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特表2024-544595診断および治療に有用なエンドペルオキシドに基づく薬物送達システム、およびその方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-03
(54)【発明の名称】診断および治療に有用なエンドペルオキシドに基づく薬物送達システム、およびその方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/54 20170101AFI20241126BHJP
   A61K 31/4706 20060101ALI20241126BHJP
   A61K 31/495 20060101ALI20241126BHJP
   A61K 31/704 20060101ALI20241126BHJP
   A61P 33/06 20060101ALI20241126BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241126BHJP
   C07D 323/04 20060101ALI20241126BHJP
   C07D 405/12 20060101ALI20241126BHJP
   C07H 15/26 20060101ALI20241126BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20241126BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20241126BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20241126BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20241126BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20241126BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20241126BHJP
   A61K 49/00 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
A61K47/54
A61K31/4706
A61K31/495
A61K31/704
A61P33/06
A61P35/00
C07D323/04
C07D405/12
C07H15/26
A61K45/00
A61P29/00
A61P3/10
A61P9/00
A61P25/00
A61P31/00
A61K49/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024530424
(86)(22)【出願日】2022-12-13
(85)【翻訳文提出日】2024-07-04
(86)【国際出願番号】 IB2022062107
(87)【国際公開番号】W WO2023111829
(87)【国際公開日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】117644
(32)【優先日】2021-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】PT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524191996
【氏名又は名称】ファカルダーデ デ ファルマシア ダ ウニベルシダーデ デ リスボン
【氏名又は名称原語表記】Faculdade de Farmacia da Universidade de Lisboa
(74)【代理人】
【識別番号】100139723
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 洋
(72)【発明者】
【氏名】シルヴァ,マガリャエス ディオゴ
(72)【発明者】
【氏名】モレイラ,ルイ
(72)【発明者】
【氏名】ロペス,フランシスカ
(72)【発明者】
【氏名】ロドリゲス,セシリア
(72)【発明者】
【氏名】マルケス,ヴァンダ
【テーマコード(参考)】
4C057
4C076
4C084
4C085
4C086
【Fターム(参考)】
4C057AA18
4C057BB02
4C057CC03
4C057DD03
4C057JJ55
4C076AA95
4C076CC01
4C076CC04
4C076CC11
4C076CC21
4C076CC27
4C076CC31
4C076CC34
4C076DD59
4C076EE59
4C084AA17
4C084NA13
4C084NA15
4C084ZA011
4C084ZA012
4C084ZA361
4C084ZA362
4C084ZB111
4C084ZB112
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZB311
4C084ZB312
4C084ZB381
4C084ZB382
4C084ZC351
4C084ZC352
4C085HH11
4C085KA27
4C085KB37
4C085LL18
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC28
4C086BC50
4C086EA10
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA13
4C086NA15
4C086ZA01
4C086ZA36
4C086ZB11
4C086ZB26
4C086ZB31
4C086ZB38
4C086ZC35
(57)【要約】
本発明は、対象において、より高いレベルのFe(II)の存在下で医薬品有効成分(API)を放出するように適切に修飾された、1,2,4,5-テトラオキサンなどのエンドペルオキシド部分、すなわち式Iの化合物に基づく新規な薬物送達システムに関し、式Iの鉄代謝異常は、マラリアおよび癌などの疾患において起こる。したがって、本発明はまた、式Iの前記化合物を含むバイオマーカーに関する。別の態様では、本発明は、式Iの化合物およびそれぞれの中間体の合成プロセスに関する。さらに、本発明はまた、組織試料中の腫瘍の標識化、検出、および同定のためのプロセスに関する。したがって、本発明は、医学的および薬理学的分野、特に癌の検出および治療、ならびにマラリア治療に関連する分野に適用可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エナンチオマーおよびそのラセミ混合物を含む式Iの化合物であって、
【化1】
式中、
およびRは、独立して、水素、置換または非置換アルキル、置換または非置換ヘテロアルキル、置換または非置換シクロアルキル、置換または非置換ヘテロシクロアルキル、置換または非置換アリールおよび置換または非置換ヘテロアリールであり、
およびRは、カップリングして、置換または非置換シクロアルキルおよび置換または非置換ヘテロシクロアルキルを形成し得、
Xは、-CHO-、-OCH-または-O-O-であり、
は、-C(R)(R)-、-CH(R)-CH(R)-または-C(R)=C(R)-であり、
は、水素、-OH、-CHOH、-CHO(C=O)Aまたは-CHO(C=S)Aであり、式中、Aは独立して、炎症、糖尿病、心血管疾患、マラリア、希少疾患、神経変性疾患、感染症および癌の診断および治療のための1つまたは複数のAPI、タンパク質および抗体であり、
およびRは独立して、水素、-OH、-O(C=O)Aまたは-O(C=S)Aであり、式中、Aは独立して、炎症、糖尿病、心血管疾患、マラリア、希少疾患、神経変性疾患、感染症および癌の診断および治療のための1つまたは複数のAPI、タンパク質および抗体である、
化合物。
【請求項2】
式IIaによって表され、
【化2】
式中、
は、アダマンチルであり、
は、アダマンチルであり、
Xは、-O-O-であり、
は、-CH(R)-CH(R)-であり、
は、水素であり、
は、(4-((7-メトキシキノリン-5-イル)アミノ)ペンチル)カルバモイルオキシであり、
は、水素である
ことを特徴とする、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
式IIbによって表され、
【化3】
式中、
は、アダマンチルであり、
は、アダマンチルであり、
Xは、-O-O-であり、
は、-CH(R)-CH(R)-であり、
は、水素であり、
は、1-(tert-ブチル)ピペラジン-1,4-ジカルボキシレートであり、
は、水素である
ことを特徴とする、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
式IIcによって表され、
【化4】
式中、
は、アダマンチルであり、
は、アダマンチルであり、
Xは、-O-O-であり、
は、-CH(R)-CH(R)-であり、
は、水素であり、
は、(3-ヒドロキシ-2-メチル-6-((2S,4S)-4,5,12-トリヒドロキシ-4-(2-ヒドロキシアセチル)-10-メトキシ-6,11-ジオキソ-1,2,3,4,6,11-ヘキサヒドロテトラセン-2-イル)オキシ)テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)カルバモイルオキシであり、
は、水素である
ことを特徴とする、請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
式IIdによって表され、
【化5】
式中、
は、5-ヒドロキシアダマンチルであり、
は、5-ヒドロキシアダマンチルであり、
Xは、-O-O-であり、
は、-CH(R)-CH(R)-であり、
は、水素であり、
は、(3-ヒドロキシ-2-メチル-6-((2S,4S)-4,5,12-トリヒドロキシ-4-(2-ヒドロキシアセチル)-10-メトキシ-6,11-ジオキソ-1,2,3,4,6,11-ヘキサヒドロテトラセン-2-イル)オキシ)テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)カルバモイルオキシであり、
は、水素である
ことを特徴とする、請求項1に記載の化合物。
【請求項6】
式IIeによって表され、
【化6】
式中、
は、5-ヒドロキシアダマンチルであり、
は、5-ヒドロキシアダマンチルであり、
Xは、-O-O-であり、
は、-C(R)=C(R)-であり、
は、(3-ヒドロキシ-2-メチル-6-(((1R,3R)-3,5,12-トリヒドロキシ-3-(2-ヒドロキシアセチル)-10-メトキシ-6,11-ジオキソ-1,2,3,4,6,11-ヘキサヒドロテトラセン-1-イル)オキシ)テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)カルバモイルオキシであり、
は、であり、
は、水素である
ことを特徴とする、請求項1に記載の化合物。
【請求項7】
請求項1に記載の式Iのテトラオキサン化合物および請求項2~6にそれぞれ記載される化合物IIa、IIb、IIc、IIdおよびIIeに基づく薬物送達システムであって、前記化合物は、対象において、より高いレベルのFe(II)の存在下で医薬品有効成分(API)を放出するように適切に修飾されることを特徴とする、薬物送達システム。
【請求項8】
式IIaまたはIIbを有する前記化合物は、1つまたは複数の抗マラリアAPI、例えば、プリマキンおよびboc-ピペラジン、アトバコン、硫酸キニーネ、スルホンアミド(スルファドキシンおよびスルファメトキシピリダジン)およびファルシパイン阻害剤(ジペプチジルビニルスルホンおよびペプチド模倣ピリミジンニトリル)、ならびにそれらの組合せまたは誘導体とカップリングされることを特徴とする、請求項7に記載の薬物送達システム。
【請求項9】
式IIc、IIdまたはIIeを有する前記化合物は、1つまたは複数の抗腫瘍API、例えば、ドキソルビシン、アレクチニブ、アファチニブ、酢酸アビラテロン、アザシチジン、アキシチニブ、ベンダムスチン、ブリガチニブ、ボスチニブ、ビカルタミド、カリケアミシン、カペシタビン、カルフィルゾミブ、コンブレタスタチン、セリチニブ、クラドリビン、クロファラビン、コビメチニブ、クリゾチニブ、クリプトフィシン、シタラビン、ダブラフェニブ、ダサチニブ、ダウノルビシン、デシタビン、デュオカルマイシン、エナシデニブ、エピルビシン、メシル酸エリブリン、エルロチニブ、エベロリムス、エトポシド、エキサテカン、フルダラビン、フルベストラント、ゲムシタビン、ヘミアスタリン、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤(アベキシノスタット、ベリノスタット、エンチノスタット、ジビノスタット、モセチノスタット、オキサムフラチン、 パノビノスタット、ピロキサミド、キシノスタット、ボリノスタット、トリコスタチンA、タセシナリン、ツシジノスタット、ツバスタチンA)、ヒドロキシ尿素、イブルチニブ、イデラリシブ、イマチニブ、イリノテカン、イキサベピロン、ラパチニブ、レナリドミド、メイタンシン、マイトマイシンC、モノメチルアウリスタチン(MMA-E、MMA-F、ドラスタチン10およびドラスタチノール)、メトトレキサート、ネラチニブ、ニロチニブ、ニラパリブ、オラパリブ、オクトレオチド、オシメルチニブ、パクリタキセル、パルボシクリブ、パゾパニブ、ピロロベンゾジアゼピン、ペメトレキセド、ポマリドミド、ポナチニブ、リボシクリブ、ルカパリブ、ソラフェニブ、タモキシフェン、トリアゼン、トリフルリジン、トポテカン、ツブリシン、バンデタニブ、ならびにそれらの組合せまたは誘導体と、または、腫瘍マーカーAPI、例えば、4,4-ジフルオロ-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセン(BODIPY)、シアニン、ジシアノメチン、ドキソルビシン、フルオレセイン、ニトロベンゾフラザン、ローダミン、ならびにそれらの組合せまたは誘導体に、カップリングされることを特徴とする、請求項7に記載の薬物送達システム。
【請求項10】
請求項7~9のいずれか一項に記載の式Iを有する1,2,4,5-テトラオキサンをベースとする薬物送達システムの調製方法であって、以下の工程:
【化7】
を含み、
(i)二クロム酸ナトリウム二水和物、水、硫酸は、1,3-シクロヘキサンジオールである化合物0の酸化のために反応して、rac-3-ヒドロキシシクロヘキサノン化合物1を生成し;
(ii)酸化レニウム(VII)、50%過酸化水素、アセトニトリルであって、化合物1は、酸化レニウム(VII)の存在下で過酸化水素と反応して、ジヒドロペルオキシドである化合物2を生成し;
(iii)2-アダマンタノンまたは5-ヒドロキシ-2-アダマンタノン、酸化レニウム(VII)、ジクロロメタン:アセトニトリル(1:1)、不活性雰囲気であって、ジヒドロペルオキシドである化合物2は、触媒量の酸化レニウム(VII)を用いて、カルボニル試薬と反応し、2-アダマンタノン(化合物3)および5-ヒドロキシ-2-アダマンタノン(化合物4)は、テトラオキサンの形成のためのカルボニルとして使用でき;
(iv)4-ニトロフェニルクロロホルメート、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、4-ジメチルアミノピリジン、ジクロロメタンであって、化合物3および化合物4は、過剰なアミン塩基(N,N-ジイソプロピルエチルアミンおよび4-ジメチルアミノピリジン)とともに4-ニトロフェニルクロロホルメートで活性化されて、それぞれ化合物(5)および(6)を生成し;
(v)API、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール水和物、トリエチルアミン、N,N-ジメチルホルムアミドであって、化合物5は、プリマキン・ジホスフェートとカップリングされて化合物IIaを生成するまたはboc-ピペラジンとカップリングされて化合物IIbを生成する、または2つのカーボネートがドキソルビシンとカップリングされてカルバメートIIcおよびIIdを得る
ことを特徴とする、方法。
【請求項11】
-工程(i)において、二クロム酸ナトリウム二水和物、水、硫酸、および化合物0は、ホルムアルデヒド、N-メチルピロリジン、水酸化バリウム八水和物、水:メタノール(5:1)、および化合物7に置き換えられ、
-工程(ii)において、化合物1は、化合物8に置き換えられ、
-工程(iii)において、化合物2は、化合物9に置き換えられ、
-工程(iv)において、化合物3または4は、化合物10に置き換えられ、
-工程(v)において、化合物5または6は、化合物11に置き換えられる
ことを特徴とする、請求項10に記載の薬物送達システムの調製方法。
【請求項12】
請求項10または請求項11に記載の式Iを有する1,2,4,5-テトラオキサンをベースとする薬物送達システムの調製方法に使用される中間化合物であって、以下の式1~11:
化合物1は、rac-3-ヒドロキシシクロヘキサノンであり、
化合物2は、3,3-ジヒドロペルオキシシクロヘキサン-1-オールであり、
化合物3は、ジスピロ[アダマンタン-2,3’-[1,2,4,5]テトラオキサン-6’,1”-シクロヘキサン]-3”-オールであり、
化合物4は、ジスピロ[アダマンタン-2,3’-[1,2,4,5]テトラオキサン-6’,1”-シクロヘキサン]-3”,5-ジオールであり、
化合物5は、ジスピロ[アダマンタン-2,3’-[1,2,4,5]テトラオキサン-6’,1”-シクロヘキサン]-3”-イル(4-ニトロフェニル)カーボネートであり、
化合物6は、5-ヒドロキシジスピロ[アダマンタン-2,3’-[1,2,4,5]テトラオキサン-6’,1”-シクロヘキサン]-3”-イル(4-ニトロフェニル)カーボネートであり、
化合物7は、2-シクロヘキセン-1-オンであり、
化合物8は、2-(ヒドロキシメチル)シクロヘキス-1-エン-1-オンであり、
化合物9は、(6,6-ジヒドロペルオキシシクロヘキス-1-エン-1-イル)メタノールであり、
化合物10は、2”-(ヒドロキシメチル)ジスピロ[アダマンタン-2,3’-[1,2,4,5]テトラオキサン-6’,1”-シクロヘキサン]-2”-エン-5-オールであり、
化合物11は、5-ヒドロキシジスピロ[アダマンタン-2,3’-[1,2,4,5]テトラオキサン-6’,1”-シクロヘキサン]-2”-エン-2”-イル)メチル(4-ニトロフェニル)カーボネートである
によって表されることを特徴とする、中間化合物。
【請求項13】
請求項1~6のいずれか一項に記載の式I、IIa、IIb、IIc、IIdおよびIIeの化合物、または医薬として使用される請求項7~9のいずれか一項に記載の前記化合物を含む薬物送達システム。
【請求項14】
-請求項8に記載の式IIaおよびIIbの化合物は、抗マラリア薬として使用され、
-請求項9に記載の化合物IIc、IIdまたはIIeは、抗腫瘍薬として使用される
ことを特徴とする、請求項13に記載の薬物送達システム。。
【請求項15】
-請求項9に記載の化合物IIc、IIdまたはIIeは、腫瘍マーカーとして使用される
ことを特徴とする、請求項13に記載の薬物送達システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象において、より高いレベルのFe(II)の存在下で医薬品有効成分(API)を放出するように適切に修飾された、1,2,4,5-テトラオキサンなどのエンドペルオキシド部分、すなわち式I:
【化1】
の化合物に基づく新規な薬物送達システムに関する。
【0002】
鉄代謝異常は、マラリアおよび癌などの疾患において起こる。したがって、本発明はまた、式Iの前記化合物を含むバイオマーカーに関する。
【0003】
別の態様では、本発明は、式Iの化合物およびそれぞれの中間体の合成プロセスに関する。
【0004】
さらに、本発明はまた、組織試料中の腫瘍の標識化、検出、および同定のためのプロセスに関する。
【0005】
したがって、本発明は、医学的および薬理学的分野、特に癌の検出および治療、ならびにマラリア治療に関連する分野に適用可能である。
【0006】
本発明は、Fe(II)と選択的に反応する1,2,4,5-テトラオキサン足場に基づく、2つの異なるビアを有する薬物送達システムを開示する:第1の薬物送達システムは、Fe(II)との反応後に医薬品有効成分(API)を自然に放出するが、第2の薬物送達システムは、わずかに改変された第1のシステムの代わりに、医薬品有効成分(API)を放出するためにFe(II)およびグルタチオンと反応する必要がある。
【背景技術】
【0007】
鉄は、ミトコンドリア呼吸および細胞周期制御などの重要な生物学的プロセスに関与する酵素の補因子である。その役割は、第二鉄(Fe(III))と第一鉄(Fe(II))との間の酸化還元サイクルに依存する。しかしながら、それはまた、過酸化水素とのFe(II)の反応によって活性酸素種(ROS)生成をもたらし得る。いくつかの生物学的プロセスにとって極めて重要であるにもかかわらず、鉄は潜在的に有害でもあり得る。
【0008】
細胞における鉄ホメオスタシスは、レドックス活性第一鉄形態における鉄の利用可能性を低下させる一方で、その機能を保証するのに十分な鉄のレベルを厳密に維持する。鉄の取り込み、貯蔵および排出の間の均衡は、細胞における鉄のホメオスタシスを確保する。鉄代謝のメカニズムは、主に細胞質ゾルに存在する不安定な鉄プールと呼ばれる第一鉄(レドックス活性鉄)に関連する。
【0009】
鉄代謝異常は、炎症、感染症、癌、心血管疾患、および神経変性疾患などの疾患において生じる。
【0010】
アルテミシニンおよびその誘導体などのエンドペルオキシドは、マラリアの治療のために臨床で使用される。1,2,4-トリオキサン、1,2,4-トリオキソランおよび1,2,4,5-テトラオキサンなどのエンドペルオキシドは、Fe(II)に富む寄生虫に感染した赤血球によって選択的に活性化されて、炭素中心ラジカルを形成する。感染赤血球は、健常組織において検出されるものと比較して、上昇したレベルのFe(II)を含有するようである。
【0011】
抗マラリア薬は有害な副作用を有し、マラリアの1次治療に対する耐性の増加が報告されている。
【0012】
いくつかの研究は、鉄と癌との間の関連性を報告し、癌細胞内で、それらの生物学的必要性を支持するために、不安定な鉄プールのレベルが増加することが示されている。さらに、多くの癌は、鉄の取り込みおよび排出プロセスを改変し、正常細胞と比較して、不安定な鉄プールのレベルの増大をもたらし、これは、「鉄中毒」と呼ばれる現象である。
【0013】
現在、化学療法薬は、それらの作用部位に対して選択的ではない。結果として、それらは重篤で有害な副作用をもたらす。
【0014】
鉄代謝異常は、テトラオキサンに基づく2つのシステムを調製することにより、選択的薬物送達のための新規な戦略を表す。本発明に記載される薬物送達システムは、不活性に投与され、選択された標的、この場合は第一鉄に対して選択的に活性化されるので、薬効および薬物耐性の状況を改変することができる。
【0015】
特許文献1は、より高いレベルの第一鉄を示す状態に関連する寄生虫および腫瘍性疾患の治療のための1,2,4-トリオキサンまたは1,2,4-トリオキソラン環系に基づく化合物を記載している。
【0016】
しかしながら、特許文献1は、1,2,4,5-テトラオキサンをベースとする化合物を含む送達システムに関しては何も言及していない。さらに、文献において広く認識されているように、1,2,4-トリオキソラン環系は良好な代謝安定性を示さず、これは依然として臨床開発に対する大きな障害である。1,2,4,5-テトラオキソラン環系は、1,2,4-トリオキソラン環系よりも熱力学的および代謝的により安定である。さらに、これらの化合物は、生物に対して非常に毒性である。最後に、開示される第2の薬物送達システムは、1,2,4-トリオキソラン足場の調製に固有の制限のため、1,2,4-トリオキソラン環系を含有するのに適していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】国際公開第2015/123595号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、標的組織に対して選択的であり、マラリアおよび癌の治療に寄与することができ、さらにバイオマーカーとして首尾よく使用することができる、新規な1,2,4,5-テトラオキサン化合物および当該化合物に基づく2つの薬物送達システムを提供することによって、従来技術の問題を克服することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、対象において、より高いレベルのFe(II)の存在下で医薬品有効成分(API)を放出するように適切に修飾された、1,2,4,5-テトラオキサンなどのエンドペルオキシド部分、すなわち式Iの化合物に基づく新規な薬物送達システムに関する。
【0020】
1.新規なテトラオキサン化合物
本発明による新規なテトラオキサン化合物は、式Iで表される:
【化2】
【0021】
およびRは、独立して、水素、置換または非置換アルキル、置換または非置換ヘテロアルキル、置換または非置換シクロアルキル、置換または非置換ヘテロシクロアルキル、置換または非置換アリールおよび置換または非置換ヘテロアリールである。
【0022】
およびRは、カップリングして、置換または非置換シクロアルキルおよび置換または非置換ヘテロシクロアルキルを形成し得る。
【0023】
Xは、-CHO-、-OCH-または-O-O-である。
【0024】
は、-C(R)(R)-、-CH(R)-CH(R)-または-C(R)=C(R)-である。
【0025】
は、水素、-OH、-CHOH、-CHO(C=O)Aまたは-CHO(C=S)Aであり、式中、Aは独立して、炎症、糖尿病、心血管疾患、マラリア、希少疾患、神経変性疾患、感染症および癌(診断および治療)のための1つまたは複数のAPI、タンパク質および抗体である。
【0026】
およびRは独立して、水素、-OH、-O(C=O)Aまたは-O(C=S)Aであり、式中、Aは独立して、炎症、糖尿病、心血管疾患、マラリア、希少疾患、神経変性疾患、感染症および癌(診断および治療)のための1つまたは複数のAPI、タンパク質および抗体である。
【0027】
式Iの化合物は、式IIa~IIeの化合物にさらに細分化して、診断および治療における薬物送達システムとして本発明のテトラオキサンを利用することができる。
【0028】
1.1.マラリア治療のための本発明の化合物の特徴および特性(式IIaおよびIIb)
【化3】
【0029】
化合物IIaおよびIIbは、薬物送達システムIIaおよびIIbを規定するマラリア治療のための薬物とカップリングされる。好ましい実施形態において、化合物IIaは、臨床で使用される抗マラリア薬であるプリマキンとカップリングされる。別の実施形態において、化合物IIbはboc-ピペラジンとカップリングされる。これらの化合物は、熱帯熱マラリア原虫のクロロキン感受性3D7株に対してナノモル範囲の半数阻害濃度(IC50)を示す。したがって、これらの化合物は、マラリア治療に適用することができる。化合物IIaおよびIIbはまた、それぞれのラセミ混合物またはそれぞれのエナンチオマーを含む。
【0030】
1.2.がん治療のための本発明の化合物の特徴および特性(式IIc、IIdおよびIIe)
さらなる化合物が本発明の範囲内であり、例えば、式IIc、IIdおよびIIeの化合物である。
【化4】
【0031】
化合物IIc、IIdおよびIIeは、臨床で典型的に使用される抗癌剤とカップリングされ、したがって薬物送達システムIIc、IIdおよびIIeを画定する。好ましい実施形態において、本発明の化合物は、ドキソルビシンとカップリングされる。これらの化合物は、鉄代謝が不安定性な少なくとも4種類の癌について、インビトロでマイクロモル範囲で細胞死を誘導することができ、ここで、特定の細胞株は括弧内に同定される:膠芽腫(U251)、乳腺癌(MCF7)、前立腺癌(PC3)および結腸直腸癌(HCT116)。したがって、これらの化合物は癌治療に適用することができる。化合物IIc、IIdおよびIIeはまた、それぞれのラセミ混合物またはそれぞれのエナンチオマーを含む。
【0032】
1.3.癌診断のための本発明の化合物(式IIc、IIdおよびIIe)の特徴および特性
癌細胞において細胞死を誘導するその能力に加えて、ドキソルビシンなどの固有の蛍光を有するいくつかの他の化合物は、本発明の化合物とカップリングしたときに腫瘍マーカーとして使用するのに有用である。この蛍光は、前記化合物が薬剤化合物IIc、IIdおよびIIeに結合されると失われる。これらの蛍光化合物が癌細胞において活性化されると、第一鉄との反応により、前記蛍光化合物はIIc、IIdおよびIIeから放出され、したがって、その蛍光特性が回復し、蛍光顕微鏡によって検出される。したがって、これらの化合物はまた、腫瘍マーカーのための薬物送達システムとして使用され得る。好ましい実施形態において、ドキソルビシンは、腫瘍マーカーとして使用される化合物IIc、IIdおよびIIeに結合される。
【0033】
2.式Iの化合物の調製方法
本発明の一実施形態では、前節に記載される式Iの化合物(実施例1を参照)および式IIa、IIb、IIcおよびIIdの化合物(実施例2を参照)の調製方法は、以下のスキーム1によって表され:
【化5】
以下の工程を用いる:
(i)二クロム酸ナトリウム二水和物、水、硫酸;
(ii)酸化レニウム(VII)、50%過酸化水素、アセトニトリル;
(iii)2-アダマンタノンまたは5-ヒドロキシ-2-アダマンタノン、酸化レニウム(VII)、ジクロロメタン:アセトニトリル(1:1)、不活性雰囲気;
(iv)4-ニトロフェニルクロロホルメート、N,N-ジイソプロピルエチルアミン,4-ジメチルアミノピリジン,ジクロロメタン;
(v)API,1-ヒドロキシベンゾトリアゾール水和物、トリエチルアミン,N,N-ジメチルホルムアミド。
【0034】
工程i)において、1,3-シクロヘキサンジオール(化合物0)の酸化により、rac-3-ヒドロキシシクロヘキサノン(化合物1)が生成される。
【0035】
工程ii)において、化合物1は、酸化レニウム(VII)の存在下で過酸化水素と反応して、ジヒドロペルオキシド(化合物2)を生成する。
【0036】
工程iii)において、ジヒドロペルオキシド(化合物2)は、再び触媒量の酸化レニウム(VII)を用いて、カルボニル試薬と反応する。2-アダマンタノン(化合物3)および5-ヒドロキシ-2-アダマンタノン(化合物4)は、第1の薬物送達システムの1,2,4,5-テトラオキサン足場の形成のためのカルボニルとして使用することができる。シクロヘキサン環の3”位のアルコール基は、立体中心を有する非対称テトラオキサン(化合物3および4)を生成し、2つのエナンチオマーを得る。したがって、この工程はまた、1,2,4,5-テトラオキサン系の立体制御合成を行う代わりに、薬物送達システムとして適用されるテトラオキサンのラセミ混合物を用いてもよい。
【0037】
次に、工程iv)において、化合物(3)および(4)を、過剰のアミン塩基(N,N-ジイソプロピルエチルアミンおよび4-ジメチルアミノピリジン)と共に4-ニトロフェニルクロロホルメートで活性化して、化合物(5)および(6)をそれぞれ生成した。
【0038】
最後に、化合物(5)を、それぞれ55%および33%の収率で、プリマキン・ジホスフェート(IIa)およびboc-ピペラジン(IIb)とカップリングした。化合物(5)および(6)をドキソルビシンとカップリングさせて、60%(IIc)および75%(IId)のカルバメートを得て、対応する薬物送達システムを生成した。
【0039】
上記の式を有する化合物1~6、および化合物3~6のエナンチオマーは、化合物IIa、IIb、IIcおよびIId、ならびにそれぞれの薬物送達システムの製造方法における中間体として本発明に含まれる。
【0040】
最後に、中間化合物3~6が化合物IIa、IIb、IIcおよびIIdを調製する方法において使用されることを考慮すると、これは、前記化合物およびそれぞれの薬物送達システムがラセミ混合物またはそれぞれのエナンチオマーを含むという結果をもたらす。したがって、本発明はまた、化合物IIa、IIb、IIcおよびIIdのラセミ混合物またはそれぞれのエナンチオマーならびに対応する薬物送達システムに関する。
【0041】
本発明の別の実施形態において、式Iの化合物(実施例1参照)および式IIeの化合物(実施例2参照)の調製方法は、以下のスキーム2に記載され:
【化6】
以下の工程を用いる:
(i)ホルムアルデヒド、N-メチルピロリジン、水酸化バリウム八水和物、水:メタノール(5:1);
(ii)酸化レニウム(VII)、50%過酸化水素、アセトニトリル;
(iii)5-ヒドロキシ-2-アダマンタノン、酸化レニウム(VII)、ジクロロメタン:アセトニトリル(1:1)、不活性雰囲気;
(iv)4-ニトロフェニルクロロホルメート、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、4-ジメチルアミノピリジン、ジクロロメタン;
(v)API、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール水和物、トリエチルアミン,N,N-ジメチルホルムアミド。
【0042】
工程i)において、ヒドロキシメチル基を、森田-バイリス-ヒルマン化によって2-シクロヘキセン-1-オン(化合物7)の2位に導入し、化合物8を生成した。
【0043】
工程ii)において、化合物8は、酸化レニウム(VII)の存在下で過酸化水素と反応して、ジヒドロペルオキシド(化合物9)を生成する。
【0044】
工程iii)において、ジヒドロペルオキシド(化合物9)は、再び触媒量の酸化レニウム(VII)を用いて、カルボニル試薬と反応する。5-ヒドロキシ-2-アダマンタノン(化合物10)は、第2の薬物送達システムの1,2,4,5-テトラオキサン足場の形成のためのカルボニルとして使用することができる。アダマンチル基の5位のアルコール基は、立体中心を有する非対称テトラオキサン(化合物10)を生成し、2つのエナンチオマーを得る。この工程はまた、この薬物送達システムの立体制御合成を行う代わりに、薬物送達システムとして適用されるテトラオキサンのラセミ混合物を用いてもよい。
【0045】
次に、工程iv)において、化合物(10)を、過剰のアミン塩基(N,N-ジイソプロピルエチルアミンおよび4-ジメチルアミノピリジン)と共に4-ニトロフェニルクロロホルメートで活性化して、化合物(11)を生成した。
【0046】
最後に、化合物(11)をドキソルビシン(IIe)と73%の収率でカップリングした。
【0047】
上記の式を有する化合物8~11、および化合物10および11のエナンチオマーは、式Iおよび式IIeの化合物の製造方法における中間体として本発明に含まれる。
【0048】
最後に、中間化合物10および11が上述の化合物を調製する方法において使用されることを考慮すると、これは、前記化合物がラセミ混合物またはそれぞれのエナンチオマーを含むという結果をもたらす。したがって、本発明はまた、化合物IおよびIIeのラセミ混合物またはそれぞれのエナンチオマーに関する。
【0049】
3.本発明による第1の薬物送達システムのメカニズム
第1の薬物送達システムは、Fe(II)と反応してシクロヘキサノン中間体を形成する1,2,4,5-テトラオキサン足場を含有する(スキーム3)。この中間体は、レトロマイケル反応(β-脱離)によってAPIを自然に放出する。
【0050】
スキーム3は、本発明のテトラオキサン化合物のFe(II)活性化およびその後のβ-脱離を介する薬物送達のメカニズムを示し、式中、Aは、テトラオキサンにカップリング可能な1つまたは複数のAPIを表す。
【化7】
【0051】
化合物IIa、IIb、IIcおよびIId中に存在するテトラオキサンと第一鉄源との反応は、シクロヘキサノン誘導体を生成し、これは、β-脱離によってAPIを自然に放出する(スキーム3)。
【0052】
本発明の範囲内で、治療および/または診断の異なる目的のために単独でまたは組み合わせて使用することができるいくつかの適切なAPIが存在し、それらのうちのいくつかを以下に述べる。
【0053】
このスキームでは、化合物IIaおよびIIbを、プリマキンおよびboc-ピペラジンなどのマラリア原虫に対する1つまたは複数のAPIとカップリングさせることができる。マラリアに対してこのシステムとカップリングするのに適した他の化合物は、以下のものおよびそれらの誘導体である:アトバコン、硫酸キニーネ、スルホンアミド(スルファドキシンおよびスルファメトキシピリダジン)およびファルシパイン阻害剤(ジペプチジルビニルスルホンおよびペプチド模倣ピリミジンニトリル)。
【0054】
化合物IIcおよびIIdは、好ましくは、癌に対するAPIであるドキソルビシンとカップリングすることができる。単独でまたは組み合わせて、癌に対してこのシステムとカップリングするのに適した他の化合物は、以下のものおよびそれらの誘導体である:アレクチニブ、アファチニブ、酢酸アビラテロン、アザシチジン、アキシチニブ、ベンダムスチン、ブリガチニブ、ボスチニブ、ビカルタミド、カリケアミシン、カペシタビン、カルフィルゾミブ、コンブレタスタチン、セリチニブ、クラドリビン、クロファラビン、コビメチニブ、クリゾチニブ、クリプトフィシン、シタラビン、ダブラフェニブ、ダサチニブ、ダウノルビシン、デシタビン、デュオカルマイシン、エナシデニブ、エピルビシン、メシル酸エリブリン、エルロチニブ、エベロリムス、エトポシド、エキサテカン、フルダラビン、フルベストラント、ゲムシタビン、ヘミアスタリン、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤(アベキシノスタット、ベリノスタット、エンチノスタット、ジビノスタット、モセチノスタット、オキサムフラチン、 パノビノスタット、ピロキサミド、キシノスタット、ボリノスタット、トリコスタチンA、タセシナリン、ツシジノスタット、ツバスタチンA)、ヒドロキシ尿素、イブルチニブ、イデラリシブ、イマチニブ、イリノテカン、イキサベピロン、ラパチニブ、レナリドミド、メイタンシン、マイトマイシンC、モノメチルアウリスタチン(MMA-E、MMA-F、ドラスタチン10およびドラスタチノール)、メトトレキサート、ネラチニブ、ニロチニブ、ニラパリブ、オラパリブ、オクトレオチド、オシメルチニブ、パクリタキセル、パルボシクリブ、パゾパニブ、ピロロベンゾジアゼピン、ペメトレキセド、ポマリドミド、ポナチニブ、リボシクリブ、ルカパリブ、ソラフェニブ、タモキシフェン、トリアゼン、トリフルリジン、トポテカン、ツブリシン、バンデタニブ。
【0055】
腫瘍マーカーとしてこのシステムとカップリングするのに適した他の化合物としては、フルオロフォア、4,4-ジフルオロ-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセン(BODIPY)、シアニン、ジシアノメチン、ドキソルビシン、フルオレセイン、ニトロベンゾフラザン、ローダミンおよびそれらの誘導体が挙げられる。
【0056】
3.1.第1の薬物送達システムの機構論的概念実証
Fe(II)との反応後の1,2,4,5-テトラオキサン足場の活性化によって、炭素中心ラジカルが生成される。この反応メカニズムは、テトラオキサン環の2つの可能な酸素とのFe(II)配位に関与する。第1の薬物送達システムは、Fe(II)の存在下で、炭素中心ラジカルおよびシクロヘキサノン誘導体を生成すると予想されるテトラオキサン足場を含有する。この誘導体は、β-脱離によってAPIを自然に放出する。提案された薬物送達メカニズムを確認するために、化合物IIcを、O’Neill et. Al, J. Med. Chem. 2011, 54, 6443に記載されるように、Fe(II)の無機塩および2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルラジカル(TEMPO)に曝露した。TEMPOをこの実験で使用して、薬物送達システムによる炭素中心ラジカルの形成を検証した。TEMPOは、この反応で生成されたラジカルと反応し、超高速液体クロマトグラフィー-質量分析(UHPLC-MS)による検出を可能にする。
【0057】
Fe(II)をトリガーとするテトラオキサン活性化および化合物IIcの断片化によって、炭素中心ラジカルの形成と一致するUHPLC-MSによりTEMPO付加物が検出された(実施例3参照)。さらに、シクロヘキサノン誘導体およびドキソルビシンもまた、UHPLC-MSによって同定され(実施例3参照)、これによって、提案された薬物送達メカニズムによるAPI放出が確認される。
【0058】
4.本発明に開示される第2の薬物送達システムのメカニズム
上述の第1のシステムの特定の実施形態である代替的な第2の薬物送達システムもまた1,2,4,5-テトラオキサン足場を含み、これは、Fe(II)との反応後にシクロヘキス-2-エノン誘導体を生成する。この誘導体は、APIを自然に放出しない。この誘導体は、グルタチオンとの反応(マイケル付加)後に脱離によるAPIの放出を可能にするアルケン基を有する(スキーム4)。API放出が、多くの種類の癌において上昇するFe(II)およびグルタチオンとの反応後にのみ起こることを考慮すると、これは、第1の薬物送達システムと比較して改善された選択性をもたらし得る。
【0059】
スキーム4は、Fe(II)-活性化、グルタチオンのマイケル付加および本発明のテトラオキサン化合物の脱離を介する薬物送達のメカニズムを示し、式中、Aはテトラオキサンにカップリングされ得るAPIを表す。
【化8】
【0060】
化合物IIe中に存在するテトラオキサンと第一鉄源との反応により、シクロヘキス-2-エノン誘導体が生成され、これは、グルタチオンとの反応後に脱離によってAPIを放出する(スキーム4)。
【0061】
本発明の範囲内で、治療および/または診断の異なる目的のために単独でまたは組み合わせて使用することができるいくつかの適切なAPIが存在し、それらのうちの一部を以下に述べる。
【0062】
このスキームにおいて、化合物IIeは、好ましくは、癌に対するAPIであるドキソルビシンとカップリングされる。単独でまたは組み合わせて、癌に対してこのシステムとカップリングするのに適した他の化合物は、以下のものおよびそれらの誘導体である:アレクチニブ、アファチニブ、酢酸アビラテロン、アザシチジン、アキシチニブ、ベンダムスチン、ブリガチニブ、ボスチニブ、ビカルタミド、カリケアミシン、カペシタビン、カルフィルゾミブ、コンブレタスタチン、セリチニブ、クラドリビン、クロファラビン、コビメチニブ、クリゾチニブ、クリプトフィシン、シタラビン、ダブラフェニブ、ダサチニブ、ダウノルビシン、デシタビン、デュオカルマイシン、エナシデニブ、エピルビシン、メシル酸エリブリン、エルロチニブ、エベロリムス、エトポシド、エキサテカン、フルダラビン、フルベストラント、ゲムシタビン、ヘミアスタリン、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤(アベキシノスタット、ベリノスタット、エンチノスタット、ジビノスタット、モセチノスタット、オキサムフラチン、 パノビノスタット、ピロキサミド、キシノスタット、ボリノスタット、トリコスタチンA、タセシナリン、ツシジノスタット、ツバスタチンA)、ヒドロキシ尿素、イブルチニブ、イデラリシブ、イマチニブ、イリノテカン、イキサベピロン、ラパチニブ、レナリドミド、メイタンシン、マイトマイシンC、モノメチルアウリスタチン(MMA-E、MMA-F、ドラスタチン10およびドラスタチノール)、メトトレキサート、ネラチニブ、ニロチニブ、ニラパリブ、オラパリブ、オクトレオチド、オシメルチニブ、パクリタキセル、パルボシクリブ、パゾパニブ、ピロロベンゾジアゼピン、ペメトレキセド、ポマリドミド、ポナチニブ、リボシクリブ、ルカパリブ、ソラフェニブ、タモキシフェン、トリアゼン、トリフルリジン、トポテカン、ツブリシン、バンデタニブ。
【0063】
腫瘍マーカーとしてこのシステムとカップリングするのに適した他の化合物としては、フルオロフォア4,4-ジフルオロ-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセン(BODIPY)、シアニン、ジシアノメチン、ドキソルビシン、フルオレセイン、ニトロベンゾフラザン、ローダミンおよびそれらの誘導体が挙げられる。
【0064】
4.1.第2の薬物送達システムの機構論的概念実証
第1の薬物送達システムについて説明したように、第2の薬物送達システムの第一鉄源とのテトラオキサン反応もまた、テトラオキサン足場の2つの酸素とのFe(II)配位によって、炭素中心ラジカルを生成する。第2の薬物送達システムは、Fe(II)による活性化によって、シクロヘキス-2-エノン誘導体を生成し、次いで、細胞内グルタチオンによるマイケル付加およびその後の脱離によるAPIの放出を受ける。提案された薬物送達メカニズムの第1の工程を確認するために、化合物IIeを、O’Neill et. Al, J. Med. Chem. 2011, 54, 6443に記載されるように、Fe(II)の無機塩およびTEMPOに曝露した。TEMPOをこの実験で使用して、薬物送達システムによる炭素中心ラジカルの形成を検証した。TEMPOは、この反応で生成されたラジカルと反応し、UHPLC-MSによるそれらの検出を可能にする。さらに、この実験は、シクロヘキス-2-エノン誘導体を生成する化合物IIeのテトラオキサン断片化を確認するために行われた。最後に、ドキソルビシンは、グルタチオンまたは類似の薬剤が存在しないため、これらの条件下で放出されず、したがって、シクロヘキス-2-エノン誘導体へのマイケル付加は起こり得ない。
【0065】
Fe(II)をトリガーとするテトラオキサン活性化および化合物IIeの断片化によって、Fe(II)との配位の2つの可能性について、炭素中心ラジカルの形成と一致する、UHPLC-MSによるTEMPO付加物が検出された(実施例4参照)。さらに、提案されたメカニズムに従って、UHPLC-MSによってシクロヘキス-2-エノン誘導体も同定された(実施例4参照)。最後に、この実験では、ドキソルビシンは検出されなかった。
【0066】
この薬物送達システムは、Fe(II)による活性化後に細胞内グルタチオンによるマイケル付加およびその後のAPIの放出を受けることができるシクロヘキス-2-エノン誘導体を生成する。薬物送達のこのメカニズムを確認するために、化合物IIeを第一鉄源およびN-アセチルシステイン(NAC)と反応させて、チオール基(-SH)に依存するグルタチオンのマイケル付加をシミュレートした。この例では、この反応が起こることを確実にするため、チオール基が脱プロトン化(-S-)されるために8超のpHが必要である。
【0067】
Fe(II)をトリガーとするテトラオキサン活性化および化合物IIeの断片化によって、UHPLC-MSにより炭素中心ラジカルが検出された(実施例4参照)。さらに、この薬物送達システムの活性化の第1の工程に従って、シクロヘキス-2-エノン誘導体も検出された(実施例4参照)。最後に、ドキソルビシンの放出が検出され(実施例4参照)、シクロヘキス-2-エノン誘導体へのNACのマイケル付加が起こったため、この薬物送達システムの作用機序が検証された。
【0068】
5.生物学的活性評価
本発明の化合物および対応する薬物送達システムの生物学的活性は、当業者による既知のプロセスに従って、異なるパラメータの測定によってアクセスすることができる。
【0069】
5.1.抗マラリア効果の評価
化合物IIaおよびIIbの抗マラリア活性は、クロロキンおよびメフロキン感受性である3D7株などのP.falciparum株(実施例5参照)を前記化合物に曝露することによって、およびMachado et. al, Ann. Clin. Med. Microbio. 2016, 2, 1010に記載されるようなSYBR Green Iアッセイを使用することによって、アクセスすることができる。
【0070】
非同期寄生虫を、各化合物の存在下で72時間培養する。マルチモードマイクロプレートリーダー(Triad, Dynex Technologies)を用いて蛍光強度を測定した。化合物IIaおよびIIbは、マラリア原虫に対して活性であった(実施例5、表1参照)。
【0071】
5.2.抗腫瘍効果の評価
典型的には、癌細胞増殖に対する抗腫瘍効果は、Florindo et. al, Dalton Trans 2016,45,11926の記載に従って、評価される化合物に曝露された細胞培養物中の半数阻害濃度(IC50)を測定することによって評価される。
【0072】
IC50値は、用量反応曲線によって、例えばGraphPad Prism 8.0.2ソフトウェア、続いて統計分析を使用することによって計算することができる。
【0073】
この目的のために、腫瘍細胞株を、適切な化合物IIc、IIdおよびIIeならびに対応する薬物送達システムの濃度範囲に曝露し、72時間後に、Cell Titer96(登録商標)Aqueous Non-Radioactive Cell Proliferation Assay(3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-5-(3-カルボキシメトキシフェニル)-2-(4-スルホフェニル)-2H-テトラゾリウム-MTS;Promega,Madison,WI,USA)により細胞代謝活性を評価し、GloMax(登録商標)-MultiDetection System(Promega)を使用して吸光度シグナルを記録する。化合物IIc、IIdおよびIIeは、試験した全ての腫瘍細胞株において細胞死を誘導することができた(実施例6、表2参照)。さらに、化合物IIc、IIdおよびIIeは、これらの化合物においてカップリングされる癌に対するAPIであるドキソルビシンよりも効力が低かった。
【0074】
5.3.毒性における化合物の効果の評価
化合物IIc、IIdおよびIIeならびにドキソルビシンを、非腫瘍性細胞株(AML12)において試験して、本発明に記載の化合物の毒性を評価した。毒性は、この非腫瘍性細胞株における化合物のIC50を計算することによって測定することができる。アッセイの条件およびソフトウェアは、4つの腫瘍細胞株に対する化合物IIc、IIdおよびIIeについて上記に記載されたものと同じであり得る。化合物IIc、IIdおよびIIeは、ドキソルビシンに関連する毒性を改善することができた(実施例7参照)。
【0075】
5.4.鉄に依存する生物学的活性の評価
化合物IIdおよびIIeを、Mariani et. al, Chem. Commun. 2016,52,1358(実施例8参照)に記載されるように、結腸直腸癌細胞(HCT116)において、単独で、および鉄キレート剤であるメシル酸デスフェロキサミン(DFO)と共にインキュベートした。細胞代謝活性は、抗腫瘍効果の評価について上述したように、MTSアッセイおよび吸光度シグナル検出を用いて再度決定することができる。IC50計算および統計分析はまた、GraphPad Prism 8.0.2によって実施することもできる。
【0076】
化合物IIdによる細胞死の誘導は、この化合物の細胞毒性が鉄キレート剤DFOの存在下で減少したため、鉄に依存する(図1)。したがって、Fe(II)の存在は、細胞における第1の薬物送達システムの活性に不可欠である。
【0077】
第2の薬物送達システムは、第1の薬物送達システムと比較して、選択性の追加要素としてアルケン基を含有する。化合物IIeは、鉄によって細胞内で活性化されるが、細胞毒性の主要な寄与因子は、細胞内グルタチオンによるマイケル付加に関連する。化合物IIeによる細胞死の誘導は、鉄キレート剤DFOの存在下で、この化合物の細胞毒性のわずかな減少を示した(図2)。したがって、この例では、Fe(II)の存在は、細胞における第2の薬物送達システムを活性化する。この活性化により、アルケン基を含有するシクロヘキス-2-エノン誘導体が生成され、細胞内グルタチオンとの反応後にAPIの放出が可能になり、これは実施例4にさらに記載される。
【0078】
5.5.腫瘍マーカーとしての式(II)の化合物
腫瘍マーカーとしての本発明の薬物送達システムIIc、IIdおよびIIeの評価を、蛍光顕微鏡を用いて行い、それらの細胞局在を検出した。化合物IIdおよびドキソルビシンを結腸直腸癌細胞(HCT116)中でインキュベートし、24時間のインキュベーション後に、AxioCam HR R3カメラと連結したZeiss Axio Scope.A1顕微鏡で画像を取得し、Zen Software 2012 Blue Editionで画像を分析した。化合物IIdは、ドキソルビシンと比較して、異なる細胞局在で存在した(実施例9および図3を参照)。
【0079】
5.6.第1の薬物送達システムについてのインビボ検証
化合物IIdおよびドキソルビシンを、異種移植マウスモデルにおいてHT-29細胞を使用して結腸直腸癌について試験した。処置中、腫瘍サイズを分析し、腫瘍体積および相対腫瘍体積を決定するために使用した。20匹の免疫不全Foxn1nu/nuマウスを4つの群に分けた:陰性対照、ビヒクル対照、化合物IIdおよびドキソルビシン。陰性対照群は、処置を受けなかった5匹のマウスからなる。ビヒクル対照群は、化合物IIdを溶解するために使用した溶媒を受けた5匹のマウスからなる。最後に、5匹のマウスを化合物IIdで処置し、5匹のマウスをドキソルビシンで処置した。化合物IIdおよびドキソルビシンは、対照群と比較して、相対腫瘍質量の減少においてより効率的であった(図4)。相対腫瘍質量の減少は、ドキソルビシンで処置したマウスと比較して、化合物IIdで処置したマウスの方が高かった(図4)。
【図面の簡単な説明】
【0080】
図1図1は、結腸直腸癌細胞(HCT116)における以下の存在下での細胞死(Y軸)の効果を示す:カラム#3によって表される化合物IId単独、カラム#4によって表される化合物IIdおよび鉄キレート剤(メシル酸デフェロキサミン-DFO)、カラム#2によって表されるDFO単独、およびカラム#1によって表される対照化合物としてのジメチルスルホキシド(DMSO)。Y軸上に、(3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-5-(3-カルボキシメトキシフェニル)-2-(4-スルホフェニル)-)2H-テトラゾリウム(MTS)代謝アッセイによって決定された細胞生存率が示される。代謝活性のある細胞(生存している)はMTSをホルマザンに代謝し、この分子を吸光度によって定量する。より多量のホルマザンは、化合物に曝露された場合に細胞が生存できることを意味し、より少量のホルマザンは、化合物が細胞死を誘導できることを意味する。 この図から、化合物IIdが細胞死を誘導し、化合物IIdとDFOとの共処理が細胞死のより低い誘導を促進することが観察できる。したがって、化合物IIdによって与えられる細胞死は鉄依存性である。データは、未処理の対照(DMSO)に対する3回の独立した実験の平均値±平均の標準誤差(SEM)を表す。通常の一元配置分散分析およびTukeyの多重比較検定。対DMSO:δ p<0.0001;対DFOを含まない化合物IId:**p<0.01。
図2図2は、結腸直腸癌細胞(HCT116)における以下の存在下での細胞死(Y軸)の効果を示す:カラム#3によって表される化合物IIe単独、カラム#4によって表される化合物IIeおよび鉄キレート剤(メシル酸デフェロキサミン-DFO)、カラム#2によって表されるDFO単独、およびカラム#1によって表される対照化合物としてのDMSO。Y軸上に、(3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-5-(3-カルボキシメトキシフェニル)-2-(4-スルホフェニル)-2H-テトラゾリウム(MTS)代謝アッセイによって決定された細胞生存率が示される。代謝活性のある細胞(生存している)はMTSをホルマザンに代謝し、この分子を吸光度によって定量する。より多量のホルマザンは、化合物に曝露された場合に細胞が生存できることを意味し、より少量のホルマザンは、化合物が細胞死を誘導できることを意味する。 この図から、化合物IIeが細胞死を誘導し、化合物IIeとDFOとの共処理が化合物IIeによる細胞死の誘導のわずかな減少を促進することが観察できる。したがって、化合物IIeによって与えられる細胞死は、鉄依存性であり得るが、これは、第一鉄(Fe(II))が細胞内でこの化合物を活性化するからである。データは、未処理の対照(DMSO)に対して正規化した3つの独立した実験の平均値±SEMを表す。通常の一元配置分散分析。対DMSO:δ p<0.0001。
図3図3は、システムコントロール(DMSO)、ドキソルビシンおよび化合物IIdによる24時間のインキュベーション後のHCT116細胞の画像を示す。460nm発光フィルター(青色チャネル)および560nm発光フィルター(赤色チャネル)を用いて蛍光発光を検出した。ヘキスト色素33258は、細胞核を染色するために使用される蛍光染料であり、その蛍光発光は、青色チャネルによって検出することができる。ドキソルビシンは固有の蛍光を有し、その発光波長は赤色チャネルによって検出される。マージは、それぞれヘキスト色素33258およびドキソルビシンによって与えられる青色および赤色チャネルによって検出される蛍光の重なりである。AAはシステムコントロール(DMSO)および青色チャネルにおける蛍光発光を表し、ABはシステムコントロール(DMSO)および赤色チャネルにおける蛍光発光を表し、ACはシステムコントロール(DMSO)および両方のチャネル(青色および赤色)からの蛍光発光のマージを表し、ADはシステムコントロール(DMSO)および両方のチャネル(青色および赤色)からの蛍光発光のマージについてのズームインフィールドを表し、BAはドキソルビシン(1μM)および青色チャネルにおける蛍光発光を表し、BBはドキソルビシン(1μM)および赤色チャネルにおける蛍光発光を表し、BCはドキソルビシン(1μM)および両方のチャネル(青色および赤色)からの蛍光発光のマージを表し、BDはドキソルビシン(1μM)および両方のチャネル(青色および赤色)からの蛍光発光のマージについてのズームインフィールドを表し、CAは化合物IId(1μM)および青色チャネルにおける蛍光発光を表し、CBは化合物IId(1μM)および赤色チャネルにおける蛍光発光を表し、CCは化合物IId(1μM)および両方のチャネル(青色および赤色)からの蛍光発光のマージを表し、CDは化合物IId(1μM)および両方のチャネル(青色および赤色)からの蛍光発光のマージについてのズームインフィールドを表す。対物:63倍。スケールバー=50μm。 これらの画像から、システムコントロール(DMSO)における蛍光は青色チャネルにのみ存在することが観察でき、これは核のみが検出できることを意味する(画像AA、ACおよびAD)。ドキソルビシンは、青色および赤色チャネルの蛍光の共局在化を通して核に蓄積することが観察できる(画像BCおよびBD)。一方、化合物IIdは、核の周りに蛍光を示す(画像CCおよびCD)。化合物IIdは固有の蛍光を有さないので、これは、化合物IIdが細胞質ゾル中で活性化され、そこで第一鉄(Fe(II))レベルが上昇し、ドキソルビシンを放出することを意味する。
図4図4は、処置日数(X軸)の間に結腸直腸癌細胞(HT-29)に以下を投与された4つの群のマウスについての相対腫瘍体積(Y軸)を示す:塗りつぶしていない円で表される化合物IIdで処置されたマウス、および塗りつぶしていない正方形で表されるドキソルビシンで処置されたマウス。処置なしのマウス(陰性対照群)を塗りつぶしていない逆三角形で表し、投与のために化合物IIdを溶解する溶媒であるリン酸緩衝生理食塩水中のクレモホールを投与されたマウス(ビヒクル対照)を塗りつぶした円で表す。Y軸上に、各群のマウスについて、示された日の体積と処置開始時の体積との間の比によって決定された相対腫瘍体積をmmで示す。 この図から、陰性対照群およびビヒクル対照と比較した場合、化合物IIdおよびドキソルビシンで処置したマウスの腫瘍塊の進行の減少を観察することが可能である。さらに、化合物IIdは、ドキソルビシンよりも腫瘍質量の低減においてより有効であった。混合効果分析(2元配置分散分析など)およびTukeyの多重比較検定。12日目に、化合物IIdで処置したマウスは、ビヒクル対照に対して腫瘍体積の有意な減少を示した:*p<0.05。
【発明を実施するための形態】
【0081】
実施例1.式Iの1,2,4,5-テトラオキサン化合物の合成
カルボニル(2-アダマンタノンまたは5-ヒドロキシ-2-アダマンタノン)の存在下でのジヒドロペルオキシド(2)の環化縮合により、1,2,4,5-テトラオキサン足場(3)および(4)が生成された。4-ニトロフェニルクロロホルメートによる3位のアルコール活性化により、化合物(5)および(6)が生成された。最後に、化合物(5)および(6)とのAPIカップリングにより、第1の薬物送達システムについて本発明に記載される4つの化合物(IIa~IId)が生成された。
【0082】
カルボニル試薬、この場合は5-ヒドロキシ-2-アダマンタノンの存在下でのジヒドロペルオキシド(9)の環化縮合により、1,2,4,5-テトラオキサン足場(10)が生成された。4-ニトロフェニルクロロホルメートによる化合物(10)のアルコール活性化により、化合物(11)が生成された。最後に、化合物(11)とのAPIカップリングにより、第2の薬物送達システムについて本発明に記載される化合物IIeが生成された。
【0083】
この目的のために、いくつかの中間化合物(1~6および8~11)を下記の方法に従って生成した。
【0084】
1.1.化合物(1)の合成:rac-3-ヒドロキシシクロヘキサノン
【化9】
【0085】
濃硫酸/水(1.7mL/12mL)中の二クロム酸ナトリウム溶液(3.01g、10.3mmol)を、ジエチルエーテル(12mL)中の1,3-シクロヘキサンジオール(3.45g、29.7mmol)溶液に滴下して添加した。添加完了後、反応物を25℃で3.5時間撹拌させた。反応混合物を酢酸エチル(3×30mL)で抽出し、有機画分を合わせ、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、蒸発させた。溶離液としてヘキサン:酢酸エチル(2:8)を使用するフラッシュクロマトグラフィーによる精製によって、化合物1を無色油状物(1.35g、11.8mmol)としておよび1,3-シクロヘキサンジオール(1.26g、10.8mmol)を単離した。
【0086】
収率:63%;H NMR(300MHz、CDCl):δ(ppm)4.18~4.10(m,1H)、2.93(br s,1H)、2.60(dd,J=14.1,4.2Hz,1H)、2.37(dd,J=13.8,7.5Hz,1H)、2.27(t,J=6.6Hz,2H)、2.09~1.88(m,2H)、1.80~1.55(m,2H);13C NMR(75MHz、CDCl):δ(ppm)210.4,69.8,50.5,41.0,32.8,20.8;MS(ES):[M+H]114.9(12)。
【0087】
1.2.化合物(2)の合成:3,3-ジヒドロペルオキシシクロヘキサン-1-オール
【化10】
【0088】
25mLの丸底フラスコに、アセトニトリル(10.5mL)中のrac-3-ヒドロキシシクロヘキサノン(0.219g、1.92mmol)および酸化レニウム(VII)(0.044g、0.092mmol)を入れた。次いで、50%過酸化水素(0.40mL、7.0mmol)を室温で添加し、40分間撹拌させた。混合物をシリカプラグを通して真空下で濾過し、酢酸エチルで洗浄した。溶液を濃縮し、化合物2を無色油状物(0.313g、1.91mmol)として単離した。
【0089】
収率:100%;H NMR(300MHz、(CDCO):δ(ppm)δ9.99(s,1H)、9.67(s,1H)、3.91~3.63(m,2H)、2.46~2.36(m,1H)、2.13~2.07(m,1H)、1.91~1.82(m,1H)、1.69~1.59(m,1H)、1.53~1.14(m,4H);13C NMR(75MHz、(CDCO):δ(ppm)110.7、67.5、39.6、39.4、35.6、20.4;。
【0090】
1.3.化合物(3)の合成:ジスピロ[アダマンタン-2,3’-[1,2,4,5]テトラオキサン-6’,1”-シクロヘキサン]-3”-オール
【化11】
【0091】
25mLの丸底フラスコに、不活性雰囲気下でジクロロメタン(5.7mL)中、2-アダマンタノン(0.433g、2.88mmol)、酸化レニウム(VII)(0.020g、0.041mmol)を入れた。次いで、アセトニトリル(5.7mL)中の3,3-ジヒドロペルオキシシクロヘキサン-1-オール(0.313g、1.91mmol)を室温で添加し、45分間撹拌した。混合物をシリカプラグを通して真空下で濾過し、酢酸エチルで洗浄した。溶液を濃縮し、ヘキサン:酢酸エチル(7:3)のフラッシュクロマトグラフィーにより精製して、化合物3を白色固体(0.315g、1.06mmol)として単離した。
【0092】
収率:56%;H NMR(300MHz、CDCl):δ(ppm)4.52~4.45(m,1H)、3.11~3.03(m,1H)、2.16~1.67(m,21H);13C NMR(75MHz、CDCl):δ(ppm)110.7、73.2、41.3、37.0、35.8、33.8、33.2、31.0、27.1、25.9;MS(ES):[M+H]297.2(10);[M-テトラオキサン開裂]167.0(100)。
【0093】
1.4.化合物(4)の合成:ジスピロ[アダマンタン-2,3’-[1,2,4,5]テトラオキサン-6’,1”-シクロヘキサン]-3”,5-ジオール
【化12】
【0094】
化合物4の合成のために、出発物質として3,3-ジヒドロペルオキシシクロヘキサン-1-オール(0.141g、0.861mmol)を用いて同じ方法を使用した;しかしながら、2-アダマンタノンを5-ヒドロキシ-2-アダマンタノン(0.216g、1.30mmol)に置き換えた。ヘキサン:酢酸エチル(2:8)でのフラッシュクロマトグラフィーによる精製により、化合物4を白色固体(0.145g、0.464mmol)として単離した。
【0095】
収率:54%;H NMR(300MHz、CDCl):δ(ppm)4.63~4.59(m,1H)、3.18~3.12(m,1H)、2.59~2.39(m,2H)、2.16~1.50(m,18H);13C NMR(100MHz、CDCl):δ(ppm)108.6、74.6、66.7、43.7、42.1、41.5、38.8、34.7、30.4、29.9;MS(ES):[M-テトラオキサン開裂]183.0(100)。元素分析:実測値:C,61.46;H、7.60。C1624は、C、61.52;H、7.74を必要とする。
【0096】
1.5.化合物(5)の合成:ジスピロ[アダマンタン-2,3’-[1,2,4,5]テトラオキサン-6’,1”-シクロヘキサン]-3”-イル(4-ニトロフェニル)カーボネート
【化13】
【0097】
化合物3(0.120g、0.404mmol)をジクロロメタン(1.6mL)に溶解し、その後、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(0.21mL、1.21mmol)および4-ジメチルアミノピリジン(0.0520g、0.421mmol)を溶液に加えた。0℃で、4-ニトロフェニルクロロホルメート(0.168g、0.814mmol)を加え、反応物を不活性雰囲気下で15分間、0℃~室温で10分間および室温で20分間撹拌させた。反応混合物をジエチルエーテル(30mL)で希釈し、5%重硫酸カリウム(10mL)および炭酸水素ナトリウム飽和溶液(5×10mL)で洗浄した。有機相をブライン(1×25mL)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、その後濾過し、濃縮した。ヘキサン:酢酸エチル(9:1)でのフラッシュクロマトグラフィーによる精製により、化合物5を白色固体(0.0416g、0.090mmol)として単離した。
【0098】
収率:22%;H NMR(300MHz、CDCl):δ(ppm)8.28(dd,J=7.2,2.4Hz,2H)、7.39(dd,J=6.9,2.1Hz,2H)、4.93(s,1H)、3.32(br s,1H)、3.13(br s,1H)、2.23~1.57(m,20H);13C NMR(75MHz、CDCl):δ(ppm)155.7、151.7、145.5、125.4、122.0、111.0、75.6、37.0、33.2、30.6、27.1;MS(ES):[M-NO415.2(20)。
【0099】
1.6.化合物(6)の合成:5-ヒドロキシジスピロ[アダマンタン-2,3’-[1,2,4,5]テトラオキサン-6’,1”-シクロヘキサン]-3”-イル(4-ニトロフェニル)カーボネート
【化14】
【0100】
化合物6を同じ方法を用いて調製したが、出発物質は化合物4(0.151g、0.483mmol)であった。ヘキサン:酢酸エチル(1:1)でのフラッシュクロマトグラフィーによる精製により、化合物6を白色固体(0.0996g、0.208mmol)として単離した。
【0101】
収率:43%;H NMR(300MHz、CDCl):δ(ppm)8.28(dd,J=7.2,2.4Hz,2H)、7.36(dd,J=6.9,2.4Hz,2H)、4.76~4.69(m、1H)、3.34~3.26(m、1H)、2.68~1.74(m、20H);13C NMR(75MHz、CDCl):δ(ppm)155.4、150.0、145.5、125.4、121.9、81.9、73.9、41.3、39.8、38.2、34.7、30.6、29.9;。
【0102】
1.7.化合物(8)の合成:2-(ヒドロキシメチル)シクロヘキス-1-エン-1-オン
【化15】
【0103】
10mL丸底フラスコに、水/メタノール(5:1;2:0.5mL)に溶解した水酸化バリウム八水和物(0.0079g、0.0250mmol)を入れ、N-メチルピロリジン(5.5μL、0.0520mmol)を加えた。その後、ホルムアルデヒド(0.12mL、1.56mmol)および化合物7(0.10mL、1.04mmol)を前の溶液に連続的に添加し、反応物を0℃で21時間撹拌させた。反応混合物を、pH=3になるまで塩酸溶液(濃度:1mol/L)でクエンチした。次いで、炭酸水素ナトリウム飽和溶液をpH約7まで添加し、得られた水相をジクロロメタン(3×20mL)で抽出した。有機画分を合わせ、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、蒸発させた。溶離液としてヘキサン:酢酸エチル(4:6)を使用するフラッシュクロマトグラフィーによって精製し、化合物8を無色油状物(0.0706g、0.560mmol)として単離した。
【0104】
収率:54%;H NMR(300MHz、CDCl):δ(ppm)6.93(t,J=4.2Hz,1H)、4.24(q,J=1.2Hz,2H)、2.48~2.35(m,4H)、2.32~2.12(br s,1H)、2.08~1.95(m,2H);13C NMR(75MHz、CDCl):δ(ppm)200.6、147.9、138.2、61.3、38.2、25.6、22.7;MS(ES):[M+H]17(75)。
【0105】
1.8.化合物(9)の合成:(6,6-ジヒドロペルオキシシクロヘキス-1-エン-1-イル)メタノール
【化16】
【0106】
25mL丸底フラスコに、アセトニトリル(3.7mL)中の化合物8(0.0774g、0.614mmol)および酸化レニウム(VII)(0.0171g、0.0353mmol)を入れた。次いで、50%過酸化水素(0.14mL、2.46mmol)を室温で添加し、50分間撹拌させた。混合物をシリカプラグを通して真空下で濾過し、酢酸エチルで洗浄した。溶液を濃縮し、化合物9を無色油状物(0.105g、0.598mmol)として単離した。
【0107】
収率:97%;H NMR(300MHz、(CDCO):δ(ppm)9.97(s,1H)、9.65(s,1H)、4.26~4.13(m,1H)、4.02~3.89(m,1H)、3.71~3.62(m,1H)、2.49~1.25(m,2H)、2.01~1.62(m,4H);13C NMR(75MHz、(CDCO):δ(ppm)145.1、59.5、37.8、26.1、23.8。
【0108】
1.9.化合物(10)の合成:2”-(ヒドロキシメチル)ジスピロ[アダマンタン-2,3’-[1,2,4,5]テトラオキサン-6’,1”-シクロヘキサン]-2”-エン-5-オール
【化17】
【0109】
25mLの丸底フラスコに、不活性雰囲気下で、ジクロロメタン(4.0mL)中、5-ヒドロキシ-2-アダマンタノン(0.338g、2.03mmol)、酸化レニウム(VII)(0.0165g、0.034mmol)を入れた。次いで、アセトニトリル(4.0mL)中の化合物9(0.234g、1.33mmol)を室温で添加し、1時間撹拌した。混合物をシリカプラグを通して真空下で濾過し、酢酸エチルで洗浄した。溶液を濃縮し、ヘキサン:酢酸エチル(2:8)でのフラッシュクロマトグラフィーにより精製して、化合物10を白色固体(0.132g、0.406mmol)として単離した。
【0110】
収率:31%;H NMR(300MHz、CDCl):δ(ppm)4.68~4.59(m,1H)、3.24~3.15(m,1H)、2.49~2.39(m,2H)、2.16~1.68(m,18H);MS(ES):[M+ACN+H]366(30)、[M+Na]347(30)。
【0111】
1.10.化合物(11)の合成:5-ヒドロキシジスピロ[アダマンタン-2,3’-[1,2,4,5]テトラオキサン-6’,1”-シクロヘキサン]-2”-エン-2”-イル)メチル(4-ニトロフェニル)カーボネート
【化18】
【0112】
化合物10(0.126g、0.388mmol)をジクロロメタン(1.53mL)に溶解し、その後、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(0.20mL、1.17mmol)および4-ジメチルアミノピリジン(0.0510g、0.413mmol)を溶液に加えた。0℃で、4-ニトロフェニルクロロホルメート(0.162g、0.788mmol)を加え、反応物を不活性雰囲気下で15分間、0℃~室温で10分間および室温で30分間撹拌した。反応混合物をジエチルエーテル(30mL)で希釈し、炭酸水素ナトリウム飽和溶液(5×30mL)で洗浄した。有機相をブライン(1×25mL)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、その後濾過し、濃縮した。ヘキサン:酢酸エチル(1:1)でのフラッシュクロマトグラフィーによる精製により、化合物11を白色固体(0.0565g、0.115mmol)として単離した。
【0113】
収率:30%;H NMR(300MHz、CDCl):δ(ppm)8.28(dd,J=7.0,2.4Hz,2H)、7.36(dd,J=7.0,2.4Hz,2H)、4.76~4.69(m、1H)、3.34~3.26(m、1H)、2.66~1.77(m、20H)。MS(ES):[M+ACN+Na]553(15)、[M+NH507(100)。
【0114】
実施例2。本発明の化合物(IIa、IIb、IIc、IIdおよびIIe)の合成
2.1.化合物(IIa)の合成:ジスピロ[アダマンタン-2,3’-[1,2,4,5]テトラオキサン-6’,1”-シクロヘキサン]-3”-イル(4-(7-メトキシキノリン-5-イル)アミノ)ペンチル)カルバメート)
【化19】
【0115】
N,N-ジメチルホルムアミド(0.34mL)中のプリマキン・ジホスフェート(0.042g、0.0922mmol)溶液に、トリエチルアミン(12.0μL、0.0866mmol)を加えた。30分後、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール水和物(0.012g、0.0888mmol)を先の溶液に添加し、N,N-ジメチルホルムアミド(0.34mL)中の化合物5(0.0205g、0.0444mmol)を添加した。混合物を室温で一晩撹拌し続けた。次いで、ブライン(20mL)を混合物に加え、酢酸エチル(3×20mL)で抽出した。有機画分を合わせ、蒸留水(1×20mL)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、溶媒を減圧下で除去した。得られた残渣を、溶離液としてヘキサン:酢酸エチル(7:3)を使用する分取薄層クロマトグラフィーによって精製した。化合物IIaを単離した(0.0143g、0.024mmol)。
【0116】
収率:55%;H NMR(300MHz、CDCl):δ(ppm)8.52(dd,J=4.2,1.5Hz,1H)、7.91(dd,J=8.4,1.5Hz,1H)、7.30(dd,J=8.4,4.2Hz,1H)、6.32(dd,J=17.4,2.4Hz,2H)、6.00(br s,1H)、4.82(br s,1H)、4.70(br s,1H)、3.89(s,3H)3.62(br s,1H)、3.18(br s,3H)、2.81(br s,1H)、2.15~1.62(m,24H)、1.30(d,J=6.3Hz,3H);MS(ES):[M+H]582(100)。
【0117】
2.2.化合物(IIb)の合成:1-(tert-ブチル)4-ジスピロ[アダマンタン-2,3’-[1,2,4,5]テトラオキサン-6’,1”-シクロヘキサン]-3”-イル)ピペラジン-1,4-ジカルボキシレート
【化20】
【0118】
N,N-ジメチルホルムアミド(0.27mL)中のboc-ピペラジン(0.014g、0.0752mmol)溶液に、トリエチルアミン(10.0μL、0.0684mmol)を添加した。30分後、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール水和物(0.0098g、0.0704mmol)を先の溶液に添加し、N,N-ジメチルホルムアミド(0.27mL)中の化合物5(0.0158g、0.0342mmol)を添加した。混合物を室温で一晩撹拌し続けた。次いで、ブライン(20mL)を混合物に加え、酢酸エチル(3×20mL)で抽出した。有機画分を合わせ、蒸留水(1×20mL)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、溶媒を減圧下で除去した。得られた残渣を、溶離液としてヘキサン:酢酸エチル(8:2)を使用する分取薄層クロマトグラフィーによって精製した。化合物IIbを単離した(0.0057g、0.011mmol)。
【0119】
収率:33%;H NMR(300MHz、CDCl):δ(ppm)4.91(br s,1H)、3.41(m,8H)、3.12(br s,1H)、3.00~2.56(m,1H)、2.31~1.55(m,20H)、1.46(s,9H)。
【0120】
2.3.化合物(IIc)の合成:ジスピロ[アダマンタン-2,3’-[1,2,4,5]テトラオキサン-6’,1”-シクロヘキサン]-3”-イル(3-ヒドロキシ-2-メチル-6-((2S,4S)-4,5,12-トリヒドロキシ-4-(2-ヒドロキシアセチル)-10-メトキシ-6,11-ジオキソ-1,2,3,4,6,11-ヘキサヒドロテトラセン-2-イル)オキシ)テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)カルバメート
【化21】
【0121】
N,N-ジメチルホルムアミド(0.76mL)中のドキソルビシン塩酸塩(0.112g、0.193mmol)溶液に、トリエチルアミン(27.0μL、0.193mmol)を添加した。30分後、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール水和物(0.027g、0.194mmol)を先の溶液に添加し、N,N-ジメチルホルムアミド(0.76mL)中の化合物5(0.0445g、0.0964mmol)を添加した。混合物を室温で3時間撹拌し続けた。次いで、ブライン(20mL)を混合物に加え、酢酸エチル(3×20mL)で抽出した。有機画分を合わせ、蒸留水(1×20mL)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、溶媒を減圧下で除去した。得られた残渣を、溶離液としてジクロロメタン:メタノール4%を使用する分取薄層クロマトグラフィーにより精製した。化合物IIcと合致する赤色粉末を単離した(0.050g、0.058mmol)。
【0122】
収率:60%;H NMR(400MHz、CDCl):δ(ppm)13.94(d,J=4.4Hz,1H),13.18(s,1H),8.00(d,J=7.6Hz,1H),7.76(t,J=8.0Hz,1H),7.37(d,J=8.4Hz,1H)5.49(br s,1H),5.25(br s,1H),5.13~5.04(m,1H),4.75(s,3H),4.59~4.46(m,1H),4.15-4.09(m,1H),4.06(s,3H)3.83(br s,1H),3.67(br s,1H),3.28~2.85(m,4H),2.77(br s,1H),2.68~2.37(m,1H),2.36~2.26(m,1H)2.24~2.08(m、2H)、2.04~1.57(m、21H)、1.28(d、J=6.8Hz、3H);13C NMR(101MHz、CDCl):δ(ppm)214.0、187.1、186.7、161.1、156.3、155.7、155.1、135.9、135.5、133.7、120.9、119.9、118.6、111.6、111.5、110.8、110.7、100.9、76.769.8,69.6,67.4,65.7,56.8,47.0,37.0,35.8,34.1,33.2,31.1,31.0,30.3,30.2,29.8,27.1,17.0;MS(ES):[M+Na]888(90);HRMS(ESI):m/z[M-H]4450NO17の計算値:864.3084、実測値:864.3062。
【0123】
2.4.化合物(IId)の合成:5-ヒドロキシジスピロ[アダマンタン-2,3’-[1,2,4,5]テトラオキサン-6’,1”-シクロヘキサン]-3”-イル(3-ヒドロキシ-2-メチル-6-(((2S,4S)-4,5,12-トリヒドロキシ-4-(2-ヒドロキシアセチル)-10-メトキシ-6,11-ジオキソ-1,2,3,4,6,11-ヘキサヒドロテトラセン-2-イル)オキシ)テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)カルバメート
【化22】
【0124】
化合物IIdを同じ方法を用いて調製したが、出発物質は化合物6(0.0310g、0.0649mmol)であった。ジクロロメタン:メタノールでの分取薄層クロマトグラフィーによる精製により、4%の化合物IIdを赤色粉末として単離した(0.0429g、0.049mmol)。
【0125】
収率:75%;H NMR(400MHz、DMSO):δ(ppm)13.97(s,1H),13.21(s,1H),7.89~7.80(m,2H),7.59(d,J=7.2Hz,1H),6.56(d,J=8.0Hz,1H),5.39(s,1H)5.17(s,1H),4.86(d,J=6.0Hz,2H),4.84(br s,1H),4.66(d,J=5.6Hz,1H),4.55(d,J=5.6Hz,2H),4.51(br s,1H)4.11(d,J=6.8Hz,2H)、3.95(s,3H)、3.62(br s,2H)、3.44~3.37(m,2H)、3.02~2.82(m,4H)、2.76~2.60(m,1H)、2.45~1.51(m、19H)、1.09(d、J=6.4Hz、3H);13CNMR(101MHz、DMSO):δ(ppm)213.9、186.5、186.4、176.7、160.8、156.1、154.5、154.1、136.2、135.5、134.6、134.1、119.9、119.7、119.0、110.8、110.6、100.4、75.975.0,73.6,69.8,68.1,66.7,63.7,56.6,46.7,40.9,38.5,36.5,34.8,34.7,34.2,32.1,29.8,29.7,29.2,17.0;MS(ES):[M+2ACN+H]964(25)、[M+CH3OH+H]914(45)、[M+Na]904(30);MS(ES-):[M-H]880(35)、[M+HCOOH-H]925(20)。
【0126】
2.5.化合物(IIe)の合成:5-ヒドロキシジスピロ[アダマンタン-2,3’-[1,2,4,5]テトラオキサン-6’,1”-シクロヘキサン]-2”-エン-2”-イル)メチル(3-ヒドロキシ-2-メチル-6-(((1R,3R)-3,5,12-トリヒドロキシ-3-(2-ヒドロキシアセチル)-10-メトキシ-6,11-ジオキソ-1,2,3,4,6,11-ヘキサヒドロテトラセン-1-イル)オキシ)テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)カルバメート
【化23】
【0127】
N,N-ジメチルホルムアミド(0.50mL)中のドキソルビシン塩酸塩(0.0743g、0.128mmol)溶液に、トリエチルアミン(18.0μL、0.128mmol)を添加した。30分後、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール水和物(0.0183g、0.135mmol)を先の溶液に添加し、N,N-ジメチルホルムアミド(0.50mL)中の化合物11(0.0312g、0.064mmol)を添加した。混合物を室温で7時間撹拌し続けた。次いで、ブライン(20mL)を混合物に加え、酢酸エチル(3×20mL)で抽出した。有機画分を合わせ、蒸留水(1×20mL)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、溶媒を減圧下で除去した。得られた残渣を、溶離液としてジクロロメタン:メタノール4%を使用する分取薄層クロマトグラフィー(TLC)により精製した。化合物IIeを赤色粉末として単離した(0.0415g、0.046mmol)。
【0128】
収率:73%;H NMR(400MHz、DMSO):δ(ppm)13.95(s,1H),13.20(s,1H),7.90~7.76(m,2H),7.58(d,J=7.6Hz,1H),6.56(d,J=8.0Hz,1H),5.37(s,1H)5.16(s、1H)、4.91~4.81(m、2H)、4.73~4.61(m、1H)、4.60~4.45(m、4H)、4.11(d、J=7.2Hz、1H)、3.94(s、3H)、3.62(br s,2H)、3.39(br s,2H)、3.04~2.75(m,4H)、2.40~1.50(m,20H)、1.41(d,J=12Hz,1H)、1.09(d,J=6.4Hz,3H);13CNMR(101MHz、DMSO):δ(ppm)213.9、186.5、186.4、176.7、160.8、156.1、154.5、154.1、136.2、135.5、134.6、134.0、119.9、119.7、119.0、110.7、110.6、100.4、75.975.0,73.5,69.8,68.1,66.7,63.7,56.6,46.7,40.9,38.5,36.5,34.8,34.7,34.2,32.1,29.8,29.7,29.2,17.0;MS(ES):[M+H]894(35)、[M+Na]916(70);MS(ES):[M-H]892(40)。
【0129】
実施例3-第1の薬物送達システムの機構論的概念実証
ジクロロメタン中の化合物IIc(0.009mmol)の溶液を、不活性雰囲気下でシュレンク管に添加し、アセトニトリル中の臭化鉄(II)(2当量)およびTEMPO(2当量)を充填した。反応物を室温で24時間撹拌させた。反応混合物を酢酸エチル(10mL)で希釈し、蒸留水(1×10mL)およびブライン(1×10mL)で洗浄した。有機画分を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、溶媒を減圧下で除去した。残渣をUHPLC-MSによって分析した。移動相は、0.1%ギ酸(A)およびアセトニトリル(B)を含有するミリポア水からなり、流速は0.30mL min-1であった。10%Bで1分間、10~95%Bで5分間、および95%Bで4分間からなる勾配溶出を適用し、最後に初期条件(10%B)に5分間戻した。
【0130】
Fe(II)源およびTEMPOを用いたテトラオキサン反応を化合物IIcについて行い、テトラオキサン断片化、およびより重要なことに、シクロヘキサノン誘導体の自発的β-脱離が起こり、ドキソルビシンが遊離することを確認した。
【0131】
この反応のUHPLC-MS分析は、Fe(II)との配位の2つの可能性について、陽性モード([M+H]=324)および陰性モード([M-H]=322;[M-H]=855および[M+CN-H]=881)で2つのTEMPO付加物を検出し、これは、炭素中心ラジカルの形成によるテトラオキサン断片化を確認する(スキーム5)。さらに、提案されたメカニズムに従って、2-アダマンタノン([M+K]=189)およびシクロヘキサノン誘導体([M-H]=682)も同定された。重要なことに、ドキソルビシンも検出され([M+H]=544;[M-H]=542)、シクロヘキサノン誘導体のβ-脱離によるAPI放出が確認された(スキーム6)。
【0132】
スキーム5は、TEMPO付加物を生成する化合物IIcのFe(II)活性化およびTEMPO反応を示す。
【化24】
【0133】
スキーム6は、シクロヘキサノン誘導体による化合物IIc活性化およびドキソルビシン放出を示す。
【化25】
【0134】
実施例4-第2の薬物送達システムの機構論的概念実証
第2の薬物送達システムの第一鉄活性化およびTEMPO捕捉を検証するために、以下のプロトコルを実施した。ジクロロメタン中の化合物IIe(0.0077g、0.009mmol)の溶液を、不活性雰囲気下でシュレンク管に添加し、テトラヒドロフラン中の臭化鉄(II)(2当量)およびTEMPO(2当量)を充填した。反応物を室温で24時間撹拌させた。反応混合物を酢酸エチル(10mL)で希釈し、蒸留水(1×10mL)およびブライン(1×10mL)で洗浄した。有機画分を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、溶媒を減圧下で除去した。残渣をUHPLC-MSによって分析した。移動相は、0.1%ギ酸(A)およびアセトニトリル(B)を含有するミリポア水からなり、流速は0.30mL min-1であった。30%Bで1分間、30~95%Bで5分間、および95%Bで4分間からなる勾配溶出を適用し、最後に初期条件(30%B)に5分間戻した。
【0135】
第2の薬物送達システムの第一鉄活性化およびN-アセチルシステイン(NAC)マイケル添加を検証するために、以下のプロトコルを実施した。テトラヒドロフラン中の化合物IIeの10mMストック溶液250μLをシュレンク管に添加し、不活性雰囲気下で、250μLのミリポア水中の臭化鉄(II)(2当量)およびNAC(1.5当量)を充填した。次いで、100μLの水酸化ナトリウム(濃度6.25mol/L)を添加して、塩基性pHを確保した。反応物を室温で24時間撹拌させた。反応混合物を蒸留水(10mL)で希釈し、酢酸エチル(10mL)で抽出した。水性画分を塩酸(濃度:1mol/L)で酸性化し、酢酸エチル(2×10mL)で抽出した。水相を水酸化ナトリウム(濃度:6.25mol/L)で中和し、酢酸エチル(2×10mL)で抽出した。有機画分を合わせ、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、溶媒を減圧下で除去した。残渣をUHPLC-MSによって分析した。移動相は、0.1%ギ酸(A)およびアセトニトリル(B)を含有するミリポア水からなり、流速は0.30mL min-1であった。30%Bで1分間、30~95%Bで5分間、および95%Bで4分間からなる勾配溶出を適用し、最後に初期条件(30%B)に5分間戻した。
【0136】
化合物IIeは、鉄源およびTEMPO捕捉と反応し、テトラオキサン断片化を確認し、より重要なことに、これらの条件下でドキソルビシンは放出されなかった。
【0137】
この反応のUHPLC-MS分析は、Fe(II)との配位の2つの可能性について、陽性モードで2つのTEMPO付加物([M+H]=340;[M+K]=907)を検出し、これは、炭素中心ラジカルの形成を伴うテトラオキサンフラグメンテーションを確認する(スキーム7)。
【0138】
スキーム7は、TEMPO付加物を生成する化合物IIeのFe(II)活性化およびTEMPO捕捉を示す。
【化26】
【0139】
さらに、提案されたメカニズムに従って、5-ヒドロキシ-2-アダマンタノン([M+NH4]=184;[M+DMSO+H]=245)およびシクロヘキス-2-エノン誘導体([M+K]=734;[M+DMSO+H]=774)も同定された(スキーム7および8)。最後に、この実験では、ドキソルビシンは検出されなかった。
【0140】
スキーム8は、シクロヘキス-2-エノン誘導体を生成する化合物IIeのFe(II)活性化を示す。試薬および条件:(i)臭化鉄(II)、TEMPO、テトラヒドロフラン。
【化27】
【0141】
化合物IIeをFe(II)源およびN-アセチルシステイン(NAC)と反応させて、第2の薬物送達システムのメカニズムを確認した。この反応のUHPLC-MS分析は、陽性モード([M+H]=713および[M+Na]=735)で1つの炭素中心ラジカル(スキーム9)を検出し、Fe(II)との反応時のテトラオキサン断片化を確認した。
【0142】
スキーム9は、炭素中心ラジカルを生成する化合物IIeのFe(II)活性化を示す。
【化28】
【0143】
さらに、第2の薬物送達システムの活性化の第1の工程に従って、シクロヘキス-2-エノン誘導体([M+Na]=718および[M+K]=734)もまた検出された。最後に、ドキソルビシンの放出が検出され、シクロヘキス-2-エノン誘導体へのNACのマイケル付加が起こったため、第2の薬物送達システムの作用メカニズムが検証された(スキーム10)。
【0144】
スキーム10は、ドキソルビシンの検出後に検証された化合物IIeの薬物送達のメカニズムを示す。
【化29】
【0145】
実施例5。マラリアに対する式IIの化合物の生物学的活性の評価
試料の調製
化合物を、AlbuMAXII(Gibco(商標))を補充したL-グルタミン(Biowest(商標))を含むRPMI-1640に溶解し、本明細書では以下RPMIcと称し、100μMの中間体溶液を得た。
【0146】
熱帯熱マラリア原虫インビトロ培養
クロロキンおよびメフロキン感受性株である実験室適応の熱帯熱マラリア原虫株3D7を、他の箇所に記載されるように連続的に培養した(Machado et. al,Ann.Clin.Med.Microbio.2016,2,1010)。寄生虫を5%ヘマトクリット、37℃および5%のCOを含む雰囲気中で培養した。0.5%のAlbuMAXII(Gibco(商標))を、培養培地中のヒト血清の代替物として使用した。
【0147】
抗マラリア活性を全細胞SYBR GreenIアッセイを使用して特定した
ステージングおよび寄生虫血症を、ギムザ染色薄血液塗抹標本の光学顕微鏡検査によって特定した。抗マラリア活性を、SYBR GreenIアッセイを使用して決定した(Machado et. al,Ann.Clin.Med.Microbio.2016,2,1010およびLobo et.al,Malar.J.2018,17,1)。簡潔には、非同期寄生虫を、各化合物の1:3連続希釈の存在下で72時間培養した。蛍光強度をマルチモードマイクロプレートリーダー(Triad,Dynex Technologies)を用いて、それぞれ485および535nmの励起および発光波長で測定し、GraphPad Prismを用いて非線形回帰により分析してIC50値を決定した。
【0148】
化合物IIaおよびIIbは、熱帯熱マラリア原虫のクロロキン感受性3D7株に対して強力であった。化合物IIaおよびIIbは、それぞれ32.82nMおよび11.38nMのIC50を有する(表1)。両方の化合物は、臨床で使用される抗マラリア薬であるクロロキン(CQ)と同程度に強力であった(表1)。
【表1】
【0149】
実施例6。癌治療における式IIの化合物の生物学的活性の評価
PC3ヒト前立腺癌、MCF7ヒト乳腺癌、HCT116ヒト結腸直腸癌およびU251ヒト膠芽腫を、アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)から得た。
【0150】
細胞株を、全て10%(v/v)熱不活化ウシ胎児血清(FBS)および1%(v/v)抗生物質/抗真菌剤溶液(全てGibco,ThermoFisher Scientific,Paisley,UK)を補充した、ロズウェルパーク記念研究所(RPMI)1640(PC3)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM;MCF7およびU251)、マッコイ5A(HCT116)中で接着条件下で培養した。さらに、MCF7培地に1%(v/v)グルタマックス(Gibco)を補充し;U251に1%(v/v)グルタマックスおよび1%(v/v)4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)緩衝液(いずれもGibcoから)を補充した。全ての細胞株を、5%COの加湿雰囲気下、37℃で培養した(HeraCell 150i COインキュベーター、ThermoFisher Scientific)。
【0151】
化合物の阻害能力を定量的に評価するために、半数阻害濃度(IC50)を用量反応曲線によって特定した。細胞株を96ウェルプレートに5000細胞/ウェルの細胞密度でプレーティングし、24時間後、細胞を化合物IIc、IId、IIe、ドキソルビシン、化合物3および化合物10(1.5×10-3ρM~1mMの範囲の濃度)で処理した。72時間のインキュベーション後、細胞代謝活性をMTS代謝の測定によって評価した。生存細胞(代謝的に活性な細胞)はMTSをホルマザンに代謝し、この分子を吸光度によって定量する。ホルマザンの量が多いほど、化合物への曝露後に生存する細胞が多くなり、ホルマザンの量が少ないほど、代謝的に活性でない細胞が多くなる。
【0152】
全てのアッセイについて、細胞代謝活性をCell Titer96(登録商標)Aqueous Non-Radioactive Cell Proliferation Assay(MTS;Promega,Madison,WI,USA)を用いて測定し、吸光度シグナルをGloMax(登録商標)-MultiDetection System(Promega)を用いて記録した。GraphPad Prism 8.0.2ソフトウェア(San Diego,CA,USA)を使用して、IC50決定およびすべての統計分析を行った。全てのデータは、少なくとも3回の独立した実験からの平均値±SEMとして表される。シャピロ・ウィルク検定、一元配置分散分析またはクラスカル・ウォリス検定で評価した値分布の正規性に従って、次いでボンフェローニまたはダン多重比較検定を使用して、試料群間の差異を評価した。0.05未満のp値を有意とみなした。
【0153】
全ての化合物を、単独で、および適切な用量で、癌細胞株のパネルで試験し、結果を表2に示す。
【0154】
表2から観察することができるように、化合物IIcは、サブマイクロモル範囲であったU251細胞株を除いて、マイクロモル範囲の全ての細胞株において強力であった。さらに、化合物IIcは、ドキソルビシン単独よりも効力が低かった。
【0155】
化合物IIdもまた、以前に使用された癌細胞株(U251、PC3、MCF7およびHCT116)で試験された。親油性の点での違いにもかかわらず、化合物IIdもまた、マイクロモル範囲で強力であり、ドキソルビシンよりも強力ではなかった。
【0156】
化合物(3)を対照として試験して、癌細胞に対する化合物IIcおよびIIdの効力が化合物(3)にカップリングしたAPIに依存することを実証した。化合物(3)は化合物IIcおよびIIdの中心構造を表すので、この化合物を選択した。
【0157】
化合物(3)は、試験した細胞株に対して活性ではなかった。これらの結果は、化合物IIcおよびIIdの効力が、テトラオキサン構造ではなく、システム中でカップリングしたAPIに依存することを示す。
【0158】
化合物IIeは、全ての癌細胞株においてマイクロモル範囲で強力であった。化合物IIeは、評価した全ての癌細胞株においてドキソルビシンよりも効力が低かった。
【0159】
化合物(10)を対照として試験して、癌細胞に対する化合物IIeの効力が化合物(10)にカップリングしたAPIに依存することを実証した。化合物10は化合物IIeの中心構造を表すので、この化合物を選択した。
【0160】
化合物(10)は、試験した全ての細胞株において活性ではなかった(表2)。したがって、これらの結果は、テトラオキサン足場が細胞毒性を有さず、化合物IIeの活性の寄与因子がシステムにカップリングされたAPI、この場合はドキソルビシンであることを証明している。
【表2】
【0161】
実施例7。非腫瘍細胞に対する毒性における式IIの化合物の効果の評価
ドキソルビシンの毒性効果を評価するために、化合物IIc、IId、IIeおよびドキソルビシンを非腫瘍性細胞株(AML12)で試験し、結果を表3に示す。AML12マウス不死化肝細胞株を、European Collection of Authenticated Cell Cultures(Porton Down,UK)から入手した。AML12細胞株を、10%(v/v)熱不活化ウシ胎児血清(FBS;Gibco)、1%(v/v)抗生物質/抗真菌剤溶液(Gibco)、1%(v/v)インスリン-トランスフェリン-セレン(Gibco)および40ng/mLのデキサメタゾン(Sigma-Aldrich,St.Louis,MO,USA)を補充したDMEM/栄養混合物F-12(Gibco,Thermo Fisher Scientific,Paisley,UK)中で接着条件下で培養した。この細胞株を、5%COの加湿雰囲気下、37℃で培養した(HeraCell 150i COインキュベーター、ThermoFisher Scientific)。AML12細胞を96ウェルプレートに5000細胞/ウェルの細胞密度でプレーティングし、24時間後、細胞を化合物IIc、IId、IIeおよびドキソルビシン(1.5×10-3ρM~1mMの範囲の濃度)で処理した。細胞代謝活性を、Cell Titer96(登録商標)Aqueous Non-Radioactive Cell Proliferation Assay(MTS;Promega,Madison,WI,USA)を使用して72時間後に測定し、吸光度シグナルをGloMax(登録商標)-MultiDetection System(Promega)を使用して記録した。GraphPad Prism 8.0.2ソフトウェア(San Diego,CA,USA)を使用して、IC50決定およびすべての統計分析を行った。全てのデータは、少なくとも3回の独立した実験からの平均値±SEMとして表される。シャピロ・ウィルク検定、一元配置分散分析またはKruskal-Wallis検定、次いでボンフェローニまたはダン多重比較検定で評価した値分布の正規性に従って、試料群間の差異を評価した。0.05未満のp値を有意とみなした。
【0162】
表3から、化合物IIcおよびIIdの両方がドキソルビシンより低い毒性を誘導できたことが観察できる。興味深いことに、化合物IIcは、ドキソルビシンと比較した場合、10倍毒性が低かった。しかしながら、AML12細胞は化合物IIdに対して高度に耐性であり、IC50比は4294であった。
【0163】
結論として、本発明による第1の薬物送達システムは、ドキソルビシンの毒性を低減することができる。
【0164】
表3から、化合物IIeは非腫瘍性細胞においてドキソルビシンよりも毒性が低いことが観察できる。興味深いことに、化合物IIeは、ドキソルビシンと比較した場合、180倍毒性が低かった。したがって、第2の薬物送達システムは、ドキソルビシンに関連する毒性を低減することができる。
【表3】
【0165】
実施例8。鉄に依存する生物学的活性の評価
鉄競合アッセイのために、HCT116細胞を、1μMのDFO(図1のカラム#2)、10μMの化合物IId(図1のカラム#3)、および10μMの化合物IIdと1μMのDFO(図1のカラム#4)とともに、インキュベートした。さらに、HCT116細胞を、1μMのDFO(図2のカラム#2)、10μMの化合物IIe(図2のカラム#3)および10μMの化合物IIeと1μMのDFO(図2のカラム#4)とともに、インキュベートした。24時間のインキュベーション後、細胞代謝活性を測定した。細胞代謝活性を、Cell Titer96(登録商標)Aqueous Non-Radioactive Cell Proliferation Assay(MTS;Promega,Madison,WI,USA)を用いて測定し、吸光度シグナルをGloMax(登録商標)-MultiDetection System(Promega)を用いて記録した。GraphPad Prism 8.0.2ソフトウェア(San Diego,CA,USA)を使用して、IC50決定およびすべての統計分析を実施した。全てのデータは、少なくとも3回の独立した実験からの平均値±SEMとして表される。シャピロ・ウィルク検定、一元配置分散分析またはクラスカル・ウォリス検定、次いでボンフェローニまたはダン多重比較検定で評価した値分布の正規性に従って、試料群間の差異を評価した。0.05未満のp値を有意とみなした。
【0166】
化合物IIdを、HCT116細胞中で第一鉄キレート剤(メシル酸デフェロキサミン-DFO)と共にインキュベートした。化合物IId単独(図1のカラム#3)と比較した場合、化合物IIdの効力の有意な減少が検出された(図1のカラム#4)。したがって、化合物IIdによる細胞死は鉄依存性である。化合物IIeを、HCT116細胞中で鉄キレート剤DFOと共にインキュベートした。化合物IIe単独(図2のカラム#3)と比較した場合、化合物IIeの効力のわずかな低下(7%)が検出された(図2のカラム#4)。おそらく、化合物IIeは、記載されるようにFe(II)によって活性化されるが、細胞毒性の主要な寄与因子は、シクロヘキス-2-エノン誘導体とグルタチオンとの反応(マイケル付加)に関連し、脱離によるAPIの放出を可能にする(実施例4参照)。シクロヘキス-2-エノン誘導体は、Fe(II)によるテトラオキサン活性化後にのみ利用可能になるアルケン基を有し、これは、第1の薬物送達システムと比較して選択性を改善することを可能にする。
【0167】
実施例9。腫瘍マーカーとしての式IIの化合物の生物学的活性の評価
量子収率の決定
紫外線(UV)スペクトルをThermo Scientific Evolution 201 UV-可視分光光度計で追跡した。SHIMADZU Spectro蛍光光度計RF-6000機器で蛍光測定を行った。蛍光量子収率は、0.1M水酸化ナトリウム中のフルオレセインを標準として測定した(Φf=0.95)。すべての溶媒は分析試薬グレードであり、Alfa AcerまたはSigma-Aldrichから購入した。ドキソルビシンは蛍光特性を有する。30%ジメチルスルホキシド(DMSO)を含む水中の化合物IIc、IIdおよびドキソルビシンの希釈溶液を調製した。ドキソルビシンの量子収率は2.8%であり、化合物IIcおよびIIdの量子収率は1%未満であった。
【0168】
化合物細胞局在化のための蛍光イメージング
HCT116細胞を、ガラスカバースリップ上で2.5×10細胞/mlの細胞密度で35mm皿にプレーティングした。プレーティングの24時間後、細胞をシステムコントロール(DMSO)または1μMの化合物IIdまたはドキソルビシンとともにさらに24時間インキュベートした。細胞を1×リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で穏やかに洗浄し、4%パラホルムアルデヒド(PFA)、pH7.4、室温で固定した。固定した細胞をヘキスト色素33258(5μg/mL)と共に暗所で10分間インキュベートした。細胞を1×PBSで3回洗浄し、7μLのMowiol(登録商標)を含むガラススライドにマウントした。画像を、AxioCam HR R3カメラと連結したZeiss Axio Scope.A1顕微鏡で取得し、Zen Software 2012 Blue Edition(Carl Zeiss Microscopy, GmbH)で画像を分析した。
【0169】
ドキソルビシンの光ルミネセンス特性は、式IIの薬物送達システムにおいて消失される(量子収率1%未満)。したがって、次に本発明者らは、細胞における化合物IIdの細胞局在を調査した。興味深いことに、HCT116細胞における蛍光イメージングは、24時間のインキュベーション後、ドキソルビシンが核に蓄積する一方(図3BCおよびBD)、化合物IIdは活性化され、不安定な鉄プールが上昇する脂肪質においてドキソルビシンを放出した(図3CCおよびCD)ことを示した。
【0170】
実施例10-第1の薬物送達システムのインビボ検証
化合物IIdの抗腫瘍効果を異種移植マウスモデルにおいて試験した。免疫不全状態のFoxn1nu/nuマウスは、右側腹部にPBS(リン酸緩衝食塩水)溶液(100μL)に懸濁した結腸直腸癌細胞株(2×10HT-29細胞)の皮下注射を受けた。腫瘍塊が触知可能になったとき、治療を開始した。群あたり5匹のマウスを有する4つの群を確立した:陰性対照群-いかなる治療も受けなかったマウス;ビヒクル対照-クレモホールをPBS(リン酸緩衝生理食塩水)溶液(化合物IIdを可溶化するために使用した溶媒)中に投与したマウス;IId-試験中の化合物を投与されたマウス;ドキソルビシン-PBS(リン酸緩衝生理食塩水)溶液に可溶化されたドキソルビシンを投与したマウス。全ての試験製剤を、2mg/kg体重の治療用量で合計8回の注射で尾静脈に静脈内投与した。マウスに投与される用量は、化合物の質量と動物の体重との間の比によって確立された。腫瘍サイズは、デジタルキャリパーを用いて定期的にモニタリングした。それぞれの腫瘍体積を以下の式に従って計算した:V(mm)=(L×W)/2、式中、LおよびWはそれぞれ腫瘍の最長軸および最短軸を表す。各動物について相対腫瘍体積も決定した:指定日の体積と治療開始時の体積との比。体重も定期的に評価した。
【0171】
化合物IIdおよびドキソルビシンで治療したマウスは、陰性対照群およびビヒクル対照と比較して、腫瘍質量がより減少した(図4)。また、腫瘍質量の減少は、化合物IIdで治療したマウスの方が高かった(図4)。化合物IIdの分子量は、ドキソルビシンの分子量よりも30%高い。したがって、化合物IIdから放出されたドキソルビシンのモル数は、ドキソルビシン単独投与のモル数と比較して30%低かった。おそらく、動物に同じモル数の両方の化合物を投与する実験は、化合物IIdとドキソルビシンとの間の腫瘍質量の減少においてより高い差異をもたらし得る。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】