(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-28
(54)【発明の名称】銅合金電気コネクタ部品、銅合金電気コネクタ部品上のコーティング、および、銅合金電気コネクタ部品上にコーティングを形成する方法
(51)【国際特許分類】
C23C 30/00 20060101AFI20241121BHJP
H01R 13/03 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
C23C30/00 B
H01R13/03 D
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024532819
(86)(22)【出願日】2022-12-02
(85)【翻訳文提出日】2024-05-30
(86)【国際出願番号】 US2022051654
(87)【国際公開番号】W WO2023102181
(87)【国際公開日】2023-06-08
(32)【優先日】2021-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524205732
【氏名又は名称】ヴィーラント ロールド プロダクツ ノース アメリカ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100092565
【氏名又は名称】樺澤 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100112449
【氏名又は名称】山田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】ケリー エス ファンク
(72)【発明者】
【氏名】コン ジョン
【テーマコード(参考)】
4K044
【Fターム(参考)】
4K044AB02
4K044BA06
4K044BA08
4K044BA10
4K044BB05
4K044BC01
4K044CA61
(57)【要約】
銅合金電気コネクタ部品が、約5μinおよび約20μinの間のニッケル層を銅合金上に施すことと、約7μinおよび約18μinの間の銅層をニッケル層上に施すことと、合計で約5μinおよび約15μinの間の銀層ならびに約40μinおよび約80μinの間の錫層を銅層上に施すことと、銀および錫層の混合ならびに少なくとも8vol%のAg
3Sn金属間化合物の形成を引き起こすためのコーティングされた銅合金電気コネクタ部品に対する加熱とによって形成されるコーティングをその上に有する。
【選択図】
図17
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅合金電気コネクタ部品であって、前記銅合金上の約5μinおよび約20μinの間のニッケル層、前記ニッケル層上の約7μinおよび約18μinの間の銅層を施すこと、前記銅層上の合計で約5μinおよび約15μinの間の1つ以上の銀層ならびに合計で約40μinおよび約80μinの間の1つ以上の錫層を含むコーティングをその上に有し、ここで、その後の前記コネクタのリフロー加熱が、前記銀および錫層の混合ならびに約8vol%および約45vol%の間のAg
3Sn金属間化合物の形成を引き起こす、銅合金電気コネクタ部品。
【請求項2】
前記1つ以上の銀層が単層として前記銅層上に施され、前記1つ以上の錫層が単層として前記銀層上に施される、請求項1に記載の銅合金電気コネクタ部品。
【請求項3】
前記1つ以上の銀層および前記1つ以上の錫層が銀および錫の複数の交互の層として施される、請求項1に記載の銅合金電気コネクタ部品。
【請求項4】
リフロー加熱後に、前記コーティングが、約0.20および約0.13の間のR/Nを前記コネクタ部品に与える、請求項1に記載の銅合金電気コネクタ部品。
【請求項5】
リフロー加熱後に、前記コーティングが、約0.19および約0.135の間のR/Nを前記コネクタ部品に与える、請求項4に記載の銅合金電気コネクタ部品。
【請求項6】
合計で約5μinおよび約10μinの間の1つ以上の銀層がある、請求項1に記載の銅合金電気コネクタ部品。
【請求項7】
銅合金電気コネクタ部品であって、約5μinおよび約20μinの間のニッケル層を前記銅合金上に施すことと、約7μinおよび約18μinの間の銅層を前記ニッケル層上に施すことと、約5μinおよび約15μinの間の銀層を施すことと、約40μinおよび約80μinの間の錫を施すことと、前記コーティングされた銅合金電気コネクタ部品を加熱して、前記銀および錫層の混合ならびに約8vol%および約45%の間のAg
3Sn金属間化合物の形成を引き起こすこととによって形成されるコーティングをその上に有する、銅合金電気コネクタ部品。
【請求項8】
前記コーティングが、約0.20および約0.13の間のR/Nを前記コネクタ部品に与える、請求項7に記載の銅合金電気コネクタ部品。
【請求項9】
リフロー加熱後に、前記コーティングが、約0.19および約0.135の間のR/Nを前記コネクタ部品に与える、請求項8に記載の銅合金電気コネクタ部品。
【請求項10】
リフロー加熱前に施された合計で約5μinおよび約10μinの間の1つ以上の銀層がある、請求項7に記載の銅合金電気コネクタ部品。
【請求項11】
銅合金電気コネクタ部品上のコーティングであって、前記コーティングが、約5μinおよび約20μinの間のニッケル層を前記銅合金上に施すことと、約7μinおよび約18μinの間の銅層を前記ニッケル層上に施すことと、合計で約5μinおよび約15μinの間の銀層ならびに約40μinおよび約80μinの間の錫層を前記銅層上に施すことと、前記コーティングされた銅合金電気コネクタ部品を加熱して、前記銀および錫層の混合ならびに8vol%および45vol%の間のAg
3Sn金属間化合物の形成を引き起こすこととによって形成される、銅合金電気コネクタ部品上のコーティング。
【請求項12】
前記コーティングが、約0.20および約0.13の間のR/Nを前記コネクタ部品に与える、請求項11に記載の銅合金電気コネクタ部品上のコーティング。
【請求項13】
リフロー加熱後に、前記コーティングが、約0.19および約0.135の間のR/Nを前記コネクタ部品に与える、請求項12に記載の銅合金電気コネクタ部品上のコーティング。
【請求項14】
リフロー加熱前に施された合計で約5μinおよび約10μinの1つ以上の銀層がある、請求項1に記載の銅合金電気コネクタ部品上のコーティング。
【請求項15】
銅合金電気コネクタ部品上のコーティングを形成する方法であって、前記方法が、約5μinおよび約20μinの間のニッケル層を前記銅合金上に施すことと、約7μinおよび約18μinの間の銅層を前記ニッケル層上に施すことと、合計で約5μinおよび約15μinの間の銀層ならびに約40μinおよび約80μinの間の錫層を前記銅層上に施すことと、前記コーティングをリフロー加熱して、前記銀および錫層の混合、ならびにもたらされる銀錫層における8vol%および約45vol%の間のAg
3Sn金属間化合物の形成を引き起こすこととを含む、方法。
【請求項16】
前記銀層が単層として前記銅層上に施され、錫層が単層として前記銀層上に施される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記銀層および前記錫層が、銀および錫の複数の交互の層として施される、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記コーティングが、約0.20および約0.13の間のR/Nを前記コネクタ部品に与える、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
リフロー加熱後に、前記コーティングが、約0.19および約0.135の間のR/Nを前記コネクタ部品に与える、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
リフロー加熱前に、合計で約5μinおよび約10μinの間の1つ以上の銀層が施される、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
銅合金電気コネクタ部品上にコーティングを形成する方法であって、前記方法が、約5μinおよび約20μinの間のニッケル層を前記銅合金上に施すことと、約7μinおよび約18μinの間の銅層を前記ニッケル層上に施すことと、約5μinおよび約15μinの間の銀層を施すことと、約40μinおよび約80μinの間の錫を施すことと、前記コーティングされた銅合金電気コネクタ部品を加熱して、前記銀および錫層の混合ならびに約25vol%および約45vol%の間のAg
3Sn金属間化合物の形成を引き起こすこととを含む、方法。
【請求項22】
銅合金電気コネクタ部品であって、約5μinおよび約20μinの間のニッケル層を前記銅合金上に施し、約7μinおよび約18μinの間の銅層を前記ニッケル層上に施し、合計で約5μinおよび約15μinの間の銀層ならびに約40μinおよび約80μinの間の錫層を前記銅層上に施すことによって形成されるコーティングをその上に有し、ここで、前記層のリフロー加熱によって少なくとも8vol%のAg
3Sn金属間化合物を形成するために十分な錫があるように、前記CuおよびNi厚さは、さらに、少なくとも5μinのフリーなSnが短時間時効後に残るということを保証するように選択される、銅合金電気コネクタ部品。
【請求項23】
前記銅層が7および14μinの間である、請求項22に記載の銅合金電気コネクタ。
【請求項24】
前記錫層が合計で少なくとも50μinである、請求項22に記載の銅合金電気コネクタ。
【請求項25】
銅合金電気コネクタ部品上のコーティングを形成する方法であって、前記方法が、約5μinおよび約20μinの間のニッケル層を前記銅合金上に施すことと、約7μinおよび約18μinの間の銅層を前記ニッケル層上に施すことと、約5μinおよび約15μinの間の銀層を施すことと、約40μinおよび約80μinの間の錫を施すこととを含み、ここで、前記CuおよびNi厚さは、さらに、SAEのUSCAR2-8に従って、少なくとも5μinのフリーなSnが短時間時効後に残るということを保証するように選択される、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電気コネクタのためのコーティングに、およびコーティングされた電気コネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
この項は本開示に関係する背景情報を提供する。これは必ずしも先行技術ではない。
【0003】
錫コーティングは、コネクタの寿命に渡って安定な分離可能な接触インターフェースを提供するために、端子およびコネクタ製造者によって長年用いられている。錫メッキは比較的軟質であり、かなり低い荷重において、形成し得る薄い表面酸化物を嵌合接触が突破することを可能にし、嵌合部分間の良好な電気の通り道を提供する。より薄い錫コーティングが一般的にはより望ましい。なぜなら、それらは一般的にはより低い垂直力抵抗性および縮減された摩擦係数を提供するからである。しかしながら、錫層の厚さは、錫-銅金属間化合物の形成が、利用可能なフリーな錫を「使い果たし」、コネクタの物理特性を変化させないために十分でなければならない。種々のバリア層、例えばNi層ならびにNiおよびCu層が、錫-銅金属間化合物の形成を縮減し、より薄い錫層が摩擦を縮減することを可能にするために導入されている。錫コーティングを改善し、摩擦を縮減するための努力が継続している。
【発明の概要】
【0004】
この項は本開示の一般的な概要を提供し、その完全な範囲またはその特徴の全ての網羅的な開示ではない。
【0005】
本開示の実施形態は、電気コネクタのための改善された錫コーティングを提供する。特に、本開示の実施形態は、錫の層の下に銀の層を施すことを規定する。本発明者らは、錫コーティングされた電気コネクタの摩擦力が、錫層における錫-銀金属間化合物の存在によって、特に錫層におけるAg3Sn金属間化合物の体積分率によって縮減されるということを観察した。
【0006】
1つの実施形態において、本開示は銅合金電気コネクタ部品上のコーティングを提供する。コーティングは、約5μinおよび約20μinの間のニッケル層を電気コネクタ部品の銅合金上に施すことと、それから約7μinおよび約18μinの間の銅層をニッケル層上に施すこととによって形成され得る。これは拡散に対するバリアを提供し、さもなければ錫層の利用可能な錫を消費し得る錫-銅金属間化合物の形成を縮減する。最終的に、バリア層の銅は錫と錫-銅金属間化合物を形成し、ニッケル層および錫-銅金属間化合物層は、コネクタ部品からの銅との金属間化合物の形成へのさらなる錫の損失を遅らせるであろう。銀および錫の層が銅層上に施され、リフロープロセスおよびAg3Sn金属間化合物を含有する銀-錫層の形成に付される。
【0007】
一般的に、約5μinおよび約15μinの間の銀ならびに約40μinおよび約80μinの間の錫が施される。これは銅層上の銀の単層および銀層上の錫の単層であり得る。代替的には、これは、銅層上に交互に積み重なった銀および錫の多重層であり得る。コーティングされた銅合金電気コネクタ部品は、銀および錫層の混合、ならびに少なくとも8vol%の、好ましくは8vol%および約40vol%の間のAg3Sn金属間化合物の形成を引き起こすために加熱される。
【0008】
別の実施形態において、本開示は、銅合金電気コネクタ部品上のコーティングを提供する方法を提供する。方法は、約5μinおよび約20μinの間のニッケル層を銅合金上に施し、約7μinおよび約18μinの間の銅層をニッケル層上に施す。それから、銀および錫の1つ以上の層が銅層上に施され、リフロープロセスおよびAg3Sn金属間化合物を含有する銀錫層の形成に付される。
【0009】
一般的には、約5μinおよび約15μinの間の銀ならびに約40μinおよび約80μinの間の錫が施される。これは銅層上の銀の単層および銀層上の錫の単層であり得る。代替的には、これは、銅層上に交互に積み重なった銀および錫の多重層であり得る。コーティングされた銅合金電気コネクタ部品は、銀および錫層の混合、ならびに少なくとも8vol%の、好ましくは8vol%および約40vol%の間のAg3Sn金属間化合物の形成を引き起こすために加熱される。
【0010】
別の実施形態において、本開示は、コーティングを有する銅合金電気コネクタ部品を提供する。コーティングは、約5μinおよび約20μinの間のニッケル層を電気コネクタ部品の銅合金上に施すことと、それから約7μinおよび約18μinの間の銅層をニッケル層上に施すこととによって形成される。これは拡散に対するバリアを提供し、さもなければ錫層の利用可能な錫を消費し得る錫-銅金属間化合物の形成を縮減する。最終的に、バリア層の銅は錫と錫-銅金属間化合物を形成し、ニッケル層および錫-銅金属間化合物層は、コネクタ部品からの銅との金属間化合物の形成へのさらなる錫の損失を遅らせるであろう。銀および錫の層が銅層上に施され、リフロープロセスおよびAg3Sn金属間化合物を含有する銀錫層の形成に付される。
【0011】
一般的に、約5μinおよび約50μinの間の銀ならびに約40μinおよび約80μinの間の錫が施される。これは銅層上の銀の単層および銀層上の錫の単層であり得る。代替的には、これは、銅層上に交互に積み重なった銀および錫の多重層であり得る。コーティングされた銅合金電気コネクタ部品は、銀および錫層の混合ならびに少なくとも8vol%のAg3Sn金属間化合物の形成を引き起こすために加熱される。
【0012】
適用可能なさらなる分野は、本明細書において提供される記載から明らかになるであろう。この概要における記載および具体例は例示の目的のみのためを意図され、本開示の範囲を限定することを意図されない。
【0013】
本明細書において記載される図面は、全ての可能な実装ではなく選択された実施形態のみの例示的な目的のためであり、本開示の範囲を限定することを意図されない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、100×拡大におけるサンプルPPIBのAおよびB側のリフロー後の表面の光学顕微鏡写真である。
【
図2】
図2は、100×拡大におけるサンプルPPIDのAおよびB側のリフロー後の表面の光学顕微鏡写真である。
【
図3】
図3は、100×拡大におけるサンプルPPIAのAおよびB側のリフロー後の表面の光学顕微鏡写真である。
【
図4】
図4は、100×拡大におけるサンプルPPICのAおよびB側のリフロー後の表面の光学顕微鏡写真である。
【
図5A】
図5Aは、10kVにおけるサンプルPPIBのSEM顕微鏡写真である。
【
図6】
図6は、100×拡大におけるサンプルPPIIのAおよびB側のリフロー後の表面の光学顕微鏡写真である。
【
図7】
図7は、100×拡大におけるサンプルPPIJのAおよびB側のリフロー後の表面の光学顕微鏡写真である。
【
図8】
図8はサンプルPPIAのTEM画像およびEDSマップであり、銀層の不在および銅層の存在を示す。
【
図9】
図9はサンプルPPIBのTEM画像およびEDSマップであり、銀層の不在および銅層の存在を示す。
【
図10】
図10はサンプルPPIAのEDSラインスキャンである。
【
図11】
図11はサンプルPPIBのEDSラインスキャンである。
【
図12】
図12はサンプルPPIAのTEM画像であり、層および相が同定されている。
【
図13】
図13はPPIAのコンポジットEDSマップであり、十字線は層厚さ測定の場所を示す。
【
図14】
図14はサンプルPPIAのTEM画像であり、層および相が同定されている。
【
図15】
図15はPPIAのコンポジットEDSマップであり、十字線は層厚さ測定の場所を示す。
【
図16】
図16は、表面コーティングにおけるAg
3Sn金属間化合物の体積分率に対する個々のR/N点のスキャッタープロットである。表面コーティングのAg
3Sn金属間化合物の体積分率の増大に伴い、R/Nが小さくなり、Ag
3Snの体積分率の増大に伴い、分散もまた小さくなるということを示している。
【
図17】
図17は、表面コーティングにおけるAg
3Sn金属間化合物の体積分率に対する平均R/Nのスキャッタープロットである。表面コーティングのAg
3Sn金属間化合物の体積分率の増大に伴い、平均R/Nが小さくなるということを示している。図面の複数の図を通して、対応する参照符号は対応する部分を示している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
ここで、実施例の実施形態を付属の図面を参照してより詳しく記載する。
【実施例】
【0016】
錫層について2つの異なる厚さおよび銀層について2つの異なる厚さで、ニッケル銅バリア層とバリア層および錫層の間の銀層とを有する銅合金基板上に、錫コーティングを形成した。サンプルはリフロープロセスに供し、基板の各側において摩擦(R/N)を測定し、平均した。これらの結果は表1に示される通りである。
【0017】
【0018】
本開示において報告される値についての摩擦係数は、電気コネクタ材料を評価するために産業界において典型的なリニア往復ライダー・オン・フラット法を用いて決定した。試験は、材料のフラット上で材料の1/8”直径の半球体ライダーを、2.5N(250gf)の荷重下で乾燥条件において、3mmの長さに渡って3mm/sのスピードで10サイクル摺動させることによって行った。1つのサイクルは3mm前進および3mm後退であった。各サイクルの接触スピード部分はサイクルの60%であった。各試験の持続時間は25秒であった。
【0019】
この試験から測定されたR/N値は摺動摩擦係数を表し、ここで、Rは測定されたトラクション力であり、Nはかけられた垂直力であった。各試験の最終結果と見なされたR/N値は、10回の前進および10回の後退の動きについての平均R/Nとして計算した。各動きのR/Nは、5つの連続したデータ点の全長からの最も高い平均R/Nを有する動きの部分として取られた。これは動きのうちのおよそ0.5mmの移動に相当した。
【0020】
摩擦係数は、一般的に、より厚いAg下地メッキサンプルPPIBおよびPPIDではより低かった。表1から見られ得る通り、最も低いサンプル平均R/N(PPIB)は厚いAgおよび薄いSn(15/37)の組み合わせを有し、最も高いサンプル平均R/N(PPIC)は薄いAgおよび厚いSn(5/75)の組み合わせを有した。
【0021】
図1から4は、サンプルAからDのリフロー後の表面の光学顕微鏡写真を示す。表1と同じ順、即ちR/Nの昇順で提示されている。これらの顕微鏡写真はリフロー表面における青灰色の第2の相を示し、これの体積分率は
図1から4へと目に見えて減少している。これらの図から見られ得る通り、R/Nの増大は、第2の相の量の減少と関連する。
【0022】
図5Bは
図1~4の青灰色の相のEDS分析を示す。
図5Bのスペクトルの挿入図に示されたこの相の組成は、この相がAg
3Snであるということを指示している。本発明者らは、Ag厚さに対するR/Nの依存性は、Ag
3Snの体積分率に対するR/N依存性の付随的な結果であるということを推測する。
【0023】
Agのメッキされた層がリフローによってSn中に完全に溶け込むことが想定される場合には、Ag3Snの体積分率はリフロー前のSnの厚さに対する相対的なAgの厚さに専ら依存するであろう。いくつかの想定によって、リフロー表面におけるAg3Snの体積分率は、AgおよびSnメッキされた層の厚さから計算され得る。以下を想定する。
1)Agメッキされた層はリフローによってSn中に完全に溶け込む。
2)Ag3Snを形成するためにAgの全てを消費するための十分に厚いSnがある。即ち、Agが限定因子である。
3)AgおよびSnの厚さは表面積の単位上で一定である。
4)AgおよびSnのメッキされた層の密度は、それらの純粋な元素値に合致する。
5)Ag3Snの密度は公知であり、リフロー表面に形成される化合物のものに合致する。
リフロー表面におけるAg3Snの体積分率φAg3Sn
は、メッキされた層におけるAgの体積分率φAgに関係するであろう。表面積の単位あたりのAgの体積分率は、単純にφAg=tAg/(tAg+tSn)によって、メッキされた層の厚さに関係するであろう。ここで、tAg=Agの層厚さ、tSn=Snの層厚さである。密度および原子量の値を代入した後に、φAg3Sn
はφAg3Sn≒1.5084*φAg
によって近似され得る。
【0024】
表2は、R/Nの昇順で並べられたサンプルPPIAからPPIDについてのAgおよびAg
3Snの計算された体積分率を与える。表2の厚さ値は、サンプル番号によって報告された測定値である。計算された値は、R/Nの増大が、メッキされた層におけるAgの体積分率の減少に起因するAg
3Snの体積分率の減少と関連することを示している。これらの計算は
図1から4において観察されたAg
3Snの減少を支持し、それらはAg厚さに対するR/Nの依存性を支持する。
【0025】
【0026】
より厚いSn層は通常はより高いR/Nと関連するので、R/Nのこの分析にはSn層の厚さへの考慮を含めるべきである。サンプルPPIIおよびPPIJは、Cu/Niバリア上に97:3Sn:Agの外側層を有する。そのため、これらの2つのサンプルのリフロー表面におけるAg含有量は、メッキ厚さにかかわらずおよそ3重量%で一定であったであろう。これらの2つのサンプルはSnAg層の厚さのみが異なった。
【0027】
実際に、上で言及された厚さ効果は、表3に示される通りPPIIおよびJで明白であった。R/Nは、より薄い層のサンプル(PPII)よりもより厚い層のサンプル(PPIJ)で高かった。この厚さ効果は、サンプルPPIAからPPIDのセットにある同じ2つの厚さ37および75μinの間で立証された。
【0028】
【0029】
PPIIおよびPPIJ両方は、STARなどの従来の錫コーティングよりも統計的に有意に低いR/Nを有し、より低いR/Nの原因がメッキ中のAgであるということを指示した。サンプルPPIAからPPIDにおいて、Agはリフロー表面においてAg3Snとして現れ、Ag3Snの体積分率に対するR/Nの依存性が観察および計算された。
【0030】
図5および6は、それぞれPPIIおよびPPIJのリフロー表面の顕微鏡写真である。これらの顕微鏡写真は、細かく分散された第2の相の小さい体積分率を示す。しかしながら、PPIIのB側の顕微鏡写真は、説明されない大きい第2の相のエリアを示す。
【0031】
SnAgリフロー表面におけるAg
3Snの体積分率は、等式
によって計算され得て、メッキされた層におけるAgの重量分率w
Agに関係するであろう。
【0032】
この等式ならびにAg、Sn、およびAg3Snの密度および原子量を用いて、97/3SnAgメッキ(wAg=0.03)のリフロー層におけるAg3Snの体積分率は
φAg3Sn=0.0304
であろう。97/3SnAg層におけるAg3Snの計算された体積分率によって、PIIIおよびJは表4のサンプルPPIAからPIIDと比較される。この表のサンプルはその効果をはっきりさせるために厚さによってグループ分けされ、それらは各群においてR/Nの昇順で並べられている。表はAg3Snの体積分率の効果を明白にしている。低体積分率SnAgサンプルは、各群において最も高いR/Nを有した。サンプルの両方の群において、R/NはAg3Snの体積分率の減少に伴い増大する。
【0033】
Ag3Snの体積分率の計算における主要な想定は、Ag層がリフローによってSn中に完全に溶け込むであろうということであった。この想定はサンプルAおよびBのリフロー表面の断面によって裏付けられる。これらは、Agの下層がリフローによって完全に溶け込んだということを示している。
【0034】
PPIAおよびPPIBのリフロー表面の断面を集束イオンビーム(FIB)加工によって作成し、透過電子顕微鏡(TEM)によって検査した。FIBによる断面化は、サンプルに導入される変形および熱が無視できるであろうという利点を有し、TEMによる検査は、個々の層および相の形態学、組成、および厚さを正確に決定するための高解像度の拡大を可能にした。
図8および9はFIB断面からのTEM画像およびEDSマップを示す。Agマップは、Ag層がどちらのサンプルにも残っていなかったということを示し、Ag層がリフローによってSn中に完全に溶け込むというAg
3Sn計算の想定をさらに確認している。
【0035】
Ni、Cu、Cu3Sn、Cu6Sn5、およびSnの明確な層がPPIAおよびPPIB両方のTEM画像において見られ、Ag3SnのエリアがPPIBの表面に見られた。PPIAのFIBラメラはいずれかのAg3Sn相を含有しなかった。本発明者らは、これがこのサンプルにおけるAg3Snのより低い体積分率に帰せられると考えている。この低い体積分率によって、ラメラが偶然にこの相のいずれかを含有することがないようになされた可能性がある。
【0036】
Cuマップは、各サンプルがリフロー後に有意な厚さのCu層を含有したということを示している。これは注目に値する。なぜなら、STARおよびATBなどの既存の錫コーティングは、リフロー後にCu層を有さないかまたはほとんどCu層を有さないはずであり、そのため、Cuが加熱時効によるインヒビターなしの金属間化合物成長にとって利用可能ではないであろうからである。
【0037】
図10はPPIAのラインスキャン分析を提示する。このラインスキャンにおいて、Cu
6Sn
5(54.5at%Cu、45.5at%Sn)およびCu
3Sn(75at%Cu、25at%Sn)の原子組成が明瞭に見られる。このスキャンは、純粋なSnの層が表面にあったということを示している。Cu
6Sn
5相は、単一の大きい結晶粒として純粋なSn層に隣接して見られる。Cu
3Sn相は、Cu
6Sn
5およびCu層の間に所在するおよそ130mの結晶粒度を有する非常に細かい結晶粒の層として見られる。
【0038】
図11はPPIBのラインスキャン分析を提示する。このスキャンにおいては、Ag
3Sn(75at%Ag、25at%Sn)の原子組成が、表面の大きいAg含有相に明瞭に見られる。
図9のこのサンプルのEDSマップは、ラインスキャンがなされたAg
3Sn相の直下に、純粋なSnの小さい領域があるということを示している。ラインスキャン上で、この領域はおよそ0.98μmから始まって検出される。純粋なSnのこの小さい領域のスキャンは、それが、Cuのx線が検出された隣接するCu
6Sn
5に十分近く、直に縁に沿って通過するように位置した。これは、なぜ約1μmにおけるグラフ上のSnの線が80at%のSnまでしか到達しなかったのか、およびスキャンがこの領域上を進行するにつれてなぜSn含有量が着実に減少したのかを説明し、それは、なぜCuがこのエリアにおいて検出されたかを説明するであろう。ラインスキャンは、Snのこの小さい領域の下では、スキャンに沿っておよそ1.20から1.35μmにおいて、CuおよびSnの組成はおよそ一定であり、Cu
6Sn
5と整合する(54.5at%Cu、45.5at%Sn)ということを示している。Cu
6Sn
5およびCu層の間のラインスキャンに沿ったエリアは、Cu
3Snの非常に小さい層を含有したが、それは、PPIAと類似の結晶粒度の細かい結晶粒の形態学によって見られる通りであり、かつこの層におけるより高いレベルのCuおよびより低いレベルのSnを示した
図9のEDSマップにおいて見られる通りである。しかしながら、ラインスキャンは細かい結晶粒のこの薄い層のまさに縁に沿って通過し、そのため、EDSはCu
3Snの組成を解明し得なかった。
【0039】
リフロー前のNi、Cu、Ag、およびSnのメッキ後の層の厚さは、XRFによって測定およびPPIによって報告された通り、サンプルAからDについて表5において与えられる。
【0040】
表4
【0041】
PPIAおよびPPIBのリフロー後のサンプルの層および相の厚さを、
図12~15に与えられているTEM画像およびEDSマップから測定した。これらの画像およびマップは、同じ画像上の外側のメッキされた表面と併せてNi層の全厚を示す。厚さ測定は、
図13および15のEDSマップに示される通り、各画像上の10個の等間隔の場所において順次に行った。場所1は最も左の場所である。厚さ測定は表6および7で与えられている。
【0042】
【0043】
【0044】
消費されるメッキの厚さおよび形成される金属間化合物(IMC)の厚さを計算するためのパラメータが表8に呈示されている。パラメータaおよびbは、AxByの所与のIMC厚さを形成するために消費される元素AおよびBの厚さの計算を可能にする。これらのパラメータの逆数a-1およびb-1は、所与の厚さのAまたはBの反応によって形成されるIMCの厚さの計算を可能にする。パラメータaおよびbの比は、反応物元素について消費される厚さの計算を可能にする。例えば、AxByを形成するために消費される元素Aの所与の厚さについて、b/a比は反応において消費されるであろうBの厚さを与え、元素Bの消費される所与の厚さについてのa/b比について、逆もまた同様である。
【0045】
【0046】
これらのパラメータによって、リフロー前のAg、Cu、およびSnのメッキされた層の厚さが表6および7の測定から逆算され得る。これらの計算の結果は表9に示され、サンプル番号によって報告された結果と比較される。
【0047】
【0048】
逆算された値が、メッキされた表面の非常に小さいエリアをカバーするFIBカットからの単一断面の極めて小さい統計サンプルに基づくということを考えると、逆算された結果は、サンプルによって報告される結果と良好に一致している。
【表9】
【0049】
ATBおよびSTARなどのバリアを有する既存の錫コーティングシステムの発想は、Cu/Niバリアが、基材材料からのCuの拡散を遅らせることによってCu-SnのIMCの成長を遅らせるということである。しかしながら、メッキされたCuの厚さが大きくなる場合には、過剰なCuがリフロー後に存在し得る。これについては、加熱時効による拡散に対するバリアがないであろう。よって、過剰なCuが消費されるまで、Cu-SnのIMCの高い率の成長が起こるであろう。メッキされたCuが大きすぎた場合には、それは短い時間量の加熱時効においてSnの全てを消費し得た。AgおよびCuの所与の厚さについて、150℃/1wkなどの短時間加熱時効後に消費されるSnの量の計算は、表8のaおよびbパラメータを用いて直截的になされ得る。消費されるSnの量の等式は、
tSn.cons.=(b/a)Ag3SntAg+(b/a)Cu6Sn5tCu
であり、ここで、tSn.cons.=IMCとして消費されるSnの厚さ、tAgおよびtCu=それぞれ短時間加熱時効後にIMCとして完全に消費されるであろうAgおよびCuのメッキ厚さである。表8から、(b/a)Ag3Sn=0.52968、(b/a)Cu6Sn5=1.91995である。
【0050】
表10は、PPIサンプルAからDについてなされた計算の結果を示す。サンプルAおよびBについての計算の結果は、これらのサンプルでは、フリーなSnがほとんど残っていないかまたは残らないであろうということを示している。PPIAは2~3μinのフリーなSnを有し、PPIBはフリーなSnを有さないであろう。PPICおよびDはそれぞれがおよそ40μinのフリーなSnを有するであろう。
【0051】
【0052】
表11は、AgおよびCu厚さの種々の組み合わせについて、短時間時効においてIMCとして消費されるであろうSnの計算された量の値を示す。標準的なATBでは、Cu仕様は7から18μinである。標準的なATBの最小Sn厚さは40μinであり、Agメッキはない。表11は、最小で5μinのフリーなSnが標準的なATBで短時間時効後に存在するであろうということを示す。即ち、18μinの最大Cu厚さにおいて、34.6μinのSnがIMCとして消費され、5.4μinのフリーなSnを残すであろう。
【0053】
【0054】
本開示の原理に従う銀の追加を従来のATBに施すためには、5μinのフリーなSnが短時間時効後に利用可能であろうということを保証するために、即ち標準的なATBと同じ量のフリーなSnを保証するために、標準的なATBに対して相対的に、仕様の最大Cuが減少させられることを必要とするか、または仕様の最小Snが増大させられることを必要とするかどちらかであろう。例えば、表10に示される通り、15μinのAgおよび18μinのCuでは、短時間時効後に、42.5μinのSnがIMCとして消費されるであろう。これらのAgおよびCu厚さにおいて5μinのフリーなSnを保証するために、Snの最小の仕様は、48μinであることを必要とするであろう。
【0055】
別のやり方で考慮すると、40μinの最小Sn厚さおよび15μinの最大Ag厚さでは、短時間時効後に5μinのフリーなSnを保証するには、最大Cu厚さは14μin以下であることを必要とするであろう。厚さの他の組み合わせも可能であろう。ここでのポイントは、銀がATBに施されるために、Cuおよび/またはSn仕様は、フリーなSnが短時間時効後に利用可能であるということを保証するために、標準的なATBとは異なることを必要とするであろうということである。
特に好ましい実施形態では、リフロー表面におけるAg3Sn金属間化合物の存在を保証することを助けるために、Cu層の厚さは縮減され、および/またはSn層の厚さは増大されて、フリーなSnが短時間加熱時効後に利用可能なまま残るということを保証する。この特に好ましい実施形態では、好ましくは、約5および15μinの間のAgがあり、短時間時効後に少なくとも5μiのフリーなSnを保証するであろうCu/Ni厚さがある。Cu厚さの縮減に注目した1つの可能な構成は、40~80μinのSn/5~15μinのAg/7~14μinのCu/5~20μinのNiである。Snを増大させることに注目した別の可能な構成は、50~80μinのSn/5~15μinのAg/7~18μinのCu/5~20μinのNiである。
【0056】
表12は追加のデータを示し、サンプル7が低い銅の好ましい実施形態を例示する。
【0057】
【0058】
錫層におけるAg3Sn金属間化合物の存在は摩擦の縮減に寄与するが、本発明者らは、合計で5~10μinの銀層が、本開示の他の好ましい実施形態と比較して金属コストを縮減しつつ、摩擦(R/N)の有利な縮減を提供するために十分なAg3Sn金属間化合物を生じ得るということを発見した。特に、これらの実施形態は、合計で10μinである銀層によって、0.2以下、より好ましくは0.18以下の摩擦(R/N)を達成し得る。
【0059】
これらの実施形態はまた、SAEのUSCAR2-8(2022)(これの内容全体は参照によって本明細書に組み込まれる)に従って150℃における加熱時効後に少なくとも5μinのフリーな錫層をもたらす。コーティングを有するコネクタの望ましい摩擦および電気特性がコネクタの耐用寿命に渡って残るであろうということを指示している。
【0060】
実施形態の前述の記載は例示および記載の目的で提供されている。それは徹底的であることまたは本開示を限定することを意図されない。特定の実施形態の個々の要素または特徴は、一般的にはその特定の実施形態には限定されず、適用可能なところでは交換可能であり、具体的に示されないまたは記載されない場合であっても、選択された実施形態に用いられ得る。これらはまた、多くのやり方で変形させられ得る。かかる変形は本開示からの逸脱と見なされるべきではなく、全てのかかる改変は本開示の範囲内に包含されることを意図される。
【手続補正書】
【提出日】2024-10-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、銅合金電気コネクタ部品、銅合金電気コネクタ部品上のコーティング、および、銅合金電気コネクタ部品上にコーティングを形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この項は本開示に関係する背景情報を提供する。これは必ずしも先行技術ではない。
【0003】
錫コーティングは、コネクタの寿命に渡って安定な分離可能な接触インターフェースを提供するために、端子およびコネクタ製造者によって長年用いられている。錫メッキは比較的軟質であり、かなり低い荷重において、形成し得る薄い表面酸化物を嵌合接触が突破することを可能にし、嵌合部分間の良好な電気の通り道を提供する。より薄い錫コーティングが一般的にはより望ましい。なぜなら、それらは一般的にはより低い垂直力抵抗性および縮減された摩擦係数を提供するからである。しかしながら、錫層の厚さは、錫-銅金属間化合物の形成が、利用可能なフリーな錫を「使い果たし」、コネクタの物理特性を変化させないために十分でなければならない。種々のバリア層、例えばNi層ならびにNiおよびCu層が、錫-銅金属間化合物の形成を縮減し、より薄い錫層が摩擦を縮減することを可能にするために導入されている。錫コーティングを改善し、摩擦を縮減するための努力が継続している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の実施形態は、改善された錫コーティングを有する銅合金電気コネクタ部品、銅合金電気コネクタ部品上のコーティング、および、銅合金電気コネクタ部品上にコーティングを形成する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、銅合金電気コネクタ部品であって、前記銅合金上の約5μinおよび約20μinの間のニッケル層、前記ニッケル層上の約7μinおよび約18μinの間の銅層、前記銅層上の合計で約5μinおよび約15μinの間の1つ以上の銀層ならびに合計で約40μinおよび約80μinの間の1つ以上の錫層を含む前記銅合金電気コネクタのリフロー加熱により、前記銀層および前記錫層が混合されて約8vol%および約45vol%の間のAg
3
Sn金属間化合物の形成が引き起こされたコーティングが形成されているものである。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、100×拡大におけるサンプルPPIBのAおよびB側のリフロー後の表面の光学顕微鏡写真である。
【
図2】
図2は、100×拡大におけるサンプルPPIDのAおよびB側のリフロー後の表面の光学顕微鏡写真である。
【
図3】
図3は、100×拡大におけるサンプルPPIAのAおよびB側のリフロー後の表面の光学顕微鏡写真である。
【
図4】
図4は、100×拡大におけるサンプルPPICのAおよびB側のリフロー後の表面の光学顕微鏡写真である。
【
図5A】
図5Aは、10kVにおけるサンプルPPIBのSEM顕微鏡写真である。
【
図6】
図6は、100×拡大におけるサンプルPPIIのAおよびB側のリフロー後の表面の光学顕微鏡写真である。
【
図7】
図7は、100×拡大におけるサンプルPPIJのAおよびB側のリフロー後の表面の光学顕微鏡写真である。
【
図8】
図8はサンプルPPIAのTEM画像およびEDSマップであり、銀層の不在および銅層の存在を示す。
【
図9】
図9はサンプルPPIBのTEM画像およびEDSマップであり、銀層の不在および銅層の存在を示す。
【
図10】
図10はサンプルPPIAのEDSラインスキャンである。
【
図11】
図11はサンプルPPIBのEDSラインスキャンである。
【
図12】
図12はサンプルPPIAのTEM画像であり、層および相が同定されている。
【
図13】
図13はPPIAのコンポジットEDSマップであり、十字線は層厚さ測定の場所を示す。
【
図14】
図14はサンプルPPIAのTEM画像であり、層および相が同定されている。
【
図15】
図15はPPIAのコンポジットEDSマップであり、十字線は層厚さ測定の場所を示す。
【
図16】
図16は、表面コーティングにおけるAg
3Sn金属間化合物の体積分率に対する個々のR/N点のスキャッタープロットである。表面コーティングのAg
3Sn金属間化合物の体積分率の増大に伴い、R/Nが小さくなり、Ag
3Snの体積分率の増大に伴い、分散もまた小さくなるということを示している。
【
図17】
図17は、表面コーティングにおけるAg
3Sn金属間化合物の体積分率に対する平均R/Nのスキャッタープロットである。表面コーティングのAg
3Sn金属間化合物の体積分率の増大に伴い、平均R/Nが小さくなるということを示している。図面の複数の図を通して、対応する参照符号は対応する部分を示している。
【発明を実施するための形態】
【0007】
この項は本開示の概要を提供し、その完全な範囲またはその特徴の全ての網羅的な開示ではない。
【0008】
本開示の実施形態は、錫の層の下に銀の層を施すことを規定する。本発明者らは、錫コーティングされた電気コネクタの摩擦力が、錫層における錫-銀金属間化合物の存在によって、特に錫層におけるAg
3
Sn金属間化合物の体積分率によって縮減されるということを観察した。
【0009】
1つの実施形態において、本開示は銅合金電気コネクタ部品上のコーティングを提供する。コーティングは、約5μinおよび約20μinの間のニッケル層を電気コネクタ部品の銅合金上に施すことと、それから約7μinおよび約18μinの間の銅層をニッケル層上に施すこととによって形成され得る。これは拡散に対するバリアを提供し、さもなければ錫層の利用可能な錫を消費し得る錫-銅金属間化合物の形成を縮減する。最終的に、バリア層の銅は錫と錫-銅金属間化合物を形成し、ニッケル層および錫-銅金属間化合物層は、コネクタ部品からの銅との金属間化合物の形成へのさらなる錫の損失を遅らせるであろう。銀および錫の層が銅層上に施され、リフロープロセスおよびAg
3
Sn金属間化合物を含有する銀-錫層の形成に付される。
【0010】
一般的に、約5μinおよび約15μinの間の銀ならびに約40μinおよび約80μinの間の錫が施される。これは銅層上の銀の単層および銀層上の錫の単層であり得る。代替的には、これは、銅層上に交互に積み重なった銀および錫の多重層であり得る。コーティングされた銅合金電気コネクタ部品は、銀および錫層の混合、ならびに少なくとも8vol%の、好ましくは8vol%および約40vol%の間のAg
3
Sn金属間化合物の形成を引き起こすために加熱される。
【0011】
別の実施形態において、本開示は、銅合金電気コネクタ部品上のコーティングを提供する方法を提供する。方法は、約5μinおよび約20μinの間のニッケル層を銅合金上に施し、約7μinおよび約18μinの間の銅層をニッケル層上に施す。それから、銀および錫の1つ以上の層が銅層上に施され、リフロープロセスおよびAg
3
Sn金属間化合物を含有する銀錫層の形成に付される。
【0012】
一般的には、約5μinおよび約15μinの間の銀ならびに約40μinおよび約80μinの間の錫が施される。これは銅層上の銀の単層および銀層上の錫の単層であり得る。代替的には、これは、銅層上に交互に積み重なった銀および錫の多重層であり得る。コーティングされた銅合金電気コネクタ部品は、銀および錫層の混合、ならびに少なくとも8vol%の、好ましくは8vol%および約40vol%の間のAg
3
Sn金属間化合物の形成を引き起こすために加熱される。
【0013】
別の実施形態において、本開示は、コーティングを有する銅合金電気コネクタ部品を提供する。コーティングは、約5μinおよび約20μinの間のニッケル層を電気コネクタ部品の銅合金上に施すことと、それから約7μinおよび約18μinの間の銅層をニッケル層上に施すこととによって形成される。これは拡散に対するバリアを提供し、さもなければ錫層の利用可能な錫を消費し得る錫-銅金属間化合物の形成を縮減する。最終的に、バリア層の銅は錫と錫-銅金属間化合物を形成し、ニッケル層および錫-銅金属間化合物層は、コネクタ部品からの銅との金属間化合物の形成へのさらなる錫の損失を遅らせるであろう。銀および錫の層が銅層上に施され、リフロープロセスおよびAg
3
Sn金属間化合物を含有する銀錫層の形成に付される。
【0014】
一般的に、約5μinおよび約50μinの間の銀ならびに約40μinおよび約80μinの間の錫が施される。これは銅層上の銀の単層および銀層上の錫の単層であり得る。代替的には、これは、銅層上に交互に積み重なった銀および錫の多重層であり得る。コーティングされた銅合金電気コネクタ部品は、銀および錫層の混合ならびに少なくとも8vol%のAg
3
Sn金属間化合物の形成を引き起こすために加熱される。
【0015】
適用可能なさらなる分野は、本明細書において提供される記載から明らかになるであろう。この概要における記載および具体例は例示の目的のみのためを意図され、本開示の範囲を限定することを意図されない。
【0016】
本明細書において記載される図面は、全ての可能な実装ではなく選択された実施形態のみの例示的な目的のためであり、本開示の範囲を限定することを意図されない。
【0017】
ここで、実施例の実施形態を付属の図面を参照してより詳しく記載する。
【実施例】
【0018】
錫層について2つの異なる厚さおよび銀層について2つの異なる厚さで、ニッケル銅バリア層とバリア層および錫層の間の銀層とを有する銅合金基板上に、錫コーティングを形成した。サンプルはリフロープロセスに供し、基板の各側において摩擦(R/N)を測定し、平均した。これらの結果は表1に示される通りである。
【0019】
【0020】
本開示において報告される値についての摩擦係数は、電気コネクタ材料を評価するために産業界において典型的なリニア往復ライダー・オン・フラット法を用いて決定した。試験は、材料のフラット上で材料の1/8”直径の半球体ライダーを、2.5N(250gf)の荷重下で乾燥条件において、3mmの長さに渡って3mm/sのスピードで10サイクル摺動させることによって行った。1つのサイクルは3mm前進および3mm後退であった。各サイクルの接触スピード部分はサイクルの60%であった。各試験の持続時間は25秒であった。
【0021】
この試験から測定されたR/N値は摺動摩擦係数を表し、ここで、Rは測定されたトラクション力であり、Nはかけられた垂直力であった。各試験の最終結果と見なされたR/N値は、10回の前進および10回の後退の動きについての平均R/Nとして計算した。各動きのR/Nは、5つの連続したデータ点の全長からの最も高い平均R/Nを有する動きの部分として取られた。これは動きのうちのおよそ0.5mmの移動に相当した。
【0022】
摩擦係数は、一般的に、より厚いAg下地メッキサンプルPPIBおよびPPIDではより低かった。表1から見られ得る通り、最も低いサンプル平均R/N(PPIB)は厚いAgおよび薄いSn(15/37)の組み合わせを有し、最も高いサンプル平均R/N(PPIC)は薄いAgおよび厚いSn(5/75)の組み合わせを有した。
【0023】
図1から4は、サンプルAからDのリフロー後の表面の光学顕微鏡写真を示す。表1と同じ順、即ちR/Nの昇順で提示されている。これらの顕微鏡写真はリフロー表面における青灰色の第2の相を示し、これの体積分率は
図1から4へと目に見えて減少している。これらの図から見られ得る通り、R/Nの増大は、第2の相の量の減少と関連する。
【0024】
図5Bは
図1~4の青灰色の相のEDS分析を示す。
図5Bのスペクトルの挿入図に示されたこの相の組成は、この相がAg
3Snであるということを指示している。本発明者らは、Ag厚さに対するR/Nの依存性は、Ag
3Snの体積分率に対するR/N依存性の付随的な結果であるということを推測する。
【0025】
Agのメッキされた層がリフローによってSn中に完全に溶け込むことが想定される場合には、Ag3Snの体積分率はリフロー前のSnの厚さに対する相対的なAgの厚さに専ら依存するであろう。いくつかの想定によって、リフロー表面におけるAg3Snの体積分率は、AgおよびSnメッキされた層の厚さから計算され得る。以下を想定する。
【0026】
1)Agメッキされた層はリフローによってSn中に完全に溶け込む。
【0027】
2)Ag3Snを形成するためにAgの全てを消費するための十分に厚いSnがある。即ち、Agが限定因子である。
【0028】
3)AgおよびSnの厚さは表面積の単位上で一定である。
【0029】
4)AgおよびSnのメッキされた層の密度は、それらの純粋な元素値に合致する。
【0030】
5)Ag3Snの密度は公知であり、リフロー表面に形成される化合物のものに合致する。
【0031】
リフロー表面におけるAg3Snの体積分率φAg3Snは、メッキされた層におけるAgの体積分率φAgに関係するであろう。表面積の単位あたりのAgの体積分率は、単純にφAg=tAg/(tAg+tSn)によって、メッキされた層の厚さに関係するであろう。ここで、tAg=Agの層厚さ、tSn=Snの層厚さである。密度および原子量の値を代入した後に、φAg3SnはφAg3Sn≒1.5084*φAgによって近似され得る。
【0032】
表2は、R/Nの昇順で並べられたサンプルPPIAからPPIDについてのAgおよびAg
3Snの計算された体積分率を与える。表2の厚さ値は、サンプル番号によって報告された測定値である。計算された値は、R/Nの増大が、メッキされた層におけるAgの体積分率の減少に起因するAg
3Snの体積分率の減少と関連することを示している。これらの計算は
図1から4において観察されたAg
3Snの減少を支持し、それらはAg厚さに対するR/Nの依存性を支持する。
【0033】
【0034】
より厚いSn層は通常はより高いR/Nと関連するので、R/Nのこの分析にはSn層の厚さへの考慮を含めるべきである。サンプルPPIIおよびPPIJは、Cu/Niバリア上に97:3Sn:Agの外側層を有する。そのため、これらの2つのサンプルのリフロー表面におけるAg含有量は、メッキ厚さにかかわらずおよそ3重量%で一定であったであろう。これらの2つのサンプルはSnAg層の厚さのみが異なった。
【0035】
実際に、上で言及された厚さ効果は、表3に示される通りPPIIおよびJで明白であった。R/Nは、より薄い層のサンプル(PPII)よりもより厚い層のサンプル(PPIJ)で高かった。この厚さ効果は、サンプルPPIAからPPIDのセットにある同じ2つの厚さ37および75μinの間で立証された。
【0036】
【0037】
PPIIおよびPPIJ両方は、STARなどの従来の錫コーティングよりも統計的に有意に低いR/Nを有し、より低いR/Nの原因がメッキ中のAgであるということを指示した。サンプルPPIAからPPIDにおいて、Agはリフロー表面においてAg3Snとして現れ、Ag3Snの体積分率に対するR/Nの依存性が観察および計算された。
【0038】
図5および6は、それぞれPPIIおよびPPIJのリフロー表面の顕微鏡写真である。これらの顕微鏡写真は、細かく分散された第2の相の小さい体積分率を示す。しかしながら、PPIIのB側の顕微鏡写真は、説明されない大きい第2の相のエリアを示す。
【0039】
SnAgリフロー表面におけるAg
3Snの体積分率は、等式
によって計算され得て、メッキされた層におけるAgの重量分率wAgに関係するであろう。
【0040】
この等式ならびにAg、Sn、およびAg3Snの密度および原子量を用いて、97/3SnAgメッキ(wAg=0.03)のリフロー層におけるAg3Snの体積分率はφAg3Sn=0.0304であろう。97/3SnAg層におけるAg3Snの計算された体積分率によって、PIIIおよびJは表4のサンプルPPIAからPIIDと比較される。この表のサンプルはその効果をはっきりさせるために厚さによってグループ分けされ、それらは各群においてR/Nの昇順で並べられている。表はAg3Snの体積分率の効果を明白にしている。低体積分率SnAgサンプルは、各群において最も高いR/Nを有した。サンプルの両方の群において、R/NはAg3Snの体積分率の減少に伴い増大する。
【0041】
Ag3Snの体積分率の計算における主要な想定は、Ag層がリフローによってSn中に完全に溶け込むであろうということであった。この想定はサンプルAおよびBのリフロー表面の断面によって裏付けられる。これらは、Agの下層がリフローによって完全に溶け込んだということを示している。
【0042】
PPIAおよびPPIBのリフロー表面の断面を集束イオンビーム(FIB)加工によって作成し、透過電子顕微鏡(TEM)によって検査した。FIBによる断面化は、サンプルに導入される変形および熱が無視できるであろうという利点を有し、TEMによる検査は、個々の層および相の形態学、組成、および厚さを正確に決定するための高解像度の拡大を可能にした。
図8および9はFIB断面からのTEM画像およびEDSマップを示す。Agマップは、Ag層がどちらのサンプルにも残っていなかったということを示し、Ag層がリフローによってSn中に完全に溶け込むというAg
3Sn計算の想定をさらに確認している。
【0043】
Ni、Cu、Cu3Sn、Cu6Sn5、およびSnの明確な層がPPIAおよびPPIB両方のTEM画像において見られ、Ag3SnのエリアがPPIBの表面に見られた。PPIAのFIBラメラはいずれかのAg3Sn相を含有しなかった。本発明者らは、これがこのサンプルにおけるAg3Snのより低い体積分率に帰せられると考えている。この低い体積分率によって、ラメラが偶然にこの相のいずれかを含有することがないようになされた可能性がある。
【0044】
Cuマップは、各サンプルがリフロー後に有意な厚さのCu層を含有したということを示している。これは注目に値する。なぜなら、STARおよびATBなどの既存の錫コーティングは、リフロー後にCu層を有さないかまたはほとんどCu層を有さないはずであり、そのため、Cuが加熱時効によるインヒビターなしの金属間化合物成長にとって利用可能ではないであろうからである。
【0045】
図10はPPIAのラインスキャン分析を提示する。このラインスキャンにおいて、Cu
6Sn
5(54.5at%Cu、45.5at%Sn)およびCu
3Sn(75at%Cu、25at%Sn)の原子組成が明瞭に見られる。このスキャンは、純粋なSnの層が表面にあったということを示している。Cu
6Sn
5相は、単一の大きい結晶粒として純粋なSn層に隣接して見られる。Cu
3Sn相は、Cu
6Sn
5およびCu層の間に所在するおよそ130mの結晶粒度を有する非常に細かい結晶粒の層として見られる。
【0046】
図11はPPIBのラインスキャン分析を提示する。このスキャンにおいては、Ag
3Sn(75at%Ag、25at%Sn)の原子組成が、表面の大きいAg含有相に明瞭に見られる。
図9のこのサンプルのEDSマップは、ラインスキャンがなされたAg
3Sn相の直下に、純粋なSnの小さい領域があるということを示している。ラインスキャン上で、この領域はおよそ0.98μmから始まって検出される。純粋なSnのこの小さい領域のスキャンは、それが、Cuのx線が検出された隣接するCu
6Sn
5に十分近く、直に縁に沿って通過するように位置した。これは、なぜ約1μmにおけるグラフ上のSnの線が80at%のSnまでしか到達しなかったのか、およびスキャンがこの領域上を進行するにつれてなぜSn含有量が着実に減少したのかを説明し、それは、なぜCuがこのエリアにおいて検出されたかを説明するであろう。ラインスキャンは、Snのこの小さい領域の下では、スキャンに沿っておよそ1.20から1.35μmにおいて、CuおよびSnの組成はおよそ一定であり、Cu
6Sn
5と整合する(54.5at%Cu、45.5at%Sn)ということを示している。Cu
6Sn
5およびCu層の間のラインスキャンに沿ったエリアは、Cu
3Snの非常に小さい層を含有したが、それは、PPIAと類似の結晶粒度の細かい結晶粒の形態学によって見られる通りであり、かつこの層におけるより高いレベルのCuおよびより低いレベルのSnを示した
図9のEDSマップにおいて見られる通りである。しかしながら、ラインスキャンは細かい結晶粒のこの薄い層のまさに縁に沿って通過し、そのため、EDSはCu
3Snの組成を解明し得なかった。
【0047】
リフロー前のNi、Cu、Ag、およびSnのメッキ後の層の厚さは、XRFによって測定およびPPIによって報告された通り、サンプルAからDについて表5において与えられる。
【0048】
【0049】
PPIAおよびPPIBのリフロー後のサンプルの層および相の厚さを、
図12~15に与えられているTEM画像およびEDSマップから測定した。これらの画像およびマップは、同じ画像上の外側のメッキされた表面と併せてNi層の全厚を示す。厚さ測定は、
図13および15のEDSマップに示される通り、各画像上の10個の等間隔の場所において順次に行った。場所1は最も左の場所である。厚さ測定は表6および7で与えられている。
【0050】
【0051】
【0052】
消費されるメッキの厚さおよび形成される金属間化合物(IMC)の厚さを計算するためのパラメータが表8に呈示されている。パラメータaおよびbは、AxByの所与のIMC厚さを形成するために消費される元素AおよびBの厚さの計算を可能にする。これらのパラメータの逆数a-1およびb-1は、所与の厚さのAまたはBの反応によって形成されるIMCの厚さの計算を可能にする。パラメータaおよびbの比は、反応物元素について消費される厚さの計算を可能にする。例えば、AxByを形成するために消費される元素Aの所与の厚さについて、b/a比は反応において消費されるであろうBの厚さを与え、元素Bの消費される所与の厚さについてのa/b比について、逆もまた同様である。
【0053】
【0054】
これらのパラメータによって、リフロー前のAg、Cu、およびSnのメッキされた層の厚さが表6および7の測定から逆算され得る。これらの計算の結果は表9に示され、サンプル番号によって報告された結果と比較される。
【0055】
【0056】
逆算された値が、メッキされた表面の非常に小さいエリアをカバーするFIBカットからの単一断面の極めて小さい統計サンプルに基づくということを考えると、逆算された結果は、サンプルによって報告される結果と良好に一致している。
【0057】
ATBおよびSTARなどのバリアを有する既存の錫コーティングシステムの発想は、Cu/Niバリアが、基材材料からのCuの拡散を遅らせることによってCu-SnのIMCの成長を遅らせるということである。しかしながら、メッキされたCuの厚さが大きくなる場合には、過剰なCuがリフロー後に存在し得る。これについては、加熱時効による拡散に対するバリアがないであろう。よって、過剰なCuが消費されるまで、Cu-SnのIMCの高い率の成長が起こるであろう。メッキされたCuが大きすぎた場合には、それは短い時間量の加熱時効においてSnの全てを消費し得た。AgおよびCuの所与の厚さについて、150℃/1wkなどの短時間加熱時効後に消費されるSnの量の計算は、表8のaおよびbパラメータを用いて直截的になされ得る。消費されるSnの量の等式は、
tSn.cons.=(b/a)Ag3SntAg+(b/a)Cu6Sn5tCu
であり、ここで、tSn.cons.=IMCとして消費されるSnの厚さ、tAgおよびtCu=それぞれ短時間加熱時効後にIMCとして完全に消費されるであろうAgおよびCuのメッキ厚さである。表8から、(b/a)Ag3Sn=0.52968、(b/a)Cu6Sn5=1.91995である。
【0058】
表10は、PPIサンプルAからDについてなされた計算の結果を示す。サンプルAおよびBについての計算の結果は、これらのサンプルでは、フリーなSnがほとんど残っていないかまたは残らないであろうということを示している。PPIAは2~3μinのフリーなSnを有し、PPIBはフリーなSnを有さないであろう。PPICおよびDはそれぞれがおよそ40μinのフリーなSnを有するであろう。
【0059】
【0060】
表11は、AgおよびCu厚さの種々の組み合わせについて、短時間時効においてIMCとして消費されるであろうSnの計算された量の値を示す。標準的なATBでは、Cu仕様は7から18μinである。標準的なATBの最小Sn厚さは40μinであり、Agメッキはない。表11は、最小で5μinのフリーなSnが標準的なATBで短時間時効後に存在するであろうということを示す。即ち、18μinの最大Cu厚さにおいて、34.6μinのSnがIMCとして消費され、5.4μinのフリーなSnを残すであろう。
【0061】
【0062】
本開示の原理に従う銀の追加を従来のATBに施すためには、5μinのフリーなSnが短時間時効後に利用可能であろうということを保証するために、即ち標準的なATBと同じ量のフリーなSnを保証するために、標準的なATBに対して相対的に、仕様の最大Cuが減少させられることを必要とするか、または仕様の最小Snが増大させられることを必要とするかどちらかであろう。例えば、表10に示される通り、15μinのAgおよび18μinのCuでは、短時間時効後に、42.5μinのSnがIMCとして消費されるであろう。これらのAgおよびCu厚さにおいて5μinのフリーなSnを保証するために、Snの最小の仕様は、48μinであることを必要とするであろう。
【0063】
別のやり方で考慮すると、40μinの最小Sn厚さおよび15μinの最大Ag厚さでは、短時間時効後に5μinのフリーなSnを保証するには、最大Cu厚さは14μin以下であることを必要とするであろう。厚さの他の組み合わせも可能であろう。ここでのポイントは、銀がATBに施されるために、Cuおよび/またはSn仕様は、フリーなSnが短時間時効後に利用可能であるということを保証するために、標準的なATBとは異なることを必要とするであろうということである。
【0064】
特に好ましい実施形態では、リフロー表面におけるAg3Sn金属間化合物の存在を保証することを助けるために、Cu層の厚さは縮減され、および/またはSn層の厚さは増大されて、フリーなSnが短時間加熱時効後に利用可能なまま残るということを保証する。この特に好ましい実施形態では、好ましくは、約5および15μinの間のAgがあり、短時間時効後に少なくとも5μiのフリーなSnを保証するであろうCu/Ni厚さがある。Cu厚さの縮減に注目した1つの可能な構成は、40~80μinのSn/5~15μinのAg/7~14μinのCu/5~20μinのNiである。Snを増大させることに注目した別の可能な構成は、50~80μinのSn/5~15μinのAg/7~18μinのCu/5~20μinのNiである。
【0065】
表12は追加のデータを示し、サンプル7が低い銅の好ましい実施形態を例示する。
【0066】
【0067】
錫層におけるAg3Sn金属間化合物の存在は摩擦の縮減に寄与するが、本発明者らは、合計で5~10μinの銀層が、本開示の他の好ましい実施形態と比較して金属コストを縮減しつつ、摩擦(R/N)の有利な縮減を提供するために十分なAg3Sn金属間化合物を生じ得るということを発見した。特に、これらの実施形態は、合計で10μinである銀層によって、0.2以下、より好ましくは0.18以下の摩擦(R/N)を達成し得る。
【0068】
これらの実施形態はまた、SAEのUSCAR2-8(2022)(これの内容全体は参照によって本明細書に組み込まれる)に従って150℃における加熱時効後に少なくとも5μinのフリーな錫層をもたらす。コーティングを有するコネクタの望ましい摩擦および電気特性がコネクタの耐用寿命に渡って残るであろうということを指示している。
【0069】
実施形態の前述の記載は例示および記載の目的で提供されている。それは徹底的であることまたは本開示を限定することを意図されない。特定の実施形態の個々の要素または特徴は、一般的にはその特定の実施形態には限定されず、適用可能なところでは交換可能であり、具体的に示されないまたは記載されない場合であっても、選択された実施形態に用いられ得る。これらはまた、多くのやり方で変形させられ得る。かかる変形は本開示からの逸脱と見なされるべきではなく、全てのかかる改変は本開示の範囲内に包含されることを意図される。
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅合金電気コネクタ部品であって、前記銅合金上の約5μinおよび約20μinの間のニッケル層、前記ニッケル層上の約7μinおよび約18μinの間の銅
層、前記銅層上の合計で約5μinおよび約15μinの間の1つ以上の銀層ならびに合計で約40μinおよび約80μinの間の1つ以上の錫層を含
む前記
銅合金電気コネクタのリフロー加熱
により、前記銀
層および
前記錫層が混合
されて約8vol%および約45vol%の間のAg
3Sn金属間化合物の形成
が引き起こ
されたコーティングが形成されている、銅合金電気コネクタ部品
。
【請求項2】
銅合金電気コネクタ部品であって、
前記銅合金上の約5μinおよび約20μinの間のニッケル層、
前記ニッケル層上の約7μinおよび約18μinの間の銅層、
前記銅層上の約5μinおよび約15μinの間の銀層
ならびに約40μinおよび約80μinの間の錫
層を含む前記銅合金電気コネクタ部品
の加熱
により、前記銀
層および
前記錫層
が混合
されて約8vol%および約45%の間のAg3Sn金属間化合物の形成
が引き起こ
されたコーティング
が形成されている、銅合金電気コネクタ部品。
【請求項3】
前記コーティングが、約0.20および約0.13の間のR/Nを前記
銅合金電気コネクタ部品に与える、請求項
1又は2に記載の銅合金電気コネクタ部品。
【請求項4】
前記コーティングが、約0.19および約0.135の間のR/Nを前記
銅合金電気コネクタ部品に与える、請求項
3に記載の銅合金電気コネクタ部品
。
【請求項5】
銅合金電気コネクタ部品上のコーティングであって、
前記銅合金上の約5μinおよび約20μinの間のニッケル層、
前記ニッケル層上の約7μinおよび約18μinの間の銅層、
前記銅層上の合計で約5μinおよび約15μinの間の銀層ならびに約40μinおよび約80μinの間の錫層を
含む前記銅合金電気コネクタ部品
の加熱
により、前記銀
層および
前記錫層
が混合
されて8vol%および45vol%の間のAg
3Sn金属間化合物の形成
が引き起こ
されて形成され
ている、銅合金電気コネクタ部品上のコーティング。
【請求項6】
前記コーティングが、約0.20および約0.13の間のR/Nを前記
銅合金電気コネクタ部品に与える、請求項
5に記載の銅合金電気コネクタ部品上のコーティング。
【請求項7】
前記コーティングが、約0.19および約0.135の間のR/Nを前記
銅合金電気コネクタ部品に与える、請求項
6に記載の銅合金電気コネクタ部品上のコーティング
。
【請求項8】
銅合金電気コネクタ部品上のコーティングを形成する方法であって、前記方法が、約5μinおよび約20μinの間のニッケル層を前記銅合金上に施すことと、約7μinおよび約18μinの間の銅層を前記ニッケル層上に施すことと、合計で約5μinおよび約15μinの間の銀層ならびに約40μinおよび約80μinの間の錫層を前記銅層上に施すことと、前記
銅合金電気コネクタ部品をリフロー加熱して、前記銀
層および
前記錫層の混合、ならびにもたらされる銀錫層における8vol%および約45vol%の間のAg
3Sn金属間化合物の形成を引き起こすことと
、を含む、方法。
【請求項9】
前記銀層が単層として前記銅層上に施され、
前記錫層が単層として前記銀層上に施される、請求項
8に記載の方法。
【請求項10】
前記銀層および前記錫層が
、複数の交互の層として施される、請求項
8に記載の方法。
【請求項11】
前記コーティングが、約0.20および約0.13の間のR/Nを前記
銅合金電気コネクタ部品に与える、請求項
8ないし10のいずれか一に記載の方法。
【請求項12】
リフロー加熱後に、前記コーティングが、約0.19および約0.135の間のR/Nを前記
銅合金電気コネクタ部品に与える、請求項
11に記載の方法。
【請求項13】
リフロー加熱前に、合計で約5μinおよび約10μinの間の1つ以上の
前記銀層が施される、請求項
11または12に記載の方法。
【請求項14】
銅合金電気コネクタ部品上にコーティングを形成する方法であって、前記方法が、約5μinおよび約20μinの間のニッケル層を前記銅合金上に施すことと、約7μinおよび約18μinの間の銅層を前記ニッケル層上に施すことと、約5μinおよび約15μinの間の銀層を施すことと、約40μinおよび約80μinの間の錫
層を施すことと、前
記銅合金電気コネクタ部品を加熱して、前記銀
層および
前記錫層の混合ならびに約25vol%および約45vol%の間のAg
3Sn金属間化合物の形成を引き起こすことと
、を含む、方法
。
【請求項15】
銅合金電気コネクタ部品上のコーティングを形成する方法であって、前記方法が、約5μinおよび約20μinの間のニッケル層を前記銅合金上に施すことと、約7μinおよび約18μinの間の銅層を前記ニッケル層上に施すことと、約5μinおよび約15μinの間の銀層を施すことと、約40μinおよび約80μinの間の錫
層を施すことと
、を含み
、前記
銅層および
前記ニッケル層の厚さは
、少なくとも5μinのフリーな
前記錫層が短時間時効後に残
ることを保証するように選択される、方法。
【請求項16】
前記銅層が7および14μinの間である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記錫層が合計で少なくとも50μinである、請求項15又は16に記載の方法。
【国際調査報告】