(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-28
(54)【発明の名称】免疫グロブリン富化乳画分
(51)【国際特許分類】
A23C 9/142 20060101AFI20241121BHJP
A23J 1/20 20060101ALI20241121BHJP
A23C 9/146 20060101ALI20241121BHJP
A23C 9/152 20060101ALI20241121BHJP
A23L 33/19 20160101ALI20241121BHJP
【FI】
A23C9/142
A23J1/20
A23C9/146
A23C9/152
A23L33/19
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024534576
(86)(22)【出願日】2022-12-14
(85)【翻訳文提出日】2024-06-10
(86)【国際出願番号】 EP2022085821
(87)【国際公開番号】W WO2023110999
(87)【国際公開日】2023-06-22
(32)【優先日】2021-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505310426
【氏名又は名称】フリースランドカンピーナ ネーデルランド ベスローテン フェンノートシャップ
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リー、ウェイウェイ
(72)【発明者】
【氏名】ドートルモン、クリス テレーズ エミリアンヌ
(72)【発明者】
【氏名】クーネット、クリスティーン
【テーマコード(参考)】
4B018
【Fターム(参考)】
4B018LB07
4B018LB08
4B018LB10
4B018MD01
4B018MD09
4B018MD14
4B018MD20
4B018MD23
4B018MD71
4B018ME14
4B018MF06
4B018MF14
(57)【要約】
免疫グロブリンが富化された、好ましくはIgA及びIgMが富化された乳画分を得る方法であって、(a)脱脂乳を精密濾過に供して、ミセルカゼインリッチのMF濾過液及びホエータンパク質リッチのMF残留物を生じさせる工程と、(b)MF残留物をカゼイン沈殿又はチーズ製造プロセスに供することによって、カゼインリッチ画分及びホエー画分を作出する工程と、(c)工程(b)において得られたホエー画分を精密濾過及び/又は陰イオン交換クロマトグラフィに供することによって、免疫グロブリンが富化した乳画分を得る工程とを含む方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫グロブリンが富化された、好ましくはIgA及びIgMが富化された乳画分を得る方法であって:
a)脱脂乳を精密濾過に供して、ミセルカゼインリッチのMF濾過液及びホエータンパク質リッチのMF残留物を生じさせる工程と、
b)前記MF残留物をカゼイン沈殿又はチーズ製造プロセスに供することによって、カゼインリッチ画分及びホエー画分を作出する工程と、
c)工程b)において得られた前記ホエー画分を精密濾過及び/又は陰イオン交換クロマトグラフィに供することによって、免疫グロブリンが富化した乳画分を得る工程と
を含む方法。
【請求項2】
精密濾過の前に、前記脱脂乳のpHは、5.6~6.2、より好ましくは5.6~6.0、最も好ましくは5.6~5.8の範囲内の値に調整される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記チーズ製造方法は、(i)場合によっては前記MF残留物の乾燥及び再懸濁後の、脂肪源の、前記MF残留物への添加、(ii)以降の、凝固剤及び土壌酸性化剤の添加、並びに(iii)カゼインリッチ画分及びホエー画分を得るための凝固を包含する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
工程b)において得られる前記ホエー画分は、工程c)において精密濾過に供される前に、4~5の範囲内のpHに酸性化される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程c)の前記精密濾過は、細孔サイズが50~100nmの範囲内であるか、又は分子量カットオフ(MWCO)が500~800kDaの範囲内である膜により実行される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程c)の前記精密濾過は、0.10~0.25m/秒のクロスフローを用いるスパイラル膜により、又は5~7m/秒のクロスフローを用いるセラミック膜により実行される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程c)の前記精密濾過は、10~15℃の範囲の温度にて実行される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
工程b)において得られる前記ホエー画分は、陰イオン交換クロマトグラフィに供される前に、6.5~7の範囲内のpHに酸性化される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
総タンパク質含有量と比較して、10~40重量%の範囲内の免疫グロブリンの含有量、及び25~60重量%、好ましくは45~60重量%の範囲内の重量比(IgA+IgM)/IgGを含む乳画分。
【請求項10】
請求項9に記載の乳画分を含む、乳児用調合乳、フォローアップ調合乳、及びグローイングアップ乳から選択される栄養組成物。
【請求項11】
請求項9に記載の乳画分を、少なくとも脂肪源、炭水化物源、ホエータンパク質源、並びにビタミン及びミネラルと組み合わせることによって、請求項10に記載の栄養組成物を生成する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫グロブリン含有量が高い乳画分、その生成及び使用に関する。
【背景技術】
【0002】
乳汁は、哺乳類の子孫にとって、他の供給源由来の食物を消化することができるようになるまで、唯一の栄養源となる。全ての泌乳動物の初乳及び乳汁は、微生物の病原体及び毒素に対する免疫学的防御を子孫にもたらし、且つ乳腺を感染から保護する免疫グロブリン(Ig)を含有する。ウシ乳汁及びヒト乳汁中の免疫グロブリンの主要なクラスは、IgG、IgA、及びIgMであり、これらは、構造及び生物活性が異なる。IgGは、IgG1及びIgG2に再分割することができる;IgAは、IgA1及びIgAIgA2に再分割することができる。
【0003】
免疫グロブリンは、分子量が異なる。単量体IgGは、量が約150kDa(正確な重量は、元の動物に依存する)、二量体IgAは約400kDa、そしてIgMは約900kDaであり、主要なホエータンパク質(約14~18kDa)の重量よりもかなり高く、そして乳汁中に存在するカゼインミセルの重量よりもかなり小さい。
【0004】
ヒト乳汁における主要なIgは、IgAである。ヒト母乳は、総Ig含有量に基づいて、約85~90重量%のIgA、約2~3重量%のIgG、及び約8~10重量%のIgMを含有する(J.A.Cakebread et al.,J.Agric.Food Chem.,63(2015)7311-7316)。ヒト母乳中の総Ig濃度は、ウシ乳汁のIg含有量の約1.5倍である(J.A.van Neerven et al.,J.Allergy Clin.Immunol.,October 2012,853-858)。
ウシ乳汁における主要なIgは、IgGである。成熟ウシ乳汁は、総Ig含有量に基づいて、約80重量%のIgG(そのかなりの大部分がIgG1である)、約10重量%のIgM、及び約10重量%のIgAを含有する。
【0005】
ウシ初乳のIg含有量は、成熟ウシ乳のIg含有量よりもはるかに高い:初乳の総タンパク質含有量の70~80%がIgであるが、成熟ウシ乳中では総タンパク質含有量の1~2重量%を提供するに過ぎない。初乳汁中のIgG/IgA比は、熟成ウシ乳汁中のIgG/IgA比よりもずっと高い。
【0006】
乳児用調合乳は、従来は、少なくとも1種のホエータンパク質源、少なくとも1種の乳(カゼイン)タンパク質源、少なくとも1種の脂質源、少なくとも1種の炭水化物源、ビタミン、及びミネラルを組み合わせることによって調製される。ウシ乳汁は、これらのタンパク質、炭水化物、脂質、及びビタミンの使用供給源の1つである。
【0007】
ヒトの母乳に限りなく近い乳児用調合乳を生成することが引き続き望まれている。それゆえに、その目標を達成するために、乳児用調合乳の活性免疫グロブリン含有量及びIgA含有量を増大させることが望まれている。したがって、本発明の目的の1つは、IgGと比較してIgAの比率が高い乳画分の供給である;そのため、当該乳画分の、乳児用調合乳への添加が、上述の望みに応ずるであろう。
【0008】
ホエータンパク質を得る効率的な方法は、脱脂乳の、カゼインリッチ残留物及びホエータンパク質リッチ濾過液への精密濾過を包含する。
【0009】
精密濾過から生じたホエータンパク質リッチ濾過液(すなわち、血清タンパク質画分)を用いて、前記濾過液を限外濾過に供してラクトース、灰分、及び水を除去してから(噴霧)乾燥させることによって、血清タンパク質濃縮液(SPC)を製造することができる。
【0010】
カゼインリッチ残留物から、残留物をエバポレーション及び(噴霧)乾燥に供することによって、ミセルカゼイン単離物(MCI)を得ることができる。例えば、このMCIを、モッツァレッラチーズ及びフェタチーズのようなソフトチーズの生産に用いることができる。このチーズ製造プロセスのホエー画分は、通常、かなりの量のIgを含有するという事実にも拘わらず、廃棄物とみなされる。したがって、本発明の別の目的は、このホエー画分内でIgを安定させることである。
【0011】
精密濾過の間、ほとんどのIgGは、血清タンパク質画分中に落ち着く。他方では、カゼイン画分は、IgGの無視できない部分に加えて、ほとんどのIgA及びIgMを含有する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、カゼインリッチMF残留物中に残る免疫グロブリンを安定させる方法に関する。
【0013】
より詳細には、本発明は、総タンパク質含有量と比較して、10~40重量%の範囲内の、IgG+IgA+IgMの総含有量と定義される免疫グロブリンの含有量、及び25~60重量%、好ましくは45~60重量%の範囲内の重量比(IgA+IgM)/IgGを含む乳画分に関する。
【0014】
また、本発明は、好ましくはIgA及びIgMが富化された、Ig富化乳画分を得るプロセスであって:
a)脱脂乳を精密濾過に供して、ミセルカゼインリッチのMF濾過液及びホエータンパク質リッチのMF残留物を生じさせる工程と、
b)MF残留物をカゼイン沈殿及び/又はチーズ製造プロセスに供することによって、カゼインリッチ画分及びホエー画分を作出する工程と、
c)工程b)において得られたホエー画分を精密濾過及び/又は陰イオン交換クロマトグラフィに供することによって、免疫グロブリンが富化した乳画分を得る工程と
を含むプロセスに関する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のプロセスにおける第1の工程は、脱脂乳の精密濾過を包含する。用語「脱脂乳」は、上澄みが掬われた(skimmed)、そして場合によっては前処理(例えば、低温殺菌、希釈、限外濾過、濃縮、脱塩、及び/又は炭水化物レベルの引下げ)されていてもよい(ただし、カゼインの、ホエータンパク質に対する元のパーセンテージが、実質的には不変のままであった場合に限る)動物乳汁、好ましくはウシ乳汁を指す。
【0016】
脱脂乳を、精密濾過に供して、カゼインリッチ残留物及びホエータンパク質リッチ濾過液を得る。これは、周知のプロセスである。
スパイラル膜、セラミック膜、及び中空繊維膜が挙げられる種々の精密濾過膜を用いることができる。精密濾過膜は、水、ミネラル、及びラクトースに対して透過性であるべきであり、ホエータンパク質に対して少なくとも部分的に透過性であるべきであり、且つカゼインタンパク質及び脂肪の保持が高くあるべきである。適切な精密濾過膜は典型的には、細孔サイズが0.85~0.5μm、より典型的には0.1~0.2μmである。
精密濾過工程は、好ましくは、4~15℃又は50~55℃の範囲、より好ましくは10~15℃又は50~52℃の範囲の温度にて行われる。
【0017】
クロスフローは、好ましくは高い: 好ましくは、スパイラル膜について0.10~0.25m/秒、中空繊維膜について1.0~2.4m/秒、そしてセラミック膜について5.0~7.0m/秒の範囲内である。
【0018】
望むならば、乳汁のpHは、精密濾過の前に調整して、分子及び膜上のイオン電荷を調整することができる。pHは、好ましくは、5.6~6.2、より好ましくは5.6~6.0、最も好ましくは5.6~5.8の範囲内である。
【0019】
膜貫通圧(TMP)は、好ましくは、可能な限り低く、より好ましくは0.25~1バールの範囲内である。
【0020】
免疫グロブリン間の分離をさらに向上させるために、透析濾過が所望される。
【0021】
MF残留物を、カゼイン沈殿及び/又はチーズ製造プロセスに供して、MF残留物のカゼイン含有量を引き下げる。
【0022】
当該カゼイン沈殿プロセスは、カゼインの凝固を誘導するための酸の添加を包含し、その結果、酸カゼイン画分(カゼインカード)と酸ホエー画分とが生じる。酸は、好ましくは、HCl、H2SO4、及びクエン酸から選択される。
【0023】
例えば、1M H2SO4が、脱脂乳に、40~45℃にて十分に撹拌されながら、pHが4.3~4.6の範囲に達するまで加えられ得る。酸性化した乳汁は、カードの形成が完了するまで撹拌される。次いで、カードは、例えばバッグ濾過又は遠心分離によって、ホエーから除去される。
【0024】
チーズ製造プロセスは、好ましくは、(i)場合によってはMF残留物の乾燥及び再懸濁後の、脂肪源の、MF残留物への添加、(ii)以降の、凝固剤及び土壌酸性化剤の添加、並びに(iii)カゼインリッチ画分(チーズ又はチーズ前駆物質)及びホエー画分を得るための凝固を包含する。
適切な脂肪源は、無水乳脂肪、無水乳脂肪画分、バター、バター油、脂肪含有量が30~80重量%の範囲内のクリーム、及びこれらの2つ以上の混合物であり、無水乳脂肪及びクリームが、好ましい脂肪源である。
脂肪源は、好ましくは、MF残留物(又は再懸濁された乾燥残留物)に、脂肪源の融点を超える温度にて加えられる。
【0025】
酸性化のために目標となるpHは、好ましくは、4.8~5.7、より好ましくは4.9~5.5の範囲内である。適切な酸性化剤として、スターターカルチャー(ラクトースを乳酸に変換する細菌性酸性化剤)、酸、酸味料(例えば、グルコノデルタラクトン又はGDL等)、及びこれらの2つ以上の組合せが挙げられる。最も一般的なスターターカルチャーとして、好熱性スターター、典型的にはCSK、Chr.Hansen、又はDuPontのスターターが挙げられる。Chr.Hansenによる好熱性スターターとして、冷凍カルチャーであるSTI-02、STI-03、STI-04、STI-06、並びに凍結乾燥カルチャーであるSTI-12、STI-13、及びSTI-14が挙げられる。また、中温性スターターが用いられ得る。
【0026】
適切な凝固剤が、当該技術において知られており、例えば、仔牛レンネット、発酵生産レンネット、及び微生物レンネットが挙げられる。仔牛レンネットの例として、CSKによって製造されているKalase、及びChr.Hansenによって製造されているNaturenが挙げられる。発酵生産レンネットの例として、DSMによるFromase及びCSKによるMilaseが挙げられる。微生物レンネットの例として、Chr.HansenによるChy-Max及びDSMによるMaxirenがある。他の凝固剤として、ペプシン、及び植物起源の種々のタンパク質分解酵素が挙げられる。
【0027】
前記カゼイン沈殿又はチーズ製造プロセスの後に残るホエー画分、すなわち、それぞれ酸ホエー画分又はチーズホエー画分は、その後、精密濾過工程及び/又は陰イオン交換クロマトグラフィ工程に供されることよって、免疫グロブリンが富化した乳画分が生じる。
【0028】
この精密濾過工程は、細孔サイズが50~100nmの範囲内、又は分子量カットオフ(MWCO)が500~800kDaの範囲内の膜により実行される。
細孔サイズは、ウェッティング液としてのパーフルオロエーテルによるキャピラリフローポロメトリ(CFP)としても知られている気体-液体ポロメトリによって求められる。
【0029】
MWCOは、90%のレベルで膜によって拒絶される特定の溶質分子(この場合: デキストラン(2000ppmの水溶液))の分子量を表す、実験的に決定されるパラメータである。この決定における膜貫通圧は約30psiであり、デキストラン拒絶は、全有機体炭素(TOC)の決定によって測定される。
【0030】
先で定義した細孔サイズ又はMWCOの膜は、IgGの少なくとも一部について透過性であるが、IgA及びIgMについて、透過性はより低い。それゆえに、結果として生じる残留物、すなわち本発明に従う乳画分は、IgGと比較して、IgA及びIgMが富化されることとなる。
【0031】
微量濾過は、好ましくは、範囲4~5のpHへのホエー画分の酸性化の後に実行される。微量濾過に用いられるクロスフローは、好ましくは、スパイラル膜について0.10~0.25m/秒、又はセラミック膜について5~7m/秒である。使用した温度は、好ましくは、10~15℃である。ホエー画分は、好ましくは、前記微量濾過によって少なくとも10の容量濃縮係数(VCF)にまで濃縮され、そして好ましくは、等しい容量のイオン交換水による透析濾過の少なくとも1つの工程が続く。微量濾過工程由来の残留物は、Ig、とりわけIgA及びIgMが富化されている。
【0032】
陰イオン交換クロマトグラフィは、弱イオン交換樹脂及び強イオン交換樹脂が挙げられる種々のタイプの樹脂により、そして種々の対イオンを用いて実行することができる。
用語「弱」イオン交換及び「強」イオン交換は、通常、当該技術において知られている。強イオンエキスチェンジャは、イオンエキスチェンジャが平衡化されると、そのマトリックス上で電荷を大きく放たないので、広いpH範囲(通常、強い酸性のpH~強いアルカリ性のpH)を用いることができる。強陰イオン交換樹脂は、通常、四級アンモニウム基の存在によって特徴付けられる。
【0033】
弱イオンエキスチェンジャは、その電荷を維持することとなるより特定の範囲のpH値(弱陰イオン交換材料の場合、通常、酸性~約中性のpH)を有する。弱陰イオン交換基は、通常、四級アンモニウム基の不在によって特徴付けられる。一般的な弱陰イオン交換基は、三級アミン基である。
【0034】
好ましい実施形態において、強陰イオン交換樹脂、より好ましくは四級アンモニウム基を有する陰イオン交換樹脂(例えば、Q Sepharose Big Beads)が用いられる。より好ましくは、陰イオン交換樹脂は、Cl-の形態である。
【0035】
陰イオン交換クロマトグラフィは、好ましくは、最初にホエー画分のpHを6.5~7.0に調整することによって実行される。カラムを通過することによって、ホエー画分は、Ig、とりわけIgA及びIgMが富化される;不純タンパク質、例えばベータ-ラクトグロブリンが、樹脂に結合して、低いpH又は高い導電率のバッファ(例えば1M NaCl)でリンスすることによって、カラムから避ける(eluded)ことができる。
【0036】
また、最初に微量濾過を実行して、残留物のpHを6.5~7.0に調整してから、前記残留物をIgの更なる富化用の陰イオン交換カラム上にロードすることによって、微量濾過及び陰イオン交換クロマトグラフィを組み合わせることが可能である。そのような組合せは、チーズ製造又はカゼイン沈殿後のホエー画分のIgと比較して、最大約6~8倍のIgの更なる富化を可能にする。
【0037】
本明細書では「乳画分」と称される、結果として生じる産物は、免疫グロブリンの総含有量が、総タンパク質含有量と比較して、10~40重量%の範囲内、そして重量比(IgA+IgM)/IgGが、25~60重量%、好ましくは45~60重量%の範囲内である。
免疫グロブリンの総含有量は、R.L. Valk-Weebera,T.Eshuis-de Ruiter,L.Dijkhuizen,and S.S.van Leeuwen,International Dairy Journal,Volume 110,November2020,104814)によって記載されるようにセットしたウシIgG ELISA定量化によって求められるIgG+IgA+IgMの総含有量と定義される。総タンパク質含有量は、周知のケルダール窒素分析法及び6.38のケルダール係数の使用によって測定される。
【0038】
本発明に従う免疫グロブリン富化乳画分は、栄養組成物、特に調合乳の製造における成分としての使用に特に適している。調合乳は、乳児用調合乳、フォローアップ調合乳、及びグローイングアップ調合乳の群から選択される。したがって、本発明はさらに、栄養組成物、典型的には小児のための栄養組成物、例えば、調合乳、特に乳児用調合乳、フォローアップ調合乳、又はグローイングアップ調合乳に関する。
【0039】
栄養組成物、特に調合乳は、免疫グロブリン富化乳画分を、少なくとも脂質源、炭水化物源、ビタミン、及びミネラルと組み合わせることによって調製することができる。
【0040】
脂質源は、調合乳に用いるのに適したあらゆる脂質又は脂肪であり得る。好ましい脂肪源として、乳脂肪、ベニバナ油、卵黄脂質、キャノーラ油、オリーブ油、ヤシ油、パーム核油、ダイズ油、魚油、パームオレイン酸(palm oleic)、高オレイン酸ヒマワリ油、及び高オレイン酸ベニバナ油、並びに長鎖多価不飽和脂肪酸を含有する微生物発酵油が挙げられる。一実施形態において、無水乳脂肪が用いられる。また、脂質源は、これらの油に由来する画分、例えば、パームオレイン、中鎖トリグリセリド、及び脂肪酸(例えば、アラキドン酸、リノール酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ドコサヘキサエン酸、リノレン酸、オレイン酸、ラウリン酸、カプリン酸、カプリル酸、カプロン酸等)のエステルの形態であり得る。事前に形成されたアラキドン酸及びドコサヘキサエン酸を多量に含有する少量の油、例えば、魚油又は微生物油が加えられてもよい。当該脂肪源は、好ましくは、n-6脂肪酸の、n-3脂肪酸に対する比が、約5:1~約15:1、例えば約8:1~約10:1である。特定の態様において、調合乳は、トリアシルグリセロールにエステル結合したパルミチン酸を含む油混合物を含み、例えば、トリアシルグリセロールのsn-2位においてエステル結合したパルミチン酸は、総パルミチン酸の20重量%~60重量%の量であり、トリアシルグリセロールのsn-1/sn-3位においてエステル結合したパルミチン酸は、総パルミチン酸の40重量%~80重量%の量である。
【0041】
好ましくは調合乳中に存在するビタミン及びミネラルの例として、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンE、ビタミンK、ビタミンC、ビタミンD、葉酸、イノシトール、ナイアシン、ビオチン、パントテン酸、コリン、カルシウム、リン、ヨウ素、鉄、マグネシウム、銅、亜鉛、マンガン、塩化物、カリウム、ナトリウム、セレン、クロム、モリブデン、タウリン、及びL-カルニチンがある。ミネラルは、通常、塩の形態で加えられる。
【0042】
好ましくは調合乳中に存在する炭水化物の例として、ラクトース、難消化性オリゴ糖、例えば、ガラクトオリゴ糖(GOS)及び/又はフラクトオリゴ糖(FOS)並びにヒトミルクオリゴ糖(HMO)がある。
【0043】
必要に応じて、栄養組成物は、乳化剤及び安定化剤、例えば、ダイズレシチン、モノグリセリド及びジグリセリドのクエン酸エステル等を含有してもよい。また、ラクトフェリン、ヌクレオチド、ヌクレオシド等の、有益な効果を有し得る他の物質を含有してもよい。
【実施例】
【0044】
実施例1
270ppmのIgG、30ppmのIgA、及び24ppmのIgMを含有し、且つ総タンパク質濃度が3.9重量%(総タンパク質と比較したIg含有量:0.84重量%)である脱脂乳の流を、ポーズサイズが0.1μmのスパイラル膜を用いる精密濾過に供した。精密濾過を、15℃にて実行した。濃縮及び透析濾過の後に、MF残留物(MCI)を収集した。
【0045】
結果として生じるMF残留物(MCI)は、およそ500ppmのIgG、170ppmのIgA、及び100ppmのIgMを含有し、且つ総タンパク質濃度が14.7%であった。MF残留物中のIg含有量は、総タンパク質と比較して、膜を通るIgGの透過に起因して、0.52%であった(すなわち、脱脂乳のIg含有量よりも低かった)。他方では、(IgA+IgM)/IgG比は、脱脂乳中のおよそ22重量%から、MF残留物中のおよそ58重量%に増大した。
【0046】
次に、MF残留物を、42℃にて2M H2SO4を用いてpH=4.3に酸性化した。溶液を約30分間静置させることによって、カードを形成させた。続いて、カードを、100μmのバッグフィルターを用いてホエーから除去した。結果として生じるホエー画分は依然として、Igの含有量が同じであったが、総タンパク質含有量は1.3重量%に引き下げられて、総タンパク質に基づいて、6重量%の総Ig含有量となった。
【0047】
pHが4.3であるホエー画分を、細孔サイズが500kDのスパイラルMF(膜面積6.7m2)に直接フィードした。精密濾過を、15℃にて実行した。0.5バールのTMPを用い、そしてクロスフローは80l/分であった。ホエーを、12のVCFに濃縮して、残留物を、等量の脱塩水により一回透析濾過した。残留産物は、総Ig含有量が、総タンパク質に基づいて13重量%であった。(IgA+IgM)/IgG比は、58重量%のままであった。
【0048】
実施例2
ホエー画分のpHを7に調整してから、このホエー画分を、室温での流量30BV/時間(毎時床容量)による陰イオン交換クロマトグラフィ(四級アンモニウム機能基及びCl-対イオンを有する強陰イオン交換樹脂を用いる)に供したこと以外は、実施例1を繰り返した。3床容量のホエー画分をカラムにフィードして、カラムの放出口から収集した。収集した産物は、総Ig含有量が、総タンパク質に基づいて20重量%であり、(IgA+IgM)/IgG比は変化がなかった(58重量%)。
【0049】
その後、カラムを、1M NaCl溶液により、10BV/時間の流量にて避けて、結合した不純物;主にベータ-ラクトグロブリンを除去した。
【0050】
実施例3
実施例1の終わりに得られたMF残留物をpH7に中和して、実施例2の手順に従って陰イオン交換に供したこと以外は、実施例1を繰り返した。結果として生じる産物は、総Ig含有量が、総タンパク質に基づいて25重量%であった。(IgA+IgM)/IgG比(58重量%)の変化は観察されなかった。
【国際調査報告】