(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-03
(54)【発明の名称】切削工具インサート
(51)【国際特許分類】
B23B 27/18 20060101AFI20241126BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20241126BHJP
C22C 38/52 20060101ALI20241126BHJP
C22C 5/08 20060101ALI20241126BHJP
C21D 1/06 20060101ALI20241126BHJP
C21D 9/00 20060101ALI20241126BHJP
B23B 27/14 20060101ALI20241126BHJP
B23B 27/20 20060101ALI20241126BHJP
B23K 35/30 20060101ALI20241126BHJP
C22C 26/00 20060101ALN20241126BHJP
C22C 29/08 20060101ALN20241126BHJP
【FI】
B23B27/18
C22C38/00 302N
C22C38/52
C22C5/08
C21D1/06 A
C21D9/00 A
B23B27/14 B
B23B27/20
B23K35/30 310B
C22C26/00 Z
C22C29/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024527470
(86)(22)【出願日】2022-11-10
(85)【翻訳文提出日】2024-07-03
(86)【国際出願番号】 EP2022081470
(87)【国際公開番号】W WO2023083963
(87)【国際公開日】2023-05-19
(32)【優先日】2021-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520333435
【氏名又は名称】エービー サンドビック コロマント
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ダール, レイフ
(72)【発明者】
【氏名】ウリツカ, ティモ
【テーマコード(参考)】
3C046
4K042
【Fターム(参考)】
3C046FF32
3C046FF33
3C046FF35
3C046FF39
3C046FF52
3C046GG01
4K042AA12
4K042BA01
4K042BA03
4K042CA02
4K042CA04
4K042CA06
4K042CA07
4K042CA08
4K042CA11
4K042CA12
4K042DA05
4K042DC02
4K042DC03
4K042DC04
(57)【要約】
本発明は、少なくとも1つのすくい面と、少なくとも1つの逃げ面と、少なくとも1つのポケットと、前記少なくとも1つのポケット内に位置する少なくとも1つの切断要素(B)とを備えるマルエージング鋼から作られたキャリア本体(A)を備える切削工具インサートに関する。切断要素は、少なくとも1つの切断端部(C)を含み、切断の技術分野で知られている任意の材料から作ることができる。切削工具インサートは、前記キャリア本体と前記少なくとも1つの切断要素とを接合するろう付け接合部をさらに備え、ろう付け接合部はTiを含み、ろう付け接合部は、切断要素に隣接する0.03~5μmの厚さを有するTi含有接合層を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのすくい面と、少なくとも1つの逃げ面と、少なくとも1つのポケットとを備えるキャリア本体と、
前記少なくとも1つのポケット内に位置する少なくとも1つの切断要素であって、前記切断要素が少なくとも1つの切断端部を含む、少なくとも1つの切断要素と、
前記キャリア本体と前記少なくとも1つの切断要素とを接合するろう付け接合部であって、前記ろう付け接合部がTiを含み、前記ろう付け接合部が、前記切断要素に隣接する0.03~5μmの厚さを有するTi含有接合層を備える、ろう付け接合部と
を備え、
前記キャリア本体がマルエージング鋼から作られる、
切削工具インサート。
【請求項2】
前記切断要素が、超硬合金、セラミック、多結晶ダイヤモンド(PCD)、または焼結立方晶窒化ホウ素(PcBN)のうちの1つから作られる、請求項1に記載の切削工具インサート。
【請求項3】
前記Ti含有接合層の組成物が、TiC、TiN、TiO
x、およびTiB
xのうちの1つ、またはそれらの混合物である、請求項1または2のいずれか一項に記載の切削工具インサート。
【請求項4】
前記マルエージング鋼が、8~25重量%のNi、7~27重量%の総量のCo、Mo、Ti、Al、およびCrから選択された1つまたは複数の合金元素、0.03重量%未満のC、ならびに残りのFeおよび不純物を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の切削工具インサート。
【請求項5】
前記マルエージング鋼が、11~25重量%のNi、7~15重量%のCo、3~10重量%のMo、0.1~1.6重量%のTi、0~0.15重量%のCr、0~0.2重量%のAl、0.03重量%未満のCを含み、残りがFeおよび不純物である、請求項1から4のいずれか一項に記載の切削工具インサート。
【請求項6】
前記マルエージング鋼が、15~25重量%のNi、8.5~12.5重量%のCo、3~6重量%のMo、0.5~1.2重量%のTi、0~0.15重量%のCr、0~0.2重量%のAl、0.03重量%未満のCを含み、残りがFeおよび不純物である、請求項1から5のいずれか一項に記載の切削工具インサート。
【請求項7】
前記ろう付け接合部が、30~80重量%の量のAg、15~50重量%の量のCu、0.3~15重量%の量のTi、0~10重量%の量のSn、および0~30重量%の量のInを含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項8】
マルエージング鋼の前記キャリア本体が、300~700HV1の平均中心硬度、および300~1200HV1の平均表面硬度を有する、請求項1から7のいずれか一項に記載の切削工具インサート。
【請求項9】
前記表面硬度が前記中心硬度よりも少なくとも30%高くなるように、マルエージング鋼の前記キャリア本体に硬度プロファイルが与えられる、請求項1から8のいずれか一項に記載の切削工具インサート。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の切削工具インサートを作製する方法であって、
少なくとも1つのすくい面と、少なくとも1つの逃げ面と、少なくとも1つのポケットとを備えるマルエージング鋼から作られたキャリア本体を設けるステップと、
少なくとも1つの切断端部を含む少なくとも1つの切断要素を設けるステップと、
マルエージング鋼部品を設けるステップと、
充填材料の0.3~15重量%の量のTiを含む前記充填材料を、前記キャリア本体と前記切断要素との間にそれらと接触させて配置するステップと、
間に前記充填材料を有する前記キャリア本体および前記切断要素を、600~830℃の温度の炉内で1~60分の時間期間の間ろう付け工程に供するステップであって、前記ろう付けが真空中で行われる、ステップと
を含む、方法。
【請求項11】
前記ろう付けが、650~750℃の温度で5~15分の時間期間の間行われる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
間に前記充填材料を有する前記キャリア本体および前記切断要素が、300~600℃の温度で5分~12時間の間エージング工程に供される、請求項10~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記エージング工程が、350~500℃の温度で30分~8時間の時間の間行われる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ろう付け工程の後に前記キャリア本体および前記切断要素が、窒化雰囲気内で300~600℃の温度で窒化工程に供される、請求項10~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
窒化工程が、窒化雰囲気内で300~600℃の温度、50~600Paの圧力、1~100時間の間のプラズマ窒化である、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルエージング鋼キャリア本体および切断要素を備える切削工具インサートに関し、キャリア本体および切断要素はろう付けによって接合される。本発明はまた、そのような切削工具インサートを作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
切断要素を切断要素とは異なる材料のキャリア本体に溶接またはろう付けすることは、当技術分野で知られている。この一例は、超硬合金から作られたキャリア本体に多結晶ダイヤモンド(PCD)または多結晶立方晶窒化ホウ素(PcBN)の切断要素をろう付けすることである。これはいくつかの理由で行われ、多結晶ダイヤモンド(PCD)および多結晶立方晶窒化ホウ素(PcBN)は超硬合金よりも高価であり、また超硬合金よりも加工(すなわち、所望の形状への形成)が困難である。キャリア材料として鋼を使用することは、鋼のろう付けならびに低硬度および/または引張強度の問題に起因して、選択肢であるとは見なされない。切削工具インサートは、切削作業に使用されるときに大きい力を受けるので、ろう付け接合部は強固である必要があり、キャリア本体は最適な靭性/硬度比を有する必要がある。
【0003】
ろう付けまたは溶接により、例えば超硬合金、多結晶ダイヤモンド(PCD)、または立方晶窒化ホウ素(cBN)と鋼を接合することは、工具を作製する技術分野において古くから知られている。そのような材料で鋼を接合するときのいくつかの課題、例えばCTE(熱膨張係数)の違い、ろう付け接合部の強度、鋼の望ましくない硬度プロファイルなどが存在する。
【0004】
超硬合金は、キャリア本体として使用されるのに適しているように見えるが、依然としてその欠点を有する。環境上の理由から、超硬合金のリサイクルが好ましく、それは複雑なプロセスである。また、最終的な超硬合金キャリアを形成するには、焼結前のプレス加工により最終的な超硬合金キャリア本体の基本形状が形成されるので、幾何形状ごとに個別のプレス工具が必要とされる。また、超硬合金は加工が困難であり、切削工具の最終形状に到達するには、通常、広範な研削などが必要である。
【0005】
本発明の1つの目的は、金属切削作業中の力に耐えることができる鋼キャリア本体を有する切削工具インサートを提供することである。
【0006】
本発明の別の目的は、高強度ろう付け接合部を有する鋼キャリア本体に接合された切断要素を有する切削工具インサートを提供することである。
【0007】
本発明の別の目的は、キャリア本体が容易にリサイクルされる切削工具インサートを提供することである。
【0008】
本発明の別の目的は、超硬合金キャリア本体と比較して、キャリア本体をより少ない労力で成形することができる切削工具インサートを提供することである。
【0009】
定義
切削工具インサートとは、本明細書では、フライス加工、旋削加工、穿孔加工などの金属切削用途に使用されるインサートを意味する。切削工具インサートは、少なくとも1つのすくい面および少なくとも1つの逃げ面と、すくい面と逃げ面との間の少なくとも1つの切断端部とを備える。
【0010】
切削工具インサートは、通常、工具ホルダ、例えばフライス盤もしくは旋削用のホルダに固定されるか、またはドリルに固定され得る。インサートには、固定を容易にするために穴が設けられることが一般的である。インサートは、摩耗したときに容易に交換されるように設計される。それらは、インデックス可能なインサートとも呼ばれ得る。インサートは、切削用途の技術分野で使用される任意の形状を有することができる。
図1には、1つのタイプのインサートが示されている。
【0011】
切断要素とは、本明細書では、切削作業に係合される切削工具インサートの部分、すなわち、少なくとも1つの切断端部を備え、ワークピースと接触する部分を意味する。当技術分野では、切断要素は「切断先端」とも呼ばれ得る。
【0012】
キャリア本体とは、本明細書では、切断要素を構成しないインサート本体を意味する。キャリア本体は、切断要素が位置するポケット(当技術分野では、凹部、ノッチ、シートなどとも呼ばれる)を備える。キャリア本体は、切削工具インサートの任意の形状を有することができる、上記参照。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】すくい面2と、逃げ面3と、切断端部4とを有する切削工具インサート1の概略図である。
【
図2】キャリア本体Aと、切断要素Bと、切断端部Cとを示す切削工具インサートの概略図である。
【
図3】キャリア本体Aと、切断要素Bと、切断端部Cとを示す切削工具インサートの概略図である。
【
図4】キャリア本体Aを示し、切断要素Bが超硬合金支持体Eを有し、切断要素材料Dが切断端部Cを含む、切削工具インサートの概略図である。
【
図5】切断要素Bがろう付け接合部Fによってキャリア本体Aに取り付けられた、切削工具インサートの部分の断面図である。
【
図6】切断要素Bがろう付け接合部Fによってキャリア本体Aに取り付けられた、切削工具インサートの部分の断面図である。切断要素Bは、超硬合金支持体Eおよび切断要素材料Dを有する。
【
図7】実施例1からの本発明によるマルエージング鋼キャリアにろう付けされた超硬合金切断要素の摩耗のLOM(光学顕微鏡)画像を示す図である。
【
図8】実施例1からの従来技術による固体超硬合金インサートの摩耗のLOM(光学顕微鏡)画像を示す図である。
【
図9】実施例3からの本発明によるマルエージング鋼キャリアにろう付けされたPcBN切断要素の摩耗のSEM(走査型電子顕微鏡)画像を示す図である。
【
図10】実施例3からの従来技術による超硬合金キャリアにろう付けされたPcBN切断要素の摩耗のSEM(走査型電子顕微鏡)を示す図である。
【
図11】1が鋼部品であり、2が超硬合金部品であり、Fが加えられた力である、剪断試験装置の概略図である。
【
図12】Aが平均中心硬度であり、Bが限界硬度であり、Cが窒化深度である、表面から中心に向かって減少する硬度値を示す硬度深度曲線の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、
少なくとも1つのすくい面と、少なくとも1つの逃げ面と、少なくとも1つのポケットとを備えるキャリア本体と、
前記少なくとも1つのポケット内に位置する少なくとも1つの切断要素であって、切断要素が少なくとも1つの切断端部を備える、少なくとも1つの切断要素と、
前記キャリア本体と前記少なくとも1つの切断要素を接合するろう付け接合部と
を備える、切削工具に関する。ろう付け接合部はTiを含み、ろう付け接合部はまた、切断要素に隣接する0.03~5μmの厚さを有するTi含有接合層を備える。キャリア本体はマルエージング鋼から作られる。
【0015】
切断要素は、金属切削の技術分野で知られている任意の材料、すなわち超硬合金、サーメット、セラミック、多結晶ダイヤモンド(PCD)、または焼結立方晶窒化ホウ素(PcBN)のうちの1つから作られ得る。キャリア本体にろう付けされる切断要素の数は、具体的な切削用途などに応じて変化する可能性があるが、通常、1~8である。
【0016】
セラミックとは、本明細書では、酸化物セラミックマトリクス、例えば酸化アルミニウムに組み込まれた遷移金属炭化物、窒化物、または炭窒化物粒子、例えば、WC、Si3N4、SiAlON、Al2O3/SiC-wiskerなどを含む材料を意味し、遷移金属炭化物、窒化物、または炭窒化物粒子の量は、5~45体積%である。それらは、一般に、熱間静水圧プレスプロセスで焼結される。
【0017】
切断要素として使用される超硬合金は、当技術分野で知られている任意の超硬合金から作ることができる。超硬合金は、金属結合剤相マトリクスに組み込まれた硬質相を備える。
【0018】
超硬合金とは、本明細書では、硬質相の少なくとも50重量%がWCであることを意味する。
【0019】
適切には、金属結合剤相の量は、超硬合金の3~20重量%、好ましくは4~15重量%である。好ましくは、金属結合剤相の主成分は、Co、Ni、およびFeのうちの1つまたは複数から選択され、より好ましくは、金属結合剤相の主成分はCoである。
【0020】
主成分とは、本明細書では、結合剤相を形成するために上記以外の他の元素を追加しないことを意味するが、例えばCrなどの他の成分が追加された場合、それは焼結中に結合剤内で必然的に溶解される。
【0021】
本発明の一実施形態では、超硬合金は、元素として、または炭化物、窒化物、もしくは炭窒化物として存在するCr、Ta、Ti、Nb、およびVから選択された元素などの、超硬合金に共通の他の成分も含むことができる。
【0022】
サーメットとは、本明細書では、金属結合剤相内に硬質成分を含む材料を意味し、硬質成分は、TiN、TiC、および/またはTiCNなどの、Ta、Ti、Nb、Cr、Hf、V、Mo、およびZrのうちの1つまたは複数の炭化物または炭窒化物を含む。
【0023】
PCD(多結晶ダイヤモンド)とは、本明細書では、ダイヤモンド結晶の量が50~100体積%である、一緒に焼結されたダイヤモンド結晶を含む材料を意味する。ダイヤモンド結晶は、通常、0.5~30μmの粒径を有する。PCDはまた、Al、Cr、Co、Ni、V、Fe、およびSiから選択された1つまたは複数の成分を含むことができる。
【0024】
PcBNとは、本明細書では、cBN粒子の量が30~99体積%である金属および/またはセラミックの結合剤に組み込まれたcBN粒子を含む材料を意味する。セラミック結合剤は、Co、Ni、および元素の周期表における第4~6族から選択された元素の炭化物、窒化物、炭窒化物、ホウ化物、または酸化物である1つまたは複数の成分を含むことができる。
【0025】
多結晶ダイヤモンド(PCD)および焼結立方晶窒化ホウ素(PcBN)は、そのまま、いわゆる「自立」で、または超硬合金支持体、いわゆる「カーバイド裏打ち」とともに提供することができる。多結晶ダイヤモンド(PCD)および焼結立方晶窒化ホウ素(PcBN)は、通常、焼結体(通常1400℃、5GPa)を形成するために高温高圧(HP/HT)焼結工程に供される適切な粉末混合物を提供することによって製造される。
【0026】
多結晶ダイヤモンド(PCD)および焼結立方晶窒化ホウ素(PcBN)に超硬合金支持体が提供されるとき、これは多結晶ダイヤモンド(PCD)および焼結立方晶窒化ホウ素(PcBN)の焼結前にすでに調製されている。これを行う1つの方法は、底部に超硬合金ディスクを備えたカップを使用することである。次いで、カップに最適なPCDまたはcBNの粉末混合物が充填され、次いでカップが密封される。次いで、密封されたカップは、高温高圧(HPHT)焼結工程に供される。ダイヤモンドまたはcBN材料は、焼結工程中に超硬合金に結合される。次いで、ディスクは、例えばレーザまたはWEDM(ワイヤ放電加工機)を使用して適切な部片に切断することができる。
【0027】
多結晶ダイヤモンド(PCD)および焼結立方晶ホウ素(PcBN)用の支持体として使用される超硬合金は、当技術分野で一般的な任意の超硬合金から作ることができる、上記の定義参照。
【0028】
マルエージング鋼は、金属間化合物の沈殿によって硬化する鋼の一種である。マルエージング鋼は、適切には、8~25重量%のNiと、合金元素の7~27重量%、好ましくは7~23重量%の総量のCo、Mo、Ti、Al、およびCrから選択された1つまたは複数の合金元素とを含有する。マルエージング鋼は、通常、従来の鋼よりも少ない炭素、適切には0.03重量%以下のCを含有する。残りはFeである。
【0029】
本発明の一実施形態では、マルエージング鋼は、11~25重量%のNi、好ましくは15~25重量%のNiを含有する。合金元素は、適切には、7~15重量%、好ましくは8.5~12.5重量%の量のCo、3~10重量%、好ましくは3~6重量%の量のMo、0.1~1.6重量%、好ましくは0.5~1.2重量%の量のTi、0~0.15重量%のCr、0~0.2重量%のAl、および0.03重量%未満のCである。残りはFeである。
【0030】
本発明の一実施形態では、マルエージング鋼は、17~19重量%のNi、8.5~12.5重量%のCo、4~6重量%のMo、0.5~1.2重量%のTi、0~0.15重量%のCr、0~0.2重量%のAl、および0.03重量%未満のCの組成物を有する。残りはFeである。
【0031】
本発明の別の実施形態では、マルエージング鋼は、8~11重量%のNi、好ましくは9~10重量%のNi、2.5~4重量%のCr、好ましくは3~3.5重量%のCr、3.5~5重量%のMo、好ましくは4~4.5重量%のMo、0.4~1.1重量%のTi、好ましくは0.7~0.9重量%のTi、0.4重量%未満のSi、0.4重量%未満のMn、および残りのFeの組成物を有する。
【0032】
多くの合金と同様に、マルエージング鋼も不可避の不純物を含有する可能性がある。不純物とは、本明細書では、マルエージング鋼内に、鋼の特性にいかなる影響も及ぼさないような少量で存在する可能性がある任意の元素を意味する。不純物の総量は、0.50重量%未満、好ましくは0.15重量%未満である。そのような元素の例には、Mn、P、Si、B、およびSがある。
【0033】
一実施形態では、本発明の場合、Mnの量は0.05重量%未満であり、Pの量は0.003重量%未満であり、Siの量は0.004重量%未満であり、Sは0.002重量%未満である。
【0034】
マルエージング鋼部品の平均硬度は、エージング/窒化工程が実行されたか否かに依存する、以下を参照。
【0035】
本発明の一実施形態では、マルエージング鋼から作られたキャリア本体には、平均硬度が300~1200HV1、好ましくは500~1100HV1である硬度に対する勾配が設けられていない。硬度値の標準偏差は、適切には0~150HV1、好ましくは0~100HV1である。
【0036】
本発明の一実施形態では、マルエージング鋼部品の平均硬度は、好ましくは40~55HRC、より好ましくは42~55HRCである。HRC値は、390~610HV1、より好ましくは400~610HV1に対応する。硬度値の標準偏差は、適切には0~2HRC、好ましくは0~1.5HRCである。
【0037】
本発明の一実施形態では、マルエージング鋼から作られたキャリア本体には硬度勾配が設けられる、すなわち、キャリア本体は、中心と比較して表面領域の硬度が増加している。それにより、本明細書では、硬度が表面でその最大値を有し、次いで中心に向かって徐々に減少することを意味する。マルエージング鋼から作られたキャリア本体は、300~700HV1、好ましくは500~700HV1の平均中心硬度を有する。中心硬度値の標準偏差は、適切には0~20HV1、好ましくは0~15HV1である。マルエージング鋼の表面は、その結果、300~1200HV1、好ましくは500~1100HV1の平均表面硬度を有する。硬度値の標準偏差は、適切には0~150HV1、好ましくは0~100HV1である。表面硬度は、中心硬度よりも少なくとも30%高く、好ましくは中心硬度よりも少なくとも40%高い。
【0038】
「中心」とは、本明細書では、マルエージング鋼キャリア本体の内側部分を意味し、硬度は断面で測定されたときにもはや変化していない。
【0039】
表面から測定された硬度勾配の深度、窒化深度は、硬度勾配が設けられたマルエージング鋼キャリアの横断面に硬度深度曲線を作成し、表面の近くから始まり、中心に向かって硬度が変化しなくなるまで、規格DIN EN ISO6507-1に従ってHV0.3またはHV0.5を測定することによって決定される。窒化深度は、窒化キャリア本体の表面から限界硬度の点までの垂直距離によって与えられ、限界硬度は、平均中心硬度+50HV0.3または50HV0.5として定義される、
図12を参照。
【0040】
マルエージング鋼キャリア本体の平均窒化硬度深度は、0.001~0.8mm、好ましくは0.01~0.3mmである。硬度値の標準偏差は、適切には0~0.03mm、好ましくは0~0.02mmである。
【0041】
マルエージング鋼キャリアの表面の硬度を高めることにより、耐摩耗性が向上する。これは、本発明による切削工具インサートが、ワークピース材料からのチップがマルエージング鋼キャリアに衝突する切削用途に使用されるときに、大きな利点となり得る。
【0042】
ろう付け技法は、いわゆる活性ろう付けである。それにより、接合部が単に充填材料を溶融し、金属結合を形成することによって形成されるだけでなく、接合される材料の一方または両方との化学反応も含むことを意味する。充填材料における接合元素は、通常Tiであるが、Hf、V、Zr、およびCrなどの元素も活性元素であると見なされる。本発明によれば、Tiは活性元素である。
【0043】
ろう付け接合部とは、本明細書では、超硬合金と、充填材料によって充填され、ろう付けプロセス中に形成されるマルエージング鋼部品との間の領域または塊を意味する、以下を参照。
【0044】
ろう付け接合部の厚さは、適切には5~200μm、好ましくは15~100μmである。
【0045】
ろう付け接合部は均質相ではない。代わりに、ろう付け後、充填材料内の元素は異なる合金相を形成する。
【0046】
ろう付け接合部は、ろう付け後に、切断要素に隣接するTi含有接合層を含む。Tiは非常に反応性が高く、ろう付け中に切断要素内に存在する1つまたは複数の元素と反応する。最も一般的には、共有結合が炭素、窒素、酸素、およびホウ素のうちの1つまたは複数と形成され、ろう付け接合部と切断要素との間の界面に強力なTi含有接合層を形成する。
【0047】
Ti含有接合層の組成は、切断要素が何の材料から作られるかに応じて異なるが、通常、TiC、TiN、TiOx、およびTiBxのうちの1つまたはそれらの混合物から構成される。形成された接合層はセラミック性なので、層成長が制御されない場合、接合部は脆くなる可能性がある。
【0048】
例えば、ろう付け接合部に最も近い材料がPCD(多結晶ダイヤモンド)または超硬合金である場合、切断要素全体が超硬合金から作られるか、またはそれが炭化物で裏打ちされたPCDもしくはPcBNの切断要素である場合、Ti含有接合層はTiC層である。ろう付け接合部内のTiは、WCまたはダイヤモンドの中の炭素と反応し、TiCを形成する。
【0049】
別の例は、切断要素が固体(「自立」とも呼ばれる)PcBNから作られる場合、接合層は、TiがcBNの中の窒素と反応するのでTiNになるが、例えばTiB2のような少量のTiBxも含有する可能性がある。
【0050】
切断要素がセラミック、例えばAl2O3/WC焼結セラミック複合体から作られる場合、接合層はTiC/TiOx層になる。
【0051】
使用される機器のタイプに応じて、接合層の存在を検出するいくつかの方法がある。
【0052】
解像度が十分に高い走査型電子顕微鏡(SEM)が使用される場合、接合層は切断要素に隣接してはっきり見える。層の組成を検証するために、SEM-EDS(エネルギー分散分光法)および/またはWDS(波長分散分光法)によるSEM-EPMA(電子プローブ顕微鏡分析)は、接合層内の個々の元素を識別するために使用することができる。
【0053】
本発明の一実施形態では、接合層の厚さは、0.03~5μm、好ましくは0.05~1μm、より好ましくは0.05~0.5μm、最も好ましくは0.05~0.25μmである。
【0054】
使用されるSEM画像が接合層を検出するのに十分な解像度をもたない場合、充填材料と切断要素との間の界面におけるTiおよび/またはCの蓄積は、例えばSEM-EDSまたはWDSによるSEM-EPMAを使用して見ることができる。Tiの蓄積は、本明細書では後でTi蓄積層と呼ばれ、SEM画像において視覚的に検出されない場合でも、接合層が形成されていることの1つの指標である。Ti蓄積層は、実際の接合層よりもかなり厚く、それは、すべてのTiがTiC/TiN/TiOx/TiBxを形成するわけではないことを意味する可能性がある。Ti蓄積層の厚さも、分析方法によって部分的に影響を受ける。
【0055】
好ましくは、ろう付け接合部は、Tiに加えて、Ag、Cu、Sn、In、Zr、Hf、およびCから、より好ましくはAg、Cu、およびInから選択された1つまたは複数の元素をさらに含む。
【0056】
ろう付け接合部はまた、不可避の不純物と見なされるより少量の他の元素を含有する可能性がある。不可避の不純物とは、本明細書では、ろう付け工程の前にろう付け材料の中に存在する可能性がある上記以外の少量の元素、ならびに接合される材料からの元素、例えば超硬合金からのCo、Wなど、およびマルエージング鋼からのFe、Niなどを意味する。ろう付け工程中に温度が上昇すると、接合される部品からの少量の元素がろう付け材料内に不可避的に溶解し、それによってろう付け材料が溶融し、接合部からの拡散を可能にする。温度および時間などのろう付けプロセスパラメータが本発明による範囲内にある限り、不可避の不純物の総量は、ろう付け接合部の性能に影響を及ぼさないほど小さい。
【0057】
ろう付け後のろう付け接合部の組成は、元素が均一に分布していないので特定が困難である。利用可能な場合、最も簡単な方法は、ペーストまたは箔が均質なブレンドなので、使用されている充填材料を見ることである。また、ろう付け接合部は、接合される材料からの少量の元素、例えば超硬合金からのCo、W、およびマルエージング鋼からのFe、Niなどを含む可能性がある。
【0058】
ろう付け接合部内のTiおよび可能性があるさらなる元素の量は、エネルギー分散型X線分光分析(EDS)を使用して測定することもできる。しかしながら、ろう付け接合部内の沈殿元素の不均一な分布に起因して、多くの測定点が使用される必要があり、標準偏差が大きくなる。好ましくは、ろう付け接合部は、平均して、30~80重量%、好ましくは40~75重量%の量のAgと、15~50重量%、好ましくは15~40重量%、より好ましくは20~40重量%の量のCuと、0.3~15重量%、好ましくは0.5~5重量%の量のTiと、0~10重量%、好ましくは0~2重量%の量のSnと、0~30重量%、好ましくは5~25重量%、より好ましくは10~25重量%の量のInとを含む。
【0059】
ろう付け接合部とマルエージング鋼部品との間の界面において、Tiはまた、鋼の中の鉄と金属結合を形成するろう付け接合部に蓄積される。マルエージング鋼表面におけるTiの蓄積層の厚さは、好ましくは1~10μm、好ましくは2~5μmであり、例えばEDSによって測定することができる。
【0060】
本発明はまた、
少なくとも1つのポケットを備えるマルエージング鋼キャリア本体を設けるステップと、
前記少なくとも1つのポケット内に配置された少なくとも1つの切断要素を設けるステップと、
マルエージング鋼キャリア本体と切断要素との間に接触して、充填材料の0.3~15重量%の量のTiを含む充填材料を配置するステップと、
間に充填材料を有するマルエージング鋼キャリア本体および切断要素を、600~780℃の温度の炉内で、1~60分の時間期間の間ろう付け工程に供するステップであって、ろう付けが真空中で行われる、ステップと
を含む、上記による切削工具インサートを作製する方法に関する。
【0061】
本発明による(ろう付け金属とも呼ばれる)充填材料は、充填材料の0.3~15重量%、好ましくは1~5重量%の総量のTiを含有する。本発明の充填材料は、適切には、490~1125℃、好ましくは600~700℃の固相温度を有する。さらに、本発明の充填材料は、610~1180℃、好ましくは700~750℃の液相温度を有する。充填材料は、Tiに加えて、Ag、Cu、Sn、In、Zr、Hf、およびCrから選択された1つまたは複数の元素をさらに含む。
【0062】
本発明の一実施形態では、充填材料は、30~80重量%、好ましくは40~75重量%の量のAgと、15~50重量%、好ましくは15~40重量%、より好ましくは20~40重量%の量のCuと、0.3~15重量%、好ましくは0.5~5重量%の量のTiと、0~10重量%、好ましくは0~2重量%の量のSnと、0~30重量%、好ましくは5~25重量%、より好ましくは10~25重量%の量のInとを含む。
【0063】
適切には、充填材料は、箔またはペーストとして提供される。
【0064】
充填材料は、超硬合金基板と鋼製部品の接合面に提供される。
【0065】
ろう付けプロセスより前に接合面に提供される充填材料の厚さは、材料のタイプ、すなわち箔またはペーストに依存する。ペーストが使用される場合、ろう付けされる表面が覆われるように十分な材料が塗布される。通常、厚さは5~200μm、好ましくは15~100μmである。
【0066】
次いで、部品は、不活性環境または還元環境、すなわち最小量の酸素を有する炉内に配置される。好ましくは、炉内のろう付け温度は、600~830℃、好ましくは600~780℃、より好ましくは650~750℃、さらにより好ましくは700~750℃である。部品が高温に供される時間は、1~60分、好ましくは5~15分である。高温での時間が短い場合、ろう付け接合部が形成され、Tiが反応してろう付け接合部の所望の強度に達するための十分な時間がない。高温での時間が長い場合、Ti含有脆性反応ゾーンは非制御状態で成長し、接合特性、例えば剪断強度に悪影響を及ぼす。
【0067】
ろう付けは、真空中または低分圧におけるアルゴンの存在下で適切に行われる。真空とは、本明細書では、炉内の圧力が5×10-4mbar未満、好ましくは5×10-5mbar未満であることを意味する。アルゴンが存在する場合、アルゴン圧力は1×10-2mbar未満である。
【0068】
本発明によって使用されるろう付け炉は、上述されたように真空、加熱速度、および冷却速度などに関して良好に制御された条件を提供することができる任意の炉であり得る。
【0069】
本発明の一実施形態では、部品は、ろう付け後、ろう付けされた部品を300~600℃、好ましくは350~500℃、最も好ましくは400~440℃の高温エージング温度に、5分~12時間、好ましくは30分~8時間、より好ましくは3~6時間の間供することによってエージング工程に供される。適切には、エージング温度までの加熱速度は、好ましくは1~50℃/分、好ましくは5~10℃/分である。適切には、エージング温度から少なくとも充填材料の固相温度未満、好ましくは300℃未満の温度までの冷却速度は、1~50℃/分、好ましくは5~10℃/分である。ろう付け工程およびエージング工程は、同じ炉または2つの別々の炉のいずれかで行うことができる。
【0070】
本発明の一実施形態では、エージングは、ろう付け工程が行われるのと同じ炉内でろう付け工程の直後に行われる。
【0071】
本発明の一実施形態では、エージングは、真空ろう付けとは異なる炉内でろう付け工程の直後に行われる。
【0072】
本発明の一実施形態では、エージングは、コーティングの堆積前または堆積中に同じ炉/堆積チャンバ内で行われる。
【0073】
本発明の一実施形態では、エージング工程は、窒化雰囲気内で少なくとも部分的に実行される。窒化中の温度に起因して、エージング効果も存在し、したがって窒化が実行される場合、通常、さらなる別個のエージング工程は存在しない。
【0074】
窒化工程は、プラズマ窒化またはガス窒化、好ましくはプラズマ窒化を使用して実行することができる。窒化雰囲気は、窒素含有ガス、例えばN2、NH3によって提供することができる。
【0075】
本発明の一実施形態では、窒化工程はプラズマ窒化を使用して実行される。それにより、本明細書では、窒化は、窒化雰囲気を提供することができるプラズマ発生器を備えた真空容器内で行われることを意味する。温度は、適切には300~600℃、好ましくは350~550℃であり、持続時間は1~100時間であり得る。圧力は、好ましくは低く、適切には50~600Paであるべきである。プラズマ窒化の場合、ガスは好ましくはN2であり、それは、例えばH2と混合することができる。
【0076】
本発明の一実施形態では、窒化工程はガス窒化を使用して実行される。ガス窒化は、好ましくは450~600℃、好ましくは500~520℃の温度で実行される。ガス窒化は、好ましくは、反応器内でH2およびN2に分割されるNH3によって行われる。ガス窒化は、好ましくは0.05~0.02MPa、または大気圧に近い低圧で実行することができる。
【0077】
窒化ガスの正確な温度、持続時間、および選択は、いくつかのこと、マルエージング鋼に対する所望の窒化効果、使用される機器の具体的なタイプなどに依存する。
【0078】
本発明の一実施形態では、マルエージング鋼部品は、以下の18~19重量%のNi、8~10重量%のCo、4~6重量%のMo、0.5~1.2重量%のTi、0~0.15重量%のCr、0~0.2重量%のAl、0.03重量%未満のC、0.04重量%未満のSi、0.05重量%未満のMn、0.003重量%未満のP、0.002重量%未満のS、および0.0005重量%未満のBの組成物を有する。残りはFeである。充填材料は、以下の40~75重量%の量のAg、15~40重量%の量のCu、0.5~5重量%の量のTi、0~2重量%の量のSn、5~25重量%の量のInの組成物を有する。
【0079】
本発明の一実施形態では、マルエージング鋼部品は、以下の9~10重量%のNi、3~3.5重量%のCr、4~4.5重量%のMo、0.7~0.9重量%のTi、0.4重量%未満のSi、0.4重量%未満のMn、および残りのFeの組成物を有する。充填材料は、以下の40~75重量%の量のAg、15~40重量%の量のCu、0.5~5重量%の量のTi、0~2重量%の量のSn、5~25重量%の量のInの組成物を有する。
【実施例】
【0080】
[実施例1]
インサート型CNMG120408のマルエージング鋼キャリア本体は、18.46重量%のNi、8.71重量%のCo、5.00重量%のMo、0.68重量%のTi、0.09重量%のCr、<0.0005重量%のS、<0.0030重量%のP、<0.02重量%のMn、<0.020重量%のSi、<0.0010重量%のC、<0.06重量%のAl、および<0.0005重量%のBの組成物を有するマルエージング鋼Bohler W720 VMRから作られた。ポケットは、フライス加工を使用して角のうちの1つでマルエージング鋼の部片を切り取ることによって作成された。
【0081】
超硬合金の切断要素には、ポケットと同じ形状が与えられた。超硬合金は、6重量%のCoおよび残りのWCの組成物を有していた。比較に使用されたインサート(比較1、下記参照)と同じタイプの固体超硬合金インサートのワイヤ放電加工(WEDM)を使用して、切断要素が切り取られた。
【0082】
充填材料は、58~62重量%のAg、22~26重量%のCu、1.5~2.5重量%のTi、および13~15重量%のInの組成物を有するTokyo Braze製のペースト(TB-629)の形態で提供された。固相温度は約620℃であり、液相温度は約720℃である。
【0083】
ペーストは、マルエージング鋼キャリア本体と超硬合金切断要素との間に、両方の部片がペーストと接触するように配置された。次いで、組み立てられた接合部片は、最初に温度が10℃/分の速度で500℃まで上げられて、充填材料の中の結合剤の蒸発を可能にし、そこに20分間保持して均一なインサート温度を可能にするIpsen VFC-124真空炉に入れられた。次いで、部片は10℃/分の速度で740℃まで加熱された。ろう付け温度740℃は10分間維持され、その後、部片は5℃/分の速度で300℃まで冷却された。300℃の後、部片は自由冷却した。
【0084】
ろう付け工程の後、ろう付けされた部片は、エージングプロセスに供されて、マルエージング鋼の硬度を高めた。部片はろう付けと同じ炉に入れられ、そこで温度は5℃/分の速度でエージング温度まで上げられた。エージング温度410℃が4時間維持され、その後、部片は5℃/分の速度で200℃まで冷却された。200℃の後、部片は自由冷却した。
【0085】
インサートは、本明細書では発明1と表記される。
【0086】
比較のために、発明1と同じ形状を有するが鋼製キャリアがないインサート、すなわちインサート全体は、発明1の切断要素と同じ組成の超硬合金から作られた。このインサートは、本明細書では比較1と呼ばれる。
【0087】
インサートは、以下の切削パラメータでTi6Al4Vの長手方向の旋削で試験された。
Vc=50~100m/分
ap=1~2mm
f=0.2mm/回転
湿潤条件
【0088】
表1に表示されたエージング後のマルエージング鋼の硬度は、Rockwellインデントデバイス、Wolpert Testo 2000においてHRCとして測定された。平均値は、少なくとも3つの測定点の平均である。
【0089】
様々な切削パラメータについてのmm単位の逃げ面摩耗(VB)の結果が表1に示されている。
[表1]
【0090】
表1では、様々な切削パラメータについて、発明1と比較1の両方に対して摩耗がほぼ同じであることが分かる。したがって、マルエージング鋼のキャリア本体は、超硬合金工具と同じ性能を示す。
【0091】
マルエージング鋼キャリアの変形は観察されなかった。切削試験後、ろう付け接合部は肉眼で観察しても影響を受けなかった。
図7では、発明1の切断要素の摩耗のLOM(光学顕微鏡)が、比較1の摩耗の
図8に示されたLOM(光学顕微鏡)と比較して示され、両方の画像は、v
c=100m/分、a
p=2mm、f=0.2mm/回転、およびT=4分の後に撮影された。
【0092】
[実施例2]
インサート型CNMG120408のマルエージング鋼キャリア本体は、マルエージング鋼Bohler W720 VMRから作られた。ポケットは、EDMを使用して角のうちの1つでマルエージング鋼の部片を切り取ることによって作成された。
【0093】
超硬合金支持体、すなわちカーバイドバック上のPCDの切断要素(先端)は、ポケットと同じ形状を与えられた。PCDは、平均粒径が6umの96体積%のダイヤモンドおよび残りのCoの組成物を有していた。
【0094】
切断先端は、実施例1と同じ充填材料およびプロセスを使用してろう付けされた。インサートも実施例1と同じ条件を使用してエージングされた。
【0095】
インサートは、本明細書では発明2と表記される。
【0096】
比較のために、発明2と同じ形状(ポケットを含む)であるが超硬合金から作られたキャリア本体が提供された。発明2と同じ組成を有する切断要素は、発明2と同じ充填材料および(エージング工程を除く)プロセスを使用して超硬合金キャリア本体にろう付けされた。このインサートは、本明細書では比較2と呼ばれる。
【0097】
両方のインサート(発明2および比較2)はろう付け後に研削され、切断端部はブラッシングされて20umのERを形成した。
【0098】
インサートは、以下の切削パラメータでTi6Al4Vにおける旋削切削作業で試験された。
Vc=150m/分
ap=0.5mm
f=0.12mm/回転
湿潤条件
【0099】
発明2および比較2による両方のインサートは、18分後に評価され、mm単位の逃げ面摩耗(VB)の結果が表2に示されている。
[表2]
【0100】
表2では、発明2と比較2の両方に対して摩耗がほぼ同じであることが分かる。したがって、マルエージング鋼のキャリア本体は、超硬合金キャリアと同じ性能を示す。
【0101】
マルエージング鋼キャリアの変形は観察されなかった。切削試験後、ろう付け接合部は肉眼で観察しても影響を受けなかった。
【0102】
[実施例3]
インサート型CNMG120408のマルエージング鋼キャリア本体は、マルエージング鋼Bohler W720 VMRから作られた。ポケットは、フライス加工を使用して角のうちの1つでマルエージング鋼片を切り取ることによって作成された。
【0103】
cBN(自立、すなわち超硬合金支持体なし)の切断要素(先端)は、ポケットと同じ形状を与えられた。cBNは、結合剤相としてのTiCNおよび不可避の不純物と釣り合った65体積%のcBNの組成物を有していた。
【0104】
切断先端は、実施例1と同じ充填材料およびプロセスを使用してろう付けされたが、ここでは720℃でろう付けされた。インサートも実施例1と同じ条件を使用してエージングされたが、ここでは3時間420℃であった。
【0105】
インサートは、本明細書では発明3と表記される。
【0106】
比較のために、発明3と同じ形状(ポケットを含む)であるが超硬合金から作られたキャリア本体が設けられた。発明3と同じ組成物を有する切断要素は、発明3と同じ充填材料および(エージング工程を除く)プロセスを使用して超硬合金キャリア本体にろう付けされた。このインサートは、本明細書では比較3と呼ばれる。
【0107】
両方のインサート(発明3および比較3)はろう付け後に研削され、切断端部はブラッシングされて20umのERを形成した。
【0108】
インサートは、以下の切削パラメータで硬化鋼Ovako 16NiCrS4のケースにおける面旋削作業で試験された。
Vc=180m/分
ap=0.1mm
f=0.1mm/回転
乾燥条件
【0109】
一試験では、発明3および比較3によるインサートが2.5分後に評価され、追加試験では、発明3および比較3の各タイプの2つのインサートが30分後に評価された。両方の試験では、逃げ面摩耗(VB
B)およびノッチ摩耗(VB
C)が評価された。結果が表3に示されている。30分試験からの結果は、2つの試験の平均である。
[表3]
【0110】
表3では、発明3と比較3の両方に対して摩耗がほぼ同じであることが分かる。したがって、マルエージング鋼のキャリア本体は、超硬合金キャリアと同じ性能を示す。
【0111】
マルエージング鋼キャリアの変形は観察されなかった。切削試験後、ろう付け接合部は肉眼で観察しても影響を受けなかった。
図9では、発明3の切断要素の摩耗のSEM(走査型電子顕微鏡)画像が、比較3の摩耗の
図10に示されたSEM(走査型電子顕微鏡)画像と比較して示され、両方の画像は30分後に撮影された。
【0112】
[実施例4]
インサート型CNMG120408のマルエージング鋼キャリア本体は、マルエージング鋼Bohler W720 VMRから作られた。ポケットは、EDMを使用して角のうちの1つでマルエージング鋼の部片を切り取ることによって作成された。
【0113】
セラミック切断要素(先端)(自立、すなわち超硬合金支持体なし)は、ポケットと同じ形状を与えられた。セラミック先端は、30体積%のWCの組成物を有し、Al2O3および不可避の不純物と釣り合っていた。
【0114】
切断先端は、実施例1と同じ充填材料およびプロセスを使用してろう付けされた。インサートも実施例1と同じ条件を使用してエージングされた。
【0115】
インサートは、本明細書では発明4と表記される。
【0116】
比較のために、発明4と同じ形状(ポケットを含む)であるが超硬合金から作られたキャリア本体が設けられた。発明4と同じ組成物を有する切断要素は、発明4と同じ充填材料および(エージング工程を除く)プロセスを使用して超硬合金キャリア本体にろう付けされた。このインサートは、本明細書では比較4と呼ばれる。
【0117】
両方のインサート(発明4および比較4)はろう付け後に研削され、切断端部はブラッシングされて20umのERを形成した。
【0118】
インサートは、以下の切削パラメータで硬化鋼Ovako 16NiCrS4のケースにおける面旋削作業で試験された。
Vc=180m/分
ap=0.1mm
f=0.1mm/回転
乾燥条件
【0119】
発明4および比較4による両方のインサートは、2.5、4.5、および13.5分後に評価され、μm単位の逃げ面摩耗(VB
max)の結果が表4に示されている。
[表4]
【0120】
表4では、発明4と比較4の両方に対して摩耗がほぼ同じであることが分かる。したがって、マルエージング鋼のキャリア本体は、超硬合金キャリアと同じ性能を示す。
【0121】
マルエージング鋼キャリアの変形は観察されなかった。切削試験後、ろう付け接合部は肉眼で観察しても影響を受けなかった。
【0122】
[実施例5]
円筒の形態のマルエージング鋼1.2709から作られた鋼部品は、10重量%のCo、1重量%の他の炭化物、および残りのWCの組成物を有する超硬合金部品と一緒に提供された。マルエージング鋼は、ろう付けより前に約340HV1の硬度を有していた。
【0123】
ろう付け材料(WBC GroupからのIncusil ABA)は、100μmの厚さを有する箔の形態で提供された。ろう付け材料は、59.0重量%のAg、27.5重量%のCu、12.5重量%のIn、および1.25重量%のTiの組成物を有していた。固相温度は約605℃であり、液相温度は約715℃であった。
【0124】
この箔は、マルエージング鋼部品と超硬合金部品との間に、両方の部片が箔と接触するように配置された。次いで、組み立てられた接合部片は、Schmetz真空炉(タイプ:EU 80/1H 30×45×30 6バールシステム*2RV*)に入れられ、そこで、温度は最初に20℃/分の速度で740℃に上げられた。ろう付け温度740℃が15分間保持され、その後、部片は5℃/分の速度で300℃に冷却された。300℃の後、部片は室温まで自由冷却した。
【0125】
熱応力亀裂の兆候がない優れた湿潤を観察することができ、高剪断試験結果によって証明された。
【0126】
このサンプルは、本明細書では発明5と表記される。
【0127】
[実施例6]
円筒の形態のマルエージング鋼1.2709から作られた鋼部品は、10重量%のCo、1重量%の他の炭化物、および残りのWCの組成物を有する超硬合金部品と一緒に提供された。マルエージング鋼は、ろう付けより前に約340HV1の硬度を有していた。
【0128】
ろう付け材料(Tokyo BrazeからのTB-651)は、100μmの厚さを有する箔の形態で提供された。ろう付け材料は、65.0重量%のAg、28.0重量%のCu、2.0重量%のTi、および5.0重量%のSnを有していた。固相温度は約700℃であり、液相温度は約750℃であった。
【0129】
この箔は、マルエージング鋼部品と超硬合金部品との間に、両方の部片が箔と接触するように配置された。次いで、組み立てられた接合部片は、Schmetz真空炉(タイプ:EU 80/1H 30×45×30 6バールシステム*2RV*)に入れられ、そこで、温度は最初に20℃/分の速度で815℃に上げられた。ろう付け温度815℃が15分間保持され、その後、部片は5℃/分の速度で300℃に冷却された。300℃の後、部片は自由冷却した。
【0130】
熱応力亀裂の兆候がない優れた湿潤を観察することができ、高剪断試験結果によって証明された。
【0131】
このサンプルは、本明細書では発明6と表記される。
【0132】
[実施例7]
(プラズマ窒化)
発明5および6によるサンプルは、3mbarのチャンバ圧力で350:50ml/分のH2:N2のガスフロー内でプラズマ窒化工程に供された。チャンバ内の温度は490℃であった。サンプルがプラズマ窒化工程に供された時間は16時間であった。ろう付け接合部のマスキングは窒化の前に使用されなかった。
【0133】
[実施例8]
(ガス窒化)
発明1によるサンプルは、NH3分割によってガス窒化工程に供された。チャンバ内の温度は510℃であった。サンプルがプラズマ窒化工程に供された時間は23または55時間であった。ろう付け接合部のマスキングは窒化の前に使用されなかった。
【0134】
[実施例9]
サンプルは、剪断強度、表面硬度、中心硬度、および硬度深度曲線に関して分析された。
【0135】
剪断強度は、
図11に示された剪断装置の設定によって分析され、ここで、1は鋼製円筒(φ=20mm、h=5mm)の形状の鋼部品であり、2は超硬合金円筒(φ=10mm、h=5mm)の形状の超硬合金部品である。鋼製円筒は、剪断強度試験装置の間隙に配置されているので、荷重方向にのみ移動することができる。装置の表面に形成されたノッチは、接合された部品を正しい位置に保持し、ろう付け接合部への均等に分散された力の誘導を保証する。加えられた力Fは、ろう付け接合部が故障し、超硬合金円筒が剪断されるまで絶えず増加した。次いで、最終的な剪断強度は、最大の測定された力および初期接合面積(A=78、5mm
2)の商によって計算された。ろう付け材料は、ろう付けされた接合部の剪断強度を決定する前に除去されなかった。
【0136】
実施例7に従って調製されたサンプルに対する窒化の深度を決定するために、平均窒化硬度深度が室温で決定された。これは、窒化サンプルの横断面上で、規格DIN EN ISO6507-1に従って、縁部から0.025~0.1mmの第1の窪みから始まり、次いで硬度がもはや変化しなくなるまで0.03~0.10mmごとにHV0.3を測定することにより、硬度深度曲線を作成することによって行われた。取得された硬度値は、表面からの距離の関数として記録される。この硬度曲線から、窒化硬度深度は、表面と限界硬度との間の距離として取得された(ここで、限界硬度は、(HV0.3単位の)平均中心硬度+50HV0.3である)。実施例8に従って調製されたサンプルの場合、窒化深度は実施例7のサンプルと同じ方法で決定されたが、違いはHV0.5が使用されたことである。
【0137】
表5に与えられた中心硬度はHV1であり、1kgf(キログラム力)の荷重および15秒の荷重時間をかけて、マルエージング鋼部品の断面に対してビッカース硬度計によって測定されている。
【0138】
1.5mm離れて配置された5つの窪みのパターンは、規格に従って実行され、表5に与えられた値は5つの窪みの平均である。
【0139】
表面硬度測定は、窒化表面で実行され、1.5mm離れて配置された少なくとも5つの窪みが実行され、表1に与えられた値は5つの窪みの平均である。測定は、ビッカース硬度計を使用し、荷重1kgf(キログラム力)および荷重時間15秒をかけて実行された。
[表5]
【0140】
表1から分かるように、窒化は、中心よりもかなり高い硬度を有する表面を作り出し、それは耐摩耗性の向上につながる。
【国際調査報告】