バーの上部まで延在してもよい。より具体的な実施形態において、コーティングは、20%~35%、より好ましくは25%~35%で始まってもよい。
【0039】
コーティングは、酸化等の自然に発生する現象の結果としてバーの表面(複数の場合もある)上に形成され得る酸化物等の自然に発生する物質とは対照的に、バーの表面(複数の場合もある)に意図的に塗布される人工コーティングであることが理解されるであろう。少なくともいくつかの実施形態においては、各コーティングは、少なくとも100ミクロンの厚さを有する。いくつかの実施形態においては、コーティングは、少なくとも100ミクロンであるが1mm以下の厚さを有する。
【0040】
本明細書を解釈する目的で、本発明の様々な実施形態の要素に言及する場合、冠詞「a」、「an」、「the」及び「said」は、要素のうちの1つ以上があることを意味することを意図している。「備える(comprising)」、「含む(including)」、「有する(having)」、「内含する(entailing)」、及び「伴う(involving)」という用語、並びにそれらの動詞時制変形は、包含的かつオープンエンドであることを意図しており、それは、列挙された要素以外の追加の要素が存在し得ることを意味する。
【0041】
本発明は、単なる例示であることを意図している特定の実施形態、実装形態、及び構成に関して説明された。当業者であれば、本出願において提示された発明の概念(複数の場合もある)から逸脱することなく、多くの明らかな変形、改良、及び修正を行うことができることを理解するであろう。したがって、出願人によって求められる排他的権利の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されることが意図される。
【国際調査報告】