(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-29
(54)【発明の名称】コラーゲン繊維の製造方法、コラーゲン繊維及び応用
(51)【国際特許分類】
D01F 4/00 20060101AFI20241122BHJP
【FI】
D01F4/00 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024538346
(86)(22)【出願日】2022-11-07
(85)【翻訳文提出日】2024-06-21
(86)【国際出願番号】 CN2022130397
(87)【国際公開番号】W WO2023138166
(87)【国際公開日】2023-07-27
(31)【優先権主張番号】202210081156.1
(32)【優先日】2022-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524236954
【氏名又は名称】浙江啓宏新材料科技有限責任公司
(74)【代理人】
【識別番号】100230086
【氏名又は名称】譚 粟元
(72)【発明者】
【氏名】戚 宇峰
(72)【発明者】
【氏名】何 文広
(72)【発明者】
【氏名】張 懐▲ソウ▼
【テーマコード(参考)】
4L035
【Fターム(参考)】
4L035AA04
4L035BB03
4L035BB14
4L035BB16
4L035BB22
4L035CC01
4L035EE08
(57)【要約】
コラーゲン繊維の製造方法、コラーゲン繊維及び応用を開示する。コラーゲン繊維の製造方法は、(1)紡糸原液の製造ステップであって、コラーゲン原料をpHが3.5~5.5の溶解液に浸漬して溶解した後、pHを9.9~12.5に調整し、紡糸原液を形成するステップと、(2)一次繊維の製造ステップであって、紡糸原液をpHが4.4~6.8の凝固浴に入れて凝固して紡糸し、一次繊維を形成するステップと、を含む。複数回のpH調整によりコラーゲンの塩析環境を形成し、湿式紡糸により紡糸性を有するコラーゲン繊維を得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)紡糸原液の製造ステップであって、
コラーゲン原料をpHが3.5~5.5の溶解液に浸漬して溶解した後、pHを9.9~12.5に調整して、紡糸原液を形成するステップと、
(2)一次繊維の製造ステップであって、
紡糸原液をpHが4.4~6.8の凝固浴に入れて凝固して紡糸し、一次繊維を形成するステップとを含む、
ことを特徴とするコラーゲン繊維の製造方法。
【請求項2】
前記凝固浴は、重量パーセントで、タンパク質固化剤8~12%、脱水剤36~47%、pH調整剤0.8~3%という物質を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記凝固浴は、重量パーセントで、タンパク質固化剤8~12%、脱水剤36~47%、pH調整剤0.8~3%、亜鉛塩1.2~5%という物質を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記脱水剤は、強電解質塩である、
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記脱水剤は、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩のうちの1種又は複数種の混合物である、
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の製造方法。
【請求項6】
前記ナトリウム塩は、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、硝酸ナトリウムのうちの1種又は複数種の混合物である、
ことを特徴とする請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記カリウム塩は、硫酸カリウム、塩化カリウム、硝酸カリウムのうちの1種又は複数種の混合物である、
ことを特徴とする請求項5に記載の製造方法。
【請求項8】
前記アンモニウム塩は、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウムのうちの1種又は複数種の混合物である、
ことを特徴とする請求項5に記載の製造方法。
【請求項9】
前記pH調整剤は、強酸である、
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の製造方法。
【請求項10】
前記pH調整剤は、硫酸、塩酸、硝酸のうちの1種又は複数種の混合物である、
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の製造方法。
【請求項11】
前記亜鉛塩は、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、硝酸亜鉛のうちの1種又は複数種の混合物である、
ことを特徴とする請求項3に記載の製造方法。
【請求項12】
前記溶解液は、プロテアーゼと水とを含み、前記プロテアーゼと水との質量比は、(0.2~0.5):(6~10)である、
ことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項13】
前記コラーゲン原料と、プロテアーゼと、水との質量比は、(1~2):(0.2~0.5):(6~10)である、
ことを特徴とする請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
前記プロテアーゼは、ペプシン、トリプシン、パパインのうちの1種又は複数種の混合物である、
ことを特徴とする請求項12に記載の製造方法。
【請求項15】
前記溶解液は、弱酸でpHを調整する、
ことを特徴とする請求項12に記載の製造方法。
【請求項16】
前記弱酸は、カルボン酸である、
ことを特徴とする請求項15に記載の製造方法。
【請求項17】
ステップ(1)では、強塩基で紡糸原液のpHを調整する、
ことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項18】
前記コラーゲン原料は、トロポコラーゲン原料を炭酸ナトリウム溶液に浸漬する方法で製造される、
ことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項19】
前記トロポコラーゲン原料は、動物の腱、皮膚、靭帯のうちの1種又は複数種の混合物に由来する、
ことを特徴とする請求項18に記載の製造方法。
【請求項20】
ステップ(2)では、一次繊維を凝固浴槽に入れ、紡糸速度:離浴速度を(1~1.5):(0.5~0.9)としてマイナスドラフトする、
ことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項21】
請求項1~20のいずれか一項に記載の製造方法で製造される、
ことを特徴とするコラーゲン繊維。
【請求項22】
請求項21に記載のコラーゲン繊維の応用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、新規材料の技術分野に関し、より具体的には、コラーゲン繊維の製造方法、コラーゲン繊維及び応用に関する。
【背景技術】
【0002】
コラーゲンは、タンパク質の一種であり、α-アミノ酸からなり、主に動物の皮、骨、歯、腱、靭帯及び血管に存在し、結合組織の重要な構成物質及び機能物質である。
【0003】
コラーゲンの基本構造単位のトロポコラーゲン分子は、直径が約115nmで、長さが約280~300nmで、相対分子量が30kDa程度である。コラーゲンは、3本の棒状超らせん構造であり、3本のα鎖ポリペプチドからなり、各コラーゲン鎖は、いずれも左巻きらせん構造をとる。3本のポリペプチド鎖は、更に水素結合で互いに噛み合い、分子構造が非常に安定した右巻きらせん構造を形成する。コラーゲン独特の棒状らせん構造及びコラーゲンペプチド鎖間には、イオン結合、水素結合、ファンデルワールス力及び非極性基による疎水結合などの作用力が存在する。
【0004】
コラーゲン分子は、超分子形態に自己組織化することができ、この自己組織化は、4分の1ずつ千鳥状に配列された5つの三重らせんコラーゲン分子によって形成され、D周期帯状の空間を有するように高度に配向されており、各D周期は、約67nmである。テロペプチドは、長さが約20個のアミノ酸残基の非らせん領域からなり、原繊維の形成に重要な役割を果たし、架橋によって成熟したコラーゲン分子を形成する。
【0005】
原繊維形成コラーゲンは、I、II、III、V及びXI型コラーゲンを含む。これらのコラーゲンは、直径が25nm~400nmである4分の1ずつ千鳥状に配列された原繊維配列の典型的な超微細構造を有する、高度に配向された超分子凝集物に自己組織化されることを特徴とする。I型コラーゲンは、最も豊富で研究が多いコラーゲンである。
【0006】
大部分のI型コラーゲンは、動物の腱、皮膚、靭帯、角膜において架橋構造を呈しており、かつ架橋度の高い繊維の形態で存在するため、それらが互いに交差して網状構造を形成し、このタイプのコラーゲンは、基本的に水に溶けない。
【0007】
湿式紡糸プロセスにおいて、紡糸液を溶解脱泡濾過した後、紡糸孔から押し出し、そのまま凝固浴に入れて、引っ張り、水洗し、乾燥させ、巻き取って成形する。しかしながら、湿式紡糸は、紡糸原液の性能に対する要求が高く、紡糸原液の品質も原糸を得るための必要条件であり、紡糸、凝固、ドラフトなどの工程を経た後の紡糸原液の原糸破断強度が1.99cN/dtex未満であれば、基本的に紡糸性がない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
紡糸性を有するコラーゲン繊維を製造し、コラーゲン繊維の工業生産を実現するために、本願は、コラーゲン繊維の製造方法、コラーゲン繊維及び応用を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1態様では、本願は、以下の技術手段を用いるコラーゲン繊維の製造方法を提供する。
【0010】
コラーゲン繊維の製造方法は、
(1)紡糸原液の製造ステップであって、
コラーゲン原料をpHが3.5~5.5の溶解液に浸漬して溶解した後、pHを9.9~12.5に調整して、紡糸原液を形成するステップと、
(2)一次繊維の製造ステップであって、
紡糸原液をpHが4.4~6.8の凝固浴に入れて凝固して紡糸し、一次繊維を形成するステップとを含む。
【0011】
上記技術手段を用いることにより、コラーゲン原料を酸性溶解液に溶解した後、酸性溶解液を塩基性に調整すると、酸塩基溶液が反応して塩を生成して、コラーゲンの塩析環境を提供し、更に、塩基性の紡糸原液が酸性凝固浴に入ると、再び酸塩基溶液が反応して塩を生成し、コラーゲンの塩析環境を提供し、コラーゲンを紡糸原液から迅速に析出させ、固化して一次繊維を成形し、一般的なウェットドラフト、ドライドラフト、ヒートセットなどの後処理を経て、原糸破断強度が1.99cN/dtexよりも大きいコラーゲン繊維を得ることができ、即ち、紡糸性を有するコラーゲン繊維を得ることができる。
【0012】
コラーゲンの等電点は、凝固浴のpHが4.4~6.8の範囲内にあり、等電点とは、コラーゲン表面の正味電荷がゼロとなるpHであるため、紡糸原液がpHがコラーゲン等電点である凝固浴に入ったとき、コラーゲンの溶解度が最も小さく、コラーゲンがより容易に凝集して沈殿することにより、塩析を促進し、繊維に迅速に固化する。
【0013】
したがって、本願は、溶解液のpHと、紡糸原液のpHと、凝固浴のpHとの協働により、コラーゲンを塩析させて、紡糸性を有するコラーゲン繊維に迅速に固化する。また、本願は、毒性のある架橋剤を追加する必要がなく、反応速度がより速く、連続生産に適応する。
【0014】
好ましくは、前記凝固浴は、重量パーセントで、タンパク質固化剤8~12%、脱水剤36~47%、pH調整剤0.8~3%という物質を含む。
【0015】
上記技術手段を用いることにより、タンパク質固化剤は、コラーゲンを凝固させることができる。脱水剤は、塩析効果を更に向上させることができ、一方では、タンパク質と水分子を争奪し、タンパク質コロイド粒子表面の水膜を破壊し、他方では、タンパク質粒子上の電荷を大量に中和することにより、水中のタンパク質粒子を蓄積させて沈殿析出させる。pH調整剤は、凝固浴のpHをコラーゲンの等電点に調整することにより、コラーゲンがより容易に凝集して沈殿する。
【0016】
好ましくは、前記凝固浴は、重量パーセントで、タンパク質固化剤8~12%、脱水剤36~47%、pH調整剤0.8~3%、亜鉛塩1.2~5%という物質を含む。
【0017】
上記技術手段を用いることにより、脱水剤がナトリウム塩又はカリウム塩である場合、紡糸原液の凝固浴での分散が速すぎるため、一次繊維の剛性が大きすぎ、後続の繊維が脆くなり、紡糸性に不利である。亜鉛塩を添加すると、ナトリウム、カリウムイオンが迅速に分散するのを緩和し、繊維の引張性能を向上させることができる。
【0018】
好ましくは、前記脱水剤は、強電解質塩である。
【0019】
上記技術手段を用いることにより、強電解質塩は、水中で完全に電離することができるため、コラーゲンと水分を十分に争奪して、水中のコラーゲンをより容易に沈殿析出させることができる。
【0020】
好ましくは、前記脱水剤は、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩のうちの1種又は複数種の混合物である。
【0021】
上記技術手段を用いることにより、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩は、容易に入手でき、工業生産に便利である。
【0022】
好ましくは、前記ナトリウム塩は、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、硝酸ナトリウムのうちの1種又は複数種の混合物である。
【0023】
好ましくは、前記カリウム塩は、硫酸カリウム、塩化カリウム、硝酸カリウムのうちの1種又は複数種の混合物である。
【0024】
好ましくは、前記アンモニウム塩は、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウムのうちの1種又は複数種の混合物である。
【0025】
好ましくは、前記pH調整剤は、強酸である。
【0026】
上記技術手段を用いることにより、強酸が塩基性の紡糸原液と塩を生成しやすいため、凝固浴の塩濃度を向上させ、塩濃度の増大に伴ってコラーゲンがより容易に沈殿する。
【0027】
好ましくは、前記pH調整剤は、硫酸、塩酸、硝酸のうちの1種又は複数種の混合物である。
【0028】
好ましくは、前記亜鉛塩は、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、硝酸亜鉛のうちの1種又は複数種の混合物である。
【0029】
好ましくは、前記溶解液は、プロテアーゼと水とを含み、前記プロテアーゼと水との質量比は、(0.2~0.5):(6~10)である。
【0030】
上記技術手段を用いることにより、コラーゲンの存在形態が網状の架橋構造であり、溶解液中の酵素製剤によってコラーゲンのテロペプチドを選択的に切断することができ、らせんセグメントに作用せず、これにより、コラーゲンの3本のらせん構造が破壊されないことを保証し、コラーゲンを溶解でき、コラーゲンを抽出する目的を達成する。
【0031】
好ましくは、前記コラーゲン原料と、プロテアーゼと、水との質量比は、(1~2):(0.2~0.5):(6~10)である。
【0032】
好ましくは、前記プロテアーゼは、ペプシン、トリプシン、パパインのうちの1種又は複数種の混合物である。
【0033】
好ましくは、前記溶解液は、弱酸でpHを調整する。
【0034】
上記技術手段を用いることにより、弱酸は、比較的温和であり、溶解液の安定性を向上させるとともに、コラーゲン活性への影響を低減する。
【0035】
好ましくは、前記弱酸は、カルボン酸である。
【0036】
上記技術手段を用いることにより、カルボン酸がコラーゲンと水素結合を生成しやすく、コラーゲン活性への影響が小さく、また、紡糸原液のpHを調整するとき、カルボン酸が塩基と反応して塩と水を生成し、塩濃度が増大することにより、コラーゲンが糸に塩析することに更に役立つ。
【0037】
好ましくは、前記コラーゲン原料と、プロテアーゼと、水との質量比は、(1~2):(0.2~0.5):(6~10)である。
【0038】
好ましくは、ステップ(1)では、強塩基で紡糸原液のpHを調整する。
【0039】
上記技術手段を用いることにより、紡糸原液の強塩基が凝固浴の強酸と反応して中性塩を生成し、強電解質としてコラーゲンの塩析環境を提供し、コラーゲンを紡糸原液から迅速に析出させ、繊維を成形し、コラーゲン繊維の紡糸性を達成し、向上させることができる。
【0040】
好ましくは、前記コラーゲン原料は、トロポコラーゲン原料を炭酸ナトリウム溶液に浸漬する方法で製造される。
【0041】
上記技術手段を用いることにより、トロポコラーゲン原料を炭酸ナトリウム溶液で浸漬した後、トロポコラーゲン原料のコラーゲンを活性化及び脱色することができ、後続の酵素分解によるコラーゲンの抽出が容易になる。
【0042】
好ましくは、前記トロポコラーゲン原料は、動物の腱、皮膚、靭帯のうちの1種又は複数種の混合物に由来する。
【0043】
好ましくは、ステップ(2)では、一次繊維を凝固浴槽に入れ、紡糸速度:離浴速度を(1~1.5):(0.5~0.9)としてマイナスドラフトする。
【0044】
上記技術手段を用いることにより、コラーゲン紡糸の結晶化度が高く、コラーゲン繊維が脆いため、上記マイナスドラフト率に応じて一次繊維及びコラーゲン繊維の破断強度を向上させ、断糸を減少させることができる。
【0045】
第2態様では、本願は、以下の技術手段を用いるコラーゲン繊維を提供する。
【0046】
コラーゲン繊維は、上記コラーゲン繊維の製造方法で製造される。
【0047】
上記技術手段を用いることにより、本願の製造方法で製造されたコラーゲン繊維は、原糸破断強度が1.99cN/dtexよりも大きく、紡糸性を有する。
【0048】
第3態様では、本願は、以下の技術手段を用いるコラーゲン繊維の応用を提供する。
【0049】
上記コラーゲン繊維の応用としては、不織布の分野では、例えば、フェイスマスク、生理用ナプキン、おむつ、脇シールなどに使用され、
紡績の分野では、例えば、下着、靴下、ショートパンツ、衣料用生地及び寝具用品などに使用され、コラーゲン繊維は、一般的な植物性タンパク質に比べて、タンパク質繊維の紡糸製造により適し、かつ保湿性に優れ、人体の皮膚と良好な親和性を有し、着用が快適であり、寝具用品、シャツ、ニットインナー、靴下などの製品開発に適しており、
医療の分野では、例えば、バンドエイド、包帯、創傷被覆材などに使用され、良好な浸透防止作用及び回復促進機能を有し、
食品の分野では、例えば、食品分野の防腐剤、果物の鮮度保持袋などに使用され、人工皮革にも使用でき、
製紙業界では、主に繊維の形態で植物繊維と複合製品を形成し、紙の強度、吸水性、通気性、緻密性及び白色度などを改善し、
複合材料及びナノ材料に使用され、コラーゲン繊維は、他の高分子材料と混合して紡糸することに加えて、優れた成膜性能を有する。
【発明の効果】
【0050】
以上より、本願は、以下の有益な効果を有する。
【0051】
1、本願は、溶解液のpH、紡糸原液のpH及び凝固浴のpHを調整することにより、コラーゲンの塩析環境を提供し、コラーゲンを紡糸性があるコラーゲン繊維に迅速に固化させる。
【0052】
2、本願は、酸性酵素分解により、トロポコラーゲン原料中のコラーゲンを抽出し、かつpHの調整を組み合わせることで、架橋剤を使用することなく紡糸原液を得ることができ、連続生産、工業生産に適応することができる。
【0053】
3、本願で製造されたコラーゲン繊維は、広く使用され、可塑性が高い。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下、実施例を参照しながら、本願を更に詳細に説明する。
【0055】
本願で使用される原料は、いずれも市販で得られる。溶解液は、ペプシン、トリプシン、パパインのうちの1種又は複数種の混合物を含み、本願の実施例では、ペプシンを例として説明し、ペプシンのCAS番号は、9001-75-6である。クロムなめし剤は、江蘇博鴻化工有限公司から購入され、Cr2O3のクロム含有量は、(25±1)%である。トロポコラーゲン原料は、動物の腱、皮膚、靭帯のうちの1種又は複数種の混合物に由来し、本願の実施例は、牛皮を例として説明する。カルボン酸として酢酸を用いる。
【0056】
(実施例)
(実施例1~11)
表1に示すように、実施例1~11の主な違いは、溶解液のpH、紡糸原液のpH、凝固浴のpHが異なることである。
【0057】
以下、実施例1を例として説明する。
【0058】
実施例1に係るコラーゲン繊維の製造方法は、以下のステップ(1)~(3)を含む。
【0059】
(1)紡糸原液の製造
牛皮100gを取り、濃度1mg/mLの炭酸ナトリウム溶液1000mLで2h浸漬し、取り出した後、蒸留水ですすぎ、乾燥させ、酢酸で溶解液のpHを4.5に調整し、溶解液を34℃に保持し、牛皮を溶解液に投入して十分に溶解させ、
溶解液は、具体的には、ペプシン溶液であり、かつペプシンと脱イオン水との質量比は、0.2:10であり、より具体的には、牛皮、ペプシン、脱イオン水の投入の質量比は、1:0.2:10であり、具体的には、牛皮100g、ペプシン20g、脱イオン水1000gであり、
更に、水酸化ナトリウムを用いてpHを10.9に調整し、塩基性の紡糸原液を形成し、紡糸原液の温度を35℃に制御する。
【0060】
なお、紡糸原液のpHを他の強塩基で調整してもよい。上記溶解液の温度は、ペプシンの活性適応温度に保持すればよく、具体的には、29~34℃であってもよく、紡糸原液の温度が32~35℃であってもよい。
【0061】
牛皮、ペプシン、脱イオン水の投入の質量比は、(1~2):(0.2~0.5):(6~10)であってもよい。
【0062】
(2)一次繊維の製造
紡糸原液を、入口圧力0.1MPa、出口圧力1MPaの湿式紡糸計量ポンプ、キャンドルフィルター、グースネックパイプ、直径0.1mmの紡糸孔を有する紡糸口金を経てpH5.9の凝固浴に入れ、20メートル/分で凝固させて紡糸し、一次繊維を形成し、一次繊維を凝固浴槽に入れて、紡糸速度:離浴速度を1:0.7としてマイナスドラフトする。
【0063】
凝固浴は、重量パーセントで、タンニン酸10%、硫酸ナトリウム42%、硫酸1%、水47%という物質を含む。
【0064】
湿式紡糸計量ポンプ、キャンドルフィルター、グースネックパイプ、紡糸口金の設置及びパラメータは、いずれも当業者が実際の製造状況に応じて一般的に調整することができ、例えば、湿式紡糸計量ポンプの入口圧力が0.08~0.11MPaであり、出口圧力が0.9~1.3MPaであり、紡糸孔の直径が0.05~0.12mmであり、孔路の長さが0.1~0.25mmであり、ここでは説明を省略する。
【0065】
(3)コラーゲン繊維の製造
一次繊維を、ウェットドラフト、ドライドラフト、ヒートセットなどの後処理を経て、コラーゲン繊維を得る。同様に、ウェットドラフト、ドライドラフト、ヒートセットなどの操作は、いずれも当業者が実際の製造状況に応じて一般的に調整することができ、ここでは説明を省略する。
【0066】
【0067】
(実施例11~16)
実施例11~16と実施例7との違いは、凝固浴の配合比率が異なることであり、具体的には表2に示す。
【0068】
表2 実施例8~13の凝固浴の配合比率表
【表2】
【0069】
(実施例17~18)
実施例17~19と実施例15との違いは、凝固浴の配合比率が異なり、かつ凝固浴には亜鉛塩が更に含まれていることであり、以下、亜鉛塩が硫酸亜鉛であることを例として説明し、具体的には表3に示す。
【0070】
表3 実施例14~16の凝固浴の配合比率表
【表3】
【0071】
(実施例20~24)
実施例20~24と実施例18との違いは、凝固浴の原料が異なることであり、具体的には表4に示す。
【0072】
【0073】
(実施例24)
実施例24と実施例18との違いは、一次繊維を凝固浴槽に入れ、紡糸速度:離浴速度を1:0.5としてマイナスドラフトすることである。
【0074】
(実施例25)
実施例22と実施例18との違いは、一次繊維を凝固浴槽に入れ、紡糸速度:離浴速度を1.5:0.9としてマイナスドラフトすることである。
【0075】
(比較例)
(比較例1)
実施例2との違いは、溶解液のpHが6.5であることである。
【0076】
(比較例2)
実施例2との違いは、凝固浴のpHが8.5であることである。
【0077】
(比較例3)
実施例2との違いは、紡糸原液のpHが8.5であることである。
【0078】
性能検出試験
GB/T 14463-2008《ビスコース短繊維》に記載の方法に従って、実施例1~21の繊度dtex、乾燥破断強度cN/dtex、湿潤破断強度cN/dtex、乾燥破断強度の変動係数%、乾燥破断伸度%、短繊維長mm、超長繊維率%、倍長繊維mg/100g、残存硫黄含有量mg/100g、公定水分率%をそれぞれ測定し、比較例1~3の乾燥破断強度cN/dtexを測定し、測定結果を下記表5に示す。
【0079】
【0080】
表5によれば、実施例1~25と比較例1~3とを比較すると、溶解液のpH、紡糸原液のpH、凝固浴のpHのそれぞれのpH値の選択及び協働は、製造されたコラーゲン繊維に大きな影響を与えることが分かる。実施例1~25は、いずれも乾燥破断強度が1.99cN/dtexよりも大きいコラーゲン繊維を製造することができ、かつ乾燥破断強度がいずれも2.27よりも大きいため、本願で製造されたコラーゲン繊維は、完全に紡糸性を有する。
【0081】
また、GB/T 14463-2008《ビスコース短繊維》に記載されているように、本願で製造されたコラーゲン繊維は、優れた製品の指標を達成することができ、大きな市場見通しを有する。測定した比較例1~3のコラーゲン繊維は、いずれも乾燥破断強度が1.99cN/dtex未満であり、紡糸性を有していない。
【0082】
次に、実施例1~7から分かるように、溶解液のpH、紡糸原液のpH、凝固浴のpHの差は、製造されたコラーゲン繊維の性能に影響を与える。実施例1~6では、溶解液のpH、紡糸原液のpH、凝固浴のpHの差が大きくなるほど、製造されたコラーゲン繊維の乾燥破断強度が大きくなり、また、実施例1~6と実施例7とを比較すると、凝固浴のpHは、コラーゲン繊維の乾燥破断強度の性能の強度に対する影響が大きく、凝固浴のpHがコラーゲンの等電点の範囲にある場合、製造されたコラーゲン繊維の乾燥破断強度がより優れていることが分かる。
【0083】
更に、実施例7~10を比較すると、溶解液のpHが5.5であり、紡糸原液のpHが11.2であり、凝固浴のpHが6.8である場合、製造されたコラーゲン繊維の乾燥破断強度が最も優れていることが分かる。
【0084】
次に、実施例6及び実施例8~13から、本願の凝固浴の配合比率の範囲、即ち、タンパク質固化剤、脱水剤、pH調整剤及び水の比率を用いることは、コラーゲン繊維の性能に大きな影響を与えないが、実施例12で製造されたコラーゲン繊維の性能が最も優れていることが分かる。
【0085】
次に、実施例12及び実施例14~16から、亜鉛塩を添加することは、コラーゲン繊維の性能に影響を与え、具体的には、脱水剤がナトリウム塩又はカリウム塩である場合、紡糸原液の凝固浴での分散が速すぎるため、一次繊維の剛性が大きすぎ、後続の繊維が脆くなり、紡糸性に不利であることが分かる。亜鉛塩を添加すると、ナトリウム、カリウムイオンが迅速に分散するのを緩和し、繊維の引張性能を向上させることができる。また、実施例15の配合比率で製造されたコラーゲン繊維の性能が最も優れている。
【0086】
次に、実施例17~20から、凝固浴中の異なる原料は、得られたコラーゲン繊維に大きな影響を与えないことが分かる。これは、本願の製造が原料の選択に対する利便性を有し、工業生産に便利であることを示している。
【0087】
次に、実施例15、実施例21及び実施例22から、本願のマイナスドラフトパラメータを用いることは、得られたコラーゲン繊維に大きな影響を与えず、好ましくは紡糸速度:離浴速度を1:0.7でマイナスドラフトすることが分かる。
【0088】
(応用例)
本願の実施例15で製造されたコラーゲン繊維は、不織布の分野では、例えば、フェイスマスク、生理用ナプキン、おむつ、脇シールなどに使用され、
紡績の分野では、例えば、下着、靴下、ショートパンツ、衣料用生地及び寝具用品などに使用され、コラーゲン繊維は、一般的な植物性タンパク質に比べて、タンパク質繊維の紡糸製造により適し、かつ保湿性に優れ、人体の皮膚と良好な親和性を有し、着用が快適であり、寝具用品、シャツ、ニットインナー、靴下などの製品開発に適しており、
医療の分野では、例えば、バンドエイド、包帯、創傷被覆材などに使用され、良好な浸透防止作用及び回復促進機能を有し、
食品の分野では、例えば、食品分野の防腐剤、果物の鮮度保持袋などに使用され、人工皮革にも使用でき、
製紙業界では、主に繊維の形態で植物繊維と複合製品を形成し、紙の強度、吸水性、通気性、緻密性及び白色度などを改善し、
複合材料及びナノ材料に使用され、コラーゲン繊維は、他の高分子材料と混合して紡糸することに加えて、優れた成膜性能を有する。
【0089】
なお、本願のコラーゲン繊維が上記分野に使用される場合、その製織方法は、当業者に公知のポリエステル繊維などの材料と同様である。
【0090】
本具体的な実施例は、本願の単なる説明に過ぎず、本願を限定するものではなく、当業者は、本明細書を読んだ後、必要に応じて本実施例に対して創造的な貢献がない修正を行うことができるが、本願の特許請求の範囲内であれば、特許法によって保護される。
【手続補正書】
【提出日】2024-06-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)紡糸原液の製造ステップであって、
コラーゲン原料をpHが3.5~5.5の溶解液に浸漬して溶解した後、pHを9.9~12.5に調整して、紡糸原液を形成するステップと、
(2)一次繊維の製造ステップであって、
紡糸原液をpHが4.4~6.8の凝固浴に入れて凝固して紡糸し、一次繊維を形成するステップとを含む、
ことを特徴とするコラーゲン繊維の製造方法。
【請求項2】
前記凝固浴は、重量パーセントで、タンパク質固化剤8~12%、脱水剤36~47%、pH調整剤0.8~3%という物質を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記凝固浴は、重量パーセントで、タンパク質固化剤8~12%、脱水剤36~47%、pH調整剤0.8~3%、亜鉛塩1.2~5%という物質を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記脱水剤は、強電解質塩である、
ことを特徴とする請求項
2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記脱水剤は、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩のうちの1種又は複数種の混合物であ
り、
前記ナトリウム塩は、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、硝酸ナトリウムのうちの1種又は複数種の混合物であり、
前記カリウム塩は、硫酸カリウム、塩化カリウム、硝酸カリウムのうちの1種又は複数種の混合物であり、
前記アンモニウム塩は、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウムのうちの1種又は複数種の混合物である、
ことを特徴とする請求項
2に記載の製造方法。
【請求項6】
前記pH調整剤は、硫酸、塩酸、硝酸のうちの1種又は複数種の混合物である、
ことを特徴とする請求項
2に記載の製造方法。
【請求項7】
前記亜鉛塩は、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、硝酸亜鉛のうちの1種又は複数種の混合物である、
ことを特徴とする請求項3に記載の製造方法。
【請求項8】
前記溶解液は、プロテアーゼと水とを含み、前記プロテアーゼと水との質量比は、(0.2~0.5):(6~10)である、
ことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項9】
前記コラーゲン原料と、プロテアーゼと、水との質量比は、(1~2):(0.2~0.5):(6~10)である、
ことを特徴とする請求項
8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記プロテアーゼは、ペプシン、トリプシン、パパインのうちの1種又は複数種の混合物である、
ことを特徴とする請求項
8に記載の製造方法。
【請求項11】
前記溶解液は、弱酸でpHを調整
し、
前記弱酸は、カルボン酸である、
ことを特徴とする請求項
8に記載の製造方法。
【請求項12】
ステップ(1)では、強塩基で紡糸原液のpHを調整する、
ことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項13】
前記コラーゲン原料は、トロポコラーゲン原料を炭酸ナトリウム溶液に浸漬する方法で製造される、
ことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項14】
前記トロポコラーゲン原料は、動物の腱、皮膚、靭帯のうちの1種又は複数種の混合物に由来する、
ことを特徴とする請求項1
3に記載の製造方法。
【請求項15】
ステップ(2)では、一次繊維を凝固浴槽に入れ、紡糸速度:離浴速度を(1~1.5):(0.5~0.9)としてマイナスドラフトする、
ことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【国際調査報告】