(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-28
(54)【発明の名称】切削工具
(51)【国際特許分類】
B23B 27/14 20060101AFI20241121BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
B23B27/14 A
B23B27/14 B
C23C14/06 P
C23C14/06 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024535575
(86)(22)【出願日】2022-11-21
(85)【翻訳文提出日】2024-08-08
(86)【国際出願番号】 EP2022082543
(87)【国際公開番号】W WO2023110293
(87)【国際公開日】2023-06-22
(32)【優先日】2021-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500005837
【氏名又は名称】セラティチット オーストリア ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(71)【出願人】
【識別番号】521250375
【氏名又は名称】セラティチット バルツハイム ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Ceratizit Balzheim GmbH & Co. KG
(74)【代理人】
【識別番号】110003317
【氏名又は名称】弁理士法人山口・竹本知的財産事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075166
【氏名又は名称】山口 巖
(74)【代理人】
【識別番号】100133167
【氏名又は名称】山本 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100169627
【氏名又は名称】竹本 美奈
(72)【発明者】
【氏名】シャーハ,カルパク プラカシュ
(72)【発明者】
【氏名】ポーラー,マルクス
(72)【発明者】
【氏名】ツェットル,クリストフ
【テーマコード(参考)】
3C046
4K029
【Fターム(参考)】
3C046FF03
3C046FF10
3C046FF11
3C046FF16
3C046FF19
3C046FF25
3C046FF32
3C046FF39
3C046FF52
4K029AA02
4K029AA04
4K029AA24
4K029BA58
4K029BB02
4K029BC02
4K029BD05
4K029CA05
4K029DC04
4K029DC16
4K029EA01
(57)【要約】
切削工具(1,10)。切削工具(1,10)は工具本体(2)及び多層被覆(3,30)を有し、多層被覆(3,30)は切削中の摩耗から工具本体(2)を保護し、多層被覆(3,30)は複数の窒化ジルコニウム層(4)を有し、多層被覆(3,30)は前記複数の窒化ジルコニウム層(4)と交互に積層された複数の更なる窒化物層(5)を有し、前記複数の更なる窒化物層(5)の各々は前記複数の窒化ジルコニウム層(4)の1つを担持し、前記複数の更なる窒化物層(5)は、各々、(Ti1-x-yAlxMey)Nαの原子組成を有し、前記複数の窒化ジルコニウム層(4)の少なくとも1つは、前記のより厚い窒化ジルコニウム層(4)を担持する前記複数の更なる窒化物層(5)よりも厚い。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具本体(2)及び多層被覆(3,30)を有する切削工具(1,10)であって、多層被覆(3,30)は、切削中の摩耗から工具本体(2)を保護し、多層被覆(3,30)は、複数の窒化ジルコニウム層(4)を有し、多層被覆(3,30)は、前記複数の窒化ジルコニウム層(4)と交互に積層された複数の更なる窒化物層(5)を有し、前記複数の更なる窒化物層(5)の各々は、前記複数の窒化ジルコニウム層(4)の1つを担持し、前記複数の更なる窒化物層(5)は、それぞれ、(Ti
1-x-yAl
xMe
y)N
α(式中、x=0.2~0.9及びy=0~0.3であり、式中、Meは、それぞれ、Ta、Si、Cr、W、V、Cr、Hf、Nb及びMoから選択される1つ以上の金属原子であり、α=0.9~1.1である。)の原子組成を有し、前記複数の窒化ジルコニウム層(4)のそれぞれは、35nm~750nmの範囲の厚さ(d4)を有し、前記更なる窒化物層(5)のそれぞれは、30nm~300nmの範囲の厚さ(d5)を有し、前記複数の窒化ジルコニウム層(4)の少なくとも1つは、この窒化ジルコニウム層(4)を担持する前記複数の更なる窒化物層(5)の1つよりも厚い切削工具(1,10)。
【請求項2】
前記のより厚い窒化ジルコニウム層(4)は、この窒化ジルコニウム層(5)を担持する前記更なる窒化物層(5)よりも1.2~15.0倍厚い、請求項1に記載の切削工具(1,10)。
【請求項3】
前記切削工具(1,10)が、基層(7)を有し、前記基層(7)は、(Ti
1-a-bAl
aMe
*
b)N
βの原子組成を有し、a=0.20~0.90且つb=0~0.30であり、Me
*は、それぞれ、Ta、Si、Cr、W、V、Cr、Hf、Nb及びMoから選択される1つ以上の金属原子であり、前記基層(7)は、前記工具本体(2)の部分上に前記多層被覆(3,30)を担持し、前記基層(7)は、前記複数の更なる窒化物層(5)のいずれよりも厚い、請求項1又は2に記載の切削工具(1,10)。
【請求項4】
前記基層(7)が前記複数の窒化ジルコニウム層(4)の1つを担持する、請求項3に記載の切削工具(1,10)。
【請求項5】
前記基層(7)が500nm~15000nmの範囲の総厚(d7)を有する、請求項3又は4に記載の切削工具(1,10)。
【請求項6】
前記基層(7)が総厚(d7)を有し、前記多層被覆(3,30)が総厚(d3,d30)を有し、前記多層被覆(3,30)の総厚(d3,d30)に対する前記基層(7)の総厚(d7)の比が0より大きく3.0までの範囲である、請求項3~5のいずれか一項に記載の切削工具(1,10)。
【請求項7】
前記工具本体(2)が超硬合金から作製される、請求項1~6のいずれか一項に記載の切削工具(1,10)。
【請求項8】
前記超硬合金が該超硬合金中に5重量パーセント~20重量パーセントの量の金属合金を有し、前記金属合金がコバルト基合金であり、前記超硬合金が炭化タングステン粒子である炭化物粒子を有する、請求項7に記載の切削工具(1,10)。
【請求項9】
前記のより厚い窒化ジルコニウム層(4)の厚さ(d4)と該より厚い窒化ジルコニウム層(4)を担持する前記更なる窒化物層(5)の厚さ(d5)との合計が、65nm~1050nmの範囲の二層厚さ(d45)になる、請求項1~8のいずれか一項に記載の切削工具(1,10)。
【請求項10】
前記複数の窒化ジルコニウム層(4)が、前記のより厚い窒化ジルコニウム層(4)の厚さ(d4)である同じ個々の厚さ(d4)を有し、前記複数の更なる窒化物層(5)が前記より厚い窒化ジルコニウム層(5)を担持する前記更なる窒化物層(4)の厚さ(d4)を有する同じ個々の厚さ(d5)を有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の切断工具(1,10)。
【請求項11】
前記複数の窒化ジルコニウム層(4)の個々の厚さ(d4)が、前記複数の更なる窒化物層(5)の個々の厚さ(d5)よりも1.2~15倍大きい、請求項10に記載の切削工具(1,10)。
【請求項12】
前記のより厚い窒化ジルコニウム層(4)が金属チップ接触のために露出された多層被覆(3,30)の最上層(4)である、請求項1~11のいずれか一項に記載の切断工具(1,10)。
【請求項13】
前記多層被覆(3,30)が、500nm~15000nmの範囲の総厚(d3,d30)を有する、請求項1~12のいずれか一項に記載の切削工具(1,10)。
【請求項14】
前記多層被覆(3,30)の総厚(d3,d30)及び前記基層(7)の総厚(d7)が、合計で、1000nm~25000nmの範囲の接合部厚さ(d730)になる、請求項13及び5に記載の切削工具(1,10)。
【請求項15】
前記複数の窒化ジルコニウム層(4)の各々及び前記複数の更なる窒化物層(5)の各々が、物理蒸着によって堆積されている、請求項1~12のいずれか一項に記載の切削工具(1,10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削工具に関する。切削工具は工具本体及び多層被覆を有し、多層被覆は切削中に工具本体の摩耗を防止し、多層被覆は複数の窒化ジルコニウム層を有し、多層被覆は窒化ジルコニウム層と交互に積層された更なる窒化物層を有し、更なる窒化物層の各々は1つの窒化ジルコニウム層を担持し、更なる窒化物層の各々は、(Ti1-x-yAlxMey)Nαの原子組成を有し、ここで、x=0.20~0.90であり、y=0~0.30であり、Meは、各々、Ta、Si、Cr、W、V、Cr、Hf、Nb及びMoから選択される1つ以上の金属原子であり、α=0.9~1.1であり、窒化ジルコニウム層の各々は、35nm~750nmの厚さを有する。
【0002】
切削工具は、被加工物や加工片と高負荷で摩擦接触し、これは、切削工具の摩耗につながる。切削工具に適切な被覆を施すことによって工具寿命を改善することが知られている。
【背景技術】
【0003】
特許文献1は、多層被覆切削工具を開示している。特許文献1に示されている被覆は、MeN/(Ti1-xAlx)N/MeN/(Ti1-xAlx)N/...の繰り返し形態の窒化金属化合物の多結晶・層状多層構造を含む。ここで、Meは、Zrであるが、他の金属原子であってもよい。
【0004】
特許文献1に開示された多層被覆は、特にチップが高い熱的及び機械的負荷のもとで、その上に圧接される場合、それ自体が摩耗しやすい。特許文献1に開示された多層被覆が摩耗すると、当然、その保護効果が消失し、工具寿命が短くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開公報第2009/105024Al号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、改善された耐摩耗性を有する切削工具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的は、請求項1に記載の切削工具によって達成される。
この切削工具の有利な実施形態は、従属請求項に開示されており、従属請求項は、互いに自由に組み合わせることができ、また、請求項1、明細書及び図面と自由に組み合わせることができる。
【0008】
切削工具は、工具本体及び多層被覆を有し、多層被覆は切削中に工具本体の摩耗を防止し、多層被覆は複数の窒化ジルコニウム層を有し、多層被覆は窒化ジルコニウム層と交互に積層された更なる窒化物層を有し、更なる窒化物層の各々は1つの窒化ジルコニウム層を担持し、更なる窒化物層の各々は(Ti1-x-yAlxMey)Nαの原子組成を有し、ここで、x=0.20~0.90であり、y=0~0.30であり、好ましくはx=0.40~0.80であり、y=0~0.30であり、Meは、各々、Ta、Si、Cr、W、V、Cr、Hf、Nb及びMoから選択される1つ以上の金属原子であり、α=0.9~1.1であり、窒化ジルコニウム層の各々は35nm~750nmの厚さを有し、窒化ジルコニウム層の少なくとも1つは、その窒化ジルコニウム層を担持する更なる窒化物層の1つよりも厚い。各窒化ジルコニウム層は、機械加工されたチップが多層被覆上に圧接されるときに生じる接着摩耗に対する耐性を改善する。上記のより厚い窒化ジルコニウム層を担持する更なる窒化物層は、上記のより厚い窒化ジルコニウム層をより硬くし、これにより、上記のより厚い窒化ジルコニウム層の接着摩耗及び研磨摩耗に対する耐性を向上させる。
原子組成(Ti1-x-yAlxMey)Nαは、(x、y及びα)の以下の組合せの1つを有することが好ましい。(x=0.2~0.9、y=0~0.3、α=1.0)、(x=0.2~0.9、y=0、α=1.0)、(x=0.4~0.8、y=0~0.3、α=1.0)、(x=0.4~0.8、y=0、α=1.0)。
【0009】
上記のより厚い窒化ジルコニウム層の厚さは、以下の範囲:35nm~750nm、200nm~600nm、200nm~450nm及び200nm~350nm、のうちの1つの中にあることが好ましい。上記のより厚い窒化ジルコニウム層を担持する更なる窒化物層の厚さは、30nm~300nm、50nm~150nm及び60nm~100nmの範囲のうちの1つの中にあることが好ましい。好ましくは、更なる窒化物層の各々は、これらの範囲のうちの1つの中にある厚さを有する。
【0010】
好ましくは更なる窒化物層のうちの少なくとも2つが、より好ましくは更なる窒化物層のそれぞれが、更なる窒化物層のそれぞれにおいて、x、y及びαが同じであるような同じ原子組成を有する。同じ原子組成(同じx、y及びα)は、x、y及びαの値が、更なる窒化物層の形成中に生じる避けられない変動、例えば物理蒸着、のために、1つの更なる窒化物層から他の更なる窒化物層まで変化し得ることを意味する。言い換えれば、x、y及びαは、それら(x、y及びα)が(理論的に)同じであることが意図されているにも拘わらず、更なる窒化物層中で僅かに変化し得る。
【0011】
切削工具の更なる実施形態によれば、前記のより厚い窒化ジルコニウム層は、該より厚い窒化ジルコニウム層を担持する更なる窒化物層よりも、1.2~15.0倍、好ましくは2.0~12.0倍、より好ましくは3.0~10.0倍厚い。前記のより厚い窒化ジルコニウム層の耐摩耗性は、前記のより厚い窒化ジルコニウム層が前記更なる窒化物層よりも1.2~15.0倍、好ましくは2.0~12.0倍、より好ましくは3.0~10.0倍厚い場合に、更に改善される。
【0012】
前記のより厚い窒化ジルコニウム層は、前記更なる窒化物層よりも、1.2~15.0倍、2.0~12.0倍、3.0~10.0倍、3.0~5.5倍、3.2~4.6倍のいずれか、厚いのが好ましい。
【0013】
切削工具の更なる実施形態によれば、切削工具は、基層を有し、基層は、(Ti1-a-bAlaMe*
b)Nβの原子組成を有し、ここで、a=0.20~0.90且つb=0~0.30、好ましくはa=0.40~0.80且つb=0~0.30であり、β=0.9~1.1であり、Me*は、それぞれ、Ta、Si、Cr、W、V、Cr、Hf、Nb及びMoから選択される1つ又は複数の金属原子であり、基層は、工具本体の一部の上に多層被覆を担持し、基層は、更なる窒化物層のいずれよりも厚い。基層上の多層被覆の存在は、接着摩耗及び研磨摩耗に対する耐性を増加させ、熱負荷に対してより良好に工具本体を保護する。好ましくは、基層は、更なる窒化物層のうちの1つ、好ましくは基層に最も近い更なる窒化物層、と同じ原子組成を有し、これは、Me*=Me、a=x、b=y、及びα=βを意味する。更なる窒化物層について開示されたx、y及びαの好ましい範囲は、同様にx、y、βに適用される。基層と更なる窒化物層とが同じ原子組成を有することは、(理論的な)同じ原子組成が意図されているにも拘わらず、更なる窒化物層の形成中に生じる避けられない変動、例えば物理蒸着、のために、前記更なる窒化物層に関して、a、b及びβが変化し得ることを意味する。
【0014】
切削工具の更なる実施形態によれば、基層は、複数の窒化ジルコニウム層のうちの1つを担持する。これにより、基層は、接着摩耗に対して、より良好に保護される。というのは、工具本体は次のような一連の層:基層/窒化ジルコニウム層/更なる窒化物層/窒化ジルコニウム層/・・・を担持するからである。
【0015】
切削工具の更なる実施形態によれば、基層は、500nm~15000nm、好ましくは1000nm~10000nm、の範囲の総厚を有する。基層が前記範囲内の総厚を有する場合、研磨摩耗耐性が更に改善される。
【0016】
基層の総厚は、500nm~15000nm、1000nm~10000nm、2000nm~4000nm及び2500nm~3700nmの範囲のうちの1つであることが好ましい。
【0017】
切削工具の更なる実施形態によれば、多層被覆は、多層被覆の総厚に対する基層の総厚の比が0を超え3.0まで、好ましくは0.5~1.7、の範囲内となるような総厚を有する。多層被覆の総厚に対する基層の総厚の比が前記範囲内である場合、工具寿命は更に改善される。
【0018】
多層被覆の総厚に対する基層の総厚の比は、0~3.0、0.5~2.0、0.5~1.7及び0.75~1.7の範囲のうちの1つであることが好ましい。
【0019】
切削工具の更なる実施形態によれば、工具本体は超硬合金から作製される。超硬合金は、炭化物粒子によって形成された骨格構造を有し、超硬合金は、骨格構造によって形成された空間を充填する金属合金を有し、ここで、金属合金は、炭化物粒子よりも柔らかい。超硬合金は、切削条件下で工具本体として使用されるのに適切な特性を提供する材料である。炭化物粒子は、炭化タングステン、炭化チタン及び/又は炭窒化チタンとすることができ、それによって、より少量で、周期表のIV~VI族の元素の炭化物を追加して存在させることができる。金属合金は、通常、コバルト基、ニッケル基又は鉄基合金である。基合金とは、対応する基元素、例えばコバルト、が基合金の主成分を形成することを意味すると理解されたい。炭化物粒子は、好ましくは炭化タングステン粒子である。
【0020】
切削工具の更なる実施形態によれば、超硬合金は、超硬合金中に5重量パーセント~20重量パーセントの量の金属合金を有し、ここで、金属合金はコバルト基合金であり、超硬合金は、炭化タングステン粒子である炭化物粒子を有する。これらの組成パラメータのもとで、チタン合金又は鋼合金などの金属合金から作製されたワークピースを切断するために十分な硬度及び靭性が工具本体の一部で達成される。
【0021】
切削工具の更なる実施形態によれば、前記のより厚い窒化ジルコニウム層の厚さと、このより厚い窒化ジルコニウム層を担持する更なる窒化物層の厚さとは、合計で65nm~1050nm、好ましくは125nm~750nm、の範囲の二重層厚さになる。二重層の厚さがこれらの範囲のうちの1つの中にある場合、前記のより厚い窒化ジルコニウム層は、接着磨耗及び研磨摩耗に対して更に耐性が高くなる。
【0022】
二重層の厚さは、好ましくは、65nm~1050nm、125nm~750nm及び250nm~560nmの範囲のうちの1つである。
【0023】
切削工具の更なる実施形態によれば、複数の窒化ジルコニウム層は、それぞれ同じ厚さを有し、その厚さは、前記のより厚い窒化ジルコニウム層の厚さであり、更なる窒化物層は、それぞれ同じ厚さを有し、その厚さは、前記のより厚い窒化ジルコニウム層を担持する更なる窒化物層の厚さである。これにより、多層被覆の均質な摩耗特性が得られる。「同じ厚さ」とは、たとえ同じ厚さが意図されたとしても、多層被覆の層を形成するために使用されるプロセスの性質に依存する変動を有し得る厚さとして理解されるべきである。多層被覆の層が物理蒸着によって形成される場合、「同じ厚さ」とは、各層の個々の厚さが±10%だけ変化し得ることを意味し、例えば、窒化ジルコニウム層のうちの1つの厚さが200nmである場合、他の窒化ジルコニウム層のうちの1つの厚さは、180nm~220nmの範囲内であり、これは、前記200nmの厚さと比較して「同じ厚さ」であると考えられる。前記±10%の厚さ変動は、物理蒸着における更なる窒化物層にも同様に適用される。
【0024】
切削工具の更なる実施形態によれば、ジルコニウム窒化物層の個々の厚さは、更なる窒化物層の個々の厚さよりも1.2~15倍、好ましくは2.0~12.0倍、より好ましくは3.0~10.0倍、更により好ましくは3.0~5.5倍、最も好ましくは3.5~4.6倍大きい。切削工具の更なる実施形態によれば、前記のより厚い窒化ジルコニウム層は、金属チップとの接触のために露出された多層被覆の最上層である。従って、切削工具は、その最初の操作中、前記のより厚い窒化ジルコニウム層の改善された摩耗特性の恩恵を受ける。
【0025】
切削工具の更なる実施形態によれば、多層被覆は、500nm~15000nm、好ましくは1000nm~10000nm、の範囲の総厚を有する。多層被覆の総厚が前記範囲内にある場合、多層被覆の部分における被覆材料の節約と十分な工具寿命との間の良好なバランスが得られる。
【0026】
切削工具の更なる実施形態によれば、多層被覆の総厚と基層の総厚とは、合計で、1000nm~25000nm、好ましくは2000nm~15000nm、の範囲の接合部厚さになる。接合部の厚さが前記範囲内である場合、基層被覆及び多層被覆のそれぞれの部分における材料節約と十分な工具寿命との間の良好なバランスが得られる。
【0027】
切削工具の更なる実施形態によれば、窒化ジルコニウム層の各々及び更なる窒化物層の各々は、物理蒸着によって堆積されている。物理蒸着は、窒化ジルコニウム層及び更なる窒化物層の厚さを、より良好に制御することを可能にする。基層が存在する場合、基層は、同様に、物理蒸着によって堆積されるのが好ましい。
【0028】
切削工具の更なる利点は、図面及びそこに示される実施形態を参照することによって、以下に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】第1の実施形態による切削工具の部分の概略図である。
【
図2】第2の実施形態による切削工具の部分の概略図である。
【
図3】第2の実施形態による試料の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1は、第1の実施形態による切削工具1の概略図を示す。切削工具1は、工具本体2と多層被覆3とを有する。多層被覆3は、工具本体2を被覆し、それによって工具本体2を摩耗から保護する。多層被覆3は、窒化ジルコニウム層4を有する。多層被覆3は、窒化ジルコニウム層4と交互に積層された更なる窒化物層5を有し、更なる窒化物層5の各々が窒化ジルコニウム層4のうちの1つを担持する。
【0031】
更なる窒化物層5は、それぞれ、(Ti1-x-yAlxMey)Nαの原子組成を有する。ここで、x=0.2~0.9、好ましくはx=0.4~0.8であり、y=0~0.3であり、Meは、それぞれ、Ta、Si、Cr、W、V、Cr、Hf、Nb及びMoから選択される1つ以上の金属原子であり、α=0.9~1.1である。y=0のとき、(Ti1-x-yAlxMey)Nαは、(Ti1-xAlx)Nαとなる。α=1.0のとき、(Ti1-x-yAlxMey)Nαは、(Ti1-x-yAlxMey)N1.0となる。y=0且つα=1.0のとき、(Ti1-x-yAlxMey)Nαは、(Ti1-xAlx)N1.0となる。
【0032】
図1に示された実施形態では、更なる窒化物層5は、同じ原子組成(Ti
1-x-yAl
xMe
y)N
αを有する。つまり、更なる窒化物層5のそれぞれにおいて、x、y及びαは、同じである。同じ原子組成(同じx、y及びα)は、物理蒸着による第1の実施形態における変動と同様に、x、y及びαの値が、更なる窒化物層5の形成中に生じる不可避的変動の故に、1つの更なる窒化物層5から他の更なる窒化物層5まで変化し得ることを意味する。言い換えれば、例えば物理蒸着の場合、更なる窒化物層5のそれぞれに同じ合金ターゲットが使用される場合、x、y及びαは、同一にしようと意図しても僅かに変化する。
【0033】
また、切削工具1は、更なる窒化物層5が、x、y及びαは上記の範囲内であるが異なる原子組成(Ti1-x-yAlxMey)Nαを、有する場合にも、使用することができる。異なる原子組成とは、例えば、更なる窒化物層5の堆積のために物理蒸着下で異なる合金ターゲットを使用することによって、原子組成が故意に更なる窒化物層全体に亘って変化するように意図されていることを意味する。
【0034】
図1から分かるように、各窒化ジルコニウム層4は、切削工具1の工具寿命を改善することが分かっている前記のより厚い窒化ジルコニウム層4を担持する更なる窒化物層5よりも厚い。しかしながら、切削工具1は、窒化ジルコニウム層4の少なくとも1つが前記のより厚い窒化ジルコニウム層4を担持する更なる窒化物層5の1つよりも厚いときにも、使用することができる。
【0035】
窒化ジルコニウム層4の各々は、
図1に示すような、多層被覆3の上面6に垂直な断面で測定される35nm~750nmの範囲の個々の厚さd4を有する。d4は、好ましくは、35nm~750nm、200nm~600nm、200nm~450nm及び200nm~350nmの範囲のうちの1つの中にある。
【0036】
更なる窒化物層5の各々は、個々の厚さd4と同様に測定して、30nm~300nm、好ましくは50nm~200nm、の範囲の個々の厚さd5を有する。d5は、好ましくは、以下の範囲:30nm~300nm、50nm~150nm及び60nm~100nm、のうちの1つの中にある。
【0037】
個々の厚さd4及びd5の全ての合計は、多層被覆3の総厚d3になる。多層被覆3の総厚d3は、500nm~15000nm、好ましくは1000nm~10000nm、の範囲である。d3は、好ましくは、500nm~15000nm、1000nm~10000nm、2000nm~4000nm及び2500nm~3700nmの範囲のうちの1つの中にある。
【0038】
図1に見られるように、各個々の厚さd4は、各個々の厚さd5よりも大きい。個々の厚さd4は、複数の窒化ジルコニウム層4の間で変化してもよいし、同じであってもよい。後者を
図1に示す。「同じ個々の厚さ」とは、たとえ同じ厚さが意図されたとしても、窒化ジルコニウム層4を形成するために使用されるプロセスの性質に依存する変動を有する厚さとして理解されるべきである。窒化ジルコニウム層4が物理蒸着によって形成される場合、「同じ厚さ」は、窒化ジルコニウム層4の個々の厚さが相互間で±10%変化し得ることを意味する。
【0039】
個々の厚さd5は、更なる窒化物層5の間で変化し得るか、又は同じであり得る。後者を
図1に示す。「同じ個々の厚さ」とは、たとえ同じ厚さが意図されたとしても、更なる窒化物層5を形成するために使用されるプロセスの性質に依存する変動を有する厚さとして理解されるべきである。更なる窒化物層5が物理蒸着によって形成される場合、「同じ厚さ」は、更なる窒化物層5の個々の厚さが相互間で±10%だけ変化し得ることを意味する。
【0040】
図1において、窒化ジルコニウム層4及び更なる窒化物層5は、二重層45としてグループ分けされている。従って、各二重層45は、窒化ジルコニウム層4のうちの1つと、二重層45の窒化ジルコニウム層4を担持する更なる窒化物層5のうちの1つとを有する。各二重層45の個々の厚さd4及びd5は、合計して、二重層の厚さd45となる。d45は、好ましくは、65nm~1050nm、125nm~750nm及び250nm~560nmの範囲のうちの1つの中にある。
【0041】
各窒化ジルコニウム層4の個々の厚さd4は、より厚い窒化ジルコニウム層4を担持する更なる窒化物層5の個々の厚さd5に関連し、d4/d5は1.0より大きく、好ましくはd4/d5は、1.2~15の範囲である。d4/d5は、好ましくは、1.2~15.0、2.0~12.0、3.0~10.0、3.0~5.5及び3.2~4.6の範囲のうちの1つの中にある。
【0042】
窒化ジルコニウム層4の1つは、金属チップとの接触のために露出された多層被覆3の最上層である。
【0043】
工具本体2は、超硬合金から作製される。工具本体2は、刃先と所望により少なくとも1つのチップフルートとを有し、多層被覆3は、刃先の部分と、チップフルートが存在する場合、少なくとも1つのチップフルートに堆積される。
【0044】
窒化ジルコニウム層4及び更なる窒化物層5は、それぞれ、物理蒸着によって、更なる窒化物層5/窒化ジルコニウム層4/更なる窒化物層5/窒化ジルコニウム層4、等々、の積層順で、堆積され、そして、窒化ジルコニウム層4で終わる。物理蒸着は、窒化ジルコニウム層4のためのジルコニウムターゲットと更なる窒化物層5のための合金ターゲットとを用いて、窒素雰囲気中で行なわれる。
【0045】
図2は、第2の実施形態による切削工具10の概略図を示す。切削工具10は、切削工具1の工具本体2と、工具本体2を摩耗から保護する多層被覆30と、多層被覆30を担持する基層7とを有する。
【0046】
多層被覆3と30との唯一の違いは、工具本体2に最も近い多層被覆3の更なる窒化物層5が基層7によって置き換えられており、
図2に示すように、工具本体2に最も近い窒化ジルコニウム層4が基層7によって担持されていることである。
【0047】
従って、各窒化ジルコニウム層4が、前記のより厚い窒化ジルコニウム層4を担持する更なる窒化物層5よりも厚いということも、多層被覆30に当てはまる。同様に、切削工具10は、窒化ジルコニウム層4のうちの少なくとも1つが、前記のより厚い窒化ジルコニウム層4を担持する更なる窒化物層5のうちの1つよりも厚いときにも、使用することができる。多層膜30における個々の厚さd4及びd5並びにそれらの厚さの関係d4/d5は、多層膜3について説明したものと同じである。
【0048】
多層被覆30の個々の厚さd4及びd5は、合計して、多層被覆30の総厚d30になる。総厚d30は、総厚d3について記載された範囲内である。
【0049】
基層7は、厚さd4及びd5と同様に測定されて、総厚d7を有する。d7は、好ましくは、500nm~15000nm、1000nm~10000nm、2000nm~4000nm及び2500nm~3700nmの範囲のうちの1つの中にある。
【0050】
基層7の厚さd7は、多層被覆30の総厚d30に関連し、d7/d30は、0より大きく3.0までの範囲にある。d7/d30は、好ましくは、0より大きく3.0まで、0.5~2.0、0.5~1.7及び0.75~1.7の範囲のうちの1つの中にある。
【0051】
図2から分かるように、厚さd7は、更なる窒化物層5の個々の厚さd5のいずれよりも大きい。
【0052】
厚さd7及びd30は、合計すると、1000nm~25000nm、好ましくは2000nm~15000nm、の範囲の接合部厚さd730になる。
【0053】
基層7は、(Ti
1-a-bAl
aMe
*)N
βの原子構成を有する。ここで、a=0.20~0.90且つb=0~0.30、好ましくはa=0.40~0.80且つb=0~0.30、であり、β=0.9~1.1である。b=0のとき、(Ti
1-a-bAl
aMe
*
b)N
βの原子構成は(Ti
1-aAl
a)N
βとなる。β=1.0のとき、(Ti
1-a-bAl
aMe
*
b)N
βは、(Ti
1-a-bAl
aMe
*
b)N
1.0になる。b=0且つβ=1.0のとき、(Ti
1-a-bAl
aMe
*
b)N
βは(Ti
1-aAl
a)N
1.0になる。
図2に示される実施形態では、基層7は、更なる窒化物層5の原子組成に適合するように設定された原子組成(Ti
1-a-bAl
aMe
*
b)N
βを有し、更なる窒化物層5について記載された「同じ原子組成」という上記の意味で同じ原子組成を有し、即ち、x=a、y=b、α=β及びMe=Me
*であり、物理蒸着中に生じる揺らぎの範囲内であるか、又は基層7の形成のための別のプロセスが使用される場合、そのプロセスの揺らぎの範囲内である。x=a、y=b、α=β及びMe=Me
*が意図される場合、同じターゲットを使用して、物理蒸着下で基層7及び更なる窒化物層5を堆積させることができる。
【0054】
切削工具10は、もし、基層7が、例えば物理蒸着下で、更なる窒化物層5の原子組成とは異なるように設定された原子組成を有するならば、基層7及び更なる窒化物層5を堆積させるために意図的に異なる組成のターゲットが使用されるときにも、使用され得る。
【0055】
基層7は、
図1の工具本体2に最も近い更なる窒化物層5と同様に、物理蒸着によって堆積されている。
【実施例】
【0056】
表1は、同じデザイン及び寸法を有する被覆超硬合金エンドミル本体である試料A~N(試料E1を含む)を示す。試料Aは、
図2に示される第2の実施形態による基層を有し、上部に多層被覆がない。試料Bは、
図1に示される第1の実施形態による多層被覆を有する。試料C~N(試料E1を含む)は、それぞれ、
図2に示される第2の実施形態による基層及び多層被覆を有する。
【0057】
試料A~N(試料E1を含む)の具体的な原子組成及び被覆構造は、表1の「被覆(BL=基層、ML=多層)」の欄に記載されている。MLは、対応する被覆が、窒化ジルコニウム層を有する多層被覆と、
図1及び
図2の多層被覆3及び30にそれぞれ示されるように、窒化ジルコニウムと交互に積層する更なる窒化物層と、を有することを意味する。更なる窒化物層の原子組成は、表1の列「被覆(BL=基層、ML=多層)」に示されている。BLは、試料の被覆が、存在する場合には基層を有し、それは、
図2の基層7について示されるように、存在する場合には、多層被覆を担持することを意味する。基層の組成は、更なる窒化物層の組成と同様に表わされる。
【0058】
各基層の総厚は、存在する場合、表1の列「d(BL)」に与えられ、これは、
図2の基層の厚さd7に対応する。各多層被覆の総厚は、存在する場合、表1の列「d(ML)」に与えられる。全多層被覆厚さに対する全基層厚さの比は、多層被覆が存在する場合、表1の列「d(BL)/d(ML)」に与えられ、この比は、
図2に開示されるd7/d30比に対応する。被覆の合計厚さは、表1の列「d(合計)」に与えられ、存在する場合の全多層被覆厚さと、存在する場合の全基層厚さとの、合計である。窒化ジルコニウム層の個々の厚さは、存在する場合、表1の列「d(窒化ジルコニウム)」に与えられる。更なる窒化物層の個々の厚さは、存在する場合、表1の列「d(Ti
1-x-yAl
xMe
y)N
α」に与えられる。
図1及び
図2のd45によって表わされる二層の厚さを、存在する場合、表1の列「d(窒化ジルコニウム)+d((Ti
1-x-yAl
xMe
y)N
α」に示す。更なる窒化物層の個々の厚さに対する窒化ジルコニウム層の個々の厚さのそれぞれの比率は、存在する場合、表1の列「d(窒化ジルコニウム)/d(Ti
1-x-yAl
xMe
y)N
α」に与えられる。
使用した各試料のミリング距離を表1の列「ミリング距離」の欄に示す。
【0059】
表1の列「被覆(BL=基層、ML=多層)」に示される被覆は、それぞれ、以下の方法で窒素雰囲気中での物理蒸着によって堆積された。
【0060】
試料Aについては、33.0原子パーセントチタン及び67.0原子パーセントアルミニウムの合金ターゲット(以下、「TiAl 33/67ターゲット」と略記する)を用いて、基層が表1に示す厚さに達するまで、基層を試料Aの工具本体上に堆積させた。
【0061】
試料Bについては、TiAl 33/67ターゲットを使用して、第1の更なる窒化物層を、第1の更なる窒化物層が表1の列「d((Ti1-x-yAlxMey)Nα」に示されるその個々の厚さに達するまで、試料Bの工具本体上に堆積させ、次いで、ジルコニウムターゲットを使用して、第1の窒化ジルコニウム層が表1に示されるその個々の厚さに達するまで、第1の更なる窒化物層上に窒化ジルコニウムの第1の層を堆積させ、その後、第2の更なる窒化物層を、第1の更なる窒化物層と同様にして、第1の窒化ジルコニウム層上に堆積させた。最後の2つの堆積ステップを繰り返して、表1の列「d(ML)」に示された全多層被覆厚さを有する試料Aの多層被覆を達成した。ここで、窒化ジルコニウム層が最上層である。窒化ジルコニウム層の厚さは、試料Bの多層被覆において同じであることが意図され、窒化ジルコニウム層の間で±10%の厚さ変動を受ける。更なる窒化物層の厚さは、試料Bの多層被覆において同じであることが意図され、更なる窒化物層の間で±10%の厚さ変動を受ける。
【0062】
試料C~G(試料E1を含む)のそれぞれについて、表1に示されるその組成の基層を、試料Aの基層と同様に堆積させ、続いて、試料Bと同様にして、各基層上に多層被覆を堆積させた。
【0063】
試料Hについては、組成49.5原子パーセントチタン、49.5原子パーセントアルミニウム及び1.0原子パーセントタンタル(以下、「TiAlTa 49.5/49.5/1ターゲット」と略記する)の合金ターゲットを用いて、試料Aと同様に、試料Hの工具本体上に基層を堆積させ、次いで、TiAl 33/67ターゲットの代わりにTiAlTa 49.5/49.5/1ターゲットを用いた点で異なるが、試料Bと同様に、試料Hの基層上に多層被覆を堆積させた。
【0064】
試料Iについては、組成42.5原子パーセントチタン、42.5原子パーセントアルミニウム及び15.0原子パーセントタンタル(以下、「TiAlTa 42.5/42.5/15ターゲット」と略記する)の合金ターゲットを用いて、試料Aと同様に、試料Iの工具本体上に基層を堆積させ、次いで、TiAl 33/67ターゲットの代わりにTiAlTa 42.5/42.5/15ターゲットを用いた点で異なるが、試料Bと同様に、多層被覆を試料Iの基層上に堆積させた。
【0065】
試料Jについては、組成28.5原子パーセントのチタン、66.5原子パーセントのアルミニウム及び5.0原子パーセントのクロムの合金ターゲット(以下、「TiAlCr 28.5/66.5/5ターゲット」と略記する)を用いて、試料Aと同様に、試料Jの工具本体上に基層を堆積させ、次いで、TiAl 33/67ターゲットの代わりにTiAlCr 28.5/66.5/5ターゲットを用いた点で異なるが、試料Bと同様に、試料Jの基層上に多層被覆を堆積させた。
【0066】
試料Kについては、組成34.4原子パーセントのチタン、63.5原子パーセントのアルミニウム及び2.1原子パーセントのバナジウムの合金ターゲット(以下、「TiAlV 34.4/63.5/2.1ターゲット」と略記する)を用いて、試料Aと同様に、試料Kの工具本体上に基層を堆積させ、次いで、TiAl 33/67ターゲットの代わりにTiAlV 34.4/63.5/2.1ターゲットを用いた点で異なるが、試料Bと同様に、試料Kの基層上に多層被覆を堆積させた。
【0067】
試料Lについては、組成29.8原子パーセントチタン、66.0原子パーセントアルミニウム及び4.2原子パーセントケイ素の合金ターゲット(以下、「TiAlSi 29.8/66/4.2ターゲット」と略記する)を用いて、試料Aと同様に、試料Lの工具本体上に基層を堆積させ、次いで、TiAl 33/67ターゲットの代わりにTiAlSi 29.8/66/4.2ターゲットを用いた点で異なるが、試料Bと同様に、試料Lの基層上に多層被覆を堆積させた。
【0068】
試料Mについては、組成31.0原子パーセントチタン、65.5原子パーセントアルミニウム及び3.5原子パーセントタングステンの合金ターゲット(以下、「TiAlW 31/65.5/3.5ターゲット」と略記する)を用いて、試料Aと同様に、試料Mの工具本体上に基層を堆積させ、次いで、TiAl 33/67ターゲットの代わりにTiAlW31/65.5/3.5ターゲットを用いた点で異なるが、試料Bと同様に、試料Mの基層上に多層被覆を堆積させた。
【0069】
試料Nについては、組成32.0原子パーセントチタン、65.5原子パーセントアルミニウム及び2.5原子パーセントモリブデン(以下、「TiAlMo 32/65.5/2.5ターゲット」と略記する)の合金ターゲットを用いて、試料Aと同様に、試料Nの工具本体上に基層を堆積させ、次いで、TiAl 33/67ターゲットの代わりにTiAlMo 32/65.5/2.5ターゲットを用いた点で異なるが、試料Bと同様に、試料Nの基層上に多層被覆を堆積させた。
【0070】
表1の各被覆について与えられた組成、縦列「被覆(BL=基層、ML=多層)」は、各試料A~N(試料E1を含む)について、窒素(N)などの軽い化学元素検出専用の走査型電子顕微鏡で、エネルギー分散型X線分光法を用いて測定された組成である。
【0071】
表1の各列において、各被覆について与えられる厚さ「d(BL)」、「d(ML)」、「d(総厚)」、「d(窒化ジルコニウム)」及び「d((Ti
1-x-yAl
xMe
y)N
α)」は、走査型電子顕微鏡を用いて
図1及び2と同様に断面で測定されたものであり、測定されたd(窒化ジルコニウム)及びd((Ti
1-x-yAl
xMe
y)N
α)は、それぞれ、対応する多層被覆中の対応する窒化ジルコニウム層及び更なる窒化物層の全てに亘る平均厚さである。
【0072】
表1の対応する列に示されるミリング距離は、以下の方法で得られた。試料A~N(試料E1を含む)を使用して、同一のミリング条件下で、90重量パーセントのチタン、6重量パーセントのアルミニウム及び4重量パーセントバナジウムの組成のチタン基合金にミリングした。ミリング条件は、ミリング速度80m/分、供給速度0.05mm、ミリング深さ4mm及びミリング幅10mmであった。工具寿命の基準は、摩耗が著しく、刃先の欠けが見られるようになった時点でフライス加工を停止するというものであった。工具寿命基準に達したとき、ミリング距離を記録した。
【0073】
表1に示されるミリング距離の比較により、試料B~N(試料E1を含む)の多層被覆が、試料Aのように摩耗保護のために基層のみが使用される場合と比較して、より長い工具寿命をもたらすことが示される。
【0074】
試料B、C及びDの比較により、d(窒化ジルコニウム)/d(Ti1-x-yAlxMey)Nαが3.0~10.0の範囲で(ほぼ)一定(3.4~3.5)に保たれるとき、異なるd(BL)/d(ML)比の影響が示される。即ち、ミリング距離は、d(BL)/d(ML)が0.5~1.7の好ましい範囲内である(試料Cは、d(BL)/d(ML)=0.7であり、ミリング距離54mを有する)とき、より大きくなり、d(BL)/d(ML)が0.5~1.7の好ましい範囲の外である(試料Bは、d(BL)/d(ML)=0(基層なし)であり、ミリング距離42mを有し、試料Dはd(BL)/d(ML)=2.0であり、ミリング距離40mを有する)とき、より小さくなる。
【0075】
試料E、E1及びFの比較により、d(BL)/d(ML)が0.5~1.7の好ましい範囲内で(ほぼ)一定(1.3~1.4)に保たれるとき、異なるd(窒化ジルコニウム)/d(Ti1-x-yAlxMey)Nα比率の影響が示される。即ち、ミリング距離は、d(窒化ジルコニウム)/d(Ti1-x-yAlxMey)Nαが3.0~10.0の好ましい範囲であるとき、より大きくなり、d(窒化ジルコニウム)/d(Ti1-x-yAlxMey)Nαが3.0~10.0の好ましい範囲の外である(試料E1は、d(窒化ジルコニウム)/d(Ti1-x-yAlxMey)Nα=5.2であり、ミリング距離51mを有し、試料Eは、d(窒化ジルコニウム)/d(Ti1-x-yAlxMey)Nα=1.1であり、ミリング距離41mを有し、試料Fは、d(窒化ジルコニウム)/d(Ti1-x-yAlxMey)Nα=11.2であり、ミリング距離40mを有する)とき、より小さくなる。
【0076】
試料F及びGの比較により、d(BL)/d(ML)が0.5~1.7の好ましい範囲内で一定(1.4)に保たれ、且つ、d(窒化ジルコニウム)/d(Ti1-x-yAlxMey)Nα比が2.0~12.0の好ましい範囲内でほぼ一定(11.0~11.2)に保たれたとき、種々のd(窒化ジルコニウム)厚さの影響が示される。即ち、ミリング距離は、d(窒化ジルコニウム)が35nm~750nmの範囲内で減少するとき、より大きくなる(試料Fはd(窒化ジルコニウム)=730nm及びミリング距離40mを有し、試料Gはより小さいd(窒化ジルコニウム)=561nm及びより大きいミリング距離49mを有する)。
【0077】
試料H及びIは、それぞれ、Me=Ta(Me*=Ta)及びより大きい0~0.30の範囲のyを有する。
試料Jは、それぞれ、Me=Cr(Me*=Cr)及びより大きい0~0.30の範囲のyを有する。
試料Kは、それぞれ、Me=V(Me*=V)及びより大きい0~0.30の範囲のyを有する。
試料Lは、それぞれ、Me=Si(Me*=Si)及びより大きい0~0.30の範囲のyを有する。
試料Jは、それぞれ、Me=Cr(Me*=Cr)及びより大きい0~0.30の範囲のyを有する。
試料Kは、それぞれ、Me=V(Me*=V)及びより大きい0~0.30の範囲のyを有する。
試料Lは、それぞれ、Me=Si(Me*=Si)及びより大きい0~0.30の範囲のyを有する。
試料Mは、それぞれ、Me=W(Me*=W)及びより大きい0~0.30の範囲のyを有する。
試料Nは、それぞれ、Me=Mo(Me*=Mo)及びより大きい0~0.30の範囲のyを有する。
【0078】
それぞれ、基層及び基層によって担持される多層被覆を有する以下の更なる試料C1~C6を作製した。ここで、更なる試料の多層被覆の各々は、
図2の第2の実施形態と同様に積層された窒化ジルコニウム層及び更なる窒化物層を有し、基層、更なる窒化物層及び窒化ジルコニウム層の厚さは、表1の試料Cのそれぞれの厚さに近い(試料Cの対応する層厚さに対して±10%の厚さの差)。
【0079】
試料C1:BL((Ti0.21Al0.79)N1.0)+ML(窒化ジルコニウム/(Ti0.21Al0.79)N1.0)
試料C2:BL((Ti0.30Al0.70)N1.0)+ML(窒化ジルコニウム/(Ti0.30Al0.70)N1.0)
試料C3:BL((Ti0.31Al0.69)N1.0)+ML(窒化ジルコニウム/(Ti0.31Al0.69)N1.0)
試料C4:BL((Ti0.39Al0.61)N1.0)+ML(窒化ジルコニウム/(Ti0.39Al0.61)N1.0)
試料C5:BL((Ti0.51Al0.49)N1.0)+ML(窒化ジルコニウム/(Ti0.51Al0.49)N1.0)
試料C6:BL((Ti0.60Al0.40)N1.0)+ML(窒化ジルコニウム/(Ti0.60Al0.40)N1.0)
【0080】
x=0.4~0.8及びy=0を有する試料C1~C6の各々は、表1に示される試料Cのミリング距離に近いミリング距離を有していた。
【0081】
表1に示す試料Cのミリング距離に近いミリング距離を有し、試料Cの被覆組成及び被覆構造に近い(α(α=β)=1.1及びα(α=β)=0.9)更なる試料を作製した。
【0082】
それぞれ、基層及び基層によって担持される多層被覆を有する以下の更なる試料H1及びH2を作製した。ここで、更なる試料の多層被覆の各々は、
図2の第2の実施形態と同様に積層された窒化ジルコニウム層及び更なる窒化物層を有し、基層、更なる窒化物層及び窒化ジルコニウム層の厚さは、表1の試料Hのそれぞれの厚さに近い(試料Hの対応する層厚さに対して±10%の厚さの差)。
【0083】
試料H1:BL((Ti0.34Al0.61Ta0.05)N1.0)+ML(窒化ジルコニウム/(Ti0.34Al0.61Ta0.05)N1.0)
試料H2:BL((Ti0.30Al0.59Ta0.11)N1.0)+ML(窒化ジルコニウム/(Ti0.30Al0.59Ta0.11)N1.0)
【0084】
x=0.4~0.8及び0より大きく0.3より小さいyを有する試料H1及びH2は、表1に示される試料Hのミリング距離に近いミリング距離を有していた。
【0085】
それぞれ、基層及び基層によって担持される多層被覆を有する更なる試料J1及びJ2を作製した。ここで、更なる試料の多層被覆の各々は、
図2の第2の実施形態と同様に積層された窒化ジルコニウム層及び更なる窒化物層を有し、基層、更なる窒化物層及び窒化ジルコニウム層の厚さは、表1の試料Jのそれぞれの厚さに近い(試料Jの対応する層厚さに対して±10%の厚さの差)。
【0086】
試料J1:BL((Ti0.13Al0.60Cr0.27)N1.0)+ML(窒化ジルコニウム/(Ti0.13Al0.60Cr0.27)N1.0)
試料J2:BL((Ti0.26Al0.61Cr0.13)N1.0)+ML(窒化ジルコニウム/(Ti0.26Al0.61Cr0.13)N1.0)
【0087】
x=0.4~0.8及び0より大きく0.3より小さいyを有する試料J1及びJ2は、表1に示される試料Jのミリング距離に近いミリング距離を有していた。
【0088】
それぞれ、基層及び基層によって担持される多層被覆を有する更なる試料K1及びK2を作製した。ここで、更なる試料の多層被覆の各々は、
図2の第2の実施形態と同様に積層された窒化ジルコニウム層及び更なる窒化物層を有し、基層、更なる窒化物層及び窒化ジルコニウム層の厚さは、表1の試料Kのそれぞれの厚さに近い(試料Kの対応する層厚さに対して±10%の厚さの差)。
【0089】
試料K1:BL((Ti0.19Al0.59V0.22)N1.0)+ML(窒化ジルコニウム/(Ti0.19Al0.59V0.22)N1.0)
試料K2:BL((Ti0.26Al0.59V0.15)N1.0)+ML(窒化ジルコニウム/(Ti0.26Al0.59V0.15)N1.0)
【0090】
x=0.4~0.8及び0より大きく0.3より小さいyを有する試料K1及びK2は、表1に示される試料Kのミリング距離に近いミリング距離を有していた。
【0091】
それぞれ、基層及び基層によって担持される多層被覆を有する更なる試料L1及びL2を作製した。ここで、更なる試料の多層被覆の各々は、
図2の第2の実施形態と同様に積層された窒化ジルコニウム層及び更なる窒化物層を有し、基層、更なる窒化物層及び窒化ジルコニウム層の厚さは、表1の試料Lのそれぞれの厚さに近い(試料Lの対応する層厚さに対して±10%の厚さの差)。
【0092】
試料L1:BL((Ti0.18Al0.59Si0.23)N1.0)+ML(窒化ジルコニウム/(Ti0.18Al0.59Si0.23)N1.0)
試料L2:BL((Ti0.27Al0.61Si0.12)N1.0)+ML(窒化ジルコニウム/(Ti0.27Al0.61Si0.12)N1.0)
【0093】
x=0.4~0.8であり、yが0より大きく0.3より小さい試料L1及びL2の各々は、表1に示される試料Lのミリング距離に近いミリング距離を有していた。
【0094】
それぞれ、基層及び基層によって担持される多層被覆を有する更なる試料M1及びM2を作製した。ここで、更なる試料の多層被覆の各々は、
図2の第2の実施形態と同様に積層された窒化ジルコニウム層及び更なる窒化物層を有し、基層、更なる窒化物層及び窒化ジルコニウム層の厚さは、表1の試料Mのそれぞれの厚さに近い(試料Mの対応する層厚さに対して±10%の厚さの差)。
【0095】
試料M1:BL((Ti0.12Al0.60W0.28)N1.0)+ML(窒化ジルコニウム/(Ti0.12Al0.60W0.28)N1.0)
試料M2:BL((Ti0.24Al0.59W0.17)N1.0)+ML(窒化ジルコニウム/(Ti0.24Al0.59Si0.17)N1.0)
【0096】
x=0.4~0.8であり、yが0より大きく0.3より小さい試料M1及びM2の各々は、表1に示される試料Mのミリング距離に近いミリング距離を有していた。
【0097】
それぞれ、基層及び基層によって担持される多層被覆を有する更なる試料N1及びN2を作製した。ここで、更なる試料の多層被覆の各々は、
図2の第2の実施形態と同様に積層された窒化ジルコニウム層及び更なる窒化物層を有し、基層、更なる窒化物層及び窒化ジルコニウム層の厚さは、表1の試料Nのそれぞれの厚さに近い(試料Nの対応する層厚さに対して±10%の厚さの差)。
【0098】
試料N1:BL((Ti0.32Al0.59Mo0.09)N1.0)+ML(窒化ジルコニウム/(Ti0.32Al0.59Mo0.09)N1.0)
試料N2:BL((Ti0.18Al0.61Mo0.21)N1.0)+ML(窒化ジルコニウム/(Ti0.18Al0.61Mo0.21)N1.0)
【0099】
x=0.4~0.8であり、yが0より大きく0.3より小さい試料N1及びN2の各々は、表1に示される試料Nのミリング距離に近いミリング距離を有していた。
【0100】
それぞれ、基層及び基層によって担持される多層被覆を有する更なる試料O1~O3を作製した。ここで、更なる試料の多層被覆の各々は、
図2の第2の実施形態と同様に積層された窒化ジルコニウム層及び更なる窒化物層を有し、基層、更なる窒化物層及び窒化ジルコニウム層の厚さは、表1の試料Nのそれぞれの厚さに近い(試料Nの対応する層厚さに対して±10%の厚さの差)。
【0101】
試料O1:BL((Ti0.35Al0.60Nb0.05)N1.0)+ML(窒化ジルコニウム/(Ti0.35Al0.60Nb0.05)N1.0)
試料O2:BL((Ti0.30Al0.59Nb0.11)N1.0)+ML(窒化ジルコニウム/(Ti0.30Al0.59Nb0.11)N1.0)
試料O3:BL((Ti0.21Al0.59Nb0.20)N1.0)+ML(窒化ジルコニウム/(Ti0.21Al0.59Nb0.20)N1.0)
【0102】
x=0.4~0.8であり、yが0より大きく0.3より小さい試料O1~O3の各々は、表1に示される試料Nのミリング距離に近いミリング距離を有していた。
【0103】
それぞれ、基層及び基層によって担持される多層被覆を有する更なる試料P1~P3を作製した。ここで、更なる試料の多層被覆の各々は、
図2の第2の実施形態と同様に積層された窒化ジルコニウム層及び更なる窒化物層を有し、基層、更なる窒化物層及び窒化ジルコニウム層の厚さは、表1の試料Nのそれぞれの厚さに近い(試料Nの対応する層厚さに対して±10%の厚さの差)。
【0104】
試料P1:BL((Ti0.32Al0.61Hf0.07)N1.0)+ML(窒化ジルコニウム/(Ti0.32Al0.61Hf0.07)N1.0
試料P2:BL((Ti0.24Al0.61Hf0.15)N1.0)+ML(窒化ジルコニウム/(Ti0.24Al0.61Hf0.15)N1.0)
試料P3:BL((Ti0.15Al0.59Hf0.26)N1.0)+ML(窒化ジルコニウム/(Ti0.15Al0.59Hf0.26)N1.0)
【0105】
x=0.4~0.8であり、yが0より大きく0.3より小さい試料P1~P3の各々は、表1に示される試料Nのミリング距離に近いミリング距離を有していた。
【0106】
図3は、
図2の断面における試料E1の後方散乱電子から得られた走査型電子顕微鏡写真を示す。
図3は、下から上へ、試料E1の工具本体の一部(明るく白い、薄い底部スラブ)、試料E1の基層(より大きいダークグレイのスラブ)及び試料E1の多層被覆(より薄いグレイスラブは更なる窒化物層であり、より厚いライトグレイのスラブは窒化ジルコニウム層である)を示す。
【0107】
図3の顕微鏡写真は、7つのジルコニウム層及び6つの更なる窒化物層を示している。最も外側の2つの層(黒く明るい「最上層」)は、試料調製によるものであり、試料E1の被覆の一部ではない。
図3の顕微鏡写真は、工具本体に最も近い窒化ジルコニウム層が基層によって担持され、工具本体から更に離れた窒化ジルコニウム層は、それぞれ、更なる窒化物層のうちの1つによって担持され、各窒化ジルコニウム層は、それを担持する更なる窒化物層よりも厚いことを示す。
【0108】
【手続補正書】
【提出日】2024-08-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具本体(2)及び多層被覆(3,30)を有する切削工具(1,10)であって、多層被覆(3,30)は、切削中の摩耗から工具本体(2)を保護し、多層被覆(3,30)は、複数の窒化ジルコニウム層(4)を有し、多層被覆(3,30)は、前記複数の窒化ジルコニウム層(4)と交互に積層された複数の更なる窒化物層(5)を有し、前記複数の更なる窒化物層(5)の各々は、前記複数の窒化ジルコニウム層(4)の1つを担持し、前記複数の更なる窒化物層(5)は、それぞれ、(Ti
1-x-yAl
xMe
y)N
α(式中、x=0.2~0.9及びy=0~0.3であり、式中、Meは、それぞれ、Ta、Si、Cr、W、V、Cr、Hf、Nb及びMoから選択される1つ以上の金属原子であり、α=0.9~1.1である。)の原子組成を有し、前記複数の窒化ジルコニウム層(4)のそれぞれは、35nm~750nmの範囲の厚さ(d4)を有し、前記更なる窒化物層(5)のそれぞれは、30nm~300nmの範囲の厚さ(d5)を有し、前記複数の窒化ジルコニウム層(4)の少なくとも1つは、この窒化ジルコニウム層(4)を担持する前記複数の更なる窒化物層(5)の1つよりも厚い切削工具(1,10)。
【請求項2】
前記のより厚い窒化ジルコニウム層(4)は、この窒化ジルコニウム層(5)を担持する前記更なる窒化物層(5)よりも1.2~15.0倍厚い、請求項1に記載の切削工具(1,10)。
【請求項3】
前記切削工具(1,10)が、基層(7)を有し、前記基層(7)は、(Ti
1-a-bAl
aMe
*
b)N
βの原子組成を有し、a=0.20~0.90且つb=0~0.30であり、Me
*は、それぞれ、Ta、Si、Cr、W、V、Cr、Hf、Nb及びMoから選択される1つ以上の金属原子であり、前記基層(7)は、前記工具本体(2)の部分上に前記多層被覆(3,30)を担持し、前記基層(7)は、前記複数の更なる窒化物層(5)のいずれよりも厚い、請求項
1に記載の切削工具(1,10)。
【請求項4】
前記基層(7)が前記複数の窒化ジルコニウム層(4)の1つを担持する、請求項3に記載の切削工具(1,10)。
【請求項5】
前記基層(7)が500nm~15000nmの範囲の総厚(d7)を有する、請求項
3に記載の切削工具(1,10)。
【請求項6】
前記基層(7)が総厚(d7)を有し、前記多層被覆(3,30)が総厚(d3,d30)を有し、前記多層被覆(3,30)の総厚(d3,d30)に対する前記基層(7)の総厚(d7)の比が0より大きく3.0までの範囲である、請求項
3に記載の切削工具(1,10)。
【請求項7】
前記工具本体(2)が超硬合金から作製される、請求項
1に記載の切削工具(1,10)。
【請求項8】
前記超硬合金が該超硬合金中に5重量パーセント~20重量パーセントの量の金属合金を有し、前記金属合金がコバルト基合金であり、前記超硬合金が炭化タングステン粒子である炭化物粒子を有する、請求項7に記載の切削工具(1,10)。
【請求項9】
前記のより厚い窒化ジルコニウム層(4)の厚さ(d4)と該より厚い窒化ジルコニウム層(4)を担持する前記更なる窒化物層(5)の厚さ(d5)との合計が、65nm~1050nmの範囲の二層厚さ(d45)になる、請求項
1に記載の切削工具(1,10)。
【請求項10】
前記複数の窒化ジルコニウム層(4)が、前記のより厚い窒化ジルコニウム層(4)の厚さ(d4)である同じ個々の厚さ(d4)を有し、前記複数の更なる窒化物層(5)が前記
のより厚い窒化ジルコニウム層(5)を担持する前記更なる窒化物層(4)の厚さ(d4)
である同じ個々の厚さ(d5)を有する、請求項
1に記載の切断工具(1,10)。
【請求項11】
前記複数の窒化ジルコニウム層(4)の個々の厚さ(d4)が、前記複数の更なる窒化物層(5)の個々の厚さ(d5)よりも1.2~15倍大きい、請求項10に記載の切削工具(1,10)。
【請求項12】
前記のより厚い窒化ジルコニウム層(4)が金属チップ接触のために露出された多層被覆(3,30)の最上層(4)である、請求項
1に記載の切断工具(1,10)。
【請求項13】
前記多層被覆(3,30)が、500nm~15000nmの範囲の総厚(d3,d30)を有する、請求項
1に記載の切削工具(1,10)。
【請求項14】
前記多層被覆(3,30)の総厚(d3,d30)及び前記基層(7)の総厚(d7)が、合計で、1000nm~25000nmの範囲の接合部厚さ(d730)になる、請求項
3に記載の切削工具(1,10)。
【請求項15】
前記複数の窒化ジルコニウム層(4)の各々及び前記複数の更なる窒化物層(5)の各々が、物理蒸着によって堆積されている、請求項
1に記載の切削工具(1,10)。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0053
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0053】
基層7は、(Ti
1-a-bAl
aMe
*)N
βの原子構成を有する。ここで、a=0.20~0.90且つb=0~0.30、好ましくはa=0.40~0.80且つb=0~0.30、であり、β=0.9~1.1
であり、Me
*
は、それぞれ、Ta、Si、Cr、W、V、Cr、Hf、Nb及びMoから選択される1つ又は複数の金属原子である。b=0のとき、(Ti
1-a-bAl
aMe
*
b)N
βの原子構成は(Ti
1-aAl
a)N
βとなる。β=1.0のとき、(Ti
1-a-bAl
aMe
*
b)N
βは、(Ti
1-a-bAl
aMe
*
b)N
1.0になる。b=0且つβ=1.0のとき、(Ti
1-a-bAl
aMe
*
b)N
βは(Ti
1-aAl
a)N
1.0になる。
図2に示される実施形態では、基層7は、更なる窒化物層5の原子組成に適合するように設定された原子組成(Ti
1-a-bAl
aMe
*
b)N
βを有し、更なる窒化物層5について記載された「同じ原子組成」という上記の意味で同じ原子組成を有し、即ち、x=a、y=b、α=β及びMe=Me
*であり、物理蒸着中に生じる揺らぎの範囲内であるか、又は基層7の形成のための別のプロセスが使用される場合、そのプロセスの揺らぎの範囲内である。x=a、y=b、α=β及びMe=Me
*が意図される場合、同じターゲットを使用して、物理蒸着下で基層7及び更なる窒化物層5を堆積させることができる。
【国際調査報告】