(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-03
(54)【発明の名称】焦燥性興奮および他の認知症関連行動症状を治療する方法
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20241126BHJP
A61K 31/551 20060101ALI20241126BHJP
A61P 25/20 20060101ALI20241126BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
A61K45/00
A61K31/551
A61P25/20
A61P25/28
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024526913
(86)(22)【出願日】2022-11-15
(85)【翻訳文提出日】2024-05-07
(86)【国際出願番号】 US2022079861
(87)【国際公開番号】W WO2023097151
(87)【国際公開日】2023-06-01
(32)【優先日】2021-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522273872
【氏名又は名称】ウールジー・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】WOOLSEY PHARMACEUTICALS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【氏名又は名称】落合 康
(74)【代理人】
【識別番号】100221534
【氏名又は名称】藤本 志穂
(72)【発明者】
【氏名】マカリスター,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ジェイコブソン,スヴェン
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084NA14
4C084ZA051
4C084ZA052
4C084ZA151
4C084ZA152
4C084ZA161
4C084ZA162
4C084ZA221
4C084ZA222
4C084ZC201
4C084ZC202
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC54
4C086GA07
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA05
4C086ZA15
4C086ZA16
4C086ZA22
4C086ZC20
(57)【要約】
本発明は、rhoキナーゼ阻害剤、特にファスジルを使用して、認知症患者、特にアルツハイマー病患者の焦燥性興奮/不安を治療することができるという発見に基づく。アルツハイマー病患者のファスジル治療は、他の潜在的な治療薬で観察されるものとは桁違いの焦燥性興奮の改善をもたらした。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療有効量のrhoキナーゼ阻害剤を、それを必要とする患者に投与することを含む、焦燥性興奮を治療する方法。
【請求項2】
前記患者が認知症に罹患している、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記認知症が、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、ハンチントン病(HD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、レビー小体型認知症(DLB)、前頭側頭型認知症(FTD)、脳血管性認知症、および混合型認知症からなる群から選択される、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記患者がアルツハイマー病を有する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記焦燥性興奮が、攻撃性、敵対性、妄想、幻覚、疑い深さ、不眠症、または異常な運動行動を含む、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記患者が、即時放出製剤で、90mg~240mgの塩酸ファスジル半水和物の合計1日用量を投与される、請求項1~5に記載の方法。
【請求項7】
前記患者が、30mg TIDで、90mgの塩酸ファスジル半水和物の合計1日用量を投与される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記患者が、コーエン・マンスフィールド焦燥評価票(CMAI-C)で20以上の最小スコアを有する、請求項2~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記患者が、CMAI-Cによって測定される焦燥性興奮の、身体的に攻撃的、言語的に攻撃的、身体的に非攻撃的、および言語的に非攻撃的のタイプのうちの少なくとも一つを示している、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記rhoキナーゼ阻害剤がファスジルであり、ファスジルで治療された前記患者が、ファスジルを用いた治療前の前記患者のベースラインスコアから少なくとも約5点のCMAI-Cの改善を示す、請求項8または請求項9に記載の方法。
【請求項11】
ファスジルで治療された前記患者が、ファスジルを用いた治療前の前記患者のベースラインスコアから少なくとも約12点のCMAI-Cの改善を示す、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記患者が、4以上の最小神経精神症状評価質問票焦燥性興奮/攻撃性ドメインスコア、または6以上のNPI焦燥性興奮/攻撃性ドメインスコアを有する、請求項2~7のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記rhoキナーゼ阻害剤がファスジルであり、ファスジルで治療された前記患者が、ファスジルを用いた治療前の前記患者のベースラインスコアから少なくとも約1点~少なくとも約3点のNPI-Q焦燥性興奮/攻撃性ドメインの改善を示す、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
rhoキナーゼ阻害剤がファスジルであり、前記ファスジル治療が、ある期間にわたる焦燥性興奮の発生数を減少させる、請求項1~13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
ファスジル治療が、1日当たりの焦燥性興奮の発生を減少させる、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
ファスジル治療が、焦燥性興奮が生じる週当たりの日数を減少させる、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
ファスジル治療が、夕方の焦燥性興奮の週当たりの発生数、時間の長さ、または重症度を減少させる、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
rhoキナーゼ阻害剤がファスジルであり、前記ファスジル治療が、認知症の重症度が進行するにつれて認知症患者において発生する焦燥性興奮の増加を遅らせる、請求項2~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記患者が、離設、境界逸脱、または経路探索能力の欠陥からなる徘徊行動を示さない、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記患者が、歩き回る行動、ルーピング、または過度の歩行を示さない、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記患者が、慢性脳卒中に対してファスジルで以前に治療されていない、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
それを必要とする患者における、焦燥性興奮の治療のための有効量のrhoキナーゼ阻害剤の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
これは特許協力条約に基づく国際出願であり、2021年11月29日に出願された米国仮特許出願第63/283,696号の優先権を主張し、その内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
焦燥性興奮(agitation)は、アルツハイマー病(AD)患者および他の認知症患者において一般的である。こうした患者における焦燥性興奮は、言語的または身体的興奮、易刺激性、不安情動、攻撃などの脱抑制行動、妄想および幻覚に対する行動反応、ならびに睡眠障害および/または摂食障害として現れ得る。焦燥性興奮は、日課、環境、または介護者の変化、不快感(空腹、痛み、眠気)、恐怖、不安、疲労、薬剤によって、または錯綜とした世界を通過することによって引き起こされ得る。患者は、認知症の重症度の増加と共に焦燥性興奮の増加を経験する。CharernboonとPanasathitは、AD患者において、高頻度の焦燥性興奮、攻撃性、異常行動、および睡眠問題を観察し、症状の頻度が病気の重症度と共に増加したことを見出した。(Charernboon and Phanasathit 2014)。
【0003】
焦燥性興奮および/または攻撃性は、認知症患者の最大約80%に影響を及ぼすと推定される(Ryu 2005; Tractenberg 2003)。ADおよび認知症患者の焦燥性興奮は、介護者のストレス、患者の罹患率および死亡率の増加、ならびに療養施設への早期入所につながる。焦燥性興奮および易刺激性は、特に、認知症患者の健康および生活の質を脅かす。例えば、焦燥性興奮の認知症患者における一般的な偏執性妄想には、家に侵入者がいる、私有物が紛失もしくは盗まれた、誰かが家族に成りすましている、または配偶者が浮気をしていると思い込むことが含まれる。
【0004】
ADの現在の治療には、必要に応じて非薬理学的および薬理学的なアプローチが含まれる。非薬理学的、行動学的アプローチは難題であり、実施に時間がかかり、スタッフ対居住者の比率が低い療養施設にとっては有益ではない。他の非薬理学的アプローチとしては、アロマセラピー、照明介入、および環境音楽療法が挙げられる。多くの患者は非薬理学的アプローチに反応せず、しばしば薬物療法が必要である。現在、アルツハイマー病の焦燥性興奮に対してFDAが承認した薬理学的治療はなく、したがって、臨床医は、抗精神病薬、鎮静薬/催眠薬、抗不安薬、および抗鬱薬を適応外使用して、症状を制御することを試みる。焦燥性興奮を治療するために使用される一般的な薬剤としては、プロプラノロールおよびピンドロールなどのベータ遮断薬、ブスピロンなどの不安症の薬、バルプロ酸およびラモトリギンなどの抗痙攣薬、ハロペリドールおよび他の高力価ドーパミン遮断薬などの抗精神病薬、ならびに非定型抗精神病薬が挙げられる。ADでは、例えば、薬理学的治療には、米国食品医薬品局(FDA)による「ブラックボックス」警告につながる安全性および有効性の懸念を上回る適度の効果を有する非定型抗精神病薬の使用が含まれることが多い。こうした抗精神病薬を使用した場合、特に高用量では、死亡および生命を脅かす可能性のある副作用のリスクが高くなる。(Maust 2015)。抗精神病薬使用の他の有害作用としては、脳血管事象の増加、歩行異常、転倒、および代謝症候群が挙げられる。
【0005】
米国食品医薬品局(FDA)は最近、パーキンソン病の認知症関連精神症に対してピマバンセリンを承認し、この薬剤は現在、AD患者の精神症および焦燥性興奮の両方を治療するための臨床試験中であり、複数のタイプの神経変性障害における認知症関連精神症の試験中である。ピマバンセリンは、選択的5-HT2A受容体逆作動薬である。
【0006】
ADおよび他の認知症患者において、ならびに焦燥性興奮および不安が症状である他の疾病において、焦燥性興奮および不安を治療するためのより低リスクの薬理学的薬剤に対する継続的なニーズがある。
【発明の概要】
【0007】
一実施形態では、有効量のファスジルを用いて、それを必要とする患者の焦燥性興奮を治療するための方法が提供される。
【0008】
一実施形態では、焦燥性興奮関連認知症を有する患者を治療する方法が提供され、前記患者を治療有効量のファスジルで治療することを含む。
【0009】
一部の実施形態では、認知症は、例えば、数ある中で、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、ハンチントン病(HD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、レビー小体型認知症(DLB)、前頭側頭型認知症(FTD)、脳血管性認知症、混合型認知症、他に分類されない認知症、正常圧水頭症(NPH)、および頭部損傷から生じる。
【0010】
好ましい実施形態では、認知症はアルツハイマー病(AD)であり、これは認知症の最も一般的な原因であり、症例の60~80%を占める。(Alzheimer's Association. Alzheimers Dement 2016;12(4):459-509)。
【0011】
本発明の好ましい態様は、皮質認知症による焦燥性興奮を有する患者を治療する方法であって、前記患者を治療有効量のファスジルで治療することを含む方法を企図する。この実施形態の特定の態様では、皮質認知症は、タンパク質症関連認知症である。皮質認知症の例は、アルツハイマー病(AD)、血管性認知症、レビー小体(LBD)、前頭側頭型認知症、前頭側頭葉(FTD)、および原発性進行性失語(PPA)である。
【0012】
別の実施形態では、焦燥性興奮に対して治療される患者は、皮質下認知症を有する。皮質下認知症の例は、ビンズワンガー病(BD;まだら認知症)、パーキンソン病(PD)、ハンチントン病(HD)、および多発性硬化症(MS)である。
【0013】
別の実施形態では、焦燥性興奮に対してファスジルで治療される患者は、注意欠陥多動性障害、行為障害、反抗挑戦性障害、トゥレット症候群、レッシュ・ナイハン症候群、または外傷後ストレス障害の脱抑制症状に関連する焦燥性興奮を有する。
【0014】
特定の実施形態では、焦燥性興奮を有する患者に投与されるファスジルは、塩酸ファスジル半水和物である。
【0015】
一実施形態では、ファスジルは、即時放出製剤として約90~240mg/日の用量で患者に投与される。
【0016】
別の実施形態では、ファスジルは、徐放性製剤で患者に投与され、最大血漿濃度および24時間にわたる血漿中曲線下面積は、即時放出型製剤として90~240mg/日の投与レジメンを使用して得られるものを15%を超えて超過しない。
【0017】
特定の実施形態では、ファスジルは、1日2回(BID)または1日3回(TID)患者に投与される。
【0018】
別の特定の実施形態では、ファスジルは、90mgの用量でTID、患者に投与される。
【0019】
特定の好ましい実施形態では、本発明の方法は、認知症による焦燥性興奮を有する患者を治療する方法を含み、方法は、治療有効量のファスジルで前記患者を治療することを含み、前記患者は、慢性期脳卒中に対してファスジルで以前に治療されていない。
【0020】
別の実施形態では、焦燥性興奮に対して治療される認知症患者は、鬱病、不安症、または統合失調症を有しないか、またはそれらの病歴を有しない。
【0021】
別の実施形態では、治療対象の認知症患者は、離設、境界逸脱、または経路探索能力の欠陥などの徘徊行動を示さない。
【0022】
さらなる実施形態では、治療対象の認知症患者は、歩き回る行動、ルーピング、または過度の歩行を示さない。
【0023】
特定の好ましい実施形態では、治療された患者は、治療を開始する前に、測定可能最小量の焦燥性興奮を有する。NPI-Q焦燥性興奮/攻撃性ドメインによって測定したとき、特定の患者は、4の最小スコアを有してもよく、完全NPIでは、特定の患者は典型的には、焦燥性興奮/攻撃性ドメインの6の最小スコアを有することになる。CMAI-Cによって評価したとき、特定の患者は、少なくとも5、一般的には少なくとも10または15の閾値ベースライン最小スコアを有し、好ましい最小スコアは20である。16、17、18、19、21、22、23、24、および25の最小スコアも企図される。
【0024】
一部の実施形態では、ADなどの認知症を有する被験者における焦燥性興奮および/または攻撃性、ならびに/または関連症状におけるファスジルを用いた治療による改善は、焦燥性興奮に対する臨床全般印象-重症度(CGI-S)尺度、コーエン・マンスフィールド焦燥評価票臨床医版(CMAI-C)、アルツハイマー病の行動病理学、および焦燥性興奮サブスケールを含む神経精神症状評価(NPI)のうちの一つ以上の改善によって測定され得る。
【0025】
一実施形態では、ファスジルでの焦燥性興奮の改善は、CMAIを使用して評価される。一実施形態では、ファスジルでの改善は、少なくとも2.5点、少なくとも5点、少なくとも10点、少なくとも12点、少なくとも20点、または少なくとも25点である。
【0026】
一実施形態では、ファスジル治療での焦燥性興奮の改善は、NPI-Qおよび/またはNPI4Dスコアを使用して評価される。NPI-Qについては、0のスコアは症状の不在であり、12のスコアは、顕著な重症度での症状の毎日の発生を反映する。
【0027】
別の実施形態では、患者のNPI4Aスコアは、ファスジル投与前の患者のベースラインスコアと比較して、少なくとも2.5減少する。
【0028】
一実施形態では、患者のNP14Aスコアは、ファスジル投与前の患者のベースラインスコアと比較して、少なくとも3.0減少する。
【0029】
他の実施形態では、ファスジルを用いた治療は、ベースライン、すなわち、ファスジル治療前の焦燥性興奮の量と比較して、患者の焦燥性興奮を少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、または50%減少させる。
【0030】
別の実施形態では、ファスジルを用いた治療は、焦燥性興奮の量を50%以上減少させる。
【0031】
特定の実施形態では、ファスジル治療は、毎日複数回の発生から1日当たり1回もしくは0回に、または毎日の発生から毎日ではない発生になど、焦燥性興奮の発生数を減少させる。
【0032】
さらなる実施形態では、ファスジルを用いた治療は、週当たり少なくとも1日、好ましくは週当たり少なくとも2日、より好ましくは週当たり少なくとも3日、焦燥性興奮が発生する週当たりの日数を減少させる。
【0033】
別の実施形態では、ファスジルを用いた治療は、言語的または身体的な攻撃性の発生数を減少させることによって、焦燥性興奮の重症度を減少させる。
【0034】
別の特定の実施形態では、ファスジル治療は、週当たりまたは月当たりの「夕暮れ症候群」の発生数を減少させる。さらなる実施形態では、ファスジル治療は、夕暮れ症候群の夕方の焦燥性興奮の時間の長さまたは進行を減少させる。さらなる実施形態では、ファスジルは、夕暮れ症候群に関連する行動の重症度を減少させる。
【0035】
別の実施形態では、ファスジルを用いた治療は、認知症の進行と共に生じる焦燥性興奮の増加を減少または停止させる。
【0036】
別の実施形態では、ファスジルを用いた治療は、認知症患者の異常な運動活動を少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、または50%減少させる。特定の実施形態では、ファスジルを用いた治療は、夕暮れ症候群の間、または夕方に起こる異常な運動活動を減少させる。
【0037】
別の実施形態では、ファスジルを用いた治療は、認知症患者の不眠症などの睡眠障害を、少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、または50%減少させる。特定の実施形態では、不眠症の週当たりの発生率が減少する。
【0038】
別の実施形態では、ファスジルを用いた治療は、妄想または幻覚行動の発生数を、少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、または50%減少させる。
【0039】
さらに別の実施形態では、ファスジルを用いた治療は、認知症患者の不安を、少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、または50%減少させる。
【0040】
別の実施形態では、ファスジルを用いた治療は、認知症患者の脱抑制を、少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、または50%減少させる。
【0041】
さらなる実施形態では、ファスジルを用いた治療は、認知症患者の敵対性および疑い深さを、少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、または50%減少させる。
【0042】
別の実施形態では、ファスジルを用いた治療は、認知症患者の摂食障害または食欲障害を、少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、または50%減少させる。
【0043】
別の実施形態では、ファスジルを用いた治療は、焦燥性興奮に関連する介護者の負担を、少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、または50%減少させる。
【0044】
一実施形態では、焦燥性興奮を有する認知症患者は、男性である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本発明は、ファスジルなどのrhoキナーゼ阻害剤を使用して、認知症に関連する焦燥性興奮を治療することができるという発見に基づく。rhoキナーゼの阻害剤であるファスジルは、CNSの状態においていくつかの潜在的に有益な効果を有することが報告されているが、
【0046】
いずれの状態においても治療効果のレベル1のエビデンスはなく、あらゆる潜在的な医療適用が依然として推論的であることを意味する。
【0047】
Greathouse et al., Behavioural Brain Research. 2019; 373:112083は、rhoキナーゼの枯渇またはファスジルを用いた治療は、マウスにおいて不安様行動を誘発すると報告している。6カ月齢のマウスに、10mg/kgのファスジルまたは水を、1日1回、30日間、強制経口投与により投与した。高架式十字迷路およびオープンフィールドにより、薬物治療の最終3日間にわたって行動を評価した。ファスジル治療は、マウスが迷路の「オープンアーム」部分にいた時間量を有意に減少させ、不安を示した。rhoキナーゼ阻害剤(ROCK1およびROCK2のヘテロ接合体)の遺伝子減少は、同じ挙動を示した。不安および焦燥性興奮は強く関連しており、焦燥性興奮は不安によって引き起こされ得ることが一般的に理解されている。本発明は、マウスにおけるファスジルの不安生成効果にもかかわらず、ファスジルは焦燥性興奮の治療に成功裏に用いられ得るという驚くべき発見に基づく。
【0048】
本開示で使用される「焦燥性興奮」という用語は、Cummings et al., International Psychogeriatrics. 2015; 27(1):7-17に記載される焦燥性興奮の定義を含む。概括的に、Cummingsらは焦燥性興奮を、1)認知障害または認知症候群を有する患者において発生する、2)精神的苦痛(気分の急激な変化、不安、易刺激性、爆発など)と一致する行動を示し、その行動が少なくとも2週間持続しているかまたは頻繁に再発しており、患者の通常の行動からの変化である、3)その行動が、過度の障害を生じさせるのに十分な程、重度である、4)焦燥性興奮が、単に別の障害(精神的、最適ではないケア状態、医学的、または薬物関連)のせいではない、として定義している。
【0049】
焦燥性興奮はまた、午後遅くまたは夕方にピークに達する行動障害を指す「夕暮れ症候群」を含む。夕暮れ症候群は、認知症患者の最大3分の2に影響を及ぼし、概日リズム障害と密接に関連している。
【0050】
コーエン・マンスフィールド焦燥評価票(CMAI、Cohen-Mansfield 1986)、アルツハイマー病の行動病理学(BEHAVE-AD頻度評価尺度;Monteiro 2001)、および広く使用されている神経精神症状評価(NPI;de Medeiros 2010)を含む、いくつかの評価尺度を使用して焦燥性興奮を評価する。焦燥性興奮行動尺度(Agitated Behavior Scale、ABS)は、後天性脳損傷からの回復の急性期中の焦燥性興奮の性質および程度を評価する。
【0051】
29項目CMAIは、焦燥性興奮行動のタイプおよび頻度を測定するために設計された。これは、最も一般的に使用される評価であり、現在の「ゴールドスタンダード」であり、焦燥性興奮に対する薬学的介入を承認するために規制当局によって現在までに受け入れられている唯一の転帰尺度であると考えられる。CMAIは、身体的に攻撃的な行動(例えば、他者をたたく)、身体的に非攻撃的な行動(例えば、歩き回る)、言語的に攻撃的な行動(例えば、ののしる)、および言語的に非攻撃的な行動(例えば、反復文)の4つのサブスケールを形成する29項目からなる。CMAIは、焦燥性興奮に関連する行動の頻度および重症度の両方を組み込み、焦燥性興奮行動の定量化を、変化に敏感な継続的な尺度にすることを可能にする。CMAIは、過去2週間の被験者の行動を評価するよう、評価者に求める。
【0052】
CMAI-Cは、35の特定症状、行動の時刻、および「他の」行動の頻度を使用して、焦燥性興奮を系統的に評価するための37項目の尺度である。被験者は、身体的に攻撃的な行動、身体的に非攻撃的な行動、および言語的な焦燥性興奮行動を示す頻度に関して、なし(0)から1時間に数回(6)までの7点尺度で評価される。CMAI-Cもまた、過去2週間の被験者の行動を評価するよう、評価者に求める。
【0053】
NPIは、認知症患者の12の行動領域および治療に対する効果を評価する評価である。総NPIスコアは、標準的な12のNPIドメイン:妄想、幻覚、焦燥性興奮/攻撃性、神経不安/鬱状態、不安、多幸感/発揚状態、無感動/無関心、脱抑制、易刺激性/不安定性、異常運動行動、夜間行動障害、および食欲障害/摂食障害、のスコアの複合である。マニュアルに沿ったNPI面接は、各症状ドメインに対する複合スクリーニング質問、続いて、スクリーニング質問に対する肯定的な応答が誘発されたときに実施されるドメイン特定行動に関する質問のリストを含む。12項目のそれぞれは、その頻度(1~4、時には、頻繁に、および非常に頻繁に)と、その重症度(1~3、軽度、中等度、および顕著)の積に基づいてスコア化され、最大144の合計スコアとなる。(Cummings 1997)頻度および重症度評価尺度は、介護者の応答の信頼性を高めるためのアンカーポイントを定義している。介護者の苦痛は、各陽性神経精神症状ドメインについて、0(全く苦痛なし)~5(きわめて苦痛)のスコアによってアンカーされた尺度で評価される。
【0054】
オリジナルのNPIは、10の神経精神ドメインを含み、その他2つ、すなわち、夜間行動障害および食欲/摂食変化がその後追加された。オリジナルのNPIの別の最近の変更は、存在すると報告された神経精神症状の心理的影響を評価するための介護者の苦痛尺度の追加である(Kaufer 1998)。NPI-Qには、これら両方の追加が含まれる。
【0055】
NPIの臨床医評価形態であるNPI-Cは、MCIおよび重度の認知症の神経精神学的特徴、評価者間の信頼性の高さ、うつ病に対する強い収束的妥当性(Cornell Scale for Depression in Dementia[CSDD]で評価)、精神病(簡易精神症状評価尺度[BPRS]で評価)、無気力(対、無気力評価尺度[AES])、および焦燥性興奮/攻撃性(対CMAI)を含む、より広範な範囲を有する。
【0056】
NPIの一つのサブドメインは、NPI4Aであり、これは、NPI焦燥性興奮/攻撃性、異常な運動行動、易刺激性/不安定性、および不安ドメインを含む複合スコアである。(Dennehy 2013)。
【0057】
その他の評価尺度も使用される。ADCS-CGIC(Alzheimer's Disease Cooperative Study-Clinical Global Impression of Change、略して「CGIC」)は、ワークシートを用いた面接構造を使用して、評価者に特定の神経精神症状を評価するよう注意喚起する。ADCS-CGICは、5つの治療ドメイン:1)認知(即時および遅延記憶、行為、注意、および実行機能)、2)臨床的全般変化、3)日常生活活動、4)行動症状(焦燥性興奮および他の非認知症状)、5)重度障害患者における認知、で患者を評価する。(Schneider 1997)。ADCS-CGICは、試験の開始以来の患者の認知、機能、および行動能力の変化に関する臨床医の観察に焦点を当てている。標的症状尺度とは異なり、これは認知、行動、および機能活動ドメインにおける被験者の全体的な機能を考慮に入れる。スコアリングは、介護者との面接および独立した評価者による患者の検査に基づいており、認知検査結果などの他の情報を参照しない。ADCS-CGICは、1(正常、全く病気ではない)から7(最も極めて病気の患者)までスコア化されたベースラインでの全体的な重症度、および
1(顕著な改善)から7(顕著な悪化)までスコア化された追跡調査時の全体的な変化(4は変化なしを示す)を測定する。
【0058】
BEHAVE-AD(介護者バージョン)および経験バージョン(E-BEHAVE AD)は、アルツハイマー病および関連する認知症における行動病理を評価するために開発された、信頼性が高く有効な臨床医面接評価の12項目の手段である。これは、12の症状を0~3(存在しない~重度に存在する)として評価し、最大36の合計スコアをもたらす。神経行動評価尺度(NBRS)は、脱抑制(すなわち、不適切な行動を抑制する能力)および焦燥性興奮を含む、広範な認知および非認知症状を測定する、27項目の観察者評価尺度である。これは「存在しない」から極めて重度に及ぶ6つのレベルを有する。NBRS標的症状には、攻撃性、焦燥性興奮、敵対性、妄想、幻覚、および疑い深さが含まれる。
【0059】
ROCK阻害剤
本発明の方法は、疾患または状態の治療におけるrhoキナーゼ(ROCK)阻害剤ファスジルの投与を企図する。ROCK1(別名ROKβ、Rho-キナーゼβ、またはp160ROCK)およびROCK2(別名ROKα)の二つの哺乳類ROCK相同体が知られている(Nakagawa 1996)。ヒトでは、ROCK1およびROCK2の両方の遺伝子は、18番染色体上に位置する。二つのROCKアイソフォームは、その一次アミノ酸配列において64%の同一性を共有するが、キナーゼドメインの相同性はさらに高い(92%)(Jacobs 2006;Yamaguchi 2006)。両方のROCKアイソフォームは、セリン/トレオニンキナーゼであり、類似の構造を有する。
【0060】
本発明の方法は、疾患または状態の治療におけるrhoキナーゼ(ROCK)阻害剤の投与を企図する。ROCK1(別名ROKβ、Rho-キナーゼβ、またはp160ROCK)およびROCK2(別名ROKα)の二つの哺乳類ROCK相同体が知られている(Nakagawa 1996)。ヒトでは、ROCK1およびROCK2の両方の遺伝子は、18番染色体上に位置する。二つのROCKアイソフォームは、その一次アミノ酸配列において64%の同一性を共有するが、キナーゼドメインの相同性はさらに高い(92%)(Jacobs 2006;Yamaguchi 2006)。両方のROCKアイソフォームは、セリン/トレオニンキナーゼであり、類似の構造を有する。
【0061】
いくつかの薬理学的ROCK阻害剤が知られている(Feng, LoGrasso, Defert, & Li, 2015)。イソキノリン誘導体は、ROCK阻害剤の好ましいクラスである。イソキノリン誘導体ファスジルは、旭化成工業(東京、日本)によって開発された最初の小分子ROCK阻害剤であった。ファスジルの特徴的な化学構造は、スルホニル基を介してホモピペラジン環に結合されたイソキノリン環からなる。ファスジルは、両方のROCKアイソフォームの強力な阻害剤である。
【化1】
【0062】
インビボでは、ファスジルは、その活性代謝物ヒドロキシファスジル(別名、M3)への肝臓代謝を受ける。イソキノリン由来ROCK阻害剤の他の例には、ジメチルファスジルおよびリパスジルが含まれる。
【0063】
他の好ましいROCK阻害剤は、4-アミノピリジン構造に基づく。これらは、吉富製薬によって最初に開発され(Uehata et al., 1997)、Y-27632により例示されている。さらに他の好ましいROCK阻害剤としては、インダゾール、ピリミジン、ピロロピリジン、ピラゾール、ベンズイミダゾール、ベンゾチアゾール、ベンゾチオフェン、ベンズアミド、アミノフラザン、キナゾリン、およびホウ素誘導体が挙げられる(Feng et al., 2015)。例示的なROCK阻害剤を以下に示す。
【化2】
【0064】
本発明によるROCK阻害剤は、ROCK1またはROCK2のいずれかに対してより選択的な活性を有してもよく、通常、PKA、PKG、PKC、およびMLCKに対して様々なレベルの活性を有する。一部のROCK阻害剤は、ROCK1またはROCK2に高度に特異的であってもよく、PKA、PKG、PKC、およびMLCKに対してはるかに低い活性を有してもよい。
【0065】
ファスジルは、本発明に従って焦燥性興奮を治療するための好ましいROCK阻害剤である。イソキノリン誘導体ファスジルは、旭化成工業(東京、日本)によって開発された最初の小分子ROCK阻害剤であった。ファスジルの特徴的な化学構造は、スルホニル基を介してホモピペラジン環に結合されたイソキノリン環からなる。ファスジルは、両方のROCKアイソフォームの強力な阻害剤である。インビボでは、ファスジルは、その活性代謝物ヒドロキシファスジル(別名、M3)への肝臓代謝を受ける。イソキノリン由来ROCK阻害剤の他の例には、ジメチルファスジルおよびリパスジルが含まれる。
【0066】
ファスジルは、遊離塩基または塩として存在し得て、半水和物などの水和物の形態であり得る。本明細書で使用される場合、ROCK阻害剤の活性部分を特定する方法は、その遊離酸または遊離塩基、塩、水和物、多形体、およびプロドラッグ誘導体に等しく適用されることが理解されよう。
【化3】
ヘキサヒドロ-1-(5-イソキノリンスルホニル)-1H-1,4-ジアゼピン一塩酸塩半水和物
【0067】
ファスジルは、ROCK、PKC、MLCKなどのタンパク質キナーゼの選択的阻害剤であり、治療は血管平滑筋の強力な弛緩をもたらし、血流の強化をもたらす(Shibuya 2001)。血管痙攣の特に重要なメディエーターであるROCKは、ミオシン軽鎖(MLC)ホスファターゼのミオシン結合サブユニットをリン酸化することによって血管収縮を誘導し、それによってMLCホスファターゼ活性を低下させ、血管平滑筋収縮を強化する。さらに、ファスジルが、eNOS mRNAを安定化させることによって内皮一酸化窒素合成酵素(eNOS)発現を増加させ、これが強力な血管拡張剤一酸化窒素(NO)のレベルの増加に寄与し、それによって血管拡張を強化する証拠がある(Chen 2013)。
【0068】
ファスジルは、約25分の短い半減期を有するが、インビボでその1-ヒドロキシ(M3)代謝物に実質的に変換される。M3は、そのファスジル親分子と類似した効果を有し、活性はわずかに増強され、半減期は約8時間である(Shibuya 2001)。したがって、M3は、分子のインビボ薬理学的活性の大部分に関与する可能性が高い。
【0069】
本発明には、ファスジルの薬学的に許容される塩および水和物が含まれる。無機酸および有機酸との反応を介して形成され得る塩。これらの無機酸および有機酸は、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、酢酸、マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸、シュウ酸、シュウ酸、酒石酸、リンゴ酸、マンデル酸、トリフルオロ酢酸、パントテン酸、メタンスルホン酸、またはパラ-トルエンスルホン酸として含まれる。
【0070】
治療方法
本発明は、認知症患者、特にAD患者における焦燥性興奮の治療を企図する。一実施形態では、ファスジルは、焦燥性興奮を示す認知症患者に投与される。
【0071】
特定の実施形態では、攻撃的行動、非攻撃的焦燥性興奮行動、および言語的焦燥性興奮行動に対するベースラインでのCMAI-Cスコアは、約13~15である。
【0072】
別の特定の実施形態では、患者は、第一の用量のファスジルを投与する前に、4以上の最小NPI-Q焦燥性興奮/攻撃性ドメインスコア、または6以上のNPI焦燥性興奮/攻撃性ドメインスコアを有する。
【0073】
一部の実施形態では、焦燥性興奮の減少は、以下のうちの一つ以上を使用して評価される:NPI-Q、CMAI-C、ADCS-CGIC、BEHAVE-AD、ABS、およびNBRS、または必要に応じてその焦燥性興奮/攻撃性サブスケール。
【0074】
本発明の特定の実施形態では、焦燥性興奮/攻撃性に対するファスジル治療患者のCMAI-Cスコアは、ファスジルを用いて治療された認知症患者のベースラインから少なくとも5点減少する。他の実施形態では、焦燥性興奮/攻撃性についてのCMAI-Cスコアは、ファスジルを用いた治療後に、ベースラインから少なくとも10点、少なくとも12点、少なくとも15点、少なくとも20点、または少なくとも25点減少する。CMAI-Cの改善は、言語的に攻撃的、言語的に非攻撃的、身体的に攻撃的、身体的に非攻撃的ドメインを含む、CMAI-Cの一つ以上のドメインによって駆動され得ることが特に企図される。
【0075】
別の実施形態では、ファスジル治療患者の焦燥性興奮のCGICスコアは、未治療の被験者またはプラセボを投与された被験者と比較して、ファスジルを用いて治療された患者において少なくとも0.5改善される。
【0076】
別の実施形態では、患者のNPI4Aスコアは、ファスジル投与前の患者のベースラインスコアと比較して、少なくとも2.5減少する。
【0077】
一実施形態では、患者のNP14Aスコアは、ファスジル投与前の患者のベースラインスコアと比較して、少なくとも3.0減少する。
【0078】
一つの特定の実施形態では、ファスジルを用いた治療は、ベースライン、すなわち、ファスジル治療前の焦燥性興奮の量と比較して、患者の焦燥性興奮を少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、または50%減少させる。
【0079】
別の実施形態では、ファスジルを用いた治療は、焦燥性興奮の量を50%以上減少させる。
【0080】
特定の実施形態では、ファスジル治療は、毎日複数回の発生から1日当たり1回もしくは0回に、または毎日の発生から毎日ではない発生になど、焦燥性興奮の発生数を減少させる。
【0081】
さらなる実施形態では、ファスジルを用いた治療は、週当たり少なくとも1日、好ましくは週当たり少なくとも2日、より好ましくは週当たり少なくとも3日、焦燥性興奮が発生する週当たりの日数を減少させる。
【0082】
別の実施形態では、ファスジルを用いた治療は、言語的または身体的攻撃性の発生数を減少させることによって、焦燥性興奮の重症度を減少させる。
【0083】
別の特定の実施形態では、ファスジル治療は、週当たりまたは月当たりの「夕暮れ症候群」の発生数を減少させる。さらなる実施形態では、ファスジル治療は、夕暮れ症候群の夕方の焦燥性興奮の時間の長さまたは進行を減少させる。さらなる実施形態では、ファスジルは、夕暮れ症候群に関連する行動の重症度を減少させる。
【0084】
別の実施形態では、ファスジルを用いた治療は、認知症患者の異常な運動活動を少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、または50%減少させる。別の実施形態では、ファスジルを用いた治療は、散発性徘徊を50%以上減少させる。別の実施形態では、ファスジルを用いた治療は、夕暮れ症候群の間、または夕方に起こる異常な運動活動を減少させる。一実施形態では、異常な運動活動の減少は、Fitbitsなどのフィットネストラッカーを含む、電子運動および/または活動追跡装置を使用して測定することができる。フィットネストラッカーは、単独で、またはGPS装置と組み合わせて使用して、場所を測定することができる。
【0085】
別の実施形態では、ファスジルを用いた治療は、認知症患者の不眠症などの睡眠障害を、少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、または50%減少させる。特定の実施形態では、不眠症の週当たりの発生率が減少する。
【0086】
別の実施形態では、ファスジルを用いた治療は、妄想または幻覚行動の発生数を、少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、または50%減少させる。
【0087】
さらに別の実施形態では、ファスジルを用いた治療は、認知症患者の不安を、少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、または50%減少させる。
【0088】
別の実施形態では、ファスジルを用いた治療は、認知症患者の脱抑制を、少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、または50%減少させる。
【0089】
さらなる実施形態では、ファスジルを用いた治療は、認知症患者の敵対性および疑い深さを、少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、または50%減少させる。
【0090】
別の実施形態では、ファスジルを用いた治療は、認知症患者の摂食障害または食欲障害を、少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、または50%減少させる。
【0091】
別の実施形態では、ファスジルを用いた治療は、焦燥性興奮に関連する介護者の負担を、少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、または50%減少させる。
【0092】
一実施形態では、焦燥性興奮を有する認知症患者は、男性である。
【0093】
用量および投与
本発明の治療方法によると、1日1回以上の投与に対する、ファスジルまたはその薬学的に許容される塩(塩酸ファスジル半水和物など)の有効量は、約10mg~約1000mgを含み得る。
【0094】
例えば、塩酸ファスジル半水和物は、約10mg~約500mg、約10mg~約400mg、約10mg~約200mg、約10mg~約100mg、約20mg~約10mgの1日量で好適に投与される。
【0095】
一つの好ましい投薬レジメンは、経口即時放出製剤を使用して、75~120mgの合計1日量で、1日3回25、30または40mgの塩酸ファスジル半水和物を用いた治療を含む。最も好ましい投与は、70mgの1日用量を超え、1日投与の最も好ましい範囲は90~180mgであり、1日の間に3つの等量で投与される。
【0096】
特に好ましい1日用量は90mg/日であり、30mgの即時放出錠剤が1日3回投与される。ファスジルは、即時放出製剤を使用して、前述に従って経口投与されることが最も好ましい。別の実施形態では、ファスジルは、180mg/日の用量で投与され、60mgの即時放出錠剤が1日2回投与される。
【0097】
別の実施形態は、徐放性剤形で、1日1回90~180mgの塩酸ファスジル半水和物を用いた治療を含む。1日1回、徐放性の合計1日量90mgの塩酸ファスジル半水和物を用いた治療が好ましい。
【0098】
一実施形態では、ファスジルは、即時放出製剤として約90~240mg/日の用量で患者に投与される。
【0099】
別の実施形態では、ファスジルは、徐放性製剤で患者に投与され、最大血漿濃度および24時間にわたる血漿中曲線下面積は、即時放出型製剤として90~240mg/日の投与レジメンを使用して得られるものを15%を超えて超過しない。
【0100】
本明細書に記載される用量範囲は、投与の指針を提供することが理解されよう。腎障害患者および/またはより高齢の患者(例えば、65歳以上)などの特定の患者部分集団は、即時放出製剤の代わりに、より低い用量または徐放性の製剤を必要とする場合がある。塩酸ファスジル半水和物は、腎疾患を有する患者に通常の用量で投与された場合、より高い定常状態濃度を有する場合があり、Cmaxを低下させるか、またはCmaxまでの時間を遅延させる(Tmaxを増加させる)ための、より低い用量が、必要とされる場合がある。
【0101】
さらに、高齢患者、典型的には認知症患者は、開始時にはより低い用量で、数日後または数週間後に推奨用量へ徐々に増加させる必要がある場合がある。別の実施形態では、高齢患者は、治療期間中、より低い用量を必要とする場合がある。高齢人口には、65~74歳の「前記高齢者」、75~84歳の「後期高齢者」、85歳以上の「虚弱高齢者」が含まれる。例えば、1日当たり30mgの開始用量を2週間、続いて1日当たり60mgを4週間、その後1日当たり90mgである。漸増は、1日当たり最大約180mgまで是認され得る。
【0102】
本発明による組成物を投与する方法は、一般的に少なくとも1日間継続される。一部の好ましい方法は、最大30日間、または最大60日間、またはさらには最大90日間、またはさらにはそれを超えて治療する。60日間を超える治療が好ましく、少なくとも6か月間の治療が特に好ましい。正確な治療期間は、患者の状態および治療に対する応答に依存する。
【0103】
本発明に従って治療可能な患者は、典型的には、焦燥性興奮を測定するために設計された、またはそのためのサブスケールを含有する評価スケールでスコアが低くなる。
【0104】
併用療法
本発明の方法はまた、認知症または他の認知症の症状を治療するために使用される他の化合物と共に、ファスジルなどのROCK阻害剤を投与することを企図する。それらは、組み合わせ、単一剤形、共通投与レジメンで投与されてもよく、または異なる投与レジメンを使用して、1日の異なる時点で同じ患者に投与されてもよい。
【0105】
一部の実施形態では、患者は、コリンエステラーゼ阻害剤およびNMDA受容体拮抗薬に対して治療するために承認された他の活性物質と組み合わせてファスジルを投与される。一実施形態では、コリンエステラーゼ阻害剤は、ドネペジル、リバスチグミン、およびガランタミンからなる群から選択される。コリンエステラーゼ阻害剤の例示的な用量は、1日当たり3~25mg、より好ましくは1日当たり6~12mgを含む。別の実施形態では、NMDA受容体拮抗薬はメマンチンである。特定の実施形態では、メマンチンは、1日当たり5~28mg、好ましくは1日当たり15~20mgの用量で投与される。さらなる実施形態では、同時投与される活性物質は、28mgのメマンチンおよび10mgのドネペジルの用量でのドネペジルとメマンチンの組み合わせである。
【0106】
特定の実施形態では、ファスジルとコリンエステラーゼ阻害剤の組み合わせは、タンパク質症関連皮質認知症を有する焦燥性興奮患者に投与される。さらなる実施形態では、ファスジルとコリンエステラーゼ阻害剤の組み合わせは、混合型認知症を有する焦燥性興奮患者に投与される。
【0107】
またさらなる実施形態では、ファスジルとコリンエステラーゼ阻害剤の組み合わせは、血管性皮質認知症のみを有する焦燥性興奮患者には投与されない。
【0108】
デキストロメトルファン臭化水素酸塩は、シグマ-1受容体作動薬としての活性も有する、非競合的NMDA受容体拮抗薬である。硫酸キニジン(CYP450 2D6阻害剤)と併用して市販されている製品Nudextaは、多くの形態の認知症で発生する情動調節障害の治療に適応される。
【0109】
一実施形態では、ファスジルを用いた治療は、気分安定剤、ベンゾジアゼピン、抗精神病薬、抗焦燥性興奮薬、または睡眠補助剤の使用の必要性を低減または排除する。
【0110】
さらなる実施形態では、ファスジルを用いて治療される患者は、気分安定剤、ベンゾジアゼピン、抗精神病薬、抗焦燥性興奮薬、または睡眠補助剤を含む活性物質で治療されていない。特定の実施形態では、ファスジルを用いて治療される患者は、ハロペリドール、リスペリドン、アリピプラゾール、クエチアピン、オランザピン、ジプラシドン、ルマテペロン、カルバマゼピン、ガバペンチン、またはバルプロ酸で治療されていない。
【0111】
別の実施形態では、患者は前述の活性物質で治療されているが、ファスジルを用いた治療を正当化する焦燥性興奮を依然として呈する。一実施形態では、ファスジル治療は、患者が薬物のうちの一つを用いた治療を停止することを可能にする。
【0112】
別の特定の実施形態では、ファスジルを用いて治療される患者は、抗不安薬で治療されていない。アルプラゾラム(Xanax)、ブスピロン(BuSpar)、ロラゼパム(Ativan)、およびオキサゼパム(Serax)を含む抗不安薬は、しばしば眠気を引き起こす。逆説的ではあるが、それらはまた、混乱および焦燥性興奮を悪化させ得る。
【0113】
さらなる実施形態では、ファスジルで治療される患者は、うつ病に対して治療され得る。特定の実施形態では、患者は、ファスジルと、シタロプラムまたはエシタロプラムまたはトラゾドンまたは他の選択的セロトニン再取り込み阻害薬などの抗うつ薬とで併用治療される。好ましい実施形態では、併用療法薬は、20~40mg/日でのシタロプラムである。
【0114】
一実施形態では、ファスジルを用いて治療される患者は、抗うつ薬で治療されていない。
【0115】
一実施形態では、ファスジルは、デキストロメトルファンとキニジンと併用投与することができる。別の実施形態では、ファスジルはプラゾシンと併用投与することができる。
【0116】
医薬組成物
経口剤形。経口投与のためのROCK阻害剤の医薬組成物は、錠剤またはカプセルの形態であってもよく、即時放出製剤であってもよく、または制御放出製剤もしくは徐放性製剤であってもよく、これは、薬学的に許容される添加剤、例えばコーンスターチ、マンニトール、ポビドン、ステアリン酸マグネシウム、タルク、セルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、および類似の物質を含有してもよい。ROCK阻害剤および/またはその塩を含む医薬組成物は、当該技術分野で知られている一つ以上の薬学的に許容される添加剤を含んでもよい。製剤としては、経口フィルム、口腔内崩壊錠、発泡錠、および食物に振りかけられるか、またはスラリーとして液体と混合されるか、または口に直接注がれて流し込まれることができる顆粒またはビーズが挙げられる。
【0117】
ROCK阻害剤、その塩および水和物を含有する医薬組成物は、医薬品技術分野で知られている任意の方法によって調製することができる。概して、こうした調製方法は、ROCK阻害剤またはその薬学的に許容される塩を担体もしくは添加剤、および/または一つ以上の他の副成分と会合させる工程と、次いで、必要に応じておよび/または望ましい場合、製品を所望の単回用量単位または複数回用量単位に成形および/または包装する工程とを含む。
【0118】
医薬組成物は、単一単位用量として、および/または複数の単一単位用量として、バルクで調製、包装、および/または販売することができる。本明細書で使用される場合、「単位用量」は、所定量の活性成分を含む医薬組成物の個別の量である。活性成分の量は、概して、対象に投与されるであろう活性成分の投与量、および/または例えば、かかる投与量の半分もしくは3分の1などのかかる投与量の簡便な割合と等しい。
【0119】
本発明の医薬組成物中の活性成分、薬学的に許容される添加剤、および/または任意の追加の成分の相対量は、治療される対象のアイデンティティ、サイズ、および/または状態に応じて、さらに組成物が投与される経路に応じて変化する。本発明の方法に従って使用される組成物は、0.001%~100%(w/w)の活性成分を含んでもよい。
【0120】
提供される医薬組成物の製造に使用される薬学的に許容される添加剤としては、不活性希釈剤、分散剤および/もしくは造粒剤、界面活性剤および/もしくは乳化剤、崩壊剤、結合剤、防腐剤、緩衝剤、潤滑剤、ならびに/または油が挙げられる。カカオバターおよび座薬ワックス、着色剤、コーティング剤、甘味剤、香味剤、および芳香剤などの添加剤も、組成物中に存在してもよい。
【0121】
特定の実施形態では、本発明の方法で使用される医薬組成物は、希釈剤を含んでもよい。例示的な希釈剤としては、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、リン酸カルシウム、リン酸二カルシウム、硫酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸ナトリウムラクトース、スクロース、セルロース、微結晶性セルロース、カオリン、マンニトール、ソルビトール、イノシトール、塩化ナトリウム、乾燥デンプン、コーンスターチ、粉糖、およびそれらの混合物が挙げられる。
【0122】
特定の実施形態では、本発明の方法で使用される医薬組成物は、造粒剤および/または分散剤を含んでもよい。例示的な造粒剤および/または分散剤としては、ポテトスターチ、コーンスターチ、タピオカデンプン、グリコール酸デンプンナトリウム、粘土、アルギン酸、グアールガム、柑橘類パルプ、寒天、ベントナイト、セルロース、および木材製品、海綿、陽イオン交換樹脂、炭酸カルシウム、ケイ酸塩、炭酸ナトリウム、架橋ポリ(ビニル-ピロリドン)(クロスポビドン)、カルボキシメチルデンプンナトリウム(グリコール酸デンプンナトリウム)、カルボキシメチルセルロース、架橋ナトリウムカルボキシメチルセルロース(クロスカルメロース)、メチルセルロース、アルファ化デンプン(デンプン1500)、微結晶性デンプン、水不溶性デンプン、カルボキシメチルセルロースカルシウム、ケイ酸マグネシウムアルミニウム(VEEGUM)、ラウリル硫酸ナトリウム、四級アンモニウム化合物、ならびにそれらの混合物が挙げられる。
【0123】
特定の実施形態では、本発明の方法で使用される医薬組成物は、結合剤を含んでもよい。例示的な結合剤としては、デンプン(例えば、コーンスターチおよびデンプンペースト)、ゼラチン、糖類(例えば、スクロース、グルコース、デキストロース、デキストリン、糖蜜、ラクトース、ラクチトール、マンニトールなど)、天然ゴムおよび合成ゴム(例えば、アカシア、アルギン酸ナトリウム、アイルランドコケの抽出物、パンワーガム、ガッティガム、イサポルの皮の粘液、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、微結晶性セルロース、酢酸セルロース、ポリ(ビニル-ピロリドン)、ケイ酸マグネシウムアルミニウム(VEEGUM.RTM.)、およびカラマツアラビノガラクタン(larch arabogalactan))、アルギン酸塩、酸化ポリエチレン、ポリエチレングリコール、無機カルシウム塩、ケイ酸、ポリメタクリラート、ワックス、水、アルコール、ならびに/またはそれらの混合物が挙げられる。
【0124】
特定の実施形態では、本発明の方法で使用される医薬組成物は、防腐剤を含んでもよい。例示的な防腐剤としては、酸化防止剤、キレート剤、抗菌防腐剤、抗真菌防腐剤、抗原虫防腐剤、アルコール防腐剤、酸性防腐剤、および他の防腐剤が挙げられる。特定の実施形態では、防腐剤は酸化防止剤である。他の実施形態では、防腐剤はキレート剤である。
【0125】
特定の実施形態では、本発明の方法で使用される医薬組成物は、酸化防止剤を含んでもよい。例示的な酸化防止剤としては、アルファトコフェロール、アスコルビン酸、パルミチン酸アスコルビル、ブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、モノチオグリセロール、メタ重亜硫酸カリウム、プロピオン酸、没食子酸プロピル、アスコルビン酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、および亜硫酸ナトリウムが挙げられる。
【0126】
特定の実施形態では、本発明の方法で使用される医薬組成物は、キレート剤を含み得る。例示的なキレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)およびその塩および水和物(例えば、エデト酸ナトリウム、エデト酸二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、エデト酸二ナトリウムカルシウム、エデト酸二カリウムなど)、クエン酸およびその塩および水和物(例えば、クエン酸一水和物)、フマル酸およびその塩および水和物、リンゴ酸およびその塩および水和物、リン酸およびその塩および水和物、ならびに酒石酸およびその塩および水和物が挙げられる。例示的な抗菌性防腐剤としては、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、ベンジルアルコール、ブロノポール、セトリミド、塩化セチルピリジニウム、クロルヘキシジン、クロロブタノール、クロロクレゾール、クロロキシレノール、クレゾール、エチルアルコール、グリセリン、ヘキセチジン、イミド尿素、フェノール、フェノキシエタノール、フェニルエチルアルコール、硝酸フェニル水銀、プロピレングリコール、およびチメロサールが挙げられる。
【0127】
特定の実施形態では、医薬組成物は、ROCK阻害剤またはその塩とともに緩衝剤を含んでもよい。例示的な緩衝剤としては、クエン酸緩衝液、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、塩化アンモニウム、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、クエン酸カルシウム、グルビオン酸カルシウム、グルセプト酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、D-グルコン酸、グリセロリン酸カルシウム、乳酸カルシウム、プロパン酸、レブリン酸カルシウム、ペンタン酸、第二リン酸カルシウム、リン酸、第三リン酸カルシウム、水酸化カルシウムリン酸塩、酢酸カリウム、塩化カリウム、グルコン酸カリウム、カリウム混合物、二塩基性リン酸カリウム、一塩基性リン酸カリウム、リン酸カリウム混合物、酢酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、二塩基性リン酸ナトリウム、一塩基性リン酸ナトリウム、リン酸ナトリウム混合物、トロメタミン、水酸化マグネシウムと、水酸化アルミニウム、アルギン酸、発熱物質を含まない水、等張食塩水、リンゲル液、エチルアルコール、およびそれらの混合物が挙げられる。
【0128】
特定の実施形態では、本発明の方法で使用される医薬組成物は、潤滑剤を含んでもよい。例示的な潤滑剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸、シリカ、タルク、麦芽、ベハン酸グリセリル、水素添加植物油、ポリエチレングリコール、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、ロイシン、ラウリル硫酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、およびそれらの混合物が挙げられる。
【0129】
他の実施形態では、ROCK阻害剤またはその塩を含有する医薬組成物は、液体剤形として投与される。経口投与および非経口投与のための液体剤形には、薬学的に許容される乳濁液、マイクロエマルジョン、溶液、懸濁液、シロップ、およびエリキシル剤が含まれる。活性成分に加えて、液体剤形は、例えば、水または他の溶媒、可溶化剤および乳化剤、例えばエチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジメチルホルムアミド、油(例えば、綿実油、ラッカセイ油、トウモロコシ油、胚芽油、オリーブ油、ヒマシ油およびゴマ油)、グリセロール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ソルビタンのポリエチレングリコールおよび脂肪酸エステル、ならびにそれらの混合物などの、当該技術分野で一般的に使用される不活性希釈剤を含んでもよい。不活性希釈剤に加えて、経口組成物は、湿潤剤、乳化剤および懸濁剤、甘味剤、香味剤、および芳香剤などのアジュバントを含み得る。
【0130】
経口投与のための固体剤形には、カプセル、錠剤、丸剤、粉末、および顆粒が含まれる。こうした固形剤形において、活性成分は、少なくとも一つの不活性の薬学的に許容される添加剤もしくは担体、例えばクエン酸ナトリウムもしくはリン酸二カルシウム、および/または(a)賦形剤または増量剤(デンプン、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトール、およびケイ酸など)、(b)結合剤(例えば、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸塩、ゼラチン、ポリビニルピロリジノン、スクロース、およびアカシアなど)、(c)保湿剤(グリセロールなど)、(d)崩壊剤(寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモまたはタピオカデンプン、アルギン酸、特定のケイ酸塩、および炭酸ナトリウムなど)、(e)溶解遅延剤(パラフィンなど)、(f)吸収促進剤(四級アンモニウム化合物など)、(g)湿潤剤(例えば、セチルアルコールおよびモノステアリン酸グリセロールなど)、(h)吸収剤(カオリンおよびベントナイト粘土など)、ならびに(i)滑沢剤(タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウムなど)、ならびにそれらの混合物と、混合される。カプセル、錠剤、および丸剤の場合、剤形は緩衝剤を含んでもよい。
【0131】
本発明の一部の組成物は、徐放性製剤または制御放出製剤に関する。これらは、例えば、拡散制御された生成物、溶解制御された生成物、浸食生成物、浸透圧ポンプシステム、またはイオン樹脂システムであってもよい。拡散制御された生成物は、水の流れおよびその後の溶解した薬剤の投与量からの退出を制御する、水不溶性ポリマーを含む。溶解制御された生成物は、緩徐に可溶化するポリマーを使用することによって、または薬剤のマイクロカプセル化によって、放出を制御するために様々な厚さを使用して、薬剤の溶解速度を制御する。浸食生成物は、担体基質の浸食速度によって薬剤の放出を制御する。浸透圧ポンプシステムは、浸透圧剤を含有する貯蔵部の中への半透膜を越える水の一定の流入に基づいて薬剤を放出する。イオン交換樹脂は、摂取されたときに、薬剤の放出が胃腸管内のイオン環境によって決定されるように、薬剤を結合するために使用され得る。
【0132】
非経口剤形。ファスジルは、非経口剤形で投与することができる。本明細書で使用される場合、「非経口」という用語は、皮下注射、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、または注入技術を含むが、これらに限定されない。
【0133】
非経口投与に適した医薬組成物または製剤としては、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、および意図される受容者の血液と製剤を等張にする溶質を含み得る水性および非水性の滅菌注射溶液、ならびに懸濁剤および増粘剤を含み得る水性および非水性の滅菌懸濁液が挙げられる。組成物は、単位用量または複数用量の容器、密封アンプル、およびバイアルで提供されてもよく、使用直前に滅菌液体担体、注射用水の添加のみを必要とする凍結乾燥(凍結乾燥)状態で保存されてもよい。即時注射溶液および懸濁液は、前述した種類の滅菌粉末、顆粒、および錠剤から調製されてもよい。
【0134】
非経口医薬製剤は、ラッカセイ油、綿実油、ゴマ油などの植物油、ならびに有機溶媒、PEG、プロピレングリコール、グリセロール、および界面活性剤を含む、製剤の水性を変化させない量の他の許容される液体担体をさらに含有してもよい。非経口投与のための特定の実施形態では、本発明のコンジュゲートは、Cremophor(商標)、アルコール、油、修飾油、グリコール、ポリソルベート、シクロデキストリン、ポリマー、およびそれらの混合物などの可溶化剤と混合される。
【0135】
非経口製剤は、希釈剤、結晶阻害剤、等張化剤、水構造形成剤または破壊剤、ポリマー、イオン対形成剤、安定剤、緩衝剤、塩、親油性溶媒、保存剤、アジュバントなどを含むがこれらに限定されない、任意の適切な補助剤のうちの少なくとも一つをさらに含んでもよい。薬学的に許容される補助剤が好ましい。こうした滅菌溶液を調製する実施例および方法は、当該技術分野で周知であり、REMINGTON's PHARMACEUTICAL SCIENCES(Gennaro,Ed.,18th Edition,Mack Publishing Co. (1990); Handbook of Pharmaceutical Excipients, 9th Edition, Pharmaceutical Press (2020))などであるが、これに限定されない周知のテキストに記載されている。化合物の投与様式、溶解性、および/または安定性に適した、薬学的に許容される担体は、規定通りに選択され得る。
【0136】
一実施形態では、水性非経口医薬製剤は、少なくとも50%の水、好ましくは70%以上の水を含む。医薬組成物は、最終製剤が約0.005重量%~30重量%の化合物を含有するように、化合物を液体担体中に溶解または懸濁することによって調製され得る。
【0137】
ファスジルを含む水性非経口医薬製剤の投与経路および有効量の投薬量も提供される。非経口投与については、滅菌懸濁液および溶液が望ましい。静脈内投与が望ましい場合、適切な保存剤を一般的に含有する等張調製物が用いられる。医薬組成物は、不活性液体担体中に溶解されたファスジルを含む医薬組成物の注射によって非経口投与されてもよい。
【0138】
非経口投与の好ましい経路は静脈内である。本明細書に記載される医薬製剤はまた、注入によって投与されてもよい。本明細書に記載される医薬製剤はまた、ボーラス投与量によって投与されてもよく、任意選択で注入による投与と組み合わされてもよい。本明細書に記載される化合物は、疾患の効果的な治療のための様々なプロトコルにおいて、他の医薬品と組み合わせて投与することができる。
【実施例】
【0139】
実施例1
アルツハイマー病(AD)患者の焦燥性興奮の低減における経口ファスジルの有効性を決定するために、臨床試験を実施した。
【0140】
アルツハイマー型認知症を有する19人の患者を募集し、ファスジルHCl半水和物を用いて6~12週間治療した。すべての患者を、1日当たり90mg(30mg TID)で6週間治療し、患者のサブセットを、1日当たり180mg(60mg TID)でさらに6週間治療した。両方の治療レジメンの忍容性は良好であった。NPI-QおよびCMAIを含め、ベースラインおよび治療終了時に様々な評価を実施した。
【0141】
治療終了時に、ベースラインでの焦燥性興奮の最小閾値に基づいて、患者を選択した(すべての患者がベースラインで特定の閾値の焦燥性興奮を有していたわけではなく、焦燥性興奮の治療効果を示すために、閾値は、改善を示すためにより大きな欠陥を有する集団を提供した)。二つのベースライン閾値を設定し、得られた二つのグループに基づいて2つの分析を行った。一つの閾値は、NPI-Qの焦燥性興奮/攻撃性ドメインに基づいており、他方の閾値は、CMAIスコアに基づいていた。NPI-Qベースの選択閾値は、CMAIベースの閾値よりも小さい患者群をもたらしたが、CMAIスコア(FDAによって要求されるゴールドスタンダードの焦燥性興奮評価)を使用して各群を分析した時、結果は非常に類似していた。
【0142】
第一の選択は、4以上のNPI-Qスコアに基づいていた。この閾値により、ベースラインで45.3の平均CMAIスコアを有した6人の患者がもたらされた。このサブグループのすべてのメンバーを、1日当たり90mg(30mg TID)のファスジルで6週間治療した。
【0143】
結果:4以上のNPI-Qスコアを有する患者6人は、ベースラインで45.3の平均CMAIスコア、および治療終了時で23.0の平均を有し、差は22.3であった。
【表1】
【0144】
第二の選択は、ベースラインで20以上のCMAIスコアを必要とし、これにより、13人の患者サブグループがもたらされ、平均ベースラインCMAIスコアは34.4であった。第二のサブグループの患者すべてを、1日当たり90mg(30mg TID)のファスジルで6週間治療し、13人中3人を、1日当たり180mg(60mg TID)のファスジルでさらに6週間治療した。4以上のNPI-Q焦燥性興奮/攻撃性ドメインスコアを使用して選択されたすべての患者も、このサブグループに含まれた。
【0145】
分析では、治療前のCMAIスコアを検討し、それを治療の最終日(低用量の患者10人については6週間、高用量の患者3人については12週間)と比較した。
【0146】
結果:20以上のCMAIスコアを有する患者13人は、治療前の平均CMAIスコアが34.4であり、治療終了時には21.8で、差は12.6であった。
【表2】
【0147】
両群の患者の結果は、非常に関連性が高い。CMAIの5点未満の変化が、臨床的に意義があるとみなされ、これらの変化は数倍大きい。NPI-Q閾値は、より厳密な選択およびより劇的な効果をもたらしたが、CMAI閾値もまた、意義のある変化をもたらしたため、治療のための患者選択においていずれの閾値も考慮することができる。
【0148】
最後に、CMAI-C閾値を変更する効果を調べるために、5点増分を使用して、カットオフを0から35に移動させた。閾値が増加するにつれて、観察された効果の大きさも増加した。より高い閾値は変化の検出においてより強力であるにもかかわらず、CMAI-C閾値を少なくとも5に設定することは、集団にわたって有意義な結果をもたらしたと結論付けられた。
【表3】
【0149】
参考文献リスト
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【0150】
本明細書に記載される各参考文献の開示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【国際調査報告】