(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-29
(54)【発明の名称】L-システイン酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12P 13/04 20060101AFI20241122BHJP
C12P 13/12 20060101ALI20241122BHJP
C12N 1/20 20060101ALN20241122BHJP
【FI】
C12P13/04
C12P13/12 B
C12N1/20 A
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024531637
(86)(22)【出願日】2021-11-29
(85)【翻訳文提出日】2024-07-19
(86)【国際出願番号】 EP2021083372
(87)【国際公開番号】W WO2023094011
(87)【国際公開日】2023-06-01
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】390008969
【氏名又は名称】ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】プファラー,ルーペルト
(72)【発明者】
【氏名】シュレッサー,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ウィッヒ,ギュンター
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AE03
4B064AE14
4B064CA21
4B064CB30
4B064CC07
4B064CD13
4B064DA11
4B064DA20
4B065AA26X
4B065BB02
4B065BB12
4B065BC02
4B065CA17
4B065CA43
4B065CA50
(57)【要約】
本発明は、O-アセチル-L-セリン(OAS)を亜硫酸塩の存在下でO-アセチル-L-セリンスルフヒドリラーゼ(OASスルフヒドリラーゼ、EC4.2.99.8)のクラスから選択される少なくとも1つの酵素と反応させる、L-システイン酸の製造方法に関する。L-システイン酸を調製するための経済的な本方法は、環境に優しく持続可能であり、技術的に実施が容易である。本方法の別の利点は、ますます需要が高まっている天然のL-システイン酸をこのように調製できることである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
L-システイン酸の製造方法であって、
O-アセチル-L-セリン(OAS)が、亜硫酸塩の存在下でO-アセチル-L-セリンスルフヒドリラーゼ(OASスルフヒドリラーゼ、EC4.2.99.8)のクラスから選択される少なくとも1つの酵素を使用して変換される、方法。
【請求項2】
OASスルフヒドリラーゼが細菌酵素である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
OASスルフヒドリラーゼが大腸菌(E.coli)株由来のCysMである、請求項1及び2の一方又は両方に記載の方法。
【請求項4】
OASスルフヒドリラーゼが発酵生産に由来する、請求項1~3のうちの一項以上に記載の方法。
【請求項5】
OASスルフヒドリラーゼが、GMOではない微生物の助けを借りて発酵的に生成される、請求項1~4のうちの一項以上に記載の方法。
【請求項6】
OASスルフヒドリラーゼが、大腸菌(E.coli)株DH5α/pFL145の助けを借りて発酵的に生成される、請求項1~5のうちの一項以上に記載の方法。
【請求項7】
OASが発酵生産に由来する、請求項1~6のうちの一項以上に記載の方法。
【請求項8】
OASが、GMOではない微生物の助けを借りて発酵的に生成される、請求項1~7のうちの一項以上に記載の方法。
【請求項9】
OASが、大腸菌(E.coli)株W3110/pACYC-cysEX-GAPDH-ORF306の助けを借りて発酵的に生成される、請求項1~8のうちの一項以上に記載の方法。
【請求項10】
方法が天然産生方法である、請求項1~9のうちの一項以上に記載の方法。
【請求項11】
使用される亜硫酸の塩がNa
2SO
3、K
2SO
3、(NH
4)
2SO
3、なもしくはその無水物Na
2S
2O
5)又はKHSO
3である、請求項1~10のうちの一項以上に記載の方法。
【請求項12】
亜硫酸塩の濃度が、OASに対して少なくとも等モル濃度である、請求項1~11のうちの一項以上に記載の方法。
【請求項13】
反応が、少なくとも5.5及び7.5未満のpHで行われる、請求項1~12のうちの一項以上に記載の方法。
【請求項14】
使用されるOASのモル量に基づくL-システイン酸のモル収率が、少なくとも60%である、請求項1~13のうちの一項以上に記載の方法。
【請求項15】
L-システイン酸が反応バッチから濃縮される、請求項1~14のうちの一項以上に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、L-システイン酸の製造方法に関し、O-アセチル-L-セリン(OAS)が、亜硫酸塩の存在下でO-アセチル-L-セリンスルフヒドリラーゼ(OASスルフヒドリラーゼ、EC4.2.99.8)のクラスから選択される少なくとも1つの酵素を使用して変換される、L-システイン酸は、この生体内変換の結果としてもたらされる。
【背景技術】
【0002】
L-システイン酸は、例えば、魚の養殖(Nakamura他、Fisheries Science(2021)87:353-363)又は化粧品分野(US4053630)において、例えばスキンケアのためのRegu(R)-Slim(DSM)の成分として使用することができる。ペプチド化学では、水溶性保護基としてL-システイン酸が使用される。さらに、L-システイン酸は、脱炭酸によってタウリンに変換することができる。
【0003】
L-システイン酸((R)-2-アミノ-3-スルホプロパン酸、3-スルホ-L-アラニン、CAS 498-40-8)は、化学的に、例えば、アルコール溶液中で塩素によるシステインの酸化によって(Tao他、Amino Acids(2004)、27:149-151)、DMSO中のHCl若しくはヨウ素HCl中で臭素によって、又は過ギ酸によるシスチンの酸化的開裂によって、生成することができる。さらに、L-システイン酸は、L-システインスルフィン酸の酸化によっても生成することができる。L-システイン酸の化学的製造のための既知の方法は、持続可能とはみなされず環境に有害な化学物質を使用し、特に食品、化粧品及び医薬品分野における用途において消費者にあまり受け入れられていない。したがって、より環境に優しく、より持続可能な製造方法が必要であり、その1つの選択肢はバイオテクノロジー法である。
【0004】
L-システイン酸は、タンパク質性アミノ酸L-システインの酸化生成物として自然界で、例えばヒツジの羊毛中に検出することができる非タンパク質原性L-アミノ酸である。システイン酸は、メタン生成古細菌による補酵素M(CoM、2-メルカプトエタンスルホン酸、CAS 3375-50-6)生合成の中間体でもある。
【0005】
先行技術は、例えば、システイン代謝が調節解除された微生物の直接発酵によって(EP1191106B1)、又はOASのOASスルフヒドリラーゼ触媒生体内変換によって(EP1247869B1)、非タンパク質原性アミノ酸を製造する方法を提供する。これらの方法は、一般式(1)により、OASスルフヒドリラーゼがOASと求核試薬との反応を触媒して、非タンパク質原性アミノ酸を形成することに基づく。
【0006】
(1)OAS+求核試薬->非タンパク質原性アミノ酸+アセテート
大腸菌(Escherichia coli)等のシステイン代謝において、OASはL-システインの生合成前駆体として働く。後者は、ベータ位の酢酸基をチオール基で置換することによって形成される。ベータ置換と呼ばれるこの反応は、OASスルフヒドリラーゼのクラスの酵素によって触媒される(EC4.2.99.8)。したがって、OASはOASスルフヒドリラーゼ反応の実際の基質(反応物とも呼ばれる)であり、求核剤は可変補助基質である。
【0007】
EP1247869B1では、セレニド、セレノール、アジド、シアニド、アゾール及びイソオキサゾリノンを含む多数の異なる求核剤が、OASとのOASスルフヒドリラーゼ触媒(例えば、CysM触媒)反応の求核剤としての適性について試験された。さらに、一般式H-S-Rのチオスルフェート及びチオールの群からの硫黄化合物が試験され、式中、基Rは一価の置換又は非置換アルキル、アルコキシ、アリール又はヘテロアリール基である。
【0008】
製造されたのは、S-フェニル-L-システイン等の非タンパク質原性アミノ酸であり、これらはタンパク質生合成のための構成要素として自然界では使用されていない。開示された求核剤はいずれも、L-システイン酸の製造を可能にしない。
【0009】
Joo他(2018)、J.Agric.Food Chem.66:13454-13463には、細菌コリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)におけるタウリン製造のための代謝工学的アプローチが記載されている。タウリンの製造に到達するために、L-システインシンターゼ、システインジオキシゲナーゼ及びL-システインスルフィン酸デカルボキシラーゼの遺伝子をこの株において異種発現させた。Joo他(2018)、J.Agric.Food Chem.66:13454-13463の
図2には、タウリンへの様々な代謝経路が記載されており、これらは、O-ホスホ-L-セリンから始まり、L-システイン酸を介してタウリンをもたらす経路(「L-システインスルホン酸経路」)も含み、原則としてL-システイン酸の製造にも適している。しかしながら、図はまた、OASからL-システイン酸、L-システインのみに至る既知の生合成経路がないことを示す。
【0010】
Tevatia他、Algal Research(2015)9:21-26は、微小藻類におけるタウリンの天然産生を記載しており、L-システイン酸も中間体として検出されている。Tevatia他、Algal Research(2015)9:21-26の
図1a)に記載されているように、生合成経路はL-セリンからL-システイン酸(
図1aの「システート」)に至る。記載された生合成経路のいずれも、OASを介してL-システイン酸をもたらさない。微細藻類中に検出されたL-システイン酸の細胞内含量は非常に低く、メチオニン、システイン、システインスルフィン酸、ヒポタウリン及びタウリン等の後処理をより困難にする複数の副生成物を伴っていたため、微細藻類の増殖はL-システイン酸の製造に適していない。
【0011】
代謝工学的アプローチでは、US2019/0062757A1(KnipBio)は、タウリン製造のための異種産生株を記載しており、この株はL-システイン酸の製造にも適していることが意図されている。US2019/0062757A1の
図4~
図9及び
図12には、中間体としてL-システイン酸を含有するタウリンへの様々な生合成経路が記載されており、したがって原則としてL-システイン酸の製造に適している。これらの生合成経路のいずれもOASから開始しない。さらに、ヒポタウリン及びタウリンの収量のみが報告され、それらは非常に低く、最大419ng/mlであった。L-システイン酸の製造のための収率には言及されていない。L-システイン酸については、より高い収率を達成することができないと仮定しなければならない。したがって、この代謝工学的アプローチは、L-システイン酸の生物工学的製造には適していない。
【0012】
したがって、先行技術は、化学的方法のみを開示しており、工業的使用に適したL-システイン酸を製造するための経済的に実行可能なバイオテクノロジー法を開示していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第4053630号明細書
【特許文献2】欧州特許第1191106号明細書
【特許文献3】欧州特許第1247869号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2019/0062757号明細書
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Nakamura et al.,Fisheries Science(2021)87:353-363
【非特許文献2】Tao et al.Amino Acids(2004)27:149-151
【非特許文献3】Joo et al.(2018),J.Agric.Food Chem.66:13454-13463
【非特許文献4】Tevatia et al.,Algal Research(2015)9:21-26
【発明の概要】
【0015】
本発明の目的は、生体内変換によってL-システイン酸を製造するためのバイオテクノロジー法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この目的は、O-アセチル-L-セリン(OAS)が、亜硫酸塩の存在下でO-アセチル-L-セリンスルフヒドリラーゼ(OASスルフヒドリラーゼ、EC4.2.99.8)のクラスから選択される少なくとも1つの酵素を使用して変換される、L-システイン酸の製造方法によって達成される。この方法は、生体内変換によって製造されるL-システイン酸を提供する。
【0017】
本発明による方法の利点は、L-システイン酸を製造するための持続可能で技術的に実現可能な生体内変換方法であることである。環境に有害な化学物質を省くことができる。化石原料は消費されず、有毒な化学廃棄物及び/又は廃棄ガスは生成されない。したがって、本発明の製造方法は、環境に優しく持続可能である。さらに、この方法は、極端な反応条件又は特別な装置のいずれも必要としないため技術的に実施するのが容易である。この方法の別の利点は、ますます需要が高まっている天然のL-システイン酸をこのようにして製造できることである。
【0018】
驚くべきことに、亜硫酸塩(以下、サルファイト又はSO3
2-と呼ぶ)が反応(1)における求核剤として適しており、式(2)によるこれまで知られていない反応においてL-システイン酸の合成を可能にすることが見出された。
【0019】
(2)OAS+SO3
2-->L-システイン酸+アセテート
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の文脈において、製造方法は以下のように区別される。
【0021】
1.化学的方法
2.生物工学的方法:
a)代謝工学による
代謝工学(「経路設計」とも呼ばれる)は、生体内変換とは対照的に、生物の代謝経路が遺伝子及び調節過程の最適化又は改変によって改変されるバイオテクノロジー法である。新規又は改変された酵素は、ゲノムに酵素の遺伝子を補充することによって生物に導入することができ、又は内因性酵素の遺伝子を増強又は弱毒化されたレベルで発現させることができ、それによって生物における新たな代謝経路を確立するか、又は既存の代謝経路を増強若しくは弱毒化する。代謝工学の目標は、生物が新たな代謝産物又は細胞内在性代謝産物のいずれかを高い収率で産生することである。代謝工学方法は、酵素基質、例えば本発明におけるOAS等の代謝産物に特異的な出発物質を使用しない。代わりに、問題の生物の成長に必要であり、炭素源(例えば、グルコース)、窒素源(例えば、アンモニウム塩又はペプトン若しくは酵母抽出物等の複合アミノ酸混合物)及び成長に必要な他の塩から構成される、成長培地とも呼ばれる栄養培地のみを使用する。そのような栄養培地は、微生物学的実践から当業者に知られている。
【0022】
b)生体内変換による
生体内変換は、酵素触媒下における1つ以上の反応物の生成物への変換として規定され、酵素基質は酵素と共に反応バッチに添加される。反応バッチにおいて、添加された酵素基質、例えば本発明のOASは、式(2)に従って酵素的に(本発明では、亜硫酸塩の存在下でOASスルフヒドリラーゼ(EC4.2.99.8)のクラスから選択される酵素によって)変換される。反応物は、化学的又は生物工学的製造に由来し得る。本発明による方法で使用されるOASは、例えば、化学合成又は生産株の発酵によるバイオテクノロジー生産から得ることができる。酵素触媒に使用される酵素は、生産株の増殖、例えば発酵によるバイオテクノロジー生産に由来するか、又は酵素を含む生物学的材料が使用される(例えば、植物、真菌、藻類、動物の器官)。生産株の増殖からのバイオマス、若しくは生物学的材料を直接使用することができるか、又は生体内変換の要件に応じて酵素をそこから単離する。本発明による方法で使用されるCysM酵素は、生産株の発酵によるバイオテクノロジー生産に由来する。
【0023】
天然産生方法は、遺伝子組換え生物(GMO)又はGMOを使用した生産からの製品(反応物、酵素)を使用しない、バイオテクノロジー生産方法して規定される。本発明において、L-システイン酸の製造方法は、有機反応物としてのOAS及びOASスルフヒドリラーゼがGMOを用いて製造されておらず、化学的に製造されていない場合の天然産生方法である。式(2)における補助基質としてのサルファイトは無機化合物であり、基本的には式(4)~(8)に従ってSO2を水に溶解した生成物であり、これは(不可逆的な)化学合成には対応しないが、ガスSO2の可逆的水和及び水和物H2SO3のpH依存性解離に対応する。
【0024】
Gentechnikgesetz(GenTG、ドイツ遺伝子工学法)の§3の第3文4の意味における自己クローニングは、Zentrale Kommission fur biologische Sicherheit(ZKBS、ドイツ生物学的安全性中央委員会)によって発行された声明(参考文献:1991年の6790-10-02)によれば、そのウイルス及びプラスミドを含む遺伝的に同一又は異なる形態のただ1つの種のみが、ドナー生物及びレシピエント生物として使用される方法である。
【0025】
本発明の文脈において、反応バッチは、反応物(出発物質)、酵素及び任意選択的に他の反応物の混合物として規定され、反応物は生成物に変換される。
【0026】
本発明の意味における反応の収率は、反応条件下で生成物に変換される使用される反応物の量として規定される。収率は、絶対量として(g又はmmol)、単位体積当たりの生成物の絶対量としての体積収率(濃度)として(mM又はg/L)、又は収率パーセントとも呼ばれる、使用される反応物のパーセンテージ(反応物及び生成物の分子量を考慮に入れる)としての生成物の相対収率として表すことができる。
【0027】
発酵は、工業規模での細胞培養物の産生(培養)のための方法工程であり、好ましくは微生物産生株を培養培地、温度、pH、酸素供給及び培地の混合の規定条件下で増殖させる。生産株の構成(遺伝的構成)に応じて、発酵の目的は、タンパク質/酵素又は代謝産物を、いずれの場合もさらなる使用のために可能な限り高い収率で生産することである。本発明によるプロセスの成分、OAS及びOASスルフヒドリラーゼは、発酵によって生成することができる。発酵の最終生成物は、生産株の細胞のバイオマス(発酵槽細胞)と、バイオマスから除去され、発酵中に増殖培地及び発酵槽細胞によって分泌された代謝産物から形成された発酵培地(発酵上清)とからなる発酵槽ブロスである。発酵の目標生成物は、発酵槽細胞又は発酵培地中に存在することができる。例えば、OASは発酵培地に見出され、酵素OASスルフヒドリラーゼは発酵槽細胞に見出される。
【0028】
オープンリーディングフレーム(ORF、cds又はコード配列と同義)は、開始コドンで始まり、終止コドンで終わり、タンパク質のアミノ酸配列をコードするDNA又はRNAの領域を指す。ORFは、コード領域又は構造遺伝子とも呼ばれる。
【0029】
遺伝子は、生物学的に活性なRNAを産生するための全ての基本情報を含むDNAの部分を指す。遺伝子は、転写によって一本鎖RNAコピーが生成されるDNAの部分と、このコピー過程の調節に関与する発現シグナルとを含む。発現シグナルは、例えば、少なくとも1つのプロモータ、転写開始、翻訳開始及びリボソーム結合部位(RBS)を含む。ターミネータ及び1つ以上のオペレータは、追加の可能な発現シグナルである。
【0030】
遺伝子構築物は、遺伝子が他の遺伝要素(例えば、プロモータ、ターミネータ、選択マーカ、複製起点)に連結されているDNA分子を指す。本発明の文脈における遺伝子構築物は、環状DNA分子であり、プラスミド、ベクター又は発現ベクターと呼ばれる。遺伝子構築物の遺伝要素は、細胞成長中にその染色体外遺伝を引き起こし、遺伝子によってコードされるタンパク質の産生を引き起こす。
【0031】
本発明による亜硫酸塩によるOASの生体内変換からのL-システイン酸は、さらなる後処理工程なしでさらに直接使用するか、又は既知の方法によって濃縮若しくは精製することができる。ここでの濃縮度は、さらなる使用に依存する。そのような方法は、アミノ酸を単離するための方法から当業者に公知である。例としては、濾過、遠心分離、抽出、吸着、イオン交換クロマトグラフィー、沈殿、結晶化が挙げられる。
【0032】
好ましい実施形態において、本方法は、L-システイン酸が反応バッチから濃縮される。例えば遠心分離による粒子状バイオマスの除去が特に好ましい。
【0033】
さらに好ましい実施形態では、本方法は、本発明による方法で製造されたL-システイン酸がさらに直接使用されること、すなわち、L-システイン酸を含有する反応バッチが、濾過、遠心分離、抽出、吸着、イオン交換クロマトグラフィー、沈殿及び結晶化を含むさらなる後処理、精製又は単離工程なしにさらに使用される。
【0034】
OASスルフヒドリラーゼは、これまでに多種多様な植物及び微生物から単離されている。大腸菌(E.coli)には、例えば、CysK及びCysMと呼ばれる2つのOASスルフヒドリラーゼ酵素が存在する。関連する遺伝子も同様に公知であり、それぞれcysK及びcysMと呼ばれる。
【0035】
本発明の意味の範囲内のOASスルフヒドリラーゼは、式(3)によるOASからのタンパク質原性アミノ酸L-システインの合成を触媒することができ、この場合に使用される求核剤がスルフィドである。したがって、CysM関連酵素及びCysK関連酵素の両方が、本発明の意味の範囲内でOASスルフヒドリラーゼである。
【0036】
(3)OAS+S2-->L-システイン+アセテート
両方の酵素は非常に類似した反応機構を有し、L-システインの生合成に関与するが、CysMは、CysKとは異なり、式(1)に従ってOASと反応することができる求核剤に関して可変基質スペクトルを有する。
【0037】
例えば、CysMは、CysKとは異なり、OASとチオスルフェートとの反応を触媒してS-スルホシステインを形成することができることが知られている(CAS番号1637-71-4)。この反応は、唯一の硫黄源としてチオスルフェートを用いた細菌増殖において重要な役割を果たす。
【0038】
さらに、EP1247869B1(Wacker)は、非タンパク質原性アミノ酸の製造のためのCysMの使用を開示している。
【0039】
好ましくは、この方法は、OASスルフヒドリラーゼが細菌酵素、特に好ましくはCysM、特に好ましくは大腸菌(E.coli)株由来のCysMである。
【0040】
亜硫酸は、可逆的平衡状態で同時に存在する多数の化学種を形成し、本発明による生体内変換における求核剤としてのそのそれぞれの適合性は予測できなかった。したがって、亜硫酸(H2SO3)はガス状SO2の水溶液であり、二塩基酸として、水溶液のpHに応じて異なる平衡状態で存在し、この平衡状態の種は求核剤としての適合性も変化することが知られている。以下の平衡論(4)~(8)が知られている。
【0041】
(4)SO2(ガス状)<->SO2(溶解)
(5)SO2(溶解)+H2O<->H2SO3
(6)H2SO3<->HSO3
-+H+
(7)HSO3
-<->SO3
2-+H+
(8)2HSO3
-<->S2O5
2-+H2O
亜硫酸及びその塩は、抗菌効果を示すため、食品産業において防腐剤として使用されている。これは、亜硫酸及びその塩が微生物を死滅させることができることを意味し、これは微生物の生存に必要な酵素の不活性化に起因する。したがって、当業者は、亜硫酸又はその塩を使用する場合にもCysM酵素が不活性化され、L-システイン酸はEP1247869B1に開示されている方法によって調製できないと予想するであろう。
【0042】
前述の理由から、サルファイト及びOASを生体内変換に使用すると、L-システイン酸を製造できることは当業者にとって驚くべきことであった。
【0043】
原則として、考えられる全ての亜硫酸塩が反応に適している。好ましくは、この方法は、使用される亜硫酸の塩がNa2SO3、K2SO3、(NH4)2SO3、NaHSO3(もしくはその無水物Na2S2O5)又はKHSO3である。特に好ましくは、使用される亜硫酸の塩は、Na2SO3、NaHSO3(もしくはその無水物Na2S2O5)及び(NH4)2SO3であり、特に好ましくはNa2SO3及びNaHSO3(もしくはその無水物Na2S2O5)である。
【0044】
ガス状二酸化硫黄、亜硫酸の無水物を使用することが考えられ、これは反応バッチに導入することができ、亜硫酸H2SO3に水和され、pHに応じて、脱プロトン化形態HSO3
-及びSO3
2-と平衡状態にある。
【0045】
この方法は、OASの可用性を必要とする。例えば、L-セリンの高い価格のために高価であるL-セリンのアセチル化によってOASを生成するための化学的方法、又は直接使用することができるラセミ体O-アセチル-D/L-セリンの生成、又はOASが例えば分割によってラセミ体から事前に得られることが考えられる。直接アセチル化の場合、N-アセチル-L-セリン(NAS)は、例えば、L-セリンのヒドロキシル基若しくはアミノ基に対する非選択的アセチル化、又は中性からアルカリ性のpH値でのOASのNASへの公知の転位によって(Tai他(1995),Biochemistry 34:12311-12322)副生成物として形成され得、これにより、収率が低下するか、又はL-セリンのアミノ基に保護基を事前に導入する必要がある。したがって、L-セリンの直接アセチル化は、経済的に実行可能な方法には実用的ではない。
【0046】
例えばEP1233067B1に開示されているように、OASの生物工学的製造も知られている。これは、調節解除されたシステイン代謝を示し、したがって高レベルのOASを提供する、生物の使用を含む。結果として、OASを製造するための費用対効果の高い製造システムが利用可能である。
【0047】
好ましい実施形態では、本方法は、OASが発酵生産から濃縮される。発酵生産は、GMOを用いて、又はGMOではない生物を用いて行うことができる。
【0048】
特に好ましい実施形態では、本方法は、OASが、GMOではない微生物の助けを借りて発酵的に生成されることを特徴とし、その場合、OASが大腸菌(E.coli)株W3110/pACYC-cysEX-GAPDH-ORF306の助けを借りて発酵的に製造されることが特に好ましい。最後に述べた具体的に好ましい実施形態は、実施例1に開示されている。
【0049】
本発明のL-システイン酸の製造方法は、天然産生方法であることが好ましい。これは、本方法で使用されるGMOがないだけでなく、反応物OAS及び酵素OASスルフヒドリラーゼの両方が天然産生に由来する、すなわち、GMOを使用して製造されず、化学的に製造されないことを意味する。
【0050】
この特に好ましい実施形態は、OAS及びOASスルフヒドリラーゼCysMの両方が天然に産生される、L-システイン酸の天然産生方法を記載する本発明による実施例に開示される。OAS産生株大腸菌(E.coli)株W3110/pACYC-cysEX-GAPDH-ORF306(実施例1)及びCysM産生株大腸菌(E.coli)DH5α/pFL145(実施例2)はいずれも自己クローニングに由来し、GMOとして分類されない。本発明は、供給部門及び化粧品における可能な用途のために大きな関心が寄せられているL-システイン酸の天然産生方法を開示しているので、OAS及びOASスルフヒドリラーゼの両方をGMOを使用せずに製造することができるという事実は、本発明に特に利点をもたらす。
【0051】
当業者は、同位体分析を使用して、OAS等の本方法で反応物質として使用することを望む物質が化学的生産又は発酵生産に由来するかどうかを判断することができる。区別することができる同位体分析方法は、例えば、Sieper他、Rapid Commun.Mass Spectrom(2006)20:2521-2527に記載されており、生成物が化学的(石油ベース)生産に由来するか又は発酵生産に由来するか(植物ベースの原料に由来するか)に応じて変化する、例えば炭素又は窒素の同位体比の決定に基づく。
【0052】
本発明の利点は、例えばEP1233067B1に従って実施される発酵から得られるようなOAS含有発酵槽ブロスが、例えば、抽出、吸着、イオン交換クロマトグラフィー、沈殿及び結晶化を含むさらなる後処理、精製又は単離工程を伴わない遠心分離によって、粒状バイオマスの除去後にOASの供給源として本発明による方法で直接使用できることである。この手順は特に経済的であり、不安定な化合物の単離を回避する。
【0053】
OASを製造するための発酵方法、大腸菌(E.coli)株W3110/pACYC-cysEX-GAPDH-ORF306を使用して、EP1233067B1及び本発明の実施例1に開示されている。この株は、ブダペスト条約に従ってDSMZ(BraunschweigのGerman Collection of Microorganisms and Cell Cultures GmbH)にDSM 13495の番号で寄託されている。
【0054】
本方法は、好ましくは、OASスルフヒドリラーゼ(好ましくはCysMを含む)が、発酵生産に由来し、特に好ましくは、GMOではない微生物の助けを借りて発酵的に生産され、特に好ましくは、大腸菌(E.coli)DH5α/pFL145株の助けを含む大腸菌(E.coli)株の助けを借りて生成される。
【0055】
実施例2は、大腸菌(E.coli)DH5α/pFL145株を用いたCysMの発酵バイオテクノロジー生産の手順を開示している。生産株は、宿主株、この場合は大腸菌(E.coli)DH5α、及びOASスルフヒドリラーゼの発現に適した遺伝子構築物、好ましくは遺伝子構築物pFL145からなる。宿主株及び遺伝子構築物、並びに生産株の作製は、EP1247869B1(Wacker)に記載されている。この生産株は、ブダペスト条約に従ってDSMZ-German Collection of Microorganisms and Cell Cultures GmbH(Braunschweig)にDSM 14088の番号で寄託されている。
【0056】
本発明による方法では、発酵によって得られたOASスルフヒドリラーゼは、さらなる後処理を行わない発酵槽ブロスとして、又は例えば遠心分離によって発酵槽ブロスから細胞を再単離した後の細胞懸濁液として使用することができる。さらに、OASスルフヒドリラーゼは、細胞懸濁液の機械的破壊後の細胞ホモジネートの形態で、又は化学的透過性細胞(例えば、クロロホルムによる)の形態で、又は細胞ホモジネートから粒子成分を除去した後の細胞抽出物として、又は例えばクロマトグラフィーによって精製された酵素として使用することができる。
【0057】
さらなる後処理なしの発酵槽ブロスとしての、発酵槽ブロスからの細胞の再単離後の細胞懸濁液としての、又は細胞懸濁液の機械的破壊後の細胞ホモジネートとしての、又は化学的透過性細胞(例えば、クロロホルムによる)の形態でのOASスルフヒドリラーゼの使用が好ましい。
【0058】
発酵槽ブロスからの細胞の再単離後の細胞懸濁液又は細胞ホモジネートとしてのOASスルフヒドリラーゼの使用が特に好ましい。
【0059】
特に好ましい実施形態では、発酵槽ブロスから単離され、再懸濁された生産株の細胞がOASスルフヒドリラーゼとして使用される。
【0060】
特に好ましい実施形態では、L-システイン酸の製造方法は、OASスルフヒドリラーゼ及びOASの両方が発酵によって生成される。
【0061】
本発明による生体内変換方法の反応物質としてのOASは、約pH7のpHからN-アセチル-L-セリンに異性化し、その後サルファイトとの反応にもはや適しておらず、L-システイン酸を形成する。反応の機序は、Tai他(1995)、Biochemistry 34:12311-12322で研究され、アシル基のカルボニル炭素上の脱プロトン化アミノ基による分子内求核攻撃を伴う。この反応は、pHが低下すると抑制されるため、化合物は例えばpH4.0で安定である。
【0062】
したがって、本発明による生体内変換方法は、L-システイン酸を形成するためのOASの反応が、OASのN-アセチル-L-セリンへの異性化を最小限に抑えるpH条件下で行われるという事実によって区別される。
【0063】
好ましくは、本方法は、反応が、少なくとも5.5であり、≦7.5、特に好ましくは≦7.0、特に好ましくは≦6.5であるpH値で行われる。
【0064】
生体内変換方法のさらに好ましい実施形態では、基質OASは、いわゆる供給工程においてOASスルフヒドリラーゼ及びサルファイトからなる反応バッチに計量供給される(実施例5)。計量供給されるOASは、N-アセチル-L-セリンへの異性化を抑制するpH、好ましくはpH≦6.5、特に好ましくはpH≦6.0、特に好ましくはpH≦5.5に設定される。同時に、反応バッチ中のpHは、反応を促進してL-システイン酸を形成するように調整される。
【0065】
式(2)によれば、L-システイン酸を形成するためのOASの反応は、化学量論量の酢酸を放出し、反応が進行するにつれてバッチ中のpHの低下をもたらし得る。pHが低すぎるとOASスルフヒドリラーゼの活性に影響を及ぼすため、pHの過度の低下を防ぐ必要がある。これは、バッチ中の適切な高濃度緩衝液によって受動的に行うことができ、又は測定及び制御ユニットによって能動的に達成することができる。
【0066】
実施例5に開示されているように、pHが目標値から逸脱した場合に、アルカリ溶液又は酸の計量添加によって所望のpHを回復させる、測定及び制御ユニットによる活性pH制御が好ましい(いわゆるpHスタット法)。
【0067】
反応温度は、好ましくは5~70℃の間で選択される。10~60℃の反応温度が好ましく、15~50℃が特に好ましく、20~40℃が特に好ましい。
【0068】
L-システイン酸の製造方法は、好ましくは水性環境で行われ、すなわち、反応に使用される溶媒は好ましくは水である。
【0069】
L-システイン酸を製造するための本発明による方法は、不連続操作又は連続操作で行うことができる。不連続操作(バッチ操作)では、反応の過程で全ての反応物をバッチに添加し、反応が終了した後にバッチを後処理する。連続操作では、OAS、OASスルフヒドリラーゼ及び亜硫酸塩を反応中に絶えず計量投入し、生成物L-システイン酸を含有する溶液をバッチから同時に除去する。確立されるのは、反応物が反応容器内の滞留時間中に完全に反応して生成物L-システイン酸を形成することができるように反応物が計量供給される定常状態である。非天然アミノ酸の連続生産のための方法は、例えば、EP1247869B1(Wacker)に開示されている。
【0070】
L-システイン酸を製造するための本発明による方法の不連続操作が好ましい。
【0071】
好ましくは、本方法は、亜硫酸塩の濃度が、OASに対して少なくとも等モル濃度、特に好ましくは少なくとも1.5倍モル過剰、特に好ましくは少なくとも2倍モル過剰、さらに好ましくは少なくとも5倍モル過剰である。
【0072】
バッチ中のOAS濃度は、好ましくは少なくとも1g/L、特に好ましくは少なくとも10g/L、特に好ましくは少なくとも40g/Lである。
【0073】
OASの生体内変換において、使用されるOASのモル量に基づくL-システイン酸のモル収率は、好ましくは少なくとも60%、特に好ましくは少なくとも70%、特に好ましくは少なくとも80%である。
【0074】
本発明は、以下の実施例によってさらに説明されるが、実施例によって制限されることはない。
【実施例】
【0075】
[実施例1]
OASの生成
EP1233067B1(Wacker)に開示され、ブダペスト条約に従ってDSMZ-German Collection of Microorganisms and Cell Cultures GmbH(Braunschweig)にDSM 13495の番号で寄託された大腸菌(E.coli)株W3110/pACYC-cysEX-GAPDH-ORF306を使用した。OASは、EP1233067B1に記載されているように発酵によって生成した。発酵終了時に、21%(v/v)リン酸を使用してpHを4.5に設定することによってOASを安定化した。4000rpmで10分間の遠心分離(Heraeus Megafuge 1.0 R)によって細胞を除去した。発酵上清中のOASのHPLC測定含量は15.3g/Lであった。
【0076】
OAS及びL-システイン酸のHPLC分析:
実施例で分析した化合物の定量には、OAS及びL-システイン酸についてそれぞれ較正したHPLC法を用いた。較正に使用した全ての参照物質は市販されていた(Sigma-Aldrich)。アミノ酸の分析から知られているように、o-フタルジアルデヒドを用いたプレカラム誘導体化(OPA誘導体化)のために、同じ製造業者からのユニットを備えたAgilent 1260 Infinity II HPLCシステムを使用した。OPA誘導体化生成物OAS及びL-システイン酸の検出のために、HPLCシステムは蛍光検出器を備えていた。検出器は励起波長330nm、発光波長450nmに設定した。カラムオーブン内で40℃で熱平衡化した、Thermo Scientific(商標)製のAccucore(商標)aQカラム(長さ100mM、内径4.6mm、粒径2.6μm)も使用した。
【0077】
溶離液A:25mMリン酸Na、pH6.0。溶離液B:メタノール。分離は、グラジエントモード、10%溶離液Bから60%溶離液Bまで0~25分間かけて、続いて60%溶離液Bから100%溶離液Bまで2分間かけて、続いて100%溶離液Bまで0.5ml/分の流速でさらに2分間行った。L-システイン酸の保持時間:3.2分。OASの保持時間:17.0分。
【0078】
[実施例2]
酵素CysMの製造
EP1247869B1(Wacker)に開示され、ブダペスト条約に従ってDSMZ-German Collection of Microorganisms and Cell Cultures GmbH(Braunschweig)にDSM 14088の番号で寄託された大腸菌(E.coli)DH5α/pFL145株を使用した。CysM酵素は、振盪フラスコ内での増殖と発酵の両方によって生成された。
【0079】
A)振盪フラスコ内での増殖:大腸菌(E.coli)DH5α/pFL145株の前培養物をLBamp培地(10g/lのトリプトン(GIBCO(商標))、5g/lの酵母抽出物(BD Biosciences)、5g/lのNaCl、100mg/Lのアンピシリン(Sigma-Aldrich))中で調製した(37℃及び120rpmで一晩増殖)。25mlの前培養物を、250mlのLBamp培地(バッフル付きの1L三角フラスコ)の主培養物の接種材料として使用した。主培養物を30℃及び110rpmで振盪した。4時間後、1.0/mlの細胞密度OD600に達した(OD600:600nmでの吸光度の測定による細胞懸濁液1ml当たりの細胞密度の測光的測定;Thermo Scientific(商標)製のGenesys(商標)10S UV-Vis分光光度計)。次いで、誘導剤テトラサイクリン(Sigma-Aldrich、最終濃度3mg/L)を添加し、増殖を30℃及び110rpmでさらに20時間継続した。増殖終了時、細胞密度OD600は3/mlであった。
【0080】
B)大腸菌(E.coli)DH5α/pFL145株を用いたCysMの発酵生産は、EP1247869B1に開示されている。発酵からの細胞を4000rpmで10分間の遠心分離(Heraeus Megafuge 1.0 R)によって除去し、細胞密度OD600が90/mlになるようにKPi6.5緩衝液(0.1M Kホスフェート、pH6.5)に懸濁した。
【0081】
振盪フラスコ増殖又は発酵からの細胞を、さらなる使用のために遠心分離(15000rpmで10分、SS34ローターを備えたSorvall RC5C遠心分離機)によって単離した。細胞ホモジネートの製造のためのさらなる使用のために、後述するように、細胞ペレットを細胞懸濁液としてKPi6.5緩衝液に再懸濁した。細胞懸濁液は、細胞密度OD600が30/mlになるのに十分な量のKPi6.5緩衝液を使用することによって調製した。例えば、3/mlのOD600を有する振盪フラスコ増殖からの細胞50mlを遠心分離し、5mlのKPi6.5緩衝液(10倍濃度)に再懸濁するか、又は90/mlのOD600を有する発酵からの細胞1mlを3mlのKPi6.5緩衝液(3倍希釈)に再懸濁した。
【0082】
これにより、発酵槽ブロスから単離され、再懸濁された大腸菌(E.coli)DH5α/pFL145株の細胞が生成され、これを本発明による方法においてOASスルフヒドリラーゼCysMとして以下で使用した。
【0083】
細胞ホモジネートを調製するために、MP Biomedicals製のFastPrep-24(商標)5G細胞ホモジナイザを使用した。30/mlの細胞密度OD600を有するKPi6.5緩衝液中の1mlの細胞懸濁液を、ガラスビーズ(「溶解マトリックスB」)を含有する製造業者によって組み立てられた1.5mlチューブ内で破壊した(間隔の間に毎回30秒の休止を設けて6000rpmの振盪周波数で3×20秒)。得られた細胞ホモジネートを、本発明による方法においてOASスルフヒドリラーゼ(CysM酵素)として直接使用するか、又は細胞抽出物の調製に使用した。
【0084】
細胞抽出物を調製するために、得られた細胞ホモジネートを遠心分離し(15000rpmで10分間、SS34ローターを備えたSorvall RC5C遠心分離機)、上清を細胞抽出物と称し、本発明による方法においてOASスルフヒドリラーゼ(CysM酵素)として使用するか、又はCysM酵素活性の測定にさらに使用した。
【0085】
細胞抽出物のタンパク質含有量は、「Qubit(R)Protein Assay Kit」を製造業者の説明書に従って使用し、Thermo Fisher ScientificのQubit 3.0 Fluorometerによって決定した。振盪フラスコ増殖からの細胞抽出物のタンパク質含有量は5.3mg/mlであった。発酵からの細胞抽出物のタンパク質含有量は4.0mg/mlであった。
【0086】
CysM酵素活性は、EP1247869B1(Wacker)に記載されているように決定した。この目的のために、OAS(Sigma-Aldrich)を、Na2S及び大腸菌(E.coli)DH5α/pFL145株増殖からの細胞抽出物の存在下、37℃でインキュベートした。KPi6.5緩衝液中のアッセイ(最終体積0.4ml)は、10mMのOAS(500mMコハク酸ナトリウム緩衝液pH5.5中の200mM原液からの添加)、10mM硫化ナトリウムNa2S及び5μlのCysM含有細胞抽出物を含有していた。CysM反応で生成されたシステインを、ニンヒドリン(Sigma-Aldrich)を用いて、Gaitonde(1967)、Biochem.J.104:627-633による方法に従って測定した。振盪フラスコ内での大腸菌(E.coli)DH5α/pFL145株の増殖からの細胞抽出物中のCysM酵素活性は57.1U/mlであった。振盪フラスコ増殖からの細胞(3/mlのOD600)は細胞抽出物の調製のために10倍濃縮されていたので、振盪フラスコ増殖からの細胞における酵素活性は5.7U/mlであった。大腸菌(E.coli)DH5α/pFL145株の発酵後の細胞抽出物中のCysM酵素活性は58.1U/mlであった。発酵からの細胞(90/mlのOD600)は、細胞抽出物の調製のために30/mlのOD600に希釈されていたので、発酵槽細胞の濃縮(90/mlのOD600)細胞懸濁液中の酵素活性は174.4U/mlであった。
【0087】
振盪フラスコ内の大腸菌(E.coli)DH5α/pFL145株増殖からの細胞抽出物の比CysM酵素活性は、タンパク質1mg当たり10.8Uであった。大腸菌(E.coli)DH5α/pFL145株の発酵後の細胞抽出物の比CysM酵素活性は14.5U/mgであった。細胞抽出物の調製中にCysM活性が細胞から完全に放出されたと仮定すると、細胞抽出物で測定されたCysM酵素活性は、以下の実施例でCysM細胞懸濁液に存在する酵素活性と同等であった。
【0088】
1U/mlのCysM酵素活性は、1mlの細胞抽出物中のアッセイ条件下でのOAS及びNa2Sからの1μmol/分のシステイン生成(体積活性)と規定される。タンパク質1mg当たりのUでの比CysM酵素活性は、細胞抽出物の体積活性(U/ml)を細胞抽出物のタンパク質濃度(mg/ml)で割ることによって得られ、細胞抽出物中のタンパク質1mgに基づくUでのCysM酵素活性と規定される。
【0089】
[実施例3]
振盪フラスコ培養で生成したCysMを用いた市販のOAS及びNa2SO3からのL-システイン酸の製造
2つのバッチを並行して行った:
バッチ1:100mlの三角フラスコに、最初にNaPi6.5緩衝液(50mMリン酸Na、pH6.5)8.25mlを装入し、NaPi6.5緩衝液中のNa2SO3の0.2M溶液1ml、57.1U/mlの活性を有する(バッチ中の最終濃度2.3U/ml)(実施例2Aからの)振盪フラスコ増殖からのCysM細胞抽出物0.4ml、及び0.5Mコハク酸Na、pH5.5中のOAS×HCl(Sigma-Aldrich)の0.2M溶液350μlを連続して添加した。バッチ体積は10mlであった。
【0090】
バッチ2:バッチ(Na2SO3を含まない比較バッチ)はバッチ1と同じ組成を有していた。Na2SO3溶液の代わりに、バッチ2には1mlのNaPi6.5緩衝液を加えた。
【0091】
両方のバッチをチェストシェーカー(Infors)中37℃及び140rpmでインキュベートした。1時間及び3時間後、各場合のバッチ1mlを80℃で5分間インキュベートして反応を停止させ、遠心分離し、上清をHPLCによって分析した。HPLCにより検出されたL-システイン酸の量を表1に示す。
【0092】
表1:市販のOAS及びNa2SO3並びにCysM含有細胞抽出物を使用した、反応時間によるHPLC検出量のL-システイン酸。
【0093】
【0094】
[実施例4]
振盪フラスコ培養で生成したCysMを用いた、発酵からのOAS含有培養上清及びNa2SO3からのL-システイン酸の製造
100mlの三角フラスコに、(実施例1からの)OAS含有量15.3g/Lを有する大腸菌(E.coli)株W3110/pACYC-cysEX-GAPDH-ORF306の発酵からの細胞培養上清1mlを最初に装入し、NaPi6.5緩衝液6ml、Na2SO3のNaPi6.5緩衝液中1M溶液1ml、及び振盪フラスコ増殖からのCysM細胞懸濁液2ml(実施例2Aより、30/mlの細胞密度OD600;57.1U/mlのCysM酵素活性)を連続して添加した。バッチ体積は10mlであった。バッチ中のCysM酵素活性は11.4U/mlであった。バッチをチェストシェーカー(Infors)中37℃及び140rpmでインキュベートした。2時間後、1mlのバッチを80℃で5分間インキュベートし、遠心分離し、上清をOAS及びL-システイン酸の含有量についてHPLCで分析した。経時的な反応の経過を表2に要約する。
【0095】
表2:OAS含有細胞培養上清、Na2SO3及びCysM含有細胞懸濁液を使用したHPLC検出量のL-システイン酸及びOAS。
【0096】
【0097】
[実施例5]
一定pHでのOASの生体内変換によるL-システイン酸の調製製造
0.5Lのサーモスタット式二重壁ガラス容器(Diehm)を、ホース接続を介してサーモスタット(Lauda)に接続し、37℃の温度に調整した。
【0098】
(実施例2Bからの)DH5α/pFL145株の発酵からのKPi6.5緩衝液中のCysM含有細胞懸濁液50ml(90/mlのOD600、CysM酵素活性8720U)、及びKPi6.5緩衝液中のNa2S2O5の400g/L溶液6.6ml(13.9mmol、分子量190.1g/mol)を最初に装入した。溶解形態では、これは27.8mmolのNaHSO3に相当した(後に計量される15.6mmolのOAS量に対して1.78倍モル過剰)。バッチをマグネチックスターラーで撹拌した。バッチにはpH電極(Mettler Toledo)も装備し、これをpH制御ユニット(TitroLine alpha滴定装置、Schott)に接続し、これを製造業者の指示に従ってpH-statモードで操作した。pH-stat条件下で、制御ユニットに接続したビュレットから2M NaOHを計量添加することによって、反応容器内のpHを反応の全期間にわたって設定pH6.5で一定に保った。大腸菌(E.coli)株W3110/pACYC-cysEX-GAPDH-ORF306(実施例1)の発酵からのOAS含有細胞培養上清(OAS含有量:15.3g/L、2.3g;15.64mmol)150mlを、リザーバーからポンプ(Watson Marlow 101U/R蠕動ポンプ)を介して流速0.35ml/分でバッチに計量供給した。
【0099】
反応時間は19時間であった。バッチは開放反応容器内で実施されたため、バッチ体積は、蒸発による反応完了後に185mlであった。反応開始後0.5時間、3時間及び19時間で、バッチの1mlアリコートをそれぞれ除去し、L-システイン酸の含有量をHPLCによって分析した。経時的なL-システイン酸の形成を表3に要約する。19時間の反応時間後、バッチ中のL-システイン酸含有量は12970mg/L(76.65mM)であり、これは185mlのバッチ体積に対する14.18mmolのL-システイン酸の絶対モル収率に相当した。15.64mmolのOASの使用量に基づいて、これは収率90.1%に相当した。
【0100】
表3:OAS含有発酵上清、NaHSO3及びCysM含有発酵槽細胞の細胞懸濁液を使用した、反応時間によるHPLC検出量のL-システイン酸
【0101】
【手続補正書】
【提出日】2023-07-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、L-システイン酸の製造方法に関し、O-アセチル-L-セリン(OAS)が、亜硫酸塩の存在下でO-アセチル-L-セリンスルフヒドリラーゼ(OASスルフヒドリラーゼ、EC4.2.99.8)のクラスから選択される少なくとも1つの酵素を使用して変換される、L-システイン酸は、この生体内変換の結果としてもたらされる。
【背景技術】
【0002】
L-システイン酸は、例えば、魚の養殖(Nakamura他、Fisheries Science(2021)87:353-363)又は化粧品分野(US4053630)において、例えばスキンケアのためのRegu(R)-Slim(DSM)の成分として使用することができる。ペプチド化学では、水溶性保護基としてL-システイン酸が使用される。さらに、L-システイン酸は、脱炭酸によってタウリンに変換することができる。
【0003】
L-システイン酸((R)-2-アミノ-3-スルホプロパン酸、3-スルホ-L-アラニン、CAS 498-40-8)は、化学的に、例えば、アルコール溶液中で塩素によるシステインの酸化によって(Tao他、Amino Acids(2004)、27:149-151)、DMSO中のHCl若しくはヨウ素HCl中で臭素によって、又は過ギ酸によるシスチンの酸化的開裂によって、生成することができる。さらに、L-システイン酸は、L-システインスルフィン酸の酸化によっても生成することができる。L-システイン酸の化学的製造のための既知の方法は、持続可能とはみなされず環境に有害な化学物質を使用し、特に食品、化粧品及び医薬品分野における用途において消費者にあまり受け入れられていない。したがって、より環境に優しく、より持続可能な製造方法が必要であり、その1つの選択肢はバイオテクノロジー法である。
【0004】
L-システイン酸は、タンパク質性アミノ酸L-システインの酸化生成物として自然界で、例えばヒツジの羊毛中に検出することができる非タンパク質原性L-アミノ酸である。システイン酸は、メタン生成古細菌による補酵素M(CoM、2-メルカプトエタンスルホン酸、CAS 3375-50-6)生合成の中間体でもある。
【0005】
先行技術は、例えば、システイン代謝が調節解除された微生物の直接発酵によって(EP1191106B1)、又はOASのOASスルフヒドリラーゼ触媒生体内変換によって(EP1247869B1)、非タンパク質原性アミノ酸を製造する方法を提供する。これらの方法は、一般式(1)により、OASスルフヒドリラーゼがOASと求核試薬との反応を触媒して、非タンパク質原性アミノ酸を形成することに基づく。
【0006】
(1)OAS+求核試薬->非タンパク質原性アミノ酸+アセテート
大腸菌(Escherichia coli)等のシステイン代謝において、OASはL-システインの生合成前駆体として働く。後者は、ベータ位の酢酸基をチオール基で置換することによって形成される。ベータ置換と呼ばれるこの反応は、OASスルフヒドリラーゼのクラスの酵素によって触媒される(EC4.2.99.8)。したがって、OASはOASスルフヒドリラーゼ反応の実際の基質(反応物とも呼ばれる)であり、求核剤は可変補助基質である。
【0007】
EP1247869B1では、セレニド、セレノール、アジド、シアニド、アゾール及びイソオキサゾリノンを含む多数の異なる求核剤が、OASとのOASスルフヒドリラーゼ触媒(例えば、CysM触媒)反応の求核剤としての適性について試験された。さらに、一般式H-S-Rのチオスルフェート及びチオールの群からの硫黄化合物が試験され、式中、基Rは一価の置換又は非置換アルキル、アルコキシ、アリール又はヘテロアリール基である。
【0008】
製造されたのは、S-フェニル-L-システイン等の非タンパク質原性アミノ酸であり、これらはタンパク質生合成のための構成要素として自然界では使用されていない。開示された求核剤はいずれも、L-システイン酸の製造を可能にしない。
【0009】
Joo他(2018)、J.Agric.Food Chem.66:13454-13463には、細菌コリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)におけるタウリン製造のための代謝工学的アプローチが記載されている。タウリンの製造に到達するために、L-システインシンターゼ、システインジオキシゲナーゼ及びL-システインスルフィン酸デカルボキシラーゼの遺伝子をこの株において異種発現させた。Joo他(2018)、J.Agric.Food Chem.66:13454-13463の
図2には、タウリンへの様々な代謝経路が記載されており、これらは、O-ホスホ-L-セリンから始まり、L-システイン酸を介してタウリンをもたらす経路(「L-システインスルホン酸経路」)も含み、原則としてL-システイン酸の製造にも適している。しかしながら、図はまた、OASからL-システイン酸、L-システインのみに至る既知の生合成経路がないことを示す。
【0010】
Tevatia他、Algal Research(2015)9:21-26は、微小藻類におけるタウリンの天然産生を記載しており、L-システイン酸も中間体として検出されている。Tevatia他、Algal Research(2015)9:21-26の
図1a)に記載されているように、生合成経路はL-セリンからL-システイン酸(
図1aの「システート」)に至る。記載された生合成経路のいずれも、OASを介してL-システイン酸をもたらさない。微細藻類中に検出されたL-システイン酸の細胞内含量は非常に低く、メチオニン、システイン、システインスルフィン酸、ヒポタウリン及びタウリン等の後処理をより困難にする複数の副生成物を伴っていたため、微細藻類の増殖はL-システイン酸の製造に適していない。
【0011】
代謝工学的アプローチでは、US2019/0062757A1(KnipBio)は、タウリン製造のための異種産生株を記載しており、この株はL-システイン酸の製造にも適していることが意図されている。US2019/0062757A1の
図4~
図9及び
図12には、中間体としてL-システイン酸を含有するタウリンへの様々な生合成経路が記載されており、したがって原則としてL-システイン酸の製造に適している。これらの生合成経路のいずれもOASから開始しない。さらに、ヒポタウリン及びタウリンの収量のみが報告され、それらは非常に低く、最大419ng/mlであった。L-システイン酸の製造のための収率には言及されていない。L-システイン酸については、より高い収率を達成することができないと仮定しなければならない。したがって、この代謝工学的アプローチは、L-システイン酸の生物工学的製造には適していない。
【0012】
Ono他(Free Radical Biology and Medicine 106、69-79ページ、2017)は、サルモネラ エンテリカム LT2(Salmonella entericum LT2)由来のOASスルフヒドリラーゼCysM及びCysKが、大腸菌(E.coli)由来の酵素(Maier、Nature Biotechnology 21、422-427ページ、2003、表1を参照)と同様に、基質OAS及び硫化物から70%を超える高収率でシステインを形成できることを開示している。Onoは、さらに、サルモネラ エンテリカム LT2由来のCysM及びCysKが、Na
2
SO
3
の存在下で、その他は同一の反応条件下でOASからシステイン誘導体L-システイン酸(システインスルホン酸塩、システイン酸塩)を低量で、すなわち0.2%未満のモル収率でさらに形成できることを開示している。
【0013】
したがって、先行技術は、化学的方法のみを開示しており、工業的使用に適したL-システイン酸を製造するための経済的に実行可能なバイオテクノロジー法を開示していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第4053630号明細書
【特許文献2】欧州特許第1191106号明細書
【特許文献3】欧州特許第1247869号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2019/0062757号明細書
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Nakamura et al.,Fisheries Science(2021)87:353-363
【非特許文献2】Tao et al.Amino Acids(2004)27:149-151
【非特許文献3】Joo et al.(2018),J.Agric.Food Chem.66:13454-13463
【非特許文献4】Tevatia et al.,Algal Research(2015)9:21-26
【非特許文献5】Ono et al., Free Radical Biology and Medicine (2017) 106, 69-79
【非特許文献6】Maier, Nature Biotechnology (2003) 21, 422-427
【発明の概要】
【0016】
本発明の目的は、生体内変換によってL-システイン酸を製造するためのバイオテクノロジー法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この目的は、O-アセチル-L-セリン(OAS)が、亜硫酸塩の存在下でO-アセチル-L-セリンスルフヒドリラーゼ(OASスルフヒドリラーゼ、EC4.2.99.8)のクラスから選択される少なくとも1つの酵素を使用して変換される、L-システイン酸の製造方法によって達成される。この方法は、生体内変換によって製造されるL-システイン酸を提供する。
【0018】
本発明による方法の利点は、L-システイン酸を製造するための持続可能で技術的に実現可能な生体内変換方法であることである。環境に有害な化学物質を省くことができる。化石原料は消費されず、有毒な化学廃棄物及び/又は廃棄ガスは生成されない。したがって、本発明の製造方法は、環境に優しく持続可能である。さらに、この方法は、極端な反応条件又は特別な装置のいずれも必要としないため技術的に実施するのが容易である。この方法の別の利点は、ますます需要が高まっている天然のL-システイン酸をこのようにして製造できることである。
【0019】
驚くべきことに、亜硫酸塩(以下、サルファイト又はSO3
2-と呼ぶ)が反応(1)における求核剤として適しており、式(2)によるこれまで知られていない反応においてL-システイン酸の合成を可能にすることが見出された。
【0020】
(2)OAS+SO3
2-->L-システイン酸+アセテート
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の文脈において、製造方法は以下のように区別される。
【0022】
1.化学的方法
2.生物工学的方法:
a)代謝工学による
代謝工学(「経路設計」とも呼ばれる)は、生体内変換とは対照的に、生物の代謝経路が遺伝子及び調節過程の最適化又は改変によって改変されるバイオテクノロジー法である。新規又は改変された酵素は、ゲノムに酵素の遺伝子を補充することによって生物に導入することができ、又は内因性酵素の遺伝子を増強又は弱毒化されたレベルで発現させることができ、それによって生物における新たな代謝経路を確立するか、又は既存の代謝経路を増強若しくは弱毒化する。代謝工学の目標は、生物が新たな代謝産物又は細胞内在性代謝産物のいずれかを高い収率で産生することである。代謝工学方法は、酵素基質、例えば本発明におけるOAS等の代謝産物に特異的な出発物質を使用しない。代わりに、問題の生物の成長に必要であり、炭素源(例えば、グルコース)、窒素源(例えば、アンモニウム塩又はペプトン若しくは酵母抽出物等の複合アミノ酸混合物)及び成長に必要な他の塩から構成される、成長培地とも呼ばれる栄養培地のみを使用する。そのような栄養培地は、微生物学的実践から当業者に知られている。
【0023】
b)生体内変換による
生体内変換は、酵素触媒下における1つ以上の反応物の生成物への変換として規定され、酵素基質は酵素と共に反応バッチに添加される。反応バッチにおいて、添加された酵素基質、例えば本発明のOASは、式(2)に従って酵素的に(本発明では、亜硫酸塩の存在下でOASスルフヒドリラーゼ(EC4.2.99.8)のクラスから選択される酵素によって)変換される。反応物は、化学的又は生物工学的製造に由来し得る。本発明による方法で使用されるOASは、例えば、化学合成又は生産株の発酵によるバイオテクノロジー生産から得ることができる。酵素触媒に使用される酵素は、生産株の増殖、例えば発酵によるバイオテクノロジー生産に由来するか、又は酵素を含む生物学的材料が使用される(例えば、植物、真菌、藻類、動物の器官)。生産株の増殖からのバイオマス、若しくは生物学的材料を直接使用することができるか、又は生体内変換の要件に応じて酵素をそこから単離する。本発明による方法で使用されるCysM酵素は、生産株の発酵によるバイオテクノロジー生産に由来する。
【0024】
天然産生方法は、遺伝子組換え生物(GMO)又はGMOを使用した生産からの製品(反応物、酵素)を使用しない、バイオテクノロジー生産方法して規定される。本発明において、L-システイン酸の製造方法は、有機反応物としてのOAS及びOASスルフヒドリラーゼがGMOを用いて製造されておらず、化学的に製造されていない場合の天然産生方法である。式(2)における補助基質としてのサルファイトは無機化合物であり、基本的には式(4)~(8)に従ってSO2を水に溶解した生成物であり、これは(不可逆的な)化学合成には対応しないが、ガスSO2の可逆的水和及び水和物H2SO3のpH依存性解離に対応する。
【0025】
Gentechnikgesetz(GenTG、ドイツ遺伝子工学法)の§3の第3文4の意味における自己クローニングは、Zentrale Kommission fur biologische Sicherheit(ZKBS、ドイツ生物学的安全性中央委員会)によって発行された声明(参考文献:1991年の6790-10-02)によれば、そのウイルス及びプラスミドを含む遺伝的に同一又は異なる形態のただ1つの種のみが、ドナー生物及びレシピエント生物として使用される方法である。
【0026】
本発明の文脈において、反応バッチは、反応物(出発物質)、酵素及び任意選択的に他の反応物の混合物として規定され、反応物は生成物に変換される。
【0027】
本発明の意味における反応の収率は、反応条件下で生成物に変換される使用される反応物の量として規定される。収率は、絶対量として(g又はmmol)、単位体積当たりの生成物の絶対量としての体積収率(濃度)として(mM又はg/L)、又は収率パーセントとも呼ばれる、使用される反応物のパーセンテージ(反応物及び生成物の分子量を考慮に入れる)としての生成物の相対収率として表すことができる。
【0028】
発酵は、工業規模での細胞培養物の産生(培養)のための方法工程であり、好ましくは微生物産生株を培養培地、温度、pH、酸素供給及び培地の混合の規定条件下で増殖させる。生産株の構成(遺伝的構成)に応じて、発酵の目的は、タンパク質/酵素又は代謝産物を、いずれの場合もさらなる使用のために可能な限り高い収率で生産することである。本発明によるプロセスの成分、OAS及びOASスルフヒドリラーゼは、発酵によって生成することができる。発酵の最終生成物は、生産株の細胞のバイオマス(発酵槽細胞)と、バイオマスから除去され、発酵中に増殖培地及び発酵槽細胞によって分泌された代謝産物から形成された発酵培地(発酵上清)とからなる発酵槽ブロスである。発酵の目標生成物は、発酵槽細胞又は発酵培地中に存在することができる。例えば、OASは発酵培地に見出され、酵素OASスルフヒドリラーゼは発酵槽細胞に見出される。
【0029】
オープンリーディングフレーム(ORF、cds又はコード配列と同義)は、開始コドンで始まり、終止コドンで終わり、タンパク質のアミノ酸配列をコードするDNA又はRNAの領域を指す。ORFは、コード領域又は構造遺伝子とも呼ばれる。
【0030】
遺伝子は、生物学的に活性なRNAを産生するための全ての基本情報を含むDNAの部分を指す。遺伝子は、転写によって一本鎖RNAコピーが生成されるDNAの部分と、このコピー過程の調節に関与する発現シグナルとを含む。発現シグナルは、例えば、少なくとも1つのプロモータ、転写開始、翻訳開始及びリボソーム結合部位(RBS)を含む。ターミネータ及び1つ以上のオペレータは、追加の可能な発現シグナルである。
【0031】
遺伝子構築物は、遺伝子が他の遺伝要素(例えば、プロモータ、ターミネータ、選択マーカ、複製起点)に連結されているDNA分子を指す。本発明の文脈における遺伝子構築物は、環状DNA分子であり、プラスミド、ベクター又は発現ベクターと呼ばれる。遺伝子構築物の遺伝要素は、細胞成長中にその染色体外遺伝を引き起こし、遺伝子によってコードされるタンパク質の産生を引き起こす。
【0032】
本発明による亜硫酸塩によるOASの生体内変換からのL-システイン酸は、さらなる後処理工程なしでさらに直接使用するか、又は既知の方法によって濃縮若しくは精製することができる。ここでの濃縮度は、さらなる使用に依存する。そのような方法は、アミノ酸を単離するための方法から当業者に公知である。例としては、濾過、遠心分離、抽出、吸着、イオン交換クロマトグラフィー、沈殿、結晶化が挙げられる。
【0033】
好ましい実施形態において、本方法は、L-システイン酸が反応バッチから濃縮される。例えば遠心分離による粒子状バイオマスの除去が特に好ましい。
【0034】
さらに好ましい実施形態では、本方法は、本発明による方法で製造されたL-システイン酸がさらに直接使用されること、すなわち、L-システイン酸を含有する反応バッチが、濾過、遠心分離、抽出、吸着、イオン交換クロマトグラフィー、沈殿及び結晶化を含むさらなる後処理、精製又は単離工程なしにさらに使用される。
【0035】
OASスルフヒドリラーゼは、これまでに多種多様な植物及び微生物から単離されている。大腸菌(E.coli)には、例えば、CysK及びCysMと呼ばれる2つのOASスルフヒドリラーゼ酵素が存在する。関連する遺伝子も同様に公知であり、それぞれcysK及びcysMと呼ばれる。
【0036】
本発明の意味の範囲内のOASスルフヒドリラーゼは、式(3)によるOASからのタンパク質原性アミノ酸L-システインの合成を触媒することができ、この場合に使用される求核剤がスルフィドである。したがって、CysM関連酵素及びCysK関連酵素の両方が、本発明の意味の範囲内でOASスルフヒドリラーゼである。
【0037】
(3)OAS+S2-->L-システイン+アセテート
両方の酵素は非常に類似した反応機構を有し、L-システインの生合成に関与するが、CysMは、CysKとは異なり、式(1)に従ってOASと反応することができる求核剤に関して可変基質スペクトルを有する。
【0038】
例えば、CysMは、CysKとは異なり、OASとチオスルフェートとの反応を触媒してS-スルホシステインを形成することができることが知られている(CAS番号1637-71-4)。この反応は、唯一の硫黄源としてチオスルフェートを用いた細菌増殖において重要な役割を果たす。
【0039】
さらに、EP1247869B1(Wacker)は、非タンパク質原性アミノ酸の製造のためのCysMの使用を開示している。
【0040】
好ましくは、この方法は、OASスルフヒドリラーゼが細菌酵素、特に好ましくはCysM、特に好ましくは大腸菌(E.coli)株由来のCysMである。
【0041】
亜硫酸は、可逆的平衡状態で同時に存在する多数の化学種を形成し、本発明による生体内変換における求核剤としてのそのそれぞれの適合性は予測できなかった。したがって、亜硫酸(H2SO3)はガス状SO2の水溶液であり、二塩基酸として、水溶液のpHに応じて異なる平衡状態で存在し、この平衡状態の種は求核剤としての適合性も変化することが知られている。以下の平衡論(4)~(8)が知られている。
【0042】
(4)SO2(ガス状)<->SO2(溶解)
(5)SO2(溶解)+H2O<->H2SO3
(6)H2SO3<->HSO3
-+H+
(7)HSO3
-<->SO3
2-+H+
(8)2HSO3
-<->S2O5
2-+H2O
亜硫酸及びその塩は、抗菌効果を示すため、食品産業において防腐剤として使用されている。これは、亜硫酸及びその塩が微生物を死滅させることができることを意味し、これは微生物の生存に必要な酵素の不活性化に起因する。したがって、当業者は、亜硫酸又はその塩を使用する場合にもCysM酵素が不活性化され、L-システイン酸はEP1247869B1に開示されている方法によって調製できないと予想するであろう。
【0043】
前述の理由から、サルファイト及びOASを生体内変換に使用すると、L-システイン酸を製造できることは当業者にとって驚くべきことであった。
【0044】
原則として、考えられる全ての亜硫酸塩が反応に適している。好ましくは、この方法は、使用される亜硫酸の塩がNa2SO3、K2SO3、(NH4)2SO3、NaHSO3(もしくはその無水物Na2S2O5)又はKHSO3である。特に好ましくは、使用される亜硫酸の塩は、Na2SO3、NaHSO3(もしくはその無水物Na2S2O5)及び(NH4)2SO3であり、特に好ましくはNa2SO3及びNaHSO3(もしくはその無水物Na2S2O5)である。
【0045】
ガス状二酸化硫黄、亜硫酸の無水物を使用することが考えられ、これは反応バッチに導入することができ、亜硫酸H2SO3に水和され、pHに応じて、脱プロトン化形態HSO3
-及びSO3
2-と平衡状態にある。
【0046】
この方法は、OASの可用性を必要とする。例えば、L-セリンの高い価格のために高価であるL-セリンのアセチル化によってOASを生成するための化学的方法、又は直接使用することができるラセミ体O-アセチル-D/L-セリンの生成、又はOASが例えば分割によってラセミ体から事前に得られることが考えられる。直接アセチル化の場合、N-アセチル-L-セリン(NAS)は、例えば、L-セリンのヒドロキシル基若しくはアミノ基に対する非選択的アセチル化、又は中性からアルカリ性のpH値でのOASのNASへの公知の転位によって(Tai他(1995),Biochemistry 34:12311-12322)副生成物として形成され得、これにより、収率が低下するか、又はL-セリンのアミノ基に保護基を事前に導入する必要がある。したがって、L-セリンの直接アセチル化は、経済的に実行可能な方法には実用的ではない。
【0047】
例えばEP1233067B1に開示されているように、OASの生物工学的製造も知られている。これは、調節解除されたシステイン代謝を示し、したがって高レベルのOASを提供する、生物の使用を含む。結果として、OASを製造するための費用対効果の高い製造システムが利用可能である。
【0048】
好ましい実施形態では、本方法は、OASが発酵生産から濃縮される。発酵生産は、GMOを用いて、又はGMOではない生物を用いて行うことができる。
【0049】
特に好ましい実施形態では、本方法は、OASが、GMOではない微生物の助けを借りて発酵的に生成されることを特徴とし、その場合、OASが大腸菌(E.coli)株W3110/pACYC-cysEX-GAPDH-ORF306の助けを借りて発酵的に製造されることが特に好ましい。最後に述べた具体的に好ましい実施形態は、実施例1に開示されている。
【0050】
本発明のL-システイン酸の製造方法は、天然産生方法であることが好ましい。これは、本方法で使用されるGMOがないだけでなく、反応物OAS及び酵素OASスルフヒドリラーゼの両方が天然産生に由来する、すなわち、GMOを使用して製造されず、化学的に製造されないことを意味する。
【0051】
この特に好ましい実施形態は、OAS及びOASスルフヒドリラーゼCysMの両方が天然に産生される、L-システイン酸の天然産生方法を記載する本発明による実施例に開示される。OAS産生株大腸菌(E.coli)株W3110/pACYC-cysEX-GAPDH-ORF306(実施例1)及びCysM産生株大腸菌(E.coli)DH5α/pFL145(実施例2)はいずれも自己クローニングに由来し、GMOとして分類されない。本発明は、供給部門及び化粧品における可能な用途のために大きな関心が寄せられているL-システイン酸の天然産生方法を開示しているので、OAS及びOASスルフヒドリラーゼの両方をGMOを使用せずに製造することができるという事実は、本発明に特に利点をもたらす。
【0052】
当業者は、同位体分析を使用して、OAS等の本方法で反応物質として使用することを望む物質が化学的生産又は発酵生産に由来するかどうかを判断することができる。区別することができる同位体分析方法は、例えば、Sieper他、Rapid Commun.Mass Spectrom(2006)20:2521-2527に記載されており、生成物が化学的(石油ベース)生産に由来するか又は発酵生産に由来するか(植物ベースの原料に由来するか)に応じて変化する、例えば炭素又は窒素の同位体比の決定に基づく。
【0053】
本発明の利点は、例えばEP1233067B1に従って実施される発酵から得られるようなOAS含有発酵槽ブロスが、例えば、抽出、吸着、イオン交換クロマトグラフィー、沈殿及び結晶化を含むさらなる後処理、精製又は単離工程を伴わない遠心分離によって、粒状バイオマスの除去後にOASの供給源として本発明による方法で直接使用できることである。この手順は特に経済的であり、不安定な化合物の単離を回避する。
【0054】
OASを製造するための発酵方法、大腸菌(E.coli)株W3110/pACYC-cysEX-GAPDH-ORF306を使用して、EP1233067B1及び本発明の実施例1に開示されている。この株は、ブダペスト条約に従ってDSMZ(BraunschweigのGerman Collection of Microorganisms and Cell Cultures GmbH)にDSM 13495の番号で寄託されている。
【0055】
本方法は、好ましくは、OASスルフヒドリラーゼ(好ましくはCysMを含む)が、発酵生産に由来し、特に好ましくは、GMOではない微生物の助けを借りて発酵的に生産され、特に好ましくは、大腸菌(E.coli)DH5α/pFL145株の助けを含む大腸菌(E.coli)株の助けを借りて生成される。
【0056】
実施例2は、大腸菌(E.coli)DH5α/pFL145株を用いたCysMの発酵バイオテクノロジー生産の手順を開示している。生産株は、宿主株、この場合は大腸菌(E.coli)DH5α、及びOASスルフヒドリラーゼの発現に適した遺伝子構築物、好ましくは遺伝子構築物pFL145からなる。宿主株及び遺伝子構築物、並びに生産株の作製は、EP1247869B1(Wacker)に記載されている。この生産株は、ブダペスト条約に従ってDSMZ-German Collection of Microorganisms and Cell Cultures GmbH(Braunschweig)にDSM 14088の番号で寄託されている。
【0057】
本発明による方法では、発酵によって得られたOASスルフヒドリラーゼは、さらなる後処理を行わない発酵槽ブロスとして、又は例えば遠心分離によって発酵槽ブロスから細胞を再単離した後の細胞懸濁液として使用することができる。さらに、OASスルフヒドリラーゼは、細胞懸濁液の機械的破壊後の細胞ホモジネートの形態で、又は化学的透過性細胞(例えば、クロロホルムによる)の形態で、又は細胞ホモジネートから粒子成分を除去した後の細胞抽出物として、又は例えばクロマトグラフィーによって精製された酵素として使用することができる。
【0058】
さらなる後処理なしの発酵槽ブロスとしての、発酵槽ブロスからの細胞の再単離後の細胞懸濁液としての、又は細胞懸濁液の機械的破壊後の細胞ホモジネートとしての、又は化学的透過性細胞(例えば、クロロホルムによる)の形態でのOASスルフヒドリラーゼの使用が好ましい。
【0059】
発酵槽ブロスからの細胞の再単離後の細胞懸濁液又は細胞ホモジネートとしてのOASスルフヒドリラーゼの使用が特に好ましい。
【0060】
特に好ましい実施形態では、発酵槽ブロスから単離され、再懸濁された生産株の細胞がOASスルフヒドリラーゼとして使用される。
【0061】
特に好ましい実施形態では、L-システイン酸の製造方法は、OASスルフヒドリラーゼ及びOASの両方が発酵によって生成される。
【0062】
本発明による生体内変換方法の反応物質としてのOASは、約pH7のpHからN-アセチル-L-セリンに異性化し、その後サルファイトとの反応にもはや適しておらず、L-システイン酸を形成する。反応の機序は、Tai他(1995)、Biochemistry 34:12311-12322で研究され、アシル基のカルボニル炭素上の脱プロトン化アミノ基による分子内求核攻撃を伴う。この反応は、pHが低下すると抑制されるため、化合物は例えばpH4.0で安定である。
【0063】
したがって、本発明による生体内変換方法は、L-システイン酸を形成するためのOASの反応が、OASのN-アセチル-L-セリンへの異性化を最小限に抑えるpH条件下で行われるという事実によって区別される。
【0064】
好ましくは、本方法は、反応が、少なくとも5.5であり、≦7.5、特に好ましくは≦7.0、特に好ましくは≦6.5であるpH値で行われる。
【0065】
生体内変換方法のさらに好ましい実施形態では、基質OASは、いわゆる供給工程においてOASスルフヒドリラーゼ及びサルファイトからなる反応バッチに計量供給される(実施例5)。計量供給されるOASは、N-アセチル-L-セリンへの異性化を抑制するpH、好ましくはpH≦6.5、特に好ましくはpH≦6.0、特に好ましくはpH≦5.5に設定される。同時に、反応バッチ中のpHは、反応を促進してL-システイン酸を形成するように調整される。
【0066】
式(2)によれば、L-システイン酸を形成するためのOASの反応は、化学量論量の酢酸を放出し、反応が進行するにつれてバッチ中のpHの低下をもたらし得る。pHが低すぎるとOASスルフヒドリラーゼの活性に影響を及ぼすため、pHの過度の低下を防ぐ必要がある。これは、バッチ中の適切な高濃度緩衝液によって受動的に行うことができ、又は測定及び制御ユニットによって能動的に達成することができる。
【0067】
実施例5に開示されているように、pHが目標値から逸脱した場合に、アルカリ溶液又は酸の計量添加によって所望のpHを回復させる、測定及び制御ユニットによる活性pH制御が好ましい(いわゆるpHスタット法)。
【0068】
反応温度は、好ましくは5~70℃の間で選択される。10~60℃の反応温度が好ましく、15~50℃が特に好ましく、20~40℃が特に好ましい。
【0069】
L-システイン酸の製造方法は、好ましくは水性環境で行われ、すなわち、反応に使用される溶媒は好ましくは水である。
【0070】
L-システイン酸を製造するための本発明による方法は、不連続操作又は連続操作で行うことができる。不連続操作(バッチ操作)では、反応の過程で全ての反応物をバッチに添加し、反応が終了した後にバッチを後処理する。連続操作では、OAS、OASスルフヒドリラーゼ及び亜硫酸塩を反応中に絶えず計量投入し、生成物L-システイン酸を含有する溶液をバッチから同時に除去する。確立されるのは、反応物が反応容器内の滞留時間中に完全に反応して生成物L-システイン酸を形成することができるように反応物が計量供給される定常状態である。非天然アミノ酸の連続生産のための方法は、例えば、EP1247869B1(Wacker)に開示されている。
【0071】
L-システイン酸を製造するための本発明による方法の不連続操作が好ましい。
【0072】
好ましくは、本方法は、亜硫酸塩の濃度が、OASに対して少なくとも等モル濃度、特に好ましくは少なくとも1.5倍モル過剰、特に好ましくは少なくとも2倍モル過剰、さらに好ましくは少なくとも5倍モル過剰である。
【0073】
バッチ中のOAS濃度は、好ましくは少なくとも1g/L、特に好ましくは少なくとも10g/L、特に好ましくは少なくとも40g/Lである。
【0074】
OASの生体内変換において、使用されるOASのモル量に基づくL-システイン酸のモル収率は、好ましくは少なくとも60%、特に好ましくは少なくとも70%、特に好ましくは少なくとも80%である。
【0075】
本発明は、以下の実施例によってさらに説明されるが、実施例によって制限されることはない。
【実施例】
【0076】
[実施例1]
OASの生成
EP1233067B1(Wacker)に開示され、ブダペスト条約に従ってDSMZ-German Collection of Microorganisms and Cell Cultures GmbH(Braunschweig)にDSM 13495の番号で寄託された大腸菌(E.coli)株W3110/pACYC-cysEX-GAPDH-ORF306を使用した。OASは、EP1233067B1に記載されているように発酵によって生成した。発酵終了時に、21%(v/v)リン酸を使用してpHを4.5に設定することによってOASを安定化した。4000rpmで10分間の遠心分離(Heraeus Megafuge 1.0 R)によって細胞を除去した。発酵上清中のOASのHPLC測定含量は15.3g/Lであった。
【0077】
OAS及びL-システイン酸のHPLC分析:
実施例で分析した化合物の定量には、OAS及びL-システイン酸についてそれぞれ較正したHPLC法を用いた。較正に使用した全ての参照物質は市販されていた(Sigma-Aldrich)。アミノ酸の分析から知られているように、o-フタルジアルデヒドを用いたプレカラム誘導体化(OPA誘導体化)のために、同じ製造業者からのユニットを備えたAgilent 1260 Infinity II HPLCシステムを使用した。OPA誘導体化生成物OAS及びL-システイン酸の検出のために、HPLCシステムは蛍光検出器を備えていた。検出器は励起波長330nm、発光波長450nmに設定した。カラムオーブン内で40℃で熱平衡化した、Thermo Scientific(商標)製のAccucore(商標)aQカラム(長さ100mM、内径4.6mm、粒径2.6μm)も使用した。
【0078】
溶離液A:25mMリン酸Na、pH6.0。溶離液B:メタノール。分離は、グラジエントモード、10%溶離液Bから60%溶離液Bまで0~25分間かけて、続いて60%溶離液Bから100%溶離液Bまで2分間かけて、続いて100%溶離液Bまで0.5ml/分の流速でさらに2分間行った。L-システイン酸の保持時間:3.2分。OASの保持時間:17.0分。
【0079】
[実施例2]
酵素CysMの製造
EP1247869B1(Wacker)に開示され、ブダペスト条約に従ってDSMZ-German Collection of Microorganisms and Cell Cultures GmbH(Braunschweig)にDSM 14088の番号で寄託された大腸菌(E.coli)DH5α/pFL145株を使用した。CysM酵素は、振盪フラスコ内での増殖と発酵の両方によって生成された。
【0080】
A)振盪フラスコ内での増殖:大腸菌(E.coli)DH5α/pFL145株の前培養物をLBamp培地(10g/lのトリプトン(GIBCO(商標))、5g/lの酵母抽出物(BD Biosciences)、5g/lのNaCl、100mg/Lのアンピシリン(Sigma-Aldrich))中で調製した(37℃及び120rpmで一晩増殖)。25mlの前培養物を、250mlのLBamp培地(バッフル付きの1L三角フラスコ)の主培養物の接種材料として使用した。主培養物を30℃及び110rpmで振盪した。4時間後、1.0/mlの細胞密度OD600に達した(OD600:600nmでの吸光度の測定による細胞懸濁液1ml当たりの細胞密度の測光的測定;Thermo Scientific(商標)製のGenesys(商標)10S UV-Vis分光光度計)。次いで、誘導剤テトラサイクリン(Sigma-Aldrich、最終濃度3mg/L)を添加し、増殖を30℃及び110rpmでさらに20時間継続した。増殖終了時、細胞密度OD600は3/mlであった。
【0081】
B)大腸菌(E.coli)DH5α/pFL145株を用いたCysMの発酵生産は、EP1247869B1に開示されている。発酵からの細胞を4000rpmで10分間の遠心分離(Heraeus Megafuge 1.0 R)によって除去し、細胞密度OD600が90/mlになるようにKPi6.5緩衝液(0.1M Kホスフェート、pH6.5)に懸濁した。
【0082】
振盪フラスコ増殖又は発酵からの細胞を、さらなる使用のために遠心分離(15000rpmで10分、SS34ローターを備えたSorvall RC5C遠心分離機)によって単離した。細胞ホモジネートの製造のためのさらなる使用のために、後述するように、細胞ペレットを細胞懸濁液としてKPi6.5緩衝液に再懸濁した。細胞懸濁液は、細胞密度OD600が30/mlになるのに十分な量のKPi6.5緩衝液を使用することによって調製した。例えば、3/mlのOD600を有する振盪フラスコ増殖からの細胞50mlを遠心分離し、5mlのKPi6.5緩衝液(10倍濃度)に再懸濁するか、又は90/mlのOD600を有する発酵からの細胞1mlを3mlのKPi6.5緩衝液(3倍希釈)に再懸濁した。
【0083】
これにより、発酵槽ブロスから単離され、再懸濁された大腸菌(E.coli)DH5α/pFL145株の細胞が生成され、これを本発明による方法においてOASスルフヒドリラーゼCysMとして以下で使用した。
【0084】
細胞ホモジネートを調製するために、MP Biomedicals製のFastPrep-24(商標)5G細胞ホモジナイザを使用した。30/mlの細胞密度OD600を有するKPi6.5緩衝液中の1mlの細胞懸濁液を、ガラスビーズ(「溶解マトリックスB」)を含有する製造業者によって組み立てられた1.5mlチューブ内で破壊した(間隔の間に毎回30秒の休止を設けて6000rpmの振盪周波数で3×20秒)。得られた細胞ホモジネートを、本発明による方法においてOASスルフヒドリラーゼ(CysM酵素)として直接使用するか、又は細胞抽出物の調製に使用した。
【0085】
細胞抽出物を調製するために、得られた細胞ホモジネートを遠心分離し(15000rpmで10分間、SS34ローターを備えたSorvall RC5C遠心分離機)、上清を細胞抽出物と称し、本発明による方法においてOASスルフヒドリラーゼ(CysM酵素)として使用するか、又はCysM酵素活性の測定にさらに使用した。
【0086】
細胞抽出物のタンパク質含有量は、「Qubit(R)Protein Assay Kit」を製造業者の説明書に従って使用し、Thermo Fisher ScientificのQubit 3.0 Fluorometerによって決定した。振盪フラスコ増殖からの細胞抽出物のタンパク質含有量は5.3mg/mlであった。発酵からの細胞抽出物のタンパク質含有量は4.0mg/mlであった。
【0087】
CysM酵素活性は、EP1247869B1(Wacker)に記載されているように決定した。この目的のために、OAS(Sigma-Aldrich)を、Na2S及び大腸菌(E.coli)DH5α/pFL145株増殖からの細胞抽出物の存在下、37℃でインキュベートした。KPi6.5緩衝液中のアッセイ(最終体積0.4ml)は、10mMのOAS(500mMコハク酸ナトリウム緩衝液pH5.5中の200mM原液からの添加)、10mM硫化ナトリウムNa2S及び5μlのCysM含有細胞抽出物を含有していた。CysM反応で生成されたシステインを、ニンヒドリン(Sigma-Aldrich)を用いて、Gaitonde(1967)、Biochem.J.104:627-633による方法に従って測定した。振盪フラスコ内での大腸菌(E.coli)DH5α/pFL145株の増殖からの細胞抽出物中のCysM酵素活性は57.1U/mlであった。振盪フラスコ増殖からの細胞(3/mlのOD600)は細胞抽出物の調製のために10倍濃縮されていたので、振盪フラスコ増殖からの細胞における酵素活性は5.7U/mlであった。大腸菌(E.coli)DH5α/pFL145株の発酵後の細胞抽出物中のCysM酵素活性は58.1U/mlであった。発酵からの細胞(90/mlのOD600)は、細胞抽出物の調製のために30/mlのOD600に希釈されていたので、発酵槽細胞の濃縮(90/mlのOD600)細胞懸濁液中の酵素活性は174.4U/mlであった。
【0088】
振盪フラスコ内の大腸菌(E.coli)DH5α/pFL145株増殖からの細胞抽出物の比CysM酵素活性は、タンパク質1mg当たり10.8Uであった。大腸菌(E.coli)DH5α/pFL145株の発酵後の細胞抽出物の比CysM酵素活性は14.5U/mgであった。細胞抽出物の調製中にCysM活性が細胞から完全に放出されたと仮定すると、細胞抽出物で測定されたCysM酵素活性は、以下の実施例でCysM細胞懸濁液に存在する酵素活性と同等であった。
【0089】
1U/mlのCysM酵素活性は、1mlの細胞抽出物中のアッセイ条件下でのOAS及びNa2Sからの1μmol/分のシステイン生成(体積活性)と規定される。タンパク質1mg当たりのUでの比CysM酵素活性は、細胞抽出物の体積活性(U/ml)を細胞抽出物のタンパク質濃度(mg/ml)で割ることによって得られ、細胞抽出物中のタンパク質1mgに基づくUでのCysM酵素活性と規定される。
【0090】
[実施例3]
振盪フラスコ培養で生成したCysMを用いた市販のOAS及びNa2SO3からのL-システイン酸の製造
2つのバッチを並行して行った:
バッチ1:100mlの三角フラスコに、最初にNaPi6.5緩衝液(50mMリン酸Na、pH6.5)8.25mlを装入し、NaPi6.5緩衝液中のNa2SO3の0.2M溶液1ml、57.1U/mlの活性を有する(バッチ中の最終濃度2.3U/ml)(実施例2Aからの)振盪フラスコ増殖からのCysM細胞抽出物0.4ml、及び0.5Mコハク酸Na、pH5.5中のOAS×HCl(Sigma-Aldrich)の0.2M溶液350μlを連続して添加した。バッチ体積は10mlであった。
【0091】
バッチ2:バッチ(Na2SO3を含まない比較バッチ)はバッチ1と同じ組成を有していた。Na2SO3溶液の代わりに、バッチ2には1mlのNaPi6.5緩衝液を加えた。
【0092】
両方のバッチをチェストシェーカー(Infors)中37℃及び140rpmでインキュベートした。1時間及び3時間後、各場合のバッチ1mlを80℃で5分間インキュベートして反応を停止させ、遠心分離し、上清をHPLCによって分析した。HPLCにより検出されたL-システイン酸の量を表1に示す。
【0093】
表1:市販のOAS及びNa2SO3並びにCysM含有細胞抽出物を使用した、反応時間によるHPLC検出量のL-システイン酸。
【0094】
【0095】
[実施例4]
振盪フラスコ培養で生成したCysMを用いた、発酵からのOAS含有培養上清及びNa2SO3からのL-システイン酸の製造
100mlの三角フラスコに、(実施例1からの)OAS含有量15.3g/Lを有する大腸菌(E.coli)株W3110/pACYC-cysEX-GAPDH-ORF306の発酵からの細胞培養上清1mlを最初に装入し、NaPi6.5緩衝液6ml、Na2SO3のNaPi6.5緩衝液中1M溶液1ml、及び振盪フラスコ増殖からのCysM細胞懸濁液2ml(実施例2Aより、30/mlの細胞密度OD600;57.1U/mlのCysM酵素活性)を連続して添加した。バッチ体積は10mlであった。バッチ中のCysM酵素活性は11.4U/mlであった。バッチをチェストシェーカー(Infors)中37℃及び140rpmでインキュベートした。2時間後、1mlのバッチを80℃で5分間インキュベートし、遠心分離し、上清をOAS及びL-システイン酸の含有量についてHPLCで分析した。経時的な反応の経過を表2に要約する。
【0096】
表2:OAS含有細胞培養上清、Na2SO3及びCysM含有細胞懸濁液を使用したHPLC検出量のL-システイン酸及びOAS。
【0097】
【0098】
[実施例5]
一定pHでのOASの生体内変換によるL-システイン酸の調製製造
0.5Lのサーモスタット式二重壁ガラス容器(Diehm)を、ホース接続を介してサーモスタット(Lauda)に接続し、37℃の温度に調整した。
【0099】
(実施例2Bからの)DH5α/pFL145株の発酵からのKPi6.5緩衝液中のCysM含有細胞懸濁液50ml(90/mlのOD600、CysM酵素活性8720U)、及びKPi6.5緩衝液中のNa2S2O5の400g/L溶液6.6ml(13.9mmol、分子量190.1g/mol)を最初に装入した。溶解形態では、これは27.8mmolのNaHSO3に相当した(後に計量される15.6mmolのOAS量に対して1.78倍モル過剰)。バッチをマグネチックスターラーで撹拌した。バッチにはpH電極(Mettler Toledo)も装備し、これをpH制御ユニット(TitroLine alpha滴定装置、Schott)に接続し、これを製造業者の指示に従ってpH-statモードで操作した。pH-stat条件下で、制御ユニットに接続したビュレットから2M NaOHを計量添加することによって、反応容器内のpHを反応の全期間にわたって設定pH6.5で一定に保った。大腸菌(E.coli)株W3110/pACYC-cysEX-GAPDH-ORF306(実施例1)の発酵からのOAS含有細胞培養上清(OAS含有量:15.3g/L、2.3g;15.64mmol)150mlを、リザーバーからポンプ(Watson Marlow 101U/R蠕動ポンプ)を介して流速0.35ml/分でバッチに計量供給した。
【0100】
反応時間は19時間であった。バッチは開放反応容器内で実施されたため、バッチ体積は、蒸発による反応完了後に185mlであった。反応開始後0.5時間、3時間及び19時間で、バッチの1mlアリコートをそれぞれ除去し、L-システイン酸の含有量をHPLCによって分析した。経時的なL-システイン酸の形成を表3に要約する。19時間の反応時間後、バッチ中のL-システイン酸含有量は12970mg/L(76.65mM)であり、これは185mlのバッチ体積に対する14.18mmolのL-システイン酸の絶対モル収率に相当した。15.64mmolのOASの使用量に基づいて、これは収率90.1%に相当した。
【0101】
表3:OAS含有発酵上清、NaHSO3及びCysM含有発酵槽細胞の細胞懸濁液を使用した、反応時間によるHPLC検出量のL-システイン酸
【0102】
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
L-システイン酸の製造方法であって、
O-アセチル-L-セリン(OAS)が、亜硫酸塩の存在下でO-アセチル-L-セリンスルフヒドリラーゼ(OASスルフヒドリラーゼ、EC4.2.99.8)のクラスから選択される少なくとも1つの酵素を使用して変換され
、OASスルフヒドリラーゼがCysMであり、生体内変換が活性pH制御下で行われ、バッチ中のOAS濃度が少なくとも10g/Lである、方法。
【請求項2】
OASスルフヒドリラーゼが細菌酵素である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
OASスルフヒドリラーゼが大腸菌(E.coli)株由来のCysMである、請求項1及び2の一方又は両方に記載の方法。
【請求項4】
OASスルフヒドリラーゼが発酵生産に由来する、請求項1~3のうちの一項以上に記載の方法。
【請求項5】
OASスルフヒドリラーゼが、GMOではない微生物の助けを借りて発酵的に生成される、請求項1~4のうちの一項以上に記載の方法。
【請求項6】
OASスルフヒドリラーゼが、大腸菌(E.coli)株DH5α/pFL145の助けを借りて発酵的に生成される、請求項1~5のうちの一項以上に記載の方法。
【請求項7】
OASが発酵生産に由来する、請求項1~6のうちの一項以上に記載の方法。
【請求項8】
OASが、GMOではない微生物の助けを借りて発酵的に生成される、請求項1~7のうちの一項以上に記載の方法。
【請求項9】
OASが、大腸菌(E.coli)株W3110/pACYC-cysEX-GAPDH-ORF306の助けを借りて発酵的に生成される、請求項1~8のうちの一項以上に記載の方法。
【請求項10】
方法が天然産生方法であ
り、天然産生方法は、遺伝子組換え生物(GMO)が方法において使用されておらず、反応物OAS及び酵素OASスルフヒドリラーゼが天然産生に由来する、すなわち、GMOを使用して製造されず、化学的に製造されないという事実によって定義される、請求項1~9のうちの一項以上に記載の方法。
【請求項11】
使用される亜硫酸の塩がNa
2SO
3、K
2SO
3、(NH
4)
2SO
3、なもしくはその無水物Na
2S
2O
5)又はKHSO
3である、請求項1~10のうちの一項以上に記載の方法。
【請求項12】
亜硫酸塩の濃度が、OASに対して少なくとも等モル濃度である、請求項1~11のうちの一項以上に記載の方法。
【請求項13】
反応が、少なくとも5.5及び7.5未満のpHで行われる、請求項1~12のうちの一項以上に記載の方法。
【請求項14】
L-システイン酸が反応バッチから濃縮される、請求項1~1
3のうちの一項以上に記載の方法。
【手続補正書】
【提出日】2024-07-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0077
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0077】
OAS及びL-システイン酸のHPLC分析:
実施例で分析した化合物の定量には、OAS及びL-システイン酸についてそれぞれ較正したHPLC法を用いた。較正に使用した全ての参照物質は市販されていた(Sigma-Aldrich)。アミノ酸の分析から知られているように、o-フタルジアルデヒドを用いたプレカラム誘導体化(OPA誘導体化)のために、同じ製造業者からのユニットを備えたAgilent 1260 Infinity II HPLCシステムを使用した。OPA誘導体化生成物OAS及びL-システイン酸の検出のために、HPLCシステムは蛍光検出器を備えていた。検出器は励起波長330nm、発光波長450nmに設定した。カラムオーブン内で40℃で熱平衡化した、Thermo Scientific(商標)製のAccucore(商標)aQカラム(長さ100mm、内径4.6mm、粒径2.6μm)も使用した。
【国際調査報告】