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特表2024-544537精子関連DNA精製のための陽イオン交換
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-03
(54)【発明の名称】精子関連DNA精製のための陽イオン交換
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/10 20060101AFI20241126BHJP
   C12Q 1/6827 20180101ALN20241126BHJP
【FI】
C12N15/10 112Z
C12Q1/6827 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024527602
(86)(22)【出願日】2022-11-11
(85)【翻訳文提出日】2024-07-10
(86)【国際出願番号】 US2022079749
(87)【国際公開番号】W WO2023086960
(87)【国際公開日】2023-05-19
(31)【優先権主張番号】63/278,341
(32)【優先日】2021-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】593089149
【氏名又は名称】プロメガ コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】Promega Corporation
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100162422
【弁理士】
【氏名又は名称】志村 将
(72)【発明者】
【氏名】コートニー ニコラス エイ
(72)【発明者】
【氏名】マクラーレン ロバート スチュアート
(72)【発明者】
【氏名】ゼン ジヤン
(72)【発明者】
【氏名】カオ ジアン
(72)【発明者】
【氏名】チョウ ウェンフイ
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA13
4B063QQ08
4B063QQ42
4B063QR08
4B063QR42
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX02
(57)【要約】
本明細書においては、精子細胞を他の細胞型から単離し、複雑なサンプルから精子関連DNAを精製するための方法、試薬、及びキットが提供される。特に、精子細胞を陽イオン交換樹脂に結合させることにより、上皮細胞から無傷の精子細胞を分離し、そこから精子関連DNAを抽出するための方法、試薬、及びキットが提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下:
(a)精子細胞を含むサンプルを、上皮細胞を効率的に溶解できるが精子細胞を溶解しない消化剤と接触させること;
(b)前記サンプルの精子細胞が濃縮された画分を前記サンプルの精子細胞が枯渇した画分から分離すること;
(c)前記精子細胞が濃縮された画分を陽イオン交換樹脂と接触させること;
(d)前記陽イオン交換樹脂を洗浄緩衝液で洗浄すること;及び
(e)前記陽イオン交換樹脂から精子関連DNAを溶出させること
を含む方法。
【請求項2】
以下:
(a)精子細胞を含むサンプルを、上皮細胞を効率的に溶解できるが精子細胞を溶解しない消化剤と接触させること;
(b)前記サンプルを陽イオン交換樹脂と接触させること;
(c)前記陽イオン交換樹脂を洗浄緩衝液で洗浄すること;及び
(d)前記陽イオン交換樹脂から精子関連DNAを溶出させること
を含む方法。
【請求項3】
前記消化剤がプロテイナーゼKを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記消化剤がドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(a)が、前記サンプルをブロッキング剤と接触させることをさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ブロッキング剤がニシン精子DNAまたはポリデオキシイノシンデオキシシチジル酸(ポリd(I-C))を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記消化剤が前記サンプルと共に少なくとも約37℃の温度でインキュベートされる、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記サンプル中に存在する上皮細胞の少なくとも95%が溶解される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記精子細胞が枯渇した画分が廃棄される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記精子細胞が枯渇した画分がその後の分析のために保持される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記精子細胞が枯渇した画分から精子が枯渇したDNAを得ることをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
分析が前記精子が枯渇したDNAを定量することを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
分析が前記精子が枯渇したDNAを遺伝子型判定することを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記精子が枯渇したDNAを遺伝子型判定することが、短縦列反復(STR)分析を実行することを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記精子細胞が濃縮された画分を前記精子細胞が枯渇した画分から分離するステップをさらに含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記精子細胞が濃縮された画分が遠心分離によって前記精子細胞が枯渇した画分から分離される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記陽イオン交換樹脂が常磁性である、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記精子細胞が前記陽イオン交換樹脂に結合する、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記洗浄により、前記陽イオン交換樹脂から汚染物質が除去されるが、前記精子細胞は前記陽イオン交換樹脂に結合したままにする、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記精子関連DNAが溶出緩衝液中で前記陽イオン交換樹脂から溶出される、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記溶出緩衝液が洗剤、消化剤、及び還元剤を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記洗剤がSDSを含み、前記消化剤がプロテイナーゼKを含み、前記還元剤がDTT、TCEP、βME、GSH、及び/または1-TGを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記精子関連DNAが、前記陽イオン交換樹脂を前記溶出緩衝液中で加熱することにより、前記陽イオン交換樹脂から溶出される、請求項20~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
加熱が温度を少なくとも65℃まで上昇させることを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
請求項1~24のいずれか一項に記載のステップを実行し、前記サンプルの精子関連DNAを参照サンプル及び/またはデータベースと比較することを含む、法医学分析を実施する方法。
【請求項26】
対象が前記サンプル中の前記精子細胞の供給源であるかどうかを判定することをさらに含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
1つ以上のステップが自動化されている、請求項1~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記ステップの1つ以上が自動液体ハンドラーによって実行される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記ステップの1つ以上が自動粒子ハンドラーによって実行される、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
請求項24~28のいずれか一項に記載のステップを実行すること、及び前記サンプルの精子が枯渇したDNAを参照サンプル及び/またはデータベースと比較することを含む、法医学分析を実施する方法。
【請求項31】
対象が前記サンプル中の前記精子が枯渇したDNAの供給源であるかどうかを判定することをさらに含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
以下の2つ以上を含むキット:
(a)上皮細胞を効率的に溶解できるが精子細胞を溶解しない消化剤、
(b)陽イオン交換樹脂、
(c)結合緩衝液、
(d)洗浄緩衝液、及び
(e)消化剤及び還元剤を含む溶出緩衝液。
【請求項33】
前記消化剤がプロテイナーゼKを含む、請求項32に記載のキット。
【請求項34】
前記消化剤がさらにSDSを含む、請求項33に記載のキット。
【請求項35】
前記陽イオン交換樹脂が常磁性である、請求項32~34のいずれか一項に記載のキット。
【請求項36】
前記溶出緩衝液がプロテイナーゼと、DTT、TCEP、βME、GSH、SDS、及び/または1-TGとを含む、請求項32~35のいずれか一項に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年11月11日に出願した米国仮特許出願第63/278,341号の利益を主張するものであり、これは参照により本明細書に組み込まれる。
本明細書においては、精子細胞を他の細胞型から単離し、複雑なサンプルから精子関連DNAを精製するための方法、試薬、及びキットが提供される。特に、精子細胞を陽イオン交換材料に結合させることにより、上皮細胞から無傷の精子細胞を分離し、そこから精子関連DNAを抽出するための方法、試薬、及びキットが提供される。
【背景技術】
【0002】
法医学的DNA分析の分野においては、被害者のDNAを含む性的暴行キットで収集された材料から精子関連DNAを効率的に分離できることが大きなニーズとなっている。精子関連DNAをきれいに分離することは、潜在的容疑者の短縦列反復(STR)プロファイルを取得するために不可欠である。精子関連DNAを分離する最も一般的なプロセスは、微分抽出(DE)と呼ばれ、高度な技術力を必要とする労働集約的なプロトコルであり、ほとんどの自動化技術とは互換性がない。現在のプロトコルの難しさもあって、検査を待っている性的暴行キットが全国的に大量に滞留している。
【0003】
したがって、精子関連DNAを単離するための使いやすく、費用対効果の高い方法とキットに対するニーズが依然として存在している。
【発明の概要】
【0004】
本明細書においては、精子細胞を他の細胞型から単離し、複雑なサンプルから精子関連DNAを精製するための方法、試薬、及びキットが提供される。特に、精子細胞を陽イオン交換材料に結合させることにより、上皮細胞から無傷の精子細胞を分離し、そこから精子関連DNAを抽出するための方法、試薬、及びキットが提供される。
【0005】
具体的には、本開示は、(a)精子細胞を含むサンプルを、上皮細胞を効率的に溶解できるが精子細胞を溶解しない消化剤と接触させること、(b)サンプルの精子細胞に富む画分を、サンプルの精子細胞が枯渇した画分から分離すること、(c)精子細胞に富む画分を陽イオン交換樹脂と接触させること、(e)陽イオン交換樹脂を洗浄緩衝液で洗浄すること、及び(f)陽イオン交換樹脂から精子関連DNAを溶出させることを含む方法を提供する。他の実施形態においては、本開示は、(a)精子細胞を含むサンプルを、上皮細胞を効率的に溶解できるが精子細胞を溶解しない消化剤と接触させること、(b)サンプルを陽イオン交換樹脂と接触させること、(c)陽イオン交換樹脂を洗浄緩衝液で洗浄すること、及び(d)陽イオン交換樹脂から精子関連DNAを溶出させることを含む方法を提供する。
【0006】
本発明はさらに、(a)上皮細胞を効率的に溶解できるが精子細胞を溶解しない消化剤、(b)陽イオン交換樹脂、(c)再懸濁緩衝液、(d)洗浄緩衝液、及び(e)消化剤及び還元剤を含む溶出緩衝液のうち2つ以上を含むキットを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】精液サンプルの収量データを示すグラフである。データは単一の実験から取得され、各ドットは1つのサンプル(条件ごとにn=2)を表し、バーは各条件の平均を表す。各サンプルの入力材料として、液体精液(1μl)を使用した。データはPromegaのPOWERQUANT(商標)システムを使用して定量化した。
図2】複数の陽イオン交換粒子が精液サンプルから精子関連DNAを精製できることを示すグラフである。データは単一の実験から取得され、各ドットはサンプル(条件ごとにn=2)を表し、バーは各条件の平均を表す。各サンプルの入力材料として液体精液(1μl)を使用し、指定された陽イオン交換樹脂5mgをMAXWELL(登録商標)カートリッジに追加した。データはPromegaのPOWERQUANT(商標)システムを使用して定量化した。
図3】精製されたDNAサンプルの収量データを示すグラフである。データは単一の実験から取得され、各ドットは1つのサンプル(条件ごとにn=2)を表し、バーは各条件の平均を表す。各サンプルの入力材料として、DNA(サンプルあたり50ngの2800M対照DNA、Promegaカタログ番号:DD7101)を使用し、入力対照条件は50ngの2800M DNAを溶出緩衝液の容量に希釈することによって作成した。
図4】樹脂質量の関数として精子関連DNAの収量を調べたデータを示すグラフである。データは単一の実験から取得され、各ドットは1つのサンプル(条件ごとにn=2)を表す。各サンプルの入力材料として液体精液(1μl)を使用し、示されているように異なる質量の樹脂をMAXWELL(登録商標)カートリッジに追加した。データはPromegaのPOWERQUANT(商標)システムを使用して定量化した。
図5】官能化樹脂と親樹脂を比較したデータを示すグラフである。データは単一の実験から取得され、各ドットは1つのサンプル(条件ごとにn=2)を表し、バーは各条件の平均を表す。各サンプルの入力材料として、液体精液(1μl)を使用した。データはPromegaのPOWERQUANT(商標)システムを使用して定量化した。
図6】対照入力からのデータを示すグラフである。データは単一の実験から取得され、各ドットは1つのサンプル(条件ごとにn=3)を表し、バーは各条件の平均を表す。入力材料は各条件ごとに記載されている。データはPromegaのPOWERQUANT(商標)システムを使用して定量化した。
図7】A~Dは、斑点のある頬粘膜綿棒からのデータを示している。データは単一の実験から取得され、各ドットは1つのサンプル(条件あたりn=4)を表し、バーとエラーバーはそれぞれ各条件の平均と標準偏差を表す。各サンプルの入力材料として、斑点のある頬粘膜綿棒を使用した。データはPromegaのPOWERQUANT(商標)システムを使用して定量化した。
図8】A~Dは、性交後の綿棒からのデータを示す。データは単一の実験から取得され、各ドットは1つのサンプル(条件あたりn=2)を表し、バーとエラーバーはそれぞれ各条件の平均と標準偏差を表す。性交後12時間で採取され、採取後18か月で処理された性交後膣綿棒を各サンプルの入力材料として使用した。データはPromegaのPOWERQUANT(商標)システムを使用して定量化した。
【発明を実施するための形態】
【0008】
定義
本技術の理解を促進するために、いくつかの用語及び語句が以下に定義される。追加の定義は、詳細な説明の全体にわたって記載されている。
【0009】
本明細書では、「核酸」、「ポリヌクレオチド」、「ヌクレオチド配列」、及び「オリゴヌクレオチド」という用語は互換的に使用され、ピリミジン及び/またはプリン塩基、好ましくはそれぞれ、シトシン、チミン、及びウラシル、ならびにアデニン及びグアニンのポリマーまたはオリゴマーを指す(Albert L. Lehninger, Principles of Biochemistry, at 793-800(Worth Pub. 1982)を参照されたい)。これらの用語は、任意のデオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、またはペプチド核酸の構成要素、及びこれらの塩基のメチル化、ヒドロキシメチル化、またはグリコシル化形態などのそれらの任意の化学的変異体を包含する。ポリマーまたはオリゴマーは、組成が不均一または均一であり得、天然に存在する供給源から単離され得るか、または人工的または合成的に生成され得る。さらに、核酸は、DNAもしくはRNA、またはそれらの混合物であり得、ホモ二本鎖、ヘテロ二本鎖、及びハイブリッド状態を含む一本鎖または二本鎖の形態で恒久的または遷移状態で存在し得る。いくつかの実施形態においては、核酸または核酸配列は、例えば、DNA/RNAヘリックス、ペプチド核酸(PNA)、モルホリノ核酸(例えば、Braasch and Corey,Biochemistry,41(14):4503-4510 (2002)、及び米国特許第5,034,506号を参照されたい)、ロックされた核酸(LNA;Wahlestedt et al.,Proc. Natl.Acad.Sci.U.S.A.,97:5633-5638(2000)を参照されたい)、シクロヘキセニル核酸(Wang,J.Am.Chem.Soc.,122:8595-8602(2000)を参照されたい)及び/またはリボザイムなどの他の種類の核酸構造を含む。「核酸」及び「核酸配列」という用語はまた、天然ヌクレオチドと同じ機能を示すことができる非天然ヌクレオチド、修飾ヌクレオチド、及び/または非ヌクレオチド成分(例えば、「ヌクレオチド類似体」)を含む鎖を包含し得る。
【0010】
本明細書で使用される「精子関連DNA」という用語は、精子細胞内に存在するか、または精子細胞に付着している任意のDNA配列を指す。
【0011】
「ペプチド」、「ポリペプチド」、及び「タンパク質」という用語は、本明細書では互換的に使用され、少なくとも2つ以上の隣接するアミノ酸を含むアミノ酸のポリマー形態を指し、これは、コードされた及びコードされていないアミノ酸、化学的、または生化学的に修飾された、または誘導体化アミノ酸、ならびに修飾されたペプチド骨格を有するポリペプチドを含み得る。
【0012】
「微分抽出」という用語は、異種の細胞集団から細胞タイプのサブセットを抽出するために利用される抽出方法を指す。特定の実施形態において、微分抽出には、精子細胞と非精子細胞の混合物(上皮細胞を含むがこれに限定されない)中の非精子細胞の選択的溶解が含まれる。微分抽出は、当該技術分野では「微分単離」とも呼ばれる。
【0013】
本明細書で使用される「生物学的サンプル」という用語は、少なくとも1つの生物学的材料を含む任意のサンプルを指す。生物学的材料の例には、血液、唾液、皮膚、糞便、尿、精子細胞、上皮細胞(膣上皮細胞を含むがこれに限定されない)、筋肉組織、骨などが含まれるが、これらに限定されない。
【0014】
本明細書で使用される「法医学サンプル」という用語は、殺人、強姦、外傷、暴行、傷害、窃盗、強盗、その他の刑事事件、身元、親子鑑定、混合DNAサンプルなどを含むがこれに限定されない、法的な状況で生じる身元問題に対処するために取得された生物学的サンプルを指す。
【0015】
本明細書で使用される「上皮細胞」という用語は、動物(例えば、哺乳動物)全体の臓器及び血管の外表面、ならびに多くの内臓の空洞の内面を覆う組織を形成する細胞を指す。
【0016】
本明細書で使用される「精子細胞」という用語は、雄の哺乳類(例えば、ヒト)などの雄動物の生殖細胞を指し、雌動物の卵細胞と結合して受精卵を形成し得る。
【0017】
「消化剤」及び「溶解剤」という用語は、本明細書では互換的に使用され、細胞を破壊し、破裂させる(溶解する)物質または化合物を指す。消化剤または溶解剤は緩衝液中に存在する場合があり、当該技術分野では通常「溶解緩衝液」と呼ばれる。消化剤または溶解剤の例には、洗剤(Tween-20、Triton X-100)、界面活性剤(例:ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)またはラウリル硫酸ナトリウム(SLS))、及びプロテアーゼ(例:プロテイナーゼK)が含まれるが、これらに限定されない。特定の例示的な溶解緩衝液は当該技術分野で既知であり、当業者は意図される使用に基づいて溶解緩衝液を選択することができる。いくつかの実施形態において、特定の消化剤の濃度が存在し、その濃度では消化剤は精子細胞ではなく非精子細胞(例えば、上皮細胞)を破壊して破裂させることができるが、より高い濃度では、消化剤は精子細胞も破壊して破裂させる。
【0018】
「溶解物」という用語は、溶解した細胞残屑とDNAを含有する液相を指す。「全細胞溶解物」には溶解した細胞の内容物をすべて含有する。「処理済み細胞溶解物」は、細胞溶解物から内容物の一部を除去するために処理(遠心分離、濾過など)されている。本明細書の特定の実施形態においては、全細胞溶解物または処理された細胞溶解物を利用する。本明細書において「細胞溶解物」に言及する実施形態は、特に明記しない限り、全細胞溶解物または処理済み細胞溶解物に使用し得る。
【0019】
本明細書で使用される「還元剤」という用語は、酸化還元化学反応において別の化学種に電子を供与することにより、例えばタンパク質中のジスルフィド結合を還元する薬剤を指す。特定の実施形態においては、還元剤は精子細胞内のプロタミンジスルフィド架橋及び精子頭部の構造を維持するジスルフィド結合を破壊する。ジスルフィド結合還元剤は、水不溶性または水溶性であり得る。例示的な還元剤としては、ジチオトレイトール(DTT)、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP)、グルタチオン(GSH)、1-チオグリセロール(1-TG)、及びメルカプトエタノール(ME)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0020】
「陽イオン交換クロマトグラフィー」という用語は、イオン交換クロマトグラフィー(IEX)の一種を指し、分子をその正味表面電荷に基づいて分離するために使用される。より具体的には、陽イオン交換クロマトグラフィーでは、正味の正に帯電した表面電荷を持つ分子に対する親和性を持つ、負に帯電したイオン交換樹脂を使用する。陽イオン交換クロマトグラフィーは、分取目的と分析目的の両方に使用でき、アミノ酸、ヌクレオチド、巨大タンパク質などの幅広い生体分子を分離し得る。
【0021】
「カートリッジ」という用語は、複数の区画を含み、別個の流体処理及び/または磁性粒子処理機器から独立して機能するのに十分な流体及び/または磁性粒子処理機構を含有しないシステムを指す。特定の実施形態においては、カートリッジは、1回の使用のみを目的として設計され得、その後は廃棄される。特定の実施形態において、カートリッジ内の1つ以上の区画に試薬を含有する。他の実施形態においては、カートリッジのすべての区画が単一のユニットに含有される。特定の実施形態においては、カートリッジの区画は、一緒に該カートリッジを形成する2つ以上のユニットに分割される。1つのカートリッジは、1、2、4、6、8、12、16、24、48、96、または96を超えるサンプルを処理するように設計され得る。さまざまな実施形態において、カートリッジは、1~48個のサンプル、1~24個のサンプル、2~24個のサンプル、1~16個のサンプル、または2~16個のサンプルを処理するように設計される。カートリッジが少なくとも2つのサンプルを処理するように設計されている場合、少なくとも2つのサンプルを同時に処理するように設計され得る。特定の実施形態において、カートリッジはすべてのサンプルを同時に処理するように設計される。
【0022】
詳細な説明
本明細書において、精子細胞を他の細胞型から単離し、複雑なサンプルから精子関連DNAを精製するための方法、試薬、及びキットが提供される。特に、精子細胞を陽イオン交換樹脂に結合させ、そこから精子関連DNAを抽出することにより、部分的に(例えば、鞭毛は除去され得るが、精子頭部は無傷である)または完全に無傷の精子細胞を上皮細胞から分離するための方法、試薬、及びキットが提供される。
【0023】
本明細書に記載の実施形態の開発中に実施された実験は、精子細胞と陽イオン交換樹脂(例えば、常磁性陽イオン交換樹脂)との間の直接結合相互作用を実証している。ここで説明する方法、試薬、及びキットは、この相互作用を利用して、精子細胞をサンプルの汚染物質及び上皮細胞から分離し、精子関連DNAをサンプルから精製する。いくつかの実施形態においては、精子細胞及びそれに関連するDNAを常磁性陽イオン交換樹脂に結合するプロセスが本明細書に提供され、この結合相互作用により、精子細胞を取り扱い、精子関連DNAを単離し、それらを上皮細胞や汚染DNAなどの他の汚染物質から分離するための合理化されかつ自動化された方法が提供される。
【0024】
本明細書に記載の方法、及びそのような方法を実行するためのキット、試薬、及びデバイスは、精子細胞がサンプル(例えば、精子以外の細胞(例えば、上皮細胞)を含有する、他の汚染物質(例えば、サンプル収集デバイス(例えば、綿棒の先端)、緩衝液、生物学的流体成分、環境破片など)を含有する)から部分的または完全に無傷で分離され、その後、単離された精子細胞から精子関連DNAが抽出/精製される点で、いくつかの既存の方法とは異なる。一般的な微分抽出技術においては、非精子細胞(上皮細胞など)と精子細胞の差別化溶解を利用して、各細胞タイプからDNAを単離する。これらの方法は、精子細胞の非精子細胞溶解物からの面倒な物理的分離(例えば、遠心分離ステップを繰り返す)に依存しており、非精子(例えば上皮細胞)DNAの混入のない精子関連DNAを単離することができる。本明細書で提供される方法及び試薬は、精子細胞を常磁性粒子に結合させることによってこのプロセスを簡素化し、精子細胞の濃縮及び精子関連DNAの精製のプロセスを自動化することを可能にする。本開示は、(a)精子細胞を含むサンプルを、上皮細胞を効率的に溶解できるが精子細胞を溶解しない消化剤と接触させること、(b)サンプルの精子細胞を濃縮した画分を、サンプルの精子細胞が枯渇した画分から分離すること、(c)精子細胞を濃縮した画分を陽イオン交換樹脂と接触させること、(e)陽イオン交換樹脂を洗浄緩衝液で洗浄すること、及び(f)陽イオン交換樹脂から精子関連DNAを溶出させることを含む方法を提供する。サンプルは、本明細書に記載の任意の適切な生物学的サンプルであり得る。いくつかの実施形態において、サンプルは、サンプルの供給源に応じて、異なる細胞タイプの混合物を含む可能性がある法医学サンプルである。例えば、サンプルは上皮細胞と精子細胞の混合物を含み得る。
【0025】
精子細胞を含むサンプルは、上皮細胞を効率的に溶解できるが精子細胞を溶解しない任意の適切な消化剤と接触(例えば、混合)することができる。いくつかの実施形態において、サンプルは、上皮細胞を効率的に溶解できるが精子細胞を溶解しない適切な濃度の消化剤と接触される。いくつかの実施形態においては、より高い濃度では、同じ消化剤がまた精子細胞を溶解することができる。精子細胞は、精子細胞上のジスルフィド結合の高い個体数のために、従来の消化剤や溶解緩衝液から保護されていることが理解されるであろう。当該技術分野で既知であり、本明細書に記載されている任意の適切な消化剤を使用することができる。いくつかの実施形態において、消化剤はプロテアーゼ、例えばプロテイナーゼKを含む。他の実施形態においては、消化剤は界面活性剤を含む。理想的には、消化剤はプロテアーゼと界面活性剤の両方を含む。例えば、消化剤はプロテイナーゼK及びドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を含み得る。どのような消化剤が使用される場合でも、消化剤は、サンプル中に存在する上皮細胞の少なくとも95%(例えば、96%、97%、98%、99%、または100%)を望ましくは溶解する。同様に、消化剤は、サンプル中に存在する精子細胞の25%未満(例えば、20%、15%、10%、5%、または0%)を望ましくは溶解する。いくつかの実施形態において、消化剤は、開始濃度または最終濃度が0.01%~1.0%(例えば、0.01%、0.02%、0.05%、0.1%、0.2%、0.5%、1.0%、またはそれらの間の範囲)の界面活性剤(例えば、SDS)を含む。いくつかの実施形態において、消化剤は、開始濃度または最終濃度が1μg/ml~100μg/ml(例えば、1μg/ml、2μg/ml、5μg/ml、10μg/ml、50μg/ml、100μg/ml、またはそれらの間の範囲)のプロテアーゼ(例えば、プロテイナーゼK)を含む。
【0026】
SDSは陰イオン性であるため、過剰な量のSDSは結合反応中に精子細胞と陽イオン交換樹脂との会合を阻害する可能性がある。したがって、いくつかの実施形態においては、開示された方法は、陽イオン交換樹脂に結合するために、緩衝液(例えば、0.5%Tween20などのTween含有緩衝液)でSDSを希釈することを含み得る。例えば、精子細胞と陽イオン交換樹脂の会合を回復するには、10倍希釈で十分であることが示された。ただし、任意のSDSの適切な希釈が使用できる。
【0027】
いくつかの実施形態においては、消化剤はさらにブロッキング剤を含む。本明細書で使用される用語「ブロッキング剤」は、非精子DNA(例えば、上皮細胞DNA)の陽イオン交換樹脂への非特異的結合を減少させる化合物を指す。より具体的には、いくつかの実施形態においては、ブロッキング剤は、ヒトゲノムDNAの特性を模倣し、陽イオン交換樹脂上の潜在的な結合部位をめぐって非精子DNAと競合し、非精子DNAが精子細胞が濃縮された画分に持ち越される可能性がある化合物である。消化剤には、例えばニシン精子DNA、ポリデオキシイノシンデオキシシチジル酸(ポリd(IC))、またはウシ血清アルブミン(BSA)などの任意の適切なブロッキング剤を含めることができる。
【0028】
他の実施形態においては、他の添加剤または化合物を使用して、精子DNAと陽イオン交換樹脂との結合を著しく破壊することなく、精子DNA以外の結合相互作用を選択的に破壊することができる。このような添加剤には、限定はされないが、ポリエチレンイミン(PEI)やスペルミンなど、DNAと選択的かつ緊密に相互作用する分子が含まれ得る。
【0029】
いくつかの実施形態においては、サンプル中に存在する上皮細胞(精子細胞ではない)の十分な消化が行われると、消化剤の除去または不活性化によって精子関連DNAの最適な回収がもたらされる。この点に関して、消化剤は、能動的または受動的に(例えば、消化剤を不活性化させることによって)精子細胞から除去されるか、または不活性化され得る。消化剤がプロテイナーゼKを含む場合、不活性化は、プロテイナーゼKが自己不活性化(すなわち、自己タンパク質分解)するのに十分な時間を与えることを望ましくは含む。理想的には、プロテイナーゼKの自己タンパク質分解は、プロテイナーゼKの少なくとも95%(例えば、96%、97%、98%、99%、または100%)の不活性化までの進行を許容する。いくつかの実施形態においては、プロテイナーゼKの自己タンパク質分解消化は、反応混合物中のカルシウムの枯渇によって加速される。消化剤を不活性化する他の方法としては、例えば、熱処理(例えば、70℃を超える温度でのインキュベーション)、pHの変更、化学阻害剤の使用などがある。
【0030】
特定の実施形態では、消化されたサンプルを遠心分離して、最初のサンプル(例えば、綿棒)に存在する任意の固体基質を除去し、部分的にまたは完全に無傷の精子細胞をペレット化することができる。得られた上澄みは精子細胞が枯渇した画分として保持され得る。言い換えれば、この方法は、サンプルの精子細胞が濃縮された画分(すなわち、遠心分離ペレット)をサンプルの精子細胞が枯渇した画分(すなわち、上澄み)から分離することを含み得る。精子細胞が枯渇した画分にはサンプル中に存在する上皮細胞(例えば、溶解した上皮細胞)が含有されており、精子細胞が枯渇した画分はその後の分析のために保持することも、廃棄することもできることが理解されるであろう。精子細胞が枯渇した画分を含有する上澄みを完全に除去すると、精子細胞が濃縮された画分の純度が最適になることは理解されるであろう。しかし、いくつかの実施形態においては、いくらかの上澄み(例えば、最大約50μl)がペレットとともに残る可能性がある。
【0031】
いくつかの実施形態においては、精子が枯渇した(sperm-depleted)DNAは精子細胞が枯渇した画分から取得され、分析され得る。例えば、精子が枯渇したDNAを定量化したり、遺伝子型を判定したりすることができる。DNAを定量化する方法は当該技術分野で既知であり、例えば、分光光度法、蛍光法、リアルタイムPCR(定量PCR(qPCR)とも呼ばれる)、及びデジタルPCR技術などが含まれる。精子が枯渇したDNAの遺伝子型判定は、当該技術分野で知られている任意の適切な方法を使用して行うことができる。このような方法には、例えば、短縦列反復(STR)分析、ゲノムDNAの制限断片長多型(RFLP)、ゲノムDNAのランダム増幅多型検出(RAPD)、増幅断片長多型(AFLP)検出、単一ヌクレオチド多型(SNP)検出、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、DNA配列決定、対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチド(ASO)プローブ、及びDNAマイクロアレイまたはビーズへのハイブリダイゼーションが含まれる。
【0032】
特定の実施形態においては、精子が枯渇したDNAは、短縦列反復(STR)分析を使用して遺伝子型判定される。STRは、ヒトゲノム全体に散在する長さ3~7塩基対(bp)の反復配列要素である。これらの多型遺伝子座を増幅して分析し、得られたSTRプロファイルを参照サンプルのプロファイルと比較することで、細胞や組織などの生物学的サンプルの起源を識別し、検証することができる。STR分析は、核DNAにある特定のSTR領域を評価するために法科学で使用される。さまざまな実施形態においては、3bp(トリヌクレオチド)、4bp(テトラヌクレオチド)、及び/または5bpの繰り返し配列を含む遺伝子座がヒトの識別に使用される。4bp及び5bpの繰り返し配列はヒトゲノム全体に見られ、場合によっては高度に多型性である。テトラヌクレオチド反復STR遺伝子座における対立遺伝子の数は、さまざまな実施形態において、約4~約50の範囲である。
【0033】
特定の実施形態においては、単離されたDNAを多型STRの検出に使用する場合、個々のDNAサンプルから増幅された対立遺伝子を1つ以上のサイズ標準、例えば市販のDNAマーカー及び/または遺伝子座特異的対立遺伝子ラダーと比較して、各遺伝子座に存在する対立遺伝子を決定することができる。特定の実施形態においては、対立遺伝子ラダーは、特定の遺伝子座からの2つ以上の既知の対立遺伝子を表す2つ以上の異なる長さのDNAを含む。DNAは、銀染色、放射性標識、蛍光標識、及びさまざまな染料や染色剤の使用を含むがこれらに限定されない、当該技術分野で知られている任意の適切な技術によって視覚化し得る。特定の実施形態においては、可視化の前に、変性ゲル電気泳動またはネイティブゲル電気泳動、あるいはその他のサイズ分離方法を使用してDNAが分離される。特定の実施形態においては、増幅された対立遺伝子はDNA配列分析に付される。DNA増幅、遺伝子型判定、及び分析の例示的な方法は、当該技術分野で既知であり、例えば、Butler, John M., Advanced Topics in Forensic DNA Typing: Methodology, Elsevier Inc.:MA, USA(2011)に記載されている。
【0034】
開示された方法は、遠心分離後に残ったペレット(精子細胞が濃縮された画分を含有する)を、任意の残留上澄み(精子細胞が枯渇した画分を含有する)とともに、結合緩衝液(例えば、トリス-HCl(100mM、pH7.3)及びTween20(0.5%)またはSDS(0.1%))中に再懸濁することをさらに含み得る。結合緩衝液は、上述のように、ブロッキング剤をさらに含んでもよい。
【0035】
精子細胞が濃縮された画分は、任意の適切な陽イオン交換樹脂と接触させることができ、陽イオン交換樹脂に高い親和性で結合する長所により、精子細胞をサンプルから単離することができる。開示された方法及びキットで使用できるさまざまな陽イオン交換樹脂及びマトリックスは、当該技術分野で既知であり、市販されている(例えば、Ion Exchange Chromatography, Principles and Methods,GE Healthcare Handbook 11000421;及びWeiss, J.(ed.),Handbook of Ion Chromatography,4th ed, Wiley-VCH(2016)を参照)。いくつかの実施形態においては、陽イオン交換樹脂は、鉄コアまたは酸化鉄コアを含有する粒子を含む。特定の実施形態においては、陽イオン交換樹脂は常磁性セルロース樹脂を含む。特定の実施形態においては、陽イオン交換樹脂は、シリカ及び/またはポリマーベースの常磁性樹脂を含む。本明細書で使用される「常磁性」という用語は、磁場内に置かれたときに磁場の強度に正比例して磁化を有する物体または物質を指す。
【0036】
本明細書に記載の常磁性陽イオン交換樹脂は、MAXWELL(登録商標)RSC48装置及びMAXWELL(登録商標)16装置(Promega,Madison,WI)で使用できる。MAXWELL(登録商標)RSC48装置は、最大48個のサンプルを同時に処理するコンパクトな自動核酸精製プラットフォームである。MAXWELL(登録商標)16装置は、常磁性粒子(PMP)を使用してサンプルを精製し、対象材料の捕捉、洗浄、及び溶出を最適化する可動固相を提供する。MAXWELL(登録商標)16装置は、液体及び固体サンプルを効率的に前処理し、充填済みカートリッジ内の精製試薬を介してPMPを輸送し、処理中に混合する磁性粒子ハンドラーである(MAXWELL(登録商標)16(TM295)、MAXWELL(登録商標)16Forensic(TM321)、MAXWELL(登録商標)FSC(TM462)、及びMAXWELL(登録商標)RSC48(TM510)装置の技術マニュアルを参照されたい)。
【0037】
陽イオン交換樹脂及び精子細胞を含有するサンプルは、精子細胞が樹脂に効率的に結合するように十分な時間望ましくはインキュベートされる。例えば、精子細胞を含有するサンプルと陽イオン交換樹脂は、少なくとも約5分間、約10分間、約15分間、約20分間、約30分間、約45分間、約50分間、約1時間、約90分間、または約2時間一緒にインキュベートされてもよい。適切なインキュベーション時間の後、陽イオン交換樹脂を洗浄緩衝液で洗浄する。本明細書で使用される「洗浄緩衝液」という用語は、精子細胞が陽イオン交換樹脂に結合したまま、陽イオン交換樹脂から汚染物質を除去する緩衝液を指す。洗浄緩衝液の例としては、洗剤(例:SDS、Tween20)、pH緩衝液(例:リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、トリス-HCl、pH7.3など)、塩(例:NaCl、KCl、MgCl2など)、及び/またはその他の一般的な緩衝液成分が含まれる。当業者であれば、サンプルの種類や反応条件に応じて適切な洗浄緩衝液を選択することができる。
【0038】
特定の実施形態においては、精子関連DNAは、溶出緩衝液を使用して陽イオン交換樹脂から溶出され得る。本明細書で使用される「溶出緩衝液」という用語は、特に精子結合粒子に結合した精子細胞を溶解することによって、精子関連DNAを放出する緩衝液を指す。特定の例示的な溶出緩衝液には、洗剤(本明細書に記載)、消化剤(本明細書に記載)、及び/または還元剤(本明細書に記載)が含まれ得る。特定の実施形態においては、溶出緩衝液は洗剤、消化剤、及び還元剤を含む。例えば、洗剤はSDS及び/またはTween20を含み得、消化剤はプロテイナーゼKを含み得、還元剤はDTT、TCEP、βME、及び/または1-TGを含み得る。当業者であれば、サンプルの種類及び使用される陽イオン交換樹脂に応じて適切な溶出緩衝液を選択することができる。特定の実施形態においては、精子関連DNAは、陽イオン交換樹脂を溶出緩衝液中で加熱することによって陽イオン交換樹脂から溶出され得る。例えば、陽イオン交換樹脂は、温度を少なくとも65℃まで上昇させることによって加熱されてもよい。
【0039】
いくつかの実施形態においては、細胞溶解及び/または溶出ステップで還元剤を添加し得る。開示された方法に使用できる例示的な還元剤は、当該技術分野で既知である。このような還元剤としては、ジチオトレイトール(DTT)、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、2-メルカプトエタノール(βME)、及び/または1-チオグリセロール(1-TG)が挙げられるが、これらに限定されない。還元剤が1-TGである場合、精子細胞に添加される1-TGの濃度は、約1mMから約25mM(例えば、1mM、2mM、3mM、4mM、5mM、6mM、7mM、8mM、9mM、10mM、11mM、12mM、13mM、14mM、15mM、16mM、17mM、18mM、19mM、20mM、21mM、22mM、23mM、24mM、25mM、またはそれらの間の範囲)である。他の還元剤を使用する場合、上記及び本明細書で使用した1-TG濃度と同様のジスルフィド結合の還元をもたらすのに十分な濃度を使用し得る。
【0040】
その後、陽イオン交換樹脂から溶出された精子関連DNAを分析することができる。例えば、精子関連DNAは、精子細胞が枯渇した画分の分析に関して本明細書で前述した方法と同様の方法を使用して定量化または遺伝子型判定することができる。特定の実施形態においては、溶出された精子関連DNAはSTR分析を使用して遺伝子型判定される。
【0041】
本開示は、さらに、本明細書に記載された方法ステップのいずれかを実行し、サンプルの精子関連DNAを参照サンプル及び/またはデータベースと比較することを含む法医学分析の方法を提供する。「法医学分析」という用語は、一般的に犯罪やセキュリティ・インシデントの調査を指すために使用される。容疑者または被害者から採取したDNAサンプルの分析は、この分野では「DNAプロファイリング」と呼ばれることが多く、犯罪またはセキュリティ・インシデントの性質に応じて、法医学分析の主要な要素となる。本明細書で使用される「参照サンプル」という用語は、精子関連DNAと比較される個人のDNAサンプル(例:犯罪容疑者または被害者)を指す。参照サンプルは通常、頬綿棒で採取される。参照サンプルは、例えば本明細書に記載の遺伝子型判定方法によって分析され、個人のDNAプロファイルが作成される。次に、DNAプロファイルを、本明細書に開示された方法に従って単離された精子関連DNAと比較し、遺伝的一致があるかどうかを判定する。言い換えれば、該方法は、特定の対象がサンプル内の精子細胞の供給源であるかどうかを判定することを含む。いくつかの実施形態においては、精子関連DNAをデータベースまたはその他のリポジトリ内のDNA配列と比較することができる。例示的なデータベースには、米国連邦捜査局(FBI)が管理するCombined DNA Index System(CODIS)や英国National DNA Database(NDNAD)が含まれるが、これらに限定されない。
【0042】
特定の実施形態においては、本明細書に記載された方法ステップの1つ以上が自動化されてもよい。自動化されたサンプル調製は、化学物質への曝露のリスクやピペッティングなどの反復動作の必要性を減らしながら、ユーザーがより詳細な作業に集中できるようにするなど、実験室に大きなメリットをもたらすことが理解されるであろう。この点に関して、本明細書に記載のステップの1つ以上は、自動液体ハンドラーによって実行され得る。自動液体ハンドラーを使用すると、実験室では人員の増加を最小限に抑えながら、増加するサンプル処理需要の取扱いを可能にする。自動液体ハンドラーは、Promega Corp.(Madison, WI)から入手可能なMAXWELL(登録商標)抽出と組み合わせたMAXPREP(商標)液体ハンドラーを含むが、これに限定されないさまざまな供給元から市販されている。
これに加えて、またはこれに代えて、本明細書に記載のステップの1つ以上は、液体の代わりに粒子(例えば、常磁性粒子)を移動する自動粒子ハンドラーによって実行され得る。自動粒子ハンドラーでは、サンプル処理中に液体の取り扱いや飛散が発生しないため、相互汚染のリスクが最小限に抑えられる。
【0043】
本明細書に記載される方法の一般的例示的実施形態は、(1)前処理ステップ及び(2)精製ステップを含む。例示的な前処理ステップは、洗剤(例えば、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、プロテイナーゼK(ProK)、及び緩衝液(例えば、トリスHCl)を含む消化緩衝液中でサンプル及び/または基質を消化することから始まる。サンプルは、高温(例:50~90℃)で消化緩衝液中でインキュベートされる。消化ステップでは、精子細胞を部分的にそのまま残しながら上皮細胞を溶解する(例えば、鞭毛は除去され得るが、精子の頭部は無傷である)。精子細胞は、ジスルフィド結合の数が多いため溶解から保護されている。最初の消化後、サンプルは、液体は通過させるが固体の支持体/基質(綿棒など)を保持するように構成されたデバイスに移される。デバイスの遠心分離により、固体支持体/基質(綿棒など)が上部チャンバーに保持され、サンプルと緩衝液が収集チューブに流れ込み、精子細胞が収集チューブの底にペレット化される。遠心分離ステップにより、(1)固体サンプル基質(存在する場合は綿棒など)の除去と、(2)精子細胞の遠心管の底へのペレット化が容易になる。遠心分離ステップの後、上澄みの全部または一部が除去され、上澄みにはサンプル中に存在する可能性のあるいずれかの上皮細胞からのDNAが含まれているため、保存した後に非精子画分として分析することができる。ペレット画分は、残留上澄み画分とともに、結合緩衝液及び必要に応じて界面活性剤(例:Tween20)中に再懸濁される場合がある。例示的な精製ステップは、再懸濁したペレット画分を常磁性陽イオン交換樹脂と組み合わせることから始まる。再懸濁したペレット画分を常磁性陽イオン交換樹脂と混合すると、精子細胞と陽イオン交換樹脂が結合される。結合した精子細胞を洗浄緩衝液(例:トリス-HCl、pH7.3、Tween20)で洗浄(例:複数回洗浄)し、その後、精子細胞を加熱(例:60~70℃)して長時間(例:10~60分)溶解し、溶出緩衝液(例:トリス-HCl(pH8)、1-TG、SDS、及びProK)に混合して精子関連DNAを放出する。樹脂から溶出すると、溶出緩衝液には精製された精子画分が含有される。
【0044】
本明細書に記載された方法の特定の例示的な実施形態は、0.1%SDS、1mg/mlProK、及び50mM トリスHCl(pH8.0)を含有する消化緩衝液でサンプル及び/または基質を消化することから始まる。400μlは標準的な綿棒で使用する典型的な量であるが、サンプル及び/または基質を完全に浸漬するために、必要に応じてこれより多い量または少ない量を使用することもできる。サンプルは消化緩衝液中で70℃で50分間インキュベートされる。消化ステップでは、精子細胞を部分的にそのまま残しながら上皮細胞を溶解する(例えば、鞭毛は除去され得るが、精子の頭部は無傷である)。精子細胞は、ジスルフィド結合の数が多いため溶解から保護されている。最初の消化後、サンプルはClickFitチューブ(Promega;Madison,WI)内部に設置されたSpin Basket(Promega;Madison,WI)に移される。Spin Basket/ClickFitシステムを最大速度(製品仕様による)で5分間遠心分離すると、固体支持体/基質(綿棒など)が上部チャンバーに保持され、サンプルと緩衝液が収集チューブに流れ込み、精子細胞が収集チューブの底にペレット化される。遠心分離ステップにより、(1)固体サンプル基質(存在する場合は綿棒など)の除去と、(2)精子細胞の遠心管の底へのペレット化が容易になる。遠心分離ステップの後、上澄みをピペッティングで除去し、精子細胞ペレットをチューブ内に保持する。ペレットと共に最大50μlの液体がチューブ内に残る場合がある。上澄みには精子以外の部分が含まれており、上皮画分で分析することができる(つまり、サンプル中に存在する可能性のある任意の上皮細胞のDNAが含有されているため)。ペレット画分は、任意の残留上澄み画分とともに、900μLの結合緩衝液(100mMトリスHCl(pH7.3)及び0.5%Tween20)に再懸濁される。再懸濁したペレットをMaxwell(登録商標)カートリッジのウェル1に移す。Maxwell(登録商標)カートリッジの他のウェルには、次のものが含まれている:ウェル2-常磁性陽イオン交換樹脂(全量300μL中5mg(10%EtOH))、ウェル3-洗浄緩衝液500μL(100mMトリス-HCl(pH7.3)及び0.5%Tween20)、ウェル4-塩洗浄緩衝液500μL(100mMトリス-HCl(pH7.3)、0.5%Tween20、及び250mM NaCl)、ウェル5~7(各々)-洗浄緩衝液500μL(100mMトリス-HCl(pH7.3)及び0.5%Tween20)、及びウェル8-溶出プランジャー。ウェル2の常磁性陽イオン交換樹脂をウェル3の洗浄緩衝液に移し、すばやくすすぐ。次に、常磁性陽イオン交換樹脂をウェル3から収集し、ウェル1に移して、再懸濁した精子細胞ペレットと混合する。再懸濁したペレット画分を常磁性陽イオン交換樹脂と混合して、精子細胞と陽イオン交換樹脂を結合させる。定期的に混合しながら15分間結合させる。結合した精子細胞をウェル4に移し、塩洗浄緩衝液中で約140秒間一定速度で混合しながら洗浄する。その後、樹脂を洗浄緩衝液中のウェル5~7に移し、洗浄する(1回の洗浄につき約140秒)。次に、樹脂をウェル8に移し、精子画分を樹脂から溶出緩衝液(50mMトリス-HCl(pH8)、100μg/mlプロテイナーゼK、5.75mM 1-TG、0.1%SDS、総量200μl以下)に65℃で30分間溶出させる。樹脂から溶出すると、溶出緩衝液には精製された精子画分が含有される。
【0045】
上記のプロトコルは例示であり、本明細書の実施形態の全範囲を制限するものではない。本明細書に記載されているように、代替の試薬、緩衝液、濃度、装置、手順、及びステップ数などが考慮される。
【0046】
上記の例示的なステップによって生成される最終溶出液には、精子関連DNAが含有されており、定量化学(例:POWERQUANT(登録商標)システム(Promega Corp.))及びSTR遺伝子型判定化学(例:POWERPLEX(登録商標)16HSシステム(Promega Corp.)、POWERPLEX(登録商標)ESI/ESXシステム(Promega Corp.)、POWERPLEX(登録商標)FUSIONシステム、POWERPLEX(登録商標)FUSION 6Cシステム(Promega Corp.)、IDENTIFILER(登録商標)システム(ThermoFisher Scientific)、GLOBALFILER(商標)6-DYE(商標)システム(ThermoFisher Scientific)、及びINVESTIGATOR(登録商標)24Plexシステム(Qiagen))と互換性がある。精子関連DNAを単離/精製する他の実施形態が考慮され、本開示の範囲内である。
【0047】
本開示はさらに、(a)上皮細胞を効率的に溶解できるが精子細胞を溶解しない消化剤、(b)陽イオン交換樹脂、(c)結合緩衝液、(d)洗浄緩衝液、及び(e)洗剤、消化剤及び還元剤を含む溶出緩衝液のうち2つ以上を含むキットを提供する。上で説明した消化剤、陽イオン交換樹脂、洗浄緩衝液、溶出緩衝液、及びそれらの成分の説明は、前述のキットの同じ態様にも適用される。結合緩衝液は、ペレット化した細胞及び/またはDNAを流体中に戻して懸濁(再懸濁)させ、サンプルを陽イオン交換樹脂に結合させるのに適した任意の緩衝液であり得る。適切な結合緩衝液は、当該技術分野で既知である。例示的な結合緩衝液は、トリス-HCl(100mM、pH7.3)及びTween20(0.5%)緩衝液を含む。
【0048】
キットには使用説明書も望ましくは含まれる。キットに含まれる説明書は、梱包材に貼り付けられるか、またはパッケージの添付文書として同梱され得る。指示書は書面または印刷物で提供され得るが、これに限定されるものではない。このような指示書を保存し、それをエンドユーザーに伝達することができるあらゆる媒体が本開示で考慮される。このようなメディアには、電子記憶メディア(磁気ディスク、テープ、カートリッジ、チップなど)、光学メディア(CD ROMなど)などが含まれるが、これらに限定されない。本明細書で使用される「指示書」という用語には、指示を提供するインターネットサイトのアドレスが含まれ得る。
【0049】
キットには、陽イオン交換樹脂、洗浄緩衝液、及び上記に開示された方法を実施するのに有用な1つ以上の試薬を含むカートリッジが含まれ得る。カートリッジは使い捨ての場合がある。カートリッジには、試薬を保持する1つ以上の容器が含まれ、試薬は1つ以上の別個の組成物として、または、試薬の適合性が許す場合は、オプションで混合物として含まれ得る。カートリッジには、緩衝液、希釈剤、及び/またはサンプル処理、洗浄、または方法のその他のステップの実行に有用なその他の材料など、ユーザーの観点から望ましい可能性のあるその他の材料も含み得る。
【0050】
キットのさまざまな構成要素は、必要に応じて適切な容器に提供されてもよい。
【0051】
以下の実施例は、本発明をさらに説明するが、当然に、その範囲を限定するものと決して解されるべきではない。
【0052】
実施例
初期のパイロット検討では、さまざまなスルホン化樹脂とカルボキシル化樹脂を調べ、それらが精子細胞を選択的に結合するために使用できるかどうかを判定した。図1に示すように、多くの樹脂はある程度精子細胞に結合するようであった。実験では、いくつかの代替陽イオン交換粒子が精液サンプルから精子関連DNAを精製する能力があることが実証された(図2)。この精子結合にはある程度の特異性があるようで、ほとんどの樹脂は1つの例外を除いてDNAへの直接結合活性がほとんどなかった(図3を参照)。
【0053】
Grace SP2550粒子は、その低い非特異的DNA結合と、かなり高い精子親和性に基づいて、さらなる実験のために選択された。精子細胞が該樹脂と特異的に相互作用していることを確認するために、Maxwell(登録商標)カートリッジで使用される樹脂の質量と精子画分中の精子関連DNAの収量([Y])との関係を調査した(図4を参照)。明らかな用量依存的な関係が見られ、これは該樹脂が精子結合機構の不可欠な部分であり、おそらく精子細胞を該樹脂に直接捕捉することによるものであることを示唆している。次に、官能化されたGrace SP2550粒子を、官能化されていない親粒子(もまたGrace製)と比較し、陽イオン交換を担う化学基(例:COOH基)が精子細胞の捕捉に必要かどうかを判定した。親樹脂はある程度精子細胞を捕捉したが、粒子の表面にCOOH基を追加することで捕捉の程度が大幅に向上した(図5を参照)。
【0054】
結合反応の特異性を調べるために、精管切除精液と頬粘膜綿棒(精液を含まない)の両方をプロトタイプのプロトコルの入力材料として使用した。潜在的な汚染を検出するために、試薬ブランクも並行して実行された。これらの実験では、ペレット画分と共にチューブ内部に上皮上澄み約50μlが残されたが、これは、最も高いキャリーオーバーが発生する可能性が最も高い、条件を表しているはずである。液体精液サンプルからは大量のDNAが精製されたが(精子画分の[Auto]で示されている)、試薬ブランクや精管切除精液サンプルからはDNAは検出されず、頬粘膜綿棒サンプルからの精子画分にはごくわずかなDNA(約40pg/μl)が持ち込まれた。
【0055】
次に、このプロトタイプのプロトコルは、0.1μlの精液を付けて自然乾燥させた頬粘膜綿棒でテストされたが、これらの模擬サンプルは、性的暴行のケースワークサンプルに近づけることを目的としている。これらの模擬サンプルを使用して、プロトタイプの微分抽出法は、ペア遠心分離法の対照と同様に精子関連DNAを精製することができ、精子画分の[Y]で示される収量は対照値の約80%であったが、一方で、精子画分の[Auto]/[Y]比で示される純度はプロトタイプ法の方が良かった。注目すべきことに、プロトタイプ法では、6μgを超える女性DNAを含む模擬サンプルから約40ngのほぼ純粋な男性DNAが抽出された(図7A図7Dを参照)。さらに、ブロッキング剤(ニシン精子DNA、Promegaカタログ番号:D1816、消化緩衝液中0.1mg/ml)を加えることで、収量を犠牲にすることなく精子画分の純度がさらに高くなった。
【0056】
このプロトタイプのプロトコルは、性交後の綿棒から精子関連DNAを分離するために評価された。図8A~8Dに示すように、プロトタイプの微分抽出法は、精子関連DNAを精子画分に効率的かつ効果的に分離した。
【0057】
参照文献
以下の参考文献は、その全体が本明細書に組み込まれる。
【0058】
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Yoshida et al., “The modified method of two-step differential extraction of sperm and vaginal epithelial cell DNA from vaginal fluid mixed with semen,” Forensic Science International, 72:25-33(1995);
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Garvin et al., “DNA Preparation from Sexual Assault Cases by Selective Degradation of Contaminating DNA from the Victim,”Journal of Forensic Sciences, 54:1298-1303 (2009);
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【国際調査報告】