(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-28
(54)【発明の名称】2次元層状材料に材料を堆積する方法
(51)【国際特許分類】
C23C 16/515 20060101AFI20241121BHJP
C23C 16/455 20060101ALI20241121BHJP
C23C 16/34 20060101ALI20241121BHJP
C01B 32/194 20170101ALI20241121BHJP
【FI】
C23C16/515
C23C16/455
C23C16/34
C01B32/194
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024535469
(86)(22)【出願日】2022-12-14
(85)【翻訳文提出日】2024-06-13
(86)【国際出願番号】 GB2022053231
(87)【国際公開番号】W WO2023111562
(87)【国際公開日】2023-06-22
(32)【優先日】2021-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507329985
【氏名又は名称】オックスフォード インストルメンツ ナノテクノロジー ツールス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【氏名又は名称】鈴木 博子
(72)【発明者】
【氏名】リアジメール サラ
(72)【発明者】
【氏名】ヌープス ハーム
(72)【発明者】
【氏名】サンダラム ラヴィ
【テーマコード(参考)】
4G146
4K030
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AB07
4G146BA01
4G146CB16
4G146CB23
4G146CB32
4G146DA16
4K030AA11
4K030AA13
4K030AA14
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4K030AA18
4K030BA02
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4K030DA06
4K030EA03
4K030FA01
4K030FA17
4K030HA01
4K030KA18
4K030LA02
4K030LA12
(57)【要約】
第1の基板の2次元層上に材料をプラズマ堆積する方法であって、パルスプラズマ堆積プロセスにおいて2次元層上に直接保護層を堆積するステップと、第2のプラズマ堆積プロセスにおいて保護層上に第2の層を堆積するステップと、を含む方法。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の基板の2次元層上への材料のプラズマ堆積方法であって、
パルスプラズマ堆積プロセスにおいて、保護層を前記2次元層上に直接堆積するステップと、
第2のプラズマ堆積プロセスにおいて、第2の層を前記保護層上に堆積するステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記2次元層が、グラフェンを含む、請求項1に記載のプラズマ堆積方法。
【請求項3】
前記保護層が、誘電体を含む、請求項1~2の何れかに記載のプラズマ堆積方法。
【請求項4】
前記保護層が、金属又は半導体窒化物、金属又は半導体炭化物、或いは金属又は半導体炭窒化物を含む、請求項1~3の何れかに記載のプラズマ堆積方法。
【請求項5】
前記パルスプラズマ堆積プロセスが、プラズマエンハンスト原子層堆積プロセス又はパルスプラズマエンハンスト化学蒸着プロセスを含む、請求項1~4の何れかに記載のプラズマ堆積方法。
【請求項6】
プラズマエンハンスト原子層堆積プロセスにおいて、保護層を前記基板上に直接堆積する前記ステップが、低エネルギープラズマを用いるステップを含む、請求項1~5の何れかに記載のプラズマ堆積方法。
【請求項7】
前記第2のプラズマ堆積プロセスが、パルスプラズマ堆積プロセスを含む、請求項1~6の何れかに記載のプラズマ堆積方法。
【請求項8】
前記第2のプラズマ堆積プロセスが、プラズマエンハンスト原子層堆積プロセス又はパルスプラズマエンハンスト化学蒸着プロセスを含む、請求項7に記載のプラズマ堆積方法。
【請求項9】
前記第2の層が、誘電体を含む、請求項1~8の何れかに記載のプラズマ堆積方法。
【請求項10】
前記保護層及び/又は前記第2の層が各々、3より大きい誘電率を有する、少なくとも請求項3又は9に記載のプラズマ堆積方法。
【請求項11】
前記保護層及び前記第2の層が、異なる材料から形成される、請求項1~10の何れかに記載のプラズマ堆積方法。
【請求項12】
保護層を堆積する前記ステップが、第1の堆積チャンバにおいて実施され、
前記方法が更に、保護層を堆積する前記ステップの前に、前記第1の堆積チャンバにおいて第2の基板上に保護層を堆積するステップと、前記第2の基板を前記第1の堆積チャンバから除去するステップと、前記第1の基板を前記第1の堆積チャンバに提供するステップと、を含む、請求項1~11の何れかに記載のプラズマ堆積方法。
【請求項13】
第2の層を堆積する前記ステップが、第2の堆積チャンバにおいて実施され、
前記方法が更に、第2の層を堆積する前記ステップの前に、前記第2の堆積チャンバにおいて第3の基板上に第3の層を堆積するステップと、前記第2の堆積チャンバから前記第2の基板を除去するステップと、前記第1の基板を前記第2の堆積チャンバに提供するステップと、を含む、請求項1~12の何れかに記載のプラズマ堆積方法。
【請求項14】
前記第1の堆積チャンバが、前記第2の堆積チャンバである、請求項12又は13に記載のプラズマ堆積方法。
【請求項15】
第1の基板の2次元層上への材料の堆積方法であって、
ラジカルエンハンスト原子層堆積プロセスにおいて、保護層を前記2次元層上に直接堆積するステップと、
第2の堆積プロセスにおいて、第2の層を前記保護層上に堆積するステップと、
を含む、堆積方法。
【請求項16】
前記ラジカルエンハンスト原子層堆積プロセスが、ホットワイヤアシスト原子層堆積プロセスである、請求項15に記載の堆積方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2次元層状材料上に材料を堆積する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェンなどの2次元材料は、様々な概念実証デバイスにおいて、高性能を可能にすることが実証されている。これらの材料は、様々な他の材料と理想的に組み合わせることで、機能的なデバイスを提供することができる。しかしながら、グラフェンなどの2次元材料の表面は比較的不活性であるため、原子層堆積法(ALD)などの熱及びプラズマベースの蒸着プロセスを用いて、誘電体層などの他の材料を2次元材料の表面上に堆積させることは困難である。同時に、2次元材料の表面は、例えばプラズマプロセスで生成されるプラズマラジカル及びイオンによる損傷を受けやすい。
【0003】
誘電体層を2次元材料上に堆積させるために原子層堆積法を使用する試みがなされてきた。例えば、グラフェン上へのAl2O3の原子層堆積は、グラフェンの表面にAlを蒸発させることによってシーディングした後、Alを酸化してAl2O3を生成することによって試みられている。長時間のドージングを用いて熱原子層堆積法を実施することも試みられている。しかしながら、これらの何れの方法も低品質の誘電体層をもたらす。
【0004】
Al2O3を堆積する際にグラフェンを保護するのに使用できる高品質の中間層は、hBN(六方晶窒化ホウ素)である。この材料も不活性であるが、グラフェンよりも損傷に強いため、プラズマエンハンスト原子層堆積法(PEALD)の際にグラフェンを保護するために用いることができる。しかしながら、グラフェン表面上にhBNを堆積すると、プロセスフローに2次元的な材料成長と移送ステップが追加されるため、スケール調整が困難である。
【0005】
2次元材料は、超広帯域幅及び低消費電力を可能にすることにより、電気通信及びデータ通信構成要素の大幅な性能向上が保証されるので、近年関心が高まっている。加えて、2次元材料の前例のない表面積/体積比は、優れた電子特性と相まって、2次元材料を広範なセンサーにとって魅力的なものにしている。このようなデータ通信及びセンサーへの応用には、特にグラフェンや他の2次元材料上の高品質誘電体層との統合が必要である。
【0006】
従って、2次元層への材料堆積方法の改善が求められている。
【発明の概要】
【0007】
本発明の第1の態様によれば、第1の基板の2次元層上に材料をプラズマ堆積させる方法が提供され、本方法は、パルスプラズマ堆積プロセスにおいて、保護層を2次元層上に直接堆積させるステップと、第2のプラズマ堆積プロセスにおいて第2の層を保護層上に堆積させるステップと、を含む。
【0008】
本発明の第1の態様は、材料を2次元層(グラフェン等の2次元材料の層を意味する)上に、2次元層を損傷することなく、堆積された材料が高品質であること、すなわち、材料が高密度の閉鎖層で堆積され、層間の界面が清浄であり、物理的及び電子的欠陥が少なく、誘電体の場合には、高ブレークダウン電圧、高誘電率(誘電率3又はそれ以上と考えられる)及び低リーク電流であることを保証しながら、堆積させることを可能にする。グラフェンのような2次元材料の特性は、その表面が核生成サイトの密度が低いことを意味し、堆積材料の核生成の遅延を有する。これは、これらの材料を堆積させるために使用される化学プロセスが、反応性種(プラズマ種など)の十分な暴露を用いて実施されなければならないことを意味する。しかしながら、2次元材料は損傷にも非常に敏感であるため、反応性種への長時間の暴露は、2次元材料の過度の損傷につながる可能性がある。
【0009】
この問題は、2次元層上に保護層を最初に堆積させるためにパルスプラズマ堆積プロセスを使用することによって、本発明の第1の態様によって対処される。パルスプラズマ堆積プロセスは、前駆体ガス及びプラズマの一方又は両方がパルス化された、すなわち、前駆体ガス及び/又はプラズマが周期的に供給されるプラズマ堆積プロセスである。前駆体ガスの場合、これは、第1の時間間隔にわたって前駆体ガスを供給し、次いで第2の時間間隔にわたって堆積チャンバ(本明細書では処理チャンバとも呼ばれる)をパージし、堆積プロセスの過程でこのサイクルを繰り返すことを意味する。誤解を避けるために、前駆体ガスは、プラズマ(プラズマエンハンスト原子層堆積中の堆積サイクルの第1の層における場合のような)を伴わずに提供され、一方、ラジカル及びイオン等の反応性種を生成するためにプラズマの存在下で提供されるガス(又は複数のガス)は、プラズマガス(又は複数のプラズマガス)と呼ばれる。プラズマは、プラズマガスをパルス化することによって、すなわち、第1の時間間隔にわたってプラズマガスを供給し、次いで第2の時間間隔にわたって堆積チャンバをパージし、堆積プロセスの経過にわたってこのサイクルを繰り返すことによって、又はパルスでプラズマに電力を供給することによって、パルス化される。
【0010】
パルスプラズマ堆積プロセスを使用することにより、堆積を起こすために2次元層の表面が反応種に十分に晒されることが確保される一方で、高エネルギーイオン又は過剰レベルのラジカルのような、2次元層を損傷する可能性のある反応種に2次元層が晒されることを最小限に抑えることができる。
【0011】
従って、パルスプラズマ堆積プロセスの使用は、反応性種による損傷を低減する上で非常に効果的である。しかしながら、ラジカルの種類及び/又はラジカルの供給量によっては、パルスプラズマ堆積プロセスで使用される反応性ラジカルによって2次元層が損傷を受ける可能性がある。
【0012】
ラジカルが2次元層に損傷を与える特定の例は、Al2O3をグラフェンに堆積する際に起こる。プラズマ中のイオンによる損傷を最小限に抑えたとしても、Al2O3を堆積させるためのプラズマガス中の酸素ラジカルは、グラフェン表面との反応性が高く、損傷を有することが判明している。これは、他の材料の組み合わせでも起こることであり、プラズマガス中のラジカルによる損傷を回避することは、取り組むべき重要な問題である。
【0013】
本発明の第1の態様では、これは保護層を設けることによって達成される。保護層は、損傷に対して2次元層と同じ感度を示さないので、2次元層に損傷を与えるような蒸着プロセスを使用しても、保護層又は2次元層の何れにも損傷を与えることなく、第2の層を堆積することができる。
【0014】
従って、本発明の第1の態様は、前記2次元層を損傷することなく、高品質の層状材料を2次元層上に堆積させることを可能にする。
【0015】
本発明の第1の態様は、特に、hBN保護層の使用とは対照的であり、エクスサイチュでの材料成長及び転写のステップを別個に必要としないからである。その代わりに、保護層の堆積は、インサイチュで行われるため、エクスサイチュでのシード層又はhBN堆積のような、スケーリング及びインフラストラクチャーに関する大きな課題、ひいてはデバイスコストの問題を引き起こす追加のステップを必要とせずに、グラフェンを半導体製造プロセスに統合することができる。
【0016】
上記の説明及び本明細書全体を通して、「上に」及び「上へ」という語は、1つの層材料が別の層状材料上又はその上に堆積又は提供されるという文脈で使用される場合、1又は2以上の中間層を堆積又は提供する可能性を排除するものとして解釈されるべきではない。2つの層状材料の間に中間層が存在しないこのような場合には、「直接~の上」又は「直接~の上へ」という表現が使用される。例えば、本発明の第1の態様では、保護層は直接2次元層の上に蒸着され、中間層がないことを意味する。しかしながら、保護層と第2の層との間に1又は2以上の中間層が設けられてもよい。
【0017】
誤解を避けるために、第1の基板は、2次元層に加えて追加層を備えることができ、又は代替的に、2次元層のみを備えることができる。
【0018】
上記から明らかなように、本発明の第1の態様は、グラフェン層への損傷を回避することが困難であるため、グラフェン上への材料堆積に特に適している。特に、グラフェン表面の核生成部位の密度が低いため、材料の堆積は困難であり、一方、グラフェンの損傷に対する感受性は、より強力な堆積プロセス(すなわち、反応性種への長時間の暴露を伴う堆積プロセス)を使用するだけでは克服できないことを意味する。
【0019】
2次元層の形成に使用でき、及び本発明の第1の態様から恩恵を受ける他の材料としては、二硫化モリブデン(MoS2)、二硫化タングステン(WS2)、モリブデン又はタングステンのセレン化物、ボロフェン、及びシリセンが挙げられる。
【0020】
この目的のために、保護層の組成は、ラジカルが下層の2次元層を損傷しないプラズマガスの使用を可能にするように選択される。具体例としては、金属又は半導体窒化物、金属又は半導体の炭化物、及び金属又は半導体の炭窒化物が挙げられる。
【0021】
誤解を避けるために、「金属又は半導体窒化物」という表現は、金属元素の窒化物又は半導体元素の窒化物を意味する。金属又は半導体窒化物化合物自体は金属又は半導体である必要はなく、例えば誘電体であってもよい。同様に、「金属又は半導体炭化物」という表現は、金属元素の炭化物又は半導体元素の炭化物を意味し、金属又は半導体の炭化物化合物自体は、金属又は半導体である必要はないが、例えば、誘電体である可能性があり、「金属又は半導体炭窒化物」という表現は、金属元素の炭窒化物又は半導体元素の炭窒化物を意味し、金属又は半導体の炭窒化物化合物自体は、金属又は半導体である必要はないが、例えば、誘電体である可能性がある。
【0022】
例えば、Al2O3を堆積させる際に使用されるプラズマガス中の酸素ラジカルとは対照的に、プラズマガス中の窒素ラジカルは、十分に低い用量で供給される場合にはグラフェンに損傷を与えないため、AlNはグラフェンの保護層として使用するのに特に適している。第2の層が酸素を含む可能性があるのは、第1の層が感度の高い2次元層を処理中の酸化からシールドするためであり、及び保護層としてAlNを使用することで、グラフェン上にAl2O3層を堆積することが可能になる。
【0023】
保護層として使用するのに適した他の層状材料には、窒化ケイ素、窒化チタン、炭化ケイ素、炭窒化チタン、炭窒化ケイ素、及び窒化チタンアルミニウムが含まれる。
【0024】
保護層は、好ましくは誘電体を含む。上記の説明から明らかなように、本発明の多くの実施態様において、第2の層は誘電体を含む。このような場合、保護層が2次元層との第1の界面を形成するので、保護層も誘電体を含むことが有利である。誘電体保護層はまた、保護層が誘電トンネル障壁として機能するように構成できるので、第2の層(又は保護層と第2の層との間の任意の中間層)が金属層である場合にも有利とすることができる。例えば、窒化チタン(TiN)層は、AlNから形成された保護層上に直接設けることができる。しかしながら、他の実施態様では、保護層は、TiN等の金属層又は半導体層から形成することもできる。
【0025】
保護層及び第2の層の一方又は両方が、高誘電率誘電体、すなわち誘電率が3以上の誘電体を含むことが特に有利である。
【0026】
2次元層への損傷を最小にし、及び保護層の品質を最大にするために、パルスプラズマ堆積プロセスは、有利には、プラズマエンハンスト原子層堆積プロセスを含む。
【0027】
プラズマエンハンスト原子層堆積プロセスは、パルスプラズマ堆積プロセスの一例であり、処理中の最大圧力が約1mbarであるようなほぼ真空条件下で実施される周期的堆積プロセスである。まず、前駆体(一般に前駆体蒸気とも呼ばれ、ガスである場合もあれば、一部の事例では低圧下で高拡散蒸発した液体を含む場合もある)が、堆積チャンバ内に、蒸着すべき材料が付着した基板とともに供給される。前駆体は、自己限定反応で基板表面と反応する。つまり、基板表面のすべての核生成部位が前駆体と反応した時点で反応は終了し、基板表面に吸着種の固体薄膜(通常、厚さは1原子以下)が形成される。その後、過剰な前駆体は堆積チャンバからパージされ(典型的には、アルゴンなどのパージガスを供給する)、その後、プラズマが使用されて、基板表面の吸着種と反応するラジカルが供給され、次の工程で前駆体が吸着するための新たな反応部位が提供され、蒸着層状材料が残る。その後、形成された反応生成物はすべて堆積チャンバからパージされ、所望の数の蒸着層状材料を残すために必要な回数だけプロセスが繰り返される。
【0028】
プラズマエンハンスト原子層堆積では、プラズマは各堆積サイクルのごく一部にしか供給されないため、基板がプラズマ中のイオン及びラジカルに晒される時間を短縮することができる。これは、プラズマエンハンスト原子層堆積が、保護層を堆積するために使用されるとき、特に、保護層の組成が、保護層を堆積するために使用されるプラズマ中で形成されるラジカルが第1の基板の2次元層を損傷しないように選択されるとき、第1の基板の2次元層上のプラズマ種の結果として生じる暴露を容易に制御できることを意味する。例えば、グラフェン層上にAlNを堆積させるために用いられるプラズマは、窒素ラジカルのような反応性種を含むが、これは、十分に低い用量で供給される場合には、グラフェン層の表面を損傷しない。従って、低エネルギープラズマエンハンスト原子層堆積法は、第1の基板の2次元層上に保護層を直接堆積させるのに特に適している。
【0029】
プラズマエンハンスト原子層堆積法に代わる方法として、パルスプラズマエンハンスト化学蒸着法がある。プラズマエンハンスト化学蒸着法では、プラズマ中に多数の反応種が存在し、これらが基板の表面と反応して堆積層状材料を形成する。一般に、これは、イオン及び(潜在的に損傷を与える)ラジカルが蒸着プロセス全体にわたって存在することを意味し、これは、本発明の第1の態様における第1の基板の2次元層のような敏感な材料から備える基板に損傷を与える可能性がある。これは、プラズマ源への電力をパルス化することにより、及び/又は堆積チャンバへのプラズマガスの供給をパルス化することにより緩和することができ、これにより基板がイオン及び/又はラジカルに晒されるのを低減することができる。とはいえ、プラズマエンハンスト原子層堆積は、一般的に基板への損傷が少なく、より正確な層厚及び層/膜の品質管理が可能であるため、パルスプラズマエンハンスト化学蒸着よりも好ましい。これは、プラズマエンハンスト原子層堆積では、プラズマが堆積サイクルのごく一部にしか供給されないためである。パルスプラズマエンハンスト化学蒸着プロセスでプラズマへの電力がパルス化される場合でも、プラズマは通常、同等のプラズマエンハンスト原子層堆積プロセスよりも長い時間存在し、イオン及び/又はラジカルによる基板への損傷が大きくなる。また、プラズマエンハンスト原子層堆積は、蒸着材料が1原子厚の層で蒸着されるため、蒸着層の均一性及び密度が高くなるが、プラズマエンハンスト化学蒸着では、材料の蒸着に対するこのような精密な制御は不可能である。
【0030】
2次元層への損傷を更に低減するために、パルスプラズマ堆積プロセスで使用されるプラズマは、好ましくは低エネルギーであり、すなわち、プラズマ源に供給される電力は100W以下であり、又はより好ましくは25W以下である。低エネルギーPEALDプロセスの具体的な場合、「低エネルギーPEALDプロセス」は、任意のプラズマステップ中のウェハへのイオンフラックスが1平方センチメートル当たり0.2mA以下であり、及びイオンエネルギーが30eV以下であるPEALDプロセスとして定義することもできる。適切なプラズマ源はGB2577697に記載されている。低エネルギープラズマの使用は、より少ないイオンの生成をもたらし、及び基板に到達するイオンがより少ないエネルギーを有することを意味し、これにより2次元層に引き起こされる損傷を低減する。
【0031】
保護層の堆積は、非パルスプラズマエンハンスト化学蒸着などの非パルスプラズマ堆積プロセスを含む、第2の層を堆積するために、任意の従来の堆積プロセスが使用できることを意味する。それにもかかわらず、第2のプラズマ堆積プロセスが、プラズマエンハンスト原子層堆積又はパルスプラズマエンハンスト化学蒸着のようなパルスプラズマ堆積プロセスを含むことが好ましい。
【0032】
保護層は2次元層よりも損傷に対する感受性が低いが、それにもかかわらず、保護層(及び場合によってはその下の2次元層)への損傷が生じる可能性を低減することが望ましい。また、第2のプラズマ堆積プロセスは、第2の層の堆積に使用されるパルスプラズマ堆積プロセスと同じタイプであることが好ましい。これは、両方のプロセスを同じ堆積チャンバで実施する方が簡単であることを意味する。例えば、保護層がプラズマエンハンスト原子層堆積プロセスで堆積され、第2の層がパルス化学蒸着のような別のパルスプラズマ堆積プロセスで堆積され得る堆積チャンバを提供するよりも、同じチャンバで2つのプラズマエンハンスト原子層堆積プロセスを実施する方が簡単である。この理由のため、及び上述したプラズマエンハンスト原子層堆積の利点のため、保護層及び第2の層が共にプラズマエンハンスト原子層堆積プロセスで堆積されることが好ましい。
【0033】
それにもかかわらず、本発明の第1の態様の好ましい実施形態では、保護層及び第2の層は、異なる層状材料から形成される。従って、両方の層を堆積させるために同じタイプの堆積プロセスが使用される実施形態であっても、堆積プロセス自体は、各層を形成するために堆積される材料に適合するように異なる。
【0034】
保護層及び第2の層を堆積させるために使用される堆積チャンバ又はチャンバにおける潜在的に有害なラジカル(グラフェン2次元層の場合には酸化ラジカルなど)の存在を低減又は除去するために、本発明の第1の態様の方法は、好ましくは、1又は2以上の調整ステップを含む。
【0035】
このため、保護層を堆積するステップは、好ましくは、第1の堆積チャンバにおいて実施され、本方法は、保護層を堆積するステップの前に、第1の堆積チャンバにおいて第2の基板上に保護層を堆積するステップと、第2の基板を第1の堆積チャンバから除去するステップと、第1の基板を第1の堆積チャンバに提供するステップとを更に含む。
【0036】
この調整ステップでは、第1の基板上に堆積された保護層と同様の組成を有する保護層が、第2の基板上に堆積される。こうすることで、パルスプラズマ堆積プロセスで使用されるプラズマ中又は堆積チャンバ壁上の、堆積チャンバ内に存在する可能性のある酸素のような非所望の化学種のレベルが大きく低下する。このことは、第1の基板の2次元層への損傷の可能性及び堆積された層状材料の欠陥の可能性を低減することによって、保護層のその後の堆積を改善する。
【0037】
この第1の調整ステップはまた、第1のチャンバを調整するように、前記チャンバ内に基板が存在しない第1の堆積チャンバ内に保護層を堆積するステップを含むことができる。
【0038】
同様の理由で、チャンバ調整ステップは、第2の層を堆積するステップの前に実施され得る。
【0039】
第2の層を堆積するステップは、第2の層を堆積するステップの前に、第2の堆積チャンバ内の第3の基板上に第3の層を堆積するステップと、第2の基板を第2の堆積チャンバから除去するステップと、第1の基板を第2の堆積チャンバ内に提供するステップとを含む方法を用いて、第2の堆積チャンバ内で実施され得る。しかしながら、第1の堆積チャンバは、好ましくは第2の堆積チャンバであり、すなわち、保護層を堆積させるステップ及び第2の層を堆積させるステップの両方が、一方又は両方の調整ステップと共に、好ましくは同じ堆積チャンバ内で実施される。
【0040】
この第2の調整ステップは、第1のチャンバを調整するように、前記チャンバ内に基板が存在しない第1の堆積チャンバ内で保護層を堆積するステップを含むこともできる。
【0041】
本発明の第2の態様によれば、第1の基板の2次元層上に材料を堆積させる方法が提供され、この方法は、ラジカルエンハンスト原子層堆積プロセスにおいて保護層を2次元層上に直接堆積させるステップと、第2の堆積プロセスにおいて第2の層を保護層上に堆積させるステップとを含む。
【0042】
本発明の第2の態様は、2次元層を損傷することなく、及び堆積された材料が高品質であること、すなわち堆積された材料の層の欠陥が低減されることを保証しながら、材料を2次元層上に堆積させる代替方法を提供する。
【0043】
上述したように、グラフェンのような2次元材料の表面は、核生成サイトの密度が低く、及び損傷に対して非常に敏感であるため、反応性種への長時間の暴露を伴う析出プロセスは一般的に不適当であり、2次元層の過度の損傷につながる。この問題は、ラジカルエンハンスト原子層堆積プロセスを用いることにより、本発明の第2の態様によって解決される。
【0044】
ラジカルエンハンスト原子層堆積プロセスは、パルスプラズマ堆積法の別の様式であり、基板の表面に吸着種を堆積させるために堆積サイクル毎に第1の前駆体を供給し、次いで堆積チャンバからパージする周期的堆積プロセスである点で、両方ともプラズマエンハンスト原子層堆積プロセスと類似している。しかしながら、ラジカルエンハンスト原子層堆積プロセスでは、基板をプラズマに晒すのではなく、実質的にラジカル又はラジカルと、イオン化種がほとんど又は全くない非イオン化ガスとの混合気から備える反応性種のフラックスを使用して、基板表面の吸着種と反応する反応性種を供給する。
【0045】
ラジカルのガスを供給する方法としては、基板が設けられた堆積チャンバとは別のプラズマチャンバにプラズマを供給し、この堆積チャンバに向けてラジカルの流れを導く方法などがある。プラズマ中のイオンの平均自由行程は、ラジカルの平均自由行程よりもかなり短いため、プラズマチャンバ内のイオンのうち、せいぜい無視できる程度の割合が堆積チャンバに到達するように、プラズマチャンバを設計することが可能である。従って、基板は、その表面を損傷するのに十分なイオンに晒されることはない。
【0046】
それにもかかわらず、ラジカルエンハンスト原子層堆積プロセスは、好ましくはホットワイヤアシスト原子層堆積(HWALD)プロセスである。ホットワイヤアシスト原子層堆積プロセスでは、ラジカルのフラックスは、ホットワイヤ(タングステンフィラメントなど)を用いて前駆体ガスを1300℃~2000℃の範囲の温度に加熱し、前駆体ガス中の分子を解離させて、ほとんど又は全くイオン化しないラジカルを形成することによって供給される。このラジカルが基板表面の吸着種と反応して層状材料が形成される。
【0047】
ホットワイヤアシスト原子層堆積プロセスは、基板表面を損傷する可能性のあるイオンが形成されないという利点を有する。
【0048】
本発明の第1の態様に関連して説明したのと同じ考察の多くは、本発明の第2の態様にも当てはまる。例えば、本発明の第2の態様は、2次元層がグラフェンを含む場合に特に有利である。
【0049】
同様に、保護層及び/又は第2の層は、好ましくは誘電体から備え、保護層及び第2の層の一方又は両方が高誘電率誘電体、すなわち、誘電率が3以上の誘電体から備わると特に有利である。
【0050】
保護層が金属又は半導体窒化物;金属又は半導体炭化物;又は金属又は半導体炭窒化物から備えることも好ましい。
【0051】
保護層はラジカルエンハンスト堆積プロセスで堆積されるが、第2の堆積プロセスはプラズマ堆積プロセスから備えることができ、これは有利にはプラズマエンハンスト原子層堆積又はパルス化学蒸着のようなパルスプラズマ堆積プロセスである。保護層及び第2の層は、好ましくは異なる材料から形成されるので、第2の層が、他の蒸着プロセスよりもプラズマ堆積プロセスにおいてより容易に蒸着される材料から形成される場合には、このことが好ましい場合がある。
【0052】
本発明の第2の態様において使用される堆積チャンバ又はチャンバは、本発明の第1の態様を参照して上述した調整ステップを受けることもできる。
【0053】
次に、本発明を、添付図を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【
図1】本発明の実施形態で使用するのに適した例示的なプラズマ処理ツールを示す図である。
【
図2(a)】
図2a、2b、及び2cは、第2の層の堆積前後の基板のラマンスペクトルの比較を示す図である。
【
図2(b)】
図2a、2b、及び2cは、第2の層の堆積前後の基板のラマンスペクトルの比較を示す図である。
【
図2(c)】
図2a、2b、及び2cは、第2の層の堆積前後の基板のラマンスペクトルの比較を示す図である。
【
図3】本発明の実施形態に従って製造されたデバイスの断面図である。
【
図4】本発明の別の実施形態に従って製造されたデバイスの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
本発明の実施形態によるプロセスで使用するための例示的なプラズマ処理ツール101の概略例を
図1に示す。
【0056】
プラズマ処理ツール101は、処理チャンバ102(本明細書では堆積チャンバとも呼ばれる)を含み、このチャンバは、典型的には、真空ポンプシステム(図示せず)によって確立されたほぼ真空を含む。チャンバ102の内部には基板テーブル111があり、その上にプラズマ処理ツール101を使用して処理される基板104を置くことができる。基板テーブル111は、信号発生器112に電気的に接続されるように構成されており、この信号発生器112は、以下に更に説明するように、RF波形で基板テーブル111に電気的にバイアスをかけるように構成されている。或いは、
図2を参照して後述する例示的な実施形態のように、基板テーブル111は接地されていてもよい。基板テーブル111は、チャンバ102内の選択された高さまで基板テーブル111を上昇又は下降させるように制御可能なリフト113によって支持されてもよい。これは、例えば、基板ローディング位置及び基板処理位置の間でテーブル111を移動させるために使用することができ、基板処理位置は、循環プロセスにおけるガス種の迅速な変更のために、より小さい容積の内部チャンバを形成する。チャンバ102には、真空を破ることなく基板104をテーブル111上にロード及びアンロードするための手段(本明細書ではカセットロードロックと呼ぶ)も設けられる(図示せず)。
【0057】
チャンバ102内の基板テーブル103の上方には、電極アレイ200が支持されている。電極アレイ200は、プラズマチャンバ102の上側壁の一部又は全部を形成するパネル(図示せず)を含むことができる。電極アレイ200は、交互に配置された一連の接地電極(すなわち、電気的に接地された電極、図示せず)及び1又は2以上のライブ電極(図示せず)を含み、これらは電源270に電気的に接続されている。電源270は、生電極及び接地電極間に電圧を発生させるように、生電極に電気的に電力を供給するように構成されている。使用時には、プラズマ生成用の前駆体ガス又はプラズマを電極アレイ200に供給することができ、ライブ電極と接地電極との間の電圧によってガスがプラズマに分解される。電極アレイ200及び電源270はプラズマ発生装置300の一部である。
【0058】
プラズマ処理ツール101は、105a、105bに図示されているような1又は2以上のガス源を含む。提供されるガス源の数及び種類は、実行されるプラズマ処理の性質に依存する。例えば、層状材料が堆積される場合(例えば、原子層堆積プロセスにおいて)、ガス源は、当該化学反応のための1又は2以上のガスを含む。保護層及び第2の層を堆積させることに加えて、本発明の実施形態は、更なる層状材料を堆積させるステップ又は層状材料をエッチングするステップを含むことができる。プロセスが材料のエッチングを含む場合、ガス源は1又は2以上のエッチャントガスを含む。ボッシュ・エッチング・プロセスのような幾つかのプロセスは、堆積及びエッチングの両方を含むので、両方のタイプのガスが利用可能である。これらの反応ガスのどれでも、装置300によってプラズマに変換することができる。しかしながら、場合によっては、プラズマ生成のために特別に追加のガスが提供されることもある。プラズマ生成に適したガスの例としては、希ガス(例えば、ネオンNe、及びキセノンXe)、酸化性ガス(例えば、酸素O2、及び亜酸化窒素N2O)、還元性ガス(例えば、水素H2)、及び窒素含有ガス(例えば、分子状窒素N2、及びアンモニアNH3)が挙げられる。ガス源の1又は2以上はまた、他のガスの侵入を制限するため、及び/又はチャンバ102を形成する以前のガス環境を排出するための、パージガスを提供し得る。パージガスは、例えば、N2又はアルゴン(Ar)のような安定なガスであり得る。
【0059】
具体例として、典型的な周期的プラズマエンハンスト原子層堆積(ALD)プロセスは、各サイクルにおいて以下のステップを有する:
- 前駆体ガスの投与
- チャンバから前駆体ガスを除去し、基板表面上に吸着種を残すポンプ又はパージステップ
- プラズマ励起されたガスに晒して、吸着種と反応させて基板上に固体薄膜を形成する
- 任意選択として、チャンバからプラズマ励起ガスを除去するポンピング又はパージステップ。
【0060】
プラズマ照射時間を最小限にするため、サイクルタイムはできるだけ短い方が有利である。プロセスには低圧が使用され、通常、絶対圧力は最大で1mbarである。プロセスチャンバのほとんどの内面が基板と同時にコーティングされ、堆積層が導電性であっても、プラズマへのコーティング電力は信頼できるものでなければならない。多くのALDプロセスで使用される前駆体ガスは蒸気であり、すべての表面が通常100~200℃の範囲で加熱されない限り、容易に凝縮する傾向がある。
【0061】
図1に描かれている装置では、プラズマ発生ガス源105aは、その壁を通してチャンバ102内に直接ガスを供給するものとして示されており、一方、ガス源105bは、電極アレイ200を通してガスを供給するものとして描かれているが、実際には、何れか又は両方の任意選択肢が異なるガスに対して採用され得る。例えば、プラズマ処理ステップ用の反応ガスは、チャンバの壁を通して(すなわち、ソース105aに従って)供給され、一方、電極アレイ200を通る導管(すなわち、ソース105bに従って)は、更に後述するように、プラズマ処理ステップの間にパージガスを供給するために使用され得る。また、所望であれば、各ガス源に対して処理チャンバへの複数のガス導入点があってもよい。ソース105a、105bからチャンバ102への前駆体ガス及びプラズマ生成用ガスの供給は、それぞれのバルブ106a、106bを用いて制御することができる。バルブは、好ましくは、短いガスパルスの注入用に調整される。
【0062】
プラズマ処理ツール101は、プロセッサ122によって命令され得る制御ユニット121に接続されている。制御ユニット121は、基板上で実行されるプロセスに従って、例えば、電源270、信号発生器112、バルブ106a、106b及びリフト113を制御することができる。
【0063】
本発明の好ましい実施形態では、保護層及び第2の層は、基板テーブルを接地した状態で、上述の装置を用いたプラズマエンハンスト原子層堆積プロセスにおいて堆積される。
【0064】
プロセスの第1の段階(任意)では、TMA(トリメチルアルミニウム)前駆体及びN2/Ar混合気プラズマを用いて、ダミーウェーハ上に約100nmの厚さのAlN層を堆積させることにより堆積チャンバを調整し、チャンバ壁をパッシべーションさせ、プラズマ中の不要なラジカル(特に酸素ラジカル)の存在を除去する。その後、100WのRFパワーで4秒間プラズマを供給し、最後に2秒間パージする。堆積チャンバ内の圧力は400mtorrである。
【0065】
次に、プロセスの第2の段階でAlNの保護層を堆積する。この段階で使用される基板は、90nmの熱成長SiO2で覆われた6インチ(15cm)Siウェハ上にグラフェンを転写することで作製される。
【0066】
この段階では、TMA前駆体とともにN2及びArガスがパルス状に供給される。その後、25Wから100WのRFパワーで100msのプラズマが供給される。堆積チャンバ内の圧力は400mtorrのままである。
【0067】
同様の前駆体とプラズマガスの混合気が第1段階及び第2段階で使用されるが、第2段階ではプラズマ源のRFパワーが下側になり、プラズマ時間が短くなる。この穏やかなプラズマ条件及び低温により、下層のグラフェンをエッチングすることなく、AlNの薄層を成長させることができる。そうすることで、AlN保護層がグラフェンを効果的に保護し、及び官能基を形成することで、グラフェンに損傷を与えることなく、その後の工程でAl2O3膜を成長させることが可能となる。
【0068】
ステージ3は、Al2O3の堆積に先立つ(任意選択の)チャンバ調整ステージを含む。この段階に先立ち、ステップ2で処理された基板は、真空を破ることなくカセットロードロックに移される。その後、プラズマ中の不要なラジカルの存在を排除するために、TMA前駆体及びチャンバ壁をパッシベートするためのO2/Ar混合気プラズマを用いて、ダミーウェーハ上に約70nmの厚さのAl2O3層を堆積することにより、チャンバを調整する。
【0069】
この段階では、O2及びArはTMAと共にパルス化される。その後、プラズマは100WのRFパワーで100ms供給される。堆積チャンバの圧力は、この段階では400mTorrである。
【0070】
最終段階では、ダミー基板を取り外し、及びステップ2で処理された基板をカセットロードロックから堆積チャンバに移す。その後、ステージ3と同じプロセスでAl2O3が蒸着される。保護層により、デバイスに損傷を与えることなく基板テーブルの温度を上げることができ、この高温によりAl2O3層の品質及び均一性を向上させることができる。
【0071】
AlN蒸着及びその後の材料蒸着は、真空搬送クラスターツールを使用して別々のチャンバで行うこともできる。
【0072】
カプセル化によるグラフェンの構造変化を調べるため、カプセル化の前後でグラフェンのラマンスペクトルを直接記録した。
図2aから
図2cは、Al
2O
3蒸着前後のGr/SiO
2/Siウェハのラマンスペクトルを、AlN保護層あり及びなしで示したものである。
【0073】
一般に、グラフェンのラマンスペクトルは特定の波数にピークを示す。最も顕著なピークは、Dピークの1350cm
-1付近、Gピークの1582cm
-1付近、及び2Dピークの2700cm
-1付近である。Dピークは、グラフェン格子中の欠陥の数に関する情報を提供し、Dピークが大きいほど、グラフェン格子中の欠陥及びグラフェン格子への損傷が多いことを表す。
図2aに示すように、誘電体蒸着前にはDピークは見られず、グラフェンの品質が良好であることを示している。AlN保護層なしのデバイスでは、封止後、1350cm
-1付近に明確なDピークが確認され、保護層なしでグラフェン上にAl
2O
3を直接堆積すると、グラフェンが著しく損傷することがわかる。AlN保護層で保護されたデバイスでは、Dピークはごくわずかであり、グラフェン層が効率的に保護されていることを示している。
【0074】
Dピーク及びGピークの強度比(I
D/I
G)は、通常、グラフェンの欠陥レベルを測定するために用いられる。
図2bは、ラマンマップから得られたID/IGのヒストグラムである。AlN保護層を用いずにAl
2O
3で封止したデバイスでは、ID/IGが0.05から1.27へと大幅に増加している。これは、O
2プラズマ照射によるグラフェン格子の損傷が主な原因である。一方、AlNで保護した試料では、I
D/I
Gがグラフェンの0.05に対して0.035と同程度であり、その差は干渉パターンの変化によって生じるノイズレベルの減少に起因している。
【0075】
もう1つの有用な指標は、グラフェンのひずみ変化を代表する2Dピークの半値全幅(FWHM)である。FWHM(2D)が下側であるほど、グラフェンのひずみ変動が小さく、及びキャリア移動度が高いことを意味する。ラマンマップから得られたFWHM(2D)のヒストグラムを
図2cに示す。AlN保護層のない試料では、FWHM(2D)が34cm
-1から43cm
-1へと大幅に増加しているのに対し、AlN保護層のある試料では、34cm
-1付近から36cm
-1へと中程度の増加にとどまっている。
【0076】
次に、本発明の幾つかの実施形態に従って製造されたデバイスの例を簡単に説明する。
【0077】
デバイス300の第1のこのような例は、
図3に描かれており、ここでは、基板301上に保護層302が直接設けられ、その保護層302上に追加層303が設けられている。基板301の上側層は2次元層、すなわち2次元材料の層であり、基板301は、1又は2以上の追加層を含むことができる。
【0078】
図4及び
図5は、同じ原理に従って提供されるより複雑な構造を示す。この場合、基板401がバックゲート402、Si層403、SiO
2層404及びグラフェン層405を含む半導体デバイス400が提供される。ご覧のように、グラフェン層はSiO
2層404の全面に広がっていない。デバイス400の製造に使用される本発明の実施形態では、保護AlN層406が第1の層として基板401上に堆積され、続いてAl
2O
3層407が堆積され、最後にソース408、ドレイン409、及びトップゲート410層が堆積される。しかしながら、ソース408層及びドレイン409層の一方又は両方を、AlN406層及び/又はAl
2O
3層407層の前に設けることも可能である。
【符号の説明】
【0079】
300 デバイス
301 基板
302 保護層
303 追加層
【手続補正書】
【提出日】2024-06-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の基板の2次元層上への材料のプラズマ堆積方法であって、
パルスプラズマ堆積プロセスにおいて、保護層を前記2次元層上に直接堆積するステップと、
第2のプラズマ堆積プロセスにおいて、第2の層を前記保護層上に堆積するステップと、
を含
み、前記2次元層が、グラフェン,ボロフェン,及びシリセンのうちの1又は2以上を含む、方法。
【請求項2】
前記保護層が、誘電体を含む、請求項
1に記載のプラズマ堆積方法。
【請求項3】
前記保護層が、金属又は半導体窒化物、金属又は半導体炭化物、或いは金属又は半導体炭窒化物を含む、請求項
1に記載のプラズマ堆積方法。
【請求項4】
前記パルスプラズマ堆積プロセスが、プラズマエンハンスト原子層堆積プロセス又はパルスプラズマエンハンスト化学蒸着プロセスを含む、請求項
1に記載のプラズマ堆積方法。
【請求項5】
プラズマエンハンスト原子層堆積プロセスにおいて、保護層を前記基板上に直接堆積する前記ステップが、低エネルギープラズマを用いるステップを含む、請求項
1に記載のプラズマ堆積方法。
【請求項6】
前記第2のプラズマ堆積プロセスが、パルスプラズマ堆積プロセスを含む、請求項
1に記載のプラズマ堆積方法。
【請求項7】
前記第2のプラズマ堆積プロセスが、プラズマエンハンスト原子層堆積プロセス又はパルスプラズマエンハンスト化学蒸着プロセスを含む、請求項
6に記載のプラズマ堆積方法。
【請求項8】
前記第2の層が、誘電体を含む、請求項
1に記載のプラズマ堆積方法。
【請求項9】
前記保護層及び/又は前記第2の層が各々、3より大きい誘電率を有する、少なくとも請求項
2又は
8に記載のプラズマ堆積方法。
【請求項10】
前記保護層及び前記第2の層が、異なる材料から形成される、請求項
1に記載のプラズマ堆積方法。
【請求項11】
保護層を堆積する前記ステップが、第1の堆積チャンバにおいて実施され、
前記方法が更に、保護層を堆積する前記ステップの前に、前記第1の堆積チャンバにおいて第2の基板上に保護層を堆積するステップと、前記第2の基板を前記第1の堆積チャンバから除去するステップと、前記第1の基板を前記第1の堆積チャンバに提供するステップと、を含む、請求項
1に記載のプラズマ堆積方法。
【請求項12】
第2の層を堆積する前記ステップが、第2の堆積チャンバにおいて実施され、
前記方法が更に、第2の層を堆積する前記ステップの前に、前記第2の堆積チャンバにおいて第3の基板上に第3の層を堆積するステップと、前記第2の堆積チャンバから前記第2の基板を除去するステップと、前記第1の基板を前記第2の堆積チャンバに提供するステップと、を含む、請求項
11に記載のプラズマ堆積方法。
【請求項13】
前記第1の堆積チャンバが、前記第2の堆積チャンバである、請求項
12に記載のプラズマ堆積方法。
【請求項14】
第1の基板の2次元層上への材料の堆積方法であって、
ラジカルエンハンスト原子層堆積プロセスにおいて、保護層を前記2次元層上に直接堆積するステップと、
第2の堆積プロセスにおいて、第2の層を前記保護層上に堆積するステップと、
を含
み、前記2次元層が、グラフェン,ボロフェン,及びシリセンのうちの1又は2以上を含む、堆積方法。
【請求項15】
前記ラジカルエンハンスト原子層堆積プロセスが、ホットワイヤアシスト原子層堆積プロセスである、請求項
14に記載の堆積方法。
【国際調査報告】