(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-03
(54)【発明の名称】少量の抗体副産物の定量
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20241126BHJP
G01N 21/41 20060101ALI20241126BHJP
C07K 16/46 20060101ALN20241126BHJP
【FI】
G01N33/53 N
G01N21/41 101
C07K16/46
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024531273
(86)(22)【出願日】2022-11-18
(85)【翻訳文提出日】2024-07-10
(86)【国際出願番号】 EP2022082453
(87)【国際公開番号】W WO2023094282
(87)【国際公開日】2023-06-01
(32)【優先日】2021-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ. ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】ラリヴィエール ローラン
(72)【発明者】
【氏名】シュロータウアー ティルマン
(72)【発明者】
【氏名】スピック クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】ツビック アドリアン
【テーマコード(参考)】
2G059
4H045
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059BB06
2G059BB14
2G059CC17
2G059DD03
2G059DD13
2G059EE04
2G059JJ12
2G059MM12
4H045BA10
4H045BA41
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、正しく会合したヘテロ二量体アフィン結合性二重特異性抗体と、二重特異性抗体の誤って会合したホモ二量体アビド結合性副産物とを含むサンプル中の二重特異性抗体のホモ二量体アビド結合性副産物を、表面プラズモン共鳴を使用して決定するための方法であって、正しく会合したヘテロ二量体アフィン結合性二重特異性抗体は、1つ以上の、第1抗原に対する結合部位と、1つ以上の、第2抗原に対する結合部位とを含み、二重特異性抗体の誤って会合したホモ二量体アビド結合性副産物は、2つ以上、しかし少なくとも、正しく会合した二重特異性抗体より多くの、第1抗原に対する結合部位を含み、正しく会合した二重特異性抗体はヘテロ二量体であり、誤って会合した二重特異性抗体はホモ二量体であり、SPR分析の解離相で残留結合(すなわち、より強いSPRシグナル)が決定され得る場合、ホモ二量体アビド結合性副産物の存在が決定される、方法に関する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正しく会合した二重特異性抗体と、前記二重特異性抗体の1つ以上のアビド結合性副産物とを含むサンプル中の二重特異性抗体のアビド結合性副産物を、表面プラズモン共鳴を用いて決定するための方法であって、
前記正しく会合した二重特異性抗体は、1つ以上の、第1抗原に対する結合部位と、1つ以上の、第2抗原に対する結合部位とを含み、
前記二重特異性抗体の前記アビド結合性副産物は、2つ以上、かつ、前記正しく会合した二重特異性抗体よりも多くの、前記第1抗原に対する結合部位を含み、
前記方法は、
i)前記正しく会合した二重特異性抗体を含むローディング溶液を、前記第1抗原が少なくとも1000RUで固定化されたSPR表面にアプライしてSPRシグナルを生成させ、その後、前記第1抗原に結合する化合物を含まない解離溶液をSPRチップにアプライし、前記SPRシグナルの減衰を記録する工程と、
ii)前記二重特異性抗体のアビド結合性副産物を含む疑いのあるサンプル溶液を、前記第1抗原が少なくとも1000RUで固定化されたSPR表面にアプライしてSPRシグナルを生成させ、その後、前記第1抗原に結合する化合物を含まない解離溶液を前記SPRチップにアプライし、前記SPRシグナルの減衰を記録する工程と、
iii)工程ii)で決定された前記SPRシグナルの減衰が工程i)で決定された前記SPRシグナルの減衰よりも遅い場合に、前記二重特異性抗体の前記アビド結合性副産物を決定する工程と
を含む、方法。
【請求項2】
前記第1抗原が、少なくとも2000RUで固定化されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1抗原が、2000RU以上かつ8000RU以下で固定化されている、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記ローディング溶液および/または前記サンプルの前記アプライが、5μL/分~50μL/分の流量で少なくとも300秒間である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ローディング溶液および/または前記サンプルの前記アプライが、5μL/分~50μL/分の流量で少なくとも400秒間である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記解離溶液の前記アプライが、5μL/分~50μL/分の流量で少なくとも600秒間である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記解離溶液の前記アプライが、5μL/分~50μL/分の流量で少なくとも1200秒間である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記ローディング溶液および前記サンプルの前記アプライが同じ条件下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
工程i)およびii)における前記解離溶液の前記アプライが、同じ条件下である、請求項1~3および6~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記流量が15μL/分~35μL/分である、請求項4~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
工程iii)における前記決定が、前記解離溶液の前記アプライの開始後少なくとも400秒の時点で決定された前記SPRシグナルによるものであり、工程i)およびii)における前記解離溶液の前記アプライの開始時の前記ローディング溶液で得られた前記SPRシグナルが同一とされる、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
工程iii)における前記決定が、前記解離溶液の前記アプライの開始後少なくとも1200秒の時点で決定された前記SPRシグナルによるものであり、工程i)およびii)における前記解離溶液の前記アプライの開始時の前記ローディング溶液で得られた前記SPRシグナルが同一とされる、請求項1~6および8~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記抗体が、
i)CrossMabフォーマットの二重特異性抗体、または
ii)TCBフォーマットの二重特異性抗体、または
iii)2+1フォーマットの二重特異性抗体
である、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
抗体関連ホモ二量体アビド結合性副産物の存在を決定するためのものである、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
抗体関連ホモ二量体アビド結合性副産物の存在を定量するためのものである、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析方法の分野に属する。本発明は、(特に副産物の望ましくない増大したアビド(avid)結合特性をもたらす)抗体鎖の誤った対合から生じる抗体関連副産物(例えばヘテロマー多重特異性抗体)を決定および定量するための方法に関する。そのような副産物は、増大した生物学的活性を有し、正しく会合した多重特異性抗体と比較して望ましくない副作用をもたらし得る。
【背景技術】
【0002】
表面プラズモン共鳴(SPR)は、分子相互作用を検出するために利用される光学技術である。金属薄膜に固定化された分子(リガンド)に移動性分子(分析物)が結合すると、その膜の屈折率が変化する。偏光がフィルムに衝突した後に反射された光の消光角が変化し、反射強度の低下(表面プラズモン共鳴現象)に対する検出器位置の変化として監視される。この方法は質量を厳密に検出するので、相互作用する成分を標識する必要がなく、それ故、それらの分子特性の起こり得る変化が排除される(Drescher,D.G.ら.Meth.Mol.Biol.493(2009)323-343(非特許文献1))。
【0003】
SPR結合分析方法は、分子相互作用を研究するために使用される。1つの相互作用パートナーが、化学反応(例えばアミンカップリング反応)によって直接的に、または結合対(例えばビオチン-ストレプトアビジン)をセンサーチップ上に形成することによって間接的に、固定化される。次いで、チップを、例えばBIAcore(BIAcore、ウプサラ、スウェーデン)から入手可能なSPR機器のフローチャンバーに挿入する。第2の相互作用パートナーであるフロースルー分析物が、チャンバーに添加されると、固定化された第1の相互作用パートナーに結合し、金表面での屈折率の小さな変化が生じる。この変化を高精度に定量化し得る。結合アフィニティは、速度定数の比から得ることが可能であり、タンパク質-タンパク質相互作用の直接的な特徴付けがもたらされる(Drescher,D.G.ら.Meth.Mol.Biol.493(2009)323-343(非特許文献1))。
【0004】
残念ながら、SPR検出の普遍的な性質は基本的な制限をも構成しており、全ての結合事象が同様の屈折率シグナルを引き起こすため、同様の質量変化をもたらす異なる結合事象を区別することは不可能である。従来のSPRの情報量が制限され得る急速に関心が高まっている分野の1つは、二重特異性結合体(例えば、二重特異性抗体)の研究である。ここでは、特殊なアッセイ形式が必要であり、2つの種の結合は、並行してではなく、順番に研究されなければならない。関連する事例は、分析物分子が、同一または類似の結合部位で表面種に結合する、競合ベースのアッセイである。原則として、競合アッセイは、残留結合を計算することによってSPRを使用して実施し得る。しかし、サンプル間の有機溶媒ビヒクル(すなわちDMSO)のわずかな濃度差が、達成可能なシグナル対ノイズ比に大きな悪影響を及ぼし、残留結合シグナルを正確に決定する能力を妨げる可能性があるため(Eng,L.ら,Biochem.Biophys.Res.Comm.497(2018)133-138(非特許文献2))、これは小分子競合物質にとっては些細なことではない。
【0005】
Engら(前出)は、標準的な市販の単一波長SPR装置を使用して2つの異なる同時に結合する種の定性的識別および定量的監視を可能にすることによってSPRの情報量を増加させるための標識強化SPR(LE-SPR)技術を報告した。LE-SPRは、結合反応中のSPRディップ全体の読み出しおよびソフトウェアベースの形状分析と組み合わせた、特殊な色素標識による結合分子の標識に基づいている。それらは、二重種検出の3つの例:i)混合バルク溶液サンプル中の2つの異なる種の正確な定量的決定;ii)2つの異なる同時に結合する種の従来のセンサーグラムを2つの種の別々の結合曲線に定性的に分解し、続いて元のセンサーグラムを忠実に再構築すること;およびiii)表面上のタンパク質に結合する混合物中の2つの異なる種の結合解離定数の同時決定を示している。
【0006】
T細胞依存性二重特異性抗体(TDBまたはTCB)は、患者のT細胞を動員してがん細胞を死滅させる有望ながん免疫療法である。臨床試験中のTDBの数は増加しており、その治療可能性が広く認識されていることを示している。TDBが抗CD3(aCD3)アームを介してT細胞に結合して活性化させるという事実により、aCD3ホモ二量体(aCD3 HD)および高分子量種(HMWS)は、T細胞受容体(TCR)の二価の結合および二量体化を介して非特異的なT細胞活性化を引き起こすことによって潜在的な安全リスクをもたらす、生成物関連不純物である。この非特異的な(標的細胞非依存的としても知られる)T細胞活性化は、サイトカイン分泌を誘導し、患者において望ましくない免疫応答を引き起こす可能性がある。aCD3 HDによる非特異的なT細胞活性化は、望ましくない活性であり、最終的に標的腫瘍細胞を死滅させるTDBによるT細胞活性化とは異なる。したがって、TDB製剤中のaCD3 HDのレベルを制御することが重要であり、その定量化を可能にするために高感度アッセイが必要である(Lee,H.Y.ら,Nature Sci.Rep.9(2019)3900(非特許文献3))。
【0007】
非特異的T細胞活性化のレベルを監視および制御するために、Leeら(前出)は、標的細胞の非存在下でT細胞を活性化するその能力を利用することによってTDB製剤中のaCD3 HDを検出し得る高感度かつ定量的な細胞ベースのT細胞活性化アッセイを報告した。
【0008】
国際公開第2020/200941号(特許文献1)は、第1のタンパク質部分と第2のタンパク質部分とを含むヘテロ二量体融合ポリペプチドであって、第1のタンパク質部分および第2のタンパク質部分は、第1のタンパク質部分に特異的に結合する第1の結合部位と、第2のタンパク質部分に特異的に結合する第2の結合部位とを含む二重特異性抗体の、第1および第2抗原であり、第1のタンパク質部分は、IgG1サブタイプの第1の抗体重鎖Fc領域ポリペプチドのN末端と融合しており、第2のタンパク質部分は、IgG1サブタイプの第2の抗体重鎖Fc領域ポリペプチドのN末端と融合しており、第1および第2の重鎖Fc領域ポリペプチドは、ジスルフィド結合したヘテロ二量体を形成し、重鎖Fc領域ポリペプチドの一方または両方は、そのC末端で固相に固定されるためのタグを含み、第1および第2のFc領域ポリペプチドは、それぞれ変異T366WおよびT366S/L368A/Y407Vを含む、融合ポリペプチド;ならびに、第1抗原に特異的に結合する第1の結合部位と、第2抗原に特異的に結合する第2の結合部位とを含む二重特異性抗体の、第1抗原および第2抗原に対するアビディティに基づく結合強度を、表面プラズモン共鳴法において決定するための、前記融合ポリペプチドの使用を報告している。
【0009】
Amaral,M.らは、多重特異性抗体フォーマットの操作技術および生物分析を報告している(J.Appl.Bioanal.2020(6)26-51(非特許文献4))。
【0010】
米国特許出願公開第2017/003295号(特許文献2)には、多価多重特異性分子の生物学的活性を決定するためのSPRベースのブリッジアッセイフォーマットが報告されている。
【0011】
国際公開第2014/177460号(特許文献3)には、ヒトFcRn結合修飾抗体および使用方法が報告されている。
【0012】
特開2020/202848号公報(特許文献4)には、修飾された抗原結合ポリペプチド構築物およびその使用が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】国際公開第2020/200941号
【特許文献2】米国特許出願公開第2017/003295号
【特許文献3】国際公開第2014/177460号
【特許文献4】特開2020/202848号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Drescher,D.G.ら.Meth.Mol.Biol.493(2009)323-343
【非特許文献2】Eng,L.ら,Biochem.Biophys.Res.Comm.497(2018)133-138
【非特許文献3】Lee,H.Y.ら,Nature Sci.Rep.9(2019)3900
【非特許文献4】Amaral,M.ら,J.Appl.Bioanal.2020(6)26-51
【発明の概要】
【0015】
本明細書では、正しく会合した治療用抗体と、治療用抗体関連副産物との間の見かけの結合アフィニティの差に基づく、すなわち結合アビディティの上昇に基づく、治療用抗体関連副産物の決定または/および定量のための方法を報告する。
【0016】
この理論に拘束されるものではないが、正しく会合した抗体と比較して増加した結合価を有する任意の抗体関連副産物は、本明細書に記載のアプローチを使用して決定または/および定量化され得ると仮定される。同様に、見かけの結合アフィニティの差の決定に適した任意の方法、例えばELISAおよびSPRを使用し得る。
【0017】
見かけの結合アビディティが上昇した抗体関連副産物は、正しく会合した抗体よりもそれぞれの標的(すなわち抗原)に対する結合部位が多く、例えば、1つではなく2つの結合部位、2つではなく4つの結合部位などを含む。
【0018】
本明細書に記載のアッセイの原理は、ELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ)、SPR(表面プラズモン共鳴)またはBLI(バイオレイヤー干渉法)などの種々の検出方法を使用する種々のバイオアッセイに適用し得る。
【0019】
例えば、抗体と価数増加抗体関連副産物との間の結合アビディティの上昇に起因する見かけのアフィニティの差をELISAで定量し得る。その中で、適切な洗浄条件を適用することによって、副産物-リガンド複合体をインタクトにしたまま、抗体-リガンド相互作用を解離させる。さらに、得られたシグナルは、サンプル中の多価副産物の含有量に比例する。当該量は、検量線を用いて定量され得る。
【0020】
同様に、残留結合シグナルの時間依存的な差をもたらす異なる解離速度をもたらす副産物特異的相互作用特性を活用するために、SPRを使用し得る。
【0021】
より詳細には、一態様では、本発明は、以前は確立された定量方法の検出限界を下回っていた(二重特異性)抗体関連副産物の量を決定することを可能にする、SPRに基づくアッセイに関する。
【0022】
本発明による方法は、標的に対する結合価が大きい抗体関連副産物の決定または/および定量に特に適している。
【0023】
二重特異性抗体の形成のために、ヘテロ二量体形成を促進するための異なるアプローチが知られている。1つは、ノブ・イントゥ・ホール設計である(例えば、国際公開第96/027011号、Ridgway,J.B.ら,Protein Eng.9(1996)617-621;Merchant,A.M.ら,Nat.Biotechnol.16(1998)677-681;国際公開第98/050431号)。二重特異性抗体の開発の際に、通常、有害事象を発生させる可能性がより高い結合体は、ノブ・イントゥ・ホール抗体フォーマットでノブ鎖に連結される。ノブ-ノブホモ二量体の形成は、ホール-ホールホモ二量体の形成と比較して立体的に好ましくない。これにより、この抗体組成物は好ましくないので、抗体産生中に抗体関連副産物としてもたらされる誤対合ノブ-ノブ分子は非常に少量である。
【0024】
これらのノブ-ノブ副産物は抗体産物のごく一部を構成するが、有害な副作用、例えば毒物学的副作用を引き起こし得るか、または例えば意図された生物学的作用を行い得ないことによって薬物の効率を低下させる可能性があるので、これらを集中的に監視する必要がある。これらの望ましくない事象は、アビディティ(アビド結合)による薬物-標的複合体安定性の増強によって引き起こされる。
【0025】
本発明は、少なくとも部分的には、そのようなアビディティの上昇をSPRアッセイで活用して、SECまたはMSなどの確立された方法によって以前に検出可能であったよりも低い副産物濃度を検出し得るという知見に基づく。確立された方法は、単離された薬物に対する残留結合を使用しているが、本発明による方法は、他の定量化方法においては使用されないアビディティによる濃縮を使用する。
【0026】
本発明によるSPR方法では、抗体標的、すなわち抗原が、SPRセンサーチップ上に固定化される。その後、検出される抗体および抗体関連副産物を含むサンプルが注入される。これにより、センサー表面上に抗体-標的複合体が形成される。その後、抗体を含まず、抗体関連副産物も含まない緩衝液を系に注入して、抗体-標的複合体を解離させ得る。これにより、抗体関連副産物の解離は、正しく会合した抗体の解離と比較して解離プロファイルが遅くなる。このようなより遅い解離により、抗体関連アビド結合性副産物のない抗体サンプルと比較して、規定の解離時間後のSPR結合シグナルが強い。この強いシグナルは、抗体関連ホモ二量体副産物のアビディティによる残留結合である。それにより、サンプル中に存在する抗体関連ホモ二量体アビド結合性副産物の量、それによって最終的には抗体関連アビド結合性ホモ二量体副産物の濃度を、非常に低い検出限界で定量することができる。
【0027】
本発明は、少なくとも部分的に、抗体標的(=抗原)が、試験される多重特異性抗体、例えば二重特異性抗体のフォーマットに応じて最小密度または密度範囲で固定化されなければならないという知見に基づく。特定の実施形態では、抗体標的は、少なくとも1000RUで固定化されなければならない。好ましい一実施形態では、標的は少なくとも2000RUで固定化される。特定の実施形態では、標的は、少なくとも4000RUで固定化される。特定の実施形態では、標的は、2000~4000RUで固定化される。
【0028】
本発明は、少なくとも部分的には、抗体注入時間を長くすることによって、アビド結合が可能な抗体関連副産物が結合時間中にチップの表面に蓄積するため、本方法の検出限界を低くすることができる、という知見に基づく。特定の実施形態では、結合時間は少なくとも240秒である。特定の実施形態では、結合時間は少なくとも300秒である。好ましい一実施形態では、注入時間は少なくとも360秒である。特定の実施形態では、結合時間は少なくとも420秒である。
【0029】
本発明は、少なくとも部分的には、SPRチップ上の抗体複合体安定性と抗体関連副産物複合体安定性との間の差を使用して抗体関連副産物を定量し得るという知見に基づく。好ましい一実施形態では、残留結合が決定される解離時間は少なくとも1200秒である。特定の実施形態では、残留結合が決定される解離時間は少なくとも1800秒である。
【0030】
残留結合は、サンプル中の抗体関連アビド結合性副産物の量または割合、ならびに抗体関連副産物と標的との複合体の安定性、すなわち正しく会合した抗体と比較した複合体安定性の差に依存する。
【0031】
したがって、残留結合が小さい場合、アッセイ条件を調整して残留結合を増加させ得る。これは、本発明の知識において、例えば、単離された抗体および検出される抗体関連副産物の熱力学的および速度論的特性に関する一般的な知識に基づいて、当業者に知られている種々の手段によって行い得る。例示的な手段を以下の表に列挙する。
【0032】
【0033】
本発明による一態様は、正しく会合した抗体および誤って会合した抗体副産物を含むサンプル中の誤って会合した抗体副産物を決定するための方法であって、
正しく会合した抗体および誤って会合した抗体副産物は、(第1の)標的に結合し、
誤って会合した抗体副産物は、正しく会合した抗体よりも、標的への結合部位を多く含み、
本方法は、
i)好ましくは少なくとも1000RU、より好ましくは少なくとも1500RU、最も好ましくは少なくとも2000RUで、標的をSPRチップの表面に高密度で固定すること、
ii)工程i)で得られた表面に、(標的に結合する唯一の種として)正しく会合した抗体を含む緩衝溶液を、好ましくは少なくとも5分間、より好ましくは少なくとも7分間、最も好ましくは少なくとも10分間、好ましくは30μL/分以下(50μL/分~5μL/分の範囲内)、より好ましくは25μL/分以下(40μL/分~7.5μL/分の範囲内)、最も好ましくは20μL/分以下(30μL/分~10μL/分の範囲内)の流量でアプライし、負荷された表面を生成させること、
iii)工程ii)で得られた負荷された表面に、標的に結合する化合物を含まない(すなわち、正しく会合した抗体も、誤って会合した抗体副産物も含まない)(緩衝)溶液を、好ましくは少なくとも7.5分間、より好ましくは少なくとも15分間、最も好ましくは少なくとも20分間アプライし、SPRシグナルの減衰を記録すること、
iv)場合により、SPR表面を再生すること、
v)工程i)と同様にして得られたSPR表面または工程iv)の再生されたSPR表面に、誤って会合した抗体副産物を含む疑いのある(緩衝化された)サンプル溶液を、好ましくは少なくとも5分間、より好ましくは少なくとも7分間、最も好ましくは少なくとも10分間、好ましくは30μL/分以下(50μL/分~5μL/分の範囲内)、より好ましくは25μL/分以下(40μL/分~7.5μL/分の範囲内)、最も好ましくは20μL/分以下(30μL/分~10μL/分の範囲内)の流量でアプライし、負荷された表面を生成させること、
vi)工程v)で得られた負荷された表面に、標的に結合する化合物を含まない(緩衝)溶液を、好ましくは少なくとも7.5分間、より好ましくは少なくとも15分間、最も好ましくは少なくとも20分間アプライし、SPRシグナルの減衰を記録すること、
vii)標的に結合する化合物を含まない(緩衝化)溶液のアプライの開始後、好ましくは開始後少なくとも7.5分、より好ましくは開始後少なくとも15分、最も好ましくは標的に結合する化合物を含まない(緩衝化)溶液のアプライの開始後20分において、工程vi)で決定されたSPRシグナルが、工程iii)で決定されたSPRシグナルを上回る/上回って残る場合に、誤って会合した抗体副産物を決定すること
を含む、方法である。
【0034】
本発明の一態様は、正しく会合した二重特異性抗体と、二重特異性抗体の誤って会合した副産物とを含むサンプル中の、二重特異性抗体の誤って会合した副産物を、表面プラズモン共鳴を用いて決定するための方法であって、
正しく会合した二重特異性抗体は、第1抗原に対する正確に1つの結合部位および第2抗原に対する1つ以上の結合部位を含み、すなわち、二重特異性抗体は、第1抗原に(特異的に)結合する1つの結合部位および第2抗原に(特異的に)結合する1つ以上の結合部位を有し、
二重特異性抗体の誤って会合した副産物は、第1抗原に対する2つ以上の結合部位および第2抗原に対する0~2つの結合部位を含み、
正しく会合した二重特異性抗体はヘテロ二量体であり、誤って会合した二重特異性抗体はFc領域に関してホモ二量体であり、好ましくはヘテロ二量体はノブ・イントゥ・ホール法によって形成され、
本方法は、:
i)SPRチップの少なくとも1つのフローセルの表面上に第1抗原を高密度で、好ましくは少なくとも1000RUで、より好ましくは少なくとも1500RUで、最も好ましくは少なくとも2000RUで固定すること、
ii)単離された二重特異性抗体を抗原に結合する唯一の種として含む緩衝溶液(または、正しく会合した二重特異性抗体と、上限量の二重特異性抗体の誤って会合した副産物とを含む、参照標準)を、工程i)で得られた少なくとも1つのフローセルに、好ましくは少なくとも5分間、より好ましくは少なくとも7分間、最も好ましくは少なくとも10分間、好ましくは30μL/分以下(50μL/分~5μL/分の範囲内)、より好ましくは25μL/分以下(40μL/分~7.5μL/分の範囲内)、最も好ましくは20μL/分以下(30μL/分~10μL/分の範囲内)の流量でアプライすること、
iii)抗原に結合する化合物を含まない(すなわち、二重特異性抗体も、二重特異性抗体の誤って会合した副産物も含まない)緩衝溶液を、工程ii)で得られた少なくとも1つのフローセルに、好ましくは少なくとも7.5分間、より好ましくは少なくとも15分間、最も好ましくは少なくとも20分間アプライし、SPRシグナルの減衰を記録し、その後、場合により少なくとも1つのフローセルを再生すること、
iv)二重特異性抗体の誤って会合した副産物を含む(または二重特異性抗体の誤って会合した副産物の量を上限量を超えて含む)疑いのある緩衝されたサンプル溶液を、工程i)と同様にして得られた少なくとも1つのフローセルまたは工程iii)で得られた再生されたフローセルに、好ましくは少なくとも5分間、より好ましくは少なくとも7分間、最も好ましくは少なくとも10分間、好ましくは30μL/分以下(50μL/分~5μL/分の範囲内)、より好ましくは25μL/分以下(40μL/分~7.5μL/分の範囲内)、最も好ましくは20μL/分以下(30μL/分~10μL/分の範囲内)の流量で、アプライすること、
v)抗原に結合する化合物を含まない(すなわち、二重特異性抗体も、誤って会合した二重特異性抗体副産物も含まない)緩衝溶液を、好ましくは少なくとも7.5分間、より好ましくは少なくとも15分間、最も好ましくは少なくとも20分間、工程iv)で得られた少なくとも1つのフローセルにアプライし、SPRシグナルの減衰を記録すること、
vi)抗原に結合する化合物を含まない(すなわち、二重特異性抗体も二重特異性抗体の誤って会合した副産物も含まない)緩衝溶液のアプライの開始後、標的に結合する化合物を含まない(緩衝化された)溶液のアプライの、好ましくは開始後少なくとも7.5分、より好ましくは開始後少なくとも15分、最も好ましくは20分において、工程v)で決定されたSPRシグナルが、工程iii)で決定されたSPRシグナルを上回る場合、二重特異性抗体の誤って会合した副産物を決定すること
を含む、方法である。
【0035】
本発明の一態様は、正しく会合した二重特異性抗体と、二重特異性抗体の1つ以上のアビド結合性副産物とを含むサンプル中の二重特異性抗体のアビド結合性副産物を、表面プラズモン共鳴を用いて決定するための方法であって、
正しく会合した二重特異性抗体は、1つ以上の、第1抗原に対する結合部位と、1つ以上の、第2抗原に対する結合部位とを含み、
二重特異性抗体のアビド結合性副産物は、2つ以上、かつ、正しく会合した二重特異性抗体よりも多くの、第1抗原に対する結合部位を含み、
本方法は、:
i)正しく会合した二重特異性抗体を含むローディング溶液を、第1抗原が少なくとも1000RUで固定化されたSPR表面にアプライしてSPRシグナルを生成させ、その後、第1抗原に結合する化合物を含まない解離溶液をSPRチップにアプライし、SPRシグナルの減衰を記録する工程と、
ii)二重特異性抗体のアビド結合性副産物を含む疑いのあるサンプル溶液を、第1抗原が少なくとも1000RUで固定化されたSPR表面にアプライしてSPRシグナルを生成させ、その後、第1抗原に結合する化合物を含まない解離溶液をSPRチップにアプライし、SPRシグナルの減衰を記録する工程と、
iii)工程ii)で決定されたSPRシグナルの減衰が工程i)で決定されたSPRシグナルの減衰よりも遅い場合に、二重特異性抗体のアビド結合性副産物を決定する工程と
を含む、方法である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
発明の実施形態の詳細な説明
本発明は、正しく会合したヘテロ二量体アフィン結合性二重特異性抗体と、該二重特異性抗体の誤って会合したホモ二量体アビド結合性副産物とを含むサンプル中の二重特異性抗体のホモ二量体アビド結合性副産物を、表面プラズモン共鳴を用いて決定するための方法であって、正しく会合したヘテロ二量体アフィン結合性二重特異性抗体は、1つ以上の、第1抗原に対する結合部位と、1つ以上の、第2抗原に対する結合部位とを含み、二重特異性抗体の誤って会合したホモ二量体アビド結合性副産物は、2つ以上、しかし少なくとも、正しく会合した二重特異性抗体より多くの、第1抗原に対する結合部位を含み、正しく会合した二重特異性抗体はヘテロ二量体であり、誤って会合した二重特異性抗体はホモ二量体であり、SPR分析の解離相で残留結合(すなわち、より強いSPRシグナル)が決定され得る場合にホモ二量体アビド結合性副産物の存在が決定される、方法に関する。
【0037】
本発明は、少なくとも部分的には、誤って会合した多重特異性抗体のアビディティの上昇をSPRアッセイにおいて利用して、SECまたはMSなどの確立された方法によって以前に検出可能であったよりも低い副産物濃度を検出し得るという知見に基づく。確立された方法は、単離された薬物に対する残留結合を使用しているが、本発明による方法は、他の定量化方法では使用されないアビディティによる濃縮を使用する。
【0038】
したがって、本発明は、正しく会合した治療用抗体と治療用抗体関連副産物との間の見かけの結合アフィニティの差に基づく、すなわち結合アビディティの上昇に基づく、治療用抗体関連副産物の決定または/および定量のための方法に関する。
【0039】
本発明による方法は、正しく会合した抗体と比較して増加した結合価を有する抗体関連副産物の存在の決定を可能にする。
【0040】
換言すれば、見かけの結合アビディティが上昇した抗体関連副産物は、正しく会合した抗体よりも多くのそれぞれの標的(すなわち抗原)に対する結合部位を含み、例えば、1つではなく2つの結合部位、2つではなく4つの結合部位などを含む。
【0041】
定義
用語「約」は、その後に続く数値の±20%の範囲を意味する。特定の実施形態では、「約」という用語は、その後に続く数値の±10%の範囲を意味する。特定の実施形態では、「約」という用語は、その後に続く数値の±5%の範囲を意味する。
【0042】
「アフィニティ」または「結合アフィニティ」は、分子の単一の結合部位(例えば、抗体)とその結合パートナー(=標的)(例えば抗原)との間の非共有結合相互作用の総和の強さを指す。別途示されない限り、本明細書中で使用される場合、「結合アフィニティ」は、結合対のメンバー(例えば、抗体および標的(抗原))間の1:1の相互作用を反映する固有の結合アフィニティを指す。分子XのそのパートナーYに対するアフィニティは、概して、解離定数(KD)によって表すことができ、それは解離速度定数と結合速度定数(それぞれkoffおよびkon)の比である。したがって、速度定数の比率が同じままである限り、等価のアフィニティは、異なる速度定数を含み得る。アフィニティは、本明細書に記載される方法を含む、当技術分野で既知の一般的な方法によって測定し得る。アフィニティを測定する特定の方法は、表面プラズモン共鳴(SPR)である。
【0043】
本明細書における「抗体」という用語は、少なくともヘテロ二量体多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体、三重特異性抗体)を定義するために使用される。
【0044】
Y字型完全長抗体は、一般に、2つのいわゆる軽鎖ポリペプチド(軽鎖)および2つのいわゆる重鎖ポリペプチド(重鎖)を含む。重鎖ポリペプチドおよび軽鎖ポリペプチドの各々は、抗原と相互作用できる結合領域を含む可変ドメイン(可変領域)(一般にポリペプチド鎖のアミノ末端部分)を含む。軽鎖可変ドメインと重鎖可変ドメインの対は、抗体の結合部位を形成する。重鎖ポリペプチドおよび軽鎖ポリペプチドの各々は、定常領域(一般にカルボキシル末端部分)を含む。重鎖の定常領域は、i)食細胞などのFcガンマ受容体(FcγR)を有する細胞への、またはii)Brambell受容体としても知られる胎児性Fc受容体(FcRn)を有する細胞への抗体の結合を媒介する。重鎖の定常領域は、(C1q)成分などの古典的補体系の因子を含むいくつかの因子への結合も媒介する。抗体重鎖の定常ドメインは、CH1ドメイン、CH2ドメインおよびCH3ドメインを含むのに対して、軽鎖は、カッパーアイソタイプまたはラムダアイソタイプであり得るただ1つの定常ドメインCLを含む。
【0045】
抗体の「クラス」は、その重鎖によって保有される定常ドメインまたは定常領域のタイプを指す。抗体の5つの主要なクラスがあり、即ち、IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMがあり、これらのうちのいくつかは、サブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、およびIgA2にさらに分類され得る。免疫グロブリンの異なるクラスに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれα、δ、ε、γ、μと呼ばれる。
【0046】
「(抗原への)結合」という用語は、インビトロアッセイにおける抗体のその抗原への結合を表し、特定の実施形態では、標的が表面に結合し、標的への抗体の結合が表面プラズモン共鳴(SPR)によって測定される結合アッセイにおける結合を表す。結合は、例えば、標的Aもしくは標的Bに対する、または捕捉分子、例えば、抗体に対する抗ヒトFab捕捉に対する抗体の結合能の測定を意味する。
【0047】
本明細書で使用される場合、「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に均一な抗体の集団から得られた抗体を指し、すなわち、その集団を構成する個々の抗体は、同一であり、および/または同じエピトープに結合するが、例えば、自然発生突然変異を含有するか、またはモノクローナル抗体調製物の産生中に生じる、起こり得るバリアント抗体は例外であり、かかるバリアントは一般的に少量で存在する。典型的には異なる決定基(エピトープ)に対して指向する異なる抗体を含むポリクローナル抗体製剤とは対照的に、モノクローナル抗体製剤のそれぞれのモノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対して指向する。したがって、修飾詞「モノクローナル」は、抗体の実質的に均一な集合から得られる抗体の特徴を示し、任意の特定の方法による抗体の産生を必要とするように構築されない。例えば、本発明に従って使用されるモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法、組み換えDNA法、ファージディスプレイ法、およびヒト免疫グロブリン遺伝子座の全部または一部を含むトランスジェニック動物を利用する方法を含むがこれらに限定されない種々の技法によって作製され得、モノクローナル抗体を作製するためのこのような方法および他の例示的な方法は、本明細書に記載される。
【0048】
「価数」という用語は、本出願内で使用される場合、抗体内の特定数の結合部位の存在を意味する。したがって、「二価」、「四価」、および「六価」という用語は、抗体中にそれぞれ2つの結合部位、4つの結合部位、および6つの結合部位が存在することを意味する。二重特異性抗体は、例えば、結合部位が異なる標的に特異的に結合する少なくとも2つの結合部位を含む。
【0049】
「結合アフィニティ」という用語は、単一の結合部位とそのそれぞれの標的との相互作用の強さを表す。実験的には、アフィニティは、例えば、平衡における抗体および抗原の結合速度定数(kA)および解離速度定数(kD)を測定することによって決定し得る。
【0050】
「結合アビディティ」という用語は、1つの抗体の複数の結合部位と同じ標的との相互作用の複合強度を表す。したがって、アビディティは、結合の合計ではなく、結合アフィニティの相乗的な強度の合算である。アビディティに必要なものは、1つの標的(抗原)に対する抗体または機能的多量体の多価性、1つの可溶性標的上の複数のアクセス可能なエピトープ、または様々な固定化標的上の1つのエピトープに対する抗体の複数の結合である。したがって、そのような抗体は、その標的に対するアビド結合を示す。
【0051】
原則として、複合体結合は、アフィン結合とアビド結合との間で異なっていない。しかしながら、アビド結合の場合の複合体解離は、関与する全ての結合部位の同時解離に依存する。したがって、(アフィン結合と比較して)アビド結合による結合強度の増加は、解離速度論/複合体安定性に依存する。それにより、例えば、一価結合体は、多価結合体と比較してより速く解離する。本発明の方法による長期間にわたる多価結合体の濃縮は、本方法の感度を高めるために使用し得る。
【0052】
「単離された」抗体は、その天然環境の構成要素から分離された抗体である。ある特定の実施形態では、抗体は、例えば、電気泳動(例えば、SDS-PAGE、等電点電気泳動法(IEF)、キャピラリー電気泳動)またはクロマトグラフィー(例えば、イオン交換HPLCもしくは逆相HPLC)によって決定される場合に95%または99%を超える純度まで精製される。抗体の純度を評価するための方法の概説については、例えば、Flatman,S.ら、J.Chromatogr.B 848(2007)79-87を参照されたい。
【0053】
多重特異性抗体
本発明による方法では、少なくともヘテロ二量体および少なくとも二重特異性抗体の1以上のアビド結合性副産物の量が決定される。
【0054】
多重特異性抗体は、少なくとも2つの異なる標的、すなわち抗原に対する結合特異性を有するモノクローナル抗体である。特定の実施形態では、結合特異性の一方は、第1抗原に対するものであり、他方は、異なる第2抗原に対するものである。特定の実施形態では、多重特異性抗体は、同じ抗原の2つの異なるエピトープに結合する。
【0055】
多重特異性抗体を作製するための技術としては、異なる特異性を有する2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対の組換え共発現(Milstein,C.およびCuello,A.C.、Nature305(1983)537-540、国際公開第93/08829号、およびTraunecker,A.ら、EMBO J.10(1991)3655-3659を参照されたい)、および「ノブ・イン・ホール(knob-in-hole)」操作(例えば、米国特許第5,731,168号を参照されたい)が挙げられるが、これらに限定されない。多重特異性抗体は、抗体Fcヘテロ二量体分子を作製するための静電ステアリング効果を操作することによって(国際公開第2009/089004号)、またはロイシンジッパーを使用して二重特異性抗体を作製することによって作製され得る(例えば、Kostelny,S.A.ら,J.Immunol.148(1992)1547-1553を参照されたい)。
【0056】
抗体はまた、国際公開第2009/080251号、国際公開第2009/080252号、国際公開第2009/080253号、国際公開第2009/080254号、国際公開第2010/112193号、国際公開第2010/115589号、国際公開第2010/136172号、国際公開第2010/145792号または国際公開第2010/145793号に記載されているような多重特異性抗体であり得る。
【0057】
二重特異性抗体は、一般に、同じ抗原上の2つの異なる重複しないエピトープまたは異なる抗原上の2つのエピトープに特異的に結合する抗体分子である。
【0058】
種々の二重特異性抗体フォーマットが知られている。
【0059】
本発明による方法を使用し得る例示的な二重特異性抗体フォーマットは以下の通りである。
- CrossMabフォーマット(=CrossMab):第1のFab断片および第2のFab断片を含む多重特異性IgG抗体であって、第1のFab断片において、
a)CH1およびCLドメインのみが、互いに置換されており(すなわち、第1のFab断片の軽鎖はVLおよびCH1ドメインを含み、第1のFab断片の重鎖はVHおよびCLドメインを含む);
b)VHおよびVLドメインのみが互いに置換されており(すなわち、第1のFab断片の軽鎖はVHおよびCLドメインを含み、第1のFab断片の重鎖はVLおよびCH1ドメインを含む);または
c)CH1とCLドメインが互いに置換され、VHおよびVLドメインが互いに置換されており(すなわち、第1のFab断片の軽鎖はVHおよびCH1ドメインを含み、第1のFab断片の重鎖はVLおよびCLドメインを含む);および
第2のFab断片が、VLドメインおよびCLドメインを含む軽鎖と、VHドメインおよびCH1ドメインを含む重鎖とを含み、
CrossMabは、CH3ドメインを含む第1の重鎖およびCH3ドメインを含む第2の重鎖を含み得、ここで、両方のCH3ドメインは、例えば国際公開第96/27011号、国際公開第98/050431号、EP1870459、国際公開第2007/110205号、国際公開第2007/147901号、国際公開第2009/089004号、国際公開第2010/129304号、国際公開第2011/90754号、国際公開第2011/143545号、国際公開第2012/058768号、国際公開第2013/157954号、または国際公開第2013/096291号(参照により本明細書に組み込まれる)に開示されているように、第1の重鎖および修飾された第2の重鎖のヘテロ二量体化を支援するために、それぞれのアミノ酸置換によって相補的になるように操作されている。
- 一アーム一本鎖形式(=一アーム一本鎖抗体):第1のエピトープまたは抗原に特異的に結合する第1の結合部位と、第2のエピトープまたは抗原に特異的に結合する第2の結合部位とを含む抗体であって、個々の鎖は以下の通りである。
- 軽鎖(可変軽鎖ドメイン+軽鎖カッパ定常ドメイン)
- 軽鎖/重鎖の組み合わせ(可変軽鎖ドメイン+軽鎖定常ドメイン+ペプチドリンカー+可変重鎖ドメイン+CH1+ヒンジ+CH2+ノブ変異を有するCH3)
- 重鎖(可変重鎖ドメイン+CH1+ヒンジ+CH2+ホール変異を有するCH3);
- T細胞二重特異性フォーマット(TCBフォーマット):多重特異性IgG抗体であって、
a)それぞれが第1抗原に特異的に結合する第1および第2のFab断片、
b)第2抗原に特異的に結合し、CH1ドメインとCLドメインが互いに置換されている、1つのドメイン交換Fab断片、
c)第1の重鎖Fc領域のポリペプチドと第2の重鎖Fc-領域ポリペプチドを含む、1つのFc領域を含み、
第1のFab断片のCH1ドメインのC末端は、重鎖Fc領域ポリペプチドの1つのN末端に接続しており、ドメイン交換Fab断片のCLドメインのC末端は、他の重鎖Fc領域ポリペプチドのN末端に接続しており、かつ、
第2のFab断片のCH1ドメインのC末端は、第1のFab断片のVHドメインのN末端またはドメイン交換Fab断片のVHドメインのN末端に接続されており、
第1抗原または第2抗原は、ヒトCD3である、多重特異性IgG抗体;
あるいは
a)それぞれが第1抗原に特異的に結合する第1および第2のFab断片、
b)第2抗原に特異的に結合し、VHドメインとVLドメインが互いに置換されている、1つのドメイン交換Fab断片、
c)第1の重鎖Fc領域のポリペプチドと第2の重鎖Fc-領域ポリペプチドを含む、1つのFc領域を含み、
第1のFab断片のCH1ドメインのC末端は、重鎖Fc領域ポリペプチドの1つのN末端に接続しており、ドメイン交換Fab断片のCH1ドメインのC末端は、他の重鎖Fc領域ポリペプチドのN末端に接続しており、かつ、
第2のFab断片のCH1ドメインのC末端は、第1のFab断片のVHドメインのN末端またはドメイン交換Fab断片のVLドメインのN末端に接続されており、
第1抗原または第2抗原は、ヒトCD3である、多重特異性IgG抗体;
- ドメイン交換およびさらなる重鎖C末端結合部位を有する完全長抗体(2+1フォーマット):多重特異性IgG抗体であって、
a)完全長抗体軽鎖と完全長抗体重鎖のそれぞれ2対を含む1つの完全長抗体であって、完全長重鎖と完全長軽鎖のそれぞれの対により形成される結合部位が、第1抗原に特異的に結合する、1つの完全長抗体、および
b)1つの追加のFab断断片であって、完全長抗体の1つの重鎖のC末端に融合されており、追加のFab断片の結合部位が第2抗原に特異的に結合する、1つの追加のFab断断片、を含み、
第2抗原に特異的に結合する追加のFab断片が、i)a)軽鎖可変ドメイン(VL)および重鎖可変ドメイン(VH)が互いに置き換えられている、またはb)軽鎖定常ドメイン(CL)および重鎖定常ドメイン(CH1)が互いに置き換えられているようなドメインクロスオーバーを含むか、またはii)一本鎖Fab断片である、多重特異性IgG抗体;
- 二アーム一本鎖形式(=2アーム一本鎖抗体):第1のエピトープまたは抗原に特異的に結合する第1の結合部位と、第2のエピトープまたは抗原に特異的に結合する第2の結合部位とを含む抗体であって、個々の鎖は以下の通りである
- 軽鎖/重鎖の組み合わせ1(可変軽鎖ドメイン+軽鎖定常ドメイン+ペプチドリンカー+可変重鎖ドメイン+CH1+ヒンジ+CH2+ホール変異を有するCH3);
- 軽鎖/重鎖の組み合わせ2(可変軽鎖ドメイン+軽鎖定常ドメイン+ペプチドリンカー+可変重鎖ドメイン+CH1+ヒンジ+CH2+ノブ変異を有するCH3);
- 一般的な軽鎖二重特異性形式(=一般的な軽鎖二重特異性抗体):第1のエピトープまたは抗原に特異的に結合する第1の結合部位および第2のエピトープまたは抗原に特異的に結合する第2の結合部位を含む抗体であって、個々の鎖は以下の通りである:
- 軽鎖(可変軽鎖ドメイン+軽鎖定常ドメイン)
- 重鎖1(可変重鎖ドメイン+CH1+ヒンジ+CH2+ホール変異を有するCH3)
- 重鎖2(可変重鎖ドメイン+CH1+ヒンジ+CH2+ノブ変異を有するCH3)。
【0060】
本明細書で使用される「TCB」という用語は、T細胞二重特異性抗体を表す。そのような抗体は、例えば国際公開第2013/026831号に記載されているようなフォーマットを有し得る。それらの分子は、T細胞上のCD3(第1の特異性)および標的(例えば、腫瘍)細胞上の抗原(第2の特異性)に同時に結合し、それによって標的細胞の死滅を誘導し得る。TCBは、4つのポリペプチドまたはポリペプチド鎖、完全長軽鎖である1つの軽鎖、ドメイン交換完全長軽鎖であるさらなる軽鎖、完全長重鎖である1つの重鎖、および追加のドメイン交換重鎖または軽鎖Fab断片を含む伸長重鎖であるさらなる重鎖からなる三価二重特異性抗体である。
【0061】
「ドメインクロスオーバー」という用語は、本明細書で使用される場合、抗体重鎖VH-CH1断片とその対応する同族の抗体軽鎖とのペアにおいて、すなわち抗体Fab(断片-抗原結合)において、少なくとも1つの重鎖ドメインが、その対応する軽鎖ドメインによって置換されており、その逆も同様である、という点について、ドメイン配列が天然抗体の配列から逸脱していることを表す。ドメインクロスオーバーは、一般的に3種類あり、(i)CH1およびCLドメインのクロスオーバーであって、軽鎖中のドメインクロスオーバーによってVL-CH1ドメイン配列がもたらされ、重鎖断片中のドメインクロスオーバーによってVH-CLドメイン配列(またはVH-CL-ヒンジ-CH2-CH3ドメイン配列を有する完全長抗体重鎖)がもたらされるもの、(ii)VHおよびVLドメインのドメインクロスオーバーであって、軽鎖中のドメインクロスオーバーによってVH-CLドメイン配列がもたらされ、重鎖断片中のドメインクロスオーバーによってVL-CH1ドメイン配列がもたらされるもの、ならびに(iii)完全な軽鎖(VL-CL)および完全なVH-CH1重鎖断片のドメインクロスオーバー(「Fabクロスオーバー」)であって、ドメインクロスオーバーによってVH-CH1ドメイン配列を有する軽鎖がもたらされ、ドメインクロスオーバーによってVL-CLドメイン配列を有する重鎖断片がもたらされるもの(上述のすべてのドメイン配列は、N末端からC末端への方向で示されている)がある。
【0062】
本明細書で使用される場合、対応する重鎖ドメインおよび軽鎖ドメインに関して「互いに置き換えられた」という用語は、上述のドメインクロスオーバーを指す。そのため、CH1およびCLドメインが「互いに置き換えられた」場合、この用語は、項目(i)の下で言及されたドメインクロスオーバー、ならびに結果として生じる重鎖および軽鎖ドメイン配列を指す。したがって、VHおよびVLが「互いに置き換えられた」場合、この用語は、項目(ii)の下で言及されたドメインクロスオーバーを指し、またCH1およびCLドメインが「互いに置き換えられ」、且つVHおよびVLドメインが「互いに置き換えられた」場合、該用語は、項目(iii)の下で言及されたドメインクロスオーバーを指す。ドメインクロスオーバーを含む二重特異性抗体は、例えば、国際公開第2009/080251号、国際公開第2009/080252号、国際公開第2009/080253号、国際公開第2009/080254号、およびSchaefer,W.,et al,Proc.Natl.Acad.Sci USA 108(2011)11187-11192において報告されている。このような抗体は、一般にCrossMabと呼ばれる。
【0063】
特定の実施形態では、多重特異性抗体または二重特異性抗体はCrossMab-フォーマットである。
【0064】
特定の実施形態では、多重特異性抗体または二重特異性抗体はTCB-フォーマットである。
【0065】
特定の実施形態では、多重特異性抗体または二重特異性抗体は2+1-フォーマットである。
【0066】
特定の実施形態では、多重特異性抗体または二重特異性抗体は一本鎖抗体である。
【0067】
特定の実施形態では、多重特異性抗体または二重特異性抗体は2アーム一本鎖抗体である。
【0068】
特定の実施形態では、多重特異性抗体または二重特異性抗体は一般的な軽鎖抗体である。
【0069】
ヘテロ二量体化
ヘテロ二量体化を実施するためのCH3修飾のためのいくつかのアプローチが存在し、これらは例えば、国際公開第96/27011号、同第98/050431号、欧州特許第1870459号明細書、国際公開第2007/110205号、同第2007/147901号、同第2009/089004号、第第2010/129304号、同第2011/90754号、同第2011/143545号、同第2012058768号、同第2013157954号、同第2013096291号に十分に記載されている。典型的には、そのような全てのアプローチにおいて、第1のCH3ドメインおよび第2のCH3ドメインはいずれも、各CH3ドメイン(またはそれを含む重鎖)がそれ自体とホモ二量体をもはや形成し得ず、相補的に操作された他のCH3ドメインとヘテロ二量体化するように強制されるように相補的に操作される(その結果、第1および第2のCH3ドメインはヘテロ二量体化し、2つの第1または2つの第2のCH3ドメインの間にホモ二量体は形成されない)。重鎖ヘテロ二量体化の改善のためのこれらの異なるアプローチは、ベンス・ジョーンズタイプ副産物の軽鎖誤対合を減少させる本発明による多重特異性抗体における重-軽鎖修飾(1つの結合アームにおけるVHおよびVL交換/置換、ならびにCH1/CL界面における反対の電荷を有する荷電アミノ酸の置換の導入)と組み合わせた異なる選択肢として企図される。
【0070】
ヘテロ二量体Fc領域の形成を促進するために、例えば多重特異性抗体または二重特異性抗体の産生のために導入されたCH3ドメインにおける例示的な変異を以下に概説する。
【0071】
そのような変異の例は、いわゆる「ノブ イントゥ ホール」置換である(例えば、国際公開第96/027011号、Ridgway,J.B.ら,Protein Eng.9(1996)617-621;Merchant,A.M.ら,Nat.Biotechnol.16(1998)677-681;国際公開第98/050431号;米国特許第7,695,936号および米国特許出願公開第2003/0078385号)。サブクラスIgG1のIgG抗体のFc領域の個々のポリペプチド鎖における以下のノブおよびホール置換は、ヘテロ二量体形成を増加させることがわかっている。1)一方の鎖のY407Tおよび他方の鎖のT366Y;2)一方の鎖にY407A、他方の鎖のT366W;3)一方の鎖のF405Aおよび他方の鎖のT394W;4)一方の鎖のF405Wおよび他方の鎖のT394S;5)一方の鎖のY407Tおよび他方の鎖のT366Y;6)一方の鎖のT366YおよびF405Aならびに他方の鎖のT394WおよびY407T;7)一方の鎖のT366WおよびF405Wならびに他方の鎖のT394SおよびY407A;8)一方の鎖のF405WおよびY407A、ならびに他方の鎖のT366WおよびT394S;かつ9)一方の重鎖Fc領域中のT366Wおよび他のそれぞれの重鎖Fc領域中のT366S、L368AおよびY407Vであり、最後に列挙したものが特に適しており、したがって好ましい一実施形態の主題である。さらに、2つのFc領域ポリペプチド鎖間の新しいジスルフィド架橋の形成を可能にする置換は、ヘテロ二量体の形成を促進する(例えば、Merchant,A.M.ら,Nature Biotech.16(1998)677-681;Atwell,S.ら,J.Mol.Biol.270(1997)26-35;米国特許出願公開第2003/0078385号を参照されたい)。サブクラスIgG1のIgG抗体のFc領域の個々のポリペプチド鎖中に新しい鎖内ジスルフィド結合を形成するための適切に離間したシステイン残基をもたらす以下の置換は、ヘテロ二量体形成を増加させることが見出されている:好ましい一実施形態では、1つの重鎖Fc領域中のY349Cおよびそれぞれの他の重鎖Fc領域中のS354C;一方の鎖のY349Cおよび他方の鎖のE356C;一方の鎖のY349Cおよび他方の鎖のE357C;一方の鎖のL351Cおよび他方の鎖のS354C;一方の鎖のT394Cおよび他方の鎖のE397C;または一方の鎖のD399Cおよび他方の鎖のK392Cである。
【0072】
アミノ酸変化を促進するヘテロ二量体化のさらなる例は、いわゆる「電荷対置換」である(例えば、国際公開第2009/089004号を参照されたい)。サブクラスIgG1のIgG抗体のFc領域の個々のポリペプチド鎖における以下の電荷対置換は、ヘテロ二量体形成を増加させることがわかっている。1)一方の鎖のK409DまたはK409Eおよび他方の鎖のD399KまたはD399R;2)一方の鎖のK392DまたはK392Eおよび他方の鎖のD399KまたはD399R;3)一方の鎖のK439DまたはK439Eおよび他方の鎖のE356KまたはE356R;4)一方の鎖のK370DまたはK370Eおよび他方の鎖のE357KまたはE357R;5)一方の鎖のK409DおよびK360D、加えて他方の鎖のD399KおよびE356K;6)一方の鎖のK409DおよびK370D、加えて他方の鎖のD399KおよびE357K;7)一方の鎖のK409DおよびK392D、加えて他方の鎖のD399K、E356KおよびE357K;8)一方の鎖のK409DおよびK392Dならびに他方の鎖のD399K;9)一方の鎖のK409DおよびK392Dならびに他方の鎖のD399KおよびE356K;10)一方の鎖のK409DおよびK392Dならびに他方の鎖のD399KおよびD357K;11)一方の鎖のK409DおよびK370Dならびに他方の鎖のD399KおよびD357K;12)一方の鎖のD399Kならびに他方の鎖のK409DおよびK360D;かつ13)一方の鎖のK409DおよびK439Dならびに他方のD399KおよびE356K。
【0073】
全ての態様および実施形態の好ましい一実施形態では、第1のFc領域ポリペプチドは変異Y349C、T366S、L368AおよびY407V(「ホール」)を含み、第2のFc領域ポリペプチドは変異S354CおよびT366W(「ノブ」)を含む。
【0074】
ヘテロ二量体化を実施するためのCH3修飾のための他の技術は、本発明の方法で使用される代替方法として企図され、例えば、国際公開第96/27011号、国際公開第98/050431号、欧州特許第1870459号、国際公開第2007/110205号、国際公開第2007/147901号、国際公開第2009/089004号、国際公開第2010/129304号、国際公開第2011/90754号、国際公開第2011/143545号、国際公開第2012/058768号、国際公開第2013/157954号、国際公開第2013/096291に記載されている。
【0075】
国際公開第2013/157953号に記載されているヘテロ二量体化アプローチを代わりに使用し得る。特定の実施形態では、第1のCH3ドメインは、アミノ酸T366K変異を含み、第2のCH3ドメインポリペプチドは、アミノ酸L351D変異を含む。特定の実施形態では、第1のCH3ドメインは、さらなるアミノ酸L351K変異を含む。特定の実施形態では、第2のCH3ドメインは、Y349E、Y349DおよびL368E(好ましくは、L368E)から選択されるさらなるアミノ酸変異を含む。
【0076】
国際公開第2012/058768号に記載されているヘテロ二量体化アプローチを代わりに使用し得る。特定の実施形態では、第1のCH3ドメインは、アミノ酸L351Y、Y407A変異を含み、第2のCH3ドメインは、アミノ酸T366A、K409F変異を含む。特定の実施形態では、第2のCH3ドメインは、位置T411、D399、S400、F405、N390またはK392に、例えば、a)T411N、T411R、T411Q、T411K、T411D、T411EまたはT411W、b)D399R、D399W、D399YまたはD399K、cS400E、S400D、S400RまたはS400K、F405I、F405M、F405T、F405S、F405VまたはF405W、N390R、N390KまたはN390D、K392V、K392M、K392R、K392L、K392FまたはK392Eから選択されるさらなるアミノ酸変異を含む。特定の実施形態では、第1のCH3ドメインは、アミノ酸L351Y、Y407A変異を含み、第2のCH3ドメインは、アミノ酸T366V、K409F変異を含む。特定の実施形態では、第1のCH3ドメインは、アミノ酸Y407A変異を含み、第2のCH3ドメインは、アミノ酸T366A、K409F変異を含む。特定の実施形態では、第2のCH3ドメインは、さらなるアミノ酸K392E、T411E、D399RおよびS400R変異を含む。
【0077】
特定の実施形態では、国際公開第2011/143545号に記載されているヘテロ二量体化アプローチは、例えば、368位および409位からなる群から選択される位置のアミノ酸修飾と共に代わりに使用し得る。
【0078】
上記のノブ・イントゥ・ホール技術も使用する国際公開第2011/090762号に記載されているヘテロ二量体化アプローチを代わりに使用し得る。特定の実施形態では、第1のCH3ドメインはアミノ酸T366W変異を含み、第2のCH3ドメインはアミノ酸Y407A変異を含む。特定の実施形態では、第1のCH3ドメインはアミノ酸T366Y変異を含み、第2のCH3ドメインはアミノ酸Y407T変異を含む。
【0079】
国際公開第2009/089004号に記載されているヘテロ二量体化アプローチを代わりに使用し得る。特定の実施形態では、第1のCH3ドメインは、K392またはN392の負に荷電したアミノ酸(例えば、グルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)、好ましくはK392DまたはN392D)によるアミノ酸置換を含み、第2のCH3ドメインは、D399、E356、D356またはE357の正に荷電したアミノ酸(例えば、リジン(K)またはアルギニン(R)、好ましくはD399K、E356K、D356KまたはE357K)によるアミノ酸置換を含み、好ましい一実施形態では、D399KおよびE356Kによるアミノ酸置換を含む。特定の実施形態では、第1のCH3ドメインはK409またはR409の負荷電アミノ酸(例えば、グルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)、好ましくはK409DまたはR409D)によるアミノ酸置換をさらに含む。特定の実施形態では、第1のCH3ドメインは、さらにまたは代替的に、K439および/またはK370の負荷電アミノ酸(例えば、グルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D))によるアミノ酸置換を含む。
【0080】
国際公開第2007/147901号に記載されているヘテロ二量体化アプローチを代わりに使用し得る。特定の実施形態では、第1のCH3ドメインは、アミノ酸K253E、D282KおよびK322D変異を含み、第2のCH3ドメインは、アミノ酸D239K、E240KおよびK292D変異を含む。
【0081】
特定の実施形態では、国際公開第2007/110205号に記載されているヘテロ二量体化アプローチを代わりに使用し得る。
【0082】
組換え方法および組成物
抗体は、例えば、米国特許第4,816,567号に記載されるように、組換え方法および組成物を使用して産生し得る。特定の実施形態では、抗体をコードする単離された核酸が提供される。このような核酸は、抗体のVLを含むアミノ酸配列および/または抗体のVHを含むアミノ酸配列(例えば、抗体の軽鎖および/または重鎖)をコードし得る。特定の実施形態では、そのような核酸を含む1つ以上のプラスミド(例えば、発現プラスミド)が提供される。特定の実施形態では、そのような核酸を含む宿主細胞が提供される。特定の実施形態では、宿主細胞は、(例えば、形質転換された)以下を含む:(1)抗体のVLを含むアミノ酸配列および抗体のVHを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含むプラスミド、または(2)抗体のVLを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含む第1のプラスミドおよび抗体のVHを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含む第2のプラスミド。特定の実施形態では、宿主細胞は、真核生物細胞、例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞またはリンパ球系細胞(例えば、Y0、NS0、Sp2/0細胞)である。特定の実施形態では、本発明による方法は、その中で試験される抗体を作製する工程をさらに含み、この方法は、上で提供される抗体をコードする核酸を含む宿主細胞を、抗体の発現に適した条件下で培養する工程、宿主細胞(または宿主細胞培養培地)から抗体を回収する工程、および抗体関連アビド結合性副産物の含有量を測定または決定するための本発明による方法に抗体を供する工程を含む。
【0083】
上記で概説したような方法を用いた抗体の組換え産生のために、抗体をコードする核酸、例えば上記のような核酸を単離し、宿主細胞におけるさらなるクローニングおよび/または発現のために1つ以上のプラスミドに挿入する。そのような核酸は、従来の手順(例えば、変異型Fc領域ポリペプチドまたは抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合し得るオリゴヌクレオチドプローブを使用することによって)を使用して容易に単離され、配列決定され得る。
【0084】
抗体をコードするプラスミドのクローニングまたは発現に適した宿主細胞としては、真核細胞が挙げられる。
【0085】
例えば、糸状菌または酵母などの真核微生物は、グリコシル化経路が「ヒト化」された真菌および酵母株を含む、抗体をコードするプラスミドのための適切なクローニングまたは発現宿主であり、部分的または完全なヒトグリコシル化パターンを有する抗体の産生をもたらす。Gerngross,T.U.、Nat.Biotech.22(2004)1409-1414;およびLi,H.ら、Nat.Biotech.24(2006)210-215を参照されたい。
【0086】
例えば、懸濁液中で増殖するように適合されている哺乳動物細胞株は有用であり得る。有用な哺乳動物宿主細胞株の他の例は、SV40によって形質転換されたサル腎臓CV1株(COS-7);ヒト胎児腎臓株(例えば、Graham,F.L.ら,J.Gen Virol.36(1977)59-74に記載されているHEK293または293細胞;ベビーハムスター腎臓細胞(BHK);マウスセルトリ細胞(例えば、Mather,J.P.,Biol.Reprod.23(1980)243-252に記載されているTM4細胞);サル腎臓細胞(CV1);アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO-76);ヒト子宮頸癌細胞(HELA);イヌ腎臓細胞(MDCK)p;バッファローラット肝細胞(BRL 3A);ヒト肺細胞(W138);ヒト肝細胞(Hep G2);マウス乳腺腫瘍(MMT 060562);例えば、Mather,J.P.ら,Annals N.Y.Acad.Sci.383(1982)44-68に記載されているTRI細胞;MRC 5細胞;およびFS4細胞である。他の有用な哺乳動物宿主細胞株としては、DHFR-CHO細胞を含む、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞(Urlaub,G.ら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77(1980)4216-4220)、および、骨髄腫細胞株、例えば、Y0、NS0およびSp2/0が挙げられる。抗体産生に適したある特定の哺乳動物宿主細胞株の総説については、例えば、Yazaki,P.およびWu,A.M.、Methods in Molecular Biology、第248巻、Lo,B.K.C.(編)、Humana Press、Totowa、NJ(2004)、255~268頁を参照されたい。好ましい一実施形態では、宿主細胞はCHOまたはHEK細胞である。
【0087】
最先端の表面プラズモン共鳴法
それぞれの抗原に対する、抗体の動力学的結合パラメータは、BIAcore装置(GE Healthcare Biosciences AB、Uppsala、Sweden)を用い、表面プラズモン共鳴によって検討され得る。
【0088】
簡単に説明すると、アフィニティ決定のために、捕捉剤、例えば抗体の標的/抗原を、捕捉および分析されるそれぞれの抗体への提示のために、アミンカップリングを介してチップ、例えばCM5チップ上に共有結合的に固定化する。
【0089】
例えば、10~30μg/mlの標的溶液の約2,000~12,000応答単位(RU)を、GE Healthcareによって供給されるアミンカップリングキットを使用することによって、10~30μl/分の流量でpH5.0のBIAcore T200装置中のCM5センサーチップの全てのフローセル上にカップリングさせる。
【0090】
結合は、25℃(またはその代わりに4℃~45℃の範囲の異なる温度で)のHBS緩衝液(HBS-P(10mM HEPES、150mM NaCl、0.005% Tween20、pH7.4)、またはHBS-EP+(0.01M HEPES、0.15M NaCl、3mM EDTA、0.05%v/v界面活性剤PS20、pH7.4)、またはHBS-ET(10mM HEPES pH7.4、150mM NaCl、3mM EDTA、0.005%w/v Tween20))中で測定される。
【0091】
その結果、抗体を10nM~1μMの範囲の濃度で30秒間注入し、活性フローセル(例えば、2、3および4または2および3)に結合させ、他のフローセルを参照フローセルとする。
【0092】
次いで、抗体のアフィニティに応じて、例えば144nM、48nM、16nM、5.33nM、1.78nM、0.59nM、0.20nMおよび0nMなどの溶液中の様々な濃度で対応する抗原(二次標的)を添加する。
【0093】
結合は、抗原注入によって測定される。
【0094】
解離は、分析物を含まない緩衝液でチップの表面を洗浄することによって測定される。
【0095】
KD値は、製造者のソフトウェアおよび指示書を用いて1:1ラングミュア結合モデルを使用して推定される。システム固有のベースラインドリフトの補正およびノイズシグナル低減のために、サンプル曲線から陰性対照データ(例えば、緩衝曲線)を差し引く。
【0096】
本発明による方法の実施例および例示的な実施形態
2+1フォーマット抗体を用いる本発明による方法
本発明による方法は、二重特異性抗Aベータ/トランスフェリン受容体抗体を用いて以下の第1の実施例に例示する。これは、単に本発明を例示するために提示され、決して限定として解釈すべきではない。本発明の真の範囲は、添付の特許請求の範囲に記載されている。
【0097】
この実施例で使用される二重特異性抗Aベータ/トランスフェリン受容体抗体は、ヒトAベータタンパク質に特異的に結合する2つの結合部位と、Aベータ抗体の重鎖のC末端の1つにペプチドリンカーを介して融合したヒトトランスフェリン受容体に特異的に結合する1つのさらなる単一特異性Fabとを含むY字形完全長抗体から形成される。
【0098】
血液脳関門を適切にシャトリングするために、二重特異性抗Aベータ/トランスフェリン受容体抗体は、二価結合がシャトリングを大幅に減少させるか、または消失させるので、ヒトトランスフェリン受容体に対して一価でなければならない(例えば、参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2016/207245号を参照されたい)。
【0099】
二重特異性抗Aベータ/トランスフェリン受容体抗体は2つの異なる重鎖を含むので、重鎖のCH3ドメインは、ノブ・イントゥ・ホールヘテロ二量体化戦略(Merchantら(前出)を参照されたい)に従って修飾されている。さらなるFabにコンジュゲートされた重鎖はノブ変異を含み、他方の、伸長されていない重鎖はホール変異を含む。
【0100】
この例示的抗体について、本発明による方法で検出される抗体関連アビド結合性副産物は、さらなるFabに連結された2つの重鎖を含むホモ二量体、すなわちAベータタンパク質に対する2つの結合部位およびヒトトランスフェリン受容体の2つの結合部位を含む抗体である。正しく会合した二重特異性抗体は、上記で概説したように、ヒトAベータタンパク質に対する2つの結合部位を含むが、ヒトトランスフェリン受容体に対する1つの結合部位のみを含む。この抗体関連アビド結合性副産物は、ヒトトランスフェリン受容体への二価結合に起因して、血液脳関門を通過する適切なシャトリングができないいので、検出されなければならない。
【0101】
本発明の方法によれば、検出される副産物が、正しく会合した抗体と比較して結合部位の数が増加した抗原、すなわち、この例では1つではなく2つが、SPRチップの表面に固定化されている。この実施例では、固定化は間接的な固定化であった。抗原、すなわちヒトトランスフェリン受容体は、チップ上にプレコートされた一本鎖DNAをそのストレプトアビジン担持補体鎖とハイブリダイズさせた後、ビオチンタグに連結され、ストレプトアビジン修飾CAPチップ(Cytiva)の表面に捕捉されている(
図1を参照されたい)。
【0102】
この実施例では、約2250RUまで固定化を行った。
【0103】
固定化されたヒトトランスフェリン受容体の表面に、正しく会合した二重特異性抗Aベータ/トランスフェリン受容体抗体を含むサンプルをアプライした。当該正しく会合した抗体は、固定化ヒトトランスフェリン受容体に特異的に結合し、それによってチップの表面に結合した状態になる。これにより、SPRシグナルが生成される。チップの表面から抗体を解離させるために、二重特異性抗体またはヒトトランスフェリン受容体に結合する任意の他の化合物を含まない緩衝水溶液をチップにアプライした。SPR(結合)シグナルの減衰を記録し、これを基準値とする。
【0104】
本発明による方法におけるヒトトランスフェリン受容体へのアビド結合を有する抗体関連副産物の存在/量を決定するために、固定化トランスフェリン受容体チップの表面を前に概説したように調製した。固定されたヒトトランスフェリン受容体を有するこの表面に、正しく会合した抗体ならびにホモ二量体抗体関連アビド結合性副産物を含むサンプルをアプライした。抗体および副産物は、固定化されたヒトトランスフェリン受容体に結合し、それによってチップの表面に結合した状態になる。
【0105】
低濃度の副産物では、正しく会合した抗体と抗体関連ホモ二量体副産物との重量差は非常に小さく、サンプルをチップの表面にアプライした後の正しく会合した抗体のみの結合と比較して、SPRシグナルの検出可能な差は実質的に生じない。
【0106】
しかし、固定化されたトランスフェリン受容体への二価およびアビド結合による抗体関連ホモ二量体副産物は、固定化されたトランスフェリン受容体に対して一価のみであり、アフィン結合のみを有する正しく会合した抗体と置換するので、負荷(ローディング)段階中にチップの表面に蓄積する。アビド結合性副産物とトランスフェリン受容体との複合体は、正しく会合したアフィン結合性抗体の複合体よりも複合体安定性が高く、それによってその蓄積が達成される。
【0107】
正しく会合した抗体ならびにアビド結合性副産物をチップの表面から解離させるために、当該抗体またはヒトトランスフェリン受容体に結合する任意の他の化合物を含まない緩衝水溶液をチップにアプライした。SPR(結合)シグナルの減衰を記録し、これはシグナル値である。
【0108】
解離の開始後の規定の時点で、シグナル値と基準値との差を決定する。この差は、残留結合と呼ばれる。
【0109】
残留結合は、サンプル中の抗体関連ホモ二量体アビド結合性副産物の量に依存する。
【0110】
例示的なSPRセンサーグラムを
図2に示す(RS=正しく会合した抗体;k/k=ノブ-ノブ-ホモ二量体)。
【0111】
既知量の抗体関連ホモ二量体アビド結合性副産物を、単離された正しく会合した抗体サンプルに添加することによって、種々の標準物質を調製し、検量線を作成した。検量線は、少なくとも5%(w/w)の抗体関連ホモ二量体アビド結合性副産物含量まで直線であり(
図3を参照されたい)、R
2値は0.9785である。
【0112】
したがって、決定された残留結合は、アプライされたサンプル中の抗体関連ホモ二量体アビド結合性副産物の量と直接相関し得る/直接相関する。
【0113】
本発明による方法を適用することにより、サンプル中の少量の抗体関連ホモ二量体アビド結合性副産物を定量することが可能になる。特に、抗体関連アビド結合性副産物の2%をはるかに下回る量の定量が可能である。
【0114】
2+1フォーマットの抗体についての本実施例の条件:
・ 抗原の固定化レベル=2250RU
・ 抗体濃度=100nM
・ 検体流量=30μl/分
・ 結合時間=180秒
・ 解離時間=600秒
・ 温度=25℃
・ 緩衝液組成=HBS-EP+
【0115】
基準値およびシグナル値の逐次的な決定/記録に加えて、SPRチップまたは種々のSPRデバイスの種々のフローセルを使用して並列に行い得ることを指摘する必要がある。
【0116】
しかしながら、ブランクセルに適用される基準、すなわちブランクセルで得られた結果の減算を考慮する必要がある。これは、任意の独立した/非特異的な結合の影響を排除するために行われる。
【0117】
TCBフォーマット抗体を用いる本発明による方法
これは、本発明による方法の第2の実施例である。本発明による方法は、二重特異性抗CD3/抗原-2抗体を用いて以下に例示される。これは、単に本発明を例示するために提示され、決して限定として解釈すべきではない。本発明の真の範囲は、添付の特許請求の範囲に記載されている。
【0118】
本実施例では、二重特異性抗CD3/抗原-2抗体を使用する。この抗体は、抗原-2に(特異的に)結合する2つのFabと、抗原-2に(特異的に)結合する全長抗体のFabの1つとヒンジ領域との間に挿入されたCD3に(特異的に)結合する1つのさらなる単一特異性Fabとを含むY字形全長抗体に基づく。この抗体フォーマットは、TCB(T細胞活性化二重特異性抗体フォーマット)と呼ばれる。
【0119】
TCBは、T細胞の表面上のT細胞受容体(TCR)複合体に(特異的に)結合するそれらのCD3結合部位を介してT細胞と結合する。TCBの場合、2つのCD3結合部位を含むホモ二量体副産物は、TCR二量体化によって標的細胞の非存在下でT細胞を活性化する能力のために、重大な安全リスクをもたらす。この非特異的な(標的細胞非依存性としても知られる)T細胞活性化は、サイトカイン分泌を誘導し得るか、または患者において望ましくない免疫応答を誘因し得る。2つのCD3結合部位を含む抗体関連ホモ二量体アビド結合性副産物による非特異的なT細胞活性化は、望ましくない活性であり、正しく会合したTCBにより意図されたT細胞活性化とは異なる。したがって、2つのCD3結合部位を含む抗体関連ホモ二量体アビド結合性副産物の量を決定することが重要である。
【0120】
二重特異性抗CD3/抗原-2抗体は2つの異なる重鎖を含むので、重鎖のCH3ドメインは、ノブ・イントゥ・ホールヘテロ二量体化戦略(前掲のMerchantらを参照されたい)に従って修飾されている。CD3に(特異的に)結合するさらなるFabが挿入された伸長重鎖はノブ変異を含み、他方の非伸長重鎖はホール変異を含む。
【0121】
この例示的な抗体では、本発明による方法で検出される抗体関連アビド結合性副産物は、それぞれ挿入されたFabを有する2つの重鎖を含むホモ二量体、すなわちCD3に対する2つの結合部位を含む化合物である。正しく会合した二重特異性抗体は、上記で概説したように、CD3に対する1つの結合部位のみを含む。この副産物は、CD3への二価結合に起因して非特異的なT細胞活性化をもたらす可能性があるので、検出されなければならない。
【0122】
本発明による方法により、検出される副産物が、正しく会合した抗体と比較して、結合部位を含む抗原の数が増加しており、すなわちこの場合は1つではなく2つがSPRチップの表面に固定化されている。この実施例では、固定化は直接固定化であった。抗原、すなわちCD3は、製造業者の指示に従ってアミンカップリングによってチップの表面に固定化されている。
【0123】
製造業者の指示に従ってアミンカップリングを使用してCM5チップ上に、CD3を約6900RUまで固定化した。
【0124】
固定化CD3を有する表面に、正しく会合した二重特異性抗体を含むサンプルをアプライした。正しく会合した二重特異性抗体は、固定化CD3に結合し、それによってチップの表面に結合した状態になる。これにより、SPRシグナルが生成される。チップの表面から二重特異性抗体を解離させるために、二重特異性抗体またはCD3に結合する任意の他の化合物を含まない緩衝水溶液をチップにアプライした。SPR(結合)シグナルの減衰を記録し、これを基準値とする。
【0125】
方法の第2の部分では、固定化されたCD3チップの表面は、前に概説したように調製されている。固定されたCD3を有するこの表面に、正しく会合した二重特異性抗体ならびに二重特異性抗体関連ホモ二量体アビド結合性副産物を含むサンプルをアプライした。両方とも固定化CD3に結合し、それによってチップの表面に結合した状態になる。
【0126】
正しく会合した抗体と抗体関連ホモ二量体アビド結合性副産物との重量差は非常に小さいので、正しく会合した抗体の結合のみと比較して、SPRシグナルの検出可能な差は実質的に生じない。
【0127】
しかしながら、固定化されたCD3への二価およびアビド結合によるホモ二量体副産物は、チップの表面に蓄積する。これは、固定化されたCD3に対して一価のみであり、負荷段階中にアフィン結合のみを有する正しく会合した二重特異性抗体に取って代わる。アビド結合した二重特異性抗体関連副産物の複合体は、正しく会合したアフィン結合性二重特異性抗体の複合体と比較してより高い複合体安定性を有し、それによって負荷段階中の蓄積が可能である。
【0128】
正しく会合した二重特異性抗体およびアビド結合性副産物をチップの表面から解離させるために、抗体またはCD3に結合する任意の他の化合物を含まない緩衝水溶液をチップにアプライした。SPR(結合)シグナルの減衰を記録し、これはシグナル値である。
【0129】
解離の開始後の規定の時点で、シグナル値と基準値との差を決定する。この差は、残留結合と呼ばれる。
【0130】
残留結合は、サンプル中の二重特異性抗体関連ホモ二量体アビド結合性副産物の量に依存する。
【0131】
検量線を決定するための2つの異なるアプローチが使用されている。1つ目(
図4の上の曲線)では、アビド結合性副産物(ノブ-ノブホモ二量体;KK)の添加を、単離された二重特異性抗体に対して、すなわち、検出可能な量のアビド結合性副産物を含まない調製物に対して行った(R
2値0.9994)。2つ目(
図4の下側の曲線)では、検出可能な量のアビド結合性副産物を既に含む参照物質(R2値0.9998の)中でアビド結合性副産物の添加を行った。この場合、検量線も確立し得ることがわかる。検量線は、少なくとも2%(w/w)のホモ二量体副産物まで直線である。
【0132】
したがって、決定された残留結合は、アプライされたサンプル中の二重特異性抗体ホモ二量体アビド結合性副産物の量と相関させ得る。
【0133】
本発明による方法を適用することにより、サンプル中の少量のホモ二量体副産物を定量することが可能になる。
【0134】
TCBフォーマットの抗体についての本実施例の条件の概要:
・ 抗原の固定化レベル=6900RU
・ 抗体濃度=100nM
・ 検体流量=20μl/分
・ 結合時間=480秒
・ 解離時間=1200秒
・ 温度=37℃
・ 緩衝液組成=HBS-P+
【0135】
CrossMabフォーマット抗体を用いる本発明による方法
これは、本発明による方法のさらなる例である。この実施例では、本発明による方法は、2つの異なるCD抗原に特異的に結合する二重特異性抗体を用いて例示される。これは、単に本発明を例示するために提示され、決して限定として解釈すべきではない。本発明の真の範囲は、添付の特許請求の範囲に記載されている。
【0136】
本実施例で使用される二重特異性抗体は、第1のCD抗原に特異的に結合する1つの結合部位と、第2の異なるCD抗原に特異的に結合する1つの結合部位とを含むY字形完全長抗体である。二重特異性抗体は、いわゆるCrossMabフォーマットである(上記参照)。
【0137】
二重特異性抗体は2つの異なる重鎖を含むので、重鎖のCH3ドメインは、ノブ・イントゥ・ホールヘテロ二量体化戦略(前掲のMerchantらを参照されたい)に従って修飾されている。第1のCD抗原に結合する重鎖はノブ変異を含み、他方の重鎖はホール変異を含む。
【0138】
この例示的抗体について、本発明による方法で検出される抗体関連アビド結合性副産物は、両方とも第1のCD抗原に結合する2つの重鎖を含む、ホモ二量体である。正しく会合した二重特異性抗体は、各CD抗原に対して1つの結合部位のみを含む。
【0139】
第1のCD抗原に対する二価結合体は、第1のCD抗原への二価結合に起因して検出されなければならず、有害な、すなわち毒性副作用が、例えば標的非依存性T細胞活性化によって生じ得る。したがって、これらの抗体関連ホモ二量体アビド結合性副産物は、T細胞の標的に依存しない活性化により、潜在的な安全性リスクとなる可能性があるため、モニタリングと(正確な)定量化が必要である。
【0140】
本発明による方法によれば、抗原であって、正しく会合した抗体と比較して多い数(すなわち1つではなく2つ)の、当該抗原に対する結合部位が、検出される副産物に含まれる、抗原が、SPRチップの表面に固定化されている。この実施例では、第1のCD抗原の固定化は、チップの表面への直接固定化であった。
【0141】
第1のCD抗原の固定化は、2000RU超で行った。しかしながら、4000RUを超えてはならないことがわかっている。
【0142】
固定化された第1のCD抗原を有する表面に、正しく会合した抗体を含むサンプルをアプライした。当該正しく会合した抗体は、固定化されたCD抗原に特異的に結合し、それによってチップの表面に結合した状態になる。これにより、SPRシグナルが生成される。チップの表面から抗体を解離させるために、二重特異性抗体も、第1のCD抗原に結合する任意の他の化合物も含まない、緩衝水溶液をチップにアプライした。SPR(結合)シグナルの減衰を記録し、これを基準値とする。
【0143】
上に概説したように、第1のCD抗原に対する結合価が増加した様々な可能な副産物もチップにアプライされている(
図5を参照されたい)。正しく会合した二重特異性抗体よりもアビド結合が安定しているため、抗体に関連する全てのアビド結合性副産物((K)ノブ単量体(溶液中で自発的に会合してホモ二量体となる(SECで確認))、(KK)ノブ-ノブホモ二量体(共有結合型と非共有結合型は類似の挙動を示す)、および様々な凝集体を含む溶液を含む)が表面に保持されていることがわかる。
【0144】
単離されたアビド結合性副産物は検出可能な解離速度で解離しないが(
図6参照)、正しく会合した二重特異性抗体(bsmAb)は解離することがわかる。
【0145】
一価の抗体形態とアビド結合性の抗体形態との間の複合体安定性の差を強調し、より明確に利用するために、長い解離相を使用し得る。これにより、正しく会合したヘテロ二量体アフィン結合性二重特異性抗体(一価の第1および第2CD抗原結合)がチップの表面から解離させる。対照的に、第1のCD抗原に対する二価および多価のアビド結合性相互作用を有する全ての種が保持される。SPRの読み出し、すなわち「残留結合(residual binding)」は、長い解離相の後、例えば解離の開始後約1200秒後に決定され得る。
【0146】
固定化された第1のCD抗原チップの表面は、前に概説したように調製されている。この表面に、1つの単離されたノブ重鎖(単量体副産物)を含むサンプルならびにホモ二量体副産物をアプライした。全ての抗体が、固定化された第1のCD抗原に(特異的に)結合し、それによってチップの表面に結合した状態になる(
図6および
図7を参照されたい)。分析データに基づいて、単量体ノブ副産物はその場で二量体化し、ホモ二量体副産物を形成すると推測される。
【0147】
結合したホモ二量体アビド結合性副産物の複合体は、正しく会合したヘテロ二量体アフィン結合性抗体の複合体よりも複合体安定性が高く、そのため、このホモ二量体アビド結合性副産物の負荷段階中に蓄積が起こる。
【0148】
正しく会合した抗体ならびにホモ二量体アビド結合性副産物をチップの表面から解離させるために、当該抗体または第1のCD抗原に結合する任意の他の化合物を含まない緩衝水溶液をチップにアプライした。SPR(結合)シグナルの減衰を記録した。ホモ二量体アビド結合性副産物について、顕著な残留結合が決定され得ることがわかる(
図6および
図7を参照されたい)。
【0149】
方法の第2の部分では、固定化された第1のCD抗原のチップ表面は、前に概説したように調製されている。固定された第1のCD抗原を有するこの表面に、正しく会合した抗体のみを含むサンプル、ならびに1%(w/w)の種々の抗体関連ホモ二量体アビド結合性副産物を添加したサンプルをアプライした。全てが、固定化された第1のCD抗原に結合し、それによってチップの表面に結合した状態になる。
【0150】
正しく会合したヘテロ二量体抗体とホモ二量体アビド結合性副産物との重量差は小さすぎて、SPRシグナルに検出可能な差をもたらし得ない。
【0151】
同様に、SEC、CE-SDSまたはHICなどの他の生化学的方法を使用しても、これらの方法での識別に使用される分子特性は同じであるため、差を検出し得ない。本発明による方法によってのみ、種々の速度論的結合特性による区別を達成し得る。この差は全てのヘテロ二量体抗体フォーマットに存在するので、本発明による方法は、抗体関連ホモ二量体アビド結合性副産物の決定のための少なくとも任意のそのようなフォーマットに適用し得る。
【0152】
固定化された第1のCD抗原への二価およびアビド結合によるホモ二量体副産物は、チップの表面に蓄積する。これは、正しく会合したがアフィン結合性のみの(固定された第1のCD抗原に対して一価のみであり、したがってアフィン結合のみを有する)二重特異性抗体と置き換わる。結合した抗体関連ホモ二量体アビド結合性副産物の複合体は、正しく会合したヘテロ二量体アフィン結合性二重特異性抗体の複合体よりも複合体安定性が高い。そのため、副産物の蓄積が可能である。
【0153】
正しく会合したヘテロ二量体アフィン結合性二重特異性抗体ならびに抗体関連ホモ二量体アビド結合性副産物をチップの表面から解離させるために、当該抗体も第1のCD抗原に結合する任意の他の化合物も含まない緩衝水溶液をチップにアプライした。SPR(結合)シグナルの減衰を記録したが、これはシグナル値である。
【0154】
解離の開始後の規定の時点で、シグナル値と基準値との間の差が決定され得る/決定される。この差は、残留結合と呼ばれる。
【0155】
この効果は
図8に示されており、1%(w/w)のアビド結合性副産物が、単離された正しく会合した抗体(LS)に添加されている(100nMの正しく会合した抗体に1nMの副産物が添加されている)。
【0156】
残留結合差は、サンプル中のホモ二量体副産物の量に依存する。
【0157】
全ての異なる抗体関連の二価および多価の第1CD抗原アビド結合性副産物を一緒に、すなわち合計として、定量する。
【0158】
単離されたヘテロ二量体アフィン結合性二重特異性抗体を利用できない場合、「標準添加による較正」によって定量し得る。定義されたホモ二量体分子(ホモ二量体アビド結合性副産物)を副産物標準として使用する。計算後、「高活性な二価の第1CD抗原結合体の合計の%値」は、「ホモ二量体標準の%値相当」として与えられる。
【0159】
解離の開始後の規定の時点で、シグナル値と基準値との差を決定する。この差は、残留結合と呼ばれる。
【0160】
残留結合差は、サンプル中のホモ二量体アビド結合性副産物の量に依存する。
【0161】
既知量のホモ二量体アビド結合性副産物を、単離された正しく会合したヘテロ二量体アフィン結合性抗体サンプルに添加することによって、種々の標準物質を調製し、検量線を作成した。検量線は、少なくとも2%(w/w)のホモ二量体副産物含有量まで直線である(R
2値0.9997)(
図9を参照されたい)。
【0162】
したがって、決定された残留結合は、サンプル中のホモ二量体アビド結合性副産物の量と関連付けられ得る。
【0163】
本発明による方法を適用することにより、サンプル中の少量のホモ二量体アビド結合性副産物を定量することが可能になる。
【0164】
CrossMabフォーマットの抗体について本実施例で使用した条件:
・ 抗原の固定化レベル=2000RU~4000RU
・ 抗体濃度=100nM
・ 検体流量=20μl/分
・ 結合時間=480秒
・ 解離時間=1200秒
・ 温度=25℃
・ 緩衝液組成=HBS-P+
【0165】
本発明による方法の一般条件:
- 少なくとも約2000RU、好ましい一実施形態では2000RU~8000RUの範囲の抗原固定量
- 180秒~480秒の範囲、好ましい一実施形態では約360秒のローディング時間
- 50nM~200nMの範囲、好ましい一実施形態では約100nMの、サンプル中の正しく会合した抗体の濃度
- 10μL/分~30μL/分の範囲の流量、好ましい一実施形態では約20μL/分~約30μL/分の範囲の流量
- 残留結合は、解離が開始した後の任意の時点で決定し得、好ましい一実施形態では、残留結合は、少なくとも400秒後、少なくとも480秒後、または少なくとも1200秒後に決定し得る
- 残留結合は副産物の結合活性に依存するので、正しく会合した抗体とホモ二量体副生成物との間にオフレート差は必要ではない
- 残留結合は、流量および時間によって調整し得る
【0166】
本発明の具体的な実施形態:
1.正しく会合した二重特異性抗体と、二重特異性抗体の1つ以上のアビド結合性副産物とを含むサンプル中の二重特異性抗体のアビド結合性副産物を、表面プラズモン共鳴を用いて決定するための方法であって、
正しく会合した二重特異性抗体は、1つ以上の、第1抗原に対する結合部位と、1つ以上の、第2抗原に対する結合部位とを含み、
二重特異性抗体のアビド結合性副産物は、2つ以上、かつ、正しく会合した二重特異性抗体よりも多くの、第1抗原に対する結合部位を含み、
本方法は、:
i)正しく会合した二重特異性抗体を含むローディング溶液を、第1抗原が少なくとも1000RUで固定化されたSPR表面にアプライしてSPRシグナルを生成させ、その後、第1抗原に結合する化合物を含まない解離溶液をSPRチップにアプライし、SPRシグナルの減衰を記録する工程と、
ii)二重特異性抗体のアビド結合性副産物を含む疑いのあるサンプル溶液を、第1抗原が少なくとも1000RUで固定化されたSPR表面にアプライしてSPRシグナルを生成させ、その後、第1抗原に結合する化合物を含まない解離溶液をSPRチップにアプライし、SPRシグナルの減衰を記録する工程と、
iii)工程ii)で決定されたSPRシグナルの減衰が工程i)で決定されたSPRシグナルの減衰よりも遅い場合に、二重特異性抗体のアビド結合性副産物を決定する工程と
を含む、方法。
2.第1抗原が、少なくとも2000RUで固定化されている、実施形態1に記載の方法。
3.第1抗原が、2000RU以上かつ8000RU以下で固定化されている、実施形態1または2に記載の方法。
4.ローディング溶液および/またはサンプルのアプライが、5μL/分~50μL/分の流量で少なくとも300秒間である、実施形態1~3のいずれか一項に記載の方法。
5.ローディング溶液および/またはサンプルのアプライが、5μL/分~50μL/分の流量で少なくとも400秒間である、実施形態1~4のいずれか一項に記載の方法。
6.解離溶液のアプライが、5μL/分~50μL/分の流量で少なくとも600秒間である、実施形態1~5のいずれか一項に記載の方法。
7.解離溶液のアプライが、5μL/分~50μL/分の流量で少なくとも1200秒間である、実施形態1~6のいずれか一項に記載の方法。
8.ローディング溶液およびサンプルのアプライが同じ条件下である、実施形態1~5のいずれか一項に記載の方法。
9.工程i)およびii)における解離溶液のアプライが、同じ条件下である、実施形態1~3および6~8のいずれか一項に記載の方法。
10.流量が15μL/分~35μL/分である、実施形態4~9のいずれか一項に記載の方法。
11.工程iii)における決定が、解離溶液のアプライの開始後少なくとも400秒の時点で決定されたSPRシグナルによるものであり、工程i)およびii)における解離溶液のアプライの開始時のローディング溶液で得られたSPRシグナルが同一とされる、実施形態1~10のいずれか一項に記載の方法。
12.工程iii)における決定が、解離溶液のアプライの開始後少なくとも1200秒の時点で決定されたSPRシグナルによるものであり、工程i)およびii)における解離溶液のアプライの開始時のローディング溶液で得られたSPRシグナルが同一とされる、実施形態1~6および8~11のいずれか一項に記載の方法。
13.抗体が、
i)CrossMabフォーマットの二重特異性抗体、または
ii)TCBフォーマットの二重特異性抗体、または
iii)2+1フォーマットの二重特異性抗体である、実施形態1~12のいずれか一項に記載の方法。
14.抗体関連ホモ二量体アビド結合性副産物の存在を決定するためのものである、実施形態1~13のいずれか一項に記載の方法。
15.抗体関連ホモ二量体アビド結合性副産物の存在を定量するためのものである、実施形態1~13のいずれか一項に記載の方法。
【0167】
図面および実施例
以下の実施例および図面は、本発明の理解を助けるために提供されており、本発明の真の範囲は、添付の特許請求の範囲に示されている。本発明の要旨から逸脱することなく、記載された手順に変更を加え得ることが理解される。
【図面の簡単な説明】
【0168】
【
図1】チップ上にプレコートされた一本鎖DNAをそのストレプトアビジン担持補体鎖とハイブリダイズさせた後、ストレプトアビジン修飾CAPチップの表面にビオチンタグを介してヒトトランスフェリン受容体を間接的に固定化するアッセイ設定の概略図。
【
図2】抗体を含まない緩衝水溶液の使用による、チップの表面からの、単離された正しく会合した抗体(下側の曲線;赤色)ならびに20%のアビド結合性副産物を含むサンプル(上側の曲線;緑色)の解離中のSPRシグナルの減衰。上側のシグナル値と下側のシグナル値との差が残留結合である。
【
図3】本発明による方法を用いて確立された2+1フォーマットの二重特異性抗体のアビド結合性副産物の決定のための検量線。
【
図4】本発明による方法を用いて確立されたTCBフォーマットの二重特異性抗体のアビド結合性副産物の決定のための検量線。上側の曲線:単離された抗体へのアビド結合性副産物の添加;下側の曲線:アビド結合性副産物を既に含む参照材料中のアビド結合性副産物の添加。
【
図5】第1のCD抗原に対する結合価が増加した、単離された様々な可能性のある副産物のSPRセンサーグラム。
【
図6】アビド結合性副産物の量に応じた残留結合を示すSPRセンサーグラム。
【
図7】抗体を含まない緩衝水溶液を使用して、正しく会合した抗体ならびにホモ二量体アビド結合性副産物をチップの表面から解離させると、SPR(結合)シグナルの減衰が記録され、これにより、ホモ二量体アビド結合性副産物について、顕著な残留結合が決定され得ることが示された。
【
図8】1%(w/w)のアビド結合性副産物(100nMの正しく会合した抗体に添加された1nMの副産物)を含むサンプルのSPRシグナルの減衰。
【
図9】既知量のホモ二量体アビド結合性副産物を、単離された正しく会合したヘテロ二量体アフィン結合性抗体サンプルに添加することによって、本発明による方法を用いて決定された検量線;種々の標準を調製し、検量線を作成した-検量線は、少なくとも2%(w/w)のホモ二量体副産物含有量まで直線である。
【実施例】
【0169】
実施例の説明
実施例1
本発明による方法を用いたアビド結合性副産物の決定:2+1-フォーマット/抗Aベータ/TfR二重特異性抗体
BIAcore CAPチップ(Cytiva)をBIAcore T200機器にドッキングし、ベンダーによって提供された指示に従って調製した。次いで、複数のアッセイサイクルを実施した。全てのサイクルは、チップの表面上のストレプトアビジンを結合させるための製造業者の指示によるハイブリダイゼーション工程からなった。これに続いて、1μMのビオチン化トランスフェリン受容体溶液を、5μl/分の流量で180秒間注入した。その後、サンプルをフローチャンバーに、30μl/分の流量で180秒間注入し(結合相)、その後、同じ流量で600秒間、緩衝液に切り替えることによってトランスフェリン受容体から解離させた。最後に、SA CAPキットに含まれる溶液を用いてチップの表面を再生した。
【0170】
上記のように実施した連続サイクルでは、ある範囲(0%、1%、2%、3%、4%、5%、10%、20%、50%および100%の抗体副産物)の抗体-抗体副産物混合物をサンプルとして使用した。得られたシグナルを、BIAcore T200評価ソフトウェアを用いて処理した。「結果プロット」機能を使用して、捕捉レベルを調整し、解離相が終了する前に、報告されたシグナルを10秒間直線的に当てはめた。
【0171】
アッセイは、HBS-EP+緩衝液(0.1M HEPES、1.5M NaCl、0.03M EDTA、0.5%(v/v)界面活性剤P20、pH7.4を含有する緩衝水溶液)を、ランニング緩衝液およびサンプル緩衝液として用いて25℃で行った。
【0172】
実施例2
本発明による方法を用いたアビド結合性副産物の決定:TCB-フォーマット
少量の二価CD3結合ホモ二量体副産物の定量のために、BIAcore T200を使用した。CD3抗原を、アミンカップリングによって、CM5チップ(CD3抗原ストック溶液をpH5.0の10mM酢酸ナトリウム緩衝液中で10μg/mLの濃度に希釈した)上に、6000RU超になるように固定化した。固定化後、ランニングおよび希釈緩衝液としてHBS-P+(0.1M HEPES、1.5M NaCl、0.5%(v/v)界面活性剤P20、pH7.4を含む緩衝水溶液)を使用して、37℃で分析を実施した。分析するサンプルを100nMの抗体濃度に希釈した。較正標準を以下のように調製した:規定量の副産物を100nMのサンプルに添加した(例えば、0.25%、0.5%、1%、2%のノブ-ノブホモ二量体(KK)種)。サンプルおよび較正標準を、CD3誘導体化チップ表面に、480秒間注入した。20μl/分の流量での1200秒の解離時間の後、表面の再生、3M MgCl2溶液による60秒間の再生ステップが続いた。データは、BiaEvaluationソフトウェアを使用して、Calibrationの機能を使用した濃度分析を使用して分析した。較正設定は、以下のように指定される:フローセル:FC2-1またはFC4-3、レポートポイント:1200秒での安定性、応答タイプ:相対応答、フィッティング機能:線形。定量は、標準添加による較正によって行われる。ホモ二量体CD3の%値:KK相当=切片/勾配。
【0173】
実施例3
本発明による方法を用いたアビド結合性副産物の決定:CrossMabフォーマット
少量の第1CD抗原結合ホモ二量体副産物の定量のために、BIAcore T200を使用した。第1CD抗原を、10μL/分の流量でSAチップ上に2000RU~4000RUのレベルで固定化した(第1CD抗原ストック溶液をHBS-P+緩衝液で5μg/mLの濃度に希釈した)。固定化後、分析を、ランニング緩衝液および希釈緩衝液としてHBS-P+を用いて25℃で実施した。分析する抗体サンプルを100nMに希釈した。並行して、標準添加による較正のためにいくつかのサンプルを調製した:規定量の副産物を100nMの抗体サンプルに添加した(例えば、0.25%、0.5%、1%および2%のノブ-ノブホモ二量体(KK)副産物)。抗体サンプルおよび較正サンプルを、20μL/分の流量で、第1CD抗原のチップの表面に480秒間注入した。20μl/分の流量での1200秒の解離後、「Gentle Ag/Ab溶出緩衝液pH6.6」(Thermoカタログ番号21013)を用いて、表面を120秒間再生した。データ分析:データは、BiaEvaluationソフトウェアを使用して、Calibrationの機能を使用した濃度分析を使用して分析した。較正設定は、以下のように指定される:フローセル:FC2-1またはFC4-3、レポートポイント:1200秒での安定性、応答タイプ:相対応答、フィッティング機能:線形。定量は、標準添加による較正によって行われる。ホモ二量体KK第1CD抗原の%値:KK相当=切片/勾配。
【手続補正書】
【提出日】2024-09-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正しく会合した二重特異性抗体と、前記二重特異性抗体の1つ以上のアビド結合性副産物とを含むサンプル中の二重特異性抗体のアビド結合性副産物を、表面プラズモン共鳴を用いて決定するための方法であって、
前記正しく会合した二重特異性抗体は、1つ以上の、第1抗原に対する結合部位と、1つ以上の、第2抗原に対する結合部位とを含み、
前記二重特異性抗体の前記アビド結合性副産物は、2つ以上、かつ、前記正しく会合した二重特異性抗体よりも多くの、前記第1抗原に対する結合部位を含み、
前記方法は、
i)前記正しく会合した二重特異性抗体を含むローディング溶液を、前記第1抗原が少なくとも1000RUで固定化されたSPR表面にアプライしてSPRシグナルを生成させ、その後、前記第1抗原に結合する化合物を含まない解離溶液をSPRチップにアプライし、前記SPRシグナルの減衰を記録する工程と、
ii)前記二重特異性抗体のアビド結合性副産物を含む疑いのあるサンプル溶液を、前記第1抗原が少なくとも1000RUで固定化されたSPR表面にアプライしてSPRシグナルを生成させ、その後、前記第1抗原に結合する化合物を含まない解離溶液を前記SPRチップにアプライし、前記SPRシグナルの減衰を記録する工程と、
iii)工程ii)で決定された前記SPRシグナルの減衰が工程i)で決定された前記SPRシグナルの減衰よりも遅い場合に、前記二重特異性抗体の前記アビド結合性副産物を決定する工程と
を含む、方法。
【請求項2】
前記第1抗原が、少なくとも2000RUで固定化されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1抗原が、2000RU以上かつ8000RU以下で固定化されている、請求項
1に記載の方法。
【請求項4】
前記ローディング溶液および/または前記サンプルの前記アプライが、5μL/分~50μL/分の流量で少なくとも300秒間である、請求項
1に記載の方法。
【請求項5】
前記ローディング溶液および/または前記サンプルの前記アプライが、5μL/分~50μL/分の流量で少なくとも400秒間である、請求項
1に記載の方法。
【請求項6】
前記解離溶液の前記アプライが、5μL/分~50μL/分の流量で少なくとも600秒間である、請求項
1に記載の方法。
【請求項7】
前記解離溶液の前記アプライが、5μL/分~50μL/分の流量で少なくとも1200秒間である、請求項
1に記載の方法。
【請求項8】
前記ローディング溶液および前記サンプルの前記アプライが同じ条件下である、請求項
1に記載の方法。
【請求項9】
工程i)およびii)における前記解離溶液の前記アプライが、同じ条件下である、請求項
1に記載の方法。
【請求項10】
前記流量が15μL/分~35μL/分である、請求項
4に記載の方法。
【請求項11】
工程iii)における前記決定が、前記解離溶液の前記アプライの開始後少なくとも400秒の時点で決定された前記SPRシグナルによるものであり、工程i)およびii)における前記解離溶液の前記アプライの開始時の前記ローディング溶液で得られた前記SPRシグナルが同一とされる、請求項
1に記載の方法。
【請求項12】
工程iii)における前記決定が、前記解離溶液の前記アプライの開始後少なくとも1200秒の時点で決定された前記SPRシグナルによるものであり、工程i)およびii)における前記解離溶液の前記アプライの開始時の前記ローディング溶液で得られた前記SPRシグナルが同一とされる、請求項
1に記載の方法。
【請求項13】
前記抗体が、
i)CrossMabフォーマットの二重特異性抗体、または
ii)TCBフォーマットの二重特異性抗体、または
iii)2+1フォーマットの二重特異性抗体
である、請求項
1に記載の方法。
【請求項14】
抗体関連ホモ二量体アビド結合性副産物の存在を決定するためのものである、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
抗体関連ホモ二量体アビド結合性副産物の存在を定量するためのものである、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【国際調査報告】