(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-28
(54)【発明の名称】多層構造体
(51)【国際特許分類】
C04B 35/488 20060101AFI20241121BHJP
A61C 13/083 20060101ALI20241121BHJP
A61C 5/77 20170101ALI20241121BHJP
【FI】
C04B35/488
A61C13/083
A61C5/77
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024537138
(86)(22)【出願日】2022-12-16
(85)【翻訳文提出日】2024-06-26
(86)【国際出願番号】 EP2022086277
(87)【国際公開番号】W WO2023117732
(87)【国際公開日】2023-06-29
(32)【優先日】2021-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509207014
【氏名又は名称】ビタ ツァーンファブリク ハー.ラウター ゲーエムベーハー ウント コー カーゲー
【氏名又は名称原語表記】VITA ZAHNFABRIK H.RAUTER GMBH & CO.KG
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】ゴディカー,ミシャエル
(72)【発明者】
【氏名】ノイン,クリストファー
【テーマコード(参考)】
4C159
【Fターム(参考)】
4C159GG04
4C159GG15
4C159RR11
4C159SS01
4C159TT02
(57)【要約】
本発明は2つ以上の異なる色のセラミック粉末層を含むプレス成形体を焼結することによって得られる歯科修復物の製造に使用するためのカラープロファイルを有する成形体に関し、各粉末層は少なくとも80重量%のZrO
2を含み、本質的に酸化鉄を含まず、少なくとも1つの粉末層は、酸化テルビウム(Tb
4O
7)を含むことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる色を有する2つ以上のセラミック粉末層を含む圧縮モールディングを焼結することによって得られる、歯科修復物の製造に使用するための色勾配を有する焼結モールディングであって、
各粉末層が少なくとも80重量%のZrO
2を有し、酸化鉄を本質的に含まず、
各粉末層が異なる濃度の酸化テルビウム、酸化エルビウム、および酸化コバルトを有することを特徴とする焼結モールディング。
【請求項2】
前記焼結粉末層の各々が、25~1600℃の温度範囲にわたって、好ましくは900~1400℃の温度範囲にわたって、本質的に等しい体積変化を受けることを特徴とする、請求項1に記載の焼結モールディング。
【請求項3】
酸化テルビウムと酸化コバルトの重量比が、少なくとも1つの粉末層、好ましくは少なくとも2つまたは3つの粉末層、特に各粉末層において、80:1~5:1、好ましくは75:1~10:1、具体的には60:1~15:1の範囲内であることを特徴とする、請求項1または2に記載の焼結モールディング。
【請求項4】
前記ブランクが異なる色を有する層を有し、前記焼結プロセスが、段階的な色勾配をもたらすことを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載の焼結モールディング。
【請求項5】
少なくとも2つ、好ましくは全ての粉末層が、本質的に同一のイットリア含有量を有することを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載の焼結モールディング。
【請求項6】
前記ブランクは半透明の勾配を有し、好ましくは酸化イットリウム含有量の層ごとの増加を示すことを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の焼結モールディング。
【請求項7】
前記粉末層のそれぞれが、少なくとも0.02重量%のAl
2O
3、好ましくは0.03~0.15重量%の量のAl
2O
3、特に0.03~0.08重量%の量のAl
2O
3を有することを特徴とする、前記請求項のいずれか一項または複数項に記載の焼結モールディング。
【請求項8】
前記粉末層の少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つ、または少なくとも3つ、特に全ての粉末層が、Y
2O
3および/またはEr
2O
3を、好ましくは少なくとも3重量%、特に少なくとも5重量%、または少なくとも6重量%、特に4.5~12重量%、特に6~10重量%含むことを特徴とする、前記請求項のいずれか一項または複数項に記載の焼結モールディング。
【請求項9】
前記粉末層が、ジルコニアおよび/またはHfO
2を、それぞれ、前記ベース粉末の成分の総重量に基づいて、少なくとも89重量%、好ましくは89~98重量%、特に90~96重量%の量で含むことを特徴とする、前記請求項のいずれか一項または複数項に記載の焼結モールディング。
【請求項10】
前記圧縮モールディングが、4つ以上の粉末層、好ましくは5つのセラミック粉末層からなることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項または複数項に記載の焼結モールディング。
【請求項11】
前記圧縮モールディングが5つのセラミック粉末層からなり、第1の粉末層が積み重ねられた粉末層の総厚さの20~30%、好ましくは22~28%を含み、第2の粉末層が10~20%、好ましくは12~18%を含み、第3の粉末層が15~25%、好ましくは17~23%を含み、第4の粉末層が10~20%、好ましくは12~18%を含み、第5の粉末層が20~30%、好ましくは22~28%を含み、総厚さが合計で100%になることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項または複数項に記載の焼結モールディング。
【請求項12】
予備焼結されたセラミックモールディングがサブトラクティブ法によって加工され、好ましくはその後、別の工程で最終焼結されることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項または複数項に記載の焼結モールディング。
【請求項13】
前記モールディングが、酸化テルビウム含有量の層ごとの増加を示すことを特徴とする、前記請求項のいずれか一項または複数項に記載の焼結モールディング。
【請求項14】
前記モールディングが各粉末層中に、酸化テルビウムを0.001~0.15重量%、好ましくは0.01~0.1重量%、特に0.02~0.06重量%の量で含有することを特徴とする、前記請求項のいずれか一項または複数項に記載の焼結モールディング。
【請求項15】
歯科修復物のための、または歯科修復物を製造するための、前記請求項のいずれかに記載のモールディングの使用。
【請求項16】
請求項1~14のいずれか一項に記載の色勾配を有する焼結モールディングの製造方法であって、
a)互いに積層された異なる色のセラミック粉末層を2または3または4または5以上設け、
b)積層されたセラミック粉末層をプレスして圧縮モールディングを形成し、
c)工程b)で得られたモールディングを焼結してセラミックモールディングを形成すること、を含み、
前記セラミック粉末層はそれぞれ異なる組成を有し、
各粉末層が80重量%以上のZrO
2を有し、かつ、実質的に酸化鉄を含まず、
各粉末層が異なる濃度の酸化テルビウム、酸化エルビウム、酸化コバルトを有することを特徴とする、焼結モールディングの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異なる色を有する2つ以上のセラミック粉末層を含む圧縮モールディングを焼結することによって得られる、歯科修復物の製造に使用するための色勾配を有する焼結モールディング、およびその製造方法、ならびに歯科修復物の製造のためのモールディングの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
独国特許出願公開第102016106370号明細書には歯科修復物の製造のためのジルコニア含有着色ブランクの製造方法が記載されており、この方法では少なくとも一部が着色元素を含有する粉末状の出発原料を混合し、得られたダイ混合物を圧縮し、次いで熱処理にかける。使用される粉末混合物はビスマスなどの蛍光効果を生じる元素を含有するが、焼結性能に不利な影響を及ぼす可能性がある。
【0003】
国際公開第2018/115529号は少なくとも2つの層を含む多層酸化物セラミック体を開示しており、少なくとも1つの層が酸化ランタンを含有し、少なくとも2つの異なる層において酸化ランタン含有量が異なる。酸化ランタンは、焼結性能を適合させるために使用される。
【0004】
欧州特許出願公開第3108849号明細書は多孔質多層着色ジルコニア系ブランクを記載しており、個々の粉末層は、異なる厚さを有することができる。
【0005】
欧州特許出願公開第3772497号明細書は、粉末層を有する歯科修復物に使用するための色勾配を有する焼結モールディングを記載しているが、この粉末層には酸化鉄が含まれている。
【0006】
ジルコニアセラミックはその硬度および良好な加工性、ならびにその制御可能な半透明性のために、歯科修復物の製造のための歯科工学に導入されている。ZrO2セラミックの着色は、通常、ジルコニアと共に焼結される着色酸化物を添加することによって行われる。歯の自然な色に適合する色の勾配を得るために、着色酸化物の濃度を層ごとに変化させ、色の勾配が歯の自然な色にできるだけ近くなるように調整することは、それ自体を示唆する。しかしながら、着色金属酸化物は、ジルコニアセラミックの焼結性能に影響を及ぼす可能性があるという問題がある。これは、特に、酸化鉄が使用された場合に確認されている。酸化鉄の濃度が層ごとに変化するジルコニアセラミックの層状構造体は、セラミックの焼結歪みをもたらす。その後、このような歪みを補正/修正しなければならず、これは困難である。さらに、層ごとに異なる焼結性能はまた、個々の層の異なる硬度をもたらし、これは、歯科修復物の製造のための減算法による加工をさらに複雑にする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は上述の問題を解決する、特に、広い温度範囲にわたって歪みなしに焼結することができる焼結モールディングを提供することである。
【0008】
さらに、本発明の目的は実質的に均一な硬度を有し、したがって良好に加工可能な色勾配を有するセラミック焼結モールディングを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的は、本発明の請求項1に記載の焼結成形によって達成される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】例示的なセラミックモールディングから得られた歯科修復物の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
第1の実施形態において、本発明は、異なる色を有する2つ以上のセラミック粉末層を含む圧縮モールディングを焼結することによって得られる歯科修復物の製造に使用するための色勾配を有する焼結モールディングであって、各粉末層が少なくとも80重量%のZrO2を含み、本質的に酸化鉄を含まず、少なくとも1つの粉末層が酸化テルビウムを含むことを特徴とする、焼結モールディングに関する。
【0012】
本発明において使用される場合、「本質的に酸化鉄を含まず」とは、粉末層の総重量に基づいて、それぞれ0.01重量%未満、好ましくは0.001重量%未満、または0.0001重量%未満の酸化鉄が含まれることを意味する。好ましい実施形態では、焼結モールディングは酸化鉄を含まない。
【0013】
酸化テルビウムの使用は、着色および歪み安定性の両方に優れていることが証明されている。
【0014】
本発明の意味における「酸化テルビウム」は基本的に、テルビウムの全ての酸化物を含む。好ましくは、前記酸化テルビウムがTb2O3、Tb4O7、Tb7O12、Tb11O20,TbO2、及びこれらの混合物からなる群から選択される。
【0015】
より好ましくは、Tb4O7、Tb7O12、Tb11O20,およびそれらの任意の混合物からなる群から選択される酸化テルビウムを使用することができる。
【0016】
特に好ましくは、酸化テルビウムがTb4O7の形態であるか、またはTb4O7とTb7O12、および/またはTb11O20との混合物である。
【0017】
さらに、混合原子価を有する酸化テルビウムが好ましい。
【0018】
好ましい実施形態において、少なくとも1つの粉末層、好ましくは少なくとも2つの粉末層、または少なくとも3つの粉末層、または少なくとも4つの粉末層、具体的には5つの粉末層、またはすべての粉末層は、0.001~0.15重量%、好ましくは0.01~0.1重量%、特に0.02~0.08重量%、具体的には0.02~0.06重量%の量の酸化テルビウムを含む。
【0019】
驚くべきことに、焼結粉末層の各々は、25~1600℃の温度範囲にわたって、特に50~1400℃の温度範囲にわたって、または900~1400℃の温度範囲にわたって、具体的には900~1350℃の温度範囲にわたって、本質的に等しい体積変化を受けることが分かった。
【0020】
本発明において使用される場合、「本質的に等しい体積変化」は、本発明に従って焼結されたブランクの2つの層の25~1600℃の範囲における規定温度での体積変化の差が最大で1%、好ましくは最大で0.5%、特に最大で0.05%であることを意味する。
【0021】
これにより、本発明に従って焼結モールディングの焼結歪みが低くなる。
【0022】
本発明のさらに好ましい実施形態では、各粉末層が異なる濃度の酸化テルビウム、酸化エルビウム、および酸化コバルトを有する。
【0023】
好ましい実施形態では、各粉末層が着色金属酸化物として、酸化テルビウム、酸化エルビウム、および酸化コバルトのみを有する。
【0024】
別の実施形態では、各粉末層が酸化テルビウム、酸化エルビウム、および酸化コバルトを含有するが、他の着色金属酸化物を本質的に含まない。
【0025】
本発明において使用される場合、「他の着色金属酸化物を本質的に含まない」とは、粉末層の総重量に基づいて、それぞれ0.01重量%未満、好ましくは0.001重量%未満、または0.0001重量%未満の他の着色金属酸化物が含まれることを意味する。好ましい実施形態では、焼結モールディングが他の着色金属酸化物を含まない。
【0026】
本発明のさらに好ましい実施形態では、少なくとも1つの粉末層、好ましくは2つ以上の粉末層、具体的にはすべての粉末層は蛍光効果を生じる元素を本質的に含まず、特にビスマスを本質的に含まない。
【0027】
本発明において使用される場合、「蛍光効果を生じる元素を本質的に含まず」とは、粉末層の総重量に基づいて、それぞれ0.01重量%未満、好ましくは0.001重量%未満、または0.0001重量%未満の元素が含まれることを意味する。好ましい実施形態では、焼結モールディングが蛍光効果を生じる他の金属酸化物を含まない。
【0028】
歯科修復物における酸化ランタンの使用は色組成、すなわち、本発明に従って使用される粉末組成物に使用される着色金属酸化物の相互作用に不利な影響を及ぼす可能性がある。
【0029】
したがって、本発明のさらに好ましい実施形態では、少なくとも1つの粉末層、好ましくは2つ以上の粉末層、具体的にはすべての粉末層は本質的に酸化ランタンを含まない。
【0030】
本発明において使用される場合、「本質的に酸化ランタンを含まない」とは、粉末層の総重量に基づいて、それぞれ0.004重量%未満、好ましくは0.001重量%未満、または0.0001重量%未満の酸化ランタンが含まれることを意味する。好ましい実施形態では、焼結モールディングは酸化ランタンを含まない。
【0031】
欧州特許出願公開第3108849号明細書は、層の厚さが異なるように設定されている多孔質の着色多層ジルコニアブランクを開示している。
【0032】
好ましくは少なくとも1つの粉末層、より好ましくは2つ以上の粉末層、特に各粉末層は、粉末層の総重量に基づいて、それぞれ0.1~1.0重量%、特に0.2~0.8重量%の量の酸化エルビウム(Er2O3)を含有する。驚くべきことに、酸化エルビウムは、焼結特性に悪影響を及ぼすことなく、このような量で着色金属酸化物として用いることができることが分かった。
【0033】
本発明のさらに好ましい実施形態において、酸化テルビウムと酸化コバルトの重量比は、少なくとも1つの粉末層において、好ましくは少なくとも2つまたは3つの粉末層において、特に各粉末層において、80:1~5:1、好ましくは75:1~10:1、特に60:1~15:1の範囲内である。特に、良好な着色および焼結特性は、とりわけTb4O7が使用される場合に、上述の調整された重量比で達成され得る。
【0034】
各粉末層は、好ましくはベース粉末を混合することによって製造することができる。好ましい実施形態において、各粉末層の製造は、2つ以上、好ましくは3つ以上、特に4つ以上のベース粉末を混合することによって行われる。各粉末層の製造のための異なる量での限られた量のベース粉末の使用は、互いに積み重ねられた個々の層の適合性、および焼結成形におけるそれらの色勾配の点で利点を有する。好適なベース粉末は例えば、東ソー社から入手することができる。
【0035】
本発明の焼結モールディングは、好ましくは段階的な色勾配を有する。本発明の一実施形態では、ブランクが異なる色を有する層を有し、焼結プロセスは段階的な色勾配をもたらす。
【0036】
本発明の好ましい実施形態において、少なくとも2つの、好ましくは全ての粉末層は、本質的に同一のイットリア含有量を有する。
【0037】
本発明において使用される場合、「2つ以上の層における本質的に同一のイットリア含有量」は、層内の差が0.1モル%以下、好ましくは0.05モル%以下、特に0.01モル%未満であることを意味する。
【0038】
本発明の別の実施形態では、焼結モールディングは半透明の勾配を有する。好ましくは、本発明によるモールディングはイットリア含有量の層ごとの増加を示す。
【0039】
好ましい実施形態において、本発明によるモールディングは、それぞれ少なくとも0.02重量%のAl2O3を有する粉末層を有する。
【0040】
粉末層のそれぞれが、少なくとも0.02重量%のAl2O3、好ましくは0.03~0.15重量%の量のAl2O3、特に0.03~0.08重量%の量のAl2O3を有することが好適であることが判明している。個々の粉末層中のAl2O3の好ましい量により、本発明によるモールディングの安定性および強度性能が向上する。
【0041】
本発明の別の態様では、少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つ、または少なくとも3つの粉末層、特に全ての粉末層はY2O3および/またはEr2O3を、粉末層の成分の総重量に基づいて、好ましくは少なくとも3重量%、特に少なくとも5重量%、または少なくとも6重量%、特に4.5~12重量%、特に6~10重量%の量で含む。
【0042】
Y2O3はジルコニア結晶相を安定化させる機能を有し、本発明の意味において着色金属酸化物ではない。
【0043】
酸化エルビウム(Er2O3)はZrO2の結晶相を安定化させる機能を有し、本発明の意味において着色金属酸化物である。
【0044】
好ましくは、粉末層がジルコニアおよび/またはHfO2を、粉末層の成分の総重量に基づいて、それぞれ、少なくとも89重量%、好ましくは89~98重量%、特に90~96重量%の量で含む。
【0045】
好ましい実施形態において、粉末層はジルコニアおよびハフニアを含み、より好ましくは、ハフニアの量が、ジルコニアおよびハフニアの総重量に基づいて、0.1~5重量%、特に0.5~2.5重量%である。
【0046】
本発明の好ましい実施形態では、圧縮モールディングが3つまたは4つ、特に5つの異なるセラミック粉末層から構成される。
【0047】
本発明のさらに好ましい実施形態では、圧縮モールディングが5つのセラミック粉末層からなり、第1の粉末層は積み重ねられた粉末層の総厚さの20~30%、好ましくは22~28%を含み、第2の粉末層は10~20%、好ましくは12~18%を含み、第3の粉末層は15~25%、好ましくは17~23%を含み、第4の粉末層は10~20%、好ましくは12~18%を含み、第5の粉末層は20~30%、好ましくは22~28%を含み、総厚さが合計で100%になる。
【0048】
本発明の一実施形態では、焼結モールディングが最初に予備焼結され、サブトラクティブ法によって加工され、好ましくはその後、別の工程で最終焼結される。
【0049】
本発明の焼結モールディングは特に、歯科修復物として、または歯科修復物の製造のために使用することができる。
【0050】
本発明の別の実施形態では、少なくとも1つの粉末層、好ましくは全ての粉末層は、好ましくは3~6重量%の量、特に4~5重量%の量の有機成分をさらに含む。好適な有機成分としては特に、バインダーおよびプレス添加剤が挙げられ、これらはバインダー除去工程において熱により容易に除去することができる。ジルコニア焼結粉末に適したバインダーは、当業者に公知である。これらには、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)が含まれる。
【0051】
好ましくは、層状粉末が1.2g/cm3未満のかさ密度を有する。
【0052】
35μm~85μm、好ましくは40μm~80μm、特に50μm~70μm、または40~60μmの粒径D50を有する層状粉末を使用することが好適であることが判明している。粒状粉末は、乾燥状態で、Cilas粒度計を使用するレーザー回折によって測定される。
【0053】
通常、ベース粉末の無機成分、すなわち、バインダーなどの有機成分を除去した後の無機成分は、レーザー回析によって測定して、0.1~1μm、好ましくは0.2μm~0.8μm、特に0.2μm~0.7μmの粒度D50を有する。粒径は焼結、特に、個々の粉末層間の色勾配にプラスの影響を与えることが分かった。
【0054】
本発明による焼結される圧縮モールディングは、2つまたは3つ、または特に4つまたは5つ以上のセラミック粉末層を層ごとに積層することによって得ることができる。層の積み重ねは、例えば、円板を形成するために円筒形容器内で実施されてもよい。通常、粉末層の一軸プレスは、各層の塗布後に行うことができる。これは例えば、プレスプランジャを使用することによって行うことができるが、プレスプランジャは単に予備的な圧縮を引き起こすだけである。層表面に垂直な層の一軸プレスは、好ましくは10~20MPa、特に12~15MPaの圧力下で行われる。
【0055】
別の好ましい実施形態では、まず、層状に積層されたセラミック粉末層をプレスして、一軸プレスにより圧縮モールディングを形成し、層面に垂直に、好ましくは2.8g/cm3未満の密度、好ましくは2.5~2.75g/cm3、例えば2.65g/cm3の密度を有する予備圧縮された圧縮モールディングを形成する。一軸予備圧縮により、より良好でより緊密な混合状態が得られ、層間のより均一な遷移をもたらすことができる。
【0056】
別の好ましい実施形態では、圧縮モールディングを製造するためのプレスが等方圧で実施され、前記等方圧プレスは好ましくは一軸予備圧縮に続いて実施され、3.4g/cm3未満の密度、特に2.80~3.3g/cm3の密度、特に2.85~3.25g/cm3の密度を有する圧縮モールディングを形成する。前記等方圧プレスは、好ましくは圧縮モールディングの全ての層が積み重ねられた後に行われる。前記等方圧プレスのための適切な圧力は、通常、500~10000バールの範囲内、好ましくは800~8000バールの範囲内、例えば1000~7000バール、または1000~3000バールである。
【0057】
圧縮モールディングの個々の粉末層の厚さは、様々であってよい。好ましい実施形態では、セラミック粉末層の少なくとも2つは厚さの点で異なる。好ましくは、圧縮モールディングのセラミック粉末層の少なくとも2つは少なくとも5%の厚さの差を有する。典型的には、圧縮モールディングが50~200mm、例えば75~150mmの範囲内の直径を有する円筒形円板の形態であってもよい。円柱ディスクの総厚さは例えば、8~40mm、好ましくは10~30mm、特に13~25mmの範囲内であってよい。寸法は、未焼結状態の圧縮モールディングに関する。
【0058】
カラーデザインおよびその後の加工に関して、圧縮モールディングの外側セラミック粉末層の少なくとも1つ、好ましくは両方の外側セラミック粉末層が、外側セラミック粉末層の間にあるセラミック粉末層よりも厚いと好適であることが判明している。特に、本発明により製造されたセラミックモールディングが歯科修復物の製造に使用される場合、上述のような少なくとも1つのより厚い外層を有する層構造体は、CAD/CAMシステムまたは他のサブトラクティブ加工法における加工に適した構造体であるため、好適であることが判明している。
【0059】
本発明の特に好ましい実施形態では、圧縮モールディングが5つのセラミック粉末層を含み、第1の粉末層は積み重ねられた粉末層の総厚さの20~30%、好ましくは22~28%を含み、第2の粉末層は10~20%、好ましくは12~18%を含み、第3の粉末層は15~25%、好ましくは17~23%を含み、第4の粉末層は10~20%、好ましくは12~18%を含み、第5の粉末層は20~30%、好ましくは22~28%を含み、総厚さが合計で100%になる。
【0060】
本発明の別の実施形態では、焼結は、950~1100℃、好ましくは980~1050℃の範囲内で行われ、予備焼結されたセラミックモールディング(白色体)が形成される。通常、焼結は、既存のバインダーが除去され、圧縮モールディングにサブトラクティブ法による加工に十分な強度が与えられるのに十分な時間にわたって行われる。予備焼結およびバインダー除去圧縮モールディングは、「白色体」と呼ばれる。
【0061】
一実施形態では、白色体を形成するための焼結が30分超、好ましくは1時間超、特に20時間超、または50時間超、例えば60~200時間、または70~150時間にわたって行われる。
【0062】
特に、セラミック歯科修復物を製造するために、予備焼結されたセラミックモールディングはサブトラクティブ法によって加工され、好ましくはその後、別の工程で最終焼結されることが適切である。サブトラクティブ法が適用される場合、焼結収縮は、通常、計算において考慮される。
【0063】
最終焼結は、通常、1350℃超、好ましくは1400℃超、特に1420℃~1600℃、または1450℃~1590℃、または1480℃~1580℃の範囲内の温度で行われる。
【0064】
最終焼結のための焼結時間は、通常、4分超、好ましくは5分超、特に5~120分の範囲内の時間である。
【0065】
本発明によるモールディングは、特に歯科分野で使用することができる。本発明のモールディングは、歯科修復物における高い縁部強度、優れた構造、および高い3点曲げ強度を特徴とする。したがって、本発明のセラミックモールディングは、好ましくはインレー、アンレー、クラウン、ブリッジ、またはベニアなどの歯科修復物である。
【0066】
本発明はさらに、歯科修復物のための、または歯科修復物を製造するための、本発明によるセラミックモールディングの使用に関する。
【0067】
本発明はさらに、好ましくは色勾配を有する、焼結歪みなしにセラミック歯科修復物を製造するための、酸化ジルコニウムおよび酸化テルビウム、特にTb4O7、ならびに酸化イットリウムを含むベース粉末の使用に関する。
【0068】
ベース粉末は、好ましくは5~8重量%、好ましくは6~7重量%の量のイットリア、0.1~0.4重量%、好ましくは0.1~0.3重量%の量の酸化テルビウム、および80重量%超、好ましくは82重量%~94重量%、特に84重量%~90重量%の量のジルコニアを、それぞれベース粉末の総重量に基づいて含む。
【0069】
本発明はさらに、以下の工程を含む、色勾配を有する本発明による焼結モールディングの製造方法に関する:
a)2または3または4または5以上のセラミック粉末層を設け、これらは互いに積み重ねられ、
b)層状に積み重ねられたセラミック粉末層をプレスして圧縮モールディングを形成し、
c)工程b)で得られたモールディングを焼結してセラミックモールディングを形成し、ここで、セラミック粉末層はそれぞれ異なる組成を有し、各セラミック粉末層は少なくとも2つの異なるベース粉末の混合物を含み、前記ベース粉末はそれぞれ少なくとも80重量%のZrO2を有し、示された重量はベース粉末の総重量に基づく。
【0070】
以上、本発明による方法の好ましい実施形態について説明した。
【0071】
本発明はさらに、歯科修復物の製造に使用するための層構造および色勾配を有する焼結モールディングに関し、ここで、モールディングは少なくとも3つの異なるセラミック粉末層を含み、各層は少なくとも3つまたは4つの異なるベース粉末からなり、各ベース粉末は少なくとも80重量%のセラミック酸化物を含み、示された重量は、それぞれ、ベース粉末の総重量に基づく。
【0072】
好ましくは、セラミック粉末層が上で定義されたようなセラミック酸化物を含む。使用されるベース粉末は、それぞれ、上記で定義されたベース粉末に対応する。
【実施例】
【0073】
表1は、セラミック粉末層の組成物に使用される5つのベース粉末A~Eを示す。ベース粉末の粒度D50は、40~80μmの範囲内である。ベース粉末の無機成分は、0.2~0.7μmの粒度D50を有する。
【0074】
示された重量は、それぞれ、粉末組成物の総重量に基づく。
【0075】
【0076】
以下の表2に示される層の配置は、圧縮モールディングにおける各個々のセラミック粉末層の組成を示す。圧縮モールディングは歯科修復物の製造に使用するために提供され、その結果、層組成物は歯の位置に応じて設計される。粉末層の組成物は、理想的な色勾配を得るために比率を変えることによって、ベース粉末から形成される。各粉末層の組成は、記載された量でベース粉末を均一に混合することによって達成される。続いて、粉末を100mmの径を有する円筒形モールド型に層ごとに配置し、層厚を18mmに設定した。粉末層は、層表面に垂直な13MPaの圧力下で一軸的に予備圧縮され、その後、2000バールの圧力下で等方的に圧縮される。
【0077】
続いて、約1000℃で約100時間にわたってバインダーの除去が行われる。このようにして得られた白色体を、CAD/CAMシステムを用いて歯科修復物に粉砕する。
【0078】
予備焼結され加工されたこれらの白色体は、続いて、1450℃で120分間にわたって最終焼結に供される。
【0079】
【0080】
本実施形態において、セラミック粉末層は、層1(先端)が圧縮モールディングの総厚さの25%、層2(象牙質/先端)が15%、層3(象牙質)が20%、層4(象牙質/頸部)が15%、層5(頸部)が25%を構成するように配置される。
【0081】
驚くべきことに、同一の色設計をもたらす酸化鉄を含有する配合物と比較して、より高温でも焼結歪みが観察することができないことが分かった。比較すると、先行技術から知られている酸化鉄を含有する配合物において焼結歪みが見られた。酸化鉄の割合が増加することにつれて焼結が進み、その結果、白色体におけるビッカース硬度も、より明るい層(酸化鉄の割合が少ない)からより暗い層(酸化鉄の割合が高い)にかけて増加する。対照的に、酸化テルビウムで着色された本発明による実施形態は層全体にわたって歪みがなく、したがって、焼結の程度も層全体にわたって均一であり、これもまた、ビッカース硬度の均一な分布をもたらし、したがって、CAM加工における一貫した加工特性をもたらす。
【0082】
図1は、例示的なセラミックモールディングから得られた歯科修復物の例を示す。前歯のクラウン2が示される。
【0083】
レイヤーの遷移と色の遷移はスムーズである。修復物は、優れたエッジ強度および安定性を示す。歯の色の再加工および再調整は不要である。
【0084】
層の最適な構造および構成は、焼結中に層全体にわたって実質的に均一な収縮を示す。これは、面倒な再加工を実質的に回避することができるため、特に、歯科修復物の完璧な製造に有利である。
【0085】
以下の表3は、ベース粉末を用いて実現することができるVITAクラシカルA1-D4の様々な歯の色の実例を示す。
【0086】
【0087】
成分に関して、記載された重量は、バインダーおよびジルコニアが加わり、100重量%になる。
【0088】
表4:ベース粉末を混合することによって得ることができる様々な歯の色
これらは、例えば、本発明による焼結モールディングのための粉末層材料として使用することができる。
【0089】
【0090】
表5:単層組成物の例
粉末層組成物は、ベース粉末を混合することによって得られる。
【0091】
【0092】
本発明による焼結モールディングの個々の粉末層のための粉末組成物は、ベース粉末を混合することによって得られる。
【0093】
多層焼結モールディングを製造するために、表4および表5に列挙される層状粉末組成物を、Weberプレス(プログラム番号22;100MPa=80kN)で圧縮する。ブロックあたりの総電荷は40gであった。様々な層は表6および表7に記載されるように、以下の方法で分布される。
【0094】
【0095】
【0096】
プレスされたブランクのグリーン体濃度は、3.08g/cm3である。
【0097】
続いて、表6および表7で製造されたプレスブランクは、バインダーから解放される。バインダーの除去は、Thermo-STARオーブンで行われる。バインダーの除去またはブロックの焼結結合は、以下のバインダー除去プログラム(約20時間)を用いて行われる。Tmax=1040℃(表8参照)。
【0098】
【0099】
グリーン体の白色体濃度は3.17g/cm3であった。
【0100】
白色体のビッカース硬度は、ツヴィック硬度試験機を用いて測定した。したがって、上側および下側の硬度は、それぞれ6回の測定および平均化によって決定された。(試験力19.61N、荷重レベルHV2、荷重点での待ち時間20秒):
ビッカース硬度HV2(上側):55.3
ビッカース硬度HV2(底面):55.0
白色体から、2つの前歯のクラウンをミリングし、最後に焼結し、クラウンを最初に1450℃まで加熱し、その後、その温度で2時間加熱し、その後、連続的に室温まで冷却する。
【0101】
本発明による焼結体において驚くべきことは、特にビッカース硬度である。本発明によるものではない焼結体において、Fe2O3含有量が増大することにつれて予備焼結ブランク(白色体)のビッカース硬度は増大するが、本発明による焼結体において、ビッカース硬度はブロック全体にわたって変化せず、約55HV2のままである。
【0102】
審美的側面では、先端のイットリウム含有量が多い変形例(表8)は、先端に沿ってやや高い半透明性を示す。
【国際調査報告】