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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-29
(54)【発明の名称】電気化学セルの構造設計
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/052 20210101AFI20241122BHJP
   C25B 9/19 20210101ALI20241122BHJP
   C25B 11/031 20210101ALI20241122BHJP
   C25B 11/054 20210101ALI20241122BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20241122BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20241122BHJP
   C25B 15/08 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
C25B11/052
C25B9/19
C25B11/031
C25B11/054
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B15/08 302
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024526719
(86)(22)【出願日】2022-11-09
(85)【翻訳文提出日】2024-06-27
(86)【国際出願番号】 EP2022081185
(87)【国際公開番号】W WO2023088734
(87)【国際公開日】2023-05-25
(31)【優先権主張番号】21208566.6
(32)【優先日】2021-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Operations GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1-11, 45128 Essen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アルトジョム マルジュスキ
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4K011AA11
4K011AA22
4K011DA01
4K021AA01
4K021BA02
4K021BC01
4K021DB36
4K021DB53
4K021DC01
4K021DC03
(57)【要約】
本発明は、アノード、カソード、およびアノードとカソードとの間に配置されたアニオン伝導膜を含む電気化学セルに関する。本発明はまた、水の電気化学的分解によって水素および酸素を生成するプロセスにおける電気化学セルの使用に関する。本発明はさらに、多数のセルを有する電気分解装置、および電気分解装置の製造方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード、カソード、およびアノードとカソードとの間に配置されたアニオン伝導膜を含む電気化学セルであって、前記アノードが、少なくとも部分的には触媒活性線形織物構造を含む第1の織物布地として作成され、前記第1の織物布地が、前記膜と直接接触している、電気化学セル。
【請求項2】
前記触媒活性線形織物構造が、ニッケル含有材料からなることを特徴とする、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項3】
前記ニッケル含有材料が、以下の材料:ニッケル、ニッケル含有合金、特にハステロイ、クロニン、モネル、インコネル、インコロイ、インバー、コバール;ニッケル含有鋼、ニッケル含有ステンレス鋼、鋼種AISI 301、AISI 301L、AISI 302、AISI 304、AISI 304L、AISI310、AISI310L、AISI316、AISI316L、AISI 317、AISI 317L、AISI 321の鋼からなる群から選択されることを特徴とする、請求項2に記載の電気化学セル。
【請求項4】
前記触媒活性線形織物構造が、触媒活性コーティングが施された基材を含み、前記触媒活性コーティングが、Au、Pt、Ir、Rh、Ru、Pd、Ag、Ni、Co、Cu、Fe、Mn、Moからなる群から選択される少なくとも1つの元素、または前記選択された元素の化合物、特に酸化物、混合酸化物、水酸化物、混合水酸化物、スピネルまたはペロブスカイトを含むことを特徴とする、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項5】
前記触媒活性コーティングがポリマーを含まず、特にイオン伝導ポリマーを含まないことを特徴とする、請求項4に記載の電気化学セル。
【請求項6】
前記基材材料が、以下の材料:ニッケル、ニッケル含有合金、特にハステロイ、クロニン、モネル、インコネル、インコロイ、インバー、コバール;ニッケル含有鋼、ニッケル含有ステンレス鋼、鋼種AISI 301、AISI 301L、AISI 302、AISI 304、AISI 304L、AISI310、AISI310L、AISI316、AISI316L、AISI 317、AISI 317L、AISI 321の鋼、チタン、炭素からなる群から選択されることを特徴とする、請求項4または5に記載の電気化学セル。
【請求項7】
前記カソードが、少なくとも部分的に第2の織物布地として作成されることを特徴とする、請求項1~6に記載の電気化学セル。
【請求項8】
前記第2の織物布地が、触媒活性線形織物構造を含むことを特徴とする、請求項7に記載の電気化学セル。
【請求項9】
前記第2の織物布地が、前記膜と直接接触していることを特徴とする、請求項8に記載の電気化学セル。
【請求項10】
前記第2の織物布地と前記膜との間に触媒層が配置されることを特徴とする、請求項7に記載の電気化学セル。
【請求項11】
前記第1の織物布地および/または前記第2の織物布地が、フェルトまたは不織布であることを特徴とする、請求項1~10のいずれかに記載の電気化学セル。
【請求項12】
前記フェルトまたは不織布が、少なくとも2つのタイプの触媒活性線形織物構造を含み、一方のタイプが他方のタイプよりも高い触媒活性を有し、より高い触媒活性を有する前記触媒活性線形織物構造のタイプが、より低い触媒活性を有する前記触媒活性線形織物構造のタイプが集中している前記織物布地の領域よりも、前記膜の近くに隣接した前記織物布地の領域に集中していることを特徴とする、請求項11に記載の電気化学セル。
【請求項13】
前記フェルトまたは不織布が、少なくとも2つのフェルトまたは不織布層から形成され、第1の層の繊維および/またはフィラメントが、それらの直径に関して第2の層の繊維および/またはフィラメントとは異なり、より細かい繊維および/またはフィラメントを有する前記層が、より粗い繊維および/またはフィラメントを有する前記層よりも前記膜の近くに配置されることを特徴とする、請求項11または12に記載の電気化学セル。
【請求項14】
前記触媒層が、触媒活性粒子および/または触媒活性コーティングを含有し、前記触媒活性粒子および/または触媒活性コーティングが、以下の元素:Au、Pt、Ru、Rh、Pd、Ag、C、S、Se、Ni、Mo、Mn、Co、Cu、Feからなる群から選択される元素、または選択された前記元素の化合物を含有することを特徴とする、請求項10~13のいずれかに記載の電気化学セル。
【請求項15】
前記触媒活性粒子がアニオン伝導ポリマーに埋め込まれていることを特徴とする、請求項14に記載の電気化学セル。
【請求項16】
前記アニオン伝導ポリマーが、同様に前記膜中に存在することを特徴とする、請求項15に記載の電気化学セル。
【請求項17】
前記第1の織物布地および/または前記第2の織物布地が、前記膜から遠い側のバイポーラプレートと少なくとも電気的に接触し、好ましくは電気的かつ機械的に接触していることを特徴とする、先行する請求項1~16のいずれかに記載の電気化学セル。
【請求項18】
前記バイポーラプレートが、以下の材料:ニッケル;ニッケル含有合金、特にハステロイ、クロニン、モネル、インコネル、インコロイ、インバー、コバール;ニッケル含有鋼、ニッケル含有ステンレス鋼、鋼種AISI 301、AISI 301L、AISI 302、AISI 304、AISI 304L、AISI310、AISI310L、AISI316、AISI316L、AISI 317、AISI 317L、AISI 321の鋼;ニッケルめっき鋼、ニッケルめっきステンレス鋼、ニッケルめっきチタン、ニッケルめっき真鍮、炭素からなる群から選択される材料からなることを特徴とする、請求項17に記載の電気化学セル。
【請求項19】
水の電気化学的分解によって水素および酸素を製造する方法であって、
・請求項1~18のいずれかに記載の少なくとも1つの電気化学セルを提供する工程;
・7~14のpHを有する水または水性電解質を提供する工程;
・電圧源を提供する工程;
・少なくとも1つの織物布地を水または水性電解質に浸漬および浸透させる工程;
・アノードおよびカソードを前記電圧源から引き出された電圧と接触させる工程;
・前記第1の織物布地から酸素を引き出す工程;
・前記第2の織物布地から水素を引き出す工程、を含む方法。
【請求項20】
以下の工程を有する、請求項19に記載の方法:
a)前記第1の織物布地に水または電解質を通過させる工程;
b)前記第2の織物布地に水または電解質を通過させる工程;
c)酸素および/または気体酸素で富化された水または電解質を前記第1の織物布地から引き出す工程;
d)水素および/または気体水素で富化された水または電解質を前記第2の織物布地から引き出す工程;
e)場合により、前記水素富化水または前記水素富化電解質から水素を分離する工程;
f)場合により、前記酸素富化水または前記酸素富化電解質から酸素を分離する工程。
【請求項21】
以下の工程を有する、請求項19に記載の方法:
a)前記第1の織物布地に水または電解質を通過させる工程;
b)気体水素を前記第2の織物布地から引き出す工程;
c)酸素および/または気体酸素で富化された水または電解質を前記第1の織物布地から引き出す工程;
d)場合により、前記酸素富化水または前記酸素富化電解質から酸素を分離する工程。
【請求項22】
以下の工程を有する、請求項19に記載の方法:
a)前記第2の織物布地に水または電解質を通過させる工程;
b)気体酸素を前記第1の織物布地から引き出す工程;
c)水素および/または気体水素で富化された水または電解質を前記第2の織物布地から引き出す工程;
d)場合により、前記水素富化水または前記水素富化電解質から水素を分離する工程。
【請求項23】
共通のバイポーラプレートを共有する請求項17に記載の少なくとも2つの電気化学セルを含む、先行する請求項19~22のいずれかに記載の方法を実行するための電気分解装置。
【請求項24】
請求項23に記載の電気分解装置を製造する方法であって、その過程で、以下の構成要素がこの順序で互いの上に直接積み重ねられる、方法:
a)第1の織物布地;
b)触媒層が設けられてもよい、アニオン伝導膜;
c)触媒層が設けられてもよい、第2の織物布地;
d)バイポーラプレート;
e)第1の織物布地;
f)触媒層が設けられてもよい、アニオン伝導膜;
g)触媒層が設けられてもよい、第2の織物布地。
【請求項25】
請求項23に記載の電気分解装置を製造する方法であって、その過程で、以下の構成要素がこの順序で互いの上に直接積み重ねられる、方法:
a)触媒層が設けられてもよい、第2の織物布地;
b)触媒層が設けられてもよい、アニオン伝導膜;
c)第1の織物布地;
d)バイポーラプレート;
e)触媒層が設けられてもよい、第2の織物布地;
f)触媒層が設けられてもよい、アニオン伝導膜;
g)第1の織物布地。
【請求項26】
前記電気分解装置の組み立てに先行して、前記第1および/または第2の織物布地が、特にスポット溶接によって前記バイポーラプレートへ電気的に接続され、機械的に固定される、請求項23に記載の電気分解装置を製造する方法。
【請求項27】
少なくとも300mA/cmまたは500mA/cmの電流密度で行われる、請求項19~22のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アノード、カソード、およびアノードとカソードとの間に配置されたアニオン伝導膜を含む電気化学セルに関する。本発明はまた、水の電気化学的分解によって水素および酸素を生成するプロセスにおける電気化学セルの使用に関する。本発明はさらに、多数のセルを有する電気分解装置、および電気分解装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学セルは、電気化学プロセスを実行するために使用される。大いに異なる目的を有する、多数の電気化学プロセスが存在する。重要な電気化学プロセスは、化学化合物の分解である。このプロセスは電気分解と呼ばれる。
【0003】
電気分解を実行するための電気化学セルの産業的実装は、電気分解装置と呼ばれる。電気分解装置は、通常、多数の相互接続された電気化学セルを含む。
【0004】
電気化学セルは常に2つの電極、すなわちカソードおよびアノードを有する。セルは、通常、電気絶縁セパレータによって2つの区画に分割される。アノードは、第1の「アノード」区画に存在し、カソードは、第2の「カソード」区画に存在する。2つの電極または区画は、セパレータによって互いに電気的に分離されている。電気化学セルは、水または水性塩基性電解質で充填または浸透される。
【0005】
重要な電気化学プロセスは、水の電気化学的分解による水素および酸素の生成である。水電気分解の1つの変形形態は、セパレータとしてアニオン伝導膜(アニオン交換膜、AEM)を使用することを特徴とする。これは一般に、AEM水電気分解(AEMWE)と呼ばれる。反応はアルカリ媒体中で達成されるため、AEM水電気分解は、しばしばアルカリ膜水電気分解とも呼ばれる。
【0006】
AEM水電気分解の場合、電気化学セルを水または塩基性水ベース電解質で満たし、アノードとカソードとの間に電圧を印加する。カソード側では、水は水素(H)と水酸化物イオン(OH)とに分解される(式1)。膜は水酸化物イオンをアノード側に輸送し、そこでそれらは酸素(O)に酸化される(式2)。これにより、アノード側に酸素が形成され、カソード側に水素が形成される。したがって、アノード側は酸素側とも呼ばれ、カソード側は水素側とも呼ばれる。
【0007】
2HO+2e→H+2OH(1)
2OH→1/2O+HO+2e(2)
【0008】
記載された効果を可能にするために、膜は、アノードとカソードとの間で水酸化物イオンを伝導しなければならない。同時に、アノードとカソードとの間に電気的短絡がないように、電気絶縁性でなければならない。最後に、アニオン伝導膜は、形成されたガスの逆混合(backmixing)がないように、可能であれば気密でなければならない。さらに、アニオン伝導膜は、AEM水電気分解に存在するアルカリ性条件に耐性でなければならない。これらの特性は、特定のアニオン伝導ポリマー(アニオン伝導イオノマーとも呼ばれる)によって満たされる。
【0009】
反応を促進するために、触媒活性物質(電気触媒とも呼ばれる)がカソード側およびアノード側の両方に設置される。これは、触媒活性層または触媒活性コーティングを導入することによって達成される。これらが、目的のためにセルに特別に導入された基材上もしくは多孔質輸送層上に存在してもよく(触媒コーティング基材、CCS)、または膜が触媒活性材料で直接コーティングされてもよい(触媒コーティング膜、CCM)。
【0010】
AEM水電気分解では、セルを通る水または塩基性電解質の流れおよびセルを出るガス/電解質の流れは、電気分解のための淡水を供給し、形成された水素および酸素、またはそれらが富化された水もしくは塩基性電解質を再び取り出すために実施されなければならない。これは、一般に多孔質輸送層(PTL)によって可能にされ、PTLは第1に、良好な電気的接触を可能にするために触媒活性層に密接に隣接し、第2に、導電性であり、ガスを外部へ輸送し、水および電解質を供給するのに十分な多孔度を有する。セルを通る水または塩基性電解質の輸送を改善するために、特定のチャネル構造(流れ場、FFと呼ばれる)がセルに組み込まれる。この構造は、多孔質輸送層との電気的接触を有し、導電性であり、エンドプレートまたはバイポーラプレート(BPP)との電気的接触を確立するものである。バイポーラプレートは、隣接する2つのセルを電気的に接続する。特定のチャネル構造は、例えば機械的変形によってバイポーラプレートに直接組み込まれることが多い。効率的な水電気分解のために、(i)触媒活性層の多孔質輸送層との接触面、(ii)多孔質輸送層の流れ場との接触面、および(iii)流れ場のバイポーラプレートとの接触面における接触抵抗が最小限に保たれ、起こり得る接触面の酸化または不動態化の結果として電気分解装置の動作中に上昇しないことが特に重要である。そうでなければ、接触抵抗の上昇が、セル電圧の増加および効率の低下、ならびにエネルギー消費の増加をもたらす。
【0011】
AEM水電気分解で現在使用されている電気化学セルの構造および材料の優れた概要は、以下によって提供される:
Miller,Hamish Andrew et al:Green hydrogen from anion exchange membrane water electrolysis:a review of recent developments in critical materials and operating conditions.Sustainable Energy Fuels,2020,4,2114 DOI:10.1039/c9se01240k。
【0012】
水電解用の電気分解装置の開発の一般的な目的は、プロセスの効率の改善および電気分解装置の製造コストの削減である。
【0013】
最近、この着想は、アルカリ水電気分解における電極として織物構造を使用することから起こった。例えば、Zhu Siluの研究グループは、ステンレス鋼繊維製のフェルトをニッケル-水酸化鉄でコーティングし、水電気分解におけるアノードおよびカソードとして使用した:
Zhu Silu et al.:Fast Electrodeposited Nickle-Iron Hydroxide Nanosheets on Sintered Stainless Steel Felt as Bifunctional Electrocatalyst for Overall Water Splitting.ACS Sustainable Chem.Eng.2020,8,9885-9895 DOI:10.1021/acssuschemeng.0c03017。
【0014】
この作用過程の利点は、ナノ構造化によって得られる電極の高い触媒活性表面積である。
そのような材料を電気化学セルに組み込むことができる程度は、Zhu et al.によって不明のままであり、例えば、物品に存在する電気化学セルは、形成されたガスを分離するセパレータまたは膜を全く有していない。その結果、水素/酸素ガス爆発を引き起こし得る、アノードおよびカソードで形成された水素および酸素ガスの逆混合(backmixing)がここで予想される。そのようなセルは、研究目的のために実験室で動作させることができるが、水素の産業的生成には適していないことは明らかである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Miller,Hamish Andrew et al:Green hydrogen from anion exchange membrane water electrolysis:a review of recent developments in critical materials and operating conditions.Sustainable Energy Fuels,2020,4,2114 DOI:10.1039/c9se01240k.
【非特許文献2】Zhu Silu et al.:Fast Electrodeposited Nickle-Iron Hydroxide Nanosheets on Sintered Stainless Steel Felt as Bifunctional Electrocatalyst for Overall Water Splitting.ACS Sustainable Chem.Eng.2020,8,9885-9895 DOI:10.1021/acssuschemeng.0c03017.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、AEM水電気分解を産業的規模で行うことができる電気化学セルを特定することである。セルによって、生成コストが低下し、エネルギー効率の良い水素および酸素の生成が可能になる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この目的は、請求項1に記載の電気化学セルによって達成される。
したがって、本発明は、アノード、カソード、およびアノードとカソードとの間に配置されたアニオン伝導膜を含む電気化学セルを提供し、アノードは、少なくとも部分的には触媒活性線形織物構造を含む第1の織物布地として作成され、第1の織物布地は、膜と直接接触している。
【0018】
本発明の重要な知見は、織物構造が電極および電極触媒として適しているだけでなく、多孔質輸送層ならびに電解質および/または形成されたガスのための流れ場の機能も同時に担うことができること;個々の線状構造の間に空洞が存在するため、織物布地が原則として多孔質であることである。水または塩基性電解質は、これらの空洞に浸透することができ、したがって電極触媒と接触することができる。形成されたガスは、同様に空洞から流出することができる。このようにして、織物は、電気化学的機能だけでなく、流体機能も果たす。それらの流体伝導特性によって、織物電極を膜と直接接触させることができる。これは、織物布地が膜に直接、かつ2次元的に隣接することを意味する。したがって、膜と織物布地との間に、好ましくは膜および電極の全領域にわたって直接的な機械的接触がある。同時に、膜は導電性ではないので、電気的意味での接触の問題はない。織物の流体伝導特性により、本発明による電気化学セルは、追加の多孔質輸送層なしで、かつ追加の流れ場なしで機能することができる。これは、典型的に使用される個々の構成要素間に接触抵抗がないため、セルの電気的内部抵抗を低減する。
【0019】
本発明による電気化学セルのさらなる利点は、電気分解装置の基材もしくは電極(CCS)上、またはアノード側の膜(CCM)上に直接電極触媒を固定化するためのイオノマー(しばしばバインダーとも呼ばれる)の絶対的な必要性がないことである。電気分解中に形成される酸素は非常に活性であり、イオノマーを化学的に攻撃(酸化)する可能性があり、それはイオノマーの機械的特性およびイオン伝導特性の障害をもたらし、さらに電極触媒の脱離を引き起こす可能性がある。これが次いで、必要なセル電圧の増加およびエネルギー消費の上昇をもたらす。結果として、提案された電気化学セルの構造は、その製造コストを削減し、低い電気抵抗によってエネルギー効率の良いプロセスを可能にする。
【0020】
織物構造の利点によって、アノードは、好ましくは完全に織物布地の形態で作成される。これは、織物布地がアノードとして使用されることを意味する。しかしながら、部分的にのみ織物布地の形態であり、それ以外は非織物材料からなるアノードを使用することも考えられる。例えば、織物布地を中実パネル上に、または平坦もしくは成形シート上に、またはそうでなければ非織物材料、例えばエキスパンドメタル、金属メッシュ上に固定することも可能である。
【0021】
ここで「織物布地」という用語は、織物技術における慣例と同様に使用される。それは、それらの結合に関係なく、本質的に二次元の織物構造、例えば織布、編組、編成材料、メッシュ、ニット、不織布、ワッディングおよびフェルトを指す。本発明の文脈における多層構造を有する織物布地は、二次元織物構造と見なされる。織物布地が一定の厚みを有することは、それが二次元でないことを意味するものではない。
【0022】
織物布地は、線形織物構造から形成される。この文脈における線形織物構造は、本質的に一次元織物構造、例えば繊維、フィラメント、スレッドまたはヤーンである。繊維は連続しても、または限定されていてもよい。
【0023】
線形織物構造が触媒活性であることが不可欠である。これは、セルで行われる電気化学反応を促進する材料から、それらが少なくとも部分的に製造されることを意味する。触媒活性材料は、少なくとも線形織物構造の表面上に存在しなければならない。
【0024】
触媒活性材料は、好ましくはAu、Pt、Pd、Ir、Rh、Ru、Ag、Ni、Co、Cu、Fe、Mn、Moからなる群から選択される元素である。元素は、元素形態(例えば、均一な触媒活性コーティングまたは触媒活性粒子の形態)で、または合金もしくは化合物、例えば酸化物、混合酸化物、水酸化物、混合水酸化物、スピネルもしくはペロブスカイトの形態で使用され得る。これらの物質は全て、特にアルカリ水電気分解などの電気化学反応を促進することができる。
【0025】
本発明の好ましい実施形態では、触媒活性線形構造はニッケル含有材料からなる。その結果、無希釈材料は触媒活性である。これは、表面の浸食の場合に触媒活性材料が消失せず、常に存在するという利点を有する。この実施形態は、特に強力である。触媒活性無希釈材料はまた、安価に、すなわちニッケルとして、またはニッケル含有合金、例えば、特にハステロイ、クロニン、モネル、インコネル、インコロイ、インバー、コバールとして入手可能である。ニッケル含有鋼、ニッケル含有ステンレス鋼、鋼種AISI 301、AISI 301L、AISI 302、AISI 304、AISI 304L、AISI310、AISI310L、AISI316、AISI316L、AISI 317、AISI 317L、AISI 321の鋼を使用することも可能である。第1の織物布地用の触媒活性材料としてこれらの標準材料を使用することにより、繊維を他の触媒でコーティングする必要がなくなる。
【0026】
本発明の第2の実施形態では、線形織物構造は、表面に触媒活性コーティングが施された基材を含み、ここで触媒活性コーティングは、Au、Pt、Ir、Ru、Rh、Pd、Ag、Ni、Co、Cu、Fe、Mn、Moからなる群から選択される少なくとも1つの元素、または選択された元素の化合物、例えば酸化物、混合酸化物、水酸化物、混合水酸化物、スピネルまたはペロブスカイトを含む。その場合の基材は、それ自体が触媒活性である必要はない。線形織物構造は、それらのコーティングによってそれらの触媒活性を得る。例えば、化学的に不活性で長寿命の安価な炭素繊維を使用することが可能である。触媒活性は、コーティングによって実現される。もちろん、特に高い活性を達成するために、さらに触媒活性基材を触媒活性物質でコーティングすることも可能である。特に、以下の基材材料が有用である:ニッケル;ニッケル含有合金、例えばハステロイ、クロニン、モネル、インコネル、インコロイ、インバー、コバール;ニッケル含有鋼、ニッケル含有ステンレス鋼、鋼種AISI 301、AISI 301L、AISI 302、AISI 304、AISI 304L、AISI 310、AISI310L、AISI316、AISI 316L、AISI 317、AISI 317L、AISI 321;チタン、炭素。
【0027】
基材は、好ましくは、ポリマーバインダーを使用せずに触媒活性材料でコーティングされる。触媒活性コーティングは、その場合ポリマーを含まない。これは、コーティングが化学的により安定であり、ポリマーの分解で剥離することができないという利点を有する。ポリマーなしのコーティングは、例えば、基材上への触媒活性材料の電着によって、またはスパッタリングもしくは蒸着によって可能である。より具体的には、コーティングは、イオノマー、すなわちイオン伝導ポリマーを含まない。
【0028】
本明細書に記載の織物はカソードとしても適しているため、本発明の好ましい発展形態は、アノードだけでなくカソードも織物布地として少なくとも部分的に作成されることを想定する。カソードとして利用される布地とアノードとして利用される布地とを区別するために、ここでアノードとして利用される材料に第1の織物布地が使用され、カソードとして利用される材料に第2の織物布地が使用される。
【0029】
カソード側では、織物材料への触媒活性の組込みは絶対的に必要ではない。それにもかかわらず、触媒活性材料が第2の織物布地にも使用される場合が好ましい。ここでは、アノード側と同じ材料が好適である。最も単純な場合には、アノード側とカソード側の両方で同じ材料が利用される。しかしながら、これは必ずしもそうである必要はない。したがって、第1の織物布地と第2の織物布地との間の区別が適切である。好ましくは、カソードは、完全に織物布地として作成される。
【0030】
第2の織物布地は、カソードとしての電気化学的機能だけでなく、多孔質輸送層の機能、ならびに水または塩基性電解質および/または形成されたガスの流れ場の機能も果たす。
【0031】
2つの織物電極を有する電気化学セルは、2つの変形形態で構成することができる。
第1の変形形態では、第2の織物布地(カソード、水素側)は膜と直接接触している。その場合の膜自体が触媒活性材料(電極触媒)でコーティングされていなければ、触媒活性物質が第2の織物布地の線形構造に塗布されていること、または第2の織物布地の材料自体が触媒活性であることを必要とする。
【0032】
第2の変形形態では、触媒活性層(電極触媒)が第2の織物布地(カソード、水素側)と膜との間に配置される。線形織物構造は、それから第2の織物布地が構築され、その場合必ずしも触媒活性である必要はなく、または触媒活性物質でコーティングされている必要はない。この場合の第2の織物布地の線形構造は、触媒活性層(電極触媒)と流れ場またはバイポーラプレート(例えば、炭素繊維および/または炭素フィラメントで作られた織物布地)との間の電気的接触を可能にするために、単に導電性でなければならない。この構造は、繊維に組み込むことができない、または繊維および/もしくはフィラメントを製造することができない、または繊維および/もしくはフィラメントに長期安定性を付与することができない、または繊維材料もしくはフィラメント材料自体よりも高い触媒活性を有する電極触媒を使用することを意図する場合に有利である。
【0033】
本発明の特に好ましい実施形態では、第1の織物布地および/または第2の織物布地は、フェルトまたは不織布である。線形織物布地構造は、それからフェルトまたは不織布が構築され、繊維である。フェルトおよび不織布では、繊維は不規則な多方向に敷かれ、隣接する繊維は横方向の結合を介して互いに接合される。金属繊維の横方向結合は、好ましくはカレンダ加工によって行われる。熱可塑性材料はまた、互いに融着されてもよい。
【0034】
不織布またはフェルトは、好ましくは、少なくとも2つのタイプの触媒活性線形織物構造:より高い触媒活性を有する第1のタイプおよびより低い触媒活性を有する第2のタイプを含む。「より低い」および「より高い」という2つの相対的な用語は、それぞれの他の触媒活性線形織物構造の触媒活性と関連する。ここで触媒活性の完全な記述は有用ではない。重要なのは、一方の種類の触媒活性が他方よりも大きいことだけである。2つのタイプの触媒活性線形構造は、織物布地内に異なって分布している。一方のタイプは第1の領域に集中し、他方のタイプは第2の領域に集中する。より高い触媒活性の線形構造を有する領域はその場合、より低い触媒活性の線形構造を有する領域よりも膜の近くに配置される。この効果は、膜との境界領域における織物構造の触媒活性が、膜から遠い織物の面と比較して高くなることである。したがって、特に活性な材料であり、対応してより高価な前記材料を膜付近に使用することが可能である。電気化学反応が低い程度までしか進行しない場所、すなわち膜から離れた織物布地の領域では、触媒活性が低く安価な材料が使用される。有利には、触媒活性が低いタイプの線形織物構造は、特に耐酸化性または耐食性材料から作製される。使用されるセル構成要素の特に高い耐食性は、効率的な水電解にとって特に重要であり、なぜなら、電気分解装置の動作中に個々のセル構成要素間の接触面の起こり得る酸化または不動態化が、接触抵抗の増加をもたらすからである。したがってこれは、セル電圧の増加および効率の低下、ならびにエネルギー消費の増加をもたらす。同じ理由で、非織物材料、例えばエキスパンドメタル、不織布またはフェルトを上に固定することができる金属メッシュが特に耐酸化性または耐食性材料からなる場合も、特に有利である。
【0035】
フェルトは、好ましくは、完全に触媒活性材料の繊維からなる。フェルトが触媒不活性線形構造も含む場合、この割合は小さくなければならず、フェルトの総重量に基づいて、好ましくは50重量%未満、より好ましくは10重量%未満でなければならない。
【0036】
フェルトは、好ましくは、少なくとも2つのフェルト層から形成され、その場合、2つのフェルト層は、異なる厚さの繊維からなる。その場合、より細かい繊維で構成されたフェルト層は、より厚い繊維で構成されたフェルト層よりも膜の近くに配置されるべきである。この効果は、電極が膜に向かってより微細な繊維からなることである。これは、膜付近で触媒活性部位のより高い密度が必要とされ、膜から離れて水または電解質および形成されたガスのより高い透過性が必要とされるので、望ましい。3層以上、例えば3層または4層または5層または6層からフェルトを形成することも可能である。次いで、繊維および/またはフィラメントの厚さは、層ごとに膜方向に段階的に減少する。これに対応して、触媒活性部位の空間濃度は膜方向に増加する。フェルト層が、水もしくは塩基性電解質または形成されたガスの輸送に十分な多孔度ε、好ましくは50%~90%を有することが重要である。多孔度εは、式(3)により決定される。
【0037】
ε=(ρsolid-ρporous body)/ρsolid*100%(3)
【0038】
式(3)において、ρsolidは固体非多孔質材料の密度を示し、ρporous bodyは多孔質体の密度を示す。
【0039】
この方法で決定されるフェルトの多孔度εは、膜と接する領域では50%~90%、膜から離れた領域では50%~90%であることが好ましい。
【0040】
フェルトの繊維および/またはフィラメントの直径は、走査型電子顕微鏡(SEM)によって決定することができる。
【0041】
この方法で決定されるフェルトの繊維の直径は、膜と接する領域では1μm~25μm、膜から離れた領域では5μm~1000μmであることが好ましい。
【0042】
フェルト層は、横方向結合によって互いと接合することができ、これにより、層構造にもかかわらずフェルトを1つの構成要素として取り扱うことができる。これにより、セルの組み立てが容易になる。
【0043】
特に有利には、SAE 316L型のステンレス鋼製のフィルタフェルトを電極材料として使用することが可能である。そのような製品は、様々な供給業者から非常に広く安価で市販されている。この鋼種はニッケルを含有するため、無希釈材料として本質的に触媒活性である。
【0044】
既に上述したように、カソードと膜との間に触媒層を有する本発明の変形形態は、織物基材に容易に塗布することができない電極触媒を含むことができるという利点を有する。したがって、触媒層は、Au、Pt、Ir、Ru、Rh、Pd、Ag、C、Ni、Mn、Mo、Co、Cu、Feなどの元素を含む、触媒活性粒子またはコーティングまたは化合物(電極触媒)を含有し得る。
【0045】
電極触媒の触媒活性粒子がアニオン伝導ポリマーに埋め込まれている場合が特に有利である。イオン伝導ポリマーは、イオノマーと呼ばれる。触媒活性粒子をアニオン伝導イオノマーに埋め込むことにより、カソードでの水の還元中に形成された水酸化物イオンを反応後に膜に直接通過させることが可能になる。イオン伝導ポリマーが、膜の表面への非常に良好な接着性、および水酸化物イオンの非常に良好な伝導率を有する場合が非常に特に好ましい。その場合、触媒粒子と膜との特に効果的な一体化、および膜への触媒粒子の特に良好なアニオン伝導性結合が存在する。
【0046】
しかしながら、既知のCCM設計(膜の両面が電極触媒でコーティングされている)とは対照的に、本発明の構造の膜は、好ましくはカソード、水素生成側のみに触媒層を備える。それは、アノード、酸素生成側に触媒層を有さず、電極触媒が酸素側のアノード材料に一体化されている。したがって、カソード側のみに触媒層を有する変形形態は、「半CCMセル」と見なされ得る。
【0047】
アニオン伝導膜が形成される材料もイオノマーである。原則として、全てのアニオン伝導イオノマーは、本発明による電気化学セルおよびその中の分離活性膜材料の機能に組み込むことができ、かつ/または触媒活性粒子の固定化に使用される。膜への触媒活性部位の特に良好なアニオン伝導性結合が保証されるので、同じアニオン伝導ポリマーが分離活性膜材料として、かつ膜への触媒活性粒子の固定化のために使用されことが好ましい。この場合、同じアニオン伝導ポリマーが触媒層と膜の両方に存在する。
【0048】
構造式(I)または(II)または(III)に従うアニオン伝導ポリマーを使用することが特に好ましい。
【0049】
構造式(I)、(II)または(III)のイオノマーの共通の利点は、それらの良好なイオン伝導率、アルカリ媒体中での高い膨潤抵抗、および低い合成コストである。
【0050】
構造式(I)または(II)または(III)のイオノマーは、膜の製造のために、または電極触媒の触媒活性層もしくは不活性線形織物構造への固定化のためのバインダーとして使用され得る。
【0051】
構造式(I)のアニオン伝導ポリマーは、以下のように定義され、
【0052】
式中、Xは、CおよびCに結合し、1~12個、好ましくは1~6個、より好ましくは1または5個の炭素原子を含む2つの結合を介して1または2個のヒドロカルビルラジカルに結合している正に帯電した窒素原子を含む構造要素であり、Zは、CおよびCに結合し、酸素原子の1つに直接結合した少なくとも1つの芳香族6員環を含む炭素原子を含む構造要素であり、芳香族6員環は、1つ以上のハロゲンラジカルおよび/または1つ以上のC-~C-アルキルラジカルによって置換されていてもよい。
【0053】
構造式(I)のイオノマーの調製は、国際公開第2021/013694号に記載されている。
【0054】
構造式(II)のアニオン伝導ポリマーは、以下のように定義され、
【0055】
式中、Xは、CおよびCに結合し、1~12個、好ましくは1~6個、より好ましくは1または5個の炭素原子を含む2つの結合を介して1または2個のヒドロカルビルラジカルに結合している正に帯電した窒素原子を含む構造要素であり、Zは、CおよびCに結合し、酸素原子の1つに直接結合した少なくとも1つの芳香族6員環を含む炭素原子を含む構造要素であり、3位および5位の芳香族6員環は、同一または異なるC-~C-アルキルラジカル、特にメチル、イソプロピルまたはtert-ブチル基、好ましくはメチル基によって置換されていてもよい。
【0056】
構造式(II)のイオノマーの調製は、本出願の出願日においてまだ未公開であった欧州特許出願第21152487.1号に記載されている。
構造式(III)のアニオン伝導ポリマーは、以下のように定義され、
【0057】
式中、Xはケトン基またはスルホン基であり、
Zは、少なくとも1つの第三級炭素原子および少なくとも1つの芳香族六員環を含む構造要素であり、芳香族六員環は、2つの酸素原子のうちの1つに直接結合し、
Yは、正電荷を有する少なくとも1つの窒素原子を含む構造要素であり、この窒素原子は、構造要素Zに結合している。
【0058】
構造式(III)のイオノマーの調製は、本出願の出願日においてまだ未公開であった欧州特許出願第21162711.2号に記載されている。
【0059】
電気化学セルが1つまたは2つの織物布地(電極)を備えているかどうかにかかわらず、第1の織物布地および/または第2の織物布地が、膜から離れた側でバイポーラプレートと接触することが有利である。ここで「接触」によって意味されるものは、少なくとも電気的な意味であり、バイポーラプレートが導電性であるため、好ましくは電気的および機械的な意味の両方である。接触は、好ましくは全領域にわたって達成される。より好ましくは、電気的かつ機械的な直接接触が想定され、その場合電極とバイポーラプレートとの間のセルにさらなる材料が組み込まれない。このようにして、セルは特にコンパクトで費用効率が高くなる。次いで、織物布地の流体伝導機能が最適に利用される。必要に応じて、非織物材料の流体導体または輸送層を織物布地とバイポーラプレート、例えばエキスパンドメタルまたは金属メッシュとの間に組み込むことができる。その場合の流体導体または輸送層は、織物材料とバイポーラプレートとの間の電気的接触を保証するために導電性でなければならない。しかしながら、この構成では、織物布地とバイポーラプレートとの間の直接的な機械的接触はなく、むしろ非織物流体導体または輸送層を介した直接的な機械的接触のみである。バイポーラプレートを使用して、隣接する電気化学セルとの電気的接触を形成することができる。したがって、スタック内に複数の電気化学セルを省スペースで直列接続することが可能である。以下を参照されたい。
【0060】
バイポーラプレートは、好ましくは以下の材料のうちの1つからなる:ニッケル;ニッケル含有合金、例えばハステロイ、クロニン、モネル、インコネル、インコロイ、インバー、コバール;ニッケル含有鋼、ニッケル含有ステンレス鋼、AISI 301、AISI 301L、AISI 302、AISI 304、AISI 304L、AISI 310、AISI310L、AISI316、AISI 316L、AISI 317、AISI 317L、AISI 321型の鋼;ニッケルめっき鋼、ニッケルめっきステンレス鋼、ニッケルめっきチタン、ニッケルめっき真鍮、炭素。
ここで提示される電気化学セルは、アルカリ膜水電気分解(AEMベースの水電気分解)での使用に最適化されている。したがって、本発明は、以下のプロセス工程を有する、水の電気化学的分解による水素および酸素の生成を提供する:
・本発明の少なくとも1つの電気化学セルを提供する工程;
・7~14のpHを有する水または水性電解質を提供する工程;
・電圧源を提供する工程;
・少なくとも1つの織物布地を水または水性電解質に浸漬および浸透させる工程;
・アノードおよびカソードを電圧源から引き出された電圧と接触させる工程;
・第1の織物布地から酸素を引き出す工程;
・第2の織物布地から水素を引き出す工程。
【0061】
ここで使用される電解質は、電気分解されるべき水を含有する。水に1つ以上の化合物、例えばNaOH、KOH、NaCO、KCO、NaHCO、KHCOを添加することにより、得られる電解質のpH(化合物による)をpH7~pH14の範囲内に調整することが可能である。
【0062】
このプロセスは、2つの変形形態:湿式および半乾式で行うことができる。湿式変形形態では、2つの区画に水または電解質が充填される。換言すれば、電気分解中に第1および第2の織物布地が水または電解質に浸漬され、水または電解質に浸透される。半乾式手順では、2つの区画のうちの1つのみに水または電解質が充填され、アノード側(第1の織物布地、半乾式ケース1)またはカソード側(第2の織物布地、半乾式ケース2)のいずれかで、2つの織物布地のうちの1つのみが電気分解中に浸透される。
【0063】
湿式変形形態では、膜の両側の2つの区画を水または水性塩基性電解質に浸し、電気分解中に水または塩基性電解質が2つの区画を透過する。水素はカソード側の水または水性電解質に、酸素はアノード側に蓄積する。ガスが自発的に電解質から吹き出ない場合、電解質が両方の区画から引き込まれ、所望のガスが解放される。一般に、電気分解の開始時では、形成されるガスは、形成されたガスのみが水または塩基性電解質に溶解するのに十分な量であるが、電解質はガスで非常に急速に飽和し、次いで気泡が自発的に電解質から脱出する(ガス-電解質混合物が形成される)。例えば、湿式変形形態では、一般に、気液分離を行わなければならない。生成されたガス(水素および酸素)の混合を防ぐために、気液分離は別々の装置で行われなければならない。
【0064】
具体的には、湿式プロセス変形形態は以下の工程を有する:
a)アノード、カソード、およびアノードとカソードとの間に配置されたアニオン伝導膜を含む電気化学セルであって、アノードが、少なくとも部分的には触媒活性線形織物構造を含む第1の織物布地として作成され、第1の織物布地が、膜と直接接触している少なくとも1つの電気化学セルを提供する工程;
b)7~14のpHを有する水または水性電解質を提供する工程;
c)電圧源を提供する工程;
d)第1の織物布地を水または電解質に浸漬および浸透させる工程;
e)第2の織物布地を水または電解質に浸漬および浸透させる工程;
f)第1の織物布地に水または電解質を通過させる工程;
g)第2の織物布地に水または電解質を通過させる工程;
h)アノードおよびカソードを電圧源から引き出された電圧と接触させる工程;
i)第1の織物布地から、および/または第1の織物布地から酸素が富化された水もしくは電解質から酸素を引き出す工程;
j)第2の織物布地から、および/または第2の織物布地から水素が富化された水もしくは電解質から水素を引き出す工程;
k)場合により、水素富化水または水素富化電解質から水素を分離する工程;
l)場合により、酸素富化水または水素富化電解質から酸素を分離する工程。
既に述べたように、電気分解の動作モードによれば、水素または/および酸素がそれぞれの区画内の水または塩基性電解質に溶解したままではなく、形成されたガスが気泡として自発的に抜けることが可能である。これは、除去が不要であり、所望のガスが直接得られるので有利である。その結果、必要な構成要素が減るので、電気分解装置コストを幾分低減することができる。
【0065】
次いで、水素および酸素の完全な脱ガスを伴う湿式プロセスは、以下のように進行する:
a)アノード、カソード、およびアノードとカソードとの間に配置されたアニオン伝導膜を含む電気化学セルであって、アノードが、少なくとも部分的には触媒活性線形織物構造を含む第1の織物布地として作成され、第1の織物布地が、膜と直接接触している少なくとも1つの電気化学セルを提供する工程;
b)7~14のpHを有する水または水性電解質を提供する工程;
c)電圧源を提供する工程;
d)第1の織物布地を水または電解質に浸漬および浸透させる工程;
e)第2の織物布地を水または電解質に浸漬および浸透させる工程;
f)第1の織物布地に水または電解質を通過させる工程;
g)第2の織物布地に水または電解質を通過させる工程;
h)アノードおよびカソードを電圧源から引き出された電圧と接触させる工程;
i)第1の織物布地から、および/または第1の織物布地から酸素が富化された水もしくは電解質から酸素を引き出す工程;
j)第2の織物布地から、および/または第2の織物布地から水素が富化された水もしくは電解質から水素を引き出す工程。
実際には、混合形態もあり得、そこでは形成されたガスの一部が自発的に織物から抜け、別の部分が水または電解質に溶解したままであり、別の操作でそこから分離されなければならない。
【0066】
湿式プロセスの変形形態とは異なり、半乾式の変形形態では、水または塩基性電解質に含浸されるのは、アノード側(第1の織物布地、半乾式ケース1)のみ、またはカソード側(第2の織物布地、半乾式ケース2)のみである。反対側の区画は「乾燥」したままである。水素ガス(半乾式ケース1)または酸素ガス(半乾式ケース2)は、第2の織物布地(カソード)または第1の織物布地(アノード)から引き出される。ケース1では、酸素は、湿式変形形態と同様に、水または塩基性電解質で満たされたアノード区画に蓄積する。ケース2では、水素は、湿式変形形態と同様に、水または塩基性電解質で満たされたカソード区画に蓄積する。
【0067】
2つの半乾式変形形態において有利なことは、水からの、または塩基性電解質および水素(ケース1)または酸素(ケース2)からの分離を必要としないことであり、これは、対応する電極が水または塩基性電解質に浸漬されず、したがって形成されるガスがほとんど水を含まないためである。
【0068】
アノード側のみに水を含む半乾式AEMプロセス(ケース1)の基本的な考え方は、国際公開第2011/004343号に記載されている。
具体的には、半乾式プロセス変形形態のケース1は、以下の工程を有する:
a)アノード、カソード、およびアノードとカソードとの間に配置されたアニオン伝導膜を含む電気化学セルであって、アノードが、少なくとも部分的には触媒活性線形織物構造を含む第1の織物布地として作成され、第1の織物布地が、膜と直接接触している少なくとも1つの電気化学セルを提供する工程;
b)7~14のpHを有する水または水性電解質を提供する工程;
c)電圧源を提供する工程;
d)第1の織物布地を水または電解質に浸漬および浸透させる工程;
e)第1の織物布地に水または電解質を通過させる工程;
f)アノードおよびカソードを電圧源から引き出された電圧と接触させる工程;
g)第2の織物布地から水素を引き出す工程。
h)第1の織物布地から、および/または第1の織物布地から酸素が富化された水もしくは電解質から酸素を引き出す工程;
i)場合により、酸素富化水または酸素富化電解質から酸素を分離する工程;
したがって半乾式プロセス(ケース1)では、第2の織物の浸漬および水、または水素が富化された電解液からの水素の分離は必要ない。形成された水素は、カソード区画では直に気体形態であり、水をほとんど含まない。
【0069】
実際には、ケース1では、混合形態もあり得、そこでは酸素の一部が自発的に第1の織物布地から抜け、別の部分が水または電解質に溶解したままであり、別の操作でそこから分離されなければならない。しかし、水素回収が唯一の目的である場合、第1の織物布地から引き出された水または電解質からの酸素の分離を省くことが可能である。酸素は、一部分が電解質中に残存する。その結果、必要な構成要素が減るので、電気分解装置コストを幾分低減することができる。
【0070】
カソード側(第2の織物布地、半乾式ケース2)のみが水または塩基性電解質に浸漬および浸透されるように電気分解が行われる場合、水または電解質からの酸素の分離を省くことができる。ケース2の半乾式変形形態は、この場合以下の形態をとる:
a)アノード、カソード、およびアノードとカソードとの間に配置されたアニオン伝導膜を含む電気化学セルであって、アノードが、少なくとも部分的には触媒活性線形織物構造を含む第1の織物布地として作成され、第1の織物布地が、膜と直接接触している少なくとも1つの電気化学セルを提供する工程;
b)7~14のpHを有する水または水性電解質を提供すること;
c)電圧源を提供すること;
d)第2の織物布地を水または電解質に浸漬および浸透させること;
e)第2の織物布地に水または塩基性電解質を通過させること;
f)アノードおよびカソードを電圧源から引き出された電圧と接触させること;
g)第1の織物布地から酸素を引き出すこと;
h)第2の織物布地から、および/または第2の織物布地から水素が富化された水もしくは塩基性電解質から水素を引き出すこと;
i)場合により、水素富化水または水素富化電解質から水素を分離すること。
【0071】
実際には、ケース2でも、混合形態もあり得、そこでは水素の一部が自発的に第1の織物布地から抜け、別の部分が水または塩基性電解質に溶解したままであり、別の操作でそこから分離されなければならない。
【0072】
ここに提示されている全てのプロセス変形形態に共通しているのは、織物布地の多孔質特性が、セルに導入されてセルから引き出される流体および形成されたガスを誘導し、電気化学セルを通るその輸送を促進するために利用されることである。本発明によれば、織物布地は、多孔質輸送層および流れ場(流体導体)の機能を常に果たす。実施形態(湿式、半乾式ケース1、半乾式ケース2)によれば、織物布地によって導かれる流体は、水、液体水性電解質、水素が溶解した液体電解質、酸素が溶解した液体電解質、酸素ガスまたは水素ガスである。さらに、流体は、言及されたガスおよび液体で構成される複数の相を含んでもよい。
【0073】
ここに提示される電気化学セルの構造の特定の利点は、構造変更を必要とせずに異なるプロセス変形形態に使用できることである。その結果、電気化学セルの製造業者は、セルの1つの設計を製造するだけでよく、セルのユーザは、どのプロセス変形形態(湿式、半乾式ケース1、半乾式燥ケース2)が問題の用途に最も経済的に実行可能であるかを決定することができる。このようにして、複雑さを低減することによって、セルの、ひいては電気分解装置の製造コストも大幅に低減される。
【0074】
ここに提示される全てのプロセス変形形態は、好ましくは連続的に行われる。これは、水または水性塩基性電解質が連続的に供給され、ガス、または酸素富化水および/または水素富化水または酸素富化電解質および/または水素富化電解質が連続的に引き出されることを意味する。水の連続供給は、水または電解質中に存在する水の電気分解によって生じる損失を補う。そうでなければ、水は時間と共に完全に消費され、電気化学反応は停止する。電気化学セルを完全に充填するか、または少なくともそのアノードまたはカソード区画を水または塩基性電解質で充填し、これをセルまたはアノードまたはカソード区画が空になるまで電気分解するバッチプロセスが考えられるが、工業規模では好ましくない。
【0075】
本発明による電気化学セルを用いた水電気分解は、好ましくは、少なくとも300mA/cm、またはより良好にはさらに少なくとも500mA/cmの電流密度で行われる。セルは、これらの高い電流密度でより高いプロセス強度を達成する。これは、セル面積の単位当たりの水素生成が増加することを意味する。電流密度は、電極間を流れる電流とセルの有効面積との商、すなわち、電解質と接触している膜または電極の割合から計算される。
【0076】
本発明によるプロセスは、好ましくは、共通のバイポーラプレートを共有する本発明による少なくとも2つの電気化学セルを含む電気分解装置において行われる。これは、バイポーラプレートが、電気分解装置の第1の電気化学セルのアノードおよび電気分解装置の第2の電気化学セルのカソードと同時に電気的に接触していることを意味する。この場合2つの隣接するセルが直列に接続される。そのような電気分解装置は、本発明の主題のさらなる部分を形成する。
【0077】
隣接するセルがそれぞれバイポーラプレートを共有する電気分解装置の利点は、そのコンパクトなスタック構造、したがってその構造サイズが小さいことである。好ましくは、電気分解装置は、共通のバイポーラプレートを共有する3つ以上の隣接するセルを含む。個々の電気化学セルのサイズおよび必要な電力に応じて、バイポーラプレートを介して最大500個のセルを積層して、電気分解装置を形成することが可能である。
【0078】
本発明の電気分解装置のさらなる利点は、高度な自動操作で製造できることである。これは、電気化学セルの個々の構成要素をロボットで非常に効率的に積み重ねることができるためである。このようにして、電気分解装置の製造コストがさらに低下する。
【0079】
同様に、本発明は、製造の過程で以下の構成要素がこの順序で互いの上に直接積み重ねられる場合、共通のバイポーラプレートを共有する本発明による少なくとも2つの電気化学セルを含む電気分解装置の製造プロセスを提供する。
このプロセス手順では、積み重ねはアノードからカソードへと至る。
a)第1の織物布地;
b)触媒層が設けられてもよい、アニオン伝導膜;
c)触媒層が設けられてもよい、第2の織物布地;
d)バイポーラプレート;
e)第1の織物布地;
f)触媒層が設けられてもよい、アニオン伝導膜;
g)触媒層が設けられてもよい、第2の織物布地。
カソードからアノードへと積み重ねることも同様に可能である。積み重ね順序は次の通りである:
a)触媒層が設けられてもよい、第2の織物布地;
b)触媒層が設けられてもよい、アニオン伝導膜;
c)第1の織物布地;
d)バイポーラプレート;
h)触媒層が設けられてもよい、第2の織物布地;
i)触媒層が設けられてもよい、アニオン伝導膜;
j)第1の織物布地。
【0080】
両方の積み重ね順序は、同じ電気分解装置をもたらす。
【0081】
本発明による共通のバイポーラプレートを介して本発明による3つ以上の隣接するセルを互いに接触させるために、積み重ね順序を繰り返し実行することが可能である。各実行の後、バイポーラプレートを挿入する必要がある。
【0082】
例えば、アノードからカソード方向に3つのセルを積み重ねる場合の積み重ね順序は以下の通りである:
a)第1の織物布地;
b)触媒層が設けられてもよい、アニオン伝導膜;
c)触媒層が設けられてもよい、第2の織物布地;
d)バイポーラプレート;
e)第1の織物布地;
f)触媒層が設けられてもよい、アニオン伝導膜;
g)触媒層が設けられてもよい、第2の織物布地;
h)バイポーラプレート;
i)第1の織物布地;
j)触媒層が設けられてもよい、アニオン伝導膜;
k)触媒層が設けられてもよい、第2の織物布地。
【0083】
全てのスタックには、スタックの両端にエンドプレートが設けられてもよく、これは対応してモノポーラ方式で接続される。
【0084】
積み重ねは、特にロボットを使用して自動化されることが好ましい。
【0085】
電気分解装置の製造は、第1および第2の織物布地が同じ材料からなる場合に特に効果的である。この場合、構成要素の種類が少なくなり、それによって組み立て速度が増し、電気分解装置コストが低減する。その場合もまた、積み重ねプロセスはロボットでより良好に実行可能であり、なぜならロボットがアノードとカソードとを区別する必要がなく、代わりに1種類の電極を設置するだけでよいからである。
【0086】
電気分解装置の製造は、第1および/または第2の織物布地が構成要素を形成するように、電気分解装置の組み立て前にバイポーラプレートに電気的に接続され、機械的に固定されると、さらに効果的である。これは、例えば、2つの織物布地とバイポーラプレートとをスポット溶接することによって達成され得る。このようにして、構成要素の種類がさらに少なくなり、それによって組み立て速度がさらに増し、電気分解装置コストが低減する。スポット溶接は、別のロボット、または後にセルを組み立てるロボットを用いて行うことができる。
以下、実施例により本発明を説明する。この目的のために、図は以下を示す。
【図面の簡単な説明】
【0087】
図1a】電気化学セルの第1の実施形態の設計の概略図である。
図1b】湿式プロセス変形形態における電気化学セルの第1の実施形態(図1a)の動作の概略図である。
図1c】半乾式プロセス変形形態(ケース1-「乾燥カソード」)における電気化学セルの第1の実施形態(図1a)の動作の概略図である。
図1d】半乾式プロセス変形形態(ケース2-「乾燥アノード」)における電気化学セルの第1の実施形態(図1a)の動作の概略図である。
図2a】電気化学セルの第2の実施形態の設計の概略図である。
図2b】湿式プロセス変形形態における電気化学セルの第2の実施形態(図2a)の動作の概略図である。
図2c】半乾式プロセス変形形態(ケース1-「乾燥カソード」)における電気化学セルの第2の実施形態(図2a)の動作の概略図である。
図2d】半乾式プロセス変形形態(ケース2-「乾燥アノード」)における電気化学セルの第2の実施形態(図2a)の動作の概略図である。
図3】第1の実施形態による2つの電気化学セル(図1a)を含む電気分解装置の1つの動作変形形態の概略図である。
図4】第2の実施形態による2つの電気化学セル(図2a)を含む電気分解装置の設計の概略図である。
図5】実施例1~4および8のUI特性のグラフである。
図6】実施例4~7および9のUI特性のグラフである。
図7】実施例4および10~13のUI特性のグラフである。
図8】実施例4および13~16のUI特性のグラフである。
図9】実施例13および17~20のUI特性のグラフである。
図10】実施例21~25のUI特性のグラフである。
図11】実施例4、26~29のUI特性のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0088】
図1aは、電気化学セル0の第1の実施形態の概略図を断面で示す。これは、アノード1、カソード2、およびアノード1とカソード2との間に配置されたアニオン伝導膜3を含む。アノード1およびカソード2は、Ni含有繊維を含む織物布地としてそれぞれ作成される。
【0089】
膜3は、国際公開第2021/013694号の実施例3に従って製造されたイオノマーから作られた二次元膜である。膜3は、国際公開第2021/013694号の実施例4に従って製造された。アノード1およびカソード2はそれぞれ、膜3に直接隣接する。アノード1およびカソード2は、それぞれ膜3から遠い側でエンドプレート4と接触している。
【0090】
アノード1およびカソード2の有効面積は、図面の平面に対して直角に延在する。
特に、電気化学セル0は、別個の流れ分配器または別個の多孔質輸送層(PTL)または別個の触媒活性触媒層を有さない。流れ分配器およびPLTの機能は、アノード1およびカソード2自体によって想定される。なぜなら、それらが同時に流体伝導性である織物布地からなるからである。繊維状物質は、ニッケルおよび鉄を含む。最も単純な場合、繊維材料は、一般にニッケルおよび鉄を含有するステンレス鋼である。セルの動作において、ニッケルおよび鉄の酸化は、触媒的に活性な混合Ni-Fe酸化物または混合Ni-Fe水酸化物を形成する。その結果、繊維材料は触媒活性材料を提供し、追加の触媒層は必要ない。
【0091】
電気化学セル0は、3つの動作モード:湿式、半乾式ケース1および半乾式ケース2を可能にする。
【0092】
図1bは、湿式プロセス変形形態における図1aの電気化学セルの動作の概略図である。ここで、アノード1およびカソード2は、電気分解動作において水または塩基性電解質に浸漬され、それに浸透される。
【0093】
図1cは、電気分解動作で図1aの電気化学セル0のアノード1のみが水または塩基性電解質に浸漬され、それに透過される半乾式プロセスの変形形態を示す(半乾式ケース1)。カソード2は乾燥したままである。
【0094】
図1dは、電気分解動作で図1aの電気化学セル0のカソード2のみが水または塩基性電解質に浸漬され、それに透過される半乾式プロセスの変形形態を示す(半乾式ケース2)アノード1は乾燥したままである。
【0095】
図2aは、電気化学セル0の第2の実施形態の設計の概略図を断面で示す。これは、アノード1、カソード2、およびアノード1とカソード2との間に配置されたアニオン伝導膜3を含む。アノード1およびカソード2は、Ni含有繊維を含む織物布地としてそれぞれ作成される。膜3は、国際公開第2021/013694号の実施例3に従って製造されたイオノマーから作られた二次元膜である。膜3は、国際公開第2021/013694号の実施例4に従って製造された。2つの電極(アノード1およびカソード2)は、膜3に直接隣接する。アノード1およびカソード2は、それぞれ膜3から遠い側でエンドプレート4と接触している。
【0096】
第2の実施形態は、カソード2と膜3との間に配置された触媒層5を特徴とする。触媒層5は、ここではカソード2、および/または膜3のカソード側に塗布されていてもよい。触媒層5は、イオノマーを用いずにカソード2上に固定された(実施例11~12)、またはイオノマーを用いてカソード2上に固定された(実施例1~10)、またはイオノマーを介して膜3上に固定された(実施例13~20)触媒活性粒子または触媒活性コーティング(電極触媒)を含む。触媒活性粒子または触媒活性コーティングは、1nm~10μmの粒径またはコーティング厚を有する、Au、Pt、Rh、Ru、Pd、Ag、Ni、Co、Cu、Fe、Mn、Mo含有金属粒子または合金またはコーティングまたは化合物、例えば、硫化物、セレン化物、酸化物、混合酸化物、水酸化物、混合水酸化物、スピネルまたはペロブスカイトである。触媒活性粒子は、担持されなくても、炭素質材料、例えばカーボンブラックもしくは木炭、または酸化物、例えばCeO、TiOもしくはWO上に担持されてもよい。活物質の濃度は、膜または電極面積(カソード2)に基づいて、0.01mg/cm~25mg/cm、好ましくは0.05mg/cm~5mg/cmである。粒子含有触媒層の厚さは、1μm~500μm、好ましくは5μm~100μmである。イオノマーは、膜3が製造されたのと同じ材料である(国際公開第2021/013694号の実施例3)。膜3は、その活性触媒層5のため、「触媒コーティング膜」-CCM-と見なされるものとし、カソード2は、その活性触媒層5のため、「触媒コーティング基材」-CCSと見なされるものとする。
【0097】
第2の実施形態(図2a)におけるアノード1、カソード2およびエンドプレート4は、第1の実施形態(図1a)と同様である。ここでも、構成要素1、2、3および4は、カソード2と膜3との間に配置された触媒層5と共に互いに直接接触する。しかしながら、触媒層5は、カソード2の構成要素(CCSアプローチ)または膜3の構成要素(CCMアプローチ)と見なされるため、これは矛盾しない。
【0098】
図2aの電気化学セル0は、3つの動作モード:湿式、半乾式ケース1および半乾式ケース2を可能にする。
【0099】
図2bは、アノード1およびカソード2が電気分解動作において水または塩基性電解質に浸漬され、それに浸透される湿式プロセス変形形態を示す。
【0100】
図2cは、電気分解動作でアノード1のみが水または塩基性電解質に浸漬され、それに透過される半乾式プロセス変形形態を示す(半乾式ケース1)。
【0101】
図2dは、電気分解動作でカソード2のみが水または塩基性電解質に浸漬され、それに透過される半乾式プロセス変形形態を示す(半乾式ケース2)。
【0102】
図3は、湿式動作における第1の電気分解装置6の概略図を示す。電気分解装置6は、第1の実施形態による2つの隣接する電気化学セル0を含み、これらは同一の構造であり、共通のバイポーラプレート7を介して接触される。
【0103】
第1の電気分解装置6を用いた水電気分解の実行のために、電気分解動作において全ての電極を水または塩基性電解質に浸し、それを連続的に浸透させる。この動作モードは、全ての織物布地が水または塩基性電解質に浸漬され浸透されるので、「湿式」として上述したプロセス変形形態に対応する。次に、アノード1とカソード2との間に作用する電圧が各セルに印加される。この効果は、上述の原理によれば、水電気分解、およびカソード2を形成する織物布地中の水素(H)およびアノード1を形成する織物布地中の酸素(O)の関連する放出である。酸素(O)、水素(H)および電気分解されていない水(HO)または塩基性電解質は、対応してアノード1およびカソード2から引き出され、水および塩基性電解質はアノード1およびカソード2を通って連続的にポンプ輸送される。
【0104】
図4は、動作中の第2の電気分解装置8の概略図を示す。第2の電気分解装置8は、第2の実施形態による2つの隣接する電気化学セル0を含み、これらは同一の構造であり、共通のバイポーラプレート7を介して接触される。
【0105】
第2の電気分解装置8を用いた水電気分解の実行のために、電気分解動作において全ての電極を水または塩基性電解質に浸し、それを浸透させる。この動作モードは、両方のフェルトが水または塩基性電解質に浸漬され浸透されるので、「湿式」として上述したプロセス変形形態に対応する。次に、アノード1とカソード2との間に作用する電圧が各セルに印加される。この効果は、上述の原理によれば、水電気分解、およびカソード2を形成する織物布地中の水素(H)およびアノード1を形成する織物布地中の酸素(O)の関連する放出である。酸素(O2)、水素(H2)および電気分解されていない水(H2O)または塩基性電解質は、対応してアノード1およびカソード2から引き出され、水および塩基性電解質はアノード1およびカソード2を通って連続的にポンプ輸送される。
【実施例
【0106】
全ての実施例は、アノード1、カソード2、膜3、および作用面積16cmを有する2つのエンドプレート4からなる電気化学セル内で実施された。これは、カソード側およびカソード側の各ケースで2つの異なるタイプのエンドプレート:I型エンドプレート(チャネルあたり1つのフィードおよび1つのドレインを有する、幅1.5mmの細長いチャネルの形態の流れ分配器を有する)およびII型エンドプレート(流れ分配器なし、片側にDin=1.5mmを有する10個の円形フィード、反対側にDin=1.5mmを有する10個の円形ドレイン)を使用して行われた。膜3は、国際公開第2021/013694号の実施例3に従って製造されたイオノマーから作られた二次元膜である。膜3は、国際公開第2021/013694号の実施例4に従って製造され、50μmの厚さを有する。膜3を、各実験の前に1M KOH中、60℃で24時間イオン交換した。使用した電解質は1M KOHであり、それを50ml/分でアノード1および/またはカソード2を通してポンプ輸送した。全ての実験は、電解質温度のみを制御して60℃で行った。それぞれの実施例の個々の特別な特徴は、別々に記載されている。
【0107】
以下の材料を利用した:
・SAE 316Lステンレス鋼フェルト(2プライ(プライ1-より細かい4μmの繊維、プライ2-より粗い8μmの繊維、厚さ=300μm、多孔度=80%、サンプル名「鋼フェルト」);
・SAE 316Lステンレス鋼フェルト(2μmの繊維で構成された1プライ、厚さ=200μm、多孔度=80%、サンプル名「1L-2μm鋼フェルト」);
・SAE 316Lステンレス鋼フェルト(4μmの繊維で構成された1プライ、厚さ=270μm、多孔度=80%、サンプル名「1L-4μm鋼フェルト」);
・SAE 316Lステンレス鋼フェルト(8μmの繊維で構成された1プライ、厚さ=350μm、多孔度=80%、サンプル名「1L-8μm鋼フェルト」);
・ニッケルフェルト(S80422、厚さ=300μm、多孔度=80%、サンプル名「Niフェルト」、Stanford Advanced Materials、米国);
・炭素繊維ウェブ(TGP-H120、厚さ=370μm、多孔度=78%、サンプル名「炭素繊維ウェブ」、東レ株式会社、日本);
・Pt/C(炭素担体上の60重量%Pt、品番AB204745、abcr GmbH、ドイツ);
・Ir(99.8%Ir、品番12071、Alfa Aesar GmbH&Co KG、ドイツ)。
【0108】
触媒活性Pt/Cを含有する第1の試験インクおよび触媒活性Irを含有する第2の試験インクを以下のように製造した:
【0109】
イオノマーを用いた試験インクの製造の基礎は、イオノマー溶液の製造である。適切な溶媒の例は、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)またはジメチルスルホキシド(DMSO)であり、DMSOは非有害物質として分類されるので好ましい。ポリマーの割合は、10mg/ml~500mg/ml、好ましくは25mg/ml~200mg/mlである。
【0110】
イオノマーと触媒活性物質との質量比は、例えば、炭素に担持された白金(Pt/C)またはイリジウム(Ir)ベースの触媒の場合、1:1~1:20または1:3~1:5である。
【0111】
最初に触媒およびイオノマー溶液は、分散(例えば、剪断動作下で両方とも粒径の調整(0.1μm~50μmの範囲のd50)および分散をもたらす、ULTRA-TURRAX(登録商標)分散システム(IKA、Staufen、ドイツ)または3本ロールミル(例えば、EXAKT、Norderstedt、ドイツ)による)後、直接(例えば、スクリーン印刷またはナイフコーティング法によって)塗布することができる。次に、特に噴霧プロセスによる塗布のための水性分散液を製造することが可能であり、その場合、触媒が超音波またはディスペンサ(例えば、さらに粒径:d50を0.1μm~50μmの範囲で調整するULTRA-TURRAX(登録商標)分散システム(IKA、Staufen、ドイツ))の動作下で水および低級アルコール(好ましくはエタノール、1-プロパナールまたは2-プロパノール)の溶液中に最初に分散され、次いでイオノマー溶液(好ましくは50mg/ml)が添加され、続いて超音波下でさらに分散される。ここで固形分濃度は、5mg/ml~100mg/ml、好ましくは10mg/ml~25mg/mlである。イオノマー溶液の単位mg/mlは、触媒の質量/液体成分の体積に対するポリマーの質量/溶媒または分散液の体積に基づく。
【0112】
試験インクの製造に使用されるイオノマーは、国際公開第2021/013694号の実施例3に記載されているように製造された物質である。表1は、試験インクの組成を示す。
【0113】
【表1】
【0114】
試験インクでコーティングされたアノード1もしくはカソード2(両方ともCCSアプローチとして)、または試験インク#1でコーティングされた膜3(CCMアプローチ)の製造を以下のように行った。
【0115】
上述のPt/C試験インク#1またはIr含有試験インク#2を、PRISM 400超音波スプレーコーター(Ultrasonic Systems、Inc、Haverhill、MA、米国)を用いて、選択された基材(炭素繊維ウェブまたは鋼フェルト)上に噴射するか、またはPt/C含有試験インク#1のケースでは、膜3の片側(すなわち、一方的に)にも直接噴霧した。インクをプロセス中に連続的に撹拌し、基材および膜3を60℃の温度に維持した結果、分散剤は連続的に蒸発し、電極触媒は基材または膜の表面上に薄い固体層として残った。得られたPtの担持量は0.6mgPt/cmであった。得られたIrの担持量は1mgIr/cmであった。
【0116】
膜3の直接片側コーティングの場合、電気分解試験では、追加の多孔質輸送層(炭素繊維ウェブまたは鋼フェルト)をエンドプレートと片側コーティング膜3との間のカソード側に設置した。
【0117】
スプレー法の代替として、選択された基材(炭素繊維ウェブまたは鋼フェルト)の表面上への50nmの薄いPt層のスパッタリングを使用した。これは、Q150R ES PLUSスパッタリング装置(Quorum Technologies Ltd.、英国)を使用して行われ、層厚の制御は設置された層厚モニタによって実施された。
【0118】
より良い概要のために、個々の実施例で使用される条件および成分を表2に要約する。
【0119】
【表2】
表2:個々の実施例で使用した成分のまとめ。[C]はカソードを表し、[A]はアノードを表す。「輸送層」欄の詳細は、追加の輸送層が電気分解試験で使用されたか(炭素繊維ウェブまたは鋼フェルト)否か(「なし」)を示す。「基材」は、電極触媒によるコーティングのための基材として、または電極触媒によるコーティングをしない電極として、どの材料が使用されたかを示す。電極の種類は、CCSアプローチ(基材が電極触媒でコーティングされた)が使用されたか、またはCCMアプローチ(膜が電極触媒でコーティングされた)が使用されたかを示す。「流れ場」欄の詳細は、I型エンドプレート(流れ分配器付き)が使用されたか、またはII型エンドプレート(流れ分配器なし)が使用されたかを示す。「電解質」欄の詳細は、対応する電極が電解質「あり」で動作されたか(すなわち、電極を水または塩基性電解質で浸漬し、ポンプで通過させた、すなわち湿式プロセス変形形態)、または電解質「なし」で動作されたか(すなわち、電極を水または塩基性電解質で浸漬またはポンプで通過させなかった、すなわち半乾式プロセスの変形形態)を示す。
【0120】
(実施例1)
基材として炭素繊維ウェブを選択してカソードを製造した。PRISM 400超音波スプレーコーター(Ultrasonic Systems、Inc、Haverhill、MA、米国)を用いて基材をPt/C含有インクでコーティングし、その製造は上に記載した。得られたPtの担持量は0.6mg/cmであった。
【0121】
基材として鋼フェルトを選択してアノードを製造した。PRISM 400超音波スプレーコーター(Ultrasonic Systems、Inc、Haverhill、MA、米国)を用いて基材(より細かい4μm繊維を有する側)をIr含有インクでコーティングし、その製造は上に記載した。得られたIrの担持量は1mg/cmであった。鋼フェルトは、膜に向けてより細かい4μmの繊維を組み込まれた。
【0122】
両端にI型エンドプレートを使用した。
【0123】
(実施例2)
アノード側にII型エンドプレートを使用したことを除いて、実施例1と同じである。
【0124】
(実施例3)
利用したカソードは、実施例1と同様の電極であった。利用したアノードは、電極触媒として50nmのPtでコーティングされた(より細かい4μmの繊維を有する側)鋼フェルトであった。鋼フェルトは、膜に向けてより細かい4μmの繊維を組み込まれた。
【0125】
(実施例4)
利用したアノードがコーティングされていない鋼フェルトであったことを除いて、実施例3と同様である。鋼フェルトは、膜に向けてより細かい4μmの繊維を組み込まれた。
【0126】
(実施例5)
カソードが電気分解中に電解質に浸漬されず、透過されなかったことを除いて、実施例4と同様である(半乾式プロセス変形形態、半乾式ケース1)。
【0127】
(実施例6)
アノードが電気分解中に電解質に浸漬されず、透過されなかったことを除いて、実施例4と同様である(半乾式プロセス変形形態、半乾式ケース2)。
【0128】
(実施例7)
基材として鋼フェルトを選択してカソードを製造した。PRISM 400超音波スプレーコーター(Ultrasonic Systems、Inc、Haverhill、MA、米国)を用いて基材(より細かい4μm繊維を有する側)をPt/C含有インクでコーティングし、その製造は上に記載した。得られたPtの担持量は0.6mg/cmであった。利用したアノードは、膜に向けてより細かい4μmの繊維を組み込まれた、コーティングされていない鋼フェルトであった。
【0129】
(実施例8)
カソードは実施例1と同様である。利用したアノードは、膜に向けてより細かい4μmの繊維を組み込まれた、コーティングされていない鋼フェルトであった。カソード側にI型エンドプレートを使用し、アノード側にII型エンドプレートを使用した。
【0130】
(実施例9)
カソード側にI型エンドプレートを使用し、アノード側にII型エンドプレートを使用したことを除いて、実施例8と同様である。
【0131】
(実施例10)
カソードは実施例1と同様である。利用したアノードは、コーティングされていないNiフェルトであった。
【0132】
(実施例11)
利用したカソードは、電極触媒として50nmのPtでコーティングされた(より細かい4μmの繊維を有する側)鋼フェルトであった。利用したアノードは、コーティングされていない鋼フェルトであった。
【0133】
(実施例12)
利用したカソードは、電極触媒として50nmのPtでコーティングされた炭素繊維ウェブであった。利用したアノードは、膜に向けてより細かい4μmの繊維を組み込まれた、コーティングされていない鋼フェルトであった。
【0134】
(実施例13)
PRISM 400超音波スプレーコーター(Ultrasonic Systems、Inc、Haverhill、MA、米国)を用いて、上記に製造を記載したPt/C含有インクで膜(カソード側のみ)を直接片面コーティングすることによってカソードを製造した。得られたPtの担持量は0.6mg/cmであった。カソード側に使用した多孔質輸送層は炭素繊維ウェブであった。利用したアノードは、膜に向けてより細かい4μmの繊維を組み込まれた、コーティングされていない鋼フェルトであった。
【0135】
(実施例14)
カソードが電気分解中に電解質に浸漬されず、ポンプで通過されなかったことを除いて、実施例13と同様である(半乾式プロセス変形形態、半乾式ケース1)。
【0136】
(実施例15)
アノードが電気分解中に電解質に浸漬されず、ポンプで通過されなかったことを除いて、実施例13と同様である(半乾式プロセス変形形態、半乾式ケース2)。
【0137】
(実施例16)
カソード側に使用した多孔質輸送層が、膜に向かってより細かい4μmの繊維を組み込んだ鋼フェルトであったことを除いて、実施例13と同様である。
【0138】
(実施例17)
カソード側にII型エンドプレートを使用したことを除いて、実施例13と同じである。
【0139】
(実施例18)
カソードが電気分解中に電解質に浸漬されず、透過されなかったことを除いて、実施例17と同様である(半乾式プロセス変形形態、半乾式ケース1)。
【0140】
(実施例19)
アノードが電気分解中に電解質に浸漬されず、透過されなかったことを除いて、実施例17と同様である(半乾式プロセス変形形態、半乾式ケース2)。
【0141】
(実施例20)
カソード側に使用した多孔質輸送層が、膜に向かってより細かい4μmの繊維を組み込んだ鋼フェルトであったことを除いて、実施例17と同様である。
【0142】
(実施例21)
利用したアノード1は、膜に向けてより細かい4μmの繊維を組み込まれた、コーティングされていない鋼フェルトであった。利用したカソード2は、コーティングされていないNiフェルトであった。
【0143】
(実施例22)
カソードが電気分解中に電解質に浸漬されず、ポンプで通過されなかったことを除いて、実施例21と同様である(半乾式プロセス変形形態、半乾式ケース1)。
【0144】
(実施例23)
アノードが電気分解中に電解質に浸漬されず、ポンプで通過されなかったことを除いて、実施例21と同様である(半乾式プロセス変形形態、半乾式ケース2)。
【0145】
(実施例24)
アノード側にII型エンドプレートを使用したことを除いて、実施例21と同じである。
【0146】
(実施例25)
カソード側にII型エンドプレートを使用したことを除いて、実施例21と同じである。
【0147】
(実施例26)
鋼フェルトが、膜に向かってより粗い8μmの繊維を組み込まれたことを除いて、実施例4と同様である(より細かい4μmの繊維が膜に向けられていないため、「誤った」組込み)。
【0148】
(実施例27)
組み込まれたアノードが1プライの1L-2μm鋼フェルトであったことを除いて、実施例4と同様である。
【0149】
(実施例28)
組み込まれたアノードが1プライの1L-4μm鋼フェルトであったことを除いて、実施例4と同様である。
【0150】
(実施例29)
組み込まれたアノードが1プライの1L-8μm鋼フェルトであったことを除いて、実施例4と同様である。
【0151】
結論
図11において、300mA/cmを超えるより高い電流密度の場合、鋼フェルトの「誤った」組込みの場合、ならびに2μm、4μmおよび8μmの鋼繊維で構成された1プライの鋼フェルトの使用の場合、同じ電流密度を達成するためにより高いセル電圧が必要とされることが明らかである。これは、セルによって消費される電力が増加することを意味する。その結果、単一プライのフェルトまたは誤って組み込まれたフェルトを用いたプロセスの場合のエネルギー需要は、より細かい繊維が膜の方向に配置された2プライのフェルトの場合よりも大きい。したがって、生成される水素の単位当たりのエネルギーコストは高くなる。
500mA/cmを超えるより高い電流密度で、正しく組み込まれたマルチプライフェルトの利点がさらに明白であることも図11で明らかである。したがって、マルチプライフェルトの正しい使用によって達成可能な省エネルギーは、電気分解装置が高いプロセス強度で運転される場合に特に大きい。
【符号の説明】
【0152】
0 電気化学セル
1 第1の織物布地(アノード)
2 第2の織物布地(カソード)
3 アニオン伝導膜
4 エンドプレート
5 触媒層
6 第1の実施形態による、共通のバイポーラプレート7を介して接触される2つの隣接する電気化学セル0を含む電気分解装置
7 バイポーラプレート
8 第2の実施形態による、共通のバイポーラプレート7を介して接触される2つの隣接する電気化学セル0を含む電気分解装置
O 水または塩基性電解質
水素
酸素
図1a
図1b
図1c
図1d
図2a
図2b
図2c
図2d
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【手続補正書】
【提出日】2023-04-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード、カソード、およびアノードとカソードとの間に配置されたアニオン伝導膜を含む電気化学セルであって、前記アノードが、触媒活性線形織物構造を含む第1の織物布地として少なくとも部分的に作成され、前記第1の織物布地が前記膜と直接接触しており、前記第1の織物布地がフェルトまたは不織布であり、前記フェルトまたは不織布が少なくとも2つのタイプの触媒活性線形織物構造を含み、一方のタイプが他方のタイプよりも高い触媒活性を有し、より高い触媒活性を有する前記触媒活性線形織物構造のタイプが、より低い触媒活性を有する前記触媒活性線形織物構造のタイプが集中している前記織物布地の領域よりも、前記膜の近くに隣接した前記織物布地の領域に集中していることを特徴とする、電気化学セル。
【請求項2】
前記触媒活性線形織物構造が、ニッケル含有材料からなることを特徴とする、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項3】
前記ニッケル含有材料が、以下の材料:ニッケル、ニッケル含有合金、特にハステロイ、クロニン、モネル、インコネル、インコロイ、インバー、コバール;ニッケル含有鋼、ニッケル含有ステンレス鋼、鋼種AISI 301、AISI 301L、AISI 302、AISI 304、AISI 304L、AISI310、AISI310L、AISI316、AISI316L、AISI 317、AISI 317L、AISI 321の鋼からなる群から選択されることを特徴とする、請求項2に記載の電気化学セル。
【請求項4】
前記触媒活性線形織物構造が、触媒活性コーティングが施された基材を含み、前記触媒活性コーティングが、Au、Pt、Ir、Rh、Ru、Pd、Ag、Ni、Co、Cu、Fe、Mn、Moからなる群から選択される少なくとも1つの元素、または前記選択された元素の化合物、特に酸化物、混合酸化物、水酸化物、混合水酸化物、スピネルまたはペロブスカイトを含むことを特徴とする、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項5】
前記触媒活性コーティングがポリマーを含まず、特にイオン伝導ポリマーを含まないことを特徴とする、請求項4に記載の電気化学セル。
【請求項6】
前記基材材料が、以下の材料:ニッケル、ニッケル含有合金、特にハステロイ、クロニン、モネル、インコネル、インコロイ、インバー、コバール;ニッケル含有鋼、ニッケル含有ステンレス鋼、鋼種AISI 301、AISI 301L、AISI 302、AISI 304、AISI 304L、AISI310、AISI310L、AISI316、AISI316L、AISI 317、AISI 317L、AISI 321の鋼、チタン、炭素からなる群から選択されることを特徴とする、請求項4または5に記載の電気化学セル。
【請求項7】
前記カソードが、少なくとも部分的に第2の織物布地として作成されることを特徴とする、請求項1~6に記載の電気化学セル。
【請求項8】
前記第2の織物布地が、触媒活性線形織物構造を含むことを特徴とする、請求項7に記載の電気化学セル。
【請求項9】
前記第2の織物布地が、前記膜と直接接触していることを特徴とする、請求項8に記載の電気化学セル。
【請求項10】
前記第2の織物布地と前記膜との間に触媒層が配置されることを特徴とする、請求項7に記載の電気化学セル。
【請求項11】
前記第2の織物布地が、フェルトまたは不織布であることを特徴とする、請求項1~10のいずれかに記載の電気化学セル。
【請求項12】
前記フェルトまたは不織布が、少なくとも2つのフェルトまたは不織布層から形成され、第1の層の繊維および/またはフィラメントが、それらの直径に関して第2の層の繊維および/またはフィラメントとは異なり、より細かい繊維および/またはフィラメントを有する前記層が、より粗い繊維および/またはフィラメントを有する前記層よりも前記膜の近くに配置されることを特徴とする、請求項1または11に記載の電気化学セル。
【請求項13】
前記触媒層が、触媒活性粒子および/または触媒活性コーティングを含有し、前記触媒活性粒子および/または触媒活性コーティングが、以下の元素:Au、Pt、Ru、Rh、Pd、Ag、C、S、Se、Ni、Mo、Mn、Co、Cu、Feからなる群から選択される元素、または選択された前記元素の化合物を含有することを特徴とする、請求項10~12のいずれかに記載の電気化学セル。
【請求項14】
前記触媒活性粒子がアニオン伝導ポリマーに埋め込まれていることを特徴とする、請求項13に記載の電気化学セル。
【請求項15】
前記アニオン伝導ポリマーが、同様に前記膜中に存在することを特徴とする、請求項14に記載の電気化学セル。
【請求項16】
前記第1の織物布地および/または前記第2の織物布地が、前記膜から遠い側のバイポーラプレートと少なくとも電気的に接触し、好ましくは電気的かつ機械的に接触していることを特徴とする、先行する請求項1~15のいずれかに記載の電気化学セル。
【請求項17】
前記バイポーラプレートが、以下の材料:ニッケル;ニッケル含有合金、特にハステロイ、クロニン、モネル、インコネル、インコロイ、インバー、コバール;ニッケル含有鋼、ニッケル含有ステンレス鋼、鋼種AISI 301、AISI 301L、AISI 302、AISI 304、AISI 304L、AISI 310、AISI310L、AISI316、AISI 316L、AISI 317、AISI 317L、AISI 321の鋼;ニッケルめっき鋼、ニッケルめっきステンレス鋼、ニッケルめっきチタン、ニッケルめっき真鍮、炭素からなる群から選択される材料からなることを特徴とする、請求項16に記載の電気化学セル。
【請求項18】
水の電気化学的分解によって水素および酸素を製造する方法であって、
・請求項1~17のいずれかに記載の少なくとも1つの電気化学セルを提供する工程;
・水、または7~14のpHを有する水性電解質を提供する工程;
・電圧源を提供する工程;
・少なくとも1つの織物布地を水または水性電解質に浸漬および浸透させる工程;
・アノードおよびカソードを前記電圧源から引き出された電圧と接触させる工程;
・前記第1の織物布地から酸素を引き出す工程;
・前記第2の織物布地から水素を引き出す工程、を含む方法。
【請求項19】
以下の工程を有する、請求項18に記載の方法:
a)前記第1の織物布地に水または電解質を通過させる工程;
b)前記第2の織物布地に水または電解質を通過させる工程;
c)酸素および/または気体酸素で富化された水または電解質を前記第1の織物布地から引き出す工程;
d)水素および/または気体水素で富化された水または電解質を前記第2の織物布地から引き出す工程;
e)場合により、前記水素富化水または前記水素富化電解質から水素を分離する工程;
f)場合により、前記酸素富化水または前記酸素富化電解質から酸素を分離する工程。
【請求項20】
以下の工程を有する、請求項18に記載の方法:
a)前記第1の織物布地に水または電解質を通過させる工程;
b)気体水素を前記第2の織物布地から引き出す工程;
c)酸素および/または気体酸素で富化された水または電解質を前記第1の織物布地から引き出す工程;
d)場合により、前記酸素富化水または前記酸素富化電解質から酸素を分離する工程。
【請求項21】
以下の工程を有する、請求項18に記載の方法:
a)前記第2の織物布地に水または電解質を通過させる工程;
b)気体酸素を前記第1の織物布地から引き出す工程;
c)水素および/または気体水素で富化された水または電解質を前記第2の織物布地から引き出す工程;
d)場合により、前記水素富化水または前記水素富化電解質から水素を分離する工程。
【請求項22】
共通のバイポーラプレートを共有する請求項16に記載の少なくとも2つの電気化学セルを含む、先行する請求項18~21のいずれかに記載の方法を実行するための電気分解装置。
【請求項23】
請求項22に記載の電気分解装置を製造する方法であって、その過程で、以下の構成要素がこの順序で互いの上に直接積み重ねられる、方法:
a)第1の織物布地;
b)触媒層が設けられてもよい、アニオン伝導膜;
c)触媒層が設けられてもよい、第2の織物布地;
d)バイポーラプレート;
e)第1の織物布地;
f)触媒層が設けられてもよい、アニオン伝導膜;
g)触媒層が設けられてもよい、第2の織物布地。
【請求項24】
請求項22に記載の電気分解装置を製造する方法であって、その過程で、以下の構成要素がこの順序で互いの上に直接積み重ねられる、方法:
a)触媒層が設けられてもよい、第2の織物布地;
b)触媒層が設けられてもよい、アニオン伝導膜;
c)第1の織物布地;
d)バイポーラプレート;
e)触媒層が設けられてもよい、第2の織物布地;
f)触媒層が設けられてもよい、アニオン伝導膜;
g)第1の織物布地。
【請求項25】
前記電気分解装置の組み立てに先行して、前記第1および/または第2の織物布地が、特にスポット溶接によって前記バイポーラプレートへ電気的に接続され、機械的に固定される、請求項22に記載の電気分解装置を製造する方法。
【請求項26】
少なくとも300mA/cmまたは500mA/cmの電流密度で行われる、請求項18~21のいずれかに記載の方法。
【国際調査報告】