IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ロレックス・ソシエテ・アノニムの特許一覧

<>
  • 特表-時計パーツ用金属基複合材料 図1
  • 特表-時計パーツ用金属基複合材料 図2
  • 特表-時計パーツ用金属基複合材料 図3
  • 特表-時計パーツ用金属基複合材料 図4
  • 特表-時計パーツ用金属基複合材料 図5
  • 特表-時計パーツ用金属基複合材料 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-28
(54)【発明の名称】時計パーツ用金属基複合材料
(51)【国際特許分類】
   G04B 37/22 20060101AFI20241121BHJP
【FI】
G04B37/22 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024535634
(86)(22)【出願日】2022-12-14
(85)【翻訳文提出日】2024-07-17
(86)【国際出願番号】 EP2022085817
(87)【国際公開番号】W WO2023110997
(87)【国際公開日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】21214892.8
(32)【優先日】2021-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】599091346
【氏名又は名称】ロレックス・ソシエテ・アノニム
【氏名又は名称原語表記】ROLEX SA
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】メイダニ, ホセイン
(57)【要約】
【解決手段】
時計部品用金属基複合材料であって、金に基づく金属合金であり、複合材料は少なくとも75重量%の金を含む、または白金に基づく金属合金であり、複合材料は少なくとも95重量%の白金を含む、またはパラジウムに基づく金属合金であり、複合材料は少なくとも95重量%のパラジウムを含む、金属合金において、複合材料は更に、少なくとも1つの硬化元素を0.1重量%から2重量%の間、または少なくとも1つの硬化元素を0.5重量%から2重量%の間、または0.5重量%から1.5重量%の間、または0.5重量%から1.25重量%の間、または0.5重量%から1重量%の間、含む、金属合金と、セラミック粒子を含む、1%以上10%以下の、または1%以上5%以下の、重量割合での、補強材と、からなる、金属基複合材料。
【選択図】 図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
時計部品用金属基複合材料であって、
金に基づく金属合金であり、前記複合材料は少なくとも75重量%の金を含み、任意で95重量%より少ない、または90重量%より少ない金を含む、または
白金に基づく金属合金であり、前記複合材料は少なくとも95重量%の白金を含む、または
パラジウムに基づく金属合金であり、前記複合材料は少なくとも95重量%のパラジウムを含む、
金属合金において、
前記複合材料は更に、少なくとも1つの硬化元素を0.1重量%から2重量%の間、または少なくとも1つの硬化元素を0.5重量%から2重量%の間、または0.5重量%から1.5重量%の間、または0.5重量%から1.25重量%の間、または0.5重量%から1重量%の間、含む、金属合金と、
セラミック粒子を含む、1%以上10%以下の、または1%以上5%以下の、重量割合での、補強材と、
から構成される、金属基複合材料。
【請求項2】
前記金属基は、前記少なくとも1つの硬化元素により硬化された前記金属合金から構成される、
請求項1に記載の金属基複合材料。
【請求項3】
前記セラミック粒子は、1μm以下の、または0.5μm以下の、または0.2μm以下の、または0.1μm以下の平均寸法を有する、
請求項1または2に記載の金属基複合材料。
【請求項4】
前記セラミック粒子は、酸化物及びまたは炭化物及びまたは窒化物及びまたはホウ化物、特に、酸化アルミニウム(Al)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化チタン(TiO)、酸化ケイ素(特にSiOまたはSiO)、炭化ケイ素(SiC)、炭化チタン(TiC)、ダイヤモンド、窒化ホウ素(BN)、炭化ホウ素(BC)、窒化ケイ素(Si)、及びまたはチタン酸アルミニウム(AlTiO)、及びまたは窒化チタン(TiN)である、及びまたは前記セラミック粒子は、工業用セラミックから製造される、
請求項1から3のいずれか一項に記載の金属基複合材料。
【請求項5】
前記金属合金の前記少なくとも1つの硬化元素は、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、アルミニウム(Al)、イットリウム(Y)、カルシウム(Ca)、及びまたはランタニド、から選択される、
請求項1から4のいずれか一項に記載の金属基複合材料。
【請求項6】
前記金属合金は、銀を含む金に基づく合金であり、前記複合材料は、15重量%から24重量%の間の、または20重量%から24重量%の間の銀を含む、
請求項1から5のいずれか一項に記載の金属基複合材料。
【請求項7】
前記少なくとも1つの硬化元素を含まない前記金属合金は、70HV以下の、または50HV以下の、または40HV以下の硬度を有する、
請求項1から6のいずれか一項に記載の金属基複合材料。
【請求項8】
前記金属合金は、前記複合材料の前記金属基の連続網状組織を形成する、及びまたは前記補強材の前記セラミック粒子は、前記複合材料内で実質的に均一に及びまたは非連続的に分布される、
請求項1から7のいずれか一項に記載の金属基複合材料。
【請求項9】
135HV以上の、または150HV以上の、または200HV以上の硬度を有する、
請求項1から8のいずれか一項に記載の金属基複合材料。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の複合材料を含む、または請求項1から9のいずれか一項に記載の複合材料で完全に構成される、または前記複合材料で構成され、0.1mm以上の厚さを含む、少なくとも1つのバルク部分を含む、
時計部品。
【請求項11】
腕時計ケースまたは眼鏡またはブレスレット要素またはブレスレット留め金要素といった、小型時計の前記外部パーツの部品である、
請求項10に記載の時計部品。
【請求項12】
請求項10または11に記載の少なくとも1つの時計部品を含む、時計アイテム。
【請求項13】
時計部品用金属基複合材料の製造方法であって、
前記複合材料が少なくとも75重量%の金を含むよう、金に基づく金属合金、または
前記複合材料が少なくとも95重量%の白金を含むよう、白金に基づく金属合金、または
前記複合材料が少なくとも95重量%のパラジウムを含むよう、パラジウムに基づく金属合金、の金属合金において、
前記金属合金は更に、前記複合材料が、少なくとも1つの硬化元素を0.1重量%から2重量%の間、または少なくとも1つの硬化元素を0.5重量%から2重量%の間、または0.5重量%から1.5重量%の間、または0.5重量%から1.25重量%の間、または0.5重量%から1重量%の間、含むよう、硬化元素を含む、金属合金の準備(E2)ステップと、
前記金属合金からの金属粉末の生産(E31)ステップと、
粉末化複合材料を得るための、前記金属粉末の、セラミック粒子を含む補強粉末との混合(E32)ステップであって、前記補強粉末は、1%以上10%以下、または1%以上5%以下の重量割合を示す、ステップと、
前記粉末化複合材料の高密度化(E4)ステップと、
を含む、時計部品用金属基複合材料の製造方法。
【請求項14】
前記補強粉末の前記セラミック粒子は、1μm以下の、または0.5μm以下の、または0.2μm以下の、または0.1μm以下の平均寸法を有する、
請求項13に記載の金属基複合材料の製造方法。
【請求項15】
前記金属粉末は、200μm以下の、または100μm以下の、または50μm以下の平均寸法の粒子を有する、
請求項13または14に記載の金属基複合材料の製造方法。
【請求項16】
前記高密度化ステップ(E4)は、放電プラズマ焼結法(SPS)、高温圧縮、熱間等方圧加圧法(HIP)、従来の焼結またはパルス電流での焼結またはマイクロ波焼結、または電気焼結鍛造、または素材追加ステップ、を用いた、急速焼結ステップである、
請求項13から15のいずれか一項に記載の金属基複合材料の製造方法。
【請求項17】
前記金属粉末の生産ステップまたは前記金属合金と補強粉末との混合ステップは、酸素、炭素、及びまたは窒素、及びまたはホウ素、をその物質のみの形状で、または酸化物、窒化物、ホウ化物、または炭化物の形状で、2%以下の、好ましくは0.05%以上の重量割合で、添加することを含む、
請求項13から16のいずれか一項に記載の金属基複合材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計部品、特に小型時計の外部パーツの部品といった時計アイテムの部品、の全部または一部を形成するのに特に適した、金属合金を含む材料に関する。本発明はまた、当該材料を含む、腕時計といった、時計部品、時計、宝飾品、または高級宝飾品そのものに関する。本発明はまた、当該材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特に一方では所望の色を、他方では高い機械的強度を得るために、部品に求められる多くの要求に応えることを目的として、時計部品を、特に小型時計の外部パーツの部品を形成するために、金属合金を用いることが知られている。
【0003】
合金Au75Ag25といった所定の合金は、魅力的な色という利点を有するため、時計部品の色に関する要求を満たすものである。しかしながら、このような合金は、40HVより低い、低硬度を有することから、その色の重要性にもかかわらず、時計部品の製造に用いられることが妨げられる。換言すれば、時計部品の硬度に関する要求は、時計部品の製造に関するデザインの専門家から、特定の合金が提供可能な、特定の興味深い色を得る可能性を奪うものである。
【0004】
色と硬度に関する2つの要求とは別に、時計部品の製造に使用される素材は、例えば水道水、海水、水泳プールの水、塩水、または石鹸水といった、弱攻撃的な水媒体の効果といった、外部応力に関わらず経時的な自身の色の変更に対する十分な安定性、また経時的に自身の機械的性質の維持を可能にする頑強性を含む、他の要件を満足しなければならない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】”CIE15:2004 report”(CIE15:2004年レポート)、Commission Internationale de l’Eclairage(国際照明委員会)発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このため、本発明の目的の一つは、所望の色と十分な硬度を有する、時計、宝飾品または高級宝飾品部品の材料を提案することである。
【0007】
本発明の他の目的は、経時的な自身の色及びまたは機械的性質の変更に耐性を示す、材料を提案することである。
【0008】
本発明の他の目的は、製造の各サイクルにおいて同一な、所定の色を得るために、十分に単純であり、良好な再現性を期待可能な、当該材料の製造方法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このため、本発明は、時計部品用金属基複合材料であって、
金に基づく金属合金であり、前記複合材料は少なくとも75重量%の金を含む、または
白金に基づく金属合金であり、前記複合材料は少なくとも95重量%の白金を含む、または
パラジウムに基づく金属合金であり、前記複合材料は少なくとも95重量%のパラジウムを含む、
金属合金において、
前記複合材料は更に、少なくとも1つの硬化元素を0.1重量%から2重量%の間、または少なくとも1つの硬化元素を0.5重量%から2重量%の間、または0.5重量%から1.5重量%の間、または0.5重量%から1.25重量%の間、または0.5重量%から1重量%の間、含む、金属合金と、
セラミック粒子を含む、1%以上10%以下の、または1%以上5%以下の、重量割合での、補強材と、
から構成されることを特徴とする、金属基複合材料に関する。
【0010】
本発明はまた、時計部品用金属基複合材料の製造方法であって、
前記複合材料が少なくとも75重量%の金を含むよう、金に基づく金属合金、または
前記複合材料が少なくとも95重量%の白金を含むよう、白金に基づく金属合金、または
前記複合材料が少なくとも95重量%のパラジウムを含むよう、パラジウムに基づく金属合金、の準備ステップであって、
前記金属合金は更に、前記複合材料が、少なくとも1つの硬化元素を0.1重量%から2重量%の間、または少なくとも1つの硬化元素を0.5重量%から2重量%の間、または0.5重量%から1.5重量%の間、または0.5重量%から1.25重量%の間、または0.5重量%から1重量%の間、含むよう、硬化元素を含む、金属合金の準備ステップと、
前記金属合金からの金属粉末の生産ステップと、
粉末化複合材料を得るための、前記金属粉末の、セラミック粒子を含む補強粉末との混合ステップであって、前記補強粉末は、1%以上10%以下、または1%以上5%以下の重量割合を示す、ステップと、
前記粉末化複合材料の高密度化ステップと、
を含むことを特徴とする、時計部品用金属基複合材料の製造方法に関する。
【0011】
本発明は、より詳細には、請求項で定義される。
【0012】
本発明の目的、特徴、及び利点は、添付の図面を参照して、非限定的例として与えられる、特定の実施形態についての以下の説明において、より詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、硬化元素を含まない同様の金属合金の硬度と比較した、それぞれ硬化元素Ti、Zr、Al、及びYを1重量%の割合で金属合金に添加して得られた硬度を示す図である。
図2図2は、選択された金属合金AuAg22Ti1について、硬化元素Tiを添加する効果を図示する、金属組織解析断面図である。
図3図3は、本発明を説明する実施例にかかる、異なる金属合金の測色測定を示す図である。
図4図4a及び4bは、それぞれ、1から200日の期間にわたる、塩水噴霧暴露老化試験内での、本発明の説明的実施例にかかる異なる金属合金の、色及び明度の変化を示す図である。
図5図5a及び5bは、それぞれセラミック補強と混合された硬化元素を含まない金属合金と、同じ混合物であるが金属合金が硬化元素を含む、高密度化試料の微細構造を示す図である。
図6図6は、本発明の実施形態にかかる複合材料の製造方法の、フローチャートを模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
説明を単純化するため、合金の指定について、以下の慣習がこれ以降用いられる。元素量は、元素の符号の後に、重量%として示される。例:Au75Ag25は、75%の金(18カラット)と、25%の銀を含む合金に対応する。変形例として、元素Auの後の「75」が省略されてもよく、この場合Auの重量%は、複合材料の他の元素及びまたは構成要素の割合を、100%へ補完するものとなる。
【0015】
発明的コンセプトは、所定の色を得るために決定された金属合金の使用に存在し、金属合金は、金属基複合材料を形成するために、セラミック粒子を含む補強素材により補強される。当該アプローチにより、使用される補強は、不十分な硬度の金属合金を、時計使用に適応可能とし、これは使用可能な金属合金の数を、そして特に使用可能な色の数を、大きく増加させることになる。
【0016】
本発明の実施形態にかかる複合材料の製造方法を、以下に詳細に説明する。当該実施形態において、金及び銀に基づく金属合金が用いられる。特に、本発明は、結果としての複合材料が、少なくとも75重量%の金を含み、15重量%から24重量%の間の、または20重量%から24重量%の間の銀を含む、金属合金に適している。以下に説明するように、本発明は、上述のように、時計適用において、その不十分な硬度のためこれまでは使用できなかった金属合金を使用することを可能にする。
【0017】
より一般的には、説明される方法は、
- 少なくとも75重量%の金を含む、金に基づく、または
- 少なくとも95重量%の白金を含む、白金に基づく、または
- 少なくとも95重量%のパラジウムを含む、パラジウムに基づく、
金属合金が選択される場合に、特に適している。
示された重量での割合は、結果として得られる材料の、特に結果として得られる複合材料の、重量%に対応することを注記する。金に基づく合金の場合、金の割合は、好ましくは95重量%より低い、または90重量%より低い、または80重量%より低い。除外されるものではないが、これを超えると、金に基づく合金は、非常に柔らかく、本発明を用いての取り扱いが非常に難しくなる。有利には、金に基づく合金は、75重量%の金を含む、18カラット合金である。
【0018】
加えて、説明される方法はまた、70HV以下の、または50HV以下の、または40HV以下の硬度の金属合金が選択されるときに、特に適している。
【0019】
方法の第一ステップE1は、複合材料基の基礎を形成する金属合金の選択からなる。示された実施形態において、当該合金は、金と銀に基づく。本発明を理由として、硬さが不十分であることが知られている合金を含む、金属合金の多数の選択肢の中から当該金属合金を選択することが可能となることを注記する。このため、例えば、デザインの専門家であれば、その硬度を検討する必要なくして、その色に応じて、金属合金を選択可能となる。
【0020】
当該選択された金属合金から複合材料を製造するため、本発明の実施形態にかかる方法は、有利には、粉末冶金を採用する。
【0021】
方法の第二ステップである、E2は、硬化金属合金を製造するために、選択された金属合金に少なくとも1つの硬化元素を添加することからなる。
【0022】
このため、硬化金属合金は、当該硬化元素を、選択された金属合金に組み込むことで準備される。有利には、複合材料は、0.05重量%から2重量%の間の少なくとも1つの硬化元素を、または0.075重量%から1.75重量%の間の少なくとも1つの硬化元素を、または0.1重量%から1.5重量%の間の少なくとも1つの硬化元素を、または0.5重量%から1.5重量%の間、または0.5重量%から1.25重量%の間、または0.5重量%から1重量%の間、含む。これら重量での割合は、結果として得られる複合材料の重量%に対応することを注記する。
【0023】
実施形態に応じて、金属合金の少なくとも1つの硬化元素は、低濃度において沈殿物を形成する元素、換言すれば、合金に難溶解性を有する元素、特にチタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、アルミニウム(Al)、イットリウム(Y)、カルシウム(Ca)、またはランタニド、から選択される。このため、これら硬化元素の1以上が、ここで硬化金属合金と称する、ミクロ合金を形成するため、非常に小さな割合で選択された金属合金内に組み込まれる。代替としてまたは追加で、金属合金の少なくとも1つの硬化元素は、補強するために選択された素材と反応可能な元素、及びまたは高密度化中にその場で補強材を形成可能な元素、特にホウ素(B)、炭素(C)、窒素(N)、または酸素(O)から選択される元素から選択される。このため、硬化元素は、化学元素の意味での元素である、即ち単純な元素であり化合物ではないことを注記する。他方で、当該硬化元素は、硬化金属合金を形成するために、合金の構造自体に統合され、組み込まれる。このため、硬化元素は、以下に説明するように、補強材とは反対に、合金の外に残される元素ではない。
【0024】
本発明の例示的実施形態によれば、硬化金属合金は、AuAg22X1の組成を有し、ここで、X=Ti、Zr、AlまたはYである。これら4つの硬化金属合金は、真空溶解により製造される。図1は、硬化元素のない、金属合金AuAg25の硬度と比較した、4つの硬化元素Ti、Zr、Al及びYのそれぞれを添加して得られたHV0.5硬度を示す。硬化元素のそれぞれは、金属合金の硬度を、Tiについてはほぼ4倍まで、著しく増加可能であることが、明らかに見て取れる。このため、合金の硬度は、元素Zrを1重量%添加することで135Hvまで、元素Tiを1重量%添加することで150Hvまで、増加する。
【0025】
有利には、硬化元素は、液相における溶解限度に近い、非常に低い濃度で選択された金属合金に添加されることを注記する。これは、硬化金属合金の製造中の、冷却及び固相への移行中に、固相内に、硬化金属合金の硬度を増加させる、沈殿物が形成可能であることを意味する。X線回析測定により、硬化元素Tiの添加は、合金の硬化を誘導する金属間化合物析出物の形成を引き起こすことを示す。図2は、鋳造で得られた、硬化金属合金のバルク試料の微細構造へ硬化元素Tiを添加する効果を図示し、これは、沈殿物のサイズが小さいため、以下に説明する噴霧粉では簡単に見ることができない、金属間化合物析出物を強調するものである。
【0026】
例示実施形態によれば1重量%の割合での、選択された硬化元素は、色へも興味深い効果を有する場合があり、応力に曝されたとしても、経時的に十分な色彩安定性が与えられた硬化金属合金を形成する場合があることを注記する。
【0027】
色は、横座標に沿った緑-赤軸と、縦座標の青-黄軸と、コントラストを示す軸とにより形成されたCIELAB空間上の点により従来の態様で定義される(非特許文献1参照)。測定は、全て、以下の慣習を用いて行われた。D65光源と、10°角度の標準観測者(CIE1964)。
【0028】
図3は、硬化元素のない、合金AuAg22とAuAg25と比較した、本発明の例示的実施形態にかかる異なる硬化金属合金の測色測定を示す。要約すると、硬化元素の添加は、一方では+1から+3のΔE*abの分離を有する、Au-Agに基づく合金の色の赤を強化し、他方では、様々な程度で黄色成分を減少させる。同一の重量%では、イットリウムが色の変動へ最小の影響を有し、続いてZr、Al、及びTiの元素の順番であり、1から10の間のΔE*abの分離を有する。全ての場合において、硬化AuAg22X1タイプの金属合金の色は、ベース合金AuAg22またはAuAg25と同等に維持される。
【0029】
図4a及び4bは、それぞれ、上述の硬化元素を含有するまたは含有しない、金及び銀に基づく異なる合金の、1から200日の期間にわたる、塩水噴霧暴露老化試験内での、色(図4a、b*(D65)に対してプロットされたa*(D65))及び明度(図4b、時間に応じたL*(D65))の変化を図示する。図4a及び図4bにおいて、曲線13は、硬化元素Tiにより硬化された金属合金の挙動を図示する。図は、当該挙動は、硬化元素Tiの無いベース金属合金、特に曲線11で図示される金属合金AuAg22と曲線12で図示される金属合金AuAg25と、同等であることを示す。曲線14から16は、それぞれ硬化元素Al、Zr、及びYを有する、硬化金属合金の挙動を図示する。
【0030】
方法は、その後、粉末化複合材料の準備の第三ステップE3を実施する。
【0031】
このため、実施形態にかかる方法は、硬化金属合金粉末を生産する第一サブステップE31を含む。あらゆる製粉または噴霧処理を、当該硬化金属合金粉末を生産するステップE31で実施してよい。好ましくは、当該サブステップE31は、噴霧、より具体的には、ガス噴霧法または超音波噴霧法により実施される。有利には、当該金属粉末を生産するステップE31は、結果として得られる金属粉末が、200μm以下の、または100μm以下の、または50μm以下の平均寸法の粒子を有するようなものである。
【0032】
方法は、その後、先に得られた金属粉末を、セラミック粒子を含む補強粉末と混合する第二サブステップE32を実施する。補強粉末の機能は、硬度が、そしてより一般的には機械的性質が、所望の時計適用には不十分であるかもしれない、選択された金属合金を補強するものである。
【0033】
セラミック粒子は、酸化アルミニウム(Al)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化チタン(TiO)、窒化チタン(TiN)、酸化ケイ素(特にSiOまたはSiO)、炭化ケイ素(SiC)、ダイヤモンド、窒化ホウ素(BN)、炭化ホウ素(BC)、窒化ケイ素(Si)、またはチタン酸アルミニウム(AlTiO)から生産されてもよい。上記リストからの単一または複数のセラミックを用いることができる。変形例として、その他のセラミックを用いることもできる。
【0034】
このように、補強粉末は、単一の材料のセラミック粒子を含んでもよく、または2、3、またはそれ以上の異なる材料のセラミック粒子の混合物を含んでもよい。加えて、補強粉末は、セラミック粒子により完全に構成されてもよい。変形例として、補強粉末は、セラミックに基づく、即ちセラミックを少なくとも50重量%含み、他の性質の補強粒子を含んでもよい。
【0035】
「セラミック」の文言は、例えば長石やカオリンといった天然鉱物粉末からではなく、精製合成粉末から得られるため、伝統的セラミックとその組成において区別される工業用セラミックを意味する。一般的に、工業用セラミック材料は、様々な適用の範囲に適するように、一定数の性質を有する。より具体的には、こうした性質は、とりわけ、硬度、物理的安定性、極度の熱耐性、及び化学慣性である。適した工業用セラミック材料は、アルミナ、窒化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム;ケイ酸ジルコニウム、炭化ホウ素、窒化ホウ素;ジルコニウム、チタン、ハフニウム、ニオブ、及びまたはケイ素の窒化物、炭化物及び炭窒化物;チタン酸バリウム、マグネシウム、チタン、及び酸化ジルコニウム(ジルコニア)といった材料である。本発明の文脈において、アルミナ及びまたはジルコニアが好ましい。
【0036】
有利には、補強粉末の割合は、複合材料の重量での全組成に対して含まれる、0.5%以上10%以下の、または1%以上5%以下の、重量での割合に対応する。当該割合は、複合材料の適切な硬度を得るためには十分に高いものの、選択された金属合金のベース色の変更を防止するために十分に低いよう、選択される。
【0037】
他方で、有利には、補強粉末のセラミック粒子は、1μm以下の、または0.5μm以下の、または0.2μm以下の、または0.1μm以下の、平均寸法を有する。小さな粒子寸法は、一方では粒子を見ることができないこと、他方では所定の重量での割合について、補強粒子の数を最大化できることを意味する。
【0038】
他の重要な要素は、複合材料内での補強粒子の分布である。実際、補強粒子が、連続網状組織を形成するのではなく、均一または実質的に均一な態様で、最終複合材料の金属基内で分散されることが有利である。当該均一な分散は、以下で説明するように、硬化金属合金の製粉において好まれる。
【0039】
本発明の有利な実施形態によれば、2つの粉末の単純な混合は、製粉により補完される。複合物粉末は、例えば、標準遊星ボールミル型の製粉機による製粉により、得られてもよい。製粉速度は、有利には、200rpm以上800rpm以下、または100から1200rpmの範囲内である。加えて、製粉時間は、3時間から12時間の間となるよう選択される。製粉時間は、金属合金と製粉速度に応じて、1時間から48時間の間で変動してもよい。2つの粉末の混合を製粉で補完する目的は、粉末化金属合金の粒子内へ、(サブミクロン寸法の)補強粒子を組み込むことである。この場合、補強粒子は、焼結後の金属グレイン内に配置され、転位の運動の障害としての役割を果たし、結果として硬化を最適化する。加えて、当該結果を促すため、複合材料の金属基内の補強粒子の均一な分布を得ることが有利である。このため、適切な製粉が最適であり、製粉により、金属粉末の粒子は、再凝集し、補強粒子内に組み込まれるために、製粉機のボールの作用下で、変形され、加工硬化され、粉砕される。柔らかすぎる金属合金は、粉砕可能となるほど十分には加工硬化されず、このため本方法の効率が悪化し、結果として不均一な混合物を得ることになる。このため、少なくとも1つの硬化元素は、金属合金の硬度を増加させる効果を発揮し、これは適切な製粉に適するようにし、補強粒子の均一な分布が得られるという追加の利点を有する。補強粒子の金属合金との最適な混合を促し、これにより最終複合材料内の金属合金と補強粒子のそれぞれの位置決めを最適化するため、金属合金の少なくとも1つの硬化元素は、方法の当該中間製粉段階に本質的に関わることを注記する。予期される適用の大多数について、少なくとも1つの硬化元素は、上記補強粒子の使用を省略可能にする、十分な性質を有する硬化金属合金の形成には、使用されることはできない。特に、金属粉末を生産し、強化因子を添加するステップがなければ、少なくとも1つの硬化元素は、固化中に粒界において沈殿物を形成するため、特に研磨による適切に仕上げられた表面の製造には適さない、粗く、不均一な微細構造をもたらすことになる。
【0040】
変形実施形態によれば、金属粉末の準備の、または当該金属粉末の補強粉末との混合のステップは、酸素、ホウ素、炭素、及びまたは窒素を、その物質のみの形状で、またはその酸化物、ホウ化物、窒化物、または炭化物の形状で、2%以下の、そして好ましくは0.05%以上の重量割合で、添加することを含む。当該変形実施形態は、高密度化の最終ステップ中に、及びまたは熱処理中に、及びまたは潜在的に製粉中に、その場で、最終複合材料中で補強粒子としての役割を果たす沈殿物の形成を促す効果を有する。より詳細には、E32で添加された補強粉末は、高密度化の最終ステップ中に、及びまたは熱処理中に形成される、複合材料中に存在する最終補強粒子の前駆体としての役割を果たしてもよい。例として、補強粉末の成分として添加されたホウ素及びまたは炭素及びまたは窒素及びまたは酸素は、高密度化の最終ステップ中に、及びまたは後続の熱処理中に補強粒子を形成するために、固溶体の形状の合金内に存在する、Ti、またはZr、またはAl、またはY、またはNb、またはHf、またはV、またはTa、またはCr、またはM、またはWと反応してもよい。
【0041】
このため、補強材は、硬化金属合金により形成された金属基内の複合材料内に分布された、粒子の形状であることを注記する。金属合金自身の構造内に位置決めされる硬化元素とは対照的に、補強材の粒子が複合材料の金属基を形成する硬化金属合金で形成されたアセンブリと織り交ぜられた、モノリシックな複合材料を形成するため、補強材は、硬化金属合金に並置された態様で、金属合金そのものの外側に位置決めされた粒子の形状で作用する。このため、補強材の粒子は、補強材無くして単独で使用される硬化金属合金に比べて、硬化金属合金を強化する。
【0042】
その後、方法は、先行ステップで得られた複合材料粉末の高密度化の第四ステップE4を実施する。当該実施形態によれば、当該高密度化は、フラッシュ焼結法としても知られる放電プラズマ焼結法(SPS)型の技術を用いて、焼結により実施される。混合され圧縮された粉末は、るつぼ、例えば円筒状るつぼ内に配置され、るつぼを2つの電極間に配置し、典型的には数kAの強さで、パルス状のまたはパルス状でない直流を通すことにより、ジュール効果により加熱される。方法は、不活性または反応性雰囲気下、または真空下、及び典型的には数MPa程度の圧力下で、実施される。
【0043】
ジュール効果を用いて加熱することの利点は、加熱率及び冷却率が非常に高いことであり、このため熱処理の全継続時間の減少を可能とし、このため、金属合金の粒状物とあらゆる沈殿物の成長を制限することができる。得られた微細構造は、主として原料粉末の微細構造を反映し、そのため小さな寸法を有するグレインの粉末を使用する価値はこれに由来する。時計適用に適した機械的性質、特に硬度は、複合材料の細かな微細構造により促進される。
【0044】
例示的実施形態において、加熱率及び冷却率は、少なくとも1K/分、好ましくは50K/分より大きい、典型的には100K/分であり、好ましい範囲は50から200K/分である。焼結温度は、有利には800℃から900℃の間であり、より広くは600℃から1000℃の間である。これらの値は、潜在的に、粉末のタイプと寸法に適合されなければならない。処理は、真空下で、またはArまたはFormiergaz(NとHの混合)といった不活性ガス下で実施される。補強材の溶解温度は、有利には使用される焼結温度よりも高いことを注記する。
【0045】
変形として、高温圧縮、熱間等方圧加圧法 (HIP)、従来の焼結またはパルス電流での焼結または電気焼結鍛造(ESF)といった、他の高密度化方法も予見可能である。任意で、高密度化ステップは、追加の真空下または中性雰囲気下または反応性雰囲気下での熱処理を含んでもよい。
【0046】
図5a及び5bは、上述の方法に従い焼結された試料の微細構造を示し、それぞれAlセラミック補強と混合された、硬化要素無しのAu-Ag金属合金から得られたAuAg22-Alの2%複合材料と、他方では上述の本発明の例示的実施形態にかかる、Alセラミック補強と混合された、硬化元素Tiを含む同じAu-Ag金属合金を示す。図5bから、本発明の複合材料は、マトリクス内のセラミックに基づく補強材の実質的に均一及びまたは不連続分布を含む、連続網状組織を形成する金属基を含むことが見て取れる。セラミック粒子の寸法が非常に小さいため、セラミック粒子は裸眼では直接見ることができず、このため図5bの金属組織断面上で検知することは難しいことを注記する。図5bのAuAg22Ti1-Alの2%複合材料について測定された硬度は、202HV0.5である。対して、図5aの複合材料は、Au-Ag金属合金の硬度が低いために残った、製粉が不十分な金属合金のピースに対応する、澄んだ領域20を含む。黒いスポット21は、アルミナの凝集体に対応する。このため、当該複合材料の構造は、本発明の複合材料の構造と大きく異なり、はるかに最適化がなされてない。図5aのAuAg22-Al2%複合材料の測定された硬度は、実質的に低く、91HV0.5に過ぎない。このため、これら数字は、金属合金に硬化元素を添加する効果を良く説明するものである。上述のように、当該硬化元素は、金属合金の製粉化をより良くするために用いることができ、製粉されない区域のない、また凝集体のない、複合材料を得るために用いることができる。このため、補強粒子は粉末内で、そしてその後最終複合材料内で、均一に分布される。
【0047】
本発明の実施形態は、特に焼結による高密度化を有する、粉末冶金技術に基づく製造方法について説明された。変形実施形態によれば、硬化金属合金粉末または複合材料粉末は、付加レーザ製造技術による高密度化に適合させることで変更されてもよく、または例えば「バインダジェット」型プリンタを用いて、堆積用バインダを添加することで変更されてもよい。
【0048】
本発明にかかる方法は、所望の時計適用に理想的に適しており、所望の目的によく適合した、機械的性質が与えられた構造を含む、高度に有利な複合材料を形成するために使用可能であることを注記する。このため、本発明にかかる方法は、その構造が補強元素の浸透により単純に補強された金属素材に対して、または金属素材により浸透されることになる連続セラミック相を有するセラミック素材に対して、実質的に改善された複合材料を定義するために使用可能であることを注記する。特に、本発明にかかる方法は、連続金属網状組織を有する複合材料を定義するために用いることができ、実質的に改善された機械的強度と靭性を得ることを可能にする。
【0049】
本発明はまた、時計部品用金属基複合材料そのものに関する。本実施形態によれば、このタイプの複合材料は、
金に基づく金属合金であり、複合材料は少なくとも75重量%の金を含む、または
白金に基づく金属合金であり、複合材料は少なくとも95重量%の白金を含む、または
パラジウムに基づく金属合金であり、複合材料は少なくとも95重量%のパラジウムを含む、
金属合金であって、
複合材料は更に、金属合金用の少なくとも1つの硬化元素を0.1重量%から2重量%の間、または金属合金用の少なくとも1つの硬化元素を0.5重量%から2重量%の間、または0.5重量%から1.5重量%の間、または0.5重量%から1.25重量%の間、または0.5重量%から1重量%の間、含む、金属合金と、
セラミック粉末を含む、0.5%以上10%以下の、または1%以上5%以下の、重量割合での、補強材と、
から構成される、複合材料である。
【0050】
補強材と金属合金との間の結合は、金属合金内の硬化元素の存在により改善されるように見える。
【0051】
有利には、本発明の実施形態で選択された金属合金は、銅及びまたは鉄を含まない、または0.5%より低い銅及びまたは鉄を含む。
【0052】
変形例として、複合材料は、少なくとも75重量%の金を含み、99.9重量%より少ない、または99重量%より少ない、または95重量%より少ない、または好ましくは90重量%より少ない、または80重量%より少ない金を含む。
【0053】
金属基複合材料は、有利には、硬化金属合金が、複合材料の金属基を形成する、連続網状組織を形成する構造を含む。加えて、補強材のセラミック粒子は、有利には、複合材料内で実質的に均一に及びまたは非連続的に分布される。
【0054】
本発明は、135HV以上の、または150HV以上の、または200HV以上の硬度を有する金属基複合材料を製造するために実施可能である。
【0055】
補強材含有量の低さは、複合材料の色にほとんど影響しない、即ち、複合材料の色は、当初選択された金属合金の色に近く、このため金属合金は、所望の審美的効果の機能として、特にその色により選ばれることができる。
【0056】
本発明はまた、上述の複合材料を含むことを特徴とする、時計部品に関する。実際、当該複合材料は、時計部品の全部または一部を、特に腕時計ケーシングまたは眼鏡、またはブレスレット要素またはブレスレット留め金要素といった、小型時計の外部パーツの部品を製造することに特に適している。本発明はまた、宝飾品または高級宝飾品の部品の製造に用いることができる。
【0057】
もちろん、時計部品、宝飾品または高級宝飾品の製造は、単なる表面被覆ではなく、当該時計部品の厚さの全部またはかなりの部分の製造を意味する。このため、検討中の部品は、複合材料を、有利には固形成分の形状で、大量に含み、特に0.1mm以上の厚さの一部を少なくとも含む。もちろん、好ましい実施形態ではないものの、検討中の複合材料の全部または一部にコーティングを追加することを防止するものではない。
【0058】
本発明はまた、上述の少なくとも1つの時計部品を含むことを特徴とする、時計アイテムに関する。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】