(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-28
(54)【発明の名称】溶解した[18F]フッ化物を含む組成物の調製方法およびその方法によって得ることができる組成物
(51)【国際特許分類】
C07F 7/12 20060101AFI20241121BHJP
C01B 9/08 20060101ALI20241121BHJP
B01D 11/02 20060101ALI20241121BHJP
C07B 59/00 20060101ALI20241121BHJP
C07C 53/02 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
C07F7/12 T
C01B9/08
B01D11/02 101
C07B59/00
C07C53/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024529340
(86)(22)【出願日】2022-10-31
(85)【翻訳文提出日】2024-07-10
(86)【国際出願番号】 EP2022080357
(87)【国際公開番号】W WO2023088671
(87)【国際公開日】2023-05-25
(32)【優先日】2021-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504150162
【氏名又は名称】テクニシェ ユニバーシタット ミュンヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100112634
【氏名又は名称】松山 美奈子
(72)【発明者】
【氏名】ディ・カルロ,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】ウェスター,ハンス-ユルゲン
【テーマコード(参考)】
4D056
4H006
4H049
【Fターム(参考)】
4D056AB01
4D056AB10
4D056AC25
4D056BA11
4D056CA11
4D056CA13
4D056CA27
4D056CA39
4D056DA05
4H006AA02
4H006AA03
4H006AB80
4H006AC30
4H006BB21
4H006BB22
4H006BS10
4H006CN40
4H049VN01
4H049VP01
4H049VQ10
4H049VR23
4H049VR31
4H049VS10
4H049VU25
4H049VW01
4H049VW02
(57)【要約】
溶解した[
18F]フッ化物イオンを含む、放射性フッ素化に好適な組成物の調製方法であって、-水および[
18F]フッ化物イオンを含む水溶液を用意するステップと、-該水溶液をアニオン交換樹脂を含む固相抽出装置に通して、アニオン交換樹脂上に[
18F]フッ化物イオンを捕捉し、アニオン交換樹脂上に捕捉された[
18F]フッ化物イオンを水から分離するステップと、-有機溶媒およびアルカン酸の塩を含む溶離組成物を固相抽出装置に通すことによって、アニオン交換樹脂から[
18F]フッ化物イオンを溶出するステップと、-有機溶媒とアルカン酸の塩と溶解した[
18F]フッ化物イオンとを含む組成物を溶出液として得るステップと、を含む方法が提供される。さらに、溶解した[
18F]フッ化物イオンを含む組成物、および溶解した[
18F]フッ化物イオンを含む組成物の調製を伴う、放射性フッ素化された有機化合物の調製方法が提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶解した[
18F]フッ化物イオンを含む組成物の調製方法であって、
- 水および[
18F]フッ化物イオンを含む水溶液を用意するステップと、
- 前記水溶液を、アニオン交換樹脂を含む固相抽出装置に通して、前記アニオン交換樹脂上に[
18F]フッ化物イオンを捕捉し、前記アニオン交換樹脂上に捕捉された[
18F]フッ化物イオンを水から分離するステップと、
- 有機溶媒およびアルカン酸の塩を含む溶離組成物を前記固相抽出装置に通すことによって、前記アニオン交換樹脂から[
18F]フッ化物イオンを溶出するステップと、
- 前記有機溶媒と、前記アルカン酸の塩と、溶解した[
18F]フッ化物イオンとを含む組成物を溶出液として得るステップと、を含む前記方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記水溶液を通水した後に、前記アニオン交換樹脂上に捕捉された[
18F]フッ化物イオンを含む前記固相抽出装置をガスでパージするステップをさらに含む、前記方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法であって、前記アニオン交換樹脂から[
18F]フッ化物イオンを溶出する前に、前記捕捉された[
18F]フッ化物イオンを含むアニオン交換樹脂を有機溶媒で洗うステップをさらに含む、前記方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の方法であって、前記溶離組成物が、式(A-1):
【化1】
[式中、
- X
+は、アンモニウムカチオン、アルキルアンモニウムカチオン、およびアルカリまたはアルカリ土類金属カチオンのクリプテートから選択され、
- Rは、H、直鎖または分岐C1~C20アルキル基である]
で表されるアルカン酸の塩を含む、前記方法。
【請求項5】
前記アルカン酸の塩が、ギ酸塩を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記溶離組成物中の前記アルカン酸の塩の濃度が、0.1~1.5mol/Lの範囲である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の方法であって、前記溶離組成物に含まれる前記有機溶媒が、極性非プロトン性有機溶媒、好ましくはジメチルスルホキシドおよびアセトニトリルから選択される溶媒を含む、前記方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の方法であって、前記方法で使用される各有機溶媒が無水有機溶媒である、前記方法。
【請求項9】
前記溶離組成物が、放射性フッ素化される有機化合物をさらに含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
放射性フッ素化された有機化合物の調製方法であって、
- 請求項1から8のいずれか一項に記載の方法によって組成物を調製するステップであって、当該組成物が、有機溶媒と、アルカン酸の塩と、溶解した[
18F]フッ化物イオンとを含む、ステップと、
- 前記組成物と放射性フッ素化される有機化合物と、を接触させて、前記有機化合物に、前記組成物中に含まれる[
18F]フッ化物イオンとの放射性フッ素化反応を生じさせるステップと、を含む方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法であって、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法に従って溶出液として得られる前記組成物が、組成が変更されることなく、前記放射性フッ素化される有機化合物と、直接接触させられる、前記方法。
【請求項12】
放射性フッ素化された有機化合物の調製方法であって、
- 請求項9に記載の方法によって組成物を調製するステップであって、当該組成物が、有機溶媒と、アルカン酸の塩と、溶解した[
18F]フッ化物イオンと、放射性フッ素化される有機化合物とを含む、ステップと、
- 前記有機化合物に、前記組成物中に含まれる[
18F]フッ化物イオンとの放射性フッ素化反応を生じさせるステップと、を含む前記方法。
【請求項13】
請求項10から12のいずれか一項に記載の方法であって、前記放射性フッ素化される有機化合物が、式(S-1):
【化2】
[式中、
X
Sは、
19F、OH、またはHであり、
R
S1およびR
S2は独立して、直鎖または分岐C3~C10アルキル基であり、波線は、前記有機化合物の残部に官能基を接続する結合を示し、
前記放射性フッ素化反応は、X
S基と
18Fの交換を伴う]
で表される官能基を有する放射性フッ素化されていないシリコン系フッ化物アクセプタ(SiFA)部分を含む、前記方法。
【請求項14】
有機溶媒と、アルカン酸の塩と、溶解した[
18F]フッ化物イオンとを含む、組成物。
【請求項15】
前記有機溶媒が、ジメチルスルホキシドおよびアセトニトリルから選択される極性非プロトン性有機溶媒を含み、前記アルカン酸の塩が、ギ酸アンモニウムを含む、請求項14に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン系フッ化物アクセプタ(SiFA)基を含む化合物などの有機化合物の効率的な放射性フッ素化に使用することができる、溶解した[18F]フッ化物を含む組成物の調製方法に関し、また本発明に係る方法で得られる組成物に関する。さらに、放射性フッ素化された有機化合物の調製方法が提供される。
【背景技術】
【0002】
核医学における18F
ここ数十年の間に、陽電子放出断層撮影法(PET)は、核医学における重要性を増し続けながら確立された診断手順として出現してきた。11C、13N、15O、64Cu、および68Gaなどの他の一般的なPET放射性核種とは対照的に、18Fは、主にその有利な物理的性質に起因して、大きな関心を常に引き付けてきた(非特許文献1)。中でも都合のよい半減期(109.7分)は、複雑なトレーサーであってもその放射性合成を可能とし、独自の製造設備を持たない小規模施設へのこれらのトレーサーの配送を可能とするには十分長いという点で際立っている(非特許文献1及び2)。さらに、18Fの崩壊は、主として比較的低いエネルギー(649keV)での陽電子放出(97%)によって生じ、この同位体を高解像度PET撮像の理想的な候補としている(非特許文献1及び3)。これらの顕著な特性にもかかわらず、18Fのむしろ難しい放射化学が常にその普及への決定的な制限となってきたのに対し、68Ga標識された放射性医薬は、簡単なキットのような放射性標識方法により道が開かれた。しかしながら、様々な興味深い新たな手法によって、放射性フッ素化されたトレーサーの核医学におけるより広範な使用へと移行し始めてきた。
【0003】
新規な18F標識手法としてのシリコン系フッ化物アクセプタ
放射性トレーサーへの18Fの導入は通常、好適な脱離基を有する電子不足の芳香族系および脂肪族系における求核置換反応によって生ずる。[18F]フッ化物の低い反応性に起因して、[18F]フッ素-炭素結合を生成するためには厳しい反応条件が通常必要とされる(非特許文献4)。このため望ましくない副生成物を生じ、その結果、労力を要するトレーサーの精製が必要となる(非特許文献4)。このような厳しい標識条件はまた、通常プロスセティク基(prоsthetic group)の使用によってのみ取り扱いが可能な、複雑な生体分子の直接の放射性フッ素化を妨げる(非特許文献5)。これらの理由から、新規な18F標識方法の開発に熱心な研究努力が向けられた。2006年、Schirrmacherらは、例えば、以下のスキームに示されるような、いわゆるシリコン系フッ化物アクセプタのケイ素原子上での天然の19Fと放射性18Fとの同位体交換に基づく代替的な18F標識手法を報告した(非特許文献6及び7)。
【0004】
【0005】
この方法の主要な利点は、標識時に特別な活性化試薬も反応温度の上昇も必要とせず、得られる18F標識トレーサーの放射化学収率(RCY)およびモル放射能(Am)を低減するであろう、後に続く高速液体クロマトグラフィー(HPLC)精製の必要性を排除するという事実に依拠する。8近年、この手法は、高いRCYおよびAmでの18F標識PETリガンドの調製のための迅速で効率的な方法へと発展してきた(非特許文献5及び9)。
【0006】
シリコン系フッ化物アクセプタの放射性フッ素化
シリコン系フッ化物アクセプタを有する化合物を放射性標識する最初の試みは、共沸乾燥した[
18F]フッ化物を使用して行われた(非特許文献8)。放射性物質(activity)の調製時に必要とされる塩基の部分的な中和が、効率的な放射性フッ素化の前提条件となることがすぐに認識された(非特許文献8)。都合の悪いことに、乾燥容器の壁への塩基の吸着が変動することに起因して、中和反応に必要な酸の正確な量を決定することが困難であった(非特許文献8)。結果として、シリコン系フッ化物アクセプタを有する化合物の放射性フッ素化におけるRCYは、限られた範囲でしか再現性がなかった(非特許文献8)。いわゆるミュンヘン法(Munich Method)による[
18F]フッ化物の調製が、この観点から好ましい技術となることが後に理解された(非特許文献8)。Wessmannらによって最初に開発されたミュンヘン法は、アニオン交換樹脂上に水性[
18F]フッ化物を捕捉すること、続いて、無水溶媒を使用して放射性物質(activity)をカートリッジ上で乾燥すること、およびMeCN中の[K
+⊂2.2.2]OH
-から構成される溶離カクテルを用いて、乾燥した[
18F]フッ化物を回収することからなる(非特許文献10及び特許文献1)。この技術をシリコン系フッ化物アクセプタの放射性フッ素化に適用することで、一度に2つの目標を達成することが可能となった。一方では、固相抽出による乾燥した[
18F]フッ化物の調製が、労力を要し時間のかかる共沸蒸留手順を回避した(非特許文献10)。他方では、溶出液の部分的な中和が、吸着作用がないことに起因して、より容易になし得た(非特許文献8)。Wanglerらは、後に続くシリコン系フッ化物アクセプタの放射性フッ素化に対する溶出液の中和の影響を、最初に正確に定量化した(非特許文献8)。このグループは、シュウ酸を加えることによって水酸化物含有[
18F]フッ化物溶出液を調整し、[K
+⊂2.2.2]OH
-および酸を4のモル比で使用して、シリコン系フッ化物アクセプタを有するソマトスタチンリガンドの最も高い放射化学変換率(RCC)を決定した(非特許文献8)。同様の観察が、同じ標識方法を用いたシリコン系フッ化物アクセプタを有するPSMAリガンド
natGa-rhPSMA-7での同位体交換反応を研究したWurzerらによってなされた(非特許文献11)。[K
+⊂2.2.2]OH
-とシュウ酸とのモル比が3.3~6.7に対応した場合にのみ、十分な
18Fの取り入みが報告された(非特許文献11)。彼らの詳細な放射性フッ素化プロトコルは、
図1に示されるように、ミュンヘン法による[
18F]フッ化物の調製、シュウ酸を用いた溶出液の中和、同位体交換のための最適化された反応条件、および固相抽出による最終の放射性トレーサーの後処理を含む。
【0007】
詳細には、Wurzerらによって確立されたシリコン系フッ化物アクセプタのための最適化された放射性フッ素化の手順は、水性[18F]フッ化物をSep-Pak(登録商標)QMA Carbonate(吸収剤重量46mg、イオン交換容量230μeqg-1)に充填すること、および、その後、空気、MeCN(10mL)、および空気を用いてカートリッジを洗うことで放射性物質(activity)を乾燥することからなる(非特許文献16)。乾燥した[18F]フッ化物を回収することは、MeCN(500μL)中のKOH(83μmol)およびKryptofix(登録商標)222(91μmol)の溶液を含有する溶離カクテルでカートリッジを逆方向にパージすることで実現される(非特許文献16)。その後、溶出液は、シュウ酸(MeCN中で1M、30μL、30μmol)を加えることによって部分的に中和され、続いて、シリコン系フッ化物アクセプタを有する化合物(DMSO中で1mM、10~150μL、10~150nmol)で希釈される(非特許文献16)。室温で5分間標識し、続いて、その反応混合物を酸性緩衝液(PBS、pH=3、9mL)で希釈する(非特許文献12及び16)。取り込まれなかった[18F]フッ化物が、分離を要する唯一の不純物なので、精製はその後簡単な固相抽出によって行われる。したがって、放射性フッ素化された化合物は、Oasis(登録商標)HLB Plus Lightカートリッジ(吸収剤重量30mg)上に保持され、PBS(10mL)および空気で洗い流される(非特許文献12)。最後に、エタノールと水の混合物(1:1、v/v、300μL)によって、精製されたトレーサーが溶出される(非特許文献12)。
【0008】
ミュンヘン法により乾燥された[18F]フッ化物の使用は、シリコン系フッ化物アクセプタの放射性フッ素化のための好ましい方法として出現してきたが、一定の欠点が残っている。最も注目すべきは、溶出液の部分的な中和のためにシュウ酸を正確に添加することが、放射性標識の効率に影響を及ぼす弱点として残っていることである(非特許文献8及び11)。さらに、調整された溶出液は依然としてアルカリ性を示すため、塩基に不安定な前駆体の放射性フッ素化はなし得ないように思われる。別の側面は、臨床業務におけるミュンヘン法により乾燥した[18F]フッ化物の使用に関する。その毒性に起因して、Kryptofix(登録商標)222の濃度は、投与前の放射性トレーサーの最終物において決定されなければならない(非特許文献13)。加えて、シュウ酸は、米国および欧州薬局方に記載されておらず、そのため、対応する製造手順が臨床試験の観点から放射性医薬のGMP製造として認められるには、最終製品の追加の毒性学的評価および品質管理手順が必要とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO2011/141410
【特許文献2】WO2020/157177A1
【特許文献3】WO2020/157128A1
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Schirrmacher, R.; Wangler, C.; Schirrmacher, E., Fluorine-18 Radiochemistry: Theroy and Practice. Pharmaceutical Radiochemistry (I) 2010, 1, 5-73.
【非特許文献2】Tredwell, M.; Gouverneur, V., 18F labeling of arenes. Angewandte Chemie International Edition 2012, 51 (46), 11426-11437
【非特許文献3】Jadvar, H.; Parker, J. A., Clinical PET and PET/CT. Springer Science & Business Media: 2006.
【非特許文献4】Bernard-Gauthier, V.; Bailey, J. J.; Liu, Z. B.; Wangler, B.; Wangler, C.; Jurkschat, K.; Perrin, D. M.; Schirrmacher, R., From Unorthodox to Established: The Current Status of F-18-Trifluoroborate- and F-18-SiFA-Based Radiopharmaceuticals in PET Nuclear Imaging. Bioconjugate Chemistry 2016, 27 (2), 267-279.
【非特許文献5】Bernard-Gauthier, V.; Wangler, C.; Schirrmacher, E.; Kostikov, A.; Jurkschat, K.; Wangler, B.; Schirrmacher, R., 18F-Labeled silicon-based fluoride acceptors: Potential opportunities for novel positron emitting radiopharmaceuticals. BioMed research international 2014, 2014.
【非特許文献6】Schirrmacher, R.; Bradtmoller, G.; Schirrmacher, E.; Thews, O.; Tillmanns, J.; Siessmeier, T.; Buchholz, H. G.; Bartenstein, P.; Wangler, B.; Niemeyer, C. M., 18F-Labeling of Peptides by means of an Organosilicon-Based Fluoride Acceptor. Angewandte Chemie International Edition 2006, 45 (36), 6047-6050.
【非特許文献7】Ting, R.; Adam, M. J.; Ruth, T. J.; Perrin, D. M., Arylfluoroborates and alkylfluorosilicates as potential PET imaging agents: high-yielding aqueous biomolecular 18F-labeling. Journal of the American Chemical Society 2005, 127 (38), 13094-13095
【非特許文献8】Wangler, C.; Niedermoser, S.; Chin, J.; Orchowski, K.; Schirrmacher, E.; Jurkschat, K.; Iovkova-Berends, L.; Kostikov, A. P.; Schirrmacher, R.; Wangler, B., One-step 18 F-labeling of peptides for positron emission tomography imaging using the SiFA methodology. nature protocols 2012, 7 (11), 1946-1955.
【非特許文献9】Bernard-Gauthier, V.; Bailey, J. J.; Liu, Z.; Waengler, B. r.; Waengler, C.; Jurkschat, K.; Perrin, D. M.; Schirrmacher, R., From unorthodox to established: The current status of 18F-trifluoroborate-and 18F-SiFA-based radiopharmaceuticals in PET nuclear imaging. Bioconjugate chemistry 2015, 27 (2), 267-279.
【非特許文献10】Wessmann, S.; Henriksen, G.; Wester, H.-J., Cryptate mediated nucleophilic 18F-fluorination without azeotropic drying. Nuklearmedizin 2012, 51 (01), 1-8.
【非特許文献11】Wurzer, A.; Di Carlo, D.; Schmidt, A.; Beck, R.; Schwaiger, M.; Herz, M.; Eiber, M.; Wester, H., PSMA-targeted 18F-labeled Radiohybrid Inhibitors: Labeling chemistry and automated GMP production of 18F-rhPSMA-7. Journal of Nuclear Medicine 2019, 60 (supplement 1), 342-342.
【非特許文献12】Wurzer, A.; Di Carlo, D.; Schmidt, A.; Beck, R.; Eiber, M.; Schwaiger, M.; Wester, H.-J., Radiohybrid Ligands: A Novel Tracer Concept Exemplified by 18F-or 68Ga-Labeled rhPSMA Inhibitors. Journal of Nuclear Medicine 2020, 61 (5), 735-742.
【非特許文献13】Kuntzsch, M.; Lamparter, D.; Bruggener, N.; Muller, M.; Kienzle, G. J.; Reischl, G., Development and successful validation of simple and fast TLC spot tests for determination of Kryptofix(R) 2.2. 2 and tetrabutylammonium in 18F-labeled radiopharmaceuticals. Pharmaceuticals 2014, 7 (5), 621-633
【非特許文献14】Brichard, L.; Aigbirhio, F. I., An Efficient method for enhancing the reactivity and flexibility of [18F] fluoride towards nucleophilic substitution using tetraethylammonium bicarbonate. European Journal of Organic Chemistry 2014, 2014 (28), 6145-6149.
【非特許文献15】Inkster, J.; Akurathi, V.; Sromek, A.; Chen, Y.; Neumeyer, J.; Packard, A., A non-anhydrous, minimally basic protocol for the simplification of nucleophilic 18 F-fluorination chemistry. Scientific Reports 2020, 10 (1), 1-9.
【非特許文献16】Wurzer, A.; Di Carlo, D.; Herz, M.; Richter, A.; Robu, S.; Schirrmacher, R.; Mascarin, A.; Weber, W.; Eiber, M.; Schwaiger, M. and Wester H.-J., Automated Synthesis of [18F, natGa]rhPSMA-7/ -7.3: Results, Quality Control and Experience from more than 200 Routine Productions. EJNMMI Radiopharmacy and Chemistry, submitted.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このような背景のもと、放射性フッ素化に有利に使用できる、溶解した[18F]フッ化物を含む組成物の効率的な調製方法、およびその方法で得られる組成物を提供することが本発明の目標であった。
【0012】
具体的には、関連する本発明の目的は、以下のとおり要約することができる:
アニオン交換樹脂からの[18F]フッ化物溶出後、それに続く蒸発ステップの必要性を回避するのに役立つ方法を提供すること、
[18F]フッ化物を含む組成物の調製のための全体的な時間を削減し、後に続く放射性フッ素化反応におけるRCYの向上につなげること、
シリコン系フッ化物アクセプタを有する化合物の放射性フッ素化にさらなる添加剤を必要とすることなく容易に適用可能な形態で、[18F]フッ化物を含む組成物を提供すること、
反応混合物の加熱によって、シリコン系フッ化物アクセプタを有する化合物の特に効率的な放射性フッ素化を可能とする組成物を提供すること、
シリコン系フッ化物アクセプタを有する塩基に敏感な化合物の放射性フッ素化を可能とする組成物を提供すること。
【課題を解決するための手段】
【0013】
その限りにおいて、本発明は、第1の態様に従って、溶解した[18F]フッ化物イオンを含む組成物の調製方法であって、
- 水および[18F]フッ化物イオンを含む水溶液を用意するステップと、
- 水溶液を、アニオン交換樹脂を含む固相抽出装置に通して、アニオン交換樹脂上に[18F]フッ化物イオンを捕捉し、アニオン交換樹脂上に捕捉された[18F]フッ化物イオンを水から分離するステップと、
- 有機溶媒およびアルカン酸の塩を含む溶離組成物を固相抽出装置に通すことによって、アニオン交換樹脂から[18F]フッ化物イオンを溶出するステップと、
- 有機溶媒と、アルカン酸の塩と、溶解した[18F]フッ化物イオンとを含む組成物を溶出液として得るステップと、を含む方法を提供する。
【0014】
本発明の第2の態様は、放射性フッ素化された有機化合物の調製方法であって、
- 本発明の第1の態様に従う方法によって有機溶媒と、アルカン酸の塩と、溶解した[18F]フッ化物イオンとを含む組成物を調製するステップと、
- このように調製された組成物と、放射性フッ素化される有機化合物と、を接触させて、有機化合物に、組成物中に含まれる[18F]フッ化物イオンとの放射性フッ素化反応を生じさせるステップと、を含む方法に関する。
第2の態様に従う放射性フッ素化された有機化合物の調製方法の変形態様として、放射性フッ素化される有機化合物も、本発明の第1の態様に従う方法において使用される有機溶媒およびアルカン酸の塩を含む溶離組成物に加えることができる。この変形態様に従えば、[18F]フッ化物イオンは、放射性フッ素化される有機化合物の存在下、アニオン交換樹脂から溶出され得る。
【0015】
別の態様に従えば、本発明は、有機溶媒と、アルカン酸の塩と、溶解した[18F]フッ化物イオンとを含む組成物を提供する。そのような組成物は、本発明の第1の態様に従う方法で、生成物として有利に得ることができることが理解されるであろう。
【発明の効果】
【0016】
本明細書で定義される溶離組成物を使用することで、(共)溶媒として水に頼ることを要せず[18F]フッ化物がアニオン交換樹脂から効率的に溶出され得ることが本発明者らによって見出された。後に続く放射性フッ素化反応を妨げうる、蒸発ステップなどの水またはその他の溶媒を除去するための追加のステップを省くことができる。さらに、クリプテートの形態でのカチオンの存在は必要とされない。
【0017】
さらに、上記ミュンヘン法で用いられる水酸化物と比較して、アルカン酸のアニオンの塩基性度はかなり低く、大きな利点となる。具体的には、所定量の酸の添加による、任意の放射性フッ素化反応に先立つ溶出液の部分的な中和は、もはや必要とされない。本発明の溶出液は、放射性フッ素化、特にシリコン系フッ化物アクセプタを有する化合物の放射性フッ素化にすぐに適用可能であり、塩基に敏感な化合物の18F標識にさえ適用し得る。本発明に従って提供される、溶解した[18F]フッ化物を含む溶出液組成物のさらなる利点は、溶出液中に含有されるフッ化物と反応する化合物の構造的完全性に影響を及ぼすことなく、後に続く放射性フッ素化反応の反応速度、したがってRCYを高めるために、溶出液を加熱することができることにある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】ミュンヘン法に従う[
18F]フッ化物の調製(ステップ1~3)、後に続くシリコン系フッ化物アクセプタを有する化合物の放射性フッ素化での使用(ステップ4~5)、および固相抽出による最終の放射性トレーサーの精製(ステップ6~9)のおおまかなスキームを示す図である。
【
図2】本発明による好ましい[
18F]フッ化物の調製(ステップ1~3)、後に続くシリコン系フッ化物アクセプタを有する化合物の放射性フッ素化での使用(ステップ4~5)、および固相抽出による最終の放射性トレーサーの精製(ステップ6~9)のスキームを示す図である。
【
図3】固相抽出によって精製した、
18F標識された塩基に敏感なシリコン系フッ化物アクセプタを有する化合物のラジオ逆相HPLCクロマトグラム(カラムI、A中の10→70%B、15分、A中の95%B、5分、t
R=9.6分)を示す図である。A)ミュンヘン法による[
18F]フッ化物の調製、および後に続く部分的な中和。B)本発明による[
18F]フッ化物の調製。
【
図4】固相抽出によって精製した、
18F標識されたシリコン系フッ化物アクセプタを有する葉酸受容体アルファリガンドのラジオ逆相HPLCクロマトグラム(カラムII、A中の10→70%B、15分、A中の95%B、5分、t
R=13.0分)を示す図である。A)本発明による[
18F]フッ化物の調製、および室温での放射性フッ素化。B)本発明による[
18F]フッ化物の調製、および95℃での放射性フッ素化。C)ミュンヘン法による[
18F]フッ化物の調製、後に続く溶出液の部分的な中和および室温での放射性フッ素化。D)ミュンヘン法に従う[
18F]フッ化物の調製、後に続く溶出液の部分的な中和および95℃での放射性フッ素化。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下の項目は、本発明の態様の概要、およびその好ましい実施形態の概要を提供する。
1.溶解した[18F]フッ化物イオンを含む組成物の調製方法であって、
- 水および[18F]フッ化物イオンを含む水溶液を用意するステップと、
- 前記水溶液を、アニオン交換樹脂を含む固相抽出装置に通して、アニオン交換樹脂上に[18F]フッ化物イオンを捕捉し、アニオン交換樹脂上に捕捉された[18F]フッ化物イオンを水から分離するステップと、
- 有機溶媒およびアルカン酸の塩を含む溶離組成物を固相抽出装置に通すことによって、アニオン交換樹脂から[18F]フッ化物イオンを溶出するステップと、
- 有機溶媒と、アルカン酸の塩と、溶解した[18F]フッ化物イオンと、を含む組成物を溶出液として得るステップと、を含む方法。
【0020】
2.固相抽出装置が固相抽出カラムまたは固相抽出カートリッジである、項目1に記載の方法。
【0021】
3.アニオン交換樹脂が、第四級アンモニウム基を含有する樹脂である、項目1または2に記載の方法。
【0022】
4.水溶液が装置を通過した後に、アニオン交換樹脂上に捕捉された[18F]フッ化物イオンを含む固相抽出装置をガスでパージするステップをさらに含む、項目1から3のいずれか1項目に記載の方法。
【0023】
5.ガスが、空気、窒素、ヘリウム、およびアルゴンから、またはこれらの2以上の混合物から選択される、項目4に記載の方法。
【0024】
6.アニオン交換樹脂から[18F]フッ化物イオンを溶出する前に、捕捉された[18F]フッ化物イオンを含むアニオン交換樹脂を有機溶媒で洗うステップをさらに含む、項目1から5のいずれか1項目に記載の方法。
【0025】
7.アニオン交換樹脂を洗うために使用される有機溶媒が無水溶媒である、項目6に記載の方法。
【0026】
8.アニオン交換樹脂を洗うために使用される有機溶媒が、極性非プロトン性溶媒を含むか又は極性非プロトン性溶媒からなり、好ましくはジメチルスルホキシド(DMSO)およびアセトニトリル(MeCN)から選択される溶媒を含むか又はこれらから選択される溶媒からなり、より好ましくはジメチルスルホキシド(DMSO)を含むかまたはジメチルスルホキシド(DMSO)からなる、項目6または7に記載の方法。
【0027】
9.[18F]フッ化物イオンを溶出するステップの前であって、アニオン交換樹脂が有機溶媒で洗われた後に、アニオン交換樹脂上に捕捉された[18F]フッ化物イオンを含む固相抽出装置をガスでパージするステップをさらに含む、項目6から8のいずれか1項目に記載の方法。
【0028】
10.ガスが、空気、窒素、ヘリウム、およびアルゴンから、またはこれらの2以上の混合物から選択される、項目9に記載の方法。
【0029】
11.溶離組成物が、式(A-1):
【0030】
【0031】
[式中、
- X+は、アンモニウムカチオン、アルキルアンモニウムカチオン、およびアルカリまたはアルカリ土類金属カチオンのクリプテートから;好ましくはアンモニウムカチオン、または4,7,13,16,21,24-ヘキサオキサ-1,10-ジアザビシクロ[8.8.8]ヘキサコサン(2,2,2-Cryptand、Kryptofix(登録商標)222)のナトリウムクリプテートから、より好ましくはアンモニウムカチオンから選択され、
- Rは、H、直鎖または分岐C1~C20アルキル基;好ましくはHまたはメチル、より好ましくはHである]
で表されるアルカン酸の塩を含む、項目1から10のいずれか1項目に記載の方法。
【0032】
12.アルカン酸の塩が、ギ酸塩を含むかまたはギ酸塩からなる、項目1から11のいずれか1項目に記載の方法。
【0033】
13.アルカン酸の塩が、ギ酸アンモニウムを含むかまたはギ酸アンモニウムからなる、項目12に記載の方法。
【0034】
14.溶離組成物中のアルカン酸の塩の濃度が、0.1~1.5mol/Lの範囲、好ましくは0.5~1.3mol/Lの範囲である、項目1から13のいずれか1項目に記載の方法。
【0035】
15.溶離組成物に含まれる有機溶媒が、極性非プロトン性有機溶媒を含むか又は極性非プロトン性有機溶媒からなり、好ましくはジメチルスルホキシド(DMSO)およびアセトニトリル(MeCN)から選択される溶媒を含むか又はこれらから選択される溶媒からなり、より好ましくはジメチルスルホキシド(DMSO)を含むかまたはジメチルスルホキシド(DMSO)からなる、項目1から14のいずれか1項目に記載の方法。
【0036】
16.[18F]フッ化物イオンを溶出するステップの間、溶離組成物またはアニオン交換樹脂が室温を上回る温度、好ましくは25℃乃至溶離組成物中に含有される有機溶媒の沸点未満の範囲、より好ましくは25℃~120℃の範囲の温度を有する、項目1から15のいずれか1項目に記載の方法。
【0037】
17.固相抽出装置に通される溶離組成物の体積の、固相抽出装置中のアニオン交換樹脂の質量に対する比がμL/mgで、2:1~40:1、好ましくは5:1~20:1、より好ましくは5:1~15:1の範囲である、項目1から16のいずれか1項目に記載の方法。
【0038】
18.固相抽出装置に通される溶離組成物の体積が、100~2000μL、好ましくは300~1000μL、より好ましくは400~600μLの範囲である、項目1から17のいずれか1項目に記載の方法。
【0039】
19.溶出液として得られる組成物の含水率が、溶出液組成物の全体積に対して、0~5%(vol./vol.)、好ましくは0~2%(vol./vol.)の範囲である、項目1から18のいずれか1項目に記載の方法。
【0040】
20.当該方法において使用される各有機溶媒が無水有機溶媒である、項目1から19のいずれか1項目に記載の方法。
【0041】
21.溶出液として得られる組成物が、水を本質的に含まない、項目1から20のいずれか1項目に記載の方法。
【0042】
22.水が蒸発によって除去されるいかなるステップも含まない、項目1から21のいずれか1項目に記載の方法。
【0043】
23.溶離組成物が、放射性フッ素化される有機化合物をさらに含む、項目1から22のいずれか1項目に記載の方法。
【0044】
24.放射性フッ素化された有機化合物の調製方法であって、
- 項目1~22のいずれかに記載の方法によって、有機溶媒と、アルカン酸の塩と、溶解した[18F]フッ化物イオンと、を含む組成物を調製する、ステップと、
- 前記組成物と、放射性フッ素化される有機化合物と、を接触させて、有機化合物に、組成物中に含まれる[18F]フッ化物イオンとの放射性フッ素化反応を生じさせるステップと、を含む方法。
【0045】
25.放射性フッ素化される有機化合物を、有機溶媒とアルカン酸の塩と溶解した[18F]フッ化物イオンとを含む組成物中に溶解させることまたは分散させることによって接触させる、項目24に記載の方法。
【0046】
26.項目1から22のいずれかに記載された方法に従って溶出液として得られる組成物が、溶出液として得られる組成物中に溶解したいかなる成分も変更または除去することなく、放射性フッ素化される有機化合物と接触させられる、項目24または25のいずれか1項目に記載の方法。
【0047】
27.項目1から22のいずれかに記載された方法に従って溶出液として得られる組成物が、放射性フッ素化される有機化合物と接触させられる前に、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトニトリル(MeCN)、または他の極性非プロトン性溶媒からなる群から選択される溶媒で希釈される、項目24から26のいずれか1項目に記載の方法。
【0048】
28.項目1から22のいずれかに記載された方法に従って溶出液として得られる組成物が、溶出液として得られる組成物を何ら変更することなく放射性フッ素化される有機化合物と直接接触させられる、項目24から26のいずれか1項目に記載の方法。
【0049】
29.放射性フッ素化された有機化合物の調製方法であって、
- 項目23に記載の方法によって、有機溶媒と、アルカン酸の塩と、溶解した[18F]フッ化物イオンと、放射性フッ素化される有機化合物と、を含む組成物を調製する、ステップと、
- 有機化合物に、組成物中に含まれる[18F]フッ化物イオンとの放射性フッ素化反応を生じさせるステップと、を含む方法。
【0050】
30.放射性フッ素化される有機化合物が、式(S-1):
【0051】
【0052】
[式中、
XSは、19F、OH、またはH、好ましくは19Fであり、
RS1およびRS2は独立して、直鎖または分岐C3~C10アルキル基であり、好ましくはRS1およびRS2は独立して、イソプロピルおよびtert-ブチルから選択され、より好ましくはRS1およびRS2はtert-ブチルであり、波線は、放射性フッ素化される有機化合物の残部に官能基を結合させる結合を示し、
放射性フッ素化反応は、XS基と18Fの交換を伴う]
で表される官能基を有する放射性フッ素化されていないシリコン系フッ化物アクセプタ(SiFA)部分を含む、項目24から29のいずれかに記載の方法。
【0053】
31.放射性フッ素化される有機化合物が、置換アリール基を含み、当該アリール基が、芳香環に結合した置換基として項目30において定義される式(S-1)の基を有し、式(S-1)の基に加えて、芳香環に結合した1以上のさらなる置換基を任意選択的に有する、項目30に記載の方法。
【0054】
32.置換アリール基が、置換フェニル基である、項目31に記載の方法。
【0055】
33.放射性フッ素化反応が、10℃乃至、有機溶媒とアルカン酸の塩と溶解した[18F]フッ化物イオンとを含む組成物中に含有される有機溶媒の沸騰温度未満の間の温度で行われる、項目24から32のいずれか1項目に記載の方法。
【0056】
34.放射性フッ素化反応が、20℃乃至、有機溶媒とアルカン酸の塩、溶解した[18F]フッ化物イオンとを含む組成物中に含有される有機溶媒の沸騰温度の間の温度で行われる、項目33に記載の方法。
【0057】
35.放射性フッ素化反応に続いて、放射性フッ素化された有機化合物を回収するステップをさらに含む、項目24から34のいずれか1項目に記載の方法。
【0058】
36.有機溶媒と、アルカン酸の塩と、溶解した[18F]フッ化物イオンとを含む、組成物。
【0059】
37.放射性フッ素化される有機化合物をさらに含む、項目36に記載の組成物。
【0060】
38.項目1から23のいずれか1項目に記載の方法によって得ることができる組成物である、項目36または37に記載の組成物。
【0061】
39.有機溶媒が、ジメチルスルホキシド(DMSO)およびアセトニトリル(MeCN)から選択される極性非プロトン性有機溶媒を含み、アルカン酸の塩が、ギ酸アンモニウムを含む、項目36から38のいずれかに記載の組成物。
【0062】
以下において、本発明をさらに詳細に説明する。ここで提供される情報はまた、上述の項目および添付の特許請求の範囲にも当てはまることが理解されるであろう。溶解した[18F]フッ化物イオンを含む組成物の調製方法は、本発明の第1の態様に従う方法として以下で言及されることがあるのに対し、放射性フッ素化された有機化合物の調製方法は、本発明の第2の態様に従う方法として以下で言及されることがある。
【0063】
本発明の第1の態様に従う方法の最初のステップとして、水および[18F]フッ化物イオンを含む水溶液が用意される。当業者に認識されると思われるが、放射性医薬を目的とする18Fイオンは、たとえばサイクロトロンで、[18O]H2Oを含有する水にプロトンを照射することによって生成することができる。この手順では、[18O]O2-の一部が[18F]フッ化物イオン([18F]F-)に変換される。したがって、水および[18F]フッ化物イオンを含む水溶液は通常、水を唯一の溶媒として含む溶液である。
【0064】
[18F]フッ化物イオンを効率的な放射性フッ素化反応に利用可能とするためには、[18O]O2-の[18F]F-への変換で得られた水溶液を再構成して、限られた量の水を含むかまたは水を含まない溶媒中に、フッ化物イオンがより高濃度に溶解した組成物を用意することが望ましい。
【0065】
本発明の第1の態様の方法では、水溶液は、アニオン交換樹脂を含む固相抽出装置に通され、アニオン交換樹脂上に[18F]フッ化物イオンが捕捉され、アニオン交換樹脂上に捕捉された[18F]フッ化物イオンを水から分離する。固相抽出カラムまたは固相抽出カートリッジなどの好適な固相抽出装置が、当業者に公知であり、市販されている。水を装置に通しながら[18F]フッ化物イオンを保持できるように、固相抽出装置は、アニオン交換樹脂、すなわち、正に帯電したイオン性官能基、好ましくは-N(CH3)3
+基などの第四級アンモニウム基を有する樹脂を含む。水溶液中に含有される[18F]フッ化物イオンの大部分、理想的には[18F]フッ化物イオンのほとんど、または本質的にすべてを捕捉することが望ましい。これは、抽出装置のイオン交換容量を、装置に通される水溶液で供給される[18F]フッ化物イオンの量に適合させることで達成し得る。
【0066】
アニオン交換樹脂に捕捉された[18F]フッ化物イオンの水からの分離は、[18F]フッ化物イオンを装置中に残しながら、水を装置に通過させることで実現されることが理解されるであろう。このようにして、水溶液中に含有される水の大部分を除去することができる。
【0067】
アニオン交換樹脂に捕捉された[18F]フッ化物イオンと結合した水の量をさらに低減すること(すなわち、[18F]フッ化物イオンをさらに乾燥すること)が望ましい場合には、樹脂から[18F]フッ化物イオンが溶出されるステップの前に、本発明の方法に1以上の追加のステップを含めることができる。
【0068】
たとえば、第1の態様の方法は、(a)アニオン交換樹脂に捕捉された[18F]フッ化物イオンを含む固相抽出装置を、水溶液が装置に通された後に、ガスでパージするステップをさらに含んでもよく、たとえば、ガスは、空気、窒素、ヘリウム、およびアルゴンから、またはこれらの2つ以上の混合物から選択される。ガスは、パージに使用される前に乾燥されうることが理解されるであろう。
【0069】
樹脂からフッ化物イオンが溶出されるステップの前に、フッ化物を乾燥するために本発明の第1の態様の方法に含まれてもよい別のステップは、(b)アニオン交換樹脂から[18F]フッ化物イオンを溶出する前に、捕捉された[18F]フッ化物イオンを含むアニオン交換樹脂を有機溶媒で洗うステップである。このステップには、単一の溶媒、または2以上の溶媒の混合物が使用されてもよく、単一の溶媒が好ましい。2以上の有機溶媒の混合物が使用される場合、混合物の各溶媒には、以下の好ましい特性が望まれることが理解されるであろう。
【0070】
有機溶媒は無水有機溶媒であることが好ましい。好ましくは、有機溶媒は、極性非プロトン性溶媒、たとえば、アセトニトリル(MeCN)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルアセトアミド(DMAA)、ジメチルホルムアミド(DMF)、およびテトラヒドロフラン(THF)から選択される溶媒を含むかまたはこれらから選択される溶媒からなる。より好ましくは、有機溶媒は、ジメチルスルホキシド(DMSO)およびアセトニトリル(MeCN)から選択される溶媒を含むかまたはこれらから選択される溶媒からなり、さらにより好ましくは、ジメチルスルホキシド(DMSO)を含むかまたはジメチルスルホキシド(DMSO)からなり、最も好ましくはジメチルスルホキシドからなる。
【0071】
捕捉された[18F]フッ化物イオンを含むアニオン交換樹脂を洗う上述のステップ(b)が本発明の方法に含まれる場合、(c)アニオン交換樹脂が有機溶媒で洗われた後であって、樹脂から[18F]フッ化物イオンが溶出される前に、アニオン交換樹脂に捕捉された[18F]フッ化物イオンを含む固相抽出装置をガスでパージするステップが続いてもよい。また、このステップにおいて、例示的なガスは、空気、窒素、ヘリウム、およびアルゴンから、またはこれらの2以上の混合物から選択される。ガスは、パージに使用される前に乾燥されうることが理解されるであろう。
【0072】
当業者である読み手に理解されるように、任意選択的な追加の乾燥ステップは、単一のステップとして、または好適な組み合わせで本発明に従う方法に含まれてもよい。たとえば、その方法には、固相抽出装置に水溶液を通すステップの後であって、樹脂からフッ化物イオンが溶出されるステップの前に、ステップ(a)、またはステップ(b)、またはステップ(a)に続いてステップ(b)、またはステップ(a)に続いてステップ(b)およびステップ(c)、またはステップ(b)に続いてステップ(c)を含んでもよく、ここでステップ(a)、(b)、および(c)は上述のとおり定義される。
【0073】
アニオン交換樹脂上に捕捉された[18F]フッ化物イオンが、好ましくは本質的に完全にまたは完全に水を除去することによって、望ましい程度まで水から分離された後、[18F]フッ化物イオンはアニオン交換樹脂から溶出される。本発明に従えば、これは、有機溶媒およびアルカン酸の塩を含む溶離組成物を使用して実現される。
【0074】
溶離組成物は一般に、アルカン酸の塩が有機溶媒に溶解された液体組成物である。典型的に、有機溶媒およびアルカン酸の塩は、溶離組成物の全重量100重量%に対して、溶離組成物の少なくとも90重量%、好ましくは少なくとも95重量%を与える。溶離組成物は、有機溶媒およびアルカン酸の塩から本質的になっていてもよく、より好ましくは、有機溶媒およびアルカン酸の塩からなる。
【0075】
溶離組成物は、単一の有機溶媒、または2以上の有機溶媒の混合物を含んでもよく、単一の溶媒が好ましい。2以上の有機溶媒の混合物が使用される場合、混合物の各溶媒には、以下の好ましい特性が望まれることが理解されるであろう。
【0076】
好ましくは、溶離組成物に含まれる有機溶媒は、極性非プロトン性溶媒、たとえば、アセトニトリル(MeCN)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルアセトアミド(DMAA)、ジメチルホルムアミド(DMF)、およびテトラヒドロフラン(THF)から選択される溶媒を含むかまたはこれらから選択される溶媒からなる。より好ましくは、溶離組成物に含まれる有機溶媒は、ジメチルスルホキシド(DMSO)およびアセトニトリル(MeCN)から選択される溶媒を含むかまたはこれらから選択される溶媒からなり、さらにより好ましくは、ジメチルスルホキシド(DMSO)を含むかまたはジメチルスルホキシド(DMSO)からなり、最も好ましくはジメチルスルホキシドからなる。
【0077】
有機溶媒は無水有機溶媒であることが好ましい。したがって、たとえば、任意選択的なアニオン交換樹脂を洗うステップや溶離組成物などの本発明に従う方法において使用される各有機溶媒は、無水有機溶媒であることも好ましい。
【0078】
溶離組成物は、単一のアルカン酸の塩または2以上のそのような塩の混合物を含んでもよく、単一の塩が好ましい。2以上のアルカン酸の塩の混合物が含まれる場合、混合物の各塩には、以下の好ましい特性が望まれることが理解されるであろう。
【0079】
溶離組成物は好ましくは、式(A-1)
【0080】
【0081】
式(A-1)において、X+は、アンモニウムカチオン、アルキルアンモニウムカチオン、およびアルカリまたはアルカリ土類金属カチオンのクリプテートから選択される。アルカリまたはアルカリ土類金属カチオンのクリプテートは、アルカン酸の塩のカチオンとして使用されてもよいが、アンモニウムカチオンなどの別のカチオンが使用される場合、そのようなクリプテートを欠きうることに留意されたい。アルキルアンモニウムカチオンの窒素原子は、1~4のアルキル置換基、好ましくはC1~C6アルキル置換基、より好ましくはメチル置換基を有していてもよい。好ましくは、X+は、アンモニウムカチオン、または4,7,13,16,21,24-ヘキサオキサ-1,10-ジアザビシクロ[8.8.8]ヘキサコサン(2,2,2-Cryptand、Kryptofix(登録商標)222)のナトリウムもしくはカリウムクリプテートから選択され、より好ましくはアンモニウムカチオンである。式(A-1)におけるRは、Hおよび直鎖または分岐C1~C20アルキル基から、好ましくはHおよびメチルから選択され、より好ましくはHである。
【0082】
式(A-1)の塩は好ましくは、90重量%以上、より好ましくは95重量%以上のアルカン酸の塩を与え、さらにより好ましくは溶離組成物に含まれるアルカン酸の塩は、式(A-1)の塩からなる。
【0083】
上述のとおり、溶離組成物中のアルカン酸の塩は好ましくは、ギ酸塩を含むかまたはギ酸塩からなり、より好ましくは、ギ酸アンモニウムを含むかまたはギ酸アンモニウムからなる。
【0084】
溶離組成物中のアルカン酸の塩の濃度は好ましくは、その塩が溶離組成物の有機溶媒に完全に溶解され得るように選択される。この限度を超えない範囲で、より高い濃度が一般により好都合である。たとえば、溶離組成物中のアルカン酸の濃度は、0.1~1.5mol/Lの範囲、好ましくは0.5~1.3mol/Lの範囲とすることができる。
【0085】
上述のように、溶離組成物は、放射性フッ素化される有機化合物を任意選択的なさらなる成分として含んでもよい。当業者である読み手に理解されるように、この選択肢を実行するために、放射性フッ素化される有機化合物を、アニオン交換樹脂から[18F]フッ化物イオンを溶出するステップの前に、溶離組成物に加えることができる。
【0086】
さらに上述のとおり、溶離組成物は特に好ましくは、有機溶媒としてMeCNまたはDMSOと、アルカン酸の塩としてギ酸塩と、任意選択的なさらなる成分として放射性フッ素化される有機化合物とを含むかまたはこれらからなる溶離組成物であり、さらにより好ましくは、有機溶媒としてDMSOと、アルカン酸の塩としてギ酸アンモニウムと、任意選択的なさらなる成分として放射性フッ素化される有機化合物とを含むかまたはこれらからなる溶離組成物であることが理解されるであろう。
【0087】
固相抽出装置に溶離組成物を通すことでアニオン交換樹脂から[18F]フッ化物イオンを溶出するステップのための、溶離組成物およびアニオン交換樹脂の温度は、特に制限されない。たとえば、溶離組成物およびアニオン交換樹脂は、室温程度(たとえば15~25℃)の温度を有してもよい。溶出ステップ時の[18F]フッ化物イオンの移動性を高めることが望ましい場合、溶離組成物およびアニオン交換樹脂は、25℃~120℃の範囲などの、25℃乃至溶離組成物中に含有される有機溶媒の沸点未満の範囲の温度を有してもよい。溶離組成物が1を超える有機溶媒を含有する場合、上限は一般に、より低い沸点を有する有機溶媒によって決定されることが理解されるであろう。
【0088】
固相抽出装置に通される溶離組成物の体積は特に限定されないが、[18F]フッ化物イオンが高濃度である溶出液を得るためには、アニオン交換樹脂に捕捉された[18F]フッ化物イオンの大半の量を溶出するのに必要である体積を超えない体積を使用することが好都合である。
【0089】
本発明の第1の態様に従う方法において、固相抽出装置に通される溶離組成物の体積の、固相抽出装置中のアニオン交換樹脂の質量に対する比は、特に限定されない。その比は望ましい範囲に都合よく調整し得る。たとえば、固相抽出装置に通される溶離組成物の体積(μLで表示)の、固相抽出装置中のアニオン交換樹脂の質量(mgで表示)に対する比は、2:1~40:1、好ましくは5:1~20:1、より好ましくは5:1~15:1の範囲とすることができる。
【0090】
たとえば、固相抽出装置に通される溶離組成物の体積は、100~2000μL、好ましくは300~1000μL、より好ましくは400~600μLの範囲とすることができる。
【0091】
フッ化物イオンがアニオン交換樹脂上に捕捉されるステップにおける水および[18F]フッ化物イオンを含む水溶液の流れる方向に対して、溶出ステップにおける溶離組成物が固相抽出装置を流れる方向を逆にした場合、溶出ステップの効率に利点となりうる。
【0092】
本発明の第1の態様の方法によれば、有機溶媒と、アルカン酸の塩と、溶解した[18F]フッ化物イオンと、任意選択的なさらなる成分として放射性フッ素化される有機化合物とを含む組成物が溶出液として得られる。本発明の第1の態様に従う方法によって生成物として得られるこのような組成物が、さらなる本発明の態様を構成する。本発明の第1の態様に従う方法によって調製され、この方法において溶出液として得られる組成物は、以下において、「溶出液組成物」または簡潔に「溶出液」と呼ばれることがある。
【0093】
当業者である読み手に理解されるように、溶出液組成物の内容物は通常、本発明の第1の態様に従う方法において使用される溶離組成物によって決定される。したがって、溶離組成物のアルカン酸塩のアニオンの一部が、溶出液組成物においては溶出された[18F]フッ化物イオンに置き換えられていることを除いて、溶離組成物の有機溶媒およびアルカン酸の塩に関して上記提供した情報は、溶出液組成物の有機溶媒およびアルカン酸の塩に引き続き当てはまる。
【0094】
したがって、溶出液組成物は通常、アルカン酸の塩および[18F]フッ化物イオンが有機溶媒に溶解した液体組成物である。有機溶媒、アルカン酸の塩、および溶解した[18F]フッ化物イオンは、溶出液組成物の全重量100重量%に対して、溶出液組成物の少なくとも90重量%、好ましくは少なくとも95重量%を与えてもよい。溶出液組成物は、有機溶媒と、アルカン酸の塩と、溶解した[18F]フッ化物イオンとから本質的になっていてもよく、より好ましくは、有機溶媒と、アルカン酸の塩と、溶解した[18F]フッ化物イオンとからなる。
【0095】
放射性フッ素化される有機化合物の存在下で[18F]フッ化物イオンを溶出するステップ中に放射性フッ素化反応がある程度進行しうるので、代替的な実施形態に従えば、溶出液組成物は、任意選択的なさらなる成分として、放射性フッ素化される有機化合物、または放射性フッ素化される有機化合物および放射性フッ素化された化合物を含んでもよい。
【0096】
溶出液組成物は、単一の有機溶媒、または2以上の有機溶媒の混合物を含んでもよく、単一の溶媒が好ましい。2以上の有機溶媒の混合物が使用される場合、混合物の各溶媒には、以下の好ましい特性が望まれることが理解されるであろう。
【0097】
好ましくは、溶出液組成物に含まれる有機溶媒は、極性非プロトン性溶媒、たとえば、アセトニトリル(MeCN)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルアセトアミド(DMAA)、ジメチルホルムアミド(DMF)、およびテトラヒドロフラン(THF)から選択される溶媒を含むかまたはこれらから選択される溶媒からなる。より好ましくは、溶出液組成物に含まれる有機溶媒は、ジメチルスルホキシド(DMSO)およびアセトニトリル(MeCN)から選択される溶媒を含むかまたはこれらから選択される溶媒からなり、さらにより好ましくは、ジメチルスルホキシド(DMSO)を含むかまたはジメチルスルホキシド(DMSO)からなり、最も好ましくはジメチルスルホキシドからなる。
【0098】
有機溶媒は無水有機溶媒であることが好ましい。
【0099】
溶出液組成物は、単一のアルカン酸の塩または2以上のそのような塩の混合物を含んでもよく、単一の塩が好ましい。2以上のアルカン酸の塩の混合物が含まれる場合、混合物の各塩には、以下の好ましい特性が望まれることが理解されるであろう。
【0100】
溶出液組成物は好ましくは、式(A-1)
【0101】
【0102】
式(A-1)において、X+は、アンモニウムカチオン、アルキルアンモニウムカチオン、およびアルカリまたはアルカリ土類金属カチオンのクリプテートから選択される。アルカリまたはアルカリ土類金属カチオンのクリプテートは、アルカン酸の塩のカチオンとして使用されてもよいが、アンモニウムカチオンなどの別のカチオンが使用される場合、そのようなクリプテートを欠き得ることに留意されたい。アルキルアンモニウムカチオンの窒素原子は、1~4のアルキル置換基、好ましくはC1~C6アルキル置換基、より好ましくはメチル置換基を有していてもよい。好ましくは、X+は、アンモニウムカチオン、または4,7,13,16,21,24-ヘキサオキサ-1,10-ジアザビシクロ[8.8.8]ヘキサコサン(2,2,2-Cryptand、Kryptofix(登録商標)222)のナトリウムもしくはカリウムクリプテートから選択され、より好ましくはアンモニウムカチオンである。式(A-1)におけるRは、Hおよび直鎖または分岐C1~C20アルキル基から、好ましくはHおよびメチルから選択され、より好ましくはHである。
【0103】
式(A-1)の塩は好ましくは、90重量%以上、より好ましくは95重量%以上のアルカン酸の塩を与え、さらにより好ましくは溶出液組成物に含まれるアルカン酸の塩は、式(A-1)の塩からなる。
【0104】
上述のとおり、溶出液組成物中のアルカン酸の塩は好ましくは、ギ酸塩を含むかまたはギ酸塩からなり、より好ましくは、ギ酸アンモニウムを含むかまたはギ酸アンモニウムからなる。
【0105】
溶出液組成物中のアルカン酸の塩の濃度は、たとえば、0.1~1.5mol/Lの範囲、好ましくは0.5~1.3mol/Lの範囲である。溶解した[18F]フッ化物イオンの比較的低い濃度に起因して、フッ化物イオンが溶出されるときに塩の濃度は通常、著しくは変化しない。
【0106】
さらに上述のとおり、溶出液組成物は、有機溶媒としてMeCNまたはDMSOと、アルカン酸の塩としてギ酸塩と、溶解した[18F]フッ化物イオンと、任意選択的なさらなる成分として、放射性フッ素化される有機化合物、または放射性フッ素化される有機化合物および放射性フッ素化された有機化合物とを含むかまたはこれらからなる溶出液組成物であることが特に好ましいことが理解されるであろう。さらにより好ましくは、有機溶媒としてDMSOと、アルカン酸の塩としてギ酸アンモニウムと、溶解した[18F]フッ化物イオンと、任意選択的なさらなる成分として、放射性フッ素化される有機化合物、または放射性フッ素化される有機化合物および放射性フッ素化された有機化合物とを含むかまたはこれらからなる溶出液組成物である。
【0107】
本発明に従う方法を用いて、溶出液組成物中の[18F]フッ化物イオンの濃度は、必要に応じて都合よく調整され得る。たとえば、[18F]フッ化物イオンの濃度は、体積500μLの溶出液組成物に適応される10MBq~150GBqの範囲であってもよい。
【0108】
溶出液組成物の含水率は、溶出液組成物の全体積に対して、好ましくは0~5%(vol./vol.)、より好ましくは0~2%(vol./vol.)の範囲である。溶出液組成物は、水を本質的に含まないことがさらにより好ましく、いっそうより好ましくは水を含まない。
【0109】
アニオン交換樹脂からの[18F]フッ化物イオンの効率的な回収を依然として確実にしながら、捕捉された[18F]フッ化物イオンを乾燥しうる、および/または無水溶媒を使用しうることに起因して、上述の本発明の第1の態様に従う方法は、蒸発によって水を除去するいかなるステップも含まず、そのようなステップは、放射性フッ素化反応での溶出液組成物の使用に先立ってまたはその使用中のいずれにも必要とされない。
【0110】
上記から理解されるように、本発明の第1の態様に従う方法を有利に用いて、たとえば、水溶液から[18F]フッ化物イオンを抽出すること、[18F]フッ化物イオンを濃縮すること、および/または[18F]フッ化物イオンを再構成することができる。
【0111】
本発明の第2の態様に従う放射性フッ素化された有機化合物の調製方法は、
- 上記の本発明の第1の態様の方法に従って、有機溶媒と、アルカン酸の塩と、溶解した[18F]フッ化物イオンとを含む組成物を調製するステップと、
- 前記組成物と、放射性フッ素化される有機化合物と、を接触させて、有機化合物に、組成物中に含まれる[18F]フッ化物イオンとの放射性フッ素化反応を生じさせるステップと、を含む。放射性フッ素化反応の生成物として、放射性フッ素化された有機化合物が得られる。
【0112】
上述の本発明の第1の態様の方法の詳細および好ましい実施形態に関して上記提供した情報は、本発明の第1の態様の方法による、有機溶媒と、アルカン酸の塩と、溶解した[18F]フッ化物イオンとを含む組成物の調製を含む、本発明の第2の態様に従う方法に、十分に当てはまることが理解されるであろう。
【0113】
一般に上述のように、本発明の第2の態様の方法において行われるような、得られる溶出液組成物が、後に続く放射性フッ素化反応にすぐに適用可能であることは、本発明の第1の態様に従う方法の利点である。たとえば、溶出液組成物を放射性フッ素化反応に供される化合物と接触させる前に、組成物のpH値を調整するために組成物に酸を加えることは必要ではない。たとえば、本発明の第1の態様に従うプロセスで得られる溶出液組成物を、さらなるいかなる処理ステップに供することなく、放射性フッ素化される有機化合物と接触させることが可能である。
【0114】
したがって、第1の態様の方法に従って溶出液として得られる組成物を、放射性フッ素化される有機化合物と、当該溶出液として得られる組成物中に溶解したいずれの成分も変更または除去することなく接触させることは、本発明の第2の態様に従う方法の好ましい変形例である。
【0115】
より好ましい変形例において、第1の態様の方法に従って溶出液として得られる有機溶液は、溶出液組成物を何ら変更することなく、放射性フッ素化される有機化合物と直接接触させる。
【0116】
しかしながら、必要に応じて、第1の態様の方法に従って溶出液として得られる組成物は、放射性フッ素化される有機化合物と接触させる前に、たとえば、溶媒、好ましくは極性非プロトン性溶媒で希釈することができる。例示的な溶媒は、ジメチルスルホキシド(DMSO)およびアセトニトリル(MeCN)からなる群から選択される。
【0117】
典型的には、放射性フッ素化される有機化合物を、有機溶媒と、アルカン酸の塩と、溶解した[18F]フッ化物イオンとを含む組成物中に溶解させること又は分散させることによって接触させる。
【0118】
しかしながら、第2の態様に従う放射性フッ素化された有機化合物の調製方法の変形態様として、放射性フッ素化される有機化合物も、有機溶媒およびアルカン酸の塩を含む溶離組成物に加えることができる。この変形態様に従って、放射性フッ素化される有機化合物を、本発明の第1の態様に従って調製された組成物と接触させることをもはや必要としない、放射性フッ素化された有機化合物の調製方法が提供される。むしろ、この放射性フッ素化された有機化合物の調製方法は、
-本発明の第1の態様の方法の実施形態に従って、有機溶媒と、アルカン酸の塩と、溶解した[18F]フッ化物イオンと、放射性フッ素化される有機化合物とを含む組成物を調製するステップであって、溶離組成物が放射性フッ素化される有機化合物をさらに含むステップと、
- 有機化合物に、組成物中に含まれる[18F]フッ化物イオンとの放射性フッ素化反応を生じさせるステップと、を含む。
【0119】
当業者である読み手に理解されるように、本明細書で言及される放射性フッ素化された有機化合物とは、放射性[18F]フッ素原子が、化学結合、典型的には共有結合によって結合した有機化合物である。したがって、放射性フッ素化(または放射性フッ素化反応)とは、有機化合物が、反応して、放射性[18F]フッ素原子と化学結合、典型的には共有結合を形成するステップを指す。本発明の第2の態様に従う方法において、放射性フッ素化または放射性フッ素化反応は、有機化合物を[18F]フッ化物イオンと反応させることで実現される。
【0120】
放射性フッ素化される有機化合物は好ましくは、放射性フッ素化されていないシリコン系フッ化物アクセプタ(SiFA)部分、すなわち、ケイ素原子が、当該ケイ素原子に共有結合している放射性フッ素化反応中に18Fに置換されうる基または原子を有する基を含む。好ましくは、SiFA部分は、式(S-1)
【0121】
【0122】
式(S-1)において、Si原子に結合したXS基は、19F、OH、または、Hであり、好ましくは19Fである。RS1およびRS2は独立して、直鎖または分岐C3~C10アルキル基であり、好ましくはRS1およびRS2は独立して、イソプロピルおよびtert-ブチルから選択され、より好ましくはRS1およびRS2はtert-ブチルである。したがって、特に好ましい放射性フッ素化される有機化合物中のSiFA部分は、式(S-1)の官能基を有し、式中、XSは19Fであり、RS1およびRS2はともにtert-ブチルであることが理解されるであろう。式(S-1)における波線は、当該官能基を有機化合物の残部に接続する結合を示す。
【0123】
好ましくは、放射性フッ素化される有機化合物は、置換アリール基を含み、当該アリール基は、芳香環に結合した置換基として式(S-1)の基を有し、任意選択的に、式(S-1)の基に加えて、芳香環に結合した、1、2、または3などの1以上のさらなる置換基を有する。より好ましくは、放射性フッ素化される有機化合物は、置換フェニル基を含み、当該フェニルは、フェニル環に結合した置換基として式(S-1)の基を有し、任意選択的に、式(S-1)の基に加えて、フェニル環に結合した、1、2、または3などの1以上のさらなる置換基を有する。
【0124】
放射性フッ素化される有機化合物が、式(S-1)で表される官能基を有する放射性フッ素化されていないシリコン系フッ化物アクセプタ(SiFA)部分を含む場合、有機化合物の放射性フッ素化反応は、XS基と18Fの交換を伴う。
SiFA部分が、式(S-2)の基であることがさらに好ましい:
【0125】
【0126】
式中、XS、RS1、およびRS2は、その好ましい実施形態を含めて、上述の(S-1)と同様に定義され、RS3は、1以上の芳香族および/または脂肪族部分を含み、任意選択的に、式(S-2)で示されるRS3の置換基に加えて、1、2、または3などの1以上のさらなる置換基を有する、二価のC1~C20炭化水素基である。そのような任意選択的な置換基は、たとえば、有機官能基とすることができる。好ましくは、RS3は、芳香環を含み、1以上の脂肪族部分を含んでもよく、かつ任意選択的に、式(S-2)で示されるRS3の置換基に加えて、1、2、または3などの1以上のさらなる置換基を有する二価のC6~C12炭化水素基である。そのような任意選択的な置換基は、たとえば、有機官能基とすることができ、存在する場合には、芳香環に結合していることが好ましい。式(S-2)における波線は、当該官能基を有機化合物の残部に接続する結合を示す。(S-2)基を含む有機化合物の放射性フッ素化反応も、XS基と18Fの交換を伴う。
【0127】
放射性フッ素化される化合物におけるSiFA部分としてさらにより好ましいのは、式(S-3)の基である:
【0128】
【0129】
式中、RS1およびRS2は、その好ましい実施形態を含めて、上述の(S-1)と同様に定義され、Fは、放射性フッ素化反応時に18Fに置換される19F原子であり、Pheは、任意選択的に、式(S-3)で示されるPheの置換基に加えて、1、2、または3などの1以上のさらなる置換基を有するフェニレン基である。そのような任意選択的な置換基は、たとえば、有機官能基とすることができる。yは0~6の整数、好ましくは0または1である。波線は、当該基を化合物の残部に接続する結合を示す。式(S-3)で示される、フェニレン基の2つの置換基(すなわち、(CH2)y基、およびSi含有基)は、好ましくは互いにパラ位にある。特に好ましくは、放射性フッ素化される化合物が、RS1およびRS2がtert-ブチルであり、yが0または1であり、式(S-3)で示される、フェニレン基の2つの置換基が互いにパラ位にある、式(S-3)の基を含む。
【0130】
式(S-2)および(S-3)の基における任意選択的な置換基として存在してもよい好適な有機官能基は、たとえば、O、N、およびSから選択される1、2、または3つのヘテロ原子、ならびに当該ヘテロ原子、C、およびHを含めて合計6つの原子を含む基である。
【0131】
放射性フッ素化反応は典型的に、10℃乃至、より好ましくは20℃乃至、有機溶媒とアルカン酸の塩と溶解した[18F]フッ化物イオンとを含む組成物中に含有される有機溶媒の沸騰温度未満の間の温度で行われる。組成物が1を超える有機溶媒を含有する場合、上限は一般に、より低い沸点を有する有機溶媒によって決定されることが理解されるであろう。たとえば、好適な温度範囲は、10℃~150℃、より好ましくは20℃~150℃であってもよい。
【0132】
反応を加速するために必要に応じて、放射性フッ素化反応は、50℃以上、70℃以上、または90℃以上などの、室温を上回る温度で行うことができる。上記のとおり、温度を上昇させても、放射性フッ素化される有機化合物の構造的完全性に影響を及ぼさないことが、本発明に照らして提供される溶出液組成物の利点である。
【0133】
第2の態様による方法は、放射性フッ素化反応に続いて、放射性フッ素化された有機化合物を回収するステップも含んでもよいことが理解されるであろう。
【0134】
本明細書において、特許出願および製造者の取扱説明書を含む複数の文献が引用される。これらの文献の開示は、本発明の特許性に関連するとは考えないが、その全体を参照により本明細書に援用する。より具体的には、すべての参照文献は、各個別の文献を参照により援用することを具体的かつ個別に示した場合と同じ程度に、参照により援用される。
【0135】
参照文献
特許文献
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P2. A. Wurzer, H.-J. Wester, M. Eiber, PSMA binding dual mode radiotracer and therapeutic, WO 2020/157177 A1.
P3. D. Di Carlo, H.-J. Wester, Silicon-fluoride acceptor substituted radiopharmaceuticals and precursors thereof, WO 2020/157128 A1.
非特許文献
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【0136】
以下の実施例は、本発明を説明する役目を果たす。
【実施例】
【0137】
材料
放射性フッ素化のための水性[18F]フッ化物(約0.6~2.0GBq/mL)は、Klinikum rechts der Isar(ミュンヘン、ドイツ)によって提供され、施設内のPETtrace(商標)880サイクロトロン(GE Healthcare GmbH、ゾーリンゲン、ドイツ)において生産された。放射能測定のために、Capintec Inc.製のCRC(登録商標)-55tRドーズキャリブレーター(フローラムパーク、ニュージャージー州、米国)を使用した。
【0138】
[18F]フッ化物の調製のためのSep-Pak(登録商標)Accell Plus QMA Carbonate Plus Lightカートリッジ(吸収剤重量46mg、粒径40μm、イオン交換容量230μeqg-1)、および18F標識化合物の精製のためのOasis(登録商標)HLB Plus Lightカートリッジ(吸収剤重量30mg、粒径30μm)は、Waters GmbH(エシュボルン、ドイツ)によって供給された。
【0139】
NBu4OTf、NBu4I、NH4I、NH4OAc、NH4HCOO、KOH(品質グレード「99.99%、半導体グレード」)、シュウ酸(品質グレード「微量金属基準99.999%」)および無水DMSO(品質グレード「≧99.9%」)はSigma-Aldrich Chemie GmbH(シュタインハイム、ドイツ)から購入した。NMe4OAcは、TCI Deutschland GmbH(エシュボルン、ドイツ)によって供給された。Kryptofix(登録商標)222(「合成用」品質グレード)、水(品質グレード「Tracepur(登録商標)」)および無水EtOH(品質グレード「EMPARTA(登録商標)」)は、Merck KGaA(ダルムシュタット、ドイツ)によって提供された。無水MeCN(品質グレード「DNA合成用≧99.9%」)は、VWR International GmbH(ダルムシュタット、ドイツ)から購入した。さらなる試薬、溶媒、および緩衝液は、Sigma-Aldrich
【0140】
Chemie GmbHまたはMerck KGaAのいずれかによって納品された。
以下に示す放射性フッ素化に使用するリガンド前駆体は、文献において報告された手順に従って合成した(特許文献2及び3)。
【0141】
【0142】
【0143】
【0144】
18F標識化合物の解析評価は、グラジエントポンプ(2つのLC-20AD)、オートサンプラー(SIL-20AHT)、システムコントローラー(CBM-20A)、カラムオーブン(CTO-10ASVP)、UV/Vis検出器(SPD-20A)、およびNaI検出器を備えるLB500 HERMラジオフローモニター(Berthold
【0145】
Technologies GmbH&Co.KG、バート・ヴィルトバート、ドイツ)からなるHPLCシステム(Shimadzu Deutschland GmbH、ノイファーン・バイ・フライジンク、ドイツ)のカラムI(MultoKrom(登録商標)100-5 C18、125×4.6mm、5μm、1mL/min、CS-Chromatographie Service GmbH、ランガーヴェーエ、ドイツ)またはカラムII(MultoKrom(登録商標)100-5 C18、150×4.6mm、5μm、1mL/min、CS-Chromatographie Service GmbH)において実施した。放射性標識された化合物は、異なるグラジエントの溶媒A(水、0.1%TFA添加、v/v)および溶媒B(MeCN、0.1%TFA添加、2%水添加、v/v/v)を一定の流量で使用して溶出した。ラジオクロマトグラムの分析には、Shimadzu Deutschland GmbHのLabSolutions5.92ソフトウェアを採用した。
【0146】
方法
[18F]フッ化物の調製のための一般的手順
【0147】
GP1:水性[18F]フッ化物を、水(10mL)であらかじめ予備調整したQMAカートリッジ(オス側)上に捕捉した。空気で乾燥した後(2×20mL、メス側)、カートリッジを無水DMSOでゆっくりと洗い(8mL、メス側)、続いて再度、空気で乾燥した(2×20mL、メス側)。
【0148】
GP2:水性[18F]フッ化物を、水(10mL)であらかじめ予備調整したQMAカートリッジ(オス側)上に捕捉した。空気で乾燥した後(2×20mL、メス側)、カートリッジを無水MeCNでゆっくりと洗い(10mL、メス側)、続いて再度、空気で乾燥した(2×20mL、メス側)。
【0149】
[18F]フッ化物溶出のための一般的手順
GE1:乾燥した[18F]フッ化物を、無水DMSO(500μL)中のNH4HCOO(40mg、634μmol)から構成される溶離カクテルを用いて、QMAカートリッジから溶出した(メス側)。続いて、空気でQMAカートリッジを洗い(20mL、メス側)、得られた液滴を先の溶出液と1つにまとめた。
【0150】
GE2:(比較目的のための参照手順)乾燥した[18F]フッ化物を、無水MeCN(500μL)中のKOH(4.7mg、83μmol)およびKryptofix(登録商標)222(34mg、91μmol)から構成される溶離カクテルを用いて、QMAカートリッジから溶出した(メス側)。続いて、空気でQMAカートリッジを洗い(20mL、メス側)、得られた液滴を先の溶出液と1つにまとめた。その後、溶出液を、無水MeCN中のシュウ酸溶液(1M、30μL、30μmol)で部分的に中和した。
【0151】
放射性フッ素化のための一般的手順
GR1:[18F]フッ化物溶出液を、室温で5分間、無水DMSO中の前駆体化合物溶液(1mM、150μL、150nmol)とともにインキュベートした。
GR2:[18F]フッ化物溶出液を、室温で5分間、無水DMSO中の前駆体化合物の溶液(1mM、30μL、30nmol)とともにインキュベートした。
GR3:[18F]フッ化物溶出液を、室温で10分間、無水DMSO中の前駆体化合物の溶液(1mM、30μL、30nmol)とともにインキュベートした。
GR4:[18F]フッ化物溶出液を、95℃で10分間、無水DMSO中の前駆体化合物の溶液(1mM、30μL、30nmol)とともにインキュベートした。
GR5:[18F]フッ化物溶出液を、65℃で8分間、無水DMSO中の前駆体化合物の溶液(1mM、0.5μL、0.5nmol)とともにインキュベートした。
GR6:[18F]フッ化物溶出液を、70℃で5分間、無水DMSO中の前駆体化合物の溶液(1mM、0.5μL、0.5nmol)とともにインキュベートした。
【0152】
18F標識化合物の後処理のための一般的手順
GW1:反応混合物を、PBS(1M 水性HClでpH=3、10mL)で希釈し、無水EtOH(10mL)および水(10mL)であらかじめ予備調整したHLBカートリッジに通した(メス側)。最後に、HLBカートリッジを、PBSで洗い(10mL、メス側)、空気で乾燥し(20mL、メス側)、無水EtOHと水の混合物(1:1、v/v、300μL、メス側)を用いて、放射性フッ素化された化合物を溶出した。
【0153】
本発明の発展
[18F]フッ化物のカートリッジ上での乾燥方法が、典型的な共沸蒸留と比較して容易さおよび効率の観点からより都合がよいことが実証されたので、この手法を本発明に組み込んだ。したがって、水性[18F]フッ化物は、Sep-Pak(登録商標)QMA Carbonate(吸収剤重量46mg、イオン交換容量230μeqg-1)に捕捉され、逆方向に溶出される前に、空気、MeCN(10mL)、および再度空気で乾燥させた。最初の課題は、アニオン交換樹脂から乾燥した放射性物質(activity)を効率的に放出することができる代替の溶離カクテル組成物を見出すことにあった。このステップは、最終的なRCY、したがって方法全体の成否に特に影響を及ぼすため、非常に重要である。この点、ミュンヘン法で使用される溶離カクテル(500μLのMeCN中に、83μmolのKOHおよび91μmolのKryptofix(登録商標)222)は、ほぼ定量的な回収率(98.3±0.6%、n=9)を可能にするため、効率的な組成物である。少量(500~1000μL)のMeCNおよびDMSOを、乾燥した[18F]フッ化物の溶出のために検討した。続く溶離塩の選択は、上記双極性非プロトン性媒体における溶解度によって制限された。金属イオンの錯体化のための有毒なKryptofix(登録商標)222を必要とすることを回避する目的で、塩のカチオンとしてアンモニウムまたはテトラアルキルアンモニウムを選択した。対応する対イオンとして、トリフラートイオン、ヨウ化物イオン、酢酸イオン、およびギ酸イオンを含む数種の塩を、QMA樹脂から[18F]フッ化物を取り除く能力に関して調査した(表1)。水酸化物と比較してかなり低くなければならないアニオンの塩基性度に特に注意を払った。このような条件が、放射性標識前に溶出液をさらに中和することを省略するための鍵になると考えられた。そうは言うものの、溶出液は、[18F]フッ化物と一緒にQMAカートリッジから常に共溶出される微量の炭酸塩によってわずかに塩基性を維持している。エントリー1~5は、以下の表で比較目的のための参照例として提供される。
【0154】
【0155】
乾燥させた[18F]フッ化物の放出を促進するために、すべてのエントリーにおいておおよそ等しい高いモル濃度の塩を使用した。しかしながら、調査したMeCN中にテトラブチルアンモニウム塩を含有する溶液(エントリー1および2)はともに、溶離液(eluent)として適当でないことが明らかになった。後者の塩に関して、そのアンモニウム類似体を、溶媒としてDMSOと組み合わせて使用すると(エントリー3)、溶出効率が約47%に著しく向上した。同様の効果が、評価した酢酸塩に観察された。DMSO中のNMe4OAc溶液(エントリー4)がQMA樹脂から放射能をごくわずかに取り除いた一方で、DMSO中のNH4OAcから構成される溶離カクテル(エントリー5)は、77%を超える回収率を達成した。酢酸塩をギ酸塩で置換すると、さらにより有利であることがわかった。したがって、DMSO中のNH4HCOOを使用した場合(エントリー6および7)、溶出効率はほぼ90%に向上した。DMSOの体積を2倍にすると(エントリー7)、[18F]フッ化物の回収率がわずかに向上した。後に続くシリコン系フッ化物アクセプタとの放射性フッ素化における濃度依存的な同位体交換速度を遅くするため、溶離液の体積を増やして回収率を高める価値はないので、溶媒の量は500μLに保った。
【0156】
さらなる最適化研究において、使用したDMSO中のNH4HCOOのモル量と、それぞれの[18F]フッ化物溶出能との相関関係を明らかにした(表2)。この一連の実験においては、異なる溶媒を必要とすることを回避するために、QMAに結合した放射性物質(activity)の乾燥はDMSO(8mL)を用いて行った。500μLのDMSOに634μmolのNH4HCOOを溶解させると、ほぼ飽和した溶液をもたらすため、より低いまたは等しいモル量のみを調査した。エントリー1は、比較目的の参照例として提供される。
【0157】
【0158】
塩の量が増加するとともに溶出効率は向上し、634μmolのNH4HCOOを使用した場合(エントリー5)、最大の88%超に達した。この[18F]フッ化物の回収率は、同等の溶離カクテル組成物を使用して先に決定した値と一致していた(表1、エントリー6)。したがって、先行するQMAカートリッジ上での[18F]フッ化物の乾燥のための双極性非プロトン性溶媒(10mLのMeCNまたは8mLのDMSO)の選択は、溶出ステップに影響を及ぼさないように思われた。
【0159】
[18F]フッ化物の回収率をさらに向上することを目的として、溶離カクテル中の所定の水の量の影響を検討した(表3)。追加の含水率を有する非プロトン性溶離液の溶出効率への有益な効果は、別のグループによって先に実証されていた。たとえば、BrichardとAigbirhioは、最大5%までの水を含有する1mLの非プロトン性溶媒(MeCN、DMSOまたはDMF)中に78μmolのNEt4HCO3を溶解した溶離カクテルを使用した(非特許文献14)。両著者は、水の濃度に対応した[18F]フッ化物の回収率の漸増を観察した(非特許文献14)。同様の効果が、含水率を次第に高めたMeCNまたはDMSO溶液中の様々なテトラエチルアンモニウム塩を使用したときに、一貫してより高い溶出効率が観察可能であることを示したInksterらによっても、報告されていた(非特許文献15)。しかしながら、水の添加による[18F]フッ化物の回収率の向上は、溶出液の反応性を犠牲とすることに留意しなければならなかった。溶離カクテル中での所定の含水率の利点を判断するためには、得られた溶出液を使用して、達成可能なRCYを決定することが非常に重要であった。そのために、臨床的に確立された、シリコン系フッ化物アクセプタを有するPSMAリガンドnatGa-rhPSMA-7.3をモデル化合物として使用した。
【0160】
【0161】
上述の観察と一致して、溶出効率は、溶離カクテルに水を加えることでさらに向上することがわかった。1%の含水率を有する溶離液が、ほぼ93%の[18F]フッ化物の回収率を示した(エントリー2)一方で、無水類似体(エントリー1)は、捕捉した放射能の約88%を放出した。最も効率的な[18F]フッ化物の排出(95%超)は、その体積の10%が水に相当する溶離カクテルを使用して測定された(エントリー6)。溶出液の反応性を評価することを目的として、後に続くnatGa-rhPSMA-7.3の18F標識を室温で5分間行った。興味深いことに、最大2%までの含水率を有する溶出液を使用した場合(エントリー1、2、および3)、放射性フッ素化反応におけるRCYは、同等の範囲であった。より高い[18F]フッ化物の回収率は結果的に、その水の量に起因してより低い溶出液の反応性と相対的なものとなった。さらにより高い含水率を有する溶出液が関与する放射性フッ素化反応は、より低いRCYを与える傾向にあり(エントリー4および6)、概して再現性が低かった(エントリー5および6)。溶離カクテルに水を加えることは、大きな利点ではないため、溶離液は、その無水組成に保つことが好ましい(エントリー1)。
【0162】
本発明に照らして使用される好ましい[
18F]フッ化物の調製手法、および後に続く、シリコン系フッ化物アクセプタの放射性フッ素化のための[
18F]フッ化物溶出液の使用のスキームが
図2に提供される。
図2は、本発明に係る好ましい[
18F]フッ化物の調製(ステップ1~3)、後に続く、シリコン系フッ化物アクセプタを有する化合物の放射性フッ素化のための使用(ステップ4~5)、および固相抽出による最終的な放射性トレーサーの精製(ステップ6~9)を示す。
【0163】
放射性フッ素化方法
ミュンヘン法と直接比較したnatGa-rhPSMA-7.3の放射性フッ素化
本発明の性能を評価するために、放射能の回収率、および後に続く、natGa-rhPSMA-7.3の放射性フッ素化におけるRCYに関して、確立されたミュンヘン法との直接比較を行った(表4)。このために、natGa-rhPSMA-7.3を、部分的に中和されたミュンヘン法による溶出液(GP2およびGE2)を用いて18F標識し(GR1)、その後、固相抽出によって精製した(GW1)。加えて、natGa-rhPSMA-7.3を、本発明によって調製した[18F]フッ化物(GP1およびGE1)を用いて放射性フッ素化し(GR1)、続いて、固相抽出によって精製した(GW1)。表中のエントリー1は、比較目的の参照例として提供される。
【0164】
【0165】
溶出効率に関しては、ミュンヘン法による溶離カクテル(エントリー1)が、本発明の溶離液(エントリー2)を約10%上回ることが判明した。注目すべきことに、本発明では[18F]フッ化物の回収率がかなり低いにもかかわらず、どちらの方法における[18F]natGa-rhPSMA-7.3のRCYもほぼ同じであることがわかった。したがって、本発明によってもたらされる溶出液の標識環境は、そのより低い溶出効率を埋め合わせる程度、同位体交換反応に好都合であると推定される。
【0166】
シリコン系フッ化物アクセプタを有する塩基に敏感な化合物の放射性フッ素化
シリコン系フッ化物アクセプタを有する塩基に敏感な化合物を、最初に部分的に中和されたミュンヘン法による溶出液(GP2およびGE2)を用いて
18F標識し(GR2)、その後、固相抽出によって精製した(GW1)。しかしながら、ラジオ逆相HPLC(Radio-RP-HPLC)による後の分析(
図3、A)では、最終調製物における、望ましい生成物(t
R=9.6分)の合成だけでなく、放射性フッ素化された不純物(t
R=10.1分)の存在も明らかとなった。一方、本発明によって調製した[
18F]フッ化物(GP1およびGE1)を用いた同じ化合物の放射性フッ素化(GR2およびGW1)は、不純物のない
18F標識生成物のみを形成した(
図3、B)。この実験は、ミュンヘン法による溶出液の標識環境が塩基に敏感な構造と適合しない可能性があることを示し、本発明の有用性を際立たせている。具体的には、
図3は、固相抽出によって精製した、
18F標識した塩基に敏感なシリコン系フッ化物アクセプタを有する化合物のラジオ逆相HPLCクロマトグラム(カラムI、A中の10→70%B、15分、A中の95%B、5分、t
R=9.6分)を示す。A)ミュンヘン法による[
18F]フッ化物の調製、および後に続く部分的な中和。B)本発明に係る[
18F]フッ化物の調製。
【0167】
加熱下でのシリコン系フッ化物アクセプタを有する葉酸受容体アルファリガンドの放射性フッ素化
室温(GR3)および95℃(GR4)で、部分的に中和されたミュンヘン法による溶出液(GP2およびGE2)を用いて、シリコン系フッ化物アクセプタを有する葉酸受容体アルファリガンドを放射性フッ素化し、続いて、それぞれの生成物を固相抽出によって精製した(GW1)。本発明によって調製した[18F]フッ化物(GP1およびGE1)を使用して、同じ温度(室温、GR3、および95℃、GR4)で放射性フッ素化を繰り返し、続いて、類似の生成物精製(GW1)を行った。上述の条件下で測定した葉酸受容体アルファリガンドの放射性フッ素化におけるRCYは、以下のとおり要約される(表5)。
【0168】
【0169】
本発明によって調製した[
18F]フッ化物を使用した室温での放射性フッ素化では、RCYは約20%となった。部分的に中和されたミュンヘン法による溶出液が関与する類似の反応は、より高いRCY(36.0±2.0%)で
18F標識リガンドをもたらした。しかしながら、95℃で放射性標識反応を行うと、状況は逆となった。この場合、部分的に中和されたミュンヘン法による溶出液を用いた
18F標識では、RCYが低下した一方で、本発明によって生成した溶出液の加熱下での放射性フッ素化は、非常に効率的(54.1±9.6%)であることがわかった。これらの結果を説明するために、最終生成物の比較によるラジオ逆相HPLC分析を行った(
図4、A~D)。具体的には、
図4は、固相抽出によって精製した、
18F標識シリコン系フッ化物アクセプタを有する葉酸受容体アルファリガンドのラジオ逆相HPLCクロマトグラム(カラムII、A中の10→70%B、15分、A中の95%B、5分、t
R=13.0分)を示す。A)本発明による[
18F]フッ化物の調製、および室温での放射性フッ素化。B)本発明に従う[
18F]フッ化物の調製、および95℃での放射性フッ素化。C)ミュンヘン法による[
18F]フッ化物の調製、後に続く溶出液の部分的な中和および室温での放射性フッ素化。D)ミュンヘン法に従う[
18F]フッ化物の調製、後に続く溶出液の部分的な中和および95℃での放射性フッ素化。
【0170】
葉酸受容体アルファリガンドを、本発明によって生成した溶出液を用いて室温(
図4、A)または95℃(
図4、B)で放射性フッ素化すると、固相抽出後に不純物のない
18F標識生成物が得られた。部分的に中和されたミュンヘン法による溶出液を用いて実験を繰り返すと、放射性フッ素化が室温で起こったときに、同じ結果となった(
図4、C)。一方、95℃に加熱された部分的に中和されたミュンヘン法による溶出液によってもたらされた放射性リガンドの精製物は、未知の副生物(t
R=12.4分)の追加的な形成を示した(
図4、D)。この知見は、ミュンヘン法による溶出液が、おそらくその塩基性環境の反応性が付随して増すことに起因して、より高い温度と適合しないことを示す。その結果、RCYを高める手段として反応混合物を加熱することは、本発明によって調製した溶出液にのみ適用可能である。これにより、熱に敏感でないシリコン系フッ化物アクセプタの放射性フッ素化における、概してより高いRCYを得ることが可能となる。
【0171】
最少量の前駆体を用いた様々なsiPSMAリガンドの放射性フッ素化
GP1およびGE1に従って、215MBqの水性[18F]フッ化物をQMAカートリッジ上に捕捉し、乾燥し、溶出した。その溶出液を、GR5およびGW1に従ってsiPSMA-01の放射性フッ素化に使用した。18F-siPSMA-01が、11.1%のRCYおよび47.8GBq/μmolのAmで調製された。
【0172】
GP1およびGE1に従って、145MBqの水性[18F]フッ化物をQMAカートリッジ上に捕捉し、乾燥し、溶出した。その溶出液を、GR6およびGW1に従って、siPSMA-02の放射性フッ素化に使用した。18F-siPSMA-02が、9.6%のRCYおよび27.9GBq/μmolのAmで調製された。
【0173】
GP1およびGE1に従って、142MBqの水性[18F]フッ化物をQMAカートリッジ上に捕捉し、乾燥し、溶出した。その溶出液を、GR6およびGW1に従って、siPSMA-03の放射性フッ素化に使用した。18F-siPSMA-03が、8.5%のRCYおよび24.2GBq/μmolのAmで調製された。
【0174】
GP1およびGE1に従って、125MBqの水性[18F]フッ化物をQMAカートリッジ上に捕捉し、乾燥し、溶出した。その溶出液を、GR6およびGW1に従って、siPSMA-04の放射性フッ素化に使用した。18F-siPSMA-04が、10.9%のRCYおよび27.1GBq/μmolのAmで調製された。
【0175】
GP1およびGE1に従って、169MBqの水性[18F]フッ化物をQMAカートリッジ上に捕捉し、乾燥し、溶出した。その溶出液を、GR6およびGW1に従って、siPSMA-05の放射性フッ素化に使用した。18F-siPSMA-05が、8.5%のRCYおよび28.7GBq/μmolのAmで調製された。
【0176】
GP1およびGE1に従って、148MBqの水性[18F]フッ化物をQMAカートリッジ上に捕捉し、乾燥し、溶出した。その溶出液を、GR6およびGW1に従って、siPSMA-06の放射性フッ素化に使用した。18F-siPSMA-06が、12.1%のRCYおよび35.9GBq/μmolのAmで調製された。
【0177】
GP1およびGE1に従って、180MBqの水性[18F]フッ化物をQMAカートリッジ上に捕捉し、乾燥し、溶出した。その溶出液を、GR6およびGW1に従って、siPSMA-07の放射性フッ素化に使用した。18F-siPSMA-07が、10.5%のRCYおよび37.9GBq/μmolのAmで調製された。
【0178】
GP1およびGE1に従って、161MBqの水性[18F]フッ化物をQMAカートリッジ上に捕捉し、乾燥し、溶出した。その溶出液を、GR5およびGW1に従って、siPSMA-08の放射性フッ素化に使用した。18F-siPSMA-08が、12.1%のRCYおよび38.9GBq/μmolのAmで調製された。
【0179】
GP1およびGE1に従って、168MBqの水性[18F]フッ化物をQMAカートリッジ上に捕捉し、乾燥し、溶出した。その溶出液を、GR6およびGW1に従って、siPSMA-09の放射性フッ素化に使用した。18F-siPSMA-09が、7.9%のRCYおよび26.6GBq/μmolのAmで調製された。
【0180】
GP1およびGE1に従って、279MBqの水性[18F]フッ化物をQMAカートリッジ上に捕捉し、乾燥し、溶出した。その溶出液を、GR5およびGW1に従って、siPSMA-11の放射性フッ素化に使用した。18F-siPSMA-11が、11.2%のRCYおよび62.5GBq/μmolのAmで調製された。
【0181】
GP1およびGE1に従って、161MBqの水性[18F]フッ化物をQMAカートリッジ上に捕捉し、乾燥し、溶出した。その溶出液を、GR6およびGW1に従って、siPSMA-12Dの放射性フッ素化に使用した。18F-siPSMA-12Dが、8.6%のRCYおよび27.7GBq/μmolのAmで調製された。
【0182】
GP1およびGE1に従って、205MBqの水性[18F]フッ化物をQMAカートリッジ上に捕捉し、乾燥し、溶出した。その溶出液を、GR5およびGW1に従って、siPSMA-12Lの放射性フッ素化に使用した。18F-siPSMA-12Lが、11.0%のRCYおよび45.2GBq/μmolのAmで調製された。
【0183】
GP1およびGE1に従って、200MBqの水性[18F]フッ化物をQMAカートリッジ上に捕捉し、乾燥し、溶出した。その溶出液を、GR6およびGW1に従って、siPSMA-13の放射性フッ素化に使用した。18F-siPSMA-13が、8.5%のRCYおよび33.8GBq/μmolのAmで調製された。
【0184】
GP1およびGE1に従って、230MBqの水性[18F]フッ化物をQMAカートリッジ上に捕捉し、乾燥し、溶出した。その溶出液を、GR5およびGW1に従って、siPSMA-14の放射性フッ素化に使用した。18F-siPSMA-14が、5.5%のRCYおよび25.2GBq/μmolのAmで調製された。
【0185】
GP1およびGE1に従って、160MBqの水性[18F]フッ化物をQMAカートリッジ上に捕捉し、乾燥し、溶出した。その溶出液を、GR6およびGW1に従って、siPSMA-15の放射性フッ素化に使用した。18F-siPSMA-15が、6.6%のRCYおよび21.2GBq/μmolのAmで調製された。
【0186】
GP1およびGE1に従って、171MBqの水性[18F]フッ化物をQMAカートリッジ上に捕捉し、乾燥し、溶出した。その溶出液を、GR6およびGW1に従って、siPSMA-16の放射性フッ素化に使用した。18F-siPSMA-16が、5.3%のRCYおよび18.2GBq/μmolのAmで調製された。
GP1およびGE1に従って、273MBqの水性[18F]フッ化物をQMAカートリッジ上に捕捉し、乾燥し、溶出した。その溶出液を、GR5およびGW1に従って、siPSMA-17の放射性フッ素化に使用した。18F-siPSMA-17が、12.4%のRCYおよび58.8GBq/μmolのAmで調製された。
【0187】
GP1およびGE1に従って、206MBqの水性[18F]フッ化物をQMAカートリッジ上に捕捉し、乾燥し、溶出した。その溶出液を、GR5およびGW1に従って、siPSMA-18Dの放射性フッ素化に使用した。18F-siPSMA-18Dが、13.9%のRCYおよび57.3GBq/μmolのAmで調製された。
【0188】
GP1およびGE1に従って、193MBqの水性[18F]フッ化物をQMAカートリッジ上に捕捉し、乾燥し、溶出した。その溶出液を、GR5およびGW1に従って、siPSMA-18Lの放射性フッ素化に使用した。18F-siPSMA-18Lが、12.9%のRCYおよび49.8GBq/μmolのAmで調製された。
【0189】
GP1およびGE1に従って、250MBqの水性[18F]フッ化物をQMAカートリッジ上に捕捉し、乾燥し、溶出した。その溶出液を、GR6およびGW1に従って、siPSMA-19の放射性フッ素化に使用した。18F-siPSMA-19が、7.9%のRCYおよび39.7GBq/μmolのAmで調製された。
【0190】
GP1およびGE1に従って、257MBqの水性[18F]フッ化物をQMAカートリッジ上に捕捉し、乾燥し、溶出した。その溶出液を、GR5およびGW1に従って、siPSMA-20の放射性フッ素化に使用した。18F-siPSMA-20が、8.3%のRCYおよび42.5GBq/μmolのAmで調製された。
【0191】
GP1およびGE1に従って、223MBqの水性[18F]フッ化物をQMAカートリッジ上に捕捉し、乾燥し、溶出した。その溶出液を、GR5およびGW1に従って、siPSMA-21の放射性フッ素化に使用した。18F-siPSMA-21が、11.2%のRCYおよび50.1GBq/μmolのAmで調製された。
【0192】
用語および略語
【0193】
【国際調査報告】