(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-28
(54)【発明の名称】グリースの製造方法、グリース、及び、グリースの使用方法
(51)【国際特許分類】
C10M 177/00 20060101AFI20241121BHJP
C07C 59/235 20060101ALI20241121BHJP
C07C 63/28 20060101ALI20241121BHJP
C07C 59/01 20060101ALI20241121BHJP
C10M 117/02 20060101ALI20241121BHJP
C10N 50/10 20060101ALN20241121BHJP
C10N 70/00 20060101ALN20241121BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20241121BHJP
【FI】
C10M177/00
C07C59/235
C07C63/28
C07C59/01
C10M117/02
C10N50:10
C10N70:00
C10N30:00 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024535778
(86)(22)【出願日】2022-11-07
(85)【翻訳文提出日】2024-08-08
(86)【国際出願番号】 DE2022100822
(87)【国際公開番号】W WO2023110001
(87)【国際公開日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】102021133469.1
(32)【優先日】2021-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505448774
【氏名又は名称】フックス エスエー
【氏名又は名称原語表記】FUCHS SE
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【氏名又は名称】金子 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100179648
【氏名又は名称】田中 咲江
(74)【代理人】
【識別番号】100222885
【氏名又は名称】早川 康
(74)【代理人】
【識別番号】100140338
【氏名又は名称】竹内 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100227695
【氏名又は名称】有川 智章
(74)【代理人】
【識別番号】100170896
【氏名又は名称】寺薗 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100219313
【氏名又は名称】米口 麻子
(74)【代理人】
【識別番号】100161610
【氏名又は名称】藤野 香子
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】エルケル,ハンス ユルゲン
(72)【発明者】
【氏名】ビンクレ,オーラフ
(72)【発明者】
【氏名】ゲルツ,トルステン
【テーマコード(参考)】
4H006
4H104
【Fターム(参考)】
4H006AA03
4H006AB48
4H006AB99
4H006BJ50
4H006BN10
4H006BS70
4H104JA01
4H104LA20
4H104QA18
(57)【要約】
本発明の目的は、リチウム複合石鹸潤滑グリース又はリチウムカルシウム複合石鹸潤滑グリースの製造方法、及び、この方法によって製造される対応する潤滑グリース、並びに、滑り軸受および転がり軸受におけるこれらのグリースの使用方法を提供することである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも以下の工程を含むリチウム複合石鹸潤滑グリース又はリチウム-カルシウム複合石鹸潤滑グリースの製造方法であって、
以下の3つの方法のいずれかに従って、1種以上のジカルボン酸を1種又は2種の金属水酸化物で固体のまま鹸化し、
(A1)水酸化リチウムによる1種以上のジカルボン酸の鹸化、又は
(A2)水酸化リチウム及び水酸化カルシウムによる1種以上のジカルボン酸の鹸化、又は
(A3)水酸化カルシウムによる1種以上のジカルボン酸の鹸化、
それぞれは、液相に関して、全液体原料に対して80重量%を超える水を含む水性環境中で、前記ジカルボン酸の1種以上の金属塩を得るために、前記ジカルボン酸の両方のジカルボキシル基は実質的に完全に鹸化され、
1種以上の液体ヒドロキシ脂肪酸又は加熱により液化したヒドロキシ脂肪酸と接触させて、前記液体ヒドロキシ脂肪酸に前記金属塩を溶解させ、
基油と接触させ、
さらなる金属水酸化物の追加として、
(A1)水酸化リチウム又は水酸化カルシウム、
(A2)水酸化リチウム及び水酸化カルシウム、若しくは水酸化リチウムのみ、若しくは水酸化カルシウムのみ、又は、
(A3)水酸化リチウム
のいずれかを追加し、
少なくとも1種のヒドロキシ脂肪酸の鹸化のために、
加熱によって水分を除去し、
最終温度までの加熱し、
冷却してさらに基油を追加することを含む、
グリースの製造方法。
【請求項2】
前記水性環境中における前記1種以上のジカルボン酸の前記鹸化は、20~85℃、望ましくは40~70℃で行われる、請求項1に記載のグリースの製造方法。
【請求項3】
ヒドロキシカルボン酸が加熱によって液化され、望ましくは接触の前に60℃以上に加熱される、請求項1又は2に記載のグリースの製造方法。
【請求項4】
1種以上のヒドロキシカルボン酸の鹸化が、80℃を超える温度で行われる、請求項1ないし3のいずれかに記載のグリースの製造方法。
【請求項5】
水を排出するための排出温度が少なくとも100℃、望ましくは105℃を超える、請求項1ないし4のいずれかに記載のグリースの製造方法。
【請求項6】
前記最終温度が120℃よりも高く、特に190~210℃である、請求項1ないし5のいずれかに記載のグリースの製造方法。
【請求項7】
前記最終温度に到達したあと、冷却が行われ、さらなる基油、添加剤、固体潤滑材、及び/又はさらなる増ちょう剤成分が、120℃未満、望ましくは80℃未満で添加される、請求項1ないし6のいずれかに記載のグリースの製造方法。
【請求項8】
前記基油の動粘度は、40℃で20~2500mm
2/s、特には40~500mm
2/sである、請求項1ないし7のいずれかに記載のグリースの製造方法。
【請求項9】
前記1種以上のジカルボン酸は、6~12個の炭素原子を有する脂肪族ジカルボン酸、又は、8~12個の炭素原子を有する環状脂肪族若しくは芳香族ジカルボン酸である、請求項1ないし8のいずれかに記載のグリースの製造方法。
【請求項10】
前記1種以上のヒドロキシカルボン酸は、12~30個の炭素原子、好ましくは16~20個の炭素原子を含む、請求項1ないし9のいずれかに記載のグリースの製造方法。
【請求項11】
ヒドロキシカルボン酸と前記ジカルボン酸とが、1:1~10:1のモル比で使用される、請求項1ないし10のいずれかに記載のグリースの製造方法。
【請求項12】
前記金属水酸化物は、バルク状で、望ましくは粉末状で使用される、請求項1ないし11のいずれかに記載のグリースの製造方法。
【請求項13】
前記リチウム複合石鹸潤滑グリースは、
a)前記基油を55~95重量%、特に70~90重量%、
b)前記リチウム複合石鹸を5~25重量%、特に5~20重量%、
及び、必要に応じて任意成分として、
c)添加剤を0~40重量%、特に0.5~10重量%、
d)無機増ちょう剤を0~20重量%、特に0~5重量%、
e)固体潤滑剤を0~20重量%、特に0.1~15重量%、
を含む、請求項1ないし12のいずれかに記載のグリースの製造方法。
【請求項14】
前記リチウム-カルシウム複合石鹸潤滑グリースは、
a)前記基油を55~95重量%、特に70~90重量%、
b)前記リチウム-カルシウム複合石鹸を5~25重量%、特に5~20重量%、ここで使用される水酸化リチウムと水酸化カルシウムの重量比は1:9~9:1であり、
そして、追加的に任意成分として、
c)添加剤を0~40重量%、特に0.5~10重量%、
d)無機増ちょう剤を0~20重量%、特に0~5重量%、
e)固体重滑剤を0~20重量%、特に0.1~15重量%、
を含む、請求項1ないし12のいずれかに記載のグリースの製造方法。
【請求項15】
請求項1ないし14のいずれかに記載の製造方法で製造されたリチウム複合石鹸潤滑グリース又はリチウム-カルシウム複合石鹸潤滑グリースであって、
前記リチウム複合石鹸潤滑グリースの場合は滴点が260℃を超え、
前記リチウム-カルシウム複合石鹸潤滑グリースの場合は滴点が190℃を超える、
グリース。
【請求項16】
請求項15に記載された前記リチウム複合石鹸潤滑グリース又は前記リチウム-カルシウム複合石鹸潤滑グリースの使用方法であって、
スライドベアリング及びロールベアリングに使用する、
グリースの使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム複合石鹸潤滑グリース又はリチウム-カルシウム複合石鹸潤滑グリースの製造方法、この方法によって製造される潤滑グリース、及び、それらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム石鹸は潤滑グリースの増ちょう剤として長い間知られている。水酸化リチウムで鹸化された有機酸、通常は脂肪酸が、基油内の増ちょう剤として使用される。例えば、12-ヒドロキシステアリン酸の使用が一般的であり、12-ヒドロキシステアリン酸リチウムが増ちょう剤として使用される。リチウム石鹸をベースとしたグリースは、(単に)リチウム石鹸潤滑グリースと呼ばれる。
【0003】
対照的に、リチウム複合石鹸潤滑グリースの製造は、水酸化リチウムと脂肪酸及び錯化剤との反応から生成できる増ちょう剤に基づいている。ここでも、長鎖ヒドロキシ脂肪酸が選択される脂肪酸であることが多いが、錯化剤は短鎖ジカルボン酸である。増ちょう剤としてリチウム複合石鹸をベースにした潤滑グリースは、滴点が高く、耐水性に優れ、動作温度範囲が広いという特徴がある。
【0004】
ここでの考え方は、両方の石鹸、すなわちヒドロキシ脂肪酸のリチウム塩とジカルボン酸の相互作用する融合により、水素結合によって安定した石鹸混合物が生成されることである。多くの場合、短鎖ジカルボン酸又はジカルボン酸塩は、「架橋剤」として、大部分の長鎖脂肪酸石鹸分子の間に結合力を作り出すことができる。これにより、滴点が「単なる」リチウム石鹸の通常のレベル(最大で190℃~210℃)を超えて上昇するが、これは溶融中において追加の結合力を超える必要があるためである。
【0005】
リチウム複合石鹸潤滑グリースは、滴点が250℃より大幅に高いという特徴がある。頻繁に使用される原料は、12-ヒドロキシステアリン酸、水酸化リチウム、又は、水酸化リチウムと、アジピン酸(C6)、アゼライン酸(C8)、セバシン酸(C10)若しくはホウ酸などの脂肪族ジカルボン酸との溶液/スラリーである。したがって、リチウム複合石鹸潤滑グリースは、通常は、少なくとも1種の長鎖ヒドロキシ脂肪酸と少なくとも1種のジカルボン酸を基油又は基油混合物のもと加熱して共同鹸化することによって製造される。適切な基油としては、例えば、パラフィン系またはナフテン系鉱油又はそれらの混合物(グループ1油)、ポリアルファオレフィン、ポリアルキレングリコールなどの合成油、又はグループII(それらの混合物を含む)などがある。シリコンオイルも基油として使用することができる。
【0006】
エステルベースの基油でリチウム複合石鹸を直接製造することができず、それは望ましくない反応生成物の形成が鹸化反応と競合するためである。リチウム石鹸は、ジカルボン酸エステルの鹸化によって間接的に形成することもでき、このジカルボン酸エステルは、ジカルボン酸とアルコール(多価アルコールを含む)との間の中間体として生成することができる。使用されるエステルの(部分的な)加水分解を回避するために既製の石鹸を使用すると、複合石鹸構造の形成が困難となる。
【0007】
先行技術における製造プロセスでは、鹸化は通常、基油内で行われる。米国特許2898296は、脂肪酸及びジカルボン酸石鹸から開始して、これらをLiOH*H2O(一水和物) とともに基油中で一緒に煮沸して得られるリチウム複合石鹸潤滑グリースの製造方法を開示している。
【0008】
米国特許2940930Aは、バッチプロセスでリチウム複合石鹸潤滑グリースを製造することを記載しており、その記載における第1段階では、エチレングリコールなどの多価アルコールが基油中のモノカルボン酸及びジカルボン酸の混合物に加えられ、この混合物が次の段階で水酸化リチウムとともに鹸化される。
【0009】
米国特許4444669Aでは、製造プロセスが達成できる滴点のレベルに大きな影響を与え得ることが明確に規定されている。リチウム複合石鹸潤滑グリースは、カルボン酸、ジカルボン酸及びLiOH水溶液を、連続的に稼働する反応器内の基油に加えることで製造される。鹸化のために、温度が徐々に176℃まで上昇し、鹸化反応で生成された水は加圧によってシステム内に保持され、その後、制御された方法で除去される。反応ゾーンに少量の水が導入され得る。
【0010】
米国特許3791973Aは、最初に基油中のヒドロキシ脂肪酸と濃縮水酸化リチウム水溶液を加熱して連続反応させ、次に、冷却して脂肪族ジカルボン酸を添加した後、濃縮水酸化リチウム水溶液と反応させて再加熱することにより、滴点が260℃を超えるリチウム複合石鹸潤滑グリースを製造することを記載している。ここでは、温度条件及び脂肪族ジカルボン酸と塩基との反応速度が重要である。これにより、リチウムモノカルボキシレートがジリチウムジカルボキシレートによって結合された混合石鹸が生成される。
【0011】
欧州特許2361296B1は、ヒドロキシ脂肪酸をベースとするリチウム石鹸と、オートクレーブ処理を経たジカルボン酸をベースとする複合カルシウム又はマグネシウム石鹸とをベースとする混合複合グリースの製造方法が記載されている。増ちょう原料は、反応を開始させるために、少量の水とともに基油に混合される。鉱油ベースのグリースの滴点が約220℃であるが、ポリアルキレングリコール基油を使用すると260℃を超える高い滴点が達成できることは言及する価値がある。
【0012】
ポリアルファオレフィンなどの高い非極性を有する基油が使用されると、リチウム複合石鹸潤滑グリースにおいて250℃を超える高い滴点を達成することは困難である。これは、2種類のカルボン酸から形成された石鹸増ちょう剤結合の形では複合石鹸が存在しないという事実によって説明することができる。むしろ、2つのリチウム石鹸、脂肪酸及びジカルボン酸の混合物が、相互作用せず、かつ、混合石鹸構造を形成するために結合されず、別々に存在する。水素結合など、本物のリチウム複合石鹸で発生する追加の相互作用は、2種類のリチウム石鹸の間では発生しないか、又は僅かしか発生しない。その結果、滴点は比較的低いレベルにある。滴点を上げるには滴点向上剤を使用する必要がある。リチウム複合石鹸潤滑グリースに適した滴点向上剤は、アルキルホウ酸エステルをベースとすることが多く、その使用は、例えば、国際公開2016/123067A1に記載されている。
【0013】
米国特許2010/0197535A1は、反応押出機でリチウム石鹸、リチウム複合石鹸、リチウム-カルシウム石鹸又はカルシウム複合石鹸などの石鹸濃縮物を製造する方法を開示しており、この方法では、水素化ヒマシ油などの油、任意の油成分として金属水酸化物又は12-ヒドロキシステアリン酸 、及び、金属水酸化物が最初のゾーンに供給され、錯化剤が別のゾーンに供給される。最初のゾーンの次には水注入ゾーン、その後に反応ゾーン、脱気ゾーン及び冷却ゾーンが続く。
【0014】
潤滑グリースを製造する方法は、特開平11-302682号公報から公知であり、この方法によれば、その方法の一部として、水酸化リチウム一水和物の水溶液及び脂肪族ジカルボン酸を、基油及び脂肪酸又はヒドロキシ脂肪酸を加熱によって均質とした混合物、及び、任意でさらなる量の脂肪族ジカルボン酸と反応させる。溶解したモノカルボン酸との反応は、基油と分散剤が存在する場合にのみ始まる。水酸化リチウム及びジカルボン酸は水中で並存するが、鹸化反応は起こらない。ヒドロキシ脂肪酸は、すでに形成されたジカルボン酸石鹸には添加されない。上記のすべての製造プロセスに共通するのは、鹸化が通常は親油性である基油で行われることである。複合石鹸としてリチウム石鹸とアルカリ土類石鹸の両方を含む混合石鹸の場合の石鹸構造の形成の製造方法も説明されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、簡単でエネルギー効率の良いプロセス制御と、使用される原材料の安全な取り扱いを可能にする、リチウム複合石鹸潤滑グリース又はリチウム-カルシウム複合石鹸潤滑グリースの製造方法を提供することである。従来のプロセスと比較して、高い滴点も達成され、他の原材料、特にジカルボン酸が使用可能となり得る。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、請求項1に記載のリチウム複合石鹸潤滑グリース又はリチウム-カルシウム複合石鹸潤滑グリースの製造方法に関するものであり、既知の製造方法と異なるところは、ジカルボン酸をまず水酸化リチウム及び/又は水酸化カルシウムと共に水溶性の固体物質として鹸化する点である。ヒドロキシ脂肪酸で鹸化した後、各ケースで複合石鹸潤滑グリースが得られる。好ましい実施形態は、サブクレームの対象であり、かつ、以下に示される。
【0017】
少なくとも以下の工程を含むリチウム複合石鹸潤滑グリース又はリチウム-カルシウム複合石鹸潤滑グリースの製造方法であって、
以下の3つの方法のいずれかに従って、1種以上のジカルボン酸を、1種又は2種の金属水酸化物であって、固体のまま、望ましくは粉末状のものと鹸化し、
(A1)水酸化リチウムであって望ましくは粉末状のものと、1種以上のジカルボン酸による鹸化、又は
(A2)水酸化リチウム及び水酸化カルシウムであって望ましくは粉末状のものと、1種以上のジカルボン酸による鹸化、又は
(A3)水酸化カルシウムであって望ましくは粉末状のものと、1種以上のジカルボン酸による鹸化、
それぞれは、すべての液体原料(つまり、25℃で液体である原料)に対して80重量%を超える水を含む水性環境中で、1種以上の前記ジカルボン酸の金属塩を得るために、前記ジカルボン酸の両方のカルボキシル基が実質的に完全に鹸化され、
1種以上の液体ヒドロキシ脂肪酸又は加熱により液化したヒドロキシ脂肪酸と接触させ、前記金属塩を液体ヒドロキシ脂肪酸中に溶解させ、
基油と接触させ、
さらなる金属水酸化物の追加として、
(A1)水酸化リチウム又は水酸化カルシウム、
(A2)水酸化リチウム及び水酸化カルシウム、若しくは水酸化リチウムのみ、若しくは水酸化カルシウムのみ、又は、
(A3)水酸化リチウム
のいずれかを追加し、
少なくとも1種のヒドロキシ脂肪酸による鹸化のために、
加熱によって水分を除去し、
最終温度までの加熱し、
冷却してさらに基油を追加することを含む、
グリースの製造方法。
【0018】
この手順は、好ましくは上記の順序で実行される。好ましい実施形態は、サブクレームの主題であるか、または以下に記載される。
【0019】
前記水性環境は、25℃で液体である使用物質(=100重量%)に対して、80重量%を超える、特に90重量%を超える水を含み、好ましくは100重量%の水からなる液相によって特徴付けられる。使用される前記ジカルボン酸が25℃で液体である場合、この定義の意味における液体物質としてはカウントされない。
【0020】
本発明の一実施形態によれば、ジカルボン酸が水中または前記水性環境中に供給されて加熱(例えば、60℃)され、次に、好ましくは粉末状の金属水酸化物(例えば、水酸化リチウム)と混合して、ジカルボン酸を可能な限り完全に、必要に応じて化学量論的に僅かに超えて、鹸化させる。
【0021】
しかし、化学量論的な過剰は制限されるべきであり、特にその過剰量は、例えば、
a)以下で使用されるヒドロキシ脂肪酸に対して、前記過剰量が10モル%未満、好ましくは5モル%未満となるように選択されるか、
b)あるいは、前記過剰量がジカルボン酸と金属水酸化物(例えば、水酸化リチウム)との反応に対して10モル%未満となるべきである。
【0022】
好ましくは、前記反応は、ジカルボン酸に対してモル量がほぼ等しい金属水酸化物(例えば、水酸化リチウム)を用いて行われる。前記金属水酸化物は、1種類以上のジカルボン酸を、物質中において固体状態、好ましくは粉末状で鹸化するために使用される。これは、それらが事前に別の溶媒に溶解されるのではなく、「水性環境」に溶解されることを意味する。粉末状の塩基を加えることには、労働安全の観点から利点があり、高温の金属水酸化物溶液の使用が回避される。鹸化は短時間で完了する。
【0023】
使用されるジカルボン酸によっては、生成されるジリチウムジカルボキシレート又はジメタルジカルボキシレートが水に溶けにくく、その場合には細かく分散した塩として沈殿することがある。
【0024】
次の工程では、モノヒドロキシカルボン酸が、好ましくは固体の物質として、乾燥した形で添加され、その混合物が例えば85℃に加熱される。その結果、ジカルボン酸石鹸は溶融したヒドロキシカルボン酸に溶解する。複合石鹸を形成するために必要なヒドロキシカルボン酸及びジカルボン酸の混合物、又は、それぞれの反応生成物は、ここですでに形成されている。次に、混合物が、必要量の基油(例えば、完成した潤滑グリース中の基油の45重量%)に取り込まれ、例えば90℃で加熱され、次いで、特に粉末状の水酸化リチウムなどの他の金属水酸化物と混合され、ヒドロキシカルボン酸を鹸化する。一定の反応時間のあと、先ず混合物が例えば100℃に加熱されて脱水を開始し、その後さらに基油 (完成した潤滑グリース中の基油の30%)が追加されて、例えば105℃で脱水が完了する。
【0025】
この反応制御により水性媒体中で複合石鹸の形成が開始し、複合石鹸構造が安全に形成された後、親油性を有する基油へと移行する。脱水後、残りの基油が加えられ、反応混合物が、最終温度が120℃より高く、または160℃より高く、好ましくは180℃より高く、例えば、190~210℃に加熱され、その後冷却され、冷却段階で適切な添加剤が添加されて潤滑グリースを完成させる。
【0026】
記載された方法を使用して、混合カルシウム-リチウム複合グリースも製造することができる。必要に応じて、錯化ジカルボン酸を水酸化リチウムまたは水酸化カルシウムと反応させることができる。それに応じて、ヒドロキシカルボン酸は他方の水酸化物と反応する。混合リチウム-カルシウム複合石鹸潤滑グリースの大きな利点は、原材料及び製造プロセスのコストが低いことである。カルシウム-リチウム複合石鹸潤滑グリースは、水酸化リチウムと水酸化カルシウムの比率が1:9~9:1(重量比)であるのが望ましい。
【0027】
このようにして製造されるリチウム複合石鹸潤滑グリースやカルシウム-リチウム複合石鹸潤滑グリースのさらなる利点は、金属水酸化物とジカルボン酸及びモノヒドロキシカルボン酸とのモル反応が優先的に起こり得ることである。これにより、未反応の水酸化リチウム成分を含まない潤滑グリースを得ることが可能となる。2020年6月以降、水酸化リチウムを将来的に生殖毒性カテゴリー1A-H360FD(CoRAPリスト)に分類するかどうかが検討されている。従来技術によれば、リチウム石鹸増ちょう剤を含む潤滑グリースは、水酸化リチウムを過剰に含んで製造されることが多いが、これは水酸化リチウムの水溶性が低いため、使用するカルボン酸の完全な変換を確実にするために水酸化リチウムを多くする必要があるためである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
常温で液体の標準的な潤滑油が、基油として適している。基油は、好ましくは、40℃で20~2500mm2/s、特に40~500mm2/sの動粘度を有する。ここで、基油という用語には、異なる基油の混合物も含んでいる。
【0029】
基油は、鉱油又は合成油に分類することができる。たとえば、ナフテンベースの鉱油及びパラフィンベースの鉱油は、API規格のグループ1の分類に従って鉱油と見なされる。API規格のグループ2及び3に従って分類される、グループ1のオイルと比較して、芳香族および硫黄が少なく、飽和化合物の割合が低く、粘度/温度の特性が改善された化学的に改質された鉱油も、適している。
【0030】
合成油は、ポリエーテル、エステル、ポリアルファオレフィン、ポリグリコール、アルキル芳香族及びそれらの混合物、並びに、シリコン油が含まれる。ポリエーテル化合物は、遊離ヒドロキシル基を有しても良いが、完全にエーテル化されていても良く、又は末端基がエステル化されていてもよく、及び/又は、1つ以上のヒドロキシル基及び/又はカルボキシル基(‐COOH)を有する出発物質から生成されてもよい。ポリフェニルエーテル(アルキル化されても良い)も、単独成分として使用可能であり、さらには混合成分としても使用可能である。適切な成分は、芳香族ジ、トリ又はテトラカルボン酸とC2~C22アルコールの1種又は混合物とのエステル、アジピン酸エステル、セバシン酸、トリメチロールプロパン、ネオペンチルグリコール、脂肪族(分枝および非分枝)のペンタエリトリトール又はジペンタエリトリトール、飽和または不飽和のC2~C22カルボン酸、C2~C22アルコールとのC18二量体酸エステル、複合エステルであり、個々の成分又は任意の混合物として使用される。
【0031】
リチウム複合石鹸は、ジカルボン酸と水酸化リチウム、ヒドロキシカルボン酸と水酸化リチウムを反応させて得られる金属石鹸をベースにした増ちょう剤である。純粋なリチウム複合石鹸の代替として、リチウム及びカルシウムの複合石鹸の混合増ちょう剤が求められる場合、a)ジカルボン酸を水酸化リチウムと反応させ、ヒドロキシカルボン酸を水酸化カルシウムと反応させる、または、b)ジカルボン酸を水酸化カルシウムと反応させ、ヒドロキシカルボン酸を水酸化リチウムと反応させる。
【0032】
アジピン酸(C6)、アゼライン酸(C8)、セバシン酸(C10)などの鎖長がC6~C12の脂肪族ジカルボン酸は、ジカルボン酸として使用され得る。テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸も使用され得る。後者の組み合わせは、リチウム複合脂肪としてはむしろ珍しいものであり、以前は、対応するテレフタル酸エステルをあらかじめ別々に鹸化することでのみ可能であり、その際はアルコールが出来るだけ平衡状態から除去されるのが望ましい。本発明による水性媒体中での反応により、このような増ちょう剤システムがより簡単に利用可能となる。
【0033】
C12~C30のヒドロキシカルボン酸又はそれらの混合物が、ヒドロキシカルボン酸として使用することができ、ここで一般には、16~20の炭素数のヒドロキシカルボン酸が好ましい。特に、ヒドロキシステアリン酸は、例えば、9-ヒドロキシ、10-ヒドロキシ又は12-ヒドロキシステアリン酸として使用される。リシノール酸は、不飽和の直鎖オメガ9脂肪酸としても使用できる。ただし、12-ヒドロキシベヘニン酸(C22)又は10-ヒドロキシパルミチン酸も、ヒドロキシ脂肪酸として使用できる。9、10-ジヒドロキシステアリン酸などのジヒドロキシステアリン酸も、ヒドロキシ脂肪酸として使用できる。ヒドロキシカルボン酸はモノカルボン酸である。ヒドロキシカルボン酸とジカルボン酸の比率は、通常、1:1から1:10のモル比で調整される。これは、脂肪の求められる特性に応じて行われる。
【0034】
さらに、本発明の潤滑グリース組成物には、腐食や酸化の防止、及び、金属の影響から保護するための従来の添加剤が含まれ、これらはキレート化合物、ラジカル捕捉剤、反応層形成剤などとして機能する。カルボジイミドやエポキシドなど、エステル基油の耐加水分解性を向上させる添加剤も、加えることができる。
【0035】
本発明の意味における一般的な添加剤としては、酸化防止剤、耐摩耗剤、防錆剤、洗剤、着色剤、潤滑性向上剤、接着性向上剤、粘度添加剤、摩擦低減剤、高圧添加剤、及び、金属不活性化剤がある。例として以下が含まれる。
【0036】
主要な酸化防止剤の例として、アミン化合物(例えばアルキルアミンや1-フェニルアミノナフタレン等)、フェニルナフチルアミンやジフェニルアミン、またはポリマーヒドロキシキノリン(例えばTMQ等)などの芳香族アミン、フェノール化合物(例えば、2、6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール等)、ジチオカルバミン酸亜鉛又はジチオリン酸亜鉛が含まれる。
【0037】
二次的な酸化防止剤の例として、亜リン酸塩であって例えばトリス(2、4-ジ-tert‐ブチルフェニル亜リン酸塩)若しくはビス(2、4-ジ-tert-ブチルフェニル)-ペンタエリスリトールジホスファイト、又は、チオエーテル(例えばクレゾールチオエーテル)が含まれる。
【0038】
高圧添加剤及び/又は耐摩耗剤の例として、ポリスルフィド、硫黄オレフィン、過塩基性カルシウムスルホネート、チオリン酸塩等の硫黄又は有機硫黄化合物や、例えばアミン中和アルキルリン酸エステルのようなリン化合物、無機又は有機のホウ素化合物、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、有機ビスマス化合物、トリフェニルチオリン酸などのチオリン酸、ジオクチルホスホネートやアルキルスルフォネート等のリン酸塩(亜リン酸塩)、メチレンビス(ジブチルジチオカルバメート)やジチオカルバメート等のチオカルバメートが含まれる。
【0039】
「油性」を改善する有効成分の例として、C2~C6ポリオール、脂肪酸、脂肪酸エステル、動物油又は植物油が含まれる。防錆剤としてはスルホネートが挙げられ、例えば、石油スルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート又はソルビタンエステル、中性又は過塩基性カルシウムスルホネート、マグネシウムスルホネート、ナトリウムスルホネート、カルシウム及びナトリウムナフタレンスルホネート、スルホン酸エステル、セバシン酸二ナトリウム、カルシウムサリチル酸塩、アミンリン酸、コハク酸塩が挙げられる。
【0040】
金属不活性化剤としてはベンゾトリアゾールが挙げられ、例えば、メチルベンゾトリアゾールジアルキルアミン、立体障害フェノール、亜硝酸ナトリウムが挙げられる。粘度改善剤としては、ポリメタクリレート、ポリイソブチレン、オリゴデカ-1-エン、ポリスチレンが挙げられる。
【0041】
部分的に耐摩耗性を持つ摩擦低減剤の例として、有機モリブデン錯体(OMC)、モリブデンジアルキルジチオリン酸、モリブデンジアルキルジチオカルバメート、特にモリブデンジ-n-ブチルジチオカルバメート及びモリブデンジアルキルジチオカルバメート(Mo2mSn(ジアルキルカルバメート)2、m=0~3、n=4~1)、ジチオカルバメート亜鉛又はジチオリン酸亜鉛、又は、式Mo3SkLnQzに対応した三核モリブデン化合物が含まれ、ここで式中のLは、米国特許6172013B1に開示されているように、独立的に選択された配位子であって炭素原子を含む有機基を有するものであり、化合物にオイルへの可溶性又は分散性を与えるために、式中のnは1~4の範囲であり、kは4~7の範囲であり、Qは、アミン、アルコール、ホスフィン及びエーテルからなる中性電子供与性化合物の群から選択され、例えば0~5の範囲であり、非化学量論値を含む(ドイツ特許102007048091A1を参照)。
【0042】
有機酸の例として、イソステアリン酸が含まれ、機能性ポリマーとして、オレイルアミドやポリエーテル及びアミドに基づく有機化合物が挙げられ、例えば、アルキルポリエチレングリコールエーテルやアルキルテトラドエチレングリコールエーテル、PIBSI又はPIBSA、部分グリセリド、ジアルキル水素ホスホネート、アルキルコハク酸が含まれる。
【0043】
固体潤滑剤としては、ポリマー粉末が挙げられ、例えば、ポリアミド、ポリイミド又はPTFE、メラミンシアヌレート、黒鉛、金属酸化物、窒化ホウ素、例えば、ケイ酸マグネシウム水和物(タルク)等のケイ酸塩、四ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸カリウム、二硫化モリブデンなどの金属硫化物、二硫化タングステン又はタングステンをベースとした混合硫化物、モリブデン、ビスマス、錫及び亜鉛、例えば炭酸カルシウムなどのアルカリ金属やアルカリ土類金属の塩などの無機塩、リン酸ナトリウムやリン酸カルシウムに加えて、カーボンブラック、又は、ナノチューブ等の他の炭素ベースの固体潤滑剤が含まれる。
【0044】
アルカリ又はアルカリ土類リグニンスルホン酸塩、特にカルシウムリグニンスルホン酸塩等のリグニン誘導体も、特定の特性を達成するために使用され得る(国際公開2011/095155A1又は米国特許8507421B2参照)。リグニン誘導体及び固体潤滑剤は、添加剤ではない。
【0045】
リチウム複合石鹸潤滑グリースは、好ましくは、
a)基油を55~95重量%、特に70~90重量%、
b)増ちょう剤としてリチウム複合石鹸を5~25重量%、特に5~20重量%、
及び、必要に応じて任意成分として、
c)添加剤を0~40重量%、特に0.5~10重量%、
d)ベントナイト、非晶質SiO2、ケイ酸などの無機増ちょう剤を0~20重量%、特に0~5重量%、
e)固体潤滑剤を0~20重量%、特に0.1~15重量%、
f)リグニン誘導体を0~5重量%、特に0.1~5重量%、
を含む。
【0046】
純粋なリチウム複合石鹸潤滑グリースの代替として、リチウム-カルシウム複合石鹸潤滑グリースは、
a)基油を55~95重量%、特に70~90重量%、
b)増ちょう剤としてリチウム-カルシウム複合石鹸を5~25重量%、特に5~20重量%、リチウムとカルシウムの含有量の比は、金属水酸化物(LiOHおよびCa(OH)2)に基づいて、90:10~10:90、好ましくは80:20~20:80の比率で自由に選択でき、
そして、追加的に任意成分として、
c)添加剤を0~40重量%、特に0.5~10重量%、
d)ベントナイト、非晶質SiO2、ケイ酸などの無機増ちょう剤を0~20重量%、特に0~5重量%、
e)固体重滑剤を0~20重量%、特に0.1~15重量%、
f)リグニン誘導体を0~5重量%、特に0.1~5重量%、
を含む。無機増ちょう剤は、使用しないことが望ましい。
【0047】
重量%は、全体の組成に対するものであり、互いに独立して適用される。上記で言及されていない任意の成分を含め、各成分の重量%の数値の合計は100重量%となる。特に、増ちょう剤又は石鹸は、組成物について220~430mm/10(25℃)、望ましくは265~385/10(25℃)(DIN ISO 2137に従って決定される)のちょう度(混和ちょう度)が得られるような十分な量の増ちょう剤を含むように、使用される。
【0048】
このプロセスは、リチウム複合石鹸潤滑グリース又はリチウム-カルシウム複合石鹸潤滑グリース中の増ちょう剤が、上記のヒドロキシカルボン酸及びジカルボン酸と、水酸化リチウム又はリチウム及び水酸化カルシウムとのその場での反応によって生成され、ジカルボン酸の鹸化反応が前記水性環境中で行われるように、実施される。こうして形成された塩は、溶融したヒドロキシ脂肪酸又は物質としては液体であるヒドロキシ脂肪酸に吸収され、その後油相に変換される。次に、化学量論的に必要な量の乾燥した水酸化リチウム又は水酸化カルシウムを加えてヒドロキシ脂肪酸が鹸化される。その後、温度が上昇するにつれて水が排出され、反応混合物は規定された最終温度まで加熱される。規定の冷却段階の後、従来の添加剤、固形物、又はその他の基油成分が、例えば60~80℃の温度で追加され得る。
【0049】
本発明のリチウム複合グリース石鹸潤滑グリース又はリチウム-カルシウム複合グリース石鹸潤滑グリースの製造方法における基礎となるプロセスによれば、準備段階(基礎グリース)として、まず、少なくとも以下の工程が組み合わされる。
―ジカルボン酸と水とを、好ましくは20~85℃、特に40~70℃で水酸化リチウム又は水酸化カルシウムと混合し、
―ヒドロキシカルボン酸を好ましくは60℃より高く、又は75℃より高く、特に80℃より高く90℃までの間で添加し、
―第1部分量の基油及び水酸化リチウム又は水酸化カルシウムを、好ましくは70℃より高く、又は80℃より高く、特に90~100℃で添加し、
―水を好ましくは少なくとも100℃、特に100℃より高くまたは105℃より高く(噴出温度)で沸騰させ、
―部分量の基油をさらに添加し、120℃を超える、好ましくは少なくとも130℃、より好ましくは少なくとも150℃を超える、例えば190~210℃である規定の最終温度まで加熱し、
―ベースグリースを冷却し、さらにオイル、添加剤、固体潤滑剤、または別の増ちょう剤成分を追加する。
好ましくは、リチウム複合ベース脂肪は、180℃を超える温度、特に少なくとも190℃の温度に加熱されて、リチウム複合ベース脂肪が生成される。ベース脂肪への変換は、加熱された反応器内で行われるところ、この反応器はオートクレーブまたは真空反応器としても設計され得る。
【0050】
続いて、第2段階では、冷却によって増ちょう剤構造の形成が完了し、必要に応じて、添加剤及び/又は基油などのさらなる成分が加えられ、所望のちょう度又は所望の特性に調整される。前記第2段階は、第1段階の反応器内で実施することができるが、好ましくはベース脂肪が前記反応器から別の撹拌容器に移され、冷却してさらなる成分を混合する。
【0051】
一実施形態によれば、例えば、リチウム-カルシウム複合石鹸潤滑グリースは、12-ヒドロキシステアリン酸カルシウムがベース増ちょう剤として使用され、これをセバシン酸リチウムと共に複合化することにより、製造される。これらのベースグリースの製造では、最終温度として130~160℃、好ましくは150℃の温度が要求される。本発明による潤滑グリースは、広範囲の工業用途におけるスライドベアリング及びロールベアリングへの使用する特に適している。リチウム複合グリースは、温度適用範囲が広い万能グリースである。カルシウム-リチウム複合石鹸の使用は、リチウムの使用量が少なく、原材料コストに対して好影響を与えることができる。
【0052】
本発明の製造方法により製造されるリチウム複合石鹸潤滑グリース又はリチウム-カルシウム複合石鹸潤滑グリースは、好ましくは、リチウム複合石鹸潤滑グリースについては260℃を超える高い滴点を有し、リチウム-カルシウム複合石鹸潤滑グリースについては190℃を超える高い滴点を有する。
【0053】
以下の例では、本発明によるリチウム複合グリースの特性が、従来の方法で製造されたものと比較される。従来の製品は、ここでは実施例4として説明されており、類推によって他の例にも転用することができる。
【0054】
比較例:
718.1gのポリアルファオレフィンPAO40が撹拌機付きの加熱可能な反応容器に投入され、撹拌しながら186gの12-ヒドロキシステアリン酸と49.4gのセバシン酸が加えられた。この混合物が前記反応容器内で撹拌されながら85℃まで加熱され、この温度で30分間保持された。次に、150グラムの温水内でスラリー状となる46.5グラムの水酸化リチウム一水和物の混合物が加えられた。また、混合物が反応容器内で撹拌されながら85℃で30分間保持された。その後、温度を100℃まで上昇させた。次に、水を除去するために、反応混合物が105℃に加熱された。この工程の後、別の容器で予め100℃に加熱しておいた500gのポリアルファオレフィンPAO40が加えられ、混合物を最終温度205℃まで沸騰させた。その後、脂肪は60℃まで冷却され、コロイドミルを使用して均質化された。
【0055】
実施例1:アゼライン酸を含むリチウム複合石鹸潤滑グリースの準備
39.0gのアゼライン酸及び160gの水が撹拌機付きの加熱可能な反応容器に供給された。これらの混合物が60℃に加熱され、18.2gの粉末状の水酸化リチウムが加えられた。30分間の反応時間経過後、186.0gの12-ヒドロキシステアリン酸が加えられ、混合物が85℃に加熱された。続いて、550gのポリアルファオレフィンPAO40が加えられた。混合物が均一になるまで撹拌され、26.9gの粉末状の水酸化リチウムが加えられ、30分間反応させた。次に混合物が100℃に加熱され、さらに380gのポリアルファオレフィンPAO40が加えられた。次に、反応混合物が105℃に加熱され、残っている水がすべて除去された。この工程の後、300gのポリアルファオレフィンPAO40が加えられ、混合物を最終温度205℃まで沸騰させた。その後、脂肪は60℃まで冷却され、コロイドミルを使用して均質化された。
【0056】
表1は、従来の方法、すなわち上記比較例(比較)に従って製造された脂肪と比較して、本発明による脂肪の特性をまとめたものである。
【0057】
【0058】
本発明の方法によって製造されるリチウム複合石鹸潤滑グリースの利点は、とりわけ、ちょう度収率の向上であり、混和ちょう度WP60は、大幅に固いグリースであることを示している。
【0059】
実施例2:テレフタル酸を用いたリチウム複合石鹸潤滑グリースの製造
35.0gのテレフタル酸及び150gの水が、撹拌機付きの加熱可能な反応容器に投入された。これらの混合物が60℃に加熱され、17.7gの粉末状の水酸化リチウムが加えられた。30分間の反応時間経過後、190.1gの12-ヒドロキシステアリン酸が加えられ、混合物が85℃に加熱された。続いて、550gのポリアルファオレフィンPAO40が加えられた。混合物が均一になるまで撹拌され、26.6gの粉末状の水酸化リチウムが加えられ、30分間反応させた。次に混合物が100℃に加熱され、さらに380gのポリアルファオレフィンPAO40が加えられた。次に、反応混合物が105℃に加熱され、残っている水がすべて除去された。この工程の後、300.8gのポリアルファオレフィンPAO40が加えられ、混合物を最終温度205℃まで沸騰させた。その後、脂肪は60℃まで冷却され、コロイドミルを使用して均質化された。
【0060】
次の表は潤滑グリースの特性値をまとめたものである。従来の煮沸プロセスではテレフタル酸に変換できないため、ここでは比較データが提供されない。
【0061】
【0062】
実施例3:セバシン酸およびエステル油を用いたリチウム複合石鹸潤滑グリースの製造
26.5gのセバシン酸及び160gの水が、撹拌機付きの加熱可能な反応容器に供給された。これらの混合物が60℃に加熱され、11.5gの粉末状の水酸化リチウムが加えられた。30分間の反応時間経過後、123.5gの12-ヒドロキシステアリン酸が加えられ、混合物が85℃に加熱された。続いて、594.4gのポリオールエステル(40℃での粘度320mm2/s)が加えられた。混合物が均一になるまで撹拌され、17.8gの粉末状の水酸化リチウムが加えられ、30分間反応させた。次に混合物が100℃に加熱され、さらに396.2gのポリオールエステルが加えられた。次に、反応混合物が105℃に加熱され、残っている水がすべて除去された。この工程の後、330.2gのポリオールエステルが加えられ、混合物を最終温度205℃まで沸騰させた。その後、脂肪は60℃まで冷却され、コロイドミルを使用して均質化された。
【0063】
表3は、この脂肪の特性と、上記の例に従って従来の方法で製造された脂肪の特性とを比較したものである。
【0064】
【0065】
この新しいプロセスによるリチウム複合脂肪の利点は、使用されるエステルが(部分的に)加水分解されないことである。従来のプロセスでは、脂肪アルコール臭が検出される。さらに、新しいプロセスルートは、ちょう度収率を向上させる。
【0066】
実施例4:ポリアルファオレフィン中のセバシン酸を含むリチウム複合石鹸潤滑グリースの製造
49.4gのセバシン酸と150gの水が撹拌機付きの加熱可能な反応容器に供給された。これらの混合物が撹拌されながら60℃に加熱された。20.5gの粉末状の乾燥した水酸化リチウムが混合物に加えられ、一定温度で30分間撹拌された。次に186.0gの12-ヒドロキシステアリン酸が加えられ、混合物が撹拌されながら85℃に加熱された。続いて、予め100℃に加熱された550gのポリアルファオレフィン40が加えられた。混合後、26.0gの乾燥した水酸化リチウムが粉末状で加えられた。その後、撹拌しながら30分間反応させた。反応混合物が100℃に加熱され、続いて365gのポリアルファオレフィン40(100℃に予熱)が加えられた。次に脱水のために混合物が105℃に加熱された。105℃に到達したあと、303.1gのポリアルファオレフィン40が加えられ、混合物が2.5時間かけて最終温度205℃まで加熱された。その後、脂肪は60℃まで冷却され、コロイドミルを使用して均質化された。
【0067】
表4は、この脂肪の特性を、上記の比較例に従って従来の方法によって製造された脂肪と比較して、まとめたものである。
【0068】
【0069】
新しいプロセスで製造されるリチウム複合グリースの利点は、一方では機械的安定性が大幅に向上し(WP60/WP60,000が低い)、他方では静止時の後硬化がより低いことにある。
【0070】
要約すると、本発明に従って製造されるリチウム複合グリースの特性に関しては、新しい製造プロセスは次のことが言える。
―ちょう度収率が向上し、同じ粘度の潤滑グリースがより安価に製造され得る。
―使用される基油に応じて、増ちょう剤は混和安定度を向上させる。
―テレフタレート増ちょう剤を含むリチウム複合グリースが初めて製造可能になった。
―リチウム複合脂肪が、加水分解安定性の低いエステル油で製造することができる。
―さらに、本発明による方法は、塩基を別途準備して添加する必要がないため、より迅速に実行でき、作業の安全性が向上する。
【0071】
次の2つの例では、混合リチウム-カルシウム複合石鹸潤滑グリースとカルシウム-リチウム複合石鹸潤滑グリースの製造方法について説明する。
【0072】
実施例5:セバシン酸を含むリチウム―カルシウム複合石鹸潤滑グリースの製造
38.6gのセバシン酸、14.1gの水酸化カルシウム及び150gの水が、撹拌機付きの加熱可能な反応容器に投入された。これらの混合物が撹拌されながら90℃に加熱された。次に、180.0gの12-ヒドロキシステアリン酸が加えられ、生地状の塊が形成されるまで30分間混合された。反応混合物に、500gのポリアルファオレフィン8(100℃に予熱されたもの)が加えられ、30分間攪拌しながら混合した。次に、この混合物に25.2gの粉末状の乾燥した水酸化リチウムが加えられ、反応混合物が同じ温度で30分間撹拌された。次に、反応混合物が100℃に加熱され、続いて300gの予熱されたポリアルファオレフィン8が添加された。次に、混合物が105℃まで加熱され、その間にバッチの脱水が行われた。105℃に達したあと、442.2gのポリアルファオレフィン8が加えられ、バッチが2.5時間かけて最終温度205℃まで加熱された。その後、グリースは60℃まで冷却され、コロイドミルを使用して均質化された。
【0073】
次の表は、リチウム-カルシウム複合脂肪の特性をまとめたものである。
【0074】
【0075】
リチウム-カルシウム複合石鹸潤滑グリースの形成により、滴点が高くなっている。従来のプロセス(基油で開始)と比較して、本発明のプロセスは、ちょう度の安定性が向上し、かつ、油分離が低減された潤滑グリースを提供する。耐水性も、90℃の温水でも耐性レベル0(BWST0)と高いレベルである。ここでは、カルシウム石鹸含有量の効果が、好影響を与えている。純粋なリチウム複合グリースと比較すると、30~40%の水酸化リチウムが節約され、コスト価格に好影響を与える。
【0076】
実施例6:セバシン酸を含むカルシウム-リチウム複合石鹸潤滑グリースの製造
撹拌機付きの加熱可能な反応容器において、26.0gのセバシン酸が150gの水に投入され、60℃に加熱された。撹拌しながら、11.3gの粉末状の水酸化リチウムが加えられ、混合物の反応が完了するように30分間撹拌された。混合物が撹拌されながら85℃に加熱され、121.5gの12-ヒドロキシステアリン酸が加えられ、均一な混合物が形成されるまで撹拌された。これに、グループ1オイル(SN600)とナフテン系ベースオイル(T110)とが1:1となる600gの混合物が加えられ、撹拌しながら均質化した。続いて、15.0gの粉末状の水酸化カルシウムが加えられ、完全に鹸化されるように、混合物が85℃で30分間撹拌された。次に、反応混合物が100℃に加熱され、続いて100℃に予熱された400gの上記基油が加えられた。その後、この調合物が105℃に加熱され、このバッチが脱水された。さらに、326.2グラムの予熱した基油が追加された。このバッチが脱水された後、最終温度を150℃に上昇させた。前記バッチが60℃まで冷却された後、コロイドミルを使用して均質化された。
【0077】
【0078】
カルシウム-リチウム複合石鹸の形成により、その滴点は、実施例5のリチウム-カルシウム複合グリースのレベルよりも下回っている。従来の方法と比較して、新しいプロセスを含む方法では、機械的安定性が向上し、かつ、ちょう度収率が少し向上した潤滑グリースが生成される。このカルシウム-リチウム複合石鹸潤滑グリースは、経済的に非常に魅力的である。実施例6に記載されたベースグリースは、リチウム12-ヒドロキシステアレートグリースの経済的な代替品として考えることができる。さらに、通常の200℃を超えるプロセス温度と比較して、比較的低い150℃プロセス温度が使用されるため、この製造プロセスはエネルギーの面でより有利である。まとめると、本発明による製造方法は、とりわけ経済的に非常に魅力的な、優れた耐水性及び良好なちょう度安定性を有するリチウム-カルシウム複合石鹸潤滑グリースの製造にも使用できると言える。
【国際調査報告】