(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-03
(54)【発明の名称】遺伝子工学的改変により得られた、分泌能と凝固活性を向上させた組換えヒト第VIII因子
(51)【国際特許分類】
C07K 14/755 20060101AFI20241126BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20241126BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20241126BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20241126BHJP
A61P 7/04 20060101ALI20241126BHJP
A61K 38/37 20060101ALI20241126BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20241126BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20241126BHJP
【FI】
C07K14/755 ZNA
C12N15/12
C12N15/864 100Z
C12N15/63 Z
A61P7/04
A61K38/37
A61K48/00
A61K35/76
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024526888
(86)(22)【出願日】2022-02-11
(85)【翻訳文提出日】2024-05-21
(86)【国際出願番号】 CN2022075976
(87)【国際公開番号】W WO2023092864
(87)【国際公開日】2023-06-01
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2021/133004
(32)【優先日】2021-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】524166927
【氏名又は名称】四川至善唯新生物科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】SICHUAN REAL&BEST BIOTECH CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】10/F, Building D2, No. 18, Section 2 Shuangliu Biocity Road (M), Chengdu Tianfu International Bio-Town, Chengdu, Sichuan, China
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】董▲びあお▼
(72)【発明者】
【氏名】張波
(72)【発明者】
【氏名】叶静▲や▼
(72)【発明者】
【氏名】肖琳
(72)【発明者】
【氏名】鄭趙悦
(72)【発明者】
【氏名】楊茘
(72)【発明者】
【氏名】劉瑜
【テーマコード(参考)】
4C084
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA07
4C084AA13
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA22
4C084BA23
4C084CA53
4C084DC15
4C084MA16
4C084MA66
4C084NA06
4C084ZA53
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087MA16
4C087MA66
4C087NA06
4C087ZA53
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA09
4H045CA40
4H045DA66
4H045EA24
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、ヒト第VIII因子(hFVIII)のA1ドメインに少なくとも2つの置換アミノ酸を含む、遺伝子操作hFVIIIポリペプチドに関する。本発明はまた、遺伝子操作hFVIIIポリペプチドをコードする核酸断片、このような核酸断片を含む発現ベクター又はrAAVベクター、及び遺伝子操作hFVIIIポリペプチドを用いて血友病A型患者を治療する方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト第VIII因子(hFVIII)のA1ドメインに少なくとも2つの置換アミノ酸を含む、遺伝子操作ヒト第VIII因子hFVIIIポリペプチド。
【請求項2】
置換アミノ酸が、A1ドメインにL50及びL152を含む、請求項1に記載の遺伝子操作hFVIIIポリペプチド。
【請求項3】
置換アミノ酸が、A1ドメインにL50V及びL152Pを含む、請求項1又は2に記載の遺伝子操作hFVIIIポリペプチド。
【請求項4】
置換アミノ酸が、A1ドメインにD20、G22、I61、D115、F129、G132、Q139及びL159からなる群から選択されるアミノ酸置換のうちの1つ又は複数をさらに含む、請求項2又は3に記載の遺伝子操作hFVIIIポリペプチド。
【請求項5】
D20、G22、I61、D115、F129、G132、Q139及びL159のアミノ酸置換が、それぞれD20S、G22L、I61T、D115E、F129I、G132D、Q139E及びL159Fである、請求項4に記載の遺伝子操作hFVIIIポリペプチド。
【請求項6】
置換アミノ酸が、D20S、L50V及びL152Pを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の遺伝子操作hFVIIIポリペプチド。
【請求項7】
置換アミノ酸が、D20S、G22L、L50V及びL152Pを含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の遺伝子操作hFVIIIポリペプチド。
【請求項8】
配列番号3、配列番号4、配列番号5、又は配列番号6のアミノ酸配列を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の遺伝子操作hFVIIIポリペプチド。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の遺伝子操作hFVIIIポリペプチドをコードする、単離された核酸断片。
【請求項10】
プロモーターに作動可能に連結された請求項9に記載の核酸断片を含む、発現ベクター。
【請求項11】
プロモーターに作動可能に連結された請求項9に記載の核酸断片を含む、組換えAAV(rAAV)ベクター。
【請求項12】
請求項10に記載の発現ベクター又は請求項11に記載のrAAVベクターを含む、医薬組成物。
【請求項13】
請求項12に記載の医薬組成物の有効量を患者に投与することを含む、血友病A型患者を治療するための方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本願は、2021年11月25日に提出されたPCT出願番号PCT/CN2021/133004の特許出願の優先権を主張しており、その内容は引用によりすべて本明細書に組み込まれている。
【背景技術】
【0002】
ヒト第VIII因子は、X染色体上に位置するF8遺伝子によってコードされるタンパク質であり、2351個のアミノ酸から構成される。F8遺伝子の欠陥により、それがコードするFVIIIタンパク質が欠失又は不足してしまう。血友病A型(HA:Hemophilia A)は、FVIIIタンパク質の欠如によって引き起こされる遺伝性出血疾患であり、欠陥のあるFVIIIの産生、FVIII分泌の不足又は欠失による凝固活性の欠失、又は阻害剤によるFVIIIへの部分的又は完全な阻害によって引き起こされる凝固活性の不足を含む。FVIIIが欠如しているため、血友病A型患者の血液は正常に凝固して出血を抑えることができない。
【0003】
HAを治療する一般的な方法は補充療法である。濃縮された第VIII因子は、HA患者の静脈にゆっくりと点滴又は注射される。これらの輸液は、患者の体内で欠失している、又は低下しているFVIIIを補充するのに寄与する。しかし、この補充療法は、注射による第VIII因子の阻害剤、又は後天性の第VIII因子の阻害剤を生成し、それらがこの補充療法の失敗につながる可能性がある。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、遺伝子操作ヒト第VIII因子ポリペプチド、FVIIIタンパク質をコードする核酸、及びFVIIIタンパク質を発現するベクター、FVIIIを含有する医薬組成物、並びに該薬物の使用方法を提供し、それによって、血友病A型の治療などの本分野の需要を満たす。
【0005】
第1に、本発明は、hFVIIIのA1ドメインに少なくとも2つの置換アミノ酸を含む、遺伝子操作ヒト第VIII因子(hFVIII)ポリペプチドを提供する。
【0006】
いくつかの実施形態では、前記置換アミノ酸はA1ドメインのL50及びL152部位を含む。
【0007】
いくつかの実施形態では、前記置換アミノ酸はA1ドメインのL50V及びL152Pを含む。
【0008】
いくつかの実施形態では、置換アミノ酸は、A1ドメインのD20、G22、I61、D115、F129、G132、Q139及びL159からなる群から選択されるアミノ酸置換のうちの1つ又は複数をさらに含む。
【0009】
いくつかの実施形態では、置換アミノ酸は、A1ドメインD20S、G22L、I61T、A115E、F129I、G132D、Q139E、及びL159Fの1つ又は複数をさらに含む。
【0010】
いくつかの実施形態では、置換アミノ酸は、A1ドメインのD20S、L50V及びL152Pを含む。
【0011】
いくつかの実施形態では、置換アミノ酸は、A1ドメインのD20S、G22L、L50V及びL152Pを含む。
【0012】
いくつかの実施形態では、遺伝子操作hFVIIIポリペプチドは、配列番号3、配列番号4、配列番号5、又は配列番号6のアミノ酸配列を含む。
【0013】
第2に、本発明は、本明細書に開示された遺伝子操作hFVIIIポリペプチドをコードする単離された核酸断片を提供する。
【0014】
第3に、本発明は、プロモーターに作動可能に連結された本明細書に開示された核酸断片を含む発現ベクターを提供する。
【0015】
第4に、本発明は、プロモーターに作動可能に連結された本明細書に開示された核酸断片を含む組換えAAV(rAAV)ベクターを提供する。
【0016】
第5に、本明細書に開示された発現ベクター又は本明細書に開示されたrAAVベクターを含む医薬組成物を提供する。
【0017】
第6に、本発明は、血友病A型を治療するための方法を提供する。該方法は、本明細書に開示された医薬組成物の有効量を患者に投与することを含む。
【0018】
本発明の上記の情報、特徴、及び利点は、以下の説明及び添付の特許請求の範囲においてよりよく説明される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
本発明の革新点は、添付の特許請求の範囲に詳細に記載されている。本発明の特徴及び利点は、本発明の原理を利用した例示的な実施形態を示す以下の詳細な説明、及び図面の内容を参照することによって、よりよく理解され得る。
【0020】
【
図1】ヒト野生型FVIII及びFVIII-SQの模式図である。
【0021】
【
図2】
図2A~2Cは、ヘテロ接合型FVIIIの凝固時間の結果を示す。
図2Aは、hHCとmHCの活性の比較であり、
図2Bは、hHCとdHCの活性の比較であり、
図2Cは、hHCとmaHCの活性の比較である。
【0022】
【
図3】
図3Aは、ヒトと巨大コウモリのFVIIIのA1ドメインとA2ドメインを組み合わせてペアリングすることで、ハイブリッドFVIII、M1H2、及びH1M2を構築することを示す。
図3Bは、様々なFVIIIタンパク質の凝固時間を示す。
【0023】
【
図4】重鎖中のA1ドメインをD1とD2の領域、A2ドメインをD3とD4の領域に細分化できることを示す。
【0024】
【
図5】
図5Aは、巨大コウモリFVIIIのD1又はD4ドメインがヒトの対応する構造に置換されてハイブリッド巨大コウモリFVIIIs:hD1及びhD4を構築することを示す。
図5Bは、様々なFVIIIタンパク質の凝固時間を示す。
【0025】
【
図6】
図6Aは、ヒト第VIII因子のD1~D4領域が、巨大コウモリFVIIIの対応物の領域に置換されて、ハイブリッドヒト第VIII因子s:mD1mD3、mD2、mD3、及びmD4を構築することを示す図である。
図6Bは、様々なFVIIIタンパク質の凝固時間を示す。
【0026】
【
図7】ヒトと巨大コウモリFVIIIのD1領域の配列のアライメントを示す。
【0027】
【
図8】
図8Aは、ELISAの結果であり、V51L、T62I、E116D、I130F、D133G、E140Q、P153L、及びF160Lの8つのアミノ酸の突然変異がFVIIIタンパク質の発現レベルの低下をもたらすことを示す。
図8Bは、aPTTの結果であり、V51L、T62I、E116D、I130F、D133G、E140Q、P153L、及びF160Lの8つのアミノ酸の突然変異が凝固活性の低下をもたらすことを示す。
【0028】
【
図9】様々な突然変異体FVIIIの凝固活性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の特定の特徴は、上記の要約書及び詳細な説明の部分、並びに以下の特許請求の範囲において言及されている。なお、本明細書における本発明の開示は、そのような特定の特徴のすべての可能な組み合わせを含む。例えば、特定の特徴が、本発明の特定の態様又は実施形態、又は特定の特許請求の範囲の文脈で開示されている場合、この特徴は、本発明の他の態様及び実施形態と組み合わせて、及び/又は発明の他の態様及び実施形態の状況で、ならびに本発明の一般的に、使用することができる。
【0030】
血友病A型の治療のための補充療法では、注射または獲得されたFVIIIの阻害剤が生成され、これは補充療法の失敗につながる可能性がある。
【0031】
血友病A型の治療のためのもう1つの方法は、rAAVベクターに基づく遺伝子療法である。rAAVベクターは、目的遺伝子をインビボで長期間にわたって安定に発現させ、治療目的を達成することができる。F8のコード領域長は7035bpであり、A1、A2、B、A3、C1、C2の6つのドメインに分かれている(
図1、下図)。rAAVベクターがアデノ随伴ウイルス(AAV)の外殻に効率的にパッケージングされ得るように、1つの治療用遺伝子の発現カセットと2つのITRを含むrAAVベクターのサイズは約5kbである。
【0032】
AAVパッケージング能力の制限により、全長のF8コード領域を完全にAAVにパッケージングすることはできない。この問題を解決するためには、F8遺伝子のコード領域を短くする必要がある。これまでの研究により、FVIIIのB domainドメイン(908 aa)は、FVIIIの凝固活性を維持しながらSQドメイン(14 aa)に置換され得ることが示された。このような遺伝子操作FVIIIは、FVIII-SQと呼ばれ、A1、A2、SQ、A3、C1、及びC2の6つのドメインに分けられる。A1、A2及びSQドメインはFVIII-SQの重鎖を構成し、A3、C1及びC2はFVIII-SQの軽鎖を構成する。FVIII-SQをコードするヌクレオチドは4371bp(
図1、上図)であり、したがって、AAVに完全にパッケージングされ得る。
【0033】
しかし、短くされたFVIIIの発現エレメントが約5kbであっても、血友病A型のrAAV遺伝子治療における重要な制限要素の一つは、FVIIIの非効率な分泌であり、それはおそらくFVIIIの小胞体におけるゆっくりとした折り畳み過程によるものである。これを補うには、十分な活性FVIIIが産生されるように大量のrAAVベクターを血友病A型患者の体内に注射する必要がある。大量に注射されたrAAVベクターは患者に免疫反応などの副作用を引き起こす可能性がある。
【0034】
FVIIIが分泌タンパク質であるため、ウイルスベクターの必要量を許容可能なレベルまで減らすために、FVIIIのアミノ酸を改変することにより、rAAVベクターが産生するFVIIIの分泌活性を高めることが1つの戦略である。FVIIIが多く分泌されるほど、FVIIIの凝固活性が高くなる。研究により、ブタFVIIIの分泌能がヒト第VIII因子に比べて10~100倍高く、ブタFVIIIの重鎖がFVIIIの分泌能を高めるのに有利であることがわかった(Identification of Porcine Coagulation Factor VIII Domains Responsible for High Level Expression via Enhanced Secretion. JBC, 279, 6546-6552)。したがって、本願の発明者らは、ヒト第VIII因子の重鎖をrAAV遺伝子治療のためにその分泌能を増強するように改変することができるという理論を提案したが、そのような理論には拘束されない。
【0035】
第1に、本発明は、hFVIIIのA1ドメインに少なくとも2つの置換アミノ酸を含む、遺伝子操作ヒト第VIII因子(hFVIII)ポリペプチドを提供する。
【0036】
本明細書で使用される場合、「遺伝子操作」とは、遺伝物質の操作や化学合成、その他の方法により、タンパク質をその野生型の状態から別の状態に変化させる改変をいう。遺伝子操作FVIIIは、文脈に応じて、突然変異体FVIII、ヘテロ接合型FVIII、又はFVIII突然変異体と呼ばれてもよい。
【0037】
本明細書で使用される場合、「置換」又は「置き換え」とは、アミノ酸の置き換え、すなわち、DNA配列中の点突然変異によりタンパク質中の1つのアミノ酸が他のアミノ酸に変化することを意味する。「置換アミノ酸」とは、既存のアミノ酸に取って代わった新しいアミノ酸のことである。
【0038】
本明細書で使用する場合、「ドメイン」とは、構造に関連するドメインの内部アミノ酸配列が同一であり、トロンビンのタンパク質分解部位によって定義されることを特徴とする連続したアミノ酸配列を意味する。
図1(下図)は、A1、A2、B、A3、C1、及びC2ドメインを含むヒト野生型FVIIIを示す。
【0039】
ヒト第VIII因子のA1ドメインは、A1ドメインのうち分泌能を増強する役割を担うより小さな領域のアミノ酸配列を決定するために、D1領域とD2領域に細分化されている。
【0040】
ヒトD1領域のアミノ酸配列は、配列番号1において以下のように規定されている。
ATRRYYLGAVELSWDYMQSDLGELPVDARFPPRVPKSFPFNTSVVYKKTLFVEFTDHLFNIAKPRPPWMGLLGPTIQAEVYDTVVITLKNMASHPVSLHAVGVSYWKASEGAEYDDQTSQREKEDDKVFPGGSHTYVWQVLKENGPMASDPLCLTYSYLSHVDLVKDLNSGLIGALLVCREGSLAKE
【0041】
いくつかの実施形態では、置換アミノ酸は、A1ドメインのL50及びL152を含む。ここで、L50は、配列番号1の50番目のロイシン(L)が他の不特定のアミノ酸に置換されていることを意味し、また、L152は、配列番号1の152番目のロイシン(L)が他の不特定のアミノ酸に置換されていることを意味する。
【0042】
いくつかの実施形態では、置換アミノ酸は、A1ドメインのL50V及びL152Pを含む。ここで、L50Vは、配列番号1の50番目のロイシン(L)がバリン(V)に置換されていることを意味し、L152Pは、配列番号1の152番目のロイシン(L)がプロリン(P)に置換されていることを意味する。
【0043】
いくつかの実施形態では、A1ドメインのD20、G22、I61、A115、F129、G132、Q139及びL159の1つ又は複数のアミノ酸は置換されている。
【0044】
いくつかの実施形態では、D20、G22、I61、D115、F129、G132、Q139及びL159のアミノ酸置換は、それぞれD20S、G22L、I61T、D115E、F129I、G132D、Q139E及びL159Fである。
【0045】
いくつかの実施形態では、置換アミノ酸は、D20S、L50V及びL152Pを含む。
【0046】
いくつかの実施形態では、前記置換アミノ酸は、D20S、G22L、L50V及びL152Pを含む。
【0047】
いくつかの実施形態では、遺伝子操作hFVIIIポリペプチドは、配列番号3、配列番号4、配列番号5又は配列番号6のアミノ酸配列を含む。
【0048】
配列番号3:
ATRRYYLGAVELSWDYMQSSLLELPVDARFPPRVPKSFPFNTSVVYKKTVFVEFTDHLFNIAKPRPPWMGLLGPTIQAEVYDTVVITLKNMASHPVSLHAVGVSYWKASEGAEYDDQTSQREKEDDKVFPGGSHTYVWQVLKENGPMASDPPCLTYSYLSHVDLVKDLNSGLIGALLVCREGSLAKEKTQTLHKFILLFAVFDEGKSWHSETKNSLMQDRDAASARAWPKMHTVNGYVNRSLPGLIGCHRKSVYWHVIGMGTTPEVHSIFLEGHTFLVRNHRQASLEISPITFLTAQTLLMDLGQFLLFCHISSHQHDGMEAYVKVDSCPEEPQLR
【0049】
配列番号4:
ATRRYYLGAVELSWDYMQSSLGELPVDARFPPRVPKSFPFNTSVVYKKTVFVEFTDHLFNIAKPRPPWMGLLGPTIQAEVYDTVVITLKNMASHPVSLHAVGVSYWKASEGAEYDDQTSQREKEDDKVFPGGSHTYVWQVLKENGPMASDPPCLTYSYLSHVDLVKDLNSGLIGALLVCREGSLAKEKTQTLHKFILLFAVFDEGKSWHSETKNSLMQDRDAASARAWPKMHTVNGYVNRSLPGLIGCHRKSVYWHVIGMGTTPEVHSIFLEGHTFLVRNHRQASLEISPITFLTAQTLLMDLGQFLLFCHISSHQHDGMEAYVKVDSCPEEPQLR
【0050】
配列番号5:
MQIELSTCFFLCLLRFCFSATRRYYLGAVELSWDYMQSSLLELPVDARFPPRVPKSFPFNTSVVYKKTVFVEFTDHLFNIAKPRPPWMGLLGPTIQAEVYDTVVITLKNMASHPVSLHAVGVSYWKASEGAEYDDQTSQREKEDDKVFPGGSHTYVWQVLKENGPMASDPPCLTYSYLSHVDLVKDLNSGLIGALLVCREGSLAKEKTQTLHKFILLFAVFDEGKSWHSETKNSLMQDRDAASARAWPKMHTVNGYVNRSLPGLIGCHRKSVYWHVIGMGTTPEVHSIFLEGHTFLVRNHRQASLEISPITFLTAQTLLMDLGQFLLFCHISSHQHDGMEAYVKVDSCPEEPQLRMKNNEEAEDYDDDLTDSEMDVVRFDDDNSPSFIQIRSVAKKHPKTWVHYIAAEEEDWDYAPLVLAPDDRSYKSQYLNNGPQRIGRKYKKVRFMAYTDETFKTREAIQHESGILGPLLYGEVGDTLLIIFKNQASRPYNIYPHGITDVRPLYSRRLPKGVKHLKDFPILPGEIFKYKWTVTVEDGPTKSDPRCLTRYYSSFVNMERDLASGLIGPLLICYKESVDQRGNQIMSDKRNVILFSVFDENRSWYLTENIQRFLPNPAGVQLEDPEFQASNIMHSINGYVFDSLQLSVCLHEVAYWYILSIGAQTDFLSVFFSGYTFKHKMVYEDTLTLFPFSGETVFMSMENPGLWILGCHNSDFRNRGMTALLKVSSCDKNTGDYYEDSYEDISAYLLSKNNAIEPRSFSQNPPVLKRHQREITRTTLQSDQEEIDYDDTISVEMKKEDFDIYDEDENQSPRSFQKKTRHYFIAAVERLWDYGMSSSPHVLRNRAQSGSVPQFKKVVFQEFTDGSFTQPLYRGELNEHLGLLGPYIRAEVEDNIMVTFRNQASRPYSFYSSLISYEEDQRQGAEPRKNFVKPNETKTYFWKVQHHMAPTKDEFDCKAWAYFSDVDLEKDVHSGLIGPLLVCHTNTLNPAHGRQVTVQEFALFFTIFDETKSWYFTENMERNCRAPCNIQMEDPTFKENYRFHAINGYIMDTLPGLVMAQDQRIRWYLLSMGSNENIHSIHFSGHVFTVRKKEEYKMALYNLYPGVFETVEMLPSKAGIWRVECLIGEHLHAGMSTLFLVYSNKCQTPLGMASGHIRDFQITASGQYGQWAPKLARLHYSGSINAWSTKEPFSWIKVDLLAPMIIHGIKTQGARQKFSSLYISQFIIMYSLDGKKWQTYRGNSTGTLMVFFGNVDSSGIKHNIFNPPIIARYIRLHPTHYSIRSTLRMELMGCDLNSCSMPLGMESKAISDAQITASSYFTNMFATWSPSKARLHLQGRSNAWRPQVNNPKEWLQVDFQKTMKVTGVTTQGVKSLLTSMYVKEFLISSSQDGHQWTLFFQNGKVKVFQGNQDSFTPVVNSLDPPLLTRYLRIHPQSWVHQIALRMEVLGCEAQDLY
【0051】
配列番号6:
MQIELSTCFFLCLLRFCFSATRRYYLGAVELSWDYMQSSLGELPVDARFPPRVPKSFPFNTSVVYKKTVFVEFTDHLFNIAKPRPPWMGLLGPTIQAEVYDTVVITLKNMASHPVSLHAVGVSYWKASEGAEYDDQTSQREKEDDKVFPGGSHTYVWQVLKENGPMASDPPCLTYSYLSHVDLVKDLNSGLIGALLVCREGSLAKEKTQTLHKFILLFAVFDEGKSWHSETKNSLMQDRDAASARAWPKMHTVNGYVNRSLPGLIGCHRKSVYWHVIGMGTTPEVHSIFLEGHTFLVRNHRQASLEISPITFLTAQTLLMDLGQFLLFCHISSHQHDGMEAYVKVDSCPEEPQLRMKNNEEAEDYDDDLTDSEMDVVRFDDDNSPSFIQIRSVAKKHPKTWVHYIAAEEEDWDYAPLVLAPDDRSYKSQYLNNGPQRIGRKYKKVRFMAYTDETFKTREAIQHESGILGPLLYGEVGDTLLIIFKNQASRPYNIYPHGITDVRPLYSRRLPKGVKHLKDFPILPGEIFKYKWTVTVEDGPTKSDPRCLTRYYSSFVNMERDLASGLIGPLLICYKESVDQRGNQIMSDKRNVILFSVFDENRSWYLTENIQRFLPNPAGVQLEDPEFQASNIMHSINGYVFDSLQLSVCLHEVAYWYILSIGAQTDFLSVFFSGYTFKHKMVYEDTLTLFPFSGETVFMSMENPGLWILGCHNSDFRNRGMTALLKVSSCDKNTGDYYEDSYEDISAYLLSKNNAIEPRSFSQNPPVLKRHQREITRTTLQSDQEEIDYDDTISVEMKKEDFDIYDEDENQSPRSFQKKTRHYFIAAVERLWDYGMSSSPHVLRNRAQSGSVPQFKKVVFQEFTDGSFTQPLYRGELNEHLGLLGPYIRAEVEDNIMVTFRNQASRPYSFYSSLISYEEDQRQGAEPRKNFVKPNETKTYFWKVQHHMAPTKDEFDCKAWAYFSDVDLEKDVHSGLIGPLLVCHTNTLNPAHGRQVTVQEFALFFTIFDETKSWYFTENMERNCRAPCNIQMEDPTFKENYRFHAINGYIMDTLPGLVMAQDQRIRWYLLSMGSNENIHSIHFSGHVFTVRKKEEYKMALYNLYPGVFETVEMLPSKAGIWRVECLIGEHLHAGMSTLFLVYSNKCQTPLGMASGHIRDFQITASGQYGQWAPKLARLHYSGSINAWSTKEPFSWIKVDLLAPMIIHGIKTQGARQKFSSLYISQFIIMYSLDGKKWQTYRGNSTGTLMVFFGNVDSSGIKHNIFNPPIIARYIRLHPTHYSIRSTLRMELMGCDLNSCSMPLGMESKAISDAQITASSYFTNMFATWSPSKARLHLQGRSNAWRPQVNNPKEWLQVDFQKTMKVTGVTTQGVKSLLTSMYVKEFLISSSQDGHQWTLFFQNGKVKVFQGNQDSFTPVVNSLDPPLLTRYLRIHPQSWVHQIALRMEVLGCEAQDLY
【0052】
第2に、本発明は、本明細書に開示された遺伝子操作hFVIIIポリペプチドをコードする単離された核酸断片を提供する。単離された核酸断片は、本明細書に記載のFVIII突然変異体をコードするすべての可能な核酸配列を含む。すべての可能な核酸配列は、コドン縮退の原理を考慮するが、これに限定されるものではない。
【0053】
第3に、本発明は、プロモーターに作動可能に連結された本明細書に開示された核酸断片を含む発現ベクターを提供する。
【0054】
「作動可能に連結される」という用語は、コード配列の発現に必要な調節配列が、コード配列の発現を可能にするためにDNA分子内の適切な位置に配置されることを意味する。
【0055】
第4に、本発明は、プロモーターに作動可能に連結された本明細書に開示された核酸断片を含む組換えAAV(rAAV)ベクターを提供する。
【0056】
ヒトアデノ随伴ウイルス(AAV)は非病原性ウイルスであり、ヘルパーウイルス(通常はアデノウイルス又はヘルペスウイルス)と共感染した細胞でのみ効率的に複製する。当該ウイルスは、宿主の範囲が広く、さまざまな種の多くの細胞タイプに効果的に感染させることができる。しかし、AAVとヒト又は動物の疾患との関連性があることを示す研究はまだ存在しない。
【0057】
AAVは、ヘパリン硫酸プロテオグリカン受容体を介して細胞に結合する。いったん付着すると、AAVが細胞に入る過程は受容体、すなわち線維芽細胞成長因子受容体やαvβ5インテグリン分子に依存する。感染した細胞には、AAVが一本鎖DNA(ssDNA)の形で入り、さらに二本鎖転写鋳型に変換される。AAVとヘルパーウイルスに感染した細胞は、細胞が分裂する前に、AAVそのものではなくヘルパーウイルスによって誘導されるAAVの複製を行う。ヘルパーウイルスがコードするタンパク質又はRNA転写物は転写調節剤であり、DNA複製に関与し、又は細胞環境を変化させ、それによりウイルスの効率的な生産を保証する。
【0058】
組換えAAV(rAAV)ベクターは、通常、ウイルスのコード配列を目的遺伝子に置き換える。これらのベクターは、インビトロ及びインビボのいくつかの異なる部位において、効率的な発現及び遺伝子標的性を有することが証明されている。研究により、AAVは、呼吸器、中枢神経系、骨格筋、肝臓や眼の研究において安全であり、安定して持続的に発現できることが示された。rAAV製剤の力価と純度の向上に伴い、rAAV媒介の形質導入効率も向上している。
【0059】
AAVゲノムの逆末端反復配列(ITR)は、rAAVベクターの合成に必要な唯一のシス要素である。2つのITRs配列に目的遺伝子及び発現要素群を付加して、サイズが約5kbのssDNAベクターゲノムを作り、そしてAAV repとcap遺伝子とヘルパーウイルスの存在下でAAV顆粒にパッケージングし、成熟したrAAVの生産と精製の方法と技術を持っている。
【0060】
rAAVベクターにおいて、本明細書に記載の遺伝子操作FVIIIをコードする核酸断片は5kb未満であり、この断片は2つのITRsを含む発現フレームに挿入されて、AAVベクターの効率的なパッケージングを可能にする。
【0061】
発現ベクター又はrAAVベクターにおいて、本明細書に開示された遺伝子操作第VIII因子をコードする核酸配列は、プロモーターに作動可能に連結されている。該プロモーターは、構成型プロモーター、誘導型プロモーター、肝臓特異的プロモーター、肝細胞特異的プロモーター、又は合成プロモーターであってもよいが、これらに限定されない。
【0062】
構成型プロモーターは、単純ヘルペスウイルス(HSV)プロモーター、チミジンキナーゼ(TK)プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター、サルウイルス40(SV40)プロモーター、マウス乳腫瘍ウイルス(MMTV)プロモーター、アデノウイルスE1Aプロモーター、サイトメガロウィルス(CMV)プロモーター、哺乳類のハウスキーピング遺伝子プロモーター、β-アクチンプロモーターであってもよいが、これらに限定されない。
【0063】
誘導型プロモーターは、シトクロムP450遺伝子プロモーター、ヒートショックプロテイン遺伝子プロモーター、メタロチオネイン遺伝子プロモーター、ホルモン誘導性遺伝子プロモーター、エストロゲン遺伝子プロモーター、又はテトラサイクリン応答性tetVP16プロモーターであってもよいが、これらに限定されない。
【0064】
肝臓特異的プロモーターは、アルブミンプロモーター、α-1-アンチトリプシンプロモーター、又はB型肝炎ウイルスコアタンパク質プロモーターであってもよいが、これらに限定されない。
【0065】
合成プロモーターは、既知のプロモーターの領域、調節要素、転写因子結合点、増強要素、阻害要素などを含むことができる。例えば、合成プロモーターは、天然プロモーターと転写因子由来のエンハンサーとの組み合わせであってもよい。目的核酸、タンパク質又はポリペプチドの発現レベルを向上させる目的を達成するために、目的宿主細胞での発現に適したいずれかのプロモーターを用いることができる。
【0066】
第5に、本発明は、本明細書に開示された発現ベクター又は本明細書に開示されたrAAVベクターを含む医薬組成物を提供する。
【0067】
「医薬組成物」という用語は、本明細書に開示された発現ベクター又は本明細書に開示されたrAAVベクターと、希釈剤又は担体などの他の化学成分との混合物を意味する。医薬組成物は、生体組織を標的化するのに有利である。医薬組成物は、一般に、特定の意図された投与経路に従って調整される。医薬組成物は、ヒト及び/又は獣医用に適している。
【0068】
本明細書に記載の医薬組成物は、ヒト患者に、それ自体で、又は併用療法の場合のように他の有効成分と混合された医薬組成物中で、又は担体、希釈剤、賦形剤、若しくはそれらの組み合わせと混合された医薬組成物中で投与され得る。正しい処方は、選択された投与経路に依存する。
【0069】
第6に、本発明は、血友病A型患者を治療するための方法を提供する。該方法は、本発明に開示された医薬組成物の有効量を患者に投与することを含む。
【0070】
「有効量」又は「治療的な有効量」という用語は、所望の被験者に注射されたときに期待される活性が得られることを確保するべきである、rAAVベクターを含む組成物のような組成物の量を意味する。「治療的に有効」という用語は、本開示の方法によって治療される疾患の発現を緩和し、その進行を阻止し、その症状の少なくとも1つを緩和又は軽減するのに十分であることを意味する。
【0071】
当業者であれば認識できるように、障害が完全に根絶又は予防されていなくても、その障害又はその症状及び/又は影響が被験者において部分的に改善又は緩和された場合には、治療的に「有効」であるとも認めることができる。血友病A型患者を治療するための方法の有効性を判断するための様々な指標が当業者に既知である。
【0072】
本明細書に記載されるように、「治療(treating)」、「治療(treatment)」、「治療的(therapeutic)」、又は「療法(therapy)」という用語は、必ずしも疾患又は病症を完全に治癒又は除去することを意味しない。疾患又は病症がどの程度緩和された場合でも、治療及び/又は療法とみなされ得る。さらに、治療は、患者の全体的な幸福感を向上又は悪化させる可能性のある行動を含み得る。
【0073】
他の活性剤、防腐剤、緩衝剤、塩、薬学的に許容される担体、又は他の薬学的に許容される成分などの他の成分は、所望の組成物に含まれ得る。
【0074】
本明細書で使用される場合、「溶媒」とは、化合物を細胞又は組織に導入するのに有利な化合物を意味する。例えば、限定されない限り、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エタノール(EtOH)又はPEG400は、有機化合物が被験者の細胞又は組織に吸収されるのに有利な一般的な溶媒である。
【0075】
定義
別段の定義がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、当業者が一般に理解する意味と同じものである。ここに記載される用語の1つに複数の定義がある場合は、特に明記されていない限り、本節の定義に準ずる。
【0076】
本明細書で使用される用語は、特定の状況を説明するためにのみ使用されるものであり、限定的であることを意味するものではない。本明細書で使用される場合、単数形「1つ(a)」、「一(an)」及び「該(the)」は、文脈で明示的に指摘されない限り、複数形も含む。さらに、「含む(including)」、「含む(includes)」、「有する(having)」、「有する(has)」などの用語が詳細な説明及び/又は特許請求の範囲で使用される場合、これらの用語は、「含む(comprising)」に類似する用語が包括的であることを示すことを目的としている。
【0077】
本明細書で使用される場合、「個人」、「患者」、又は「被験者」という用語は、交換して使用され得る。これらの用語は、医療従事者(例えば、医師、認定看護師、認定准看護師、医師助手、看護師、ホスピスワーカー)のアイデンティティ(継続的又は断続的など)によって変化することを要求又は限定するものではない。
【0078】
単離された:1つの「単離された」生物成分(例えば、核酸分子、タンパク質、ウイルス又は細胞)が生物の細胞又は組織中の他の生物成分から単離又は精製されたか、生物自体が自然中に存在し、例えば、他の染色体及び染色体外のDNA、RNA、タンパク質、細胞などである。「単離された」核酸分子及びタンパク質には、標準的な精製方法で精製されたものが含まれる。この用語には、宿主細胞内での組換え発現によって調製された核酸分子及びタンパク質、ならびに化学的に合成された核酸分子及びタンパク質も含まれる。
【0079】
組換え:組換え核酸分子は、天然には存在しない配列を有する核酸分子であり、例えば、1つ又は複数の核酸の置換、欠失又は挿入を含み、及び/又は本来単離している配列の2つの断片を人工的に組み合わせることにより作製された配列を有する。このような人工的組み合わせは、化学合成によって、あるいはより一般的には、例えば遺伝子工学的手法によって、単離された核酸断片を人工的に操作
することによって行うことができる。
【0080】
「プロモーター領域」又は「プロモーター」という用語は、核酸(例えば、遺伝子)の転写を誘導/開始するDNA領域を意味する。プロモーターは、転写開始部位近傍の必要な核酸配列を含む。通常、プロモーターは、これらが転写する遺伝子の近くに位置する。プロモーターはまた、転写開始点から数千塩基対も離れた位置にあり得る遠位エンハンサー又はサプレッサー要素を含むことを選択できる。組織特異的プロモーターとは、主に単一タイプの組織や細胞において転写を誘導/開始するプロモーターのことである。例えば、肝臓特異的プロモーターとは、肝臓組織で転写を指示/開始する効果が他の組織型よりもはるかに高いプロモーターを指す。
【0081】
エンハンサー:プロモーターの活性を増加させることにより転写効率を増加させる核酸配列である。
【0082】
「ベクター」という用語は、DNA配列が宿主細胞に挿入され、そこで複製され得る小さなベクターDNA分子を意味する。「発現ベクター」は、目的とする遺伝子又は核酸配列を含み、宿主細胞での発現に必要な調節要素を有する特別なベクターである。
【0083】
「作動可能に連結される」という用語は、コード配列の発現に必要な調節配列が、コード配列の発現を実現するためにDNA分子内の適切な位置に配置されていることを意味する。この定義は、発現ベクターにおけるコード配列及び転写制御要素(例えば、プロモーター、エンハンサー及びターミネータ要素など)の配列にも適用される場合もある。この定義は、第1及び第2核酸分子によって生成される混合核酸分子配列の配列にも適用される場合もある。
【0084】
本明細書で使用される「ヌクレオチド」という用語は、一般に、塩基-糖-リン酸塩が組み合わされた分子を指す。ヌクレオチドは合成ヌクレオチドを含み得る。ヌクレオチドは合成されたヌクレオチド類似体を含み得る。ヌクレオチドは、核酸配列(例えば、デオキシリボ核酸(DNA)及びリボ核酸(RNA))の単量体単位であってもよい。ヌクレオチドという用語は、アデノシン三リン酸(ATP)、ウリジン三リン酸(UTP)、シチジン三リン酸(CTP)、グアノシン三リン酸(GTP)、及びdATP、dCTP、dITP、dUTP、dGTP、dTTP又はその誘導体のようなデオキシヌクレオシド三リン酸を含むことができる。このような誘導体は、[αS]dATP、7-deaza-dGTP及び7-deaza-dATP、ならびにヌクレアーゼ耐性を有するヌクレオチド誘導体を含むことができる。ここで使用されるヌクレオチドという用語は、ジデオキシヌクレオシド三リン酸(ddNTPs)及びその誘導体を指してもよい。ジデオキシヌクレオシド三リン酸は、ddATP、ddCTP、ddGTP、ddITP及びddTTPを含むことができるが、これらに限定されない。ヌクレオチドは、非標識なものであってもよいし、関連技術により検出可能なタグをヌクレオチドに付加したものであってもよいし、量子ドットで標識したものであってもよい。検出可能なタグには放射性同位元素、蛍光タグ、化学発光タグ、生物発光タグ、酵素タグが含まれる。ヌクレオチドの蛍光タグは、フルオレセイン、5-カルボキシルフルオレセイン(FAM)、2,7-ジメトキシ-4,5-ジクロロ-6-カルボキシルフルオレセイン(JOE)、ローダミン、6-カルボキシルローダミン(R6G)、N,N,N’,N’-テトラメチル-6-カルボキシルローダミン(TAMRA)、6-カルボキシル-X-ローダミン(ROX)、4-(4’ジメチルアミノフェニルアゾ)安息香酸(DABCYL)、カスケードブルー、オレゴングリーン、テキサスレッド、シアン化物、及び5-(2’-アミノエチル)アミノナフタレン-1-スルホン酸(EDANS)を含むことができるが、これらに限定されない。蛍光で標識されたヌクレオチドの具体例としては、[R6G] dUTP、[TAMRA] dUTP、[R110] dCTP、[R6G] dCTP、[TAMRA] dCTP、[JOE] ddATP、[R6G] ddATP、[FAM] ddCTP、[R110] ddCTP、[TAMRA] ddGTP、[ROX] ddTTP、[dR6G] ddATP、[dR110] ddCTP、[dTAMRA] ddGTP和 [dROX] ddTTP( Perkin Elmer, Foster City, Calif);FluoroLink DeoxyNucleotides、FluoroLink Cy3-dCTP、FluoroLink Cy5-dCTP、FluoroLink Fluor X-dCTP、FluoroLink Cy3-dUTP及びFluoroLink Cy5-dUTP(Amersham, Arlington Heights, Ill);フルオレセイン-15-dATP、フルオレセイン-12-dUTP、テトラメチルローダミン-6-dUTP、IR770-9-dATP、フルオレセイン-12-ddUTP、フルオレセイン-12-UTP和フルオレセイン-15-2′-dATP(Boehringer Mannheim, Indianapolis, Ind.)を含んでもよい。染色体で標識されたヌクレオチドには、BODIPY-FL-14-UTP、BODIPY-FL-4-UTP、BODIPY-TMR-14-UTP、BODIPY-TMR-14-dUTP、BODIPY-TR-14-UTP、BODIPY-TR-14-dUTP、Cascade Blue-7-UTP、Cascade Blue-7-dUTP、フルオレセイン-12-UTP、フルオレセイン-12-dUTP、Oregon Green 488-5-dUTP、Rhodamine Green-5-UTP、 Rhodamine Green-5-dUTP、tetramethylrhodamine-6-UTP、tetramethylrhodamine-6-dUTP、Texas Red-5-UTP、Texas Red-5-dUTP及びTexas Red-12-dUTP(Molecular Probes, Eugene, Oreg)が含まれる。ヌクレオチドはまた、化学修飾によって標識又は注釈されてもよい。化学修飾されたモノヌクレオチドはビオチン-dNTPであってもよい。非制限的なビオチン化dNTPsのいくつかの例には、ビオチン-dATP(例えば、ビオチン-N6-ddATP及びビオチン-14-dATP)、ビオチン-dCTP(例えば、ビオチン-11-dCTP及びビオチン-14-dCTP)、及びビオチン-dUTP(例えば、ビオチン-11-dUTP、ビオチン-16-dUTP及びビオチン-20-dUTP)が含まれ得る。
【0085】
「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」及び「核酸」という用語は、交換して使用されてもよく、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、ヌクレオチド類似体を含むヌクレオチドの異なる重合形態を意味し、形態には、一本鎖、二本鎖、または多本鎖の形態が含まれる。ポリヌクレオチドは、外因性又は内因性であってもよい。ポリヌクレオチドは、細胞外に存在することができ、遺伝子又はその断片であってもよく、DNA又はRNAであってもよく、任意の3次元構造を有し、既知又は未知の機能を有してもよい。ポリヌクレオチドは、1つ又は複数の類似体(例えば、骨格、糖、又は核塩基を改変したもの)を含むことができ、ヌクレオチド構造の修飾は、ポリマーの集合の前又は後に行うことができる。いくつかの非限定的な類似体の例としては、5-ブロモウラシル、ペプチド核酸、異種核酸、モルホリン、ロックド核酸、エチレングリコール核酸、トレオース核酸、ジデオキシヌクレオチド、コルジセピン、7-デアザGTP、蛍光剤(例えば、糖に結合したローダミンまたはフルオレセイン)、チオール含有ヌクレオチド、ビオチン結合ヌクレオチド、蛍光塩基類似体、CpGアイランド、メチル-7-グアノシン、メチル化ヌクレオチド、イノシン、チウリジン、プソイドウリジン、ジヒドロウリジン、キニーネ、及びバイオシンが含まれる。ポリヌクレオチドの非限定的な例としては、遺伝子又は遺伝子断片のコード領域又は非コード領域、連鎖解析によって定義される部位(locus)、エクソン、イントロン、メッセンジャーRNA(mRNA)、トランスファーRNA(tRNA)、リボソームRNA(rRNA)、短干渉RNA(siRNA)、短ヘアピンRNA(shRNA)、小分子RNA(microRNAs)、リボザイム、cDNA、組換えポリヌクレオチド、分岐ポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、任意の配列の単離DNA、任意の配列の単離RNA、無細胞ポリヌクレオチド(無細胞DNA(cfDNA)及び無細胞RNA(cfRNA))、核酸プローブ及びプライマーが含まれる。非ヌクレオチド成分はヌクレオチド配列に埋め込まれている。
【0086】
本明細書で使用される「遺伝子」という用語は、コードRNAの転写に関与する核酸(例えば、ゲノムDNA及びcDNA)及びそれに対応するヌクレオチド配列を指す。本明細書で言及されるゲノムDNAの用語は、コード領域、非コード領域、及び調節要素、並びに5’末端及び3’末端を含む。いくつかの使用では、この用語は、転写配列、5’及び3’非翻訳領域(5’-UTR及び3’-UTR)、エクソン、並びにイントロンを含む。いくつかの遺伝子において、転写領域は、ポリペプチドをコードする「オープンリーディングフレーム」を含む。この用語のいくつかの使用形態では、「遺伝子」は、ポリペプチドをコードするために必要なコード配列(例えば、「オープンリーディングフレーム」又は「コード領域」)のみを含む。場合によっては、リボソームRNA遺伝子(rRNA)やトランスファーRNA(tRNA)遺伝子などの遺伝子は、ポリペプチドをコードしない。場合によっては、「遺伝子」という用語は、転写配列だけでなく、上流及び下流の調節領域、エンハンサー及びプロモーターを含む非転写領域も含む。遺伝子とは、「内因性遺伝子」又は生体自体のゲノム中に存在する遺伝子を指すことも、「外因性遺伝子」又は生物自体に存在しない遺伝子を指すこともできる。外因性遺伝子は、通常、宿主生物に存在しない遺伝子を指すが、遺伝子形質導入により宿主生物に導入され得る。外因性遺伝子は、生物のゲノムに存在しない遺伝子、又は生体で発生する核酸配列又はポリペプチド配列の変化を意味することもでき、突然変異、挿入及び/又は欠失(例えば、非野生配列)を含む。
【0087】
cDNA(相補的DNA):cDNAとは、実験室の細胞から抽出したメッセンジャーRNAを逆転写実験に供して得たDNAを指す。cDNAはまた、対応するRNA分子中の翻訳制御を担当する非翻訳領域(UTRs)を含むことができる。
【0088】
5’及び/又は3’:核酸分子(例えば、DNAやRNA)の方向が「5’末端」と「3’末端」に分かれている。モノヌクレオチドは、3’末端水酸基と隣接するペントース環の5’末端リン酸残基とのエステル化反応によりホスホジエステル結合を形成し、それによりポリヌクレオチドとなる。したがって、線状ポリヌクレオチドの5’末端リン酸基が、モノヌクレオチドのペントース環の3’末端酸素に連結していない場合、5’末端と呼ばれる。ポリヌクレオチドの3’末端酸素が、他のモノヌクレオチドのペントース環の5’リン酸基に連結していない場合、3’末端と呼ばれる。ポリヌクレオチド中のペントース環の5’リン酸基は隣接する3’酸素に連結されているが、内部の個々の核酸も5’末端と3’末端に分かれる。
【0089】
線状又は環状核酸分子において、単離された内部基は「上流」(5’末端)又は「下流」(3’末端)と呼ばれる。DNAの場合、この用語は、転写がDNA鎖の5’末端から3’末端の方向に沿って行われることを示す。関連遺伝子の転写を指示するプロモーター及びエンハンサー要素は、通常、コード領域の5’末端又は上流に位置する。しかし、エンハンサー要素は、プロモーター要素及びコード領域の3’端に位置していても、その機能を発揮することができる。転写ターミネータ及びポリアデニル化(PolyA)シグナルは、コード領域の3’末端又は下流にある。
【0090】
転写因子(TF:Trans cription Factor):特定のDNA配列に結合し、DNAからRNAへの遺伝情報の転移(又は転写)を調節するタンパク質である。TFsは、RNAポリメラーゼ(DNAからRNAへの遺伝情報の転写を行う酵素)による特定の遺伝子のリクルートを増強(活性化剤として)又は阻害(阻害剤として)することにより、単独で又は他のタンパク質と複合体となってこの機能を実行する。TFが結合する特定のDNA配列は、反応要素(RE:Response Element)又は調節要素と呼ばれる。他の用語には、シス要素及びシス作用の転写調節要素が含まれる。
【0091】
本明細書で使用される「対応する」核酸若しくはアミノ酸又はいずれか1つの配列とは、FVIII又はその断片中に存在し、2つのヌクレオチド又はアミノ酸の数が完全には同一ではないに関わらず、その構造及び/又は機能が他の種のFVIII分子中の1つの部位と同一である部位を指す。
【0092】
対照:対照とは、反応調査又は実験結果の比較基準として用いられる個体又はサンプル群をいう。対照群が参照対象となる場合もある。
【0093】
本明細書で使用されるヒト又は動物のFVIIIの「サブユニット」は、FVIIIタンパク質の重鎖及び軽鎖を指す。FVIIIの重鎖は3つのドメイン、すなわちA1、A2、及びBを含み、FVIIIの軽鎖は、同じく3つのドメイン、すなわちA3、C1、及びC2を含む。
【0094】
本明細書で使用される「FVIII欠損症」は、欠陥のあるFVIIIの産生、FVIIIの欠損又は不産生、又は阻害剤によるFVIIIの一部又は全部の阻害による凝固活性の欠失を含む。血友病A型は、X染色体上の連鎖遺伝子の欠陥と、それがコードするFVIIIタンパク質の欠失又は不足により凝固機能障害が発生する疾患である。
【0095】
本明細書で使用される場合、「希釈剤」とは、医薬組成物中の、薬効がないが、薬学的に必要又は理想的である可能性のある構成成分を意味する。例えば、希釈剤は、薬物の質量が小さすぎるか、又は製造及び/又は投与が不可能である場合に、有効な薬物の体積を増加させるために使用され得る。希釈剤は、注射、摂取又は吸入によって投与される薬物を溶解するための液体であってもよい。本分野で一般的な希釈剤の形態は、ヒトの血液成分を模したリン酸緩衝液を含むがこれに限定されない緩衝水溶液である。
【0096】
本明細書で使用される場合、「賦形剤」とは、組成物の体積、一貫性、安定性、結合能、潤滑性、崩壊能等(ただし、これらに限定されない)を保証するために医薬組成物に添加される不活性物質を指す。「希釈剤」は賦形剤の一種である。
【0097】
本明細書で使用される「治療(treatment)」及び「治療(treating)」という用語は、有効な治療及び/又は有効な予防を含むがこれらに限定されない、有効な又は予期される結果を得る方法を指す。例えば、治療は、本明細書に開示されたシステム又は細胞集団を対象とすることを含むことができる。治療的有効とは、1つ又は複数の疾患、状態又は症状に対する治療的な改善又は影響を指し得る。有効な予防のために、医薬組成物は、特定の疾患、状態又は症状に罹患する可能性がある被験者、又は、疾患、状態又は症状がまだ現れていない可能性があるが、1つ又は複数の疾患の生理学的症状に罹患している被験者に使用することができる。
【0098】
治療される症状が変化すると「治療効果」が現れ、変化はポジティブかネガティブかもしれない。例えば、「陽性効果」は、被験者の活性化されたT細胞の数を増加させる場合があり、別の例では、「陰性効果」は、被験者の体内の腫瘍の数又は大きさの低減に対応する場合がある。治療中の「変化」とは、障害に少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、25%、50%、75%、又は100%の変化があることを指し得る。この変化は、個人の治療中に障害の重症度の改善の程度、又は治療を受けた個体群と受けなかった個体群における障害の重症度の改善の程度の差に基づくものであり得る。同様に、本開示の方法は、被験者に「治療的に有効」な効果をもたらす細胞の量を測定することができる。「治療的に有効」という用語の定義は、「治療効果がある」ということである。
【0099】
以下の例示的説明は、本発明を如何にして製造するか如何にして使用するかに関する完全な表示及び記載を当業者に提供するためのものであって、本発明者らによる発明の範囲を限定するためのものではなく、また、以下の実験が全て又は唯一に行われる実験であることを示すためのものではない。本明細書では、使用する数値(例えば、数、温度)の正確性を確保するよう努めているが、ある程度の実験誤差や偏差を考慮すべきである。特に明記されていない限り、重量とは、物体の重量、分子量とは、重量平均分子量、温度とは、摂氏度、圧力とは、大気圧又は大気圧付近を意味する。
【実施例】
【0100】
方法及び材料
プラスミドの構築
FVIII重鎖突然変異体を含むプラスミドを製造するために、プラスミドpAAV-CB-FVIII-SQをベクターとして用いる。このプラスミドは、サイトメガロウイルスエンハンサーとヒトβアクチンプロモーターからなるCBプロモーターと、ヒト第VIII因子-SQをコードするFVIII遺伝子とを含有し、PCR増幅により重鎖突然変異部位に挿入され、ヒト及び巨大コウモリのFVIII遺伝子を鋳型とし、▲ちん▼科生物技術公司によりプライマーを合成する。ベクターと目的遺伝子断片をNot I-HFとKpn I-HF(NEB)制限酵素で酵素切断した後、E.Z.N.A.ゲル抽出キット(Omega Bio-Tech)で精製し、酵素切断による粘性末端を用いてベクターと目的遺伝子を連結して、種々の重鎖突然変異体を有するプラスミドを作製した。
【0101】
組織培養及びトランスフェクション
10%ウシ胎児血清(Gibco)、100μgペニシリン/mL、100 Uストレプトマイシン/mLを含むDulbecco’s改良Eagle’s培地(Invitrogen)でHEK293細胞を培養した。トランスフェクションのために、0.75μgのFVIIIプラスミドと2.25μLのPolyJet(SignaGenラボ)を混合し、メーカーの説明書の操作に従って12ウェルプレートの各ウェルに添加した。トランスフェクション後6時間になると、2%熱不活化ウシ胎児血清を含むHam’s F12培地(Co rning)に培地を交換した。培地交換24時間後、上清培地を採取し、aPTT(Activated Partial Thromboplastin Time、活性化部分トロンボプラスチン時間)及びELISA(Enzyme Linked Immunosorbent Assay、酵素結合免疫吸着アッセイ)を用いて測定した。
【0102】
aPTT
インビトロ試験において、標準品をRefacto(Genetics Institute,Cambridge,MA)とし、培地で1U/mL(200 ng/mL)から1/2半分で1/512に希釈し、検出サンプルは、トランスフェクションされた哺乳動物細胞から採取された上清培地を13,000rpmで1分間遠心分離して得られたものである。STA-PTT試薬、FVIII欠失血漿、及びサンプル(又は希釈した標準品)を50μLずつSTAGO血液凝固カップ中で混合し、37℃で170秒インキュベートした後、凝固時間の記録を開始し、同時に25 mMのCaCl2を50μL添加し測定し、検量線によりFVIIIの活性を求めた。
【0103】
ELISA
Refactoを標準品とし、培地で1U/mL(200ng/mL)から1/2半分で1/512に希釈した。上記のように、プラスミドトランスフェクション後の上清培地をサンプルとした。マウス血漿サンプルをHEPES緩衝液中にて1:10の希釈比率で希釈した。捕捉抗体(PAH-FVIII-S,7.1mg/mL,1:2000)を被覆液(0.1M炭酸水素ナトリウムと炭酸塩、pH9.6)で希釈し、その後96ウェルプレートに被覆し、4℃で一晩インキュベートし、3%のBSAブロック液でブロックし、ブロック液をPBST緩衝液(140mM NaCl、2.5mM KCl、8mM Na2HPO4、2mM KH2PO4、及び0.05%Tween 20、pH 8.4)で希釈し、室温で1時間インキュベートした。PBST緩衝液で3回洗浄した後、100 μLの標準品とサンプルを加え、室温で1時間インキュベートし、PBST緩衝液で3回洗浄し、検出抗体(GMA-8021-HRP、1:200)を加え、室温で1時間インキュベートし、PBST緩衝液で3回洗浄し、1×SureBlue TMB 1成分Milliporeペルオキシダーゼ基質を用いて発色し、発色が室温で1~10分間行われると、0.5M H2SO4を加えて終了した。分光光度計を用いて450nmと630nmでそれぞれOD値を測定し、検量線からFVIIIのタンパク質含量を計算した。
【0104】
実施例1:巨大コウモリのFVIII重鎖A1ドメインにおける分泌能増強構造の決定
研究により、ブタFVIIIの分泌能がヒト第VIII因子より10~100倍高く、ブタFVIIIの重鎖が分泌能の向上に有利であることが報告されている(Identification of Porcine Coagulation Factor VIII Domains Responsible for High Level Expression via Enhanced Secretion. JBC, 279, 6546-6552)。本発明者らは、他の動物のFVIIIも分泌を増強する能力を有する可能性があると仮定し、分泌能を増強する重鎖領域を決定する実験を考案した。
【0105】
そのために、種々の動物のF8遺伝子ヌクレオチド配列を配列した。サル、巨大コウモリ、イルカのFVIIIsを選んだのは、サルが陸上でジャンプし、巨大コウモリが空を飛び、イルカが水中を泳いでいるからである。これらの動物のFVIII重鎖配列とヒトのFVIII軽鎖配列とをヘテロ接合してハイブリッドFVIII分子を形成し、その後、これらのハイブリッドFVIII分子を含むプラスミドをそれぞれ細胞にトランスフェクションした。トランスフェクション後24時間になると、上清培地を採取してaPTT検査を行って、FVIII分子の凝固活性を測定した。
【0106】
aPTTの結果を
図2A~2Cに示す。mHCは、巨大コウモリFVIIIの重鎖とヒト第VIII因子の軽鎖からなるヘテロ接合型FVIIIであり、dHCは、イルカFVIIIの重鎖とヒト第VIII因子の軽鎖からなるヘテロ接合型FVIIIである。
図2A~2Cでは、ヒト第VIII因子(hHC、FVIII-SQを指す)が対照とされ、
図2Aは、hHCとmHCの活性の比較であり、
図2Bは、hHCとdHCの活性の比較であり、
図2Cは、hHCとmaHCの活性の比較である。
【0107】
図2A~2Cに示すように、巨大コウモリFVIII重鎖とヒト第VIII因子軽鎖を含むヘテロ接合型FVIII(mHC)は、凝血時間が最も短く、このことから、その分泌レベルが最も高く、凝血活性が最も高いことを示す。mHCがヒト第VIII因子と異なる点は、mHCに巨大コウモリFVIIIの重鎖が含まれていることである。この結果は、巨大コウモリFVIIIの重鎖がヘテロ接合型mHC FVIIIの分泌能を高めるのに有利であることを示す。
【0108】
次に、より多くのヘテロ接合型FVIII分子-M1H2とH1M2を構築するために、ヒトと巨大コウモリのFVIIIのA1とA2ドメインをそれぞれ置き換えた。M1H2は、巨大コウモリ重鎖(mHC)のA1ドメインとヒト重鎖(hHC)のA2ドメインを含み、H1M2は、hHCのA1ドメインとmHCのA2ドメインを含む(
図3A)。
【0109】
図3Bに示すように、M1H2は、ヒト第VIII因子(hHC)に比べて凝固時間が短く、このことから、その分泌レベルが高く、凝固活性が高いことを示す。このデータは、mHCのA1ドメインをhHCのA1ドメインに置き換えることで、凝固活性が向上することを示唆している。
【0110】
実施例2:A1ドメインにおける分泌能増強の低い領域の決定
A1ドメインをさらに細分化するために、Phymolソフトウェアを用いてFVIIIの重鎖構造を予測した。この予測によれば、重鎖のA1ドメインはD1とD2に、A2ドメインはD3とD4に細分化され、それにより重鎖の分泌増強に有利な領域をさらに特定しやすくする(
図4)。
【0111】
ネガティブ選択戦略とポジティブ選択戦略の両方が使用される。ネガティブ選択戦略では、巨大コウモリFVIIIのD1又はD4ドメインをヒト第VIII因子のD1又はD4ドメインに置き換え、ヘテロ接合型巨大コウモリFVIII:hD1とhD4を構築した(
図5A)。
図5Aに示すように、hD1は、ヒト第VIII因子重鎖(hHC)のD1領域と巨大コウモリFVIII重鎖のD2~D4領域とを含み、hD4は、ヒト第VIII因子重鎖(hHC)のD4領域と巨大コウモリFVIII重鎖のD1~D3領域を含む。すべてのFVIII突然変異体は同じ軽鎖と他の必要な調節要素を含み、同じドメイン又は発現要素は図に示されていない。ヒトのFVIIIは低い分泌活性を持つため、ヘテロ接合型巨大コウモリのFVIII突然変異体の分泌効率が低下する。実際には、
図5Bに示すように、hD1はヒト第VIII因子(hHC)に比べて凝固時間が長い。この結果は、ヒト第VIII因子のD1ドメインが巨大コウモリFVIIIの分泌活性を低下させる可能性があり、それが逆に血液凝固活性を低下させることを示唆している。したがって、D1ドメインはFVIIIの分泌に重要である可能性がある。
【0112】
ポジティブ選択戦略では、ヘテロ接合型ヒト第VIII因子突然変異体mD1mD3、mD2、mD3、及びmD4を構築するために、ヒト第VIII因子のD1~D4領域を巨大コウモリFVIIIの対応する領域に置き換えた(
図6A)。巨大コウモリFVIIIはより高い分泌活性を持つため、この突然変異はヘテロ接合型ヒト第VIII因子sの分泌効率を高める。
図6Bに示すように、すべてのハイブリッドヒト第VIII因子突然変異体の凝固時間はヒト第VIII因子(hHC)よりも短く、中でもmD1mD3の凝固時間が最も短い。この結果は、D1ドメインがFVIII分泌の重要な領域である可能性を示唆している。
【0113】
ネガティブ選択とポジティブ選択実験の結果は、巨大コウモリD1領域が、巨大コウモリFVIIII分泌能を高める重要なドメインである可能性がある。
【0114】
実施例3:D1ドメインにおける分泌増強を担うアミノ酸の決定
ヒトD1(配列番号1)と巨大コウモリD1(配列番号2、その配列は以下を参照)の領域のアライメントを行ったところ、両者には23個のアミノ酸の差があることを発見した(
図7、アスタリスクで表記)。なお、巨大コウモリD1領域がヒトD1領域よりもアミノ酸が1個多いこと(
図7、ヒト配列の「-」はアミノ酸が1個欠失していることを表す)ことに注意されたい。以下では、多様な突然変異部位を有する巨大コウモリFVIII及びヒト第VIII因子突然変異体を構築する。ヒト第VIII因子突然変異体中のアミノ酸の位置は配列番号1を参照し、巨大コウモリFVIII突然変異体中のアミノ酸の位置は配列番号2を参照する。
【0115】
配列番号2のアミノ酸配列は以下のとおりである。
ATRRYYLGAVELSWDYMQSELLSELHMDTRFPPEVPRSFPFNTSVIYKKTVFVEFTDHLFNTAKPRPPWMGLLGPTIRAEVSDTVVITLKNMASHAVSLHAVGVSYWKASEGAQYEDQTSQREKEDDKVIPGDSHTYVWEVLKENGPMASDPPCLTYSYFSHVDLVKDLNAGLIGTLLVCREGSLAKE
【0116】
FVIIIタンパク質の分泌に影響するアミノ酸を決定するために、巨大コウモリD1の23個の異なるアミノ酸のうち8個をそれぞれヒトD1の対応するアミノ酸に置き換え、対応するFVIII突然変異体:V51L、T62I、E116D、I130F、D133G、E140Q、P153L、及びF160Lを得た。V51Lは、巨大コウモリFVIII突然変異体の配列番号2の51番目のアミノ酸VがLに突然変異したものを指し(
図7参照)、その他の突然変異体の定義は同様である。
図8Aは、ELISAの結果であり、この結果は、8つのアミノ酸をそれぞれ含む突然変異体、すなわち、V51L、T62I、E116D、I130F、D133G、E140Q、P153L、及びF160Lが、FVIIIタンパク質の発現レベルを低下させることを示す(
図8A)。
図8Bは、aPTTの結果であり、この結果は、8つのアミノ酸をそれぞれ含む突然変異体、すなわち、V51L、T62I、E116D、I130F、D133G、E140Q、P153L、及びF160L突然変異体の凝固活性が低下することを示す(
図8B)。これらのデータは、これら8つのアミノ酸が巨大コウモリFVIIIの分泌能を増強するのに重要な役割を果たしていることを示しており、ヒト第VIII因子における対応する8つのアミノ酸の突然変異がヒト第VIII因子の分泌能を高める可能性がある。巨大コウモリFVIIIのD1領域はヒト第VIII因子よりアミノ酸が1個多いため(
図7参照)、ヒト第VIII因子突然変異体のL50V、I61T、D115E、F129I、G132D、Q139E、L152P及びL159Fは、ヒト第VIII因子の分泌を増加させる可能性がある。
【0117】
なお、2つのアミノ酸突然変異であるV51LとP153Lの突然変異体を含むことにより、巨大コウモリのFVIIIの分泌を最大限に低下させることができた(
図8A~8B)ことに注意されたい。ヒト第VIII因子において、L50V及びL152Pの突然変異は、ヒト第VIII因子の分泌及び凝固活性を増加させる2つの重要なアミノ酸の突然変異である可能性がある。
【0118】
実施例4:分泌活性増強に寄与する他のアミノ酸の決定
巨大コウモリのD1領域の20番目から23番目のアミノ酸の位置において、巨大コウモリFVIIIのアミノ酸配列はELLSであり(
図7)、ヒト第VIII因子配列の対応するアミノ酸配列はDLGである(
図7)。FVIIIは分泌性タンパク質であるため、細胞の合成部位から放出されて小胞体を通過しなければならない。D1は小胞体のBip領域と相互作用しているのではないかと推測されている。FVIIIが細胞から輸送されるとATPが消費されることが研究により明らかになった。細胞内のATPの貯蔵量が限られているため、ATPの消費が少ないタンパク質はより多く細胞外に運び出され、より多くの分泌タンパク質を産生することができる。タンパク質の親和性と疎水性を解析し、ヒト第VIII因子におけるDLG配列をSLG(D20S)又はSLL(D20S、G22L)に突然変異させた。これらはヒトのFVIII突然変異体であるため、アミノ酸の位置は配列番号1の配列に基づいている。例えば、ここでのG22Lとは、突然変異体FVIIIの22番目のアミノ酸GがLに突然変異したことを指す(配列番号1参照)。
【0119】
ヒト第VIII因子のD1領域の突然変異体はSLL(D20S、G22L)、SLG(D20S)あるいはその両方がそれぞれ他のアミノ酸突然変異と結合したものを含み、種々のFVIII突然変異体は表1のようである。
表1は、DLG配列突然変異を含む各種FVIII突然変異体である。ヒトD1領域のDLG配列をSLL(D20S、G22L)又はSLG(D20S)に突然変異させるか、又はそれぞれ他のアミノ酸突然変異と結合して、3~5個の突然変異アミノ酸を有する種々のFVIII突然変異体を形成する。
【0120】
FVIII突然変異体とヒト第VIII因子(hFVIII-SQ)の凝固活性を比較するために、aPTT実験を行った。
図9に示すように、すべてのヒト第VIII因子突然変異体はhFVIII-SQよりも凝固活性が高かった。これらの結果は、これらの突然変異したアミノ酸の様々な組み合わせがヒト第VIII因子の分泌を上昇させることを示唆している。
【0121】
以上のように、ヒト第VIII因子には、D20S、G22L、L50V、I61T、D115E、F129I、G132D、Q139E、L152P、及びL159Fの10個の突然変異があり、これらの部位はヒト第VIII因子の分泌能と活性を増強する重要な突然変異部位と決定された。
【0122】
実施例5:本明細書に開示された遺伝子操作hFVIIIポリペプチドを含む組換えAAV(rAAV)ベクターの生産
3Lバイオリアクターにおいて0.8×106個の細胞/mLの密度で293懸濁細胞を接種した。3つのプラスミド(pAAV-hFVIII、pAd-helper、pRep/Cap)を1:1:1の割合で混合し、その後PEIと1:2の割合で混合した(1ugプラスミド:2μL PEI)。混合物を室温で15分間インキュベートした後、バイオリアクターに添加した。トランスフェクション後72時間になると、1%Tween-20を含む溶解緩衝液で細胞を溶解した。その後、バイオリアクターに50U/mL Benzonaseヌクレアーゼと1mM MgCl2を添加し、37℃で3時間インキュベートし、パッケージングしていない細胞、ウイルス、プラスミドのDNAとRNAを消化した。消化後の細胞溶解液を遠心分離し濾過濃縮した後、rAAVベクターをAAVXアフィニティーカラムで精製し、さらにアニオンカラムで精製した。緩衝液交換後、rAAVを無菌ろ過し-80℃で保存した。
【0123】
実施例6:本明細書に開示された遺伝子操作hFVIIIポリペプチドを含む医薬組成物の製造
例5で精製されたrAAVベクターを、他の活性剤、防腐剤、緩衝剤、塩、薬学的に許容される担体又は他の薬学的に許容される成分と混合して、血友病A型患者を治療するための薬学的組成物を製造する。
【0124】
実施例7:本明細書に開示された遺伝子操作hFVIIIポリペプチドを含む医薬組成物による血友病A型患者の治療
血友病A型患者を募集し、第1相臨床試験を実施した。試験を行うための遺伝子操作hFVIIIポリペプチドの投与量は0.5×1012Vg/Kg~6×1013Vg/Kgである。
【0125】
本明細書に開示された遺伝子操作hFVIIIポリペプチドを発現するrAAVベクターを含む医薬組成物を血友病A型患者に静脈内投与した。患者に薬物を注射した後、FVIIIの発現レベルを追跡し検出するために、4年間のフォローアップを行った。第1チェックポイントを初回注射後7日目とし、その後6カ月間、1~2週間ごとに検出を行い、その後の間隔は1~3カ月とした。初回投与から1年後、患者のFVIII発現量は正常レベルの2%を上回った。
【配列表】
【国際調査報告】