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特表2024-544206フルオロカーボン/パラジウム/マグネシウム-スカンジウムの水素ガスクロミック色変換膜及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-28
(54)【発明の名称】フルオロカーボン/パラジウム/マグネシウム-スカンジウムの水素ガスクロミック色変換膜及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/14 20060101AFI20241121BHJP
   G02F 1/19 20190101ALI20241121BHJP
   C23C 14/35 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
C23C14/14 G
G02F1/19
C23C14/35 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024533136
(86)(22)【出願日】2022-04-27
(85)【翻訳文提出日】2024-06-03
(86)【国際出願番号】 CN2022089434
(87)【国際公開番号】W WO2022228448
(87)【国際公開日】2022-11-03
(31)【優先権主張番号】202110476304.5
(32)【優先日】2021-04-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507190994
【氏名又は名称】上海交通大学
【氏名又は名称原語表記】SHANGHAI JIAO TONG UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】800 Dongchuan Rd.,Minhang District,Shanghai,200240,P.R.CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】100230086
【弁理士】
【氏名又は名称】譚 粟元
(72)【発明者】
【氏名】陳 娟
(72)【発明者】
【氏名】方 浩瀾
(72)【発明者】
【氏名】彭 立明
(72)【発明者】
【氏名】劉 峻嘉
(72)【発明者】
【氏名】申 ▲イ▼
(72)【発明者】
【氏名】王 廷炎
(72)【発明者】
【氏名】陳 炎
(72)【発明者】
【氏名】丁 文江
【テーマコード(参考)】
2K101
4K029
【Fターム(参考)】
2K101AA24
2K101DA21
2K101EH02
2K101EJ23
2K101EK03
2K101EK21
4K029AA08
4K029BA02
4K029CA05
4K029DC03
4K029DC39
4K029EA01
4K029EA03
4K029EA08
4K029EA09
4K029FA04
4K029GA00
(57)【要約】
本発明は、基板に順次設けられたマグネシウム-スカンジウム複合膜層、パラジウム触媒層及びフルオロカーボン膜層を含む、フルオロカーボン/パラジウム/マグネシウム-スカンジウムの水素ガスクロミック色変換膜及びその製造方法を開示する。その製造方法において、まず、基板にマグネシウム-スカンジウム複合膜層を成長させ、次に、マグネシウム-スカンジウム層にパラジウム触媒層をその場で成長させ、最後に、Pdにフルオロカーボン膜層を堆積する。本発明は、パラジウムの触媒効果を利用して、水素吸蔵及び水素放出段階において、水素ガスと水素原子との間の可逆的な変換を促進し、複合スカンジウム元素を添加してマグネシウム基体における水素原子の拡散を加速し、水素化物の形成及び分解を促進することにより、膜が反射状態と透明状態との間に速く繰り返し切り替えるとともに、膜層の水素吸蔵放出のサイクル耐久性を向上させることができる。反応過程全体は、室温で実現することができる。当該調光膜は、水素吸蔵の応答、水素放出の回復時間が短く、サイクル性能が良好であり、プロセスが簡単であり、水素ガスセンシングの分野において重要な利用可能性を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に順次設けられたマグネシウム-スカンジウム複合膜層、パラジウム触媒層及びフルオロカーボン膜層を含む、
ことを特徴とするフルオロカーボン/パラジウム/マグネシウム-スカンジウムの水素ガスクロミック色変換膜。
【請求項2】
前記マグネシウム-スカンジウム複合膜層において、スカンジウムのモル百分率が5~75%である、
ことを特徴とする請求項1に記載のフルオロカーボン/パラジウム/マグネシウム-スカンジウムの水素ガスクロミック色変換膜。
【請求項3】
前記マグネシウム-スカンジウム複合膜層の厚さが10~80nmであり、前記パラジウム触媒層の厚さが3~7nmであり、前記フルオロカーボン膜層の厚さが30~150nmである、
ことを特徴とする請求項1に記載のフルオロカーボン/パラジウム/マグネシウム-スカンジウムの水素ガスクロミック色変換膜。
【請求項4】
前記基板は、石英ガラス、光ファイバー、導電性ガラス、有機ガラス、フレキシブルガラスのうちのいずれか1種を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載のフルオロカーボン/パラジウム/マグネシウム-スカンジウムの水素ガスクロミック色変換膜。
【請求項5】
マグネトロン同時スパッタリング法を用いて前記基板に前記マグネシウム-スカンジウム複合膜層を成長させ、次に、マグネトロンスパッタリング法を用いて前記マグネシウム-スカンジウム複合膜層に前記パラジウム触媒層を製造し、最後に、プラズマ気相堆積法を用いて前記パラジウム触媒層の表面にフルオロカーボン膜を製造するステップを含み、
具体的には、
洗浄液で前記基板を浸漬してから、前記基板を洗浄するステップS1と、
洗浄された前記基板をマグネトロンスパッタリング反応室に入れ、真空引きシステムをオンにして真空引きを行うステップS2と、
前記基板を加熱し、作動ガスAを導入し、圧力を保持し、ガス圧が安定した後、パラジウムターゲット、マグネシウムターゲット及びスカンジウムターゲットの電源をオンにし、ターゲット材の前のバッフルを閉じ、前記ターゲット材にプリスパッタリング洗浄を行うステップS3と、
プレスパッタリングが完了した後、前記マグネシウムターゲット及び前記スカンジウムターゲットのバッフルを開き、同時スパッタリングプロセスプログラムをロードし、前記マグネシウム-スカンジウム複合膜層を堆積するステップS4と、
ステップS4において堆積が完了した後、真空度を一定に保持したまま、前記パラジウムターゲットのバッフルを開き、前記パラジウム触媒層のスパッタリングプロセスプログラムをロードし、前記パラジウム触媒層を堆積するステップS5と、
ステップS5において堆積が完了した後、全てのターゲット材の電源をオフにし、引き続き前記作動ガスAでサンプルをパージしてから、前記作動ガスAの導入を停止し、前記サンプルを取り出すステップS6と、
取り出された前記サンプルを反応性イオン式気相堆積機の反応室内に入れ、作動ガスBを導入し、プラズマ気相堆積プロセスプログラムをロードし、前記パラジウム触媒層の表面に前記フルオロカーボン膜を堆積し、堆積が完了した後、前記サンプルを取り出して、フルオロカーボン/パラジウム/マグネシウム-スカンジウムの水素ガスクロミック色変換膜を得るステップS7とを含む、
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のフルオロカーボン/パラジウム/マグネシウム-スカンジウムの水素ガスクロミック色変換膜の製造方法。
【請求項6】
ステップS1において、前記洗浄液は、濃硫酸と過酸化水素水との混合溶液であり、体積比が3:1である、
ことを特徴とする請求項5に記載のフルオロカーボン/パラジウム/マグネシウム-スカンジウムの水素ガスクロミック色変換膜の製造方法。
【請求項7】
ステップS3において、前記作動ガスAは、アルゴンガスであり、バックグラウンド真空度が8×10~9×10-5Paになるまで真空引きを行い、
ステップS3において、前記基板を温度が20~25℃になるように加熱し、前記圧力を0.4~0.6Paに保持し、前記プレスパッタリング時間を5~20minとする、
ことを特徴とする請求項5に記載のフルオロカーボン/パラジウム/マグネシウム-スカンジウムの水素ガスクロミック色変換膜の製造方法。
【請求項8】
ステップS4において、前記同時スパッタリングプロセスプログラムにおいて、用いられる前記マグネシウムターゲット、前記スカンジウムターゲットのスパッタリングパワーをそれぞれ20~100W、20~300Wとし、同時スパッタリング時間を30~100sとする、
ことを特徴とする請求項5に記載のフルオロカーボン/パラジウム/マグネシウム-スカンジウムの水素ガスクロミック色変換膜の製造方法。
【請求項9】
ステップS5において、前記スパッタリングプロセスプログラムにおいて、用いられる前記パラジウムターゲットのスパッタリングパワーを30~80Wとし、スパッタリング時間を10~60sとする、
ことを特徴とする請求項5に記載のフルオロカーボン/パラジウム/マグネシウム-スカンジウムの水素ガスクロミック色変換膜の製造方法。
【請求項10】
ステップS7において、前記作動ガスBは、Cガスであり、前記プラズマ気相堆積プロセスプログラムにおいて、用いられる作動ガス圧を2~6Paとし、ガスBの流量を20~50sccmとし、ガス励起パワーを400W~800Wとし、堆積時間を10~100sとする、
ことを特徴とする請求項5に記載のフルオロカーボン/パラジウム/マグネシウム-スカンジウムの水素ガスクロミック色変換膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素ガスクロミック色変換膜の技術分野に属し、具体的には、フルオロカーボン/パラジウム/マグネシウム-スカンジウムのガスクロミック調光膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素ガスは、クリーンエネルギーキャリアとして将来の持続可能な社会において重要な役割を果たすが、空気中の水素ガス含有量が4%~75%である場合、裸火にさらされると爆発し、それとともに、水素ガスの着火エネルギーが低く、水素分子が極めて拡散しやすいため、水素ガスの貯蔵、輸送及び使用過程において水素ガスの漏れなどの問題を回避すべきであり、一方、水素ガスは、無色、無臭、無臭であり、人間が感知できないものであるため、敏感で信頼できる水素ガス検知装置、即ち水素ガスセンサを備えることは必須である。
【0003】
従来の水素ガス検知作業は、主に触媒抵抗検出器又は電気化学装置によって実現され、現在、このような装置には、依然として改善が必要な欠点が存在し、例えば、それらはいずれも電気リード線を使用する必要があり、これは検出点で火花を引き起こして安全性の問題が発生する可能性があり、それとともに、これらの検出システムの占有スペースが大きすぎ、消耗品が高価であり、応用範囲が制限される。したがって、一部の研究グループは、水素ガスクロミック色変換膜に基づく光学センサに目を向けている。現在、最も代表的な水素ガスクロミック色変換膜構造は、パラジウム/マグネシウム基複合材料/石英ガラスであり、パラジウムは、ガスに対する吸着性が高く、触媒層として使用することができ、マグネシウム基材料は、水素貯蔵能力が強く、調光層として使用することができ、従来の複合材料は、遷移金属、希土類金属、アルカリ土類金属及び遷移金属酸化物などを含む。しかしながら、従来のマグネシウム基水素ガスクロミック色変換膜は、水素ガスセンサの応答要求及び耐久性要求を満たすために、水素吸蔵放出速度及びサイクル耐久性をさらに向上させる必要がある。また、パラジウムは、疎水性が低いため、脱水素により生成した水分子及び空気中の水蒸気がパラジウム層の表面に集まって、調光膜を腐食させやすい。したがって、水素吸蔵放出の光学変換特性に優れ、サイクル耐久性に優れた、新型水素ガスクロミック調光膜層系を開発する必要がある。
【0004】
スカンジウムは、希土類元素として、21世紀における重要な「グリーンエネルギー科学技術金属」、「重要性」又は「戦略的」鉱物資源と呼ばれ、構造材料、触媒などの分野に広く応用されている。
【0005】
発明者が先に出願した特許文献CN109136841Aには、基板に順次設けられたマグネシウム-五酸化ニオブ複合膜層、パラジウム触媒層及びフルオロカーボン疎水層を含むフルオロカーボン/パラジウム/マグネシウム-五酸化ニオブのガスクロミック調光膜及びその製造方法が記載されている。特許文献CN112596279Aには、順次設けられた基板、マグネシウム-ルテニウム複合調光膜層、パラジウム触媒層及び炭素フッ素保護膜層を含むフルオロカーボン/パラジウム/マグネシウム-ルテニウム系のガスクロミック調光膜及びその製造方法が記載されている。しかしながら、フルオロカーボン/パラジウム/マグネシウム-五酸化ニオブ複合膜層及びフルオロカーボン/パラジウム/マグネシウム-ルテニウム系の水素吸蔵放出速度(水素吸蔵反応時間は、それぞれ80s、50sであり、水素放出反応時間は、それぞれ800s、900sである)及びサイクル耐久性(フルオロカーボン/パラジウム/マグネシウム-五酸化ニオブ複合膜層が50回サイクルし、調光区間が1.5%低下する)は、さらに向上する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、従来の調光膜の分野の欠点を補って、フルオロカーボン/パラジウム/マグネシウム-スカンジウムの水素ガスクロミック色変換膜及びその製造方法を提供することであり、当該膜は、常温で水素ガスと反応することで反射状態から透明状態になり、さらに空気と反応することで透明状態から反射状態になる。本発明のフルオロカーボン/パラジウム/マグネシウム-スカンジウム系は、フルオロカーボン/パラジウム/マグネシウム-五酸化ニオブ複合膜層及びフルオロカーボン/パラジウム/マグネシウム-ルテニウム系に比べて、より高い水素吸蔵放出速度及びより良好なサイクル耐久性を有し、より高い応用価値を有する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的は、以下の技術手段によって実現される。
【0008】
本発明によれば、基板に順次設けられたマグネシウム-スカンジウム複合膜層、パラジウム触媒層及びフルオロカーボン膜層を含む、フルオロカーボン/パラジウム/マグネシウム-スカンジウムの水素ガスクロミック色変換膜が提供される。
【0009】
好ましくは、前記マグネシウム-スカンジウム複合膜層において、スカンジウムのモル百分率が5~75%であり、より好ましくは、スカンジウムのモル百分率が13~55%であり、最も好ましくは、スカンジウムのモル百分率が31%である。前記マグネシウム-スカンジウム複合膜層において、マグネシウムの含有量が高すぎ、スカンジウムの含有量が低すぎると、水素吸蔵放出時間が長すぎ、反応が遅くなり、変換速度を低下させ、サイクル性能が悪くなり、逆に、調光区間が小さくなる。
【0010】
好ましくは、前記マグネシウム-スカンジウム複合膜層の厚さが10~80nmであり、複合膜層が厚すぎると、水素吸蔵放出の応答時間が長くなり、サイクル性能を低下させ、複合膜層が薄すぎると、脱水素状態の膜の透過率が高くなり、調光区間が小さくなり、
前記パラジウム触媒層の厚さが3~7nmであり、パラジウム層が厚すぎると、光線を遮断し、水素吸蔵状態の透過率を減少させ、パラジウム層が薄すぎると、水素吸蔵放出サイクルによる体積変化によって破壊されやすく、触媒効率を低下させ、
前記フルオロカーボン膜層の厚さが30~150nmである。
【0011】
好ましくは、前記基板は、石英ガラス、光ファイバー、導電性ガラス、有機ガラス、フレキシブルガラスのうちのいずれか1種を含む。
【0012】
本発明によれば、マグネトロン同時スパッタリング法を用いて前記基板に前記マグネシウム-スカンジウム複合膜層を成長させ、次に、マグネトロンスパッタリング法を用いて前記マグネシウム-スカンジウム複合膜層に前記パラジウム触媒層を製造し、最後に、プラズマ気相堆積法を用いて前記パラジウム触媒層の表面にフルオロカーボン膜を製造するステップを含み、
具体的には、
洗浄液で前記基板を浸漬してから、前記基板を洗浄するステップS1と、
洗浄された前記基板をマグネトロンスパッタリング反応室に入れ、真空引きシステムをオンにして真空引きを行うステップS2と、
前記基板を加熱し、作動ガスAを導入し、圧力を保持し、ガス圧が安定した後、パラジウムターゲット、マグネシウムターゲット及びスカンジウムターゲットの電源をオンにし、ターゲット材の前のバッフルを閉じ、前記ターゲット材にプリスパッタリング洗浄を行うステップS3と、
プレスパッタリングが完了した後、前記マグネシウムターゲット及び前記スカンジウムターゲットのバッフルを開き、同時スパッタリングプロセスプログラムをロードし、前記マグネシウム-スカンジウム複合膜層を堆積するステップS4と、
ステップS4において堆積が完了した後、真空度を一定に保持したまま、前記パラジウムターゲットのバッフルを開き、前記パラジウム触媒層のスパッタリングプロセスプログラムをロードし、前記パラジウム触媒層を堆積するステップS5と、
ステップS5において堆積が完了した後、全てのターゲット材の電源をオフにし、引き続き前記作動ガスAでサンプルをパージしてから、前記作動ガスAの導入を停止し、前記サンプルを取り出すステップS6と、
取り出された前記サンプルを反応性イオン式気相堆積機の反応室内に入れ、作動ガスBを導入し、プラズマ気相堆積プロセスプログラムをロードし、前記パラジウム触媒層の表面に前記フルオロカーボン膜を堆積し、堆積が完了した後、前記サンプルを取り出して、フルオロカーボン/パラジウム/マグネシウム-スカンジウムの水素ガスクロミック色変換膜を得るステップS7とを含む、フルオロカーボン/パラジウム/マグネシウム-スカンジウムの水素ガスクロミック色変換膜の製造方法が提供される。
【0013】
好ましくは、前記スカンジウムターゲットにおけるスカンジウムターゲット材は、純度(質量分率)が99.99%のスカンジウムでスカンジウムターゲット材を製造し、銅バッキングプレートを付加することで製造される。銅バッキングプレートを付加することにより、導電性を向上させ、ターゲット材の熱を均一に放熱させ、ターゲット材を保護することができる。
【0014】
好ましくは、ステップS1において、前記洗浄液は、濃硫酸と過酸化水素水との混合溶液であり、体積比が3:1である。基板の表面の不純物汚染物を効果的に除去でき、基板の成分に影響を与えず、基板の成膜品質を向上させる。
【0015】
好ましくは、ステップS3において、前記作動ガスAはアルゴンガスであり、当該ガスが電離された後に生成されたアルゴンイオンは、ターゲットイオンと反応することなく、ターゲット材に衝突してターゲットイオンを励起することができ、膜の成分に影響を与えず、バックグラウンド真空度が8×10-4~9×10-5Paになるまで真空引きを行い、
ステップS3において、前記基板を温度が20~25℃になるように加熱し、前記圧力を0.4~0.6Paに保持し、前記プレスパッタリング時間を5~20minとする。
【0016】
好ましくは、ステップS4において、前記同時スパッタリングプロセスプログラムにおいて、用いられる前記マグネシウムターゲット、前記スカンジウムターゲットのスパッタリングパワーをそれぞれ20~100W、20~300Wとし、同時スパッタリング時間を30~100sとする。
【0017】
好ましくは、ステップS5において、前記スパッタリングプロセスプログラムにおいて、用いられる前記パラジウムターゲットのスパッタリングパワーを30~80Wとし、スパッタリング時間を10~60sとする。
【0018】
好ましくは、ステップS4及びS5において、前記ターゲット材は、スパッタリングしている時にその前のバッフルを開き、スパッタリングしない時にバッフルを閉じ、いずれも設定されたスパッタリングプロセスプログラムにより制御される。
【0019】
好ましくは、ステップS7において、前記作動ガスBは、Cガスであり、前記プラズマ気相堆積プロセスプログラムにおいて、用いられる作動ガス圧を2~6Paとし、ガスBの流量を20~50sccmとし、ガス励起パワーを400W~800Wとし、堆積時間を10~100sとする。前記ガス励起パワーは、フルオロカーボンの化合方式だけでなく、膜層の緻密性にも影響を与える。パワーが高すぎると、当該膜層が緻密になりすぎ、ガスの通過を阻害し、水素吸蔵放出効率を低下させ、パワーが低すぎると、当該膜層が疎になりすぎ、疎水効果を弱め、内層膜に対する保護作用を低下させる。
【0020】
前記ターゲット材のバッフルの開閉、スパッタリングパワー、スパッタリング時間及びフルオロカーボン膜の堆積パラメータは、いずれもプロセスプログラムを書き込んで導入することにより、正確な制御を実現することができ、自動化程度が高い。
【0021】
本発明において、まず、同時スパッタリング法を用いて基板にマグネシウム-スカンジウム複合膜層を成長させ、次に、マグネトロンスパッタリング法を用いてこの膜層にパラジウム触媒層を成長させ、最後に、プラズマ気相堆積法を用いて膜層の外周にフルオロカーボン保護層を堆積する。本発明は、パラジウム膜の触媒効果を利用して、水素吸蔵段階において、水素ガスを水素原子に分解してマグネシウム基体と結合して水素化物を生成し、スカンジウムを添加してマグネシウム基体における水素原子の拡散を加速し、水素化物の形成を促進し、膜が反射状態から透明状態になり、水素放出段階において、スカンジウムが水素化物の分解を加速することができ、当該過程において得られた水素原子がパラジウム膜の表面に拡散し、膜が反射状態に戻る。それとともに、スカンジウムを添加することにより、膜の水素吸蔵放出のサイクル性能を効果的に向上させることもでき、即ち、複数回の水素吸蔵放出反応の後も、速い反応速度と調光区間を保持することができる。フルオロカーボン膜は、生成水を分散させ、外部環境による内層膜の腐食を効果的に防止することができる。反応過程全体において昇温及び加圧を必要としなく、室温で膜の2つの形態の間の可逆的な変換を実現することができる。当該調光膜は、応答、回復時間が短く、プロセスが簡単であり、水素ガスセンシングの分野において重要な利用可能性を有する。
【発明の効果】
【0022】
従来技術に比べて、本発明は、以下の有益な効果を有する。
【0023】
1)マグネトロン同時スパッタリング法を用いてマグネシウム-スカンジウム複合膜を合成し、プロセス過程全体は、プリセットプログラムにより制御され、操作が簡単で、安定性が高く、膜層が均一である。
【0024】
2)スカンジウムがマグネシウムの吸着、水素放出動力学を向上させるという特徴を利用して、マグネシウム基体に複合させて、マグネシウム基膜の微細構造及び組成を改善し、水素原子の拡散速度を加速し、膜の水素吸蔵放出効率を向上させるとともに、膜のサイクル性能を向上させる。
【0025】
3)パラジウム膜は強い耐酸化性を有し、その場成長法により、パラジウムがマグネシウム基層をより全面的に保護し、パラジウムが室温環境で水素ガスに対する可逆的な触媒を実現でき、実験条件の要求が低い。
【0026】
4)フルオロカーボン膜は、ガス分子に対する透過性が高く、疎水性が強く、ガス分子が膜の表面に均一に分布し、ガスクロミック反応を加速することに役立つだけでなく、膜の耐食性を向上させることもできる。プラズマ気相堆積法は、低温で固体膜を生成することができ、膜の結合力が高く、反応速度が速い。
【0027】
5)当該膜は、調光区間が大きく、水素吸蔵放出の光学変換速度が速く、水素吸蔵放出のサイクル耐久性が高く、重要な利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
以下の図面を参照して非限定的な実施例に対して行われた詳細な説明を読むことにより、本発明の他の特徴、目的及び利点は、より明らかになる。
【0029】
図1】本発明の実施例1において製造された成分がCF/Pd/Mg-31%mol Scの膜構造と試験により得られた水素吸蔵過程の透過率曲線図であり、図1aが膜構造図であり、図1bが水素吸蔵過程の透過率曲線図である。
図2】本発明の実施例1において試験により得られた成分がCF/Pd/Mg-31%mol Scの膜の水素放出過程の透過率曲線図である。
図3】本発明の実施例1において試験により得られた成分がCF/Pd/Mg-31%mol Scの膜が50サイクルの水素吸蔵放出反応を経た後に得られた透過率曲線図である。
図4】本発明の実施例2において試験により得られた成分がCF/Pd/Mg-9%mol Scの膜の断面EDS分析結果である。
図5】本発明の実施例1において透過型電子顕微鏡分析により得られたCF/Pd/Mg-31%mol Sc膜層の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、具体的な実施例を参照して本発明を詳細に説明する。以下の実施例は、当業者が本発明をさらに理解するのに役立つが、本発明を何ら限定するものではない。なお、当業者にとっては、本発明の構想から逸脱しない前提で、さらにいくつかの変形及び改善を行うことができる。これらは、いずれも本発明の保護範囲に属する。
【0031】
(実施例1)
本実施例によれば、以下のステップ(1)~(5)を含むフルオロカーボン/パラジウム/マグネシウム-スカンジウムの水素ガスクロミック色変換膜の製造方法が提供される。
【0032】
ステップ(1)において、純度(質量分率)が99.99%のスカンジウム粉末でスカンジウムターゲット材を製造し、銅バッキングプレートを付加し、以下の実施例2~6では、いずれも同一のスカンジウムターゲット材を使用し、
ステップ(2)において、調製された洗浄液による石英ガラス板の浸漬を15min、脱イオン水による石英ガラス板の洗浄を1min順次行い、前記洗浄液は、濃硫酸と過酸化水素水との混合溶液であり、比率が3:1であり、洗浄された石英ガラス基板をマグネトロンスパッタリング反応室に入れ、真空引きシステムをオンにして、バックグラウンド真空度が3×10-4Paになるまで真空引きを行い、
ステップ(3)において、基板の温度が20~25℃になるように基板を加熱し、作動ガスA(アルゴンガス)を導入し、0.4~0.6Paの圧力を保持し、ガス圧が安定した後、パラジウムターゲット、マグネシウムターゲット及びスカンジウムターゲットの電源をオンにし、各ターゲット材の前のバッフルを閉じ、ターゲット材にプリスパッタリング洗浄を10min行う。次に、同時スパッタリングプロセスプログラムを設定し、マグネシウムターゲット、スカンジウムターゲットのスパッタリングパワーをそれぞれ40W、200Wとし、同時スパッタリング時間を60sとし、マグネシウム-スカンジウム膜の堆積を開始し、膜層の厚さを50nmとする。
ステップ(4)において、堆積が完了した後、真空度を0.5Paに保持したまま、パラジウム触媒層のスパッタリングプロセスプログラムをロードし、パラジウムターゲットのスパッタリングパワーを80W、スパッタリング時間を14s、膜層の厚さを5nmに調整し、パラジウム膜の成長が完了した後、全てのターゲット材の電源をオフにし、引き続き作動ガスA(アルゴンガス)でサンプルを1minパージしてから、サンプルを取り出して、成分がPd/Mg-31%mol Scの膜を得て、得られたPd/Mg-31%mol Sc膜の透過型電子顕微鏡画像を図5に示す。
ステップ(5)において、Pd/Mg-31%mol Sc膜を反応性イオン式気相堆積機内に入れ、フルオロカーボン膜のプロセスパラメータについて、それぞれ作動ガス圧を4Pa、ガスBの流量を40sccm、ガス励起パワーを600W、堆積時間を60sに設定する。作動ガスB(C)を導入し、プロセスプログラムをロードし、フルオロカーボン膜を堆積し、膜層の厚さを100nmとする。完了後にサンプルを取り出して、成分がCF/Pd/Mg-31%mol Scの膜を得る。得られた膜の構造は、図1に示すように、基板に順次設けられたマグネシウム-スカンジウム複合膜層(Mg-Sc層)、パラジウム触媒層(Pd層)及びフルオロカーボン膜層(FC層)を含む。
【0033】
試験により得られたCF/Pd/Mg-31%mol Sc膜の水素吸蔵過程の透過率曲線の概略図を図1bに示し、図1bから分かるように、CF/Pd/Mg-31%mol Sc膜の水素吸蔵反応時間は、約5sである。
【0034】
試験により得られたCF/Pd/Mg-31%mol Sc膜の水素放出過程の透過率曲線の概略図を図2に示し、図2から分かるように、CF/Pd/Mg-31%mol Sc膜の水素放出反応時間は、約70sである。
【0035】
試験により得られたCF/Pd/Mg-31%mol Sc膜が50サイクルの水素放出過程を経た透過率曲線の概略図を図3に示し、図3から分かるように、CF/Pd/Mg-31%mol Sc膜は、良好なサイクル性能を有する。
【0036】
(実施例2)
本実施例によれば、以下のステップ(1)~(4)を含むフルオロカーボン/パラジウム/マグネシウム-スカンジウムの水素ガスクロミック色変換膜の製造方法が提供される。
【0037】
ステップ(1)において、調製された洗浄液による石英ガラス板の浸漬を15min、脱イオン水による石英ガラス板の洗浄を1min順次行い、前記洗浄液は、濃硫酸と過酸化水素水との混合溶液であり、比率が3:1であり、洗浄された石英ガラス基板をマグネトロンスパッタリング反応室に入れ、真空引きシステムをオンにして、バックグラウンド真空度が3×10-4Paになるまで真空引きを行い、
ステップ(2)において、基板の温度が20~25℃になるように基板を加熱し、作動ガスA(アルゴンガス)を導入し、0.4~0.6Paの圧力を保持し、ガス圧が安定した後、パラジウムターゲット、マグネシウムターゲット及びスカンジウムターゲットの電源をオンにし、各ターゲット材の前のバッフルを閉じ、ターゲット材にプリスパッタリング洗浄を10min行う。次に、同時スパッタリングプロセスプログラムを設定し、マグネシウムターゲット、スカンジウムターゲットのスパッタリングパワーをそれぞれ40W、40Wとし、同時スパッタリング時間を60sとし、マグネシウム-スカンジウム膜の堆積を開始し、膜層の厚さを40nmとし、
ステップ(3)において、堆積が完了した後、真空度を0.5Paに保持したまま、パラジウム触媒層のスパッタリングプロセスプログラムをロードし、パラジウムターゲットのスパッタリングパワーを80W、スパッタリング時間を14s、膜層の厚さを5nmに調整し、パラジウム膜の成長が完了した後、全てのターゲット材の電源をオフにし、引き続き作動ガスAでサンプルを1minパージしてから、サンプルを取り出して、成分がPd/Mg-9%mol Scの膜を得る。
ステップ(4)において、Pd/Mg-9%mol Sc膜を反応性イオン式気相堆積機内に入れ、フルオロカーボン膜のプロセスパラメータについて、それぞれ作動ガス圧を3Pa、ガスBの流量を30sccm、ガス励起パワーを400W、堆積時間を30sに設定する。作動ガスB(C)を導入し、プロセスプログラムをロードし、フルオロカーボン膜を堆積し、膜層の厚さを20nmとする。完了後にサンプルを取り出して、成分がCF/Pd/Mg-9%mol Scの膜を得る。
【0038】
CF/Pd/Mg-9%mol Sc膜の断面EDS分析結果を図4に示し、図4からSc元素の存在を確認することができる。
【0039】
試験により得られたCF/Pd/Mg-9%mol Sc膜の水素吸蔵反応時間は、約38sであり、水素放出反応時間は、約600sである。
【0040】
(実施例3)
本実施例によれば、以下のステップ(1)~(4)を含むフルオロカーボン/パラジウム/マグネシウム-スカンジウムの水素ガスクロミック色変換膜の製造方法が提供される。
【0041】
ステップ(1)において、調製された洗浄液による石英ガラス板の浸漬を15min、脱イオン水による石英ガラス板の洗浄を1min順次行い、前記洗浄液は、濃硫酸と過酸化水素水との混合溶液であり、比率が3:1であり、洗浄された石英ガラス基板をマグネトロンスパッタリング反応室に入れ、真空引きシステムをオンにして、バックグラウンド真空度が9×10-5Paになるまで真空引きを行い、
ステップ(2)において、基板の温度が20~25℃になるように基板を加熱し、作動ガスA(アルゴンガス)を導入し、0.4~0.6Paの圧力を保持し、ガス圧が安定した後、パラジウムターゲット、マグネシウムターゲット及びスカンジウムターゲットの電源をオンにし、各ターゲット材の前のバッフルを閉じ、ターゲット材にプリスパッタリング洗浄を10min行う。次に、同時スパッタリングプロセスプログラムを設定し、マグネシウムターゲット、スカンジウムターゲットのスパッタリングパワーをそれぞれ40W、60Wとし、同時スパッタリング時間を60sとし、マグネシウム-スカンジウム膜の堆積を開始し、膜層の厚さを25nmとし、
ステップ(3)において、堆積が完了した後、真空度を0.5Paに保持したまま、パラジウム触媒層のスパッタリングプロセスプログラムをロードし、パラジウムターゲットのスパッタリングパワーを60W、スパッタリング時間を20s、膜層の厚さを4nmに調整し、パラジウム膜の成長が完了した後、全てのターゲット材の電源をオフにし、引き続き作動ガスAでサンプルを1minパージしてから、サンプルを取り出して、成分がPd/Mg-13%mol Scの膜を得る。
ステップ(4)において、Pd/Mg-13%mol Sc膜を反応性イオン式気相堆積機内に入れ、フルオロカーボン膜のプロセスパラメータについて、それぞれ作動ガス圧を3.5Pa、ガスBの流量を35sccm、ガス励起パワーを450W、堆積時間を40sに設定する。作動ガスB(C)を導入し、プロセスプログラムをロードし、フルオロカーボン膜を堆積し、膜層の厚さを70nmとする。完了後にサンプルを取り出して、成分がCF/Pd/Mg-13%mol Scの膜を得る。
【0042】
試験により得られたCF/Pd/Mg-13%mol Sc膜の水素吸蔵反応時間は、約45sであり、水素放出反応時間は、約500sである。
【0043】
(実施例4)
本実施例によれば、以下のステップ(1)~(4)を含むフルオロカーボン/パラジウム/マグネシウム-スカンジウムの水素ガスクロミック色変換膜の製造方法が提供される。
【0044】
ステップ(1)において、調製された洗浄液による石英ガラス板の浸漬を15min、脱イオン水による石英ガラス板の洗浄を1min順次行い、前記洗浄液は、濃硫酸と過酸化水素水との混合溶液であり、比率が3:1であり、洗浄された石英ガラス基板をマグネトロンスパッタリング反応室に入れ、真空引きシステムをオンにして、バックグラウンド真空度が3×10-4Paになるまで真空引きを行い、
ステップ(2)において、基板の温度が20~25℃になるように基板を加熱し、作動ガスA(アルゴンガス)を導入し、0.4~0.6Paの圧力を保持し、ガス圧が安定した後、パラジウムターゲット、マグネシウムターゲット及びスカンジウムターゲットの電源をオンにし、各ターゲット材の前のバッフルを閉じ、ターゲット材にプリスパッタリング洗浄を25min行う。次に、同時スパッタリングプロセスプログラムを設定し、マグネシウムターゲット、スカンジウムターゲットのスパッタリングパワーをそれぞれ20W、80Wとし、同時スパッタリング時間を60sとし、マグネシウム-スカンジウム膜の堆積を開始し、膜層の厚さを30nmとし、
ステップ(3)において、堆積が完了した後、真空度を0.5Paに保持したまま、パラジウム触媒層のスパッタリングプロセスプログラムをロードし、パラジウムターゲットのスパッタリングパワーを80W、スパッタリング時間を25s、膜層の厚さを7nmに調整し、パラジウム膜の成長が完了した後、全てのターゲット材の電源をオフにし、引き続き作動ガスAでサンプルを1minパージしてから、サンプルを取り出して、成分がPd/Mg-28%mol Scの膜を得る。
ステップ(4)において、Pd/Mg-28%mol Sc膜を反応性イオン式気相堆積機内に入れ、フルオロカーボン膜のプロセスパラメータについて、それぞれ作動ガス圧を5Pa、ガスBの流量を40sccm、ガス励起パワーを700W、堆積時間を80sに設定する。作動ガスB(C)を導入し、プロセスプログラムをロードし、フルオロカーボン膜を堆積し、膜層の厚さを120nmとする。完了後にサンプルを取り出して、成分がCF/Pd/Mg-28%mol Scの膜を得る。
【0045】
試験により得られたCF/Pd/Mg-28%mol Sc膜の水素吸蔵反応時間は、約26sであり、水素放出反応時間は、約320sである。
【0046】
(実施例5)
本実施例によれば、以下のステップ(1)~(4)を含むフルオロカーボン/パラジウム/マグネシウム-スカンジウムの水素ガスクロミック色変換膜の製造方法が提供される。
【0047】
ステップ(1)において、調製された洗浄液による石英ガラス板の浸漬を15min、脱イオン水による石英ガラス板の洗浄を1min順次行い、前記洗浄液は、濃硫酸と過酸化水素水との混合溶液であり、比率が3:1であり、洗浄された石英ガラス基板をマグネトロンスパッタリング反応室に入れ、真空引きシステムをオンにして、バックグラウンド真空度が3×10-4Paになるまで真空引きを行い、
ステップ(2)において、基板の温度が20~25℃になるように基板を加熱し、作動ガスA(アルゴンガス)を導入し、0.4~0.6Paの圧力を保持し、ガス圧が安定した後、パラジウムターゲット、マグネシウムターゲット及びスカンジウムターゲットの電源をオンにし、各ターゲット材の前のバッフルを閉じ、ターゲット材にプリスパッタリング洗浄を25min行う。次に、同時スパッタリングプロセスプログラムを設定し、マグネシウムターゲット、スカンジウムターゲットのスパッタリングパワーをそれぞれ40W、20Wとし、同時スパッタリング時間を100sとし、マグネシウム-スカンジウム膜の堆積を開始し、膜層の厚さを40nmとし、
ステップ(3)において、堆積が完了した後、真空度を0.5Paに保持したまま、パラジウム触媒層のスパッタリングプロセスプログラムをロードし、パラジウムターゲットのスパッタリングパワーを80W、スパッタリング時間を25s、膜層の厚さを7nmに調整し、パラジウム膜の成長が完了した後、全てのターゲット材の電源をオフにし、引き続き作動ガスAでサンプルを1minパージしてから、サンプルを取り出して、成分がPd/Mg-5%mol Scの膜を得る。
ステップ(4)において、Pd/Mg-5%mol Sc膜を反応性イオン式気相堆積機内に入れ、フルオロカーボン膜のプロセスパラメータについて、それぞれ作動ガス圧を5Pa、ガスBの流量を40sccm、ガス励起パワーを700W、堆積時間を80sに設定する。作動ガスB(C)を導入し、プロセスプログラムをロードし、フルオロカーボン膜を堆積し、膜層の厚さを120nmとする。完了後にサンプルを取り出して、成分がCF/Pd/Mg-5%mol Scの膜を得る。
【0048】
試験により得られたCF/Pd/Mg-5%mol Sc膜の水素吸蔵反応時間は、約16sであり、水素放出反応時間は、約750sである。
【0049】
(実施例6)
本実施例によれば、以下のステップ(1)~(4)を含むフルオロカーボン/パラジウム/マグネシウム-スカンジウムの水素ガスクロミック色変換膜の製造方法が提供される。
【0050】
ステップ(1)において、調製された洗浄液による石英ガラス板の浸漬を15min、脱イオン水による石英ガラス板の洗浄を1min順次行い、前記洗浄液は、濃硫酸と過酸化水素水との混合溶液であり、比率が3:1であり、洗浄された石英ガラス基板をマグネトロンスパッタリング反応室に入れ、真空引きシステムをオンにして、バックグラウンド真空度が3×10-4Paになるまで真空引きを行い、
ステップ(2)において、基板の温度が20~25℃になるように基板を加熱し、作動ガスA(アルゴンガス)を導入し、0.4~0.6Paの圧力を保持し、ガス圧が安定した後、パラジウムターゲット、マグネシウムターゲット及びスカンジウムターゲットの電源をオンにし、各ターゲット材の前のバッフルを閉じ、ターゲット材にプリスパッタリング洗浄を25min行う。次に、同時スパッタリングプロセスプログラムを設定し、マグネシウムターゲット、スカンジウムターゲットのスパッタリングパワーをそれぞれ40W、300Wとし、同時スパッタリング時間を30sとし、マグネシウム-スカンジウム膜の堆積を開始し、膜層の厚さを40nmとし、
ステップ(3)において、堆積が完了した後、真空度を0.5Paに保持したまま、パラジウム触媒層のスパッタリングプロセスプログラムをロードし、パラジウムターゲットのスパッタリングパワーを80W、スパッタリング時間を25s、膜層の厚さを7nmに調整し、パラジウム膜の成長が完了した後、全てのターゲット材の電源をオフにし、引き続き作動ガスAでサンプルを1minパージしてから、サンプルを取り出して、成分がPd/Mg-55%mol Scの膜を得る。
ステップ(4)において、Pd/Mg-55%mol Sc膜を反応性イオン式気相堆積機内に入れ、フルオロカーボン膜のプロセスパラメータについて、それぞれ作動ガス圧を5Pa、ガスBの流量を40sccm、ガス励起パワーを700W、堆積時間を80sに設定する。作動ガスB(C)を導入し、プロセスプログラムをロードし、フルオロカーボン膜を堆積し、膜層の厚さを120nmとする。完了後にサンプルを取り出して、成分がCF/Pd/Mg-55%mol Scの膜を得る。
【0051】
試験により得られたCF/Pd/Mg-55%mol Sc膜の水素吸蔵反応時間は、約11sであり、水素放出反応時間は、約105sである。
【0052】
(実施例7)
本実施例によれば、以下のステップ(1)~(4)を含むフルオロカーボン/パラジウム/マグネシウム-スカンジウムの水素ガスクロミック色変換膜の製造方法が提供される。
【0053】
ステップ(1)において、調製された洗浄液による石英ガラス板の浸漬を15min、脱イオン水による石英ガラス板の洗浄を1min順次行い、前記洗浄液は、濃硫酸と過酸化水素水との混合溶液であり、比率が3:1であり、洗浄された石英ガラス基板をマグネトロンスパッタリング反応室に入れ、真空引きシステムをオンにして、バックグラウンド真空度が3×10-4Paになるまで真空引きを行い、
ステップ(2)において、基板の温度が20~25℃になるように基板を加熱し、作動ガスA(アルゴンガス)を導入し、0.4~0.6Paの圧力を保持し、ガス圧が安定した後、パラジウムターゲット、マグネシウムターゲット及びスカンジウムターゲットの電源をオンにし、各ターゲット材の前のバッフルを閉じ、ターゲット材にプリスパッタリング洗浄を25min行う。次に、同時スパッタリングプロセスプログラムを設定し、マグネシウムターゲット、スカンジウムターゲットのスパッタリングパワーをそれぞれ20W、300Wとし、同時スパッタリング時間を30sとし、マグネシウム-スカンジウム膜の堆積を開始し、膜層の厚さを40nmとし、
ステップ(3)において、堆積が完了した後、真空度を0.5Paに保持したまま、パラジウム触媒層のスパッタリングプロセスプログラムをロードし、パラジウムターゲットのスパッタリングパワーを80W、スパッタリング時間を25s、膜層の厚さを7nmに調整し、パラジウム膜の成長が完了した後、全てのターゲット材の電源をオフにし、引き続き作動ガスAでサンプルを1minパージしてから、サンプルを取り出して、成分がPd/Mg-75%mol Scの膜を得る。
ステップ(4)において、Pd/Mg-75%mol Sc膜を反応性イオン式気相堆積機内に入れ、フルオロカーボン膜のプロセスパラメータについて、それぞれ作動ガス圧を5Pa、ガスBの流量を40sccm、ガス励起パワーを700W、堆積時間を80sに設定する。作動ガスB(C)を導入し、プロセスプログラムをロードし、フルオロカーボン膜を堆積し、膜層の厚さを120nmとする。完了後にサンプルを取り出して、成分がCF/Pd/Mg-75%mol Scの膜を得る。
【0054】
試験により得られたCF/Pd/Mg-75%mol Sc膜の水素吸蔵反応時間は、約10sであり、水素放出反応時間は、約95sである。
【0055】
(比較例)
本比較例によれば、以下のステップ(1)~(4)を含むフルオロカーボン/パラジウム/マグネシウムの水素ガスクロミック色変換膜の製造方法が提供される。
【0056】
ステップ(1)において、調製された洗浄液による石英ガラス板の浸漬を15min、脱イオン水による石英ガラス板の洗浄を1min順次行い、前記洗浄液は、濃硫酸と過酸化水素水との混合溶液であり、比率が3:1であり、洗浄された石英ガラス基板をマグネトロンスパッタリング反応室に入れ、真空引きシステムをオンにして、バックグラウンド真空度が3×10-4Paになるまで真空引きを行い、
ステップ(2)において、基板の温度が20~25℃になるように基板を加熱し、作動ガスA(アルゴンガス)を導入し、0.4~0.6Paの圧力を保持し、ガス圧が安定した後、パラジウムターゲット、マグネシウムターゲットの電源をオンにし、各ターゲット材の前のバッフルを閉じ、ターゲット材にプリスパッタリング洗浄を25min行う。次に、同時スパッタリングプロセスプログラムを設定し、マグネシウムターゲットのスパッタリングパワーを40Wとし、スパッタリング時間を60sとし、マグネシウム膜の堆積を開始し、膜層の厚さを25nmとし、
ステップ(3)において、堆積が完了した後、真空度を0.5Paに保持したまま、パラジウム触媒層のスパッタリングプロセスプログラムをロードし、パラジウムターゲットのスパッタリングパワーを80W、スパッタリング時間を25s、膜層の厚さを7nmに調整し、パラジウム膜の成長が完了した後、全てのターゲット材の電源をオフにし、引き続き作動ガスAでサンプルを1minパージしてから、サンプルを取り出して、成分がPd/Mgの膜を得る。
ステップ(4)において、Pd/Mg膜を反応性イオン式気相堆積機内に入れ、フルオロカーボン膜のプロセスパラメータについて、それぞれ作動ガス圧を5Pa、ガスBの流量を40sccm、ガス励起パワーを700W、堆積時間を80sに設定する。作動ガスB(C)を導入し、プロセスプログラムをロードし、フルオロカーボン膜を堆積し、膜層の厚さを120nmとする。完了後にサンプルを取り出して、成分がCF/Pd/Mgの膜を得る。
【0057】
試験により得られたCF/Pd/Mg薄膜の水素吸蔵反応時間は、約20sであり、水素放出反応時間は、900s以上であり、サイクル性能はフルオロカーボン/パラジウム/マグネシウム-スカンジウム系より遥かに低い。
【0058】
本発明は、多くの具体的な応用アプローチがあり、以上は本発明の好ましい実施形態に過ぎない。なお、以上の実施例は、本発明を説明するためのものに過ぎず、本発明の保護範囲を限定するものではない。当業者であれば、本発明の原理から逸脱することなく、いくつかの改良を行うことができ、これらの改良も本発明の保護範囲に含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】