(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-29
(54)【発明の名称】ポリウレタンポリマーを含む水性インクジェットインク
(51)【国際特許分類】
C09D 11/322 20140101AFI20241122BHJP
【FI】
C09D11/322
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024535729
(86)(22)【出願日】2022-10-28
(85)【翻訳文提出日】2024-06-14
(86)【国際出願番号】 US2022078849
(87)【国際公開番号】W WO2023114575
(87)【国際公開日】2023-06-22
(32)【優先日】2021-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519372065
【氏名又は名称】デュポン エレクトロニクス インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シャオチン リー
(72)【発明者】
【氏名】ジー イオン ホ
【テーマコード(参考)】
4J039
【Fターム(参考)】
4J039AD03
4J039AD09
4J039AD14
4J039AE04
4J039BE01
4J039BE22
4J039CA06
4J039EA10
4J039EA38
4J039FA02
4J039GA24
(57)【要約】
本開示は、着色剤としての顔料と、ポリマー分散剤と、ポリウレタンバインダーと、水性ビヒクルとを含有する水性インクジェットインクに関する。インクは、低吸収性および非吸収性の基材上への印刷のための改善された特性を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性ビヒクルと、顔料と、ポリウレタンバインダーとを含有する水性インクジェットインクであって;
前記顔料は、ポリウレタンポリマー、アクリルポリマー、加水分解スチレン無水マレイン酸コポリマー、およびそれらの混合物からなる群から選択されるポリマー分散剤によって安定化されており;
前記ポリウレタンバインダーは、ジイソシアネート、28~800のOH価を有する第1のポリジオール、第三級アミンで中和されたカルボキシル基を有する第2のポリジオール、アルカリで中和されたスルホン酸基を有する第3のポリジオールもしくはジアミン、ならびに少なくとも1種のトリオールおよび/もしくは1種のポリアミン、またはこれらの混合物から誘導される単位を含み;
前記水性ビヒクルは、周囲大気圧で230℃より低い沸点を有する1種以上の水溶性有機溶剤を含む、水性インクジェットインク。
【請求項2】
前記ポリマー分散剤は、ポリウレタンポリマーである、請求項1に記載の水性インクジェットインク。
【請求項3】
前記ポリウレタンバインダーは、ジイソシアネート、28~800のOH価を有する第1のポリジオール、第三級アミンで中和されたCOOH基を有する第2のポリジオール、アルカリで中和されたスルホン酸基を有する第3のポリジオール、および少なくとも1種のトリオールから誘導される単位を含む、請求項2に記載の水性インクジェットインク。
【請求項4】
前記ポリウレタンバインダーが、ジイソシアネート、28~800のOH価を有する第1のポリジオール、第三級アミンで中和されたCOOH基を有する第2のポリジオール、アルカリで中和されたスルホン酸基を有する第3のポリジオール、および少なくとも1種のポリアミンから誘導される単位を含む、請求項3に記載の水性インクジェットインク。
【請求項5】
前記ポリウレタンバインダーが、ジイソシアネート、28~800のOH価を有する第1のポリジオール、第三級アミンで中和されたCOOH基を有する第2のポリジオール、アルカリで中和されたスルホン酸基を有するジアミン、ならびに少なくとも1種のトリオールおよび1種のポリアミンから誘導される単位を含む、請求項2に記載の水性インクジェットインク。
【請求項6】
前記ポリマー分散剤は、アクリルポリマーである、請求項1に記載の水性インクジェットインク。
【請求項7】
前記ポリウレタンバインダーが、ジイソシアネート、28~800のOH価を有する第1のポリジオール、第三級アミンで中和されたCOOH基を有する第2のポリジオール、アルカリで中和されたスルホン酸基を有する第3のポリジオール、および少なくとも1種のトリオールから誘導される単位を含む、請求項6に記載の水性インクジェットインク。
【請求項8】
前記ポリウレタンバインダーが、ジイソシアネート、28~800のOH価を有する第1のポリジオール、第三級アミンで中和されたCOOH基を有する第2のポリジオール、アルカリで中和されたスルホン酸基を有する第3のポリジオール、および少なくとも1種のポリアミンから誘導される単位を含む、請求項6に記載の水性インクジェットインク。
【請求項9】
前記ポリウレタンバインダーが、ジイソシアネート、28~800のOH価を有する第1のポリジオール、第三級アミンで中和されたCOOH基を有する第2のポリジオール、アルカリで中和されたスルホン酸基を有するジアミン、ならびに少なくとも1種のトリオールおよび1種のポリアミンから誘導される単位を含む、請求項6に記載の水性インクジェットインク。
【請求項10】
前記ポリマー分散剤がスチレン無水マレイン酸である、請求項1に記載の水性インクジェットインク。
【請求項11】
前記ポリウレタンバインダーが、ジイソシアネート、28~800のOH価を有する第1のポリジオール、第三級アミンで中和されたCOOH基を有する第2のポリジオール、アルカリで中和されたスルホン酸基を有する第3のポリジオール、および少なくとも1種のトリオールから誘導される単位を含む、請求項10に記載の水性インクジェットインク。
【請求項12】
前記ポリウレタンバインダーが、ジイソシアネート、28~800のOH価を有する第1のポリジオール、第三級アミンで中和されたCOOH基を有する第2のポリジオール、アルカリで中和されたスルホン酸基を有する第3のポリジオール、および少なくとも1種のポリアミンから誘導される単位を含む、請求項10に記載の水性インクジェットインク。
【請求項13】
前記ポリウレタンバインダーが、ジイソシアネート、28~800のOH価を有する第1のポリジオール、第三級アミンで中和されたCOOH基を有する第2のポリジオール、アルカリで中和されたスルホン酸基を有するジアミン、ならびに少なくとも1種のトリオールおよび1種のポリアミンから誘導される単位を含む、請求項10に記載の水性インクジェットインク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水性ビヒクルと、顔料と、顔料を分散させるためのポリマー分散剤と、バインダーとしてのポリウレタンポリマーとを含有する水性インクに関する。水性ビヒクルは、周囲大気圧で230℃以下の沸点を持つ有機溶剤を含む。
【背景技術】
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、米国特許法第119条の下、2021年12月14日付けで出願された米国仮特許出願第63/289346号に基づく優先権を主張する。
【0003】
インクジェット印刷は、ノンインパクトデジタル印刷プロセスであり、この場合、紙などの基材にインクの液滴を堆積させて所望の画像を形成する。インクジェットプリンタは、フルカラー印刷については、典型的にはシアンインク、マゼンタインク、イエローインク、および追加のブラックインクを含むインクセット(CMYK)を備えており、ブラックインクが最も一般的なインクである。透明なプラスチックなどの透明基材については、カラー画像を強調するために一般的にはホワイトインクが必要とされる。この場合、インクセットは典型的にはCMYKWインクを含む。
【0004】
インクジェット印刷は、小規模オフィス/ホームオフィス向けの従来のデスクトップ印刷以外の市場で一層重要になっている。デジタル印刷法は、テキスタイル、商業および包装印刷で人気を博しており、スクリーン印刷、オフセット印刷、フレキソおよびグラビア印刷などの従来の印刷方法に比べていくつかの潜在的な利点をもたらす。インクジェットデジタル印刷は、スクリーンおよび版の製造に関連するセットアップ費用をなくし、費用効果の高い短期間の生産を可能にする可能性がある。これらの新たな用途におけるインクジェットの拡大により、コート紙、コート段ボール、および紙器などの低吸収性基材、ならびにビニル、ポリスチレン、およびポリプロピレンの板、ならびに可撓性のポリプロピレン、ポリエステル、ナイロン、ポリエチレンのフィルムなどの非吸収性プラスチック基材に直接印刷するニーズをもたらした。普通紙や特殊なインクジェット用紙と比較すると、低吸収性および非吸収性の基材にはインクがほとんどまたはまったく浸透しないため、乾燥が遅くなり、画質が低下し、使用前に印刷が互いにくっついてしまう。これらの欠点は、特に高速で印刷を行うときに特に悪化する。これらの問題に対処することを目的として、水性インクの揮発性と乾燥速度を改善するために、低沸点の水溶性有機溶剤をインクに配合することができる。ただし、速く揮発する水性インクは噴射性の問題に直面する傾向がある。これは、印刷ヘッドが長時間アイドル状態またはキャップなしで放置され、インクの速い乾燥および固化の結果として印刷ヘッドのノズルが部分的に詰まった後にインクが噴射される場合に特に問題になる。さらに、低吸収性および非吸収性の基材上への商業印刷および包装印刷用途のためのインクには、溶剤負荷を軽減してより速い乾燥速度と汚れや染みに対する耐性などの耐久性要件とを実現するために、典型的にはポリマーバインダーが配合されている。ポリマーバインダーを含むインクでは、インクが膜を形成しやすく、ノズル周りで詰まりやすくなるため、噴射の信頼性がさらに低下する。一方で、顔料とポリマーとを主成分として含む固化したインクが、バルクインクにより容易に再溶解または再分散できれば、インクのプライミングまたはフラッシングのプロセスで詰まったノズルを回復させることができ、信頼性の高い噴射が可能になる。
【0005】
米国特許第8636839号明細書には、画像の高い耐擦傷性および耐マーカー性、ならびに優れたインク吐出安定性を実現することができるインクジェットインクが開示されている。このインクは、20mgKOH/g~100mgKOH/gの範囲の酸価を有するポリウレタンポリマーを含有し、ポリイソシアネートと、ポリオールと、カルボキシ基を有する化合物と、スルホ基を有する化合物とから誘導される単位を含む。この文献では、そのポリウレタンポリマーと特定の水溶性有機溶剤との組み合わせは教示されていない。
【0006】
信頼性の高い噴射性能のために良好な再分散特性を有しながらも、低吸収性および非吸収性の基材上でより速い乾燥および画像耐久性を提供することができる、インクジェットインクが求められている。本開示は、特定のポリウレタンバインダーと、周囲大気圧で230℃以下の沸点を有する溶剤との組み合わせを有するインク組成物を提供することによって、この要求を満たす。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施形態は、水性ビヒクルと、顔料と、ポリウレタンバインダーとを含有する水性インクジェットインクであって;顔料が、ポリウレタンポリマー、アクリルポリマー、加水分解スチレン無水マレイン酸コポリマー、およびそれらの混合物からなる群から選択されるポリマー分散剤によって安定化されており;ポリウレタンバインダーが、ジイソシアネート、28~800のOH価を有する第1のポリジオール、第三級アミンで中和されたカルボキシル基を有する第2のポリジオール、アルカリで中和されたスルホン酸基を有する第3のポリジオールもしくはジアミン、ならびに少なくとも1種のトリオールおよび/もしくは1種のポリアミン、またはこれらの混合から誘導される単位を含み;水性ビヒクルが、周囲大気圧で230℃より低い沸点を有する1種以上の水溶性有機溶剤を含む、水性インクジェットインクを提供する。
【0008】
別の実施形態は、ポリマー分散剤がポリウレタンポリマーであることを提供する。
【0009】
別の実施形態は、ポリウレタンバインダーが、ジイソシアネート、28~800のOH価を有する第1のポリジオール、第三級アミンで中和されたCOOH基を有する第2のポリジオール、アルカリで中和されたスルホン酸基を有する第3のポリジオール、および少なくとも1種のトリオールから誘導される単位を含むことを提供する。
【0010】
別の実施形態は、ポリウレタンバインダーが、ジイソシアネート、28~800のOH価を有する第1のポリジオール、第三級アミンで中和されたCOOH基を有する第2のポリジオール、アルカリで中和されたスルホン酸基を有する第3のポリジオール、および少なくとも1種のポリアミンから誘導される単位を含むことを提供する。
【0011】
別の実施形態は、ポリウレタンバインダーが、ジイソシアネート、28~800のOH価を有する第1のポリジオール、第三級アミンで中和されたCOOH基を有する第2のポリジオール、アルカリで中和されたスルホン酸基を有するジアミン、ならびに少なくとも1種のトリオールおよび1種のポリアミンから誘導される単位を含むことを提供する。
【0012】
別の実施形態は、ポリマー分散剤がアクリルポリマーであることを提供する。
【0013】
さらに別の実施形態は、ポリマー分散剤が加水分解スチレン無水マレイン酸(SMA)コポリマーであることを提供する。
【0014】
本実施形態のこれらおよび他の特徴および利点は、以下の詳細な記載を読むことで当業者によってより容易に理解されるであろう。明確化のために別々の実施形態として前述および後述される、開示される実施形態の特定の特徴は、単一の実施形態において組み合わせでも提供され得る。反対に、単一の実施形態に関連して記載される、開示される実施形態の様々な特徴は、別々にまたは任意の部分組み合わせでも提供され得る。
【発明を実施するための形態】
【0015】
特に明記または定義しない限り、本明細書において使用される全ての技術用語および科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者によって一般に理解されている意味を有する。
【0016】
特に明記されない限り、全てのパーセント、部、比などは、重量基準である。
【0017】
量、濃度または他の値またはパラメーターが上位の好ましい値および下位の好ましい値の範囲、好ましい範囲またはリストとして与えられる場合、これは、範囲が別個に開示されているかどうかにかかわらず、任意の上位範囲限界または好ましい値と、任意の下位範囲限界または好ましい値との任意の対から形成される全ての範囲を具体的に開示していると理解されるべきである。ある範囲の数値が本明細書において列挙される場合、特に明記しない限り、その範囲は、その終点ならびにその範囲内の全ての整数および分数を含むことを意図する。
【0018】
「約」という用語が範囲の値または端点を表すのに使用される場合、本開示は、言及される具体的な値または端点を含むと理解されるべきである。
【0019】
本明細書において使用される場合、「分散物」という用語は、1つの相がバルク物質全体に分布している微細粒子(多くの場合にコロイドの大きさの範囲において)からなる2相系を意味し、粒子は、分散された相または内相であり、バルク物質は、連続相または外相である。
【0020】
本明細書において使用される場合、「分散剤」という用語は、多くの場合、コロイドの大きさの極めて微細な固体粒子の均一且つ最大の分離を促進するために懸濁媒体に加えられる界面活性剤を意味する。顔料の場合、分散剤は、最も多くの場合、ポリマー分散剤であり、通常、分散剤および顔料は、分散装置を使用して混ぜ合わされる。
【0021】
本明細書において使用される場合、「水性ビヒクル」という用語は、水または水と少なくとも1つの水溶性もしくは部分的に水溶性(即ちメチルエチルケトン)の有機溶剤(共溶剤)との混合物を指す。
【0022】
本明細書において使用される場合、「実質的に」という用語は、相当な程度、ほとんど全てであることを意味する。
【0023】
本明細書において使用される場合、「ダイン/cm」という用語は、表面張力単位である1センチメートル当たりのダインを意味する。
【0024】
本明細書において使用される場合、「cP」という用語は、粘度単位であるセンチポアズを意味する。
【0025】
明確に述べられる場合のみを除いて、本明細書における材料、方法および例は、例示的なものにすぎず、限定することを意図しない。
【0026】
加えて、文脈上特に明記されない限り、単数形での言及は、複数形を含み得る(例えば、「1つの(a)」および「1つの(an)」は、1つまたは1つ以上を指し得る)。
【0027】
インクセット
「インクセット」という用語は、インクジェットプリンタが噴射のために備える全ての個々のインクまたは他の流体を指す。カラーインクを印刷した後に画像を印刷するために使用される白色インクまたはカラーインクを印刷する前に印刷するために使用される白色インクは、インクセットの一部とみなされる。
【0028】
1つの好ましい実施形態では、インクセットは、少なくとも2つの異なる色のインクジェットインクを含み、そのうちの少なくとも1つは、上記のような白色顔料系インクジェットインクである。
【0029】
別の好ましい実施形態では、インクセットは、少なくとも4つの異なる色のインクジェットインクを含み、少なくとも1つは、シアンのインクジェットインクであり、少なくとも1つは、マゼンタのインクジェットインクであり、少なくとも1つは、イエローのインクジェットインクであり、少なくとも1つは、白色インクジェットインクである。
【0030】
直前に記載したカラーインクジェットインクに加えて、インクセットにブラックインクジェットインクを含めることも好ましい。
【0031】
上記のCMYKWインクに加えて、インクセットは、更なる異なる色のインクならびにCMYKWおよびその他のインクの異なる強度のバージョンを含有し得る。
【0032】
例えば、本発明のインクセットは、インクセットにおけるインクの1つ以上の最大強度のバージョンおよびその「軽量」バージョンを含むことができる。
【0033】
インクジェットインクセットの更なる色には、例えば、オレンジ、バイオレット、グリーン、レッドおよび/またはブルーが含まれる。
【0034】
好ましいインクセットインクは、顔料系インクである。
【0035】
顔料
カラー画像を印刷するために使用される着色剤は、染料または顔料であり得る。染料には、分散染料、反応性染料、酸性染料などが含まれる。本明細書において使用される場合、「顔料」という用語は、分散剤で分散され、分散剤の存在下において分散条件下で処理されることを必要とする不溶性着色剤を意味する。顔料系インクが好ましい。
【0036】
使用するのに適した顔料は、水性インクジェットインクにおいて当技術分野で一般によく知られているものである。選択された顔料は、乾燥形態または湿潤形態で使用され得る。例えば、顔料は、通常、水性媒体中で製造され、得られた顔料は、水で湿潤されたプレスケーキとして得られる。プレスケーキの形態では、顔料は、乾燥形態で凝集する程度に凝集しない。このため、水で湿潤されたプレスケーキの形態の顔料は、予備混合プロセスにおいて脱凝集するために、乾燥形態での顔料と同程度に多くの混合エネルギーを必要としない。代表的な市販の乾燥顔料は、米国特許第5,085,698号明細書に列挙されている。
【0037】
インクジェットインクに有用な着色特性を有する顔料のいくつかの例には、これらに限定されないが、以下が含まれる:ピグメントブルー15:3およびピグメントブルー15:4のシアン顔料、ピグメントレッド122およびピグメントレッド202のマゼンタ顔料、ピグメントイエロー14、ピグメントイエロー74、ピグメントイエロー95、ピグメントイエロー110、ピグメントイエロー114、ピグメントイエロー128およびピグメントイエロー155のイエロー顔料、ピグメントオレンジ5、ピグメントオレンジ34、ピグメントオレンジ43、ピグメントオレンジ62、ピグメントレッド17、ピグメントレッド49:2、ピグメントレッド112、ピグメントレッド149、ピグメントレッド177、ピグメントレッド178、ピグメントレッド188、ピグメントレッド254、ピグメントレッド184、ピグメントレッド264およびピグメントレッドPV19のレッド顔料、ピグメントグリーン1、ピグメントグリーン2、ピグメントグリーン7およびピグメントグリーン36のグリーン顔料、ピグメントブルー60、ピグメントバイオレット3、ピグメントバイオレット19、ピグメントバイオレット23、ピグメントバイオレット32、ピグメントバイオレット36およびピグメントバイオレット38のブルー顔料ならびにブラック顔料カーボンブラック。本明細書において使用される顔料名および省略形は、Society of Dyers and Colourists,Bradford,Yorkshire,UKによって確立され、The Color Index,Third Edition,1971で公開された顔料の「C.I.」表示である。
【0038】
白色材料の例としては、これらに限定されないが、酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、酸化アンチモンおよび酸化ジルコニウムなどの白色無機顔料が挙げられる。このような白色無機顔料の他に、白色中空樹脂粒子およびポリマー粒子などの白色有機顔料も使用することができる。水性顔料系白色インクに好ましい顔料は、二酸化チタンである。有用な二酸化チタン(TiO2)顔料は、ルチルまたはアナターゼ結晶形態であり得る。それは、一般的に、塩化物プロセスまたは硫酸塩プロセスのいずれかによって作製される。塩化物プロセスでは、TiCl4が酸化されてTiO2粒子になる。硫酸塩プロセスでは、硫酸と、チタンを含有する鉱石とが溶解され、得られた溶液は、一連の工程を経てTiO2を生成する。硫酸塩と塩化物のプロセスの両方は、「The Pigment Handbook」,Vol.1,2nd Ed.,John Wiley&Sons,NY(1988)により詳細に記載されており、その関連する開示は、完全に説明されているかのように、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0039】
二酸化チタン粒子は、インクの所望の最終用途に応じて、約1ミクロン以下の多様な平均粒子サイズを有することができる。高い隠蔽または装飾印刷用途を要求する用途の場合、二酸化チタン粒子は、好ましくは、約1ミクロン(1000ナノメートル)未満の平均サイズを有する。好ましくは、粒子は、約50~約950ナノメートル、より好ましくは約75~約750ナノメートル、さらにより好ましくは約100~約500ナノメートルの平均サイズを有する。これらの二酸化チタン粒子は、一般的に、顔料性TiO2と呼ばれる。
【0040】
ある程度の透明性を備えた白色を要求する用途では、顔料として「ナノ」二酸化チタンが好ましい。「ナノ」二酸化チタン粒子は、典型的には、約10~約200ナノメートル、好ましくは約20~約150ナノメートル、より好ましくは約35~約75ナノメートルの範囲の平均サイズを有する。ナノ二酸化チタンを含むインクは、光による退色に対する良好な耐性および適切な色相角を依然として維持しながら、彩度および透明度を向上させることができる。コーティングされていないナノグレードの酸化チタンの市販の例は、Degussa(Parsippany N.J.)から入手可能なP-25である。
【0041】
二酸化チタン顔料は、実質的に純粋な二酸化チタンであり得る、またはシリカ、アルミナおよびジルコニアなどの他の金属酸化物を含み得る。他の金属酸化物は、例えば、チタン化合物を他の金属化合物と共酸化または共沈殿させることにより、顔料粒子に組み込まれ得る。共酸化または共沈殿された金属が存在する場合、それらは、二酸化チタン顔料の総重量に基づいて、金属酸化物として約0.1重量%~約20重量%、より好ましくは約0.5重量%~約5重量%、さらにより好ましくは約0.5重量%~約1.5重量%の量で存在することが好ましい。
【0042】
二酸化チタン顔料は、1つ以上の金属酸化物表面コーティングを有することもできる。これらのコーティングは、当業者に知られている技術を使用して塗布することができる。金属酸化物コーティングの例には、とりわけ、シリカ、アルミナ、アルミナシリカ、ボリアおよびジルコニアが含まれる。このようなコーティングは、二酸化チタン顔料の総重量に基づいて任意選択で約0.1重量%~約10重量%、好ましくは約0.5重量%~約3重量%の量で存在することができる。これらのコーティングは、二酸化チタンの光反応性を低減するなど、改善された特性を提供することができる。このようなコーティングされた二酸化チタンの商業的な例には、R700(アルミナコーティングされている、Chemours,Wilmington Del.から入手可能)、RDI-S(アルミナコーティングされている、Kemira Industrial Chemicals,Helsinki,Finlandから入手可能)、R706(Chemours,Wilmington Del.から入手可能)およびW-6042(Tayco Corporation,大阪,日本のシリカアルミナ処理されたナノグレード二酸化チタン)が含まれる。
【0043】
二酸化チタン顔料は、例えば、カルボン酸、シラン、シロキサンおよび炭化水素ワックスならびに二酸化チタン表面とのこれらの反応生成物など、1つ以上の有機表面コーティングを有することもできる。有機表面コーティングの量は、存在する場合、顔料の総重量に基づいて一般に約0.01重量%~約6重量%、好ましくは約0.1重量%~約3重量%、より好ましくは約0.5重量%~約1.5重量%、さらにより好ましくは約1重量%の範囲である。
【0044】
ポリマー分散剤
従来、顔料は、ポリマー分散剤または界面活性剤などの分散剤によって安定化されて、ビヒクル中での顔料の安定な分散を生成する。しかし、より最近では、いわゆる「自己分散性」または「自己分散」顔料(以下では「SDP」)が開発されている。その名称が示すように、SDPは、分散剤なしで水中に分散可能である。
【0045】
非自己分散顔料のためのポリマー分散剤は、ランダムまたは構造化ポリマーであり得る。典型的には、アクリル系ポリマー分散剤は、疎水性モノマーと親水性モノマーのコポリマーである。使用される疎水性モノマーのいくつかの例は、メチルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、2-フェニルエチルメタクリレートおよび対応するアクリレートである。親水性モノマーの例は、例えば、メタクリル酸、アクリル酸、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートおよびこれらの塩である。また、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートの四級塩を使用することもできる。「ランダムポリマー」は、それぞれのモノマーの分子がポリマー骨格においてランダムに配列されているポリマーを意味する。適切なランダムポリマー分散剤の参照については、米国特許第4,597,794号明細書を参照されたい。「構造化ポリマー」は、ブロック、分岐、グラフトまたはスター構造を有するポリマーを意味する。構造化ポリマーの例としては、米国特許第5,085,698号明細書に開示されるものなどのABまたはBABブロックコポリマー、欧州特許第0556649号明細書に開示されるものなどのABCブロックコポリマー、および米国特許第5,231,131号明細書に開示されるものなどのグラフトポリマーが挙げられる。使用することができる他のポリマー分散剤は、例えば、米国特許第6,117,921号明細書、米国特許第6,262,152号明細書、米国特許第6,306,994号明細書および米国特許第6,433,117号明細書に記載されている。
【0046】
「ランダムポリマー」には、ポリウレタンも含まれる。特に有用なものは、米国特許出願公開第2012/0214939号明細書に開示されているポリウレタン分散剤であり、このポリウレタン分散剤は、顔料を分散させた後に架橋されて顔料分散物を形成する。この関連する開示は、参照により完全に記載されているかのようにあらゆる目的のために本明細書に組み込まれる。
【0047】
別の適切なタイプのポリマー分散剤は、スチレン無水マレイン酸(SMA)コポリマーである。「スチレン無水マレイン酸コポリマー」または「SMAコポリマー」は、スチレンと、無水マレイン酸モノマーと、任意選択的な1種以上の追加のコモノマーとから形成されるポリマーである。コポリマーは、0.2~5、好ましくは0.5~2のスチレン/無水マレイン酸繰り返し単位のモル比を有することができる。分散剤は、通常SMAコポリマーの加水分解された溶液の形態である。加水分解された溶液は、好ましくは、アルカリ水溶液に溶解したSMAコポリマーを含む。SMAコポリマーは水に溶けにくいため、アルカリ水溶液はSMAコポリマーを加水分解するのに有用である。アルカリ溶液のヒドロキシルイオンは、無水物の環上のカルボニル炭素を加水分解するかこれと反応して、炭素-酸素単結合を開裂させる。反応により無水物環が開き、一酸基が形成される。SMAコポリマーを溶解するために使用されるアルカリ水溶液は、好ましくは、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、または有機アミンから調製される。本発明に適した加水分解されたSMAコポリマー溶液としては、商品名XIRAN(登録商標)SLとしてPolyscope Polymersから市販されているものが挙げられる。
【0048】
着色された顔料分散物
添加されたポリマー分散剤によって安定化される着色顔料分散物は、当技術分野で知られている方法によって調製することができる。一般に、安定化された顔料を濃縮された形態にすることが望ましい。安定化された顔料は、最初に、選択された顔料とポリマー分散剤とを水性担体媒体(水および任意選択で水混和性溶剤など)中で予備混合し、次いで顔料を分散または解膠することによって調製される。予備混合工程は、一般に、攪拌混合容器内で行われ、高速分散機(HSD)が混合工程に特に適している。HSDに取り付けられた、500rpm~4000rpm、より典型的には2000rpm~3500rpmで作動するCowels型のブレードは、所望の混合を実現するために最適なせん断を提供する。十分な混合は、通常、上記の条件下で15~120分間混合した後に達成される。後続の分散工程は、2ロールミル、媒体ミル、水平ミニミル、ボールミル、磨砕機においてまたは混合物を液体ジェット相互作用チャンバー内の複数のノズルに少なくとも5,000psiの液体圧力で通過させ、水性担体媒体(マイクロフルイダイザー)において顔料粒子の均一な分散物を生成することによって達成することができる。代わりに、濃縮物は、ポリマー分散剤および顔料を加圧下で乾式粉砕することによって調製することができる。媒体ミルの媒体は、ジルコニア、YTZおよびナイロンなどの一般的に入手可能な媒体から選択される。これらの様々な分散プロセスは、米国特許第5,022,592号明細書、同第5,026,427号明細書、同第5,310,778号明細書、同第5,891,231号明細書、同第5,976,232号明細書、および米国特許出願公開第20030089277号明細書に例示されるように、一般的な意味において当技術分野でよく知られている。これらの刊行物のそれぞれの開示は、完全に説明されているかのように、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる。2ロールミル、媒体ミルおよび混合物を少なくとも5,000psiの液圧で液体ジェット相互作用チャンバー内の複数のノズルに通すことによることが好ましい。
【0049】
粉砕プロセスが完了した後、着色顔料濃縮物を水系に「レットダウンする」ことができる。「レットダウンする」とは、混合または分散による濃縮物の希釈を指し、混合/分散の強度は、通常、従来の方法論を使用した試行錯誤によって決定され、多くの場合、ポリマー分散剤、溶剤および顔料の組み合わせに依存する。
【0050】
分散後の有用な粒子サイズの範囲は、典型的には、約0.005マイクロメートル~約15マイクロメートルである。典型的には、顔料粒子サイズは、約0.005マイクロメートル~約5マイクロメートル、特に約0.005マイクロメートル~約1マイクロメートルの範囲であるべきである。動的光散乱によって測定される平均粒子サイズは、約500nm未満、典型的には約300nm未満である。
【0051】
白色顔料分散物
着色された顔料において記載されている1つ以上の分散剤も、二酸化チタンを安定化するために使用される。一般に、安定化されたTiO2顔料を濃縮スラリーの形態で作製することが望ましい。TiO2スラリーは、一般に、攪拌されている混合容器内で行われ、高速分散機(HSD)が混合工程に特に適している。HSDに取り付けられた、500rpm~4000rpm、より典型的には2000rpm~3500rpmで作動するCowels型のブレードは、所望の混合を実現するために最適なせん断を提供する。十分な混合は、通常、上記の条件下で15~600分間混合した後に達成される。スラリー組成物中に存在する二酸化チタンの量は、好ましくは、スラリーの総重量に基づいて約35重量%~約80重量%、より好ましくはスラリーの総重量に基づいて約50重量%~約75重量%である。二酸化チタンは、好ましくは、50~500nmの範囲、より好ましくは150~350nmの範囲である50%の平均粒子サイズ(以下では「D50」と呼ぶ)を有する。これらの範囲内のD50を有する二酸化チタンは、印刷されたフィルムが画像の十分な不透明度を示すことを可能にし、これは、高品質の画像の形成を可能にする。
【0052】
着色顔料の場合、インクは、インクの総重量に基づいて約30重量%まで、好ましくは約0.1~約25重量%、より好ましくは約0.25~約10重量%の顔料を含有し得る。TiO2顔料などの無機顔料が選択される場合、インクは、着色顔料を使用する同等のインクよりも高い重量パーセントの顔料を含有する傾向があり、無機顔料は、一般に、有機顔料よりも比重が高いため、場合により約75%にもなることがある。
【0053】
顔料分散物の形成後のポリマー分散剤の後改質
顔料を分散させるポリマー分散剤は、それがインクジェットインクに含まれる前に、顔料分散物が調製されて架橋された顔料分散物を形成した後、架橋され得る。架橋性ポリマー分散剤は、アセトアセトキシ、酸、アミン、エポキシ、ヒドロキシル、ブロックイソシアネートおよびこれらの混合物からなる群から選択される架橋性部位で置換されたポリマーである。架橋剤は、アセトアセトキシ、酸、アミン、無水物、エポキシ、ヒドロキシル、イソシアネート、ブロックイソシアネートおよびこれらの混合物からなる群から選択される。架橋工程では、顔料を分散させた後、顔料分散物に架橋剤を加えて、混合物を高温で数時間加熱することにより架橋が行われる。架橋工程後、限外濾過などの精製プロセスにより過剰のポリマーを除去することができる。架橋部位/架橋剤の対の具体的な例は、ヒドロキシル/イソシアネートおよび酸/エポキシである。
【0054】
インクバインダー
バインダーは、インク配合物に添加されるポリマー化合物またはポリマー化合物の混合物である。バインダーは例えば印刷された材料により大きな耐久性を与えるなど、最終的に印刷された材料に特性を付与することができる。インクジェットインクにおけるバインダーとして使用される典型的なポリマーとしては、ポリウレタン分散物およびポリウレタン溶液、アクリル、スチレンアクリル、スチレンブタジエン、スチレンブタジエンアクリロニトリル、ネオプレン、エチレンアクリル酸、エチレン酢酸ビニルエマルジョン、ラテックスなどのポリマーが挙げられる。バインダーは、溶液であり得るか、またはカルボン酸、硫黄含有酸、アミン基および他の類似のイオン性基などのイオン性置換基を有することによってエマルジョンとして安定化され得る。典型的には、バインダーは、前述のポリマー分散剤と異なり、着色剤に非反応性である。バインダーは、典型的には、顔料分散物の調製中ではなく、最終配合段階中にインクに加えられる。
【0055】
本開示において、インクバインダーは、水性ポリウレタン分散液、より具体的には、水溶液中で酸形態および中和されたイオン形態の両方のカルボキシル官能基およびスルホン酸官能基で安定化されている分岐ポリウレタンコロイド粒子である。分岐ポリウレタンポリマーを含むインクジェットインクは、印刷画像の良好な耐水性能を維持しながらも、乾燥時に優れた水への再分散性を有することが見出されている。ポリウレタンポリマーの量は、典型的には、インクの総重量に基づいて約0.05重量%~約20重量%の範囲である。より典型的には、その量は、インクの総重量に基づいて約1重量%~約12重量%の範囲である。
【0056】
酸および中和されたイオン形態の両方のカルボキシル官能基およびスルホン酸官能基で安定化された分岐ポリウレタンコロイド粒子は、イソシアネート、カルボキシおよび/またはカルボキシレート(カルボキシ/カルボキシレート)置換基を有するイソシアネート反応性化合物、スルホン酸および/またはスルホネート(スルホン酸/スルホネート)置換基を有するイソシアネート反応性化合物、ならびにイオン性またはイオン化可能な置換基を有さないイソシアネート反応性化合物から誘導される。ポリマー鎖成長のための分岐点を導入するために、イソシアネートは、ジイソシアネートと3個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネートとの混合物であることができ;イオン性またはイオン化可能な置換基を有さないイソシアネート反応性化合物は、2個のイソシアネート反応性基を有する化合物と3個以上のイソシアネート反応性基を有する化合物との混合物であることができる。一実施形態では、ポリウレタンポリマーは、ジイソシアネート、28~800のOH価を有する第1のポリジオール、第三級アミンで中和されたカルボキシル基を有する第2のポリジオール、アルカリで中和されたスルホン酸基を有する第3のポリジオールもしくはジアミン、または少なくとも1種のトリオールもしくは1種のポリアミン、またはそれらの混合物から誘導される。
【0057】
適切なジイソシアネートは、イソシアネート基に結合した芳香族基、脂環式基、または脂肪族基のいずれかを含むものである。これらの化合物の混合物を使用することもできる。適切なジイソシアネートの例としては、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサン-1,3-および1,4-ジイソシアネート;1-イソシアナト-3-イソシアナトメチル-3,5,5-トリメチル-シクロヘキサン(イソホロンジイソシアネート);ビス-(4-イソシアナトシクロヘキシル)-メタン;1,3-および1,4-ビス-(イソシアナトメチル)-シクロヘキサン;1-イソシアナト-2-イソシアナトメチルシクロペンタン;2,4’-ジイソシアナト-ジシクロヘキシルメタン;ビス-(4-イソシアナト-3-メチル-シクロヘキシル)-メタン、α,α,α’,α’-テトラメチル-1,3-および/または1,4-キシリレンジイソシアネート;1-イソシアナト-1-メチル-4(3)-イソシアナトメチルシクロヘキサン;ならびに2,4-および/または2,6-ヘキサヒドロトルイレンジイソシアネートが挙げられる。これらの中でも、黄変防止の観点から、脂肪族ジイソシアネート、具体的にはイソホロンジイソシアネートおよび1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートが好ましく使用される。
【0058】
分岐ポリウレタンを製造するために、3つ以上のイソシアネートを含む追加のイソシアネート、またはポリメリックイソシアネートが使用されてもよい。トリイソシアネートとしては、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート三量体およびイソホロンジイソシアネート三量体が挙げられる。製造段階中のポリマーのゲル化を避けるためには、ポリメリックイソシアネート由来のイソシアネートのモル数は、典型的にはジイソシアネートのモル数の25%未満、好ましくは20%未満である。
【0059】
本発明で使用するための第2のポリジオールおよび第3のポリジオールまたはジアミンの例には、水相中でポリウレタン粒子を安定化することができる、ポリウレタンポリマー中の親水性セグメントを構成するイオン性のおよび/またはイオン化可能な置換基を有するイソシアネート反応性化合物が含まれる。これらの化合物は、通常、1つまたは2つ、より好ましくは2つのイソシアネート反応性基、例えばヒドロキシ基またはアミノ基、ならびにカルボキシル基/カルボキシレート基および/またはスルホン酸基/スルホネート基であってよい少なくとも1つのイオン性基および/またはイオン化可能な基を含む。本開示では、第2のポリジオールであるカルボキシ/カルボキシレート基を有するイソシアネート反応性化合物、および第3のポリジオールまたはジアミンであるスルホン酸/イオン性のスルホネート基を有するイソシアネート反応性化合物のいずれも、ポリウレタンポリマーを製造するために使用される。ポリウレタンバインダー中のイオン性基およびイオン化可能な基のモル%は、酸価(AN)によって測定される。ANは、当業者に知られているように、ポリウレタンポリマー1グラム(g)を中和するのに必要な水酸化カリウムのミリグラムで表される。乾燥後の耐水性を維持しながらもインクの再分散性を改善してポリウレタン粒子を水中で安定化させるためには、カルボキシ/カルボキシレート基とスルホン酸/スルホネート基の両方からの合計のANは、8~65、より好ましくは10~55、最も好ましくは15~50の範囲である。カルボキシ/カルボキシレートのAN対スルホン酸/スルホネートのANの比は、典型的には6:1~1:1、より好ましくは5:1~2:1の範囲であり、最も好ましくは4:1~2.5:1である。
【0060】
第2のポリジオールの例は、式(HO)xQ(COOH)yに対応するヒドロキシカルボン酸であり、式中、Qは1~12個の炭素原子を含む直鎖または分岐の炭化水素ラジカルを表し、xは1または2(好ましくは2)であり、yは1~3(好ましくは1または2)である。特に好ましい酸は、xが2であり、yが1である上記式の酸である。これらのジヒドロキシアルカン酸は、米国特許第3412054号明細書に記載されており、その開示は、完全に記載されているかのように、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる。特に好ましいジヒドロキシアルカン酸は、下記構造式で表されるα,α-ジメチロールアルカン酸である:
【0061】
【0062】
(式中、Q’は、水素またはC1~C8アルキルである)。最も好ましい化合物は、α,α-ジメチロールプロピオン酸、すなわち上の式においてQ’がメチルである化合物である。
【0063】
スルホン酸/硫酸基を含む適切な第3のポリジオールおよびジアミンは、1つまたは2つのイソシアネート反応性ヒドロキシ基またはアミノ基と、少なくとも1つのスルホン酸/スルホネート基とを有するヒドロキシスルホン酸またはアミノスルホン酸/スルホネートである。例としては、限定するものではないが、2-(ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ)エタンスルホン酸、2-[(2-アミノエチル)アミノ]エタンスルホン酸ナトリウム、2-(2-アミノエチルアミノ)エタンスルホン酸、3-[(2-アミノエチル)アミノ]プロパンスルホン酸、ポリプロピレングリコールジアミンスルホプロピル化ナトリウム塩、タウリン、3-アミノプロパン-1-スルホン酸ナトリウム、6-アミノ-1-ヘキサンスルホン酸、および2-(メチルアミノ)エタンスルホン酸が挙げられる。
【0064】
ポリウレタン粒子を水相中で安定化させるためには、カルボキシレートイオン基およびスルホネートイオン基を形成するためのカルボキシ基およびスルホン酸基の中和剤が必要である。酸基をアニオン性塩基に変換するための中和剤の例としては、アルカリ金属カチオン(K+、Li+、Na+)、トリアルキル置換第三級アミン、例えばトリエチルアミン、トリプロピルアミン、ジメチルシクロヘキシルアミン、ジメチルエチルアミン、および4-メチルモルホリンオキシド、置換アミン、例えばジエチルエタノールアミン、ジエタノールメチルアミンが挙げられる。変換は、ポリマー合成後に行われてもよく、或いはモノマー段階でのポリマー合成の前に行われてもよい。酸基に対する中和剤のモル比は、好ましくは50%~100%の範囲であり、より好ましくは少なくとも60%である。
【0065】
適切な第1のポリジオールは、低分子量モノマー、および約100~約4000の分子量または28~800の範囲のヒドロキシ価を有する高分子ジオールを含む、2つのヒドロキシ基を有する化合物である。低分子量ジオールの例としては、1,3-プロパンジオール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ヒドロキノンビス(2-ヒドロキシエチル)エーテル、およびビスフェノールAが挙げられる。高分子ジオールの例としては、ポリエステル、ポリエーテル、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリ(メタ)アクリレート、ポリアミド、または混合ポリマー、例えばエステル結合とカーボネート結合の両方が同じポリマー中に存在するポリエステル-ポリカーボネート、同様にエーテル結合とカーボネート結合の両方が同じポリマー中に存在するポリエーテル-ポリカーボネートが挙げられる。典型的な高分子ジオールは、約250~約3000、好ましくは約600~約2000の範囲の数平均分子量を有する。これらのジオールの任意の組み合わせも使用することができる。
【0066】
トリメチロールプロパンおよびポリエーテルトリオール、例えばArcol(登録商標)ポリエーテルトリオールなど、ポリウレタン化学で一般的に知られているトリヒドロキシ(トリオール)またはそれ以上の官能基(ポリオール)を有する化合物を第1のポリジオール化合物と混合することで、分岐ポリウレタン構造が得られる。ポリウレタン製造プロセス中のゲル化を避けるためには、トリオールおよびポリオール由来のヒドロキシのモル数は、ジオール化合物のヒドロキシモル数の30%未満、好ましくは25%未満、最も好ましくは20%未満でなければならない。
【0067】
アミノ基を有する適切な化合物は、典型的にはジアミンまたはポリアミン鎖延長剤である。一般的な例としては、1-アミノ-3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、ビス-(4-アミノ-シクロヘキシル)-メタン、ビス-(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)-メタン、1,6-ジアミノヘキサン、ヒドラジン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタアミン、ペンタエチレンヘキサミン、またはそれらの混合物が挙げられる。ポリウレタンの分岐の程度は、ポリアミンの量、および混合物を使用する場合にはジアミンに対するポリアミンの比率によって調整することができる。
【0068】
分岐ポリウレタンとは、3本以上のポリマー鎖が一点で結合した直鎖ではない鎖構造を有するポリウレタンを指す。カルボキシ/カルボキシレート基とスルホン酸/スルホネート基の両方によって安定化された適切な分岐ポリウレタン粒子は、典型的には、上述したような、イソシアネートと、イオン性の/イオン化可能な置換基を有するイソシアネート反応性化合物と、イオン性の/イオン化可能な置換基を有さないイソシアネート反応性化合物とから合成される。ポリウレタンの分岐を達成する手段は、通常、3つ以上の反応部位を有する3種の化合物のうちの少なくとも1つに依存する。各反応性化合物で1つまたは2つの反応部位しか利用できない場合、直鎖ポリウレタンのみが製造される。分岐技術の例としては、限定されるものではないが、以下のものが挙げられる:
(a)イソシアネートが、例えば1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート三量体およびイソホロンジイソシアネート三量体を含むポリイソシアネート三量体などの少なくとも3つのイソシアネート基を有する;
(b)イソシアネート反応性化合物が、トリオールやポリアミンなどの少なくとも3つの反応性基を有する。トリオールの例としては、トリメチロールプロパンおよびポリエーテルトリオール、例えばArcol(登録商標)ポリエーテルトリオールなどが挙げられる。ポリアミンの例としては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタアミン、ペンタエチレンヘキサアミンなどが挙げられる;
(c)上記方法(a)と(b)の任意の組み合わせ。
【0069】
望まれる特性、特にインクの再分散性と耐水性の間のバランスのとれた性能を達成するためのポリウレタンの分岐の程度は、広範囲にわたって変化し得る。ポリウレタン製造のプロセスにおけるゲル化または過剰な分岐を避けるためには、ポリメリックイソシアネートからのイソシアネートのモル数は、典型的にはジイソシアネートのモル数の25%未満、好ましくは20%未満である。また、トリオールおよびポリオールからのヒドロキシのモル数は、ジオール化合物のヒドロキシのモル数の30%未満、好ましくは25%未満、最も好ましくは20%未満でなければならない。
【0070】
本明細書に記載の技術に基づいて、当業者は、日常的な実験により、効果的なインクジェットインクを得るために、具体的な種類のポリウレタンに必要な分岐の程度を決定することができる。
【0071】
インクビヒクル
本開示の顔料入りインクは、水性キャリア媒体としても知られるインクビヒクル、典型的には水性インクビヒクルを含む。
【0072】
インクビヒクルは、水性分散物および任意選択の添加剤のための液体担体(または媒体)である。「水性インクビヒクル」という用語は、水または水と、共溶剤もしくは保湿剤と一般に言われる1つ以上の有機の水溶性ビヒクル成分との混合物からなるインクビヒクルを指す。適切な混合物の選択は、所望の表面張力および粘度、選択される顔料分散液およびインクバインダーとの安定性、インクジェットインクの乾燥時間、ならびにインクが印刷される媒体の種類など、具体的な用途の要件に依存する。
【0073】
水溶性有機溶剤および保湿剤の例としては、アルコール、ケトン、ケト-アルコール、エーテルおよびその他、例えばチオジグリコール、スルホラン、2-ピロリジン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンおよびカプロラクタム;グリコール、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、トリメチレングリコール、ブチレングリコールおよびヘキシレングリコール;オキシエチレンまたはオキシプロピレンの付加ポリマー、例えばポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールなど;トリオール、例えばグリセロールおよび1,2,6-ヘキサントリオール;多価アルコールの低級アルキルエーテル、例えばエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル;多価アルコールの低級ジアルキルエーテル、例えばジエチレングリコールジメチルまたはジエチルエーテル;尿素および置換された尿素が挙げられる。
【0074】
本開示では、インクビヒクルは、周囲大気圧で沸点が230℃以下の溶剤を含むことによって迅速に乾燥するように製造された。当業者は、本明細書の開示に基づいて適切に選択することができる。そのような溶剤としては、通常、限定するものではないが、アルカンジオールおよびグリコールエーテルのタイプが挙げられる。沸点が230℃以下の典型的なアルカンジオール系溶剤としては、限定するものではないが、メチルペンタンジオール、エチレングリコール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、および3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールが挙げられる。沸点が230℃以下の典型的なグリコールエーテル系溶剤としては、限定するものではないが、プロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールn-プロピルエーテル、プロピレングリコールn-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールn-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールn-ブチルエーテル、トリプロピレングリコールn-プロピルエーテル、トリプロピレングリコールn-ブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、およびジプロピレングリコールメチルエーテルアセテートが挙げられる。
【0075】
添加されるグリコールエーテル(類)およびアルカンジオール(類)の量は、インクの総重量に基づいて、典型的には1重量%~30重量%、より典型的には2重量%~20重量%の範囲である。
【0076】
水、界面活性剤、殺生物剤、およびバッファーを除いた全溶剤の総計は、典型的にはインクの総重量に基づいて45重量%未満、より典型的にはインクの総重量に基づいて35重量%未満、最も典型的にはインクの総重量に基づいて30重量%未満である。
【0077】
界面活性剤
通常、表面張力および湿潤特性を調整するためにインクに界面活性剤が添加される。適切な界面活性剤としては、エトキシル化アセチレンジオール(例えば、Evonikから市販されているSurfynol(登録商標)シリーズ)、エトキシル化アルキル一級アルコール(例えば、Shellから市販されているNeodol(登録商標)シリーズ)および二級アルコール(例えば、Dow Chemicalから市販されているTergitol(登録商標)シリーズ)、スルホスクシネート(例えば、Cytecから市販されているAerosol(登録商標)シリーズ)、有機シリコーン(例えば、Evonikから市販されているDYNOL(商標)、TEGO(登録商標)Wetシリーズ)、ならびにフルオロ界面活性剤(例えば、Chemoursから市販されているCAPSTONE(商標)シリーズ)が挙げられる。界面活性剤は、典型的には、インクの総重量に基づいて約3重量%までの量、より典型的には2重量%までの量で使用される。
【0078】
他の成分、添加剤は、こうした他の成分がインクジェットインクの安定性および噴射性を妨げない程度でインクジェットインクに配合され得る。これは、当業者により、日常の実験によって容易に決定され得る。
【0079】
エチレンジアミン四酢酸、イミノ二酢酸、エチレンジアミン-ジ(o-ヒドロキシフェニル酢酸)、ニトリロトリ酢酸、ジヒドロキシエチルグリシン、トランス-1,2-シクロヘキサンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン-N,N,N’,N’’,N’’-五酢酸およびグリコレテルジアミン-N,N,N’,N’-四酢酸ならびにこれらの塩などの封止(またはキレート)剤を含むことは、例えば、重金属不純物の有害作用を除去するために有益であり得る。微生物の増殖を阻害するために殺生物剤が使用され得る。
【0080】
インク特性
噴射速度、液滴の分離長さ、液滴サイズ、および流れ安定性は、インクの表面張力および粘度に非常に影響を受ける。典型的には、顔料系インクジェットインクは、25℃で約20ダイン/cm~約45ダイン/cmの範囲の表面張力を有する。粘度は、25℃で30cPと高い場合があるが、典型的にはかなりより低く、より典型的には25℃で10cP未満である。インクは、広範囲の放出条件、即ちピエゾ素子の駆動周波数またはドロップオンデマンド型デバイスもしくは連続デバイスにおけるサーマルヘッドの放出条件ならびにノズルの形状およびサイズと適合する物理的特性を有する。インクは、インクジェット装置においてかなりの程度詰まらないように長期間かけて優れた貯蔵安定性を有さなければならない。さらに、インクは、インクジェット印刷装置のパーツを腐食してはならず、且つ本質的に無臭且つ無毒でなければならない。インクの好ましいpHは、約6.5~約8.5の範囲である。
【0081】
基材
本開示のインクは、あらゆる基材に制限なく印刷することができる。本開示のインクは、低吸収性媒体および非吸収性媒体への印刷に最も有利である。低吸収性媒体としては、典型的には、疎水性コーティング層の1つ以上の層のカレンダー加工および/または適用に起因して低い表面多孔度を有するコート紙、コート段ボール、コートカートン、および紙器が挙げられる。非吸収性基材は、典型的には、様々な厚さおよび可撓性を有するアクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、およびポリオレフィンのパネルまたはフィルムなどのプラスチック基材を意味する。インクの定着性および付着性能を向上させるために、印刷前に全ての基材にプライマー処理やコロナ処理などの一般的な表面処理が行われてもよい。
【0082】
印刷
本方法は、インクの吸収が少ない、または全くない基材をデジタル印刷することに関する。典型的には、これは以下の工程を含む:
(1)デジタルデータ信号に応答するインクジェットプリンタを提供する工程;
(2)印刷すべき基材をプリンタに装填する工程;
(3)デジタルデータ信号に応答して、上述したインクまたはインクジェットインクセットを任意の順序でプリンタに装填する工程;および
(4)デジタルデータ信号に応答して、白色インクジェットインクの後にインクジェットインクまたはインクジェットインクセットを使用して基材に印刷する工程。
【0083】
白インクを最初に背景画像として印刷し、続いてカラーインクを印刷することも、或いは反転印刷のために最初にカラーインクを印刷してから白インクで被覆することもできる。カラーインク同士の間、または白インクとカラーインクとの間の乾燥は任意選択的である。
【0084】
印刷は、低吸収性および非吸収性の基材の取り扱いと印刷用に装備された任意のインクジェットプリンタで実行することができる。顔料系インクで印刷されたフィルムは、印刷後に高温で乾燥される。乾燥温度の範囲は、プリンタおよび乾燥機の設計とライン速度によって異なり、印刷されたフィルムの完全性を損なうほどには高すぎない。通常、乾燥温度は120℃以下、好ましくは100℃以下、より好ましくは95℃以下である。
【実施例】
【0085】
本発明を以下の実施例によりさらに例示するが、本発明はこれらに限定されず、特に注釈しない限り、部およびパーセントは重量基準である。
【0086】
成分および略語
DMPA=ジメチロールプロピオン酸
EDA=エチレンジアミン
IPDI=イソホロンジイソシアネート
TEA=トリエチルアミン
DETA=ジエチレントリアミン
MEK=メチルエチルケトン
TMP=トリメチロールプロパン
DMEA=ジメチルエタノールアミン
CHDM=1,4-シクロヘキサンジメタノール
DBTL=ジブチルスズジラウレート
【0087】
特に明記しない限り、上述の化学物質は、Aldrich(Milwaukee,WI)または他の同様の研究用薬品の供給業者から入手した。
Terathane(登録商標)T650-Invista(Wilmington,DE)のポリエーテルポリオール
Vestamin(登録商標)A95-Evonik(Essen,Germany)の固形分50%の2-[(2-アミノエチル)アミノ]エタンスルホン酸ナトリウム水溶液
Eternacoll(登録商標)UC-100およびUH-200-UBE industries(Tokyo,Japan)のポリカーボネートポリオール
Surfynol(登録商標)440および420-Evonik(Essen,Germany)の非イオン性界面活性剤
TEGO(商標)Wet 280-Evonik(Essen,Germany)のシリコーン界面活性剤
【0088】
シアン顔料分散物
シアン分散液は、その開示が完全に記載されているかのようにあらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2012/0214939号明細書に開示されている手順を用いて調製した。シアンTRB2顔料を用い、分散剤を、顔料を分散させた後に架橋した。
【0089】
インクポリウレタンバインダー
Comp.PU-1
添加漏斗と、コンデンサーと、スターラーと、窒素ガスラインとを備えた乾燥したアルカリおよび酸を含まないフラスコに、15.8gのCHDM、104.7gのTerathane T650、4.0gのTMP、および118gのアセトンを加えた。内容物を40℃に加熱し、よく混合した。次いで、120gのIPDIを、40℃で5分間かけて添加漏斗を介してフラスコに加え、残りのIPDIを、添加漏斗から2gのアセトンでフラスコにすすぎ入れた。
【0090】
フラスコ温度を50℃に上げ、240分間保持し、次いで15.8gのDMPA、続いて11gのTEAを添加漏斗を介してフラスコに加え、その後添加漏斗を2gのアセトンですすいだ。次いで、フラスコ温度を再び50℃に上げ、NCO%が2.0%以下になるまで50℃で保持した。
【0091】
50℃の温度で、570gの脱イオン(DI)水を10分かけて加え、続いて38gのEDA水溶液(10%水溶液として)を、添加漏斗を介して5分かけて加えた。混合物を50℃で1時間保持し、次いで室温に冷却した。
【0092】
アセトン(約122.0g)を真空下で除去し、約30.0重量%の固形分のポリウレタンの最終分散物を得た。
【0093】
Comp.PU-2
添加漏斗と、コンデンサーと、スターラーと、窒素ガスラインとを備えた乾燥したアルカリおよび酸を含まないフラスコに、824gのEternacoll UC-100および835gのアセトンを加えた。内容物を40℃に加熱し、よく混合した。次いで、202gのIPDIを、40℃で5分間にわたり添加漏斗を介してフラスコに加え、残りのIPDIを、添加漏斗から10gのアセトンでフラスコにすすいだ。
【0094】
フラスコ温度を50℃に上げ、120分間保持し、次いで104gのDMPA、続いて70gのTEAを添加漏斗を介してフラスコに加え、その後添加漏斗を10gのアセトンですすいだ。次いで、フラスコ温度を再び50℃に上げ、NCO%が1.5%以下になるまで50℃で保持した。
【0095】
50℃の温度で、2750gの脱イオン(DI)水を10分かけて加え、続いて35.5gのEDA水溶液(6.25%水溶液として)を、添加漏斗を介して5分かけて加えた。混合物を50℃で1時間保持し、次いで室温に冷却した。
【0096】
アセトン(約855.0g)を真空下で除去し、約30.0重量%の固形分のポリウレタンの最終分散物を得た。
【0097】
Comp.PU-3
添加漏斗と、コンデンサーと、スターラーと、窒素ガスラインとを備えた乾燥したアルカリおよび酸を含まないフラスコに、824gのEternacoll UC-100および835gのアセトンを加えた。内容物を40℃に加熱し、よく混合した。次いで、202gのIPDIを、40℃で5分間にわたり添加漏斗を介してフラスコに加え、残りのIPDIを、添加漏斗から10gのアセトンでフラスコにすすいだ。
【0098】
フラスコ温度を50℃に上げ、120分間保持し、次いで104gのDMPA、続いて70gのTEAを添加漏斗を介してフラスコに加え、その後添加漏斗を10gのアセトンですすいだ。次いで、フラスコ温度を再び50℃に上げ、NCO%が1.5%以下になるまで50℃で保持した。
【0099】
50℃の温度で、2750gの脱イオン(DI)水を10分かけて加え、続いて35.5gのEDA水溶液(6.25%水溶液として)を、添加漏斗を介して5分かけて加えた。混合物を50℃で1時間保持し、次いで室温に冷却した。
【0100】
アセトン(約855.0g)を真空下で除去し、約30.0重量%の固形分のポリウレタンの最終分散物を得た。
【0101】
本発明のPU-1
添加漏斗と、コンデンサーと、スターラーと、窒素ガスラインとを備えた乾燥したアルカリおよび酸を含まないフラスコに、31gのCHDM、204gのTerathane T650、8gのTMP、10.5gのTEA、および225gのアセトンを加えた。内容物を40℃に加熱し、よく混合した。次いで、234gのIPDIを、40℃で5分間かけて添加漏斗を介してフラスコに加え、残りのIPDIを、添加漏斗から10gのアセトンでフラスコにすすぎ入れた。
【0102】
フラスコ温度を50℃に上げ、300分間保持し、次いで31gのDMPA、続いて10.5gのTEAを添加漏斗を介してフラスコに加え、その後添加漏斗を10gのアセトンですすいだ。次いで、フラスコ温度を再び50℃に上げ、NCO%が2.2%以下になるまで50℃で保持した。
【0103】
別の容器内で、25.5gのタウリンを25.4gの45重量%のKOH溶液および51gの脱イオン(DI)水に溶解することによってタウリン水溶液を調製した。
【0104】
50℃の温度で、1084gの脱イオン(DI)水を10分かけて加え、続いて上で調製した102gのタウリン水溶液を添加漏斗を介して5分間かけて加えた。混合物を50℃で1時間保持し、次いで室温に冷却した。
【0105】
アセトン(約245.0g)を真空下で除去し、約30.0重量%の固形分のポリウレタンの最終分散物を得た。
【0106】
本発明のPU-2
添加漏斗と、コンデンサーと、スターラーと、窒素ガスラインとを備えた乾燥したアルカリおよび酸を含まないフラスコに、31gのCHDM、204gのTerathane T650、8gのTMP、10.5gのTEA、および225gのアセトンを加えた。内容物を40℃に加熱し、よく混合した。次いで、234gのIPDIを、40℃で5分間かけて添加漏斗を介してフラスコに加え、残りのIPDIを、添加漏斗から10gのアセトンでフラスコにすすぎ入れた。
【0107】
フラスコ温度を50℃に上げ、300分間保持し、次いで31gのDMPA、続いて10.5gのTEAを添加漏斗を介してフラスコに加え、その後添加漏斗を10gのアセトンですすいだ。次いで、フラスコ温度を再び50℃に上げ、NCO%が2.2%以下になるまで50℃で保持した。
【0108】
50℃の温度で、1084gの脱イオン(DI)水を10分かけて加え、続いて上で調製した43gのVestamin A95溶液を添加漏斗を介して5分間かけて加えた。混合物を50℃で1時間保持し、次いで室温に冷却した。
【0109】
アセトン(約245.0g)を真空下で除去し、約30.0重量%の固形分のポリウレタンの最終分散物を得た。
【0110】
本発明のPU-3(D201308-322)
添加漏斗と、コンデンサーと、スターラーと、窒素ガスラインとを備えた乾燥したアルカリおよび酸を含まないフラスコに、280gのEternacoll UC-100、4gのTMP、10gのTEA、および287gのアセトンを加えた。内容物を40℃に加熱し、よく混合した。次いで、162gのIPDIを、40℃で5分間かけて添加漏斗を介してフラスコに加え、残りのIPDIを、添加漏斗から10gのアセトンでフラスコにすすぎ入れた。
【0111】
フラスコ温度を50℃に上げ、120分間保持し、次いで35gのDMPA、続いて13.5gのTEAを添加漏斗を介してフラスコに加え、その後添加漏斗を10gのアセトンですすいだ。次いで、フラスコ温度を再び50℃に上げ、NCO%が1.4%以下になるまで50℃で保持した。
【0112】
50℃の温度で、28gのVestamin A95溶液を5分間かけて添加漏斗を介して加え、続いて950gの脱イオン(DI)水を10分間かけて加え、続いて28gのDETA水溶液(10%水溶液として)を添加漏斗を介して5分間かけて加えた。混合物を50℃で1時間保持し、次いで室温に冷却した。
【0113】
アセトン(約307.0g)を真空下で除去し、約35.0重量%の固形分のポリウレタンの最終分散物を得た。
【0114】
PU-4からPU-9までの他の全ての本発明のPUDタイプのポリマーは、下の表1に列挙される成分を用いて、本発明のPU-3の調製と同様のプロセスを使用して製造した。
【0115】
【0116】
インク配合物
実施例で使用したインクは、インクジェット技術分野における標準的な手順に従って作製した。成分量は最終的なインクの重量%である。ポリマーバインダーおよび着色剤は固形分基準で示されている。インク調製の例として、インクビヒクルを調製し、撹拌しながら水性インクバインダーに添加した。均一な混合物が得られるまで撹拌した後、溶液を顔料分散物に加え、再び均一になるまで混合した。溶剤と界面活性剤の異なる組み合わせを用いた3つのシアンインク配合物A、B、およびCを調製した。様々な比較および本発明のPUを使用した最終インクは、これら3つのインク配合物から製造した。試験した全てのインクの組成を以下の表2~6に示す。
【0117】
【0118】
【0119】
【0120】
【0121】
【0122】
インクの再分散性試験
インク再分散性は、最初に、スライドガラスで裏張りされたBytac VF-81フィルムの上に手動シングルチャンネルピペットでインクを一滴垂らすことによって評価した。Bytac VF-81フィルムは、Poestenkill,NYのSaint-Gobair Performance Plastics製であり、裏面に感圧接着剤を有するビニールフィルムで支持されたFEPフィルムである。インクの液滴サイズと表面積が全ての試験で一定になるように、Bytacの非湿潤フィルムを選択した。この試験では、インク液滴の重量は約40mgに維持され、液滴のサイズは直径約5mmであった。インク液滴を50℃で20分間乾燥した後、乾燥したインクが付着したスライドガラスを直ちに50mlの脱イオン水に浸漬した。30分間浸漬した後、インクの再分散性の評価を以下の通りに決定した:
1. インクが完全に溶解し、粒子がまったくないか、またはほとんどない
2. ある程度の粒子またはある程度の小さな固体の塊が存在する
3. かなりの数の固体の塊が存在する
4. 溶解していない塊としてインクが乾燥する
【0123】
乾燥および耐水性試験
DuPont Taijing Filmの透明なPETフィルムであるMylar MLBTを、ワイヤーサイズ5.0のGardcoフィルムアプリケーターロッド(Paul N.Gardner Inc.,Florida,USA)を使用して表4および表5のインク配合物Aシリーズおよびインク配合物Bシリーズでコーティングし、固形分と粘度に応じて10~15ミクロンで変動する乾燥厚さを有するコーティングを形成した。全ての上記インクコーティングは、65℃の対流式オーブンで3分間乾燥させた。表6のインク配合物Cシリーズは、インクを後に90℃の対流式オーブンで2分間乾燥させた以外は同じプロセスを使用して、Styrex(登録商標)ポリスチレンパネル基材に塗布した。
【0124】
インク配合物Aシリーズの乾燥の程度は、綿棒を使用してインクをにじませることで評価した。インクが抵抗なく50%より多くにじんで汚れた場合、評価を悪いとした。インクのにじみによる汚れが約30%以下の場合、評価をよいとした。
【0125】
インク配合物Bおよびインク配合物Cシリーズの耐水性は、水に浸したペーパータオルを使用して軽い圧力でインクをにじませることによって評価した。耐水性の評価は、以下の基準を使用して決定した:
1. インクが完全に損なわれていなかった
2. わずかに色移りがあるものの、インクは依然として損なわれていなかった
3. インクが擦れて色移りがあった
4. インクが擦れて大きな色移りがあり、基材が見える
5. インクが完全に除去された
【0126】
インク配合物Aシリーズおよびインク配合物Bシリーズのインクの再分散性および乾燥の程度が下の表7にまとめられている。インク溶剤としてグリセロールを含むComp.InkA-1およびComp.Ink-2は、InkB-1およびInkB-2と比較してインクの再分散性に優れていたものの、両方のインクで乾燥性は悪かった。室温で1週間保管した後であってもインクはまだ乾燥していなかった。グリセロールを含まないInk B-1およびInk B-2は、オーブン乾燥直後に優れた乾燥特性を有していた。
【0127】
【0128】
インク配合物Bシリーズのインク再分散性および耐水性が下の表8にまとめられている。スルホネート官能基を持たないComp.PU-1およびComp.PU-2を含むComp.InkB-1およびComp.InkB-2 は不十分なインク再分散性を有していた一方で、本発明のインクInk B-3、B-4、B-5、B-6、およびB-7は、全て改善された再分散性と優れた耐水性を有していた。
【0129】
【0130】
インク配合物Cシリーズの再分散性および耐水性が下の表9にまとめられている。バインダーとして分岐がないComp.PU-3を含むComp.InkC-1は、インクの再分散性はよいものの、耐水性が劣る結果となった。
【0131】
【国際調査報告】