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特表2024-544379水素含有流体媒体に使用するためのダイヤフラムおよびこのダイヤフラムを備えるトランスデューサ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-29
(54)【発明の名称】水素含有流体媒体に使用するためのダイヤフラムおよびこのダイヤフラムを備えるトランスデューサ
(51)【国際特許分類】
   G01L 19/06 20060101AFI20241122BHJP
【FI】
G01L19/06 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024533999
(86)(22)【出願日】2022-11-09
(85)【翻訳文提出日】2024-07-10
(86)【国際出願番号】 EP2022081288
(87)【国際公開番号】W WO2023117198
(87)【国際公開日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】21217511.1
(32)【優先日】2021-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】502281471
【氏名又は名称】キストラー ホールディング アクチエンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マストロジャコモ、ジョヴァンニ
(72)【発明者】
【氏名】メルキ、ハンス ベアト
(72)【発明者】
【氏名】カドノー、トマス
【テーマコード(参考)】
2F055
【Fターム(参考)】
2F055CC02
2F055FF38
2F055GG15
(57)【要約】
本発明は、水素含有流体媒体(13)を収容する第1の空間(14)を第2の空間(15)から気密に分離するためのダイヤフラム(2)。ダイヤフラム(2)は、金属材料(3)を含み、ダイヤフラム(2)は、分子状水素および/または原子状水素の透過性を低減させるコーティング(4)を備え、コーティング(4)は、少なくとも使用中に流体媒体(13)と接触する領域において、ダイヤフラム(2)の金属材料(3)と流体媒体(13)との間に配置され、コーティング(4)は、少なくとも1つの非化学量論的酸化物、炭化物、または窒化物を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素含有流体媒体(13)を収容する第1の空間(14)を第2の空間(15)から気密に分離するためのダイヤフラム(2)であって、
前記ダイヤフラム(2)は、金属材料(3)を含み、
前記ダイヤフラム(2)は、分子状水素および/または原子状水素の透過性を低下させるコーティング(4)を備え、
前記コーティング(4)は、少なくとも使用中に前記流体媒体(13)と接触する領域において、前記ダイヤフラム(2)の前記金属材料(3)と前記流体媒体(13)との間に配置される、前記ダイヤフラム(2)において、
前記コーティング(4)は、少なくとも1つの非化学量論的酸化物、炭化物、または窒化物、例えば、酸化アルミニウム、炭化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化クロム、窒化クロム、酸化ケイ素、炭化ケイ素、窒化ケイ素、酸化チタン、炭化チタン、窒化チタン、酸化ジルコニウム、または希土類酸化物を含むことを特徴とする、ダイヤフラム(2)。
【請求項2】
請求項1に記載された水素含有流体媒体(13)を収容する第1の空間(14)を第2の空間(15)から気密に分離するためのダイヤフラム(2)であって、
前記コーティング(4)は、非化学量論的炭化物混合物(1-y)M-yMC(0<x<xM,Cかつ0<y≦1、ただし、M=SiでxSi,C=1、またはM=AlでxAl,C=3/4、またはM=TiでxTi,C=1)、好ましくは非化学量論的炭化チタン(1-y)Ti-yTiC(0<x<1かつ0<y≦1)を含むか、または
前記コーティング(4)は、非化学量論的窒化物混合物(1-y)M-yMN(0<x<xM,Nかつ0<y≦1、ただし、M=AlでxAl,N=1、またはM=CrでxCr,N=1、またはM=SiでxSi,N=4/3、またはM=TiでxTi,N=1)を含むか、または
前記コーティング(4)は、非化学量論的酸化物混合物(1-y)M-yMO(0<x<xM,Oかつ0<y≦1、ただし、M=AlでxAl、O=1.5、またはM=CrでxCr、O=1.5、またはM=SiでxSi、O=2、またはM=TiでxTi、O=2、またはM=ZrでxZr、O=2、またはM=希土類元素でx希土類元素、O=1~2)、好ましくは非化学量論的酸化アルミニウム(1-y)Al-yAlO(0<x≦1.5かつ0≦y≦1)を含むことを特徴とする、ダイヤフラム。
【請求項3】
請求項1または2に記載された水素含有流体媒体(13)を収容する第1の空間(14)を第2の空間(15)から気密に分離するためのダイヤフラム(2)であって、
前記コーティング(4)は、前記コーティング(4)内に傾斜を有する非化学量論的混合物(1-y)M-yMOまたは(1-y)M-yMNまたは(1-y)M-yMCを含み、前記コーティング(3)内では、前記金属材料(3)からの距離が増加するにつれて割合yが徐々に増加するか、または
前記コーティング(4)は、前記コーティング(4)内に傾斜を有する非化学量論的混合物(1-y)M-yMOまたは(1-y)M-yMNまたは(1-y)M-yMCを含み、前記コーティング(4)内では、前記金属材料(3)からの距離が増加するにつれて割合xが徐々に増加するか、または
前記コーティング(4)は、前記コーティング(4)内に傾斜を有する非化学量論的混合物(1-y)M-yMOまたは(1-y)M-yMNまたは(1-y)M-yMCを含み、前記コーティング(4)内では、前記金属材料(3)からの距離が増加するにつれて割合xおよび割合yが徐々に増加することを特徴とする、ダイヤフラム。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載された水素含有流体媒体(13)を収容する第1の空間(14)を第2の空間(15)から気密に分離するためのダイヤフラム(2)であって、
前記コーティング(4)は、前記コーティング(4)内に傾斜を有する非化学量論的混合物(1-y)M-yMOまたは(1-y)M-yMNまたは(1-y)M-yMCを含み、
前記コーティング(4)と前記金属材料(3)との間の界面(19)から離れた位置で、前記コーティング(4)が炭化物、窒化物、または酸化物の化学量論的混合物に徐々に移行することを特徴とする、ダイヤフラム。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載された水素含有流体媒体(13)を収容する第1の空間(14)を第2の空間(15)から気密に分離するためのダイヤフラム(2)であって、
前記コーティング(4)は、前記金属材料(3)の厚さよりも薄いか、または
前記コーティング(4)の厚さは、前記ダイヤフラム(2)の厚さの10%を超えないことを特徴とする、ダイヤフラム。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載された水素含有流体媒体(13)を収容する第1の空間(14)を第2の空間(15)から気密に分離するためのダイヤフラム(2)であって、
前記コーティング(4)は、熱膨張係数を有し、
前記金属材料(3)は、熱膨張係数を有し、
前記金属材料(3)と前記コーティング(4)との界面(19)において、前記コーティング(4)の前記熱膨張係数は、前記金属材料(3)の前記熱膨張係数と50%を超えて異ならないことを特徴とする、ダイヤフラム。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載された水素含有流体媒体(13)を収容する第1の空間(14)を第2の空間(15)から気密に分離するためのダイヤフラム(2)であって、
前記ダイヤフラム(2)は、少なくとも1つの他のコーティング(4’、4’’、4’’’、…)を備え、
前記他のコーティング(4’、4’’、4’’’、…)は、前記コーティング(4)の前記金属材料(3)とは反対側に配置され、
前記他のコーティング(4’、4’’、4’’’、…)は、化学量論的酸化物、炭化物、または窒化物を含むことを特徴とする、ダイヤフラム。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載された水素含有流体媒体(13)を収容する第1の空間(14)を第2の空間(15)から気密に分離するためのダイヤフラム(2)であって、
前記コーティング(4)は、熱膨張係数を有し、
前記他のコーティング(4’、4’’、4’’’、…)は、熱膨張係数を有し、
前記金属材料(3)は、熱膨張係数を有し、
前記コーティング(4)の前記熱膨張係数は、前記金属材料(3)の前記熱膨張係数と前記他のコーティング(4’、4’’、4’’’、…)の前記熱膨張係数との間の値を有することを特徴とする、ダイヤフラム。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載された水素含有流体媒体(13)を収容する第1の空間(14)を第2の空間(15)から気密に分離するためのダイヤフラム(2)であって、
前記ダイヤフラム(2)は、前記ダイヤフラム(2)の前記金属材料(3)からの前記コーティング(4)の剥離を防止する接着促進剤層(5)を備え、
前記接着促進剤層は、前記ダイヤフラム(2)の前記金属材料(3)と前記コーティング(4)との間に配置され、
前記接着促進剤層(5)は、アルミニウム、希土類金属、または、耐火金属を含み、前記耐火金属は、例えば、チタン、バナジウム、クロム、ジルコニウム、ニオブ、ハフニウム、タンタル、モリブデン、またはタングステンなどであり、好ましくはジルコニウムまたはタングステンであることを特徴とする、ダイヤフラム。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載された水素含有流体媒体(13)を収容する第1の空間(14)を第2の空間(15)から気密に分離するためのダイヤフラム(2)であって、
接着促進剤層が少なくとも75重量%の純度を有するか、または
接着促進剤層が少なくとも90重量%のジルコニウムまたはタングステンを含むことを特徴とする、ダイヤフラム(2)。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載された水素含有流体媒体(13)を収容する第1の空間(14)を第2の空間(15)から気密に分離するためのダイヤフラム(2)であって、
前記ダイヤフラム(2)は、分子状水素および/または原子状水素の透過性を低減するための内部コーティング(22)を備え、前記内部コーティング(22)は、前記ダイヤフラム(2)の前記金属材料(3)の前記流体媒体(13)とは反対側の前記第2の空間(15)内に配置されていることを特徴とする、ダイヤフラム(2)。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載された水素含有流体媒体(13)を収容する第1の空間(14)を第2の空間(15)から気密に分離するためのダイヤフラム(2)であって、
内部コーティング(22)が、非化学量論的炭化物混合物(1-y)M-yMC(0<x<xM,Cかつ0<y≦1、ただし、M=SiでxSi,C=1、またはM=AlでxAl,C=3/4、またはM=TiでxTi,C=1)、好ましくは非化学量論的炭化チタン(1-y)Ti-yTiC(0<x<1かつ0<y≦1)を含むか、または
前記コーティング(4)は、非化学量論的窒化物混合物(1-y)M-yMN(0<x<xM,Nかつ0<y≦1、ただし、M=AlでxAl,N=1、またはM=CrでxCr,N=1、またはM=SiでxSi,N=4/3、またはM=TiでxTi,N=1)を含むか、または
前記コーティング(4)は、非化学量論的酸化物混合物(1-y)M-yMO(0<x<xM,Oかつ0<y≦1、ただし、M=AlでxAl、O=1.5、またはM=CrでxCr、O=1.5、またはM=SiでxSi、O=2、またはM=TiでxTi、O=2、またはM=ZrでxZr、O=2、またはM=希土類元素でx希土類元素、O=1~2)、好ましくは非化学量論的酸化アルミニウム(1-y)Al-yAlO(0<x≦1.5かつ0≦y≦1)を含むことを特徴とする、ダイヤフラム(2)。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載された水素含有流体媒体(13)を収容する第1の空間(14)を第2の空間(15)から気密に分離するためのダイヤフラム(2)であって、
前記ダイヤフラム(4)は、少なくとも部分的に500μm未満の厚さを有することを特徴とする、ダイヤフラム(2)。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載された水素含有流体媒体(13)を収容する第1の空間(14)を第2の空間(15)から気密に分離するためのダイヤフラム(2)であって、
前記金属材料(3)は、マルテンサイト、ベイナイト、ニードルフェライト、ウィドマンシュテッテンフェライト、またはこれらの構造の混合物、特に好ましくは部分的に整合または非整合の析出物を有するマルテンサイトの構造を有する細粒鋼であることを特徴とする、ダイヤフラム(2)。
【請求項15】
水素含有流体媒体(13)の圧力を測定するためのトランスデューサ(1)であって、
前記トランスデューサ(1)は、前記流体媒体(13)に面する圧力曝露端部(11)を備え、
前記トランスデューサ(1)は、ハウジング(7)を備え、
前記トランスデューサ(1)は、測定装置(16)を備える、トランスデューサ(1)において、
前記トランスデューサ(1)は、請求項1~14のいずれか一項に記載されたダイヤフラム(2)を備えることを特徴とする、トランスデューサ(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素含有流体媒体に使用するためのダイヤフラム、およびそのダイヤフラムを備えたトランスデューサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ダイヤフラムは、第1の空間内の流体媒体を第2の空間から分離する。圧力測定技術の分野では、トランスデューサは、しばしばダイヤフラムを備える。ダイヤフラムは、測定装置(例えば、トランスデューサ要素)を、圧力を決定すべき流体媒体から分離する。流体媒体は、気体媒体および/または液体媒体である。この目的のために、ダイヤフラムは通常、第1の寸法および第2の寸法を有する表面を備え、第1の寸法および第2の寸法は、長手軸線に対して垂直な方向に実質的に延びている。長手軸線に平行に延びる第3の寸法では、ダイヤフラムは、壁厚とも呼ばれる厚さを有する。
【0003】
以下において、流体媒体とは、少なくとも1体積%の水素を含有する水素含有流体媒体を意味するものと理解される。
【0004】
一般的に、ダイヤフラムの表面は、第1の空間内の流体媒体と接触する領域を備える。圧力トランスデューサの場合、ダイヤフラムの領域に作用する流体媒体の圧力は、可能な限り少ない損失で、圧力トランスデューサ要素(略してトランスデューサ要素)に伝達される。流体媒体に直接曝露されるダイヤフラム領域の可撓性は、可能な限り高いか、またはその剛性は、可能な限り低くする必要があり、これにより、トランスデューサ要素を含む測定装置の感度は、ダイヤフラムによってあまり影響されなくなる。しかしながら、この低剛性領域の材料は、測定圧力によって不可逆的に変形されるべきではない。降伏強さが約400MPa(メガパスカル)の材料を使用する場合、ダイヤフラムが不可逆的に変形しないように適切な厚さにする必要がある。さらに、ダイヤフラムは、例えばダイヤフラムがトランスデューサハウジングに接続されるより厚い領域を備えていてもよい。より厚い領域は、ダイヤフラムの安定性を向上させる役割も果たす。
【0005】
金属材料の降伏強さは、規格DIN EN ISO 6892-1によって決定される。それは、RP 0.2値に相当する。
【0006】
ダイヤフラムの表面は、実質的に第1の寸法および第2の寸法に沿って延びることができるが、長手軸線の方向に部分的に湾曲していてもよい。
【0007】
ダイヤフラムは、流体媒体を他のタイプのトランスデューサ要素から分離することもでき、例えば、温度トランスデューサでは、温度トランスデューサ要素がダイヤフラムによって流体媒体から分離される。この場合、流体媒体の温度は、ダイヤフラムを介して温度トランスデューサ要素に伝達される。この場合も、できるだけ高い熱伝達係数を得るために、ダイヤフラムの壁部をできるだけ薄くする必要がある。
【0008】
一般的に、腐食とは、物質における測定可能な変化を意味すると理解される。様々な物質に曝露されることで腐食が発生する可能性がある。したがって、金属材料の腐食は、様々なアルカリまたは酸、ガス(例えば、水素または酸素)、塩水、およびその他多くの物質に関連してよく知られている。
【0009】
しかしながら、以下では、特に明記しない限り、腐食とは、原子状水素および/または分子状水素によって引き起こされる腐食を指す。
【0010】
流体媒体が水素を含有する場合、ダイヤフラムは、密閉性と原子状水素および/または分子状水素に対する耐性の両方を備えている必要がある。このため、例えば、室温での降伏強さが約400MPaのオーステナイト鋼1.4404(別名316L)、または同じく室温での降伏強さが約400MPaのニッケル基合金2.4819(別名C-276)などの市販の耐水素性多結晶金属が、200℃を超える耐熱性も備えたダイヤフラムの材料としてしばしば使用される。しかしながら、これらの材料は、平均粒径が20μmを超えることを特徴とする。粗粒多結晶金属は、ダイヤフラムの薄壁領域に結晶粒がわずかしか存在せず、これにより材料が等方性挙動を示さない可能性があるため、厚さ500μm未満の薄いダイヤフラムの材料としてはあまり適していない。さらに、結晶粒間の粒界に沿った分子状水素および/または原子状水素の拡散経路は、粗粒領域を通って比較的短い。経路が短いと水素がダイヤフラムを通して容易に拡散する可能性があるため、これは不利である。
【0011】
指定1.4404ならびに以下に記載されているその他の材料番号は、DIN EN 10027-2に対応している。
【0012】
いわゆる水素脆化は、分子状水素および/または原子状水素が金属材料に入り込むと発生する。その結果、材料に応力が加わると、脆性破壊が発生するリスクがある。
【0013】
水素脆化とは、金属または合金の格子構造に水素が侵入し、その後取り込まれることにより、金属または合金の延性および強さが変化することを意味する。その結果、水素関連の割れが発生する可能性があり、水素と接触する用途では影響を受けやすい材料の使用が制限される。
【0014】
強度の大きい金属または合金は、強度の小さい金属よりも水素脆化を起こしやすいことはよく知られている。
【0015】
鋼1.4404(別名316L)および合金2.4819(別名C-276)という材料は、一般的に耐腐食性があると考えられている。それらは、降伏強さが小さいため、降伏強さが大きい材料よりも小さな力でも高い塑性変形能を示す。この欠点を補うために、ダイヤフラムは、500μmを超える厚さで製造されることが多い。しかしながら、厚いダイヤフラムは、慣性質量が大きいため、これは不利である。さらに、厚いダイヤフラムの場合、剛性もより高くなる。
【0016】
既知の一実施形態では、圧力トランスデューサは、流体圧力伝達媒体で満たされたダイヤフラムの後ろに空間を備える。本実施形態では、流体圧力伝達媒体がダイヤフラムの変形に対抗するため、ダイヤフラムが不可逆的な塑性変形を起こすリスクが低くなる。流体圧力伝達媒体(例えば、圧縮率の低い油)は、ダイヤフラムに作用する圧力をダイヤフラムから離間した測定要素に伝達する。さらに、ダイヤフラムは、できるだけ少ない損失で圧力を伝達することが要求され、すなわち、ダイヤフラムは、薄く作られることが有利である。測定対象の流体媒体が水素を含有する場合、時間の経過とともに水素が流体圧力伝達媒体に蓄積され、その体積が増加してダイヤフラムを外側に膨らませる。ダイヤフラムは、ダイヤフラムを通して拡散した水素によって膨張する。これにより、一方ではダイヤフラムが損傷し、他方では測定要素付近の圧力条件が変化する可能性がある。分子状水素および/または原子状水素がダイヤフラムを通って拡散すると、トランスデューサの長期安定性に悪影響を及ぼす。
【0017】
特許文献1には、合金2.4819(C-276としても知られる)製のダイヤフラムを備えたトランスデューサが記載されている。材料自体は、耐腐食性があると考えられているが、ダイヤフラムの厚さが薄いため、水素を通さないわけではない。ダイヤフラム上に柔らかい金層を堆積させることにより、分子状水素および/または原子状水素の拡散が防止される。金層は、実質的に化学的に不活性であるため、ダイヤフラムと接触する流体媒体からの分子成分の解離が減少する。流体媒体の分子成分の解離、または表面でのおよび表面とのその他の化学反応により、表面の腐食が発生する可能性がある。しかしながら、金の強度が低いため、柔らかい金層は、傷がつきにくくはなく、したがって使用中に損傷し、その後は水素に対する拡散バリアとしての機能を果たせなくなる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】米国特許出願公開第2005/0109114号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は、ダイヤフラムを改良して、上述の欠点を軽減することである。本発明のさらなる目的は、原子状水素および/または分子状水素に対するダイヤフラムの耐腐食性を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
この目的は、独立請求項の構成によって達成された。
【0021】
本発明は、水素含有流体媒体を収容する第1の空間を第2の空間から気密に分離するためのダイヤフラムに関するものである。ダイヤフラムは、金属材料を含む。ダイヤフラムは、分子状水素および/または原子状水素の透過性を低減するためのコーティングを備え、このコーティングは、ダイヤフラムの金属材料と流体媒体との間に、少なくとも使用中に流体媒体と接触する領域に堆積される。コーティングは、酸化物、炭化物、または窒化物、例えば、アルミニウム酸化物、アルミニウム炭化物、アルミニウム窒化物、クロム酸化物、クロム窒化物、ケイ素酸化物、ケイ素炭化物、ケイ素窒化物、チタン酸化物、チタン炭化物、チタン窒化物、ジルコニウム酸化物、希土類炭化物または窒化物、または希土類酸化物を含む。
【0022】
本発明によれば、コーティングは、少なくとも1つの非化学量論的酸化物、炭化物、または窒化物を含む。
【0023】
好ましくは、コーティングは、非化学量論的混合物を含む。
【0024】
例えば、ダイヤフラムは、流体媒体の圧力を決定するためのトランスデューサ用のダイヤフラムである。
【0025】
好ましくは、金属材料は、少なくとも1つの金属を含む化学元素と、少なくとも1つの他の化学元素とを含む合金である。
【0026】
ダイヤフラムは、水素含有流体媒体を収容する空間を他の空間から分離するためのものである。水素含有流体媒体は、少なくとも1体積%の水素を含み、以下の文章では、腐食剤または腐食性流体媒体とも呼ばれる。
【0027】
ダイヤフラムの金属材料は、金属または合金で構成されている。金属または合金には、例えば、ニッケル基合金(例えば、電気鋳造ニッケル、ニッケル270、ニッケル301、K-モネル)、またはチタン基合金(例えば、純チタン、Ti-6Al-4V、Ti-5Al-2.5Sn、Ti-11.5Mo-6Zr-4.5Sn、アルファ-2TiAl合金、ガンマ-TiAl合金)、または銅基合金(例えば、OFHC銅、アルミニウム青銅、Be-Cu合金、GRCop-84(Cu-8Cr-4Nb)、NARloy-Z(Cu-3Ag-0.5Zr)、70-30真鍮)、またはアルミニウム基合金(例えば、1100-T0、2011、2024、5086、6061-T6、6063、7039、7075-T73)、またはオーステナイト鋼(例えば、CG-27、テネロン、A302B、A286、216、304L、304N、304LN、305、308L、309S、310、316、321、347、18-2-12(Nitronic32)、21-6-9(Nitronic40)、22-13-5(Nitronic50)、18-18Plus、18-2-Mn、18-3-Mn)、またはフェライト鋼(例えば、A106-Gr.B、A212-61T、A372、A515-Gr.70、A516、A517-F(T-1)、A533B、HY-80、HY-100、鉄(アームコ)、X42、X52、X60、X65、X70、X100、430F、1020、1080、C1025、1042、4140、4340)、またはマルテンサイト鋼(例えば、AerMet100、D6AC、H-11、Fe-9Ni-4Co-0.20C、410、440A、440C、17-4PH、18Ni-250)、またはニッケル基超合金(超合金)(例えば、AF-115、AF-56、Astroloy、CM SX-2、CM SX-3、CM SX-4C、CM SX-4D、CM-SX5、ハステロイ、ヘインズ230、ヘインズ242、IN100、インコネル625、インコネル700、インコネル706、インコネル713LC、インコネル718、インコネルX-750、Inco 4005、MAR-M200、MAR-M246、MA 6000、MA 754、MERL 76、NASA-HR1、PWA 1480、PWA 1480E、Rene 41、Rene N-4、Rene 95、RR 2000、Udimet 720、Udimet 700、ワスパロイ)、または鉄基超合金(例えば、A286、インコロイ802、インコロイ901、インコロイ903、インコロイ907、インコロイ909、JBK-75、MA 956、Ni-SPAN-C、)またはコバルト基超合金(例えば、ヘインズ188、MP35N、MP159、MP98T、X-45)が含まれる。これらの合金については、J.A.Lee、Hydrogen Embrittlement(水素脆化)、NASA/TM-2016-218602、アラバマ州、米国(2016)、表2、3、4でさらに詳しく説明されている。 原則として、合金は、材料特性に応じてダイヤフラムの様々な寸法が選択されたダイヤフラムを製造するための金属材料として使用するのに適する。しかしながら、一部の合金は、水素含有流体媒体への直接曝露に部分的にしか適していない。金属材料をコーティングすることにより、専門家は、剛性、熱伝導率、熱膨張係数、または降伏強さなどの適切な物理的特性に応じてダイヤフラムの金属材料を選択できるようになる。コーティングは、金属材料を水素に関連する腐食から保護する。金属材料の耐水素性は有利であるが、必須ではない。
【0028】
冒頭で述べたように、前述の金属材料の中には、粗粒の多結晶構造を持つものがあり、これらは、水素含有流体媒体と直接接触する厚さ500μm未満の薄いダイヤフラムの材料としてはあまり適していない。しかしながら、ダイヤフラムをコーティングすることにより、この欠点が解消され、したがってダイヤフラムの金属材料として使用できる材料の選択肢が比較的広くなる。
【0029】
好ましくは、ダイヤフラムは、少なくとも特定の領域において、厚さが500μm未満である。これは、流体媒体の圧力を第1の空間から第2の空間に配置された測定装置にできるだけ少ない損失で伝達する点で有利である。さらに、厚さが500μm未満のダイヤフラムは、厚さが厚いダイヤフラムよりも低い慣性を示す。これは、トランスデューサが加速されたときに、ダイヤフラムの不活性質量によって測定装置にごく小さな力しか作用しないため、圧力測定が加速の影響を受けないか、またはわずかしか影響を受けないため、有利である。
【0030】
特に好ましくは、金属材料は、マルテンサイト、ベイナイト、ニードルフェライト、ウィドマンシュテッテンフェライト、またはこれらの構造の混合物の構造を有する細粒鋼である。一般的に、これらは、耐水素性があるとは考えられていないが、驚くべきことに、比較的細粒構造のため、水素脆化の傾向が低くなる。細粒構造により拡散経路が長くなり、これが、水素がこれらの材料を通して短距離で拡散できない理由である。したがって、金属材料は、水素に対して一定の耐性を持っている。ベイナイト、ニードルフェライト、およびウィドマンシュテッテンフェライトも、中間構造として知られている。中間構造には、マルテンサイトとパーライトとの間の構造が含まれる。ニードルフェライトとは、英語で針状フェライトと呼ばれる材料を意味することが意図される。
【0031】
マルテンサイト、ベイナイト、ウィドマンシュテッテンフェライト、ニードルフェライト、またはこれらの構造の混合物の構造は、平均粒径が20μm未満であることが特徴であり、そのため、厚さ500μm未満の薄壁ダイヤフラムの製造に特に適している。平均粒径が小さいため、この部品は、等方性の物理的特性を示し、これは、ダイヤフラムの使用時に有利である。
【0032】
特に好ましくは、構造は、Metallkunde、E.Hornbogen and H.Warlimont、第4版、Springer Verlag 2001に記載されているように、好ましくは材料内の粒界に、部分的に整合したまたは非整合な析出物を含むマルテンサイトを含む。 この説明の意味における部分的に整合または非整合な析出物については、Werkstoffkunde-Stahl-第1巻、Verein Deutscher Eisenhuttenleute(編)、Springer Verlag 1984、またはPirlog, Madalina, and P. K. Pranzas. “CHARACTERIZATION OF COPPER PRECIPITATES IN FE-CU ALLOYS WITH SMALL-ANGLE NEUTRON SCATTERING(小角中性子散乱によるFe-Cu合金中の銅析出物の特性評価)”に記載されている。
【0033】
非整合および部分的に整合な析出物は、水素シンクとして機能する。水素は、水素シンクに蓄積される。これにより、蓄積された水素が材料内にさらに浸透するのを防ぐ。整合析出物は、粒子内に位置するため、整合析出物を含む材料と比較すると水素の移動度は低下するが、水素は、好ましくは材料内の粒界に沿って移動する。
【0034】
コーティングは、ダイヤフラムの一部である。本発明によれば、ダイヤフラムの金属材料は、コーティングを含む。コーティングは、流体媒体に面するダイヤフラムの金属材料の側に配置される。
【0035】
本発明によれば、ダイヤフラムは、コーティングを備える。コーティングは、流体媒体の原子または分子成分、特に分子状水素および/または原子状水素に対するダイヤフラムの透過性を低減する役割を果たす。コーティングは、少なくとも使用中に流体媒体と接触する領域において、ダイヤフラムの金属材料と流体媒体との間に配置される。コーティングは、酸化物、炭化物、または窒化物を含む。酸化物、炭化物、または窒化物は、例えば、アルミニウム酸化物、アルミニウム炭化物、アルミニウム窒化物、クロム酸化物、クロム窒化物、ケイ素酸化物、ケイ素炭化物、ケイ素窒化物、チタン酸化物、チタン炭化物、チタン窒化物、ジルコニウム酸化物、または希土類酸化物である。コーティングにより、ダイヤフラムの金属材料と流体媒体との間の直接接触が防止される。コーティングにより、流体媒体からの分子および/または原子成分がダイヤフラムの金属材料に直接吸着されるのを防止する。前述の酸化物、窒化物、炭化物は、冒頭で述べた鋼、合金、金属材料に比べて実質的に化学的に不活性であるため、金属材料のコーティングにより、このようにコーティングされたダイヤフラムの表面での成分の化学反応または解離が低減される。コーティングなしのダイヤフラムに比べて、ダイヤフラムの耐食性がさらに向上する。
【0036】
コーティングは、金属材料の厚さよりも薄い。好ましくは、コーティングの厚さは、膜の全厚さの最大10%である。一般的なコーティングの厚さは、1μm~5μmである。したがって、膜の剛性と降伏強さは、主に金属材料によって決定される。
【0037】
通常、金属材料の熱膨張係数は、20℃~100℃の温度範囲で5・10-6-1~15・10-1である。金属材料とコーティング間の不一致は、エピタキシャル効果によってある程度補償される。エピタキシャルプロセスを使用してコーティングが付けられると、エピタキシャル効果によって金属材料へのコーティングの接着が促進される。
【0038】
コーティングには熱膨張係数もある。好ましくは、コーティングの熱膨張係数は、金属材料の熱膨張係数と50%を超えて異ならない。これは、熱応力下でのコーティングの剥離および亀裂の形成を防止する。
【0039】
熱応力または温度変化は、ダイヤフラムの少なくとも一部の領域の温度が、以前の任意の時点の温度と比較して10℃を超えて増加または減少した場合に発生する。期間は任意であり、最大数日間になる場合がある。
【0040】
有利には、ダイヤフラムは、接着促進剤層を備える。接着促進剤層は、金属材料からのコーティングの剥離を防ぐ役割を果たす。したがって、温度変化時に発生する機械的応力は、金属材料と接着促進剤層の界面と、接着促進剤層とコーティングの別の界面との間で有利に分散される。これにより、局所的な機械的応力が軽減され、機械的応力または熱応力下での亀裂の発生が防止される。有利には、接着促進剤層は、酸素親和性が強い金属(例えば、耐火金属、アルミニウム、または希土類金属)である。耐火金属は、チタン、バナジウム、クロム、ジルコニウム、ニオブ、ハフニウム、タンタル、モリブデン、またはタングステンである。接着促進剤層の純度は、少なくとも75重量%である。純度が少なくとも75%重量であるとは、接着促進剤層の75重量%が金属からなることを意味する。
【0041】
好ましくは、接着促進剤層は、少なくとも90重量%のジルコニウムまたはタングステンからなる。ジルコニウムまたはタングステンは、層の形で容易に付けられる。
【0042】
本発明に係る実施形態においては、ダイヤフラムは、非化学量論的酸化物、非化学量論的窒化物、または非化学量論的炭化物から作られたコーティングを備える。
【0043】
酸化物、窒化物、または炭化物は、化学元素がそれぞれの混合物に最適な比率で存在しない場合、非化学量論的である。通常、化学量論的酸化物、窒化物、または炭化物の場合、最適な比率は、最も安定した化合物である。
【0044】
化学量論的炭化物は、例えば、SiC(炭化ケイ素)、Al(炭化アルミニウム)、またはTiC(炭化チタン)である。
【0045】
非化学量論的炭化物は、混合物(1-y)M-yMC(0<x<xM,Cかつ0<y≦1、ただし、M=SiでxSi,C=1、またはM=AlでxAl,C=3/4、またはM=TiでxTi,C=1)である。定数xM,Cは、炭化物Cの元素Mに依存する。xM,Cでは、炭素Cと組み合わせたそれぞれの元素Mの化学量論比に達する。Mに対して、他の元素も使用できる。炭化物の化学量論比は、技術文献から得ることができる。
【0046】
化学量論的窒化物は、例えば、AlN(窒化アルミニウム)、CrN(窒化クロム)、Si(窒化ケイ素)、TiN(窒化チタン)である。
【0047】
非化学量論的窒化物は、混合物(1-y)M-yMN(0<x<xM,Nかつ0<y≦1、ただし、M=AlでxAl,N=1、またはM=CrでxCr,N=1、またはM=SiでxSi,N=4/3、またはM=TiでxTi,N=1)である。定数xM,Nは、窒化物Nの元素Mに依存する。xM,Nでは、窒素Nと組み合わせたそれぞれの元素Mの化学量論比に達する。Mに対して、他の元素も使用できる。窒化物の化学量論比は、技術文献から得ることができる。
【0048】
化学量論的酸化物は、例えば、Al(酸化アルミニウム)、SiO(酸化ケイ素)、TiO(酸化チタン)、ZrO(酸化ジルコニウム)、Cr(酸化クロム)、または希土類酸化物の場合は、Sc、Y、La、CeO、Pr、Nd、Pm、Sm、EuO、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luである。
【0049】
希土類元素は、Sc(スカンジウム)、Y(イットリウム)、La(ランタン)、Ce(セリウム)、Pr(プラセオジム)、Nd(ネオジム)、Pm(プロメチウム)、Sm(サマリウム)、Eu(ユーロピウム)、Gd(ガドリニウム)、Tb(テルビウム)、Dy(ジスプロシウム)、Ho(ホルミウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)、Yb(イッテルビウム)、Lu(ルテチウム)である。
【0050】
非化学量論的酸化物は、混合物(1-y)M-yMO(0<x<xM,Oかつ0<y≦1、ただし、M=AlでxAl、O=1.5、またはM=CrでxCr、O=1.5、またはM=SiでxSi、O=2、またはM=TiでxTi、O=2、またはM=ZrでxZr、O=2、またはM=希土類元素でx希土類元素、O=1~2)である。定数xM,Oは、酸化物Oに対する元素Mに依存する。xM,Oでは、酸素Oの組み合わせたそれぞれの元素Mの化学量論比に達する。Mに対して他の元素も使用できる。酸化物の化学量論比は、技術文献で他の元素Mに対して得ることができる。
【0051】
非化学量論的酸化物、非化学量論的窒化物、または非化学量論的炭化物で作られたコーティングは、非化学量論的酸化物、窒化物、または炭化物の熱膨張係数を調整できるため有利である。好ましくは、コーティングの熱膨張係数は、金属材料の熱膨張係数と50%を超えて異ならない。これは、熱応力下でのコーティングの剥離および亀裂の形成を防止する。本実施形態では、接着促進剤層を省略することができる。
【0052】
炭化物、窒化物、および酸化物に関する「または」という単語は、排他的な「または」として理解されるべきではない。したがって、炭化物を含むコーティングは、窒化物も含み得る。いわゆる炭窒化物は、炭化物含有コーティングと窒化物含有コーティングの両方に含まれるものとして明示的に開示されている。例としては、炭化チタンと窒化チタンの混合物(炭窒化チタン)、炭化ジルコニウムと窒化ジルコニウムの混合物(炭窒化ジルコニウム)、または炭化クロムと窒化クロムの混合物(炭窒化クロム)が挙げられる。実質的に化学的に不活性な別の材料である金は、ビッカース硬さが100HV10未満であるのに対し、例示的な酸化物、窒化物、および炭化物は、ビッカース硬さが100HVを超える。したがって、金属材料に対するコーティングの機械的耐性は、従来技術で知られている金コーティングと比較して向上する。
【0053】
ビッカース硬さとは、10キロポンドまたは10kgf(キログラム力)の試験力下でのビッカース硬さ、いわゆるHV10を指す。ビッカース硬さ試験は、規格DIN EN ISO 6507-1:2018~-4:2018に記載されている。
【0054】
好ましくは、コーティングは、非化学量論的アルミニウム酸化物または非化学量論的チタン炭化物を含む。酸化アルミニウムは、業界では化学的に不活性な材料として知られている。また、酸化アルミニウムは、希土類元素またはジルコニウムに比べて比較的安価である。炭化チタンも業界で広く使用されており、コスト効率が高く、実質的に化学的に不活性な材料として知られている。実質的に化学的に不活性な別の材料である金のビッカース硬さは、100HV10未満であるが、酸化アルミニウムのビッカース硬さは、1500HV10を超えるため、金属材料のコーティングとして使用した場合、金で作られたコーティングに比べて機械的耐性が向上する。炭化チタンのビッカース硬さは、2500HV10を超えており、金属材料のコーティングとして使用した場合、金で作られたコーティングに比べて機械的耐性が向上する。
【0055】
好ましい一実施形態では、ダイヤフラムは、非化学量論的酸化アルミニウム(1-y)Al-yAlO(0<x<1.5かつ0<y≦1)のコーティングを備える。非化学量論的酸化アルミニウムの熱膨張係数を調整できることは、利点である。好ましくは、コーティングの熱膨張係数は、金属材料の熱膨張係数と50%を超えて異ならない。これは、熱応力下でのコーティングの剥離および亀裂の形成を防止する。本実施形態では、接着促進剤層を省略することができる。
【0056】
一実施形態では、ダイヤフラムは、コーティング内に傾斜を有する非化学量論炭化物(1-y)M-yMC(0<x<xM,Cかつ0<y≦1)のコーティング、またはコーティング内に傾斜を有する非化学量論窒化物(1-y)M-yMN(0<x<xM,Nかつ0<y≦1)のコーティング、またはコーティング内に傾斜を有する非化学量論酸化物(1-y)M-yMO(0<x<xM,Oかつ0<y≦1)のコーティングを備える。すでに説明したように、定数xM,C、xM,N、xM,Oは、炭化物C、窒化物N、酸化物Oの元素Mに依存し、炭素C、窒素N、または酸素Oと関連したそれぞれの元素Mの化学量論比に相当する。コーティング内で、金属材料からの距離が増加するにつれて、割合yが徐々に増加する。あるいはまた、コーティング内で、金属材料からの距離が増加するにつれて、割合xが徐々に増加する。しかしながら、コーティング内で、金属材料からの距離が増加するにつれて、割合xと割合yも徐々に増加し得る。これには、比率xとyを適切に選択することによって、コーティングと金属材料との間の界面でコーティングを金属材料に特に適合させることが可能になるという利点がある。この適合により、界面での応力を最小限に抑えることができる、および/または調整された熱膨張係数とすることができる。コーティング内に傾斜を作製すると、コーティング内の物理的特性も徐々に変化するため有利である。これにより、応力または亀裂の形成がコーティング内で発生することが防止される。流体媒体と接触する表面では、特性が流体媒体に適合される場合がある。したがって、コーティングは、水素以外の流体媒体内の他の物質にも曝露される可能性があり、比率xとyを適切に選択することにより、アルカリ性または酸性の気体または液体などの他の物質に対する耐性を高めることができる。
【0057】
有利には、金属材料とコーティングとの間の界面におけるコーティング内の傾斜を有する非化学量論的酸化物(1-y)M-yMO、非化学量論的窒化物(1-y)M-yMN、または非化学量論的炭化物(1-y)M-yMCのコーティングの熱膨張係数は、金属材料の熱膨張係数と50%以下しか異ならない。
【0058】
特に好ましくは、非化学量論的酸化アルミニウム(1-y)Al-yAlO(0<x<1.5かつ0<y≦1)のコーティングは、コーティング内に傾斜を含む。コーティング内で金属材料からの距離が増加するにつれて、割合yは、徐々に増加する。あるいはまた、コーティング内で金属材料からの距離が増加するにつれて、割合xは、徐々に増加する。しかしながら、コーティング内で金属材料からの距離が増加するにつれて、割合xと割合yも徐々に増加し得る。金属材料とコーティングとの間の界面におけるコーティングの熱膨張係数は、金属材料の熱膨張係数と50%を超えて異ならない。
【0059】
コーティング内に傾斜がある場合とない場合の両方で、非化学量論的酸化物(1-y)M-yMO(0<x<xM,Oおよび0<y≦1)または非化学量論的窒化物(1-y)M-yMN(0<x<xM,Nおよび0<y≦1)または非化学量論的炭化物(1-y)M-yMC(0<x<xM,Cおよび0<y≦1)から作られたコーティングを有するダイヤフラムの一実施形態では、ダイヤフラムは、少なくとも1つの他のコーティングを備える。他のコーティングは、コーティングの金属材料とは反対側に配置される。他のコーティングは、化学量論的酸化物、化学量論的炭化物、または化学量論的窒化物を含む。有利には、コーティングの熱膨張係数は、金属材料の熱膨張係数と他のコーティングの熱膨張係数の中間である。この場合、コーティングは、部分的に接着促進剤層として機能するが、分子状水素および/または原子状水素に対するダイヤフラムの透過性を低下させる役割も依然として果たす。他のコーティングにより、分子状水素および/または原子状水素に対するダイヤフラムの透過性がさらに低下する。化学量論的酸化物、化学量論的窒化物、化学量論的炭化物の耐薬品性は、非化学量論的酸化物、非化学量論的窒化物、非化学量論的炭化物に比べて高く、特に化学的に不活性である。コーティング内の傾斜は、コーティング内の物理的特性が徐々に変化するため有利である。これは、コーティングの応力または亀裂の形成を防止する。他のコーティングと接触する表面では、熱応力下でもひずみを最小限に抑えるようにxとyの比率を選択できる。他のコーティングは、特に化学的に不活性な化学量論的組成を有する。
【0060】
また、コーティングと金属材料との間に、前記のような接着促進剤層を設けることもできる。
【0061】
傾斜を有する非化学量論的酸化物、窒化物、または炭化物のコーティングを有するダイヤフラムの特殊な変形例では、コーティングと金属材料との間の界面から一定の距離を置いて、コーティングが化学量論的酸化物、窒化物、または炭化物に遷移する。
【0062】
傾斜を有する非化学量論的酸化物、窒化物、または炭化物のコーティングを有するダイヤフラムの別の特殊な変形例では、コーティングと金属材料との間の界面から一定の距離を置いて、コーティングがそれぞれの化学量論的酸化物、窒化物、または炭化物に転移する。
【0063】
さらなる一実施形態では、非化学量論的コーティング上に化学量論的な他のコーティングが付けられる。この場合、コーティングの熱膨張係数は、金属材料の熱膨張係数と他のコーティングの熱膨張係数との間にあるのが有利である。
【0064】
さらなる一実施形態では、ダイヤフラムは、少なくとも1つの他のコーティングを備え、第1の他のコーティングは、流体媒体に面するコーティングの側に配置され、各々の追加の他のコーティングは、流体媒体に面する前の他のコーティングの側に配置される。少なくとも1つの他のコーティングは、前記のコーティングと同様に、非化学量論的な炭化物、窒化物、または酸化物を含む。しかしながら、他のコーティングの化学組成は、コーティングの化学組成とは異なる。例えば、コーティングが酸化チタン、窒化チタン、または炭化チタンである場合、他のコーティングは、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、または炭化アルミニウムとすることができる。したがって、隣接する追加のコーティングも異なる化学組成を有する。これには、流体媒体と接触する他のコーティングが流体媒体に適合され、例えば流体媒体に含まれる他の物質に対する耐性を提供することができるという利点がある。コーティングは、金属材料に合わせて調整することもできる。
【0065】
コーティング内に傾斜がある場合とない場合の両方で、非化学量論的酸化アルミニウム(1-y)Al-yAlO(0<x<1.5かつ0<y≦1)のコーティングを有するダイヤフラムの特定の一実施形態では、ダイヤフラムは、少なくとも1つの他のコーティングを備える。他のコーティングは、コーティングの金属材料とは反対側に配置される。追加のコーティングは、化学量論的酸化アルミニウムAlを含む。コーティングの熱膨張係数は、金属材料の熱膨張係数と、他のコーティングの熱膨張係数との間にある。この場合、コーティングは、部分的に接着促進剤層として機能するが、分子状水素および/または原子状水素に対するダイヤフラムの透過性を低下させる役割も依然として果たす。他のコーティングにより、分子状水素および/または原子状水素に対するダイヤフラムの透過性がさらに低下する。
【0066】
傾斜を有する非化学量論的酸化アルミニウム(1-y)Al-yAlO(0<x<1.5かつ0<y≦1)のコーティングを有するダイヤフラムの特殊な変形例では、コーティングと金属材料との間の界面から一定の距離で、コーティングが化学量論的Alに転移する。
【0067】
一実施形態では、ダイヤフラムは、分子状水素および/または原子状水素の透過性を低減するための内部コーティングを備える。内部コーティングは、ダイヤフラムの金属材料の第2の空間内の流体媒体とは反対側に配置される。本実施形態では、内部コーティングは、非化学量論的酸化物、窒化物、または炭化物を含む。コーティングに関してすでに説明したのと同じ酸化物、炭化物、または窒化物が、この目的に対して有利である。これは、コーティングの場合と同じ方法で堆積を実行できることを意味する。内部コーティングは、流体媒体を含む第1の空間からダイヤフラムによって分離された第2の空間が閉じた容積である場合に特に有利である。閉じた容積とは、例えば、トランスデューサのハウジングの内部であり得る。追加の内部コーティングにより、ダイヤフラムを通る分子状水素または原子状水素の拡散がさらに低減し、したがって第2の空間内における水素の蓄積が減少する。これにより、圧力伝達媒体が閉じた容積内に配置された場合にダイヤフラムが膨張するなどの、前記の悪影響が回避される。
【0068】
一実施形態では、内部コーティングは、コーティングの化学組成と同一の化学組成を有し得ないことが可能である。コーティングは、流体媒体と接触するが、内部コーティングは接触しないため、異なるコーティングを選択することができる。例えば、内部コーティングまたはコーティングは、電気的に絶縁されるようにしてもよい。コーティングは、内部コーティングには必要のない他の物質に対する耐性も有し得る。
【0069】
コーティングと同様に、内部コーティングとダイヤフラムの金属材料との間に接着促進剤を任意選択で配置してもよい。
【0070】
本発明はまた、流体媒体の圧力を決定するためのトランスデューサも包含する。トランスデューサは、流体媒体に面する圧力曝露端部を備える。トランスデューサは、ハウジングを備える。トランスデューサは、測定装置を備える。測定装置は、ハウジングの内部に配置される。トランスデューサは、上記の実施形態のいずれかに係るダイヤフラムを備える。第2の空間は、ハウジングの内部の容積に対応する。
【0071】
流体媒体の圧力を決定するための測定装置は、例えば、ダイヤフラムに作用する圧力の関数として圧電電荷を生成する少なくとも1つの圧電結晶である。一実施形態では、圧電結晶は、圧電結晶にプレストレスを加えるプレストレススリーブ内に配置される。したがって、負圧と正圧の両方の変化を検出することができる。あるいはまた、測定装置には、静電容量の変化の形で機械的変形を検出する静電容量測定要素も含まれ得る。
【0072】
あるいはまた、測定装置は、電気抵抗の変化の形で機械的変形を検出する、圧電抵抗測定素子またはひずみゲージ(ストレインゲージとも呼ばれる)を含むこともできる。当業者は、流体媒体の圧力を決定するためにトランスデューサで使用される他の測定装置を認識している。
【0073】
ダイヤフラムは、ハウジングの圧力曝露端部に配置され、測定装置を流体媒体から気密に分離する。ハウジングとダイヤフラムは、材料間結合によって接続されている。材料間結合は、例えば、溶接接続またははんだ付け接続である。接着剤による材料間結合も考えられる。
【0074】
ダイヤフラムは、使用中に流体媒体と接触する第1の領域を備える。ダイヤフラムは、使用中に流体媒体と接触しない第2の領域を備える。材料間結合は、第2の領域内にある。はんだ付け接続または溶接接続として作られた材料間結合では、通常、より多くの亀裂または細孔が発生する。接着剤による材料間結合の場合でも、液体媒体によって接着剤が損傷を受ける可能性がある。したがって、材料間結合は、流体媒体に曝露されない第2の領域内に配置されることが好ましい。
【0075】
コーティングを備えるダイヤフラムの場合、コーティングは、少なくとも第1の領域全体に配置されるが、第2の領域にわたって少なくとも部分的に延びることもできる。
【0076】
第2の領域における流体媒体の腐食性成分の濃度が第1の領域における腐食性成分の濃度の最大1%である場合、第2の領域は、本明細書の意味において流体媒体と接触していない。
【0077】
第1領域と第2領域は、例えばシール要素によって互いに分離され得る。温度範囲と圧力範囲の観点からトランスデューサが使用されるアプリケーションに応じて、銅製ガスケット、1.4404または1.4301鋼製のガスケット、合金のシール要素、または金属コーティングされた合金ガスケットなどの金属ガスケットが使用され得る。プラスチックシールもまた、特定の温度範囲および圧力範囲に対して知られており、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、フルオロエラストマー、またはニトリル化合物で作られたシールがある。シール要素には他の材料も使用できる。
【0078】
好ましくは、このトランスデューサは、流体媒体が腐食性であり、従来のトランスデューサが使用できない場合に、流体媒体の圧力を決定するために使用される。
【0079】
特に好ましくは、トランスデューサは、少なくとも一定量の分子状水素および/または原子状水素を含む流体媒体の圧力を決定するために使用される。水素は、多くの金属材料において、いわゆる水素脆化を引き起こすことが知られており、熱応力および/または機械的応力を受けると水素脆化と降伏強さの低下につながる。上記のトランスデューサは、これらの欠点を大幅に軽減する。
【0080】
説明したトランスデューサのすべての実施形態は、第2の空間内に配置された圧力伝達媒体を含む実施形態として可能である。しかしながら、説明した実施形態はすべて、第2の空間に圧力伝達媒体を配置せずに実行することもできる。
【0081】
本発明はまた、流体媒体の温度を決定するためのトランスデューサも包含する。トランスデューサは、流体媒体に面する圧力曝露端部を備える。トランスデューサは、ハウジングを備える。トランスデューサは、流体媒体の温度を決定するための測定装置を備える。測定装置は、ハウジングの内部に配置されている。トランスデューサは、上記の実施形態のいずれかに係るダイヤフラムを備える。
【0082】
以下、本発明を、図面を参照して例を挙げてさらに詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0083】
図1】本発明に係るダイヤフラムの一実施形態を備えたトランスデューサの一実施形態の概略断面図を示し、任意選択のコーティングが一点鎖線で示されている。
図2】ダイヤフラムの一実施形態の概略断面図を示す。
図3】ダイヤフラムのさらなる一実施形態の概略断面図を示す。
図4】ダイヤフラムのさらなる一実施形態の概略断面図を示す。
図5図3に係るダイヤフラムを備え、壁内に配置されたトランスデューサの一部の概略断面図である。
図6図2に係るダイヤフラムを備え、壁内に配置されたトランスデューサの一部の概略断面図を示す。
図7】ダイヤフラムのさらなる一実施形態の概略断面図を示す。
図8】ダイヤフラムのさらなる一実施形態の概略断面図を示す。
図9】ダイヤフラムのさらなる一実施形態の概略断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0084】
図1は、本発明に係るダイヤフラム2の一実施形態を備えたトランスデューサ1の一実施形態の概略断面図を示しており、任意選択のコーティング4が一点鎖線で示されている。
【0085】
縮尺通りに描かれていない図1の図示において、金属材料3の任意選択のコーティング4が一点鎖線で示されている。図2図6は、図1に示された図示とは異なる以下のダイヤフラム2のコーティングを示す。
【0086】
図2図9のさらなる実施形態では、同じまたは均等な要素には、符号が一貫して使用されている。
【0087】
図2図4は、ダイヤフラム2のさらなる実施形態を示す。ダイヤフラム2の厚さとコーティング4の厚さは、わかりやすくするために正確な縮尺で描かれていない。
【0088】
図5図6は、ダイヤフラム2を備えたトランスデューサ1のさらなる実施形態を示す。ダイヤフラム2の厚さとコーティング4の厚さは、わかりやすくするために正確な縮尺で描かれていない。
【0089】
図1図6のダイヤフラム2は、金属材料3を含み、第1の空間14を第2の空間15から気密に分離する。第1の空間14内に存在する流体媒体13に対して、少なくとも1つの物理変数を決定することができる。物理変数とは、例えば圧力および/または温度である。
【0090】
ダイヤフラム2の表面6は、流体媒体13に面している。ダイヤフラム2は、ダイヤフラム2が使用されているときに流体媒体13と接触する第1の領域9を備える。ダイヤフラム2は、図1図6に示されるように、使用時に流体媒体13と接触しない第2の領域10を備える。
【0091】
有利には、ダイヤフラム2は、薄壁領域21を備える。薄壁領域21は、流体媒体13の圧力を第1の空間14から第2の空間15にできるだけ少ない損失で伝達するために、500μm未満の厚さを有することが好ましい。
【0092】
図1図6に示される実施形態では、ダイヤフラム2は、分子状水素または原子状水素の透過性を低減するためのコーティング4を備えており、このコーティング4は、ダイヤフラム2の金属材料3と流体媒体13との間に、少なくとも使用中に流体媒体13と接触する領域に配置されている。図1でコーティングを表す一点鎖線は、コーティングが任意選択であることを示している。
【0093】
図3および図5に示される実施形態では、ダイヤフラム2は、ダイヤフラム2の金属材料3からのコーティング4の剥離を防止するための接着促進剤層5を備える。
【0094】
図4に係る実施形態では、ダイヤフラム2は、コーティング4の金属材料3とは反対側に配置された他のコーティング4’を備える。
【0095】
図9に係る実施形態では、ダイヤフラム2は、コーティング4の金属材料3とは反対側に配置された少なくとも1つの他のコーティング4’、4’’、4’’’、…を備える。他のコーティング4’、4’’、4’’’、…は、上記のコーティング4と同様の非化学量論的炭化物、窒化物、または酸化物を含む。
【0096】
図7に係る実施形態では、ダイヤフラム2は、例えば、金属材料3の流体媒体13に面する側のコーティング4に加えて、内部コーティング22を備える。内部コーティング22は、ダイヤフラム2の金属材料3の流体媒体13とは反対側の第2の空間15内に配置される。図には示されていないが、他の実施形態でも内部コーティング22が設けられる場合がある。
【0097】
図8に係る実施形態では、ダイヤフラム2は、ダイヤフラム2の金属材料3の流体媒体13に面する側にコーティング4と接着促進剤層5とを備える。ダイヤフラム2の本実施形態は、金属材料3の流体媒体13とは反対側に堆積された接着促進剤層5をさらに備え、この接着促進剤層5は、内部コーティング22を金属材料3に接合する。
【0098】
図1および図5図6は、流体媒体13の圧力を決定するためのトランスデューサ1に導入されたダイヤフラム2の一実施形態をそれぞれ示している。トランスデューサ1は、流体媒体13に面した圧力曝露端部11を備える。トランスデューサ1は、ハウジング7を備える。ハウジング7内には測定装置16が配置されている。図1図5、または図6に係るトランスデューサ1の各々の実施形態は、本発明に係るダイヤフラム2を表す。
【0099】
ダイヤフラム2は、トランスデューサ1の圧力曝露端部11に配置され、測定装置16を流体媒体13から気密に分離する。ハウジング7とダイヤフラム2とは、材料間結合8によって互いに接合されている。ダイヤフラム2は、ダイヤフラム2が使用されているときに流体媒体13と接触する第1の領域9を備える。ダイヤフラム2は、使用時に流体媒体13と接触しない第2領域10を備える。トランスデューサ1が使用されているとき、第1領域9と第2領域10は、シール要素12によって互いに分離されている。図示した実施形態の各々では、材料8間の結合は、第2の領域10に配置されている。
【0100】
しかしながら、材料8間の結合を、流体媒体13と接触する領域9、10に配置することも考えられる。この場合、材料8間の結合は、コーティング4によって完全に覆われるのが有利である。
【0101】
図5および図6は、壁部17に挿入された流体媒体13の圧力を決定するために使用されるトランスデューサ1を示す。例えば、壁部17は、流体媒体13を保持するタンク、コンプレッサ、ヒートポンプ、冷凍機、流体媒体13を輸送するライン、内燃機関の燃焼室、またはガスタービンの壁部17であってもよい。
【0102】
もちろん、本明細書で開示されたダイヤフラム2またはトランスデューサ1の実施形態を互いに組み合わせることも可能である。さらに、本明細書に記載された実施形態の構成の組み合わせを含む実施形態も、本明細書に明示的に包含される。
【符号の説明】
【0103】
1 トランスデューサ
2 ダイヤフラム
3 金属材料
4 コーティング
4’ コーティング
5 接着促進剤層
6 表面
7 ハウジング
8 材料の結合
9 第1の領域
10 第2の領域
11 圧力曝露端部
12 シール要素
13 流体媒体
14 第1の空間
15 第2の空間
16 測定装置
17 壁部
19 界面
21 薄壁領域
22 内部コーティング
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】