(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-03
(54)【発明の名称】非接触共振器を用いた媒体の電磁的特性評価デバイスおよび方法、ならびに関連するオブジェクトおよび共振器
(51)【国際特許分類】
G01N 27/02 20060101AFI20241126BHJP
G01N 27/22 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
G01N27/02 Z
G01N27/02 D
G01N27/02 A
G01N27/22 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024529942
(86)(22)【出願日】2022-11-18
(85)【翻訳文提出日】2024-06-17
(86)【国際出願番号】 EP2022082438
(87)【国際公開番号】W WO2023089110
(87)【国際公開日】2023-05-25
(32)【優先日】2021-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】520179305
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ パリ-サクレー
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS-SACLAY
(71)【出願人】
【識別番号】514255523
【氏名又は名称】サントレ ナティオナル ド ラ ルシェルシェ シアンティフィク
(71)【出願人】
【識別番号】521074221
【氏名又は名称】シィ セルジー パリ ユニベルシテ
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】パスキエ,アレクジアヌ
(72)【発明者】
【氏名】ル ディレゾン, ヨアン
(72)【発明者】
【氏名】セルファティ,ステファン
(72)【発明者】
【氏名】ジュベール,ピエール-イヴ
【テーマコード(参考)】
2G060
【Fターム(参考)】
2G060AA05
2G060AA14
2G060AA15
2G060AC01
2G060AE26
2G060AF03
2G060AF08
2G060AF11
2G060AG10
2G060FA01
2G060KA04
2G060KA05
2G060KA09
(57)【要約】
本発明は、特性評価対象領域から離れた位置に配置され、プローブとの誘導結合によって遠隔から励起および照会されるマルチ周波数共振器を用いて媒体、特に誘電媒体を特性評価するための方法およびシステムに関する。リーダーは、このプローブが前記共振器に結合され、この共振器が特性評価対象の領域と磁気的に相互作用するとき、単一のチャネルを介して、このプローブの複素インピーダンスを測定する。インピーダンスはスペクトル解析され、共振器の各共振周波数について個々の複素インピーダンスを抽出する。これらの個々のインピーダンスを処理することで、媒体の誘電率および/または導電率などの電気的特性を算出し、媒体の性質および/または変化に関する情報が提供される。本発明はまた、このようなシステムまたは方法に適用されるマルチ周波数共振器にも関する。
【選択図】
図1a
【特許請求の範囲】
【請求項1】
特性評価対象媒体内の少なくとも1つの領域を特性評価する方法であって、少なくとも以下のステップ
- 互いに異なる共振周波数(fr1-fr8)を有するように配置された複数の伝送線路(M11-M14,M21-M28)に、同時にプローブを非接触で誘導結合する(102)ステップであって、
前記伝送線路は一緒にマルチ周波数共振器を形成し、これは前記調査対象領域の前記近傍に位置するが、前記調査対象領域との接触を必要とせず、前記伝送線路は前記調査対象領域と相互作用する(そして通常、互いにも相互作用する)ステップと、
- 前記プローブと相互作用するリーダーを用いて、前記マルチ周波数共振器のインピーダンスの前記変化を測定する(104)ステップと、
- 周波数に応じたスペクトル解析(103)を含む、前記インピーダンス変化の測定値を処理し(103)、これにより、複数の測定周波数(それぞれ、fm1-fm8)に対して測定された複数の個々のインピーダンス(Zm1-Zm8)を決定するステップと、
- 前記個々のインピーダンスの1つ以上を処理して(104)、前記調査対象領域の1つ以上の電気的特性を抽出するステップと、
を含む方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、複数の異なる共振周波数の前記個々のインピーダンス、またはそれらから抽出された前記各電気的特性を組み合わせて、前記マルチ周波数共振器からの距離が異なる部分における前記調査対象領域の特性評価を提供する方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の方法であって、複数の異なる共振周波数の前記個々のインピーダンス、またはそれらから抽出された前記各電気的特性を組み合わせて、前記調査対象領域の同一部分のより正確な特性評価を提供する方法。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の方法であって、異なる時点で複数の特性評価を生成するために使用され、それにより、少なくとも1つの材料またはオブジェクトが変化している(931)調査対象領域(R3,R71~R7h,R8a~R8h)の経時的モニタリングを提供する方法。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の方法であって、調査対象領域を特性評価するために、オブジェクト(61,82,83)またはシステムに組み込むか埋め込まれる1つ以上のマルチ周波数共振器(MR1,MR7a~MR7h,MR8a~MR8h)を実装し、
前記調査対象領域には、前記オブジェクト(82)に属する材料、および/または前記オブジェクト(61,83)と接触している材料(92,93)もしくは前記近傍にある材料(931)、および/または前記材料(92および83)間の界面(928)が含まれ、
前記調査対象領域について時間的に分布した複数の特性評価を得るように実施され、それにより前記調査対象領域(R7a~R7h,R3)の変化を経時的にモニタリングする方法。
【請求項6】
特性評価される媒体(91,92,93,94)内の調査対象領域(R1,R2,R3,R7,R8)と呼ばれる少なくとも1つの領域を非接触で特性評価するためのシステムであって、
- 前記調査対象領域の前記近傍に配置されることを意図しているが、前記調査対象領域との接触を必要としない、少なくとも1つの伝送線路共振器(MR1~MR8)と、
- 一方では、誘導ループ回路(S1,S7,S8)によって前記共振器と誘導結合を介して結合され、および
他方では、少なくとも1つのリーダー(S0)と相互作用するように配置されたプローブと、を含み、
前記共振器は、互いに異なる共振周波数(fr1~fr8)を有するように配置された複数の伝送線路(M11~M14,M21~M28,M31~M34)を含み、それによってマルチ周波数共振器(MR1~MR8)を形成し、その伝送線路は前記調査対象領域と相互作用し、
前記プローブは、前記マルチ周波数共振器全体と相互作用するように配置され、
前記リーダーは、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法を実施するように、前記プローブと相互作用するように配置されるシステム。
【請求項7】
請求項6に記載のシステムであって、前記マルチ周波数共振器(MR1,MR2,MR3)は、互いに分離し接続されていない複数の伝送線路(M11~M14,M21~M28,M31~M34)を含み、各伝送線路は、ほぼ閉じた経路に沿って二次元誘電体基板上に形成された少なくとも1つの導電性トラックによって形成されるシステム。
【請求項8】
請求項6または請求項7に記載のシステムであって、前記マルチ周波数共振器(MR1,MR2)の前記伝送線路の全部または一部が、それぞれ単一ターンのほぼ閉じた経路(M11~M14,M21~M28,M32)を形成し、典型的には単一ターンの円形分割リングを形成するシステム。
【請求項9】
請求項7または請求項8に記載のシステムであって、前記マルチ周波数共振器は、互いの内側に囲まれたほぼ閉じた形状の複数の導電性トラック(M11~M14,M21~M28,M31~M34,M43~M44)を含むシステム。
【請求項10】
請求項6~請求項9のいずれか一項に記載のシステムであって、前記マルチ周波数共振器(MR4,MR5)は、互いに分離し接続されていない複数の伝送線路を含み、各伝送線路は、二次元絶縁基板(d1)上に作製された導電性トラック(c14a,c14b)によって形成され、それらは特に前記基板の両側で互いにペアになり、「ほぼ閉じた」特に円形の経路に沿って向かい合って角度的にずれており、
異なる周波数の少なくとも2つの伝送線路は、互いに入れ子にならないように配置され、分離していると呼ばれ、
前記プローブ(S2)は、前記2つの分離した伝送線路に同時に誘導結合を得ることができるように配置された前記形状の誘導ループ回路を含み、特に、前記分離した伝送線路(それぞれ、M41,M42,M43およびM44)のそれぞれの上に突起部を配置できるように配置された、単一ターン(S21,S23)またはマルチターン(S22)の突起部を有する導電ループが形成されるシステム。
【請求項11】
請求項6~請求項10のいずれか一項に記載のシステムであって、前記マルチ周波数共振器は、互いに分離し接続されていない複数の伝送線路を含み、各伝送線路は、「ほぼ閉じた」経路に沿って、同一平面上または同じ二次元絶縁基板上に、導電性トラック(c14a,c14b)によって形成されるシステム。
【請求項12】
請求項6~請求項11のいずれか一項に記載のシステムであって、前記マルチ周波数共振器は、互いに分離し接続されていない複数の伝送線路を含み、各伝送線路は、同じ二次元絶縁基板上に、それぞれ単一ターンの「ほぼ閉じた」経路に沿って作製された導電性トラックによって形成され、
前記伝送線路は、互いの内側に、特に互いに同心円状に配置されるシステム。
【請求項13】
誘導ループプローブと誘導結合を介して通信できるため、前記プローブによって励起され、前記プローブと相互作用するようになっている、前記タイプの伝送線路共振器デバイスであって、
互いの内側に囲まれた、特に同心円の、ほぼ閉じた形状の複数の伝送線路を含み、これらは、請求項6~請求項12のいずれか一項に記載のシステム内で、または請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の方法内で実装するのに適したマルチ周波数共振器を一緒に形成するように配置されるデバイス。
【請求項14】
請求項13に記載のデバイスであって、各伝送線路は単一ターンを形成するデバイス。
【請求項15】
オブジェクト(61,82,83)を含むシステム(17,18)であって、前記システムまたはオブジェクトは、少なくとも1つの伝送線路共振器を含み、この共振器は、互いに異なる共振周波数(fr1-fr8)を有するように配置された複数の伝送線路を含み、それによってマルチ周波数共振器(MR1,MR7a~MR7h,MR8a~MR8h)を形成し、前記伝送線路は前記調査対象領域と相互作用するシステムであって、
前記マルチ周波数共振器は、誘導ループプローブ(S1,S7a~S7h,S8a~S8h)と誘導結合を形成するように配置され、前記プローブと相互作用するように配置され、それにより、特性評価される媒体内の調査対象領域(R2,R7a~R7h,R8a~R8h)を特性評価するように配置された請求項6~12のいずれかに記載のシステムを形成するか、または請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の方法で実施され、
前記調査対象領域には、前記オブジェクト(82)に属する材料、および/または前記オブジェクト(61,83)と接触している材料(92,93)もしくはその近傍にある材料(931)、および/または前記材料(92および83)間の界面(928)が含まれるシステム。
【請求項16】
請求項15に記載のシステムであって、誘導結合を介して前記マルチ周波数共振器(それぞれ、MR8a~MR8h)と通信できるように配置された少なくとも1つのプローブ(S8a~S8h)を含み、
前記マルチ周波数共振器と前記プローブは、請求項6~12のいずれかに記載のシステムを形成するか、または請求項1~5のいずれか一項に記載の方法で実施されるように配置されるシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特性評価対象領域から離れた位置に配置され、プローブとの誘導結合によって遠隔から励起および照会されるマルチ周波数共振器を用いて媒体、特に誘電媒体を特性評価するための方法およびシステムに関する。リーダーは、このプローブが前記共振器に結合され、この共振器が特性評価対象の領域と磁気的に相互作用するとき、単一のチャネルを介して、このプローブの複素インピーダンスを測定する。インピーダンスはスペクトル解析され、共振器の各共振周波数について個々の複素インピーダンスを抽出する。これらの個々のインピーダンスを処理することで、媒体の誘電率および/または導電率などの電気的特性を算出し、媒体の性質および/または変化に関する情報が提供される。
【0002】
本発明はまた、このようなシステムまたは方法に適用されるマルチ周波数共振器にも関する。
【0003】
この共振器は、典型的には、複数の分割伝送線路を備え、各伝送線路は自己閉回するパターンを成し、それぞれが他とは異なる共振周波数を決定する。これらの線路は互いに入れ子状であるか、あるいは単一ターンまたはマルチターンの同心円状の分割リングなどの入れ子状である。
【背景技術】
【0004】
例えば健康診断または品質管理のために、非破壊検査が行われる多くの分野において、媒体の電磁気的特性を通じて媒体を特性評価することが求められている。これは特に、複合物質、有機物および無機物媒体、複合材料など、通常導電性の低い「誘電体」媒体に対して要望される。
【0005】
この電磁的特性評価では、特に特性評価される媒体とそこを通過する電磁場との相互作用の定量化が用いられる。
【0006】
このために、共振アンテナが結合された伝送線路を用いる受動型センサを使用することが知られている。このタイプの特定のセンサは、遠隔から照会可能な容量性効果を有するLCパッシブセンサである。この通信は、RFIDタグと同様に、遠隔照会の手段として電気的共振を利用し、非特許文献1に開示されている。
【0007】
しかしながら、同軸センサ、マイクロ波アンテナ、または円形伝送線路(もしくはSRR: split-ring resonator/スプリットリング共振器)など、既存の特性評価用センサの大半は、被検査媒体と接触して動作する。また、これらは約数百MHzから数十GHzの比較的高い周波数で動作し、通常は比誘電率のみを測定可能である。
【0008】
医療画像分野では、特定の組織の非侵襲的特性評価のための受動アンテナが開発されている。例えば、非特許文献2では、マイクロ波(GHzオーダ)を用いた乳がん検出用、または非特許文献3では、MRIなどの画像デバイス用の高周波アンテナ(MHzオーダ)が開示されている。
【0009】
これらの応用例では、約20年前からあるマルチターン伝送線路共振器(または「MTLR」)として知られている受動アンテナを使用している。この共振器は、円形の複数のターンを有する単一の分割伝送線路で形成され、、特定の共振周波数を持つ。
【0010】
このタイプの共振器は、例えば、非特許文献4に記載されている。これらの高周波(「RF」)アンテナは、強力な磁場にさらされた人体の分子から放出される核磁気共鳴(NMR)信号を検出するために使用される。
【0011】
このタイプのマルチターン伝送線路共振器(MTLR)は現在、数年間、少なくとも2014年以降、誘導結合を介して有機物および無機物媒体の誘電特性を非接触で測定するために使用されている。これについては、例えば以下の文献に記載されている。
- 生体組織の特性評価については、非特許文献5。
- 媒体中の誘電体包含物の評価については、非特許文献6。
- 有機組織における火傷の深さ評価については、非特許文献7。
- ヨーグルトのゲル化評価については、非特許文献8。
【0012】
このタイプのセンサは、それに特有の共振周波数を有し、その共振周波数で動作および励起されるときに高い感度を示す。
【0013】
しかしながら、このタイプの特性評価は、例えば媒体の性質と組成、またはその構造的特性に関して、特に複雑な媒体および/または変化する媒体において、調査対象環境の特定の特性を得る際に必ずしも正確ではない。
【0014】
本発明の1つの目的は、従来技術の欠点の全部または一部を克服することである。特に、媒体の性質(例えば、組成、含水率、物理化学的および生物学的変化など)および/または構造の、より正確および/または多様な特性評価を、例えば時間的および空間的に異なるスケールで電気的特性をより正確に調査することが求められる。また、例えば、機能的文脈により適した、あるいは調査対象環境の状態や変化をより示唆する、より簡便で侵襲性の低い測定を可能にするために、その実施の柔軟性の向上も求められる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Huang et al.の論文「LC Passive Wireless Sensors Toward a Wireless Sensing Platform: Status, Prospects, and Challenges」(Journal of Microelectromechanical Systems, vol.25, no.5, pp.822-841, 2016)
【非特許文献2】Modiri et al.の論文「Review of breast screening: Toward clinical realization of microwave imaging: Toward」(Medical Physics, vol.44, no.12, e446-e458, 2017)
【非特許文献3】Gruber et al.の論文「RF coils: A practical guide for nonphysicists」(Journal of Magnetic Resonance Imaging, vol.48, no.3, pp.590-604, 2018)
【非特許文献4】Serfaty, N. Haziza, L. Darrasse およびS. Kanの論文「Multiturn split-conductor transmission-line resonators」(Magnetic Resonance in Medicine, vol.38, no.4, pp.687-689, 1997)
【非特許文献5】Masilamany et al. (2014)の論文「Wireless implementation of high sensitivity radiofrequency probes for the dielectric characterization of biological tissues」(IEEE MeMeA 2014 - IEEE International Symposium on Medical Measurements and Applications, Proceedings, 2014, pp.1-6)
【非特許文献6】A. Pasquier, Y. Le Diraison, S. Serfaty およびP.-Y. Joubertの2018年の論文「Multi-frequency detection of a dielectric object using flexible contactless RF sensors for tissue diagnosis」(2020 42nd Annual International Conference of the IEEE Engineering in Medicine & Biology Society (EMBC), 2020, pp.4105-4108, doi: 10.1109/EMBC44109.2020.9175769)
【非特許文献7】Dinh, Serfaty, & Joubertの2019年の論文「Non-Contact Radiofrequency Inductive Sensor for the Dielectric Characterization of Burn Depth in Organic Tissues」(Sensors, 19(5), p.1220)
【非特許文献8】Dinh, Bore, Serfaty & Joubertの2017年の論文「Non invasive evaluation of yogurt formation using a contactless radiofrequency inductive technique」(Stud. Appl. Electromagn. Mech. Electromagn. Nondestruct. Eval. Vol.42, pp.42 298-305 (2017))
【非特許文献9】E. Hammerstad and O. Jensen, “Accurate Models for Microstrip Computer-Aided Design.,” IEEE MTT-S International Microwave Symposium Digest, vol. 1, no. 12, pp. 107‐409, 1980, issn: 0149645X. doi: 10.1109/mwsym.1980.1124303.(文献[22])
【非特許文献10】Y. Luo, X. Wang, and X. Zhou, “Inductance calculations for circular coils with rectangular cross section and parallel axes using inverse mellin transform and generalized hypergeometric functions,” IEEE Transactions on Power Electronics, vol. 32, no. 2, pp. 1367‐1374, 2017, issn: 08858993. doi: 10.1109/TPEL.2016.2541180.(文献[23])
【非特許文献11】B. C. R. Paul, “The concept of “partial” inductance,” pp. 195‐245(文献[24])
【非特許文献12】J. T. Conway, “Analytical solutions for the self-and mutual inductances of concentric coplanar disk coils,” IEEE Transactions on Magnetics, vol. 49, no. 3, pp. 1135‐1142, 2013, issn: 00189464. doi: 10.1109/TMAG.2012.2229287.(文献[25])
【非特許文献13】G. Masilamany, P. Y. Joubert, S. Serfaty, B. Roucaries, and Y. Le Diraison, “Radiofrequency inductive probe for non-contact dielectric characterizations of organic medium,” Electronics Letters, vol. 50, no. 7, pp. 496‐497, 2014, issn: 00135194. doi: 10.1049/el.2014.0558. [Online]. Available: http://digital-library.theiet.org/content/journals/10.1049/el.2014.0558.(文献[26])
【発明の概要】
【0016】
このために、本発明は、特性評価対象媒体内の少なくとも1つの領域を特性評価する方法を提供する。この方法は少なくとも以下のステップを含む。
【0017】
プローブを、同時に、互いに異なる共振周波数を有するように配置された複数の伝送線路に非接触で誘導結合するステップ。これらの伝送線路は一緒にマルチ周波数共振器を形成する。これは前記調査対象領域の近傍に位置するが、前記調査対象領域との接触を必要とせず、その伝送線路は調査対象領域と相互作用する。これらの線路は通常、互いにも相互作用する。したがって、これらの各伝送線路、または「TLR」(transmission-line resonator/伝送線路共振器)は、このようなマルチ周波数共振器内の「素子伝送線路」または「素子共振器」と見なすことができる。
【0018】
前記プローブと相互作用するリーダーを用いて、前記マルチ周波数共振器のインピーダンス変化を、単一の測定チャネルを構成する単一の信号の形で測定するステップ(104)。リーダーは、例えば、従来型のベクトルネットワークアナライザなど、それに接続された外部装置である。また、前記プローブの全部または一部に組み込むこともできる。
【0019】
周波数に応じたスペクトル解析(103)を含む、前記インピーダンス変化の測定値を処理するステップ(103)。これにより、複数の測定周波数(それぞれ、fm1~fm8)に対して測定された複数の個々のインピーダンス(Zm1~Zm8)を決定する。このスペクトル解析は、通常、前記インピーダンスのモジュラス、オフセット、周波数、位相、実部および/または虚部を与えるベクトル解析である。これは、例えば、予想される全ての共振周波数をカバーするように、1つ以上のセグメントで広帯域にわたって実行される。
【0020】
測定周波数は、特に解析モデルを用いて、共振周波数を中心に定義される。通常、測定周波数は共振周波数に対して決定され、例えば、共振周波数の1つに対応する複数の帯域、特にそのような共振周波数を含む帯域で決定される。
【0021】
前記個々のインピーダンスの1つ以上を処理して、前記調査対象領域の1つ以上の電気的特性を抽出するステップ(104)。
【0022】
典型的には、これらの伝送線路のそれぞれは、「ほぼ閉じた」経路、すなわち「ギャップ」と呼ばれる非導電性の中断部を残しながら自己閉回する経路に沿って形成される。この線路は、磁場を放射するのに十分な自己閉回する線形経路を維持しつつ、様々な形状やサイズを取ることができる。
【0023】
これにより、例えば、この領域におけるこの周波数に対する媒体の導電率および/または誘電率に比例する量が得られる。
【0024】
典型的には、これらの周波数は、共振器の線路の寸法や材料、それらの相互配置や任意の基板に対する配置、そのような基板の寸法や性質などの特性によって決定される。
【0025】
本発明者らは、このタイプの特性に基づいて、マルチ周波数共振器の共振周波数を予測可能なモデルを特定した。
【0026】
別のモデルは、リーダーによって測定されたインピーダンス値から、複素(数学的意味での)電気的特性の値を抽出するために使用される。
【0027】
本発明は、複雑な誘電媒体の特性評価を目的とした非接触誘導デバイスを実装する方法を提供する。それは、金銭的および環境的コストが低く、遠隔から誘導結合により照会と励起可能なシンプルな受動放射マルチ共振器に関する。このようなデバイスは、本明細書では「マルチ周波数共振器」または「WMFR」(wireless multifrequency resonator/無線マルチ周波数共振器)と呼ばれる。
【0028】
それは、高い選択性を示し、放射電磁波によって周囲環境と相互作用し、そのスペクトルの広がりが複素誘電特性を非接触でモニタリングするように制御されることを可能にする。本明細書では「プローブ」と呼ばれる近接する励起コイルによって典型的に生成される可変電磁場の存在下で、この高品質係数デバイスは、導電性トラック(典型的にはリング)のサイズによって予め決定された複数の異なる周波数で共振する。これらのトラックは、織り交ぜられた放射伝送線路と見なすことができる。
【0029】
逆に、WMFRは、これらの各周波数に対して磁場を生成し、その分光応答は、「調査対象媒体」と呼ばれる周囲媒体の誘電特性によって変調される。そして、各共振周波数の周りの等価インピーダンスは、プローブを用いた送受信による誘導結合を介して測定することができる。
【0030】
すなわち、本発明は、特にメソスコピックスケール、すなわち約ミリメートルからセンチメートルの範囲において、より多様および/またはより正確な情報を得ることを可能にする。
【0031】
その構造により、このようなWMFRはN個の共振周波数を有する受動共振器であり、N個の周波数は伝送線路のサイズによって調整可能である。このインピーダンススペクトルにアクセスするための共振器の照会は、典型的には、例えばベクトルネットワークアナライザを用いて、プローブの誘導回路の端子間のインピーダンスを単に測定することにより、単一の測定チャネルを用いて行われる。
【0032】
共振器が受動的であり、遠隔から照会可能であり、さらに安価でコンパクトであるため、調査対象の媒体に容易に組み込むことができ、必要に応じて永久的に、例えば、特に医療用途またはオブジェクトの劣化モニタリングのために、携帯可能または埋め込み可能でさえある。
【0033】
それは平面状でフレキシブルな支持体上に製造できるため、侵襲性が最小限に抑えられる。特に、柔軟性があり実績のあるプリント基板技術を用いることで、比較的簡単かつ安価に製造できる。したがって、多数の構造物に組み込むことができる。また、生物学的または医療用途のために、バイオ適合性ポリマー上にマイクロテクノロジーを用いて製造することもできる。
【0034】
このような測定技術は、調査対象媒体との接触がなく、非侵襲的で、マルチ周波数である。マルチ周波数共振器自体は受動的であるため、例えば品質管理またはオブジェクトの劣化モニタリングのために、構造物、容器または包装材などに組み込むことができる。また、植物に取り付けて、例えば成長や熟成を監視することもできる。アクセサリーもしくは衣服として着用したり、または、例えば医療用途やウェルネス用途のために生体内に埋め込んだりすることもできる。医療用ドレッシングや食品包装材に入れる場合など、使い捨てにすることもできる。使用時には、WMFRを、求められる誘電特性のスペクトル解析を可能にしつつ、シンプルで遠隔の単一チャネルリーダー電子機器と関連付けることができる。
【0035】
媒体の誘電特性評価のための従来のセンサまたはシステム(例えば、伝送線路または電気接続への電気的結合を必要とするマイクロ波アンテナなど)とは異なり、このようなマルチ周波数WMFRは受動的であり、本明細書に開示されている使用状況において遠隔から照会可能である。
【0036】
WMFRは媒体との接触がないため、容量性センサやバイオインピーダンス電極の場合とは異なり、センサと調査対象媒体との接触の質によって測定が乱されることはない。さらに、WMFRは同時マルチ周波数測定を可能にするため、関連する特性評価システムは、求められる誘電特性のより堅牢な推定を可能にする。
【0037】
複数の周波数で媒体の誘電パラメータにアクセスできることは特性評価の質を高めるだけでなく、必要に応じて、1つ以上の解析周波数を使用して、測定にとって潜在的に問題となる影響量、例えば、大きな温度変化、WMFRと調査対象媒体との距離の変化、または測定量の体積の変化に対してWMFRを校正することも可能にする。
【0038】
WMFRの様々な共振要素に関連する幾何学的形状変化により、特に深さの点で、調査領域が共振に持ち込まれる要素の特性に直接依存するデバイスを想定することができる。
【0039】
具体的には、共振アンテナの場合、媒体中に生成される磁場の侵入深さは、その直径に直接関連する。ここでは、WMFRの様々な共振要素(様々な伝送線路)が、例えば入れ子構造によって、互いに異なる寸法を有するため、それぞれが異なる検査深さを有することになり、調査にトモグラフィ的な特性を与える。これは、例えば、組織中の腫瘍、またはコンクリートもしくは鋼中の亀裂など、媒体中の誘電異常を検出および/または位置特定する際など多くの場合に、特に有利であることが証明される。
【0040】
比較として、同軸センサおよび容量性センサなどの方法は、媒体との接触を必要とする。さらに、高周波およびマイクロ波アンテナは、使用のための電気接続を必要とする。また、これらのセンサの大部分、特に同軸センサおよびマイクロ波アンテナは、数百MHzから数十GHzの周波数、すなわち本明細書に開示された方法よりも高い周波数で動作することに留意すべきである。したがって、これらは媒体の比誘電率に本質的に関連する媒体の誘電パラメータにアクセスするが、媒体の電気伝導率を測定することは困難である。
【0041】
本発明を利用できる分野は多数ある。これには、例えば非限定的に、以下の分野が含まれる。
農業食品分野:植物の特性評価と動物の健康モニタリング、食品プロセスのモニタリングと、例えば成長、熟成、含水率、経年のモニタリング、特に保管、輸送、包装、および自然または加速/人工熟成時の食品の鮮度と品質の管理。
その誘電特性を介した生物学的組織の特性評価による健康分野:腫瘍またはその他の内部病変などの病変の検出、腫瘍、傷害、火傷、皮膚疾患などの病変の特性評価とその経時変化のモニタリング。
【0042】
様々なタイプのソフトマテリアル、または土壌、化粧品などの特性評価のための地球物理学的材料の特性評価。
【0043】
様々なタイプのオブジェクトまたは作業に対する統合ヘルスモニタリング(または構造ヘルスモニタリング):土木工学、航空宇宙など。特に、炭素、コンクリート、木材、複合材料など、導電性の低いあらゆる媒体を対象とする。
【0044】
これらの多くの用途またはその他の用途は、そのような機能に参加したり、提供したりする接続されたオブジェクトの形を取ることができる。
【0045】
本発明の様々な具体的な特徴について説明する。これらの特徴は、互いに組み合わせたり、個別に取り上げたりすることができる。
【0046】
本発明の一つの具体的な特徴によれば、複数の異なる共振周波数の個々のインピーダンス、またはそれらから抽出された各電気的特性を組み合わせて、マルチ周波数共振器からの距離が異なる部分における調査対象領域の特性評価を提供する。これにより、例えば、調査対象領域のイメージングおよび/またはトモグラフィを提供することができる。
【0047】
特に、アンテナのサイズは侵入深さに直接影響し、したがって深さの点で調査領域の位置に影響を与える。
【0048】
別の特徴によれば、複数の異なる共振周波数の個々のインピーダンス、またはそれらから抽出された各電気的特性を組み合わせて、調査対象領域の同一部分のより正確な特性評価を提供する。例えば、異なる周波数から得られた値を使用して電気的特性のより正確な値を提供したり、または、例えば、異なる周波数を使用して、同一の調査領域に適用される異なる特性を抽出し、したがって前記領域に関するより正確な情報を与えたりする。
【0049】
さらに別の特徴によれば、この方法は、異なる時点で複数の特性評価を生成するために使用され、それにより、少なくとも1つの材料またはオブジェクトが変化している調査対象領域の経時的モニタリングを提供する。
【0050】
さらに別の具体的な特徴によれば、この方法は、調査対象領域を特性評価するために、オブジェクトまたはシステムに組み込むか埋め込まれる1つ以上のマルチ周波数共振器を実装する。この調査対象領域には、前記オブジェクトに属する材料、および/または前記オブジェクトと接触している材料もしくはその近傍にある材料、および/または前記材料間の界面が含まれる。この具体的な特徴によれば、この方法は、前記調査対象領域について時間的に分布した複数の特性評価を得るように実施され、それにより調査対象領域の変化を経時的にモニタリングする。
【0051】
これにより、例えば、材料の状態、例えばその気密性をモニタリングしたり、新しい材料もしくは現象の出現をモニタリングしたり、前記オブジェクトの近傍に位置する、もしくは接触して通過する流体または固体の静的または動的特性をモニタリングしたりすることができる。
【0052】
[本方法を実施するシステムおよびデバイス]
本発明の別の態様によれば、調査対象領域と呼ばれる、特性評価される媒体内の少なくとも1つの領域を非接触で特性評価するためのシステムが提供される。このシステムは以下を含む。
- 少なくとも1つの伝送線路共振器(線形であるが必ずしも直線状である必要はない)。これは、前記調査対象領域の近傍に配置されることを意図しているが、前記調査対象領域との接触を必要としない。
- 以下のように配置されたプローブ。
一方では、誘導ループ回路によって前記共振器と誘導結合を介して結合される;および
他方では、少なくとも1つのリーダーと相互作用する(通常は電気接続を介する;リーダーは前記プローブと同じハウジングに組み込んでもよいし、そうでなくてもよい)。
【0053】
本発明によれば、この共振器は、互いに異なる共振周波数を有するように配置された複数の伝送線路を含み、それによってマルチ周波数共振器を形成する。その伝送線路は、調査対象領域と相互作用し、通常はまた互いにも相互作用する。典型的には、これらの相互作用は、特に共振周波数およびこの共振周波数の周りの帯域幅の点で、前記伝送線路の個々の応答に変化をもたらす。
【0054】
この同じプローブは、前記マルチ周波数共振器全体、すなわち複数の線路によって形成されたアセンブリと同時に相互作用するように配置される。このリーダーは、本明細書に開示されている方法を実装するように、前記プローブと相互作用するように配置される。この方法によって提供される電気的特性は、調査対象領域における媒体を特性評価するために使用される。
【0055】
典型的には、この素子伝送線路は、低損失の平面状絶縁基板の2つの対向する面に堆積された導電性トラックによって形成される。これらの導電性トラックは、一方の面の1つ以上の中断部が他方の面の1つ以上のギャップと対向しないように、互いに対して配置されることが好ましい。ただし、各伝送線路に1つのトラックのみを使用することも可能である。
【0056】
前記請求項のシステムにおいて、マルチ周波数共振器は、互いに分離し接続されていない複数の伝送線路を含み、各伝送線路は、通常は導電性が低いまたはない、平面状または非平面状の形状で、例えば可撓性の二次元誘電体基板上に形成された少なくとも1つの導電性トラックによって形成される。このトラックは、「ほぼ閉じた」経路、すなわち非導電性の中断部を残しながら自己閉回する経路に沿って形成される。このトラックは、磁場を放射するのに十分な自己閉回する線形経路を維持しつつ、様々な形状やサイズを取ることができる。
【0057】
このタイプの伝送線路は、例えば、円形の「分割リング」として知られる形状のトラックである。他のパターンも想定され、円形またはその他の形状、丸みを帯びているかそうでないか、らせん状または可変半径であってもよい。
【0058】
好ましくは、各線路は、同じ基板の2つの対向する面の一方のそれぞれに形成された2つのトラックを含み、互いに対向し、角度的にずれている。
【0059】
複数の伝送線路の中で、異なる共振周波数は、典型的には、それらに異なる寸法を与えることによって得られる。あるいは、または組み合わせて、これらの周波数の違いは、トラックの長さ、トラックの経路の幾何学形状(典型的には半径)、トラックの幅、トラックの厚さ、トラックの材料の性質、基板の厚さ、および基板の材料の性質の中から選択される1つ以上のパラメータの異なる組み合わせによって得られる。
【0060】
また、1つ以上の開口部を有する素子伝送線路、すなわち、互いに接続されていないが、同じ周波数で同じ空間領域に放射するのに十分に近接した、および/または互いに絡み合っている複数のトラックによって形成された素子伝送線路を製造することも想定される。
【0061】
また、2層以上、または単層の素子伝送線路を作製することも想定される。
【0062】
一つの具体的な特徴によれば、マルチ周波数共振器の全部または一部の伝送線路は、それぞれ単一ターンのほぼ閉じた経路を形成し、典型的には単一ターンの円形分割リングを形成する。
【0063】
あるいは、または組み合わせて、例えば連続的ならせん状、または不連続なオフセット、のマルチターン経路を使用することも想定され、特に公知の方法で使用される。
【0064】
別の具体的な特徴によれば、マルチ周波数共振器は、互いの内側に囲まれたほぼ閉じた形状の複数の導電性トラックを含む。
【0065】
さらに別の具体的な特徴によれば、マルチ周波数共振器は、互いに分離し接続されていない複数の伝送線路を含み、各伝送線路は、二次元絶縁基板上に作製された導電性トラックによって形成され、それらは特に前記基板の両側で互いにペアになり、向かい合って角度的にずれ、「準閉じた」特に円形の経路に沿っている。この具体的な特徴によれば、異なる周波数の少なくとも2つの伝送線路は、互いに入れ子にならないように配置され、分離していると呼ばれる。プローブは、前記2つの分離した伝送線路に同時に誘導結合を得ることができるように配置された形状の誘導ループ回路を含む。特に、前記分離した伝送線路のそれぞれの上に突起部を配置できるように配置された、単一ターンまたはマルチターンの突起部を有する導電ループが形成される。それは、例えば、デイジーパターンにすることができ、その異なる花弁は、それぞれ複数の分離した分割リングを有する共振器の分割リングの1つをカバーする。
【0066】
さらに別の具体的な特徴によれば、マルチ周波数共振器は、互いに分離し接続されていない複数の伝送線路を含み、各伝送線路は、「ほぼ閉じた」特に円形の経路に沿って、同一平面上または同じ二次元絶縁基板上に、導電性トラック(c14a、c14b)によって形成される。
【0067】
前記線路の全部または一部は、互いに非同一平面上に配置することもできる。
【0068】
例えば、分離した実質的に平行な平面(または二次元表面)上に配置される。これらの平面または表面は、例えば、互いに厳密に平行であるか、互いに対して45°未満、特に20°未満、さらには5°未満の角度を成す。
【0069】
各線路は、三次元経路、すなわち単純な二次元表面内に記されない経路を有していてもよい。ただし、この経路は、様々な伝送線路を共通に通過する磁束線を有する指向性磁場を放射できるものでなければならない。例えば、円錐上のらせん配置、軸の周りの円形リングであるがその経路に沿って軸方向位置が変化する形状を取ることができる。
【0070】
別の例として、互いに平行でない二次元平面または表面上に配置され、例えば、プローブの異なる誘導ループまたは部分に異なる方向で結合するようにする。
【0071】
好ましい実施形態によれば、このマルチ周波数共振器は、互いに分離し接続されていない複数の伝送線路を含み、各伝送線路は、同じ二次元絶縁基板上に、「ほぼ閉じた」経路、例えば単一ターンの特に円形の経路にそれぞれ沿って作製された導電性トラックによって形成される。これらの伝送線路は、互いの内側に、特に互いに同心円状に配置される。
【0072】
本発明のさらに別の態様によれば、伝送線路共振器デバイスが提供される。このデバイスは、前記プローブによって励起されるように、誘導ループプローブと誘導結合を介して通信できるタイプのものであり、前記プローブと相互作用するようになっている。この態様によれば、この共振器は、互いの内側に囲まれた、特に同心円の、ほぼ閉じた形状の複数の伝送線路を含み、これらは、本明細書に開示されているシステムまたは方法内で実装するのに適したマルチ周波数共振器を一緒に形成するように配置される。
【0073】
一つの具体的な特徴によれば、各伝送線路は単一ターンを形成する。
【0074】
[埋め込み共振器]
本発明の別の態様によれば、オブジェクトまたはシステムが提供され、このオブジェクトまたはシステムは、少なくとも1つの伝送線路共振器を含む。この共振器は、互いに異なる共振周波数を有するように配置された複数の伝送線路を含み、それによってマルチ周波数共振器を形成する。その伝送線路は、調査対象領域と相互作用し、通常はまた互いにも相互作用する。
【0075】
この態様によれば、このマルチ周波数共振器は、誘導ループプローブと誘導結合を形成するように配置され、前記プローブと相互作用して、
- 本明細書に開示されている特性評価システムを形成し、そのシステムは、特性評価される媒体内の(前記共振器から離れていてもよい)調査対象領域を特性評価するように配置される。および/または、
- 本明細書に開示されている方法で実装される。
典型的には、この調査対象領域には、前記オブジェクトに属する材料、および/または前記オブジェクトと接触しているか、またはその近傍にある材料、および/または前記材料間の界面が含まれる。
【0076】
このようにして、「埋め込みオブジェクト」または「埋め込みシステム」が得られ、分離型または統合型のリーダーによって、規則的または連続的な方法で、例えば多数の場所もしくはアクセスが困難な場所で、非常に規則的な方法で監視することができる。なぜなら、1つ以上の共振器は、このように埋め込まれたオブジェクトまたはシステムに対して非常に安定した位置にとどまるからである。
【0077】
一つの具体的な特徴によれば、このオブジェクトまたはシステムは、マルチ周波数共振器と誘導結合を介して通信できるように配置された少なくとも1つのプローブを含む。前記マルチ周波数共振器と前記プローブは、本明細書に開示されている特性評価システムを形成するか、または本明細書に開示されている特性評価方法で実施されるように配置される。
【0078】
本明細書に記載された様々な任意の特徴を、全ての可能な組み合わせにしたがって組み込んだ、様々な実施形態の発明が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0079】
他の特徴と利点は、完全に非限定的な実施形態の詳細な説明と、添付の図面から明らかになるであろう。
【
図1a】
図1aは、本発明の例示的な実施形態による、マルチ周波数共振器を示す縮尺上面図であり、4つの入れ子になった単一ターン円形メッシュを有する共振器を示す図である。
【
図1b】
図1bは、本発明の例示的な実施形態による、マルチ周波数共振器を示す縮尺上面図であり、8つの入れ子になった単一ターン円形メッシュを有する共振器を示す図である。
【
図2】
図2は、本発明の1つの例示的な実施形態による、4つの入れ子になった円形メッシュを有するマルチ周波数共振器を示す縮尺上面図である。そのうちの1つは単一ターンで、他はマルチターンである。
【
図3a】
図3aは、1つの例示的な実施形態によるマルチ周波数共振器内で使用可能な、単一ターン円形素子伝送線路(またはTLR)の一例を示す部分的な模式的上面図、断面図および分解斜視図である。
【
図3b】
図3bは、1つの例示的な実施形態によるマルチ周波数共振器内で使用可能な、単一ターン円形素子伝送線路(またはTLR)の一例を示す図であり、個々にとらえた
図3aのTLR、誘導制御ループ、およびベクトルネットワークアナライザの間の相互作用の回路図である。
【
図4】
図4は、6つの円形伝送線路を部分的に有する、マルチギャップ素子伝送線路(またはTLR)の部分的な模式的上面図および断面図である。各線路は半径が減少し、互いに同心円状に配置され、60°ずれている。各線路は、絶縁性の薄い基板の2つの面の一方に配置された2つのトラックによって形成され、2つのトラックは、互いに向かい合って互いに対して角度的にずれている。
【
図5】
図5は、8つの共振周波数を有する
図1bの共振器を使用して、絶縁容器の液体内容物を、容器の底壁を通して照会することによって特性評価するためのテストベンチの縮尺斜視図である。
【
図6】
図6は、3つの共振周波数を有する共振器の等価回路図であり、プローブおよび特性評価される媒体との相互作用を示している。
【
図7】
図7は、
図1bの8共振器について、測定されたインピーダンスZmesのモジュラスを周波数とともに、全体と低強度ピークのクローズアップで示す曲線である。
【
図8】
図8は、無負荷時の
図1aの4共振器について曲線を示した図であり、シミュレーションによって、測定されたインピーダンスZmesの実部を周波数で示す図である。
【
図9】
図9は、
図1bの8共振器について、
図8と同様にシミュレーションした曲線を示す図である。
【
図10】
図10は、実験的に得られた共振周波数、半解析的にモデル化された共振周波数、シミュレーションによる共振周波数の比較を示すグラフであり、
図10の(a)は
図1aの4周波数共振器の場合を示すグラフであり、
図10の(b)は
図1bの8周波数共振器の場合を示すグラフである。
【
図11】
図11は、
図1aの4周波数共振器の4つのメッシュのそれぞれについて、NaClの水溶液によって形成された特性評価される媒体の導電率に応じた誘導抵抗を個別に示すグラフである。
【
図12】
図12は、本発明のいくつかの例示的な実施形態による特性評価方法の動作を模式的に示すフローチャートである。
【
図13】
図13は、同じプローブによって照会可能な4つの周波数を有するマルチ周波数共振器を示す上面図である。
図13は、本発明の例示的な一実施形態であり、共振器は互いに入れ子になった2つのメッシュと、他の2つの入れ子になっていないメッシュとを含む。
【
図14】
図14は、同じプローブによって照会可能なマルチ周波数共振器を示す上面図である。
図14は、本発明の例示的な一実施形態であり、共振器は互いに入れ子になった4つの伝送線路をそれぞれが含む3つの分離したグループを含む。
【
図15】
図15は、磁場に透過性のある容器の内容物を非接触で特性評価するための、本発明の一実施形態を示す断面図である。
【
図16】
図16は、共振器がその壁の厚さに埋め込まれた容器の内容物を非接触で特性評価するための、本発明の例示的な一実施形態を示す断面図である。
【
図17】
図17は、複数の共振器がその壁に埋め込まれたタンクの内面の状態を非接触で特性評価するための、本発明の例示的な一実施形態を示す断面図である。
【
図18】
図18は、本発明の例示的な一実施形態による、それぞれ独自の個々のプローブを有する複数のマルチ周波数共振器を含むマトリックスデバイスの、生体内の有機体を、グラフィカルに、かつ経時変化に関して特性評価するための使用を示す図である。
【
図19】
図19は、本発明の例示的な一実施形態による、分解が進行している生物学的物体の経時変化をモニタリングするための、マルチ周波数共振器とその独自の個々のプローブを含むデバイスの使用を示す断面図である。(この例では仔牛のステーキ)
【
図20】
図20は、
図19の物体に誘導されたインダクタンスを時間に対して示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0080】
[図を参照した詳細な説明および例示的な実施形態]
WMFR自体は、分割伝送線路共振受動構造の組み合わせからなる受動構造であり、実装された伝送線路と同数の結合RLC回路で表すことができる。これらの個々の伝送線路は、本明細書ではTLR(transmission-line resonator/伝送線路共振器)と呼ばれ、または
図6のような等価回路図では回路メッシュに相当するため、「メッシュ」とも呼ばれる。
【0081】
図1aおよび
図1bは、本発明の実施形態によるマルチ周波数共振器の例を示している。
図1aは、4本の入れ子になった同心円状の単一ターン線路M11~M14を有するマルチ周波数共振器MR1の一例を示している。
図1bは、8本の入れ子になった同心円状の単一ターン線路M21~M28を有するマルチ周波数共振器MR2の一例を示している。
【0082】
図2は、4本の入れ子になった同心円状線路M31~M34を有するマルチ周波数共振器MR3の別の例を示しており、そのうちの1本M32は単一ターンで、他のM31、M33、M34はマルチターンである。
【0083】
図3aは、このような共振器の伝送線路の1つの三次元配置を示しており、この場合は
図1aの共振器の最大の単一ターン線路M14である。断面図から分かるように、この「伝送線路」は、ここでは単一の素子と見なされ、2つの中断された(または「開いた」)円形トラックによって形成され、1つの円形トラックが薄い誘電体または絶縁基板(この例では、可撓性のカプトン基板)の2つの面のそれぞれに配置されている。線路内の各開放トラックは、本明細書では「ギャップ」と呼ばれる中断または空間を有し、例えばこの線路についてはG14と参照される。
【0084】
この伝送線路を単一のトラックとして製造することも可能であるが、特に効果を高めるために、同じサイズの複数のトラックを向かい合わせに配置したグループで配置することが好ましい。
【0085】
2つ(またはそれ以上)のトラックを有する実施形態では、それらは好ましくは互いに平面状かつ平行であり、および/または半径方向に同一である。ここではそれらを基板の両面に配置することでこの配置が確保されているが、この配置を得ることができる他の任意の技術的解決策も使用できる。
【0086】
典型的には、同じ伝送線路を形成する様々なトラックは、それぞれのギャップが互いに角度的にずれるように向かい合わせに配置される。この例では、上部トラック(この上部トラックはここではそれが属する伝送線路と同様にM14と参照される)のギャップG14は、反対側のトラックM14‘の中実部分に面して位置している。同様に、下部トラックM14’のギャップG14‘は、上部トラックM14の中実部分に面するように配置されている。好ましくは、それらのギャップはそれぞれ、反対側のトラック内の1つ以上のギャップからできるだけ離れた角度位置に配置され、この場合は正反対の位置にある。
【0087】
従来の共振器が共通モード電流を最小化しようとするのとは対照的に、2つの面の間のオフセットにより差動モードの補償が可能となるため、共通モード電流の最大化が得られる。
【0088】
これら2つのトラックは一緒になって、単一の共振周波数を有する単一の伝送線路M14を形成する。これは特にこれらのトラックの幾何学形状によって決定される。
【0089】
図4は、単一の共振周波数で動作する伝送線路M1の別の例を示しており、マルチオープニングまたは「マルチギャップ」と呼ばれる。基板d1の各面は、互いに接続されていない複数の部分からなるトラックM1(およびM1’)を有する。この例では、6つの部分M1a~M1fがあり、これらは部分的に円形で半径が減少し、互いに同心円状に配置され、60°ずれている。これらの部分はそれぞれ、絶縁性の薄い基板の2つの面の1つに配置された2つのトラックによって形成され、互いに向かい合って角度的にずれている。各トラックはギャップを有し、例えばトラックM1aのギャップはG1aである。基板の反対側の面では、関連する複数部分トラックM1’は6つの部分の同じ配置を有するが、そのギャップは複数部分トラックM1のギャップに対して角度的にずれている。したがって、右側に示された面の部分M1a‘のギャップG1a’は、他の面のギャップG1aに対して30°ずれている。したがって、これらのギャップG1aおよびG1a‘のそれぞれは、反対側のトラックの中実部分に面している。この設計は互いに接続されていない複数のトラック部分を有するが、それらの入れ子になった配置により、単一の共振周波数を有する単一の伝送線路として一緒に動作することができる。この複数部分またはマルチオープニングの線路は、単一部分線路の代わりに、マルチ周波数共振器の線路の1つとして、およびそれらの可能な組み合わせのいずれかで使用することもできる。
【0090】
図6は、一方ではベクトルアナライザに接続され、他方では調査対象媒体の近傍に配置された遠隔励起/読み取りコイルを組み合わせた実験セットアップにおけるこのタイプの構造の実装を示す相互作用の回路図を示す(
図5および
図15~
図19参照)。
【0091】
この解析モデルは、実験的に、そしてHFSSからの有限要素数値モデリングによって検証された。この完全なモデルにより、WMFRのサイズを決定し、望ましい分光応答を選択することが可能になる。また、WMFR共振器を取り巻く環境に誘導されるインピーダンスを抽出することも可能であり、これは複素誘電特性を表している。これらのモデルは、数%程度の精度でテストベンチによって確認された。
【0092】
各共振周波数の周りの媒体の誘導インピーダンスを抽出するステップは、
図3aの図から導出された相互作用モデルと測定データとの間のフィッティングのための複素フィッティングアルゴリズムを使用して行われる。例として、20MHzから350MHzの間に8つの共振を有するWMFRを使用して測定された、5日間室温で放置された有機媒体(仔牛のステーキ)の導電率スペクトルを示す(
図5)。観察周波数と時間による導電率が観察される。
【0093】
[素子伝送線路(TLR)のモデリングと共振]
この素子伝送線路、またはTLRの共振条件は、共振器の構成要素および幾何学形状的要素を含む半解析モデルから決定することができる。
【0094】
例えば、
図3aのような円形かつ単一ターンの伝送線路(TLR)の場合、以下の構成要素および幾何学形状的要素が使用される。
- 外径:R
ext
- トラック幅:w
d
- 導体厚さ:th
cond
- 誘電体厚さ:th
dielec
【0095】
図2の共振器MR3の線路M31、M33、M34のような円形かつマルチターンの伝送線路の場合、以下のような他のパラメータも考慮する必要がある。
- ターン数:N
t
- トラック間距離
- オープニング(ギャップ)の数:n
【0096】
これらのパラメータの集合は、素子伝送線路の共振条件に寄与し、次の方程式に従って書かれる。
【0097】
【0098】
式中、
- 「ω」は角周波数
- 「n」はオープニングの数
- 「Λ」は共振器の等価全インダクタンス
- 「Z」は伝送線路の特性インピーダンス
- 「Ere」は線路の実効比誘電率
- 「xl」は平均線路長
- 「c」は真空中の光速度
【0099】
この関係に基づき、また非特許文献9(文献[22])、非特許文献10(文献[23])、非特許文献11(文献[24])、非特許文献12(文献[25])(添付文献に記載)で行われた、伝送線路間の結合および特性インピーダンスを決定することを可能にする研究に基づき、TLRの共振周波数、その全インダクタンスLet、および等価静電容量Cを事前に決定することが可能である。このような半解析モデル(SAM)は、ここではMatlab環境で記述された。
【0100】
これに基づき、トラックの幾何学形状、特に使用される導体、およびトラックの表面状態に関する考察に基づいて、全体の等価抵抗Rを推定することにより、この素子共振器の等価RLC回路図を完成させることが可能である。これは本発明者らが非特許文献13(文献[26])(添付文献に記載)で示したとおりである。ただし、後者の決定はかなり経験主義のままである。
【0101】
素子共振器を完全に特性評価するために、Rの決定のためのより良い精度を得るために、ここでは共振品質係数Qの測定から等価抵抗Rを導出することが提案される。
【0102】
そのようなTLR(単一線路共振器)を共振誘導センサとして実装することは、本発明者らによって文献[12]、非特許文献13(文献[26])、文献[27](添付文献に記載)に記載され、公開されている。その実装は、
図5に示すように、ベクトルネットワークアナライザ(VNA、例えばHP4195Aアナライザ)に接続された遠隔制御ループを使用して、誘導結合により共振器を励起することからなる。
【0103】
VNAは、励起ループに電力を供給する高周波信号を送出する。このループからの磁束は、磁気結合により、近傍に配置されたTLRのトラックに電流を誘導し、その強度はTLRの共振に近いほど増加する。逆に、TLRは磁場を生成し、それがループの動作を「変更」し、そのインピーダンスの変化を誘発する。ループはVNAに接続されているので、TLRの共振周波数付近のそのインピーダンスを測定することが可能である。この解析から、非接触誘導結合を介して、TLRとその直近環境との間の磁気的相互作用に関する情報を抽出することが可能である。このループは、その同時の励起および測定により、TLRを励起し「読み取る」制御プローブと見なすことができる。したがって、文献[26](非特許文献13)で説明されているように、プローブとTLRとの間の結合がTLRの動作を妨げることなく、プローブによって可能な限り多くの電力を伝送することが考えられる。したがって、プローブは、その自己共振周波数より低い周波数で動作するようにサイズ決定され(純粋に誘導性である周波数範囲内にとどまる)、その直径は相互作用するTLRの内径より小さく、TLRとの十分な結合を確保するためにTLRに近い距離に配置される。TLR、制御プローブ、およびVNAの間で起こる全ての相互作用は、
図4の等価回路図にまとめられている。
【0104】
図4のこの図は、磁気的に結合された2つの電気的メッシュを示している。メッシュの1つ、Z
1は、分布定数L
1、C
1、およびR
1を有する共振回路でモデル化されるTLRに対応する。それは、全インピーダンスZ
Sの回路L
sおよびR
sで表されるプローブと誘導結合されており、その要素は実験的に決定され、次のように書くことができる:
Z
S=R
S+j2πfL
【0105】
【0106】
共振器に関連するブランチの電流はi
1で表され、その端子間の電圧はv
1で表される。プローブに対応するブランチについては、それぞれi
sおよびv
sで表される。2つの回路間の結合係数はk
S1で表される。プローブはVNAのRF源に接続され、その端子間のインピーダンスZ
mesを「見る」。これは、文献[26](非特許文献13)によれば、
図4の図の異なる要素から次の方程式に従って容易に説明できる。
【0107】
【0108】
この式により、使用される周波数に応じてTLRとプローブの組み合わせの挙動を予測することができる。
【0109】
励起プローブとTLRの間の相互作用は、Ansys社から「HFSS」の名称で配布されている有限要素数値モデリングソフトウェアを使用して行われた数値計算を用いてモデル化することもできる。これらのシミュレーションにより、システムの周波数応答のこの計算を介して、与えられた幾何学形状およびパラメータのセットを有するTLRの共振周波数を決定することも可能である。
【0110】
実験的測定は、可撓性のカプトン基板上に2層のプリント回路基板(PCB)として製造され、ワニスを塗布された6つの単一ターンおよび単一オープニングTLRの2つのバッチで行われた。基板は比誘電率εr=3.4、厚さthdiel=50μm、伝送線路に使用される導体は厚さthcond=35μmの銅である。
【0111】
2つのバッチの様々なTLRは、トラック幅と外径が互いに異なる。
【0112】
検討した12個のTLRのそれぞれについて、本発明者らは上述の解析モデル(SAM)を使用して予想される理論的共振周波数を決定した。さらに、製造された様々なTLRの共振周波数を測定した。2つの一連の測定が行われた。バッチ1では、プローブは直径11mm、断面が円形で1.5mmの銅線で作られたループであり、TLRから5mmの距離に配置された。バッチ2の素子共振器では、ループは同じタイプであるが直径が14mmで、ループとTLRの間の距離は同じに維持された。
【0113】
バッチ1の4つのTLRは以下の特性を有する。
【0114】
【0115】
バッチ2の8つのTLRは以下の特性を有する。
【0116】
【0117】
また、HFSSを使用したTLRの数値シミュレーションも行われ、全体として予想される理論的共振周波数(SAMによる)と測定値の間に非常に良い一致が見られた。実際、両方のバッチで、観測された平均偏差は6%未満である。
【0118】
最後に、実験テストと同じサイズおよび距離のパラメータを有するプローブによって励起されるTLRのHFSSを使用した数値シミュレーションが行われた。計算されたインピーダンススペクトルにより、検討中のTLRとプローブのセットの共振周波数を抽出することができた。ここでも、HFSSシミュレーションの結果と実験測定との間に非常に良い適合が観察され、平均偏差は10%未満であった。
【0119】
結論として、素子共振器に関して、TLRモデルと実験測定との比較が行われた。それらは、使用された両方のモデル(半解析的な「SAM」と数値的な「HFSS」)が、特に20MHzから300MHzの周波数範囲でのTLRの挙動の研究に関連していることを示した。さらに、使用された半解析モデルはTLRの共振周波数の計算における励起コイルの存在を考慮していないが、後者の決定は実験的に観測されたものに非常に近いままである。これは、励起コイルがTLRの特性に与える影響は小さく、実用的な観点から単純化の点で有利であることを示している。
【0120】
[マルチ周波数非接触共振器(WMFR)]
ここで示す例では、非接触共振器(WMFR)は共通の基板を有する複数の素子共振器、またはTLRで形成される。このWMFRは、例えば銅製の導電性開放トラックで構成され、低誘電損失基板(例えばカプトン、またはFR4)の2つの対向する面のどちらかに堆積される。これらのトラックの互いに対する構成(長さ、間隔、厚さ、導体のタイプ、ギャップ幅)、および使用される基板のタイプ(損失、厚さ)によって、選択された幾何学形状に応じて数MHzから数百MHzの範囲になり得るWMFRの様々な構成要素に関連する様々な共振周波数を決定し、それによってRF範囲の非常に広い周波数スペクトルをカバーする。したがって、WMFRの導電性トラックの多くの幾何学形状的配置が考えられ、したがって異なる用途に適した広範囲の多様なパフォーマンスレベルを提供する。WMFRを構成する様々な結合伝送線路のギャップの位置は、観測される共振周波数に影響を与えない。必要に応じて、WMFRによって生成される磁束を均一にするために、ギャップを均一に分布させることが好ましい。
【0121】
WMFRは、すべて同じプローブによって励起される複数の素子TLRの組み合わせに基づいている。このように配置されたN個のTLRがプローブによって励起されると、関与する全ての磁気結合を
図5の等価回路図を使用して表すことができる。
【0122】
この等価回路図では、N個の素子TLRのそれぞれが、結合係数k
Sj(j∈{1,2,...,N})を介して励起コイルと磁気的に結合し、結合係数k
mn(m≠nかつ(m,n)∈{1,2,...,N})を介して他のTLRのそれぞれと磁気的に結合している。各ブランチでは、そこを流れる電流はi
jで表され、それぞれの端子間の電圧はv
j(j∈{1,2,...,N})で表される。
図5のN+1個のメッシュ間の相互作用は、文献[15]に触発された行列系の形式で書くことができる。
【0123】
【0124】
式中、a≠bの場合、
【0125】
【0126】
であり、
【0127】
【0128】
である。
【0129】
TLRjの等価電気パラメータLjおよびCjは、上述のように半解析モデルSAMを介して解析的に計算され、抵抗Rjは、個々に取られた各素子TLRの品質係数Qjの測定から推定される。2つの共振器間の相互値Mab、((a,b)∈{1,2,...,N})は、文献[25]の解析式を使用して決定され、プローブと共振器の間の相互値MSjは、文献[24]を使用して決定される。こうして、方程式(1.3.2.1)の行列系の要素が全て決定されたので、系を反転して以下を得ることができる。
【0130】
【0131】
式中、要素yijは逆行列の係数であり、アドミタンスと同次である。インピーダンスZmesは、方程式(1.3.2.2)から次のように抽出できる。
【0132】
【0133】
例として、
図7は、
図1bの8線路マルチ周波数共振器MR2(または「WMFR-8」)を形成するバッチ2の8つのTLRの組み合わせからなるWMFRについて、方程式1.3.2.3を使用して解析的に決定された、励起コイルから見たインピーダンスZ
mesを決定した数値結果を示す。
【0134】
したがって、
図7は、数MHzから400MHzの周波数範囲におけるZ
mesのモジュラスを示す。8つの共振周波数fr1からfr8で8つの共振ピークの存在が観察され、これはWMFR-8を構成する8つのTLRの寄与を反映している。
【0135】
[WMFR内のTLRの共存]
HFSSシミュレーションは、WMFR内の素子TLRが共振に入る方法を研究するために使用された。このために、様々なTLRの共振周波数の近傍の電流の表面分布が計算された。
図1aのマルチ周波数共振器MR1(またはWMFR-4)の場合、20MHz、45MHz、90MHz、206MHzの4つの動作周波数に対して電流密度が計算された。これらの選択された各動作周波数について、理論的共振周波数が動作周波数に最も近いTLRに最も強い電流が通過することがわかる。したがって、このシミュレーションは、WMFRを構成する各TLRが、励起コイルが正しい同調周波数(その固有の共振周波数に近いが異なる周波数)で動作しているときに、励起コイルによって実際に選択的に「作動」されることを明確に示している。
【0136】
これは、素子TLR間に結合が存在するにもかかわらず、WMFR内で複数の異なるTLRが共存することが可能であり、それぞれの共振が損なわれることはないことを確認する。
【0137】
[WMFRの複素インピーダンス]
検討中の2つのWMFRの複素インピーダンスZ
mesを決定するために、広帯域HFSSシミュレーションが2つ実施された。これは、
図5のベンチの場合、負荷なし、すなわち調査対象となる容器または媒体がなしで計算された。
【0138】
図8は、
図1aの4つの素子伝送線路(すなわちWMFR-4タイプ)を有するマルチ周波数共振器MR1について、周波数に応じて測定されたインピーダンスの実部の結果を示す。幾何学的形状特性は、上述のバッチ1の4つのTLR、すなわちM11、M12、M13、M14のものである。
【0139】
図9は、
図1bの8つの素子伝送線路(すなわちWMFR-8タイプ)を有するマルチ周波数共振器MR2について、周波数に応じて測定されたインピーダンスの実部の結果を示す。幾何学的形状特性は、上述のバッチ2の8つのTLR、すなわちM21、M22、M23、M24、M25、M26、M27、M28のものである。
【0140】
これらのシミュレーションでも、関与する様々なTLRの共振が、TLRごとに1つのピークで明確に観測可能であり、WMFRの形でそれらを関連付けても、それらの個々の共振が損なわれることはないことがわかる。
【0141】
これらの結果は、WMFRによって形成されるマルチ共振システムの挙動を予測することが可能であることを示している。したがって、有用な情報は、無負荷時のインピーダンスと調査対象媒体の存在下でのインピーダンスの差から抽出される。
【0142】
[テストベンチ]
図5は、
図1aおよび
図1bにそれぞれ示される4つの共振と8つの共振を有するWMFRのMR1およびMR2の2つの例を、シミュレーションと同じパラメータ、すなわち比誘電率ε
r=3.4、厚さth
diel=50μmの基板、および厚さth
cond=35μmの素子伝送線路(TLR)を用いて実施するために使用されるテストベンチを示す。誘導ループパラメータは上記と同じである。
【0143】
第1のWMFR-4は、バッチ1の4つのMTLRで構成され、第2のWMFR-8は、バッチ2の8つのMTLRで構成される。実験的実施は、数MHzから400MHzまでの広い周波数帯で行われた。
【0144】
モデルの場合と同様に、WMFRを構成する各TLRに起因するであろう共振ピークの存在が観察される。さらに、2つのWMFRについて観測された共振値を、上に示した半解析モデルSAM(方程式(1.3.2.1)の行列から方程式(1.3.2.3)が得られる)、および数値(HFSS)モデルによって提供されたものと比較すると、実験値とモデル値の間の非常に良い適合が再び観測される。実際、WMFR-4では、HFSSによって決定されたデータと測定されたデータとの間に8%の平均偏差が観測され、表1の解析モデルと測定との間に平均約4.5%の偏差が観測される。WMFR-8では、これらの平均偏差は表2でそれぞれ約8%および9%である。
【0145】
図10は、曲線の形で、各マルチ周波数共振器MR1およびMR2の様々なTLRについて観測された周波数ピークの比較を示す。
【0146】
これらの結果は、実際には、WMFRを構成する異なるMTLRの共振を利用することが十分可能であることを示している。マルチ周波数共振器について観測された共振周波数は、これらのTLR間で生じる結合のために、単独で取られたTLRの共振周波数とはわずかに異なる。
【0147】
しかしながら、解析的または数値モデリングを介してこれらの結合を予測すること、したがってWMFRについて観測された結果として生じる共振周波数を予測することも十分可能である。
【0148】
さらに、これらの結合は、WMFR(この場合は単一ターン)を構成するTLRの共振特性を否定するものではないことに留意されたい。それらはすべて、事前に決定することができる共振周波数と、単独のTLRで測定されたものに近い品質係数とを有する。したがって、誘電媒体を特性評価するための単一のTLRに類似した方法で、マルチ周波数共振器としてWMFRを使用することは完全に考えられる。
【0149】
無負荷で測定されたWMFR-4およびWMFR-8について、観測された共振周波数および特性は以下の通りである。
【0150】
【0151】
【0152】
[誘電媒体の特性評価方法]
電気媒体の非接触マルチ周波数特性評価のために、実装は、WMFRアセンブリMR2および励起コイルS1を特性評価される誘電媒体91の近傍に配置し、励起コイルからVNAを使用して広い周波数帯でインピーダンスZmesを測定する。
【0153】
図5は、ガラス皿81などの容器に含まれる均質な誘電媒体91の存在下でのWMFRの配置を示す。励起コイルS1はプローブとして設置される。ネットワークアナライザ(VNA)S0はこのプローブに接続され、励起電流を供給し(102)、そのインピーダンスを測定する(104)。
【0154】
この誘電媒体の特性評価は、WMFRを取り巻く媒体の誘電特性とWMFRによってそこに誘導される磁場との関係によって可能である。有機媒体の複素誘電特性は、その物理化学的または病態生理学的状態の非常に良い指標であることが、特に文献[16]において確立されている。これらの特性は、電気伝導率σ(S/m)を介して、媒体に伝達される電磁エネルギーを媒体が散逸する方法と、文献[28]に記載されているように、誘電体の比誘電率εr(無次元)を介して、伝達されたエネルギーを媒体が蓄積する方法を表している。特に高周波範囲(数MHzから数百MHz)におけるこれらの誘電特性の周波数による評価は、文献[29]に記載されているように、有機物の状態に関する情報を提供する際に特に関連性がある。媒体の誘電特性とWMFRによって放射される磁場との関係は、文献[30]によれば、調査対象媒体のインピーダンスZmの式によって表される。
【0155】
【0156】
式中、Zmは誘電媒体のインピーダンスに対応し、σは電気伝導率、εrは比誘電率、ε0は真空の誘電率であり、
【0157】
【0158】
はWMFRによって生成される磁場に関連するベクトルポテンシャル、IはWMFRを流れる電流、ωは角周波数である。逆に、磁場、したがってWMFRのインピーダンスは、周囲の誘電媒体によって変調される。
【0159】
図5の構成は、
図6に示す等価電気回路によって模式的に表すことができる。
【0160】
この等価回路図は、WMFR MR2とその様々な構成要素であるTLR M21~M28、VNA S0に接続された励起コイルS1、および複素インピーダンスRm、Lmによってモデル化された誘電媒体81という、互いに関連付けられた様々な要素の間で起こる磁気的および電気的相互作用をまとめたものである。誘電媒体と相互作用するTLRの場合と同様に、文献[31]に記載されているように、励起コイルは媒体に直接結合していないという単純化した仮定を行うことができる。
【0161】
しかしながら、WMFRの各TLRは、結合係数kmjを介して媒体に結合し、上記のように他のTLRおよび励起コイルに結合している。次に、様々なTLRと媒体との間の結合は、各TLRjに関連するブランチのインピーダンスRj、Lj、Cjに加えられる媒体によって「誘導される」複素インピーダンスZmjによってモデル化できると単純化してさらに仮定する。ここで、j∈{1,2,...,N}である。この仮定では、全ての結合を表す行列は次のように書かれる。
【0162】
【0163】
式中、a≠bの場合、Mab=Mbaおよび
【0164】
【0165】
であり、
【0166】
【0167】
である。
【0168】
この行列系を、範囲内の全ての周波数について反転することにより、上記のようにインピーダンスZmesを抽出することが可能である。さらに、WMFRの構成ブランチのそれぞれの共振周波数を中心とする狭い周波数帯Bjに注目することにより、この周波数帯の「活性」ブランチのみを考慮して、励起コイルから「見た」インピーダンスを容易に表現することができる。帯域BjにおけるインピーダンスZmesは次のように表される。
【0169】
【0170】
実際には、各ブランチで誘導された媒体のパラメータRmjおよびLmjは、各周波数帯で、Bjで測定されたZmesの実験データと同じ周波数帯の方程式(1.3.5.3)のモデルとの間のフィッティングのための複素フィッティングアルゴリズムを使用して推定することができる。ここで、量Rj、Lj、CjおよびZS(無負荷時のプローブ単独のインピーダンス)は事前に決定されている。さて、文献[12]に記載のように、問題のTLRの共振周波数における要素RmjおよびLmjの値は、一方では媒体の誘電特性(すなわち、媒体の電気伝導率(σ))に関連し、他方では媒体の誘電体誘電率(εr)に関連している。ひいては、WMFRの場合、方程式(1.3.5.3)を使用してN個の共振周波数で誘導されたインピーダンスを抽出することにより、WMFRに含まれる共振器の数と同数の解析周波数で媒体の誘電パラメータに関する情報をそこから導出することが可能になる。
【0171】
[NaCl水溶液の特性評価]
図11は、
図1aの4周波数共振器MR1の4つの伝送線路の4つのメッシュのそれぞれについて、塩化ナトリウムの水溶液によって形成される特性評価される媒体の導電率に応じて誘導される抵抗を個別に示している。
【0172】
使用される溶液は、調整可能で表に示される電気的特性(電気伝導率または誘電体誘電率)を有する媒体を得るために、様々な割合の導電性食塩水溶液(脱イオン水+NaCl)である。
【0173】
これらの各溶液は、一定体積の700mlで、ガラス皿81に順番に入れられる。各溶液について、WMFRの各共振の周りで複数のZmes測定が行われる。
【0174】
校正された誘電体溶液の全てに対してWMFRを実装した後、方程式(1.3.5.3)に関連してさらに説明したように、各共振周波数の周りで媒体によって誘導される複素インピーダンス(要素RiおよびLi)が推定される。
【0175】
マルチ周波数共振器の各共振周波数について、単なるMTLRについてすでに観測された結果が返される。一方では、媒体中に誘導された抵抗R
iの変化と媒体の電気伝導率との間に線形性があり、他方では、媒体中に誘導されたインダクタンスL
iと媒体の誘電体誘電率との間に線形性がある。これらの線形性は、
図11の曲線でグラフ化されて強調されている。
【0176】
したがって、WMFR-4は、2つの対象となるパラメータLiおよびRiの抽出を介して、均質な媒体中の誘電率および導電率の非常に小さな変化に対して各共振で敏感であることが観察される。WMFR-8についても同様の結果が観察される。
【0177】
したがって、N個の素子伝送線路を有するWMFRは、媒体のN個の同時分析を可能にするデバイスを形成し、それに応じて媒体の誘電特性評価を充実させる。
【0178】
したがって、この発明は、有機媒体の誘電パラメータの周波数による変化が、その物理化学的状態、または病態生理学の特に関連性の高いマーカーであることが知られている有機媒体の分析に特に有利である。
【0179】
[肉片の変化の研究]
図19に示すように、このようなマルチ周波数共振器とその個々のプローブS1は、容器内部との接触またはアクセスなしに容器内に配置された物体の電気的特性を調査するために使用することができる。例えば、支持体61に統合されたまたは取り付けられた共振器MR2の上を通過する際に、例えば農産物生産チェーンのコンベヤ上を移動する食品94の場合である。深さ方向の非接触調査能力により、領域R3で示されるように、このように製品94をかなりの深さまで調査することができる。
【0180】
検証として、
図1bのマルチ周波数共振器MR2(WMFR-8)を使用して、仔牛のステーキ(長さ15cm、厚さ2cm、幅7cm)の分解を研究した。このステーキは、
図5に示すガラス皿に入れられ、その後、4つの別々の時点でZ
mesが測定された。すなわち、0日目、1日目、2日目、5日目である。5日目までに、ステーキは、液体の存在、形状および色の変化など、肉眼で見える外観の変化を伴う分解の進行状態にあった。
【0181】
図20は、時間の経過とともに、また異なる周波数に対して、ステーキ中に誘導されたインダクタンスL
iを示す。これは、調査対象領域R3の異なる深さに対してこの情報を提供する。
図21は、誘導抵抗R
iを示す同様の曲線である。
【0182】
図20および
図21により、このようなマルチ周波数測定の利点を見ることができる。実際、これらの2つの図は、対象の2つのパラメータR
iおよびL
iの変化を見ることを可能にする。これらは、周知のように、それぞれσおよびε
rに比例する。仔牛のステーキの誘電特性は、分解の長さとともに変化することが観察される。実際、各周波数に対して誘導されたインダクタンス値L
iは、時間とともに、また周波数に応じて比較的顕著な差異で増加するように見える。同様に、誘導抵抗R
iについても、特に最低周波数の22MHzでD+5の曲線と他の曲線との間に非常に明確な差が見られ、最高周波数ではそれほどでもない。さらに、D+1から、L
iおよびR
iの変化が明らかになる。これは時間とともに顕著になり、D+5の曲線が他の曲線とは非常に異なることがわかる。したがって、WMFRによって分解現象を最初から監視し、進行段階まで継続することができる。これらの結果は、このWMFRマルチ周波数センサが、非侵襲的かつ非接触で、有機誘電媒体の特性をリアルタイムでモニタリングできることを確認するものである。
【0183】
図12は、例えば
図15に示すような異なる特性評価用途のために、このようなマルチ周波数共振器MR1を実装する方法の一例を示す。
【0184】
共振器は、調査対象領域から適切な距離に配置され(101)、例えば近傍のオブジェクト内に取り外し可能に、または埋め込まれる。測定の前またはその時点で、プローブS1の誘導部分は、共振器MR1から適切な距離に一時的または恒久的に配置され、例えばそれ自体が埋め込まれるようにする。
【0185】
プローブS1は、プローブと共振器MR1との間の誘導結合(102)を得るためにリーダーS0によって励起される。リーダーS0は、共振器MR1と調査対象領域R1によって形成されるアセンブリの複素インピーダンスの測定(104)を行う。
【0186】
この複素インピーダンスは、各測定周波数fm1~fm4に対して測定された個々のインピーダンスZm1~Zm4を得るためにスペクトル処理される。
【0187】
例えば、本明細書に記載の方法を、添付文献に記載されている方法または当業者に知られている方法と関連付けることにより、これらの個々のインピーダンスZm1~Zm4から、様々な測定周波数fm1~fm4に対する調査対象領域における媒体の個々の電気的特性P1~P4が抽出される(105)。
【0188】
次に、これらの個々の電気的特性は、調査対象領域R1における媒体91を特性評価するために使用される。例えば、既知のデータまたは関係に基づいて、または例えば参照データ、特にニューラルネットワークによる処理のための既知の統計的方法を使用して、既知のデータまたは校正のために記録されたデータと比較または校正することによって使用される。
【0189】
図13および
図14は、共振器およびそれと誘導結合されるプローブの他の実施形態を示す。これらの例では、空間的に分離し入れ子になっていない個々の伝送線路(TLR)が同じプローブS2と結合されている。
【0190】
この例では、プローブS2は単一の誘導回路を含み、これは複数の分離部分S21、S22、S23で形成され、視覚的にはデイジーの花弁に例えることができる。
【0191】
図13では、マルチ周波数共振器MR4は、互いに分離した2つの単一ターン円形線路M42およびM41と、互いに同心であり他の2つとは分離した2つの他の単一ターン円形線路M43およびM44とを有する。これらの4つの線路M41~M44は、それぞれ異なる個々の共振を有し、したがって3つの異なるサブ領域において調査対象媒体と相互作用することができる、典型的には同一平面上の3つのグループに空間的に分割されている。この配置により、例えば、それらを互いに同心円状に配置する場合のようにそれらのサイズによって制限されることなく、多数の異なる線路を使用することが可能になる。これらの異なるグループは、プローブS2の花弁の1つの軸にそれぞれ配置され、それらを厳密に同時に励起および測定する。このため、これらの4つの素子伝送線路は一緒になって、単一の4周波数共振器MR4、またはWMFR-4を形成する。
【0192】
図14では、マルチ周波数共振器MR5は、互いに異なり互いに同心である4つの単一ターン円形線路を有する3つのグループM511、M512、M513を有する。これらの異なるグループM511、M512、M513は、プローブS2の花弁の1つの軸にそれぞれ配置され、それらを厳密に同時に励起および測定する。このため、これらの3つのグループは一緒になって、これらの3つのグループが同一である場合、4つの周波数を有する単一の共振器MR5、またはWMFR-4を形成する。この配置は、同じ周波数でより広い領域を調査することを可能にする。3つのグループが互いに異なる場合、例えば、トラックの厚さ、材料、または間隔の点で異なる場合、この配置はまた、より多数の周波数を組み合わせることを可能にする。この場合、最大12の周波数を組み合わせ可能である。
【0193】
あらゆるタイプのTLRは、単一の同じプローブと結合され、それによってそれらの全体的なインピーダンスが単一のチャネルを介して測定されることを条件として、このタイプの配置で組み合わせて、単一のマルチ周波数共振器を生成することができる。
【実施例】
【0194】
図15の実施例では、共振器MR1は、磁場に透過性のある容器81、例えば非磁性または薄い容器の内容物91を非接触で特性評価するために使用される。この実施例では、共振器MR1は、例えば、品質管理または識別のためにその内容物が特性評価される異なる容器がその上を通過する固定支持体61に取り付けられている。共振器は、その上を連続的に通過する各容器81の領域R1を非接触で特性評価することを可能にする。
【0195】
図16の実施例は、共振器MR1が容器82に組み込まれる、この場合はその壁に埋め込まれる1つの実装を示す。このようにして、容器82を開けることなく、その変化の過程のいかなる時点でも内容物91の領域R2を監視することが可能である。
【0196】
図17は、複数のマルチ周波数共振器MR7a~MR7hが、タンク(例えばキャップ831で閉じられた燃料92用のタンク83)の壁に多数の位置に埋め込まれる1つの実装を示す。これらのマルチ周波数共振器は、一連のプローブS7a~S7hによってそれぞれ励起され、これらのプローブは、例えば、連続したプレートに組み込まれるか、またはタンクの外壁に埋め込まれるか取り付けられる。これらの共振器は、例えばタンクの壁と燃料との界面の領域を網羅する一連の領域R7a~R7hに存在する媒体を特性評価するようにサイズ決定され配置される。これらの界面領域を定期的にまたは恒久的に特性評価することにより、あらゆる腐食点で発生したり、または腐食を促進したりするあらゆるバクテリア膜928の存在または変化を監視することが可能になる。
【0197】
図18は、それぞれが独自の個々のプローブS8a~S8hを有する複数のマルチ周波数共振器MR8a~MR8hを含むマトリックスデバイスが、生きている生物(この場合はマウス93)に埋め込まれた状態で配置される1つの実装を示す。必要に応じて、プローブも別のデバイスに配置することができ、共振器もマウスの体内に直接埋め込むことができる。このようなシステムにより、それぞれが異なる領域R8a~R8hを調査する共振器のマトリックス配置によって、マウスの体の全部または一部の時間変化のグラフィカルな特性評価を行うことができる。例えば、注入された化合物の生体内のあらゆる場所での拡散や、または特定の器官の状態の経時変化を監視して視覚化することができる。このような埋め込み構成により、マウスの覚醒活動中にその日中ずっとマウスに装着し、そのパラメータを監視することができる。
【0198】
[参考文献一覧]
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【国際調査報告】