IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ポスコ カンパニー リミテッドの特許一覧 ▶ リサーチ インスティチュート オブ インダストリアル サイエンス アンド テクノロジーの特許一覧

<>
  • 特表-海藻類の生長促進用肥料組成物 図1
  • 特表-海藻類の生長促進用肥料組成物 図2
  • 特表-海藻類の生長促進用肥料組成物 図3
  • 特表-海藻類の生長促進用肥料組成物 図4
  • 特表-海藻類の生長促進用肥料組成物 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-28
(54)【発明の名称】海藻類の生長促進用肥料組成物
(51)【国際特許分類】
   C05D 9/02 20060101AFI20241121BHJP
【FI】
C05D9/02
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024536511
(86)(22)【出願日】2022-12-02
(85)【翻訳文提出日】2024-06-18
(86)【国際出願番号】 KR2022019494
(87)【国際公開番号】W WO2023121048
(87)【国際公開日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】10-2021-0183697
(32)【優先日】2021-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(71)【出願人】
【識別番号】592000705
【氏名又は名称】リサーチ インスティチュート オブ インダストリアル サイエンス アンド テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ヒョン-スク
(72)【発明者】
【氏名】ジョン、 スン-ウ
(72)【発明者】
【氏名】クォン、 クワン-ホ
【テーマコード(参考)】
4H061
【Fターム(参考)】
4H061CC08
4H061CC32
4H061CC41
4H061DD11
4H061EE16
4H061EE61
4H061FF09
4H061FF12
4H061LL04
4H061LL25
4H061LL26
(57)【要約】
【要約】
本発明の一観点によれば、Fe成分を含む鉄鋼副産物及びキレート剤を含む海藻類の生長促進用肥料組成物が提供される。本発明によれば、鉄鋼副産物からFeを原料としてリサイクルすることができ、海水中で可溶性Feをキレート化して供給することができ、ペレット型又はブロック型などの固形肥料に製造され、海の肥料として長時間供給されることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe成分を含む鉄鋼副産物及びキレート剤を含む、海藻類の生長促進用肥料組成物。
【請求項2】
キレート剤は、DTPA(diethylenetriaminepentaacetic acid)又はその誘導体である、請求項1に記載の海藻類の生長促進用肥料組成物。
【請求項3】
Fe成分を含む鉄鋼副産物及びキレート剤の重量比が20:1~1:10である、請求項1に記載の海藻類の生長促進用肥料組成物。
【請求項4】
バインダー、ベース、又はそれらの混合物をさらに含む、請求項1に記載の海藻類の生長促進用肥料組成物。
【請求項5】
Fe成分を含む鉄鋼副産物及びキレート剤80~98重量%;及び
バインダー、ベース又はそれらの混合物を含むその他の成分2~20重量%;を含む、請求項4に記載の海藻類の生長促進用肥料組成物。
【請求項6】
バインダーは、リグニン、糖蜜及び廃糖蜜からなる群から選択される少なくとも一つである、請求項4に記載の海藻類の生長促進用肥料組成物。
【請求項7】
海藻類の生長促進用肥料組成物は、ブロック又はペレット剤形である、請求項1に記載の海藻類の生長促進用肥料組成物。
【請求項8】
ブロック又はペレット剤形は、10~50kgfの強度を有する、請求項7に記載の海藻類の生長促進用肥料組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラグ等のFe成分を含む鉄鋼副産物をキレート化することにより、海水中で生長する海藻類に円滑に供給することができる海藻類の生長促進用肥料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
過度な沿岸開発、藻食動物の増加及び気候の変化は、沿岸生態系に多くの影響を及ぼし、特に海藻類が消失する沿岸の磯焼け現象が非常に深刻になっている。韓国水産資源公団(FIRA)が提供した韓半島海岸地域における磯焼け実態調査によると、全国沿岸の磯焼けの被害面積は、2020年を基準にして汝矣島面積の44倍に達する19,100haと報告されている。磯焼けの原因の一つとして指摘されているのは、埋立や干拓などによって河川に流入する海藻類の生育に必要な無機栄養塩類が遮断されることに起因するものと把握される。
【0003】
日本では、2000年の中後半から鉄鋼メーカー及び研究機関を中心にFeを用いた肥料を製造し、海藻類の生育試験効果及び磯焼け地域の復元のための実証試験を行ってきた。その結果、コンブ配偶体の生育と乳葉の生長にFeの処理が有効であることが明らかになった(Kato et al.,2015; Miki et al 2016)。一方、韓国内でも海藻類の生長促進剤として硫酸鉄と腐葉土を用いた発明が報告されている(海藻生長促進剤及びその混合装置:登録番号10-206330)。このように、Feを用いた肥料の開発とその供給目的は、磯焼けが発生する沿岸海域に現れる栄養塩類のうち、Feの欠乏を解消し、海藻類の光合成及び乳葉の生長に必ず必要なFeを供給することにある。
【0004】
一般に海水はpH8.0~8.4程度の弱アルカリ性を示す。Feを含む無機栄養塩類は、pH条件によって可溶化される程度が異なり、適正pHを維持させるか、又はpH条件に合った無機栄養塩の形態を供給する必要がある。特に、弱アルカリ性を示す海水の場合、Feは塩の形態別に可溶化の程度が大きく異なる。一般に、作物に適用されるFe肥料塩(2価鉄)を海水に適用すると、海水中の溶存酸素により急速に酸化され、不溶化形態の3価鉄に転換され、海藻類に利用することができなくなる(kato et al.,2015)。これにより、先行の論文及び特許では、腐食酸を添加してキレート化させることで、溶液状態で鉄の移動を容易にすることができる方法を紹介した。しかし、腐食酸とともに鉄塩を肥料化して海水に適用するためには、流失しないように網や装置を設けなければならないなど、付随的な工程が必要である。
【0005】
したがって、海水中で効果的かつ持続可能な可溶性Feの供給に対する肥料製造方法の開発が必要なのが実情である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、海藻類の生長促進用肥料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一観点によれば、Fe成分を含む鉄鋼副産物及びキレート剤を含む、海藻類の生長促進用肥料組成物が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、鉄鋼副産物からFeを原料としてリサイクルすることができ、海水中で可溶性Feをキレート化して供給することができ、上記可溶性Feはペレット型又はブロック型などの固形肥料に製造され、海の肥料として長時間供給されることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施例1に従って、海水中においてFeの形態別に溶出する量を比較した結果を示したものである。
図2】本発明の実施例2に従って、肥料組成物のFe総重量に対するDTPAの重量%比率によるFeの溶出濃度を示したものである。
図3】本発明の実施例3に従って製造した固形肥料を撮影したものである。
図4】本発明の実施例4に従って、本発明の肥料組成物を処理して生育したコンブの重量変化を測定して示したものである。
図5】本発明の実施例5に従って、実海域試験場で本発明の肥料組成物を処理して生育したカジメの長さの変化を測定して示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明する。しかし、本発明の実施形態は様々な他の形態に変形することができ、本発明の範囲は以下で説明する実施形態に限定されるものではない。
【0011】
本発明は、海藻類の生長促進用肥料組成物に関する。
【0012】
本発明を適用することができる海藻類としては、青のり、ワカメ、コンブ、カジメ、ヒジキなどが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、例えば、コンブ又はカジメに適用することができる。
【0013】
具体的に、本発明の一側面によれば、Fe成分を含む鉄鋼副産物及びキレート剤を含む、海藻類の生長促進用肥料組成物が提供される。
【0014】
本発明において、上記Fe成分を含む鉄鋼副産物はスラグ等を使用することができ、鉄鋼工程で発生する副産物としてFe成分を10~30重量%、例えば、約20重量%含むものであれば、制限なく活用することができるが、例えば、製鋼スラグ、好ましくはエージングされていない製鋼スラグを使用することができる。例えば製鋼スラグを100~150℃、例えば105℃で1時間~48時間、例えば24時間乾燥させた後、500μm以下に粉砕して粉末の形態で製造することができる。
【0015】
Feは、無機栄養塩類であって、pH8.0~8.4の弱アルカリ性を示す海水のpH条件で2価Fe又は3価Feの形態で存在することができる。肥料として使用されるFeは、2価Feであることができ、海水中で溶存酸素によって不溶性の3価Feに転換されることができる。
【0016】
これにより、上記キレート剤は、海水中でFeが不溶性形態に酸化されることを防止し、溶液状態でFeの移動が容易になるように鉄塩を肥料化することができる。
【0017】
上記キレート剤としては、作物用キレート剤を使用することができ、例えば、EDTA(Ethylenediamine tetra-acetic acid)、DTPA(Diethylenetriamine penta-acetic acid)などを使用することができ、好ましくはDTPAを使用することができる。
【0018】
上記Fe成分を含む鉄鋼副産物及びキレート剤は、重量比で20:1~1:10であってもよく、好ましくは10:1~1:10であってもよく、さらに好ましくは13:1~2:1であってもよい。
【0019】
また、本発明の海藻類の生長促進用肥料組成物は、バインダー、ベース又はそれらの混合物をさらに含むことができる。
【0020】
具体的に、上記バインダーは、固形の肥料剤形を製造するために使用できるものであれば、制限なく使用することができるが、例えば、リグニン、糖蜜及び廃糖蜜からなる群から選択される少なくとも一つを使用することができ、好ましくは糖蜜を使用することができる。
【0021】
一方、本発明の海藻類の生長促進用肥料組成物がバインダー及びベースの混合物を含む場合、これらは、重量比で2:1~20:1の比率で混合されたものであってもよい。
【0022】
上記ベースは、肥料組成物に通常使用されるベースであれば、制限なく使用することができ、例えば、モナザイト、ゼオライトなどの希土類鉱物などを使用することができる。
【0023】
本発明において、バインダー、ベース又はそれらの混合物を含む場合、上記肥料組成物は、Fe成分を含む鉄鋼副産物及びキレート剤80~98重量%;及びバインダー、ベース、又はそれらの混合物を含むその他の成分2~20重量%;を含むことができる。上記重量範囲内に混合する場合、固形剤形に製造する際に、最も優れた物性を得ることができる。
【0024】
一方、本発明の海藻類の生長促進用肥料組成物は、粉末、ブロック又はペレット剤形であってもよく、好ましくはペレット剤形であってもよい。
【0025】
肥料組成物がブロック又はペレット剤形の場合、強度は10~50kgfであることが好ましく、上記範囲の強度を有する場合、肥料の運送、保管及び使用を考慮すると、取り扱い及び海水の流動による施肥が最も容易であり得る。
【実施例
【0026】
以下、具体的な実施例を通じて本発明についてより具体的に説明する。下記の実施例は、本発明の理解を助けるための例示に過ぎず、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
【0027】
実施例
実施例1:塩の形態によるFeの溶出濃度の測定
pH8.2の海水条件下で塩の形態によるFe溶出性能を比較するために、FeCl3、Fe-EDTA、Fe-DTPAをそれぞれ海水に1mM処理して試験を行った。
【0028】
可溶性Fe溶出試験の進行過程は以下の通りである。浦項の烏島里海水浴場で採水した滅菌海水をメンブレンフィルタで濾過した後、FeCl3、Fe-EDTA、Fe-DTPAをそれぞれ1mMの濃度で投入し、常温で7日間撹拌した。その後、メンブレンフィルタリングした上澄み液をICP-Massを用いて定量分析し、その結果を図1に示した。対照群は海水のみを使用した。その結果、FeCl3、Fe-EDTA群は、Feイオンが0.025~0.028ppmの濃度で溶出した。一方、Fe-DTPA実験群では、0.08ppmの濃度レベルで溶出し、最も高い濃度で溶出することを確認した。したがって、海水条件下でFe塩はDTPAとキレート化したときに最も効果的に溶出することを確認した。
【0029】
実施例2:Feに対するDTPAの重量%比率の測定
Feに対するDTPAの重量%比率を5%~1,000%に変更しながら溶出試験を行って図2に示した。その結果、DTPAの重量%比率が増加するにつれてFeの溶出濃度が増加することが確認できた。
【0030】
実施例3:固形肥料の製造
製鋼スラグ(光陽製鉄所)、DTPA(Shijiazhuang Jackchem Co.)、糖蜜(株)EverMiracle、そして農業用水を用いて固形肥料を製造した。まず、エージング(Aging)されていない製鋼スラグ(光陽製鉄所)を(株)HYOSEOKから購入し、105℃で24時間乾燥させ、直径500μm以下に粉砕して粉末状に用意した。その後、製鋼スラグ:DTPA:糖蜜を158:27:15の重量比で配合してペレット状の固形肥料を製造した。上記固形肥料の強度は13.2kgfで製造された。製鋼スラグ中のFeの総含有量は約20%であり、FeとDTPAの重量比は約1:0.85と測定された。
【0031】
実施例4:海藻類の生育試験
海藻類のコンブ(Laminaria japonica)を全羅南道莞島郡のウリポザから購入して使用した。コンブは、かせ糸に付着しているアポ体段階を使用し、これを均一なサイズに切断して恒温恒湿生長機内で温度15℃、光度40μmol/cm/s、光周期の明暗をそれぞれ12時間の条件を維持した後、収穫した。対照群は、滅菌海水のみを使用した。実施例3で製造した肥料を滅菌海水と共に48時間撹拌してメンブレンフィルタで濾過した後、溶出液を処理群として使用した。滅菌海水と溶出液は、それぞれ7日間隔で交換し、3週間の生育試験を行った。3週間後、対照群と処理群のコンブアポ体生育試験の結果を図4に示した。対照群の単位長さ当たりの重量は9.5mg/cmであり、処理群は13.7mg/cmと測定された。すなわち、処理群が対照群に比べて重量が43.8%増加した。
【0032】
実施例5:実海域試験
鬱陵島南陽里の沖合(緯度37.28、経度130.49)の魚礁に、実施例3で製造した肥料を使用して実海域試験を行った。肥料を施肥した後、5ヶ月間(2021年1月~6月)、魚礁に付着した優占種の海藻類であるカジメ(Ecklonia cava)の生育変化を比較した。対照群と処理群との間の長さの変化を図5に示した。肥料を施肥する前(すなわち、処理群前及び対照群前)のカジメの長さは、対照群と処理群との間に差がなかったが、5ヶ月後の処理群(すなわち、処理群後及び対照群後)は、処理前に比べて長さが28%増加し、対照群は5ヶ月間の長さ生長の変化が大きくなかった。処理群と対照群との間では、処理群において長さが19%増加した。
【0033】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、本発明の権利範囲はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の技術的思想から逸脱しない範囲内で、様々な修正及び変形が可能であるということは当技術分野における通常の知識を有する者には自明である。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】