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特表2024-544315血管炎及び血管炎に関連する疾患を処置(治療)又は予防するための組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-28
(54)【発明の名称】血管炎及び血管炎に関連する疾患を処置(治療)又は予防するための組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/15 20150101AFI20241121BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20241121BHJP
   A61K 41/00 20200101ALI20241121BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20241121BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20241121BHJP
   C12N 5/078 20100101ALN20241121BHJP
【FI】
A61K35/15
A61K35/17
A61K41/00
A61P9/00
A61P29/00
C12N5/078
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024536323
(86)(22)【出願日】2022-12-20
(85)【翻訳文提出日】2024-07-25
(86)【国際出願番号】 EP2022087106
(87)【国際公開番号】W WO2023118219
(87)【国際公開日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】21216132.7
(32)【優先日】2021-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522244458
【氏名又は名称】アプロサイエンス アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アンケルスミット、ヘンドリック ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ミルドナー、ミカエル
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AC20
4B065BA30
4B065BD15
4B065BD18
4B065BD50
4B065CA44
4C084AA11
4C084MA65
4C084NA14
4C084ZA361
4C084ZA362
4C084ZB111
4C084ZB112
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB34
4C087BB43
4C087BB64
4C087MA65
4C087NA14
4C087ZA36
4C087ZB11
(57)【要約】
本発明は、末梢血単核球(PBMC)細胞培養物の上清を含む、血管炎の処置(治療)又は予防に使用するための組成物に関し、PBMC細胞培養物は、1x10~1x10個のPBMC/mlを含み、培養前又は培養中に放射線に供され、少なくとも4時間培養される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
末梢血単核球(PBMC)細胞培養物の上清を含む、血管炎の処置又は予防に使用するための組成物であって、上清が、PBMC細胞培養物を少なくとも4時間培養することによって得ることができ、該PBMC細胞培養物が、培養前又は培養中に放射線に供される1x10~1x10個のPBMC/mlを含む、組成物。
【請求項2】
皮下、筋肉内、真皮下、皮内又は静脈内に投与される、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項3】
PBMC細胞培養物が、単球、T細胞、B細胞及び/又はNK細胞を含む、請求項1又は2に記載の使用のための組成物。
【請求項4】
PBMCが、細胞増殖培地、好ましくはCellGro培地、より好ましくはCellgro GMP DC培地、RPMI、DMEM、X-vivo及びUltracultureからなる群から選択される細胞培養培地中で培養される、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項5】
PMCが、少なくとも10Gy、好ましくは少なくとも20Gy、より好ましくは少なくとも30Gy、より好ましくは少なくとも40Gy、より好ましくは少なくとも50Gyの線量で電離放射線に供される、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項6】
PBMCが、その上清を単離する前に少なくとも6時間、好ましくは少なくとも12時間、より好ましくは少なくとも24時間培養される、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項7】
PCBMC細胞培養物が、1x10~1x10個のPBMC/ml、好ましくは2x10~25x10個のPBMC/mlを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管炎及び血管炎に関連する疾患を処置(治療)及び予防するための組成物及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血管炎は、動脈、静脈及びリンパ管を含む血管の稀な疾患の群であり、それらの破壊をもたらす。好中球は、好中球細胞外トラップ(NET)の放出によって内皮細胞に影響を及ぼす血管炎の重要な駆動因子の1つである。血管炎には多くのタイプがあり、症候、重症度及び持続期間が大きく異なり得る。ほとんどのタイプの血管炎は稀であり、その原因は一般に知られていない。血管炎は、性別及び年齢を問わずに発症する。
【0003】
血管炎は、皮膚、肺、関節、腎臓、胃腸管、血液、眼、脳、神経、副鼻腔、鼻及び喉を含む実質的にすべての器官系に影響を及ぼす全身性疾患である。器官関与のパターンは、個体、並びに血管炎のタイプに特異的である。
【0004】
血管炎の処置(治療)は、主に、炎症を制御すること、及び血管炎を誘発し得る何らかの根本的な症状を管理することに焦点を当てている。現在の治療法は、典型的には、プレドニゾンなどのコルチコステロイドに基づく。コルチコステロイドの副作用は、特に長期間にわたって摂取された場合、深刻であり得る。考えられる副作用には、体重増加、糖尿病及び骨の衰弱が含まれる。他の薬は、コルチコステロイドの投与量をより迅速に漸減させることができるように、炎症を制御するためにコルチコステロイドと共に処方され得る。使用される薬は、存在する血管炎のタイプに依存する。これらの薬には、メトトレキサート、アザチオプリン、ミコフェノラート、シクロホスファミド、トシリズマブ又はリツキシマブが含まれ得る。時折、血管炎は動脈瘤を引き起こす。動脈瘤は、破裂のリスクを低減するために手術を必要とし得る。閉塞した動脈はまた、患部への血流を回復させるために外科的処置を必要とし得る。
【0005】
これらの医療介入はすべて、副作用を有し、及び/又は患者の健康に対する特定のリスクを有する。さらに、それらはすべて、主にT細胞機能に影響を及ぼすことによって組織炎症を標的とし、それによって内皮への好中球動員を阻害することが知られている。NETの放出を防止するか、又は内皮を保護する処置選択肢は、これまで利用可能でない。したがって、本発明の目的は、血管炎及びそれに関連する疾患を処置(治療)又は予防するための代替手段及び方法を提供することである。
【発明の概要】
【0006】
驚くべきことに、PBMC細胞培養物の上清を含む組成物であって、上清が、PBMC細胞培養物を少なくとも4時間培養することによって得ることができ、PBMC細胞培養物が、培養前又は培養中に放射線に供される1x10~1x10個のPBMC/mlを含む組成物は、血管炎の処置(治療)又は予防に使用することができることが判明した。
【0007】
近年、細胞ベースの治療は、損傷した組織及び器官を修復するか、それらの機能を回復するか、又は損傷した細胞を置き換えるかのいずれかのために、現代の再生医療において目に見える進歩を遂げている。自己再生能、いくつかの異なる細胞型に分化する可能性、及び多数の成功した前臨床研究により、間葉系幹細胞(MSC)を用いた再生療法は、非常に有望なアプローチであると考えられている。有望な前臨床データにもかかわらず、ファーストインメン臨床試験のほとんどは、患者において有効性を示すことができなかった。MSCの作用様式(MOA)に関して、注入された細胞から放出されるパラクリン因子が有益な生物学的効果の多くに関与し、したがって組織再生に有意に寄与することがますます明らかになってきている。幹細胞セクレトームに基づく治療法にはかなりの限界、すなわち、細胞の存在量が少ないこと、細胞を得るための侵襲的手順、及び高コストがあることから、再生能力を有する細胞セクレトームの代替供給源が非常に求められている。
【0008】
過去数年において、いくつかの研究により、放射線照射された末梢血単核球(APOSEC)のセクレトームがMSCの有益な代替物として示唆された。APOSECは、幹細胞から放出されたパラクリン因子と比較して同等の組織再生特性を示し、より容易に得ることができる(Ankersmit,H.J.et al.Eur.J.Clin.Invest.39(2009):445-456)。APOSECの詳細な機能分析により、タンパク質、脂質及び細胞外小胞が3つの主要な生物学的構成成分として明らかになった。それらのMOAは非常に多様であり、誘導された組織損傷の多くの前臨床実験設定で試験されている。
【0009】
細胞、特に哺乳動物細胞は、培養中に多数の物質を細胞培養培地へ分泌することが知られている。そのようにして得られた馴化培養培地は、様々な疾患及び障害の処置及び/又は予防に使用することができる。例えば、国際公開第2010/070105号及び国際公開第2010/079086号は、PBMCの培養によって得られ、様々な炎症症状の処置に使用することができる馴化培養培地(「上清」)を開示している。したがって、本明細書で使用される「末梢血単核球(PBMC)細胞培養物の上清」とは、培養培地中でインビトロでPBMCを培養することによって得ることができる任意の上清を指す。培養工程の後、実質的に無細胞の、好ましくは完全に無細胞の上清を得るために、培養PBMCを培養培地から除去する。PBMC培養物の上清は、PBMC及び/又はさらには溶解されたPBMCによって産生され分泌される物質を培養培地の成分の隣に含む。「上清」は、PBMCを培養することによって得ることができる馴化培養培地と交換可能に使用することができる。
【0010】
本発明の上清が、血管炎の形成に関与するNETの放出を阻害又はさらには防止することができるという驚くべき発見である。本発明の上清がそのプロテアーゼ阻害活性により内皮保護効果を示すことも驚くべきことである。これは、血管の完全性及び血管炎を予防及び/又は処置(治療)する機能の維持を支援する。
【0011】
本発明の別の態様は、血管炎の処置(治療)を必要とする対象の血管炎を処置(治療)する方法であって、末梢血単核球(PBMC)細胞培養物の上清を含む組成物を当該対象に投与する工程を含み、上清が、PBMC細胞培養物を少なくとも4時間培養することによって得ることができ、PBMC細胞培養物が、培養前又は培養中に放射線に供される1x10~1x10個のPBMC/mlを含む、方法に関する。
【0012】
本発明のさらに別の態様は、血管炎の処置(治療)又は予防に使用するための医薬を調製するための、末梢血単核球(PBMC)細胞培養物の上清を含む組成物の使用であって、上清が、PBMC細胞培養物を少なくとも4時間培養することによって得ることができ、PBMC細胞培養物が、培養前又は培養中に放射線に供される1x10~1x10個のPBMC/mlを含む、使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】APOSECがセリンプロテアーゼを阻害し、内皮バリア機能のトロンビン誘導性の減少をインビトロで阻止することを示す。
図2】AposecがNET誘導性内皮組織損傷を防止することを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書で使用される「予防する」及び「予防」という用語は、本発明による上清の投与に起因するヒト及び哺乳動物の身体における血管炎の再発、発生及び発症の予防又は阻害を指す。いくつかの実施形態では、「予防する」及び「予防」は、血管炎を発症するリスクの低減を指す。「予防する」という用語は、血管炎が生じるのを予防するだけでなく、その進行を停止し、一度確立されたその結果を低減させるための対策も包含する。
【0015】
本明細書で使用される「処置」及び「処置する」という用語は、血管炎の進行及び持続期間の低減又は阻害、血管炎の重症度の低減又は改善、及びその1つ又は複数の症候の改善を指す。「処置」は、血管炎の症候の改善及び/又は回復も包含する。「処置」という用語は、治療的処置及び予防的処置の両方を指す。例えば、本発明の組成物及び方法による処置から利益を得る者には、既に血管炎を有する者並びに血管炎が予防されるべき者が含まれる。
【0016】
本明細書で使用される場合、「血管炎」という用語は、血管(すなわち、静脈又は動脈)の炎症を指す。血管炎は、急性又は慢性であり得、低免疫又は免疫性であり得、大型(「大血管脈管炎」)又は小血管(「小血管脈管炎」)であり得、原発性又は別の障害に続発し得る。血管炎の例としては、例えば、ベーチェット症候群、バージャー病(閉塞性血栓血管炎)、抗好中球細胞質自己抗体(ANCA)関連全身性血管炎(AASV)(ヴェーゲナー肉芽腫症(WG)、顕微鏡的多発血管炎(MPA)及びチャーグ・ストラウス症候群(CSS)が含まれる)、クリオグロブリン血症、巨細胞性動脈炎(GCA)、ヘノッホ-シェンライン紫斑病、過敏性血管炎、川崎病(皮膚粘膜リンパ節症候群)、結節性多発動脈炎、リウマチ性血管炎、高安動脈炎、及びリウマチ性多発筋痛(PMR)が挙げられる。自己免疫性血管炎を含む血管炎は、急性又は慢性であり得、原発性又は別の障害に続発し得る。本明細書で使用される場合、「自己免疫性血管炎」という語句は、1つ又は複数の自己抗原に反応する対象の免疫系から生じる血管炎を指す。
【0017】
血管炎は、小血管、中血管及び大血管に影響を及ぼし得、耳-鼻-喉(ENT)の血管炎、好ましくはENT-管の肉芽腫性及び/又は壊死性病変、肺出血、喀血、皮膚血管炎、糸球体腎炎、タンパク尿、血液尿、巣状血管炎、好酸球性心筋炎、心筋症及びウイルス関連血管炎で起こり得る。血管炎は、例えば、Sars-CoV2のようなウイルス感染によって引き起こされる急性呼吸窮迫症候群(ARDS)においても役割を果たす。したがって、ARDS、特にSars-CoV2によって引き起こされるARDSの処置(治療)及び/又は予防に本発明の組成物を使用することが特に好ましい。
【0018】
本発明のさらに好ましい実施形態によれば、PBMCは、細胞増殖培地、好ましくはCellGro培地、より好ましくはCellgro GMP DC培地、RPMI、DMEM、X-vivo及びUltracultureからなる群から選択される細胞培養培地中で培養される。
【0019】
本発明によれば、PBMC細胞培養物のPBMCは、培養前又は培養中にストレス誘導条件に供される。
【0020】
本明細書で使用される「ストレス誘導条件」という用語は、ストレスを受けた細胞をもたらす培養条件を指す。細胞にストレスを引き起こす条件は、少なくとも任意の種類の放射線(例えば、UV放射線、ガンマ線などの電離放射線)、好ましくは電離放射線又はUV放射線を含む。しかしながら、細胞は、細胞に追加のストレスを引き起こし得る熱、化学物質、低酸素、浸透圧、pHシフトなどにさらに供され得る。
【0021】
したがって、ストレス誘導条件はまた、低酸素、オゾン、熱(例えば、PBMCの最適培養温度、すなわち37℃よりも2℃超、好ましくは5℃超、より好ましくは10℃超、高い温度)、化学物質、浸透圧(すなわち、体液中、特に血液中で規則的に起こる浸透圧条件と比較して少なくとも10%減少する浸透圧条件)又はそれらの組み合わせを含み得る。
【0022】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、PBMCは、少なくとも10Gy、好ましくは少なくとも20Gy、より好ましくは少なくとも30Gy、より好ましくは少なくとも40Gy、より好ましくは少なくとも50Gyの線量で電離放射線、好ましくはガンマ線に供される。
【0023】
本発明の好ましい実施形態によれば、PBMCは、その上清を単離する前に、少なくとも6時間、好ましくは少なくとも12時間培養される。
【0024】
本発明の好ましい実施形態によれば、PBMC細胞培養物は、1x10~1x10個のPBMC/ml、好ましくは2x10~25x10個のPBMC/mlを含む。
【0025】
PBMCを培養することによって得ることができる上清の組成物は、細胞培養培地1mlあたり特定量のPBMCを培養する場合に有利な特性を示すことが判明した。
【0026】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、0.1~5mlの上清/kg体重、好ましくは0.3~3ml/kg体重、より好ましくは0.5~2ml/kg体重、より好ましくは0.8~1.2ml/kg体重を、ヒト又は動物の哺乳動物の身体に投与する。
【0027】
本発明の組成物は、血管炎及び血管炎に関連する疾患を処置(治療)又は予防するのに十分な量の上清を含む。上記のようにヒト又は哺乳動物へkg体重あたり投与される上清の体積(容量)は、上清を直接指す。体積が大きすぎてヒト又は哺乳動物の身体に投与することができない場合、この体積は、例えば凍結乾燥によって低減させることができる。したがって、投与される本発明の組成物の体積は、上清について示される体積よりも低くてもよい。当業者は、特定の投与経路を使用してどのくらいの体積を投与することができるかを知っている。
【0028】
本発明の好ましい実施形態によれば、組成物は、吸入によって、局所的に、経口的に、舌下に、頬側に、皮下又は静脈内に投与され、それによって、本発明の組成物を静脈内に投与することが最も好ましい。
【0029】
本発明の組成物は、希釈剤、安定剤、担体などの薬学的に許容され得る賦形剤を含み得る。剤形に応じて、本発明による調製物はそれぞれの成分を含む。これを調製する方法は、当業者に周知である。
【0030】
本発明による組成物の貯蔵寿命を延ばすために、上清又は完全な組成物さえも凍結乾燥することができる。そのような調製物を凍結乾燥する方法は、当業者に周知である。
【0031】
その使用前に、凍結乾燥調製物を水、又は緩衝剤、安定剤、塩などを含む水溶液と接触させることができる。
【0032】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、哺乳動物は、ウマ、イヌ、ネコ又はラクダである。
【0033】
本発明の組成物は、あらゆる種類の哺乳動物を処置するために使用することができる。しかしながら、前述の哺乳動物が最も好ましい。
【0034】
本発明の別の態様は、上で定義した組成物を投与する工程を含む、血管炎を処置(治療)又は予防する方法に関する。
【実施例
【0035】
この例は、APOSECが血管の炎症及び損傷を二重の機構によって保護することを示す:1)APOSECはNETの誘導を阻害し、それによってNET誘導性血管炎を予防する、及び2)APOSECは血管漏出を直接予防する。
【0036】
材料及び方法
PBMCの単離及びPBMCセクレトームの生成
APOSECは、オーストリア赤十字社、オーバーエスターライヒ州輸血サービス(オーストリア)により、適正製造規範(GMP)に準拠して製造された。簡潔には、Ficoll-Paque PLUS(GE Healthcare、米国)支援密度勾配遠心分離によってPBMCを得て、60Gyのセシウム137ガンマ線照射(IBL 437C、Isotopen Diagnostik CIS GmbH、ドイツ)に曝露した。細胞を2.5×10個の細胞/mL(25U/mlに等しい)の濃度に調整し、フェノールレッドを含まないCellGenix GMP DC培地(CellGenix GmbH、ドイツ)中で24時間培養した。細胞及び細胞残屑を遠心分離によって除去し、上清を0.2μmフィルタに通した。ウイルスクリアランスのためにメチレンブルー処理を行った。セクレトームを凍結乾燥し、高線量ガンマ線照射によって最終滅菌し、凍結保存した。
【0037】
プロテアーゼ活性アッセイ
プロテアーゼ活性に対するAPOSECの阻害効果を試験するために、0.05%の濃度の非選択的セリンプロテアーゼトリプシン(Gibco)を使用した蛍光酵素活性アッセイ(Enzcheck)を行った。製造業者の指示に従って、PBMCsecストック濃度を12.5U/mlに設定した。
【0038】
経内皮電気抵抗(TEER)
皮膚微小血管内皮細胞(DMEC)の電気インピーダンスの変化を、ECISシステム(Applied Biophysics)を使用して測定した。ECISチャンバ(ibidi GmbH、ドイツ)の各ウェルに合計4000個/cmの細胞を播種した。完全なコンフルエントに達したら、細胞を、それぞれ対照培地(12,5U/mlで濃縮)又はAPOSEC(12,5U/mlで濃縮)と組み合わせたトロンビン及びトロンビンで処理した。内皮抵抗性を、以前に公開されたプロトコル(Schossleitner,K.et al.Arter.Thromb Vasc Biol 36(2016):647-654)に従って、処置の追加後2時間にわたって250Hzでモニターした。
【0039】
内皮細胞と好中球の共培養
好中球を健康なドナーから単離し、イオノマイシンで刺激してAPOSECの存在下又は非存在下でNET形成を誘導した。細胞をそれぞれの処理を用いて共に37℃で1時間インキュベートし、続いて初代ヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)に添加する前にPBSで洗浄した。共培養は、コンフルエントなHUVEC単層に好中球を直接添加すること、又は0,4μmメッシュ/フィルタによる物理的バリアを提供するトランスウェルインサートによって2つの細胞集団を分離することのいずれかによって実施した。2時間後、好中球を除去し、HUVECを標準条件下で24時間培養した。HUVECの細胞培養上清を得て、さらなる処理まで-20℃で保存した。
【0040】
ELISA
傷害又は損傷を受けた内皮組織(すべてR&D Systems、米国)に関連する一般的な炎症促進性サイトカイン及び活性化マーカーについて、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)を製造者の説明書に従って実施した。citH3 ELISA(クローン11D3、Cay501620-96、Caymen)を、製造業者によって推奨されるように実施した。
【0041】
フローサイトメトリー
フローサイトメトリー評価は、製造業者によって推奨されるように、FACSCalibur(BD Biosciences、米国)で日常的に行った。ネトーシスを評価するために、CD66b-Pacific Blue(Biolegend、米国)、CD15-PE-Cy7(Biolegend)及びcitH3-FITC(Abcam、英国)による三重染色を行った。
【0042】
結果
APOSECはセリンプロテアーゼを阻害し、プロテアーゼ誘導性血管漏出を阻止する
セリンプロテアーゼ活性を阻害するAPOSECの効力を調べるために、セリンプロテアーゼトリプシンに対するプロテアーゼ活性アッセイを行った。対照培地はプロテアーゼ活性に対して無視できる阻害効果を示したが(3.72%)、APOSECの添加はトリプシンの酵素活性の41.96%阻害をもたらした(図1A)。次に、APOSECが、電気抵抗によって測定される内皮バリアのトロンビン誘導性破壊を妨害するかどうかも調べた。基礎培地のみでは効果が示されなかったが、トロンビンの添加は内皮抵抗性の強い低下をもたらした。この低下は、APOSECの添加によって大幅に低減された。対照培地の添加は、内皮抵抗性に対して弱い効果しか示さなかった(図1B)。
【0043】
詳細には、図1は、APOSECがセリンプロテアーゼを阻害し、内皮バリア機能のトロンビン誘導性の減少をインビトロで阻止することを示す。図1Aによれば、APOSECは、対照培地と比較した場合、60分後にトリプシンの酵素活性を有意に阻害する(対照培地3.72%対41.96%のトリプシン活性の相対阻害、p値=0.0002)。図1Bによれば、皮膚微小血管内皮細胞(DMEC)は、基礎培地と比較した場合、セリンプロテアーゼトロンビンでの処理後にバリア機能の減少を示した(基礎培地1対0.29トロンビン)。トロンビンと対照培地との組み合わせは、トロンビンへのAPOSECの匹敵する減少(基礎培地1対0.38トロンビン+対照培地)をもたらしたが、トロンビンへのAPOSECの添加は、有意により低い低減(基礎培地1対87.5トロンビン+Aposec)を示し、内皮バリアの破壊を防止する。トロンビン+Aposecのバリア機能は、トロンビン(p値=0.0071)及びトロンビン+対照培地(p値=0.0126)と比較して有意に高い
【0044】
APOSECは、内皮細胞のNET形成及びNET誘導性活性化を阻害する
APOSECがイオノマイシン誘導性NET形成に影響を及ぼすかどうかを調べるために、APOSECの非存在下又は存在下で全血をイオノマイシンで刺激した。ネトーシスの特異的マーカーであるシトルリン化ヒストン-3(CitH3)の誘導を、フローサイトメトリー(図2A)及びELISA(図2B)によって測定した。両方のアッセイにおいて、イオノマイシン誘導性ヒストンシトルリン化の強い低減が観察された(図2A及びB)。次に、インビトロ共培養モデルにおけるNET誘導性内皮組織損傷に対するAPOSECの効果を調べた。活性化された好中球の直接接触が内皮細胞の活性化及び損傷に必要であるかどうかを評価するために、好中球及び内皮細胞間の直接接触(図2D)又はトランスウェルインサートの形態でのそれらの間の物理的バリア(図2C)のいずれかとの共培養を確立した。物理的バリアは、図2Cに示されるように、内皮細胞に対する好中球の炎症促進効果並びに組織損傷能力を阻止するのに十分であると思われた。しかしながら、イオノマイシン活性化好中球と内皮細胞との間の直接接触は、インターロイキン(IL)-6、IL-8及び腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)を含む炎症促進性サイトカイン、並びに細胞間接着分子1(ICAM-1)などの内皮活性化マーカーの産生を有意に増加させた(図2D)。内皮細胞への添加前にAPOSECで活性化好中球を処理すると、内皮細胞の炎症反応がほぼ完全に消失し、未処理細胞と同様のサイトカインレベルに似ていた(図2D)。
【0045】
図2は、AposecがNET誘導性内皮組織損傷を防止することを示す。図2Aでは、イオノマイシンで刺激し、APOSECで処理した全血試料のフローサイトメトリー分析(n=3)を示す。図2Bは、イオノマイシンで刺激し、APOSECで処理した全血試料のシトルリン化ヒストンh3(citH3)のELISA(n=2)を示す。図2C及び図2Dは、細胞集団間のバリアとしてのトランスウェルインサート(図2C)又は直接接触(図2D)のいずれかを用いた好中球-HUVEC共培養に由来するHUVECの炎症促進性サイトカイン及び活性化マーカーのELISAを示す。処理条件は、各グラフの下に-及び+で示されている。IL6、インターロイキン-6;IL8、インターロイキン-8;TNF-α、腫瘍壊死因子α;ICAM-1、細胞内接着分子1;-、非存在;+、存在。
【0046】
結論
まとめると、上記のデータは、APOSECが、血管の完全性の酵素的破壊を阻害することによって、及び好中球によるNET放出を阻害することによって血管損傷を低減させることができることを示している。これらの機序は、あらゆる種類の血管炎、ENT-管の肉芽腫性又は壊死性病変、肺出血及び喀血、壊死性皮膚血管炎に伴う点状又は発疹、糸球体腎炎及びタンパク尿、血液尿、末梢神経系に影響を及ぼす神経栄養血管の限局性血管炎、好酸球性心筋炎及び心筋症、並びにCovid-19を含む様々な重症疾患に関与しており、これらはすべて、APOSECの適用から利益を得る可能性がある。
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図2D
【手続補正書】
【提出日】2023-10-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
末梢血単核球(PBMC)細胞培養物の上清を含む、血管炎の処置又は予防に使用するための組成物であって、上清が、PBMC細胞培養物を少なくとも4時間培養することによって得ることができ、該PBMC細胞培養物が、培養前又は培養中に少なくとも10Gyの線量で電離放射線に供される1x10~1x10個のPBMC/mlを含む、組成物。
【請求項2】
皮下、筋肉内、真皮下、皮内又は静脈内に投与される、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項3】
PBMC細胞培養物が、単球、T細胞、B細胞及び/又はNK細胞を含む、請求項1又は2に記載の使用のための組成物。
【請求項4】
PBMCが、細胞増殖培地、好ましくはCellGro培地、より好ましくはCellgro GMP DC培地、RPMI、DMEM、X-vivo及びUltracultureからなる群から選択される細胞培養培地中で培養される、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項5】
MCが、少なくとも20Gy、好ましくは少なくとも30Gy、より好ましくは少なくとも40Gy、より好ましくは少なくとも50Gyの線量で電離放射線に供される、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項6】
PBMCが、その上清を単離する前に少なくとも6時間、好ましくは少なくとも12時間、より好ましくは少なくとも24時間培養される、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項7】
PBMC細胞培養物が、1x10~1x10個のPBMC/ml、好ましくは2x10~25x10個のPBMC/mlを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【手続補正書】
【提出日】2024-08-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
末梢血単核球(PBMC)細胞培養物の上清を含む、血管炎の処置又は予防に使用するための組成物であって、上清が、PBMC細胞培養物を少なくとも4時間培養することによって得ることができ、該PBMC細胞培養物が、培養前又は培養中に少なくとも10Gyの線量で電離放射線に供される1x10~1x10個のPBMC/mlを含む、組成物。
【請求項2】
皮下、筋肉内、真皮下、皮内又は静脈内に投与される、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項3】
PBMC細胞培養物が、単球、T細胞、B細胞及び/又はNK細胞を含む、請求項1又は2に記載の使用のための組成物。
【請求項4】
PBMCが、細胞増殖培地、好ましくはCellGro培地、より好ましくはCellgro GMP DC培地、RPMI、DMEM、X-vivo及びUltracultureからなる群から選択される細胞培養培地中で培養される、請求項1又は2に記載の使用のための組成物。
【請求項5】
PBMCが、少なくとも20Gy、好ましくは少なくとも30Gy、より好ましくは少なくとも40Gy、より好ましくは少なくとも50Gyの線量で電離放射線に供される、請求項1又は2に記載の使用のための組成物。
【請求項6】
PBMCが、その上清を単離する前に少なくとも6時間、好ましくは少なくとも12時間、より好ましくは少なくとも24時間培養される、請求項1又は2に記載の使用のための組成物。
【請求項7】
PBMC細胞培養物が、1x10~1x10個のPBMC/ml、好ましくは2x10~25x10個のPBMC/mlを含む、請求項1又は2に記載の使用のための組成物。
【国際調査報告】