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特表2024-544565養子細胞移入免疫療法を増強する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-03
(54)【発明の名称】養子細胞移入免疫療法を増強する方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/48 20060101AFI20241126BHJP
   C12N 9/54 20060101ALI20241126BHJP
   C12N 9/42 20060101ALI20241126BHJP
   A61K 38/47 20060101ALI20241126BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20241126BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241126BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20241126BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241126BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20241126BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20241126BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20241126BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20241126BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
A61K38/48
C12N9/54 ZNA
C12N9/42
A61K38/47
A61K35/17
A61P43/00 105
A61P37/02
A61P35/00
A61P35/02
A61P37/06
A61P19/02
A61P29/00 101
A61P17/00
A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024528591
(86)(22)【出願日】2022-11-14
(85)【翻訳文提出日】2024-07-12
(86)【国際出願番号】 EP2022081841
(87)【国際公開番号】W WO2023084095
(87)【国際公開日】2023-05-19
(31)【優先権主張番号】63/279,398
(32)【優先日】2021-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517280580
【氏名又は名称】ハンサ バイオファーマ エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【弁理士】
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(72)【発明者】
【氏名】ランガナタン、ラグヴェール
(72)【発明者】
【氏名】ボッカーマン、ロバート
(72)【発明者】
【氏名】ロバートソン、アンナ-カリン
(72)【発明者】
【氏名】シェルマン、クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】ドッティ、ジャンピエトロ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA22
4C084BA23
4C084CA04
4C084DC07
4C084DC22
4C084MA02
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA811
4C084ZA891
4C084ZA961
4C084ZB071
4C084ZB081
4C084ZB151
4C084ZB211
4C084ZB261
4C084ZB271
4C084ZC541
4C084ZC751
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB37
4C087CA04
4C087MA02
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZA81
4C087ZA89
4C087ZA96
4C087ZB07
4C087ZB08
4C087ZB15
4C087ZB21
4C087ZB26
4C087ZB27
4C087ZC54
4C087ZC75
(57)【要約】
本発明は、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を投与することにより、免疫グロブリン軽鎖を標的とする養子細胞移入免疫療法を増強する方法に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を、免疫グロブリン軽鎖を標的とする養子細胞移入免疫療法と組み合わせて投与することを含む、前記養子細胞移入免疫療法の患者にとっての利益を改善する方法。
【請求項2】
IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を、免疫グロブリン軽鎖を標的とする養子細胞移入免疫療法と組み合わせて投与することを含む、がんを治療する方法。
【請求項3】
前記IgGシステインプロテアーゼ若しくはIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質が、前記養子細胞移入免疫療法が施される前に投与される、又は前記IgGシステインプロテアーゼ若しくはIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質が、前記養子細胞移入免疫療法が施された後に投与される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を、免疫グロブリン軽鎖を標的とする養子細胞移入免疫療法を以前受けたことがある及び/又は受ける予定のある患者に投与することを含む、がんを治療する方法。
【請求項5】
前記IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を以前投与されたことがある及び/又は投与される予定のある患者に、免疫グロブリン軽鎖を標的とする養子細胞移入免疫療法を施すことを含む、がんを治療する方法。
【請求項6】
抗体媒介性自己免疫疾患を治療する方法であって、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を以前投与されたことがある及び/又は投与される予定のある患者に、免疫グロブリン軽鎖を標的とする養子細胞移入免疫療法を施すことを含み、
任意で、前記抗体媒介性自己免疫疾患が、若年性関節炎(特に、若年性特発性関節炎)、関節リウマチ、全身性粘液水腫性苔癬(硬化性粘液水腫)、グレーブス病、IgA駆動性水疱性皮膚症、IgG4駆動性水疱性類天疱瘡、シェーグレン症候群、及びループス乳腺炎からなる群から選択される方法。
【請求項7】
前記免疫グロブリン軽鎖を標的とする養子細胞移入免疫療法が、キメラ抗原受容体又はT細胞受容体を発現するT細胞、ナチュラルキラー細胞、又は樹状細胞を投与することを含む、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記キメラ抗原受容体又はT細胞受容体が、ヒトκ免疫グロブリン軽鎖又はヒトλ免疫グロブリン軽鎖等の免疫グロブリン軽鎖と特異的に結合するscFv等の結合ドメインを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記養子細胞移入免疫療法において投与された細胞の活性、生存率、及び/又は増殖を増加させる、請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記養子細胞移入免疫療法において投与された細胞の、抗体媒介性補体沈着、補体依存性細胞傷害(CDC)、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、抗体依存性細胞貪食(ADCP)、消耗、受容体活性化細胞死、受容体ブロック、及び/又は免疫グロブリン架橋を低減する、請求項1~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記疾患ががんであり、前記がんがB細胞リンパ腫又はB細胞白血病等のB細胞新生物である、請求項1~10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
(i)前記IgGシステインプロテアーゼ活性を有するタンパク質が、化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)等の連鎖球菌由来のIgGシステインプロテアーゼであり、任意で、前記タンパク質が、IdeS又はIdeZである;あるいは
(ii)前記IgGエンドグリコシダーゼ活性を有するタンパク質が、化膿性連鎖球菌、腺疫菌(Streptococcus equi)、若しくはストレプトコッカス・ズーエピデミカス(Streptococcus zooepidemicus)等の連鎖球菌由来、又はヒツジ偽結核菌(Corynebacterium pseudotuberculosis)、大便連鎖球菌(Enterococcus faecalis)、若しくはエリザベトキンギア・メニンゴセプティカ(Elizabethkingia meningoseptica)由来のIgGエンドグリコシダーゼであり、任意で、前記タンパク質が、EndoS、CP40、EndoE、又はEndoFである、請求項1~11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
(i)前記IgGシステインプロテアーゼ活性を有するタンパク質が、配列番号2、4、5、若しくは91のアミノ酸配列、又はIgGシステインプロテアーゼ活性を有するその断片若しくはバリアントを含むか又はからなるポリペプチドである、あるいは
(ii)前記IgGエンドグリコシダーゼ活性を有するタンパク質が、配列番号90のアミノ酸配列、又はIgGエンドグリコシダーゼ活性を有するその断片若しくはバリアントを含むか又はからなるポリペプチドである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
(i)前記IgGシステインプロテアーゼ活性を有するタンパク質が、配列番号2、4、5、若しくは91と少なくとも80%同一、例えば、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、若しくは少なくとも99%同一である配列を有するポリペプチドであるか、又は前記IgGシステインプロテアーゼが、配列番号6~25及び55~69のいずれか1つの配列を含むか若しくはからなり、任意で、前記配列が、N末端に追加のメチオニン及び/又はC末端にヒスチジンタグを含む;あるいは
(ii)前記IgGエンドグリコシダーゼ活性を有するタンパク質が、配列番号90と少なくとも80%同一、例えば、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも99%同一である配列を有するポリペプチドである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
免疫グロブリン軽鎖を標的とする養子細胞移入免疫療法のための患者のコンディショニング又は準備において使用するための、免疫グロブリン軽鎖を標的とする養子細胞移入免疫療法の患者にとっての利益の改善において使用するための、あるいは免疫グロブリン軽鎖を標的とする養子細胞移入免疫療法を受けているか又は受ける予定のある患者において、血漿IgGレベルの低下又は血漿IgG分子による補体若しくはFc受容体の結合の減少において使用するための、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫グロブリン軽鎖を標的とする養子細胞移入免疫療法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
養子細胞移入免疫療法は、がんを含む様々な疾患を治療するための療法の新たに確立されたクラスである。固形腫瘍又は造血器起源の腫瘍の治療では、理想的には腫瘍関連抗原に特異的な患者のT細胞をインビトロで増幅させた後、再注入する。T細胞の数、特異性、活性、及び有効性が、これら治療の制限要因である。腫瘍回避の例示的な要因の1つは、腫瘍抗原の提示に必要なHLAのダウンレギュレーションである。
【0003】
キメラ抗原受容体(CAR)でトランスフェクトされた細胞は、患者自身のNK細胞及びT細胞が本来持っている細胞溶解能を利用した細胞ベースの免疫療法の新興分野である。これら改変された自己細胞は、腫瘍特異的scFvドメインからその特異性を受け取る、細胞表面で発現するキメラ抗原受容体(CAR)の導入を通して、B細胞悪性腫瘍又は結腸がん若しくは乳がんのような固形腫瘍に対するものになり得る。キメラ抗原受容体(CAR)発現T細胞は、細胞傷害性T細胞の抗腫瘍活性と腫瘍関連抗原特異的抗体由来のscFvエレメントの特異性及び親和性とを併せ持つ。自己T細胞は、選択したCARでインビトロにおいてトランスフェクトする前に、患者から十分な数を収集することができる。更に増幅させると、HLA非依存性の腫瘍特異的細胞傷害性T細胞が大量に得られる。
【0004】
リンパ系悪性腫瘍を治療するための、免疫グロブリン軽鎖を標的とする養子細胞移入免疫療法が開発中である(Ranganathan et al.,Clin Cancer Res,2021及びVera et al.,Blood 2006;108)。Bリンパ球は、κ又はλの軽鎖のいずれかを有する表面単クローン性免疫グロブリンを発現し、多くのリンパ系悪性腫瘍でも同様である。従って、リンパ系悪性腫瘍が発現する免疫グロブリン軽鎖を標的とした養子細胞移入免疫療法は、抗がん活性を有することが期待される。他の免疫グロブリン軽鎖系列を発現する非がん細胞は養子細胞移入免疫療法の影響を受けないので、このような養子細胞移入免疫療法は患者の免疫に対する悪影響も最小限に抑えられると予測される。
【0005】
CAR T細胞(CAR-T)療法の有効性は、注射後の患者におけるCAR T細胞の生存及び活性の持続性によって制限される可能性がある。しかし、CAR T細胞の生存及び有効性を制限する要因については、まだ十分には検討されておらず、議論の余地がある。理論的には、CAR T細胞に対する体液性応答が、抗体媒介性エフェクター機構を誘発し得るにもかかわらず、CAR T細胞の成功の制限要因が抗体によって引き起こされることを示す直接的証拠はほとんど見出されていない。その代わり、CD19のような標的抗原の喪失(Majzner and Mackall,2018,Cancer Discov.,8(10):1219-26)、CAR T細胞の欠如の多機能性(Rossi et al.,2018,Blood,132(8):804-814)、又は腫瘍浸潤の欠如(Newick et al.,2017,Annu.Rev.Med.68:139-152)に起因する腫瘍回避は、CAR T細胞の成功についての懸念事項である。反復注入の失敗は、例えばCAR T細胞のHLAにおけるscFvによるマウスペプチドの提示によって引き起こされるT細胞媒介性細胞傷害に起因することが多い(Turtle et al.,-2016,J.Clin.Invest.,126(6):2123-2138)。これと一致して、FDAに承認されたCAR T細胞であるチサゲンレクロイセル(Kymriah)は、既存の及び誘導された体液性免疫の影響を受けないといわれている(Thudium-Muller,J.Clin.Oncology,36(15),2018)。
【0006】
免疫グロブリンG分解システインプロテアーゼであるイムリフィダーゼ(IdeS)は、現在、腎移植における迅速脱感作治療として開発中のIgGエンドペプチダーゼである。イムリフィダーゼは特異性が高く、ヒトIgGの全てのサブクラスを切断する。イムリフィダーゼは、抗体薬物製品を投与する際のFc受容体についての競合を低減するのに有用であり得る(国際公開第2016/012285号)。
【0007】
がんを治療するための改善された方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を、免疫グロブリン軽鎖を標的とする養子細胞移入免疫療法と組み合わせて投与することを含む、該養子細胞移入免疫療法の患者にとっての利益を改善する方法を提供する。本発明者らは、免疫グロブリン軽鎖を標的とする養子細胞移入免疫療法の有効性が、血漿中の免疫グロブリンによる細胞の刺激によって低下し、細胞の消耗及び機能低下を引き起し得ることを明らかにした。加えて、CAR-T細胞等の移入細胞の生存期間及び持続的活性が限られていることにより、免疫グロブリン軽鎖を標的とする養子細胞移入免疫療法の有効性が制限され得る。本発明者らは、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質が、可溶性免疫グロブリンを除去及び/又は不活性化し、オフ腫瘍細胞刺激を低減し、ひいては抗がん活性を向上させ得ることを実施例で示した。更に、免疫グロブリン軽鎖を標的とする養子細胞移入免疫療法の有効性は、細胞表面受容体が可溶性免疫グロブリンに結合することにより低下し、これにより、養子細胞移入免疫療法と標的腫瘍細胞との相互作用がブロックされ得る。IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質は、可溶性抗体を消化し、腫瘍上の標的への受容体の結合を増加させるのに有効であり得る。本発明者らはまた、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質が、移入細胞を保護し得ることも実施例で示した。具体的には、本発明者らは、既存の抗体及び移入細胞の投与後に作製された抗体を含む細胞表面受容体特異的抗体が、移入細胞の潜在力を短縮する可能性があり、移入細胞の治療効果は、レシピエントのコンディショニングを通して抗体のエフェクター機能を除去することから利益を得られることを明らかにした。免疫グロブリン軽鎖を標的とする養子細胞移入免疫療法によって結合する可溶性抗体もまた、移入細胞に対して同様の有害作用を及ぼす可能性がある。従って、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を投与することにより、移入細胞の生存及び活性を高め、改善された養子細胞移入免疫療法による治療を提供することができる。また、本発明者らは、例えばCAR-T細胞の受容体コンストラクトに対する細胞表面受容体特異的抗体及び他の細胞ベースの治療薬が、受容体とその標的タンパク質との相互作用に干渉し得ること、並びにIgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質が、抗体を消化し、受容体のその標的に対する結合を増加させるのに有効であることを明らかにした。
【0009】
実施例で実証する通り、IgGシステインプロテアーゼであるイムリフィダーゼ(IdeS)で処理すると、可溶性免疫グロブリンの存在下において免疫グロブリン軽鎖を標的とするCAR-T細胞によるサイトカイン産生を減少させるか又は阻止することができる。実施例で更に実証する通り、IgGシステインプロテアーゼであるイムリフィダーゼ(IdeS)及びIgGエンドグリコシダーゼであるEndoSで処理すると、CAR-T細胞に対する抗体及び他の細胞ベースの治療薬の制限エフェクター機能の一部を軽減する。従って、本発明は、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を、免疫グロブリン軽鎖を標的とする養子細胞移入免疫療法と組み合わせて投与することを含む、該養子細胞移入免疫療法の患者にとっての利益を改善する方法を提供する。好ましい実施形態では、本発明は、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を、免疫グロブリン軽鎖を標的とする養子細胞移入免疫療法と組み合わせて投与することを含む、がん、特にB細胞新生物を治療する方法を提供する。
【0010】
CAR-T療法及び免疫グロブリン軽鎖を標的とする他の養子細胞移入免疫療法の制限要因の1つは、抗カッパ及び抗ラムダのCARコンストラクトが血漿中の免疫グロブリンに結合することであり得る。これにより、腫瘍外でCAR-T細胞が刺激され、その結果、細胞が消耗し、機能低下する可能性がある。その結果、患者内に可溶性免疫グロブリンが存在すると、CAR-Tがより速く消耗し、最大の腫瘍細胞傷害が達成できなくなる可能性がある。更に、可溶性免疫グロブリンはCAR-T療法と腫瘍細胞上のその標的との間の相互作用をブロックし得る。本発明によれば、IgGシステインプロテアーゼ及びIgGエンドグリコシダーゼを使用して、血漿免疫グロブリンによるCAR-T細胞のオフ腫瘍刺激及び結合を低減することができる。血漿免疫グロブリンが切断されると、その安定性及び半減期が減少し、たとえ血漿免疫グロブリンが完全には破壊されなくても(例えば、抗体の断片が残る)CAR-T細胞に対する有害作用が減少する。また、免疫グロブリンを切断することでCARとFcgRとの間の架橋が阻止され得るが、これを阻止しなければ、オフ腫瘍活性化及び疲弊につながる可能性がある。
【0011】
CAR-T療法及び他の養子細胞移入免疫療法の更なる制限要因の1つは、補体依存性細胞傷害(CDC)、抗体依存性細胞貪食(ADCP)、抗体依存性細胞傷害(ADCC)のような様々な抗体媒介性エフェクター機構、浸透圧刺激又は受容体活性化誘導性細胞死に起因する消耗を通じてその有効性に影響を及ぼす、CARコンストラクトに対する天然に存在する既存の抗体である可能性がある。注射後、このような抗体により、患者におけるCAR T細胞の生存及び活性の持続性が低下する可能性がある。CAR-T細胞を注入すると、キメラ受容体に対する抗体レベルの上昇が誘導され、それにより、最初の治療過程においてCARとその標的細胞との相互作用が妨げられると共に、その増幅及び持続が制限される可能性さえある。2回目の治療ラウンドの成功は、抗薬物抗体(ADA)のレベルが上昇し、恐らく親和性もより高くなることから、更により困難になる可能性がある。CAR T細胞が自己起源の細胞であったとしても、キメラ受容体によって導入される変化及びT細胞トランスフェクションプロセスからのウイルス抗原の発現により、宿主の免疫応答に対して脆弱な細胞となる。一部の免疫原性部分は、受容体の構成要素間の接合領域である場合もあるが、最も顕著なのはscFv部分であり、これは、CAR-T開発の初期段階では、例えば腫瘍特異的マウスIgGから取られたものであった。その後のCARコンストラクトでは、外来エピトープの数を減らすためにヒト化IgGを用いることが多いにもかかわらず、これらscFvは依然として抗原結合ドメインにネオエピトープを含有している。これら外来エピトープは、細胞性宿主T細胞応答の抗原となり得、CAR T細胞の生存を制限することが示されている(Harding et al.,2010,MAbs,2(3):256-65,Meunier et al.,2019,Cell.& Mol.Immunology)。 一方、実施例のデータは、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質が、移入細胞の生存及び活性を高め、細胞表面受容体特異的抗体の不活性化を通じて改善された治療を提供し得ることを実証する。免疫グロブリン軽鎖を標的とする養子細胞移入免疫療法により結合した可溶性抗体もまた、移入細胞に対する同様の抗体媒介性エフェクター機構を活性化することができ、本発明に従ってIgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を用いると、これら悪影響を低減することができる。
【0012】
CAR T細胞等の移入細胞の活性、増幅、及び生存が抗体によって影響を受け得る機序としては、様々な可能性がある。例えば、CAR特異的抗体は、補体沈着CDC及び/又はADCPによってCAR T細胞の破壊を促進し得る。また、細胞表面受容体に結合した可溶性抗体も、同じ機序によってCAR-T細胞の破壊を促進し得る。実施例は、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質が、これらプロセスを軽減し、それによって、養子細胞移入免疫療法を改善するのに有効であり得ることを実証する。また、抗体自体が受容体に結合することで、ADCC、消耗、又は受容体活性化誘導性細胞死を引き起こす可能性もある。IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質はまた、これらプロセスを軽減するのにも有用であろう。
【0013】
これら開発に鑑みて、本発明は、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を、免疫グロブリン軽鎖を標的とする養子細胞移入免疫療法と組み合わせて投与することを含む、免疫グロブリン軽鎖を標的とする養子細胞移入免疫療法の患者にとっての利益を改善する方法を提供する。好ましくは、免疫療法はがん療法であり、より好ましくはB細胞新生物に対する療法である。他の実施形態では、免疫療法は、抗体媒介性自己免疫疾患に対する療法である。任意で、疾患は、若年性関節炎(特に、若年性特発性関節炎)、関節リウマチ、全身性粘液水腫性苔癬(硬化性粘液水腫)、グレーブス病、IgA駆動性水疱性皮膚症、IgG4駆動性水疱性類天疱瘡、シェーグレン症候群、及びループス乳腺炎からなる群から選択される。
【0014】
特定の実施形態では、タンパク質は、養子細胞移入免疫療法の前に投与される。タンパク質を事前に投与することで、血漿から免疫グロブリンを除去及び/又は不活性化し、投与された際の細胞の抗がん活性を最大化することができる。実施例はまた、IdeS及びEndoSが既存の抗体を不活性化するのに有効であることを実証し、例えば、IdeS及びEndoSは、補体源又はエフェクター細胞の添加前に使用した場合に有効であった。また、実施例では、養子細胞移入免疫療法を施されたことのない健常個体及びHLA感作患者の血清中に存在する抗体が、受容体コンストラクト及びCAR T細胞等の細胞に結合し、ADCP、ADCC、及び標的結合への干渉等の有害な作用を媒介し得(このような同種抗体は、例えば、妊娠又は輸血によって誘導され得る)、その全てをIdeS処理によって低減し得ることが実証される。特定の実施形態では、タンパク質は、養子細胞移入免疫療法を施した後に投与される。実施例は、抗血小板特異的抗体の後にIdes及びEndoSを投与した場合に免疫性血小板減少症が低減されたことから、Ides及びEndoSが、誘導された抗体の不活性化に有効であることを実証する。また、実施例は、ヒト血清中に存在する同種抗体がCAR-T細胞等の養子細胞移入免疫療法細胞に悪影響を及ぼし得ること、及び本発明のタンパク質がそのような悪影響を低減又は阻止できることを実証する。養子細胞移入免疫療法は、このような同種抗体を誘導し得るので、本発明のタンパク質は、養子細胞移入免疫療法の投与後に投与した場合に有用である可能性がある。
【0015】
本発明はまた、養子細胞移入免疫療法の患者にとっての利益を改善する方法、養子細胞移入の一部として投与される細胞の生存期間を延長する及び/又は増殖を増強する方法、養子細胞移入免疫療法のために患者をコンディショニング又は準備する方法、養子細胞移入免疫療法を受けているか若しくは受ける予定のある患者における血漿IgGレベルを低下させる又は血漿IgG分子による補体及び/若しくはFc受容体結合を低減する方法であって、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を投与することを含む方法も提供する。本発明のポリペプチドについて実施例で示す効果は、そのような方法において大きな利益をもたらすであろう。好ましくは、免疫療法はがん療法であり、より好ましくはB細胞新生物に対する療法である。
【0016】
本発明はまた、免疫グロブリン軽鎖を標的とする養子細胞移入免疫療法の前、後、又は同時に、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を投与することを含む、養子細胞移入療法の効力を増大させる又は養子細胞移入療法の細胞表面受容体とその標的との間の結合を増加させる方法も提供する。実施例は、本発明のポリペプチドが、そのような効力及び結合を増大させるのに有効であることを実証する。好ましいそのような実施形態では、標的はカッパ軽鎖又はラムダ軽鎖であり、好ましくは、細胞表面受容体は抗カッパ又は抗ラムダのCARである。
【0017】
本発明の任意の方法の特定の実施形態では、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質は、養子細胞移入療法により結合し、細胞消耗を引き起こす血漿中の免疫グロブリンを除去及び/又は不活性化することにより、養子細胞移入免疫療法の患者にとっての利益を改善するか又はがんの治療を改善する。また、本発明の任意の方法の特定の実施形態では、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質は、養子細胞移入療法の細胞表面受容体のその標的への結合を阻害するIgG抗体を除去することにより、養子細胞移入免疫療法の患者にとっての利益を改善するか又はがんの治療を改善する。該抗体は、細胞表面受容体、特にCARに結合する場合もあり、又はCARアダプター分子に結合する場合もあり、又は標的自体に結合する場合もあり、そして、受容体とその標的との結合を立体障害的に阻害し得る。
【0018】
好ましい実施形態では、本発明の方法は、IgGシステインプロテアーゼを使用する。特に好ましい実施形態では、IgGシステインプロテアーゼは、IdeS又はIdeZのポリペプチド、最も好ましくはIdeSポリペプチド、例えば、配列番号2、4、5、又は91と少なくとも80%同一、例えば、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも99%同一である配列を有するポリペプチドである。実施例は、このようなポリペプチドが細胞を保護し、循環している免疫グロブリンを除去及び/又は不活性化するのに有効であることを実証する。
【0019】
更なる実施形態では、IgGエンドグリコシダーゼは、EndoSポリペプチド、例えば、配列番号90と少なくとも80%同一、例えば、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも99%同一である配列を有するポリペプチドである。実施例は、このようなポリペプチドが細胞を保護し、循環している免疫グロブリンを除去及び/又は不活性化するのに有効であることを実証する。
【0020】
本発明の特に好ましい実施形態では、方法は、B細胞新生物の治療において、IdeSポリペプチドを、免疫グロブリン軽鎖を標的とするCAR-T療法と組み合わせて投与することを含む。
【0021】
特に好ましい実施形態では、本発明の方法は、養子細胞免疫療法前にIdeSポリペプチドを投与すること、例えば、免疫グロブリン軽鎖を標的とする養子細胞免疫療法を受ける予定のある患者にIdeSポリペプチドを投与することを含む。このような方法によって、低減しなければ細胞療法の効果が消耗及び低下する可能性がある、又は細胞療法と腫瘍細胞上のその標的との間の相互作用をブロックする可能性がある、血漿中の免疫グロブリンが低減される。
【0022】
本発明はまた、本発明の方法において使用するための、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を含む組成物、特に医薬組成物を提供する。
【0023】
本発明の任意の態様の好ましい実施形態では、養子細胞免疫療法は、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を発現しない。本発明の任意の態様の好ましい実施形態では、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質は、単離されたタンパク質又は単離されたタンパク質を含む組成物の形態で患者に投与される。この措置は有利であるが、その理由は、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質は、移入細胞と直接結合しないので、腫瘍細胞が発現する免疫グロブリン軽鎖を切断する可能性が低いためである。養子細胞免疫療法とIgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質とは、同時に投与する場合であっても、別々の組成物で別々に投与することができる。このようなアプローチは、例えば、投与された養子細胞免疫療法の活性を最大化するために、血漿免疫グロブリンを全身的に除去又は不活性化することができるため、特に有効であると予測される。
【0024】
本発明の特定の実施形態では、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質は、養子細胞免疫療法によって標的とされる可溶性免疫グロブリンを不活性化するために使用され、養子細胞免疫療法に対する抗薬物抗体を不活性化するためには使用されない。特定の実施形態では、本発明に従って治療される患者は、養子細胞免疫療法に対する抗薬物抗体を有していないか、又はそのような抗体を有しているとは予測されず、疑われもしない。
【0025】
本発明の更なる実施形態は、以下の付番された段落に提供される。
1. IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を、免疫グロブリン軽鎖を標的とする養子細胞移入免疫療法と組み合わせて投与することを含む、該養子細胞移入免疫療法の患者にとっての利益を改善する方法。
2. IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を、免疫グロブリン軽鎖を標的とする養子細胞移入免疫療法と組み合わせて投与することを含む、がんを治療する方法。
3. IgGシステインプロテアーゼ若しくはIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質が、養子細胞移入免疫療法を施す前に投与される、又はIgGシステインプロテアーゼ若しくはIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質が、養子細胞移入免疫療法を施した後に投与される、又はIgGシステインプロテアーゼ若しくはIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質が、2回目以降の養子細胞移入免疫療法を施す前に投与される、実施形態1又は2に記載の方法。
4. IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を、免疫グロブリン軽鎖を標的とする養子細胞移入免疫療法を以前受けたことがある及び/又は受ける予定のある患者に投与することを含む、がんを治療する方法。
5. IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を以前投与されたことがある及び/又は投与される予定のある患者に、免疫グロブリン軽鎖を標的とする養子細胞移入免疫療法を施すことを含む、がんを治療する方法。
6. 抗体媒介性自己免疫疾患を治療する方法であって、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を以前投与されたことがある及び/又は投与される予定のある患者に、免疫グロブリン軽鎖を標的とする養子細胞移入免疫療法を施すことを含み、
任意で、該抗体媒介性自己免疫疾患が、若年性関節炎(特に、若年性特発性関節炎)、関節リウマチ、全身性粘液水腫性苔癬(硬化性粘液水腫)、グレーブス病、IgA駆動性水疱性皮膚症、IgG4駆動性水疱性類天疱瘡、シェーグレン症候群、及びループス乳腺炎からなる群から選択される方法。
7. 養子細胞移入免疫療法が、キメラ抗原受容体又はT細胞受容体を発現するT細胞、ナチュラルキラー細胞、又は樹状細胞を投与することを含む、実施形態1~6のいずれかに記載の方法。
8. キメラ抗原受容体又はT細胞受容体が、ヒトカッパ免疫グロブリン軽鎖又はヒトラムダ免疫グロブリン軽鎖等の免疫グロブリン軽鎖と特異的に結合するscFv等の結合ドメインを含む、実施形態7に記載の方法。
9. がんを治療する方法であり、該がんが、B細胞新生物、例えば、B細胞リンパ腫又はB細胞白血病である、実施形態1~8のいずれかに記載の方法。
10. がんが、前駆B細胞急性リンパ芽球性白血病/リンパ芽球性リンパ腫(LBL)、B細胞急性リンパ芽球性白血病;B細胞慢性リンパ球性白血病(CLL);小リンパ球性リンパ腫;B細胞性前リンパ球性白血病;リンパ形質細胞性リンパ腫/免疫細胞腫;マントル細胞リンパ腫;濾胞性リンパ腫;粘膜関連リンパ組織(MALT)型の節外性辺縁帯B細胞リンパ腫;節性辺縁帯B細胞リンパ腫;脾性辺縁帯リンパ腫;ヘアリーセル白血病;形質細胞腫/形質細胞骨髄腫;びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(原発性縦隔B細胞リンパ腫等)、バーキットリンパ腫、バーキット様リンパ腫;原発性中枢神経系(CNS)リンパ腫、及び原発性眼内リンパ腫からなる群から選択される、実施形態9に記載の方法。
11. 養子細胞移入免疫療法において投与される細胞の活性を増大させる、実施形態1~10のいずれかに記載の方法。
12. 養子細胞移入免疫療法において投与される細胞の生存率及び/又は増殖を増大させる、実施形態1~11のいずれかに記載の方法。
13. 養子細胞移入免疫療法において投与される細胞の抗体媒介性補体結合、補体依存性細胞傷害(CDC)、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、抗体依存性細胞貪食(ADCP)、消耗、及び/又は受容体活性化細胞死を低減する、実施形態1~12のいずれかに記載の方法。
14. (i)IgGシステインプロテアーゼ活性を有するタンパク質が、化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)等の連鎖球菌由来のIgGシステインプロテアーゼであり、任意で、該タンパク質が、IdeS又はIdeZである;あるいは
(ii)IgGエンドグリコシダーゼ活性を有するタンパク質が、化膿性連鎖球菌、腺疫菌(Streptococcus equi)、若しくはストレプトコッカス・ズーエピデミカス(Streptococcus zooepidemicus)等の連鎖球菌由来、又はヒツジ偽結核菌(Corynebacterium pseudotuberculosis)、大便連鎖球菌(Enterococcus faecalis)、若しくはエリザベトキンギア・メニンゴセプティカ(Elizabethkingia meningoseptica)由来のIgGエンドグリコシダーゼであり、任意で、該タンパク質が、EndoS、CP40、EndoE、又はEndoFである、実施形態1~13のいずれかに記載の方法。
15. (i)IgGシステインプロテアーゼ活性を有するタンパク質が、配列番号2、4、5、若しくは91のアミノ酸配列、又はIgGシステインプロテアーゼ活性を有するその断片若しくはバリアントを含むか又はからなるポリペプチドである、あるいは
(ii)IgGエンドグリコシダーゼ活性を有するタンパク質が、配列番号90のアミノ酸配列、又はIgGエンドグリコシダーゼ活性を有するその断片若しくはバリアントを含むか又はからなるポリペプチドである、実施形態14に記載の方法。
16. (i)IgGシステインプロテアーゼ活性を有するタンパク質が、配列番号2、4、5、若しくは91と少なくとも80%同一、例えば、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、若しくは少なくとも99%同一である配列を有するポリペプチドであるか、又は該IgGシステインプロテアーゼが、配列番号6~25及び55~69のいずれか1つの配列を含むか若しくはからなり、任意で、該配列が、N末端に追加のメチオニン及び/又はC末端にヒスチジンタグを含む;あるいは
(ii)IgGエンドグリコシダーゼ活性を有するタンパク質が、配列番号90と少なくとも80%同一、例えば、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも99%同一である配列を有するポリペプチドである、実施形態14に記載の方法。
17. 免疫グロブリン軽鎖を標的とする養子細胞移入免疫療法のための患者のコンディショニング又は準備において使用するための、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質。
18. 免疫グロブリン軽鎖を標的とする養子細胞移入免疫療法の患者にとっての利益の改善において使用するための、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質。
19. 免疫グロブリン軽鎖を標的とする養子細胞移入免疫療法を受けているか又は受ける予定のある患者において、血漿IgGレベルの低下又は血漿IgG分子による補体若しくはFc受容体結合の減少において使用するための、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】抗体が標的とするDaudi細胞のC1q及びC4dの沈着は、IdeS又はEndoSによる処理によって避けることができる。Daudi細胞を、IdeS(A+B)又はEndoS(C+D)のタイトレーションと一緒に約2時間RTX(又はIgG1アイソタイプ対照)と共にインキュベートした後、更に2時間にわたってヒト血清補体を添加した。細胞を分注し、抗ヒトC1q(A+C)又はC4d(B+D)で染色し、続いて、SA-PEで最終検出を行った。Accuri C6フローサイトメーターを用いて、FL2中の細胞を分析した。MFI値を記載する。
図2】ADCCは、IdeS又はEndoSで阻止又は低減させることができる。CD20陽性Daudi細胞を、50μg/mLのIdeS(四角)、EndoS(三角)、又は培地(菱形)と一緒にRTX(0.2μg/mLから50μg/mLまでタイトレート)と共にインキュベートした。補体源として仔ウサギ血清を添加することを通してCDCを誘導した。結果は、90分間インキュベーション後を100%とし、RTXなしの細胞生存率として正規化した。cell counting kit-8(CCK8)を用いて、細胞の細胞傷害性を評価した。正常陽性対照群には、治療のための酵素を投与せず、タイトレートしたRTXのみを投与した。これは、指定の濃度におけるRTXの最大毒性を表す。
図3】オプソニン化された標的細胞をIdeS処理することにより、ADCPが阻止される。カルセイン染色したDaudi細胞を、タイトレートしたRTX(7.5μg/mLから0.01μg/mLまで)でオプソニン化し、40μg/mLのIdeS(四角)、EndoS(三角)、又は酵素なし(培地のみ、菱形)のいずれかと共にインキュベートした後、FarRed染色したTHP1エフェクター細胞を添加した。2時間インキュベートした後に細胞を固定し、FL2及びFL4中でフローサイトメーターによって分析した。ゲーティングされたFL2陽性細胞を100%とした。この集団を、FL2単一陽性細胞とFL2-FL4二重陽性細胞とに更に分類し、これらをTHP1が貪食したDaudi細胞について読み取った。
図4】インビトロにおいてIdeSで切断された抗PLT抗体はITPを誘導しない。血小板減少性抗PLT IgG(250μg/マウス)は、単回注射後にBALB/cマウスにおいてITPを誘導した(四角)。1回切断された抗PLT IgG(三角)は、同用量でITPを部分的にしか誘導しなかったが、F(ab’)及びFcに完全に切断された抗PLT IgGは、正常血小板レベルに影響を与えなかった。マウスに、200μL PBS中0.25mg/マウスの精製IgGを腹腔内投与した。1日目に自動セルカウンターVetScan HM5を使用して血小板カウントを求めた。
図5】抗体によって誘導されるITPは、インビボにおけるIdeS処理で阻止することができる。精製したインタクトなウサギ抗マウス血小板IgG(0.25mg/マウス)を1回i.p.注射することにより、BALB/cマウスをITPのためにプライミングした。ITPの誘導の1時間後に、3つの異なる用量(0.2μg/マウス、2μg/マウス、20μg/マウス)のIdeSによる処理をi.v.投与した。「PBSのみ」(丸)処理群には、IdeSを投与せず、ITP誘導の陽性対照として抗PLT-IgGのみを投与した。担体溶液のみを投与したナイーブマウス(菱形)は、健常対照群を表す。1日目に自動セルカウンターVetScan HM5を使用して、血小板カウントを求めた。
図6】EndoSは、抗PLT抗体注射後であってもマウスにおけるITPを阻止する。BALB/cマウス(n=6/群)に、ITPのためのプライミングとして50μgの抗PLT IgGを注射した、又は正常レベルの血小板のための対照としてPBSのみ(丸)を注射した。30分後に、EndoS(10μg/マウス、30μg/マウス、90μg/マウス)による治療的i.p.注射を注射した。ITP誘導対照にはPBSを注射した(菱形)。24時間後に採血し、自動セルカウンターVetScan HM5を用いて血小板カウントについて分析した。
図7】抗CAR特異的抗体の同定-F(ab’)2特異的ポリクローナル抗体は、CAR T細胞受容体に特異的に結合する。ポリクローナルウサギ抗マウスF(ab’)2抗体(10μg/mL、1μg/mL)を、(A)抗CD19 CAR T細胞、及び(B)抗BCMA4 CAR T細胞、並びにそれぞれ陰性対照及び陽性対照としての(C)モックトランスフェクトT細胞及び(D)BCR発現Daudi細胞を含む初代CAR T細胞に対する結合について評価した。結合した抗F(ab’)2抗体を、ビオチン化抗ウサギFc及びSA-AF647を用いたフローサイトメトリー分析によって検出した。同様に、ポリクローナルウサギ抗マウスF(ab’)2及び抗ヒトF(ab’)2(10μg/mL)の結合も、FACS分析により抗CD19 CAR-Jurkat T細胞株(E)(CARJ-ZP005、Creative biolabs)を使用して評価し、MFIとして表した。
図8】HAMA及び抗CD19 CAR Jurkat T細胞アロ特異的血清の同定。(A)正常ヒト血清サンプル(BioIVT)を、認証されたサンドイッチELISAキット(Biolegend)を用いてヒト抗マウスIgG抗体(HAMA)についてスクリーニングした。HAMA陽性血清の閾値は、>10ng/mLとした。(B)ELISAでスクリーニングしたHAMA血清を、抗CD19-CAR-Jurkat T細胞と共にインキュベートした。Jurkat野生型細胞が、CAR陰性染色対照として機能した。PEコンジュゲートヤギ抗ヒトFc検出抗体と共にインキュベートした後、フローサイトメトリーによって細胞を分析した。(C)HAMA陽性及び陰性の血清を選択し、フローサイトメトリー分析によって抗CD19 CAR-Jurkat T細胞への特異的結合について更に試験した。更に、これら血清を使用して、抗CD19 CAR-Jurkat T細胞と共にIgGエフェクター機構についてアッセイした。(D)HLA感作された患者からの血清を、抗CD19-CAR-Jurkat T細胞に対する同種反応性についてスクリーニングした。HLAクラスIの陽性及び陰性の対照として、OneLambda製の血清を使用した。
図9】CAR特異的抗体によって誘導されるADCPは、イムリフィダーゼ処理によって阻止することができる-ADCPのための抗CD19 CAR-Jurkat T細胞のポリクローナル抗F(ab’)2抗体のオプソニン化は、イムリフィダーゼ処理によって阻止される。フローサイトメトリーベースのADCP分析のために、(A、B)抗CD19 CAR-Jurkat、(D、E)Jurkat野生型細胞、並びに(C、F)CD20及びBCR発現Daudi細胞を含む標的細胞を、カルセインAMで染色した後、指定濃度のイムリフィダーゼ処理したウサギの(A、C、D)抗マウスF(ab’)2又は(B、E、F)抗ヒトF(ab’)2と共にインキュベートした。単球性貪食性エフェクター細胞株THP-1を90分間標的細胞に添加する前にCellTrace FarRedで染色した。フローサイトメトリーによって貪食を評価した。貪食された標的細胞を反映する二重陽性細胞の量を、標的細胞の百分率として表す。
図10】イムリフィダーゼは、同種血清でオプソニン化された抗CD19 CAR-Jurkat T細胞によるADCPの誘導を阻止する。標的細胞である抗CD19-CAR-Jurkatを、イムリフィダーゼ(10μg/mL)処理の有り無しで、(A)健常ドナー及び(B)高度に感作された抗HLA患者からの血清でオプソニン化した。洗浄後、標的細胞をFcγRI発現レポーター細胞と共に37℃で6時間インキュベートして、ADCPを誘導させた。レポーター細胞が活性化した結果であるルシフェラーゼ活性を、ルミネセンスリーダーを用いて測定し、発光シグナル(RLU)を誘導値の平均倍率変化±SDとして提示する。
図11】抗CD19 CAR特異的抗体によって誘導されるADCC(V158)は、イムリフィダーゼ処理によって阻止される。抗CD19 CAR-Jurkat T細胞を、イムリフィダーゼ(20μg/mL)の有り無しで、指定濃度のポリクローナルウサギの(A)抗マウス及び(B)抗ヒトのF(ab’)特異的抗体でオプソニン化した。ADCCの誘導を、高親和性FcγRIIIa(V158)をトランスフェクトしたレポーター細胞(Promega、#G7015)のルシフェラーゼレポーターバイオアッセイを用いて定量した。(C)CAR陰性Jurkat野生型細胞を、イムリフィダーゼの存在下/非存在下においてウサギ抗ヒトIgG、F(ab’)で処理した。BCR及びCD20陽性Daudi細胞は、(D)リツキシマブ及び(E)抗ヒトF(ab’)特異的抗体によるADCC誘導についての陽性標的細胞対照を表す。活性化されたエフェクター細胞に由来する発光シグナル(RLU)を、(デュープリケートの)誘導値の平均倍率変化±SDとして提示する。
図12】抗CD19 CAR特異的抗体によって誘導されるADCC(F158)は、イムリフィダーゼ処理によって阻止される。抗CD19 CAR-Jurkat T細胞を、イムリフィダーゼ(20μg/mL)の有り無しで、指定濃度の(A)ポリクローナルウサギ抗マウス及び(B)抗ヒトのF(ab’)特異的抗体でオプソニン化した。ADCCの誘導を、低親和性FcγRIIIa(F158)をトランスフェクトしたレポーター細胞(Promega、#G979A)のルシフェラーゼレポーターバイオアッセイを用いて定量した。(C)CAR陰性Jurkat野生型細胞を、イムリフィダーゼの存在下/非存在下においてウサギ抗マウスIgG、F(ab’)で処理した。BCR及びCD20陽性Daudi細胞は、(D)リツキシマブ及び(E)抗ヒトF(ab’)特異的抗体によるADCC誘導についての陽性標的細胞対照を表す。活性化されたエフェクター細胞に由来する発光シグナル(RLU)を、(デュープリケートの)誘導値の平均倍率変化±SDとして提示する。
図13】HAMAでオプソニン化された抗CD19 CAR-Jurkat T細胞によるADCC誘導は、イムリフィダーゼ処理で阻止することができる。CD16 FcγRIIIa高親和性(V158)アレルを発現するレポーター細胞株を用いて、ADCC誘導についてアッセイした。マウスmAb FMC63ベースのscFv-CD19-CAR Jurkat細胞株を、イムリフィダーゼの存在/非存在下で、マウスIgGに対するHAMAレベルについてELISAによって事前に試験した正常ヒト血清サンプルと共にインキュベートし、HAMA陽性(184、187、208、250)及びHAMA陰性(164)ヒト血清をADCCアッセイに含めた。活性化されたエフェクター細胞に由来する発光シグナル(RLU)を、(デュープリケートの)誘導値の平均値±SDとして提示する。
図14】血清のイムリフィダーゼ処理により、標的CD19-タンパク質と抗CD19 CAR T細胞との会合が改善される-血清に曝露された抗CD19 CAR T細胞へのCD19-タンパク質の結合は、イムリフィダーゼ処理により増加させることができる。抗CD19 CAR-Jurkat T細胞を、イムリフィダーゼ(10μg/mL)の有り無しで、HAMA陽性及び陰性の血清サンプルと共にインキュベートした。次の工程中にイムリフィダーゼを不活性化するために、全てのサンプルにIHAc(1mM)を添加した。それぞれ可能なIgGについてF(ab’)2を抗CD19 CARに結合させるために、血清サンプルを抗CD19 CAR-Jurkat T細胞と共にインキュベートした。洗浄後、組み換えatto-647N標識ヒトCD19-Fcタンパク質(ATM9269、R&D systems)を細胞に添加し、フローサイトメトリーによって抗CD19 CARとCD19-標的タンパク質との相互作用を評価した。結果を、中央蛍光強度(FI)として提示する。
図15】免疫グロブリン軽鎖を標的とするCAR-T細胞と可溶性免疫グロブリンとのインビトロにおける共培養でみられたIFNγ産生の消失。2人の健常ヒトドナー(BC170909及びBC170803)からのT細胞に、CD19.CAR、カッパ.CD28、又は非形質導入(NTD)のいずれかを形質導入した。NTD及びCD19.CARは陰性対照として機能し、可溶性免疫グロブリンと一緒にプレーティングした場合、いずれの細胞型からもIFNγ産生は予測できない。次いで、可溶性免疫グロブリンなし(TCMと表示)又は血清中10%、50%、90%可溶性免疫グロブリンの範囲で可溶性免疫グロブリン濃度を変化させ、IdeSの有り無しいずれかで、血清中にプレーティングした。次いで、プレーティングの24時間後に共培養物から上清を回収し、ELISAでIFNγ濃度を測定した。NTD及びCD19.CARは、予測通り、いずれのプレーティング条件でもIFNγを産生しなかった。カッパ.CD28(グラフではK28と表示)は、可溶性免疫グロブリンの存在下でIFNγの産生量が増加した。しかし、IFNγを産生するカッパ.CD28の能力は、グラフの右側に示されているように、IdeSを共培養物に添加すると消失する。バーの各群において、バーは左から右へNTD、CD19、K28を示す。
図16】カッパ.CAR内でみられるIFNγ産生の抑制。別の健常ドナー由来のT細胞にCD19.CAR、カッパ.CD28、ラムダ軽鎖を標的とするCARコンストラクト(ラムダ.CD28)、及びNTDを形質導入した。カッパ.CD28は、可溶性免疫グロブリンの濃度を上昇させる条件でプレーティングするとIFNγ産生を示し続け、IdeSの存在下ではIFNγ産生が減少した。ラムダ.CD28 CARコンストラクトは、IdeS分子の有無にかかわらず有意差を示さなかった。これは、共培養に用いた可溶性免疫グロブリン血清の多クローン性に起因している可能性が高く、ラムダ軽鎖の比率がラムダ.CD28 CAR T細胞を活性化するのに必要な閾値未満である可能性が高い。図16Aでは、バーの各群において、バーは左から右へNTD 1E6、NTD 2E6、NTD 3E6を示す。図16Bでは、バーの各群において、バーは左から右へCD19.CD28z 1E6、CD19.CD28z 2E6、CD19.CD28z 3E6を示す。図16Cでは、バーの各群において、バーは左から右へカッパ.CD28 1E6、カッパ.CD28 2E6、カッパ.CD28 3E6を示す。図16Dでは、バーの各群において、バーは左から右へラムダ.CD28 1E6、ラムダ.CD28 2E6、ラムダ.CD28 3E6を示す。
【0027】
配列の簡単な説明
配列番号1は、N末端メチオニン及びシグナル配列を含む、IdeSの全配列である。NCBI参照配列番号WP_010922160.1としても入手可能である。
【0028】
配列番号2は、N末端メチオニン及びシグナル配列を欠く、IdeSの成熟配列である。Genbankアクセッション番号ADF13949.1としても入手可能である。
【0029】
配列番号3は、N末端メチオニン及びシグナル配列を含む、IdeZの全配列である。NCBI参照配列番号WP_014622780.1としても入手可能である。
【0030】
配列番号4は、N末端メチオニン及びシグナル配列を欠く、IdeZの成熟配列である。
【0031】
配列番号5は、ハイブリッドIdeS/Zの配列である。N末端は、N末端メチオニン及びシグナル配列を欠くIdeZをベースとする。
【0032】
配列番号6~25は、本発明の方法において使用するための例示的なプロテアーゼの配列である。
【0033】
配列番号26は、IdeSポリペプチドの配列である。追加のN末端メチオニン及びヒスチジンタグを有する配列番号2の配列を含む(内部参照pCART124)。
【0034】
配列番号27は、IdeZポリペプチドの配列である。追加のN末端メチオニン及びヒスチジンタグを有する配列番号4の配列を含む(内部参照pCART144)。
【0035】
配列番号28は、IdeS/Zポリペプチドの配列である。追加のN末端メチオニン及びヒスチジンタグを有する配列番号5の配列を含む(内部参照pCART145)。
【0036】
配列番号29は、配列番号3の63~73位に対応する連続配列PLTPEQFRYNNである。
【0037】
配列番号30は、配列番号1の58~65位に対応する連続配列PPANFTQGである。
【0038】
配列番号31は、配列番号3の35~54位に対応する連続配列DDYQRNATEAYAKEVPHQITである。
【0039】
配列番号32は、配列番号1の30~49位に対応する連続配列DSFSANQEIRYSEVTPYHVTである。
【0040】
配列番号33~55は、上記のプロテアーゼをコードしているヌクレオチド配列である。
【0041】
配列番号56~69は、本発明の方法において使用するための例示的なプロテアーゼの配列である。
【0042】
配列番号70は、配列番号1の336~339位に対応する連続配列NQTNである。
【0043】
配列番号71は、配列番号1の30~49位に対応する連続配列DSFSANQEIR YSEVTPYHVTである。
【0044】
配列番号72~86は、本明細書に開示されるポリペプチドをコードしているヌクレオチド配列である。
【0045】
配列番号87は、配列番号1の31~49位に対応する連続配列SFSANQEIRY SEVTPYHVTである。
【0046】
配列番号88は、IdeZポリペプチドNCBI参照配列番号WP_014622780.1の36~54位に対応する配列DYQRNATEAY AKEVPHQITである。
【0047】
配列番号89は、本発明のポリペプチドのN末端に存在し得る配列DDYQRNATEA YAKEVPHQITである。
【0048】
配列番号90は成熟エンドグリコシダーゼS(EndoS)のアミノ酸配列を示す。分泌シグナルを含む全配列は、Genbankアクセッション番号AAK00850.1で入手可能である。
【0049】
配列番号91は、IgGシステインプロテアーゼ活性を有するポリペプチドであって、IdeZよりもヒトIgGの切断により有効であるポリペプチドを表す。
【0050】
配列番号92は、配列番号91に関連し、配列番号91のN末端の最初の20アミノ酸が欠失していることを除いて配列番号91と同一である。
【0051】
発明を実施するための形態
養子細胞移入免疫療法の患者にとっての利益を改善する方法
本発明は、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を、免疫グロブリン軽鎖を標的とする養子細胞移入免疫療法と組み合わせて投与することを含む、該養子細胞移入免疫療法の患者にとっての利益を改善する方法を提供する。本発明者らは、血漿中の免疫グロブリンが免疫グロブリン軽鎖を標的とする移入細胞によって結合され得、このことが、消耗を引き起こし、移入細胞と腫瘍上のその標的との間の相互作用をブロックする可能性があることを明らかにした。本発明者らは、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼ活性を有するタンパク質が血漿中の免疫グロブリンを切断し得、このことが移入された治療細胞の抗がん活性を維持するのに役立つことを実証した。従って、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を投与することにより、免疫グロブリン軽鎖を標的と養子細胞移入免疫療法の活性を増大又は維持することができる。
【0052】
本発明者らはまた、CAR-T細胞等の移入細胞の生存が制限されかつ活性の持続性が制限されることによって、養子細胞移入免疫療法の有効性が低下し得ることを明らかにし、本発明者らは、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼ活性を有するタンパク質が移入細胞を保護し得ることを実施例において示した。具体的には、本発明者らは、細胞表面受容体特異的抗体が、移入細胞の潜在力を短縮する可能性があり、移入された細胞の治療効果は、レシピエントのコンディショニングを通して抗体のエフェクター機能を除去することから利益を得られることを明らかにした。同様に、免疫グロブリン軽鎖を標的とする養子細胞移入免疫療法によって結合した可溶性抗体も、移入細胞の能力を短縮し得る。従って、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を投与することにより、移入細胞の生存及び活性を高め、改善された治療を提供することができる。また、本発明者らは、細胞表面受容体特異的抗体が、養子細胞移入免疫療法の受容体のその標的への結合に干渉し得ることも実証した。従って、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を投与することによって、養子細胞移入免疫療法の効力及び効果を高めることができる。
【0053】
特定の実施形態では、本発明は、免疫グロブリン軽鎖を標的とする養子細胞移入の一部として投与される細胞の活性を維持する又は増大させる方法であって、養子細胞移入免疫療法の前、後、又は同時にIgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を投与することを含む方法を提供する。特定の実施形態では、本発明は、養子細胞移入の一部として投与される細胞の生存期間を延長する及び/又は増殖を増強する方法であって、養子細胞移入免疫療法の前、後、又は同時にIgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を投与することを含む方法を提供する。
【0054】
特定の実施形態では、本発明は、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を投与することを含む、免疫グロブリン軽鎖を標的とする養子細胞移入免疫療法のための患者のコンディショニング又は準備の方法を提供する。
【0055】
特定の実施形態では、本発明は、免疫グロブリン軽鎖を標的とする養子細胞移入免疫療法を受けているか又は受ける予定のある患者において、血漿IgGレベルを低下させるか又は血漿IgG分子による補体若しくはFc受容体の結合を減少させる方法を提供する。
【0056】
特定の実施形態では、本発明は、免疫グロブリン軽鎖を標的とする養子細胞移入免疫療法の前、後、又は同時にIgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を投与することを含む、免疫グロブリン軽鎖を標的とする養子細胞移入療法の効力を高める方法を提供する。特定の実施形態では、本発明は、養子細胞移入免疫療法の前、後、又は同時に、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を投与することを含む、養子細胞移入療法の細胞表面受容体とその標的との結合を増加させる方法を提供する。
【0057】
特定の実施形態では、免疫グロブリン軽鎖を標的とする養子細胞移入免疫療法の患者にとっての利益を改善する方法は、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を投与し、その後、養子細胞移入免疫療法を施すことを含む。このような方法により、血漿中に存在する免疫グロブリンを除去及び/又は不活性化することが可能になり、細胞を投与する前に既存の抗薬物抗体(ADA)をタンパク質で不活性化することが可能になるので、細胞のより良好な活性、増幅、及び生存が可能になる。ADAは、発現したCAR若しくはTCR又はHLA抗原(特に同種療法において)を含む任意の細胞療法の任意の部分に結合することができる。実施例は、IdeS等のタンパク質が、免疫グロブリン軽鎖を標的とするCAR-T細胞を刺激又はブロックする抗体を除去するのに有効であることを実証する。実施例はまた、IdeS及びEndoSが既存の抗体を不活性化するのに有効であることを実証し、例えば、IdeS及びEndoSは、補体源又はエフェクター細胞の添加前に使用した場合に有効であった。また、実施例では、養子細胞移入免疫療法を施されたことのない健常個体及びHLA感作患者の血清中に存在する抗体が、受容体コンストラクト及びCAR T細胞等の細胞に結合し、ADCP、ADCC、及び標的結合の減少等の有害な作用を媒介し得、本発明のタンパク質で処理することによってその全てを低減し得ることが実証される。また、本発明は、免疫グロブリン軽鎖を標的とする養子細胞移入免疫療法による患者の治療のコンディショニングにおいて使用するための、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を提供する。また、本発明は、免疫グロブリン軽鎖を標的とする養子細胞移入免疫療法による治療を受ける予定のある患者における血漿IgGレベルの低減において使用するための、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を提供する。また、本発明は、免疫グロブリン軽鎖を標的とする養子細胞移入免疫療法の開発のために以前血液を提供したことがあり、未だ免疫グロブリン軽鎖を標的とする養子細胞移入免疫療法を受けたことがない患者における血漿IgGレベルの低減において使用するための、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を提供する。また、本発明は、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を以前投与されたことがある患者を治療するための、免疫グロブリン軽鎖を標的とする養子細胞移入免疫療法組成物を提供する。
【0058】
好ましい実施形態では、養子細胞移入免疫療法の患者にとっての利益を改善する方法は、養子細胞移入免疫療法を施す前にIgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を投与することを含む。このような方法によって、可溶性血漿免疫グロブリンは切断され、その結果、免疫グロブリン軽鎖特異的細胞を刺激し、消耗させることもブロックすることもできなくなる。従って、移入細胞の活性が改善される。また、本発明は、患者が受けることが予定されている養子細胞移入免疫療法の患者にとっての利益の改善において使用するための、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を提供する。また、本発明は、養子細胞移入免疫療法の治療を受ける予定のある患者の治療において使用するための、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を提供する。また、本発明は、養子細胞移入免疫療法を受ける予定のある患者における血漿IgGレベルの低減において使用するための、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を提供する。また、本発明は、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を以前投与されたことがある患者を治療するための養子細胞移入免疫療法組成物を提供する。
【0059】
特定の実施形態では、養子細胞移入免疫療法の患者にとっての利益を改善する方法は、養子細胞移入免疫療法を施した後にIgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を投与することを含む。このような方法によって、既存の抗薬物抗体(ADA)及び養子細胞移入免疫療法によって惹起された抗体を不活性化することが可能になる。このような方法では、不活性化しなければ移入細胞が結合し得る可溶性抗体を不活性化することもできる。従って、移入細胞の増幅及び生存率が改善される。実施例は、抗血小板特異的抗体の後にIdes及びEndoSを投与した場合に免疫性血小板減少症が低減されたことから、Ides及びEndoSが有害なポリクローナル抗体及び誘導された抗体を不活性化するのに有効であることを実証する。また、本発明は、以前施された養子細胞移入免疫療法の患者にとっての利益の改善において使用するための、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を提供する。また、本発明は、養子細胞移入免疫療法を以前受けたことのある患者の治療において使用するための、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を提供する。また、本発明は、養子細胞移入免疫療法による治療を以前受けたことのある患者における血漿IgGレベルの低減において使用するための、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を提供する。また、本発明は、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質の投与を受ける予定のある患者を治療するための養子細胞移入免疫療法組成物を提供する。
【0060】
更なる実施形態では、養子細胞移入免疫療法の患者にとっての利益を改善する方法は、養子細胞移入免疫療法を複数回施す前及び後の両方にIgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を投与することを含む。このような方法によって、既存の抗薬物抗体(ADA)及び養子細胞移入免疫療法によって惹起された抗体の両方を不活性化することが可能になる。このような方法では、不活性化しなければ移入細胞が結合し得る可溶性抗体を不活性化することもできる。従って、移入細胞の増幅及び生存率が改善される。
【0061】
更なる実施形態では、養子細胞移入免疫療法の患者にとっての利益を改善する方法は、第1の養子細胞移入免疫療法を施した後かつ第2の養子細胞移入免疫療法を施す前にIgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を投与することを含む。従って、タンパク質は、2回以上養子細胞移入免疫療法を施す間に投与される。このような方法では、過去の注射に由来する任意のADAが不活性化されるので、移入細胞がより良好に増幅及び生存することが可能になる。このような方法では、不活性化しなければ移入細胞が結合し得る可溶性抗体を不活性化することもできる。また、移入細胞を消耗又はブロックし得る可溶性抗体も除去又は不活性化される。好ましくは、そのような実施形態では、第1及び第2の、並びに任意のその後の養子細胞移入免疫療法は、同一又は類似のコンストラクト及び細胞を使用する。このような実施形態では、類似のコンストラクト又は細胞は、ADA交差反応性エピトープを有し得る。また、本発明は、1回目の養子細胞移入免疫療法を既に受けており、2回目の養子細胞移入免疫療法を受ける予定のある患者の治療において使用するための、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質も提供する。また、本発明は、養子細胞移入免疫療法を複数回施すレジメンを受けている患者におけるIgGレベルの低減において使用するための、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を提供する。また、本発明は、養子細胞移入免疫療法による治療を複数回施すレジメンの患者にとっての利益の改善において使用するための、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を提供する。また、本発明は、養子細胞移入免疫療法組成物の投与を以前受けたことがあり、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質の投与を以前受けたことがある患者を治療するための養子細胞移入免疫療法組成物を提供する。
【0062】
更なる実施形態では、養子細胞移入免疫療法の患者にとっての利益を改善する方法は、養子細胞移入免疫療法を2回以上施した後にIgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を投与することを含む。このような方法は、養子細胞移入免疫療法によって惹起された抗体を不活性化することができる。このような方法では、不活性化しなければ移入細胞が結合し得る可溶性抗体を不活性化することもできる。また、移入細胞を消耗又はブロックし得る可溶性抗体も除去又は不活性化される。従って、移入細胞の増幅及び生存率が改善される。また、本発明は、養子細胞移入免疫療法が既に2回以上施された患者にとっての利益の改善において使用するための、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を提供する。 また、本発明は、養子細胞移入免疫療法を既に2回以上受けた患者の治療において使用するための、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を提供する。また、本発明は、養子細胞移入免疫療法による治療を既に2回以上受けた患者における血清IgGレベルの低減において使用するための、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を提供する。
【0063】
本発明の特定の実施形態では、養子細胞移入免疫療法の患者にとっての利益を改善する方法は、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を複数回投与することと、養子細胞移入免疫療法を複数回施すこととを含む。特定の実施形態では、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を複数回投与することは、同じ酵素を投与することを含む。IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質の反復投与は、1~7日、5~7日、又は6~8日等の任意の適切な期間隔てられていてよい。特定の実施形態では、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を複数回投与することは、異なる酵素を投与することを含む。
【0064】
本発明の特定の実施形態では、養子細胞移入免疫療法の患者にとっての利益を改善する方法は、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質の投与及び養子細胞移入免疫療法を同時に行うことを含む。実施例は、細胞表面受容体特異的抗体が養子細胞移入免疫療法受容体のその標的への結合に干渉し得るが、本発明のタンパク質の処理により結合を増加させることができるので、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質の同時投与により、養子細胞移入免疫療法の効力及び効果を増大させ得ることを実証する。
【0065】
IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を投与すると、血漿IgG免疫グロブリンの安定性、半減期、及びFcエフェクター機能が低下するので、免疫療法細胞に対する悪影響が低減する。また、IgG免疫グロブリンが切断されると免疫療法細胞とFcgRとの間の架橋を阻害することができるが、そうしなければオフ腫瘍活性化及び消耗が引き起こされる可能性がある。本発明の方法の好ましい実施形態では、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質の投与により、患者の血漿中に存在する全て又は実質的に全てのIgG分子が切断される。
【0066】
本発明の方法の好ましい実施形態では、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質の投与により、患者の血漿中に存在する全て又は実質的に全てのIgG分子が不活性化される。特定の実施形態では、タンパク質は、患者の血漿中に存在する全て又は実質的に全てのIgG分子によるFc受容体又は補体の結合を排除するのに十分な量で投与される。
【0067】
本発明の方法の特定の実施形態では、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質の投与により、血液中の抗体が除去又は不活性化される。特定の実施形態では、リンパ中の抗体も不活性化される。 特定の実施形態では、間質液中の抗体も不活性化される。従って、本発明に係る血漿からの抗体の除去又は不活性化は、リンパ及び/又は間質液からの抗体の除去又は不活性化を含み得る。リンパ及び/又は間質液中の抗体を除去又は不活性化すると血漿抗体の補充が遅れるので、血漿抗体の移入細胞に対する悪影響がより長く低減される。
【0068】
養子細胞移入免疫療法を施す前にIgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を投与する本発明の方法では、これら2つの投与及び施行は、好ましくは被験体の血漿中に存在する全て又は実質的に全てのIgG分子を切断するのに十分な時間間隔だけ隔てられている。該間隔は、典型的には少なくとも30分間、典型的には最長21日間であってよい。IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質の投与は、リンパ球枯渇と同時(例えば、同日)に行ってもよく、リンパ球枯渇の1~7日間前又は後に行ってもよい。特定の実施形態では、タンパク質の投与は、リンパ球枯渇と細胞療法の施行との間に行われる。「実質的に全て」とは、典型的には、血漿IgGによるFc受容体及び補体の結合が、投与前に存在していたレベルの30%未満、20%未満、15%未満、10%未満、又は5%未満に低下することを意味する。例えば、タンパク質がプロテアーゼ(IdeS等)である場合、その間隔は、被験体において任意の好適なアッセイで測定したとき、任意の好適なアッセイで測定したとき、被験体における血漿IgGの少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、又は少なくとも95%を剤が切断するのに必要な時間となる。
【0069】
養子細胞移入免疫療法を施した後にIgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を投与する本発明の方法では、タンパク質は、好ましくは、養子細胞移入免疫療法の施行の2週間以内、1週間以内、2日以内、1日以内、又は5時間以内等、移入細胞の増殖中に投与される。
【0070】
好ましい実施形態では、本発明の方法は、養子細胞移入免疫療法において患者に以前投与された細胞の抗体媒介性補体沈着、CDC、ADCC、ADCP、消耗、又は受容体活性化細胞死を低減する方法である。他の好ましい実施形態では、本発明の方法は、養子細胞移入免疫療法においてその後患者に投与される細胞の抗体媒介性補体沈着、CDC、ADCC、ADCP、消耗、又は受容体活性化細胞死を低減する方法である。好ましい実施形態では、本発明は、養子細胞移入免疫療法において患者に以前投与された細胞の抗体媒介性補体沈着、CDC、ADCC、ADCP、消耗、又は受容体活性化細胞死の低減において使用するための、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を提供する。他の好ましい実施形態では、本発明は、養子細胞移入免疫療法においてその後患者に投与される抗体媒介性補体沈着、CDC、ADCC、ADCP、消耗、又は受容体活性化細胞死の低減において使用するための、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を提供する。好ましい実施形態では、ADCCは、FcγRIIIa(V158)エフェクター細胞又はFcγRIIIa(F158)エフェクター細胞によって媒介される。
【0071】
特定の実施形態では、本発明の方法は、マウス免疫グロブリンに対する特異性を有する免疫グロブリンであるヒト抗マウス抗体(HAMA)を検出可能なレベルで有する患者に、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を投与することを含む。該投与は、養子細胞移入免疫療法を施す前であっても、後であっても、又は同時であってもよい。実施例は、患者血清中のHAMAが養子細胞移入免疫療法細胞に対して有害な作用を及ぼし得るが、これらの作用は本発明のタンパク質で処理することによって低減又は阻止できることを実証する。HAMAは、マウス抗原との接触により正常個体でも誘導される可能性がある。マウスmAbベースの生物製剤を投与されている患者では、HAMAの頻度及び濃度が更に高くなり、場合によっては、これら治療薬の部分的な中和さえも引き起こすと予測することができる。
【0072】
本発明の方法では、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼは、免疫抑制剤と共投与してもよい。本発明の方法では、プロテアーゼは、好ましくは静脈内注入によって投与されるが、例えば、皮内、皮下、経皮、筋肉内、動脈内、腹腔内、関節内、骨内、髄腔内、脳室内、又は他の適切な投与経路を含む任意の好適な経路によって投与されてもよい。投与されるプロテアーゼ又はエンドグリコシダーゼの量は、0.01mg/kg BW~2mg/kg BW、0.05~1.5mg/kg BW、0.1mg/kg BW~1mg/kg BW、好ましくは、0.15mg/kg~0.7mg/kg BW、最も好ましくは、0.2mg/kg~0.3mg/kg BW、特に0.25mg/kg BWであってよい。タンパク質を同一の被験体に複数回投与してもよいが、但し、タンパク質と結合することができる被験体の血漿中の抗薬物抗体(ADA)の量が臨床医によって決定された閾値を超えないことを条件とする。プロテアーゼに結合することができる被験体の血漿中のADAの量は、剤特異的CAP FEIA(ImmunoCAP)試験又はタイターアッセイ等の任意の好適な方法によって求めることができる。
【0073】
がんを治療する方法
本発明は、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を、免疫グロブリン軽鎖を標的とする養子細胞移入免疫療法と組み合わせて投与することを含む、がんを治療する方法を提供する。実施例に示す可溶性免疫グロブリンの存在下におけるサイトカイン産生及び刺激の低減は、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を投与することにより、移入細胞の消耗を低減し、活性を増大させ、改善されたがん治療を提供できることを示す。また、実施例に示す細胞の保護は、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を投与することにより、移入細胞の生存率及び活性が増大し、改善されたがん治療を提供できることを示す。
【0074】
好ましい実施形態では、がんを治療する方法は、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を投与し、その後、免疫グロブリン軽鎖を標的とする養子細胞移入免疫療法を施すことを含む。また、本発明は、免疫グロブリン軽鎖を標的とする養子細胞移入免疫療法によるがん治療のための患者のコンディショニングにおいて使用するための、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を提供する。また、本発明は、免疫グロブリン軽鎖を標的とする養子細胞移入免疫療法によるがん治療を受ける予定のある患者における血漿IgGレベルの低減において使用するための、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を提供する。また、本発明は、免疫グロブリン軽鎖を標的とする養子細胞移入免疫療法の開発のために以前血液を提供したことがあり、未だ養子細胞移入免疫療法を受けたことがない患者における血漿IgGレベルの低減において使用するための、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を提供する。また、本発明は、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を以前投与されたことがある患者におけるがんを治療するための免疫グロブリン軽鎖を標的とする養子細胞移入免疫療法組成物を提供する。
【0075】
特定の実施形態では、がんを治療する方法は、養子細胞移入免疫療法を施した後、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を投与することを含む。また、本発明は、以前施された養子細胞移入免疫療法の患者にとっての利益の改善において使用するための、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を提供する。また、本発明は、養子細胞移入免疫療法を以前受けたことのある患者におけるがんの治療において使用するための、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を提供する。また、本発明は、養子細胞移入免疫療法によるがん治療を以前受けたことのある患者における血漿IgGレベルの低減において使用するための、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を提供する。また、本発明は、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質の投与を受ける予定のある患者におけるがんを治療するための養子細胞移入免疫療法組成物を提供する。
【0076】
更なる実施形態では、がんを治療する方法は、養子細胞移入免疫療法を複数回施す前及び後の両方に、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を投与することを含む。
【0077】
更なる実施形態では、がんを治療する方法は、第1の養子細胞移入免疫療法の施行後かつ第2の養子細胞移入免疫療法の施行前に、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を投与することを含む。好ましくは、そのような実施形態では、第1及び第2の、並びに任意のその後の養子細胞移入免疫療法は、同一又は類似のコンストラクト及び細胞を使用する。また、本発明は、1回目の養子細胞移入免疫療法を既に受けており、2回目の養子細胞移入免疫療法を受ける予定のある患者におけるがんの治療において使用するための、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質も提供する。また、本発明は、養子細胞移入免疫療法を複数回施すレジメンを受けている患者におけるIgGレベルの低減において使用するための、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を提供する。また、本発明は、養子細胞移入免疫療法によるがん治療を複数回施すレジメンの患者にとっての利益の改善において使用するための、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を提供する。また、本発明は、養子細胞移入免疫療法組成物の投与を以前受けたことがあり、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質の投与を以前受けたことがある患者におけるがんを治療するための養子細胞移入免疫療法組成物を提供する。
【0078】
更なる実施形態では、がんを治療する方法は、養子細胞移入免疫療法を2回以上施した後に、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を投与することを含む。また、本発明は、養子細胞移入免疫療法が既に2回以上施された患者にとっての利益の改善において使用するための、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を提供する。また、本発明は、養子細胞移入免疫療法を既に2回以上受けた患者におけるがんの治療において使用するための、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を提供する。また、本発明は、養子細胞移入免疫療法によるがん治療を既に2回以上受けた患者における血漿IgGレベルの低減において使用するための、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を提供する。
【0079】
本発明の特定の実施形態では、がんを治療する方法は、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を複数回投与することと、養子細胞移入免疫療法を複数回施すこととを含む。
【0080】
本発明の特定の実施形態では、がんを治療する方法は、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質及び養子細胞移入免疫療法を同時に行うことを含む。
【0081】
本発明の治療方法では、既にがんに罹患している被験体に、がん又はその症状のうちの1つ以上を治癒、緩和、又は部分的に停止させるのに十分な量のタンパク質を投与し、養子細胞移入免疫療法を施す。このような治療的処置の結果、がんの寛解、安定化、転移の減少、消失がもたらされる可能性がある。これを達成するのに適切な量を「治療上有効な量」と定義する。被験体は、任意の適切な手段によって、がんに罹患しておりかつ養子細胞移入免疫療法に適していると同定されていてよい。
【0082】
養子細胞移入免疫療法
本発明の方法は、養子細胞移入(ACT)免疫療法から得られる利益を増大させ、それによって、がん、及び抗体媒介性自己免疫疾患等の他の疾患を治療する改善された方法を提供する。ACT免疫療法は、特にがんを治療するための確立された強力なアプローチである。ACTとは、移植片の免疫学的な機能及び特徴を移行させることを目的として、エクスビボで成長させた細胞、最も一般的には免疫由来細胞を受動的に宿主に移入するものである。
【0083】
本発明に従って用いられるACT免疫療法は、免疫グロブリン軽鎖を標的とする。免疫グロブリン軽鎖は、カッパ軽鎖であってもラムダ軽鎖であってもよい。好ましくは、免疫グロブリン軽鎖は、ヒト免疫グロブリン軽鎖である。ACT免疫療法は、免疫グロブリン軽鎖と特異的に結合するscFv等の結合ドメインを含むキメラ抗原受容体(CAR)又はT細胞受容体(TCR)等の受容体コンストラクトを発現させることにより、免疫グロブリン軽鎖と結合する。ヒト免疫グロブリンのカッパ軽鎖を標的とする例示的な抗体は、CRL-1758(ATCC)ハイブリドーマによって産生される。ヒト免疫グロブリンのラムダ軽鎖を標的とする例示的な抗体は、HP6054(ATCC)ハイブリドーマによって産生される。カッパ軽鎖又はラムダ軽鎖を標的とする他の抗体も容易に入手可能である。ヒト免疫グロブリンのカッパ軽鎖又はラムダ軽鎖に結合するscFv又は代替コンストラクトは、そのような抗体の可変領域を用いて容易に作製することができる。
【0084】
ACTは、養子T細胞療法で一般的であるように自己(例えば、白血球除去によって単離され、形質導入され、投与の直ぐ約4週間前に選択される)であってもよく、同種であってもよく、この場合、本発明の方法は、同種細胞上で発現した受容体及び/又は他の抗原を認識する抗体を除去することによってACTを改善することができる。更に、ACTは、異種であってもよい。好ましい実施形態では、ACTは、自己である。
【0085】
ACTは、黒色腫等の進行固形腫瘍及び血液悪性腫瘍を有する患者の治療に使用することができる自己腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の移入も含み得る。
【0086】
ACTはまた、黒色腫等の進行固形腫瘍及び血液悪性腫瘍を有する患者の治療に使用することができる、健常ドナーから単離、調製、及び保存(例えば、凍結)された同種リンパ球の「既製品」の移入も含み得る。
【0087】
本発明の養子細胞免疫療法は、キメラ抗原受容体(CAR)又はT細胞受容体(TCR)を発現する細胞の投与を含んでいてもよく、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)を含んでいてもよい。抗原を認識するCAR/TCRを発現する細胞の集団は、活性化されたT細胞又はナチュラルキラー(NK)細胞又は樹状細胞の集団を含み得る。樹状細胞は、腫瘍を直接死滅させるだけでなく、抗原を提示することもできる。樹状細胞は、例えば、抗カッパ又はラムダCARを発現することができる。CAR/TCRを発現する細胞の集団は、遺伝子編集された細胞の集団を含み得る。
【0088】
ACTでは、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、デルタ-ガンマT細胞、制御性T細胞、樹状細胞、及び末梢血単核細胞等の細胞型を使用し得る。ACTでは、腫瘍抗原との接触後に樹状細胞及び/又はマクロファージへの分化を誘導する目的で単球を使用してもよい。
【0089】
本発明の好ましい実施形態によれば、養子細胞療法は、CAR T細胞療法であってよい。CAR T細胞は、腫瘍細胞で発現するカッパ又はラムダの軽鎖と特異的に結合する所望の抗原結合ドメインを遺伝子操作することにより、カッパ又はラムダの軽鎖を標的とするように遺伝子操作することができる。好ましい実施形態では、細胞療法は、造血起源の細胞を使用する。実施例は、本発明の方法が造血器起源の細胞に対して特に有効であることを実証する。
【0090】
好ましい実施形態では、養子細胞療法、好ましくはCAR T細胞療法は、カッパ軽鎖又はラムダ軽鎖を標的とする細胞を用いる。例示的なCAR-T細胞は、Ranganathan et al.,Clin Cancer Res,2021及びVera et al.,Blood 2006;108に記載されている。ヒト免疫グロブリンのカッパ軽鎖を標的とする例示的な抗体は、CRL-1758(ATCC)ハイブリドーマによって産生される。ヒト免疫グロブリンのカッパ軽鎖を標的とする例示的な抗体は、HP6054(ATCC)ハイブリドーマによって産生される。カッパ軽鎖又はラムダ軽鎖を標的とする他の抗体も容易に入手可能である。ヒト免疫グロブリンのカッパ軽鎖又はラムダ軽鎖に結合するscFv又は代替コンストラクトは、例えば、Ranganathan et al.,Clin Cancer Res,2021及びVera et al.,Blood 2006;108に記載の通り、そのような抗体の可変領域を用いて容易に作製することができる。本発明で使用するためのCAR-Tコンストラクトは、TCR/CD3複合体のヒトIgG1 CH-CH領域及びヒンジ及びゼータ鎖、並びに任意でCD28ドメインを含んでいてよい。本発明で使用するためのCAR-Tコンストラクトは、ヒトCD8aヒンジ、及び膜貫通ドメイン、及びCD28共刺激エンドドメイン、及びTCR/CD3複合体の細胞質内CD3z鎖を含んでいてよい。
【0091】
好ましい養子細胞移入免疫療法は、CAR T細胞療法(例えば、自己細胞療法及び同種細胞療法)である。ALL、AML、NHL、DLBCL、及びCLL等の血液悪性腫瘍を治療するためのCAR T細胞療法が好ましい。承認されているCAR T細胞療法の例としては、NHL及びDLBCLを治療するためのKYMRIAH(登録商標)(チサゲンレクロイセル)、並びにNHLを治療するためのYESCARTA(登録商標)(アキシカブタゲンシロロイセル)が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0092】
本発明の特定の態様によれば、CAR/TCR又はTILを発現する細胞の集団は、自己細胞であってもよく、別のヒトドナー由来の同種細胞であってもよく、異なる種の動物由来の異種細胞であってもよい。
【0093】
本発明の特定の態様によれば、CAR/TCR又はTILを発現する細胞の集団は、自己幹細胞の場合のように、白血球除去によって単離し、形質導入し、投与の直ぐ約4週間前に選択してもよく、いわゆる「既製品」の同種CAR-T幹細胞療法の場合のように、健常ドナーから単離し、事前に調製し、次いで、1人以上の患者用に例えば凍結調製品等で保存してもよい。
【0094】
本発明の特定の態様によれば、CAR/TCRを発現する細胞の集団は、抗原を認識するCAR/TCRを発現する活性化T細胞又はナチュラルキラー(NK)細胞又は樹状細胞の集団を含み得る。樹状細胞は、腫瘍を直接死滅させるだけでなく、抗原を提示することもできる。
【0095】
CAR T細胞は、2つ以上の異なる抗原を標的とすることができる抗原結合ドメインを含んでいてもよい(すなわち、二重特異性又は二価、三重特異性又は三価、四重特異性等)。このように、CAR T細胞は、第1の抗原に結合する第1の抗原結合ドメインと、第2の抗原に結合する第2の抗原結合ドメインとを含み得る(例えば、タンデムCAR)。例えば、CAR T細胞は、免疫グロブリン軽鎖結合ドメイン及びCD19又はCD22の結合ドメインを含んでいてよく、従って、免疫グロブリン軽鎖及びCD19又はCD22の両方を認識し、結合することができる。又は更には、CAR T細胞は、免疫グロブリン軽鎖結合ドメイン及びCD20結合ドメインを含んでいてよく、従って、免疫グロブリン軽鎖及びCD20の両方を認識し、結合することができる。
【0096】
あるいは、細胞集団中の各細胞又は細胞集団全体が、各CAR T細胞コンストラクトが異なる抗原を認識することができる、1つを超える異なるCAR T細胞(例えば、コンストラクト)を含んでいてもよい。例えば、CAR T細胞の集団は3つの抗原を標的とすることができる。
【0097】
本発明の特定の態様によれば、細胞の集団は、自己であろうと同種であろうと、CRISPR/cas9(クラスター化して規則的に配置された短い回文配列リピート/CRISPR関連タンパク質9)、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、又は転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)等による遺伝子編集技術を用いて操作され得る。これら技術は、遺伝子操作の技術分野において認識され、実践されており、関心対象の細胞のゲノムを改変するために標的配列を選択的に編集、破壊、又は挿入することを可能にする。従って、本発明で実施される養子移入用の単離された自己又は同種の細胞を編集して、既知の遺伝子又は配列を欠失又は置換させることができる。例えば、レシピエント患者における移植片対宿主病を排除する手段として、CAR-T形質導入の前又は後に同種T細胞集団中のT細胞受容体(TCR)を欠失又は置換させることができる。
【0098】
本発明の特定の態様によれば、養子細胞移入免疫療法として投与される細胞の集団は、CARを発現するT細胞、NK細胞、又は樹状細胞の集団を含んでいてよく、該CARは、ヒト化抗カッパ又はラムダ軽鎖結合ドメイン、膜貫通ドメイン、及び1つ以上の細胞質共刺激シグナル伝達ドメインを含む細胞外抗体又は抗体断片を含む。
【0099】
本発明の特定の実施形態では、養子細胞移入免疫療法として投与される細胞集団は、T細胞受容体(TCR)を発現する。TCRは、抗原提示細胞又は任意の有核細胞(例えば、赤血球を除く体内の全てのヒト細胞)の表面上の主要組織適合性複合体(MHC)の生成物に関連して提示される抗原性ペプチドの認識に関与する抗原特異的分子である。対照的に、抗体は、典型的には、可溶性又は細胞表面の抗原を認識し、MHCによる抗原の提示を必要としない。この系は、T細胞に、TCRを介して、細胞内で短いペプチドに加工され、細胞内MHC分子に結合し、ペプチドMHC複合体として表面に送達される、細胞が発現する一連の細胞内抗原(ウイルスタンパク質を含む)全部を認識する潜在能力を授ける。この系により、事実上任意の外来タンパク質(例えば、変異したがん抗原又はウイルスタンパク質)又は異常発現したタンパク質をT細胞の標的として利用することが可能になる。
【0100】
本発明の特定の態様によれば、遺伝子操作されたCAR細胞は、健常ドナーからの同種であってよく、CRISPR/cas9、ZFN、又はTALEN等の遺伝子編集技術によって内因性TCRを切除又は置換するように更に遺伝子操作されてもよく、その場合、内因性TCRの欠失がCAR駆動性移植片対宿主病を排除する機能を有する。
【0101】
本発明の特定の態様によれば、自己細胞(例えば、T細胞又はNK細胞又は樹状細胞)を被験体から回収してもよい。これら細胞は、末梢血単核細胞、骨髄、リンパ節組織、臍帯血、胸腺組織、感染部位からの組織、腹水、胸水、脾臓組織、及び腫瘍を含む多くの供給源から得ることができる。本発明の特定の態様によれば、典型的には健常ドナーから単離された同種又は異種の細胞を使用してよい。T細胞、NK細胞、樹状細胞、又は多能性幹細胞が同種又は異種の細胞である場合、当技術分野で入手可能な任意の数の細胞株を使用することができる。
【0102】
細胞は、Ficoll(商標)分離等の当業者に公知の任意の数の技術を使用して被験体から回収した血液の単位から得ることができる。本発明の特定の態様によれば、個体の循環血液からの細胞は、アフェレーシスによって得ることができる。アフェレーシス生成物は、典型的には、T細胞、B細胞を含むリンパ球、単球、顆粒球、他の有核白血球、赤血球、及び血小板を含有する。
【0103】
ネガティブ選択による細胞集団の濃縮は、ネガティブ選択された細胞に固有の表面マーカーに対する抗体の組み合わせを用いて達成することができる。1つの方法は、負の磁気免疫粘着を介した細胞の選別及び/若しくは選択、又はネガティブ選択された細胞上に存在する細胞表面マーカーに対するモノクローナル抗体のカクテルを使用するフローサイトメトリーである。例えば、ネガティブ選択によってCD4+細胞を濃縮するために、モノクローナル抗体カクテルは、典型的には、CD14、CD20、CD1 1b、CD16、HLA-DR、及びCD8に対する抗体を含む。本発明の特定の態様によれば、細胞集団を濃縮する又はポジティブ選択することが望ましい場合がある。例えば、制御性T細胞に対するポジティブ濃縮は、CD4+、CD25+、CD62Lhi、GITR+、及びFoxP3+についてのポジティブ選択を使用することができる。
【0104】
回収された細胞を、当技術分野で公知の多くの方法のいずれかによってCAR又はTCRを発現するように遺伝子操作してもよい。更に、遺伝子操作された細胞を、当技術分野で公知の多くの方法のいずれかによって増幅してもよい。上に詳述した通り、CAR又はTCRは、二重特異性、三重特異性、又は四重特異性であってよく、CAR又はTCRは、goCAR若しくはgoTCR、又は安全スイッチCAR若しくはTCR等のスイッチを含んでいてよく、CAR又はTCRは、武装化(armored)CAR又はTCR等の免疫調節タンパク質を発現してよい。
【0105】
本発明の特定の態様によれば、本明細書に記載の増幅細胞が必要とされ得るときよりも前の任意の時期に、被験体から血液サンプル又はアフェレーシス生成物を回収してよい。このように、遺伝子操作され、増幅される(又はTILの場合には単に増幅される)細胞の供給源は、必要な任意の時点で回収されてよく、T細胞、NK細胞、樹状細胞、又はTIL等の所望の細胞を単離し、後に本明細書に記載のACT等のACTにおいて使用するために凍結させてよい。
【0106】
本発明の特定の態様によれば、CAR/TCRを発現する細胞の集団を用量分割によって被験体に投与してもよく、この場合、全用量のうちの第1の割合を治療の最初の日に投与し、全用量のうちの第2の割合を治療のその後の日に投与し、任意で、全用量のうちの第3の割合を治療の更に後の日に投与する。
【0107】
例示的な全用量は、10 ~1011 細胞/被験体の体重、例えば、10 ~1010 細胞/被験体の体重、又は10 ~10 細胞/被験体の体重、又は10 ~10 細胞/被験体の体重、又は10 ~10 細胞/被験体の体重、又は10 ~10 細胞/被験体の体重、又は10 ~10 細胞/被験体の体重を含む。更に、例示的な全用量は、10 ~1011 細胞/被験体の体重、例えば、10 ~1011 細胞/被験体の体重、又は10 ~1011 細胞/被験体の体重、又は10 ~1011 細胞/被験体の体重を含む。
【0108】
例示的な全用量は、体重ではなく患者の体表面積に基づいて投与されてもよい。このように、全用量は、10 ~1013 細胞/mを含み得る。
【0109】
例示的な用量は、体重でも体表面積でもなく、平坦な又は一定の投与スケジュールに基づいてもよい。平板な一定用量は、潜在的な用量の計算ミスを回避することができる。更に、ジェノタイピング及びフェノタイピング戦略、並びに治療薬モニタリングを用いて、適切な用量を算出することができる。すなわち、患者の免疫抑制細胞(例えば、制御性T細胞、骨髄由来抑制細胞)の免疫レパートリー及び/又は疾患負荷に基づいて投与を行ってよい。このように、全用量は、10 ~1013 個の全細胞を含み得る。
【0110】
本発明の特定の態様によれば、細胞は、治療直後に被験体から得ることができる。これに関しては、特定のがん治療、特に免疫系に損傷を与える薬物による治療後、被験体が通常治療から回復しているであろう期間中の治療直後に、得られる特定の細胞(例えば、T細胞)の品質が、エクスビボにおける増幅能力について最適であり得る又は改善され得ることが観察されている。同様に、本明細書に記載の方法を用いてエクスビボにおいて操作した後、これら細胞は、生着の亢進及びインビボにおける増幅にとって好ましい状態であり得る。従って、この回復期中にT細胞、NK細胞、樹状細胞、又は造血系統の他の細胞を含む血液細胞を回収することが、本発明の状況において企図される。
【0111】
本発明の特定の態様によれば、第2の投与は、同じ又は異なる有効量の、同じ又は異なるCAR/TCRを発現する細胞の異なる集団であってもよい。CAR/TCRの相違は、例えば、異なる結合若しくは抗原認識ドメイン又は共刺激ドメイン等、CAR/TCRの任意の局面におけるものであってよい。第2の投与は、追加的又は代替的に、IL-12と共に分泌細胞を含んでいてもよく、細胞療法注入と同時に又は逐次、BTK、P13K、IDOの阻害剤等の低分子阻害剤による補助免疫療法を更に含んでいてもよい。
【0112】
本発明の特定の態様によれば、方法は、養子細胞移入免疫療法及びIgGシステインプロテアーゼ又はエンドグリコシダーゼに加えて、1つ以上の追加の治療剤の投与を含んでいてもよい。例示的な治療剤としては、化学療法剤、抗炎症剤、免疫抑制剤、免疫調節剤、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
【0113】
治療剤は、当技術分野で公知の任意の標準的な投与レジメンに従って投与してよい。例示的な化学療法剤としては、タキサン等の有糸分裂阻害剤、例えばドセタキセル及びパクリタキセル、並びにビンカアルカロイド、例えばビンデシン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、及びビノレルビンが挙げられる。例示的な化学療法剤としては、トポテカン等のトポイソメラーゼ阻害剤が挙げられる。
【0114】
例示的な化学療法剤としては、成長因子阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤、P38a MAPキナーゼ阻害剤;血管新生、新生血管形成、及び/又は他の血管形成の阻害剤;コロニー刺激因子、赤血球生成剤、抗アレルギー剤、免疫抑制及び/又は免疫調節剤、ウイルス、ウイルスタンパク質、免疫チェックポイント阻害剤、BCR阻害剤(例えば、BTK、P13K等)、免疫代謝剤(例えば、IDO、アルギナーゼ、グルタミナーゼ阻害剤等)等が挙げられる。本発明の特定の態様によれば、1つ以上の治療剤は、抗骨髄腫剤を含んでいてもよい。例示的な抗骨髄腫剤としては、デキサメタゾン、メルファラン、ドキソルビシン、ボルテゾミブ、レナリドミド、プレドニゾン、カルムスチン、エトポシド、シスプラチン、ビンクリスチン、シクロホスファミド、及びサリドマイドが挙げられ、これらの幾つかは、化学療法剤、抗炎症剤、又は免疫抑制剤として上に示されている。
【0115】
治療されるがん
本発明の方法は、免疫グロブリン軽鎖を標的とする養子細胞移入免疫療法を用いて治療することができる任意のがんの治療を改善することができる。本発明の方法は、B細胞新生物を治療する方法において特に有用である。Bリンパ球はカッパ軽鎖又はラムダ軽鎖のいずれかを有する表面単クローン性免疫グロブリンを発現するので、B細胞新生物は、一般に免疫グロブリン軽鎖を標的とする養子細胞移入免疫療法に適応すると予測される。免疫グロブリン軽鎖を標的とする養子細胞移入免疫療法を用いて治療可能であり得、そして本発明の好ましい実施形態において治療されるB細胞新生物の例は、前駆B細胞急性リンパ芽球性白血病/リンパ芽球性リンパ腫(LBL)、B細胞急性リンパ芽球性白血病;B細胞慢性リンパ球性白血病(CLL);小リンパ球性リンパ腫;B細胞性前リンパ球性白血病;リンパ形質細胞性リンパ腫/免疫細胞腫;マントル細胞リンパ腫;濾胞性リンパ腫;粘膜関連リンパ組織(MALT)型の節外性辺縁帯B細胞リンパ腫;節性辺縁帯B細胞リンパ腫;脾性辺縁帯リンパ腫;ヘアリーセル白血病;形質細胞腫/形質細胞骨髄腫;びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(原発性縦隔B細胞リンパ腫等)、バーキットリンパ腫、バーキット様リンパ腫;原発性中枢神経系(CNS)リンパ腫、及び原発性眼内リンパ腫である。特定の実施形態では、治療されるがんは、B細胞リンパ腫である。特定の実施形態では、治療されるがんは、B細胞白血病である。好ましい実施形態では、治療されるがんは、B細胞非ホジキンリンパ腫(B-NHL)、特に、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、マントル細胞リンパ腫(MCL)、又は進行性濾胞性リンパ腫(FL)であり、これらは、カッパ又はラムダの軽鎖のいずれかにクローン的に制限される表面免疫グロブリンを発現することが確立されている。
【0116】
特定の実施形態では、治療されるがんは、B細胞リンパ腫である。特定の実施形態では、本発明の方法は、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼを複数回投与することを含み、治療されるがんは、B細胞リンパ腫である。特定のそのような実施形態では、がんを治療する方法は、好ましくは免疫グロブリン軽鎖、特にカッパ軽鎖又はラムダ軽鎖を標的とするCAR-T細胞の投与を含む、養子細胞移入免疫療法を2回以上施した後に、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を投与することを含む。特定のそのような実施形態では、方法はまた、免疫抑制も含む。本発明の方法は、免疫抑制を必要とする腫瘍の治療に特に有効であり得る。
【0117】
特定の実施形態では、治療されるがんは、その表面にカッパ軽鎖又はラムダ軽鎖を発現する。特定の実施形態では、治療される患者は、その表面にカッパ軽鎖又はラムダ軽鎖を発現するB細胞新生物を有すると確定されている。
【0118】
固形がんに対する患者の抗がん応答は、がん性細胞だけでなく腫瘍微小環境によっても駆動される。この微小環境は、線維芽細胞、T細胞、及びBリンパ球のような非悪性細胞によって作り出され、寛容原性であり得る。特にT細胞は、腫瘍溶解機能だけでなく、免疫系の天然の抗腫瘍応答を減少させる制御性サプレッサー表現型を発現し得るサブグループも有する。B細胞についても同じ二重の役割が観察されている。例えば、Breg細胞(例えば、腫瘍塊でIL10を産生するもの)は内因性の抗腫瘍応答を抑制することができる。
【0119】
軽鎖特異的CAR T細胞を用いてBreg細胞を腫瘍環境から除去することは、がんの治療に有利である可能性がある(Leong and Bryant,Transl Lung Cancer Res.2021 Jun;10(6):2830-2841)。しかし、例えばリツキシマブでB細胞をほとんど除去してしまうと、すでに弱っているがん患者が感染症によりかかりやすくなる可能性がある。このような場合、本発明の方法を用いてCAR T細胞、例えばカッパ又はラムダの軽鎖特異的CAR T細胞で患者を治療して、それぞれの軽鎖B細胞集団を温存しながら腫瘍内のB細胞塊の大部分を除去して、完全に取り除かれた体液性応答性から患者を保護することは、特に有利である。
【0120】
好ましくは、本発明の方法は、ヒト患者を治療するために使用される。被験体がヒトである場合、被験体は任意の年齢であってよい。例えば、被験体は、60歳以上、65歳以上、70歳以上、75歳以上、80歳以上、85歳以上、又は90歳以上であってよい。あるいは、被験体は、60歳以下、55歳以下、50歳以下、45歳以下、40歳以下、35歳以下、30歳以下、25歳以下、又は20歳以下であってもよい。がんに罹患しているヒト被験体の場合、被験体は、新たに診断されてもよく、再発及び/又は難治性であってもよく、寛解期であってもよい。
【0121】
他の治療される疾患
本発明の方法は、免疫グロブリン軽鎖を標的とする養子細胞移入免疫療法を用いて治療することができる任意の疾患の治療を改善するのに好適である。幾つかの自己免疫疾患は、カッパ又はラムダの軽鎖のいずれかを有する単クローン性又はオリゴクローン性の免疫グロブリンの存在を特徴としている。免疫系の液性アームを完全に抑制することなく、カッパ又はラムダのIgを産生するB細胞を標的として排除することは、これら患者にとって有益である可能性がある。
【0122】
好適な疾患の例としては、若年性関節炎(特に、若年性特発性関節炎)、関節リウマチ、全身性粘液水腫性苔癬(硬化性粘液水腫)、グレーブス病、IgA駆動性水疱性皮膚症、IgG4駆動性水疱性類天疱瘡、シェーグレン症候群、及びループス乳腺炎等のIg軽鎖偏向自己免疫疾患が挙げられる。
【0123】
若年性関節炎は、これら患者におけるラムダ軽鎖のレベルが有意に上昇したことから、本発明の方法を用いて治療することができる(Low et al.;Scand J Immunol.2007 Jan;65(1):76-83)。更に、シトルリン化タンパク質抗体(ACPA)のk:λ軽鎖の偏りが関節リウマチで観察されている(Slot et al.,PLoS One.2021 Mar 30;16(3):e0247847.)。
【0124】
全身性硬化性粘液水腫の特徴は、単クローン性ガンマグロブリン血症(一般にIgGλ)、並びに神経症状、リウマチ症状、心臓症状、肺症状、消化器症状、血液学的症状、及び眼徴候を含む全身性の兆候である。IgGλを発現する主な患者グループとは別に、クローン性カッパ若しくはラムダIgA、又はIgMカッパを発現する患者サブグループも存在する。
【0125】
グレーブス病は、甲状腺刺激自己抗体がサイロトロピン受容体を活性化し、これが標的臓器を活性化することによって引き起こされる。シグナル伝達の増加は甲状腺の過形成を引き起こし、甲状腺ホルモン分泌を増加させ、臨床的な甲状腺中毒症を引き起こす可能性があり、これによって生命を脅かす甲状腺クリーゼが引き起こされる可能性がある。多くの患者は、カッパ又はラムダのオリゴクローン性IgG1抗体を有している(Chazenbalk et al.;J Clin Invest.2002 Jul;110(2):209-17)
【0126】
水疱性皮膚症及び水疱性類天疱瘡は、自己免疫性水疱性皮膚疾患のサブタイプである。皮膚の水疱形成は、皮膚マトリックス成分に対する抗体によって駆動されると考えられる。水疱性類天疱瘡では抗基底膜領域抗体が優勢であり、該抗体はIgG4においてカッパ軽鎖への偏りを示す。
線状IgA水疱性皮膚症を呈する患者は、カッパ又はラムダの軽鎖IgAのいずれかが優勢であり得る(Flotte and Baird;J Immunol.1986 Jan;136(2):491-6)。
【0127】
IgAラムダの偏りは、シェーグレン症候群でも観察されている。(Jasani;J Pathol.1988 Jan;154(1):1-5.)
【0128】
ループス乳房炎の幾つかの症例では、患者はカッパ軽鎖に制限された形質細胞の浸潤を有することが観察されたが、形質細胞新生物の免疫表現型は示さなかった(Yan et al.Surgical and Experimental Pathology volume 3,Article number:24 (2020))。このような患者は、本発明の方法を用いた治療から利益を得られる可能性がある。
【0129】
IgGシステインプロテアーゼ
本発明者らは、IgGシステインプロテアーゼを用いることにより、細胞を保護し、その生存を改善できるので、養子細胞移入免疫療法と組み合わせてがんの治療に有用であり得ることを実証した。本発明で使用するためのIgGシステインプロテアーゼは、哺乳類血漿中の抗体の優勢なクラスであるIgGに特異的である。
【0130】
好ましい実施形態では、本発明の方法において使用するためのプロテアーゼは、イムリフィダーゼ(IdeS)(mmunoglobulin G-egrading nzyme of .pyogenes、化膿性連鎖球菌の免疫グロブリンG分解酵素)である。IdeSは、ヒト病原体化膿性連鎖球菌によって産生される細胞外システインプロテアーゼである。IdeSは元々A群連鎖球菌株の血清型M1から単離されたが、現在では試験した全てのA群連鎖球菌株においてides遺伝子が同定されている。IdeSは、並外れて高い程度の基質特異性を有しており、その唯一同定されている基質がIgGである。IdeSは、ヒトIgGの全てのサブクラスの重鎖の下部ヒンジ領域において、単一のタンパク質分解的切断を触媒する。IdeSはまた、様々な動物におけるIgGの幾つかのサブクラスの重鎖の対応する切断も触媒する。IdeSは、2段階機序を介してIgGをFc及びF(ab’)の断片に効率的に切断する。第1段階では、IgGの1本(第1の)重鎖が切断されて、非共有結合的に結合したFc分子を有する単一切断型IgG(scIgG)分子が作製される。scIgG分子は、事実上、元のIgG分子の残りの(第2の)重鎖を保持する中間生成物である。機序の第2段階では、この第2の重鎖がIdeSによって切断されて、F(ab’)断片及びホモ二量体Fc断片が遊離する。これらは、生理学的条件下で一般的に観察される生成物である。還元条件下では、F(ab’)断片は2つのFab断片に解離し得、ホモ二量体Fcはその構成単量体に解離し得る。配列番号1は、N末端メチオニン及びシグナル配列を含む、IdeSの全配列である。NCBI参照配列番号WP_010922160.1としても入手可能である。配列番号2は、N末端メチオニン及びシグナル配列を欠く、IdeSの成熟配列である。Genbankアクセッション番号ADF13949.1としても入手可能である。
【0131】
別の実施形態では、本発明の方法で使用するためのプロテアーゼは、主にウマでみられる細菌であるストレプトコッカス・エクイ(Streptococcus equi)の亜種ズーエピデミカス(zooepidemicus)によって産生されるIgGシステインプロテアーゼであるIdeZである。配列番号3は、N末端メチオニン及びシグナル配列を含む、IdeZの全配列である。NCBI参照配列番号WP_014622780.1としても入手可能である。配列番号4は、N末端メチオニン及びシグナル配列を欠く、IdeZの成熟配列である。
【0132】
別の実施形態では、本発明の方法において使用するためのプロテアーゼは、配列番号5等のハイブリッドIdeS/Zである。N末端は、N末端メチオニン及びシグナル配列を欠くIdeZをベースとする。
【0133】
好ましい実施形態では、本発明で使用するためのプロテアーゼは、配列番号2、4、又は5を含んでいてもよく、又はからなっていてもよい。本発明で使用するプロテアーゼは、標準的な細菌発現系での発現及びそれからの単離を支援するためにN末端に追加のメチオニン(M)残基及び/又はC末端にタグを含み得る。好適なタグとしては、ポリペプチドのC末端に直接連結されてもよく、任意の好適なリンカー配列、例えば、3つ、4つ、又は5つのグリシン残基によって間接的に連結されてもよいヒスチジンタグが挙げられる。ヒスチジンタグは、典型的には6つのヒスチジン残基からなるが、これよりも典型的には最大7アミノ酸、最大8アミノ酸、最大9アミノ酸、最大10アミノ酸、又は最大20アミノ酸長くてもよく、例えば5アミノ酸、4アミノ酸、3アミノ酸、2アミノ酸、又は1アミノ酸短くてもよい。
【0134】
更に好ましい実施形態では、本発明で使用するためのプロテアーゼは、配列番号6~25のいずれか1つの配列を含んでいてもよく、から本質的になっていてもよく、又はからなっていてもよい。これら配列は、プロテアーゼ活性が増大した及び/又は免疫原性が低下したIdeS及びIdeZのポリペプチドを表す。配列番号6~25はそれぞれ、任意で、N末端における追加のメチオニン及び/又はC末端におけるヒスチジンタグを含んでいてもよい。ヒスチジンタグは、好ましくは、6つのヒスチジン残基からなる。ヒスチジンタグは、好ましくは、3×グリシン残基又は5×グリシン残基のリンカーによってC末端に連結される。
【0135】
更に好ましい実施形態では、本発明で使用するためのプロテアーゼは、配列番号56~69のいずれか1つの配列を含んでいてもよく、から本質的になっていてもよく、又はからなっていてもよい。これら配列は、プロテアーゼ活性が増大した及び/又は免疫原性が低下したIdeSポリペプチドを表す。配列番号56~69はそれぞれ、任意で、N末端における追加のメチオニン及び/又はC末端におけるヒスチジンタグを含んでいてもよい。ヒスチジンタグは、好ましくは、6つのヒスチジン残基からなる。ヒスチジンタグは、好ましくは、3×グリシン残基又は5×グリシン残基のリンカーによってC末端に連結される。
【0136】
更に好ましい実施形態では、本発明で使用するためのプロテアーゼは、任意で最大3つ(例えば、1つ、2つ、又は3つ)のアミノ酸置換を有する、配列番号6~25のいずれか1つの配列を含んでいてもよく、から本質的になっていてもよく、又はからなっていてもよい。配列番号6~25及びそのバリアントはそれぞれ、任意で、N末端における追加のメチオニン及び/又はC末端におけるヒスチジンタグを含んでいてもよい。
【0137】
更に好ましい実施形態では、本発明で使用するためのプロテアーゼは、任意で最大3つ(例えば、1つ、2つ、又は3つ)のアミノ酸置換を有する、配列番号56~69のいずれか1つの配列を含んでいてもよく、から本質的になっていてもよく、又はからなっていてもよい。配列番号56~69及びそのバリアントはそれぞれ、任意で、N末端における追加のメチオニン及び/又はC末端におけるヒスチジンタグを含んでいてもよい。
【0138】
更に好ましい実施形態では、本発明で使用するためのプロテアーゼは、配列番号91、配列番号92、又はそれぞれ配列番号91若しくは配列番号92に対して1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、若しくは10個のアミノ酸改変(複数可)を有する配列番号91若しくは配列番号92のバリアントの配列を含んでいてもよく、又はから本質的になっていてもよく、又はからなってもよいが、但し、該配列は、(a)配列番号3の10 95位に対応する位置のアスパラギン(N)、(b)配列番号3の99位に対応する位置のアスパラギン酸(D)、及び(c)配列番号3の226位に対応する位置のアスパラギン(N)を保持しており、同じアッセイで測定した場合、ポリペプチドは、それぞれ配列番号91又は92のアミノ酸配列からなるポリペプチドと少なくとも同程度ヒトIgGを切断するのに有効であることを条件とする。好ましくは、改変のうちの少なくとも1つ又は改変の全ては、配列番号4のポリペプチド配列における対応する位置に存在するアミノ酸と同じアミノ酸をもたらさない。
【0139】
本発明のポリペプチドは、典型的には、少なくとも100アミノ酸長、少なくとも150アミノ酸長、少なくとも200アミノ酸長、少なくとも250アミノ酸長、少なくとも260アミノ酸長、少なくとも270アミノ酸長、少なくとも280アミノ酸長、少なくとも290アミノ酸長、少なくとも300アミノ酸長、又は少なくとも310アミノ酸長である。本発明のポリペプチドは、典型的には、400アミノ酸長以下、350アミノ酸長以下、340アミノ酸長以下、330アミノ酸長以下、320アミノ酸長以下、又は315アミノ酸長以下である。上記下限のいずれかを上記上限のいずれかと組み合わせて、本発明のポリペプチドの長さについての範囲を提供できることが理解されるであろう。例えば、ポリペプチドは、100~400アミノ酸長又は250~350アミノ酸長であってよい。ポリペプチドは、好ましくは、290~320アミノ酸長、最も好ましくは、300~315アミノ酸長である。
【0140】
本発明のプロテアーゼの一次構造(アミノ酸配列)は、IdeS、IdeZ、又はIdeS/Zの一次構造、具体的には、それぞれ配列番号2、4、又は5のアミノ酸配列に基づく。本発明のプロテアーゼの配列は、配列番号2、4、又は5のアミノ酸配列と少なくとも80%同一である、配列番号2、4、又は5のアミノ酸配列のバリアントを含んでいてもよい。バリアント配列は、配列番号2、4、又は5の配列と少なくとも80%、少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、又は少なくとも99%同一であってよい。バリアントは、国際公開第2016/128558号又は同第2016/128559号で同定された指定の改変のうちの1つ以上を含むことを除いて、配列番号2、4、又は5の配列と同一であってよい。配列番号2、4、又は5の配列に対する同一性は、配列番号2、4、若しくは5に示す配列の少なくとも50、少なくとも100、少なくとも200、少なくとも300、若しくはそれ以上の連続するアミノ酸の領域にわたって、又はより好ましくは配列番号4、若しくは5の完全長にわたって測定してよい。
【0141】
本発明で使用するためのプロテアーゼは、配列番号2、4、又は5の配列に対して改変、例えば、アミノ酸の付加、欠失、又は置換が行われている配列番号2、4、又は5のアミノ酸配列のバリアントを含むIdeS、IdeZ、又はIdeS/Zのポリペプチドであってよい。このような改変は、好ましくは、保存的アミノ酸置換である。保存的置換では、アミノ酸が類似の化学的構造、類似の化学的特性、又は類似の側鎖体積の他のアミノ酸で置換される。導入されるアミノ酸は、置き換えられるアミノ酸と類似の極性、親水性、疎水性、塩基性、酸性、中性、又は電荷を有していてよい。あるいは、保存的置換は、既存の芳香族又は脂肪族のアミノ酸の代わりに、芳香族又は脂肪族の別のアミノ酸を導入してもよい。保存的アミノ酸変更は、当技術分野で周知である。
【0142】
IgGシステインプロテアーゼ活性は、任意の好適な方法によって、例えば、IgGを含有するサンプルと共にポリペプチドをインキュベートし、IgG切断産物の存在を判定することによって評価することができる。好適な方法については、国際公開第2016/128559号に記載されている。好適なアッセイとしては、国際公開第2016/128559号に記載されているもの等のELISAベースのアッセイが挙げられる。このようなアッセイでは、典型的には、ウシ血清アルブミン(BSA)等の抗体標的でアッセイプレートのウェルをコーティングする。次いで、試験するポリペプチドのサンプルをウェルに添加し、続いて、この例ではBSAに特異的な抗体である標的特異的抗体のサンプルを添加する。ポリペプチド及び抗体を、IgGシステインプロテアーゼ活性に好適な条件下で相互作用させる。好適な間隔後にアッセイプレートを洗浄し、標的特異的抗体に特異的に結合する検出抗体を、標的特異的抗体への結合に好適な条件下で添加する。検出抗体は、各ウェル中の標的に結合している任意のインタクトな標的特異的抗体に結合する。洗浄後、ウェル中に存在する検出抗体の量は、そのウェルに結合した標的特異的抗体の量に比例する。検出抗体は、標識又は別のレポーター系(酵素等)に直接又は間接的にコンジュゲートすることができ、その結果、各ウェルに残存する検出抗体の量を求めることができる。ウェル中に存在していた被験ポリペプチドの効力が高いほど、残存するインタクトな標的特異的抗体が少なく、従って、存在する検出抗体も少ない。典型的には、所与のアッセイプレートの少なくとも1つのウェルには、被験ポリペプチドの代わりにIdeSが含まれており、その結果、被験ポリペプチドの効力をIdeSの効力と直接比較することができる。比較のためにIdeZ及びIdeS/Zを含めてもよい。
【0143】
他のアッセイでは、被験ポリペプチドによるIgGの切断によって生じるIgGの断片を直接可視化及び/又は定量することにより、被験ポリペプチドの効力を求めることができる。この種のアッセイについては、国際公開第2016/128559号にも記載されている。このようなアッセイでは、典型的には、タイトレーション系列における異なる濃度の試験ポリペプチド(又は対照としてのIdeS、IdeZ、及びIdeS/Zのうちの1つ以上)と共にIgGのサンプルをインキュベートする。次いで、各濃度でインキュベートの結果生じた生成物を、例えばSDS-PAGEによってゲル電気泳動を用いて分離する。次いで、IgG全体及びIgGの切断によって生じた断片をサイズによって同定し、好適な色素による染色の強度によって定量することができる。切断断片の量が多いほど、所与の濃度における被験ポリペプチドの効力が高い。本発明のポリペプチドは、典型的には、IdeZ及び/又はIdeSよりも低い濃度(タイトレーション系列におけるより低い点)で検出可能な量の切断断片を生成する。この種のアッセイは、各切断事象から生じた異なる断片の量を求めることもできるので、IgG分子の第1又は第2の重鎖の切断により有効である被験ポリペプチドの同定も可能になり得る。本発明のポリペプチドは、特にIgGがIgG2アイソタイプである場合、IgG分子の第2の鎖よりも第1の鎖の切断により有効であり得る。本発明のポリペプチドは、IgG2よりもIgG1の切断により有効であり得る。
【0144】
IgGエンドグリコシダーゼ
本発明者らは、IgGエンドグリコシダーゼを用いることにより、細胞を保護し、その生存を改善できるので、養子細胞移入免疫療法と組み合わせてがんの治療に有用であり得ることを実証した。本発明で使用するためのIgGエンドグリコシダーゼは、哺乳類血漿中の抗体の優勢なクラスであるIgGに特異的である。
【0145】
剤は、IgGエンドグリコシダーゼ活性を有する、好ましくはIgGのFc領域におけるAsn-297(Kabat付番)のグリカン部分を切断するタンパク質であってよい。このようなタンパク質の好ましい例は、EndoS(Endoglycosidase of .pyogenes、化膿性連鎖球菌のエンドグリコシダーゼ)であり、これは、実施例において有効であることが示される。EndoSは、正常にグリコシル化されたIgGのアスパラギン結合型グリカンのβ-1,4-ジ-N-アセチルキトビオースコアを加水分解する(図18を参照)。EndoSの成熟配列を配列番号90として提供する。タンパク質は、配列番号90のアミノ酸配列を含んでいてもよく、からなっていてもよく、又は別の細菌、例えば、腺疫菌若しくはストレプトコッカス・ズーエピデミカス、又はヒツジ偽結核菌、大便連鎖球菌、若しくはエリザベトキンギア・メニンゴセプティカに由来するそのホモログであってもよい。剤は、CP40、EndoE、又はEndoFであってよい。
【0146】
あるいは、タンパク質は、配列番号90と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、又は少なくとも95%の同一性を有し、IgGエンドグリコシダーゼ活性を有する任意のアミノ酸配列を含むか又はからなるEndoSタンパク質のバリアントであってもよい。EndoSタンパク質のバリアントは、配列番号90のアミノ酸配列に対して最大1個、2個、3個、4個、5個、10個、20個、30個、40個、50個、60個、70個、80個、90個、又はそれ以上のアミノ酸の置換、挿入、又は欠失がなされたアミノ酸配列を含んでいてもよく、からなっていてもよいが、但し、バリアントがIgGエンドグリコシダーゼ活性を有することを条件とする。該アミノ酸の置換は、好ましくは、保存的である。
【0147】
あるいは、剤は、配列番号90の断片を含むか又はからなり、IgGエンドグリコシダーゼ活性を有するタンパク質であってもよく、好ましくは、該断片は、400~950アミノ酸長、500~950アミノ酸長、600~950アミノ酸長、700~950アミノ酸長、又は800~950アミノ酸長を有する。好ましい断片は、配列番号90のアミノ酸1~409からなり、これは、連鎖球菌システインプロテイナーゼSpeBによる切断によって生成されたEndoSの酵素的に活性のあるα-ドメインに対応する。断片は、配列番号90のアミノ酸配列の1つ以上のアミノ酸残基を欠失させることによって作製されてもよい。最大1残基、2残基、3残基、4残基、5残基、10残基、20残基、30残基、40残基、50残基、100残基、200残基、300残基、400残基、500残基、若しくは550残基、又はそれ以上を欠失させてよい。欠失した残基は、他の残基と隣接していてもよい。
【0148】
配列番号2の任意の断片又はバリアントは、好ましくは、配列番号90の残基191~199、すなわち、配列番号1のLeu-191、Asp-192、Gly-193、Leu-194、Asp-195、Val-196、Asp-197、Val-198、及びGlu-199を含む。これらアミノ酸は、グルタミン酸で終わる完璧なキチナーゼファミリー18の活性部位を構成する。キチナーゼの活性部位におけるグルタミン酸が、酵素活性に必須である。従って、最も好ましくは、配列番号90のバリアントは、配列番号90のGlu-199を含有する。配列番号2のバリアントは、1つ以上の保存的置換を有する配列番号90の残基191~199を含有していてもよいが、但し、バリアントが配列番号90のGlu-199を含有することを条件とする。
【0149】
IgGレベルの評価及び投与のタイミング
本発明の方法におけるIgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質の投与及び養子細胞移入免疫療法の適切なタイミングは、例えば、血漿又は血清のIgGレベルを評価するためのアッセイを使用して決定することができる。例えば、被験体の血清又は血漿中に存在する実質的に全てのIgG分子によるFc受容体及び/又は補体の結合をタンパク質が不活性化又は排除するのに要する時間量を測定してよい。これは、任意で、個体から採取した血清又は血漿のサンプルを試験し、任意の好適なアッセイを適用することによって決定することができる。幾つかの例示的な好適なアッセイを、実施例に記載する。
【0150】
このようなアッセイは、例えばELISAにおいて、1つ以上のFc受容体に結合することができる血清又は血漿のサンプル中のIgG分子の存在について直接試験することができる。あるいは、そのようなアッセイは、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質でIgGを処理することによって生じると予測される1つ以上の反応生成物の存在について試験してもよいという点で間接的であってもよい。例えば、剤がIgGタンパク質を切断する酵素である場合、血清又は血漿のサンプルをインタクトなIgG分子又は切断の結果生じた断片の存在についてアッセイしてよい。これは、任意の好適な方法によって、例えば、例えば質量分析若しくはSDS-PAGEによって分子量に基づいて分子及び断片を分離することによって、又は例えばELISAによって分子若しくは断片を特異的に検出することによって、達成することができる。あるいは、被験体由来の血清又は血漿をFcgRを発現する細胞と混合し、蛍光色素コンジュゲート抗ヒトIgGを用いたフローサイトメトリーによってIgGの結合をモニタリングすることにより、IgGを検出することもできる。
【0151】
臨床状況で血清又は血漿のサンプル等のサンプル中のIgGの量を評価するための従来の方法は、その速度、使用の容易さ、及び精度からネフェロメトリー及び比濁法に依拠している。ネフェロメトリー及び比濁法のいずれにおいても、透明な容器内の液体サンプルに光源を投射する。比濁法は、光の強度の減少を測定し、ネフェロメトリーは、サンプルを通過する際の光の散乱を測定し、これは溶液中の免疫グロブリンの濃度に比例する。いずれの原理も、添加された抗IgG抗体がサンプル中の抗原と反応して抗原/抗体複合体を形成(凝集)することに基づいている。PEGを添加することにより、反応が終点まで速やかに進行し、感度が増大し、過剰な抗原を含有するサンプルから偽陰性の結果が生じるリスクを低減することができる。IgG分析の場合、IgGのF(ab’)部分が抗IgG抗体によって架橋され、凝集反応を引き起こす。しかし、存在するIgGの一部又は全部がインタクトではない可能性があるとき、このような方法は適切でない場合がある。例えば、例えば本発明の方法においてサンプルを採取した被験体にIgGシステインプロテアーゼ(IdeS等)が投与された場合又はサンプルにそのようなプロテアーゼが投与された場合、F(ab’)及びFcの断片等の切断断片が存在するであろう。これは、F(ab’)断片が依然としてサンプル中に存在する限り、従来のネフェロメトリー及び比濁法の凝集反応には影響を与えない。インタクトなIgGと比較してF(ab’)断片の半減期は短いことから、凝集は経時的に減少するが、サンプル中に存在するインタクトなIgGの量に比例するわけではない。従って、IgGシステインプロテアーゼ(IdeS等)の存在によって影響を受けるサンプルは、従来の方法によって評価することができない。本発明者らは、IgGシステインプロテアーゼ(IdeS等)の存在によって影響を受けるサンプルに適合し、本発明の他の方法との併用を含む(がこれに限定されない)任意の臨床状況で使用可能な、IgG濃度の新規アッセイを開発した。
【0152】
該方法は、インタクトなIgGとIdeSによって生成されたF(ab’)断片とを識別することができる。これは、異なる断片、すなわち、抗Fab抗体及び抗Fc抗体を検出する抗体を利用することによって達成された。アッセイにおいて使用される抗体は、サンプルに影響を与えるIgGシステインプロテアーゼ(典型的には、IdeS)の基質であってはならない。これにより、サンプル中に存在する可能性のある任意の活性プロテアーゼがアッセイ試薬に影響を与えるのを避けられる。これは、異なる種由来のIgGを試験することによって、又は抗体全体の代わりに抗体断片(すなわち、Fab断片又はF(ab’)断片)を使用することによって達成することができる。通常、抗F(ab’)剤を捕捉試薬としてサンプルと共にインキュベートする。捕捉試薬は、典型的には、例えばアッセイプレートのウェルに固定される。次いで、結合したIgGを、検出試薬としての抗Fc剤と共にインキュベートすることによって検出する。従って、ネフェロメトリー及び比濁法とは対照的に、Fab部分及びFc部分の両方を保有するIgGのみが検出される。検出試薬は、典型的には、蛍光色素又は発色基質と反応する酵素等の検出を容易にする部分に直接又は間接的にコンジュゲートすることができる。捕捉試薬及び検出試薬は、IgGのFab部分又はFc部分を特異的に認識する任意の他の分子であってよく、逆の順序で使用してもよい、すなわち、抗Fcを用いて捕捉し、抗Fabを用いて検出してもよい。アッセイは、従来のELISA又はMeso Scale Discoveryフォーマット等の任意の好適なフォーマットで実施することができる。
【0153】
場合によっては、IgGシステインプロテアーゼがIdeSである場合等、サンプルは、一方の重鎖のみが切断され、F(ab’)が他方のインタクトな重鎖に付着したままであるscIgG等の中間断片を含み得る。このような場合、scIgG断片は、アッセイによってインタクトなIgGとして誤って同定される恐れがある。従って、方法は、サンプル中に存在する断片のサイズを評価する補完工程を含んでいてもよい。ヒンジ領域の下方の重鎖間にはジスルフィド橋が存在しないので、scIgG断片における重鎖のFc部分は、変性条件下で約20~25kDaのタンパク質としてインタクトな重鎖から分離される。異なる断片サイズは、SDS-PAGE等の任意の好適な方法を用いて検出及び定量することができる。任意の補完工程を含む方法の具体的な実施形態については、実施例1(有効性評価を参照)に記載する。方法は、臨床状況におけるIdeSの有効性を評価するのに特に有効である。
【0154】
IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質がIgGにおけるグリカン部分を切断する酵素である場合、正常な若しくは切断されたグリカンのいずれかを保有するIgG分子の存在又は切断の結果生じたグリカン断片について、血清又は血漿のサンプルをアッセイしてよい。これは、任意の好適な方法によって、例えば、例えば質量分析若しくはSDS-PAGEによって分子量に基づいて分子及び/若しくは断片を分離することによって、又は例えばELISAによって分子若しくは断片を特異的に検出することによって達成することができる。
【0155】
養子細胞移入免疫療法の前にIgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を投与する方法では、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質の投与と養子細胞移入免疫療法との間の時間間隔の下限は、少なくとも30分、少なくとも1時間、少なくとも2時間、少なくとも3時間、少なくとも4時間、少なくとも5時間、又は少なくとも6時間から選択することができる。被験体の血清又は血漿中に存在する実質的に全てのIgG分子によるFc受容体結合が、より早い時点で十分に減少又は消失したと判断された場合、下限は上記のいずれよりも短くてよい。好ましくは、下限は2時間である。
【0156】
養子細胞移入免疫療法の前にIgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を投与する方法では、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質の投与と養子細胞移入免疫療法との間の時間間隔の上限は、下限とは独立して選択してよく、IgGの内因的産生が始まって、方法を実施する前に被験体の血清又は血漿中に存在していたIgG分子に置き換わる又は完全に置き換わるのに要する時間によって決定してよい。これは、個体から採取した血清又は血漿のサンプルを試験し、下限に関して上述したもの等の任意の好適なアッセイを適用することによって決定することができる。新たに合成されたIgGは、典型的には、3~4日以内に血漿中に再び現れ始め、約3週間(21日)までに全ての置き換えが完了する。従って、上限は、最長21日、最長18日、最長14日、最長13日、最長12日、最長11日、最長10日、最長9日、最長8日、最長7日、最長6日、最長5日、最長4日、最長3日、最長2日、最長24時間、最長18時間、最長12時間、最長10時間、最長8時間、最長7時間、最長6時間、最長5時間、最長4時間、最長3時間、最長2時間、又は最長1時間から選択することができる。好ましくは、上限は48時間である。
【0157】
IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質の投与と養子細胞移入免疫療法との間の時間間隔は、最長24時間、最長12時間、又は最長6時間であってよく、その結果、投与工程(a)及び(b)の両方を同日に又は治療センターへの同一来院中に実施することが可能である。これは、特に治療センターへのアクセスが限られる可能性がある場合、非常に有利である。
【0158】
免疫療法の有効性を高めるために養子細胞移入免疫療法の後にIgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼの活性を有するタンパク質を投与する方法では、投与のタイミングは、IgG ADAの増加に依存する。特定の実施形態では、タンパク質は、養子細胞移入免疫療法の4~8日後、例えば、5~7日後又は6日後に投与される。抗体応答がリコール応答である場合、このタイミングが適切であり得る。抗体応答が一次応答である場合、タンパク質は、養子細胞移入免疫療法の1週間超後、例えば、10日後、2週間後、3週間後、若しくは4週間後、又は10日~2週間後、10日~3週間後、2~4週間後に投与してよい。
【0159】
安全スイッチ
いかなる種類の養子細胞移入免疫療法を施す場合でも懸念されるのは、重篤なサイトカイン放出症候群(CSR)又は他の合併症が発生する可能性である。従って、養子細胞移入免疫療法による標的細胞の溶解を一時的に停止できることが、安全性の面から望ましい。これを行うための好適な手段は、当技術分野において公知である。例えば、CAR T細胞の枯渇は、誘導性カスパーゼ9(iCasp9)、単純ヘルペスウイルスチロシンキナーゼ(HSV-TK)、又はヒトチミジル酸キナーゼ(TMPK)等の自殺遺伝子も発現するCARコンストラクトを設計することによって達成できる。
【0160】
B細胞受容体(BCR)特異的CAR T細胞の場合、BCRは、カッパ又は軽鎖CAR T細胞のトリガー標的となる。細胞表面からBCRが一時的に除去されると、エフェクターCAR T細胞の活性が低下する。
【0161】
CARの除去は多数の方法で行うことができる。例えば、細胞外リガンド結合ドメイン(複数可)と細胞内シグナル伝達ドメインとを接続するCARスペーサーを含むように、細胞を遺伝子操作してよい。有利なことに、これらのスペーサーはプロテアーゼによって切断されやすい可能性がある。これは、これらスペーサーを含有する任意の所与のscFv特異性のCAR T細胞は、プロテアーゼに曝露されると一時的に盲目化する可能性があり、その結果、患者における全てのCAR T細胞が排除される可能性があるため、有用である。
【0162】
好ましくは、スペーサーは、IgG1又はIgG4等のIgGの定常領域を含み得る。これら実施形態では、スペーサーは、イムリフィダーゼのようなIgG切断酵素によって切断され得る。これらCARスペーサーは、CH2又はCH2-CH3のドメインを含み得る。IgGは、野生型の配列を有していてもよく、又は変異していてもよい。例えば、スペーサーは、変異を有するスペーサーを含まないCAR T細胞と比較してインビボにおける細胞のFcR媒介性認識が低下するように変異していてもよい。
【0163】
好適なスペーサーは、当技術分野において公知である。例えば、Jonnalagadda et al.(Mol Ther.2015 Apr;23(4):757-768)には、FcR結合を低減する変異を含むIgG4 Fcスペーサーを含むCAR Tについて記載されている。同様に、Savoldo et al.(J Clin Invest.2011 May;121(5):1822-6)には、scFvとシグナル伝達ドメインとの間にインフレームでクローニングされたヒトIgG1-CH2CH3ドメイン由来のスペーサー領域を含むCAR Tについて記載されている(Hudecek et al.(Cancer Immunol Res.2015 Feb;3(2):125-35)も参照)。
【0164】
また、他のIgG切断酵素、例えばブデロビブリオ・バクテリオボラス(Bdellovibrio bacteriovorus)からクローニングされたもの等のシステインプロテアーゼ又はジンジパインを使用して実施してもよい。
【0165】
あるいは、養子細胞移入免疫療法を施す前にIgGシステインプロテアーゼを投与する。これら実施形態では、IgGシステインプロテアーゼを投与してから養子細胞移入免疫療法を開始するまでの間に、プロテアーゼの少なくとも一部又は全部が患者の血液からクリアランスされるのに十分な時間(好ましくは、3日間超、例えば4日間超、5日間超、6日間超、7日間超、8日間超、9日間超、又は10日間超)を確保することが好ましい。好適な時間枠は、当業者に公知である。
【0166】
ポリペプチドの生成
本明細書に開示されるポリペプチドは、任意の好適な手段によって生成することができる。例えば、ポリペプチドは、Fmoc固相化学、Boc固相化学、又は液相ペプチド合成等の当技術分野において公知の標準的な技術を使用して直接合成してよい。あるいは、ポリペプチドは、細胞、典型的には細菌細胞を、該ポリペプチドをコードしている核酸分子又はベクターで形質転換することによって生成してもよい。細菌宿主細胞において発現させることによるポリペプチドの生成については、以下に記載され、国際公開第2016/128559号に例示されている。
【0167】
ポリペプチドを含む組成物及び製剤
本発明はまた、本発明の治療方法において使用するための、IgGシステインプロテアーゼ又はIgGエンドグリコシダーゼを含む組成物も提供する。例えば、本発明は、1つ以上の本発明のポリペプチドと、少なくとも1つの薬学的に許容し得る担体又は希釈剤とを含む組成物を提供する。担体(複数可)は、組成物の他の成分と適合し、かつ組成物が投与される被験体にとって有害ではないという意味で「許容可能」でなければならない。典型的には、担体及び最終組成物は、無菌かつパイロジェンフリーである。
【0168】
好適な組成物の製剤化は、標準的な医薬製剤化の化学及び方法論を用いて実施することができ、それらは全て、当業者が容易に利用可能なものである。例えば、剤を1つ以上の薬学的に許容し得る賦形剤又はビヒクルと合わせてよい。湿潤又は乳化剤、pH緩衝物質、還元剤等の補助物質が、賦形剤又はビヒクル中に存在していてもよい。好適な還元剤としては、システイン、チオグリセロール、チオレドュシン(thioreducin)、グルタチオン等が挙げられる。賦形剤、ビヒクル、及び補助物質は、一般に、組成物を受け取る個体において免疫応答を誘導せず、過度の毒性なしに投与され得る薬学的剤である。薬学的に許容し得る賦形剤としては、水、生理食塩水、ポリエチレングリコール、ヒアルロン酸、グリセロール、チオグリセロール、及びエタノール等の液体が挙げられるが、これらに限定されない。その中に薬学的に許容し得る塩、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩等の鉱酸塩;並びに酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩、安息香酸塩等の有機酸の塩を含めてもよい。薬学的に許容し得る賦形剤、ビヒクル、及び補助物質に関する綿密な考察は、Remington’s Pharmaceutical Sciences(Mack Pub.Co.,N.J.1991)において入手可能である。
【0169】
このような組成物は、ボーラス投与又は連続投与に好適な形態で調製、包装、又は販売され得る。注射可能な組成物は、アンプル又は保存剤を含む複数回投与用容器等の単位剤形で調製、包装、又は販売され得る。組成物は、懸濁剤、液剤、油性又は水性のビヒクル中の乳剤、ペースト剤、及び移植可能な持続放出性又は生分解性の製剤を含むが、これらに限定されない。このような組成物は、懸濁化剤、安定剤、又は分散剤を含むがこれらに限定されない1つ以上の追加成分を更に含んでいてもよい。非経口投与用の組成物の一実施態様では、好適なビヒクル(例えば、無菌パイロジェンフリー水)で再構成するための(例えば、散剤又は顆粒剤用の)乾燥形態で活性成分が提供された後、再構成された組成物が非経口投与される。組成物は、無菌の注射可能な水性又は油性の懸濁剤又は液剤の形態で調製、包装、又は販売され得る。この懸濁剤又は液剤は、公知の分野に従って製剤化され得、そして、活性成分に加えて、本明細書に記載される分散剤、湿潤剤、又は懸濁化剤等の追加成分を含んでいてもよい。このような無菌の注射可能な製剤は、非毒性の非経口的に許容し得る希釈剤又は溶媒、例えば水又は1,3-ブタンジオールを使用して調製され得る。他の許容し得る希釈剤及び溶媒としては、リンゲル液、等張塩化ナトリウム溶液、及び固定油、例えば合成のモノグリセリド又はジグリセリドが挙げられるが、これらに限定されない。
【0170】
有用である他の非経口的に投与可能な組成物は、微結晶性形態で、リポソーム調製品で、又は生分解性ポリマー系の成分として活性成分を含むものを含む。制御放出又は移植用の組成物は、薬学的に許容し得る高分子又は疎水性の材料、例えば、エマルション、イオン交換樹脂、難溶性ポリマー、又は難溶性塩を含んでいてよい。組成物は、例えば、皮内、皮下、経皮、筋肉内、動脈内、腹腔内、関節内、骨内、又は他の適切な投与経路を含む任意の好適な経路による投与に好適であり得る。好ましい組成物は、静脈内注入による投与に好適である。
【0171】
概要
開示される生成物及び方法の様々な用途は、当技術分野における具体的なニーズに応じて調整できることを理解されたい。また、本明細書で使用される用語は、本発明の具体的な実施形態を説明することのみを目的とし、限定を意図するものではないことも理解されたい。
【0172】
更に、本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用するとき、単数形「a」、「an」、及び「the」は、特に明確に指示しない限り、複数の指示対象を含む。従って、例えば、「ポリペプチド(a polypeptide)」に対する言及は、「複数のポリペプチド(polypeptides)」等を含む。
【0173】
特に禁止しない限り、本明細書に開示される方法の工程は、任意の適切な順序で実行され得、工程が列挙される順序は、限定的であるとみなされるべきではない。
【0174】
「ポリペプチド」は、本明細書では、2つ以上のサブユニットアミノ酸、アミノ酸アナログ、又は他のペプチドミメティックの化合物を指すために、その最も広い意味で使用される。従って、用語「ポリペプチド」は、短いペプチド配列を含み、より長いポリペプチド及びタンパク質も含む。本明細書で使用するとき、用語「アミノ酸」とは、D型又はL型の光学異性体を両方含む天然及び/又は非天然、すなわち合成のアミノ酸、並びにアミノ酸アナログ及びペプチドミメティックを指す。
【0175】
「患者」及び「被験体」という用語は互換的に使用され、典型的にはヒトを指す。IgGに対する言及は、特に断りのない限り、典型的にはヒトIgGを指す。
【0176】
上述のアミノ酸の同一性は、任意の好適なアルゴリズムを使用して計算することができる。例えば、Altschul S.F.(1993)J Mol Evol 36:290-300;Altschul,S,F et al(1990)J Mol Biol 215:403-10に記載の通り、PILEUP及びBLASTのアルゴリズムを使用して同一性を計算したり、配列を並べたりすることができる(典型的には、そのデフォルト設定で)等価な又は対応する配列を同定する等)。BLAST解析を実施するためのソフトウェアは、National Center for Biotechnology Information(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を通して公的に入手可能である。このアルゴリズムは、まず、データベース配列における同じ長さのワードとアラインメントしたときに幾つかの正の値の閾値スコアTに一致するか又は満たす、クエリー配列における長さWの短いワードを同定することによって、高スコア配列対(HSP)を同定することを含む。Tは、近傍ワードスコア閾値(neighbourhood word score threshold)と称される(Altschulら、上掲)。これら初期近傍ワードヒットは、それを含有するHSPを見つけるための検索を始めるためのシードとして作用する。累積アラインメントスコアが増加し得る限り、ワードヒットを各配列に沿って両方向に拡張する。累積アラインメントスコアがその最大達成値から量Xだけ減少したとき;1つ以上の負のスコアの残基アラインメントの累積に起因して累積スコアがゼロ以下になったとき;又はいずれかの配列の末端に達したときに、各方向におけるワードヒットの拡張を停止する。BLASTアルゴリズムパラメータW、T、及びXが、アラインメントの感度及び速度を決定する。BLASTプログラムは、デフォルトとして、ワード長(W)11、BLOSUM62スコアリングマトリクス(Henikoff and Henikoff(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:10915-10919を参照されたい)アラインメント(B)50、期待値(E)10、M=5、N=4、及び両鎖の比較を使用する。http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)。
【0177】
BLASTアルゴリズムは、2つの配列間の類似性の統計的解析を実施する;例えば、Karlin and Altschul(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873-5787を参照されたい。BLASTアルゴリズムによって提供される類似性の1つの尺度は最小和確率(the smallest sum probability)(P(N))であり、これは、2つのポリヌクレオチド又はアミノ酸の配列間の一致が偶然生じる確率の指標を提供する。例えば、第1の配列の第2の配列に対する比較における最小和確率が約1未満、好ましくは約0.1未満、より好ましくは約0.01未満、最も好ましくは約0.001未満である場合、ある配列が別の配列と類似しているとみなされる。あるいは、UWGCGパッケージは、同一性を計算するために使用することができる(例えば、そのデフォルト設定で使用される)BESTFITプログラムを提供する(Devereux et al(1984)Nucleic Acids Research 12,387-395)。
【0178】
上記であろうと下記であろうと、本明細書に引用される全ての刊行物、特許、及び特許出願は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0179】
実施例
既存の又は治療によって誘導された抗体がCAR T細胞に対して負の作用を有するかどうか、またイムリフィダーゼ又はEndoSによる処理を通じてこれらの作用を軽減することができるかどうかを調べるために、実施例1~5における実験を行った。IgGが細胞表面受容体に結合するインビトロ及びインビトロのモデルを使用することによって、CAR T細胞に結合する抗薬物抗体を模倣するための系を開発した。これらモデルは、キメラ抗原受容体上の表面結合抗体の抗体媒介性エフェクター機構を模倣する。モデル系において、イムリフィダーゼ又はEndoSによる処理の効果について調べた。
【0180】
特に指示のない限り、使用した方法は、標準的な生化学的及び分子生物学的技術である。好適な方法論の教科書の例としては、Sambrook et al.,Molecular Cloning,A Laboratory Manual(1989)及びAusubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology(1995),John Wiley and Sons,Inc.が挙げられる。
【0181】
材料及び方法-実施例1~4
動物及び細胞株
Balb/c JBomTac、6週齢の雌をTaconicから購入し、9週齢で使用する前に馴化させた。倫理承認M72-13(Lund)に従ってマウスを飼育し、処理した。
【0182】
Daudi細胞(ACC78)及びTHP1単球細胞株(AML;TIB-202)を完全D-MEM 10培地(Glutamax D-MEM、5%FCS及びPEST)中で培養した。
【0183】
抗体及び補体
ウサギ抗マウス血小板IgG(血清)(コード#CLA31440、ロット6327、Cederland)をプロテインGで精製した。免疫性血小板減少(ITP)実験のために、精製されたIgGをIdeSで処理してscIgG及び完全に切断されたFc/F(ab’)2の画分を作製した。切断産物の純度を、SDS-pageゲル分析によって確認した。
【0184】
抗CD20 IgG(リツキシマブ、N7022、10mg/mL)はMabtheraから購入し、ヒトIgG1アイソタイプ陰性対照(#I5154)はSigmaから購入した。
【0185】
Dojindo Laboratories(Japan)製の細胞計数キットであるCCK-8を説明書に従って使用した。
【0186】
仔ウサギ血清補体(CL3441;ロット6374;Cedarlane)は、使用前に滅菌水で再構成し、最終希釈度1:10で培地で希釈した。
【0187】
ヒト血液を血清用のBD CATチューブ(#368815;噴霧乾燥した血餅活性化剤(シリカ、PVP、L-720))に回収し、-20℃で凍結させた。血清は、補体源として使用する前に、Daudi細胞に対する低毒性について試験した。
【0188】
マウス抗ヒトC4d(A213、Quidel)は、社内でビオチン化し、細胞染色のために1μg/mLで使用した。
【0189】
ポリクローナルヒツジ抗ヒトC1q(MD-14-0162、Raybiotech)をF(ab’)2に分画し、FragITキット(A2-FR2-025、Genovis)を用いて精製した(最終染色濃度、75μg/mL)。蛍光色素SA-PE(BD-Pharmingen、#554061)と一緒に、検出抗体としてロバ抗ヒツジIgG(H+L)-bio(Jackson、713-065-003)を使用した(2,5μg/mL)。
【0190】
7-AAD(Sigma、A9400)をCDCアッセイにおける死細胞マーカーとして使用した。
【0191】
ADCPアッセイでは、THP1細胞をDMSO中1mg/mL(約2mM)のFarRed DDAO-SE(Molecular Probes、C34553、ロット:33C1-1)で染色し、Daudi細胞をカルセイン、AM(Invitrogen、C3099、ロット25257W);(DMSO中1mg/mL原液)で染色した。
【0192】
酵素
化膿性連鎖球菌由来のHisタグ付きEndoSを大腸菌で発現させ、精製した。EndoTrap blue matrixを使用してリポ多糖(LPS)を除去した。SDS-pageゲルで純度を制御した。予測される100kDのバンドを超えるHisタグ精製後の追加のタンパク質バンドは、質量分析により宿主細胞タンパク質ではなく、EndoS起源であることが示された。
【0193】
IdeS(IgG-degrading enzyme of Streptococcus pyogenes、化膿性連鎖球菌のIgG分解酵素)は、ヒト病原体である化膿性連鎖球菌が分泌するシステインエンドペプチダーゼであり、ヒト免疫グロブリンG(IgG)抗体の下部ヒンジにおける単一のタンパク質分解を高度に特異的に触媒する。
【0194】
実施例1-標的細胞への抗体媒介性補体結合
ADAのCARへの結合と同様に受容体特異的抗体(RTX)が細胞表面受容体(CD20)に結合するという意味でCAR-T療法におけるADA相互作用のモデル系である、リツキシマブ(RTX)でオプソニン化したCD20陽性Daudi細胞を用いて、細胞療法に対する既存の又は治療によって誘導された抗体の効果並びにそのような抗体に対するIdeS及びEndoSの影響について調べた。
【0195】
Daudi細胞への補体沈着
Daudi細胞(3×10E7個/mLで50μL)を、100μg/mLで出発して最終濃度0.01μg/mLまで低下させた1:10段階タイトレーションのIdeS又はEndoSと共に、最終濃度2μg/mLの抗CD20抗体RTX又はヒトIgG1陰性対照抗体で処理した。総体積150μL/ウェルを含有するV字型96ウェルマスタープレートを37℃で110分間インキュベートした。プレートを遠心分離し、50μLの体積の上清を除去した。100μLの補体をヒト血清の形態で1:5の希釈度で添加し、その結果、最終的な血清希釈度は1:10になった。プレートを37℃で120分間インキュベートした。0.5%BSAを補給したD-MEM中で、全ての希釈及び洗浄工程を行った。
【0196】
細胞への補体付着についてのフローサイトメトリー染色
樹脂結合型IdeS(FragITキット、#A0-FR6;Genovis)を用いて予めFc及びF(ab’)2の断片に切断しておいたポリクローナルIgG(#MD-14-0162;RayBiotech)から作製したヒツジ抗C1q F(ab’)2と共にインキュベーションすることを通して、C1q補体結合を評価した。Fc断片は、プロテインAカラムで除去した。ポリクローナルF(ab’)2は、最終濃度75μg/mLで使用した)。ビオチン化ロバ抗ヒツジIgG(H+L)(#713-065-003、Jackson ImmunoResearch)を使用して、ヒツジ抗ヒトC1q F(ab’)2を検出した。SA-PEをD-MEM(+0,5%BSA)で希釈し、検出用蛍光色素として使用した。
【0197】
ビオチン化マウス抗ヒトC4d抗体(#A213;Quidel)と共にインキュベーションすることを通して、C4d補体結合を評価した。SA-PEをD-MEM(0,5%BSA)で希釈し、検出用蛍光色素として使用した。最後に、細胞をFACSチューブに移し、Accuri C6サイトフルオロメーターを用いてFL2における平均蛍光強度(MFI)を分析した。
【0198】
結果
標的細胞に結合しているIgGへの補体沈着は、古典的な補体経路を開始させ得、これにより膜攻撃複合体(MAC)が形成され、細胞死を引き起こす可能性がある。抗体結合を通して促進される補体カスケードの初期段階は、補体受容体を介した補体媒介性貪食について細胞に合図を送って停止させる(flag)こともできる。従って、CAR T細胞に対する既存の及び誘導された抗体が、患者におけるCAR-Tの持続性を制限する可能性がある。
【0199】
RTXでオプソニン化し、その後、指定濃度のIdeS又はEndoSと共にインキュベートしたCD20陽性Daudi細胞を用いて、IgGでコーティングされた細胞の補体沈着について調べた。2時間後にヒト血清を補体源として更に2時間かけて添加した。細胞を分注し、抗ヒトC1q-又はC4d-特異的検出抗体及び蛍光色素としてのSA-PEを使用して染色した。細胞をシングルセルフローサイトメトリーによってMFIについて分析した。
【0200】
IgGによるC1qとC4dの沈着は、IdeSとEndoSによって阻止することができる(図1を参照)。このことは、IgG感作CAR T細胞もIdeS又はEndoS処理によって補体沈着から保護されることを示唆しており、これは軽鎖特異的CAR-T細胞にも当てはまると予測される。
【0201】
実施例2-補体依存性細胞傷害(CDC)
既存の又は誘導されたCAR特異的抗体を含む抗体の受容体分子への結合は、細胞傷害性MACの形成につながる完全な補体活性化を引き起こし得る。これを模倣するために、Daudi細胞をCD20受容体特異的抗体RTXと共にインキュベートし、IdeS又はEndoSによる処理を通してCDCを阻止することができるかどうかについて調べた。
【0202】
Daudi細胞(3×10E6個)を、マスタープレートにおいて37℃で60分間、タイトレーションされた濃度のリツキシマブ(RTX)(ウェル内濃度50μg/mL、1:2段階希釈で0,2μg/mLまで)と一緒に、IdeS又はEndoS(50μg/mL)と共に60分間インキュベートした。
【0203】
50μLの細胞ミックスを、補体源としての50μLの仔ウサギ血清(1:5希釈)と共にELISAプレートに移し、CDC溶解のために37℃で45分間インキュベートした。各100μLのミックスに10μLのCCK8を添加し、CO2インキュベータ内において37℃で更に60分間インキュベートした。HCl(50μL、0,1M)を停止液として使用した。OD値を450nmで取得した。RTXを含まないウェルからのOD値を100%生存とした。
【0204】
結果
0.78μg/mLのRTX濃度では、培地群の細胞の70%が死滅するが、この濃度のIdeS又はEndoSの存在下では、全てのDaudi細胞が生存している(図2を参照)。EndoSの保護効果はRTX濃度の増加と共に減少し、50μg/mLで30%の生存率になったが、これはEndoS無しで同じ生存率である0.78μg/mLよりも60倍高いRTX濃度であった。従って、高い抗体濃度(50μg/mL)でさえも、IdeSでCDCを阻止することができるが、EndoSも強力な保護活性を示す。これは、軽鎖特異的CAR-T細胞にも当てはまると予測される。
【0205】
実施例3-THP1エフェクター細胞による、RTXでオプソニン化されたDaudi細胞のADPC
これら実験により、既存の又は誘導されたCAR特異的抗体の存在下でCAR T細胞の持続性を制限する可能性がある機序の1つであるFcγR媒介性貪食(ADCP)を、IdeS及びEndoSが低減することができるかどうかという疑問に対処した。
【0206】
細胞培養
THP1(単球エフェクター細胞)及びDaudi標的細胞を、完全Glutamax D-MEM(5%FCS及びPEST)で増幅させ、洗浄し、D-MEM 10培地で希釈した後、実験を行った。
【0207】
標的細胞の標識
Daudi細胞をPBSで2回洗浄してタンパク質を除去した後、標識した。細胞をPBSに再懸濁させ、カルセイン(4μL、6mLの細胞に対して1mg/mLから)を用いて染色し、暗所、RTでインキュベートした。15分後に細胞を培地(0,5%BSA)で2回洗浄し、3mLのD-MEM 10培地に2×10細胞/mLで再懸濁させた。
【0208】
エフェクター細胞の標識
THP1細胞をPBSで2回洗浄してタンパク質を除去し、5mLのPBSに再懸濁させた。FarRedを添加し(5mLの細胞に対して5μL)、暗所、RTでインキュベートした。20分後、細胞を培地で2回洗浄し、D-MEM 10に3,6×10細胞/mLで再懸濁させた。
【0209】
標的-エフェクター細胞のインキュベーション
タイトレーションしたRTX及び酵素(IdeS又はEndoS)を37℃で60分間インキュベートした。Daudi標的細胞(2×10E6個/mLで50μL)を30分間インキュベートしてオプソニン化した後、THP1エフェクター細胞(3,6×10E6個/mLで50μL)を添加し、約2時間インキュベートして、Daudi細胞のADCPを可能にした。細胞を5% PFAで3分間固定し、洗浄し、FACS解析のために移した。FL2(カルセイン)及びFL4(FarRed)におけるMFIについて、Accuri C6フローサイトメーターを用いて細胞を分析した。二重陽性細胞をADCP陽性であるとみなした。
【0210】
結果
単球THP1エフェクター細胞によるFcγR媒介性貪食からRTXでオプソニン化されたCD20陽性Daudi細胞を保護するIdeS及びEndoSの有効性をフローサイトメトリーによって分析した。簡潔に述べると、カルセインで標識したDaudi細胞を漸増濃度のRTXでオプソニン化した後、一定濃度のIdeS又はEndoSを添加した。37℃で30分間インキュベートした後、FarRedで標識したTHP1-エフェクター細胞を約2時間にわたって添加した。次いで、洗浄及び固定した細胞をフローサイトメトリーによって分析した。FL2におけるカルセイン陽性細胞全てをゲーティングし、100% Daudi細胞と定義した。次いで、FL2陽性細胞を全て、FL4においてRarRed陽性についてゲーティングした。これらカルセイン/FarRed二重陽性細胞は、THP1に貪食されたDaudi細胞である。IdeSによるFc部分の除去により、オプソニン化されたDaudi細胞を貪食するTHP1細胞の能力が完全に消失した。また、EndoSによりRTXのN297位で脱グリコシル化した結果、このモデルにおいても貪食が減少した(図3を参照)。
【0211】
従って、ADCPでは、単球細胞株THP1による抗体でオプソニン化された細胞の飲み込みは、IdeS処理によって完全に阻止され、EndoS処理によって減少する。これは、軽鎖特異的CAR-T細胞にも当てはまると予測される。
実施例4-免疫性血小板減少症(ITP)モデルにおける血小板の保護
RTX及びDaudi細胞を用いて上で実証した通り、IdeS及びEndoSは、細胞表面受容体特異的抗体のエフェクター機能を軽減する。以下の実験では、血小板減少症(ITP)モデルを用いて、これら酵素が抗体感作された内因性細胞をインビボにおいて排除から保護するかどうかについても調べた。これにより、CAR T細胞の持続性に対する抗CAR抗体の状況におけるこれら酵素の作用を模倣するイムリフィダーゼ又はEndoSによる処理を通して、細胞表面受容体に対する有害なポリクローナル抗体が不活性化され得ることを実証する。
【0212】
ITPインビボEndoS処理
プロテインGによってウサギ抗マウス血小板血清(Cederland #CLA31440)から精製した抗血小板特異的抗体(抗PLT IgG)(50μg IgG/マウス)200μLをi.p.単回注射することによって、9週齢の雌Balb/cJBomTacマウスを免疫性血小板減少症(ITP)のためにプライミングした。30分後に指定量のEndoS(10μg/マウス、30μg/マウス、90μg/マウス)をi.p.注射し、それぞれPBSを陰性対照とした。両方の場合に担体溶液(PBS)を注射したマウスを正常対照として使用した。注射4時間後に血腫又は異常行動についてマウスを評価した。24時間後に尾静脈から血液サンプルを採取してMicrovette CB300(Sarstedt、Potassium-EDTA #16.444.100)に入れた。血液サンプル中の血小板を、血液分析装置VetScan HM5でカウントした。
【0213】
インビトロにおいてIdeSで切断された抗PLT抗体によるITPの誘導
抗マウスPLT IgGを、マウス血小板で免疫したウサギの血清(コード#CLA31440、Cederlane)からプロテインG精製した。IgGを処理して、インビボ実験のためにIdeS切断産物scIgG及び完全に切断されたFc/F(ab’)2断片を生成した。
【0214】
250μg/マウスの抗PLT IgG、scIgG、又はFc/F(ab’)2断片のいずれか200μLをi.p.単回注射することによって、9週齢の雌Balb/cJBomTacマウスをITPのためにプライミングした。一部のマウスにはPBSを注射して、血小板の正常対照レベルを確立した。24時間後に尾静脈から血液サンプルを採取してMicrovette CB300(Sarstedt、Potassium-EDTA #16.444.100)に入れた。血液サンプル中の血小板を、血液分析装置VetScan HM5でカウントした。
【0215】
ITPインビボIdeS処理
プロテインGによってウサギ抗マウス血小板血清(Cederland #CLA31440)から精製した抗PLT IgG(250μg IgG/マウス)200μLをi.p.単回注射することによって、9週齢の雌Balb/cJBomTacマウスをITPのためにプライミングした。抗PLT IgGをi.p.注射した1時間後に、IdeS(0μg/マウス、0.2μg/マウス、2μg/マウス、20μg/マウス)をi.v.投与した。血小板レベルが正常な対照マウスにはPBSのみを注射した。24時間後に尾静脈から血液サンプルを採取してMicrovette CB300(Sarstedt、Potassium-EDTA #16.444.100)に入れた。血液サンプル中の血小板を、血液分析装置VetScan HM5でカウントした。
【0216】
結果
この研究の目的は、インビボにおけるインタクトな抗PLT IgGと比較して、IdeS切断産物であるscIgG又はF(ab’)2 IgG断片のエフェクター機能のメディエーターとしてのインビボにおける効果を評価することであった。
【0217】
0.25mg/マウスの用量のウサギ抗マウス血小板精製インタクトIgG、ウサギscIgG、又はF(ab’)2断片のいずれかをBALB/c マウスにi.p.単回注射することによって、免疫性血小板減少症(ITP)を誘導した。ITPを誘導した1日後にマウスから採血し、血液を尾静脈から回収した。血小板をVetScan HM5で自動的にカウントした。PBSのみを投与したナイーブマウス2匹を対照マウスとして使用した。これらマウスは、血小板数が86×10血小板/Lまで低下したウサギ抗マウス血小板精製IgGを注射したマウスと比較して、657×10血小板/Lと正常な血小板レベルを有していた(図4を参照)。しかし、抗PLT scIgGを注射したマウスでは、血小板のわずかな減少がみられた。精製ウサギ抗マウス血小板(F(ab’)2 IgG断片で処理したマウスでは、血小板減少症の誘導は観察されなかった。
【0218】
この実験から、IdeSによるscIgG又は(F(ab’)2)のインビトロ生成を通して、血小板減少症からの保護効果を実現できると結論付けることができる。軽鎖特異的CAR-T細胞を含む、キメラ抗原受容体T細胞上のネオエピトープを標的とする他の既存の又はデノボの抗体からも、同様の保護効果を予測することができる。
【0219】
血小板減少症は、scIgG調製物を注射した場合には部分的に予防することができ、IgGをIdeSによってFc及びF(ab’)2の断片に切断した後には完全に消失した(図4を参照)。
【0220】
IdeSがインビボにおいても治療効果を有するかどうかについて調べるために、まずマウスに血小板減少用量の抗PLTウサギIgGを注射した。1時間後に、異なる用量のIdeSを注射した。24時間後に血液を回収し、異なる群における血小板数を確定した。マウスにおける血小板を正常レベルに回復させるには、マウス1匹あたり2μgのIdeSで完全に十分であった(図5参照)。従って、ITPマウスモデルを用いて、有害な抗血小板抗体(抗PLT)に対するIdeSの治療効果をインビボで試験した。インタクトなポリクローナル抗PLTウサギ抗体(250μg)をマウスに注射すると、血小板枯渇を伴う強いITP表現型が引き起こされる。
【0221】
EndoSを抗PTL IgG感作マウスに注射した場合も同様の結果がみられた。24時間以内に血小板数を約600×10E9個/Lから200×10E9個/Lに減少させるには、50μgの抗PLT抗体で十分であった。マウスを血小板減少症から保護するには、マウス1匹あたり10μgのEndoSで十分であった(図6を参照)。
【0222】
これら実験は、IdeS又はEndoSを用いることで、オプソニン化された細胞の病原性抗体媒介性エフェクター機能を阻止又は回復させ得ることを示す。これらデータに基づいて、これら酵素は、既存の及び治療によって誘導されたADAの不活性化を通じてCAR T/NK細胞の生存及び有効性も改善すると予測される。
【0223】
まとめると、CAR-T細胞に対するADA応答を模倣する、試験した抗体媒介性エフェクター機能(C1q及びC4dの沈着、CDC、ADCP)は、IdeS及びEndoSの使用を通して阻止できることが示された。
【0224】
実施例5
単鎖可変断片(scFv)キメラ抗原受容体又はCAR-T細胞上の同種エピトープに対する抗体が有害な作用を有するかどうかを確認するための実験を行った。従って、異なる起源からのCAR及びアロ特異的抗体を、結合及びFc媒介性抗体エフェクター機能、すなわち、CAR-T細胞の抗体依存性細胞貪食(ADCP)及び抗体依存性細胞傷害(ADCC)について試験した。更に、イムリフィダーゼ処理により、これら有害なIgGエフェクター機構からCAR-T細胞を保護できることが確認された。
【0225】
材料及び方法
細胞
CAR-T細胞株、クローンE6-1に基づく抗CD19scFv(FMC63)-h(28ζ)CAR-Jurkat T細胞(CARJ-ZP005、Creative biolabs、Shirley,NY,USA);Jurkat野生型(wt)(クローンE6-1)(#EP-CL-0129、ElabScience、Houston,TX,USA);初代ヒトCAR T細胞、抗BCMA4 CAR T細胞(BCMA-4-TM8-4-1BB-CD3ゼータCAR-T細胞)(PM-CAR1037、ProMab Biotechnologies,Richmond,CA,USA);抗CD19 CAR T細胞(CD19-scFv-Flag-TM--CD28-CD3ゼータCAR-T細胞)(PM-CAR1007、ProMab Biotechnologies);モックscFv制御T細胞(PM-CAR1000、ProMab Biotechnologies)。抗CD19-scFvは、マウスCD19特異的モノクローナル抗体FMC63に由来していた。
【0226】
THP-1単球細胞株(ACC16、DSMZ、Braunschweig,Germany)。IgM BCR及びCD20陽性のDaudi細胞(ACC78、DSMZ)。全ての細胞を、完全RPMI 10培地(RPMI、10%FCS、及びPEST)で培養した。抗CD19 CAR-Jurkat T細胞を、ピューロマイシン(1mg/mL)選択下で培養した。
【0227】
抗体及びヒト血清
CAR scFv交差反応性抗F(ab’)特異的抗体は、アフィニティ精製されたウサギ抗ヒトIgG、F(ab’)断片特異的(#309-005-006、JacksonImmunoResearch、West Grove,PA,USA)、アフィニティ精製されたウサギ抗マウスIgG、F(ab’)断片特異的(#315-005-006、JacksonImmunoResearch)、ヤギ抗ヒトIgG-Fc-PE(LS-AB2、OneLambda)、及びビオチン化ヤギ抗ウサギFc(#111-066-046、JacksonImmunoResearch)を含む。ビオチン化ヤギ抗ウサギFcの検出は、ストレプトアビジン-Alexa Fluor 647(SA-AF647)(#016-600-084、JacksonImmunoResearch)を使用することによって達成した。
【0228】
ヒト血清サンプル(n=119、男女両方)はBioIVT(BioIVT,Westbury,NY,USA)から購入し、ヒト抗マウス抗体(HAMA)の定量及びアロ特異的抗体のスクリーニングに使用した。HLA高感作患者(n=8)及び第1相の健常ボランティア(n=11)からの匿名臨床試験サンプルを、抗CD19 CAR-Jurkat T細胞に対するHAMA及びHLAアロ応答性についてスクリーニングした。FlowPRA HLAクラスI陽性対照血清(FL1-PC、OneLambda、West Hills,CA,USA)、FlowPRA HLAクラスII陽性対照血清(FL1-PC、OneLambda)、及びHLA陰性対照血清(LS-NC、LABScreen、OneLambda)を含むHLA同種反応性の対照血清は、OneLambdaから購入したか、又は健常ドナーから供与された研究サンプルであった。
【0229】
ELISAベースのHAMA検出
ブリッジングELISAキット「LEGEND MAX Human Anti-Mouse Ig(HAMA)」(カタログ番号438307、ロット番号B329842、BioLegend,San Diego,CA,USA)を、ヒト血清中のHAMAを検出するために使用した。簡潔に述べると、マウスIgGでプレコーティングされたプレートを洗浄し、未希釈のヒト血清サンプル(BioIVT)、HAMA品質管理、標準曲線サンプル、及びマウスIgGコンジュゲートと共にインキュベートした。内容物を廃棄し、洗浄バッファーでプレートを洗浄した。基質溶液を添加し、プレートを室温(RT)で15分間暗所にてインキュベートした。停止液を添加するによって、反応を終了させた。SpectraMax i3x分光光度計(SpectraMax i3x、Molecular Devices、San Jose,CA,USA)を用いて、30分以内に450nm及び570nmで吸光度を測定した。ODの結果を、4パラメータロジスティック曲線フィッティングアルゴリズムを用いて、Graph Pad Prism 9(GraphPad Software、San Diego,CA,USA)で解析した。HAMAが10ng/mLを超える血清サンプルをHAMA陽性とみなした。
【0230】
フローサイトメトリーによるCAR特異的ヒト血清のスクリーニング
抗CD19 CAR-Jurkat又はJurkat野生型のT細胞(1×10E5個/ウェル)をPBSで洗浄し、300gで5分間遠心分離した。細胞ペレットを、ELISAベースのHAMA検出から選択したヒト血清サンプル50μLに再懸濁させた。次いで、血清をインキュベートした細胞を洗浄し、ヤギ抗ヒトFc-PE抗体(OneLambda)で染色し、平均蛍光強度(MFI)レベルについてFL2においてフローサイトメトリー(CytoFLEXフローサイトメーター、#C02945、Beckman Coulter)によって分析した。
【0231】
フローサイトメトリーによるCAR-T Jurkatアロ応答性ヒト血清のスクリーニング
抗CD19 CAR-Jurkat T細胞(1×10E5個)をPBSで洗浄し、300gで5分間遠心分離した。細胞ペレットを指定のヒト血清サンプル50μLに再懸濁させた。対照として、FlowPRAクラスI陽性対照血清(OneLambda)、FlowPRAクラスII陽性対照血清(OneLambda)、及びHLA陰性対照血清(OneLambda)を使用した。PEコンジュゲートヤギ抗ヒトIgG(LS-AB2、OneLambda)を用いて、結合した同種抗体を検出した。洗浄工程の後、細胞をPBSに再懸濁させ、フローサイトメーター(CytoFLEX)を用いてMFI値について分析した。
【0232】
初代CAR-Tに対するポリクローナルIgGの結合
抗BCMA4 CAR T細胞(PM-CAR1037、ProMab Biotechnologies)、抗CD19 CAR T細胞(PM-CAR1007、ProMab Biotechnologies)、及びモックscFv対照細胞(PM-CAR1000、ProMab Biotechnologies)を含む初代ヒトCAR T細胞を解凍し、洗浄し、ウサギ抗マウスIgG、F(ab)特異的(#315-005-005、JacksonImmunoResearch)と共に30分間インキュベートした。BCRを発現しているDaudi細胞をF(ab’)陽性対照として染色した。次いで、細胞を洗浄し、逐次ビオチン化ヤギ抗ウサギFc抗体及びSA-AF647(#016-600-084、JacksonImmunoResearch)と共にインキュベートした。同様のアプローチを使用して、ポリクローナル抗マウス抗体及び抗ヒトIgG抗体の抗CD19 CAR-Jurkat T細胞への結合を評価した。
【0233】
FcγRI発現エフェクター細胞を用いた抗体依存性細胞貪食(ADCP)
抗CD19 CAR-Jurkat T細胞を血清と共にインキュベートし、FcγRI Reporter Bioassayキット(#CS1781C01、Promega,Madison,WI,USA)を用いてADCP誘導について試験した。簡潔に述べると、ヒト血清サンプル(BioIVT、及び06-studyからの匿名血清)、HLAクラスI陽性対照血清(FL1-PC、OneLambda)、及びHLA陰性対照血清(#LS-NC、OneLambda)を10μg/mLイムリフィダーゼの有り無しで、37℃で30分間インキュベートした。抗CD19 CAR-Jurkat標的T細胞(CARJ-ZP005、Creative Biolabs)(7500個/ウェル)を遠心分離し、D-PBSで1回洗浄し、付属のアッセイバッファー(RPMI-1640中4%の低IgG血清)に再懸濁させた。標的細胞をイムリフィダーゼ処理/非処理抗体及び血清と共に37℃で1時間インキュベートした。この後、FcγRI(Promega)を発現するエフェクター細胞(75000個/ウェル)をオプソニン化された標的細胞に添加し、37℃で6時間インキュベートした。最後に、細胞をBio-Glo(商標)Luciferase Assay Reagent(Promega)と共に周囲温度で10分間インキュベートした後、積分時間を0.5秒/ウェルに設定して、発光リーダー(SpectraMax i3x)を用いてルシフェラーゼ活性を測定した。データをGraphPad Prism 9.0(GraphPad Software、San Diego,CA,USA)を用いて解析した。アッセイバッファーを含むプレートのバックグランドは、3回の反復実験の平均として算出し、一方、イムリフィダーゼの存在下/非存在下において細胞のみを含有する抗体なし対照は、2回の反復実験の平均として算出した。誘導倍率(FoI)は、以下の通り算出した、FoI=RLU(誘導-バックグラウンド)/RLU(抗体なし対照-バックグラウンド)。
【0234】
FcgRIIIa(V158)高親和性及びFcgRIIIa(F158)低親和性発現エフェクター細胞を用いた抗体依存性細胞傷害性(ADCC)
抗体(リツキシマブ、マブセラ、Roche,Basel,Switzerland)、ウサギ抗ヒトIgG、F(ab’)特異的(JacksonImmunoResearch)、ウサギ抗マウスIgG、F(ab’)特異的(JacksonImmunoResearch)、及びヒト血清(BioIVT及びHLA高感作患者からの匿名血清を、20μg/mLのイムリフィダーゼの有り無しで、37℃で30分間インキュベートし、その後、4℃で一晩保存した。抗CD19 CAR-Jurkat(CARJ-ZP005、Creative Biolabs)、Jurkat野生型(EP-CL-0129、Elabscience、Houston,TX,USA)、及びDaudi(ACC78、DSMZ、Braunschweig,Germany)細胞を含む標的細胞(7500細胞/ウェル)を遠心分離し、D-PBS(GIBCO Life Technologies、Grand Island、NY,USA)で1回洗浄し、アッセイバッファー(RPMI-1640(Promega、Madison,WI,USA)中4%低IgG血清)に再懸濁させ、イムリフィダーゼ処理/非処理抗体及び血清と共に37℃で1時間インキュベートした。この後、低親和性(#G979A、Promega)又は高親和性(#G701A、Promega)のFcγRIIIaを発現しているエフェクター細胞75000個をオプソニン化された標的細胞に添加し、37℃で6時間インキュベートした。最後に、細胞をBio-Glo(商標)Luciferase Assay Reagent(Promega)と共に周囲温度で10分間インキュベートした後、積分時間を0.5秒/ウェルに設定して、発光リーダー(SpectraMax i3x)を用いてルシフェラーゼ活性を測定した。生データをエクスポートし、GraphPad Prism 9.0(GraphPad Software)を用いて解析した。アッセイバッファーを含むプレートのバックグランドは、3回の反復実験の平均として算出し、一方、イムリフィダーゼの存在下/非存在下において細胞のみを含有する抗体なし対照は、2回の反復実験の平均として算出した。定量的な抗HLAのクラスI及びクラスIIの抗体を有しない健常ドナーの血清サンプルを表すHLA陰性対照も含めた。誘導倍率(FoI)は、以下の通り算出した、FoI=RLU(誘導-バックグラウンド)/RLU(抗体なし対照-バックグラウンド)。
【0235】
フローサイトメトリーベースのADCPアッセイ
ADCP標的細胞(抗CD19 CAR-Jurkat T細胞、Jurkat野生型T細胞、及びDaudi細胞)を、指定濃度のイムリフィダーゼ処理(±10μg/mL)したウサギ抗ヒトIgG、F(ab’)特異的(#309-005-006、JacksonImmunoResearch)又は抗マウスIgG,F(ab’)特異的(#315-005-006、JacksonImmunoResearch)抗体と共にインキュベートする前に、カルセイン-AM(C3099,Invitrogen,Carlsbad,CA,USA)で染色した。あるいは、標的細胞ペレットを、HAMA又は同種IgGによるオプソニン化のためにイムリフィダーゼ処理(±10μg/mL)したヒト血清サンプル(25μL)と共に未希釈で再懸濁させた。単球エフェクター細胞株であるTHP-1をCellTrace FarRed DDAO-SE(C34553、Molecular Probes、Eugene,OR,USA)で染色した後、標的細胞に添加し、37℃で90分間インキュベートした。フローサイトメトリー(CytoFLEXフローサイトメーター、#C02945、Beckman Coulter)により貪食を評価した。THP1細胞によって貪食された標的細胞を反映するFL1及びFL4二重陽性細胞の量を、標的細胞の百分率として表した。
【0236】
CD19-タンパク質結合ブロッキング実験
ウサギ抗マウスIgG、F(ab’)特異的抗体(JacksonImmunoResearch Laboratories)及びヒト血清(BioIVT)を、10μg/mLイムリフィダーゼの有り無しで、37℃で60分間インキュベートした。IHAc(1mM)(I4386、Sigma-Aldrich、St.Louis,MO,USA)を全てのサンプルに30分間にわたって添加して、後続のインキュベーション工程中にイムリフィダーゼを不活性化させた。抗CD19 CAR-Jurkat及びJurkat野生型T細胞を、調製した血清及びIgGサンプルと共にRTで60分間インキュベートした。組み換えヒトCD19-Fcキメラタンパク質、atto 647Nコンジュゲート(ATM9269、R&D systems、Minneapolis,MN,USA)を細胞に添加し、45分間インキュベートした後、フローサイトメトリーによって分析した(CytoFLEXフローサイトメーター、#C02945、Beckman Coulter)。
【0237】
結果
F(ab’)特異的ポリクローナル抗体はCAR T細胞受容体に特異的に結合する
自己CAR T細胞を作製するために抗CD19又はBCMA特異的キメラ抗原受容体でトランスフェクトした初代ヒトT細胞を、CAR特異的抗体を同定するために使用した。CARの抗原特異的scFvドメインが、例えばマウスモノクローナル抗体を起源とする場合、自己CAR T細胞治療の場合でさえも、レシピエントにとって異物であるエピトープを含有する。CAR T細胞に対するCAR特異的抗体の影響について調べるために、異なる供給元のCAR特異的抗体を結合について試験した。ポリクローナルウサギ抗マウスF(ab’)特異的抗体は、抗CD19 CAR T細胞(図7A)及び抗BCMA-CAR T細胞(図7B)に対して交差反応性を示したが、モックトランスフェクトされたT細胞(図7C)は未染色のままであった。ポリクローナルウサギ抗マウスF(ab’)検出試薬と交差反応することが先に示されているB細胞受容体発現Daudi細胞(図7D)を、F(ab’)陽性対照染色に使用した。受容体のscFvがマウスmAb FMC63に基づく抗ヒトCD19 CARが形質導入されたヒトT細胞株Jurkatの染色から、ウサギ抗マウスF(ab’)抗体の強い結合が実証された。ウサギ抗ヒトF(ab’)を使用しても、若干の交差反応が観察された。これらデータから、異なる標的に対する様々な異なる受容体コンストラクトが抗体に結合し得ることが確認される。このような結合は、CAR T細胞治療等の養子細胞移入免疫療法に対して負の作用を発揮する可能性があるため、更に抗体を用いて、抗CAR T細胞抗体媒介性エフェクター機能、及びイムリフィダーゼによる処理でそれをどの程度阻止できるかについて調べた。
【0238】
HAMA及びCD19-CAR Jurkat T細胞アロ特異的血清の同定
潜在的にCAR特異的である抗体の1つの群は、ヒト抗マウス抗体(HAMA)である。ヒト血清サンプル中のHAMAレベルは、マウスIgGでコーティングされたアッセイプレートを用いてサンドイッチELISAで定量することができる。承認されたHAMA ELISAキットを用いて、ヒト血清をHAMAについてスクリーニングした(図8A)。同定されたHAMA陽性及び陰性のサンプルの選択を、抗CD19 CAR-Jurkat T細胞との結合について試験した。HAMA特異的IgGの結合をHLA同種応答と区別するためにJurkat野生型T細胞を含めた。ELISA HAMA陽性血清も抗CD19 CAR T細胞受容体に特異的に結合することを実証することができた(図8B)。ELISAによってHAMAについてスクリーニングした血清を示す(図8C)。次いで、これらサンプルを、IgGの結合についてフローサイトメトリーによって更にスクリーニングした。これにより、HAMA又は抗CD19 CAR T細胞同種反応性血清を選択して、抗CD19 CAR-Jurkat T細胞に対するこれら異なるIgG群の作用を更に解明することができた。HAMAは、マウス抗原との接触により正常個体でも誘導されると考えられる。マウスmAbベースの生物製剤を投与されている患者では、HAMAの頻度及び濃度が更に高くなり、場合によっては、これら治療薬の部分的な中和さえも引き起こすと予測することができる。健常個体と比較して、HLA感作された移植患者の血清では抗CD19 CAR-Jurkat T細胞に対するより高レベルの同種抗体を検出することができる(図8D)。スクリーニングされた抗HLA高感作患者8名のうち5名が、抗CD19 CAR-Jurkat T細胞に対して陽性であり、1名が抗HLA高感作であった。スクリーニングされた個体のうち2名は、抗CD19 CAR Jurkat細胞に対する同種抗体を有していなかった。
【0239】
これらデータは、受容体コンストラクトに結合することができる抗体が、健常個体を含むヒト患者で検出可能であり、移植等のHLA感作を高めることができる処理を受けたことのある患者で増加していることを実証する。
【0240】
同種抗体は、臓器移植で誘導されるだけでなく、妊娠及び輸血に起因して誘導されることもある。同種細胞療法を患者に注入すると、同種抗体が更に誘導される可能性があり、同種CAR T細胞処理に支障を来す可能性がある。
ADCPのためのポリクローナル抗F(ab’)抗体による抗CD19 CAR T細胞のオプソニン化は、イムリフィダーゼ処理により阻止され、イムリフィダーゼは、同種血清でオプソニン化されたCD19-CAR Jurkat T細胞によるADCP誘導を阻止する。
【0241】
CD19 scFv CARドメインに特異的なポリクローナル抗F(ab’)抗体及び同種抗CD19 CAR-Jurkat T細胞に対するHLA特異的抗体を、抗体媒介性細胞貪食(ADCP)の誘導及びIgG切断酵素イムリフィダーゼによる処理を通じた阻止について試験した(図9及び図10を参照)。カルセインで染色した標的細胞及びCellTrace FarRedで標識した単球THP1エフェクター細胞と共に、フローサイトメトリーベースのADCPモデルを使用した。フローサイトメトリーによって細胞を取得することにより、単一及び二重の陽性細胞、すなわち、貪食された細胞を識別することができた。抗CD19 CAR-Jurkat標的細胞を、ウサギ抗マウスF(ab’)抗体(図9A)又は交差反応性抗ヒトF(ab’)抗体(図9B)のいずれかでオプソニン化した。いずれの場合も、イムリフィダーゼ(10μg/mL)の添加により、標的細胞のADCPが阻止された。Jurkat野生型細胞の取り込みはなく、これは、貪食が抗CD19 CAR依存性であったことを示す(図9D、E)。BCR陽性Daudi標的細胞を、F(ab’)抗体媒介性ADCPの陽性対照として使用した(図9C、F)。これらデータは、受容体特異的抗体が、細胞療法に負の作用を及ぼすと予測される、T細胞に対するADCPを誘導できることを実証する。また、データは、イムリフィダーゼによる処理がADCPの阻止に有効であることも実証する。更に、同種Jurkat CAR T細胞に対して感作されたヒト血清によるオプソニン化及びADCPの誘導を、生物発光FcγRIレポーターアッセイ(#CS1781C01、Promega、#CS1781C01)を用いて試験した。正常個体(図10A)及び抗HLA高感作患者(図10B)の血清は、抗CD19 CAR-Jurkat T細胞をオプソニン化し、ADCPを誘導することができた。同種細胞に対する血清IgGによるADCPの誘導は、イムリフィダーゼによる処理を通じて低減することができた。従って、これらデータから、正常個体及び感作患者の両方の血清中の抗体が養子細胞移入免疫療法細胞に対するADCPを誘導するが、イムリフィダーゼ処理によってこれを低減できることが確認される。
【0242】
FcγRIIIaアレル(V158)及びアレル(F158)抗CD19 CAR特異的抗体に誘導されるADCC(V158)は、イムリフィダーゼ処理によって阻止される。
抗体依存性細胞傷害活性(ADCC)は、IgGでオプソニン化された標的細胞によるエフェクター細胞上のFcγRIIIa(CD16a)への会合を通じて誘発される。一般集団には、158位にバリンを有する高親和性バリアント(V158)及び158位にフェニルアラニンを有する低親和性バリアント(F158)の2つの主要なCD16aアレルが存在する。これらアレルを、ADCC生物発光アッセイ(Promega)のエフェクター細胞に導入した。抗CD19 CAR-Jurkat T細胞を、イムリフィダーゼ(20μg/mL)処理の有り無し両方で、ウサギ抗マウス(図11A)又は抗ヒト(図11B)F(ab’)抗体のいずれかと共にインキュベートした。オプソニン化された標的細胞を高親和性FcγRIIIa(V158)エフェクター細胞と共にインキュベートした。抗マウスF(ab’)抗体でオプソニン化された標的細胞によって、ADCCが強く誘導された。イムリフィダーゼ処理したサンプルでは、ADCCの誘導が完全に消失した(図11A)。ポリクローナル抗ヒトF(ab’)は、より弱い刺激効果を誘導したが、100μg/mLでADCCを誘発することができた(図11B)。陰性対照であるJurkat野生型細胞では、効果はみられなかった(図11C)。リツキシマブ(図11D)又は抗ヒトF(ab’)図11E)でオプソニン化したDaudi細胞を陽性対照として使用した。また、オプソニン化されたDaudi標的細胞をイムリフィダーゼ処理すると、ADCCの誘導が阻止された(図11D、E)。
【0243】
低親和性FcγRIIIa ADCC生物発光レポーターアッセイを用いても同様の結果がみられた(図12)。抗マウスF(ab’)で処理した抗CD19 CAR-Jurkat T細胞はADCCシグナル伝達を誘導したが、これはイムリフィダーゼで処理することによって阻止することができた(図12A)。他方、ポリクローナル抗ヒトF(ab’)抗体は、最高抗体濃度(100μg/mL)でさえもADCCシグナル伝達を誘発することはできなかった(図12B)。リツキシマブ(図12D)又は抗ヒトF(ab’)図12E)と共にインキュベートしたDaudi細胞は、低親和性FcγRIIIaのADCCを誘導し、その効果はイムリフィダーゼ処理によって阻止された。
【0244】
これらデータは、更に、受容体特異的抗体が養子細胞移入免疫療法細胞、特に、細胞療法に負の影響を及ぼすと予測されるADCCに対して有害な作用を媒介し得ることを実証する。また、データは、イムリフィダーゼによる処理がADCCを阻止するのに有効であることも実証する。
【0245】
HAMAでオプソニン化された抗CD19 CAR-Jurkat T細胞によるADCC誘導は、イムリフィダーゼ処理で阻止することができる
20μg/mLのイムリフィダーゼで処理したか又は処理しなかったELISA-HAMA陰性(164)及び陽性(184、187、208、250)の血清を抗CD19 CAR-Jurkat T細胞とインキュベートした後、オプソニン化された標的細胞をFcγRIIIa高親和性アレルがトランスフェクトされたエフェクター細胞(Promega)に添加した。2つのHAMA陽性血清(184、250)からの生物発光シグナルは、イムリフィダーゼの存在下で減少した(図13)。このことは、ヒト血清中のマウスIgG結合HAMA抗体の一部が、エフェクター細胞のCD16 FcγRIIIaを誘発することができる方法で抗CD19 CARに結合することを示唆している。従って、これらデータから、ヒト血清中の抗体は養子細胞移入免疫療法細胞に対して有害な作用を媒介するが、イムリフィダーゼ処理によってこれを低減できることが更に実証される。
【0246】
血清に曝露された抗CD19 CAR T細胞へのCD19タンパク質の結合は、イムリフィダーゼ処理によって改善することができる
CAR T細胞療法を成功させるためには、そのキメラ抗原受容体の標的タンパク質との特異的な相互作用が必要な工程である。血清IgGの抗CD19 CARへの結合が、標的細胞上のCD19等との同族会合に干渉する可能性がある。ELISAによって同定されたHAMA陽性及び陰性の血清サンプル(図14)を、組み換えatto-647N標識ヒトCD19タンパク質と抗CD19 CAR-Jurkat T細胞との結合への干渉について試験した。血清IgGをイムリフィダーゼによって消化した結果、ほとんどのサンプルで抗CD19 CAR-Jurkat T細胞由来のFIシグナルの中央値が増加し、これはatto-647N標識CD19タンパク質の結合が増加したことを示唆している。これは、抗CD19 CAR T細胞等の養子細胞免疫療法の標的タンパク質との相互作用を、イムリフィダーゼ処理によってIgG-Fc部分を除去するだけで増大させることができ、これにより立体障害を軽減できることを示唆している。F(ab’)2断片をブロックすると、インタクトなIgG等価物よりも短い半減期を有するようになるので、イムリフィダーゼのインビトロにおける効果はインビボで更に強くなる可能性がある。
【0247】
実施例6-IdeSの存在下における可溶性免疫グロブリンと共に培養したCAR-T細胞からのサイトカイン産生の消失
【0248】
序論
本研究では、免疫グロブリン軽鎖を標的とするCAR-T細胞コンストラクト(Ranganathan et al., Clin Cancer Res ,2021及びVera et al., Blood 2006;108に開示されているもの等)が、免疫グロブリンの存在下でサイトカインIFNg及びIL-2のベースライン産生を示すかどうかについて調べた。また、この懸濁液にIdeSを添加することで、可溶性免疫グロブリンが切断され、サイトカイン産生が減少又は消失するかどうかについても調べた。
【0249】
方法
第1の実験では、2人の健常ヒトドナーから取得した末梢血単核球からT細胞を分離した。CD19を標的とするCARコンストラクト(CD19.CAR)又はカッパ軽鎖を標的とするCARコンストラクト(カッパ.28)をT細胞に形質導入した。陰性対照として、非形質導入細胞(NTD)の集団を用いた。次いで、細胞を4つの異なる培養条件でプレーティングし、各条件はその中に漸増濃度の可溶性免疫グロブリンの濃度を有していた。次いで、同様にプレーティングしたCAR-T細胞の別の群にIdeSを添加して、サイトカイン産生の変動を観察した。
【0250】
第2の実験では、第2の軽鎖を標的とするコンストラクト、ラムダ軽鎖を標的とするCAR(ラムダ.28)を用いて第1の実験を反復した。健常ヒトドナーから得たT細胞を使用し、CD19.CAR、カッパ.28、ラムダ.28のいずれかで形質導入した、又は形質導入しなかった(NTD)。先の実験と同様に同じ漸増濃度の可溶性免疫グロブリン中に、またIdeSの有り無しで、細胞をプレーティングした。
【0251】
結果
図1に示すように、NTD細胞及びCD19.CARは、血清中に存在する可溶性免疫グロブリンの濃度にかかわらず、インターフェロンガンマ(IFNγ)を全く産生しなかった。NTD細胞及びCD19.CARは可溶性免疫グロブリンを認識しないので、このアッセイが機能していることが確認された。
【0252】
カッパ.28T細胞は可溶性免疫グロブリンの存在下でIFNγを産生し、ベースラインサイトカイン産生を示した。更に、より高濃度の可溶性免疫グロブリンを含む血清では、より多くのIFNγが産生された。しかし、同様にプレーティングしたカッパ.28細胞にIdeSを添加すると、IFNγ産生が抑制された。これら結果は両ドナーで再現可能であった。これらデータは、軽鎖特異的CAR-T細胞が可溶性免疫グロブリンによってオフ腫瘍刺激され得ること、そして、この刺激がIdeSによって抑制され得ることを実証する。従って、IdeS投与はCAR-T細胞の活性を維持し、消耗を低減するのに有用であると予測される。
【0253】
第2の実験でも、図2に示すように同様の結果が観察された。これらデータから、軽鎖特異的CAR-T細胞が可溶性免疫グロブリンによってオフ腫瘍刺激され得ること、そして、この刺激がIdeSによって抑制され得ることが確認される。従って、IdeS投与はCAR-T細胞の活性を維持し、消耗を低減するのに有用であると予測される。ラムダ.28コンストラクトは最小のIFNγした産生せず、これは、使用した可溶性ヒト免疫グロブリン血清が多クローン性であり、ヒトの体内で天然に存在するように2:1のカッパ:ラムダ比を有するという事実に起因する可能性がある。そのため、使用した可溶性免疫グロブリン血清中のラムダ軽鎖の量は、サイトカイン産生を惹起するのに十分ではなかった可能性がある。
【0254】
図1(A)】
図1(B)】
図1(C)】
図1(D)】
図2
図3
図4
図5
図6
図7(A)-(D)】
図7(E)】
図8(A)】
図8(B)】
図8(C)】
図8(D)】
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15-1】
図15-2】
図16A
図16B
図16C
図16D
【配列表】
2024544565000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2024-07-31
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
2024544565000001.xml
【国際調査報告】