(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-03
(54)【発明の名称】抗菌・抗ウイルス銅含有ステンレス鋼及びその製造方法と使用
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20241126BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20241126BHJP
C22C 30/02 20060101ALI20241126BHJP
B22F 3/14 20060101ALI20241126BHJP
B22F 3/02 20060101ALI20241126BHJP
B22F 3/24 20060101ALI20241126BHJP
C22C 33/02 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/58
C22C30/02
B22F3/14 A
B22F3/02 S
B22F3/24 B
C22C33/02 C
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024527326
(86)(22)【出願日】2021-11-12
(85)【翻訳文提出日】2024-05-09
(86)【国際出願番号】 CN2021130229
(87)【国際公開番号】W WO2023082164
(87)【国際公開日】2023-05-19
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513229439
【氏名又は名称】バーシテック リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Versitech Limited
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【氏名又は名称】落合 康
(74)【代理人】
【識別番号】100103230
【氏名又は名称】高山 裕貢
(72)【発明者】
【氏名】黄 明欣
(72)【発明者】
【氏名】劉 立涛
(72)【発明者】
【氏名】潘 烈文
(72)【発明者】
【氏名】銭 永康
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA33
4K018BA02
4K018BA17
4K018CA11
4K018CA23
4K018CA29
4K018CA36
4K018DA31
4K018EA01
4K018FA08
4K018HA03
4K018KA70
(57)【要約】
本発明は、ステンレス鋼マトリックスと、前記ステンレス鋼マトリックスに均一に分布している銅リッチ相とを含む銅含有ステンレス鋼であって、前記銅含有ステンレス鋼の銅含有量が6~30wt%である抗菌・抗ウイルス銅含有ステンレス鋼、並びにその組成に適合するステンレス鋼の製造方法と使用を提供する。その製造方法は、粉末冶金技術を主とする小型ステンレス鋼製品の製造、及び大幅な熱変形のない複合プロセスを主とする大型ステンレス鋼板材、棒材又は管材の製造を含む。本発明の組成設計は、伝統的な抗菌ステンレス鋼と比べて、十分な量の銅リッチ析出相を含むことで、細菌に対する良好な殺滅作用を実現できるだけでなく、純銅に匹敵するウイルス殺滅能力を達成することができ、刃物、エレベータボタン、欄干、手すり、ドアハンドル、カップなどの部品の全体又は全部を製造するのに有用であり、それはその表面に存在する細菌とウイルスを効果的に殺滅することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス鋼マトリックスと、前記ステンレス鋼マトリックスに均一に分布している銅リッチ相とを含む銅含有ステンレス鋼であって、
前記銅含有ステンレス鋼の銅含有量が6~30wt%である、抗菌・抗ウイルス銅含有ステンレス鋼。
【請求項2】
前記銅含有ステンレス鋼の組成が、質量%で、Cu:6~30wt%、Ag:0~1wt%、Zn:0~1.5wt%、Cr:11~30wt%、Mn:0~20wt%、Ni:0~18wt%、Co: 0~8wt%、Al:0~5wt%、Ti:0~5wt%、Mo:0~4wt%、V:0~3wt%、C≦1wt%、残部が鉄と不可避不純物である、請求項1に記載の抗菌・抗ウイルス銅含有ステンレス鋼。
【請求項3】
前記銅含有ステンレス鋼は、さらにNb、Si、Zr、N及びBから選択される1種以上を含有してもよく、ここでSiが≦2wt%であり、その他の合金元素の総含有量が≦3wt%である、請求項1又は2に記載の抗菌・抗ウイルス銅含有ステンレス鋼。
【請求項4】
前記銅含有ステンレス鋼の銅含有量は8~20wt%であり、より好ましくは10~15wt%である、請求項1~3のいずれか1項に記載の抗菌・抗ウイルス銅含有ステンレス鋼。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の抗菌・抗ウイルス銅含有ステンレス鋼的製造方法であって、
前記抗菌・抗ウイルス銅含有ステンレス鋼の組成に従って6~30wt%の銅粉を含有する原料粉末を調製することと、粉末冶金法を用いて前記原料粉末を成形処理してステンレス鋼製品を製作することを含む、製造方法。
【請求項6】
前記成形処理は、金属射出成形技術、粉末プレス焼結技術及び/又はホットプレス焼結技術を含む、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記製造方法は、
(1)前記抗菌・抗ウイルス銅含有ステンレス鋼の組成に従って原料粉末を秤量する工程、
(2)工程(1)における原料粉末を接着剤と均一に混合した後、造粒してフィードを得る工程、
(3)工程(2)で得られたフィードを射出成形して生地を得る工程、
(4)工程(3)で得られた生地を脱脂・焼結して銅含有ステンレス鋼製品を得る工程、
(5)工程(4)で得られた銅含有ステンレス鋼製品を固溶化・時効処理して前記抗菌・抗ウイルス銅含有ステンレス鋼を得る工程、
を含む、請求項5に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1~4のいずれか1項に記載の抗菌・抗ウイルス銅含有ステンレス鋼的製造方法であって、
前記抗菌・抗ウイルス銅含有ステンレス鋼の組成に従って6~30wt%の銅粉を含有する原料粉末を調製すること、
原料粉末を予備成形して生地を得ること、
生地を焼結して予備的に緻密な焼結部品を得ること、
前記焼結部品を、押出、冷間圧延、熱間静水圧プレスのうちの1種以上の方法により完全に緻密化させて、前記抗菌・抗ウイルス銅含有ステンレス鋼製品を得ること、
を含む、製造方法。
【請求項9】
前記製造方法は、
(1)前記銅含有ステンレス鋼の組成に従って原料粉末を秤量する工程、
(2)工程(1)における原料粉末を粉末圧延機に投入し、生地を製作する工程、
(3)工程(2)で得られた生地を焼結処理して予備的に緻密な焼結部品を得る工程、
(4)工程(3)で得られた焼結部品を冷間圧延処理し、完全に緻密化させて、銅含有ステンレス鋼材料を得る工程、
(5)工程(4)で得られた銅含有ステンレス鋼材料を固溶化・時効処理する工程、
を含む、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
医療器具又は生活、公共の場所での用具を含むステンレス鋼器具であって、
前記ステンレス鋼器具が、請求項1~4のいずれか1項に記載の抗菌・抗ウイルスステンレス鋼を含み、好ましくは、前記ステンレス鋼器具が、刃物、エレベーターボタン、ドアハンドル、欄干、手すりの全体又は部材を含む、ステンレス鋼器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料技術の分野に属し、高銅含有量のステンレス鋼に関し、特に高性能の抗菌・抗ウイルス銅含有ステンレス鋼及びその製造方法と使用に関する。
【背景技術】
【0002】
生活環境並びに公衆安全衛生分野に存在する病原体である細菌とウイルスは、これまで公衆の安全及び健康を脅かす重大な隠れた危険であり、毎年、世界中で数百万人が細菌感染により死んでいる。季節性インフルエンザ、並びに長期にわたって周期的に爆発してきた様々なタイプのインフルエンザウイルスは、さらに人々の生命の安全と社会に計り知れない影響を与えてきた。細菌やウイルスを持っている物体の表面との間接又は直接的な接触は、病原体の細菌とウイルスがヒトに感染する最も重要なルートの1つであり、さらに様々なタイプの有害細菌がヒトに感染する最も主要なルートである。しかし、ステンレス鋼は、日常生活用具、公衆衛生施設、食品工業分野などのキー部署で最も広く用いられる材料の一つであり、その自体では抗菌又は抗ウイルスの能力を備えていない。例えば、研究によると、2019年に爆発した新型コロナウイルス「2019-nCov」は、通常のステンレス鋼の表面で数日間生存しても死亡しないことが実証された。また、一般的な病原性大腸菌も、ステンレス鋼の表面で長時間生存できることが実証された。これにより誘発される、よりリスクの高い細菌とウイルスの伝播リスクは、公衆の健康安全に多大な影響を与えるだけでなく、社会にも大きな医療及び経済的負担をもたらしている。そのため、優れた抗菌・抗ウイルス能力を持つステンレス鋼器具の開発ニーズが高まっている。
【0003】
銀、銅、亜鉛などの金属元素は、天然に一定の抗菌作用を有し、これらの無機抗菌剤は、温度適応範囲が広く、抗菌スペクトルが広く、細胞毒性が低く、薬剤耐性が生じないなど比類のない優位性を持っている。特に、銀と銅は抗菌能力が高く、細胞毒性が低いなどの特徴から、この二種類の元素は抗菌ステンレス鋼の開発に広く用いられる。
【0004】
ステンレス鋼に恒久的な抗菌能力を得るために、現在は主に鋳造過程で銅や銀を全体的に製錬して添加することによって銅含有抗菌ステンレス鋼と銀含有抗菌ステンレス鋼を製造している。銅は鉄鋼材料によく見られる微量添加元素として、添加量が比較的低い場合、その作用はニッケルと類似しており、材料の耐食性を高めることができ、例えば、銅を0.2~0.5wt%含むレール鋼は、一般的に通常の炭素鋼よりも耐食性が良く、銅含有量が0.75wt%を超える場合、固溶化・時効処理により材料の強度を高めることができる。銅含有量がさらに増加すると、例えば、伝統的な鋳造過程で2~5.5wt%程度の銅を添加したオーステナイト銅含有ステンレス鋼、並びに3~4wt%添加したマルテンサイトステンレス鋼などの銅含有系抗菌ステンレス鋼の製造に使用することができ、これらの鋳造銅含有ステンレス鋼は、熱処理した後、大腸菌に対する抗菌率が一般的に98%以上に達することができる。銀は銅より強い抗菌能力、並びにより広い抗菌スペクトルを持つと考えられている。研究により、銀がステンレス鋼に均一に添加された場合、0.3wt%程度の銀添加量のみで、銀含有ステンレス鋼の大腸菌に対する抗菌率は98%以上に達成できることが実証された。
【0005】
しかし、注目すべきは、従来の研究が抗菌ステンレス鋼に集中しているだけで、抗ウイルスステンレス鋼の研究開発はまだ空白であることである。研究により、銀、銅元素はいずれもウイルス殺滅能力を備えていることが実証された。例えば、銀を含む複合多孔質のセラミックスは、その表面のウイルスを殺滅することができ、金属銅の表面はA型H1N1インフルエンザウイルスを殺滅することができるなど。しかし、現在、従来の銀含有ステンレス鋼、銅含有ステンレス鋼が優れた抗ウイルス能力を備えているといういかなる報告は見られていない。抗ウイルスステンレス鋼の開発には新しい組成の選択と設計、並びにプロセスの改善が必要であるが、現在のところ関連する研究と特許はない。
【0006】
また、従来の銅含有抗菌ステンレス鋼はいずれも伝統的な鋳造、熱加工のプロセスを用いて製造されている。しかし、銅は鉄鋼材料中の熱欠陥を引き起こす典型的な元素である。銅の酸化電位は鉄より小さいため、銅含有量が約0.2wt%より高い場合、鋼材は熱加工を行うと、高温で鉄元素が銅よりも優先して選択的に酸化され続け、材料の表面に銅の相対含有量の増加が現れて銅リッチ相が発生する。純銅又は銅リッチ相の融点と強度はいずれも鋼よりずっと低い。高温では、これらの銅リッチ相は鋼材の粒界に沿って拡散し、このような粒界に沿った浸透拡散は、鋼材の結晶粒の間の作用力を著しく弱め、それによって鋼材が熱間鍛造又は熱間圧延の過程でクラックや割れ目が現れて廃棄される。特に、銅含有量がさらに上昇すると、この問題は顕著に増幅され、高銅含有量ステンレス鋼の製造と実用化が困難になる。
【発明の概要】
【0007】
本発明の目的は、抗菌と抗ウイルス能力を備えたステンレス鋼、並びにこの組成に適合する銅含有ステンレス鋼の製造方法と使用を提供することにある。このステンレス鋼の内部には、銀、亜鉛などの抗菌又は抗ウイルス作用を備える元素の1種又は複数の組み合わせを任意に含有することができ、特に、伝統的な抗菌ステンレス鋼とは異なり、本発明の新規抗菌・抗ウイルスステンレス鋼には高含有量の銅元素が含有されている。
【0008】
本発明者らは、銀が従来の抗菌ステンレス鋼において十分に有効な合金添加元素としてステンレス鋼に抗ウイルス効果を発生させることができないことを初めて発見した。次に、本発明者らは、従来の鋳造銅含有抗菌ステンレス鋼には抗ウイルス効果がないことを発見した。ステンレス鋼は、銅含有量がある臨界値に達した場合にのみ、顕著な抗ウイルス作用を生じる。最後に、従来の銅含有抗菌ステンレス鋼の特許と研究はいずれも伝統的な鋳造技術を用いて製造され、これらの技術は高銅含有量の銅含有ステンレス鋼を製造する際に克服しにくい銅脆性の問題に直面し、うまく製造することができない。
【0009】
銅脆性はいくつかの技術的手段によって緩和することができるが、銅含有量が高いほど、銅脆性による熱加工欠陥は調和できない。従来の鋳造銅含有抗菌ステンレス鋼の最高銅含有量は5wt%程度であり、これは基本的に限界であり、実際の生産においては、一般的に鋼種に応じて1~3.5wt%が好ましい。しかし、本発明者らは、銅を5wt%含むステンレス鋼には抗ウイルス作用がなく、含有量が10wt%程度の臨界値に達した場合にのみ、銅含有ステンレス鋼は抗ウイルス特性を示すことを初めて発見したが、このような高い銅含有量は伝統的な鋳造-熱間鍛造、熱間圧延技術にとっては、ほとんど製造に成功できなかった。
【0010】
本発明は粉末冶金技術の、組成調整の容易さ、ニアネットシェイプ成形(Near Net Shape Forming)及び製品の後続加工変形を必要としない特徴を創造的に利用して、一連の異なる銅、銀含有量のステンレス鋼を製造し、そして関連抗ウイルス実験を結合して、高性能の抗菌・抗ウイルス銅含有ステンレス鋼組成の開発に成功した。本発明の実験により、純銀、並びに従来の銀含有抗菌ステンレス鋼及び伝統的な鋳造銅含有抗菌ステンレス鋼ブロックの表面は、いずれも顕著な抗ウイルス特性を示さなかったことを実証した。しかし、銅の添加量がある臨界値を超えると、ステンレス鋼の表面は顕著な抗ウイルス性能を示す。この組成の設計は抗ウイルス特性を保証する必要条件であり、本発明の革新点の一つでもある。この組成に適合する銅含有ステンレス鋼は、その表面の細菌とウイルス、特に2019-nCovウイルスを長期間に亘って効果的に殺滅することができる。前記銅含有ステンレス鋼は、本発明に記載の組成要件を満たしていればよく、また、この発明に基づく微小な変更は、いずれも本発明の保護範囲に属すべきである。さらに、本発明における前記銅含有ステンレス鋼は比較的に高い含有量の銅を含み、高銅による銅脆性問題のため、伝統的な鋳造、熱変形プロセスでは、本発明の前記組成に適合する銅含有ステンレス鋼製品を製造することができない。したがって、本発明はまた、この組成に適合する銅含有ステンレス鋼製品の製造方法を提供する。
【0011】
一態様では、本発明は、ステンレス鋼マトリックスと、前記ステンレス鋼マトリックス中に均一に分布している銅リッチ相とを含む抗菌・抗ウイルス銅含有ステンレス鋼であって、前記銅含有ステンレス鋼の銅含有量が6~30wt%である、抗菌・抗ウイルス銅含有ステンレス鋼を提供する。
【0012】
本発明が提供する抗菌・抗ウイルス銅含有ステンレス鋼において、前記銅含有ステンレス鋼の組成が、質量%で、Cu:6~30wt%;Ag:0~1wt%;Zn:0~1.5wt%;Cr:11~30wt%;Mn:0~20wt%;Ni:0~18wt%;Co: 0~8wt%;Al:0~5wt%;Ti:0~5wt%;Mo:0~4wt%;V:0~3wt%;C≦1wt%、残部が鉄と不可避的不純物である。
【0013】
本発明が提供する抗菌・抗ウイルス銅含有ステンレス鋼において、前記銅含有ステンレス鋼が、Nb、Si、Zr、N及びBなどの一般的な微量添加合金元素から選択される1種以上をさらに含有してもよく、ここでSiが≦2wt%であり、その他の合金元素の総含有量が≦3wt%である。
【0014】
好ましくは、本発明のいくつかの実施形態において、前記銅含有ステンレス鋼の銅含有量は8~20wt%であり、より好ましくは10~15wt%である。
【0015】
本発明の上記ステンレス鋼組成は、経済適用性及び抗菌と抗ウイルス性能を考慮した典型的な値であり、その中で、Cr、Ni、Mo、Mn、Al、Vなどは、伝統ステンレス鋼の典型的な組成であり、主にステンレス鋼関連の耐食性と力学、加工などの性能などが相応の要件に達することを保証するために用いられる。本発明の抗菌・抗ウイルス銅含有ステンレス鋼は、Ag、Znなどの抗菌金属元素をさらに含有してもよいが、主に銅含有量が一定レベル(例えば10~30wt%)に達するように制御し、純銅に相当する抗ウイルス能力を持たせることにある。
【0016】
本発明が提供する抗菌・抗ウイルス銅含有ステンレス鋼を含む製品は、主に小型、例えば、ドアハンドル、エレベーターボタンなどの複雑な形状のステンレス鋼製品、及び例えば、ステンレス鋼板材、棒材、管材などの大型で簡単な形状のステンレス鋼製品に分けられる。その中で、前記「小型ステンレス鋼製品」とは、従来又は将来の粉末冶金技術で生産可能なサイズ範囲内の製品を意味し、この製品は確定的な数値範囲ではなく、粉末冶金技術の発展に伴って変化するものであり、例えば、ステンレス鋼を例として、現在の金属粉末射出成形技術で生産されるステンレス鋼製品は一般的に重量が500グラム以下である。前記大型ステンレス鋼製品とは、大幅な熱変形に依存することなくステンレス鋼製品を緻密化させる組み合わせプロセスにより簡単な形状のステンレス鋼板材、棒材、管材などの製品を生産することを意味する。例えば、本発明に記載の粉末圧延、焼結及び冷間圧延による緻密化方法は、厚さ0.2~4mm程度のステンレス鋼板材を連続的に得ることができる。
【0017】
別の態様では、本発明はまた、上記組成の要件に適合する小型の銅含有ステンレス鋼製品の典型的な製造方法(第1種の製造方法)を提供する。具体的には、本発明は、抗菌・抗ウイルス銅含有ステンレス鋼の組成に従って原料粉末を調製することと、粉末冶金法を用いて前記原料粉末を焼結して直接にステンレス鋼製品を得ることを含む、抗菌・抗ウイルス銅含有ステンレス鋼製品の製造方法を提供する。
【0018】
一方では、粉末冶金技術は熱間鍛造及び熱間圧延などの過程を用いずに各種形状の小さなサイズのステンレス鋼部品を得ることができるため、得られたステンレス鋼製品はより高い銅添加量を達成することができると共に、銅脆性の問題を心配する必要はない。他方では、伝統的な粉末冶金技術は、例えば、生活の中で極めて広範に使用されているステンレス鋼板材、棒材などの大きなステンレス鋼製品の製造には使用できないため、本発明は伝統的な粉末冶金技術を用いて、例えば、ドアハンドル、エレベーターボタンなどの小型ステンレス鋼製品を製造する。しかし、上記の小型ステンレス鋼製品を製造する方法は、従来の粉末冶金技術によって達成できる最大製品サイズに限定されるべきではなく、粉末冶金技術の更なる発展に伴い、粉末冶金技術によって上記定義より大きい「小型ステンレス鋼製品」であって、本発明の抗菌・抗ウイルス銅含有ステンレス鋼組成を有するステンレス鋼製品を製造することが期待され、このような製品は依然として本発明の精神範囲に属する。
【0019】
本発明が提供する小型ステンレス鋼製品の製造方法において、前記原料粉末の粒径は、対応的な粉末冶金プロセスの使用要件を満足すればよい。
【0020】
本発明が提供する小型ステンレス鋼製品の製造方法において、前記原料粉末を調製するには、様々な方法を用いることができ、例えば、組成を直接調製したプレアロイ銅含有金属粉末を用いたり、元素粉末を使用して対応的なステンレス鋼の組成を調製したり、あるいは母合金粉に鉄粉を添加する方式を用いたりすることができ、組成が本発明に記載の要件範囲に適合すればよい。
【0021】
本発明が提供する小型ステンレス鋼製品の製造方法において、前記粉末冶金法は多種の操作方式があり、例えば、粉末射出成形技術、伝統的な金属粉末プレス焼結技術、粉末ホットプレス焼結技術などの任意の激しい熱変形を必要としない粉末冶金プロセスを用いて製造することができる。
【0022】
粉末射出成形技術を例として、前記製造方法は、
(1)前記銅含有ステンレス鋼組成に従って原料粉末を比例的に秤量し、均一に混合する工程、
(2)工程(1)で混合した粉末を接着剤と均一に混合した後、造粒してフィードを得る工程、
(3)工程(2)で得られたフィードを金型により射出成形して生地を得る工程、
(4)工程(3)で得られた生地を脱脂・焼結して銅含有ステンレス鋼製品を得る工程、
(5)工程(4)で得られた銅含有ステンレス鋼製品を固溶化・時効処理して前記抗菌・抗ウイルス銅含有ステンレス鋼を得る工程、
を含むことができる。
【0023】
その中で、前記接着剤は、金属射出成形プロセスの要件を満たすものであればよく、例えばワックス系接着剤であってもよいし、ポリマー系接着剤であってもよい。具体的には、前記接着剤は、ポリホルムアルデヒド、ポリエチレン、パラフィンなどから選択される1種以上であってもよい。典型的には、前記接着剤の用量は、原料粉末の体積に基づいて25~65%(体積パーセント)であってもよい。
【0024】
いくつかの好ましい実施形態では、工程(3)における射出の温度は、80~220℃であってもよい。
【0025】
いくつかの好ましい実施形態では、工程(4)における焼結の温度は、1200~1350℃であってもよい。
【0026】
いくつかの好ましい実施形態では、工程(3)における固溶化処理の条件は、温度が1000~1300℃であり、時間が10~300分間であることを含むことができる。
【0027】
いくつかの好ましい実施形態では、工程(3)における時効処理の条件は、温度が300~900℃であり、時間が30~600分であることを含むことができる。
【0028】
本発明の前記小型銅含有ステンレス鋼製品の製造方法は粉末冶金技術を用いたものである。粉末冶金技術は、小型ステンレス鋼製品を製造する際にニアネットシェイプ成形し、後続の熱変形加工を必要としないなどの優位性があるため、得られたステンレス鋼製品はより高い銅添加量を達成することができると共に、銅脆性の問題を心配する必要はない。同時に、本発明で得られた各種形状の銅含有ステンレス鋼製品には十分な量の銅リッチ析出相が含まれているため、この銅含有ステンレス鋼は細菌に対する良好な殺滅作用を実現できるだけでなく、純銅に匹敵するウイルス殺滅能力を達成することができる。前記方法は、刃物、エレベーターボタン、ドアハンドル、カップなどの小型ステンレス鋼製品の全体又は全部を製造することができ、それはその表面に存在する細菌とウイルスを効果的に殺滅することができる。
【0029】
さらに別の態様では、本発明はまた、上記組成の要件に適合する大型銅含有ステンレス鋼製品の典型的な製造方法(第2種の製造方法)を提供する。前記製造方法は、大幅な熱変形に依存することなくステンレス鋼製品を緻密化させる組み合わせプロセスを用いて、大型形状で簡単なステンレス鋼製品、特にステンレス鋼板材、棒材、管材などを製造する。伝統的な粉末冶金技術は、例えば生活の中で極めて広く用いられるステンレス鋼板材、棒材などの大きなステンレス鋼製品の製造には使用できないため、本発明はまた、組み合わせプロセスを通じて大幅な熱変形(例えば熱間鍛造、熱間圧延)を避けて緻密なステンレス鋼板材、棒材又は管材を得ることを提案する。
【0030】
なお、本発明の第1種の方法は、例えばプレス焼結、金属粉末射出成形技術などの典型的、伝統的な粉末冶金技術を用いたものであり、小さくて複雑な形状の製品を製造する際により経済的な製造方法であるが、特に広く用いられるステンレス鋼板材、棒材、管材などの比較的大きなステンレス鋼製品を製造することは困難である。そのため、上述第1種の製造方法を優先的に用いて小型で複雑な形状のステンレス鋼製品を生産し、前記第2種の製造方法を用いてステンレス鋼板材、棒材又は管材を生産する。
【0031】
具体的には、第2種の製造方法は、
抗菌・抗ウイルス銅含有ステンレス鋼の組成に従って原料粉末を調製すること、
原料粉末を予備成形して生地を得ること、
生地を焼結して、基本的に緻密な焼結部品を得ること、
前記焼結部品を、押出、冷間圧延、熱間静水圧プレスのうちの1種以上の方法により完全に緻密化させて、前記抗菌・抗ウイルス銅含有ステンレス鋼製品を得ること、を含む。
【0032】
粉末冶金技術のマクロ偏析のない特徴、並びに高温による大幅な熱変形が不要であることを兼備するため、本発明に記載のプロセス組み合わせは高銅による熱変形加工割れの問題を良好に回避することができる。
【0033】
本発明が提供する大型ステンレス鋼製品の製造方法において、前記原料粉末の粒径は、対応的な粉末冶金プロセスの使用要件を満足すればよい。
【0034】
本発明が提供する大型ステンレス鋼製品の製造方法において、前記原料粉末を調製するには、様々な方法を用いることができ、例えば、組成を直接調製したプレアロイ含有銅金属粉末を用いたり、元素粉末を使用して対応的なステンレス鋼の組成を調製したり、あるいは母合金粉に鉄粉を添加する方式を用いたりすることができ、組成が本発明に記載の要件範囲に適合すればよい。
【0035】
本発明が提供する大型ステンレス鋼製品の製造方法において、前記予備成形技術手段は、粉末圧延、冷間圧延成形、熱間圧延成形及び静水圧プレス等の粉末冶金予備成形技術であってもよい。
【0036】
本発明が提供する大型ステンレス鋼製品の製造方法において、前記焼結過程は真空焼結、不活性雰囲気焼結などの手段であってもよく、その主な目的は、主に焼結部品を予備的に緻密化させ、あるいは焼結部品に一定の強度を持たせて後続加工に用いるためである。
【0037】
本発明が提供する大型ステンレス鋼製品の製造方法において、前記完全緻密化過程は押出、冷間圧延、温間圧延、熱間静水圧プレスなどの技術手段を用いることができ、その主な目的は、焼結部品を完全に緻密化させて、各性能が要求に合致する大きな塊のステンレス鋼製品を得ることである。
【0038】
粉末-圧延技術を組み合わせてステンレス鋼板材を製造することを例として、前記第2種の製造方法は、
(1)前記銅含有ステンレス鋼の組成に従って原料粉末を秤量する工程、
(2)工程(1)における原料粉末を粉末圧延機に投入し、生地を製作する工程、
(3)工程(2)で得られた生地を焼結処理して予備的に緻密な焼結部品を得る工程、
(4)工程(3)で得られた焼結部品を冷間圧延処理し、完全に緻密化させて、銅含有ステンレス鋼材料を得る工程、
(5)工程(4)で得られた銅含有ステンレス鋼材料を固溶化・時効処理する工程、
を含むことができる。
【0039】
いくつかの好ましい実施形態では、前記工程(2)は、粉末を投入する前に粉末圧延機のピッチとパワーを調整し、粉末圧延機のピッチを0.2~4mmに設定することを含む。
【0040】
いくつかの好ましい実施形態では、工程(3)における焼結処理の温度は1100~1350℃であってもよく、時間は30~300分であってもよい。
【0041】
いくつかの好ましい実施形態では、工程(4)における冷間圧延処理の変形量は5~60%とすることができる。
【0042】
いくつかの好ましい実施形態では、工程(5)における固溶化処理の条件は、温度が1000~1300℃であり、時間が10~300分であることを含むことができる。
【0043】
いくつかの好ましい実施形態では、工程(5)における時効処理の条件は、温度が300~900℃であり、時間が30~600分であることを含むことができる。
【0044】
以上のプロセスの組み合わせは、いずれも銅脆性現象の発生を効果的に低減又は除去することができるが、本発明はある特定のプロセスに限定されるものではなく、本発明に記載の化学組成に適合するステンレス鋼は、いずれも本発明の保護範囲に属すべきである。
【0045】
もう1つの態様では、本発明はまた、医療器具又は生活、公共の場所での用具を含むステンレス鋼器具であって、前記ステンレス鋼器具は、本発明が提供する抗菌・抗ウイルスステンレス鋼を含むステンレス鋼器具を提供する。例えば、前記ステンレス鋼器具は、刃物、エレベータボタン、ドアハンドル、欄干、手すりなどの全体又は部材を含む。
【0046】
本発明の抗菌・抗ウイルス銅含有ステンレス鋼は、伝統的な銅含有ステンレス鋼に比べて、十分な銅リッチ析出相を含むものであり、細菌に対する良好な殺滅作用を実現できるだけでなく、純銅に匹敵するウイルス殺滅能力を達成することができる。本発明の抗菌・抗ウイルス銅含有ステンレス鋼を用いて製造されたステンレス鋼器具は、その表面に存在する細菌とウイルスを効果的に殺滅することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【
図1】
図1は、本発明の実施例2の方法で製造された銅含有量10wt%のステンレス鋼のSEM図である。
【0048】
【
図2】
図2は、本発明の実施例2の方法で製造された銅含有量20wt%のステンレス鋼のSEM図である。
【0049】
【
図3】
図3は、本発明の実施例2の方法で製造された銅含有量10wt%のステンレス鋼ウエハーの写真である。
【0050】
【
図4】
図4は、本発明の実施例2の方法で製造された銅含有量20wt%のステンレス鋼を用いて製作されたエレベーターボタンの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下、具体的な実施形態に合わせて本発明をさらに詳細に説明するが、示される実施例は、本発明の範囲を限定するためではなく、単に本発明を説明するためである。
【実施例】
【0052】
実施例1
本実施例は、粉末冶金技術を用いて高銅含有量のステンレス鋼ウエハーを製造する方法を説明するためのものである。この製造方法は、以下の工程を含む。
【0053】
(1)304ステンレス鋼の組成を基に、10wt%の銅を更に添加した304-10wt%Cuのプレアロイ粉末を製造した。
【0054】
(2)工程(1)の304~10wt%Cuのプレアロイ粉末を、冷間プレス成形の方法によりウエハー生地にプレスした。
【0055】
(3)工程(2)で得られた生地を雰囲気焼結炉に入れ、アルゴンガスを保護ガスとし、1350℃で2時間保温した後、焼結過程を終えてステンレス鋼ウエハーを得た。
【0056】
(4)工程(3)で得られたステンレス鋼ウエハーを1100℃で1時間保温した後、焼入れ、その後700℃で6時間時効処理を行い、本発明の抗菌・抗ウイルス銅含有ステンレス鋼ウエハーを得た。
【0057】
実施例2
本実施例は、粉末冶金技術を用いて高銅含有量のステンレス鋼ウエハーを製造する方法を説明するためのものである。この製造方法は、以下の工程を含む。
【0058】
(1)316Lステンレス鋼の組成を基に、316Lプレアロイ粉末に10wt%の銅粉を添加し、2種類の粉末を均一に混合して316L-10wt%Cuの混合粉を得た。
【0059】
(2)工程(1)で得られた316L-10wt%Cuの混合粉を、冷間プレス成形の方法によりウエハー生地にプレスした。
【0060】
(3)工程(2)で得られた生地を雰囲気焼結炉に入れ、アルゴンガスを保護ガスとし、1350℃で2時間保温した後、焼結過程を終えてステンレス鋼ウエハーを得た。
【0061】
(4)工程(3)で得られたステンレス鋼ウエハーを1100℃で1時間保温した後、焼入れ、その後700℃で6時間時効処理を行い、本発明の抗菌・抗ウイルス銅含有ステンレス鋼ウエハーを得た。
【0062】
実施例3
本実施例は、粉末冶金技術を用いて高銅含有量のステンレス鋼ウエハーを製造する方法を説明するためのものである。この製造方法は、以下の工程を含む。
【0063】
(1)質量部で、クロム粉20部、ニッケル粉17部、銅10部、モリブデン粉3.5部、マンガン1.6部、シリコン0.75部、残部が鉄粉(総量100部)を取り、上記粉末を均一に混合した。
【0064】
(2)工程(1)の混合粉末を13wt%の高分子接着剤(主組成は、ポリホルムアルデヒド、ポリエチレン、並びに少量のパラフィンである。)と混合して、混料、造粒することにより金属射出成形用のフィードを得た。
【0065】
(3)射出成形機により、工程(2)のフィードを使用してエレベータボタンの生地を射出した。
【0066】
(4)工程(3)で得られたエレベータボタンの生地体を脱脂処理して、高分子接着剤を除去した。
【0067】
(5)工程(4)で得られたサンプルをアルゴン保護雰囲気下で焼結処理し、1350℃で2時間保温した後、焼結を終えてエレベーターボタン焼結部品を得た。
【0068】
(6)工程(5)で得られたエレベータボタン焼結部品を1100℃で1時間保温した後、焼入れ、その後700℃で6時間時効処理を行い、前記の抗菌と抗ウイルス作用を備えるステンレス鋼エレベータボタンを得た。
【0069】
実施例4
本実施例は、本発明における銅含有ステンレス鋼大型製品を製造する方法を説明するためのものである。この製造方法は、次の工程を含む。
【0070】
(1)304ステンレス鋼の組成を基に、10wt%の銅を更に添加した304~10wt%Cuのプレアロイ粉末を製造した。
【0071】
(2)粉末圧延機のピッチ及びパワーを調整し、工程(1)の304-10wt%Cuのプレアロイ粉末を粉末圧延機に投入し、ステンレス鋼板材の生地を得た。
【0072】
(3)工程(2)で得られた板材の生地を雰囲気焼結炉に入れ、アルゴンガスを保護ガスとし、1350℃で2時間保温して基本的に緻密化した焼結部品を得た。
【0073】
(4)工程(3)で得られた焼結部品を冷間圧延処理して、板材を完全に緻密化させた。
【0074】
(5)工程(4)で得られたステンレス鋼板材を1050℃で30分間保温した後、焼入れ、その後700℃で6時間時効処理を行い、本発明の抗菌と抗ウイルス作用を備えるステンレス鋼板材を得た。
【0075】
実施例5
本実施例は、本発明に記載の銅含有ステンレス鋼の大型製品を製造する方法を説明するためのものである。この製造方法は、次の工程を含む。
【0076】
(1)304ステンレス鋼の組成を基に、10wt%の銅を更に添加した304~10wt%Cuのプレアロイ粉末を製造した。
【0077】
(2)工程(1)の304~10wt%Cuのプレアロイ粉末を棒材用ゴム製型に投入し、かつ、型を冷間静水圧プレス機に入れた。圧力を180MPaに設定し、5分間保圧してステンレス鋼棒材の生地を得た。
【0078】
(3)工程(2)で得られた棒材の生地を真空焼結炉に入れ、1350℃で2時間保温して基本的に緻密化した焼結部品を得た。
【0079】
(4)工程(3)で得られた棒材の焼結部品に押出処理を行い、焼結部品を押出過程で完全に緻密化させるとともに、対応するサイズのステンレス鋼棒材を得た。
【0080】
(5)工程(4)で得られたステンレス鋼棒材を1050℃で30分間保温した後、焼入れ、その後700℃で6時間時効処理を行い、本発明の抗菌と抗ウイルス作用を備えるステンレス鋼棒材を得た。
【0081】
製品特性評価
図1は、本発明の実施例2の方法で製造された銅含有量10wt%のステンレス鋼のSEM図であり、図中の白色粒子はマトリックス中の銅リッチ相である。
図2は、本発明の実施例2の方法で製造された銅含有量20wt%のステンレス鋼のSEM図であり、図中の白色粒子はマトリックス中の銅リッチ相である。
図1及び
図2から、銅リッチ相はステンレス鋼マトリックス中に基本的に均一に分布していることがわかる。
【0082】
図3は、本発明の実施例2の方法で製造された銅含有量10wt%のステンレス鋼ウエハーの写真である。
図4は、本発明の実施例2の方法で製造された銅含有量20wt%のステンレス鋼を用いて製作されたエレベーターボタンの写真である。
図3及び
図4から、本発明の抗菌・抗ウイルス銅含有ステンレス鋼材料の表面は銀白色で光沢があることがわかる。しかし、従来の鋳造、熱間鍛造、熱間圧延方式を用いて銅を10wt%含む316Lステンレス鋼を製造すると、鋳造済みの大きな塊のステンレス鋼材料が熱間鍛造、又は熱間圧延の過程でクラックが発生したり、表面に割れ目が発生したりして、深刻な場合は、直接に材料の破断を招くことができる。従って、本発明の製造方法は「銅脆性の問題」を解決した。
【0083】
抗菌・抗ウイルス性能試験
JIS Z 2801 2010の基準に従って、37℃の条件下で実施例2で得られたウエハーの表面で24時間の大腸菌培養を行い、そしてリン酸塩緩衝液(PBS)で表面を洗浄して得られた菌液を計数プレートに載せて24時間培養した後、計数したところ、対照グループの普通ステンレス鋼には多くのコロニーがあり、実験グループの銅含有ステンレス鋼にはほとんどコロニーが現れなかったため、計算により、このステンレス鋼ウエハーの抗菌率は99%以上に達することができた。
【0084】
さらに、サンプル表面に一定量の新型コロナウイルスを滴下し、該新規コロナウイルスについて、一般的な316Lステンレス鋼表面、銅含有量5wt%の316Lステンレス鋼表面、実施例2で得られた銅含有量10wt%の316Lステンレス鋼表面、並びに純銅表面での安定性と減衰率を異なる時期に測定した実験により、本発明で得られたステンレス鋼は2019-nCovウイルスの表面での生存時間を効果的に低減できることが見出した。新型コロナウイルスは、一般的なステンレス鋼表面及び銅含有量5wt%のステンレス鋼表面で24時間後にも大量のウイルスが生存できるのに比べて、本発明で得られたステンレス鋼表面でわずか3時間後にウイルスの数が大幅に減少し、24時間後にウイルスがすべて不活性化された。
【0085】
上記述べたのは、本発明の具体的な実施形態にすぎないが、本発明の保護範囲はこれに限定されず、本発明に記載されたステンレス鋼化学組成の範囲内に該当するものは、いずれも本発明の保護範囲に属すべきであり、当業者には、本発明で開示した技術範囲内で、当業者が容易に想到し得る変更又は置換は、すべて本発明の保護及び開示の範囲内に入ることを明らかにすべきである。
【国際調査報告】