(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-28
(54)【発明の名称】高性能マルチモーダル超高分子量ポリエチレン
(51)【国際特許分類】
C08L 23/04 20060101AFI20241121BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
C08L23/04
C08J5/18 CES
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024537018
(86)(22)【出願日】2022-11-15
(85)【翻訳文提出日】2024-07-04
(86)【国際出願番号】 EP2022081920
(87)【国際公開番号】W WO2023126100
(87)【国際公開日】2023-07-06
(32)【優先日】2021-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517301210
【氏名又は名称】タイ ポリエチレン カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100128484
【氏名又は名称】井口 司
(72)【発明者】
【氏名】エカブトル,ポンポン
(72)【発明者】
【氏名】スチャオ-イン,ナッタポーン
(72)【発明者】
【氏名】ジャルマネロジ,チャッチャイ
(72)【発明者】
【氏名】ナンタセトフォン,ウィロジ
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
【Fターム(参考)】
4F071AA15
4F071AA81
4F071AA82X
4F071AF23
4F071BB06
4F071BC01
4J002BB02W
4J002BB02X
4J002BB02Y
4J002FA09W
4J002FA09X
4J002FA09Y
4J002GG02
(57)【要約】
本発明は、マルチモーダルポリエチレン組成物、それを含むシート及び中空物品、シート又は中空物品の調製方法、ならびにシート又は中空物品の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)31,000~260,000g/molの粘度計分子量(Mv)を有する低分子量ポリエチレンホモポリマーを、マルチモーダルポリエチレン組成物の総重量に対して7~40重量%、
(B)1,900,000~5,200,000g/molの粘度計分子量を有する第1の高分子量ポリエチレンホモポリマー又はコポリマーを、マルチモーダルポリエチレン組成物の総重量に対して20~45重量%及び、
(C)3,000,000~7,300,000g/molの粘度計分子量を有する第2の高分子量ポリエチレンホモポリマー又はコポリマーを、マルチモーダルポリエチレン組成物の総重量に対して28~72重量%
を含み、
前記第1の高分子量ポリエチレン及び第2の高分子量ポリエチレンは、その粘度計分子量に関して互いに異なり、
マルチモーダルポリエチレン組成物の固有粘度は、11~22dl/gであり、前記固有粘度は、ISO1872に従って測定される、マルチモーダルポリエチレン組成物。
【請求項2】
前記マルチモーダルポリエチレン組成物が、ISO11542-2によって測定して170~300kJ/m
2のダブルノッチ付きシャルピー衝撃強度を有する、請求項1に記載のマルチモーダルポリエチレン組成物。
【請求項3】
前記マルチモーダルポリエチレン組成物が、ISO11542-2によって測定して185~278kJ/m
2のダブルノッチ付きシャルピー衝撃強度を有する、請求項1又は2に記載のマルチモーダルポリエチレン組成物。
【請求項4】
前記マルチモーダルポリエチレン組成物が、2,550~5,800kPa.sの高剪断速度(190℃で0.1 1/s)での複素粘度を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載のマルチモーダルポリエチレン組成物。
【請求項5】
前記マルチモーダルポリエチレン組成物が、ASTM D 1505に従って、0.930g~0.960g/cm
3の密度を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載のマルチモーダルポリエチレン組成物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載のマルチモーダルポリエチレン組成物を含むシート。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか一項に記載のマルチモーダルポリエチレン組成物を含む中空物品。
【請求項8】
請求項1から4のいずれか一項に記載のマルチモーダルポリエチレン組成物を圧縮成形する工程を含む、請求項6に記載のシート又は請求項7に記載の中空物品の調製方法。
【請求項9】
請求項1から5のいずれか一項に記載のマルチモーダルポリエチレン組成物を押し出す工程を含む、請求項6に記載のシート又は請求項7に記載の中空物品の調製方法。
【請求項10】
ライナー、異形材、パイプ、テープ、繊維、工業部品、高衝撃部品、高研磨部品、摺動材料又はRAM押出異形材としての、請求項6に記載のシート又は請求項7に記載の中空物品の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ポリエチレン樹脂は様々な用途で使用されているため、ポリエチレン樹脂の需要は増加している。新しいプラスチック用途のためのポリエチレンの高い性能が必要とされている。エチレンコポリマーの加工性と物理的特性のバランスをとるために、マルチモーダル超高分子量ポリエチレンは有望な材料である。
【0002】
超高分子量ポリエチレン(Ultra high molecular weight polyethylene:UHMWPE)は、数百万、通常350~750万の平均分子量を有するポリエチレンである。高分子量は、一般的なエンジニアリングプラスチックと比較して、耐摩耗性、耐衝撃性、耐疲労性及び耐薬品性に関して優れた機械的特性をもたらす。しかしながら、高分子量のために、これは高密度ポリエチレン(例えば、0.930~0.935g/cm3)より低い密度によって観察されるように、結晶構造中への鎖のあまり効率的でない充填をもたらす。さらに、UHMWPEの主な欠点は加工である。UHMWPEはその溶融温度を超えても流動せず、結果としてラム押出を除いて、従来の押出による加工は困難となる。
【0003】
超高分子量ポリエチレン(Ultra high molecular weight polyethylene:UHMWPE)は、優れた機械的特性、例えば高い耐摩耗性及び衝撃強度のために、種々の用途でプラスチックシートの成型加工に関して周知である。通常、UHMWPEは従来の押出で加工するのは容易ではない。特定の機械及び成型加工、例えば圧縮成形及びラム押出が一般に必要とされる。
【0004】
いくつかの報告は、UHMWPEが、他のポリマー、例えばポリプロピレン、ポリカーボネート及び従来のポリエチレンとブレンドすることによって、ポリマーの靭性及び機械的特性(摩耗、衝撃、引張り、低摩擦など)を改善することができると主張している。UHMWPEが高密度ポリエチレン(High-density polyethylene:HDPE)マトリックス中に別個の島を形成し、そのために最終ブレンドにおける不均一性をもたらすこともまた周知である。均質性を改善するために厳しい配合条件又は再押出を適用すると、ポリマー鎖の分解が起こり、超高分子量部分の減少をもたらす。
【0005】
UHMWPEの加工性を改善するための研究は、Jaggi及び共同研究者によって行われた。彼らは、HDPEとUHMWPEとの間のブレンド系を使用し、その加工性を観察するために複素粘度を適用している。研究ではHDPEの量が増加すると、UHMWPEの複素粘度が低下することが示された。さらに、ブレンド系の機械的特性は、引張強度、ヤング率、及び衝撃強度に関して改善された(J polym Res 2014,21,482)。複素粘度は、別の系とブレンドすることによって、例えば、Chen及び共同研究者の報告に示されている低密度ポリエチレン(Low density polyethylene:LDPE)又は直鎖状低密度ポリエチレン(Linear low-density polyethylene:LLDPE)とUHMWPEとをブレンドすることによって低下させることができる(polymer science series A vol 56 no 5 2014)。
【0006】
しかしながら、UHMWPEの加工性、及び機械的特性のバランスを改善するための別の系がさらに存在する。加工性を改善するためのUHMWPEと他の低分子量ポリマー、例えばポリプロピレン(Polypropylene:PP)とのブレンド系が公知であった。彼らは、HDPE/PP中のUHMWPEの量が機械的特性及び加工性に影響を及ぼすと主張した。UHMWPEとHDPE/PPとの間のブレンド比の最適条件が、機械的特性を最大化するために検証されなければならない。しかしながら、UHMWPEとHDPE/PPとの間の混合挙動は、機械的性質にとって非常に重要であり、さらには制御が非常に困難なブレンド系から制御するためには加工性が鍵となる。
【0007】
欧州特許第1655334号には、MgCl2系チーグラー・ナッタ触媒を用いて多段プロセスで製造されるエチレンポリマーのマルチモーダル製造を開示している。重合段階は、最初に超高分子量ポリマーを得て、続いて低分子量ポリマーを得て、最後に、最後の工程において高分子量ポリマーを得る順番で実施される。重合触媒は、超高分子量画分を調製するために、予備重合工程に投入される。
【0008】
国際公開第2013/144328号には、チーグラー・ナッタ触媒を使用して製造される、成形用途における使用のためのマルチモーダル高密度ポリエチレンの組成物が記載されている。15重量%未満の少量の超高ポリエチレンが第3の反応器中で製造される。
【0009】
国際公開第2014/091501号パンフレットでは、HDPEとUHMWPEのブレンドが、HDPEの衝撃強度又は引張歪みを改善することができる。しかしながら、ブレンド後の形態が重要な因子の1つである。
【0010】
バイモーダルHDPEとUHMWPEのブレンドが、国際公開第2015121161号パンフレット及び欧州特許第2907843号明細書で首尾よく行われた。バイモーダルHDPEの機械的特性がUHMWPEの割合のために増加したと主張された。さらに、混合を押出機によって調製することができる。
【0011】
欧州特許第2743305号明細書では、マルチモーダルHDPEとUHMWPEのブレンドが行われた。垂れ特性を含む機械的特性を改善するためにUHMWPEがマルチモーダルHDPEパイプ樹脂に添加されたが、ブレンドの均質性を改善するために多重押出が必要であった。
【0012】
米国特許出願公開第2009/0163679号明細書は、マルチモーダル超高分子量ポリエチレンを製造するプロセスを記載している。重合は連続撹拌槽型反応器(Continuous stirred tank reactor:CSTR)によって行われ、各反応器の分子量が圧力、温度及び水素によって制御され、超高分子量エチレンポリマー組成物をこのプロセスによって得ることができる。
【0013】
しかしながら、上記の先行技術に照らしても、先行技術の欠点を克服するUHMWPE及びシートを調製するためのマルチモーダルポリエチレン組成物を提供すること、特に、耐摩耗性などの改善された特性を有し、及び/又は改善された均質性及び/又は加工性を有するシートを製造するための高密度ポリエチレン組成物を提供することが依然として必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】欧州特許第1655334号
【特許文献2】国際公開第2013/144328号
【特許文献3】国際公開第2014/091501号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2015121161号パンフレット
【特許文献5】欧州特許第2907843号明細書
【特許文献6】欧州特許第2743305号明細書
【特許文献7】米国特許出願公開第2009/0163679号明細書
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】J polym Res 2014,21,482
【非特許文献2】polymer science series A vol 56 no 5 2014
【発明の概要】
【0016】
本発明の目的は、先行技術の欠点を克服し、特に改善された機械的特性を有するマルチモーダルポリエチレン組成物を提供することである。
【0017】
この目的は、
(A)31,000~260,000g/molの粘度計分子量(Mv)を有する低分子量ポリエチレンホモポリマーを、マルチモーダルポリエチレン組成物の総重量に対して7~40重量%、
(B)1,900,000~5,200,000g/molの粘度計分子量を有する第1の高分子量ポリエチレンホモポリマー又はコポリマーを、マルチモーダルポリエチレン組成物の総重量に対して20~45重量%及び、
(C)3,000,000~7,300,000g/molの粘度計分子量を有する第2の高分子量ポリエチレンホモポリマー又はコポリマーを、マルチモーダルポリエチレン組成物の総重量に対して28~72重量%、
を含むマルチモーダルポリエチレン組成物によって達成され、
ここで、第1の高分子量ポリエチレン及び第2の高分子量ポリエチレンは、その粘度計分子量に関して互いに異なり、
マルチモーダルポリエチレン組成物の固有粘度(Intrinsic viscosity:IV)は、11~22dl/gであり、この固有粘度は、ISO1872に従って測定される。
【0018】
構成成分(A)~(C)の1つに関して、すなわち、本発明のマルチモーダルポリエチレン組成物に含まれるポリエチレン画分の1つに関して本明細書で言及される「粘度計分子量」は、それぞれの画分個々の粘度計分子量を指す。言い換えれば、個々の粘度計分子量は、マルチモーダルポリエチレン組成物の他のポリエチレン画分、例えば、マルチモーダルポリエチレン組成物の調製方法において前に調製され得る画分によって影響されない。
【0019】
本発明のマルチモーダルポリエチレン組成物は、画分(A)、(B)及び(C)がその後の段階で製造される多段階プロセスで製造される。そのような場合、多段階プロセスの第2の工程又は第3の工程(又はさらなる工程)で製造された画分の特性は、画分が製造される多段階プロセスの段階に関して同一の重合条件(例えば、同一の温度、反応物/希釈剤の分圧、懸濁媒体、反応時間)を適用することによって、及び以前に製造されたポリマーが存在しない触媒を使用することによって、単一の段階で別々に製造されるポリマーから推測することができる。あるいは、多段階プロセスのより高い段階で製造された画分の特性は、例えば、B. Hagstrom, Conference on Polymer Processing (The Polymer Processing Society), Extended Abstracts and Final Programme, Gothenburg, August 19 to 21, 1997, 4:13に従って計算することもできる。
【0020】
したがって、多段階プロセス製造物で直接測定することはできないが、そのような多段階プロセスのより高い段階で製造された画分の特性は、上記の方法のいずれか又は両方を適用することによって決定することができる。当業者は、適切な方法を選択することができる。分子量(Mvなど)などの特性を計算する1つの特定の方法は、Excel又は他の計算プログラムを使用してデコンボリューションプロセスを適用することである。デコンボリューションプロセスでは、それぞれの信号の減算が行われる。
【0021】
多段階プロセスで製造されたポリマーHDPEは、「in-situ」ブレンドとも呼ばれる。得られた最終製造物は、3つ又はそれ以上の反応器からのポリマーの均質混合物からなり、これらのポリマーの異なる分子量分布曲線は共に、広範な最大値又は2つもしくは3つ又はそれ以上の最大値を有する分子量分布曲線を形成する。31,000~260,000g/molの粘度計分子量(Mv)を有する低分子量ポリエチレンホモポリマーは、本明細書において構成成分(A)と称され得る。1,900,000~5,200,000g/molの粘度計分子量の粘度計分子量(Mv)を有する第1の高分子量ポリエチレンホモポリマー又はコポリマーは、本明細書において構成成分(B)と称され得る。3,000,000~7,300,000g/molの粘度計分子量の粘度計分子量(Mv)を有する第2の高分子量ポリエチレンホモポリマー又はコポリマーは、本明細書において構成成分(C)と称され得る。3つの構成成分(A)、(B)及び(C)は、マルチモーダルポリエチレン組成物の画分とも称され得る。マルチモーダルポリエチレン組成物は、3つのポリエチレン画分(A)、/B)、及び(C)を、それぞれ、マルチモーダルポリエチレン組成物の総重量に対して、少なくとも50重量%、少なくとも60重量%、少なくとも70重量%、少なくとも80重量%、少なくとも90重量%、少なくとも95重量%、少なくとも98重量%、少なくとも99重量%からなる群から選択される総量で含み得る。マルチモーダルポリエチレン組成物は、実質的に3つのポリエチレン画分(A)、/B)、及び(C)からなり得る。マルチモーダルポリエチレン組成物は、3つのポリエチレン画分(A)、/B)、及び(C)からなり得る。
【0022】
マルチモーダルポリエチレン組成物は、マルチモーダルポリエチレン組成物の総重量に対して7~40重量%の量で構成成分(A)を含み得る。
【0023】
マルチモーダルポリエチレン組成物は、マルチモーダルポリエチレン組成物の総重量に対して20~45重量%の量で構成成分(B)を含み得る。
【0024】
マルチモーダルポリエチレン組成物は、マルチモーダルポリエチレン組成物の総重量に対して28~72重量%の量で構成成分(B)を含み得る。
【0025】
構成成分(A)は、31,000~260,000、好ましくは31,500~236,000g/molの粘度計分子量(Mv)を有し得る。
【0026】
構成成分(B)は、1,900,000~2,600,000、好ましくは2,100,000~4,700,000g/molの粘度計分子量(Mv)を有し得る。
【0027】
構成成分(C)は、3,000,000~7,300,000、好ましくは3,400,000~6,700,000g/molの粘度計分子量(Mv)を有し得る。
【0028】
構成成分(B)である第1の高分子量ポリエチレンがコポリマーである場合、ポリエチレンとともに共重合されるコモノマーは、C4モノマー(ブテン)及び/又はC6モノマー(ヘキセン)であり得る。コポリマー中のコモノマーの量は、0.01~1.0モル%であり得る。
【0029】
構成成分(C)である第2の高分子量ポリエチレンがコポリマーである場合、ポリエチレンとともに共重合されるコモノマーは、C4モノマー(ブテン)及び/又はC6モノマー(ヘキセン)であり得る。コポリマー中のコモノマーの量は、0.01~1.0モル%であり得る。
【0030】
マルチモーダルポリエチレン組成物中のコモノマーの総量は、マルチモーダルポリエチレン組成物の総重量に基づいて、0.01~2.0%モル、好ましくは0.01~1.5%モル、より好ましくは0.01~1.0%モル、さらにより好ましくは0.01~0.5%モル、最も好ましくは0.01~0.2%モルであり得る。
【0031】
マルチモーダルポリエチレン組成物は、ゲル浸透クロマトグラフィー(Gel permeation chromatography:GPC)で決定される重量平均分子量(Mw)が1,200,000g/mol~2,500,000g/mol、特に1,300,000g/mol~2,300,000g/molであり得る。
【0032】
マルチモーダルポリエチレン組成物は、GPCで決定される数平均分子量(Mn)が20,000g/mol~130,000g/molであり得る。
【0033】
マルチモーダルポリエチレン組成物は、10~80、特に17~70の分子量分布(Mw/Mn)、多分散性指数(Polydispersity index:PDI)を有し得る。
【0034】
マルチモーダルポリエチレン組成物の固有粘度(Intrinsic viscosity:IV)は、11~20dl/g、特に11~19.5、例えば11.1~19.3であってもよく、ここで固有粘度はISO1872に従って測定される。
【0035】
マルチモーダルポリエチレン組成物は、ISO11542-2によって測定される、170~300kJ/m2のダブルノッチ付きシャルピー衝撃強度を有し得る。マルチモーダルポリエチレン組成物は、ISO11542-2によって測定される185~278kJ/m2、特に188.0~278.0kJ/m2のダブルノッチ付きシャルピー衝撃強度を有し得る。
【0036】
マルチモーダルポリエチレン組成物、すなわち全ての構成成分(A)、(B)及び(C)を含む組成物の粘度計分子量(Mv)は、1,800,000g/mol~4,600,000g/mol、特に1,900,000g/mol~4,500,000g/mol、例えば1,930,000g/mol~4,420,000g/molであり得る。
【0037】
構成成分(A)及び(B)のみを含む組成物、すなわち、カスケード多段反応器プロセスでマルチモーダルポリエチレン組成物を調製する際に、第2の反応器の後に受け入れられる組成物の粘度計分子量(Mv)は、1,000,000g/mol~2,700,000g/mol、特に1,050,000g/mol~2,690,000g/molであり得る。
【0038】
マルチモーダルポリエチレン組成物は、2,550~5,800kPa.s、特に2,600~5,780kPa.sの高剪断速度(190℃で0.1 1/s)での複素粘度Eta(0.1)を有し得る。
【0039】
マルチモーダルポリエチレン組成物は、ASTM D 1505に従って、0.930~0.960g/cm3、特に0.9320~0.9520の密度を有し得る。
【0040】
この目的はさらに、本発明によるマルチモーダルポリエチレン組成物を含むシートによって達成される。
【0041】
この目的はさらに、本発明によるマルチモーダルポリエチレン組成物を含む中空物品によって達成される。
【0042】
この目的はさらに、本発明によるマルチモーダルポリエチレン組成物を圧縮成形する工程を含む、本発明によるシート又は本発明による中空物品の調製方法によってさらに達成される。圧縮成形プロセスは、熱したプレート又は金型によって材料を予熱する方法である。材料が金型内で完全に溶融するまで、適切な時間で材料に圧力及び熱を加える。最終製造物は、金型設計に応じてシート又は特定の形状であり得る。
【0043】
この目的はさらに、本発明によるマルチモーダルポリエチレン組成物を押し出す工程を含む、本発明によるシート又は本発明による中空物品の調製方法によってさらに達成される。
【0044】
この目的はさらに、本発明によるマルチモーダルポリエチレン組成物を含むシート又は中空物品によって達成される。
【0045】
最後に、この目的は、圧縮シート、ライナー、異形材(profiles)、異形押出(profile extrusion)、機械、繊維、テープ、工業部品、高衝撃部品、高研磨部品、摺動材、RAM押出異形材(RAM extrusion profiles)としてのシート又は中空物品の使用によって達成される。
【発明を実施するための形態】
【0046】
本発明のマルチモーダルポリエチレンは、表1のマルチモーダルポリエチレン組成物を製造するためのプロセスによって調製することができる。比較例及び本発明の実施例は、以下に詳細に記載されるように、小規模反応器又は大規模反応器のいずれかを使用することによって製造した。
【0047】
小規模反応器
6リットルの精製n-ヘキサンを希釈剤として使用して、10リットルのオートクレーブ反応器内で重合を行った。チーグラー・ナッタ触媒は、ハンガリー特許出願第0800771R号、例えばその実施例1に記載されている。表1に示す触媒の使用量を加えた。トリエチルアルミニウムを導入した。その後、温度を所望の値まで加熱し、エチレンの供給を開始した。第1の反応器内で製造されたポリマーの固有粘度を調整するために、水素を反応器に投入した。反応の全圧を維持しながら、エチレンを連続的に供給した。所望の量の粉末が調製されたら、圧力を解放し、スラリー内容物を冷却することによって重合を停止させた。反応の第2段階を、温度を所望の値に上昇させることによって開始した。反応の全圧を維持しながら、エチレンを連続的に供給した。第2段階のブレンド比に達したら、重合を停止した。圧力を解放し、スラリー内容物を冷却することによって重合を停止させた。反応の第3段階を、温度を所望の値に上昇させることによって開始した。場合により、第3段階でコポリマーを製造するために、この工程でC4~C12α-オレフィンコモノマーを添加した。反応の全圧を維持しながら、エチレンを連続的に供給した。第2段階のブレンド比に達したら、重合を停止した。圧力を解放し、スラリー内容物を冷却することによって重合を停止させた。ブレンド比は、異なる重合段階中のエチレン取り込み量を比較することによって直接計算することができる。
【0048】
大規模反応器
重合は、直列に接続された3つの反応器を使用して連続したプロセスで行った。チーグラー・ナッタ触媒は、ハンガリー特許出願第0800771R号、例えばその実施例1に記載されている。表1に示す使用量の触媒を、十分な量のヘキサン及び助触媒としてのトリエチルアルミニウムとともに第1の反応器に導入した。エチレン及び水素の量は、第1の反応器のポリマー組成物及び固有粘度が所望の値を達成するように設定した。
【0049】
第1の反応器からのポリマースラリーを、未反応ガスが除去された第2の反応器に移送する前に減圧した。ポリマー組成物が所望の値を達成するように設定されたエチレンを供給することによって、第2の反応器における重合を継続する。場合により、C4~C12α-オレフィンコモノマーも、コポリマーを製造するために第2の反応器に供給した。
【0050】
次いで、第2の反応器からのポリマースラリーを第3の反応器に移送した。ポリマー組成物が所望の値を達成するように設定されたエチレンを供給することによって、第3の反応器における重合を継続する。場合により、C4~C12α-オレフィンコモノマーも、コポリマーを製造するために第3の反応器に供給した。場合により、水素を供給して、第3の反応器の固有粘度を所望の値に制御した。
【0051】
第3の反応器に残る粉末を溶媒から分離し、乾燥させた。
【0052】
定義及び測定方法
MI
2
:2.16kg((MI2)の負荷で190℃での試験条件下でポリマーの流動性を決定するポリマーのメルトフローインデックス(Melt flow index:MI)を、ASTM D 1238に従って測定し、g/10分で示す。
【0053】
密度:ペレットが液柱勾配管に沈むレベルを公知の密度の標準と比べて観察することによって、ポリエチレンの密度を測定した。この方法は、ASTM D 1505に従った、120℃でアニーリングした後の固体プラスチックの測定であり、g/cm3の単位で示される。
【0054】
分子量及び多分散性指数(Polydispersity index:PDI):重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及びZ平均分子量(MZ)(g/mol)をゲル浸透クロマトグラフィー(Gel permeation chromatography:GPC)で分析した。多分散性指数はMw/Mnにより計算した。試料約8mgを1,2,4-トリクロロベンゼン8mlに160℃で90分間溶解した。次いで、試料溶液200μlを、IR5、赤外検出器(Polymer Char、スペイン)を備える高温GPCに、カラムゾーン145℃、検出器ゾーン160℃で流量0.5ml/分で注入した。データは、GPC One(登録商標)ソフトウェア(Polymer Char(スペイン)社製)により処理した。
【0055】
固有粘度(Intrinsic viscosity:IV):この試験方法は、135℃のポリエチレン又は150℃の超高分子量ポリエチレン(Ultra high molecular weight polyethylene:UHMWPE)の希薄溶液粘度の測定を対象とする。ポリマー溶液は、0.2%wt/volの安定剤(Irganox 1010又は同等物)を含むデカリンにポリマーを溶解させることによって調製した。詳細は、ISO 1628に従ったIVの測定について記述されている。
【0056】
粘度計分子量
粘度計分子量(MV)は、以下の式に示すように、上記のように決定されたIVに基づいて計算することができる:
Mv=5.37×104×(IV)1.49
式中、Mvは粘度計分子量であり、Mvの単位は(g/mol)であり、ηは固有粘度(dl/g)である。
【0057】
個々の分子量計算及び個々の固有粘度
本発明のマルチモーダルポリエチレン組成物は、画分(A)、(B)及び(C)がその後の段階で製造される多段階プロセスで製造される。そのような場合、多段階プロセスの第2の工程又は第3の工程(又はさらなる工程)で製造された画分の特性は、画分が製造される多段階プロセスの段階に関して同一の重合条件(例えば、同一の温度、反応物/希釈剤の分圧、懸濁媒体、反応時間)を適用することによって、及び以前に製造されたポリマーが存在しない触媒を使用することによって、単一の段階で別々に製造されるポリマーから推測することができる。あるいは、多段階プロセスのより高い段階で製造された画分の特性は、例えば、B. Hagstrom, Conference on Polymer Processing (The Polymer Processing Society), Extended Abstracts and Final Programme, Gothenburg, August 19 to 21, 1997, 4:13に従って計算することもできる。
【0058】
したがって、多段階プロセス製造物で直接測定することはできないが、そのような多段階プロセスのより高い段階で製造された画分の特性は、上記の方法のいずれか又は両方を適用することによって決定することができる。当業者は、適切な方法を選択することができる。分子量(Mvなど)などの特性を計算する1つの特定の方法は、Excel又は他の計算プログラムを使用してデコンボリューションプロセスを適用することである。デコンボリューションプロセスでは、それぞれの信号の減算が行われる。
【0059】
多段階プロセスで製造されたポリマーHDPEは、「in-situ」ブレンドとも呼ばれる。得られた最終製造物は、3つ又はそれ以上の反応器からのポリマーの均質混合物からなり、これらのポリマーの異なる分子量分布曲線は共に、広範な最大値又は2つもしくは3つ又はそれ以上の最大値を有する分子量分布曲線を形成する。
【0060】
反応器1、2及び3における各実施例の個々のIV及び個々のMvの計算を表1に示す。
【0061】
コモノマー含有量:コモノマー含有量は、高分解能13C-NMRによって決定した。13C-NMRスペクトルは、500MHz ASCEND(商標)(Bruker)により、極低温10mmプローブを用いて記録した。TCBを主溶媒として、TCE-d2をロック剤として、4:1の体積比で使用した。NMR実験は120℃で行い、パルスプログラムの逆ゲート13C(zgig)をパルス角90°で使用した。フルスピン回復のための遅延時間(D1)は10秒に設定した。最後に、コモノマー含有量を%モル単位で計算する。
【0062】
剪断速度0.1(1/s)における粘度(Eta(0.1))
レオロジーパラメータは、制御歪みレオメータモデルARES-G2 TA装置を使用することによって決定する。形状は、プレート-プレート8mm直径である。測定ギャップは1mmに規定した。動的振動剪断は、窒素雰囲気下、190℃の温度で0.1~200rad/sの間、角周波数で実施した。試料調製物は、190℃での圧縮成形によって調製した。0.1 1/sでの粘度[η0.1]は、0.1rad/sに等しい特定の角周波数での複素粘度のコックス-メルツ変換によって得た。剪断速度0.1(1/s)での粘度は単位kPa.sで示された。
【0063】
ダブルノッチ付きシャルピー衝撃強度:ISO 11542-2に従って圧縮試験片を調製した。シャルピー衝撃強度(それぞれ、ダブルノッチ付きシャルピー衝撃強度)は、23℃でISO 11542-2に従って決定し、単位kJ/m2で示す。
【実施例】
【0064】
実験及び実施例
上記組成物から本発明のシートを調製するために、小規模反応器及び大規模反応器での重合によって本発明の反応器システムを使用して得られ得るマルチモーダルポリエチレン組成物の部分範囲が特に好ましいことが分かった。詳細には、本発明のシートを形成するのに適した組成物は以下の通りであり、以下の特性を有する。以下の比較実施例はシート関連組成物を指す。
【0065】
発明実施例及び比較実施例を表1に説明されるプロセス条件に従って調製した。UHMWPE試料のほとんどを、一般的なポリエチレンに匹敵する改善された溶融加工及び衝撃特性を提供するように調製した。次いで、組成物をシートに調製し、それらの特性を表1に定義した。
【0066】
本発明の実施例1(E1)
本発明の実施例1(E1)を、上記で開示されたプロトコル及び表1に示される反応物の量を使用して小規模反応器を用いてマルチモーダルポリエチレン組成物を調製するために製造した。ホモポリマーを第1の反応器内で製造して、このようなポリマーを移送する前に、中分子量部分を得た。低~中分子量ポリマーを、次いで、第2の反応器に移送して、第1の超高分子量ポリマーを製造した。最後に、第2の反応器からの製造されたポリマーを第3の反応器に移送して、第2の超高分子量ポリマーを生成した。第2及び第3の反応器は、水素欠乏ポリエチレン重合下で運転される。IVが11.1dl/gのUHMWPE粉末を得た。
【0067】
本発明の実施例2(E2)
本発明の実施例2(E2)は、1-ヘキセンコモノマーを用い、マルチモーダルの組成及び重合条件を調整することによって、様々な種類のIVを用いてE1と同様に行った。13.7dl/gのIV及び0.03%モルのコモノマー含有量を有する本発明の実施例2(E2)は、比較ブレンド試料と比較して高い衝撃強度を示す。
【0068】
本発明の実施例3(E3)
本発の実施例3(E3)は、表1に示すように異なるブレンド組成を用いて、E1及びE2と同様にして製造した。最終製造物の1-ブテンコモノマー組み込みのパーセンテージは、0.17%モルである。IVが15.8dl/gのUHMWPE粉末を得た。
【0069】
本発明の実施例4(E4)
本発明の実施例4(E4)は、E1、E2及びE3と同様の方法で行ったが、マルチモーダルの組成及び重合条件を調整することによって、異なる大規模反応器を用いて合成を行った。IVは、コモノマーを含まないE1、E2及びE3よりも高い。IVが16.4dl/gのUHMWPE粉末を得た。
【0070】
本発明の実施例5(E5)
本発明の実施例5(E5)は、E1、E2、E3、及びE4と同様の方法で行ったが、1-ブテンコモノマーを用いた重合条件により、第2及び第3の反応器のブレンド組成及びIVが異なる小規模反応器で合成した。18.2dl/gのIV及び0.03%モルのコモノマー含有量を有するUHMWPE粉末が得られた。
【0071】
本発明の実施例6(E6)
本発明の実施例6(E6)は、E1、E2、E3、E4及びE5と同様の方法で行ったが、コモノマーを含まない第2及び第3の反応器のブレンド組成及びIVが異なる大規模反応器で合成した。IVが19.3dl/gのUHMWPE粉末を得た。本発明の実施例は、加工性が制限される高いEta(0.1)、5,772kPa.sを有する最も高いIVである。
【0072】
本発明の実施例7(E7)
本発明の実施例7(E7)は、E1、E2、E3、E4、E5及びE6と同様の方法で行い、合成は、コモノマーを含まない第2及び第3の反応器のブレンド組成及びIVが異なる小規模反応器での重合である。IVが11.6dl/gのUHMWPE粉末を得た。
【0073】
本発明の実施例8(E8)
本発明の実施例8(E8)は、E1、E2、E3、E4、E5、E6、及びE7と同様の方法で行い、合成は、コモノマーを含まない第2及び第3の反応器のブレンド組成及びIVが異なる小規模反応器での重合である。IVが12.3dl/gのUHMWPE粉末を得た。
【0074】
本発明の実施例9(E9)
本発明の実施例9(E9)は、E1、E2、E3、E4、E5、E6、E7及びE8と同様の方法で行い、合成は、コモノマーを含まない第2及び第3の反応器のブレンド組成及びIVが異なる大規模反応器での重合である。IVが13.5dl/gのUHMWPE粉末を得た。本発明の実施例は、全ての比較実施例及び本発明の実施例と比較して最も高い衝撃特性を示す。
【0075】
比較例1(CE1)
ユニモーダルホモポリマーは、25.0dl/gのIVを有する市販グレード(U521)であった。
【0076】
比較例2(CE2)
比較例2(C2)は、ブレンド比12/30/58でマルチモーダルの組成及び重合条件を調整することによって様々なIVを有する大規模反応器を使用することによってE1と同様の方法で行った。比較例2(CE2)は、24.8dl/gのIVを有した。
【0077】
比較例3(CE3)
比較例3(CE3)は、ブレンド比49/25/26で重合されたマルチモーダルポリエチレンである。重合プロセスを小規模反応器で行った。第1の反応器のMFRは20g/10分である。第2及び第3の反応器の固有粘度は、0.2%モルの1-ブテンコモノマーを用いた重合で、それぞれ4.4dl/g及び6.7dl/gである。
【0078】
比較例4(CE4)
比較例4(CE4)は、ホモポリエチレンと、23dl/gのIVで本発明者らによって合成されたユニモーダルUHMWPEとのブレンドである。0.04g/10分のMI2及び2~3dl/gのIV範囲を有するホモポリエチレン粉末を、10重量部のホモポリエチレンと90重量部のUHMWPEの組成で、単軸スクリュー押出機によって、UHMWPE粉末及び23のIVとブレンドした。単軸スクリュー押出機の温度プロファイルは、バレルからダイまで130℃~180℃に設定した。ブレンドを押し出し、20.9dl/gの得られるIVを有するペレットに造粒した。
【0079】
比較例5(CE5)
比較例5(CE5)は、ブレンド比45/35/20で重合されたマルチモーダルポリエチレンである。重合プロセスを小規模反応器で行った。IVが13.0dl/gのUHMWPE粉末を得た。
【0080】
比較例6(CE6)
比較例6(CE6)は、ブレンド比15/30/55で重合されたマルチモーダルポリエチレンである。重合プロセスを大規模反応器で行った。IVが8.2dl/gのUHMWPE粉末を得た。
【0081】
比較例7(CE7)
比較例7(CE7)は、ブレンド比5/20/75で重合されたマルチモーダルポリエチレンである。重合プロセスを小規模反応器で行った。IVが23.9dl/gのUHMWPE粉末を得た。
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
考察
本発明の試料E1~E9は、全ての比較例CE1~CE7に対して185kJ/m2を超えるダブルノッチ付きシャルピー衝撃強度の大幅な改善を提供する11.1~19.3dl/gの様々なIV範囲を有する小規模~大規模反応器におけるマルチモーダル重合プロセスによって製造された。
【0087】
両方の特性は、マルチモーダルポリエチレン組成物中の低~中分子量部分及び超高分子量部分のバランスによって向上した。マルチモーダル試料がより良好な耐衝撃性を示す主な理由は、隣接するUHMWPE粒子間の境界にわたる鎖拡散を促進し、隣接する粒子間の空隙形成を低減することができる低分子量部分である。これは、低分子量が結晶粒界の排除に重要な役割を果たし、焼結度を向上させることを意味する。本発明の実施例9は、最も高い衝撃強度、278kJ/m2を示す。マルチモーダルUHMWPEにコモノマーを組み込む際、1-ブテン及び1-ヘキセンコモノマーを重合プロセスに添加した。結果は、コモノマー含有量が0.03~0.17%モルであっても、UHMWPEの実施例は依然として良好な耐衝撃性を維持することを示す。低分子量部分を含有するマルチモーダルプロセスによって製造されたCE2、CE5、CE6及びCE7でさえ、190kJ/m2を超える高い耐衝撃性を達成することはできない。
【0088】
マルチモーダル試料の衝撃特性だけでなく押出性も劇的に改善される。ポリマー組成物中の低分子量は、溶融状態のUHMWPE分子の追従性を促進する潤滑剤として作用する。
【0089】
重要なレオロジーパラメータであるEta(0.1)値も全ての実施例において観察された。Eta(0.1)は、単軸スクリュー押出機におけるUHMWPEの加工性及びダイにおける流動性に直接関連する。5,772kPa.s未満のEta(0.1)を有する実施例は、シート押出プロセスにおける良好な追従性を示す。しかしながら、ユニモーダルの実施例であるEta(0.1)が8,781kPa.sであるCE1は、溶融状態における流動性を向上させるための組成物中の低分子量部分の欠如のために、同じ加工条件で押し出すことができない。CE2は、マルチモーダル反応器から製造されたが、高すぎるEta(0.1)、7,000kPa.sであるために、同じ条件で押し出すことができない。CE3は、最も低い分子量の試料で、IV=6.7dl/gであり、他と比較して最も良好な流動性である最も低いEta(0.1)、265kPa.sを示す。CE4は、同じ条件で押し出すことができるEta(0.1)、4,216kPa.sを有するIV=20.9dl/gのブレンド系であるが、機械的特性、特にダブルノッチ付きシャルピー衝撃は、ポリマーブレンド中の均一性不良又は融合効果のために高レベルまで達成されない。
【0090】
低~超高分子量ポリエチレンを含む本発明の実施例は、加工性及び衝撃強度を促進することができることが明確に分かる。全ての結果は、先行技術に比べて新たな本発明の実施例の顕著な特徴及び利点を示した。
【0091】
前述の説明及び従属請求項に開示されている特徴は、別個及びそれらの任意の組み合わせの両方で、独立請求項でなされた開示の態様をその多様な形態で実現するための材料となり得る。
【国際調査報告】