(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-28
(54)【発明の名称】スクリーニング電流を低減するHTS磁石ランピング
(51)【国際特許分類】
H01F 6/00 20060101AFI20241121BHJP
H01F 6/04 20060101ALI20241121BHJP
H10N 60/81 20230101ALI20241121BHJP
H10N 60/80 20230101ALI20241121BHJP
【FI】
H01F6/00 160
H01F6/04
H10N60/81 ZAA
H10N60/80 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024531078
(86)(22)【出願日】2022-11-25
(85)【翻訳文提出日】2024-07-10
(86)【国際出願番号】 EP2022083314
(87)【国際公開番号】W WO2023094611
(87)【国際公開日】2023-06-01
(32)【優先日】2021-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512317995
【氏名又は名称】トカマク エナジー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】スレード、 ロバート
(72)【発明者】
【氏名】ベイトマン、 ロッド
(72)【発明者】
【氏名】ブリトルズ、 グレッグ
(72)【発明者】
【氏名】ブリストウ、 マシュー
(72)【発明者】
【氏名】ヴァン ノグテレン、 ジェロン
(72)【発明者】
【氏名】ヴァン ノグテレン、 バス
【テーマコード(参考)】
4M114
【Fターム(参考)】
4M114BB10
4M114CC03
4M114DB02
4M114DB47
4M114DB62
(57)【要約】
高温超伝導(HTS)コイルに、初期輸送電流から最終輸送電流まで通電又は通電解除する方法である。HTSコイルは、複数の巻線のHTS材料を含む。輸送電流がHTSコイルに供給され、この輸送電流が、初期輸送電流から開始し、最終輸送電流まで経時的に変化する。HTSコイルには冷却が適用される。HTSコイルの動作状態が監視される。ここで、動作状態は、HTSコイルの少なくとも一部におけるHTS材料の臨界電流Icに対する輸送電流Iの比I/Icを示す。示された比I/Icを、しきい比(例えば0.7)を上回るように維持するべく、コイルに適用される輸送電流とコイルに適用される正味冷却との一方又は双方が、通電又は通電解除中に動作状態を所望範囲に維持するように、動作状態に応じてフィードバックループにおいて制御される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温超伝導(HTS)コイルを初期輸送電流から最終輸送電流まで通電又は通電解除する方法であって、
前記HTSコイルはHTS材料の複数の巻線を含み、
前記方法は、
輸送電流を前記HTSコイルに供給することであって、前記輸送電流が、前記初期輸送電流から開始して前記最終輸送電流まで経時的に変化することと、
前記HTSコイルに冷却を適用することと、
前記HTSコイルの動作状態を監視することであって、前記動作状態は、前記HTSコイルの少なくとも一部における前記HTS材料の臨界電流I
cに対する輸送電流Iの比I/I
cを示すことと、
示された比I/I
cを、しきい比を上回るように維持するべく、前記コイルに適用される前記輸送電流と前記コイルに適用される正味冷却との一方又は双方を、通電又は通電解除中に所望範囲において前記動作状態を維持するように、前記動作状態に応じてフィードバックループにおいて制御することとを含む、方法。
【請求項2】
前記しきい比は少なくとも0.7である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記動作状態は、前記HTSコイル両端間の前記始点終点間電圧の非誘導成分である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記HTSコイル両端間の前記始点終点間電圧の前記非誘導成分は、前記HTSコイル両端間の総合始点終点間電圧を監視することによって監視され、
前記非誘導成分は、
輸送電流の変化率に応じて、事前計算された誘導電圧を減算すること、
前記HTSコイルをモデル化することであって、前記モデルは、少なくとも、前記総合始点終点間電圧、前記輸送電流、前記HTSコイルの被監視温度、及び前記HTSコイルによって作られる被監視磁場を入力として取り込むこと、又は
前記総合始点終点間電圧と、前記HTSコイルと共巻き又は誘導結合されたピックアップコイルの両端間の電圧との差分として前記非誘導成分を決定すること
のうちの一つによって決定される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記動作状態は、前記HTS材料における電流が、隣接する非超伝導材料の中に流出していることを示す、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記動作状態は、前記HTSコイルの温度変化率であり、前記温度変化率は、前記輸送電流及び/又は前記正味冷却に依存する所望の範囲内に維持される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記正味冷却は、
前記HTSコイルに適用される冷却を制御することと、
前記HTSコイルに加熱を適用することと
のうちの一方又は双方を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
高温超伝導(HTS)コイルを初期輸送電流から最終輸送電流まで通電又は通電解除する方法であって、
前記HTSコイルはHTS材料の複数の巻線を含み、
前記方法は、
輸送電流を前記HTSコイルに供給することであって、前記輸送電流が、前記初期輸送電流から開始して前記最終輸送電流まで経時的に変化することと、
前記HTSコイルの両端間の始点から終点までの電圧を監視することと、
前記HTS材料の温度を前記HTS材料のゼロ磁場臨界温度以下に維持するために、前記HTSコイルに冷却を適用することと、
前記輸送電流の変化率、又は
前記コイルに適用される正味冷却電力
のうちの一方又は双方を、前記HTSコイルの両端間の前記始点終点間電圧の前記非誘導成分が、少なくとも前記輸送電流が前記最終輸送電流に等しくなるまで、しきい値を上回ったままとなるように制御することであって、前記正味冷却電力は、前記コイルの適用冷却及び任意の適用加熱を含むことと
を含む、方法。
【請求項9】
前記非誘導成分を監視することは、総合始点終点間電圧を監視することと、
輸送電流の変化率に応じて、事前計算された誘導電圧を減算すること、及び
前記HTSコイルをモデル化することであって、前記モデルは、少なくとも、前記総合始点終点間電圧、前記輸送電流、前記HTSコイルの被監視温度、及び前記HTSコイルによって作られる被監視磁場を入力として取り込むこと
のうちの一方によって前記非誘導成分を決定することと
を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記非誘導成分を監視することは、
前記HTSコイルの総合始点終点間電圧を監視することと、
前記HTSコイルの第1端と共巻きピックアップコイルの第1端との間の電圧であるピックアップ電圧を監視することであって、前記ピックアップコイルは、第2端が前記HTSコイルの第2端に直接電気的に接続されるが、他のいずれも前記HTSコイルに直接電気的に接続されないことと、
前記非誘導成分を、前記始点終点間電圧と前記ピックアップ電圧との差分として決定することと
を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記HTSコイルの非誘導性の始点終点間電圧が、前記HTSコイルの前記HTS材料の長さ1メートル当たり0.5マイクロボルト(μV/m)を上回ったままであり、好ましくは1(μV/m)を上回ったままであり、好ましくは10(μV/m)を上回ったままであり、好ましくは100(μV/m)を上回ったままである、請求項8、9又は10に記載の方法。
【請求項12】
高温超伝導(HTS)コイルを初期輸送電流から最終輸送電流まで通電又は通電解除する方法であって、
前記HTSコイルはHTS材料の複数の巻線を含み、
前記方法は、
輸送電流を前記HTSコイルに供給することであって、前記輸送電流が、前記初期輸送電流から開始して前記最終輸送電流まで経時的に変化することと、
前記HTSコイルの温度を監視することと、
前記HTS材料の温度を前記HTS材料のゼロ磁場臨界温度以下に維持するために、前記HTSコイルに冷却を適用することと、
前記輸送電流の変化率、又は
前記コイルに適用される正味冷却電力
のうちの一方又は双方を、前記HTSコイルの温度の経時的な変化率が、輸送電流及び/又は正味冷却電力の制御された変化率に応じた事前決定されたしきい値を超えないように制御することであって、前記正味冷却電力は、前記コイルの適用冷却及び任意の適用加熱を含むことと
を含む、方法。
【請求項13】
前記磁石は通電されており、温度の変化率を一定の負の値に維持することを含む請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記磁石を加熱器によって加熱することを含み、
前記正味冷却電力を制御することは、前記加熱器の電力を調整することを含む、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
前記磁石は通電されており、前記初期輸送電流は前記最終輸送電流よりも小さく、前記事前決定されたしきい値は負である、請求項12、13又は14に記載の方法。
【請求項16】
高温超伝導(HTS)磁石システムであって、
HTS材料の複数の巻線を含むHTSコイルと、
輸送電流を前記HTSコイルに供給するように構成された電源と、
前記HTS材料の温度を前記HTS材料のゼロ磁場臨界温度以下に維持するべく冷却を前記HTSコイルに適用するように構成された冷却システムと、
前記HTSコイルの始点終点間電圧を監視するように構成された電圧監視システムと、
制御器と
を含み、
前記制御器は、
初期輸送電流において開始して最終輸送電流まで経時的に変化する輸送電流を前記電源に与えさせることと、
監視された前記HTSコイルの始点終点間電圧の非誘導成分を決定することと
前記輸送電流の変化率、
前記コイルに適用された正味冷却電力
のうちの一方又は双方を、前記HTSコイルの前記始点終点間電圧の前記非誘導成分が、少なくとも前記輸送電流が前記最終輸送電流に等しくなるまで、しきい値を上回ったままとなるように制御することであって、前記正味冷却電力は、前記冷却システムによって適用された冷却と前記コイルの任意の適用された加熱とを含むことと
によって前記磁石のランピングを制御するように構成される、HTS磁石システム。
【請求項17】
前記HTSコイルは共巻きピックアップコイルを含み、
前記ピックアップコイルは、第2端が前記HTSコイルの第2端に直接電気的に接続されるが、他のいずれも前記HTSコイルに直接電気的に接続されず、
前記電圧監視システムはさらに、前記HTSコイルの第1端と前記共巻きピックアップコイルの第1端との間の電圧であるピックアップ電圧を監視するように構成され、
前記制御装置は、前記始点終点間電圧の非誘導成分を、前記HTSコイルの監視された始点終点間電圧と前記ピックアップ電圧とに基づいて決定するように構成される、請求項16に記載のHTS磁石システム。
【請求項18】
高温超伝導(HTS)磁石システムであって、
HTS材料の複数の巻線を含むHTSコイルと、
輸送電流を前記HTSコイルに供給するように構成された電源と、
前記HTS材料の温度を前記HTS材料のゼロ磁場臨界温度以下に維持するべく冷却を前記HTSコイルに適用するように構成された冷却システムと、
制御器と
を含み、
前記制御器は、
初期輸送電流において開始して最終輸送電流まで経時的に変化する輸送電流を電源に与えさせることと、
前記輸送電流の変化率、又は
前記コイルに適用される正味冷却電力
のうちの一方又は双方を、前記HTSコイルの温度の経時的な変化率が、輸送電流及び/又は正味冷却電力の制御された変化率に応じた事前決定されたしきい値を超えないように制御することであって、前記正味冷却電力は、前記コイルの適用冷却及び任意の適用加熱を含むことと
によって前記磁石のランピングを制御するように構成される、HTS磁石システム。
【請求項19】
前記制御器は、輸送電流及び/又は正味冷却電力の変化率を、温度の変化率を一定の負の値に維持するべく制御するように構成される、請求項18に記載のHTS磁石システム。
【請求項20】
前記制御器は、前記HTSコイルに与えられる冷却を前記冷却システムに調整させることと、
前記HTSコイルと熱的に接触する一以上の加熱器に電流を供給することであって、前記HTS磁石システムは前記加熱器を含むことと
のうち一以上によって、前記コイルに適用される前記正味冷却電力を制御するように構成される、請求項16から19のいずれか一項に記載のHTS磁石システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超伝導磁石に関する。詳しくは、本発明は、超伝導磁石をランピングする(すなわち通電又は通電解除してその輸送電流を変化させる)方法、及びその方法を実装した装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超伝導材料は典型的に、「高温超伝導体」(HTS)と「低温超伝導体」(LTS)とに分類される。Nb及びNbTiのようなLTS材料は、その超伝導がBCS理論によって記述できる金属又は金属合金である。すべての低温超伝導体は、約30Kを下回る自己場臨界温度(それを上回ると外部磁場がゼロでも超伝導になり得ない温度)を有する。HTS材料の挙動はBCS理論によっては記述されず、かかる材料は約30Kを上回る自己場臨界温度を有し得る(ただし、HTS及びLTS材料を定義するのは、自己場臨界温度ではなく、組成及び超伝導動作の物理的な違いであることに留意すべきである)。最も一般的に使用されるHTSは「銅酸化物超伝導体」である。これは、BSCCO又はReBCO(ここでReは希土類元素であり、一般にY、Eu又はGdである)のような銅酸化物(銅酸化物基を含む化合物)をベースにしたセラミックスである。他のHTS材料は、鉄ニクダイド(iron pnictide)(例えばFeAs及びFeSe)及び二ホウ酸マグネシウム(MgB2)を含む。
【0003】
ReBCOは典型的に、
図1に示される構造を有するテープとして製造される。かかるテープ100は一般に、近似的に100ミクロンの厚さであり、基材101(典型的には電解研磨されたニッケル・モリブデン合金(例えば近似的に50ミクロンの厚さのハステロイ(登録商標)))を含み、その上には、IBAD、マグネトロンスパッタリング、又は他の適切な技法によって、近似的な厚さが0.2ミクロンのバッファスタック102として知られる一連のバッファ層が堆積される。エピタキシャルReBCO・HTS層103(金属酸化物化学蒸着(MOCVD)又は他の適切な技法によって堆積される)が、バッファスタックに重なり、典型的には1ミクロンの厚さである。1~2ミクロンの銀層104が、スパッタリング又は他の適切な技法によってHTS層上に堆積され、銅スタビライザ層105が、電気メッキ又は他の適切な技法によってテープ上に堆積され、多くの場合、テープは完全にカプセル化される。銀層104及び銅スタビライザ層105は、テープ100及び基材101の側面にも堆積されるので、これらの層が、テープ100まわりに連続的に延びることにより、テープ100のいずれかの面からReBCO・HTS層103への電気接続がなされることが許容される。したがって、これらの層104、105は、「クラッディング」とも称される。典型的に、銀クラッディングは、テープの両側面及び両エッジの双方において、ほぼ1~2ミクロンの均一な厚さを有する。HTS層103と銅層105との間に銀層104を設けることにより、銅によるHTS材料の汚染をもたらし得るHTS材料が銅と接触することが防止される。テープ100の両側面上にある銀層104及び銅スタビライザ層105の複数部分は、明確性を目的として
図1に示されていない。
図1にはまた、通常の場合のように、基材101の下に延びる銀層104も示されていない。銀層104は、ReBCO層103に対する低抵抗の電気的インターフェースをなし、ReBCO層103まわりの気密保護シールをなす一方、銅層105は、テープへの外部接続を可能にし(例えば、はんだ付けを許容し)、電気的安定化のための平行導電経路を与える。
【0004】
加えて、「剥離された」HTSテープを製造することができる。これは、基材及びバッファスタックを欠くが、典型的には銀の「周囲コーティング」、すなわちHTS層の両側面及び両エッジにおける層、を有する。基材を有するテープは、「基材付き」HTSテープと称される。
【0005】
HTSケーブルは、導電材料(通常は銅)を介して長さにその沿って接続された一以上のHTSテープを含む。HTSテープは、積層されて(すなわち、HTS層が平行になるように配列されて)よく、又はケーブルの長さに沿って変わり得る他のテープ配列を有してよい。HTSケーブルの注目すべき特別なケースは、単一のHTSテープ、及びHTSペアである。HTSペアは、HTS層が平行となるように配列されたHTSテープの一ペアを含む。基材付きテープが使用される場合、HTSペアは、タイプ0(HTS層が互いに対向する)、タイプ1(一方のテープのHTS層が他方のテープの基材に対向する)、又はタイプ2(基材が互いに対向する)となり得る。2つを超えるテープを含むケーブルは、当該テープの一部又はすべてをHTSペアに配列することができる。積層されたHTSテープは、HTSペアの様々な配列を含んでよく、最も一般的には、タイプ1ペアの積層、又はタイプ0ペア(又は同等にタイプ2ペア)の積層のいずれを含んでよい。HTSケーブルは、基材付きテープと剥離されたテープの混合を含み得る。
【0006】
超伝導磁石は、複数のHTSケーブル(又は、この記載の目的上、単一テープのケーブルとして扱い得る個別のHTSテープ)を、HTSケーブルを巻き取ること、又はHTSケーブルから作られたコイルのセクションを設けてこれらを一緒に結合することのいずれかにより、コイルに配列することによって形成される。HTSコイルは、以下の3つの広範なクラスに分類される。
・絶縁され、巻線間に電気絶縁材料を有する(その結果、電流はHTSケーブルを通る「らせん経路」にのみ流れ得る)。
・非絶縁であり、巻線は、ケーブルに沿ってだけでなく、径方向に電気的に接続されている。
・部分的に絶縁され、巻線は、(例えば銅と比較して)高抵抗の材料を使用すること、又はコイル間に断続的な絶縁を設けることのいずれかにより、制御された抵抗に径方向に接続されている。
【0007】
非絶縁のコイルはまた、部分的に絶縁されたコイルの低抵抗の場合とみなされ得る。
【0008】
HTS界磁コイルの一使用例は、ポロイダル磁場コイル又はトロイダル磁場コイルの一部又はすべてがHTSコイルとして実装され得るトカマクプラズマチャンバにある。これは、トロイダル磁場コイルの中心柱における電流密度が重要な設計パラメータである球形トカマクにおいて特に有用である。
【0009】
以下の説明において、磁石は、直列に接続された一定数のHTSコイルを含むものとして定義される。
【0010】
非絶縁又は部分絶縁のHTS磁石の通電又は充電は、電流が、らせん状の高インダクタンス経路まわりか又は径方向の低インダクタンス経路を通るかの2つの経路をとるので、完全絶縁のコイルの通電と比べて複雑である。このらせん状経路は、コイルが完全に超伝導になると、抵抗が無視できるほど小さくなる一方、径方向の経路は抵抗性になる。通電(すなわち、輸送電流を駆動するべく電源から端子へ電圧を印加することによりコイルをランピングすること)の間、らせん状経路の電流を変化させることによって発生する誘導電圧により、電源電流の一部が径方向の経路へと駆動される。電流の正確な分割は、当業界で知られているように計算することができる。ランピング速度が増加すると、多くの電流が径方向の経路に流れ、多くの加熱が引き起こされる。大きなコイルにおいては、最大ランピング速度が、利用可能な冷却電力によって設定される。すなわち、ランピング中の径方向電流の流れによって引き起こされる加熱は、コイル温度を非超伝導になるほどに上昇させてはならない。
【0011】
ランピングの後、電源電圧は、磁石のらせん状経路の残留抵抗を介し、電流を駆動するためにのみ必要なレベルまで低下する。その後、磁石は「安定化フェーズ」に入り、磁石には、磁場が安定するのに十分な時間、動作電流が維持される。
【0012】
磁場の不安定性は、(所望の輸送電流に加えて)磁石に誘導される寄生電流から生じ、これらの電流はそれぞれが磁石の磁場に寄与する。これらの電流には3つのタイプがある。
・非超伝導の(「通常の」)コンポーネントに誘導される閉ループの電流である「渦電流」。
・通常の媒体によって接合された隣接する超伝導コンポーネントに誘導される閉ループの電流である「結合電流」。この電流は、一つの超伝導コンポーネントに沿って通常の媒体を通るように流れ、その後、他の超伝導コンポーネントに沿って、通常の媒体を通るように戻ってループを完成させる。
・超伝導材料にのみ流れる閉ループの電流である「ヒステリシス電流」又は「遮蔽電流」としても知られる「スクリーニング電流」。
【0013】
「閉ループの電流」という言い回しは、電流が完全に特定の材料の中を流れ、電源又は電流リード線において開始又は終了しないことを意味する。
【0014】
REBCOのようなHTS被覆導体の場合、スクリーニング電流は、連続した欠陥のないテープの個々の長さにおいて流れ、一方のエッジに沿うように流れ、他方のエッジに沿うように戻る。したがって、ループ電流はそれぞれが小さな磁場を生成する。この磁場は、磁石の残りの部分によって生成される磁束がテープを貫通するのを抑制する傾向のある配向で誘導される超電流によって生成されるので、スクリーニング磁場と呼ばれる。
【0015】
磁石の磁場が急速に変化することがない「定常状態」のアプリケーションにおいて、渦電流及び結合電流は、通過する材料の抵抗に起因して急速に(数秒のオーダーの時定数で指数関数的に)減衰する。しかしながら、スクリーニング電流は無限に持続し、長い時間スケールで(分、時間、又は月のオーダーの時定数で)変化する。スクリーニング電流は、磁石のランピング履歴にも依存する。これは、急速にランピングアップした磁石が、ゆっくりとランピングアップした同一磁石とは異なるスクリーニング電流(したがって異なる磁場品質)を有することを意味し、ゼロ電流状態から5Tまでランピングアップした5Tを生成するように構成された磁石が、従前の定常3T状態から5Tまでランピングアップした同一磁石とは異なる磁場品質を有することを意味する。
【0016】
したがって、超伝導磁石によって生成される磁場は、その前のランピング履歴に依存する。超伝導転移温度を上回るように磁石の温度を上げることによって、磁石をスクリーニング電流のない処女状態までリセットすることが可能である。
【0017】
ReBCOテープ又はBSCCOテープを使用するHTS磁石においては、超伝導フィラメントの大きな寸法ゆえに大きなスクリーニング電流の形成が許容されるので、スクリーニング電流の影響が特に顕著である。スクリーニング電流によって生じる汚染「スクリーニング磁場」は、核磁気共鳴(NMR)及び磁気共鳴イメージング(MRI)のような高磁場の均一性及び安定性を必要とするアプリケーションにおいて、既存のHTSテープ及びコイル技術を適用する上で深刻な問題である。
【0018】
スクリーニング電流の影響を軽減するべく一定数の方法が存在する。磁石を振動的な態様でランピングアップしてよく、磁石に「シム入れ」(すなわち二次コイルを使用して修正磁場を適用すること)等をしてよい。
【0019】
スクリーニング電流によって生じるさらなる問題は、テープのエッジを流れるスクリーニング電流によって生じる局所的な応力である。この応力が、REBCO結晶構造を局所的に押しつぶすことにより、テープの臨界電流を劣化させる程度であることが理論化されている。したがって、スクリーニング電流の発生により、最初のランピングにおいて磁石の究極的な性能が劣化する可能性がある。
【0020】
最近の研究により、スクリーニング電流は、安定運転中及びランピングアップ中の双方において、HTSコイルが受ける応力及び歪みに大いに寄与することがわかっている(非特許文献1)。その力は、スクリーニング電流が不在の場合と比べて5倍も高い。上記技法の多くが、定常状態運転中のスクリーニング電流の低減を達成し得る一方、依然としてランピングアップ中の、コイルに過剰な力を引き起こし得る大きなスクリーニング電流の可能性がもたらされている。
【0021】
したがって、ランピングアップ中のHTS磁石におけるスクリーニング電流の形成を低減する、又は理想的には排除する、良好な方法の必要性が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】国際公開第2020/178594号
【特許文献2】国際公開第2020/079412号
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】Jing Xia et al 2019 Supercond. Sci. Technol. 32 095005
【発明の概要】
【0024】
第1側面によれば、高温超伝導(HTS)コイルに、初期輸送電流から最終輸送電流まで通電又は通電解除する方法が与えられる。HTSコイルは、複数の巻線のHTS材料を含む。輸送電流がHTSコイルに供給され、この輸送電流が、初期輸送電流から開始し、最終輸送電流まで経時的に変化する。HTSコイルには冷却が適用される。HTSコイルの動作状態が監視される。ここで、動作状態は、HTSコイルの少なくとも一部におけるHTS材料の臨界電流Icに対する輸送電流Iの比I/Icを示す。示された比I/Icを、しきい比を上回るように(例えば0.7を上回るように)、好ましくは1未満となるように維持するべく、コイルに適用される輸送電流とコイルに適用される正味冷却との一方又は双方が、通電又は通電解除中に所望範囲において動作状態を維持するべく、動作状態に応じてフィードバックループにおいて制御される。
【0025】
第2側面によれば、高温超伝導(HTS)コイルに、初期輸送電流から最終輸送電流まで通電又は通電解除する方法が与えられる。HTSコイルは、複数の巻線のHTS材料を含む。HTSコイルに輸送電流が供給され、この輸送電流は、初期輸送電流から始まり、最終輸送電流まで時間とともに変化する。HTSコイル両端間の始点から終点までの電圧(始点終点間電圧)の非誘導成分が監視される。HTS材料の温度をHTS材料のゼロ磁場臨界温度以下に維持するために、HTSコイルに冷却が適用される。輸送電流の変化率、又はコイルに適用される正味冷却電力、の一方又は双方が制御される。ここで、正味冷却電力は、コイルの適用冷却及び任意の適用加熱を含む。制御の結果、HTSコイル両端間の始点終点間電圧の非誘導成分が、少なくとも輸送電流が最終輸送電流に等しくなるまで、しきい値を上回ったままとなる。
【0026】
第3側面によれば、高温超伝導(HTS)コイルに、初期輸送電流から最終輸送電流まで通電又は通電解除する方法が与えられる。HTSコイルは、複数の巻線のHTS材料を含む。HTSコイルに輸送電流が供給され、この輸送電流は、初期輸送電流から始まり、最終輸送電流まで時間とともに変化する。HTSコイルの温度が監視される。HTS材料の温度をHTS材料のゼロ磁場臨界温度以下に維持するために、HTSコイルに冷却が適用される。輸送電流の変化率、又はコイルに適用される正味冷却電力、の一方又は双方が制御される。ここで、正味冷却電力は、コイルの適用冷却及び任意の適用加熱を含む。制御の結果、HTSコイルの温度の変化率が、輸送電流及び/又は正味冷却電力の制御された変化率に応じた事前決定されたしきい値を超えないようになる。
【0027】
第4側面によれば、高温超伝導(HTS)磁石システムが与えられる。HTS磁石システムは、HTSコイル、電源、冷却システム、電圧監視システム及び制御器を含む。HTSコイルは、複数の巻線のHTS材料を含む。電源は、輸送電流をHTSコイルに供給するように構成される。冷却システムは、HTS材料の温度をHTS材料のゼロ磁場臨界温度以下に維持するべく冷却をHTSコイルに適用するように構成される。電圧監視システムは、HTSコイルの始点終点間電圧を監視するように構成される。制御器は、磁石のランピングを制御するように構成される。制御器による磁石のランピングの制御は、
初期輸送電流において開始して最終輸送電流まで経時的に変化する輸送電流を電源に与えさせることと、
監視されたHTSコイルの始点終点間電圧の非誘導成分を決定することと、
輸送電流の変化率、
コイルに適用された正味冷却電力
のうちの一方又は双方を、HTSコイルを横切る始点終点間電圧の非誘導成分が、少なくとも輸送電流が最終輸送電流に等しくなるまで、しきい値を上回ったままとなるように制御することであって、正味冷却電力は、冷却システムによって適用された冷却とコイルの任意の適用された加熱とを含むことと
によって行われる。
【0028】
第5側面によれば、高温超伝導(HTS)磁石システムが与えられる。HTS磁石システムは、HTSコイル、電源、冷却システム及び制御器を含む。HTSコイルは、複数の巻線のHTS材料を含む。電源は、輸送電流をHTSコイルに供給するように構成される。冷却システムは、HTS材料の温度をHTS材料のゼロ磁場臨界温度以下に維持するべく冷却をHTSコイルに適用するように構成される。制御器は、磁石のランピングを制御するように構成される。制御器による磁石のランピングの制御は、
初期輸送電流において開始して最終輸送電流まで経時的に変化する輸送電流を電源に与えさせることと、
輸送電流の変化率、又は
コイルに適用された正味冷却電力
のうちの一方又は双方を、
HTSコイルの温度の変化率が、制御された輸送電流の変化率及び/又は正味冷却電力に応じた事前決定されたしきい値を超えないように制御することであって、正味冷却電力は、コイルの適用冷却及び任意の適用加熱を含むことと
によって行われる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図2】従来型技法に従ってランピングアップされた磁石に対する臨界電流及び輸送電流のグラフである。
【
図3A】HTSコイルをランピングする例示的方法に対する臨界電流及び輸送電流のグラフである。
【
図3B】
図3Aのランピングアップ方法の間の温度のグラフである。
【
図5-1】磁石をランピングするさらなる代替的な例示的方法の間の、いくつかの界磁コイルを含むHTS磁石のモデル化された性能を示す一連のグラフである。
【
図5-2】磁石をランピングするさらなる代替的な例示的方法の間の、いくつかの界磁コイルを含むHTS磁石のモデル化された性能を示す一連のグラフである。
【
図6A】磁石に通電又は通電解除する例示的方法に対する温度対時間のグラフである。
【
図6B】
図6Aと同じ方法に対する電流対時間のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
特許文献1に既に記載されているように、スクリーニング電流は、HTS磁石の「予備」容量において生じる。すなわち、スクリーニング電流の最大振幅は、HTSの臨界電流とHTSの輸送電流との差分である。
【0031】
HTS導体の臨界電流は、従来、HTS導体が1mの長さにわたって100マイクロボルトを生成する電流として定義される。HTSの臨界電流は、温度、外部磁場強度及び配向、並びにHTSの歪みに依存する。代替的な定義として、スクリーニング電流は、HTSが飽和未満であればいつでも存在し、飽和を上回ると(すなわちスクリーニング電流が除去された状態において)、HTSは、電気的に接続された非超伝導の導体に電流を流す。HTS磁石内では、これは、HTSのクラッディングにおける、又は非絶縁若しくは部分的絶縁のHTSコイルにある巻線間の径方向電流経路における、電流の流れとして生じる。以下の説明において臨界電流ICが使用されている場合、これは「HTSが飽和状態に入って非超伝導素子に電流を流し始めるときの電流」と置換してよい。
【0032】
飽和は、以下のいくつかの態様で検出され得る。
・所与条件におけるHTSの臨界電流が理論的又は実験的に既知の場合、飽和は、輸送電流と既知の臨界電流とを比較することによって決定してよい。
・HTSコイルの非誘導性の始点終点間電圧を測定してよく、非ゼロ電圧は、コイルが飽和に近づいていることを示し、HTS導体の100マイクロボルト/メートルを上回る電圧は、コイルが臨界電流以上にあることを示す。始点終点間電圧の非誘導成分を測定する一つの態様は、コイルの総合始点終点間電圧を測定し、開回路共巻きコイルの始点終点間電圧を差し引くことである。不完全な結合に起因する共巻きコイルとHTSコイルとの自己インダクタンスのわずかな偏差に対してある程度の修正が適用さ得るが、共巻きコイルに対しては、この偏差は一般に重要ではない。共巻きコイルを必要としない他のアプローチは、総合始点終点間電圧を測定し、磁石に関するモデル又は他の知識に基づいて非誘導成分を決定することである。
・非絶縁の及び部分的に絶縁された磁石において、飽和は、磁場の「ロールオーバー」の開始によって特徴付けられる。ここで、輸送電流による磁場の変化率は、非超伝導径方向経路への電流の流出に起因して減少する。
・非絶縁の及び部分的に絶縁された磁石において、飽和は、隣接する巻線に電流を流している巻線における付加的なジュール加熱に起因するコイル温度の変化率の変化によって特徴付けられる。
【0033】
上記の参考文献に記載されているように、スクリーニング電流は、定常状態動作(又は他の通常動作)の間に、磁石における一部又は全部のコイルの、一部又は全部の巻線から除去することができる。これは、磁石のコイルの一部又は全部(及びそれらのコイルの巻線)を飽和状態で動作させることによる。すなわち、所定磁石に対し、HTSが臨界電流付近又は臨界電流を超えて動作することに起因する非誘導電圧によって電流が駆動され、巻線間で径方向に流れ出すことによる。しかしながら、この動作モードは、多くの磁石に適しているわけではない。例えば、部分的に絶縁された大きな磁石はジュール加熱及びクエンチに起因して過熱し得るので、安定した飽和動作に必要な低い巻線対巻線抵抗と、磁石を合理的な時間内にランピングアップすることを許容するべく必要な低い時定数L/Rと、の間にトレードオフが存在する。加えて、スクリーニング電流とそれが誘導する応力とは依然として、輸送電流がまだ飽和に達していない磁石のランピングアップ中に、又は輸送電流が飽和未満に落ち込む磁石のランピングダウン中に、問題を提示する。
【0034】
図2(正確な縮尺ではない)に示されるように、一定温度にある磁石に対し、臨界電流I
C201は、磁石の輸送電流202がランピングアップするにつれて(磁石の磁界、応力及び歪みの増加の影響に起因して)減少する。これは、ランピングの初期段階において、I/I
C比が非常に小さいことを意味し、大きなスクリーニング電流が「未使用」電流領域203において生じることが許容される。非特許文献1(背景技術を参照)に記載されるように、このような大きなスクリーニング電流は、ランピングアップ中にHTSコイルに大きな力を引き起こすので、コイルが損傷し、性能が低下する可能性がある。
【0035】
このように、第1輸送電流と第2輸送電流との間で磁石をランピングする方法が以下に提案される。ここで、磁石は、磁石のランピング中、少なくとも第2輸送電流に達するまで飽和又はそれに近い状態に維持される。この方法では、ランピング中に磁石に誘導される潜在的なスクリーニング電流が制限され(輸送電流と臨界電流との差分が小さくなり)、それゆえ、ランピング中に磁石にかかる応力が低減される。
【0036】
図3Aは、例示的磁石のランピングアップ中の時間に対する臨界電流301及び輸送電流302のグラフを示す。繰り返しになるが、これは説明を目的とし、正確な縮尺というわけではない。見えることだが、臨界電流は、初期は低いが、以下に詳細に説明されるように、環境因子を変化させることによってランピングアップ中に増加する。これは、輸送電流Iと臨界電流I
cとの比I/I
cが常に、しきい比を上回る(例えば、0.7超、0.75超、0.8超、0.9超、又は0.95超となる)ように行われ、
図2と比較すると、「未使用」電流領域303が有意に低減される。ランピングアップの間、輸送電流と臨界電流との比I/I
cは、1未満であるか、又は、1を上回るI/I
c比であってもHTSにおいて電流が流れ得る場合には(例えば、特許文献1に開示されているように、十分な冷却を有する部分的に絶縁された磁石において)、HTS材料において電流が流れ得る程度に十分に低い。
【0037】
これを達成するには、輸送電流からある程度独立して磁石の臨界電流を制御することが必要となる。これは、磁石の(すなわちHTS材料の)温度を制御することによって達成することができる。
【0038】
図3Bは、
図3Aにおいて使用されたトロイダル磁場コイルのランピングアップ中の時間に対する温度311のグラフを、同じ時間軸スケールで示す。見えることだが、臨界電流301の制御は、磁石の臨界温度T
C未満の値から開始して磁石の意図された動作温度で終了する磁石のランピングアップ時に、磁石の温度311を徐々に下げることによって実装され得る。
【0039】
磁石の温度制御は、又は磁石に適用される正味冷却電力の一般的な制御は、磁石冷却システムによって与えられる冷却を変化させることによって、及び/又はランピングアップの早期段階中に追加の加熱を使用することによって、達成することができる。追加の加熱は、磁石に隣接配置された又は磁石内に一体化された抵抗加熱器によって与えられてよい。代替的に又はこれに加えて、追加の加熱は、発生した誘導電圧が径方向経路における輸送電流の一部分を駆動するように、ランピング速度(すなわち輸送電流の変化率)を調整することによって与えられてよい。これにより、径方向経路が抵抗性であることに起因する磁石の加熱がもたらされる。径方向経路を通る駆動電流からもたらされる熱は、一般に均一に(巻線間の抵抗性接続が磁石において均一に分散される程度まで)分散されるので、一体化された抵抗性加熱器の使用とは異なり、磁石コイル内に追加の空間を必要としない。これは、
図3A及び
図3Bの例に、並びに温度及び/又は正味冷却電力の制御を含む本開示の他の例に、適用される。
【0040】
特定の輸送電流において特定の臨界電流を達成するべく必要な温度の値は、磁石に依存し、業界周知のシミュレーションによって事前決定することができ、又は適切なフィードバック機構によってオンザフライで較正することができる。一般に、臨界電流は、温度が低下するにつれて増加するので、ランピングアップのプロセスは、輸送電流が増加するにつれて磁石を冷却することを含む。
【0041】
図3A及び
図3B並びに本開示の他の例が、説明を目的としてTFコイルを使用してよい一方、同じ原理が任意のHTSコイルにも適用される。
【0042】
図4A、
図4B及び
図4Cは、磁石をランピングアップするための代替的なスキームを示す。ここで、温度は段階的に変化する。
図4Aは、時間に対する輸送電流I410及び臨界電流I
C420のグラフであり、
図4Bは、時間に対するコイル温度430のグラフであり、
図4Cは、時間に対するコイルによって生成される磁場440のグラフである。3つのグラフはすべて、同じ時間軸スケールを使用する。これらは例示のみを目的としており、正確な縮尺では示されていない。コイルは、初期に輸送電流I
1及び温度T
1にあり、輸送電流が、温度を一定に保持してコイルの磁場を監視している間にランピングアップされる。これは、コイルが飽和に近づいていることを示す磁場の「ロールオーバー」441が検出されるまで、すなわち電流に伴うコイル磁場の変化率が減少するまで、続く。コイルの温度はその後、臨界電流I
C421を増加させるべく、ひいてはI/I
C比を前述の例で説明したしきい値まで減少させるべく、下げられる431。輸送電流はその後、さらなるロールオーバー441が検出されるまでランピングアップされる。この時点で、温度は上述のように再び下がり、サイクルは、輸送電流が所望の最終輸送電流I
2に到達するまで続く。
【0043】
前述の例においてのように、I/ICしきい比は、例えば、臨界電流の0.7倍より大きく、臨界電流の0.75倍より大きく、0.8より大きく、0.9より大きく、又は0.95より大きくてよい。
【0044】
コイルの初期ランピングアップに対し、すなわち、ランピングの初期輸送電流がゼロ又はほぼゼロである場合、I/IC比を所与しきい比を上回るように維持するには、ICもまたゼロ又はほぼゼロにする必要がある。ランピングアップを開始するための一つの可能な方法は、コイルをHTSの臨界温度未満に冷却する前に(すなわちHTSが超伝導でない間に)少量の初期電流をコイルに与え、その後、臨界温度未満のHTSを、初期に供給された電流と臨界電流との比が所望のI/IC比を上回る点まで冷却することである。HTSが超伝導でないときにコイルに電流を供給する必要性を回避する代替例は、I/IC比が事前決定された小さいが非ゼロの電流I0でしきい比を上回るようにコイルの初期温度を設定することである。コイルはその後、その初期温度を維持しながら、ゼロの輸送電流から、輸送電流が事前決定された電流I0に等しい点まで、ランピングアップされる。ランピングはその後、前述の方法のうちの一つを使用して、事前決定された電流I0から最終目標輸送電流まで続けられる。すなわち、事前決定された電流は、これらの方法の「初期電流」として作用する。コイルの最終ランピングダウンに対しても、すなわち、最終輸送電流がゼロに等しい場合にも、同様の手段をとってよい。そのため、「初期輸送電流」及び「最終輸送電流」が使用される場合、特にI/Ic比に依存する例に対しては、これらは非ゼロ電流であってよい。
【0045】
代替的な制御スキームのモデル化された結果が
図5に示される。
図5は、磁石の通電中の経時的な磁石の異なる特性の一連のグラフである。この例において、いくつかのHTS界磁コイルを含む磁石は、非誘導性の始点終点間電圧が近似的に1mV程度の一定値に維持されるようにランピングアップされる。非誘導性の始点終点間電圧は、コイル上の誘導電圧(すなわち電流の変化率によって誘導される電圧)に起因する寄与にかかわらず、すべてのHTSコイルを横切る電圧である。この測定は、例えば、コイル両端間の総合電圧を監視し、その後、これを共巻き又はそれ以外で誘導結合された二次コイル両端間の電圧をベクトル減算することによって修正することによって行われる。コイルに適用される正味冷却電力(これはコイル加熱器の出力を変化させることによって制御され得る)、又はランピング速度(すなわち輸送電流の変化率)は、目標非誘導電圧を維持するように制御される。このランピング方法により、コイルがランピング中にほぼ飽和状態に維持され、前述したしきい比を上回るI/I
C比が有効に維持される。
図5のグラフからわかるように、各HTSコイルのI/I
C比は、ランピングの初期部分の後も比較的高いままであり、電流マージン(すなわちスクリーニング電流が形成され得る「予備」電流)はランピング全体を通して低いままである。また、
図5からわかるのは、HTS材料の臨界電流が、局所温度及び磁場を含む因子に起因して、磁石の異なる部分で変化することと、それにもかかわらずI/I
C比が、コイルの少なくとも一部においてしきい比を上回るように維持され得るということである。この制御スキームは、非誘導性の始点終点間電圧を、しきい値を上回るように(又は一定値に)維持するべく非誘導性の始点終点間電圧を監視してランピング電流を制御するフィードバックループとして実装され得る。しきい値の例は、HTS導体長の1メートル当たり少なくとも0.5マイクロボルト(μV/m)、少なくとも1μV/m、少なくとも10μV/m、又は少なくとも100μV/m(これは、I>I
Cでの動作に近似的に対応する)であってよい。
【0046】
同様に、これは、単一コイルシステムに対して行われてよく、又は測定が、多数コイルシステムにおける各コイルに対して別個に行われてもよい(制御システムは、コイルにおける電流をバランスさせたままにする必要性と、各コイルの非誘導性の始点終点間電圧を、選択されたしきい値を上回ったままにする必要性とのバランスをとる)。
【0047】
二次コイルは、例えば、コイルのHTS導体上のバッキングワイヤとして、HTSコイルと共巻きされてよく、又はHTSコイルに密に近接して与えられてよい(例えば、特許文献2に開示されるように、他のHTSコイルへの接続を与えるべくコイルの側面に接着されたアセンブリに一体化されてよい)。
【0048】
二次コイルは、一端がHTSコイルの対応端に接続されてよく、二次コイルの他端とHTSコイルの他端との間の電圧(以下「ピックアップ電圧」)が測定される。この場合、HTS両端間の始点終点間電圧の非誘導成分は、HTSコイルの測定された始点終点間電圧とピックアップ電圧との差分となる。
【0049】
他の代替的な制御スキームが
図6A及び
図6Bに示される。この例において、いくつかのHTS界磁コイルを含む磁石がランピングアップされ、コイル温度が正確に監視される(
図6A)。コイル加熱器が、又はランピング速度が、傾斜601によって示されるように、コイル温度低下の目標速度を維持するように制御される。時刻t1において、低下速度が傾斜602まで遅くなる。これは、磁石のいくつかの部分が飽和に入っていることを示す。加熱器電力又はコイルのランピング速度は、コイル温度変化の(負の)速度を所望の範囲内に、例えば傾斜601による温度低下に戻るように、維持するべく制御システムによって低減される。このランピング方法により、コイルがランピング中にほぼ飽和状態に維持され、前述したしきい比を上回るI/I
C比が有効に維持される。
図6Bからわかるように、各HTSコイルのI/I
C比は、ランピングの初期部分の後、比較的高いままであり、電流マージン(すなわちスクリーニング電流が形成され得る「予備」電流)はランピング全体を通して低いままである。この制御スキームは、コイル温度を監視して、温度変化速度をしきい値未満、所与の範囲内、又は一定値に維持するようにランピング電流又は正味冷却電力を制御するフィードバックループとして実装され得る。適切なしきい値(又は範囲若しくは値)が、磁石の特定の特性に依存するにもかかわらず、所与の既知の熱入力(すなわちランピング速度、冷却電力、及び加熱器等から適用される加熱)に対して予想される温度低下は、当業者が業界周知のモデル化又はシミュレーション方法によって容易に決定することができ、又はHTSコイルの較正を介して決定することができ、その後、所与の飽和に対する温度変化の予想速度を計算することによって適切なしきい値又は範囲を決定するように使用することができる。
【0050】
上記例は、コイルのランピングアップ、すなわち初期輸送電流が最終輸送電流よりも小さい場合、に焦点を当ててきたが、同じ原理が、コイルのランピングダウン、すなわち初期輸送電流が最終輸送電流よりも大きい場合、にも適用されることが理解される。この場合において、臨界電流ICは、輸送電流と臨界電流との比I/ICの比が所望のしきい比を上回るように維持するべく、磁石がランピングダウンされるにつれて(例えばコイル温度を上昇させることによって)低減される。
【0051】
初期輸送電流と最終輸送電流との間における輸送電流の変動は、単調な変動(すなわち、ランピングアップに対しては常に増加若しくは定常、又はランピングダウンに対しては常に減少若しくは定常)であってよく、又は非単調な変動であってもよい。上記例にとって重要な特徴は、ランピングの特定の性質ではなく、比I/ICであり、ひいてはスクリーニング電流が形成され得る「予備容量」である。
【0052】
定常状態コイルにおいてスクリーニング電流を制御するための他の手段が、ランピングに引き続いて使用されてよい。例えば、スクリーニング電流をスクランブルして最終磁場への正味の影響を低減するために、輸送電流が振動され、又は振動外部磁場が適用される。
【国際調査報告】