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特表2024-5446016-arm構造の化合物を含む形状記憶高分子およびその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-03
(54)【発明の名称】6-arm構造の化合物を含む形状記憶高分子およびその用途
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/664 20060101AFI20241126BHJP
   C08G 63/82 20060101ALI20241126BHJP
   C08G 63/78 20060101ALI20241126BHJP
   C08G 63/06 20060101ALI20241126BHJP
   C08F 299/04 20060101ALI20241126BHJP
   C08G 63/08 20060101ALI20241126BHJP
   C08F 2/46 20060101ALI20241126BHJP
   A61L 31/04 20060101ALI20241126BHJP
   A61L 31/06 20060101ALI20241126BHJP
   C08F 8/00 20060101ALN20241126BHJP
【FI】
C08G63/664
C08G63/82
C08G63/78
C08G63/06
C08F299/04
C08G63/08
C08F2/46
A61L31/04 110
A61L31/06
C08F8/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024531047
(86)(22)【出願日】2022-11-23
(85)【翻訳文提出日】2024-07-19
(86)【国際出願番号】 KR2022018588
(87)【国際公開番号】W WO2023096334
(87)【国際公開日】2023-06-01
(31)【優先権主張番号】10-2021-0162378
(32)【優先日】2021-11-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.IRGACURE
(71)【出願人】
【識別番号】521141040
【氏名又は名称】ティーエムディー ラブ カンパニー,リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パク,ジュ ヨン
(72)【発明者】
【氏名】リー,カン ソク
(72)【発明者】
【氏名】イ,セ ウォン
(72)【発明者】
【氏名】カン,ミ-ラン
【テーマコード(参考)】
4C081
4J011
4J029
4J100
4J127
【Fターム(参考)】
4C081AC03
4C081AC09
4C081CA08
4C081CA17
4C081CC04
4C081DA16
4J011AA05
4J011AC04
4J011QB14
4J011TA07
4J011UA01
4J011VA01
4J011WA09
4J029AA02
4J029AB04
4J029AC05
4J029AE06
4J029EG01
4J029EG02
4J029EG05
4J029EG07
4J029EG09
4J029GA90
4J029GA92
4J029JB121
4J029JB122
4J029JB171
4J029JB242
4J029JC261
4J029JC331
4J029JF181
4J029JF371
4J029KE17
4J029KH01
4J100HA53
4J100HE14
4J100HE22
4J100HG23
4J100JA51
4J127AA01
4J127AA02
4J127AA04
4J127BB041
4J127BB081
4J127BB221
4J127BC061
4J127BD141
4J127BE311
4J127BE31Y
4J127BF131
4J127BF13X
4J127BF471
4J127BF47X
4J127BG141
4J127BG14Y
4J127BG181
4J127BG18X
4J127EA12
4J127FA43
(57)【要約】
本発明は、6-arm構造を有する形状記憶高分子およびその用途に関し、本発明による形状記憶高分子は、架橋により形状記憶特性を示し、単量体の調節を通じて形状回復温度の調節が可能であり、生体適合性物質であって、血管外壁支持体のような医療用素材として開発が可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の化学式(1)で表される化合物:
【化1】

前記化学式(1)において、
xおよびyは、互いに独立して、1~20の整数であり、
mおよびnは、反復単位のモル%を示し、
m+nは、100であり、mは、70~99である。
【請求項2】
前記化合物は、架橋により形状記憶特性を有することを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記化合物は、架橋後、35~58℃温度で平均形状回復能が90%以上であることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
ジペンタエリスリトール(dipentaerythritol)、カプロラクトン(caprolactone)およびグリシジルメタクリレート(glycidyl methacrylate)を反応させる段階を含むことを特徴とする請求項1に記載の化合物の製造方法。
【請求項5】
前記反応は、開環重合反応であることを特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記反応は、
1,5,7-トリアザビシクロ(4.4.0)デカ-5-エン(1,5,7-Triazabicyclo(4.4.0)dec-5-ene)、2-エチルヘキサン酸スズ(II)(tin(II)(2-ethylhexanoate))、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)(trimethylolpropane
tris(3-mercaptopropionate))およびコハク酸亜鉛(Zinc succinate)から成る群から選ばれる触媒の存在下に反応させることを特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【請求項7】
80~140℃で反応させることを特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の化合物が架橋された形状記憶高分子。
【請求項9】
請求項4から7のいずれか一項に記載の製造方法によって製造された請求項1に記載の化合物に架橋反応を誘導する段階をさらに含む、形状記憶高分子の製造方法。
【請求項10】
前記架橋反応は、光架橋または熱架橋反応であることを特徴とする請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
請求項1から3のいずれか一項に記載の化合物を含む医療用素材。
【請求項12】
前記医療用素材は、血管移植用支持体または血管移植用ステントであることを特徴とする請求項11に記載の医療用素材。
【請求項13】
前記血管移植用支持体は、動静脈瘻形成術時にside-to-endモデルで移植された自己静脈と動脈を囲んで配置されるように設けられる血管外壁支持体であることを特徴とする請求項12に記載の医療用素材。
【請求項14】
前記血管外壁支持体は、U字形状(U-shape)の吻合器であることを特徴とする請求項13に記載の医療用素材。
【請求項15】
前記血管外壁支持体は、動脈支持部および移植静脈支持部を含み、動静脈吻合部位の接線の角度は、30°~90°であることを特徴とする請求項13に記載の医療用素材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、6-arm構造の化合物を含む形状記憶高分子およびその用途に関し、より詳細には、架橋により形状記憶特性を示し、単量体の調節を通じて形状回復温度の調節が可能な6-arm構造の化合物を含む形状記憶高分子およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
慢性腎不全は、老廃物を除去する腎臓の機能が減少し、正常に回復できない段階の疾患であり、腎臓機能の減少程度によって治療方法が変わる。特に腎不全の段階がひどくなると、代替療法で透析を通じて血液中に蓄積された老廃物を除去したり腎臓を移植したりしなければならず、したがって、最近、慢性腎不全患者が増加し、血液透析患者数が持続的に増加している。
【0003】
血液透析は、血液が分当たり200~500mLの速度で透析膜を通過した後、患者の血管に戻る過程であり、末梢血管を介して多くの血液の移動および透析が不可能であるという問題点があり、手術当時に患者の血管状態によって人工血管を用いて超音波で透析路を形成することもあるが(arteriovenous graft,AVG)、一般的には、動脈と静脈を連結する動静脈瘻形成術(arteriovenous fistula,AVF)を用いて血液透析が行われる。動静脈瘻は、通常、手首部位、上肢近位部などに形成するが、自己静脈で動静脈瘻形成術を行うと、動脈圧によって静脈の血管直径が大きくなり、静脈が熟成し、これにより、静脈がリモデリングされ、持続的な透析が可能になる。
慢性腎不全患者が腎臓移植を受けない場合には、一生の間動静脈瘻を通じて持続的な血液透析を受けなければならないので、動静脈瘻を長期間使用するためには、血管管理が必要である。この場合、適切に血管管理が行われないと、動静脈瘻合併症(狭窄、血栓、感染、仮性動脈瘤、出血、静脈圧の増加、鬱血性心不全、盗血症候群、虚血性単肢神経障害など)が現れることがあり、動静脈瘻の合併症が頻繁に発生すると、再手術が避けられないか、入院回数が増えることになり、その結果、患者の生活の質が低下し、医療費の支出も高めることになる。特に自己静脈を用いた動静脈瘻形成術の場合、動脈と静脈の物性の差異と強い動脈血によって動脈と静脈の接合部位で渦流が発生し、血栓の形成を引き起こし、結局、狭窄と浮腫を引き起こす。したがって、透析時に動静脈瘻の使用を延長するための合併症予防方法および装置が必要である。
韓国登録特許第10-1906472号と第10-2208921号には、形状記憶高分子とその製造方法、その医療用素材としての用途が開示されているが、単量体の調節を通じて形状回復温度の調節が可能であり、動静脈瘻形成術に特に適合した医療用素材としての活用方法に関する開示は全くない。
【0004】
これより、本発明者らは、このような従来技術の問題点に着目し、従来形状記憶高分子を血管管理に特に適合した素材に改良するために鋭意努力し、その結果、本発明のように、6-arm構造で化合物を合成する場合、架橋による形状記憶特性と共に、単量体の調節を通じて形状回復温度の調節が可能であり、このような形状記憶高分子を医療用素材に活用すると、血管を外側から包む方式で物理的、生物学的な観点から血管が詰まるのを予防できる血管外壁支持体の製作が可能であることを確認することによって本発明を完成した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、6-arm構造を有する新規の化合物、その製造方法およびその用途
を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明は、下記の化学式(1)で表される化合物を提供する:
【化1】

前記化学式(1)において、
xおよびyは、互いに独立して、1~20の整数であり、
mおよびnは、反復単位のモル%を示し、
m+nは、100であり、mは、70~99であってもよい。
本発明において、前記化合物は、架橋により形状記憶特性を有することを特徴とする。
本発明において、前記化合物は、35~58℃温度で平均形状回復能が90%以上であることを特徴とする。
本発明は、また、ジペンタエリスリトール(dipentaerythritol)、カプロラクトン(caprolactone)およびグリシジルメタクリレート(glycidyl methacrylate)を反応させる段階を含む前記化合物製造方法を提供する。
本発明において、前記反応は、開環重合反応であることを特徴とする。
本発明において、前記反応は、1,5,7-トリアザビシクロ(4.4.0)デカ-5
-エン(1,5,7-Triazabicyclo(4.4.0)dec-5-ene)、2-エチルヘキサン酸スズ(II)(tin(II)(2-ethylhexanoate))、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)(trime
thylolpropane tris(3-mercaptopropionate))および コハク酸亜鉛(Zinc succinate)から成る群から選ばれる触媒
の存在下に反応させることを特徴とする。
本発明において、前記製造方法は、ジペンタエリスリトール(dipentaerythritol)、カプロラクトン(caprolactone)およびグリシジルメタクリレート(glycidyl methacrylate)を80~140℃で反応させることを特徴とする。
本発明は、また、前記化合物が架橋された形状記憶高分子を提供する。
本発明は、また、前記製造方法によって製造された化合物の架橋反応を誘導する段階をさらに含む形状記憶高分子の製造方法を提供する。
本発明において、前記架橋反応は、光架橋または熱架橋反応であることを特徴とする。
本発明は、また、前記化合物を含む医療用素材を提供する。
本発明において、前記医療用素材は、血管移植用支持体または血管移植用ステントであることを特徴とする。
本発明において、前記血管移植用支持体は、動静脈瘻形成術時にside-to-endモデルで移植された自己静脈と動脈を囲んで配置されるように設けられる血管外壁支持体であることを特徴とする。
本発明において、前記血管外壁支持体は、U字形状(U-shape)の吻合器であることを特徴とする。
本発明において、前記血管外壁支持体は、動脈支持部および移植静脈支持部を含み、動静脈吻合部位の接線の角度は、30°~90°であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明による6-arm形態の化合物は、架橋により形状記憶特性を示す温度ベースの形状記憶高分子で製造することができ、単量体の調節を通じて形状回復温度の調節が可能であり、生体適合性で医療用素材として開発が可能である。特に、本発明化合物を架橋することで、動静脈瘻形成術時に移植された自己静脈の熟成を助け、異常血流の発生を最小化し、血流の流れを円滑にすることができる血管外壁支持体の製作が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の一部の実施例による6-arm形態の構造を有する化合物の合成メカニズムを示す図である。
図2図2は、本発明の一部の実施例による6-arm形態の構造を有する化合物の構造分析のためのH-NMR結果である。
図3図3は、本発明の一部の実施例による6-arm形態の構造を有する化合物の分子量分析のためのGPCグラフである。
図4図4は、本発明の一部の実施例による6-arm形態の構造を有する化合物の形状記憶高分子への架橋前の溶融温度(a)および結晶化温度(b)を確認したDSC測定グラフである。
図5図5は、本発明の一部の実施例による6-arm形態の構造を有する化合物の形状記憶高分子への架橋後の溶融温度(a)および結晶化温度(b)を確認したDSC測定グラフである。
図6図6は、本発明の一部の実施例による形状記憶高分子架橋後の機械的物性をUTM測定を通じて分析したグラフである。
図7図7は、本発明の一部の実施例による形状記憶高分子架橋後の形状記憶特性をDMA測定を通じて分析した結果である。
図8図8は、本発明の一部の実施例による形状記憶高分子架橋後の形状記憶特性を示す写真である。
図9図9は、形状記憶血管外壁支持体機構の模式図と動脈(artery)、静脈(vein)の配置の模式図である。
図10図10は、静脈の吻合部の角度による血流変化を分析した結果であって、図10aは、動静脈瘻モデリングのtoe、heel、floor area分析結果を、図10bは、U shape模型で血流分析結果を示す。
図11図11は、本発明の一部の実施例による血管外壁支持体の模式図であって、図11aは、血管外壁支持体を側面から見た様子、図11bは、血管外壁支持体の下面から見た様子を示す。
図12図12は、本発明の一部の実施例による形状記憶高分子で製作された血管外壁支持体を示す。
図13図13は、本発明の一部の実施例による形状記憶高分子で製作された血管外壁支持体の円周引張強度を4-arm形態の構造を有する化合物を架橋した形状記憶高分子で製作された血管外壁支持体の円周引張強度と比較した結果である。
図14図14は、加圧破裂強度を測定するための測定装置(a)および本発明の一部の実施例による形状記憶高分子で製作された血管外壁支持体の加圧破裂強度を4-arm形態の構造を有する化合物を架橋した形状記憶高分子で製作された血管外壁支持体の加圧破裂強度と比較した結果(b)を示す。
図15図15は、血管壁に本発明の一部の実施例による形状記憶高分子で製作された血管外壁支持体を包む場合、静脈の構造変化を示すコンピュータモデリング結果である。
図16図16は、イヌの大腿動脈と大腿静脈のend-to-side吻合を通じて製作された動静脈瘻動物モデルを示す。
図17図17は、血管吻合術後3ヶ月、6ヶ月に本発明の一部の実施例による形状記憶高分子で製作された血管外壁支持体の有無による開通性および血流パターンをドップラー超音波検査で確認した結果である。
図18図18は、血管吻合術後6ヶ月に本発明の一部の実施例による形状記憶高分子で製作された血管外壁支持体の有無による吻合形態と開通性を血管造影術で確認した結果である。
図19図19は、血管吻合術後6ヶ月に本発明の一部の実施例による形状記憶高分子で製作された血管外壁支持体の有無による吻合部位の静脈における組織病理学的分析結果である。黒色-弾性線維および核、黄色-コラーゲン、薄青色-ムチン、赤色-筋肉
【発明を実施するための形態】
【0009】
特段の定義がない限り、本明細書において使用されたすべての技術的および科学的用語は、本発明の属する技術分野における熟練した専門家によって通常的に理解されるのと同じ意味を有する。一般的に、本明細書において使用された命名法および以下に記述する実験方法は、本技術分野においてよく知られており、通常的に使用されるものである。
本発明において「形状記憶高分子(SMP,shape memory polymer)」とは、特定の条件で任意の物体を一定の形状を有するように作ると、その後、外部的衝撃によって形状が変わったとしても、当該物体を最初と同じ条件(温度、光、pH、湿度など)にすると、さらに元の形状に戻る性質を有する高分子を意味する。
本発明において、「含む」または「有する」などの用語は、明細書上に記載された特徴、数字、段階、動作、構成要素、部品またはこれらを組み合わせたものが存在することを指定しようとするものであって、1つまたはそれ以上の他の特徴や数字、段階、動作、構成要素、部品またはこれらを組み合わせたものの存在または付加可能性をあらかじめ排除しないものと理解すべきである。
【0010】
本発明では、ジペンタエリスリトール(dipentaerythritol)と共にイプシロン-カプロラクトン(ε-CL)とグリシジルメタクリレート(GMA)を反応
させる場合、ポリカプロラクトン(polycaprolactone)ベースの新規の化合物を合成することができ、架橋を通じて前記化合物の高分子鎖と鎖の間でネットワークを形成させる場合、優れた形状記憶特性が付与され、単量体を調節する場合、形状回復温度の調節も可能であるという点を確認した。
したがって、本発明は、一態様において、下記の化学式(1)で表される化合物に関する:
【化1】

前記化学式(1)において、
xおよびyは、互いに独立して、1~20の整数であり、
mおよびnは、反復単位のモル%を示し、
m+nは、100であり、mは、70~99である。
本発明化合物は、これを構成するε-カプロラクトン単量体とグリシジルメタクリレート単量体の量によって形状回復温度などを調節することができる。
より具体的には、前記化学式(1)において、xおよびyは、互いに独立して、1~20の整数であり、これは、化学式(1)の化合物を合成する段階のラクトン系単量体と開始剤の炭素数により調節することができる。
例えば、イプシロンカプロラクトン(ε-CL)を使用する場合、xは、3であってもよく、ジペンタエリスリトール(dipentaerythritol)を使用する場合、yは、1であってもよい。また、イプシロンカプロラクトン(ε-CL)の代わりにα
-acetolactone、β-propiolactone、γ-butyrolactone、δ-valerolactoneなどの単量体を用いてxの数字を調節することができ、ジペンタエリスリトール(dipentaerythritol)の代わりに6arm PEGなどの開始剤を用いてyの数字を調節することができる。本発明においてx、yは、本技術分野における通常の技術者が容易に調節することができる。
また、前記化学式(1)において、mおよびnは、反復単位のモル%を示し、m+nは、100であり、xは、70~99、または88~96、または92~96、または94~96であってもよい。
ここで、モル%というのは、mおよびnの反復単位の割合を意味し、具体的には、モル分率(ratio)を意味する。一例として、PCL-co-PGMAにおいてPCLとPGMAの反復単位のモル分率を意味する。
本発明において、前記化合物は、架橋により形状記憶特性を有することを特徴とする。
本発明において、前記化合物は、架橋後35~58℃の温度、または35~58℃の任意の範囲、または35~58℃の任意の温度、例えば、約35℃、約36℃、約37℃、約38℃、約39℃、約40℃、約41℃、約42℃、約43℃、約44℃、約45℃、約46℃、約47℃、約48℃、約49℃、約50℃、約51℃、約52℃、約53℃、約54℃、約55℃、約56℃、約57℃または約58℃で平均形状回復能が90%以上、例えば、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%または約100%であることを特徴とするが、これらに限定されない。
【0011】
本発明化合物は、α-acetolactone、β-propiolactone、γ-butyrolactone、δ-valerolactoneまたはε-caprolactone単量体をグリシジル基を含むアクリル単量体および開始剤とともに反応させて製造することができる。
例えば、本発明化合物は、ジペンタエリスリトール(dipentaerythritol)、カプロラクトン(caprolactone)およびグリシジルメタクリレート(glycidyl methacrylate)を開環重合反応させて製造することができる。
この場合、触媒を添加したり、重合転化率が殆どない初期反応時に開始剤とともにまたは同時に重合抑制剤を添加し、温度に敏感なグリシジルメタクリレートグループ間の反応を抑制させることにより反応性を向上させることができる。
したがって、本発明は、さらに他の態様において、ジペンタエリスリトール(dipentaerythritol)、カプロラクトン(caprolactone)およびグリシジルメタクリレート(glycidyl methacrylate)を反応させる段階を含む、前記化合物製造方法に関する。
【0012】
本発明において、前記反応は、開環重合反応であることを特徴とする。
本発明において、前記反応は、1,5,7-トリアザビシクロ(4.4.0)デカ-5-エン(1,5,7-Triazabicyclo(4.4.0)dec-5-ene)、2-エチルヘキサン酸スズ(II)(tin(II)(2-ethylhexanoate))、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)(trim
ethylolpropane tris(3-mercaptopropionate))およびコハク酸亜鉛(Zinc succinate)から成る群から選ばれる触媒の存在下に反応させることを特徴とするが、これらに限定されるものではない。
特に、2つの単量体(CL、GMA)の同時開環重合を誘導するための物質として、前記化合物の合成時間を短縮させることができる1,5,7-トリアザビシクロ(4.4.0)デカ-5-エン(1,5,7-Triazabicyclo(4.4.0)dec-5-ene)を触媒に使用することが好ましい。
【0013】
本発明では、初期反応時に、すなわち、グリシジルメタクリレートを投入する前に、開始剤および/または重合抑制剤を投入し、メタクリレートグループ間の反応を抑制させることができる。
これに加えて、重合抑制剤は、重合後半に局部的に発生する発熱反応の抑制と未反応残留ラジカルを除去して反応を終結させる役割をする。
このように開始剤と重合抑制剤を単量体であるカプロラクトン(caprolactone)およびグリシジルメタクリレート(glycidyl methacrylate)と約110℃で約6時間反応させると、単量体にある環構造がオープンされ、6個のアームを有するポリカプロラクトン-ポリグリシジルメタクリレート(6arm PCL-PGMA)共重合体が合成される。
本発明において、前記開始剤は、ジペンタエリスリトール(dipentaerythritol)であることを特徴とし、具体的には、本発明は、前記開始剤の初期添加によって6個のアームを有するポリカプロラクトン-ポリグリシジルメタクリレート(6-arm PCL-PGMA)共重合体が合成されることを特徴とする。
本発明において、前記重合抑制剤は、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル(hydroquinone monomethyl ether)、パラ-ベンゾキノン(p-benzoquinone)およびフェノチアジン(phenothiazine)から成る群から選択される1種以上を使用することができるが、これらに限定されるものではない。好ましくは、前記重合抑制剤は、ヒドロキノン(hydroquinone)であってもよい。
本発明において、前記製造方法は、ジペンタエリスリトール(dipentaerythritol)、カプロラクトン(caprolactone)およびグリシジルメタクリレート(glycidyl methacrylate)を80~140℃、好ましくは、100~130℃、例えば、約110℃で反応させることを特徴とする。
この場合、100℃未満で本発明化合物の合成が進行される場合、触媒反応が進行されないことがあり、130℃を超過した温度で本発明化合物の合成が進行されると、触媒反応速度が低下する問題が発生することがある。
好ましい一様態として、本発明化合物の重合メカニズムは、次のように表現することができる。
【0014】
【化2】

本発明において、前記架橋反応は、光架橋または熱架橋反応であることを特徴とするが、これらに限定されるものではない。
本発明化合物は、ε-カプロラクトン単量体とグリシジル基を含むアクリル単量体が重
合された共重合体の構造を有することができる。例えば、前記化合物は、ε-カプロラクトン単量体(CL;caplolactone)とグリシジルメタクリレート(GMA)単量体を重合した共重合体[PCL-co-PGMA)]の構造を有することができる。
本発明化合物においてε-カプロラクトン単量体とグリシジルメタクリレート単量体は、配列順序が、特に制限されず、交互、ランダムまたはブロックで配列されてもよい。
また、共重合体の末端には、ヒドロキシ基などが結合していてもよい。このように末端にヒドロキシ基が結合している共重合体は、末端にヒドロキシ基が結合している開始剤などを用いて重合することによって製造することができる。
なお、グリシジルメタクリレート単量体に含まれるグリシジル基は、架橋性官能基であってもよく、光架橋性官能基または熱架橋性官能基であってもよい。また、前記共重合体は、架橋により形状記憶特性を有することができる。
したがって、本発明は、さらに他の態様において、前記化合物が架橋された形状記憶高分子に関する。
【0015】
本発明は、さらに他の態様において、前記化合物に架橋反応を誘導する段階をさらに含む、形状記憶高分子の製造方法に関する。
本発明において、前記架橋反応のための架橋剤は、過硫酸カリウム(Potassium persulfate)、過硫酸アンモニウム(Ammonium persulfate)、過酸化ベンゾイル(Benzoyl peroxide)、ジラウロイルペルオキシド(Diauryl peroxide)、過酸化ジクミル(Dicumyl peroxide)、過酸化水素(Hydrogen peroxide)、アゾビスイソブチロニトリル(Azobisisobutuyronitrile)、イルガキュア(Irgacure)、ダロキュア(Darocure)、LAP(Lithium phenyl-2,4,6-trim ethylbenzoylphosphinate)、TPO(Diphenyl(2,4,6-Trimethylbenzoyl)Phosphine)、TPO-L(Ethyl(2,4,6-trimethylbenzoyl)phenylphosphinate)から成る群から選ばれる1種以上であってもよい。
例えば、前記架橋反応を開始する架橋剤は、過酸化物架橋剤(benzoyl peroxide、dicumyl peroxideなど)、Irgacure2959、Irgacure784、Irgacure819、Darocur1173またはDarocur4265であってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0016】
なお、本発明化合物は、生体適合性を有し、単量体の調節を通じて形状回復温度の調節が可能な温度感応性化合物であって、4-arm形態の構造を有する化合物に比べて6-arm形態の構造を有する化合物を架橋して形状記憶高分子を製作した場合、円周引張強度および加圧破裂強度が改善されることを確認し、実際に本発明による化合物で血管外壁支持体を製作して動静脈瘻形成術を進めた結果、血管U shapeが良好に維持され、血管吻合後に渦流の形成が抑制され、動脈血の流れが円滑で、開通性に優れていることを確認し、組織学的分析を通じて新生血管内膜の形成を通した血管狭窄を抑制することができることを確認した。
したがって、本発明は、さらに他の態様において、前記化合物を含む医療用素材に関する。
本発明において、前記医療用素材は、前記化合物を架橋した形状記憶高分子を用いて製造されるものであってもよい。
本発明において、前記医療用素材は、血管移植用支持体または血管移植用ステントであることを特徴とするが、これらに限定されるものではない。
本発明において、前記血管移植用支持体は、動静脈瘻形成術時にside-to-endモデルで移植された自己静脈と動脈を囲んで配置されるように設けられる血管外壁支持体であることを特徴とするが、これに限定されるものではない。
このような血管外壁支持体は、移植された自己静脈の熟成を助けて、異常血流の発生を最小化し、血流の流れを円滑にする特徴がある。
本発明において、前記血管外壁支持体は、U字形状(U-shape)の吻合器であることを特徴とするが、これに限定されるものではない。
本発明によるU字形状の吻合器は、血管を吻合した動脈血から静脈血に流入する血管の異常血流の発生を最小化し、血流を維持させる長所がある。
本発明において、前記血管外壁支持体は、動脈支持部および移植静脈支持部を含んでもよい。
【0017】
本発明において、動静脈吻合部位の接線の角度は、30~90°、好ましくは、30~60°、または30~60°の任意の範囲、例えば、30~45°、または30~60°の任意の値、例えば、約31°、約32°、約33°、約34°、約35°、約36°、約37°、約38°、約39°、約40°、約41°、約42°、約43°、約44°、約45°、約46°、約47°、約48°、約49°、約50°、約51°、約52°、約53°、約54°、約55°、約56°、約57°、約58°、約59°または約60°であってもよい。
本発明による吻合部位の接線の角度を調節すると、新生内膜の形成を予防し、血管狭窄を防止できる長所がある。
本発明において、曲率が低いほど血流が安定になり得るが、解剖学的構造を考慮して、動静脈吻合部位の接線の角度は、30~45°であることが最も好ましいが、これに限定されるものではない。
【実施例
【0018】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明する。これら実施例は、ただ本発明を例示するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例によって制限されると解されないことは、当業界において通常の知識を有する者にとって自明だろう。
実施例:6-arm PCL-PGMA合成
PCLとPGMAの割合を異ならさせて、下記のような6-arm PCL-PGMA共重合体を合成した。
【0019】
【表1】

三口フラスコにジペンタエリスリトール(dipentaerythritol,initiator,Sigma Aldrich)とヒドロキノン(hydroquinone,HQ,inhibitor,Sigma Aldrich)を入れ、10分間真空乾燥後、50cc/minの速度で窒素パージング(purging)をした。精製されたイプシロン-カプロラクトン(ε-caprolactone,ε-CL,monomer,AVENTION)をさらに添加し、110℃で10分間撹拌した。その後、グリシジルメタクリレート(glycidyl methacrylate,GMA,monomer,Sigma Aldrich)を入れ、10分間撹拌した後、アセトニトリル(acetonitrile,ACN,Sigma Aldrich)に溶かした1,5,7-トリアザビシクロ(4.4.0)デカ-5-エン(1,5,7-Triazabicyclo(4.4.0)dec-5-ene,TBD,catalyst,TCI)を注入し、6時間110℃で反応させた。最終合成物をクロロホルム(chloroform,Daejung chemicals & metals CO.,LTD.)に溶かした後、4℃のエチルエーテル(ethyl ether,Daejung chemicals & metals CO.,LTD.)で沈殿させ、フィルター後、真空乾燥した。
合成メカニズムは、図1に示した通りであり、単量体であるイプシロン-カプロラクトン(ε-caprolactone,ε-CL)とグリシジルメタクリレート(glycidyl methacrylate,GMA)、開始剤であるジペンタエリスリトール(dipentaerythritol)と抑制剤であるヒドロキノン( hydroq
uinone,HQ)を110℃で6時間反応させると、単量体にある環構造がオープンされ、6個のアームを有するポリカプロラクトン-ポリグリシジルメタクリレート(6-arm PCL-PGMA)共重合体が合成される。
比較例:4-arm 94% PCL-06% PGMA合成
下記のように4-arm PCL-PGMA共重合体を合成した。
【0020】
【表2】

三口フラスコにペンタエリスリトール(pentaerythritol,initiator,Sigma Aldrich)とヒドロキノン(ヒドロキノン、HQ,inhibitor,Sigma Aldrich)を入れ、10分間真空乾燥後、50cc/minの速度で窒素パージングをした。精製されたイプシロン-カプロラクトン(ε-caprolactone,ε-CL,monomer,AVENTION)をさらに添加し、110℃で10分間撹拌した。その後、グリシジルメタクリレート(glycidyl methacrylate,GMA,monomer,Sigma Aldrich)を入れ、10分間撹拌した後、アセトニトリル(acetonitrile,ACN,Sigma Aldrich)に溶かした1,5,7-トリアザビシクロ(4.4.0)デカ-5-エン(1,5,7-Triazabicyclo(4.4.0)dec-5-ene,TBD,catalyst,TCI)を注入し、6時間110℃で反応させた。最終合成物は、クロロホルム(chloroform,Daejung chemica
ls & metals CO.,LTD.)に溶かした後、4℃のエチルエーテル(ethyl ether,Daejung chemicals & metals CO.,LTD.)で沈殿させ、フィルター後、真空乾燥した。
【0021】
<実験例>
実験例1:共重合体化合物の架橋
N-メチル-2-ピロリドン(N-methyl-2-pyrrolidone,NMP,Sigma Aldrich)に前記合成された共重合体化合物100w/v%、Irgacure2959(photoinitiator,Sigma Aldrich)を1w/v%割合で添加して溶解させた。溶解させた溶液をフィルム形態で製作した後、UVランプ(365nm/200s)を用いて架橋した。
実験例2:<構造分析>
H-NMR(AVANCEIIIHD 400,Bruker Biospin,USA)を用いて構造分析した。サンプルは、前記実施例で合成された共重合体化合物とクロロホルム-D(chloroform-D、Sigma Aldrich)を10mg/mLの濃度で準備した。
構造分析の結果は、図2に示した通りであり、PCLピークは、δ=4.10[m、-OCH、(E)]、2.41[m、-CH、(A)]、1.74[m、-CH、(B and D)]、1.45[m、-CH、(C)]に現れ、PGMAピークは、δ=6.13[s、=CH、(G2)]、5.58[s、=CH、(G1)]、1.97[s、-CH、(F)]に現れ、6-arm形態の構造を有する化合物が合成されたことを確認することができた。PCLピークの面積とPGMAピークの面積を比較して、PCLとPGMAのモル%を計算した。
実験例3:分子量分析(GPC)
GPC(1260 Infinity II、Agilent)を用いて実施例で合成された化合物の分子量を分析した。サンプルは、合成された化合物とテトラヒドロフラン(tetrahydrofuran,THF,J.T.Baker)を5mg/mlの濃度で製造し、0.45umシリンジフィルターでフィルターした。溶離剤(eluent)は、THFを用い、フロー速度は、1ml/min、カラム温度は、40℃で進めた。スタンダードカーブは、PS(polystyrene,Agilent)を用いて作成した。
合成された化合物の分子量を示すGPCグラフは、図3と表3に示した通りである。従来の4-arm PCL-PGMA共重合体(比較例)の分子量よりも6-arm PCL-PGMA共重合体(実施例)の分子量が大きく現れ、6-arm PCL-PGMA共重合体の場合、PCLの含有量が増加するほど分子量が大きくなることを確認することができる。
【0022】
【表3】

実験例4:熱的特性分析(DSC)
DSC(DSC214,NETZSCH)を用いて熱的特性を分析した。heating-cooling-heatingモードにして-80℃~150℃の温度範囲で測定し、昇温・冷却速度は、10℃/minで進めた。
架橋前にDSCを測定した結果は、図4および表4に示した通りである。比較例である従来の4-arm構造の94% PCL-06% PGMAと実施例2である6-arm
94% PCL-06% PGMAの比較時に、比較例に比べて実施例の溶融温度(Tm)、溶融エンタルピー(Δ)および結晶化エンタルピー(Δ)が低く現れた。これは、実施例である6-arm PCL-PGMAの場合、比較例に比べてアームの個数が増加することによって末端基の数が増加し、PGMAの割合が増加することを意味する。PGMAの増加した割合によってPCLの結晶形成がさらに大きく妨害を受け、そのため、実施例は、比較例と異なる熱的特性を示す。
実施例1、2、3の場合、結晶性高分子であるPCLの割合が増加するほど溶融温度、溶融エンタルピーおよび結晶化エンタルピーが増加することを確認できるが、これも、PGMAの割合の変化がPCLの結晶形成に影響を及ぼしたためである。
【0023】
【表4】

架橋後、DSCを測定した結果は、図5および表5に示した通りである。合成された共
重合体化合物を架橋することにより高分子鎖と鎖の間が連結され、これにより、形状記憶性能が現れ、これは、架橋後に溶融温度(形状回復温度)に影響を及ぼす。また、合成された6-arm形態の構造を有する化合物を架橋することにより結晶性が減少するが、そのため、架橋前の溶融温度より低い溶融温度を有する(図4および図5比較)。
実施例1の場合、架橋反応に参加するPGMA含有量が高いため、架橋されるにつれて非結晶性になり、溶融温度と結晶化温度が現れない。実施例2、3の場合、PCLとPGMAの割合の調節を通じて結晶化度を調節することができ、結晶化度の変化は、溶融温度に影響を及ぼす。このような特性を用いて合成された6-arm構造のPCL-PGMA共重合体内PCLとPGMA割合の調節を通じて形状回復温度を調節することができる。
【0024】
【表5】

実験例5:機械的特性分析(UTM)
UTM(34SC-1,INSTRON)を用いて本発明の形状記憶高分子の機械的特性を分析した。サンプルは、UV架橋してW5mm×L5mm×T0.4mmサイズのフィルム形態で製作し、37℃で初期長さ10mm、引張速度10mm/minの条件で測定した。
UTM測定を通した機械的物性は、図6および表6に示した。比較例と比較して実施例においてYoung’s modulus(E)、stress at max(σ)、strain(ε)値が増加した。特に実施例2の場合、比較例と比較してYoung’s modulus(E)が812%、stress at max(σ)が383%増加し、strain(ε)が189%増加した。このような結果は、共重合体構造においてアームの個数が多くなるにつれて鎖の絡み合いが増加し、機械的物性が増加し、PCL含有量が増加して、結晶性が増加するためである。
【0025】
【表6】

実験例6:形状記憶特性分析(DMA)
DMA(Discovery DMA850,TA instrument)を用いて形状記憶特性を分析した。サンプルをUV架橋してW5mm×L5mm×T0.4mmサイズのフィルム形態で製作した。
55℃で10分間維持(original permanent shape,ε(0))した後、78kPaまで4kPa/minの速度で引張して、サンプルに変形を加えた。その後、0℃まで2℃/minの速度に冷却させ、0℃で10分間維持(maximum strain,ε(N))させた後、0Paまで4kPa/minの速度にして力を解除し(temporary shape,ε(N))、さらに2℃/minの速度で55℃まで昇温させた(permanent shape,ε(N))。このような過程を1サイクルにして、合計4回繰り返した。
形状回復率(R)と形状固定度(R)は、下記式(1)と(2)のように計算した。
【数1】

【数2】

DMA測定を通した実施例2共重合体ベースの形状記憶高分子の形状記憶特性は、図7および表7に示した。6-arm PCL-PGMA共重合体合成後に架橋した場合、形状記憶特性を示したが、具体的には、6-arm PCL-PGMAベースの形状記憶高分子の変形された模様を作るために、前記形状記憶高分子を形状回復温度より高い温度で変形を与えた後、温度を0℃以下に下げて固定し、さらに温度を上げると、本来の形状に復元されることを確認した。本方法でサイクルを4回反復テストした場合にも、全部形状記憶特性を示した。測定結果、形状固定能は、平均105.01%レベルであり、平均91.46%レベルの形状回復能を有することを確認した。なお、形状記憶特性を写真で撮影した結果は、図8に示したが、すべての実施例ベースの形状記憶高分子において100%形状回復されることを確認することができた。
【0026】
【表7】

,shape recovery;R,shape fixity;%、strain relaxation ratio compared to original length。
実験例7:血管外壁支持体の設計および製作
本発明による化合物の物性と架橋による形状記憶特性によると、本発明による形状記憶高分子は、温度の調節による形状回復が可能な生体適合性物質であり、血管外壁支持体のような医療用素材として開発が可能である。
これより、本発明による形状記憶高分子を製造するための血管外壁支持体を設計した。血管外壁支持体は、一様態として動静脈瘻形成術時にside-to-endモデルで移植された自己静脈と動脈を囲んで配置されるように設けられてもよく、この場合、血管外壁支持体は、移植された自己静脈の熟成を助けて、異常血流の発生を最小化し、血流の流れを円滑にすることができる。
したがって、本発明による血管外壁支持体は、動脈支持部および移植静脈支持部を含むように設計し、血管外壁支持体が血管を吻合するとき、動脈血から静脈血に流入する血管の異常血流の発生を最小化するために、U shapeで吻合器を考案し、静脈の接合部の角度によって曲率を提示して比較した。
動静脈瘻形成術時に、血管狭窄がよく起こる部位は、吻合部を基準としてtoe、heel、floor areaと知られていて、これを基準として分析を進めた。ただし、floor領域の場合、静脈が動脈に接する接線を基準として主に近位部(proximal area)が動静脈瘻の血流に重要な役割をするので、接線の近位部をfloor
areaに設定し、分析を進めた。
静脈の吻合部の角度による血流変化を分析した結果、U shapeに血流を維持することができ、これは、従来の手術方法で血管を連結することよりも、血流力学的に層流に近い血流を誘導し、新生内膜の形成を予防し、血管狭窄を防止できると予想された。曲率が低いほど血流が安定になる結果を得たが、現実的に解剖学的構造を反映したとき、曲率半径は、10~20mm(約30~40°)で形成することが特に好ましいと判断された(図9図10)。
前記結果を中心に、移植静脈支持部および動脈支持部を含む血管外壁支持体を設計後、製作した(図11図12)。
このように製作された血管外壁支持体をUTM(34SC-1,INSTRON)を用いて円周方向に引張させて円周引張強度を測定した。37℃で初期の長さが3mm、引張速度が10mm/minの速度で測定した。
【0027】
その結果、比較例(4arm 94%PCL-06%PGMA)ベースの形状記憶高分子で製作された血管外壁支持体と比較して、実施例2(6arm 94%PCL-06%
PGMA)ベースの形状記憶高分子で製作された血管外壁支持体において一定の傾向性を有し、円周引張強度が約平均7%増加したことを確認した(図13)。
なお、図14aの加圧破裂強度測定装置を用いて前記製作された血管外壁支持体の加圧破裂強度を測定した。加圧破裂強度測定装置は、圧力計、シリンジポンプ、サンプル固定装置で構成され、サンプル内部に風船を挿入した後、風船に一定の速度で水を注入して膨張するときに耐える圧力を測定するように製作された。血管外壁支持体の静脈部位を加圧破裂強度測定装置に装着し、内部チューブが膨張時の破壊圧力を確認した。37℃で蒸留水注入速度が10cc/minの速度で測定した。
その結果、比較例(4arm 94%PCL-06%PGMA)ベースの形状記憶高分子で製作された血管外壁支持体と比較して、実施例2(6arm 94%PCL-06%PGMA)形状記憶高分子で製作された血管外壁支持体において一定の傾向性を有し、加圧破裂強度が約平均39%増加したことを確認した(図14)。
実験例8.コンピュータモデリングを通した血管外壁支持体の適用による静脈血管壁の構造変化
本発明による血管外壁支持体の効果を確認するために、静脈を血管外壁支持体で包む場合、構造的変化をコンピュータモデリングを通じて確認した。
静脈は、超弾性(hyperelastic property)を有する生体組織であり、他の高分子材料が有する線形、非線形性質に従わないため、相当な塑性変形が発生しても、弾性回復をし、非圧縮性挙動をする。
本発明では、血管に対してhomogeneous、isotropic、incompressible hyperelasticモデルをシミュレートするために、パラメーターを計算した。
歪みエネルギー関数(W)は、延伸率不変量の関数と主延伸率の関数で示され、式(3)のように定義される。
【数3】

多くの弾性体は、非圧縮性であるから、I3=1となり、式(3)は、式(4)に誘導されることができる。
【数4】

I1、I2は、主延伸率(λ)の不変量と定義され、非圧縮性弾性体の変形解析に適用される2-parameter Mooney Rivlinモデルを用いてウサギの下大静脈に対して2-curve fitting解析を行った。
Mooney-Rivlin 2 parameter modelは、式(5)のように定義される。
【数5】

この際、C10、C01値は、定数項であり、Curve fitting時に導き出され、ANSYS Softwareを用いてC10=0.01MPa、C01=0.0095MPa値を得た。前記計算された物性を適用して動脈-静脈-動脈のstraight modelで血管外壁支持体を適用したとき、血管外壁支持体と血管壁にどのような変化が起こるかをモデリングで確認した。
静脈と動脈を連結した後、動脈圧が静脈に加えられた後、圧力により静脈が変形され、動脈圧が120mmHgで最大収縮期圧であるとき、血管内径の解剖学的構造の変化が現れた。しかしながら、静脈のみが存在するとき、血管径が3倍近く増加したのに対し、血管外壁サポートが血管の急激な拡張を防止し、Bridge構造がその変化をさらに緩和させることができることを確認した(図15)。
実験例9:動物モデルを用いた有効性の確認
動物実験は、韓国オソン先端医療産業振興財団(KBIO health)のIACUC(KBIO-IACUC-2021-174)のガイドを遵守して進めた。7~8kgの雌ビーグル(オリエントバイオ)にzolazepam(5mg/kg,ZoletilTM,Virbac Korea)およびxylazine(2mg/kg,Rompun(登録商標)Bayer Korea)を筋肉注射して麻酔させ、呼吸麻酔(isoflurane,<2.5%,Piramal)で手術時間の間麻酔状態を維持した。
イヌを用いた動静脈瘻(arteriovenous fistula,AVF)動物モデルは、下記のように製作した(図16)。
ビーグル(n=6/group)の右側の後肢(hindlimb)の内側太ももの正中線を切開(約5cm)して、結合組織の下方の大腿動脈(femoral artery)と静脈(vein)を探す。大腿静脈の遠位部を4-0 silkで縛って血管を切った後、大腿動脈の近位部と遠位部をvascular tourniqueを用いて一時的に血流を遮断した。大腿動脈の側面を長さ方向に約5mm切開し、7-0 proleneを用いて先立って切開した静脈とend-to-side吻合した。血管外壁支持体(実施例2を架橋した形状記憶高分子で製作される)を入れた実験群(w/血管外壁支持体)は、静動脈吻合前に静脈部位に血管外壁支持体を入れた後、吻合をし、動脈部位に体温範囲の食塩水を処理して、動脈を包んで支持体を固定した。その後、皮下層と皮膚を閉じてモデル製作を完了した。血管外壁支持体を入れなかった対照群(w/o血管外壁支持体)は、血管外壁支持体を入れる段階を除いたすべての段階をそのまま進めた。
動静脈瘻モデリング3ヶ月および6ヶ月後、超音波検査(ultrasonography(EKO7,Samsung Medison))を用いて動静脈吻合部位の血流パターンを確認した。その結果、血管外壁支持体がない対照群の吻合血管の場合、時間が経過するほど渦流の形成がひどくなるのに対し、血管外壁支持体が挿入されている実験群の吻合血管は、渦流の形成が抑制され、動脈血(赤色の矢印)の流れが円滑に現れた(図17)。
【0028】
動静脈瘻モデリング6ヶ月後、血管造影術(angiography)を通じて動静脈吻合部位の状態と開通性を確認した。カテーテル(6Fr)を腸骨動脈に位置させ、イオヘキソール(iohexol)を注入してC-armを用いた血管造影術を実施した結果、図18のように、対照群と比較して、血管外壁支持体が挿入された実験群において動静脈の吻合形態をU shapeに良好に維持させ、開通性が良いことを確認した(図18)。
最後に、個体を全身麻酔下に塩化カリウムを静脈注射して犠牲にさせた後、動静脈吻合
部位を採取して、組織病理を進めた。採取した血管は、4%パラホルムアルデヒド(paraformaldehyde)を24時間処理して固定させた後、パラフィンワックス(paraffin wax)に包埋し、動静脈吻合部位を5umの厚さで横断面切断(cross-section)した。切断された横断面をペンタクロム染色(Pentachrome staining,StatLab,item #;KTRMP)した結果、対照群と比較して、本発明による血管外壁支持体が挿入された実験群において新生血管内膜(neointima)の形成を抑制する効果に優れていることを確認した(図19)。
【0029】
以上、本発明内容の特定の部分を詳細に記述したところ、当業界における通常の知識を有する者にとって、このような具体的技術は、単に好ましい実施様態であり、これによって本発明の範囲が制限されるものではない点は明白だろう。したがって、本発明の実質的な範囲は、添付の請求範囲とそれらの等価物によって定義されるといえる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
【国際調査報告】