(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-28
(54)【発明の名称】部分脱アセチル化キトサンを含む生物活性コーティングを有するインプラント
(51)【国際特許分類】
A61L 27/34 20060101AFI20241121BHJP
A61L 31/10 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
A61L27/34
A61L31/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024537004
(86)(22)【出願日】2022-12-20
(85)【翻訳文提出日】2024-08-08
(86)【国際出願番号】 IS2022050009
(87)【国際公開番号】W WO2023119335
(87)【国際公開日】2023-06-29
(32)【優先日】2021-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IS
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524230583
【氏名又は名称】ジーニス エイチエフ.
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100231902
【氏名又は名称】吉田 李花
(72)【発明者】
【氏名】チュエン ホー ンー
(72)【発明者】
【氏名】ギスル オリグッソン
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AB01
4C081AC03
4C081BA12
4C081CD092
4C081CF031
4C081CG02
4C081CG03
4C081CG04
4C081CG05
4C081EA02
4C081EA06
(57)【要約】
インプラントをコーティングするのに有用な組成物であって、約30%~約75%の範囲内の脱アセチル化度を有する部分脱アセチル化キトサンを含有する微粒子を含み、微粒子は、一般に、50μm未満の平均粒径を有する、組成物が提供される。約30~75%の範囲内の脱アセチル化度を有するコーティング非架橋部分脱アセチル化キトサン(PDC)を含有する外科用インプラント、及びそのようなインプラントをコーティングする方法も提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外科用インプラントのためのキトサン系コーティングであって、前記コーティングは、約30~75%の範囲内の脱アセチル化度を有する非架橋部分脱アセチル化キトサン(PDC)を含み、前記PDCは、50μm未満の平均粒径を有する微粒子の形態である、キトサン系コーティング。
【請求項2】
前記微粒子が球形状を有する、請求項1に記載のキトサン系コーティング。
【請求項3】
前記PDCが非晶質である、請求項1又は2に記載のキトサン系コーティング。
【請求項4】
前記PDCは、約35%~約70%の範囲内、約35%~約60%の範囲内、約40%~約75%の範囲内、約40%~約60%の範囲内、又は約45%~約55%の範囲内の脱アセチル化度を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のキトサン系コーティング。
【請求項5】
前記コーティングが、2~25μmの範囲内、好ましくは5~15μmの範囲内の乾燥厚さを有するか、又は前記コーティングが、20~250μmの範囲内、好ましくは40~100μmの範囲内の湿潤厚さを有する、請求項4に記載のキトサン系コーティング。
【請求項6】
前記コーティングが、約25~500μmの範囲内、5~250μmの範囲内、約20~100μmの範囲内、約25~100μmの範囲内、約5~100μmの範囲又は5~50μmの範囲内の表面粗さを有する、請求項1~5のいずれか一項に記載のキトサン系コーティング。
【請求項7】
前記コーティングが、約10~約90%の範囲内、好ましくは約25%~約75%の範囲内の外科用インプラント上の単位面積にわたる被覆率を有する不均質層を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のキトサン系コーティング。
【請求項8】
前記コーティングが、30μm未満又は10μm未満の平均粒径を有する微粒子の形態のPDCを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載のキトサン系コーティング。
【請求項9】
外科用インプラントをコーティングするための組成物であって、約45%~約55%の範囲内の脱アセチル化度を有する部分脱アセチル化キトサン(PDC)を含有する微粒子を含み、前記微粒子は50μm未満の平均粒径を有する、組成物。
【請求項10】
水溶液中のコロイド懸濁液の形態である、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記PDCが非晶質である、請求項9又は10に記載の組成物。
【請求項12】
コロイド状ゲル様マトリックス中に懸濁された微粒子を含む前記コロイド状ゲル様マトリックスを得るために、前記水溶液中に懸濁されている、物理的に分散された微粒子を含む、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記微粒子が、約5μm~約50μmの範囲内、好ましくは約5μm~約25μmの範囲内、より好ましくは約5μm~約15μmの範囲内の平均粒径を有する、請求項8~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
50μm未満の平均粒径を有する微粒子の形態の、非架橋部分脱アセチル化キトサン(PDC)を含む表面コーティングでその外面又はその一部がコーティングされていることを特徴とする、外科用インプラント又はその一部であって、前記PDCは、約30~75%の範囲内の脱アセチル化度を有する、外科用インプラント又はその一部。
【請求項15】
前記PDCが、約35%~60%の範囲内、約40%~60%の範囲内、約45~55%の範囲内、又は約50%の脱アセチル化度を有する、請求項14に記載の外科用インプラント又はその一部。
【請求項16】
前記PDCが非晶質である、請求項14又は15に記載の外科用インプラント又はその一部。
【請求項17】
前記表面コーティングが、2~25μmの範囲内、好ましくは5~15μmの範囲内の乾燥厚さを有する、請求項14~16のいずれか一項に記載の外科用インプラント又はその一部。
【請求項18】
前記表面コーティングが、20~250μmの範囲内、50~250μmの範囲内、30~150μmの範囲又は40~100μmの範囲内の湿潤厚さを有する、請求項14~17のいずれか一項に記載の外科用インプラント又はその一部。
【請求項19】
前記表面コーティングが、前記PDCを含む非酸性化コロイド溶液又はゲルに前記インプラントを浸漬することによって取得可能である、請求項14~18のいずれか一項に記載の外科用インプラント又はその一部。
【請求項20】
前記PDCが、約5μm~約50μmの範囲内、好ましくは約5μm~約25μmの範囲内、より好ましくは約5μm~約15μmの範囲内の平均粒径を有する微粒子の形態である、請求項14~19のいずれか一項に記載の外科用インプラント又はその一部。
【請求項21】
前記インプラント又はその一部の表面上のN-アセチルグルコサミン(NAG)の密度は、0.01~15mg/cm
2、又は0.3~5mg/cm
2、好ましくは0.5~1.5mg/cm
2の範囲内である、請求項14~20のいずれか一項に記載の外科用インプラント又はその一部。
【請求項22】
前記キトサンコーティングが、前記インプラントの単位面積の外面又はその一部の約10~約90%、好ましくは約25%~約75%の範囲内の不均質なコーティングである、請求項14~21のいずれか一項に記載の外科用インプラント又はその一部。
【請求項23】
外科用インプラントの表面を非架橋部分脱アセチル化キトサン(PDC)でコーティングする方法であって、約30~65%の範囲内の脱アセチル化度を有するPDCを含む水溶液又はゲルに前記インプラント表面を浸漬することであって、前記PDCが水又は生理学的体液中のコロイド懸濁液の形態である、浸漬することと、前記溶液から前記インプラント表面を除去することと、前記処理された表面を乾燥させることとを含む、方法。
【請求項24】
前記組成物が、水と第一級アルコールなどの水混和性有機溶媒との混合物を含む溶液中のコロイド懸濁液の形態である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記PDCが非晶質である、請求項23又は24に記載の方法。
【請求項26】
前記方法が、少なくとも2回のコーティングサイクルを含み、各サイクルが、約30~65%の範囲内の脱アセチル化度を有するPDCを含む水溶液又はゲルに前記インプラント表面を浸漬することと、前記溶液から前記インプラント表面を除去することと、前記処理された表面を乾燥させることとを含み、前記PDCを含む水溶液又はゲルが、それぞれの前記コーティングサイクルにおいて異なる、請求項23~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
第1の前記コーティングサイクルが、前記表面の本質的に完全なコーティングを得るように、PDCを含む水溶液に前記インプラント表面を浸漬することを含み、第2の前記コーティングサイクルが、前記表面上に第2のコーティング層を得るために水性ゲル又は懸濁液に前記インプラント表面を浸漬することを含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記表面が、ステンレス鋼、チタン、チタン合金、コバルトクロム合金、バイオガラス、ヒドロキシアパタイト/リン酸カルシウム又はそれらの混合物から選択される材料からなる、請求項23~27のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、整形外科用途に使用されるインプラントなどの医療用インプラントの分野内にあり、そのようなインプラントに適したキトサン系コーティング、コーティングされたインプラント、及びコーティング組成物を調製するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
序論
現在の工業的定義により、キトサンは高度に脱アセチル化されたキチンを指し、通常、脱アセチル化度は70%(又は70%DD)より高く、弱酸に溶解する。キチンは、一般に25%DD未満の低脱アセチル化キト性材料を指し、弱酸には溶解しない。キチンとキトサンとの間のクラスは、部分脱アセチル化キチン(PDC)と呼ばれる。PDCの工業的使用は、その低い溶解性及び大規模生産の技術的困難性のために、現在はまれである。
【0003】
チタンインプラントが周知であり、耐荷重整形外科用途における代表的な存在と一般的に考えられている。生体用インプラント及びデバイスのためのチタン及びその合金の利点には、(i)酸化物層の自発的形成による生体適合性、(ii)高い耐食性、(iii)高い比強度、及び(iv)毒性がないことが含まれる。オッセオインテグレーションは、インプラントの寿命及びその一体化の成功に重要な影響を及ぼす要因である。この用語は、生体骨と耐荷重人工インプラントの表面との間の直接的な構造的及び機能的接続を指す。オッセオインテグレーションは、従来のチタンインプラントで観察されるが、局所的な条件及びインプラントと周囲の移植部位との相互作用によって損なわれる可能性がある。インプラント、インプラントと組織との相互作用の特性を改善するために、様々なコーティング材料が検討及び試験されてきた。したがって、生物活性、オッセオインテグレーション及びインプラント安定化を増強する生物活性材料が望ましい。試験された材料の1つはキトサンである。キトサンコーティングの調製のための必要条件は、希釈酸性水溶液への溶解性の前提であるため、キトサンのカチオン性である。
【0004】
Li et al.(Biomaterials 36(2015)44-54)は、糖尿ヒツジに埋め込まれたキトサンコーティング多孔質チタン合金インプラントを記載しており、コーティングインプラントは、糖尿病インプラント患者におけるインプラントのオッセオインテグレーション不良を引き起こすと考えられるROS(活性酸素種)の過剰産生を改善する。85~90%の脱アセチル化度(DDA)を有するキトサンを使用した。
【0005】
Husain et al.(Materials(2017)10,602)は、キトサンコーティング歯科インプラントを論じており、以前の研究は歯科インプラントのキトサンコーティングの有望な結果を報告していることに言及しており、キトサンコーティングが生物学的、機械的及び形態学的特性を変化させることによって表面及び骨界面に影響を及ぼし得ることを開示している。しかしながら、このレビューは、このようなコーティングが感染を阻害し、オッセオインテグレーションを促進するのに有益であるか否かを検証するためにさらなる研究が必要であったことを提示している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、インプラントをコーティングするための新規且つ改善された組成物を提供する。組成物は、酸性水溶液に可溶性であり、高い膨潤能を有する非晶質部分脱アセチル化キトサン(PDC)を含有する。
【0007】
PDCは、特に脱アセチル化されたキチンを酸に溶解し、連続濾過による精製によって調製することができ、得られた再生PDCは酸性水溶液に完全に可溶であり、水溶液中で高い膨潤能を有する。したがって、PDCは、その重量の10倍、15倍、又は20倍以上の水を吸収することができる。
【0008】
PDCを含有する組成物は、例えば外科用インプラント上のコーティングとして使用することができる。したがって、本発明のコーティングでコーティングされた外科用インプラントも提供される。加えて、このコーティングは、新骨形成を改善するために活性成分又は細胞を組み込んでもよい。例えば、コーティングは、成長因子、成長促進若しくは成長増大薬物又は骨形成に有益な他の物質を含有することができる。コーティングはまた、抗生物質などの抗菌性及び/又は抗ウイルス性化合物を含有することもできる。
【0009】
一態様では、外科用インプラントのためのキトサン系コーティングが提供され、コーティングは、約30~75%の範囲内の脱アセチル化度を有する非架橋部分脱アセチル化キトサン(PDC)を含む。例示的な実施形態では、脱アセチル化度は、約35%~約70%の範囲内、約35%~約60%の範囲内、約40%~約75%の範囲内、約40%~約60%の範囲内、又は約45%~約55%の範囲内であり得る。約46%~54%、47%~53%、48%~52%、又は49%~51%など、50%付近又は50%の脱アセチル化度を有することが有益であり得る。
【0010】
本開示はまた、PDC系コーティング、特に本明細書にさらに開示されるPDC系コーティングでコーティングされた表面の少なくとも一部を有するインプラントに関する。
【0011】
本開示はまた、(i)完全に溶解したPDC、すなわち真溶液の形態のPDCのコーティング、及び(ii)不均質又は物理的に分散したPDC、すなわち、溶解しておらず、コロイド形態のコーティングを提供するPDCを含む、PDCでインプラントをコーティングするための方法に関する。
【0012】
本文脈において、「真溶液」という用語は、溶解成分(溶質)の粒径が220nm未満である、2つ以上の成分から成る均質な混合物(溶液)を指す。例として、水中の単純な糖溶液が真溶液である。
【0013】
本文脈において、「乾燥フィルム厚」と呼ばれることもある「乾燥厚さ」、及び「湿潤フィルム厚」と呼ばれることもある「湿潤厚さ」という用語は、それぞれ乾燥後及び乾燥前の表面上のフィルム又はコーティングの厚さを指す。2つのパラメータは、フィルム又はコーティング中の固形分の体積分率によって関係付けられ、すなわち、以下のとおりである。
(乾燥厚さ)=(湿潤厚さ)×%(固形分体積)。
【0014】
本明細書に記載されているものとしての「均質なコーティング」は、下にある表面の実質的に全体、好ましくは下にある表面の100%を被覆するコーティングを指す。対照的に、本明細書に記載されているものとしての「不均質なコーティング」は、下にある表面の100%未満を被覆するコーティングを指す、すなわち、下にある表面の一部はコーティングによって被覆されない。
【0015】
PDCは微粒子の形態であってもよい。微粒子は、略球形状であってもよい。球形は、一般に円形であってもよく、又は長球形状などの楕円形であってもよい。微粒子はまた、多面体形状を有することもでき、すなわち、ほぼ平坦な多角形表面を有する三次元形状を有することができる。代替的に、微粒子は不規則な形状を有してもよい。微粒子は、形状が均質であり得(すなわち、粒子の集団は、形状がほぼ同一である)、様々な寸法(サイズ)を有する。代替的に、微粒子は、形状及び/又は寸法が不均一であってもよい。例えば、微粒子は、部分的に球状であり、且つ部分的に不規則な形状であってもよい。
【0016】
約30%~約75%の範囲内の脱アセチル化度を有する部分脱アセチル化キトサンを含有する微粒子を含む組成物も提供され、微粒子は50μm未満の平均粒径を有する。組成物は、約35%~約70%の範囲内、約35%~約60%の範囲内、約40%~約75%の範囲内、約40%~約60%の範囲内、又は約45%~約55%の範囲内の脱アシル化度を有することができる。
【0017】
粒径は、40μm未満、30μm未満、又は20μm未満、例えば約5~50μmの範囲内、約5~40μmの範囲内、約5~30μmの範囲内、約5~25μmの範囲内、約5~20μmの範囲内、又は約5~15μmの範囲であり得る。
【0018】
コーティング組成物は、好ましくは水溶液中、例えば水又は生理的体液中のコロイド懸濁液の形態であり得る。PDCを含む微粒子を水溶液中に懸濁又は物理的に分散させて、マトリックス中に懸濁した微粒子を含むコロイド状ゲル様マトリックスを得ることができる。
【0019】
約30~75%の範囲内の脱アセチル化度を有する非架橋部分脱アセチル化キトサン(PDC)を含む表面コーティングでその外面又はその一部がコーティングされていることを特徴とする外科用インプラント又はその一部も提供される。
【0020】
「その一部」という用語は、複数の(2つ以上の)構成要素を含むインプラントの1つ以上の構成要素として理解することができる。例えば、外科用インプラントは、2つ以上の構成要素を含んでもよく、構成要素のうちの1つ又は複数は、本発明による表面コーティングを含む。したがって、インプラントは、2つ以上のそのような構成要素から組み立てることができ、構成要素の一部又は全部は、本明細書に開示されるコーティングを含む。
【0021】
コーティングは、20~250μmの範囲内、50~250μmの範囲内、30~150μmの範囲又は40~100μmの範囲内の湿潤厚さ(すなわち、水を除去するためのその後の乾燥の前であるか又は乾燥を行わずに、水を含有する)を有することができる。
【0022】
インプラント又はその一部の表面上(すなわち、コーティング中)のN-アセチルグルコサミン(NAG)の密度は、0.01~15mg/cm2、又は0.3~5mg/cm2、好ましくは0.3~1.5mg/cm2の範囲内とすることができる。
【0023】
コーティングは、インプラントの単位面積の外面又はその一部の約10~約90%、好ましくは約25%~約75%の範囲内の不均質なコーティングであり得る。代替的に、コーティングは、10%~90%の範囲内、好ましくは約25%~約75%の範囲内の単位面積(例えば、1~5mm2の)における被覆率を有する不均質なコーティングであり得る。
【0024】
コーティングは、コーティングのいくつかの部分がコーティングの他の部分よりも大きい厚さを有するように、その表面上に特定の粗さ、すなわち凹凸構造を有することができる。そのようなコーティングは、ピーク及び谷を有するものとして説明することができ、ピークは比較的大きい厚さを有する領域に対応し、谷は比較的小さい厚さを有する領域に対応する。
【0025】
キトサン系コーティングは、乾燥表面粗さ、すなわち、コーティングが乾燥状態になるようにコーティングを乾燥した後の粗さを有することができ、それは、500μm未満、例えば、約2~500μmの範囲内、5~250の範囲内、約20~100μmの範囲内、約25~100μmの範囲内、約5~100μmの範囲内、又は5~50μmの範囲内である。粗さは、表面上のコーティングの最大厚さと最小厚さとの間の差として定義することができる。
【0026】
約30~75%の範囲内の脱アセチル化度(DD)を有する非架橋部分脱アセチル化キトサン(PDC)で基材、例えば外科用インプラントの表面をコーティングする方法も提供され、本方法は、そのような部分脱アセチル化PDCを含む水溶液に基材表面を浸漬することと、溶液から表面を除去することと、乾燥させることとを含む。
【0027】
さらに、均質なコーティング及び不均質なコーティングが一体化されてもよい。例えば、基材は、より良好な細胞接着及び増殖のためのより粗い表面を提供するために、PDCの1つの層で均質にコーティングし、その後に不均質なコーティングの層でコーティングすることができる。
【0028】
上記の特徴は、本発明の追加の詳細と共に、下記の実施例にさらに記載されており、これらは、本発明をさらに例示することを意図しているが、決してその範囲を限定することを意図していない。
【0029】
当業者は、下記に説明する図面が例示のみを目的としていることを理解するであろう。図面は、本教示の範囲を決して限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】部分脱アセチル化PDCの物性を示す図である。(上)粉末PDC、(下)走査型電子顕微鏡(SEM)によって得られた1000倍の倍率のPDC。
【
図2a】コーティングチタンプレートを示す図である。
【
図2b】プレートの半分が金コーティングされている、コーティングプレートを示す図である。
【
図2c】PDCコーティングの厚さを表す、金コーティング領域と残りの領域との間の高低差(Solarius Profilometer)を示す図である。
【
図3a】1% PDC(w/v)でコーティングされた典型的なチタンプレートの表面粗さの3D図である。
【
図3b】コーティングされた表面のトポグラフィ画像の2D図である。
【
図3c】
図3(a)に示す線に沿って実際に記録された表面粗さを示す図である。
【
図3d】
図3(a)に示す線に沿った表面粗さの分布を示す図である。
【
図4a】水のみをPDC溶液の調製に使用した場合のPDCフィルムの膨潤特性の影響を示す図である。
【
図4b】エタノール:水(1:1)をPDC溶液の調製に使用した場合のPDCフィルムの膨潤特性の影響を示す図である。
【
図5】水中に4週間浸漬する前後のPDCフィルムの膨潤指数と、フィルムを乾燥させるために使用した温度との関係を示す図である。
【
図6a】酢酸に溶解したPDCでコーティングしたチタンプレートの、倍率2000倍の走査型電極顕微鏡(SEM)画像を示す図である。
【
図6b】酢酸に溶解したPDCでコーティングしたチタンプレートの、倍率100,000倍の走査型電極顕微鏡(SEM)画像を示す図である。
【
図7a】完全に溶解したPDC溶液(真溶液)に浸漬することによって得られる、チタン基材上のPDCコーティングを示す図である。
【
図7b】コロイドPDCに浸漬することによって得られる、チタン基材上のPDCコーティングを示す図である。
【
図8a】完全に溶解したPDC溶液(真溶液)に浸漬することによって得られる、バイオガラス基材上のPDCコーティングを示す図である。
【
図8b】PDCに浸漬することによって得られる、バイオガラス基材上のPDCコーティングを示す図である。(右上)コロイド法によってコーティングされた表面は、有機構造を生成し、より良好な細胞付着を促進する。
【
図9a】完全に溶解したPDC溶液(真溶液)に浸漬することによって得られる、ヒドロキシアパタイト基材上のPDCコーティングを示す図である。
【
図9b】PDCに浸漬することによって得られる、ヒドロキシアパタイト基材上のPDCコーティングを示す図である。
【
図10】長時間水に浸漬した後の材料損失を示す図である。
【
図11a】は、PBS緩衝液中のPDCで処理した際のSEMによる200倍の倍率の表面分布を示す図である。
【
図11b】は、PBS緩衝液中のPDCで処理した際のSEMによる2500倍の倍率の表面分布を示す図である。
【
図12a】酸にキトサンを完全に溶解し、均質方法でチタン上にコーティングすることによって得られたPDCコーティングの原子間力顕微鏡(AFM)画像を示す図である。
【
図12b】PBS溶液中にPDCを分散させ、不均質方法によってチタン上にコーティングすることによって得られたPDCコーティングの原子間力顕微鏡(AFM)画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は、非架橋部分脱アセチル化キトサン、PDCを含む非常に安定な生物活性表面コーティングを記載する。コーティングは、均質又は不均質のいずれかの方法で、すなわち実質的に表面全体を被覆するか、又は基材を部分的にのみ被覆するように実施することができる。
【0032】
PDCは、好ましくは再生プロセスによって調製することができ、キチン材料の部分脱アセチル化によって調製されたキトサンが、最初に酸に溶解され、続いて濾過によって精製され、酸性溶液から再沈殿される。
【0033】
キチンの脱アセチル化によってキトサンが調製される。したがって、キチンを濃水酸化ナトリウム中で脱アセチル化して、キチンを適切な程度まで脱アセチル化することができ、本発明の場合、一般に30~75%の脱アセチル化材料を提供する。脱アセチル化は、得られるキトサン材料中のN-アセチルグルコサミン(NAG)のブロック分布の形成を最小限に抑え、それによって、得られる材料の結晶特性を最小限に抑えるために、約20~60℃、例えば30~60℃、40~60℃、45~55℃又は約50℃の範囲内などの比較的低温で行うことができる。よりクラスタ化したNAGは、鎖間相互作用を増加させ、これはポリマーのプロトン化時の鎖分離、したがって材料の溶解性を妨げる。さらに、クラスタ化NAGは、材料の乾燥時に鎖間の相互作用力を増加させ、非晶質性の低い材料をもたらす。
【0034】
脱アセチル化の後、洗浄によってアルカリが除去され、キトサン材料が回収される。次いで、キトサンを酸に溶解して、例えば1つ以上の濾過工程(例えば、粗濾過及びそれに続く限外濾過)によって、得られた流体中のすべての不溶性材料の除去を促進する。その後、溶液をNaOH及び塩などの適切な塩基を使用して中和し、キトサンを溶液から沈殿させて純粋なPDCを得る。PDCは、場合により、例えば噴霧乾燥によって乾燥させて、乾燥した白色微粒子PDC材料を得ることができる。本プロセスの一例は、本明細書の実施例1に記載されている。
【0035】
得られたPDCは、これを本目的にとって特に有用にする特定の明確な特性を有する。
【0036】
したがって、再沈殿した(再生された)PDCは、一般に、本質的に非晶質(すなわち、結晶性ではない)であり、均一又はほぼ均一な微細粒子からなる。粒子は、通常、直径が50um未満であり、一般に球形であり得る。
【0037】
古典的なキトサンは対照的に結晶性であり、通常は非常に溶解しにくい。したがって、キトサン溶液を得るための固体キトサンの溶解は、長時間かかることがあり、又は一晩実施されることさえある。対照的に、本再生法によって得られるPDCの溶解はほぼ瞬時である。例えば、PDCを流体中、例えば水中に分散させると、適切な酸の添加により、数秒以内にコロイド流体が透明/均質な結晶溶液に変換される。このPDC溶液は、古典的なキトサンよりも生理学的pH付近及びそれを超える沈殿に対してより耐性がある。
【0038】
PDCは、ほぼ等しい比のNAG及びGluN、又はよりバランスのとれた疎水性/親水性を有することができる。結果として、PDCは、水性流体又はほとんどの油性流体のいずれかとの安定した混合物を容易に形成することができる。さらに、乾燥PDCの非晶質及び微細粒子の性質は、その重量に対して20倍を超える純水を吸収することを可能にする。
【0039】
本明細書に開示される均質なコーティングは、最大100%の被覆率を達成して基材表面に堅固に付着し、すなわちコーティングは表面の最大100%をコーティングし、不完全なコーティングの兆候はなく、これは、コーティングされたフィルムの厚さを制御する方法である。コーティングは良好な安定性を示し、水に4週間浸漬した後も堅固に付着したままであり、フィルム剥離の兆候も汚損の兆候も認められなかった。
【0040】
しかしながら、他の有用な実施形態では、不均質なコーティングが提供され、そのようなコーティングを制御された様式で製造する方法が提供される。本明細書で使用される「不均質なコーティング」という用語は、コーティングされた表面がコーティングされた領域に、及びまたコーティングされていない領域にも散在するように、下にある表面の99%未満を被覆するコーティングを指す。
【0041】
コーティングプロセスの条件は、意図する目的の要件を満たすために、コーティングの異なる被覆率及び異なる空間的粗さを達成するように有利に調整することができる。不均質性は、単位面積を分析することによって決定することができる。そのような単位面積は、約25%~約75%の範囲など、約10%~約95%の範囲内、より一般的には約10%又は約15%又は約20%又は約25%又は約30%又は約35%~約95%又は約90%又は約85%又は約80%又は約75%の範囲内のコーティング被覆率を有することができる。
【0042】
単位領域は、例えば、長方形、正方形、円形、楕円形、又は他の規則的又は不規則な形状として定義される任意の適切な寸法を有することができる。いくつかの実施形態では、単位は長方形であり、各辺の長さは10~20mm、例えば10~15mm又は約10mmである。
【0043】
単位の寸法は、均質性について試験され、コーティング全体の特性を表す。したがって、より粗さの少ない、よりきめの細かい不均質性を有するコーティングを得ることが所望される場合、より小さい単位面積を選択して、所望の不均質性が、10×10mm未満、例えば5×5mm、2×2mm又は1×1mmの矩形単位面積などのより小さいスケールで観察されるか否かを判定することができ、所望のコーティング被覆率は、上述の被覆率範囲のいずれかの中の面積内である。
【0044】
水性又はPBS溶液に浸漬した後のコーティングの厚さは調整可能である。均質方法によるコーティングは、一般に、乾燥時の厚さの2~10倍、又は5~15倍、又はより典型的には6~12倍の厚さに膨潤する。不均質方法の場合、コーティングの厚さは、その乾燥厚さの5~20倍、又は10~25倍、又は典型的には10~20倍に及んでもよい。
【0045】
コーティングの初期厚さは、乾燥温度及びPDC溶液の調製に使用される水性溶媒又は流体の種類によって影響され得る。コーティングは、-40℃~100℃又は0~80℃又はより典型的には15~75℃の温度範囲での処理によって乾燥されてもよい。しかしながら、任意の適切な溶媒、例えばエタノール又は任意の他の適切な第一級アルコールなどのアルコール又はそれらの混合物がPDCの溶解に使用される水溶液に導入される場合、膨潤フィルムの初期厚さに対する乾燥温度の影響はより制限される。
【0046】
PDC溶液を調製するための流体は、好ましくは、1:10~2:1、1:5~2:1、1:4~2:1、1:3~2:1又は1:2~2:1の範囲内の溶媒:水比で水溶液と混合される水混和性溶媒である。PDC溶液を調製するために使用される、例えば水のみ又は水/アルコールの混合物を含む流体は、フィルムの膨潤特性及び乾燥速度、並びに乾燥段階中の微生物汚染に対する保護対策に影響を及ぼし得る。
【0047】
外科用インプラント上に2つ以上のコーティング層を設けることも可能である。コーティングは、本質的に類似若しくは同一であってもよく(すなわち、均質又は不均質)、又はコーティングは異なっていてもよい。例えば、2つ(又はそれ以上)のコーティング層を形成する2つ(又はそれ以上)のコーティング工程が存在することができ、第1のコーティング工程は表面上に均質なコーティングを提供し、第1のコーティング工程の後に、本質的に不均質な第2の又はそれ以上のコーティング工程が続く。このようにして、インプラントの表面は、表面の滑らかで完全なコーティングを提供する第1の均質な層と、コロイド状コーティング懸濁液によって提供され得る不均質なコーティングを提供する第2の又はそれ以上の後続のコーティングとによって本質的に完全にコーティングされ得る。このようにして、コーティング全体の粗さ又は不規則性が存在し得ると同時に、インプラントの表面全体が少なくとも1つのコーティング層によって被覆されることを確実にする。
【0048】
コーティング中のPDCは、約30%~約75%の範囲内、好ましくは約35%~約60%の範囲内、例えば約50%のDDを有する。コーティングは、いくつかの実施形態では、乾燥後の厚さが約2~約25μmの範囲内、又はより一般的には約2μm若しくは約4μm若しくは約5μm若しくは約10μm~約25μm若しくは約20μm若しくは約15μmの範囲内である。乾燥前の厚さは、10~50μm又は10~250μmの範囲内とすることができ、乾燥前の厚さが厚いほど、乾燥状態の厚さが厚くなる。埋め込み時に、PDCは、インプラントと体表面との間の界面に適応するように予め設計された厚さに膨潤する。
【0049】
コーティング又はフィルムのコーティング密度は、単位面積当たりのN-アセチル-D-グルコサミン(NAG)の量、すなわちmg NAG/cm2で表現することができる。典型的なNAGコーティング密度は、0.01~15mg/cm2、又は0.3~5mg/cm2、又はより好ましくは0.3~1.5mg/cm2に及び得る。
【0050】
本明細書に開示される表面コーティング組成物は、任意の適切な外科用インプラント、例えば金属又は合金、例えばステンレス鋼、チタン、チタン合金、コバルトクロム合金、バイオガラス、ヒドロキシアパタイト/リン酸カルシウム又はそれらの混合物を含むか又はそれらからなるインプラントをコーティングするために使用することができる。インプラントは、コーティングの前に前処理することができ、すなわち、何らかの形態の前処理が特定の用途に有益であり得る。しかしながら、当業者は、表面の前処理が本発明を実行するために必須ではないことを理解するであろう。したがって、いくつかの実施形態では、コーティングされるインプラントの表面は、酸処理による酸化又はアルカリ溶液による洗浄などによって、コーティング前に前処理されている。
【0051】
外科用インプラントは、一般に、欠損した生物学的構造を置換し、損傷した生物学的構造を支持し、又は既存の生物学的構造の機能若しくは構造を増強するために製造される任意の医療用装置である。インプラントは、神経又は検知インプラント、心血管インプラント、体内の骨及び/又は関節の問題を軽減する整形外科用インプラント、電気インプラント、避妊インプラント又は化粧用インプラントであり得る。インプラントは永久的又は一時的であり得る。特定の実施形態では、インプラントは歯科インプラントである。
【0052】
本明細書に開示されるPDCコーティング、及びそのようなコーティングの生成に使用するための組成物は、任意のそのようなインプラント又はその一部との使用に適合する。インプラントは、チタン又はチタン合金、コバルトクロム合金、ステンレス鋼、タンタル、ヒドロキシアパタイト/リン酸カルシウム又はバイオガラス表面を含むことができる。インプラントはまた、前述の材料の任意の2つ以上の混合物、又は人工装具若しくは他のインプラントで一般的に使用される他の材料との組み合わせからなるか、又はそれらから構成することができる。
【0053】
DD範囲の下端は、約30%又は約33%又は約35%又は約40%であり得る。DD範囲の上端は、約65%又は約60%又は約58%又は約55%又は約50%又は約45%であり得る。したがって、DD範囲は、約30%~70%、約35%~約65%、約40%~約60%、約45%~約60%、約45%~約55%であり得る。
【0054】
このDD範囲内で、PDCは効果的に実質的に溶解され、均質な濃度のPDC及び処理された表面の均質なコーティングを提供することができる。
【0055】
特定の実施形態における浸漬(コーティング)溶液は、好ましくは約6超、より好ましくは約7超、例えば約7.0又は約7.2~約7.5、例えば約7.4の範囲内のpHを有する。コーティング溶液はまた、6を超えるpH、好ましくは7~8の範囲内のpH、より好ましくは7.3~7.5の範囲内のpH、最も好ましくは約7.4のpHを有する非酸性化溶液であってもよい。
【0056】
他の実施形態において、浸漬溶液は酸性であり、例えば、約2~約4.5の範囲のpHを有する。そのような酸性浸漬溶液は、例えば、約0.5%~約2%又は0.1~10%、例えば約1%の範囲内の濃度の酢酸で酸性化することができる。
【0057】
PDCは、有利には、約0.5%~約1.0%の範囲内の濃度、例えば、限定されないが、約0.5%又は約0.75%又は約1~20%の濃度で浸漬溶液中に提供される。
【0058】
浸漬時間は、数分~数日に及び得る。したがって、浸漬時間は、一般に、1分間~数日間、例えば5日間に及び得る。特定の実施形態では、浸漬時間は比較的短いか、又は約1~約60分、例えば約1~約30分、例えば約1~約10分、又は約1~約5分の範囲内である。特定の実施形態では、浸漬時間は比較的長く、又は約1時間~5日間、例えば約2時間~2日間、例えば2時間~1日間、例えば2時間~12時間、又は2時間~6時間である。
【0059】
インプラント表面は、表面から溶媒を蒸発させるのに十分な所望の時間にわたる浸漬が完了した後に適切に乾燥される。乾燥は、10℃~100℃の範囲内、20℃~100℃の範囲内、20℃~90℃の範囲内、又は20℃~80℃の範囲など、一般に0~100℃の範囲内の温度で実施することができる。
【0060】
上記の脱アセチル化度を有し、本明細書で下記に記載される好ましい粒径を有するPDCを水溶液、例えば水に可溶化して、ゲルマトリックス中に懸濁されたミクロサイズPDC粒子を含むゲル様コロイドマトリックスを得ることができる。このようにして得られたゲルマトリックスは、コーティングプロセスにおける浸漬溶液として使用することができ、本発明の所望の高強度コーティングを生成する。
【0061】
微粒子コーティングの場合、PDC粒子の粒径は、典型的には50μm未満、好ましくは30μm未満、より好ましくは20μm未満、さらにより好ましくは10μm未満であり、これは粒子の95%超が所与の数値未満の最も広い断面を有することを意味する(例えば、粒子の95%超が、30μm、又は20μm、又は10μm未満の最も広い断面を有する)。
【0062】
したがって、いくつかの実施形態では、PDC粒子は、約1μm又は約2μm又は約3μm又は約4μm又は約5μm~約20μm又は約15μm又は約12μm又は約10μmの範囲内の粒径分布を有し、例えば、約5μm又は約8μm又は約10μm又は約12μm又は約15μmの平均(算術平均)又はメジアン最大直径を有する。
【0063】
いくつかの実施形態では、PDC粒子は、約50μm未満、好ましくは約20μm未満、より好ましくは約10μm未満の平均粒径を有する。
【0064】
浸漬ゲルマトリックス中のPDCの濃度は、例えば0.2重量%~約20重量%の範囲内、好ましくは約0.5%~約10%、例えば約0.5%又は約1%又は約2%~約10%又は約5%又は約4%の範囲内であり得る。
【0065】
コーティングされるインプラントを前処理して、その接着特性及び/又はその生体適合性を高めることは有益であり得る。前処理は、酸若しくは酸混合物(例えば、硫酸、フッ化水素酸、リン酸)、又は過酸化水素、又はそれらの混合物などの酸化剤での処理によって行うことができる。代替的に、水酸化ナトリウムなどのアルカリ溶液での処理によって前処理を実施することができる。他の適切な前処理方法は当該技術分野で公知であり、本明細書に記載のコーティングでも企図される。
【0066】
本発明の例示的な実施形態は、以下を含む。
1.外科用インプラントのためのキトサン系コーティングであって、コーティングは、約30~75%の範囲内の脱アセチル化度を有する非架橋部分脱アセチル化キトサン(PDC)を含む、キトサン系コーティング。
【0067】
2.脱アセチル化度は、約35%~約70%の範囲内、約35%~約60%の範囲内、約40%~約75%の範囲内、約40%~約60%の範囲内、又は約45%~約55%の範囲内である、項1に記載のキトサン系コーティング。
【0068】
3.脱アセチル化度が約50%である、項1又は2に記載のキトサン系コーティング。
【0069】
4.コーティングが、2~25μmの範囲内、好ましくは5~15μmの範囲内の乾燥厚さを有する、項1~3のいずれか一項に記載のキトサン系コーティング。
【0070】
5.コーティングが、20~250μmの範囲内、好ましくは40~100μmの範囲内の湿潤厚さを有する、項1~4のいずれか一項に記載のキトサン系コーティング。
【0071】
6.コーティングが500μm未満の表面粗さを有する、項1~5のいずれか一項に記載のキトサン系コーティング。
【0072】
7.コーティングが、約25~500μmの範囲内、5~250μmの範囲内、約20~100μmの範囲内、約25~100μmの範囲内、約5~100μmの範囲又は5~50μmの範囲内の表面粗さを有する、項1~6のいずれか一項に記載のキトサン系コーティング。
【0073】
8.コーティングが、コーティング上の細胞付着又は細胞増殖を促進するために、コーティングが適用される表面のトポグラフィに沿って表面をコーティングする、項1~7のいずれか一項に記載のキトサン系コーティング。
【0074】
9.コーティングが、約10~約90%の範囲内、好ましくは約25%~約75%の範囲内の外科用インプラント上の単位面積にわたる被覆率を有する不均質層を含む、項1~8のいずれか一項に記載のキトサン系コーティング。
【0075】
10.単位面積が25~100mm2の範囲内、例えば35~100mm2の範囲内、例えば50~100mm2の範囲内である、項9に記載のキトサン系コーティング。
【0076】
11.単位面積が1~25mm2の範囲内、例えば5~25mm2の範囲内、例えば10~25mm2の範囲内である、項10に記載のキトサン系コーティング。
【0077】
12.コーティングが、50μm未満、30μm未満又は10μm未満の平均粒径を有する微粒子の形態のPDCを含む、項1~11のいずれか一項に記載のキトサン系コーティング。
【0078】
13.微粒子PDCが、約50μm未満、好ましくは約20μm未満、より好ましくは約10μm未満の平均粒径を有する、項1~12のいずれか一項に記載のキトサン系コーティング。
【0079】
14.約35%~約70%の範囲内、約35%~約60%の範囲内、約40%~約75%の範囲内、約40%~約60%の範囲内、又は約45%~約55%の範囲内の脱アセチル化度を有する部分脱アセチル化キトサンを含有する微粒子を含む組成物であって、微粒子が50μm未満の平均粒径を有する、組成物。
【0080】
15.水溶液中のコロイド懸濁液の形態である、項14に記載の組成物。
【0081】
16.水又は生理的体液中のコロイド懸濁液の形態である、項15に記載の組成物。
【0082】
17.水と第一級アルコールなどの水混和性有機溶媒との混合物を含む溶液中のコロイド懸濁液の形態である、項15に記載の組成物。
【0083】
18.エタノールと水の混合物中のコロイド懸濁液の形態である、項15に記載の組成物。
【0084】
19.マトリックス中に懸濁された微粒子を含むコロイド状ゲル様マトリックスを得るために、水溶液中に懸濁されている、物理的に分散された微粒子を含む、項18に記載の組成物。
【0085】
20.水溶液が約7~約8、好ましくは約7.3~約7.5の範囲内、より好ましくは約7.4のpHを有する、項16~19のいずれか一項に記載の組成物。
【0086】
21.水溶液が生理的体液又は他の適切な流体、例えば生理食塩水を含む、項15~20のいずれか一項に記載の組成物。
【0087】
22.微粒子が、約5μm~約50μmの範囲内、好ましくは約5μm~約25μmの範囲内、より好ましくは約5μm~約15μmの範囲内の平均粒径を有する、項14~21のいずれか一項に記載の組成物。
【0088】
23.微粒子が、約10μmの平均粒径を有する、項14~22のいずれか一項に記載の組成物。
【0089】
24.部分脱アセチル化キトサンが、約50%の脱アセチル化度を有する、項14~23のいずれか一項に記載の組成物。
【0090】
25.約30~75%の範囲内の脱アセチル化度を有する非架橋部分脱アセチル化キトサン(PDC)を含む表面コーティングでその外面又はその一部がコーティングされていることを特徴とする、外科用インプラント又はその一部。
【0091】
26.脱アセチル化度が、約30%~75%の範囲内、約35%~60%の範囲内、約40%~60%の範囲内、約45~55%の範囲内、又は約50%である、項25に記載の外科用インプラント又はその一部。
【0092】
27.キトサンコーティングが、2~25μmの範囲内、好ましくは5~15μmの範囲内の乾燥厚さを有する、項25又は26に記載の外科用インプラント又はその一部。
【0093】
28.コーティングが、20~250μmの範囲内、50~250μmの範囲内、30~150μmの範囲又は40~100μmの範囲内の湿潤厚さを有する、項25又は26に記載の外科用インプラント又はその一部。
【0094】
29.キトサン系コーティングが、6を超える、好ましくは7~8の範囲内、より好ましくは7.3~7.5の範囲内、最も好ましくは約7.4のpHを有するPDCを含む非酸性化溶液にインプラントを浸漬することによって取得可能である、項25~28のいずれか一項に記載の外科用インプラント又はその一部。
【0095】
30.キトサン系コーティングが、PDCを含む非酸性化コロイド溶液又はゲルにインプラントを浸漬することによって取得可能である、項25~29のいずれか一項に記載の外科用インプラント又はその一部。
【0096】
31.キトサン系コーティングが、分散した微粒子PDCを含む非酸性化ゲルにインプラントを浸漬することによって取得可能である、項25~30のいずれか一項に記載の外科用インプラント又はその一部。
【0097】
32.コーティングが、約50μm未満の平均粒径を有する微粒子PDCを含む、項25~31のいずれか一項に記載の外科用インプラント又はその一部。
【0098】
33.微粒子が、約5μm~約50μmの範囲内、好ましくは約5μm~約25μmの範囲内、より好ましくは約5μm~約15μmの範囲内の平均粒径を有する、項25~32のいずれか一項に記載の外科用インプラント又はその一部。
【0099】
34.コロイド溶液又はゲル又は懸濁液が、0.1%~20%の範囲内のPDC、又は0.5~10%の範囲内のPDC、又は好ましくは約1%~約5%の範囲内のPDCを含む、項29~33のいずれか一項に記載の外科用インプラント又はその一部。
【0100】
35.インプラント又はその一部の表面上のN-アセチルグルコサミン(NAG)の密度は、0.01~15mg/cm2、又は0.3~5mg/cm2、好ましくは0.5~1.5mg/cm2の範囲内である、項25~34のいずれか一項に記載の外科用インプラント又はその一部。
【0101】
36.キトサンコーティングが、インプラントの単位面積の外面又はその一部の約10~約90%、好ましくは約25%~約75%の範囲内の不均質なコーティングである、項25~35のいずれか一項に記載の外科用インプラント又はその一部。
【0102】
37.キトサンコーティングが、10%~90%の範囲内、好ましくは約25%~約75%の範囲内である、1~5mm2の単位面積の被覆率を有する不均質なコーティングを有する、項25~36のいずれか一項に記載の外科用インプラント又はその一部。
【0103】
38.インプラント又はその一部が、ヒドロキシアパタイト、バイオガラス、チタン又はチタン合金から選択される1つ又は複数の材料から作成される、項25~37のいずれか一項に記載の外科用インプラント又はその一部。
【0104】
39.インプラントの表面が、酸処理による酸化によって前処理されている、項38に記載の外科用インプラント又はその一部。
【0105】
40.インプラントの表面が、アルカリ溶液で洗浄することによって前処理されている、項38に記載の外科用インプラント又はその一部。
【0106】
41.外科用インプラントの表面を非架橋部分脱アセチル化キトサン(PDC)でコーティングする方法であって、約30~65%の範囲内の脱アセチル化度を有するPDCを含む水溶液又はゲルにインプラント表面を浸漬することと、溶液からインプラント表面を除去することと、処理された表面を乾燥させることとを含む、方法。
【0107】
42.PDCが、約35%~約60%、好ましくは約40%~約60%、より好ましくは約45%~約55%の範囲内、さらにより好ましくは約50%の脱アセチル化度を有する、項41に記載の方法。
【0108】
43.水溶液が約pH 6超、好ましくは約7.2~約7.5の範囲内のpHを有する、項41又は42に記載の方法。
【0109】
44.組成物が、水又は生理的体液中のコロイド懸濁液の形態である、項43に記載の方法。
【0110】
45.組成物が、水と第一級アルコールなどの水混和性有機溶媒との混合物を含む溶液中のコロイド懸濁液の形態である、項41に記載の方法。
【0111】
46.組成物が、エタノールと水の混合物中のコロイド懸濁液の形態である、項45に記載の方法。
【0112】
47.処理された表面を乾燥させることが、20~80℃の範囲内の温度でのインキュベーションを含む、項41から46のいずれか一項に記載の方法。
【0113】
48.コーティングされた表面が、約10~約100%の範囲内の表面コーティング分布を有する、項41~47のいずれか一項に記載の方法。
【0114】
49.コーティングされた表面が、約10~約90%の範囲内、好ましくは約25%~約75%の範囲内の表面コーティング分布を有する、項41~47のいずれか一項に記載の方法。
【0115】
50.浸漬の前に上記表面を前処理することをさらに含み、上記前処理は、酸処理による酸化、及び、後続するアルカリでの洗浄、及び溶液を中和するための任意のすすぎを含む、項41~49のいずれか一項に記載の方法。
【0116】
51.方法が、少なくとも2回のコーティングサイクルを含み、各サイクルが、約30~65%の範囲内の脱アセチル化度を有するPDCを含む水溶液又はゲルにインプラント表面を浸漬することと、溶液からインプラント表面を除去することと、処理された表面を乾燥させることとを含み、PDCを含む水溶液又はゲルが、それぞれのコーティングサイクルにおいて異なる、項41~50のいずれか一項に記載の方法。
【0117】
52.第1のコーティングサイクルが、表面の本質的に完全なコーティングを得るように、PDCを含む水溶液にインプラント表面を浸漬することを含み、第2のコーティングサイクルが、表面上に第2のコーティング層を得るために水性ゲル又は懸濁液にインプラント表面を浸漬することを含む、項51に記載の方法。
【0118】
本明細書で使用される場合、項を含めて、単数形の用語は、文脈がそうでないことを示さない限り、複数形も含むと解釈されるべきであり、その逆も同様である。したがって、本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈が明らかにそうでないことを指示しない限り、複数の言及を含むことに留意されたい。
【0119】
明細書及び項を通して、「備える(comprise)」、「含む(including)」、「有する(having)」、及び「含有する(contain)」という用語並びにそれらの変形は、「含むがこれらに限定されない」ことを意味すると理解されるべきであり、他の構成要素を排除することを意図するものではない。
【0120】
本発明はまた、正確な用語、特徴、値及び範囲なども包含し、これらの用語、特徴、値及び範囲などは、約、およそ、概して、実質的、本質的に、少なくともなどの用語と組み合わせて使用される(すなわち、「約3」は正確に3もカバーするものとし、又は「実質的に一定」は正確に一定もカバーするものとする)。
【0121】
「少なくとも1つ」という用語は、「1つ又は複数の」を意味すると理解されるべきであり、したがって、1つ又は複数の構成要素を含む両方の実施形態を含む。さらに、「少なくとも1つ」を有する特徴を記述する独立項を参照する従属項は、その特徴が「その」及び「その少なくとも1つの」として参照されるときの両方で同じ意味を有する。
【0122】
本発明の前述の実施形態に対する変形は、依然として本発明の範囲内にある間に行うことができ、依然として本発明の範囲内にある間に行うことができることが理解されよう。本明細書に開示された特徴は、特に明記しない限り、同じ、同等、又は同様の目的を果たす代替的な特徴に置き換えることができる。したがって、特に明記しない限り、開示された各特徴は、一般的な一連の同等又は類似の特徴の一例を表す。
【0123】
「例えば(for instance)」、「など(such as)」、「例えば(for example)」などの例示的な文言の使用は、単に本発明をよりよく説明することを意図しており、そのように記載されていない限り、本発明の範囲に対する限定を示すものではない。本明細書に記載された任意のステップは、文脈が明らかにそうでないことを示さない限り、任意の順序で又は同時に実施されてもよい。
【0124】
本明細書に開示された特徴及び/又はステップのすべては、特徴及び/又はステップの少なくともいくつかが相互に排他的である組み合わせを除いて、任意の組み合わせで組み合わせることができる。特に、本発明の好ましい特徴は、本発明のすべての態様に適用可能であり、任意の組み合わせで使用することができる。
【0125】
本発明を、以下の非限定的な実施例によってさらに説明する。
【実施例】
【0126】
実施例1 部分脱アセチル化キトサン(PDC)
PDCの製造は、一連のプロセスを含む。NAGのブロック分布の形成を最小限に抑えて材料の結晶特性を最小限に抑えるために、最初に濃水酸化ナトリウム中で脱アセチル化して、キチンを低温、例えば60℃以下で脱アセチル化して50%脱アセチル化材料にした。よりクラスタ化したNAGは、鎖間相互作用を増加させ、これはポリマーのプロトン化時の鎖分離、したがってその溶解性を妨げるため、これは重要である。さらに、このクラスタ化NAGは、材料の乾燥時に鎖間の相互作用力を増加させ、非晶質性の低い材料をもたらす。
【0127】
これに続いて、徹底的な洗浄プロセスを通してアルカリを除去し、材料を回収する。次いで、材料を酸(例えばクエン酸)に溶解して、一連の濾過による酸性流体中のすべての不溶性材料の除去を容易にした。その後、溶液をNaOHの添加によって中和し、ポリマーを流体に塩を添加することによって沈殿させた。次いで、得られたキトサンポリマーを収集し、徹底的に洗浄した。精製した部分脱アセチル化キトサン(PDC)材料を回収し、乾燥させた。最後に、材料を袋に詰め、密封した。
【0128】
このようにして調製されたこのPDCは、市場で入手可能な古典的なキトサンとは多くの異なる特徴を有する。
【0129】
これらの特徴は、このPDCが高度に非晶質であり、
図1に示すように、約10μmのサイズの均一な微細円形粒子を有する。キトサン溶液を得るための固体キトサンの溶解が多くの時間又はさらには一晩を要し得る古典的なキトサンとは対照的に、上記の方法によって得られるPDCの溶解はほぼ瞬時である。例えば、PDCを流体中、例えば水中に分散させると、適切な酸(例えば、クエン酸又は任意の他の適切な有機酸若しくは無機酸)の添加により、数秒以内にコロイド流体が透明/均質な結晶溶液に変換される。このPDC溶液は、古典的なキトサンよりも生理学的pH付近及びそれを超える沈殿に対してより耐性がある。
【0130】
このPDCは、ほぼ等しい比のNAG及びGluN、又はよりバランスのとれた疎水性/親水性を有する。結果として、PDCは、水性流体又はほとんどの油性流体のいずれかとの安定した混合物を容易に形成することができる。さらに、乾燥PDCの非晶質及び微細粒子の性質は、その重量に対して20倍を超える純水を吸収することを可能にする。これらの並外れた特性はすべて、PDCがより要求の厳しい調製に挑戦し、将来の生物薬剤学/医療のニーズを満たすための新しい応用分野を開くようにする。
【0131】
PDCの%DDは、一般に45~60%の範囲内であり、80~350kDaの重量平均分子量(Mw)を有することができる。以下の表は、PDCの一般的な特性の典型的な例を列挙したものである。
【0132】
【0133】
実施例2 コーティング方法
この実験で使用したチタンプレートは、Ti ASTM B265 G2であり、2cm×1cmのサイズに切断した。コーティング前に、チタンプレートを10N水酸化ナトリウムで60℃の浴で24時間にわたって処理した。次いで、プレートをアルカリなしで洗浄し、乾燥させ、個々のプレート重量を記録した。PDCの指定濃度は0.75%(w/v、1%酢酸中)であった。理論負荷量は、0.655mg/cm2のPDC又は87.5μL/cm2での0.75% PDC溶液の負荷体積であった。
【0134】
膨潤指数を調べるために、すべてのフィルムコーティングされたチタンプレートを脱イオン(DI)水のプールに2時間にわたって浸漬し、浸漬前後の重量を記録した。膨潤指数を、正味の湿潤フィルム重量を正味の乾燥フィルム重量で除算したパーセント比として決定した。
【0135】
実施例3 コーティングの分析
フィルム厚測定は、形状測定法(Solarius Profilometer)を用いて行った。そうするために、プレートの半分を金コーティングして、測定中に光源が透明フィルムに侵入するのを防いだ(
図2(b))。金コーティングされた領域とコーティングされていない領域との間の高さの差が、乾燥フィルムの厚さである(
図2(c))。この測定により、この負荷濃度及び負荷量における平均コーティングフィルム厚は11±2μmであることがわかった。
【0136】
実施例4 表面粗さの決定
図3に示すように、乾燥状態のPDCコーティングチタンの表面トポグラフィを形状測定装置によって測定した。(a)において、1% PDC(w/v)でコーティングされた典型的なチタンプレートの表面粗さの3D図が示されている。(b)において、コーティングされた表面のトポグラフィ画像の2D図が示されている。(c)において、
図3(a)に示す線に沿って実際に記録された表面粗さが示されている。(d)において、
図3(a)に示す線に沿った表面粗さの分布が示されている。
【0137】
図から分かるように、PDCコーティングは、チタン表面にわたって滑らかで均質なコーティングを提供する。
【0138】
実施例5 PDCフィルムの膨潤特性
PDCコーティング表面の膨潤特性を決定した。これは、水に4週間浸漬する前後に、コーティングされたPDCの膨潤指数を測定することによって行った。フィルムは、1%酢酸水溶液のみ又はエタノール/水の混合物中の0.75% PDC溶液を用いて調製した。結果を
図4に示す。(a)では、水のみを使用してPDC溶液を調製した場合の温度の効果を示し、(b)では、エタノール:水を1:1の比で使用してPDC溶液を調製した場合の膨潤を示す。
【0139】
4週間の浸漬前と浸漬後の処理間で膨潤指数に有意差があり(p<0.05)、浸漬時に膨潤指数が有意に低下する。乾燥温度の関数としても有意な差があり、温度が高いほど膨潤指数が低くなる。
【0140】
エタノール:水(1:1)を使用してPDC溶液(
図4b)を調製した場合、4週間にわたって浸漬した前後の処理間で膨潤指数に有意差があった(p<0.05)。しかし、乾燥温度はフィルムの膨潤指数に有意な影響を与えない。
【0141】
実施例6 膨潤指数の制御
図5に示すように、水中のPDCフィルムの乾燥温度と膨潤挙動の関係を調査した。結果は、乾燥ステップの温度を変えることによってフィルムの初期厚さが制御可能であることを示している。
【0142】
実施例7 SEMによるコーティング表面判定
走査型電極顕微鏡法(SEM)を使用して、処理された表面のコーティングを研究した。
図6において、酢酸に溶解したPDCでコーティングしたチタンプレートの、の走査型電極顕微鏡(SEM)画像を示す。(a)は倍率2000倍であり、(b)は倍率100,000倍である。図から分かるように、チタン表面のほぼ完全に均一なコーティングが存在する。
【0143】
図7~
図9に示すように、異なる方法によって得られたコーティング及びコーティングされた表面上のその被覆率も決定した。
図7には、チタン基材上のPDCコーティングの例が示されている。(a)は、完全に溶解したPDC溶液(真溶液)に浸漬することによって得られるコーティングを示しており、(b)は、コロイドPDCに浸漬することによって得られるコーティングを示している。真溶液を使用する表面コーティングはほぼ完全である(99%超)が、コロイド法を使用するコーティングは不均質であり、表面積の約41%がコーティングされる。
【0144】
コーティングバイオガラス及びヒドロキシアパタイト表面の結果をそれぞれ
図8及び
図9に示し、数値結果を下記に示す。すべての表面について、完全に溶解したPDCを使用して本質的に完全なコーティング(99%超)が得られるが、コロイドPDCで処理するとコーティング被覆率は約50%になる。
【0145】
【0146】
実施例8 長時間水に浸漬した後のフィルム材料損失
PDC溶液の調製及び水性環境での処理表面の長期インキュベーションに使用される流体、すなわち水のみ及びエタノール/水混合物の影響を調査するために、処理された表面を水中で4週間にわたってインキュベートし、表面コーティング材料の損失を決定した。
【0147】
図10から分かるように、水のみの水系(
図10(a)、p<0.05)ではフィルムの正味乾燥重量に差があるが、溶媒/水の水系(エタノール:水は1:1、
図10(b)、p>0.05)によって調製されたフィルムにはない。水に4週間にわたって浸漬した後(RT乾燥)、最大で10%の材料の最大損失がある。
【0148】
しかしながら、フィルムの大部分は無傷であることが見出され、これは、コーティング方法がコーティング目的のための信頼できるフィルムをもたらすことを示している。
【0149】
実施例9 PBS溶液中のPDCで処理した際のSEMによる表面分布の決定
PDCコーティングの表面分布に対する生理学的緩衝液の効果をSEMによって決定した。チタンをPBS(リン酸緩衝生理食塩水)溶液に分散したPDCでコーティングした。
図11に示すように、続いて得られたコーティングをSEMによって調査した。(a)では、コーティングされたPDC(より濃い灰色の領域)が、倍率100倍でチタンの表面上に有機分布を有することが分かる。(b)では、2500倍の倍率で粗さを見ることができ、表面上のコーティングの厚さは不均一である。比較的粗い表面は細胞接着を促進するため、この方法によって得られたコーティングはin vivo使用に適している。
【0150】
実施例10 酢酸溶液中のPDCをコーティングし、PBS溶液で分散させたAFM
原子間力顕微鏡法(AFM)を使用して、異なるコーティング方法、すなわち均質な真溶液コーティング(酢酸に完全に溶解したPDC)及びPBS緩衝液に分散したPDCの不均質なコーティングによって得られた乾燥コーティングフィルムのPDCコーティングを研究した。結果を
図12に示す。(a)は、酸に完全に溶解し、均質方法によってチタン上にコーティングされたキトサンを示し、(b)は、PBS溶液中に分散され、不均質方法によってチタン上にコーティングされたPDCを示す。図から分かるように、不均質方法は、フィルムの厚さ及び粗さの両方の変動がより大きいコーティングを生成する。
【国際調査報告】