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特表2024-544544抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質及びその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-03
(54)【発明の名称】抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 19/00 20060101AFI20241126BHJP
   C07K 14/705 20060101ALI20241126BHJP
   C07K 16/24 20060101ALI20241126BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20241126BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20241126BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20241126BHJP
   C12N 15/24 20060101ALI20241126BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20241126BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20241126BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20241126BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20241126BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20241126BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20241126BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20241126BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20241126BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20241126BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
C07K19/00 ZNA
C07K14/705
C07K16/24
C12N15/62
C12N15/63 Z
C12N15/13
C12N15/24
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N15/09 Z
A61K39/395 N
A61P29/00
A61P17/00
A61P27/02
A61P17/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024527702
(86)(22)【出願日】2022-11-10
(85)【翻訳文提出日】2024-07-09
(86)【国際出願番号】 CN2022131063
(87)【国際公開番号】W WO2023083243
(87)【国際公開日】2023-05-19
(31)【優先権主張番号】202111335581.0
(32)【優先日】2021-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】510277073
【氏名又は名称】三生国健薬業(上海)股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】SUNSHINE GUOJIAN PHARMACEUT ICAL(SHANGHAI)CO.,LTD
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100196117
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 利恵
(72)【発明者】
【氏名】トウ▲嵐▼
(72)【発明者】
【氏名】黄浩旻
(72)【発明者】
【氏名】朱▲禎▼平
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼利芬
(72)【発明者】
【氏名】王立花
(72)【発明者】
【氏名】孟▲運▼
【テーマコード(参考)】
4B065
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA43
4B065CA44
4C085AA14
4C085BB11
4C085BB31
4C085DD62
4C085EE01
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA09
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA02
4H045DA50
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
本発明は、融合タンパク質の技術分野に関し、特に、抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質及びその使用に関する。抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質は、抗IL-17抗体と、VEGFに特異的に結合するタンパク質とを含む。VEGFに特異的に結合するタンパク質はVEGFRである。VEGFに特異的に結合するタンパク質は、直接的又はコネクソンを介して抗IL-17抗体に連結される。抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質は、IL-17及びVEGFのシグナル経路を同時に阻害可能である。抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質は、IL-17及び/又はVEGFを過剰発現する疾病の治療薬物の製造に使用可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗IL-17抗体と、VEGFに特異的に結合するタンパク質とを含み、前記VEGFに特異的に結合するタンパク質はVEGFRであり、前記VEGFに特異的に結合するタンパク質は、直接的又はコネクソンを介して前記抗IL-17抗体に連結されることを特徴とする抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質。
【請求項2】
前記VEGFに特異的に結合するタンパク質はVEGFRの細胞外領域であり、好ましくは、前記VEGFに特異的に結合するタンパク質はVEGFR1の細胞外領域であることを特徴とする請求項1に記載の抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質。
【請求項3】
前記VEGFに特異的に結合するタンパク質はVEGFR1のD2ドメインであることを特徴とする請求項2に記載の抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質。
【請求項4】
前記抗IL-17抗体の重鎖は相補性決定領域HCDR1~3を含み、HCDR1のアミノ酸配列はSEQ ID NO:14に示す通りであり、HCDR2のアミノ酸配列はSEQ
ID NO:15に示す通りであり、HCDR3のアミノ酸配列はSEQ ID NO:16に示す通りであり、前記抗IL-17抗体の軽鎖は相補性決定領域LCDR1~3を含み、LCDR1のアミノ酸配列はSEQ
ID NO:17に示す通りであり、LCDR2のアミノ酸配列はSEQ ID NO:18に示す通りであり、LCDR3のアミノ酸配列はSEQ ID NO:19に示す通りであることを特徴とする請求項1に記載の抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質。
【請求項5】
前記抗IL-17抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列はSEQ ID NO:20に示す通りであり、前記抗IL-17抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列はSEQ
ID NO:21に示す通りであることを特徴とする請求項1に記載の抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質。
【請求項6】
前記抗IL-17抗体の重鎖のアミノ酸配列はSEQ ID NO:4に示す通りであり、軽鎖のアミノ酸配列はSEQ ID NO:1に示す通りであることを特徴とする請求項1に記載の抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質。
【請求項7】
VEGFR1のD2ドメインは野生型又は突然変異体であり、野生型VEGFR1のD2ドメインのアミノ酸配列はSEQ ID NO:34に示す通りであることを特徴とする請求項3に記載の抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質。
【請求項8】
VEGFR1のD2ドメインの突然変異体は、SEQ ID NO:34に示すアミノ酸配列の138位が突然変異して形成されたものであることを特徴とする請求項7に記載の抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質。
【請求項9】
VEGFR1のD2ドメインの突然変異体は、SEQ ID NO:34に示すアミノ酸配列の138位が置換変異して形成されたものであることを特徴とする請求項7に記載の抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質。
【請求項10】
VEGFR1のD2ドメインの突然変異体は、138M/A、138M/P又は138M/Tから選択されることを特徴とする請求項7に記載の抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質。
【請求項11】
前記抗IL-17抗体の重鎖のC末端又はN末端はVEGFR1のD2ドメインに連結され、或いは、前記抗IL-17抗体の軽鎖のC末端又はN末端はVEGFR1のD2ドメインに連結されることを特徴とする請求項3に記載の抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質。
【請求項12】
前記二機能性融合タンパク質の重鎖のアミノ酸配列は、SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:3、SEQ ID NO:4、SEQ
ID NO:7、SEQ ID NO:8、SEQ ID NO:9又はSEQ ID NO:10に示す通りであり、前記二機能性融合タンパク質の軽鎖のアミノ酸配列は、SEQ
ID NO:1、SEQ ID NO:5又はSEQ ID NO:6に示す通りであることを特徴とする請求項1に記載の抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質をコードすることを特徴とする核酸分子。
【請求項14】
前記核酸分子は、前記抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質の重鎖の核酸配列SEQ ID NO:25、SEQ ID
NO:26、SEQ ID NO:27、SEQ ID NO:30、SEQ ID NO:31、SEQ ID NO:32又はSEQ ID NO:33をコードし、前記抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質の軽鎖の核酸配列SEQ
ID NO:24、SEQ ID NO:28又はSEQ ID NO:29をコードすることを特徴とする請求項13に記載の核酸分子。
【請求項15】
請求項13又は14に記載の核酸分子を含むことを特徴とする発現ベクター。
【請求項16】
請求項15に記載の発現ベクターを含むことを特徴とする宿主細胞。
【請求項17】
請求項1~12のいずれか1項に記載の抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質の製造方法であって、
発現条件において、請求項16に記載の宿主細胞を培養することで、抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質を発現するステップa)と、
ステップa)の前記融合タンパク質を分離及び精製するステップb)と、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項18】
有効量の請求項1~12のいずれか1項に記載の融合タンパク質と、1種類又は複数種類の薬学的に許容可能な担体又は添加物とを含むことを特徴とする医薬組成物。
【請求項19】
請求項1~12のいずれか1項に記載の抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質、請求項18に記載の医薬組成物の、IL-17及び/又はVEGFを過剰発現する疾病の治療薬物の製造における使用。
【請求項20】
請求項1~12のいずれか1項に記載の抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質、請求項18に記載の医薬組成物の、炎症性皮膚疾患又は眼科疾患の治療薬物の製造における使用であって、好ましくは、前記炎症性皮膚疾患は乾癬であり、及び/又は、前記眼科疾患は、糖尿病網膜症、脈絡膜血管新生疾患又は黄斑変性から選択される使用。
【請求項21】
IL-17及び/又はVEGFを過剰発現する疾病の治療方法であって、
必要な被検者に対し、請求項1~12のいずれか1項に記載の二機能性融合タンパク質又は請求項18に記載の医薬組成物を投与することを含むことを特徴とする方法。
【請求項22】
前記IL-17及び/又はVEGFを過剰発現する疾病は、炎症性皮膚疾患又は眼科疾患から選択され、好ましくは、前記炎症性皮膚疾患は乾癬であり、及び/又は、前記眼科疾患は、糖尿病網膜症、脈絡膜血管新生疾患又は黄斑変性から選択されることを特徴とする請求項21に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、融合タンパク質の技術分野に関し、特に、抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
インターロイキン17(IL-17)は炎症性サイトカインの一種であって、ヘルパーT細胞(Th17)から主に分泌されるほか、T細胞や、肥満細胞及び好中球といった先天性免疫細胞からもわずかに分泌される。IL-17ファミリーには6つのメンバー(A、B、C、D、E、F及びA/F)があり、ホモ又はヘテロ二量体形式で存在する。また、IL-17受容体には、IL-17RA、IL-17RB、IL-17RC、IL-17RD、IL-17RE及びSEFがある。上記のうち、ホモ二量体IL-17A、IL-17F及びヘテロ二量体IL-17A/Fが主な存在形式であり、IL-17RA及びIL-17RCに共に作用する。IL-17Aは、正常な生理状態では発現が極めて低い。しかし、病理状態において、IL-17Aは大量に分泌され、細胞表面のIL-17Rに結合するとともに、シグナル伝達複合体IL-17R-Act1-TRAF6により下流のNF-kB、JNK等のシグナル経路を活性化させて炎症反応に関与する。これにより、IL-17Aは、炎症及び自己免疫疾患(例えば、乾癬や関節リウマチ)の病理反応において重要な作用を奏する。現在、抗IL-17モノクローナル抗体薬は乾癬治療の重要な手段とされている。
【0003】
乾癬は、よく見られる再発性及び炎症性の皮膚疾患であり、ケラチノサイト(KC)の過剰増殖、炎症性細胞の浸潤、新生血管形成が病理組織学的な3要素とされる。現在の研究では、乾癬による皮膚病変箇所の真皮乳頭層に毛細血管の拡張及び伸長、透過性の亢進、血管数の増加が生じることが分かっている。且つ、このような変化は、主に後毛細管静脈に発生すると考えられている。乾癬で最初に発生する病理学的変化は、血管の分布及び形成の変化である。乾癬患者には、皮膚病変箇所以外の皮膚にも異常拡張した血管が見られることが多い。また、研究の結果、乾癬患者の皮膚病変においては、血管内皮増殖因子(VEGF)のmRNA及びタンパク質の発現レベルが健常人の皮膚よりも明らかに増加することが分かっている。そのため、抗血管新生薬は乾癬治療の有効な手段となる可能性がある。また、IL-17とVEGFを同時に標的とする薬物は、乾癬治療に対し相乗的な治療効果を有する可能性が多いにある。
【0004】
そのほか、多数の研究によって、糖尿病網膜症、脈絡膜血管新生疾患(CNV)及び黄斑変性でIL-17の含有量が著しく増加することが分かっている。また、レーザ光で誘導したCNVモデルでは、抗IL-17抗体又は抗VEGF抗体を注射することで、新生血管の生成及び漏出を著しく減少させられる。よって、IL-17とVEGFを同時に標的とする薬物は、黄斑変性等の網膜病変の革新的な新治療法となる見込みがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、IL-17及びVEGFのシグナル経路を同時に阻害可能な新たな抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質を提供することである。また、本発明の目的は、更に、前記二機能性融合タンパク質をコードする核酸分子を提供すること、前記核酸分子を含む発現ベクターを提供すること、前記発現ベクターを含む宿主細胞を提供すること、前記二機能性融合タンパク質の製造方法を提供すること、前記二機能性融合タンパク質を含む医薬組成物を提供すること、IL-17及び/又はVEGFを過剰発現する疾病の治療薬物の製造における前記二機能性融合タンパク質又は前記医薬組成物の応用を提供すること、IL-17及び/又はVEGFを過剰発現する疾病の治療に前記融合タンパク質又は前記医薬組成物を適用する方法を提供すること、である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の技術方案を提供する。
【0007】
本発明の第1の態様では、抗IL-17抗体と、VEGFに特異的に結合するタンパク質を含む抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質を提供する。前記VEGFに特異的に結合するタンパク質はVEGFRであり、前記VEGFに特異的に結合するタンパク質は、直接的又はコネクソンを介して抗IL-17抗体に連結される。
【0008】
前記VEGFRは完全な受容体タンパク質であってもよいし、VEGFRの細胞外領域であってもよい。
【0009】
好ましい実施方案において、前記VEGFに特異的に結合するタンパク質はVEGFRの細胞外領域である。例示的なVEGFRの細胞外領域は、例えば、VEGFR1のD2ドメイン又はD3ドメイン、VEGFR2のD2ドメイン、D3ドメイン又はD4ドメイン、VEGFR3のD1ドメイン、D2ドメイン又はD3ドメインである。
【0010】
好ましい実施方案において、前記VEGFに特異的に結合するタンパク質はVEGFR1の細胞外領域である。
【0011】
好ましい実施方案において、前記VEGFに特異的に結合するタンパク質はVEGFR1のD2ドメインである。
【0012】
抗IL-17抗体はどの抗IL-17抗体であってもよく、当該抗体がIL-17とそのリガンドとの結合を抑制又は減少させられればよい。好ましくは、抗IL-17抗体は608抗体である。
【0013】
具体的に、前記抗IL-17抗体の重鎖は相補性決定領域HCDR1~3を含む。HCDR1のアミノ酸配列はSEQ ID NO:14に示す通りであり、HCDR2のアミノ酸配列はSEQ
ID NO:15に示す通りであり、HCDR3のアミノ酸配列はSEQ ID NO:16に示す通りである。前記抗IL-17抗体の軽鎖は相補性決定領域LCDR1~3を含む。LCDR1のアミノ酸配列はSEQ
ID NO:17に示す通りであり、LCDR2のアミノ酸配列はSEQ ID NO:18に示す通りであり、LCDR3のアミノ酸配列はSEQ ID NO:19に示す通りである。
【0014】
好ましい実施方案において、前記抗IL-17抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列はSEQ ID NO:20に示す通りであり、前記抗IL-17抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列はSEQ
ID NO:21に示す通りである。
【0015】
好ましい実施方案において、前記抗IL-17抗体はモノクローナル抗体である。
【0016】
好ましい実施方案において、前記IL-17抗体はヒト化抗体である。
【0017】
好ましい実施方案において、前記抗IL-17抗体はIgGクラス抗体であり、例えば、IgG1、IgG2又はIgG4型の全長抗体である。
【0018】
好ましい実施方案において、前記抗IL-17抗体の重鎖のアミノ酸配列はSEQ ID NO:4に示す通りであり、軽鎖のアミノ酸配列はSEQ
ID NO:1に示す通りである。
【0019】
その他の実施方案において、前記抗IL-17抗体は、608抗体と競合的にIL-17に結合するその他の抗体であってもよい。
【0020】
本発明のいくつかの具体的実施形態において、前記抗IL-17抗体は、SEQ ID NO:4に示す重鎖のアミノ酸配列、又は、SEQ
ID NO:1に示す軽鎖のアミノ酸配列をベースに、1つ又は複数(具体的には、1~50個、1~30個、1~20個、1~10個、1~5個又は1~3個としてもよい)のアミノ酸を置換、欠損又は追加することで得られるものとしてもよい。また、置換、欠損又は追加後のアミノ酸配列は、SEQ
ID NO:4又はSEQ ID NO:1と、80%、85%、90%、93%、95%、97%又は99%以上の類似度を有し得る。
【0021】
一実施形態において、VEGFRのD2ドメインは野生型又は突然変異体としてもよい。
【0022】
野生型VEGFR-D2のアミノ酸配列はSEQ ID NO:34に示す通りである。
【0023】
前記VEGFRのD2ドメインの突然変異体は、SEQ ID NO:34に示すアミノ酸配列をベースに、1つ又は複数(具体的には、1~50個、1~30個、1~20個、1~10個、1~5個又は1~3個としてもよい)のアミノ酸を置換、欠損又は追加することで得られるものである。また、置換、欠損又は追加後のアミノ酸配列は、SEQ
ID NO:34と、80%、85%、90%、93%、95%、97%又は99%以上の類似度を有し得る。
【0024】
好ましい実施方案において、VEGFR-D2の突然変異体は、SEQ ID NO:34に示すアミノ酸配列の138位に突然変異が存在する。
【0025】
加えて、VEGFR-D2の突然変異体は、SEQ ID NO:34に示すアミノ酸配列の138位に置換変異が存在する。
【0026】
加えて、VEGFR-D2の突然変異体は、138M/A、138M/P又は138M/Tから選択される。これら3種類の突然変異は予測不可能な技術的効果を奏するものであり、融合タンパク質の重鎖の断裂を著しく低下させて、加速・熱安定性を向上させる。
【0027】
好ましい実施方案において、前記コネクソンは、(G4S)xのような柔軟なポリペプチド配列を有するものとしてもよく、xは、1、2、3、4、5又は6としてもよい。
いくつかの好ましい実施方案において、前記抗IL-17抗体IgGの重鎖のC末端(図1Aに示す)又はN末端(図1Bに示す)と、VEGFに特異的に結合するタンパク質は直列に連結されて、二機能性融合タンパク質の重鎖を形成する。
【0028】
いくつかの好ましい実施方案において、前記抗IL-17抗体IgGの軽鎖のC末端(図1Cに示す)又はN末端(図1Dに示す)と、VEGFに特異的に結合するタンパク質は直列に連結されて、二機能性融合タンパク質の軽鎖を形成する。
【0029】
好ましい実施方案において、前記抗IL-17抗体の重鎖のC末端又はN末端はVEGFR1のD2ドメインに連結される。また、別の好ましい実施方案において、前記抗IL-17抗体の軽鎖のC末端又はN末端はVEGFR1のD2ドメインに連結される。
【0030】
融合タンパク質の断裂を低下させるために、Fcの末端のアミノ酸を突然変異させてもよい。例えば、実施例では、ヒトIgG1型のFc領域末端のアミノ酸KをAに突然変異させている。
【0031】
好ましい実施方案において、前記二機能性融合タンパク質の重鎖のアミノ酸配列は、SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:3、SEQ
ID NO:4、SEQ ID NO:7、SEQ ID NO:8、SEQ ID NO:9又はSEQ ID NO:10に示す通りであり、前記二機能性融合タンパク質の軽鎖のアミノ酸配列は、SEQ
ID NO:1、SEQ ID NO:5又はSEQ ID NO:6に示す通りである。
【0032】
本発明の第2の態様では、核酸分子を提供する。前記核酸分子は、前記融合タンパク質をコードする。
【0033】
好ましい実施方案において、前記核酸分子は、融合タンパク質の重鎖の核酸配列SEQ ID NO:25、SEQ ID NO:26、SEQ
ID NO:27、SEQ ID NO:30、SEQ ID NO:31、SEQ ID NO:32又はSEQ ID NO:33をコードし、軽鎖の核酸配列SEQ ID
NO:24、SEQ ID NO:28又はSEQ ID NO:29をコードする。
【0034】
当業者は、上記融合タンパク質のアミノ酸配列をコードする核酸分子に、置換、欠損、変更、挿入又は追加を適切に導入することで、核酸分子の同族体を提供可能なことを周知している。
【0035】
本発明の第3の態様では、発現ベクターを提供する。前記発現ベクターは前記核酸分子を含む。
【0036】
本発明の第4の態様では、宿主細胞を提供する。前記宿主細胞は前記発現ベクターを含む。
【0037】
本発明の第5の態様では、二機能性融合タンパク質の製造方法を提供する。前記製造方法は、以下のステップa)及びステップb)を含む。
ステップa)において、発現条件において、上述した宿主細胞を培養することで、抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質を発現する。
ステップb)において、ステップa)の前記二機能性融合タンパク質を分離及び精製する。
【0038】
本発明の第6の態様では、医薬組成物を提供する。前記医薬組成物は、有効量の前記二機能性融合タンパク質と、1種類又は複数種類の薬学的に許容可能な担体又は添加物を含む。
【0039】
本発明の第7の態様では、前記二機能性融合タンパク質、医薬組成物の、IL-17及び/又はVEGFを過剰発現する疾病の治療薬物の製造における使用を提供する。
【0040】
本発明によれば、前記IL-17及び/又はVEGFを過剰発現する疾病は、炎症性皮膚疾患又は眼科疾患から選択される。
【0041】
例えば、前記炎症性皮膚疾患は乾癬である。
前記眼科疾患は、例えば、糖尿病網膜症、脈絡膜血管新生疾患(CNV)又は黄斑変性である。
前記黄斑変性は、例えば、滲出型加齢黄斑変性である。
【0042】
本発明の第8の態様では、前記二機能性融合タンパク質、医薬組成物の、炎症性皮膚疾患又は眼科疾患の治療薬物の製造における使用を提供する。
【0043】
例えば、前記炎症性皮膚疾患は乾癬である。
前記眼科疾患は、例えば、糖尿病網膜症、脈絡膜血管新生疾患(CNV)又は黄斑変性である。
前記黄斑変性は、例えば、滲出型加齢黄斑変性である。
【0044】
本発明における抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質及びその医薬組成物は、ヒトを含む動物に投与する際に、患者の年齢や体重、疾病の特性や重大性及び投与経路によって投与量が異なる。よって、動物実験の結果及び様々な状況を参考にして、総投薬量が一定の範囲を超えないようにすべきである。当該分野の常識に基づいて、上記の各好ましい条件を任意に組み合わせることで、本発明の各好ましい実施例を取得可能である。
【0045】
本発明の第9の態様では、IL-17及び/又はVEGFを過剰発現する疾病の治療方法を提供する。当該方法は、必要な被検者に対し、前記二機能性融合タンパク質又は医薬組成物を投与することを含む。
【0046】
本発明によれば、前記IL-17及び/又はVEGFを過剰発現する疾病は、炎症性皮膚疾患又は眼科疾患から選択される。
【0047】
例えば、前記炎症性皮膚疾患は乾癬である。
前記眼科疾患は、例えば、糖尿病網膜症、脈絡膜血管新生疾患(CNV)又は黄斑変性である。
前記黄斑変性は、例えば、滲出型加齢黄斑変性である。
【0048】
本発明の第10の態様では、炎症性皮膚疾患又は眼科疾患の治療方法を提供する。当該方法は、必要な被検者に対し、前記二機能性融合タンパク質又は医薬組成物を投与することを含む。
【0049】
例えば、前記炎症性皮膚疾患は乾癬である。
前記眼科疾患は、例えば、糖尿病網膜症、脈絡膜血管新生疾患(CNV)又は黄斑変性である。
前記黄斑変性は、例えば、滲出型加齢黄斑変性である。
前記抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質及びその医薬組成物は、被検者に投与する際に、投与量を治療有効量とする必要がある。前記治療有効量とは、IL-17及び/又はVEGFを過剰発現する疾病の治療において効果を有する量である。具体的に、前記抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質及びその医薬組成物は、被検者に投与する際に、患者の年齢や体重、疾病の特性や重大性及び投与経路によって投与量が異なる。よって、動物実験の結果及び様々な状況を参考にして、総投薬量が一定の範囲を超えないようにすべきである。
【0050】
本発明の第11の態様では、VEGFR1のD2ドメインを含む融合タンパク質を提供する。前記VEGFR1のD2ドメインには突然変異が存在する。前記融合タンパク質は改善の安定性を有する。
【0051】
好ましい実施方案において、前記融合タンパク質は、更に、少なくとも1つの異種ドメインを含む。前記異種ドメインは、標的性、安定性、毒性、腫瘍殺傷活性等を改善すべく、抗体、Fcフラグメントを含むがこれらに限らない。
【0052】
好ましい実施方案において、前記VEGFR1のD2ドメインは、SEQ ID NO:34に示すアミノ酸配列の138位に突然変異が存在する。
【0053】
加えて、前記VEGFR1のD2ドメインは、SEQ ID NO:34に示すアミノ酸配列の138位に置換変異が存在する。
【0054】
加えて、前記VEGFR1のD2ドメインには、138M/A、138M/P又は138M/Tの突然変異が存在する。
【発明の効果】
【0055】
本発明における積極的な効果は以下の通りである。
【0056】
本発明における二機能性融合タンパク質は、IL-17及びVEGFに対し高い親和性を持って結合可能である。また、IL-17に対する親和性は、抗IL-17モノクローナル抗体のポジティブコントロール608と同等である。本発明の融合タンパク質は、IL-17受容体とIL-17との結合を有効に阻害可能であり、その阻害能力は抗IL-17モノクローナル抗体のポジティブコントロール608と同等である。また、本発明の融合タンパク質は、VEGFとその受容体KDRとの相互作用を有効に阻害可能であり、その阻害能力は抗VEGFモノクローナル抗体のポジティブコントロールであるベバシズマブよりも優れている。本発明の融合タンパク質は、細胞レベルの薬効試験において、IL-17により誘導されるIL-6及びVEGFの分泌を有効に抑制可能であった。また、動物レベルの薬効試験では、乾癬及び脈絡膜血管新生疾患を有効に治療可能であった。総括すると、本発明の融合タンパク質は、IL-17及びVEGF活性に関連する疾病の治療において潜在力を有している。
【図面の簡単な説明】
【0057】
図1A図1Aは、本発明における二機能性融合タンパク質の概略構造図であり、薄いグレーの部分は可変領域を示し、濃いグレーの部分は定常領域を示し、模様部分はVEGFR1のD2ドメインを示している。
図1B図1Bは、本発明における別の二機能性融合タンパク質の概略構造図であり、薄いグレーの部分は可変領域を示し、濃いグレーの部分は定常領域を示し、模様部分はVEGFR1のD2ドメインを示している。
図1C図1Cは、本発明における別の二機能性融合タンパク質の概略構造図であり、薄いグレーの部分は可変領域を示し、濃いグレーの部分は定常領域を示し、模様部分はVEGFR1のD2ドメインを示している。
図1D図1Dは、本発明における別の二機能性融合タンパク質の概略構造図であり、薄いグレーの部分は可変領域を示し、濃いグレーの部分は定常領域を示し、模様部分はVEGFR1のD2ドメインを示している。
図2A図2Aは、本発明の実施例2におけるHPLC測定で作製した抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質17V01の純度結果の図を示している。
図2B図2Bは、本発明の実施例2におけるHPLC測定で作製した抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質17V02の純度結果の図を示している。
図2C図2Cは、本発明の実施例2におけるHPLC測定で作製した抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質17V03の純度結果の図を示している。
図2D図2Dは、本発明の実施例2におけるHPLC測定で作製した抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質17V04の純度結果の図を示している。
図2E図2Eは、本発明の実施例2におけるHPLC測定で作製した抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質17V05の純度結果の図を示している。
図2F図2Fは、本発明の実施例2におけるHPLC測定で作製した抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質17V06の純度結果の図を示している。
図2G図2Gは、本発明の実施例2におけるHPLC測定で作製した抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質17V07の純度結果の図を示している。
図2H図2hは、本発明の実施例2におけるHPLC測定で作製した抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質17V08の純度結果の図を示している。
図3A図3Aは、本発明の実施例3における抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質とIL-17との親和性のELISA測定の図を示している。
図3B図3Bは、本発明の実施例3における抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質とVEGFとの親和性のELISA測定の図を示している。
図4図4は、本発明の実施例6における抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質がIL-17Aにより誘導されるHeLa細胞のIL-6分泌を阻害した結果を示している。
図5図5は、本発明の実施例7における抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質がVEGFと受容体KDRとの結合を阻害した結果を示している。
図6図6は、本発明の実施例10における抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質を投与したあとの動物における血管漏出面積の変化率を示している。
図7図7は、本発明の実施例10におけるレベル3~4の漏出スポットの統計データを示している。
図8図8は、本発明の実施例10における脈絡膜のプレパラートを作製したあとのIB4免疫蛍光染色の結果を示している。
【発明を実施するための形態】
【0058】
以下の実験例は本発明を更に説明するためのものであって、本発明を制限するものと解釈すべきではない。実施例では、例えば、核酸分子の作製方法、ベクター及びプラスミドの作製方法、タンパク質をコードする遺伝子を上記のようなベクター及びプラスミドに挿入する方法又はプラスミドを宿主細胞に導入する方法、宿主細胞の培養方法等の従来の方法又は当該分野における一般的な方法については詳細に記載しない。このような方法は、当業者にとって周知であり、下記を含む多くの出版物に記載されている。
Sambrook,J.,Fritsch,E.F.and Maniais,T.(1989)Molecular Cloning:A
Laboratory Manual,2nd edition,Cold spring Harbor Laboratory Press。
【0059】
本発明において、「二機能性融合タンパク質」との用語は、2つ又は複数の同じ又は異なるポリペプチド配列を融合して得られる新たなポリペプチド配列を意味する。また、「融合」との用語は、ペプチド結合による直接連結、或いは、1つ又は複数の連結ペプチド(ペプチドリンカー)を介した有効な連結を意味する。また、「連結ペプチド(コネクソン)」との用語は、2つのポリペプチド配列を連結可能な短鎖ペプチドを意味し、一般的には長さが2~30個のアミノ酸からなるペプチドのことである。
【0060】
本発明において、「抗体(Antibody,略語Ab)」との用語は、全長抗体及び抗体フラグメントを含む。「全長抗体」とは、同じ構造的特徴を有する約150000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質のことであり、2本の同じ軽鎖(LC)及び2本の同じ重鎖(HC)から構成される。また、各重鎖は一端に可変領域(VH)を有し、その後が定常領域となっている。重鎖の定常領域は、CH1、CH2及びCH3という3つのドメインから構成される。また、各軽鎖は一端に可変領域(VL)を有し、他端に定常領域を有する。軽鎖の定常領域は1つのドメインCLを含む。軽鎖の定常領域と重鎖の定常領域のCH1ドメインは対となっており、軽鎖の可変領域と重鎖の可変領域は対となっている。定常領域は、抗体と抗原との結合には直接関与しないが、異なるエフェクター機能を示し、例えば、抗体依存性細胞傷害(ADCC,antibody-dependent
cell-mediated cytotoxicity)等に関与する。重鎖の定常領域には、サブタイプとして、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4がある。また、軽鎖の定常領域には、κ(Kappa)又はλ(Lambda)がある。抗体の重鎖と軽鎖は、重鎖のCH1ドメイン及び軽鎖のCLドメインの間のジスルフィド結合によって共有結合される。抗体の2本の重鎖は、ヒンジ領域の間に形成されるポリペプチド間のジスルフィド結合により共有結合される。また、「抗体フラグメント」とは、抗体に由来し、且つ、抗原のエピトープに結合する能力を維持した機能性フラグメントであって、scFv、Fv、Fd、Fab、F(ab’)2又はF(ab’)を含むが、これらに限らない。
【0061】
本発明において、「モノクローナル抗体(monoclonal antibody)」との用語は、基本的に均一な集団から得られる抗体を意味する。即ち、存在し得る自然発生的な少数の突然変異を除き、当該集団に含まれる各抗体は同一である。モノクローナル抗体は、高い特異性を持って1つの抗原の部位を標的とする。且つ、一般的なポリクローナル抗体製剤(通常は、異なる抗原決定基を標的とする異なる抗体を有する混合物である)とは異なり、各モノクローナル抗体は抗原上の1つの決定基を標的とする。また、特異性だけでなく、モノクローナル抗体はハイブリドーマの培養により合成可能なため、その他の免疫グロブリンにより汚染されないことが利点である。
【0062】
本発明において、「ヒト化」との用語は、CDRがヒト以外の種(好ましくはマウス)の抗体に由来し、抗体分子中の残りの部分(フレームワーク領域及び定常領域を含む)がヒト抗体に由来することを意味する。また、結合親和性を維持するために、フレームワーク領域の残基は変更されてもよい。
【0063】
本発明において、「抗」及び「結合」との用語は、例えば、抗体と抗体が標的とする抗原との間の反応といった2つの分子間の非ランダムな結合反応を意味する。通常、抗体は、例えば、約10-8M、10-9M、10-10M、10-11M未満又は更に小さい、例えば約10-7M未満の平衡解離定数(KD)で前記抗原に結合する。「KD」との用語は、特定の抗体-抗原間の相互作用の平衡解離定数であり、抗体と抗原との結合親和性を表すために用いられる。平衡解離定数が小さいほど、抗体-抗原結合はより緊密となり、抗体と抗原との親和性がより高くなる。例えば、表面プラズモン共鳴(Surface
Plasmon Resonance,略称SPR)を用い、ビアコア(BIACORE)で抗体と抗原との結合親和性を測定するか、ELISAで抗体と抗原との結合の相対的な親和性を測定する。
【0064】
本発明において、「VEGFR1のD2ドメイン」とは、VEGFR1の細胞外領域のD2ドメインのことであり、天然型配列及びそのバリアント(少なくとも1つのアミノ酸の突然変異を含む)を含み、前記突然変異のドメインがVEGFとの結合活性を維持していればよい。
【0065】
本発明において、「発現ベクター」との用語は、特定の目的タンパク質又はその他の物質を発現するための発現カセットを備えるベクターを意味し、例えば、プラスミド、ウイルスベクター(例えば、アデノウイルス、レトロウイルス)、バクテリオファージ、酵母プラスミド又はその他のベクターのことである。また、例えば、プロモーター、ターミネーター、エンハンサー等の適切な調節配列を含む当該分野において一般的な発現ベクターを意味し、当該発現ベクターは、ウイルスベクター(例えば、アデノウイルス、レトロウイルス)、プラスミド、バクテリオファージ、酵母プラスミド又はその他のベクターとしてもよい。前記発現ベクターは、好ましくは、pDR1、pcDNA3.4(+)、pDHFR又はpTT5を含む。関連配列を取得すれば、組換え法により関連配列を大量に取得可能である。これについては、通常、関連配列をベクターにクローニングしてから細胞に導入する。そして、一般的な方法で、増殖後の宿主細胞から関連配列を分離して取得する。
【0066】
本発明において、「宿主細胞」との用語は、当該分野において一般的な各種宿主細胞を意味し、ベクターを安定的に自己複製可能とし、且つ、付帯する核酸分子を有効に発現させられればよい。前記宿主細胞は、原核生物発現細胞及び真核生物発現細胞を含む。前記宿主細胞は、好ましくは、COS、CHO、NS0、sf9、sf21、DH5α、BL21(DE3)、TG1、BL21(DE3)、293F細胞又は293E細胞から選択される。
【0067】
本発明において、「医薬組成物」との用語は、上述した二機能性融合タンパク質及び薬学的に許容可能な担体又は添加物を含むものを意味する。通常は、これらの物質を無害且つ不活性であり、薬学的に許容可能な水性の担体培地において調製する。なお、pH値は調製物質の性質及び治療対象の病症に応じて変化させてもよいが、通常は、pHを約4~8とし、好ましくはpHを約5~7とする。調製した医薬組成物は、静脈注射、静脈点滴、皮下注射、局所注射、筋肉注射、腫瘍内注射、腹腔内注射(例えば腹膜内)、頭蓋内注射又は腔内注射を含む(ただし、これらに限らない)一般的な経路で投与可能である。
【0068】
本発明において、「医薬組成物」との用語は、より安定的に治療効果を発揮するための医薬製剤を意味する。これらの製剤は、本発明で開示する二機能性融合タンパク質におけるアミノ酸コア配列の立体構造の完全性を保証し得るとともに、タンパク質の複数の官能基を保護して分解(凝集、脱アミノ又は酸化を含むがこれらに限らない)を防止することも可能である。
【0069】
「薬学的に許容可能」とは、薬物を動物又はヒトに適切に投与する際に、それらが不都合な反応、アレルギー反応又はその他の副反応を生じないことを意味する。
【0070】
「薬学的に許容可能な担体又は添加物」は、前記有効成分に適合している必要がある。即ち、前記有効成分と混合されたとしても、通常の状況では薬物の効果を大幅に低下させてはならない。薬学的に許容可能な担体又は添加物となり得るいくつか物質の具体例には、ラクトース、グルコース及びサッカロースのような糖類、コーンスターチ及び片栗粉のようなデンプン、メチルセルロースナトリウム、エチルセルロース及びメチルセルロースのようなセルロース及びその誘導体、トラガカントゴム粉末、麦芽、ゼラチン、タルク、ステアリン酸及びステアリン酸マグネシウムのような固体潤滑剤、硫酸カルシウム、ピーナッツオイル、綿実油、ゴマ油、オリーブオイル、コーン油及びココアバターのような植物油、プロパンジオール、グリセロール、ソルビトール、マンニトール及びポリエチレングリコールのようなポリオール、アルギン酸、Tweenのような乳化剤、ラウリル硫酸ナトリウムのような湿潤剤、着色剤、調味剤、打錠剤、安定剤、希釈剤、賦形剤、抗酸化剤、防腐剤、パイロジェンフリー水、平衡塩溶液、リン酸塩緩衝液のような緩衝液等がある。これらの物質は、必要に応じて組成の安定性を補助したり、活性又はバイオアベイラビリティの向上を補助したり、経口投与時に許容可能な口当たり又は香りを発生させたりする。
【0071】
本発明における医薬組成物は、安全有効量(例えば、0.001~99wt%、好ましくは、0.01~90wt%、より好ましくは、0.1~80wt%)の本発明における上記二機能性融合タンパク質及び薬学的に許容可能な担体を含む。この種の担体は、食塩水、緩衝液、グルコース、水、グリセロール、エタノール及びそれらの組み合わせを含む(ただし、これらに限らない)。また、医薬製剤は投与方式に適合させるべきである。本発明の医薬組成物は、注射薬の形式で製造してもよく、例えば、生理食塩水、或いは、グルコース及びその他の助剤を含む水溶液用いて一般的な方法で製造する。注射薬や溶液といった医薬組成物は無菌条件で製造すべきである。また、活性成分の投与量は治療有効量とし、例えば、1日あたり約10μg/kg体重~約50mg/kg体重とする。そのほか、本発明における二機能性融合タンパク質は、その他の治療剤と合わせて使用してもよい。
【0072】
本発明において、「有効量」との用語は、本発明の医薬組成物を被検者に投与したあと、治療した個体に所期の効果が現れる量又は投与量を意味する。当該所期の効果には個体の病症の改善が含まれる。また、「被検者」との用語には、例えば、ヒト、ヒト以外の霊長類動物、ラット及びマウス等の哺乳動物が含まれるが、これらに限らない。
本発明におけるIL-17及び/又はVEGFを過剰発現する疾病の治療方法において、前記「治療」又は「治療方法」には、何らかの状態の予防又は軽減、何らかの状態の発生又は進行速度の低減、何らかの状態の進行リスクの低減、何らかの状態に関する症状の進行の予防又は遅延、何らかの状態に関する症状の減少又は停止、何らかの状態の完全な又は部分的な逆転の発生、何らかの状態の治癒、或いは以上の組み合わせが含まれる。
【0073】
いくつかの実施形態において、本文で記載する方法は、更に、従来技術におけるその他の化合物又はその他の治療プランと組み合わせて実施してもよい。以下の実施例で言及する配列に対応する配列番号を末尾の表6にまとめる。
【0074】
(実施例1)
抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質の作製
本発明では、抗IL-17モノクローナル抗体(608モノクローナル抗体)IgGの重鎖のC末端(図1Aに示す)又はN末端(図1Bに示す)と、軽鎖のC末端(図1Cに示す)及び軽鎖のN末端(図1Dに示す)にVEGFR1のD2ドメインをそれぞれ直列に連結する方式で、抗体融合タンパク質を作製した。608モノクローナル抗体は、中国特許出願第201780033670.5号におけるヒト化した抗ヒトIL17Aモノクローナル抗体から取得した。また、VEGFR1のD2ドメイン(129~227番目のアミノ酸)は、野生型のD2ドメイン及び特異的に突然変異したD2ドメインを含んでいた。各融合タンパク質の構造の説明については、表1に示す通りである。
【0075】
【表1】
【0076】
(実施例2)
抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質の作製
抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質の重鎖及び軽鎖のDNAフラグメントをpcDNA3.4ベクター(サーモフィッシャー社より購入。A14697)にそれぞれサブクローニングし、組換えプラスミドを抽出して、CHO細胞及び/又は293F細胞にコトランスフェクションした。次に、細胞を7日間培養したあと、培養液を高速遠心分離にかけ、精密濾過膜で真空濾過してからHiTrap
MabSelect SuReカラムに投入した。続いて、100mMのクエン酸及びpH3.5の溶出液を用いてタンパク質をワンステップ溶出し、対象サンプルを回収するとともに、透析して培養液をPBSに交換した。そして、精製後のタンパク質をHPLCで測定した。結果は、図2A図2Hに示す通りとなった。測定の結果、融合タンパク質の分子状態は均一であり、精製1回後のモノマー純度が94.0~98.9%の間であることが分かった。
【0077】
(実施例3)
酵素結合免疫吸着法(ELISA)による抗原に対する抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質の親和性測定
【0078】
3.1 ELISAによる抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質とIL-17Aとの親和性測定
IL-17Aタンパク質(アクロバイオシステムズ社より購入。Cat.#ILA-H5118)を100ng/ウェルでプレートにコーティングし、4℃で一晩置いた。次に、PBSTでプレートを3回洗浄し、200μl/ウェルでブロッキング溶液を加え、37℃で1時間放置したあと、PBSTでプレートを1回洗浄して待機した。また、希釈液で抗体を25nMまで希釈し、4倍希釈により8つの濃度勾配を形成した。これをブロッキングしたELISA用プレートに100μl/ウェルで加え、37℃で1時間放置した。次に、PBSTでプレートを3回洗浄し、HRPで標識したヤギ抗ヒトFab抗体(アブカム社より購入。Cat.#ab87422)を加え、37℃で30分間放置した。そして、PBSTでプレートを3回洗浄したあと、吸水紙上で残留液をできるだけ落とし、各ウェルに100μlのTMBを加えて室温(20±5℃)で遮光しながら5分間放置した。続いて、各ウェルに停止液を加えて基質の反応を停止させた。そして、酵素結合免疫測定装置の450nm箇所でOD値を読み取り、GraphPad
Prism6でデータ分析を行って、グラフを作成するとともに、EC50を算出した。
【0079】
実験結果は図3Aに示す通りとなった。抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質17V01、17V02、17V03、17V04及びポジティブコントロールである608モノクローナル抗体は、いずれもIL-17Aに有効に結合可能であった。また、EC50(nM)値は、それぞれ、0.052、0.062、0.041、0.105及び0.052であり、親和性が同等であった。
【0080】
3.2 ELISAによる抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質とVEGFとの親和性測定
抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質とVEGFとの結合能力を測定するために、VEGFタンパク質(アクロバイオシステムズ社より購入。Cat.#VE5-H4210)を100ng/ウェルでプレートにコーティングし、4℃で一晩置いた。次に、PBSTでプレートを3回洗浄し、200μl/ウェルでブロッキング溶液を加え、37℃で1時間放置したあと、PBSTでプレートを1回洗浄して待機した。また、希釈液で抗体を25nMまで希釈し、4倍希釈により8つの濃度勾配を形成した。これをブロッキングしたELISA用プレートに100μl/ウェルで加え、37℃で1時間放置した。次に、PBSTでプレートを3回洗浄し、HRPで標識したヤギ抗ヒトFab抗体(アブカム社より購入。Cat.#ab87422)を加え、37℃で30分間放置した。そして、PBSTでプレートを3回洗浄したあと、吸水紙上で残留液をできるだけ落とし、各ウェルに100μlのTMBを加えて室温(20±5℃)で遮光しながら5分間放置した。続いて、各ウェルに停止液を加えて基質の反応を停止させた。そして、酵素結合免疫測定装置の450nm箇所でOD値を読み取り、GraphPad
Prism6でデータ分析を行って、グラフを作成するとともに、EC50を算出した。
【0081】
実験結果は図3Bに示す通りとなった。抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質17V01、17V02、17V03、17V04、FC-D2は、いずれもVEGFに有効に結合可能であった。また、EC50(nM)値は、それぞれ、0.379、0.327、0.326、0.371及び0.397であり、親和性が同等であった。一方、抗IL-17モノクローナル抗体608はVEGFに有効に結合し得なかった。
【0082】
(実施例4)
抗原IL-17Aに対する抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質の親和性・解離定数KDの測定
Biacore 8K分子間相互作用解析装置を用い、捕捉法により、抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質と抗原IL-17Aとの結合・解離の動態パラメータを測定した。HBS-EPbuffer
pH7.4(Cat.#BR-1007-69,GEヘルスケア社)を希釈用緩衝液とし、17V01、17V05、17V06、608を1.5μg/mlまでそれぞれ希釈した。そして、IL-17Aの最高濃度を12.5nMとする6つの濃度勾配を設けるとともに、0濃度を追加した。また、Protein
A(Cat.#29-1275-56,GEヘルスケア社)チップが結合された捕捉抗体を使用した。そして、IL-17Aを分析物(Analyte)として投入し、結合-解離曲線を取得してから、6Mのグアニジン塩酸塩(Cat.#30095516,国薬集団化学試剤有限公司より購入)を再生緩衝液として溶出したあと、次のサイクルを繰り返した。データはBiacore
8K Evaluation Softwareにより分析した。
【0083】
実験結果は表2に示す通りとなった。抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質17V01、17V05、17V06は、IL-17Aに対する親和性がポジティブコントロールである抗IL-17モノクローナル抗体608と同等であった。
【0084】
【表2】
【0085】
(実施例5)
抗原VEGFに対する抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質の親和性・解離定数KDの測定
Biacore 8K分子間相互作用解析装置を用い、捕捉法により、抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質と抗原VEGFとの結合・解離の動態パラメータを測定した。HBS-EPbuffer
pH7.4を希釈用緩衝液とし、ベバシズマブ、17V01、17V05、17V06を5μg/mlまでそれぞれ希釈した。そして、VEGFの最高濃度を10nMとする6つの濃度勾配を設けるとともに、0濃度を追加した。また、Protein
Aチップが結合された捕捉抗体を使用した。そして、VEGFを分析物(Analyte)として投入し、結合-解離曲線を取得してから、6Mのグアニジン塩酸塩を再生緩衝液として溶出したあと、次のサイクルを繰り返した。データはBiacore
8K Evaluation Softwareにより分析した。
【0086】
実験結果は表3に示す通りとなった。抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質17V01、17V05、17V06は、VEGFに対する親和性がポジティブコントロールであるベバシズマブよりもやや優れていた。
【0087】
【表3】
【0088】
(実施例6)
IL-17Aにより誘導されるHeLa細胞のIL-6分泌に対する抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質の阻害作用
IL-17Aは上皮細胞を刺激してIL-6を分泌させることが可能である。そこで、10ng/mlのヒトIL-17Aを用いてヒト子宮頸癌細胞株HeLaを刺激したところ、ELISAにより明らかなヒトIL-6の分泌が測定された。このシステムを用いることで、ヒトIL-17Aにより誘導されるHeLaのヒトIL-6分泌に対する抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質の阻害レベルを測定可能であった。対数期まで培養したHeLa細胞から培地を捨てて、パンクレアチンで消化したあと、300gで5分間遠心分離にかけ、再懸濁、カウントしてから、密度を調整した細胞を96ウェルマイクロプレートに接種した。なお、10000個/ウェルとし、各ウェルに100μl加えた。これを細胞培養装置に置いて2時間培養した。また、培地を用いて各被検サンプルを開始濃度40μg/mlまで希釈し、3倍希釈により10個の濃度を形成した。そして、群ごとに2つのウェルを設け、70μlを新たな96ウェルマイクロプレートに取った。また、培地を用いてIL-17Aの濃度を40ng/mlまで希釈し、70μlの希釈された抗体を含む96ウェルマイクロプレートに70μl加えた。続いて、接種済みのHeLa細胞に当該溶液を1ウェルあたり100μl加えた。即ち、抗体の終濃度は10μg/ml、IL-17Aの終濃度は10ng/mlとなった。これを37℃のインキュベーターに置いて一晩培養した。
【0089】
ラット抗ヒトIL-6抗体をコーティングバッファで2.5μg/mlまで希釈し、100μl/ウェルでELISA用プレートに加えて、4℃で一晩置いた。次に、PBSTでプレートを3回洗浄し、200μl/ウェルでブロッキング溶液を加え、37℃で2時間放置したあと、PBSTでプレートを3回洗浄して待機した。また、IL-6標準品を作製した。即ち、培地を用いて標準品を作製し、初期濃度を50ng/mlとした。また、順に2倍希釈することで、合計12個の勾配を形成した。これを1ウェルあたり100μlでコーティング済みのELISA用プレートに加えた。なお、濃度ごとに2つのウェルを設けた。続いて、一晩培養したHeLa細胞を均一に混合し、100μlを取ってDMEM培地で2倍に希釈した。これを新たな96ウェルマイクロプレートに移したあと、300gで5分間遠心分離にかけた。そして、各ウェルの上清を100μl取ってELISA用プレートに加え、室温で1.5時間培養した。次に、PBSTでプレートを3回洗浄し、ビオチン化したラット抗ヒトIL-6(作用濃度1:2000)を1ウェルあたり100μl加えて、37℃で1時間放置した。続いて、PBSTでプレートを3回洗浄したあと、吸水紙上で残留液をできるだけ落とし、各ウェルにストレプトアビジンHRPを100μl加えて室温で1時間培養した。そして、PBSTでプレートを3回洗浄したあと、各ウェルに100μlのTMBを加えて室温(20±5℃)で遮光しながら5分間放置した。次に、各ウェルに50μlの2M
SO停止液を加えて基質の反応を停止させた。そして、酵素結合免疫測定装置の450nm箇所でOD値を読み取り、ソフトウェアを用いて各ウェルのIL-6発現レベルを算出した。また、GraphPad
Prism6でデータ分析を行って、グラフを作成するとともに、IC50を算出した。
【0090】
実験結果は図4に示す通りとなった。結果より、抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質17V05、17V06及びポジティブコントロールである608モノクローナル抗体は、いずれも、ヒトIL-17Aにより誘導されるHeLa細胞のヒトIL-6分泌を投与量依存的に阻害した。また、IC50は、それぞれ、0.726、0.778及び0.877nMであり、二機能性融合タンパク質と608モノクローナル抗体は同等の生物学的活性を示した。
【0091】
(実施例7)
抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質によるVEGFと受容体KDRとの結合阻害の細胞実験
単層培養した対数増殖期の密度約80~90%のKDR細胞(プロメガ社より購入。Cat.#GA1082)を取り、成長培地を捨てた。次に、DPBSで1回洗浄したあと、アクターゼ(登録商標)溶液(シグマ社,Cat.#A6964)で消化し、パンクレアチンを中和したあと、200gで5分間遠心分離にかけた。次に、10%のFBSを含有するDMEM培地(Gibco社,Cat.#11995)を用いて細胞を再懸濁したあと、トリパンブルーにより細胞をカウントした。そして、細胞密度を40000個/ウェルに調整してプレーティングし、50μl/ウェルで37℃の5%CO2に放置した。また、10%のFBSを含有するDMEM培地を用いてVEGFを30ng/mlまで希釈し、VEGFを含有する培地で抗体を倍希釈した。これにより、3倍希釈で10個の勾配を形成した。次に、希釈した抗体を1ウェルあたり25μlで細胞に加え(最終的なVEGF濃度は10ng/ml、抗体の開始濃度は100nMとなった)、37℃で6時間培養したあと、各ウェルに75μlの検出試薬Bio-Glo(プロメガ社より購入。Cat.#G7940)を加えた。これを室温で10分間培養したあと、SpectraMax
i3xでルミネセンス(luminescence)を読み取った。全てのデータは2ウェルずつとし、取得した信号の値から平均値を取ったあと、4パラメータ法でフィッティングし、GraphPad
Prism6でデータ分析を行った。
【0092】
実験結果は図5に示す通りとなった。抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質及びポジティブコントロールであるベバシズマブは、いずれもVEGFとその受容体KDRとの相互作用を有効に阻害可能であった。且つ、二機能性融合タンパク質の阻害能力の方が優れていた。また、17V01、17V05、17V06及びベバシズマブのIC50は、それぞれ、0.072、0.084、0.072及び0.430nMであった。
【0093】
(実施例8)
抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質の物理的安定性
DSC(Differential scanning calorimetry,示差走査熱量測定法)により、PBS緩衝系における抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質の熱安定性を測定した。サンプルをPBS緩衝液中に置き換えてサンプル濃度を1mg/mlに制御し、MicroCal*Vp-Capillary
DSC(マルバーン社)を用いて測定した。測定前に、サンプル及びブランク緩衝液は0.22μmのメンブレンフィルタで濾過した。そして、サンプルプレートの各ウェルに400μlのサンプル又はブランク緩衝液(6組のブランク緩衝対を設定した)を加えた。最後に、3組のマイクロプレートに洗浄用としてddHOを加えた。サンプルプレートにサンプルを投入し終えたあとは、プラスチック製のソフトカバーを被せた。走査温度は25℃で開始し、100℃で終了させた。また、走査速度は150℃/hとした。具体的な結果は表4に示す通りとなった。サンプル17V01、17V05及び17V06のタンパク質はいずれも良好な熱安定性を示した。
【0094】
【表4】
【0095】
(実施例9)
抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質の加速・熱安定性研究
前段階の研究より、二機能性融合タンパク質に天然型D2ドメイン配列を使用した場合には、いくつかの製剤組成の加速・熱安定性研究において、少量の重鎖に断裂が生じることが分かった。そこで、138番目のメチオニンを突然変異させて、改変後の分子の製剤組成における加速・熱安定性を考察した。
【0096】
17V01、17V05、17V06及び17V07タンパク質を、それぞれ、PBS緩衝液又はヒスチジン緩衝液(L-ヒスチジン
0.34mg/ml、ヒスチジン塩酸塩一水和物 1.64mg/ml、アルギニン塩酸塩 5mg/ml、α,αトレハロース二水和物 50.0mg/ml、ポリソルベート80
0.4mg/ml、pH5.5±0.5)中に限外濾過濃縮し、タンパク質濃度を5~10mg/mLの間とした。これを37℃で4週間培養したあと、サンプリングして、遠心分離、限外濾過及び脱塩処理を行った。次に、限外濾過及び脱塩後のタンパク質を100μg取り、濃度500000U/mlのNEB
PNGase F(NEB社より購入。Cat.#P0704L)を1μl加え、37℃で2時間培養したあと、1MのDTT(上海生工社より購入。Cat.#A620058)を終濃度50mMとなるまで加え、37℃で30分間培養した。そして、50mMのNHHCOを用い、タンパク質濃度が1.5mg/mlとなるまでサンプルを希釈して、均一に混合したあと、10分間遠心分離にかけた(回転速度≧12000rpm)。続いて、ACQUITY
UPLC BEH300 C4 1.7μm 2.1×50mmクロマトグラフィーカラムで分離したあと、融合タンパク質の重鎖の分子量を質量分析した(Waters
UPLC-XEVO G2 Q-TOF LC/MSシステム)。その結果、表5に示す通り、17V05、17V06及び17V07の分子は、天然型D2ドメイン配列を用いた17V01分子よりも加速・熱安定性に優れていた。
【0097】
【表5】
【0098】
(実施例10)
レーザ光で誘導したマウス脈絡膜新生血管モデルにおける抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質の抑制作用
レーザ光照射によりマウスの眼底に脈絡膜血管新生及び漏出を誘導し、IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質による血管新生及び漏出に対する抑制作用を検証した。
【0099】
ゾレチル(Zoletil)(25~50mg/kg,i.p.)+キシラジン塩酸塩注射液(5mg/kg,i.p.)を用いて、11~12週齢のメスのヒト化IL-17マウス(百奥賽図社より購入)に麻酔をかけた。そして、532nmのレーザ光を用い、両目の視神経乳頭から1.5~2PD部分の視神経乳頭周りの3点を等距離で光凝固させることで、3つのレーザスポットを焼き付けた。レーザ光でモデルを作製したあとは、すぐにOCT検査を行ってブルッフ膜の破損有無を確認するとともに、ブルッフ膜に破損がないスポット、或いは、網膜に出血が生じたスポットを除去した。レーザ光によるモデル作製から6日目(day6)にFFA検査を行い、発生した漏出スポットに基づき群分けした。そして、抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質投与群には17V05(17.49mg/mL)を2μL注射し、アフリベルセプト投与群にはアフリベルセプト(10mg/mL)を2μL注射し、対照群にはPBSを2μL注射することで、両眼の硝子体内に注射を1回行った。また、投与から7日後(day14)に再びFFA検査を行い、ハイデルベルグスペクトラリスシステムを用いてマウス生体のCNV漏出を観察した。且つ、FFA初期(1分以内)及び後期(3分後)を撮像し、蛍光漏出面積を統計するとともに、蛍光漏出状況に基づき評価・レベル分けを行った(レベルI~IV)。
レベルI 強い蛍光は見られない
レベルII 病巣の初期又は中期は高蛍光を示すが、漏出は見られない
レベルIII 病巣の初期は高蛍光を示し、後期には漏出が見られる
レベルIV 病巣の初期は明るい高蛍光を示す。また、後期には漏出が見られ、且つ熱傷領域の境界を超えている
【0100】
検査の完了後、動物に大量の二酸化炭素を吸入させ、頸椎脱臼により安楽死させたあと、実験動物の両目の眼球を採取して、4%のPFAにより室温で2時間固定した。そして、予め冷却しておいたPBSに交換したあと、眼球を解剖して前区組織、水晶体、硝子体、網膜を切り取り、RPE/Choroidを含むプレパラートを保持して免疫蛍光染色を行った。検査指標はisolectin
B4、DAPIとし、病巣ごとに同じ倍率及び蛍光で撮像するとともに、imageJでCNV面積を算出し、統計・分析を行った。
【0101】
図6は、投与から7日後と投与前との比較である。血管漏出面積の変化率については、等モルの投与濃度の場合、IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質及びアフリベルセプトはいずれも漏出面積を有効に減少させることができた。また、IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質の薬効の方が優れていた。図7は、レベル3~4の漏出スポットの統計データである。投与から7日後(day14)に、IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質を投与した実験群は、レベル3~4の漏出スポット数がネガティブコントロール群に比べて明らかに低下した。また、その効果はポジティブコントロールであるアフリベルセプトよりも優れていた。図8は、脈絡膜のプレパラートを作製したあとにIB4免疫蛍光染色を行うことで、投与から7日後のマウスの眼底新生血管面積を測定したものである。IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質を投与した実験群は、新生血管面積がネガティブコントロール群に比べて明らかに低下した。また、その効果はポジティブコントロールであるアフリベルセプトよりも優れていた。
【0102】
実験結果を総括すると、IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質はマウスの眼底の脈絡膜血管新生及び漏出を有効に抑制可能であり、且つ、その効果はポジティブコントロールであるアフリベルセプトよりも優れていることが分かった。
【0103】
以上の実施例は、本発明で開示した実施方案を説明するためのものであって、本発明を制限するものと解釈すべきではない。また、本文中に列挙した各種の修正及び発明の方法の変更は、本発明の範囲及び精神を逸脱しないことを前提に、当業者にとって自明である。なお、本発明における複数の具体的な好ましい実施例を組み合わせて本発明につき具体的に記載したが、理解すべき点として、本発明はこれらの具体的実施例に限定すべきではない。実際に、当業者にとって自明の各種の上記修正により得られる発明は、いずれも本発明の範囲に含まれるものとする。
【0104】
【表6】
図1A
図1B
図1C
図1D
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図2G
図2H
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
2024544544000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2024-07-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗IL-17抗体と、VEGFに特異的に結合するタンパク質とを含み、前記VEGFに特異的に結合するタンパク質は、直接的又はコネクソンを介して前記抗IL-17抗体に連結され、前記VEGFに特異的に結合するタンパク質はVEGFR1の細胞外領域であることを特徴とする抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質。
【請求項2】
前記VEGFに特異的に結合するタンパク質はVEGFR1のD2ドメインであることを特徴とする請求項に記載の抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質。
【請求項3】
前記抗IL-17抗体の重鎖は相補性決定領域HCDR1~3を含み、HCDR1のアミノ酸配列はSEQ
ID NO:14に示す通りであり、HCDR2のアミノ酸配列はSEQ ID NO:15に示す通りであり、HCDR3のアミノ酸配列はSEQ ID NO:16に示す通りであり、前記抗IL-17抗体の軽鎖は相補性決定領域LCDR1~3を含み、LCDR1のアミノ酸配列はSEQ
ID NO:17に示す通りであり、LCDR2のアミノ酸配列はSEQ ID NO:18に示す通りであり、LCDR3のアミノ酸配列はSEQ ID NO:19に示す通りであることを特徴とする請求項1に記載の抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質。
【請求項4】
前記抗IL-17抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列はSEQ
ID NO:20に示す通りであり、前記抗IL-17抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列はSEQ ID NO:21に示す通りであることを特徴とする請求項1に記載の抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質。
【請求項5】
前記抗IL-17抗体の重鎖のアミノ酸配列はSEQ
ID NO:4に示す通りであり、軽鎖のアミノ酸配列はSEQ ID NO:1に示す通りであることを特徴とする請求項1に記載の抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質。
【請求項6】
VEGFR1のD2ドメインは野生型又は突然変異体であり、野生型VEGFR1のD2ドメインのアミノ酸配列はSEQ
ID NO:34に示す通りであることを特徴とする請求項に記載の抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質。
【請求項7】
VEGFR1のD2ドメインの突然変異体は、SEQ
ID NO:34に示すアミノ酸配列の138位が突然変異して形成されたものであることを特徴とする請求項に記載の抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質。
【請求項8】
VEGFR1のD2ドメインの突然変異体は、SEQ
ID NO:34に示すアミノ酸配列の138位が置換変異して形成されたものであることを特徴とする請求項に記載の抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質。
【請求項9】
VEGFR1のD2ドメインの突然変異体は、138M/A、138M/P又は138M/Tから選択されることを特徴とする請求項に記載の抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質。
【請求項10】
前記抗IL-17抗体の重鎖のC末端又はN末端はVEGFR1のD2ドメインに連結され、或いは、前記抗IL-17抗体の軽鎖のC末端又はN末端はVEGFR1のD2ドメインに連結されることを特徴とする請求項に記載の抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質。
【請求項11】
前記二機能性融合タンパク質の重鎖のアミノ酸配列は、SEQ
ID NO:2、SEQ ID NO:3、SEQ ID NO:4、SEQ ID NO:7、SEQ ID NO:8、SEQ ID NO:9又はSEQ ID NO:10に示す通りであり、前記二機能性融合タンパク質の軽鎖のアミノ酸配列は、SEQ
ID NO:1、SEQ ID NO:5又はSEQ ID NO:6に示す通りであることを特徴とする請求項1に記載の抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質をコードすることを特徴とする核酸分子。
【請求項13】
前記核酸分子は、前記抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質の重鎖の核酸配列SEQ
ID NO:25、SEQ ID NO:26、SEQ ID NO:27、SEQ ID NO:30、SEQ ID NO:31、SEQ ID NO:32又はSEQ ID
NO:33をコードし、前記抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質の軽鎖の核酸配列SEQ ID NO:24、SEQ ID NO:28又はSEQ ID NO:29をコードすることを特徴とする請求項12に記載の核酸分子。
【請求項14】
請求項12に記載の核酸分子を含むことを特徴とする発現ベクター。
【請求項15】
請求項14に記載の発現ベクターを含むことを特徴とする宿主細胞。
【請求項16】
請求項1~11のいずれか1項に記載の抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質の製造方法であって、
発現条件において、請求項15に記載の宿主細胞を培養することで、抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質を発現するステップa)と、
ステップa)の前記融合タンパク質を分離及び精製するステップb)と、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項17】
有効量の請求項1~11のいずれか1項に記載の融合タンパク質と、1種類又は複数種類の薬学的に許容可能な担体又は添加物とを含むことを特徴とする医薬組成物。
【請求項18】
請求項1~11のいずれか1項に記載の抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質、請求項17に記載の医薬組成物の、IL-17及び/又はVEGFを過剰発現する疾病の治療薬物の製造における使用。
【請求項19】
請求項1~11のいずれか1項に記載の抗IL-17/VEGF二機能性融合タンパク質、請求項17に記載の医薬組成物の、炎症性皮膚疾患又は眼科疾患の治療薬物の製造における使用。
【請求項20】
前記炎症性皮膚疾患は乾癬であり、及び/又は、前記眼科疾患は、糖尿病網膜症、脈絡膜血管新生疾患又は黄斑変性から選択されることを特徴とする請求項19に記載の使用。
【国際調査報告】