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特表2024-544268神経前駆細胞を含む視神経症の予防用または治療用の医薬組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-28
(54)【発明の名称】神経前駆細胞を含む視神経症の予防用または治療用の医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/30 20150101AFI20241121BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20241121BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20241121BHJP
   A61K 35/545 20150101ALI20241121BHJP
【FI】
A61K35/30
A61P27/02
A61K9/08
A61K35/545
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024535367
(86)(22)【出願日】2022-11-18
(85)【翻訳文提出日】2024-08-09
(86)【国際出願番号】 KR2022018252
(87)【国際公開番号】W WO2023113266
(87)【国際公開日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】10-2021-0177767
(32)【優先日】2021-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り International Journal of Molecular Sciences,2021,22,12529 https://doi.org/10.3390/ijms222212529 ウェブサイトの掲載日 令和3(2021)年11月20日
(71)【出願人】
【識別番号】519137394
【氏名又は名称】チャ ユニバーシティ インダストリー-アカデミック コオペレーション ファンデーション
【住所又は居所原語表記】CHA University, 120, Haeryong-ro, Pocheon-si, Gyeonggi-do 11160, Republic of Korea
(71)【出願人】
【識別番号】524183980
【氏名又は名称】ソンクァン メディカル ファウンデーション
【氏名又は名称原語表記】SUNGKWANG MEDICAL FOUNDATION
【住所又は居所原語表記】566, Nonhyeon-ro, Gangnam-gu, Seoul 06135, Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】リュー,ヘリン
(72)【発明者】
【氏名】パク,ミラ
(72)【発明者】
【氏名】ファン,ドンヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヒョンムン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C087
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076BB11
4C076BB24
4C076CC10
4C076FF12
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB45
4C087MA17
4C087MA58
4C087NA14
4C087ZA33
(57)【要約】
本発明は、神経前駆細胞を有効成分として含む、視神経症の予防用または治療用の医薬組成物を提供する。神経前駆細胞は、胎盤由来幹細胞(例えば、PSC)などの間葉系幹細胞と比較して、顕著に優れた神経保護効果および再生促進効果を示すだけではなく、非侵襲性であり、安全なテノン嚢下注射によって投与することができる。したがって、本発明の医薬組成物は、視神経症の治療用の細胞療法として有利に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経前駆細胞を有効成分として含む、視神経症の予防用または治療用の医薬組成物。
【請求項2】
前記神経前駆細胞が、ヒト胚性幹細胞に由来する神経前駆細胞である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記神経前駆細胞が、ヒト胚性幹細胞に由来するSOX1陽性およびPAX6陽性の神経前駆細胞である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記視神経症が、虚血性視神経症、視神経炎、圧迫性視神経症、浸潤性視神経症、外傷性視神経症、およびミトコンドリア視神経症からなる群から選択される1種以上である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
テノン嚢下注射用の剤形を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経前駆細胞を有効成分として含む、視神経症の予防用または治療用の医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
視神経への不可逆的な損傷に対する効果的な治療法は存在しないため、網膜神経節細胞(RGC)の本質的な再生能力を向上させるために多くの研究が試みられている。マクロファージ活性化因子およびザイモサンは、視神経損傷後の軸索の再成長を促進する。RGCに固有の再生能力の変化は、ホスファターゼおよびテンシンホモログ(PTEN)の欠損によって起こることがある。ザイモサンの注射による炎症誘導と、PTEN欠損と、細胞内環状アデノシン一リン酸(cAMP)の促進との組み合わせは、視神経の回復に役立つ場合がある。しかし、承認された治療法を臨床試験で使用するのは困難である。
【0003】
難治性の眼疾患の場合、胚性幹細胞(ESC)、角膜輪部幹細胞、網膜色素上皮細胞、および間葉系幹細胞(MSC)が再生医療の一環として細胞治療に使用される。MSCは、免疫調節因子、メディエーター、およびケモカインを放出して免疫細胞を誘引する。また、MSCは、パラクリン作用を介して因子を分泌することにより、神経保護効果を発揮する。緑内障の動物モデルを使用した多くの研究では、MSCを硝子体内に注射すると、RGCの生存率が増加した。虚血モデルに関するある研究によれば、MSCの注射後にRGCの数と、BDNF、毛様体神経栄養因子(CNTF)、および線維芽細胞増殖因子(bFGF)の発現が増加した。また、いくつかの研究では、虚血モデルにおけるMSCの治療効果が確認されている。さらに、骨髄由来のMSCに加え、ヒト臍帯血、歯髄、および胎盤由来のMSCも、損傷した視神経の再生誘導および軸索成長の点で治療効果が示されている(Kwon, H. et al., Hypoxia-Preconditioned Placenta-Derived Mesenchymal Stem Cells Rescue Optic Nerve Axons via Differential Roles of Vascular Endothelial Growth Factor in an Optic Nerve Compression Animal Model. Mol. Neurobiol. 2020, 57, 3362-3375; Labrador-Velandia, S. et al., Mesenchymal stem cell therapy in retinal and optic nerve diseases: An update of clinical trials. World J. Stem Cells 2016, 8, 376-383)。
【0004】
本発明者らは、視神経圧迫(ONC)モデルにおいて、ヒト胎盤由来MSC(PSC)のHif-1α(低酸素誘導性転写因子1α)およびGAP43(神経成長関連タンパク質43)を調節することによって、軸索の生存が促進されることを過去に報告している(Chung, S. et al., Human umbilical cord blood mononuclear cells and chorionic plate-derived mesenchymal stem cells promote axon survival in a rat model of optic nerve crush injury. Int. J. Mol. Med. 2016, 37, 1170-1180)。また、NF-κb経路の調節は、PSCにおける標的タンパク質の調節において重要な役割を果たしている。別の研究では、R28細胞および視神経損傷動物モデルにおいて、低酸素で前処理したPSC(hypoxia-preconditioned PSC、HPPC)から再生された神経の効果を調査することによって、視神経損傷の細胞治療においてHPPCを利用できる可能性が実証されている。
【0005】
例えば、Wnt、CNTF、BDNF、セマフォリンなどの成長因子;KLF4(Kruppel様因子4)などの成長抑制転写因子;およびSTAT3(シグナル伝達兼転写活性化因子3)などの必須のシグナル伝達メディエーターを含む数多くの様々な分子が、視神経損傷後の軸索再生の調節を助けている。Wntのシグナル伝達が軸索再生を促進するメカニズムは、これらの軸索成長促進遺伝子の誘導を伴っている可能性があり;Wntのシグナル伝達は、軸索成長過程における微小管の安定性を変化させることによって、成長円錐のリモデリングを直接調節している可能性もある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、ヒト多能性幹細胞由来の神経前駆細胞(NPC)の安全性と臨床効果について種々の研究を行った。その結果、本発明者らは、低酸素損傷を受けたR28細胞および視神経圧迫(ONC)モデルにおいて、NPCが、ヒト胎盤由来の幹細胞(例えば、PSC)などの間葉系幹細胞と比較して、顕著に優れた神経保護効果および再生促進効果を示すことから、視神経症の治療用の細胞療法として有利に使用することができることを見出した。
【0007】
したがって、本発明は、神経前駆細胞(NPC)を有効成分として含む、視神経症の予防用または治療用の医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、神経前駆細胞を有効成分として含む、視神経症の予防用または治療用の医薬組成物が提供される。
【0009】
前記神経前駆細胞は、ヒト胚性幹細胞に由来する神経前駆細胞であってもよく、好ましくは、ヒト胚性幹細胞に由来するSOX1陽性およびPAX6陽性の神経前駆細胞であってもよい。
【0010】
前記視神経症は、虚血性視神経症、視神経炎、圧迫性視神経症、浸潤性視神経症、外傷性視神経症、およびミトコンドリア視神経症からなる群から選択される1種以上であってもよい。
【0011】
本発明の医薬組成物は、テノン嚢下注射用の剤形を有していてもよい。
【発明の効果】
【0012】
低酸素損傷を受けたR28細胞および視神経圧迫(ONC)モデルにおいて、NPCが、ヒト胎盤由来の幹細胞(例えば、PSC)などの間葉系幹細胞と比較して、顕著に優れた神経保護効果および再生促進効果を示すことが本発明によって明らかになった。また、本発明の医薬組成物は、非侵襲的で安全な投与経路、すなわち、テノン嚢下注射で好適に投与することができる。したがって、本発明の医薬組成物は、視神経症の治療用の細胞療法として有利に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】ヒト多能性幹細胞由来の神経前駆細胞(NPC)の特性評価を示す。図1Aは、10μg/mLのヒトインスリン、9μg/mLのトランスフェリン、および14ng/mLのセレナイトを添加したDMEM/F12培地中で、5μMのPKCβ阻害剤と1μMのDMH1で処理したことにより、CHA15ヒトESCをNPCに分化させたことを示す。図1Bは、継代1代目で増殖させたNPCにおいて、2種の代表的なNPCマーカーであるSOX1(約90%)とPAX6(約75.6%)が陽性であったが、典型的な神経堤幹細胞マーカーであるP75(約0%)は陰性であったことを示す。図1Cは、NPCを成熟ニューロンにさらに分化させると、初期ニューロンマーカーであるTUJ1と後期ニューロンマーカーであるMAP2の両方が産生されたことを示す。
【0014】
図2】ヒトNPCが、損傷したR28細胞を回復させる機能を有することを示す。CoCl2処理の3時間前に、R28細胞をNPCまたはhPSCとともに培養した。次に、R28細胞をCoCl2(300μM)で処理した。図2Aは、24時間後に実施した生存率の分析結果を示す。データは、対照群と比較した生存細胞の百分率(平均値±SEM)で示した。群間で有意に異なる値は、様々な記号で示した(p<0.05)。図2Bは、アポトーシス関連タンパク質の発現量の測定結果を示す。図2Cは、標的タンパク質発現レベルのウェスタンブロット分析を示す。標的タンパク質の発現量の定量値を示す(下のパネル)(対照と比べて*p<0.05;CoCl2処理と比べて#p<0.05、##p<0.01;PSCと比べて†p<0.05)。
【0015】
図3】NPCが、網膜および視神経損傷ラットモデルにおいて、軸索再生および炎症タンパク質を調節することを示す。標的タンパク質の変化は、ラットの網膜および視神経の抽出物の免疫ブロット分析によって評価した。視神経圧迫注射の1週間後、2週間後、および4週間後に試料を分析した。発現量はβ-アクチンに対して正規化し、OSの値をODで割った。図3Aは、網膜抽出物中のHif-1α、Vegf、ニューロフィラメント、NeuN、Thy-1、およびGfapの発現量の定量値を示す。図3Bおよび図3Cは、網膜抽出物(B)および視神経組織抽出物(C)におけるBdnf、Iba1、Nlrp3およびTnf-αの発現量の定量値を示す。結果は、独立した網膜分析および視神経分析の平均値±SEMとして表し、対照と比較した変化倍率として表した(週齢を一致させた偽処置(平衡塩類溶液(BSS))と比べて*p<0.05:PSCと比べて#p<0.05;##p<0.01)。OD、右眼;OS、左眼。
【0016】
図4図4aおよび図4bは、ONCモデルにおけるNPCのRGC促進効果および軸索再生促進効果を示す。図4aのAおよびBは、視神経圧迫動物モデルにNPC注射またはhPSC注射を行った後のBrn-3a染色(A)とTuj1染色(B)(元の倍率:400倍)の代表的な共焦点顕微鏡蛍光画像を示す。図4bのCおよびDは、視神経のONC部位から500μmの距離において行ったGap43(C)およびIba1(D)の蛍光定量分析の結果を示す。総GAP43陽性細胞をZENソフトウェアを使用して測定した。各群から2つの網膜と2つの視神経を使用した。結果は、平均値±平均値の標準誤差(SEM)として表した(週齢を一致させた偽処置(平衡塩類溶液)と比べて*p<0.05;PSCと比べて#p<0.05)。
【0017】
図5】損傷を受けたR28細胞の回復過程におけるWnt/β-カテニンおよびNf-κbを示す。R28細胞をNPCまたはhPSCと共培養した後、CoCl2(300μM)に曝露させた。24時間インキュベートした後、ウェスタンブロット分析を実施した。結果は、平均値±平均値の標準誤差(SEM)として表した(対照と比べて*p<0.05;CoCl2処置と比べて#p<0.05)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者らは、ヒト胎盤由来の間葉系幹細胞(PSC)が神経保護効果を有することを過去に報告した。NPCの潜在的な利点を評価するために、低酸素条件下のR28細胞および視神経損傷ラットモデルを使用して、NPCをPSCと比較した。NPCまたはPSC(各2×106個)をテノン嚢下腔に注入した。1週間後、2週間後および4週間後に、網膜と視神経における標的タンパク質の変化を調べた。NPC群では2週間後に、週齢を一致させた偽処置群およびPSC群と比較して血管内皮増殖因子(Vegf)が有意に誘導された。また、NPC群では4週間後に、偽処置群と比較して網膜にニューロフィラメントが誘導された。さらに、2週間後のNPC群の網膜では、脳由来の神経栄養因子(Bdnf)の発現が高かった。網膜におけるイオン化カルシウム結合アダプター分子1(Iba1)の低発現は、NPC注射の2週間後とPSC注射の4週間後に回復した。炎症性タンパク質NLRファミリーであるピリンドメイン含有タンパク質3(Nlrp3)の視神経における発現は、1週間後のNPC群で有意に減少し、視神経における腫瘍壊死因子α(Tnf-α)の発現は2週間後に減少した。網膜神経節細胞に関しては、NPC群において4週間後に、網膜におけるBrn3aとTuj1の発現が偽処置対照と比較して増強された。NPC注射により、2週間後からGap43の発現が増加し、回復期間中に視神経におけるIba1の発現が減少した。また、低酸素条件に曝露させたR28細胞は、NPCと共培養すると、PSCと比較して細胞生存率が増加した。Wnt/β-カテニンのシグナル伝達とNf-κbの増加はいずれも、NPCによる神経保護因子のアップレギュレーション、ミクログリアの関与および抗炎症調節を介して、損傷した網膜神経節細胞のレスキューに寄与することができる。したがって、本研究から、NPCが様々な視神経症の細胞治療に有用であることが立証された。
【0019】
これを踏まえ、本発明は、神経前駆細胞を有効成分として含む、視神経症の予防用または治療用の医薬組成物を提供する。
【0020】
神経前駆細胞(NPC)は、そのすべてではないものの、多くのグリア細胞と神経細胞を発生するCNSの前駆細胞である。NPCは、発達過程の胚のCNSに存在するが、新生児の脳および成熟した成人の脳でも発見される。NPCは、胚性幹細胞または人工多能性幹細胞(iPSC)を分化させることによって、インビトロで作製することができる。好ましくは、神経前駆細胞は、ヒト胚性幹細胞に由来する神経前駆細胞であってもよく、より好ましくは、ヒト胚性幹細胞に由来するSOX1陽性およびPAX6陽性の神経前駆細胞であってもよい。
【0021】
視神経症とは、様々な原因による視神経の損傷をいう。視神経症の特徴は、神経細胞またはニューロンの損傷および死滅である。視神経症は、視神経萎縮と呼ばれることもあり、網膜神経節細胞と外側膝状体との間の神経細胞が損傷を受ける疾患の最終結果である。したがって、本発明の医薬組成物において、視神経症は、様々な形態の視神経症を含み、例えば、虚血性視神経症;視神経炎;圧迫性視神経症;浸潤性視神経症;外傷性視神経症;および栄養性視神経症、毒性視神経症、遺伝性視神経症などのミトコンドリア視神経症からなる群から選択される1種以上であってもよい。
【0022】
本発明の医薬組成物は、薬学的に許容可能な担体、例えば、乳化剤、懸濁化剤、緩衝剤、等張化剤などを含んでいてもよい。本発明の医薬組成物は、非経口投与形態に製剤化してもよい。特に、本発明の医薬組成物は、非侵襲的で安全な投与経路、すなわち、テノン嚢下注射により好適に投与することができる。したがって、本発明の医薬組成物は、テノン嚢下注射用の剤形を有していてもよい。テノン嚢下注射用の剤形は、通常、有効成分の滅菌溶液を調製することによって製造することができ;溶液のpHを適切に調整できる緩衝剤を含んでもよく、製剤に等張性が付与されるように等張化剤を含んでもよい。
【0023】
また、本発明による医薬組成物は、視神経症患者に約1×107~1×108個、好ましくは約5×107個の1日用量で単回投与または反復投与してもよいが、患者の年齢や症状に応じて変更することができる。
【0024】
以下、実施例および試験例により本発明をさらに詳細に説明する。しかし、これらの実施例および試験例は、本発明を例示するためのものであり、本発明を限定するものではない。
【実施例
【0025】
1.材料および方法
(1)インビトロ試験
(1-1)ヒト多能性幹細胞由来の神経前駆細胞(NPC)の製造
ヒト多能性幹細胞の培養
マトリゲルでコーティングした培養ディッシュ(BD Biosciences、San Jose、CA、USA)において、TeSRTM-E8TM培地(STEMCELL Technologies、Vancouver、BC、Canada)中でH9ヒトESC(WiCell Research Institute、Madison、WI、USA)を維持した。継代を行うため、0.5mMのEDTA(Thermo Fisher Scientific、Waltham、MA、USA)を加えてESCを37℃のCO2インキュベーターで3分間インキュベートした後、10μMのY-27632(Sigma-Aldrich、St. Louis、MO、USA)を含むTeSRTM-E8TM培地を入れたマトリゲルコートディッシュに1:20の比率で分割した。継代の2日後から、Y-27632を含まないTeSRTM-E8TM培地で毎日培地交換した。hESCを使用した実験は、CHA大学のIRB(施設内審査委員会)の承認を受けた(IRB No. 1044308-201603-LR-004-09)。
【0026】
胚様体(EB)の形成およびNPCの誘導
2mg/mLのIV型コラゲナーゼ(Worthington Biochemical Corporation、Lakewood、NJ、USA)を使用して、ヒトESCを37℃で30分間かけて剥離した。剥離したESCからEBを形成させ、10μg/mLのヒトインスリン、9μg/mLのトランスフェリン、14ng/mLのセレナイト、5μMのPKCβ阻害剤、および1μMのDMH1(すべてSigma-Aldrich社製)を含むDMEM/F12培地(Thermo Fisher Scientific)中で4日間浮遊培養した。培養培地は毎日交換した。培養4日目に、1%のN2サプリメント(Thermo Fisher Scientific)、20ng/mLのbFGF(CHAbiotech、Pangyo、Korea)、および25μg/mLのヒトインスリンを含むNPC specification培地を入れたマトリゲルコートディッシュにEBを移した。培地を5日間毎日交換して、神経ロゼットを作製した。
【0027】
フローサイトメトリー分析
Accutase(Thermo Fisher Scientific)を使用して細胞を37℃で5分間処理することによって1個ずつの細胞に解離させ、4%パラホルムアルデヒド/リン酸緩衝食塩水(PBS)中で室温で15分間固定した。固定した細胞を、0.2%のTritonX-100(Sigma-Aldrich)/PBSで室温で15分間処理し、ブロッキング溶液(1%BSA/PBS)中において室温で30分間インキュベートした。抗SOX1-PE抗体または抗PAX6-APC抗体(いずれもMiltenyi Biotec GmbH、Bergisch Gangladbach、Germanyから購入)を用いて細胞を4℃で一晩染色した。抗p75-PE抗体(Miltenyi Biotec GmbH)は、細胞表面抗原p75を標的とするため、透過処理は行わなかった。アイソタイプを一致させたIgGを対照群として使用した。細胞を1%BSA/PBSで1回洗浄し、CytoFLEXフローサイトメーター(Beckman Coulter、Brea、CA、USA)を使用して分析した。
【0028】
免疫細胞化学
4%パラホルムアルデヒド/PBS中で細胞を固定し、0.2%のTritonX-100を用いてそれぞれ室温で15分間透過処理した。5%BSA/PBSで細胞を室温で1時間ブロッキングし、一次抗体を用いて4℃で一晩処理した。使用した一次抗体は、TuJ1を標的とする抗体(Covance、Burlington、NC、USA)またはMAP2を標的とする抗体(Millipore、Burlington、MA、USA)であり、使用した蛍光標識二次抗体は、それぞれAlexa Fluor 488およびAlexa Fluor 594(いずれもThermo Fisher Scientific社から購入)であった。二次抗体で処理した後、試料を4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(Sigma-Aldrich)で10分間処理した。ZEISS社製蛍光顕微鏡(ZEISS、Oberkochen、Germany)を使用して画像を撮影した。
【0029】
(1-2)ヒト胎盤由来の間葉系幹細胞(PSC)の製造
ヒト胎盤幹細胞は、韓国ソウルにあるCHA General Hospitalから収集した。研究目的のための試料採取および使用は、病院のIRBの承認を受けた。PSCの製造および培養操作は、過去の報告に従って行った(Park, M. et al., Human placenta mesenchymal stem cells promote axon survival following optic nerve compression through activation of NF-kappaB pathway. J. Tissue Eng. Regen. Med. 2018, 12, e1441-e1449)。
【0030】
(1-3)細胞培養および処理
R28網膜前駆細胞は、10%ウシ胎児血清(FBS;Thermo Fisher Scientific)、非必須アミノ酸含有1×最小必須培地(MEM)(Thermo Fisher Scientific)、100μg/mLゲンタマイシン(Sigma-Aldrich)、および1%ペニシリン-ストレプトマイシン(Thermo Fisher Scientific)を添加したダルベッコ改変イーグル最小培地(DMEM;Sigma-Aldrich)中で培養した。R28細胞を塩化コバルト(CoCl2)(Sigma-Aldrich)に曝露させて低酸素条件を誘導した。R28細胞(2×105個)を6ウェルプレートに播種し、CoCl2での処理の3時間前に、NPCまたはhPSCをR28細胞と共培養した。その後、R28細胞をCoCl2(300μM)で処理し、24時間後に試料を実験用に準備した。
【0031】
(1-4)細胞生存率分析
低酸素処理したR28細胞をNPCまたはPSC(2×105個)と共培養した後、24時間後に細胞を回収し、顕微鏡で計数した。細胞をトリパンブルー試薬で染色し、生存細胞として確認された細胞のみを計数した。データは、対照群に対する実験群の生存細胞の百分率(平均値±SEM)で示す。
【0032】
(1-5)免疫ブロット分析
視神経組織を使用して、再生マーカーおよび炎症マーカーを分析した。PRO-PREP溶液(iNtRON Biotechnology、Gyeonggido、Korea)を使用して、視神経組織から溶解物を調製した。総タンパク質をそれぞれ同量でロードしてSDS電気泳動で分離し、膜に転写した。抗Thy-1抗体(SC-53116)、抗β-アクチン抗体(SC-47778)(Santa Cruz Biotechnology、Santa Cruz、CA、USA)、抗Vegf抗体(GTX102643)、抗Tnf-α抗体(GTX10520)、抗β-カテニン抗体(GTX101435)、抗Wnt3a抗体(GTX128101)(GeneTex、Irvine、CA、USA)、抗GFAP抗体(#3670)、抗ニューロフィラメント抗体(#2837)、抗tカスパーゼ3抗体(#9662)、抗Bcl2抗体(#2764)、抗Nf-κb抗体(#8242)(Cell Signaling Technology、Danvers、MA、USA)、抗Hif-1α抗体(PA1-16601)、抗Bdnf抗体(PA5-85730)、抗Iba1抗体(PA5-27436)(Thermo Fisher Scientific)、抗Nlrp3抗体(NBP2-12446)(Novus Biologicals、Centennial、CO、USA)、または抗NeuN抗体(MABB377)(Millipore)で膜をインキュベートした。抗Thy-1抗体(1:200希釈)を除く全ての抗体は1:1000の希釈倍率で使用した。洗浄工程後、1:10000に希釈した西洋ワサビペルオキシダーゼ標識抗ウサギまたはマウス二次抗体で膜を4℃で一晩インキュベートした。免疫活性バンドは、増強化学発光溶液(Bio-Rad Laboratories、Hercules、CA、USA)で可視化し、ImageQuantTM LAS 4000(GE Healthcare、Chicago、IL、USA)を用いて検出した。
【0033】
(2)インビボ試験
(2-1)動物および試験群
6週齢の雄性Sprague-Dawley(SD)ラット(Orient Bio、Gyeonggido、Korea)を、21℃の一定温度で食餌と水を提供した標準動物施設で飼育した。インビボ試験プロトコルは、Bundang CHA Medical Centerの動物実験委員会の承認を受けた(IACUC200138)。ラットを以下の群に分けた:偽処置群(視神経圧迫後にBSS(平衡塩類溶液)を注射);NPC群(視神経圧迫後に2×106個/0.06mLを注射);PSC群(視神経圧迫後に2×106個/0.06mLを注射)。1週間後、2週間後、および4週間後に、ラットを安楽死させた。
【0034】
(2-2)視神経圧迫モデルおよびテノン嚢下細胞注射
ラットをゾレチルとロンプンで麻酔した。動物モデルの作製は、過去の研究の記載に従って行った(Chung, S. et al., Human umbilical cord blood mononuclear cells and chorionic plate-derived mesenchymal stem cells promote axon survival in a rat model of optic nerve crush injury. Int. J. Mol. Med. 2016, 37, 1170-1180)。0.5%プロパラカイン塩酸塩を局所塗布した後、外嘴切開と結膜切開を行った。視神経を包んでいる組織を切開した。超極細の逆作用鉗子を使用して、眼球の後方2mmの部位の視神経を5秒間圧迫した。視神経圧迫(ONC)は左眼(OS)に行った。その後、眼角切開部を縫合した。眼角部位を完全に縫合した後、ラットの眼球の鼻側にNPCまたはPSCをテノン嚢下注射した。
【0035】
(2-3)ONCモデルの視神経における軸索再生因子の評価
軸索再生のインビボ測定のために、GAP43で染色した視神経の垂直切片を撮影した。まず、視神経を4%パラホルムアルデヒドで固定し、パラフィン包埋した。視神経を20μmの厚さで垂直に薄切して、ガラススライド上に封入した。抗GAP43抗体(1:200、ab7810;Abcam、Cambridge、UK)または抗Iba1抗体(1:200、PA5-27436、Thermo Fisher Scientific)を使用して、再生線維を染色した。測定部位は、ONC領域側で幅150μm×高さ700μmの長方形領域とし、平均値を計算した。GAP43陽性細胞の総数またはIba1陽性細胞の総数を、ZENソフトウェア(Carl Zeiss、Jena、Germany)を使用して測定した。
【0036】
(2-4)フラットマウント網膜およびRGCの生存分析
各処理群の3匹のラットから眼球を摘出し、網膜を切開して、フラットホールマウント標本を作製した。まず、小型のハサミで鋸状縁に沿って円形に切開して角膜を摘出した後、鉗子を用いて水晶体を除去した。次に、網膜と眼杯の間に鉗子を配置して、眼杯から網膜を分離した。網膜全体を得た後、過去の研究(Kwon, H. et al., Hypoxia-Preconditioned Placenta-Derived Mesenchymal Stem Cells Rescue Optic Nerve Axons via Differential Roles of Vascular Endothelial Growth Factor in an Optic Nerve Compression Animal Model. Mol. Neurobiol. 2020, 57, 3362-3375)の記載に従って、ハサミを用いて網膜から視神経に向かって切開することにより網膜に4等分の切り込みを入れた。網膜を4%パラホルムアルデヒドで固定し、ガラス製カバースリップで室温で少なくとも1時間封入した。網膜標本をPBSで洗浄した後、1%のTritonX-100を含むPBSで室温で30分間インキュベートした。網膜を20%ウシ胎児血清で1時間ブロッキングし、1:10に希釈した抗Tuj1抗体(ab18207;Abcam)または抗Brn-3a抗体(MAB1585;Millipore)とともに4℃で一晩インキュベートした。翌日、網膜をPBS-Tで洗浄し、PBS-Tで1:200に希釈したAlexa Fluor 633ヤギ抗ウサギIgG-フルオレセインイソチオシアネート抗体とともに2時間インキュベートした。網膜を再度洗浄した後、カバースリップで封入した。共焦点顕微鏡(LSM 880;Carl Zeiss、Jena、Germany)で撮影した画像を使用して、蛍光を定量した。各網膜につき2つの領域で計算し、平均値を比較して統計分析を行った。
【0037】
(3)統計分析
データ分析は、GraphPad Prism9(GraphPad、La Jolla、CA、USA)を使用して行った。統計的有意差は、t検定またはノンパラメトリックな統計的検定を使用して求めた後、5%の有意水準でMann-WhitneyのU検定を行った。
【0038】
2.結果
(1)ヒト多能性幹細胞由来の神経前駆細胞(NPC)の特性評価
CHA15ヒトESCを、10μg/mLのヒトインスリン、9μg/mLのトランスフェリン、および14ng/mLのセレナイトを添加したDMEM/F12培地中で、5μMのPKCβ阻害剤と1μMのDMH1で処理することによって、NPCに分化させた(図1A)。継代1代目で増殖させたNPCは、2つの代表的なNPCマーカーであるSOX1(約90%)とPAX6(約75.6%)が陽性であったが、典型的な神経堤幹細胞マーカーであるP75(約0%)は陰性であった(図1B)。NPCを成熟ニューロンにさらに分化させると、初期ニューロンマーカーであるTUJ1と後期ニューロンマーカーであるMAP2の両方が産生された(図1C)。
【0039】
(2)NPCは、細胞のアポトーシスを減少させ、標的タンパク質を調節する
NPCの回復機能を評価するために、細胞生存率試験を行った。損傷したR28細胞をNPCまたはPSCと共培養すると、損傷したR28細胞の生存率は、低酸素条件下と比べてそれぞれ48%および7%回復した(図2A)。また、NPCは、アポトーシスにおける切断型カスパーゼ3の活性とBcl-2タンパク質の発現を調節した(図2B)。また、PSCと共培養した際のHif-1αから、低酸素損傷が少ないことも見出された。Hif-1αとは対照的に低酸素条件下で減少したニューロフィラメント(Nf)、Gap43、NeuN、およびGfapの発現量は、NPCとの共培養によって有意に回復した(図2C)。
【0040】
(3)視神経圧迫動物モデルにおけるNPCまたはPSCの注射後の網膜での神経マーカーの発現量の変化
ラットの網膜におけるHif-1αタンパク質、Vegfタンパク質、ニューロフィラメントタンパク質、NeuNタンパク質、Thy-1タンパク質、およびGfapタンパク質の発現調節を、視神経圧迫の1週間後、2週間後、および4週間後にウェスタンブロットで分析した。1週目に、NPCまたはPSCとの共培養により、週齢を一致させた偽処置群と比べてThy-1の発現量が有意に増加した。また、NPCとの共培養によって、偽処置群およびPSC群に比べて網膜においてVegfが有意に誘導された。さらに、4週目に、NPCとの共培養は、偽処置群と比べてニューロフィラメントの誘導を増加させた(図3A)。
【0041】
(4)視神経圧迫モデルにおける網膜と視神経組織との間での標的タンパク質の発現量の比較
ONCモデルを使用して、網膜と視神経において標的タンパク質の発現量を比較した。2週目において、網膜でのBDNFの発現量はNPC群で高かったが、視神経での発現量はNPC群とPSC群の両方で高かった。網膜で減少したIba1の発現は、NPC注射の2週間後と、PSC注射の4週間後に回復した(図3B)。NPC群の視神経では、炎症性タンパク質Nlrp3の発現量が1週目に有意に減少し、Tnf-αの発現量が2週目に有意に減少した(図3C)。
【0042】
(5)視神経圧迫動物モデルの網膜RGCに対するNPCおよびPSCの保護効果
ラットの網膜においてBrn-3aまたはTuj1で染色されたRGCの数を計数することにより、RGCの生存率を評価した。視神経圧迫(ONC)後、NPCのみが、週齢を一致させた偽処置群に比べて4週目に網膜のBrn-3aおよびTuj1の発現を有意に増加させたことが見出された(図4aのAとB)。
【0043】
(6)視神経損傷動物モデルの視神経軸索損傷に対するNPCおよびPSCの効果
ONCモデルの視神経におけるGAP43陽性細胞およびIba1陽性細胞を計数することにより、視神経に対するNPC注射の保護効果を評価した。図4bのCに示したように、NPC処置群とPSC処置群におけるGAP43の発現は、ONC群に比べて2週目に有意に増加したが、4週目にはNPC注射のみが有意な回復を示した。また、NPC注射は、4週間にわたって視神経におけるIba1の発現を減少させたことから、NPCが回復期間中にミクログリアの網膜への関与を促進することができることが示された(図4bのD)。
【0044】
(7)NPCによる網膜神経節細胞の回復過程にWnt/β-カテニンのシグナル伝達が関与する
過去の研究において、Wnt/β-カテニンのシグナル伝達とNF-κbタンパク質がMSCによる神経保護に関連しているという報告がなされている(Dvoriantchikova, G. et al., Virally delivered, constitutively active NFkappaB improves survival of injured retinal ganglion cells. Eur. J. Neurosci. 2016, 44, 2935-2943; Liu, X. et al., Interaction of NF-kappaB and Wnt/beta-catenin Signaling Pathways in Alzheimer's Disease and Potential Active Drug Treatments. Neurochem. Res. 2021, 46, 711-731)。本発明者らは、Wnt/β-カテニンのシグナル伝達が、損傷したR28細胞のNPCによる回復メカニズムに関与している可能性があるかどうかを調査した。本発明者らは、Wnt/β-カテニンのシグナル伝達が、NPCによって誘導された回復過程を媒介することを発見した。R28細胞をNPCと共培養すると、CoCl2により誘導されたWnt3aの減少が対照群に比べて有意に回復した。また、NF-κbの発現量は、NPC群において正常と同程度に維持されたが、PSC群では、NF-κbの発現量が正常(およびNPC群)より低かった(図5)。
【0045】
3.考察
MSCは、体脂肪、骨髄、胎盤および臍帯から容易に採取することができる。また、MSCは、HLAクラスI抗原を低発現し、CD80、CD86、CD40およびHLAクラスII抗原を示さないか、非常に低発現するため、免疫特権がある。さらに、MSCは、分離の容易性、短期間の休止後の急速な増殖、倫理的問題の回避などのその他のユニークな特徴があることから、細胞治療に有用である。一方、NPCは、PSCなどのMSCとは異なり、様々な実験において様々な条件と化学的誘導に由来するものである(Kim, H.M. et al., Fine-tuning of dual-SMAD inhibition to differentiate human pluripotent stem cells into neural crest stem cells. Cell Prolif. 2021, 54, e13103)。
【0046】
MSCが神経保護を直接調節するメカニズムは依然として不明である。PSCは、Hif-1αおよびGAP43の調節(Chung, S. et al., Human umbilical cord blood mononuclear cells and chorionic plate-derived mesenchymal stem cells promote axon survival in a rat model of optic nerve crush injury. Int. J. Mol. Med. 2016, 37, 1170-1180)と、NF-κb経路の介在(Dvoriantchikova, G. et al., Virally delivered, constitutively active NFkappaB improves survival of injured retinal ganglion cells. Eur. J. Neurosci. 2016, 44, 2935-2943); Liu, X. et al., Interaction of NF-kappaB and Wnt/beta-catenin Signaling Pathways in Alzheimer's Disease and Potential Active Drug Treatments. Neurochem. Res. 2021, 46, 711-731)によって、神経保護効果を発揮する。これらの結果は、MSCを用いた治療が視神経障害の治療に有用である可能性を示唆しているが、視神経回復に重要な経路は不明である。
【0047】
本研究において、本発明者らは、RGC前駆細胞の回復過程と関連するNPCの様々な介在タンパク質と介在経路を調査した。神経細胞再生マーカーであるGap43、Thy-1、およびニューロフィラメントの発現がNPCによって誘導された。また、本発明者らは、インビボおよびインビトロでNPCの機能を確認した。NPCの神経保護効果および再生促進効果は、PSCよりも顕著に優れていた。PSCおよびNPCの治療上の役割を比較するために、BDNFを介した機能分析を行った。網膜におけるBDNFの発現は、NPC群で有意に高かったが、視神経におけるBDNFの発現はNPC群とPSC群の両方で高かった。これらの結果から、視神経軸索の起点である視神経節細胞の回復にNPCが有効であることが示された。
【0048】
本研究では、PSCおよびNPCは、Iba1タンパク質の発現との関連性が認められた。回復期間中において、NPCの誘導による網膜のミクログリアでのIba1の発現は、PSCの誘導による発現よりも有意に高かった。視神経損傷後、活性化されたミクログリアは、視神経から網膜へ移動し、損傷した網膜において軸索の生存と除去のための細胞反応に関与することが観察された(Heuss, N.D. et al., Optic nerve as a source of activated retinal microglia post-injury. Acta Neuropathol. Commun. 2018, 6, 66)。ミクログリアのバイオマーカーであるIba-1の発現は、ミクログリアの極性化に関連している。神経保護の過程で、ミクログリアのM1表現型からM2表現型への転換が誘導された(Cui, W. et al., Inhibition of TLR4 Induces M2 Microglial Polarization and Provides Neuroprotection via the NLRP3 Inflammasome in Alzheimer's Disease. Front. Neurosci. 2020, 14, 444)。また、アルツハイマー病などの神経変性疾患の治療に電気鍼療法を使用すると、海馬においてM2マーカーであるアルギナーゼ1(Arg1)とIba1陽性細胞の活性化が強化された(Xie, L. et al., Electroacupuncture Improves M2 Microglia Polarization and Glia Anti-inflammation of Hippocampus in Alzheimer's Disease. Front. Neurosci. 2021, 15, 689-629)。網膜におけるIba1の発現誘導は、視神経損傷後の神経保護の過程においてM2バイオマーカーの発現に寄与している可能性がある。したがって、NPCは低酸素損傷後の神経リハビリテーションにさらに効率的である可能性がある。特に、NPCの回復効果はミクログリアによる神経保護との関連性がさらに高いという点を考慮すると、NPCは細胞相互作用を介して、PSCよりもさらに良好に損傷したRGCをレスキューすることができる。
【0049】
眼疾患の種類によって、幹細胞の投与経路が決定される。網膜色素変性症、シュタルガルト病、加齢黄斑変性などの網膜疾患の場合、硝子体内注射が通常使用される。本発明者らは、静脈内投与や硝子体内投与などのその他の経路と比較して、侵襲性が低く、繰り返し注射に対してより安全なテノン嚢下経路を介してPSCまたはNPCを注射した。NPCのテノン嚢下注射は、同じ個数のPSCの注射と比較して、より長い持続効果を維持した。
【0050】
結論として、NPCは、低酸素損傷を受けたR28細胞およびONC動物モデルに対して有益な効果をもたらした。NPCは、Wnt/β-カテニンのシグナル伝達およびNf-κbによって媒介される神経保護因子のアップレギュレーション、ミクログリアの関与および抗炎症調節を介して、損傷したRGCをレスキューすることができる。したがって、NPCは、様々な視神経症に有用な細胞治療として使用することができる。
図1A
図1B
図1C
図2
図3a
図3b
図3c
図4a
図4b
図5
【国際調査報告】