(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-03
(54)【発明の名称】アクリレート結合剤
(51)【国際特許分類】
C08F 220/06 20060101AFI20241126BHJP
C08F 220/56 20060101ALI20241126BHJP
C08L 33/02 20060101ALI20241126BHJP
C08K 3/01 20180101ALI20241126BHJP
C09K 23/52 20220101ALI20241126BHJP
H01B 1/24 20060101ALI20241126BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20241126BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20241126BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20241126BHJP
H01G 11/38 20130101ALI20241126BHJP
H01G 11/86 20130101ALI20241126BHJP
【FI】
C08F220/06
C08F220/56
C08L33/02
C08K3/01
C09K23/52
H01B1/24 A
H01M4/139
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01G11/38
H01G11/86
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024529964
(86)(22)【出願日】2022-11-18
(85)【翻訳文提出日】2024-07-10
(86)【国際出願番号】 EP2022082490
(87)【国際公開番号】W WO2023089135
(87)【国際公開日】2023-05-25
(32)【優先日】2021-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513092877
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ イタリー エス.ピー.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】トゥールヴィユ, ジャン ノエル
(72)【発明者】
【氏名】ミーカー, スティーブン
(72)【発明者】
【氏名】マウリ, ステファノ
(72)【発明者】
【氏名】ビーソ, マウリツィオ
(72)【発明者】
【氏名】ビズドハ, ヴォイチェフ
(72)【発明者】
【氏名】キャスタン, ジャン-クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】ウィルソン, デービッド ジェームズ
(72)【発明者】
【氏名】ゴメス, ジャン ラウール
【テーマコード(参考)】
4D077
4J002
4J100
5E078
5G301
5H050
【Fターム(参考)】
4D077AA01
4D077AC05
4D077DC26X
4D077DC26Y
4D077DC39X
4D077DC39Y
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4D077DC48Y
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4D077DC66Y
4D077DD17Y
4D077DD17Z
4D077DD45Y
4D077DD45Z
4J002BG011
4J002BG131
4J002DA016
4J002DA017
4J002DA026
4J002DA027
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4J002DE186
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4J100BA17H
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5E078AA15
5E078AB02
5E078BA47
5E078BA71
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5E078BB30
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5G301DA19
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5G301DD10
5G301DE01
5H050AA07
5H050AA14
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB01
5H050CB02
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB29
5H050DA10
5H050DA11
5H050EA23
5H050GA02
5H050GA03
5H050GA22
5H050HA01
(57)【要約】
本発明は、非水電解質二次電池のためのポリマー、二次電池のための電極スラリー及びそれを含む二次電池に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性電極形成組成物中に粉末粒子を分散させるためのアクリルポリマー分散剤[ポリマー(P)]であって、
(C)中和形態の少なくとも1つのα,β-エチレン性不飽和カルボン酸モノマー[モノマー(AA)]に由来する繰返し単位と、
(D)少なくとも1つの(メタ)アクリルアミドモノマー[モノマー(AM)]に由来する繰返し単位と
を含むことによって特徴付けられ、約500kDa~10000kDaの重量平均分子量を有するアクリルポリマー分散剤[ポリマー(P)]。
【請求項2】
モノマー(AA)は、式(I):
【化1】
(式中、R
a、R
b及びR
cは、互いに等しいか又は異なり、水素原子及びC
1~C
3炭化水素基から独立して選択され、
Sは、一価カチオン、好ましくはアルカリ金属塩である)
の化合物である、請求項1に記載のポリマー(P)。
【請求項3】
モノマー(AM)は、式(II):
【化2】
(式中、
R
5は、水素原子又はメチル基を表し、
R
6及びR
7は、互いに同じであるか又は異なり、水素原子又は1~6つの炭素原子を有する直鎖若しくは分岐アルキル基から選択され得、
R
8及びR
9は、互いに同じであるか又は異なり、水素原子、1~6つの炭素原子を有する直鎖若しくは分岐アルキル基、カルボン酸基又はアミド基から選択され得、好ましくは、モノマー(AM)は、(メタ)アクリルアミド又はN-アルキルアクリルアミド、N,N-ジアルキルアクリルアミド等のN置換(メタ)アクリルアミドからなる群から選択される)
の化合物である、請求項1又は2に記載のポリマー(P)。
【請求項4】
モノマー(AA)及び/又はモノマー(AM)の総量がポリマー(P)の繰返し単位の総モルに対して少なくとも60モル%であることを条件として、モノマー(AA)及びモノマー(AM)と異なる少なくとも1つのエチレン性不飽和モノマー(M)に由来する繰返し単位を更に含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のポリマー(P)。
【請求項5】
モノマー(M)は、
- 少なくとも1つの窒素原子を有する不飽和複素環基を有するエチレン性不飽和モノマーであるモノマー(M1)であって、以下の式(III):
【化3】
(式中、
R
1は、H又はアルキル基であり、アルキル基は、好ましくは、メチル基であり、
R
2は、H又はアルキル基であり、
R
3及びR
4は、互いに同じであるか又は異なり、水素原子又は1~6つの炭素原子を有する直鎖若しくは分岐アルキル基から選択され得、
Aは、
- 単一の共有結合、及び
- スペーサ
からなる群から選択される結合であり、
X、Y及びZは、互いに独立して、炭素原子又は窒素原子から選択され、
a、b及びcは、互いに独立して、整数1~2から選択され、
各一点鎖線は、任意選択的な二重結合を表す)
を有するモノマー(M1)、
- モノマー(AA)及びモノマー(AM)と異なるモノマー(M2)であって、以下の式(IV):
【化4】
(式中、
R
iは、H、-COOH、-CH
2COOH又はアルキル基からなる群から選択され、アルキル基は、好ましくは、メチル基であり、
R
ii及びR
iiiは、互いに同じであるか又は異なり、水素原子又は1~6つの炭素原子を有する直鎖若しくは分岐アルキル基から選択され得るか、又は-COOH基であり得、
Bは、-C(O)-O-基及び-C(O)-NH-基からなる群から選択される結合であり、
R
xは、水素原子又はエーテル(-O-)、複素環基、スルホン酸基(-SO
3H)、スルホン酸基の塩(-SO
3Cat)、ホスホン酸基(-PO
3H
2)、ホスホン酸基の塩(-PO
3Cat
2)、リン酸基(-OPO
3H
2)及びリン酸基の塩(-OPO
3Cat
2)からなる群から選択される少なくとも1つの官能基を含む直鎖若しくは分岐C
3~C
20炭化水素鎖部分から選択され、Catは、好ましくは、アルカリ金属カチオンから選択される一価カチオンであり、より好ましくはNa
+、K
+及びLi
+から選択される)
を有するモノマー(M2)、
- モノマー(M3)であって、
- 無水マレイン酸及び(メタ)アクリル酸のアルキルエステル、例えばモノメチル無水マレイン酸エステル、ジメチル無水マレイン酸エステル、モノエチル無水マレイン酸エステル、ジエチル無水マレイン酸エステル、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、
- 無水マレイン酸及び(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステル、例えばモノヒドロキシエチル無水マレイン酸エステル、ジヒドロキシエチル無水マレイン酸エステル、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、
- 無水マレイン酸に由来するエトキシレート及びプロポキシレート、例えばポリ(プロピレンオキシド)-b-ポリ(エチレンオキシド)マレイン酸半エステル又はジエステル、アルキル-ポリ(エチレンオキシド)マレイン酸半エステル又はジエステル、
- ヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸のエトキシル化及び/又はプロポキシル化に由来するエトキシレート及び/又はプロポキシレート、例えばポリ(プロピレンオキシド)-b-ポリ(エチレンオキシド)-エチル(メタ)アクリレート、
- (メタ)アクリル酸及びエステルのエステル化(エステル交換反応)に由来するエトキシレート及び/又はプロポキシレート、例えばポリ(プロピレンオキシド)-b-ポリ(エチレンオキシド)(メタ)アクリレート及びアルキル-ポリ(エチレンオキシド)(メタ)アクリレート、
- ビニルエステル、例えばメチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、2-エチルヘキシルビニルエーテル、ビニルシクロヘキシルエーテル、ドデシルビニルエーテル、2-(ジエチルアミノ)エチルビニルエーテル、2-(ジ-n-ブチルアミノ)エチルビニルエーテル、
アリルエーテル、例えばメチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、2-エチルヘキシルビニルエーテル、
- ビニルエステル、例えば酢酸ビニル又はプロピオン酸ビニル、
アルキル置換アクリルアミド、例えばN-tert-ブチルアクリルアミド又はN-メチル(メタ)アクリルアミド
からなる群から選択される疎水性又は両親媒性モノマーであるモノマー(M3)
からなる群から選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載のポリマー(P)。
【請求項6】
モノマー(M)は、式(IIIa):
【化5】
のビニルイミダゾール(VIm)である、請求項1~5のいずれか一項に記載のポリマー(P)。
【請求項7】
- 5~95%、特に5~50%、好ましくは20~40%の、中和形態のモノマー(AA)に由来する繰返し単位と、
- 25~90%、好ましくは25~90%、より好ましくは50~80%の、モノマー(AM)に由来する繰返し単位と、
- 0.1~50%、例えば1~30%、特に1~20%、更に2~15%の、モノマー(M)に由来する繰返し単位と
を含み、前述のモル%の全ては、ポリマー(P)の繰返し単位の総モルを基準とする、請求項1~6のいずれか一項に記載のポリマー(P)。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のポリマー(P)を製造するプロセスであって、少なくとも1つのモノマー(AA)、少なくとも1つのモノマー(AM)及び任意選択的に少なくとも1つのモノマー(M)の混合物をラジカル共重合してポリマー(P-H)を提供し、続いてモノマー(AA)に由来する繰返し単位の酸基を中和することを含み、酸基の中和は、一価カチオン、好ましくはアルカリ金属塩を含む塩[塩(S)]を用いて、適切な溶媒中において又はアンモニアを用いてのいずれかで行われる、プロセス。
【請求項9】
電気化学デバイスのための電極の作製に使用するための水性電極形成組成物[組成物(Comp)]であって、
a)請求項1~7のいずれか一項に記載の少なくとも1つのポリマー(P)と、
b)電極活物質と、
c)水性溶媒と、
d)任意選択的に、少なくとも1つの導電性付与添加剤と
からなることによって特徴付けられる水性電極形成組成物[組成物(Comp)]。
【請求項10】
ポリマー(P)の量は、組成物中の固形物の総量の約2~10%、好ましくは約3~5%である、請求項9に記載の水性電極形成組成物[組成物(Comp)]。
【請求項11】
全固形分は、組成物(Comp)の総重量に対して40重量%超、好ましくは40~70重量%である、請求項9又は10に記載の水性電極形成組成物[組成物(Comp)]。
【請求項12】
電極[電極(E)]を作製するプロセスであって、
(i)少なくとも1つの表面を有する金属基材を提供すること、
(ii)請求項9~11のいずれか一項に記載の組成物(Comp)を提供すること、
(iii)工程(ii)で提供された組成物(Comp)を、工程(i)で提供された金属基材の少なくとも1つの表面に適用し、それにより少なくとも1つの表面上への前記組成物(Comp)でコーティングされた金属基材を含む組立体を提供すること、
(iv)工程(iii)で提供された組立体を乾燥させること、
(v)工程(iv)で得られた乾燥された組立体を圧縮工程に供して、電極(E)を得ること
を含むプロセス。
【請求項13】
請求項12に記載のプロセスによって得ることができる電極[電極(E)]。
【請求項14】
請求項13に記載の少なくとも1つの電極(E)を含む電気化学デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年11月22日出願の欧州特許出願公開第21306620.2号に対する優先権を主張し、この出願の全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、非水電解質二次電池における使用のためのポリマー、二次電池のための電極スラリー及びそれを含む二次電池に関する。
【背景技術】
【0003】
EV車のための電池は、距離不安を取り除き、より広範で迅速な採用を可能にするために、エネルギー密度の点で改善し続ける必要がある。シリコンアノードの採用は、電池容量、したがってエネルギー密度を高めるための最も強力なテクノ戦略の1つである。ケイ素(Si)は、その高い理論比容量(3600mAh/g)のためにアノード活物質として広く研究されており、現在のアノード活物質であるグラファイト(<400mAh/g)よりもはるかに高い。
【0004】
しかしながら、実際の用途では、リチウムの挿入及び抽出(電池の充電及び放電)中に劇的な体積変化が電極の機械的破壊を促進し、電気的接触の喪失を引き起こし、活物質表面での連続的な電解質分解をもたらすため、Siは、非常に困難である。電池市場で広く採用されている戦略の1つは、活物質としてグラファイトと混合された限られた量のケイ素(<10%)を使用することである。この戦略は、電極の機械的完全性に対するケイ素の有害な影響を軽減するが、ケイ素の量に比例して達成されるエネルギー密度の改善は、非常に限られている。典型的には有機ポリマーである結合剤は、アノード層全体にわたる活物質と、製造中にアノードが上に堆積する集電体との間の接触を維持する結合マトリックスとして機能する。
【0005】
アノードで現在使用されている結合剤、したがって低Si量を含む活物質グラファイトは、ゴム(SBR)とセルロース誘導体(CMC)との組合せである。前記結合剤は、十分に剛性ではないため、ケイ素が豊富なアノード(ケイ素量>10%)に適していない。Siが豊富なアノード(>10%)を達成するための更なる努力が特に結合剤設計で依然として必要とされており、それは、結合剤が体積変化に適応する際に重要な役割を果たし、Si粒子間の電気的接触損失を防止することができるためである。実際、ケイ素の表面と可逆的に相互作用することができる堅牢なポリマー結合剤は、サイクル中のアノードの機械的破砕を抑制することができると考えられる。
【0006】
活物質及び集電体基材の両方との好ましい表面相互作用をもたらす化学官能基が必要であることが一般的に認められている。更に、液体電解質及び他の添加剤との化学的適合性は、活物質の組成に関わらず、あらゆる結合剤の前提条件である。
【0007】
シリコンアノードに適合する次世代結合剤を開発するために、多くのアプローチが追求されている。
【0008】
これに関連して、ポリアクリル酸、ポリアミック酸、ポリアクリルアミド及び他の水素結合構造を含むポリカルボキシレート結合剤及び誘導体が追求されている。
【0009】
Miranda,A.et al.(“A Comprehensive Study of Hydrolyzed Polyacrylamide as a Binder for Silicon Anodes”Appl.Mater.Interfaces,2019,11,44090-44100)は、良好な接着性、高い強度及び高い電気化学的貯蔵容量を備えた複合シリコンアノードの作製における部分加水分解ポリアクリルアミドの使用を開示している。
【0010】
国際公開第2022/013070号パンフレットは、特定の修飾ポリカルボキシレートポリマー、特にアクリルアミドモノマーを含む修飾ポリアクリル酸が、ケイ素が豊富なアノードの分解を防止することを可能にすることを開示している。前記ポリマー中のアシル酸(AA)及びアクリルアミド(AM)モノマーの分布は、リチウム化ポリアクリル酸(PAA)と比較して金属に対する優れた接着性を付与する。更に、前記ポリマーを結合剤として使用することによって得られたアノードは、良好なサイクル安定性を示し、これは、SBR/CMC系と比較してポリマーが有するより高い凝集性に関連する。
【0011】
このような結合剤タイプは、ケイ素表面上のペンダント酸基とシラノール基との間の水素結合を効果的に形成し、これは、ケイ素体積変化の問題に対処するが、好ましいレオロジー及び分散剤挙動を有さない。したがって、それらは、効果的な電極調製のために、周知のレオロジー調整剤及び分散剤であるカルボキシメチルセルロース(CMC)のような添加剤を必要とする。
【0012】
本出願人は、予想外にも、適切にリチウム化された特定のポリカルボキシレートポリマーが驚くほど優れた分散剤特性を示し、したがって分散剤が存在しない場合でもアノードスラリーの調製に適していることを見出した。
【発明の概要】
【0013】
本発明の目的は、水性電極形成組成物中に粉末粒子を分散させるためのアクリルポリマー分散剤[ポリマー(P)]であって、
(A)中和形態の少なくとも1つのα,β-エチレン性不飽和カルボン酸モノマー[モノマー(AA)]に由来する繰返し単位と、
(B)少なくとも1つの(メタ)アクリルアミドモノマー[モノマー(AM)]に由来する繰返し単位と
を含むことによって特徴付けられ、約500kDa~10000kDaの重量平均分子量を有するアクリルポリマー分散剤[ポリマー(P)]である。
【0014】
本出願人は、驚くべきことに、水に溶解したポリマー(P)が、CMC又はCMCとアクリルポリマーとのブレンドの分散能力よりもはるかに優れたその優れた分散能力のため、電極形成組成物を調製するための結合剤として適切に使用され得ることを見出した。
【0015】
実際、ポリマー(P)は、レオロジー調整剤を使用することなく、2日間にわたって沈降せずに安定なスラリーをもたらす。
【0016】
したがって、別の目的では、本発明は、電気化学デバイスのための電極の作製に使用するための水性電極形成組成物[組成物(Comp)]であって、
a)上記で定義された少なくとも1つのポリマー(P)と、
b)電極活物質と、
c)水性溶媒と、
d)任意選択的に、少なくとも1つの導電性付与添加剤と
をからなることによって特徴付けられる水性電極形成組成物[組成物(Comp)]を提供する。
【0017】
別の目的では、本発明は、電極[電極(E)]を作製するプロセスであって、
(i)少なくとも1つの表面を有する金属基材を提供すること、
(ii)上記で定義された組成物(Comp)を提供すること、
(iii)工程(ii)で提供された組成物(Comp)を、工程(i)で提供された金属基材の少なくとも1つの表面に適用し、それにより少なくとも1つの表面上への前記組成物(Comp)でコーティングされた金属基材を含む組立体を提供すること、
(iv)工程(iii)で提供された組立体を乾燥させること、
(v)工程(iv)で得られた乾燥された組立体を圧縮工程に供して、本発明の電極(E)を得ること
を含むプロセスを提供する。
【0018】
更なる態様では、本発明は、本発明のプロセスによって得ることができる電極[電極(E)]に関する。
【0019】
更になお一層の目的では、本発明は、本発明の少なくとも1つの電極(E)を含む電気化学デバイスに関する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施例の製剤1~3の光学顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に関連して、用語「重量パーセント」(重量%)は、構成要素の重量と混合物の総重量との間の比として計算した混合物中の特定の構成要素の含有量を示す。液体組成物の総固体含有量(TSC)に言及するとき、重量パーセント(重量%)は、液体中の全ての不揮発性成分の重量間の比を示す。
【0022】
「電気化学セル」という用語は、本明細書では、正極、負極及び液体電解質を含む電気化学セルであって、単層又は多層のセパレータが前記電極の一方の少なくとも1つの表面に付着している電気化学セルを意味することが意図される。
【0023】
電気化学セルの非限定的な例は、特に、電池、好ましくは二次電池及び電気二重層コンデンサを含む。
【0024】
本発明の目的のために、「二次電池」とは、充電式電池を示すことを意図する。二次電池の非限定的な例は、特にアルカリ又はアルカリ土類二次電池を含む。
【0025】
当技術分野で公知のように、電極形成組成物は、物質の組成物、典型的には液体組成物であり、固体構成要素は、液体に溶解又は分散され、それを金属基材上に付着させ、それに続いて乾燥させ、結果として電極を形成することができ、金属基材は、集電体の機能を果たす。電極形成組成物は、典型的には、少なくとも電気活物質及び少なくとも結合剤を含む。
【0026】
本発明の電極形成組成物[組成物(Comp)]は、結合剤として機能する少なくとも1つのポリマー(P)を含む。
【0027】
ポリマー(P)
ポリマー(P)は、中和形態の少なくとも1つのα,β-エチレン性不飽和カルボン酸モノマー[モノマー(AA)]に由来する繰返し単位と、少なくとも1つの(メタ)アクリルアミドモノマー[モノマー(AM)]に由来する繰返し単位とを含むことによって特徴付けられる。
【0028】
少なくとも1つのα,β-エチレン性不飽和カルボン酸モノマー(AA)は、好ましくは、式(I):
【化1】
(式中、R
a、R
b及びR
cは、互いに等しいか又は異なり、水素原子及びC
1~C
3炭化水素基から独立して選択され、
Sは、一価カチオン、好ましくはアルカリ金属塩である)
の化合物である。
【0029】
より好ましくは、モノマー(AA)は、アクリル酸、メタアクリル酸、Sipomer(登録商標)B-CEA(Solvayにより販売)、エタクリル酸、クロトン酸、メチル(メタ)アクリル酸、エチル(メタ)アクリル酸、プロピル(メタ)アクリル酸、イソプロピル(メタ)アクリル酸、n-ブチル(メタ)アクリル酸、2-エチルヘキシル(メタ)アクリル酸、n-ヘキシル(メタ)アクリル酸及びn-オクチル(メタ)アクリル酸の塩からなる群から選択される、上記で定義された式(I)の化合物である。
【0030】
(メタ)アクリルアミドモノマー[モノマー(AM)]は、好ましくは、式(II):
【化2】
(式中、
R
5は、水素原子又はメチル基を表し、
R
6及びR
7は、互いに同じであるか又は異なり、水素原子又は1~6つの炭素原子を有する直鎖若しくは分岐アルキル基から選択され得、
R
8及びR
9は、互いに同じであるか又は異なり、水素原子、1~6つの炭素原子を有する直鎖又は分岐アルキル基、カルボン酸基又はアミド基から選択され得る)
の化合物である。
【0031】
モノマー(AM)は、好ましくは、(メタ)アクリルアミド又はN-アルキルアクリルアミド、N,N-ジアルキルアクリルアミド等のN置換(メタ)アクリルアミドからなる群から選択される。
【0032】
ポリマー(P)は、モノマー(AA)及び/又はモノマー(AM)の総量がポリマー(P)の繰返し単位の総モルに対して少なくとも60モル%であることを条件として、モノマー(AA)及びモノマー(AM)と異なる少なくとも1つのエチレン性不飽和モノマー(M)に由来する繰返し単位を任意選択的に含み得る。
【0033】
モノマー(M)は、
- 少なくとも1つの窒素原子を有する不飽和複素環基を有するエチレン性不飽和モノマーであるモノマー(M1)であって、以下の式(III):
【化3】
(式中、
R
1は、H又はアルキル基であり、アルキル基は、好ましくは、メチル基であり、
R
2は、H又はアルキル基であり、
R
3及びR
4は、互いに同じであるか又は異なり、水素原子又は1~6つの炭素原子を有する直鎖若しくは分岐アルキル基から選択され得、
Aは、
- 単一の共有結合、及び
- スペーサ
からなる群から選択される結合であり、
X、Y及びZは、互いに独立して、炭素原子又は窒素原子から選択され、
a、b及びcは、互いに独立して、整数1~2から選択され、
各一点鎖線は、任意選択的な二重結合を表す)
を有するモノマー(M1)、
- モノマー(AA)及びモノマー(AM)と異なるモノマー(M2)であって、以下の式(IV):
【化4】
(式中、
R
iは、H、-COOH、-CH2COOH又はアルキル基からなる群から選択され、アルキル基は、好ましくは、メチル基であり、
R
ii及びR
iiiは、互いに同じであるか又は異なり、水素原子又は1~6つの炭素原子を有する直鎖若しくは分岐アルキル基から選択され得るか、又は-COOH基であり得、
Bは、-C(O)-O-基及び-C(O)-NH-基からなる群から選択される結合であり、
R
xは、水素原子又はエーテル(-O-)、複素環基、スルホン酸基(-SO
3H)、スルホン酸基の塩(-SO
3Cat)、ホスホン酸基(-PO
3H
2)、ホスホン酸基の塩(-PO
3Cat
2)、リン酸基(-OPO
3H
2)及びリン酸基の塩(-OPO
3Cat
2)からなる群から選択される少なくとも1つの官能基を含む直鎖若しくは分岐C
3~C
20炭化水素鎖部分から選択され、Catは、好ましくは、アルカリ金属カチオンから選択される一価カチオンであり、より好ましくはNa
+、K
+及びLi
+から選択される)
を有するモノマー(M2)、
- モノマー(M3)であって、
- 無水マレイン酸及び(メタ)アクリル酸のアルキルエステル、例えばモノメチル無水マレイン酸エステル、ジメチル無水マレイン酸エステル、モノエチル無水マレイン酸エステル、ジエチル無水マレイン酸エステル、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、
- 無水マレイン酸及び(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステル、例えばモノヒドロキシエチル無水マレイン酸エステル、ジヒドロキシエチル無水マレイン酸エステル、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、
- 無水マレイン酸に由来するエトキシレート及びプロポキシレート、例えばポリ(プロピレンオキシド)-b-ポリ(エチレンオキシド)マレイン酸半エステル又はジエステル、アルキル-ポリ(エチレンオキシド)マレイン酸半エステル又はジエステル、
- ヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸のエトキシル化及び/又はプロポキシル化に由来するエトキシレート及び/又はプロポキシレート、例えばポリ(プロピレンオキシド)-b-ポリ(エチレンオキシド)-エチル(メタ)アクリレート、
- (メタ)アクリル酸及びエステルのエステル化(エステル交換反応)に由来するエトキシレート及び/又はプロポキシレート、例えばポリ(プロピレンオキシド)-b-ポリ(エチレンオキシド)(メタ)アクリレート及びアルキル-ポリ(エチレンオキシド)(メタ)アクリレート、
- ビニルエステル、例えばメチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、2-エチルヘキシルビニルエーテル、ビニルシクロヘキシルエーテル、ドデシルビニルエーテル、2-(ジエチルアミノ)エチルビニルエーテル、2-(ジ-n-ブチルアミノ)エチルビニルエーテル、
アリルエーテル、例えばメチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、2-エチルヘキシルビニルエーテル、
- ビニルエステル、例えば酢酸ビニル又はプロピオン酸ビニル、
アルキル置換アクリルアミド、例えばN-tert-ブチルアクリルアミド又はN-メチル(メタ)アクリルアミド
からなる群から選択される疎水性又は両親媒性モノマーであるモノマー(M3)
からなる群から適切に選択され得る。
【0034】
ポリマー(P)は、上記のように、少なくとも1つのモノマー(AA)、少なくとも1つのモノマー(AM)及び任意選択的に少なくとも1つのモノマー(M)の混合物をラジカル共重合してポリマー(P-H)を提供し、続いてモノマー(AA)に由来する繰返し単位の酸基を中和することによって得ることができ、酸基の中和は、一価カチオン、好ましくはアルカリ金属塩を含む塩[塩(S)]を用いて、適切な溶媒中において又はアンモニアを用いてのいずれかで行われる。
【0035】
塩(S)は、酸基を中和できる任意の塩であり得る。いくつかの実施形態では、塩(S)は、炭酸リチウム、水酸化リチウム、炭酸水素リチウム及びそれらの組合せからなる群から選択されるリチウム塩、好ましくは炭酸リチウムである。いくつかの実施形態では、リチウム塩は、水酸化リチウムを含有しない。
【0036】
ポリマー(P-H)を中和する工程で使用するための溶媒は、塩(S)又はアンモニア及び得られたポリマー(P)を溶解することができる任意の溶媒であり得る。好ましくは、溶媒は、水、NMP及びアルコール、例えばメタノール、イソプロパノール及びエタノール等の水性溶媒の少なくとも1つから選択される。最も好ましくは、溶媒は、水性溶媒である。更により好ましくは、溶媒は、水である。
【0037】
好ましくは、溶媒中の塩(S)の含有量は、溶媒及び塩(S)の総重量に基づいて0.5~10重量%、好ましくは1~5重量%の範囲である。
【0038】
塩(S)がリチウム塩であるいくつかの実施形態では、溶媒中のリチウム塩の濃度は、少なくとも0.25当量、0.5当量、0.8当量、1当量、1.5当量、2当量、2.5当量、3当量、4当量のリチウムを酸基に対して提供する。いくつかの実施形態では、溶媒中のリチウム塩の濃度は、最大で5当量、好ましくは最大で4当量のリチウムを酸基に対して提供する。
【0039】
前記実施形態によれば、ポリマー(P)は、少なくとも1つのα,β-エチレン性不飽和カルボン酸モノマーのリチウム化形態に由来する繰返し単位を含む。
【0040】
中和後の溶液中のポリマー(P)の含有量は、溶媒及びポリマー(P)の総重量に基づいて0.5~40重量%、好ましくは2~30重量%、より好ましくは4~20重量%の範囲である。
【0041】
好ましい実施形態では、ポリマー(P)のリチウム塩、すなわちポリマー(P-Li)は、約10重量%のポリマー(P-H)を含有する水溶液を少なくとも部分的に完全に中和するためにある量のLiOHを添加することによって調製された。得られた溶液は、6.5~9の範囲、好ましくは7~8の範囲のpHを有し、約10重量%のポリマー(P-Li)を含有していた。
【0042】
中和されたポリマー溶液は、中和されたポリマーが増加した粘度を示すため、スラリーの処理及び分散能力で利点を有する。更に、ポリマー(P-Li)は、7より高いpHを有するスラリーで処理した場合、通常、より良好な性能を示すリチウム化ケイ素型とより適合するpHを有する。
【0043】
本発明の一実施形態によれば、ポリマー(P)は、少なくとも1つのモノマー(M1)を含み、このモノマー(M1)は、上記で定義された少なくとも1つの窒素原子を有する不飽和複素環基を有するエチレン性不飽和モノマーである。
【0044】
式(III)のモノマー(M1)における「少なくとも1つの窒素原子を有する不飽和複素環基」は、好ましくは、少なくとも1つのNを環中に有する5~6員芳香族環式基、例えば、
【化5】
(式中、*は、結合Aの結合点を表す)
を含む。
【0045】
結合A及び残基R2は、任意の位置において炭素原子又は窒素原子のいずれかで複素環基に結合し得る。
【0046】
モノマー(M1)は、例えば、
- 式(IIIa)のビニルイミダゾール(VIm):
【化6】
- 式(IIIb)の2-メチル-1-ビニルイミダゾール
【化7】
- 式(IIIc)の1-ビニル-1,2,4-トリアゾール
【化8】
- 式(IIId)の2-ビニルピラジン
【化9】
- 式(IIIe)の4-ビニルピリジン
【化10】
- 式(IIIf)の2-ビニルピリジン
【化11】
- 式(IIIg)のヒドロキシル-(メタ)アクリレートイミダゾール誘導体
【化12】
であり得る。
【0047】
式(III)における二価スペーサ基Aは、典型的には、基-CO-NH-(CH
2)
n-、-CO-O-(CH
2)
n又は-CO-O-(CH
2)
n-O-CO-であり得るが、例えば式(III-X):
【化13】
(式中、R
6、R
8及びR
9は、上記で定義された通りである)
化合物と、式(III-Y):
【化14】
(式中、R
2は、上記で定義された通りであり、A
1及びA
2は、共有結合を形成するために一緒に反応する2つの基である)
の化合物との反応から生じる任意の他の共有リンカー基が考えられ得る。
【0048】
例えば、A2は、-(CH2)m-NH2基であり得、式中、mは、1~4、好ましくは2又は3である。その場合、A1は、例えば、カルボン酸、酸塩化物、酸無水物又はエポキシであり得る。
【0049】
別の変形形態によれば、A2は、-(CH2)m-OH基であり得、式中、mは、1~4、好ましくは2又は3である。その場合、A1は、例えば、カルボン酸、酸塩化物、無水物又はエステルであり得る。
【0050】
この実施形態によれば、ポリマー(P)は、モノマー(AA)、(AM)及び少なくとも1つのモノマー(M1)を共重合してポリマー(P-H)を得ることによって得られる、すなわちこのような重合によって得られる構造を有するポリマーであり、続いてモノマー(AA)に由来する繰返し単位の酸基を中和するが、ポリマー(P)は、必ずしもこのプロセスによって得られるわけではない。代替形態として、ポリマー(P-H)は、例えば、モノマー(AA)、モノマー(AM)及び式(III-X)の化合物を共重合させ、ポリマー(P0)をもたらす第1の工程(E1)及び次いで化合物(III-Y)との反応によるポリマー(P0)の後グラフト化の第2の工程(E2)によって得ることができる。
【0051】
工程(E2)で使用される化合物(III-Y)中のA2が-(CH2)m-NH2基である場合、工程(E1)で使用される化合物(III-X)は、有利には、追加のアクリル酸若しくはメタクリル酸又はそれらのエステル、無水マレイン酸、ビニルベンジルクロリド、グリシジルメタクリレート及び(ブロック)イソシアナトエチルメタクリレートから選択され得る。
【0052】
工程(E2)で使用される化合物(III-Y)中のA2が-(CH2)m-OH基である場合、工程(E1)で使用される化合物(III-X)は、有利には、追加のアクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸又はそれらのエステルから選択され得る。
【0053】
加えて、ポリマー(P-H)のイミダゾール官能基の全て又は一部の第四級化が起こり、モノマーの全て若しくは一部の第四級化及び/又はポリマーのイミダゾール官能基の全て若しくは一部の後の第四級化から生じ得る。
【0054】
本発明の別の実施形態によれば、ポリマー(P)は、上記で定義されたような式(IV)の少なくとも1つのモノマー(M2)を含む。
【0055】
モノマー(M2)の残基Rxにおける「複素環基」としては、イミダゾリジノン等の少なくとも1つの窒素原子化合物を有する飽和複素環基が挙げられる。
【0056】
式(IV)中のBが-C(O)-O-基である第1の変形形態によれば、モノマー(M2)は、例えば、式(IVa)の化合物
【化15】
式(IVb)の化合物
【化16】
又は式(IVc)の化合物
【化17】
であり得、式(IVa)~(IVc)中、R
i、R
ii及びR
iiiは、上記で定義された通りであり、nは、1~40の整数である。
【0057】
式(IV)中のBが-C(O)-NH-基である第2の変形形態によれば、モノマー(M2)は、例えば、式(IVd)の化合物
【化18】
又は式(IVe)の化合物
【化19】
であり得、式(IVd)及び(IVe)中、R
i、R
ii及びR
iiiは、上記で定義された通りである。
【0058】
この実施形態によれば、ポリマー(P)は、モノマー(AA)、(AM)及び少なくとも1つのモノマー(M2)を共重合してポリマー(P-H)を得ることによって得られる、すなわちこのような重合によって得られる構造を有するポリマーであり、続いてモノマー(AA)に由来する繰返し単位の酸基を中和するが、ポリマー(P-H)は、必ずしもこのプロセスによって得られるわけではない。
【0059】
別の実施形態によれば、ポリマー(P)は、上記で定義されたような1つ以上の更なるモノマー(M3)を含み得る。
【0060】
有利には、ポリマー(P)中のモノマー(M3)のモル比率は、5モル%未満である。
【0061】
少なくとも1つのポリマー(P)は、1モル%未満の、少なくとも2つのエチレン性不飽和を含む1つ以上の更なる架橋性モノマー(XL-M)を更に含み得る。
【0062】
追加のモノマー(XL-M)がポリマー(P)中に存在するこの実施形態では、前記架橋性モノマーは、N,N’-メチレンビスアクリルアミド(MBA)、N,N’-エチレンビスアクリルアミド、ポリエチレングリコール(PEG)ジアクリレート、トリアクリレート、ジビニルエーテル、典型的には三官能性ジビニルエーテル、例えばトリ(エチレングリコール)ジビニルエーテル(TEGDE)、N-ジアリルアミン、N,N-ジアリル-N-アルキルアミン、それらの酸付加塩及びそれらの第四級化生成物(ここで使用されるアルキルは、優先的には(C1~C3)アルキルである)、N,N-ジアリル-N-メチルアミンの及びN,N-ジアリル-N,N-ジメチルアンモニウムの化合物、例えばクロリド及びブロミド又は代替的にエトキシル化トリメチロールプロパントリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート(DiTMPTTA)、ジビニルベンゼン(DVB)、エトキシル化若しくはプロポキシル化ビスフェノールAジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート(DPGDA)、トリプロピレングリコールジアクリレート(TPGDA)、プロポキシル化ジ(メタ)アクリレート、ブチロキシル化ジ(メタ)アクリレート、ジメチルアクリルアミド、1,4-ブタンジオールジメタクリレート(BDDMA)、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート(HDDMA)、1,3-ブチレングリコールジメタクリレート(BGDMA)並びにそれらの誘導体から選択され得る。
【0063】
モノマー(XL-M)のモル単位での割合は、ゲル形成及び粘度増加を回避するために、ポリマー(P)中に存在するモノマーの全モルの1モル%を超えることができない。有利には、モノマー(XL-M)のモル比は、0.5モル%未満である。
【0064】
前記実施形態によれば、モノマー(XL-M)を更に含む重合工程を含むプロセスによって得られたポリマー(P)は、少なくとも部分的に架橋される。
【0065】
本発明の1つの好ましい実施形態では、ポリマー(P)中にモノマー(M3)又は(XL-M)が存在せず、これは、ポリマー(P-H)が、
- 上記で定義されたような少なくとも1つの[モノマー(AA)]、
- 上記で定義されたような少なくとも1つの[モノマー(AM)]、及び
- モノマー(M1)及びモノマー(M2)から選択される少なくともモノマー(M)
から本質的になる、とりわけそれらからなる混合物をラジカル共重合して、ポリマー(P-H)を提供し、続いてモノマー(AA)に由来する繰返し単位の酸基を中和することによって得られることを意味する。
【0066】
典型的には、ポリマー(P)は、
- 少なくとも1つのモノマー(AA)、
- 少なくとも1つのモノマー(AM)、
- モノマー(M1)、モノマー(M2)及びモノマー(M3)から選択される少なくともモノマー(M)、及び
- 任意選択的に少なくとも1つのモノマー(XL-M)
の混合物の、フリーラジカル源の存在下でのラジカル共重合、続いてモノマー(AA)に由来する繰返し単位の酸基を中和によって得られる。
【0067】
任意のフリーラジカル源を使用することができる。スチレン等の適切なモノマーを用いて、例えば温度を上げることにより、自然発生的にフリーラジカルを発生させることが特に可能である。好ましくは適切なUV感受性の開始剤の存在下で照射、特にUV照射によってフリーラジカルを発生させることが可能である。ラジカル又はレドックス型の開始剤又は開始剤系を使用することが可能である。フリーラジカル源は、水溶性であっても又はなくてもよい。水溶性開始剤又は少なくとも部分的に水溶性の開始剤を使用することが好ましいことがある。
【0068】
一般に、フリーラジカルの量が多いほど、重合がより容易に開始される(それが促進される)が、得られるコポリマーのモル質量がより低くなる。以下の開始剤:
- 過酸化物、例えば、過酸化水素、tert-ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、t-ブチルペルオキシアセテート、t-ブチルペルオキシベンゾエート、t-ブチルペルオキシオクトエート、t-ブチルペルオキシネオデカノエート、t-ブチルペルオキシイソブチレート、ラウロイルペルオキシド、t-アミルペルオキシピバレート、tブチルペルオキシピバレート、ジクミルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム又は過硫酸アンモニウム、
- アゾ化合物、例えば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-ブタンニトリル)、4,4’-アゾビス(4-ペンタン酸)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2-(t-ブチルアゾ)-2-シアノプロパン、2,2’-アゾビス{2-メチル-N-[1,1-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’-アゾビス(N,N’-ジメチレンイソブチルアミジン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス(N,N’-ジメチレンイソブチルアミド)、2,2’-アゾビス{2-メチル-N-[1,1-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’-アゾビス{2-メチル-N-[1,1-ビス(ヒドロキシメチル)エチル]プロピオンアミド}、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]又は2,2’-アゾビス(イソブチルアミド)二水和物、
- レドックス系であって、例えば、過酸化水素、アルキルペルオキシド、パーエステル、パーカルボネート、過硫酸塩等、及び任意の鉄塩、チタン塩、亜鉛ホルムアルデヒドスルホキシレート又はナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレートの還元糖との混合物の組合せを含むレドックス系、
- メタ重亜硫酸ナトリウム等のアルカリ金属重亜硫酸塩及び還元糖と組み合わせた、アルカリ金属又はアンモニウムパースルフェート、パーボレート又はパークロレート、及び
- ベンゼンホスホン酸等のアリールホスフィン酸及び同様の性質の他のもの及び還元糖と組み合わせたアルカリ金属パースルフェート
が特に使用され得る。
【0069】
重合温度は、特に25℃~95℃であり得る。温度は、フリーラジカル源に依存し得る。それがUV開始剤型源ではない場合、50℃~95℃、より好ましくは60℃~80℃で操作することが好ましいであろう。一般に、温度が高いほど、より容易に重合が開始される(それが促進される)が、得られるコポリマーのモル質量がより低くなる。
【0070】
本発明の好ましい実施形態によれば、モノマー(AA)に由来する繰返し単位と、モノマー(AM)に由来する繰返し単位と、モノマー(M)に由来する繰返し単位とを含むポリマーを得るために、フリーラジカル源の存在下で1つのモノマー(AA)、1つのモノマー(AM)及び1つのモノマー(M)をラジカル重合することにより、ポリマー(P-H)が得られる。
【0071】
ポリマー(P-H)は、任意の制御ラジカル重合技法によって調製することもできる。これらの中でも、キサンテート(MADIX)の相互交換による可逆的付加-断片化連鎖移動(RAFT)及び高分子設計を挙げることができる。
【0072】
RAFT又はMADIX制御ラジカル重合剤(以下では「RAFT/MADIX剤」と呼ばれる)の使用は、例えば、国際公開第98/058974A号パンフレット(RHODIA CHIMIE)、1998年12月30日及び国際公開第98/01478A号パンフレット(E.I.DUPONT DE NEMOURS AND COMMONWEALTH SCIENTIFIC AND INDUSTRIAL RESEARCH ORGANIZATION)、1998年1月15日に開示されている。
【0073】
好ましくは、ポリマー(P-H)は、モノマー(AA)、モノマー(AM)及びモノマー(M)の総量に基づいて以下のモル比を有する混合物のラジカル共重合によって得られる。
- モノマー(AA):5~95%、特に5~50%、好ましくは20~40%、
- モノマー(AM):25~90%、好ましくは25~90%、より好ましくは60~80%、
- モノマー(M):0.1~50%、例えば1~30%、特に1~20%、更に2~15%。
【0074】
結果として、ポリマー(P)は、好ましくは、
- 5~95%、特に5~50%、好ましくは20~40%の、中和形態のモノマー(AA)に由来する繰返し単位、
- 25~90%、好ましくは25~90%、より好ましくは50~80%の、モノマー(AM)に由来する繰返し単位、及び
- 0.1~50%、例えば1~30%、特に1~20%、更に2~15%の、モノマー(M)に由来する繰返し単位
を含み、前述のモル%の全ては、ポリマー(P)の繰返し単位の総モルを基準とする。
【0075】
更に、本発明によるポリマー(P)は、約500kDa~10000kDaの重量平均分子量を有する。
【0076】
好ましい実施形態によれば、ポリマー(P)は、約500kDa~10000kDaの重量平均分子量を有する統計的(ランダム)コポリマーであり、モノマー(AA)、モノマー(AM)及びモノマー(M)の混合物のラジカル重合により、好ましくは、
- 約20~40%のモノマー(AA)、
- 約50~80%のモノマー(AM)、及び
- 約2~15%のモノマー(M)
のモル比によって得られる。
【0077】
本発明の一実施形態によれば、ポリマー(P)は、RAFT/MADIX剤を使用した制御ラジカル重合によって得られるブロックコポリマーである。
【0078】
本明細書で使用される「ブロックコポリマー」とは、ジブロック、トリブロック又はマルチブロックであり得る真のブロックポリマーを含むが、これらに限定されない任意の制御された構造コポリマーを意図し、直鎖スターポリマー、櫛及びグラジエントポリマーとしても知られる。グラジエントポリマーは、ポリマー鎖に沿って組成が徐々に変化する直鎖ポリマーであり、ランダムな構造からブロック状の構造まで及ぶ可能性がある。ブロックコポリマーの各ブロックは、それ自体、ホモポリマー、ランダムコポリマー、ランダムターポリマー又はグラジエントポリマーであり得る。
【0079】
より好ましい実施形態によれば、ポリマー(P)は、アクリル酸、アクリルアミド及び式(IIIa)のビニルイミダゾールのラジカル重合後、モノマー(AA)に由来する繰返し単位の酸基を好ましくはLiOHで中和することによって得られる。
【0080】
電極形成組成物[組成物(Comp)]
本発明の電極形成組成物[組成物(Comp)]は、1つ以上の電極活物質を含む。本発明の目的のために、用語「電極活物質」は、電気化学デバイスの充電段階及び放電段階中にアルカリ若しくはアルカリ土類金属イオンをその構造中に組み入れるか又は挿入し、且つそれから実質的に放出することができる化合物を意味することを意図する。電極活物質は、好ましくは、リチウムイオンを組み入れるか又は挿入し、且つ放出することができる。
【0081】
本発明の電極形成組成物(Comp)における電極活物質の性質は、前記組成物が負極(アノード)又は正極(カソード)の製造に使用されるかどうかによって異なる。
【0082】
リチウムイオン二次電池のための正極を形成する場合、電極活物質は、式LiMQ2(式中、Mは、Co、Ni、Fe、Mn、Cr及びV等の遷移金属から選択される少なくとも1つの金属であり、Qは、O又はS等のカルコゲンである)の複合金属カルコゲナイドを含むことができる。これらの中でも、式LiMO2(式中、Mは、上記で定義されたものと同じものである)のリチウム系複合金属酸化物を使用することが好ましい。これらの好ましい例としては、LiCoO2、LiNiO2、LiNixCo1-xO2(0<x<1)及びスピネル構造化LiMn2O4を挙げることができる。
【0083】
代替形態として、リチウムイオン二次電池のための正極を形成する場合には更に、電極活物質は、式M1M2(JO4)fE1-f(式中、M1は、リチウムであり、M1金属の20%未満に対応する別のアルカリ金属によって部分的に置換され得、M2は、Fe、Mn、Ni又はこれらの混合物から選択される+2の酸化レベルの遷移金属であり、0を含めてM2金属の35%未満に対応する、+1~+5の酸化レベルの1つ以上の更なる金属によって部分的に置換され得、JO4は、任意のオキシアニオンであり、Jは、P、S、V、Si、Nb、Mo又はこれらの組合せのいずれかであり、Eは、フルオリド、ヒドロキシド又はクロリドアニオンであり、fは、通常、0.75~1に含まれるJO4オキシアニオンのモル分率である)のリチウム化又は部分的にリチウム化された遷移金属オキシアニオン系電気活物質を含み得る。
【0084】
上記に定義されているようなM1M2(JO4)fE1-f電気活物質は、好ましくは、ホスフェートをベースとし、秩序立った又は修飾されたカンラン石構造を有し得る。
【0085】
より好ましくは、正極を形成する場合の電極活物質は、式Li3-xM’yM’’2-y(JO4)3(式中、0≦x≦3であり、0≦y≦2であり、M’及びM’’は、同じ又は異なる金属であり、それらの少なくとも1つは、遷移金属であり、JO4は、好ましくは、別のオキシアニオンで部分的に置換され得るPO4であり、Jは、S、V、Si、Nb、Mo又はそれらの組合せのいずれかである)を有する。更により好ましくは、電極活物質は、式Li(FexMn1-x)PO4(式中、0≦x≦1であり、xは、好ましくは、1である)のホスフェート系の電気活物質(すなわち式LiFePO4のリチウム鉄ホスフェート)である。
【0086】
リチウムイオン二次電池のための負極を形成する場合、電極活物質は、好ましくは、1つ以上の炭素系材料及び/又は1つ以上のケイ素系材料を含み得る。
【0087】
いくつかの実施形態では、炭素系材料は、天然若しくは人工グラファイト等のグラファイト、グラフェン又はカーボンブラックから選択され得る。これらの材料は、単独で又はその2つ以上の混合物として使用され得る。
【0088】
炭素系材料は、好ましくは、グラファイトである。
【0089】
ケイ素系化合物は、クロロシラン、アルコキシシラン、アミノシラン、フルオロアルキルシラン、ケイ素、塩化ケイ素、炭化ケイ素、酸化ケイ素及びリチウム化ケイ素からなる群から選択される1つ以上であり得る。
【0090】
より特定すると、ケイ素系化合物は、酸化ケイ素又は炭化ケイ素であり得る。
【0091】
電極活物質中に存在する場合、ケイ素系化合物は、電気活性化合物の総重量に対して1~70重量%、好ましくは5~30重量%の範囲の量で含まれる。
【0092】
1つ以上の任意選択的な導電性付与添加剤は、本発明の組成物から作られる結果として生じる電極の導電性を改善するために添加され得る。電池のための導電剤は、当技術分野で公知である。
【0093】
その例としては、カーボンブラック、グラファイト微粉末、カーボンナノチューブ、グラフェン若しくは繊維等の炭素系材料又はニッケル若しくはアルミニウム等の金属の微粉末若しくは繊維が挙げられ得る。任意選択的な導電剤は、好ましくは、カーボンブラックである。カーボンブラックは、例えば、ブランド名、Super P(登録商標)又はKetjenblack(登録商標)で入手可能である。
【0094】
存在する場合、導電剤は、上記に記載した炭素系材料と異なる。
【0095】
任意選択的な導電剤の量は、好ましくは、電極形成組成物中の総固形分の0~30重量%である。特に、カソード形成組成物について、任意選択的な導電剤は、典型的には、組成物内の固形分の総量の0重量%~10重量%、より好ましくは0重量%~5重量%である。
【0096】
ケイ素系電気活性化合物を含まないアノード形成組成物について、任意選択的な導電剤は、典型的には、組成物内の固形分の総量の0重量%~5重量%、より好ましくは0重量%~2重量%である一方、ケイ素系電気活性化合物を含むアノード形成組成物について、より多い量の、典型的には組成物内の固形分の総量の0.5~30重量%の任意選択的な導電剤を導入することが有益であることが分かった。
【0097】
ポリマー(P)によって示される驚くべき優れた分散能力は、非常に高い分子量にも関わらず、ポリマー(P)を、優れたレオロジープロファイルを有する電極形成組成物の調製における結合剤としての使用、したがってレオロジー調整剤を使用せずに2日間にわたって沈降を伴わない安定なスラリーへの使用に適したものにする。
【0098】
電極形成組成物(Comp)に使用され得るポリマー(P)の量は、様々な要因に左右される。1つのそのような要因は、活物質の表面積及び量並びに電極形成組成物に添加される導電性付与添加剤の表面積及び量である。これらの要因は、ポリマー粒子が導電材料粒子と導電性材料粒子との間に架橋を提供し、それらを接触させ続けるため、重要であると考えられる。
【0099】
組成物(Comp)はCMC等のレオロジー調整剤を含まず、ポリマー(P)の優れた分散性により、電極形成組成物中のポリマー(P)の量を増加させることができる。
【0100】
組成物(Comp)中のポリマー(P)の量は、適切には、組成物中の固形物の総量の約2~10%、好ましくは約3~5%である。
【0101】
したがって、ポリマー(P)の高い分散能力は、より高い結合剤含有量を有する組成物を得ることを可能にし、より高い効率、より高い生産性及びより高い電池エネルギーが得られる点で利点を有する。
【0102】
本発明の電極形成組成物[組成物(Comp)]は、ポリマー(P)の優れた分散能力のため、CMC等のレオロジー調整剤の非存在下で自明ではない増加した全固形分(TSC)を有する組成物を得ることを可能にする。
【0103】
本発明の組成物(Comp)の全固形分(TSC)は、組成物の(Comp)総重量に対して典型的には40重量%超、好ましくは40~70重量%である。組成物(Comp)の全固形分は、特にポリマー(P)、電極活物質及び任意の固体の不揮発性追加添加剤を含むその全ての不揮発性成分の累積であると理解される。
【0104】
組成物(Comp)は、当業者に公知の任意の方法に従って調製され得る。
【0105】
一実施形態では、本発明の電極形成組成物(Comp)は、以下の工程を含むプロセスによって調製され得る。
- 工程1:粉末湿潤、粉末(電極活物質、導電性付与添加剤)を10秒にわたって遠心ミキサ内でポリマー(P)と予備混合して、粉末の濡れを達成する。
- 工程2:均質化、工程1で得られた湿潤粉末を10秒にわたって遠心ミキサ内で均質化して、少なくとも40%の最終全固形分含有量を有するスラリーを得て、目標粘度(10s-1で目標範囲2000~8000cP)を達成する。
- 工程3:スラリー混合、工程2で得られたスラリーを分散機中で撹拌する。
【0106】
ポリマー(P)の水溶液を別々に調製し、続いて電極活物質と、任意選択的な導電性材料及び他の添加剤とを組み合わせて組成物(Comp)を調製する場合、安定な溶液を形成するのに十分な量の水が使用される。使用される水の量は、安定した溶液を形成するために必要な最小量から、電極活物質、任意選択的な導電性材料及び他の固体添加剤が添加された後に電極混合物中で望まれる総固形分を達成するために必要な量までの範囲であり得る。
【0107】
電極(E)
本発明の電極形成組成物(Comp)は、電極[電極(E)]の製造プロセスで使用することができ、前記プロセスは、
(i)少なくとも1つの表面を有する金属基材を提供すること、
(ii)上記で定義された電極形成組成物[組成物(Comp)]を提供すること、
(iii)工程(ii)で提供された組成物(Comp)を、工程(i)で提供された金属基材の少なくとも1つの表面に適用し、それにより少なくとも1つの表面上への前記組成物(Comp)でコーティングされた金属基材を含む組立体を提供すること、
(iv)工程(iii)で提供された組立体を乾燥させること、
(v)工程(iv)で得られた乾燥された組立体を圧縮工程に供して、本発明の電極(E)を得ること
を含む。
【0108】
金属基材は、一般に、銅、アルミニウム、鉄、ステンレス鋼、ニッケル、チタン又は銀等の金属でできた箔、メッシュ又はネットである。
【0109】
本発明のプロセスの工程(iii)下では、電極形成組成物(Comp)は、典型的には、キャスティング、印刷及びロールコーティング等の任意の好適な手順によって金属基材の少なくとも1つの表面上に適用される。
【0110】
任意選択的に、工程(iii)は、工程(ii)で提供される電極形成組成物(Comp)を、工程(iv)で提供される組立体上に適用することにより、典型的には1回以上繰り返され得る。
【0111】
本発明のプロセスの工程(iv)下では、乾燥は、大気圧下又は真空下のいずれかで行われ得る。代わりに、乾燥は、例えば、典型的には特に水分が除かれた(0.001%v/v未満の水蒸気含有量)不活性ガス下等の改変された雰囲気下で行うことができる。
【0112】
乾燥温度は、本発明の電極(E)からの水性媒体の蒸発による除去を達成するように選択されるであろう。
【0113】
工程(v)では、工程(iv)で得られた乾燥された組立体をカレンダー加工プロセス等の圧縮工程に供して、本発明の電極(E)の目標空隙率及び密度を達成することができる。
【0114】
好ましくは、工程(iv)で得られた乾燥された組立体は、ホットプレスされ、圧縮工程中の温度は、25℃~130℃に含まれ、好ましくは約60℃である。
【0115】
電極(E)の好ましい目標の密度は、1.4~2g/cc、好ましくは少なくとも1.55g/ccに含まれる。電極(E)の密度は、電極の構成要素の密度に電極配合物中のそれらの質量比を掛けた積の合計として算出される。
【0116】
更なる態様では、本発明は、本発明のプロセスによって得ることができる電極[電極(E)]に関する。
【0117】
したがって、本発明は、
- 少なくとも1つの表面を有する金属基材と、
- 前記金属基材の少なくとも1つの表面上に直接接着され、
a)少なくとも1つのポリマー(P)と、
b)電極活物質と、
c)水性溶媒と、
d)任意選択的に、少なくとも1つの導電性付与添加剤と
を含む、好ましくはそれからなる少なくとも1つの層と
を含む電極(E)に関する。
【0118】
前記金属基材の少なくとも1つの表面上に直接接着された組成物は、電極の製造プロセス中、例えば工程(iv)(乾燥)及び/又は圧縮工程(v)において、水性溶媒が少なくとも部分的に除去されている本発明の電極形成組成物(Comp)に対応する。したがって、本発明の電極形成組成物(Comp)に関して記載される好ましい実施形態の全ては、製造プロセス中に除去される水性媒体を除いて、本発明の電極において前記金属基材の少なくとも1つの表面上に直接接着された組成物にも適用され得る。
【0119】
本発明の好ましい実施形態では、電極(E)は、負極である。より好ましくは、負極は、ケイ素系電極活物質を含む。
【0120】
更に好ましい実施形態では、本発明は、電極の総重量に基づいて、
- 0.5~15重量%、好ましくは0.5~10重量%のポリマー(P)と、
- 45~95重量%、好ましくは70~90重量%の炭素系材料と、
- 3~50重量%、好ましくは10~50重量%のケイ素系材料%と、
- 0~5重量%、好ましくは0.5~2.5重量%、より好ましくは約1重量%の導電性付与添加剤と
を含む負極に関する。
【0121】
本出願人は、驚くべきことに、本発明による電極が良好な機械的特性及び優れたサイクル安定性を備えていることを見出した。
【0122】
これに加えて、本発明のポリマー(P)を含む結合剤は、SBR/CMC結合剤と比較して集電体に対してより高い接着性を示すだけでなく、ポリマー(P)及びCMC等のレオロジー調整剤を含む結合剤及び塩化PAAに対してもより高い接着性を示す。
【0123】
本発明の電極(E)は、したがって、電気化学デバイス、特に二次電池での使用に特に好適である。
【0124】
本発明の二次電池は、好ましくは、アルカリ二次電池又はアルカリ土類二次電池である。
【0125】
本発明の二次電池は、より好ましくは、リチウムイオン二次電池である。
【0126】
本発明による電気化学デバイスは、当業者に公知の標準的な方法によって調製することができる。
【0127】
参照により本明細書に組み込まれる任意の特許、特許出願及び刊行物の開示がある用語を不明確にし得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合、本記載が優先するものとする。
【0128】
ここで、本発明を以下の実施例に関連して説明するが、その目的は、単に例示的なものであるにすぎず、本発明の範囲を限定することを意図しない。
【実施例】
【0129】
原材料
AA:Aldrichから入手可能なアクリル酸、
AM:SNFから入手可能なアクリルアミドモノマー(50%水溶液)、
VIm:Aldrichから入手可能なビニルイミダゾールモノマー、
移動剤:SolvayからRhodixan A1として入手可能なMADIX型移動剤のエタノール中の新鮮に調製された1重量%溶液、
VWRから入手可能な粉末形態の過硫酸ナトリウム(10重量%水溶液を重合実験の直前に調製した)、
Aldrichから入手可能な粉末形態のナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(10重量%の水溶液を重合実験の直前に調製した)、
Aldrichから粉末形態で入手可能なV-50開始剤):(2,2’-アゾビス(2-メチル-プロピオンアミジン)二塩酸塩)(10重量%の水溶液を重合実験の直前に調製した)、
Sigma-Aldrichから入手可能な水酸化リチウム一水和物(純度98%)、
信越化学工業株式会社から入手可能な比容量2100mAh/gの化学ドープKSC-7144SiOx、
Imerys S.A.からのグラファイト、ACTILION GHDR、
Imerys S.AからSC45として入手可能なカーボンブラック(CB)、
日本製紙株式会社からMAC 500LCとして入手可能なカルボキシメチルセルロース(CMC)、
Solvionicからの、2重量%のVCと10重量%のF1ECとを含むEC/DMC 1/1v/v中に1MのLiPF6が入っている電解質混合物。
厚さ10umのHohsenからのC1020R-H銅箔
Zeonから市販されているSBR BM480B
【0130】
ポリマー(P-1H)の合成手順
合成プロセスは、周囲(Thermos様フラスコ)との熱交換を最小限に抑えるために、熱的に隔離された反応器内で行った。反応器には、小さい還流システム、機械的撹拌システム、窒素パージライン及び原料供給ラインが設置された複数の入口を含む蓋が装備されていた。第1の工程では、全てのモノマー、溶媒(水)及び移動剤を反応器に装入し、室温で約1時間、撹拌及び窒素パージ下に維持した。次いで、レドックス型開始剤を反応混合物に添加した。熱開始剤も同時に反応混合物に添加した。開始剤を機械的に撹拌しながら反応混合物中で数分間均質化し、次いで撹拌及び窒素パージを停止した。
【0131】
発熱効果として、室温から約80~90℃までの反応混合物温度の上昇が約30分~1時間以内に得られた。次いで、反応混合物を反応フラスコ内で更に24時間維持した。このようにして、ポリマー(P)の水溶液を得た。
【0132】
ポリマー(P-1H)、(P-2H)及び(P-3H)合成に使用した試薬の挿入量を表1に示す。
【0133】
【0134】
得られたポリマーのMw、固形分及び残留モノマーを表2に示す。
【0135】
【0136】
リチウム化ポリマー(P)の水溶液の調製手順
上記のようにして得られたポリマー(P-1H)、(P-2H)及び(P-3H)水溶液を、pH7.5になるまで、Mettler Toledo製の滴定装置T5を使用してLiOH水溶液(水中のLiOHの4.25重量%)で滴定した。7.5又は5重量%の水中の最終リチウム化P-1、P-2及びP-3ポリマー濃度の溶液を調製した。
【0137】
リチウム化ポリマー(P)のレオロジー及び分散能力の評価
ポリマーP-1の分散能力の評価は、CB及びポリマーP-1を含む水性配合物を使用して、同じ粘度を有し、CB単独、CBとCMC並びにCBとCMC及びポリマーP-1を含む水性配合物と比較して行った。
【0138】
水性配合物を2000rpmのシーケンスで10分間、周囲混合(Thinky ARE250)にかけた。カーボンブラックの分散状態を光学顕微鏡によって評価した。結果を以下の表3に記載する。
【0139】
【0140】
【0141】
結果は、本発明のポリマー分散剤のみを含む配合物が、CMCも含む配合物よりも良好なカーボンブラックの分散を有し、CMCのみを含む配合物と比較してはるかに良好な分散を有することを示す。
【0142】
配合物2を調製するために使用されたポリマーP-1(0.67重量%)及びCMC(2.6重量%)を含む水性配合物のレオロジーは、明確な低剪断プラトー粘度を有する剪断減粘性流体のレオロジーであった。
【0143】
本出願人は、4.1重量%のP-1のみを使用することにより、同様の粘度を有する水性配合物を得ることができることを実証した。
【0144】
0.1s-1の剪断速度で得られた低剪断粘度を表4に示す。
【0145】
【0146】
したがって、本発明によるポリマー分散剤の使用は、結合剤自体のレオロジーに影響を及ぼすことなく、より多量の結合剤を含む配合物の使用を可能にする。
【0147】
ゼータ電位特性評価
本発明のCB、CB/CMC及びCB/ポリマー分散剤の非常に希薄な懸濁液に対してゼータ電位測定を行った。
【0148】
ポリマー分散剤溶液を0.01重量%に希釈し、48時間撹拌したままにした。次いで、カーボンブラックを添加し(0.01重量%)、超音波浴によって30分間分散させた。結果を表5に示す。
【0149】
【0150】
CBによる懸濁は、粒子の凝集及び急速な沈降のみを示すため、CB粒子の静電反発は、このpHで安定に保つには不十分である。
【0151】
CMC又はポリマー分散剤をCBに添加すると、ゼータ電位値が著しく高くなり、CBとポリマーとの組合せから大きい静電反発が生じ、良好な分散をもたらすことを示唆している。
【0152】
CBを有する非塩化ポリマーの場合、ZPは、CBのみのものに近い。CBを有する非塩化ポリマーの顕微鏡観察は、大きい凝集体を示し、すなわち、非塩化ポリマーの分散能力は、低く、より低いZP値と一致する。
【0153】
対照的に、CBを有する本発明のリチウム化ポリマー分散剤は、50~60mVの範囲又はそれを超える高いZPを与える。
【0154】
電極形成組成物及び負極の調製
電極形成組成物及び負極を、以下の装置を用いて下記に詳述するように調製した。
【0155】
機械式ミキサ:傾斜インペラを備えたDispermat(登録商標)シリーズの遊星ミキサ(Speedmixer)及び高剪断機械ミキサ。
【0156】
フィルムコーター/ドクターブレード:Elcometer(登録商標)4340モータ付き/Zehntner ZUA2000。
【0157】
真空オーブン:真空によるBINDER VD 23及びロールプレス:精密4インチホットローリングプレス/100℃までカレンダー処理。
【0158】
実施例1 - ターポリマーアノード5%結合剤
7.5重量%のリチウム化P-1水溶液28.0g、カーボンブラック0.42g、酸化ケイ素7.89g、グラファイト31.58g及び脱イオン水32.1gを混合することにより、水性組成物を調製した。混合物を遊星ミキサで20分間穏やかに撹拌することにより均質化し、次いで1時間穏やかに撹拌することにより再度混合した。1時間後、剪断力を低下させ、スラリーをゆっくりと撹拌することによって再度混合した。
【0159】
このようにして得た組成物を、ドクターブレードを用いて厚さ10μmの銅箔上にキャストし、コーティング層を90℃の温度において約70分間オーブン中で乾燥させることにより、負極を得た。乾燥したコーティング層の厚さは、約72μmであった。次いで、電極をロールプレスで60℃においてホットプレスすることで1.6g/ccの目標の密度を得た。得られた負極は、以下の組成を有していた。18.8重量%の酸化ケイ素、75.2重量%のグラファイト、5重量%のP-1及び1重量%のカーボンブラック。こうして、電極E1を得た。
【0160】
実施例2 - ターポリマーアノード4%結合剤
7.5重量%のリチウム化P-1水溶液24.0g、カーボンブラック0.45g、酸化ケイ素8.55g、グラファイト34.2g及び脱イオン水32.8gを混合することにより、水性組成物を調製した。混合物を遊星ミキサで20分間穏やかに撹拌することにより均質化し、次いで1時間穏やかに撹拌することにより再度混合した。1時間後、剪断力を低下させ、スラリーをゆっくりと撹拌することによって再度混合した。
【0161】
このようにして得た組成物を、ドクターブレードを用いて厚さ10μmの銅箔上にキャストし、コーティング層を90℃の温度において約70分間オーブン中で乾燥させることにより、負極を得た。乾燥したコーティング層の厚さは、約70μmであった。次いで、電極をロールプレスで60℃においてホットプレスすることで1.6g/ccの目標の密度を得た。得られた負極は、以下の組成を有していた。19重量%の酸化ケイ素、76重量%のグラファイト、4重量%のP-1及び1重量%のカーボンブラック。こうして、電極E2を得た。
【0162】
実施例3
ターポリマーアノード3%結合剤
5重量%のリチウム化P-1水溶液30.0g、カーボンブラック0.5g、酸化ケイ素9.6g、グラファイト38.4g及び脱イオン水21.5gを混合することにより、水性組成物を調製した。混合物を遊星ミキサで20分間穏やかに撹拌することにより均質化し、次いで1時間穏やかに撹拌することにより再度混合した。1時間後、剪断力を低下させ、スラリーをゆっくりと撹拌することによって再度混合した。
【0163】
このようにして得た組成物を、ドクターブレードを用いて厚さ10μmの銅箔上にキャストし、コーティング層を90℃の温度において約70分間オーブン中で乾燥させることにより、負極を得た。乾燥したコーティング層の厚さは、約68μmであった。次いで、電極をロールプレスで60℃においてホットプレスすることで1.6g/ccの目標の密度を得た。得られた負極は、以下の組成を有していた。19.2重量%の酸化ケイ素の%、76.8重量%のグラファイト、3重量%のP-1及び1重量%のカーボンブラック。こうして、電極E3を得た。
【0164】
比較例CE1:スチレンブタジエンゴム(SBR)及びカルボキシメチルセルロース(CMC)を含む負極
CMCの2重量%溶液29.0gと、カーボンブラック0.58gとを混合して、水性組成物を調製し、遊星ミキサで10分間中程度に撹拌した後、酸化ケイ素11.14g、グラファイト44.5g及び脱イオン水11.68gを添加した。混合物を遊星ミキサで10分間穏やかに撹拌することにより均質化し、次いで1時間穏やかに撹拌することにより再度混合した。約1時間混合した後、3.06gのSBR懸濁液を組成物に添加し、低撹拌で1時間再び混合した。
【0165】
このようにして得た組成物を、ドクターブレードを用いて厚さ10μmの銅箔上にキャストし、コーティング層を90℃の温度において約70分間オーブン中で乾燥させることにより、負極を得た。乾燥したコーティング層の厚さは、約69μmであった。次いで、電極をロールプレスで60℃においてホットプレスすることで1.6g/ccの目標の密度を得た。得られた負極は、以下の組成を有していた。19.2重量%の酸化ケイ素、76.8重量%のグラファイト、2重量%のSBR、1重量%のCMC及び1重量%のカーボンブラック。こうして、電極CE1を得た。
【0166】
比較例2 - ターポリマー及びCMCを含むターポリマーアノード5%結合剤
CMCの2重量%水溶液19.0g、カーボンブラック0.38g、酸化ケイ素7.14g、グラファイト28.58g及び脱イオン水24.6gを混合することによって水性組成物を調製した。遊星ミキサ中で10分間穏やかに撹拌した後、ポリマーP-1の水中7.5%固形分含有溶液20.27gを添加した。混合物を遊星ミキサで10分間穏やかに撹拌することにより均質化し、次いで1時間穏やかに撹拌することにより再度混合した。1時間後、剪断力を低下させ、スラリーをゆっくりと撹拌することによって再度混合した。
【0167】
このようにして得た組成物を、ドクターブレードを用いて厚さ10μmの銅箔上にキャストし、コーティング層を90℃の温度において約70分間オーブン中で乾燥させることにより、負極を得た。乾燥したコーティング層の厚さは、約74μmであった。次いで、電極をロールプレスで60℃においてホットプレスすることで1.6g/ccの目標の密度を得た。得られた負極は、以下の組成を有していた。18.8重量%の酸化ケイ素、75.2重量%のグラファイト、4重量%のP-1、1重量%のCMC及び1重量%のカーボンブラック。こうして、電極CE2を得た。
【0168】
接着試験
金属支持体上への電極組成物コーティングの接着を評価するために剥離試験を行った。試験は、25℃で300mm/分の速度で動作するASTM D903の手順に従い、上記のように調製した電極で実施した。結果を表6に示す。
【0169】
【0170】
表2のデータは、本発明によって得られた電極が集電体に対する満足な接着性を有することを示している。特に、E2及びCE2の接着を比較することにより、CMCの存在が接着にプラスの影響を及ぼさないことは、明らかである。
【0171】
電池の製造
E1、E2、E3及びCE1、CE2に従って作製した負極の小さいディスクを、CUSTOMCELLSから購入した平衡化したNMC正極ディスクと一緒に打ち抜くことにより、Arガス雰囲気下のグローブボックス内でコインセル(CR2032タイプ、直径20mm)を作製した。コインセルの作製に使用した電解質は、Solvionicの、2重量%のVCと10重量%のF1ECとを含むEC/DMC 1/1v/v中に1MのLiPF6が入っている混合物であった。ポリエチレンセパレータ(東燃化学合同会社より市販)は入手したものをそのまま使用した。
【0172】
容量維持率の試験
1CのCレートでのフルセルのサイクル安定性(開放容量を3回測定し、以下の表7に示す)。
【0173】
【0174】
表3の結果は、本発明による電極が、同量のポリマー(P)及びCMCを含む電極よりも良好なサイクル安定性を有することを示している。
【0175】
更に、本発明のポリマー(P)をより多量に使用することによって電池の性能が更に改善されるが、SBR/CMC結合剤の量を増加させると、性能が著しく低下し、且つ/又は電気抵抗率が増加することが当技術分野で知られている。
【0176】
したがって、本発明によるポリマーの使用は、より多量の結合剤を含む電極を得ることを可能にし、前記電極を含む電池の性能の改善をもたらす。
【国際調査報告】