(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-03
(54)【発明の名称】核酸放出のためのナノ粒子
(51)【国際特許分類】
A61K 9/127 20060101AFI20241126BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20241126BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20241126BHJP
A61K 47/20 20060101ALI20241126BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20241126BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20241126BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20241126BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20241126BHJP
B82Y 5/00 20110101ALI20241126BHJP
【FI】
A61K9/127
A61K47/18
A61K47/24
A61K47/20
A61K47/22
A61K47/26
A61P21/00
A61K31/7088
B82Y5/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024532705
(86)(22)【出願日】2022-12-02
(85)【翻訳文提出日】2024-07-25
(86)【国際出願番号】 EP2022084174
(87)【国際公開番号】W WO2023099722
(87)【国際公開日】2023-06-08
(32)【優先日】2021-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500034033
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・クロード・ベルナール・リヨン・プルミエ
(71)【出願人】
【識別番号】592236245
【氏名又は名称】サントル・ナシオナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シアンティフィク
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LARECHERCHE SCIENTIFIQUE
(71)【出願人】
【識別番号】520248494
【氏名又は名称】オスピス・シヴィル・ドゥ・リヨン
【氏名又は名称原語表記】HOSPICES CIVILS DE LYON
(71)【出願人】
【識別番号】592236234
【氏名又は名称】アンスティテュー・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・メディカル・(イ・エヌ・エス・ウ・エール・エム)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL DE LA SANTE ET DE LA RECHERCHE MEDICALE (I.N.S.E.R.M.)
(71)【出願人】
【識別番号】521365004
【氏名又は名称】ウニヴェルシタ デッリ ストゥディ ディ ヴェローナ
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】ロッロ,ジョヴァンナ
(72)【発明者】
【氏名】アンドレット,ヴァレンティーナ
(72)【発明者】
【氏名】クリザ,デイビッド
(72)【発明者】
【氏名】アル ムアゼン,エヤド
(72)【発明者】
【氏名】ルペラン,マチュー
(72)【発明者】
【氏名】ブリアンソン,ステファニー
(72)【発明者】
【氏名】シェフェール,ローラン
(72)【発明者】
【氏名】ジャキエ,アルノー
(72)【発明者】
【氏名】クデール,ローラン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA19
4C076BB11
4C076BB15
4C076CC26
4C076DD49
4C076DD55
4C076DD60
4C076DD63
4C076EE37
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA24
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA94
(57)【要約】
本発明は、細胞内での核酸の輸送および放出のためのベクターとして使用され得る、少なくとも1つのカチオン性脂質、少なくとも1つの中性脂質、および前記カチオン性脂質とは異なる少なくとも1つのpH感受性脂質を含むナノ粒子に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)少なくとも1つのカチオン性脂質、
(b)少なくとも1つの中性脂質、および
(c)カチオン性脂質(a)とは異なる、少なくとも1つのpH感受性脂質
を含む、ナノ粒子。
【請求項2】
核酸を担持した、請求項1に記載のナノ粒子。
【請求項3】
少なくとも1つのアニオン性多糖、好ましくはヒアルロン酸により覆われている、請求項1または2に記載のナノ粒子。
【請求項4】
コレステロールを含まないか、またはいかなるステロイドさえも含まない、請求項1~3のいずれか一項に記載のナノ粒子。
【請求項5】
カチオン性脂質の他の脂質に対するモル比が1:1~2:1の範囲にある、請求項1~4のいずれか一項に記載のナノ粒子。
【請求項6】
カチオン性脂質が1,2-ジオレオイルオキシプロピル-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロライド(DOTAP)、1,2-ジミリストイルオキシプロピル-3-ジメチルヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(DMRIE)、N-(2,3-ジオレオイルオキシプロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロライド(DOTMA)、ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド(DDAB)、1,2-ジオレイルオキシプロピル-3-ジメチルヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(DORIE)、N-(4-カルボキシベンジル)-N,N-ジメチル-2,3-ビス(オレオイルオキシ)プロパン-1-アミニウム(DOBAQ)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-エチルホスホコリン(塩化物塩)(DOEPC)、N-N-ジオレオイル-N,N-ジメチルアンモニウムクロライド(DODAC)、1,2-ジオレオイル-3-ジメチルアンモニウムプロパン(DODAP)、N-メチル-4(ジオレイル)メチルピリジニウムクロライド(SAINT-2)などの第4級アンモニウムの単体または混合物から選択され;カチオン性脂質が好ましくはDOTAPである、請求項1~5のいずれか一項に記載のナノ粒子。
【請求項7】
中性脂質がl,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)、ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)、ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)およびN'-(rac-l-[l 1-(F-オクチル)ウンデセ-10-エニル]-2-(ヘキサデシル)グリセロ-3-ホスホエタノイル)スペルミンカルボキサミド)の単体または混合物から選択され、中性脂質が好ましくはDOPEである、請求項1~6のいずれか一項に記載のナノ粒子。
【請求項8】
pH感受性脂質が、少なくとも1つの以下の式(I)
【化1】
〔式中、
RCOOは、ミリストイル基、α-D-トコフェロールサクシノイル基、リノレイル基およびオレオイル基から選択される基であり;そして
Xは、以下の構造(II)、(III)または(IV)
【化2】
を有する基から選択される。〕
の脂質である、請求項1~7のいずれか一項に記載のナノ粒子。
【請求項9】
pH感受性脂質が少なくとも1つの式(I)
〔式中、
RCOOがミリストイル基であり、そしてXが式(II)であるか;
RCOOがα-D-トコフェロールサクシノイル基であり、そしてXが式(II)または式(III)の基であるか;
RCOOがリノレイル基またはオレオイル基であり、そしてXが式(III)の基であるか;または
RCOOがオレオイル基であり、そしてXが式(IV)の基である。〕
の脂質である、請求項8に記載のナノ粒子。
【請求項10】
pH感受性脂質が少なくとも1つの式(I)
〔式中、RCOOがミリストイル基であり、そしてXが式(II)
【化3】
の基である。〕
の脂質である、請求項8または9に記載のナノ粒子。
【請求項11】
(a)カチオン性脂質として少なくともDOTAP、
(b)中性脂質として少なくともDOPE、および
(c)pH感受性脂質として少なくとも1つの式(I)
〔式中、RCOOがミリストイル基であり、そしてXが式(II)
の基である。〕
の脂質
を含む、請求項10に記載のナノ粒子。
【請求項12】
pH感受性脂質が第3級アミン基を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載のナノ粒子。
【請求項13】
pH感受性脂質が単独または混合物としての1,2-ジリノレイルオキシ-n,n-ジメチル-3-アミノプロパン(DLinDMA)、O-(Z,Z,Z,Z-ヘプタトリアコンタ-6,9,26,29-テトラエン-19-イル)-4-(N,N-ジメチルアミノ)(DLin-MC3-DMA)、または2-[2,2-ビス[(9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエニル]-1,3-ジオキソラン-4-イル]-N,N-ジメチルエタナミン(DLin-KC2-DMA)である、請求項12に記載のナノ粒子。
【請求項14】
(a)カチオン性脂質として少なくともDOTAP、
(b)中性脂質として少なくともDOPE、および
(c)pH感受性脂質として少なくともDLin-MC3-DMA
を含む、請求項13に記載のナノ粒子。
【請求項15】
RNAである核酸を担持した、請求項1~14のいずれか一項に記載のナノ粒子。
【請求項16】
mRNAである核酸を担持した、請求項15に記載のナノ粒子。
【請求項17】
干渉RNAである核酸を担持した、請求項15に記載のナノ粒子。
【請求項18】
DNAである核酸を担持した、請求項1~14のいずれか一項に記載のナノ粒子。
【請求項19】
好ましくはRNA:DNAの重量比が1:1~1:10の範囲、好ましくは1:1~1:5の範囲、好ましくは1:1~1:3の範囲、なおさらに好ましくは1:2である、RNAとDNAの混合物を担持した、請求項1~14のいずれか一項に記載のナノ粒子。
【請求項20】
プラスミドDNA(pDNA)とmRNAの混合物を担持した、請求項19に記載のナノ粒子。
【請求項21】
N/P比が1~100の範囲、好ましくは1~60の範囲、好ましくは1~50の範囲、好ましくは1~30の範囲、なおさらに好ましくは1~20の範囲、好ましくは1~10の範囲、好ましくは1~8の範囲、なおさらに好ましくは1.5~8の範囲、好ましくは1~5の範囲、なおさらに好ましくは1.5~4の範囲になるようにナノ粒子に核酸を担持させた、請求項1~20のいずれか一項に記載のナノ粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インビトロまたはエクスビボモデルにおける核酸の細胞内投与のための、またはインビボでの治療応用のための新規ベクターに関する。
【背景技術】
【0002】
先行技術
一本鎖および二本鎖核酸(アンチセンスオリゴヌクレオチド、低分子干渉RNA、プラスミドDNAおよび、より最近ではmRNA)は一般に、インタクトで、かつ効率的に、それらの標的に到達するための放出システムを必要とし、そのシステムは物理的なもの(エレクトロポレーション、超音波介在送達)またはナノメータースケールのベクターによるものであり得る。核酸を細胞の細胞質内に侵入させるのに最も効果的で、一般的に使用されているベクターは、脂質またはポリマー型のカチオン性化学分子であり、その電荷のために核酸と結合して細胞内への侵入を可能にする。永久に帯電するか、またはそれらの環境のpHに反応して正に帯電するこれらの分子は、核酸(大小のDNAまたはRNA)を培養細胞または生物内の細胞の中に侵入させるために、非常に一般的に使用される。それらは培養細胞においては非常に効果的である一方、生物内においては血液中に存在するタンパク質および細胞により捕捉される現象のためにそれほど効果的ではない。先行技術特許EP2389158は、例えばアルギン酸であり得るアニオン性分子、およびカチオン性脂質に基づく組成物を記載する。コレステロールも含むこの組成物は、200ヌクレオチドより小さいサイズの核酸の放出を可能にする。例えばBioNTechの特許出願WO2013/143555で、DOTAPおよびDOPEの組合せ、およびコレステロールで形成されるリポソームによって核酸を送達することも知られており、このリポソームは任意選択的にヒアルロン酸(HA)で覆われている。Gasperini, Langmuir 31.11(2015): 3308-3317; Hattori, et al, Journal of drug targeting 21.7(2013): 639-647; Ruponen et al, Glycobiology and extracellular matrices, 276(2001): 33875-33880を参照のこと。
【発明の概要】
【0003】
本発明者らは、安定で、かつ核酸の標的細胞内放出を可能にする新規ナノ粒子を、ここで提案する。
本発明のナノ粒子は、
(a)少なくとも1つのカチオン性脂質、
(b)少なくとも1つの中性脂質、および
(c)カチオン性脂質(a)とは異なる、少なくとも1つのpH感受性脂質
を含む。
【0004】
(a)、(b)および(c)のそれぞれのタイプの脂質は、単一の脂質からなり得るか、またはそれぞれ(a)、(b)および(c)の同じタイプの複数の脂質の混合物からなり得ることが理解される。
【0005】
特定の実施態様において、ナノ粒子は核酸を担持している。そのようなナノ粒子は、前記核酸の細胞内送達のために有用である。
【0006】
好ましくは、本発明のナノ粒子は、少なくとも1つのアニオン性多糖、好ましくはヒアルロン酸により覆われている。
【0007】
有利に、本発明のナノ粒子は、一般にコレステロールを含まないか、または、いかなるステロイドさえも含まない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、コーティングされていないリポプレックス複合体(LPC)およびヒアルロン酸でコーティングされているリポプレックス複合体(HLRC)の概略図である。
【0009】
【
図2】
図2は、リポソームのcryoTEM画像を示す。
図2Aは、mRNAを含まない単層リポソームの従来の形態を示す。リポソームとmRNAの相互作用およびリポソームとmRNA/HAの相互作用を、それぞれ
図2Bおよび
図2Cに示す。
【0010】
【
図3】
図3は、種々のN/P比でeGFP-mRNAと複合化したリポソーム(DOTAP/DOPE/Coatsome SS-M;脂質フィルムを水和することにより製造)でのトランスフェクション後の、THP-1細胞のトランスフェクション効率、細胞生存率およびインターナリゼーションの結果を報告する。種々のN/P比(1、3、3.5、5)でA)脂質ナノ粒子(LRC)およびB)HAによりコーティングされたナノ粒子(HLRC)でトランスフェクションした24時間後の、THP-1単球のトランスフェクション効率および蛍光強度のフローサイトメトリー解析。C)細胞生存率を、N/P比3でLRCまたはHLRCのいずれかでトランスフェクションした後、指定された時間に、ヨウ化プロピジウム(PI)およびアネキシンVで染色し、ネクローシスおよびアポトーシスを観測することにより評価した。THP-1細胞によるLRC D)およびHLRC E)のインターナリゼーションを、トランスフェクションの24時間後に、ローダミン-蛍光ナノ粒子を用いるフローサイトメトリーによって、かつ、位相差および蛍光顕微鏡を用いて、指定された時間に測定した。すべての値は平均値±平均標準偏差であり、統計解析は一元配置分散分析(one-way ANOVA)を用いて算出した。
【0011】
【
図4】
図4は、ヘパリンの存在下または非存在下で、種々のN/P比(1、5、10および50)で、DOPE/DOTAP/Coatsome SS-Mリポソームと複合化させたmRNAの製剤の電気泳動試験を示し、複合体形成およびリポプレックス内の核酸の存在を説明する。
【0012】
【
図5】
図5は、種々のN/P比でeGFP-mRNAと複合化したLRCおよびHLRC(DOTAP/DOPE/Coatsome SS-M;マイクロ流体製造)でトランスフェクションした後の、THP-1細胞のトランスフェクション効率および細胞生存率の結果を報告する。種々のN/P比(1、2、2.5、3、3.5、5)で、A)LRC、およびB)HLRCでトランスフェクションした24時間後の、THP-1単球のトランスフェクション効率および蛍光強度のフローサイトメトリー解析。C)細胞生存率を、N/P比2でLRCまたはHLRCのいずれかでトランスフェクションした後、指定された時間に、ヨウ化プロピジウム(PI)およびアネキシンVで染色し、ネクローシスおよびアポトーシスを観測することにより評価した。すべての値は平均値±平均標準偏差であり、統計解析は一元配置分散分析(one-way ANOVA)を用いて算出した。
【0013】
【
図6】
図6は、GFP発現を誘導するための、N/P比1.5および3でmRNAを担持した様々な脂質製剤の、C2C12筋芽細胞へのトランスフェクション効率を報告する。
【0014】
【
図7】
図7は、GFP発現を誘導するための、N/P比1.5でmRNAと複合化したLRCおよびHLRC(DOTAP/DOPE/Coatsome SS-M;マイクロ流体製造)複合体をトランスフェクションした後の、C2C12筋芽細胞へのトランスフェクション効率に関する結果を報告する。
【0015】
【
図8】
図8は、PE-シアニン5で標識され、蛍光タンパク質mCherryをコードするmRNAと結合したHLRC(DOTAP/DOPE/Coatsome SS-M;マイクロ流体製造)の、健康なBalb/Cマウスの前脛骨筋に筋肉内投与をした後の分布を示す。
【0016】
【
図9】
図9は、pDNAを担持したHLRC(DOTAP/DOPE/Coatsome SS-M;マイクロ流体製造)の物理化学性質を示す。種々のN/P比(1.5、2、3または4)でpDNAを担持したHLRCの、平均直径および多分散性指数(A)およびゼータ電位値(B)。HLRCにおけるDNAの結合効率を調べるための、pDNAを担持したHLRCの電気泳動分析(C)。N/P比1.5でpDNAを担持したHLRCのCryoTEM画像(D)。
【0017】
【
図10】
図10は、pDNAを担持したHLRC(DOTAP/DOPE/Coatsome SS-M;マイクロ流体製造)のC2C12筋芽細胞へのインターナリゼーションの程度を示す。
【0018】
【
図11】
図11は、GFP発現を誘導するための、種々のN/P比でpDNAを担持したHLRC(DOTAP/DOPE/Coatsome SS-M;マイクロ流体製造)のC2C12筋芽細胞へのトランスフェクション効率を示す。
【0019】
【
図12】
図12は、GFP発現を誘導するための、N/P比1.5および3でpDNAを担持した様々な脂質製剤のC2C12筋芽細胞へのトランスフェクション効率を報告する。
【0020】
【
図13】
図13は、種々のN/P比で、pDNAを担持したHLRC(DOTAP/DOPE/Coatsome SS-M;マイクロ流体製造)をトランスフェクトしたC2C12筋芽細胞における細胞生存率アッセイの結果を示す。数値は平均値±SD(標準偏差)を表す。
【0021】
【
図14】
図14は、GFP発現を阻害するための、種々の用量でのsiRNA-HLRC(DOTAP/DOPE/Coatsome SS-M;マイクロ流体製造)のC2C12筋芽細胞へのトランスフェクション効率結果を示す。
【0022】
【
図15】
図15は、N/P比1.5および3で、pDNA(タンパク質mScarletをコードする)およびmRNA(GFPタンパク質をコードする)を重量比2:1で複合化したLRCおよびHLRC(DOTAP/DOPE/Coatsome SS-M;マイクロ流体製造)の、C2C12筋芽細胞へのトランスフェクション効率を報告する。トランスフェクション効率は、一度にGFP、mScarletおよび同時にこれら両方の発現を誘導するためのシステムの能力において評価される。
【発明を実施するための形態】
【0023】
発明の詳細な説明
定義
「リポプレックス」は、核酸をベクター化する複合体、特に、本明細書で定義されるとおり(i)核酸と(ii)ナノ粒子の複合体を意味する。
【0024】
「カチオン性脂質」は、正味の正電荷を有する脂質を意味する。カチオン性脂質は、カチオン性極性頭部および1つ以上の疎水性鎖を含む。
【0025】
「中性脂質」は正味の中性電荷を有する脂質、さらに特には双性イオン性脂質を意味する。
【0026】
「ミセル」は、親水性極性頭部および疎水性鎖を有する両親媒性分子の球状凝集体を意味する。
【0027】
「リポソーム」は、同心円状の脂質二重層によって形成され、それらの間に水性コンパートメントを閉じ込める、人工小胞を意味する。
【0028】
「ゼータ電位」は、粒子が懸濁液または溶液中にあるとき、粒子を取り囲むイオンの雲によって粒子が獲得する電荷を表す。実際に、前記粒子が液体中を移動するとき、それは「電気二重層」内に組織化されたイオンに取り囲まれる:
-イオンの一部は粒子に付着し、それによりステルン(Stern)層と呼ばれる付着イオンの層を形成し、
-イオンの他の部分は拡散層と呼ばれる非結合層を形成する。
【0029】
「滑り面(slipping plane)」は、これら2つの層の境界を定める。分散媒と滑り面の電位間の電位差は、ゼータ電位を規定する。この電位は、粒子間の静電反発または静電引力の強度の尺度を表す。正のζ(ゼータ)電位は、核酸の複合体形成の効率を確保するために重要であり、また、前記粒子間の静電反発に起因する粒子のコロイド安定性に影響を与える。
【0030】
カチオン性脂質
本発明のナノ粒子は、少なくとも1つのカチオン性脂質(a)を含む。
カチオン性脂質は、好ましくは、次のものから、単独または混合物として選択される:
-リポポリアミン、例えば、2-{3-[ビス(3-アミノプロピル)アミノ]プロピルアミノ}-N-ジテトラデシルカルバモイルメチル-アセトアミド(化合物RPR209120)、2-{3-[3-(3-アミノプロピルアミノ)プロピルアミノ]プロピルアミノ}-N,N-ジオクタデシル-アセトアミド(RPR120535)(Byk et al, J. Med. Chem., 41, 224-235, 1998)、または2,3-ジオレオイルオキシ-N-[2(スペルミンカルボキサミド)エチル]-N,N-ジメチル-1-プロパンアミニウム-トリフルオロアセテート(DOSPA)、ジオクタデシルアミン-グリシン-スペルミン(DOGS)、ジパルミチルホスファチジルエタノールアミン-5-カルボキシスペルミルアミド(DPPES);
-第4級アンモニウム、例えば、1,2-ジミリストイルオキシプロピル-3-ジメチルヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(DMRIE)、N-(2,3-ジオレイルオキシプロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロライド(DOTMA)、1,2-ジオレオイルオキシプロピル-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロライド(DOTAP)、ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド(DDAB)、または1,2-ジオレイルオキシプロピル-3-ジメチルヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(DORIE)、N-(4-カルボキシベンジル)-N,N-ジメチル-2,3-ビス(オレオイルオキシ)プロパン-1-アミニウム(DOBAQ)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-エチルホスホコリン(塩化物塩)(DOEPC)、N-N-ジオレオイル-N,N-ジメチルアンモニウムクロライド(DODAC)、1,2-ジオレオイル-3-ジメチルアンモニウム-プロパン(DODAP)、N-メチル-4(ジオレイル)メチルピリジニウムクロライド(SAINT-2);
-ステアリルアミン(SA)、N-t-ブチル-N'-テトラデシル-3-テトラデシルアミノプロピオンアミジン(DiC14-アミジン)、O,O'-ジミリスチルN-リシルアスパラギン酸(DMKD)、またはO,O'-ジミリスチル-N-リシルグルタミン酸(DMKE);および
-グアニジン(BGTC)またはイミダゾール(DOTIM)タイプのカチオン性頭部を含む脂質。
【0031】
好ましい実施態様において、カチオン性脂質は、例えば上記の、第4級アンモニウムから選択される。
【0032】
好ましい実施態様において、カチオン性脂質はDOTAPである。
【0033】
有利に、カチオン性脂質は、ナノ粒子中に、3 mM~15 mM、好ましくは5~10 mM、なおさらに好ましくは5 mMの量で存在し、かつ/またはカチオン性脂質と他の脂質のモル比は1:1~2:1である。
【0034】
好ましい実施態様において、カチオン性脂質(a)はDOTAPであり、かつ、DOTAPと他の脂質(b)および(c)のすべてとのモル比は1:1~2:1であり、好ましくは約1:1である。DOTAPは、好ましくは3 mM~15 mM、好ましくは5~10 mM、なおさらに好ましくは5 mMの量で存在する。
【0035】
中性脂質
本発明のナノ粒子は、少なくとも1つの中性脂質(b)も含む。中性脂質の例は、単独でまたは混合物として使用され得る、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)、ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)、ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)およびN'-(rac-1-[11-(F-オクチル)ウンデセ-10-エニル]-2-(ヘキサデシル)グリセロ-3-ホスホエタノイル)スペルミンカルボキサミド)を含む。当該中性脂質は好ましくはDOPEである。
【0036】
好ましいナノ粒子は、DOTAPおよびDOPEの混合物を含む。DOTAおよびDOPEの混合物は、好ましくはリポソームまたは脂質ナノ粒子の形態の中にある。
【0037】
有利に、本発明のナノ粒子は、コレステロールを含まないか、または、いかなるステロイドさえも含まない。
【0038】
有利に、中性脂質は、ナノ粒子の中に、1 mM~10 mM、好ましくは1~5 mM、好ましくは約2.5 mMの量で存在する。
【0039】
pH感受性脂質
本発明のナノ粒子は、少なくとも1つの、カチオン性脂質(a)とは異なるpH感受性脂質(c)を含む。これらの脂質は、低pHではプロトン化され、それにより正電荷を帯びるが、生理学的pHでは中性のままである。
【0040】
「pH感受性脂質」は、イオン化可能な脂質、特に、周囲の媒体のpHの変動に基づいて反応し、酸加水分解によって切断可能であるか、またはジスルフィド架橋などの還元可能な基を含む脂質を意味する。
【0041】
これら脂質は、特に、グルタチオンなどの細胞性還元剤によって切断されやすい。脂質は、一般に、2つの疎水性画分を含み、かつ、細胞内環境に反応する2つの感受性ユニットで官能基化されている。1つ目は、第3級アミンであり、膜の不安定化のために酸コンパートメント(エンドソームまたはリソソームなど)に反応して正電荷を獲得するユニットであり;2つ目は、ジスルフィド架橋であり、自然分解のために還元環境(細胞質内など)に反応して切断され得るユニットである。
【0042】
pH感受性脂質の好ましい例は、したがって、ssPalm(「SS-切断可能で、pH活性化される脂質様物質」の意)という名称で知られている。
【0043】
NOF America社が販売しているCoatsome(登録商標)製品は、この種の好ましいpH感受性脂質である。それらは特に、Tanaka et al, Biomaterials, 2014, 35(5): 755-1761およびHidetaka Akita, Biol. Pharm. Bull. 2020, 43(11): 1617-1625による文献において記載されており、また、Silence TherapeuticsのEP 3 315 125、OncorusのWO 2020/142725、CurevacのWO 2021/123332の特許出願においても記載されている。
【0044】
好ましい実施態様において、pH感受性脂質は、以下の式(I):
【化1】
〔式中、
RCOOはミリストイル基、α-D-トコフェロールサクシノイル基、リノレイル基およびオレオイル基から選択される基であり;そして
Xは以下の構造(II)、(III)または(IV)
【化2】
を有する基から選択される。〕
の脂質である。
【0045】
特に、pH感受性脂質は、式中、
- RCOOがミリストイル基であり、そしてXが式(II)の基であるか(製品Coatsome(登録商標)SS-M[SS-14/3AP-01]に対応する);
- RCOOがα-D-トコフェロールサクシノイル基であり、そしてXが式(II)または(III)の基であるか(それぞれ、製品Coatsome(登録商標)SS-E[SS-33/3AP-05]またはCoatsome(登録商標)SS-EC[SS-33/4PE-15]に対応する);
- RCOOがリノレイル基またはオレオイル基であり、そしてXが式(III)の基であるか(それぞれ製品Coatsome(登録商標)SS-LC[SS-18/4PE-13]またはCoatsome(登録商標)SS-OC[SS-18/4PE-16]に対応する);または
- RCOOがオレオイル基であり、Xが式(IV)の基である(製品Coatsome(登録商標)SS- OPに対応する)
上に定義される式(I)の脂質である。
【0046】
有利に、pH感受性脂質は、式中、-RCOOがミリストイル基であり、そしてXが式(II)の基である、上に定義される式(I)の脂質である。この製品は、Coatsome(登録商標)SS-Mとして知られる。
【0047】
別の実施態様において、pH感受性脂質は、以下の脂質:
1,2-ジリノレイルオキシ-n,n-ジメチル-3-アミノプロパン(DLinDMA)、O-(Z,Z,Z,Z-ヘプタトリアコンタ-6,9,26,29-テトラエン-19-イル)-4-(N,N-ジメチルアミノ)(DLin-MC3-DMA)、または2-[2,2-ビス[(9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエニル]-1,3-ジオキソラン-4-イル]-N,N-ジメチルエタナミン(DLin-KC2-DMA)などの第3級アミン基を含む脂質、
【化3】
または
【化4】
あるいは、
【化5】
から選択され得る。
【0048】
上記のpH感受性脂質は、単独でまたは他のpH感受性脂質との混合物として使用され得る。
【0049】
有利に、pH感受性脂質はナノ粒子中に、1~10 mM、好ましくは1~5 mM、なおさらに好ましくは約2.5 mMの量で存在する。
【0050】
好ましい実施態様において、pH感受性脂質の量は中性脂質の量と実質的に等しい。
【0051】
有利に、pH感受性脂質は上に定義される式(I)〔式中、-RCOOがミリストイル基であり、そしてXが式(II)の基である。〕の脂質であり、1~10 mM、好ましくは1~5 mM、なおさらに好ましくは約2.5 mMの量である。
【0052】
好ましいナノ粒子は、
a)カチオン性脂質としてDOTAP、
b)中性脂質としてDOPE、および
c)pH感受性脂質として、上に定義される式Iの脂質、好ましくは式(I)〔式中、-RCOOがミリストイル基であり、そしてXが式(II)の基である。〕の脂質
の混合物を含む。
【0053】
特に好ましいナノ粒子は、DOTAP(5 mMの量)、DOPE(2.5 mMの量)および2.5 mMの量の上に定義される式(I)〔式中、-RCOOがミリストイル基であり、そしてXが式(II)の基である。〕の脂質の混合物を含む。
【0054】
別の好ましい実施態様において、ナノ粒子は、
(a)カチオン性脂質としてDOTAP、
(b)中性脂質としてDOPE、および
(c)pH感受性脂質としてDLin-MC3-DMA
を含む。
【0055】
ナノ粒子の調製方法
本発明のナノ粒子は、好ましくは、a)カチオン性脂質、b)中性脂質およびc)カチオン性脂質(a)とは異なるpH感受性脂質を、2:1:1~4:1:1のモル比で含むリポソームまたは脂質ナノ粒子の形態で調製される。
【0056】
有利に、本発明に従うナノ粒子は、
(a)約50%のカチオン性脂質、
(b)約25%の中性脂質、および
(c)約25%のカチオン性脂質(a)とは異なるpH感受性脂質
を含むリポソームの形態で調製される。
【0057】
本発明の好ましい態様によると、本発明に従うナノ粒子は、
(a)カチオン性脂質として約50%のDOTAP、
(b)中性脂質として約25%のDOPE、および
(c)約25%の、上に定義される式(I)
〔式中、
RCOOがミリストイル基、α-D-トコフェロールサクシノイル基、リノレイル基およびオレオイル基から選択される基であり;そして
Xが上に定義される構造(II)、(III)または(IV)を有する基から選択される。〕
の脂質から選択されるpH感受性脂質
を含むリポソームまたは脂質ナノ粒子の形態で調製される。
【0058】
本発明の好ましい態様によると、本発明に従うナノ粒子は、
(a)カチオン性脂質として約50%のDOTAP、
(b)中性脂質として約25%のDOPE、および
(c)約25%の、上に定義される式(I)
〔式中、
- RCOOがミリストイル基であり、そしてXが式(II)の基であるか;
- RCOOがα-D-トコフェロールサクシノイル基であり、そしてXが式(II)または(III)の基であるか;
- RCOOがリノレイル基またはオレオイル基であり、そしてXが式(III)の基であるか;または
- RCOOがオレオイル基であり、そしてXが式(IV)の基である。〕
の脂質から選択されるpH感受性脂質
を含むリポソームまたは脂質ナノ粒子の形態で調製される。
【0059】
リポソームまたは脂質ナノ粒子は、当業者に公知の技術を用いて、特に、脂質フィルムを水和させて(一般に、1つ以上の膜、例えばポリカーボネート膜を介して)押し出す方法によって、またはマイクロ流体プロセスによって、得られる。これら2つの方法は、下の実施例で詳細に記載される。
【0060】
核酸との複合体形成
本発明の特定の態様によると、特にリポプレックスを形成するために、ナノ粒子は核酸を担持している。リポプレックスは、特に核酸と脂質の複合体形成によって形成される。得られた複合体では、脂質および核酸が非共有結合的に結合している。
【0061】
担持ナノ粒子またはリポプレックスは特に、
i)上に定義される脂質a)、b)およびc)の混合物を得ること(それによりリポソームを得ることができる)、および
ii)前記混合物を核酸と接触させ、複合体またはリポプレックスを得ること
を含むプロセスによって得ることができる。
【0062】
このプロセスのステップi)は、好ましくは、脂質ナノ粒子を形成するための上記の方法に従って実施される。
【0063】
ステップii)は、好ましくは、ステップi)で得られたリポソームを緩衝液中または水性溶媒中、特にRNaseを含まない水で希釈し、その後、同一の緩衝液または同一の水性溶媒、特にRNaseを含まない水中の核酸溶液を加えることによって実施される。
【0064】
本発明の特定の態様によると、N/P比が1~100の範囲、好ましくは1~60の範囲、好ましくは1~50の範囲、好ましくは1~40の範囲、好ましくは1~30の範囲、なおさらに好ましくは1~20の範囲、好ましくは1~10の範囲、好ましくは1~8の範囲、なおさらに好ましくは1.5~8の範囲、好ましくは1~5の範囲、なおさらに好ましくは1.5~5の範囲または1.5~4の範囲になるように、ナノ粒子は核酸を担持し得る。
【0065】
N/P電荷比は、ナノ粒子の脂質のアミン官能基数(正電荷)と核酸のリン酸分子数(負電荷)の比に対応する。
【0066】
本発明の特定の態様によると、担持ナノ粒子が脂質フィルムを水和させて押し出すプロセスによって形成される場合、担持ナノ粒子またはリポプレックスは、一般に3以上、好ましくは3~8、好ましくは3~5のN/P比を有する。
【0067】
別の態様によると、担持ナノ粒子がマイクロ流体プロセスによって形成される場合、担持ナノ粒子またはリポプレックスは、一般に1.5以上または2以上、好ましくは1.5~10、好ましくは1.5~5または2~5のN/P比を有する。
【0068】
核酸は、デオキシリボ核酸(DNA)、一本鎖または二本鎖リボ核酸(RNA)、例えばmRNAまたは干渉RNA、または混合物、またはハイブリッドDNA/RNA配列であり得る。これらは天然または人工由来の配列であり得る。それらはまた、その糖部分、その核酸塩基部分、またはそのヌクレオチド間骨格の化学修飾によって得られる。糖部分における有利な修飾の中で、リボヌクレオチド上の通常の2'-OH基の代わりのリボースの2'位での修飾、例えば、2'-デオキシ、2'-フルオロ、2'-アミノ、2'-チオ、または2'-O-アルキル修飾、特に2'-O-メチル修飾、あるいは、リボースの2'位と4'位間のメチレン架橋(LNA)の存在が言及され得る。核酸塩基に関しては、特に5-ブロモウリジン、5-ヨードウリジン、N<3>-メチルウリジン、2,6-ジアミノプリン(DAP)、5-メチル-2'-デオキシシチジン、5-(1-プロピニル)-2'-デオキシウリジン(pdU)、5-(1-プロピニル)-2'-デオキシシチジン(pdC)、またはコレステロールに結合した塩基などの修飾塩基が使用され得る。最後に、ヌクレオチド間骨格の有利な修飾は、この骨格のホスホジエステル基をホスホロチオエート基、メチルホスホネート基、ホスホロジアミデート基で置き換えること、またはペプチド結合により結合したN-(2-アミノエチル)グリシンユニットから構成される骨格(PNA、ペプチド核酸)を用いることを含む。当然に、様々な修飾(塩基、糖、骨格)を組み合わせて、モルホリノ型(モルホリン環に結合し、そしてホスホロジアミデート基により結合した塩基)またはPNA型(ペプチド結合により結合したN-(2-アミノエチル)グリシンユニットに結合した塩基)の修飾核酸を得ることができる。
【0069】
核酸は、例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド、干渉RNA(miRNA、siRNAなど)、またはアプタマーなどの小さい(例えば200ヌクレオチドよりも小さい)ものであり得る。それらはまた、有利に、大きい(例えば200、300または400ヌクレオチドより大きい)ものでもあり得る。特定の実施態様において、核酸はDNAプラスミド(pDNA)である。
【0070】
本発明のリポプレックスの中に担持され得る核酸のサイズの例を、以下の表1に示す。
【表1】
【0071】
好ましい実施態様において、核酸はmRNAである。
【0072】
別の実施態様において、核酸はDNAである。
【0073】
別の実施態様において、核酸はmRNA以外のRNAであり、例えば干渉RNA(例えばsiRNAまたはmiRNA)である。
【0074】
好ましい実施態様において、ナノ粒子は、RNA(mRNAまたは干渉RNAなど)またはDNA、好ましくはpDNAで荷電された、DOPE/DOTAPおよびSS-Palm混合物を含む。
【0075】
別の好ましい実施態様では、ナノ粒子は、例えばRNA:DNA比が1:1~1:10の範囲であり、好ましくは1:1~1:5の範囲、好ましくは1:1~1:3の範囲、なおさらに好ましくは1:2である、RNAとDNAの混合物、好ましくはmRNAとpDNAの混合物を担持する、DOPE/DOTAPおよびSS-Palm混合物を含む。
【0076】
アニオン性多糖
ナノ粒子は、1つ以上のアニオン性多糖の分子でコーティングされ得る。「多糖」は、グリコシド結合によって相互に連結された連続した糖によって形成され、「アニオン性多糖」は正味の負電荷を有する多糖である。アニオン性多糖の中で、グリコサミノグリカン(ヒアルロン酸またはその塩、アルギン酸またはその塩など)、カラギーナン(硫酸化紅藻類多糖)、フカン(硫酸化褐藻類多糖)、カルボキシメチルベンジルアミドスルホン酸デキストランまたはCMDBS(ヒドロキシル基をカルボキシメチル基、ベンジルアミド基、スルホン酸基、硫酸基で統計的に置換することによりデキストランから調製される合成多糖)、およびヘパラン硫酸塩(グリコサミノグリカンファミリーに属する複合多糖)が言及され得る。
【0077】
好ましい実施態様において、アニオン性多糖は、ヒアルロン酸またはその塩、例えばナトリウム塩である。あるいは、アニオン性多糖は、アルギン酸またはその塩、例えばナトリウム塩であり得る。
【0078】
好ましい実施態様において、ナノ粒子は、DOPE/DOTAPと式IのSSpalm脂質の混合物を含み、RNA(例えばmRNAまたはsiRNAタイプ)またはDNA、好ましくはpDNAを担持し、そしてヒアルロン酸またはその塩、例えばヒアルロン酸ナトリウム(HA)の分子でコーティングされている。
【0079】
アニオン性多糖でのコーティングは、好ましくは、先に得られたナノ粒子/リポソーム/リポプレックスを水性溶媒中で、例えばRNaseを含まない水中で、ヒアルロン酸などのアニオン性多糖と接触させることにより達成される。
【0080】
リポプレックスは、好ましくはHAなどのアニオン性多糖で、カチオン性脂質:アニオン性多糖の重量比が1:2で、コーティングされる。
【0081】
アニオン性多糖でリポプレックスを覆うことは、これらの多糖に対する細胞レセプター(CD44など)が過剰発現している腫瘍部位、または細胞、例えばマクロファージ、筋芽細胞、筋管でのリポプレックスの蓄積を増加させるという特別な利点がある。
【0082】
核酸の移送
本発明のナノ粒子またはリポプレックスは、インビボ、インビトロまたはエクスビボでの、細胞内への核酸の移送に用いることができる。特に、本発明による組成物は、多数の細胞タイプ内への非常に効果的な核酸の移送に用いることができる。
【0083】
本発明に従うナノ粒子は、好ましくは、リポプレックスが培地から細胞の細胞質内を通過し、その後、核酸が細胞のサイトゾルおよび/または核の中で放出される条件下で、トランスフェクトされる細胞を含む培地中に存在する。
【0084】
特定の実施態様において、ナノ粒子はまた、細胞内(核など)標的化要素および/または細胞外標的化要素(特定の細胞/組織タイプの標的化)などの、核酸の移送を方向づけできる標的化要素を含み得る。
【0085】
本発明の別の主題は、本明細書で定義されるナノ粒子またはリポプレックスと薬学的に許容される担体を含む医薬組成物である。有利に、本発明の目的は、核酸の薬学的に許容されるベクターとして本明細書に記載されるナノ粒子の使用である。使用される核酸の用量および投与の回数は、種々のパラメーターに基づいて、特に、使用される投与様式、問題の疾患、投与される核酸、または他の所望の処置期間に基づいて適合され得る。
【0086】
好ましい実施態様において、本発明のナノ粒子は、遺伝子治療用途において有用である。核酸は、好ましくは、機能性タンパク質、特に患者において機能的に産生されないタンパク質をコードするDNAであり得る。
【0087】
複数の実施態様において、核酸は、患者において機能的に産生されないタンパク質をコードするmRNA、または治療上もしくはワクチンに関連する利益のあるタンパク質であり得る。別の態様によると、選択される核酸は、対象によって発現されるタンパク質の発現を阻害する可能性があり、したがって、例えば標的とするmRNA配列に相補的な、iRNAまたはアンチセンスオリゴヌクレオチドであり得る。したがって、特にスプライシング段階への作用によるエクソンスキッピングまたはインクルージョンによって、mRNAを修飾することができる。
【0088】
他の実施態様において、本発明のナノ粒子は、特に細胞治療の目的で、例えば細胞を修飾するための、エクスビボの用途において有用である。特定の治療用途は、筋肉障害または筋骨格障害を処置することに関する。
【0089】
核酸、例えば治療目的のタンパク質をコードするmRNAを担持した本明細書に記載のナノ粒子の筋肉内投与によって、対象、好ましくは筋肉または筋骨格障害を患うヒト患者の筋肉内に核酸を放出する方法もまた、本明細書に記載される。
【0090】
実施例および図面は、本発明の範囲を限定することなく本発明を説明する。
【実施例】
【0091】
実施例1:細胞内mRNA投与のための担体としてのリポソーム(リポプレックス)の製造
材料および方法
材料
カチオン性脂質1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)および補助脂質1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)は、Avanti Polar Lipidsから購入した。Coatsome(登録商標)SS-Mは、NOF America Corporationから入手した。GFPをコードするmRNAおよびViromerはBioNTechにより提供された。ヒアルロン酸ナトリウム(HA、重量平均モル質量、Mw=20000 g・mol-1)は、Lifecore Biomedical(Minnesota、USA)から購入した。Fixable Live/Dead(登録商標)は、Sigma-Aldrich(Saint-Quentin-Fallavier、フランス)により提供された。
【0092】
リポソームおよびリポプレックスの製剤
リポソームの製剤
リポソームを、薄膜法を用いた後、押し出し成形により作製した。脂質をクロロホルムに溶解して、最終所望濃度の溶液を調製し、表2に示すモル比に従って、水和後の最終脂質濃度が10 mMとなるように10 mLの丸底フラスコに添加した。有機溶媒を減圧下、40℃でロータリーエバポレーターを用いて除去した。クロロホルムを完全に除去するために、丸底フラスコを乾燥機内で一夜放置した。HEPES緩衝液0.1 Mを用いて、pH 5.5脂質フィルムを再水和した。5分間のボルテックス後、Avanti mini extruder(Avanti Polar Lipids社製)を用いて、大きなポリカーボネート膜(400 nm)を通して多重膜ベシクルを押し出し、続いて100 nmの膜で2回目の押し出しを行い、単層ベシクルを得た。リポソーム膜に包埋されたローダミン-標識DOPE(Rho-PE)を用いて、蛍光リポソームを調製した。Rho-PEを2% w/wの比で脂質溶液に添加後、乾燥工程を行った。放射性標識の目的で、DSPE-DTPA(PE-DTPA)を用いてDTPAリポソームを調製した。0.5% mol/molのPE-DTPAを脂質溶液に添加後、乾燥工程を行った。
【表2】
【0093】
リポプレックスの製剤
RNaseを含まない水で50 μLのリポソームを最終濃度1.8 mMに希釈した後、RNAseを含まない水中の種々の濃度のmRNA(0.03~0.15mg/mL)50 μLを添加することによりリポプレックスを調製し、表3に示すとおり、N/P比が1~5の範囲である複合体を得た。RNAseを含まない水中の0.6 mg/mL HA溶液50 uLを、既に調製したリポソームに加えることにより、ヒアルロン酸でコーティングされたリポプレックスを調製した。インビボでの使用の目的で、同一の最終濃度かつ良好な浸透圧を得るために、リポプレックスを10%グルコース溶液で希釈するか、または10%グルコースに溶解したHAでコーティングした。
【表3】
【0094】
リポプレックスの物理化学的解析
粒度分布および表面電荷は、Malvern(Malvern Instruments S.A, Worcestershire, UK)のNano ZS Zetasizer(登録商標)を用いて測定した。流体力学的直径および多分散性指数(PDI)は、キュムラント法を用いた動的光散乱(DLS)によって測定し、これらの測定は25℃、検出角度173°で行った。ゼータ(ζ)電位は電気泳動技術により測定した。すべてのサンプルを1 mMのNaClで希釈し、トリプリケートで解析した。mRNA結合効率は、Sybr Green(登録商標)アガロースゲル電気泳動を用いて測定した。サンプルをpH 5.5のHEPESで希釈して、RNAの最終量を0.125 μgにした。mRNAゲルローディングステインを加えた後、サンプルを1%(w/v)アガロースゲル上で80 Vで30分間試験した。mRNAバンドをGel DocTM(Bio-Rad)のEZイメージング装置を用いて可視化し、画像化した。
【0095】
mRNAを担持したリポソームの透過型低温電子顕微鏡(cryoTEM)による解析
脂質ナノ粒子の形態を、透過型低温電子顕微鏡を用いて評価した。要約すると、3.5 μLの製剤をCF-2/1-3Cu-50銅メッシュに加え、Vitrobot(Thermoscientific)を用いて浸漬して凍結させ、ガラス質の氷を生成した。サンプルを液体窒素の中で保存し、120 kVで作動するJEM-1400Flash電子顕微鏡を用いて画像化した。
【0096】
THP-1における細胞試験
トランスフェクション試験
逆トランスフェクション法を用いて、遺伝子発現の増幅および延長を行った。N/P比が1、3、3.5および5である、新しく調製したリポプレックスを24ウェルプレートに入れた。15%FBS、1 mMピルビン酸ナトリウム、10%HEPES緩衝液、1%L-グルタミン、1%ペニシリン/ストレプトマイシンを添加した完全RPMI培地の全量600 μL中150000細胞の密度で、THP-1細胞をリポプレックスに加えた。リポプレックスの体積を調整し、各条件で3 μgのeGFP mRNAを細胞にトランスフェクトした。eGFP mRNAを含むViromer Redの溶液を、トランスフェクションの陽性コントロールとして用いた;3 μgのe-GFP mRNAをプレートに入れた。その後、細胞を37℃で24時間インキュベートした。トランスフェクションの4時間後に、細胞培地を交換した。トランスフェクション後に、細胞を洗浄し、Fixable Live/Dead Violet溶液で染色した後、BD LSR 2フローサイトメトリーを用いて測定値を取った。FlowJoソフトウェアを用いてデータを解析し、GraphPad Prism v8.1ソフトウェアを用いて統計解析を行った。
【0097】
生存率試験
THP-1細胞および該リポプレックスを、上記のとおりプレーティングした。リポプレックスを新しく調製し、各ウェルに、eGFP mRNAが3 μgになるように必要量を加えた。50 μMのシスプラチンでの処理を、細胞死の陽性コントロールとして用いた。その後、細胞を37℃、5% CO2で4時間、24時間、および48時間インキュベートした。トランスフェクションの4時間後に細胞培地を交換した。その後、細胞を洗浄し、アネキシンV Pacific BlueTMで染色し、1:50ヨウ化プロピジウムで希釈した後、BD LSR 2フローサイトメーターを用いて測定値を取った。FlowJoソフトウェアを用いてデータを解析し、GraphPad Prism v8.1ソフトウェアを用いて統計解析を行った。
【0098】
インターナリゼーション試験
N/P比3でPE-Rhoと結合したリポソームの、新しく調製したリポプレックスを、24ウェルプレートにプレーティングした。その後、完全RPMI培地の全量600 μL中150000細胞の密度で、THP-1細胞を加えた。リポプレックスの体積を調整し、各条件で3 μgのeGFP mRNAを細胞にトランスフェクトした。細胞を37℃で2時間、4時間、24時間、および48時間インキュベートした。トランスフェクションの4時間後に細胞培地を交換した。トランスフェクション後、細胞を洗浄し、Fixable Live/Dead Violet溶液で染色した後、BDTMLSR IIフローサイトメーターを用いて測定値を取った。FlowJoソフトウェアを用いてデータを解析し、GraphPad Prism v8.1ソフトウェアを用いて統計解析を行った。
【0099】
インビボ生体内分布試験
放射標識リポソームのインビボ生体内分布
4.17 μmol(500 μL)のリポソーム(DOTAP-DOPE-Coatsome-SS-M)を85.8 MBq(100 μL)の111Inと60℃で30分間インキュベートすることにより、リポソームの表面を放射標識した。これにより放射能量は20.58 GBq/mmolになった。モル/活性比は0.24 nmol PE-DTPA/MBqであった。放射性標識効率は、pH 5の100 mMクエン酸緩衝液を移動相として用いた、シリカゲルストリップ上のインスタント薄層クロマトグラフィー(iTLC-SG、Biodex Medical Systems、Shirley、USA)により評価した。遊離および標識111In活性は、電離箱(Capintec、Florham Park、USA)において評価した。リポプレックスをN/P比3で調製した。簡潔に説明すると、1.25 μmol(150 μL)の放射標識リポソーム(0.63 μmolのDOTAP)を、それぞれ0.2 nmol mRNA(0.244 μmolのリン酸に相当)と共に環境温度で30分間インキュベートした。mRNA溶液を調製し、NanoDropTM(Ozyme、Saint-Cyr-l’Ecole、フランス)を用いて定量した。その後、10%グルコース溶液または10%グルコースに溶解した0.025 μmolのヒアルロン酸溶液をリポプレックスに加えて、浸透圧を調製した。
【0100】
3%イソフルランで麻酔したBALB/c_Rjマウスに製剤を静脈内注射した。正電荷リポプレックスLRCまたは負電荷リポプレックスHLRCのいずれかとして、DTPAリポプレックスにキレート化した2.07±0.82 MBq 111Inをマウスに注射した(比活性は20.58および25.77 Gbq/総脂質 mmol;100 μL中、総脂質50 nmol/マウス、n=18)。各製剤について、3匹のマウスの群を注射後6時間、24時間および48時間後に頸椎脱臼により安楽死させた。その後、マウスを解剖し、臓器を採取し、累積活性の定量分析を行った。臓器の放射能のエクスビボ定量を、Wizard 3”ガンマ線カウンター(Perkin Elmer、Waltham USA)を用いて行った。各製剤について、48時間群のマウス1匹を6時間、24時間および48時間後に伏臥位で画像化した。すべての生存動物画像は、NanoSPECT/CTTMインビボ動物イメージャー(Bioscan Inc.、Washington D・C、USA)で取得した。撮影中、1.5%イソフルランで動物に麻酔をかけて、呼吸をモデル1025T小動物モニタリングおよびゲーティングシステムでモニターした(SA Instruments Inc.、Stony Brook、USA)。各撮影は、多重化マルチピンホールアパーチャーで多重化した前臨床的SPECT/CTを用いて行った。SPECT装置は、15°ごとに256×256ピクセルを24個取得した。スキャン時間は、1投影当たり100秒であった。画像ボクセルサイズ0.6mmで、繰り返し回数9回およびサブセット数4個の、順序部分集合期待値最大化(OSEM:ordered subsets expectation maximization)アルゴリズムを用いて、メーカー製ソフトウェアHiSPECTで再構成を行った。
【0101】
結果
リポプレックスの特性評価
リポソームの調製およびIVT mRNAとの複合体形成
カチオン性リポソーム(LP)を、脂質フィルム水和法を用いて調製し、その後100 nm MWCO膜を通して押し出し成形した。DLSで測定したリポソームの流体力学的直径は140.8 ± 3.4 nmで、PDIは0.2未満であった。製剤の安定性を4か月の期間にわたり評価したところ、実験の全期間中、サイズおよびPDIが変化しなかったことが示された。ローダミン-標識リポソーム(Rho-LP)およびDTPAリポソーム(DTPA-LP)でも同様の結果が得られ、流体力学的直径はそれぞれ151 ± 2.3 nmおよび139.1 ± 2.9 nmで、PDIはいずれも0.2未満であった。PDIはリポソームの安定性およびバイオアベイラビリティに大きな影響を与える。安定、安全かつ有効であるために、リポソーム調製物は均質でなければならない。医薬を投与するために許容されるリポソーム製剤は、PDI値が0.3未満であるべきである。調製されたすべてのリポソームの表面電荷は、+40~55 mVの範囲で正であった(表4)。
【表4】
【0102】
製剤中に存在する正電荷の量は、正確な量の負電荷との静電複合体形成が生じる場合に、極めて重要である。このため、RP-HPLCを用いて脂質が有する電荷を定量するための方法が開発された。最終製剤はDOTAPおよびDOPEを約95%含有していたが、SS-Palmの場合は収率が低かった(約60%)。これは製剤のpHに起因し得て、第3級アミンの部分的なプロトン化を引き起こし、それにより脂質の一部が沈殿する可能性がある。2つの異なるタイプの複合体を調製した(
図1)。リポソームRNA複合体(LRC)を得るために、N/P比1~5の範囲でmRNAをリポソームと混合した。物理化学的特性および核酸保持能力について、7つの異なるN/P比(1、1.5、2、2.5、3、3.5および5)を試験した。サイズの点では類似しているが、表面電荷の点では相反する特性を持つ系を得る目的で、同じセットのリポプレックスをアニオン性ポリマーであるヒアルロン酸(HA)でコーティングし、ハイブリッドリポソーム-RNA複合体(HLRC)を形成した。生理的pHおよびリポソーム製剤に使用したpH(5.5)では、リン酸基は主にアニオン形態で存在し、カチオン性脂質粒子との良好な複合体形成を可能にする。脂質中の正電荷の量は、製造元から提供された情報に基づいて決定した。物理化学的特性および核酸保持能力について、1~5の範囲の7つの異なるN/P比を試験した。
【表5】
【表6】
【0103】
表5と表6に報告されている平均サイズおよび多分散性の値から認められるとおり、LRCおよびH-LRCの両方において、N/P比1.5~2.5が複合体形成の点で最大の不安定性を示した。一方、1に等しいおよび3を超えるN/P比では、サイズは300 nmより小さくなり、系の安定性とバイオアベイラビリティにとって重要である約0.2の良好なPDIを有した。LRCの場合、表面電荷はN/P比1を除くすべてのN/P比で正であったが、N/P比1では脂質の量に対してmRNAが過剰に存在するため、負帯電粒子になった。興味深いことに、N/P比1のLPCは、調製後、最初は負のζ電位で安定であることが証明されたが、おそらく系の不安定性による凝集体の形成のために、24時間後には正の値に向かってドリフトした。他のすべてのN/P比では、表面電荷はリポソーム単独の場合と同様で、mRNA添加後に減少した。これは、カチオン性脂質と負帯電の核酸骨格の間の静電的相互作用の結果であり得る。他方で、HLRCのゼータ電位は、ヒアルロン酸が存在するため、試験したすべてのN/P比で負であった:実際に中性pHでは、ポリマーのカルボキシル基のpKaは約3~4である。我々は、インビトロとインビボでの異なる挙動を観察する目的で、このコーティングを使用して負電荷を持つリポプレックスを得た。
【0104】
CRYOTEM
LRCおよびHLRCは、外側の脂質二重層に囲まれた規則正しい核酸相からなるのではなく、むしろ、規則正しい構造と不規則な形態を持つ部分縮合核酸複合体である。CryoTEM技術は単一粒子を検出するための方法であり、リポソームの形態を特徴付けるために用いられる。
図2Aは、従来の単層リポソームの形態を示す。これらは、単一の二重膜で仕切られた水性内部コンパートメントを持つ球形小胞である。リポソームとmRNAおよびリポソームとmRNA/HAの相互作用を、それぞれ
図2Bおよび2Cに示す。リポソーム膜の変形および再編成は、カチオン性脂質頭部基と核酸リン酸基の間の強い静電的相互作用から生じる。リポソーム間の架橋として働くmRNAの存在によって、互いに吸着して対となる膜を形成するリポソームは、規則正しく観察され得る。実際に、二重膜の接触面は外縁よりもコントラストが高く、膜の間に高電子密度の核酸分子が挟まれていることが示唆された。他の場合では、カチオン性リポソームおよびDNAについての文献において既に報告されているとおり、核酸とリポソームが交互に、サンドイッチ型に類似の構造をとる多重膜系が形成される。この構造修飾は、核酸の安定性にとって有益であると言われている:二重層パッキングは、血清ヌクレアーゼによる分解を受けやすい単純な表面結合よりも、mRNA分子の分解からの保護を促進する。
【0105】
mRNA-リポソーム結合の試験および安定性
LRCおよびHLRCの複合体形成の安定性を評価するために、試験されたすべてのN/P比で電気泳動アッセイを行った。核酸は、その電荷、サイズおよび形態に応じて、電場の作用下でアガロースゲルマトリックス中を移動する。LRCの場合、遊離mRNAに対応する弱いシグナルが認められるが、このことは核酸の一部がカチオン性粒子に常時結合しているわけではないことを意味する。さらに、ヒアルロン酸コーティングの存在はこの放出を妨げ、蛍光は観察され得ない。
【0106】
THP-1におけるインビトロ細胞試験
トランスフェクション試験
LRCおよびHLRCに、細胞をトランスフェクトする能力があるか否か、そしてその程度を調べるために、eGFP発現を誘導する能力を持つIVT mRNAとの複合体形成後、THP-1細胞とインキュベートした。プロトコルは、フローサイトメトリーを用いて細胞生存率と共にeGFP発現を定量することによって、複合体の安定性、IVT mRNAの量、細胞数、および体積を中心に最適化した。実際に、我々の脂質系などのトランスフェクション剤の使用と併せて、核酸が細胞内に入ることは、しばしば相当なストレスを引き起こし、最終的に細胞生存率に影響を及ぼす可能性がある。ポリエチレンイミンのポリカチオン性コアから構成される市販の材料を、陽性コントロールとして使用した。
【0107】
図3(AおよびB)に示すとおり、eGFPトランスフェクションはすべての系で得られ、同じN/P比の非コーティング系とHAでコーティングされた系の間に有意差はなかった。最も高いトランスフェクション効率は、LRC系およびHLRC系の両方で、N/P比3で達成された。前記N/P比を他の試験でも維持した。
【0108】
インターナリゼーション試験
ナノ粒子の、細胞にトランスフェクトする能力およびインターナリゼーション動態を調べるため、2%ローダミン-DOTAP脂質をそれらの製剤に使用した。単球細胞株であるTHP-1細胞の細胞質におけるRNAの放出および翻訳をモニターするために、ローダミン-LRCおよびHLRCをN/P比3でeGFP mRNAと複合化させた。
図3(D)に示すとおり、2つの蛍光シグナルをトランスフェクションの2時間、4時間、24時間および48時間後に、フローサイトメトリーを用いて観察した。2時間後、ローダミン-LRCおよびHLRCが、各細胞に存在した。この蛍光ローダミンシグナルは、48時間後にLRCとHLRCの両方でわずかに減少したが、各時間で常に強く存在していた;これは、細胞からのナノ粒子の外在化の開始として解釈できる。
【0109】
生存率試験
アネキシン-PI試験は、N/P比3のLPCおよびHLRCの生存率のために選択された。
図3(C)に示されるとおり、ナノ粒子の4時間および24時間のインキュベーションは、Viromerコントロールで生じるような細胞生存率への影響を与えなかった。一方、48時間の時点では、LRCおよびHLRCはViromerよりも毒性が低かった。
【0110】
インビボ試験
インビボ体内分布
リポソーム製剤のインビボ標的化性質を調べるために、111Inで標識されたリポソームを、選択されたN/P比3でmRNAと複合体形成後、BALB/c_Rjマウスに静脈内注射した。注射後6時間、24時間および48時間後に、SPECT/CTイメージングを行った。結果は、投与されたLRCまたはHLRCの総投与量の組織1 g当たりに蓄積された割合として表した。ナノ粒子の生体内分布は、LRCとHLRCの間で差がなかった。6時間後、両系とも主に肝臓および脾臓で検出された。肺で検出された割合は10%未満であった。24時間の時点では、脾臓の放射線量は増加し、注射量の約60%に達したが、肝臓ではその割合は約30%に低下した。
【0111】
LRCとHLRCの間で蓄積量に有意差がないことは明らかであり、肝臓では時間とともに減少する一方、脾臓では高い値を維持し、24時間後にピークを示した。実際に、LRCについては放射能の29.5%が24時間後に肝臓で検出されたのに対し、58.9%が脾臓で検出された。同様の結果がHLRCでも得られ、すなわち肝臓で37.2%が検出され、脾臓で52.4%が検出された。
【0112】
実施例2:細胞内mRNA投与用担体としてマイクロ流体で製造したリポソーム
材料および方法
材料
ここでは実施例1と同じ材料を使用した。静脈内投与後のインビトロおよびインビボでのTHP-1における試験に用いられるGFP mRNAはBioNTech社から提供され、一方、筋肉内投与後のインビトロまたはインビボでのC2C12またはCSPiにおける試験に用いられるものはTebubio(Le Perray-en-Yvelines、フランス)から購入した。
【0113】
脂質ナノ粒子およびリポプレックスの製剤
簡潔に説明すると、カチオン性脂質(DOTAPまたはDOTMA)、中性脂質(DOPE)およびpH感受性脂質(Coatsome(登録商標)SS-MまたはDLin-MC3-DMA)をエタノールに2:1:1のモル比で溶解し、全脂質の最終濃度を10μmolとした。IgniteTMマイクロ流体プラットフォーム(Precision NanoSystems Inc, Vancouver, カナダ)を用い、流速比3:1(v/v)および総流量15 mL.min-1で、脂質溶液をpH 5.5のHEPESと混合してリポソームを形成した。その後、5 kDaの透析膜を用いて系を透析し、製剤から残留アルコールを除去した。脂質の混合物にPE-ローダミンを添加することで、蛍光性脂質ナノ粒子を得た。50 μLのリポソームを、RNaseを含まない水で最終濃度1.8 mMに希釈し、RNAseを含まない水中の種々の濃度のmRNA(0.06~0.3 mg/mL)を50 μL加えて、N/P比が1~50の範囲である複合体を得ることにより、リポプレックスを調製した。ヒアルロン酸でコーティングされたリポプレックスを、RNaseを含まない水中の0.6 mg/mL溶液50 μLを、既に調製したリポソームに加えることにより調製した。インビボでの使用の目的で、同一の最終濃度かつ良好な浸透圧を得るために、リポプレックスを10%グルコース溶液で希釈するか、または10%グルコースに溶解したHAでコーティングした。比較の目的で、中性脂質、およびカチオン性脂質またはイオン化可能な脂質のみからなる製剤を試験した。この目的を達成するために、DOTAP/DOPEまたはDOPE/Coatsome SS-Mの製剤を前述と同じ条件で製造した。
【0114】
リポプレックスの物理化学的解析
ここでは、実施例1と同じ解析を用いた。
【0115】
THP-1におけるインビトロトランスフェクション試験
ここでは、実施例1と同じ解析を用いた。
【0116】
C2C12におけるインビトロトランスフェクション試験
C2C12筋芽細胞(ATCC(登録商標)CRL-1772から購入した不死化マウス筋肉細胞株)を、37℃、5% CO2での湿潤雰囲気下、10%(v/v)のウシ胎児血清(FBS)、0.5%(v/v)および100ユニット/mLのペニシリン-ストレプトマイシン(Gibco)を添加したGlutaMaxダルベッコ修飾イーグル培地で培養した。筋管への分化を誘導するために、筋芽細胞を、1%(v/v)ウマ胎児血清(FHS)および100ユニット/mLのペニシリン-ストレプトマイシン(Gibco)を添加したGlutaMax ダルベッコ修飾イーグル培地中で6日間培養した。
【0117】
トランスフェクションおよび生存率試験
トランスフェクション効率の試験のために、細胞を平底12ウェルプレートに、ウェル当たり15000細胞の密度で播種した。その後、筋芽細胞を、N/P比1.5および3の異なるナノシステムと複合化したmRNA 3 μgで処理した。製造元の指示に従い、viromerトランスフェクション試薬(Lipocalyx(登録商標))をトランスフェクションコントロールとして用いた。すべての処理を2時間放置した後、新鮮な培地に移し、24時間のインキュベーション後にインターナリゼーション効率を評価した。その後、トリプシン-EDTA(0.5%、Gibco)を用いて細胞を酵素的に剥離し、Fixable Live/Dead Violet溶液で染色して細胞生存率を評価した。BD LSR 2フローサイトメーターを用いてデータを取得し、FlowJoソフトウェアを用いてデータを解析した。GraphPad Prism v8.1ソフトウェアを用いて統計解析を行った。
【0118】
インターナリゼーション試験
この共焦点顕微鏡解析のために、12 mmスライドガラス上の24ウェルマルチウェルプレートに10000細胞/ウェルの密度で筋芽細胞を播種し、一方、筋管を得るために4コンパートメントLabtek培養チャンバー上に40000細胞/ウェルの密度で筋芽細胞を播種し、6日間分化誘導した。筋芽細胞および筋管を、シアニン5で標識したmRNA 1 μgで処理し、PE-ローダミンで標識したHLRC(DOTAP/DOPE/Coatsome SS-M)をN/P比1.5で30分間、2時間および24時間複合体化した。長いインキュベーション時間では、細胞を当該処理で2時間インキュベートした後、新鮮な培地を与えた。各時点の後、細胞をPBS中4%(v/v)のパラホルムアルデヒドを用い、環境温度で15分間固定した。筋芽細胞については、細胞の細胞質をPBS中1:20に希釈したPhalloidin-Atto 488(Sigma)を用いて環境温度で1時間染色し、一方細胞核はDAPI(20 mMのストック、1:2000に希釈)を用いて環境温度で1時間対比染色した。筋管については、細胞核のみを同じ条件下でDAPIを用いて染色した。サンプルは最終的にFlouromount封入剤(Invitrogen)に封入し、Zeiss LSM800 共焦点レーザー走査型顕微鏡(Carl Zeiss AG、Oberkochen、ドイツ)により63Xレンズを用いてイメージングを行った。
【0119】
ヒト人工多能性幹細胞へのインビトロトランスフェクションに関する試験
37℃、5% CO2での湿潤雰囲気下、iPSC細胞を培地StemMACSTM PSC-Brew XF(Miltenyi biotec)を用いて培養した。トランスフェクション効率の試験として、iPSCを24ウェルプレートに、ウェル当たり50000細胞の密度で播種した。その後、N/P比1.5でmRNA-LRCまたはmRNA-HLRC(DOTAP/DOPE/Coatsome SS-M)3 μgを用いて、iPSCを処理した。トランスフェクション試薬Lipofectamine2000(invitrogene(登録商標))を、RNA実験のトランスフェクションコントロールとして使用し、製造元の指示に従って使用した。2時間後、培地を交換した。トランスフェクションの24時間後、Tryple(Gibco)を用いて細胞を酵素的に剥離し、その後、細胞をLive/Dead Violet溶液で染色して死細胞の割合を評価し、そして4% PFA溶液を用いて、環境温度で10分間固定した。フローサイトメトリー解析では、BD LSR 2フローサイトメーターを用いてデータを取得し、FlowJoソフトウェアを用いてデータを解析した。GraphPad Prism v8.1ソフトウェアを用いて統計解析を行った。
【0120】
インビボ試験
静脈内投与
ここでは、実施例1と同じ解析を用いた。
筋肉内投与
筋線維をトランスフェクトする際のリポソーム製剤の有効性を試験するために、N/P比1.5でmRNA-HLRC(DOTAP/DOPE/Coatsome SS-M)5 μgをBALB/cマウスの前脛骨筋内に注射した。脂質ナノ粒子の分布およびmRNA-HLRCのタンパク質発現を調べるために、HLRCをPE-cy5で標識し、蛍光タンパク質mCherryを発現するmRNA配列を選択した。2時間後、マウスを屠殺し、前脛骨筋を摘出(explanted)し、イソペンタン中で凍結し、これらの筋肉の切片をクライオスタット内で採取した。筋線維の膜を抗ラミニン488免疫蛍光標識で標識し、細胞核をDAPIで対比染色した。サンプルを最終的にFlouromount封入剤(Invitrogen)に封入し、Zeiss LSM800共焦点レーザー走査型顕微鏡(Carl Zeiss AG、Oberkochen、ドイツ)により40Xレンズを用いて観察を行った。
【0121】
結果
mRNAを担持したLRCおよびHLRC(DOTAP/DOPE/Coatsome SS-MまたはDOTAP/DOPE/DLin-MC3-DMAまたはDOTMA/DOPE/Coatsome SS-M)の特性評価
正に帯電され得る脂質のアミン基と負に帯電される核酸のリン酸基の比として定義される、窒素/リン酸(N/P)比に基づいて複合体形成を最適化した。いずれも、ヒアルロン酸コーティングに起因して、LRCでは正の表面電荷を伴い、そしてHLRCでは負の表面電荷を伴う、約200 nmの流体力学的直径を示した。mRNA複合体形成を、電気泳動を用いて評価した(
図4)。試験したすべてのN/P比で、mRNAはすべての系と効果的に複合化した。mRNAシグナルの減少によって示されるとおり、試験したN/P比が大きいほど、mRNAはより強く複合化される。高いN/P比での弱いmRNAシグナルが、mRNAの強い複合体形成に起因し、かつ、その分解には起因しないことを示すために、大きいアニオン性分子であるヘパリンと共に製剤をインキュベートして、mRNAを脱複合化した。ヘパリンと共にインキュベートしたとき、すべての様々な製剤はmRNAが確かに存在することを示した。
【0122】
蛍光標識DOTAP/DOPE/Coatsome SS-MのTHP-1へのインターナリゼーションおよびトランスフェクション効率
我々は、市販のトランスフェクション剤と比較して種々のN/P比で、GFPをコードするLRC-RNAで処理したTHP-1細胞を用いるプロトコルを作成した。THP-1は、小児急性単球性白血病症例由来の末梢血から得られる、自然発症不死化単球型の細胞株を意味する。THP-1 細胞は、その遺伝子修飾誘導体を含めて、健常対象および非健常対象の両方において単球の構造および働きを試験する上で重要なツールを代表し、かつ、翻訳アッセイにおいて広く用いられる。我々は、GFPトランスフェクト用複合体の翻訳効率、吸収およびインターナリゼーションを調べることを目的とした実験を計画した。初めに、トランスフェクションプロトコルを最適化し、フローサイトメーターを用いて細胞生存率と共にGFP発現を定量した。実際に、細胞内への核酸の外因性導入は、トランスフェクション剤の使用と併せて、しばしば最終的に細胞生存率に影響を与え得る相当なストレスを引き起こす。重要なパラメーターが試験された:i)LRCの安定性;ii)トランスフェクション剤およびmRNAの濃度;iii)ナノシステムの毒性プロファイル;およびiv)インキュベーション期間。
図5に示すとおり、すべての系でGFPトランスフェクションがされる。選択されたN/P比2で、細胞生存率に有意な影響を与えることなく、市販剤に匹敵するトランスフェクション効率(約70%)を達成した。他の試験のために保持された系は、LRCおよびHLRCの両方についてN/P比が2で調製された。トランスフェクション効率および平均蛍光強度(MFI)は、N/P比が2.5、3、3.5および5である場合に比べて、はるかに大きかった。一方、N/P比が1の場合は、不安定であるため保持されなかった。我々は、これらの混合脂質によるmRNA発現の増加は、LRCとの複合体形成によりmRNAの吸収が増加したためであり得るという仮説を立てた。この仮説は、蛍光標識した系を用いて、LRCのインターナリゼーション動態学によって試験された。これらの系は、最も高いトランスフェクション効率をもたらした比であるN/P比2で、GFP RNAと複合化された。トランスフェクションの2時間、4時間、24時間および48時間後に、フローサイトメトリーを用いて脂質由来およびGFPシグナル由来の2つの蛍光シグナルを観察した。2時間後、すべての細胞内で脂質の蛍光を定量した。シグナルは24時間後まで維持され、わずかな減少が観察されたのは48時間後のみであった。
【0123】
C2C12における様々なナノシステムのインターナリゼーションおよびトランスフェクション効率
トランスフェクション試験
GFPを発現している筋芽細胞の割合を評価するためのフローサイトメトリーにより、トランスフェクション効率を試験した(
図6)。そのデータはN/P比が1.5および3であるDOTAP/DOPE/Coatsome SS-MおよびDOTAP/DOPE/Dlin-MC3-DMA製剤では、筋芽細胞の約90%がGFPを発現し、使用した市販のトランスフェクション剤と同様のトランスフェクション効率を示した。DOTMA/DOPE/Coatsome SS-M 製剤では、このレベルは約40%に減少した。対照的に、中性脂質およびカチオン性脂質(DOTAP/DOPE)のみまたはpH感受性脂質(Coatsome SS-M/DOPE)のみから構成される製剤は、先の製剤と同様の条件下で、約20%という低いトランスフェクションレベルしか示さなかった。mRNAのみで処理した細胞はトランスフェクションのいかなる兆候も示さず、未処理細胞と同様の割合であった。
【0124】
生存率試験
種々のN/P比の複合体によって誘導される細胞毒性を試験するために、Live/Dead生存率アッセイを行った。我々の結果は、リポプレックスと共にインキュベートした細胞は、コントロールと比較してわずかな細胞生存率の低下しか示さず、すべての条件で最大90%の生存細胞を示したのに対し、市販の製品は約80%の細胞生存率の低下を引き起こす。
【0125】
インターナリゼーション試験
C2C12筋芽細胞および筋管におけるHLRC(DOTAP/DOPE/Coatsome SS-M)と複合化したmRNAの細胞内分布を、共焦点顕微鏡を用いて試験した。筋芽細胞では、蛍光標識HLRCは時間依存的に、細胞内に急速に浸透することが示された。2時間のインキュベーション後、mRNA-HLRCは核内に浸透することなく、核周辺領域の細胞質に蓄積した。24時間のインキュベーション後、おそらく脂質が細胞と交換されたために、HLRCは、より拡散したシグナルを有するより大きな蛍光クラスターの形態で出現した。mRNAの細胞内放出は、HLRCとmRNAシグナル間の共局在を評価することによっても試験された。わずか30分後、mRNAはすでに細胞質内で遊離し、HLRCと複合化していたのが認められたが、2時間後には、細胞質内でHLRCと複合化したmRNAは事実上認められなかった。24時間のインキュベーション後、細胞内培地にはmRNAがもう認められなかった。筋管では、GFPの発現により示されるとおり筋管が効果的にトランスフェクトされているにもかかわらず、24時間のインキュベーション後、細胞質内にはわずかなHLRCしか認められなかった。さらに興味深いことに、GFP発現は筋芽細胞よりも筋管において顕著であり、このことは骨格筋を処置するために有望な有効性を示す。
【0126】
iPSCの様々なナノシステムのトランスフェクション効率
GFPを発現しているiPSCの割合を評価するためのフローサイトメトリーにより、トランスフェクション効率を試験した(
図7)。得られた結果は、DOTAP/DOPE/Coatsome SS-M組成物のLRCおよびHLRCは、市販のインビトロトランスフェクション剤Lipofectamineと同様に、約80%の細胞がGFPを発現し、iPSCへのトランスフェクション効率が高いことが示された。さらに、細胞生存率の低下は観察されなかった。
【0127】
健常マウスにおける放射標識ナノ粒子のインビボ試験
静脈内投与
主に血液コンパートメント、骨髄および脾臓に存在する単球の標的化を最大にするためには、長時間循環系が必要である。放射性標識法を用いて、健常マウスへの全身投与後のナノ粒子の生体内分布を定量的に測定した。111Inで標識したリポソームを、選択したN/P比2でmRNAと複合体形成した後、BALB/c_Rjマウスに静脈内注射した。注射後6時間、24時間および48時間後にSPECT/CTイメージングを行った。注射された放射性剤の用量は、LRCでは3.30 MBqであり、そしてHLRCでは3.59であった。いずれの場合も、肝臓および脾臓においてかなりの粒子の蓄積が観察され、両系間に差はなかった。それぞれの動物臓器における放射能量はガンマカウンターを用いて定量され、結果は正規化され、%DI/g(組織のグラム当たりの注射された量)の形で表示された。LRCとHLRCの間で蓄積において有意差はなく、この蓄積は肝臓では時間の経過と共に減少し、脾臓ではより高い値を保持し、IV注射の24時間後にピークに達したことが観察された。実際に、LRCでは、DI/gの34%が24時間後に肝臓で検出されたのに対し、60%が脾臓で検出された。HLRCでは、同様の結果が得られ、すなわち肝臓で39.1%が検出され、脾臓で51.7%が検出された。
【0128】
筋肉内投与
健常マウスの前脛骨筋への注射の後、脂質ナノ粒子のインビボ分布およびmRNA-HLRCのタンパク質発現を評価した(
図8)。共焦点顕微鏡を用いて切片を観察した後、その画像は、HLRCは主に筋線維の間に分布し、投与2時間後に隣接する線維内に拡散したことを示した。さらに、HLRCに複合化されたmRNAによってコードされたタンパク質のわずかな発現は、わずか2時間のインキュベーション後すでにHLRCの位置で見られ、mRNAを筋線維に標的化して送達する上でのこの製剤の効率が示された。採取した切片において、細胞または形態の損傷は観察されなかった。
【0129】
実施例3:細胞内DNA投与のための担体としてのマイクロ流体で製造されたリポソーム
材料および方法
材料
ここでは、実施例1および実施例2と同じ材料を用いた。pCAGIGプラスミドDNAはAddgene(プラスミド#11159)から入手した。
【0130】
リポソーム内のpDNAの複合体形成
ここでは、実施例2に記載されているのと同じプロトコルおよび同じ製剤に従った。緑色蛍光タンパク質(GFP)の発現をコードするプラスミドDNA(pCAGIG)を、様々なリポソームと適当量のDNAを混合することにより複合化し、N/P比が1.5および3であるリポプレックスを得た。リポプレックスを最終的に、1:2のDOTAP:HA重量比で、HA(HLRC)でコーティングした。
【0131】
pDNAを担持したリポソームの物理化学的解析
ここでは、実施例1と同じ解析を用いた。
【0132】
pDNAを担持したリポソームの透過型低温電子顕微鏡(cryoTEM)による解析
DOTAP/DOPE/Coatsome SS-M 脂質ナノ粒子の形態を、透過型低温電子顕微鏡により評価した。要約すると、3.5 μLの製剤をCF-2/1-3Cu-50銅メッシュに加え、Vitrobot(Thermoscientific社)を用いて浸漬させて凍結させ、ガラス質の氷を生成した。サンプルを液体窒素の中で保存し、120 kVで作動するJEM-1400Flash電子顕微鏡を用いて観察した。
【0133】
インビトロトランスフェクション試験
C2C12筋芽細胞を、実施例2に前述されているとおりに培養した。
【0134】
インターナリゼーション試験
pDNA-HLRC(DOTAP/DOPE/Coatsome SS-M)の筋芽細胞へのインターナリゼーション効率を、フローサイトメトリーおよび共焦点顕微鏡を用いて評価した。フローサイトメトリー解析では、細胞を平底12ウェルプレート内に、ウェル当たり20000細胞の密度で播種した。その後、N/P比1.5および2で7.5 μgのpDNAを担持した、PE-ローダミンで標識したHLRCで筋芽細胞を処理した。2時間、4時間、24時間および48時間のインキュベーション後に、インターナリゼーション効率を評価した。2時間のポストインキュベーション後、当該処理を含んでいる培地を新鮮な培地に交換した。それぞれのインキュベーション期間の後、細胞を洗浄し、トリプシン-EDTA(0.5%、Gibco)を用いて酵素的に剥離し、Fixable Live/Dead Violet溶液で染色して細胞生存率を試験した。BD LSR 2フローサイトメーターを用いてデータを取得し、FlowJoソフトウェアを用いてデータを解析した。GraphPad Prism v8.1ソフトウェアを用いて統計解析を行った。共焦点顕微鏡解析では、実施例2と同じ条件を用いた。
【0135】
トランスフェクションおよび生存率試験
GFPを発現している筋芽細胞の割合を評価するためのフローサイトメトリーにより、トランスフェクション効率を試験した。この目的を達成するために、細胞を平底12ウェルプレート内に、ウェル当たり15000細胞の密度で播種した。我々の主要製剤の最初の詳細な試験について、その後、N/P比1.5、2および3で、5 μg、7.5 μgおよび10 μgのpDNAを担持したHLRC(DOTAP/DOPE/Coatsome SS-M)で、筋芽細胞を処理した。Jet-primeトランスフェクション試薬(Polyplus transfection(登録商標))を、製造元の指示に従い、トランスフェクションコントロールとして使用した。すべての処理を一夜放置した後、新鮮な培地に交換した。48時間後、前述のとおりに細胞を処理して解析した。2つ目の様々な製剤の比較試験のために、その後、N/P比1.5および3で、様々なナノシステムと複合化した3 μgのpDNAで、筋芽細胞を処理した。市販のトランスフェクション試薬Jet-Prime(Polyplus(登録商標)を、製造元の指示に従い、トランスフェクションコントロールとして用いた。すべての処理を2時間放置した後、新鮮な培地に移し、48時間のインキュベーションの後にインターナリゼーション効率を評価した。その後、トリプシン-EDTA(0.5%、Gibco)を用いて細胞を酵素的に剥離し、Fixable Live/Dead Violet溶液で染色して細胞生存率を評価した。BD LSR 2フローサイトメーターを用いてデータを取得し、FlowJoソフトウェアを用いてデータを解析した。GraphPad Prism v8.1ソフトウェアを用いて統計解析を行った。
【0136】
結果
pDNAを担持したHLRC(DOTAP/DOPE/Coatsome SS-MまたはDOTAP/DOPE/DLin-MC3-DMAまたはDOTMA/DOPE/Coatsome SS-M)の特性評価
pDNAとマイクロ流体で製造されたリポソームとの複合体形成により、pDNAを担持したHLRCを得た。すべてのリポプレックスは、約200 nmの平均直径および試験した種々のN/P比において0.2未満の多分散性指数を示し、DNAおよびHAのリン酸およびカルボキシル基に起因する負の表面電荷(約-20 mV)を示した(
図9、AおよびB)。pDNA複合体形成を、電気泳動測定を用いて評価した。試験したすべてのN/P比において、pDNAをすべての系と効果的かつ完全に複合化させた。実施例2と同様に、mRNAシグナルの減少によって示されるとおり、試験したN/P比が大きいほど、mRNAはより強く複合化される(
図9C DOTAP/DOPE/Coatsome SS-M 製剤について)。cryoTEMを用いて行われる形態学的解析(
図9D DOTAP/DOPE/Coatsome SS-M 製剤について)は、pDNAを担持したHLRCが、核酸が異なる脂質二重膜の間に閉じ込められる多重膜構造を有する小胞を形成し、それにより確実に保護されていることを示した。
【0137】
インターナリゼーション効率
pDNAを担持したHLRC(DOTAP/DOPE/Coatsome SS-M)の、筋肉細胞へのインターナリゼーション効率を、フローサイトメトリーにより試験した(
図10)。PE-ローダミンで標識し、かつpDNAを担持したHLRCによって標識された細胞の割合を、インターナリゼーション効率を定量的に試験するために解析した(
図10)。フローサイトメトリー解析により、2つのN/P比について、pDNAを担持したHLRCの迅速かつ効率的なインターナリゼーションが示され、わずか2時間のインキュベーション後に、事実上すべての細胞がローダミンシグナルに対して陽性となった。インターナリゼーションの程度は48時間まで一定に保たれ、このことはpDNAを担持したHLRCは細胞から完全に排出されたわけではなく、ナノ粒子は細胞増殖中に細胞から細胞へと伝達されたことを意味する。C2C12筋芽細胞におけるpDNAを担持したHLRCの細胞内分布を、共焦点顕微鏡を用いて試験した。筋芽細胞では、PE-ローダミンで標識し、かつpDNAを担持したHLRCは、時間依存的に細胞内に迅速に浸透することが示された。2時間のインキュベーション後、pDNAを担持したHLRCは、核内に浸透することなく、核周辺領域の細胞質に蓄積した。24時間のインキュベーション後、おそらく脂質が細胞と一部交換されたために、リポプレックスは、より拡散したシグナルを有するより大きな蛍光クラスターの形態で観察される。
【0138】
細胞のトランスフェクション効率
GFPを発現する筋芽細胞の割合を評価するためのフローサイトメトリーにより、トランスフェクション効率を試験した。我々の主要製剤であるDOTAP/DOPE/Coatsome SS-M(
図11)の1つ目の詳細な試験について、データにより、N/P比に依存し、最小のN/P比では細胞のトランスフェクション割合が増加するトランスフェクション効率が示された。さらに、このデータは、市販のインビトロトランスフェクション剤と同様に、N/P比1.5でpDNAを担持したHLRCでは60%よりも多くの細胞がGFPを発現しており、pDNAを筋芽細胞内に標的化して送達する上でのこの製剤の効率を示した。興味深いことに、処理量を変化させても、トランスフェクション効率をわずかに増加させただけであった。pDNAのみで処理した細胞は、トランスフェクションのいかなる兆候も示さず、トランスフェクションの割合は未処理細胞の場合と同様であった。さらに、HLRCに複合化されたmRNAによってコードされたタンパク質のわずかな発現は、わずか2時間のインキュベーション後すでにHLRCの位置で見られ、mRNAを筋線維に標的化して送達する上でのこの製剤の効率が示された。採取した切片において、細胞または形態の損傷は観察されなかった。2つ目の様々な製剤の比較試験のために(
図12)、データにより、N/P比が1.5および3であるDOTAP/DOPE/Coatsome SS-MおよびDOTMA/DOPE/Coatsome SS-M 製剤では、約30%の筋芽細胞がGFPを発現し、使用した市販のインビトロトランスフェクション剤と同様のトランスフェクション効率を示した。DOTAP/DOPE/DLin-MC3-DMA製剤に関しては、このレベルは約60%にまで上昇し、それにより使用した市販のインビトロトランスフェクション剤よりも優れた効率を示した。対照的に、中性脂質およびカチオン性脂質(DOTAP/DOPE)のみまたはpH感受性脂質(Coatsome SS-M/DOPE)のみから構成される製剤は、先の製剤と同様の条件下で、10%未満という非常に低いトランスフェクションレベルしか示さなかった。pDNAのみで処理した細胞はトランスフェクションのいかなる兆候も示さず、未処理細胞と同様の割合であった。
【0139】
細胞生存率アッセイ
1つ目のトランスフェクション試験において試験した種々のN/P比でのpDNA-HLRC(DOTAP/DOPE/Coatsome SS-M)複合体によって誘導される細胞毒性を試験するために、生存率アッセイ(Live/Dead)を行った(
図13)。我々の結果は、リポプレックスと共にインキュベートした細胞が、コントロールと比較して細胞生存率の低下(50~75%)を表したことを示した。市販のトランスフェクション剤Jet-primeは同じ傾向を示し、細胞生存率は約65%であった。この細胞生存率の低下は、一夜の処理期間に相関しており、より短いインキュベーション時間は、トランスフェクション効率に悪い影響を与えることなく細胞生存率を改善し得る。2つ目のトランスフェクション試験では、我々の結果は、リポプレックスと共に2時間インキュベートした細胞は細胞生存率のわずかな低下しか表さず、それぞれの条件で最大90%までの生存細胞を表したことを示した。
【0140】
実施例4:アンチセンスオリゴヌクレオチドの細胞内投与のための担体としてマイクロ流体で製造されたリポソーム
材料および方法
材料
ここでは、前記実施例と同じ材料を用いた。Eurogentecにより供給されたアンチセンスオリゴヌクレオチドASO-シアニン5は、14個のヌクレオチドを有する。
【0141】
アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)の複合体形成
ここでは、実施例2に記載されているのと同じプロトコルに従った。試験したアンチセンスオリゴヌクレオチドは、特定のDNA配列を標的とし、その切断を誘導するために設計されたASO-シアニン5である。配列ASO-シアニン5を、脂質ナノ粒子(DOTAP/DOPE/Coatsome SS-M)と適当な量のASOを混合することにより複合化し、N/P比が2、4、8および10であるリポプレックスを得た。リポプレックスを最終的に、1:2のDOTAP:HA重量比で、HA(HLRC)でコーティングした。
【0142】
ASO-リポソームの物理化学的解析
ここでは、実施例1と同じ解析を用いた。
【0143】
細胞培養
C2C12筋芽細胞および筋管を、実施例2に前述されているとおりに培養した。
ASO-HLRCの吸収および細胞内分布
ASO-HLRCの細胞内分布を、共焦点顕微鏡により試験した。この目的を達成するために、筋芽細胞を、12 mmガラススライド上で24ウェルマルチウェルプレートに10000細胞/ウェルの密度で播種し、一方、筋管を得るために4コンパートメントLabtek培養チャンバー上に40000細胞/ウェルの密度で筋芽細胞を播種し、6日間分化誘導した。筋芽細胞を1 μgのASO-シアニン5-HLRCで、30分間、2時間および24時間処理し、筋管をN/P比10で1 μgのASO-シアニン5-HLRCで、2時間および48時間処理した。長いインキュベーション時間では、細胞を2時間インキュベートした後、新鮮な培地を与えた。各時点の後、細胞をPBS中4%(v/v)のパラホルムアルデヒドを用い、環境温度で15分間固定した。細胞の細胞質をPBS中1:20に希釈したPhalloidin-Atto 488(Sigma)を用いて環境温度で1時間染色し、一方細胞核はDAPI(20 mMのストック、1:2000に希釈)を用いて環境温度で1時間対比染色した。筋管については、細胞核のみを同じ条件下でDAPIを用いて染色した。サンプルは最終的にFlouromount封入剤(Invitrogen)に封入し、Zeiss LSM800 共焦点レーザー走査型顕微鏡(Carl Zeiss AG、Oberkochen、ドイツ)により63Xレンズを用いてイメージングを行った。
【0144】
結果
ASO-シアニン5-HLRCの特性評価
ASO-シアニン5-HLRCリポプレックスは、ASO-シアニン5とマイクロ流体で製造されたリポソームとの複合化により得られた。リポプレックスは、すべてのN/P比について、約150 nmの平均直径および0.2未満の多分散性指数を示した。ASO配列およびHAのリン酸およびカルボキシル基に起因して、表面電位は負(約-20 mV)であった。ASOとHLRCナノシステムとの複合体形成を試験するために、ゲル電気泳動を用いた。N/P比2~8では、ASOは部分的にリポソームと複合化した。この複合体形成は、N/P比10で増強された。
【0145】
ASO-シアニン5-HLRCのインターナリゼーションおよび細胞内分布
C2C12筋芽細胞および筋管におけるASO-シアニン5-HLRCの細胞内分布を、共焦点顕微鏡を用いて試験された。筋芽細胞では、蛍光脂質で標識したHLRCは、時間依存的に細胞内に迅速に浸透することが示された。2時間のインキュベーション後、ASO-シアニン5-HLRCは核内に浸透することなく、核周辺領域の細胞質に蓄積した。24時間のインキュベーション後、おそらく脂質が細胞と交換されたために、ASO-シアニン5-HLRCは、より拡散したシグナルを有するより大きな蛍光クラスターの形態で出現した。ASOの細胞内放出は、HLRCとASOシグナル間の共局在を評価することによっても試験された。30分間のインキュベーション後、ASOはHLRCと事実上完全に複合化したが、24時間のインキュベーション後、もはやASOは細胞質内のHLRCと複合化していなかった。筋管についても、全体的に同じ傾向が観察された。2時間のインキュベーション後、ASO-シアニン5-HLRCが筋管に入っていくのが認められ、そのASOはHLRCと完全に複合化していた。24時間のインキュベーション後、HLRCは細胞質中に遊離形態で認められ、もはやASOはHLRCと複合化しておらず、このことから、ASO配列を筋管に送達する上でのHLRCナノ粒子の効率が示され、骨格筋処置への応用への道が開かれた。
【0146】
実施例5:細胞内siRNA投与のための担体としてのマイクロ流体で製造されたリポソーム
材料および方法
材料
ここでは、前記実施例と同じ材料を用いた。干渉RNAは、Eurogentecから提供される、21個のヌクレオチドを有するRNAである。
siRNAの複合体形成
ここでは、実施例2に記載されているのと同じプロトコルに従った。干渉RNAを、脂質ナノ粒子(DOTAP/DOPE/Coatsome SS-M)と適当な量のsiRNAを混合することにより複合化し、N/P比が2、4、8および10であるリポプレックスを得た。リポプレックスを最終的に、1:2のDOTAP:HA重量比で、HA(HLRC)でコーティングした。
【0147】
siRNA-リポソームの物理化学的解析
ここでは、実施例1で記載されているのと同じプロトコルに従った。
【0148】
インビトロトランスフェクション試験
C2C12筋芽細胞を、実施例2で前述されているとおりに培養した。
【0149】
トランスフェクション効率試験
GFPを発現している筋芽細胞の割合を評価するためのフローサイトメトリーにより、トランスフェクション効率を試験した。筋芽細胞を平底12ウェルプレートにウェル当たり15000細胞の密度で播種した。最初に、N/P比10で筋芽細胞を0.5 μg、1 μgおよび2 μgのsiRNA-HLRCで処理し、続いてJet-primeトランスフェクション試薬(Polyplus transfection(登録商標))を用いて、製造元の指示に従って、pCAGIG処理(GFPをコードするプラスミドDNA)を行った。すべての処理を2時間放置した後、新鮮な培地に移した。48時間後、細胞培養液を回収し、トリプシン-EDTA(0.5%、Gibco)を用いて細胞を酵素的に剥離した。BD LSR 2フローサイトメーターを用いてデータを取得し、FlowJoソフトウェアを用いてデータを解析した。GraphPad Prism v8.1ソフトウェアを用いて統計解析を行った。
【0150】
生存率試験
48時間のインキュベーション後、細胞をFixable Live/Dead Violet溶液で染色し、細胞生存率を評価した。BD LSR 2フローサイトメーターを用いてデータを取得し、FlowJoソフトウェアを用いてデータを解析した。GraphPad Prism v8.1ソフトウェアを用いて統計解析を行った。
【0151】
結果
siRNA-HLRCの特性評価
siRNAとマイクロ流体で製造されたリポソーム(DOTAP/DOPE/Coatsome SS-M)との複合体形成によって、siRNA-HLRCを得た。リポプレックスは、すべてのN/P比について、約150 nmの平均直径および0.2未満の多分散性指数を示した。RNAおよびHAのリン酸およびカルボキシル基に起因して、表面電位は負(約-20 mV)であった。siRNAとHLRCナノシステムとの複合体形成を試験するために、ゲル電気泳動試験を用いた。N/P比2~8では、siRNAは部分的にナノ粒子と複合化した。この複合体形成は、ゲル上に流れているRNAシグナルが存在しないことにより示されるとおり、N/P比10で増強された。
【0152】
細胞のトランスフェクション効率
GFPを発現している筋芽細胞の割合を評価するためのフローサイトメトリーにより、トランスフェクション効率を試験した(
図14)。GFP発現を誘導するための市販剤を用いて、筋芽細胞をpCAGIG pDNAでトランスフェクトし、HLRCと複合化したsiRNA配列のGFP発現における阻害効果を試験した。データにより、pCAGIGでトランスフェクトした細胞では、約70%のGFP+細胞が現れたことが示された。GFPを発現する細胞の割合は、siRNA-HLRCで処理した細胞では、市販のトランスフェクション剤Jet-primeを用いてsiRNAでトランスフェクションした細胞よりも低く、siRNAを送達する上で市販剤よりもHLRC製剤の効率がより高いことが示された。HLRCのトランスフェクション効率は用量依存性プロファイルを示し、HLRCと複合化したsiRNAの最高用量で処理したGFP+細胞は30%未満であった。したがって、HLRCと複合化したsiRNAは、GFPを発現している細胞の割合を半減することができることが証明された。
【0153】
細胞生存率
種々のN/P比での複合体によって誘導される細胞毒性を試験するために、生存率アッセイ(Live/Dead)を行った。我々の結果は、すべての異なる用量のsiRNA-HLRCと共にインキュベートした細胞は、細胞生存率のいかなる低下も表さなかったことを示した。
【0154】
実施例6:mRNAおよびpDNAの細胞内同時投与のための担体としてのマイクロ流体で製造されたリポソーム
材料および方法
材料
ここでは、前記実施例と同じ材料を用いた。この実施例で用いたGFP mRNAはTebubio(Le Perray-en-Yvelines、フランス)から購入し、蛍光タンパク質mScarletをコードするmScarlet_pcDNA3.1 プラスミドDNAはGenscriptから入手した。
【0155】
mRNAおよびpDNAの複合体形成
ここでは、実施例2に記載されているのと同じプロトコルに従った。リポソームと適当な量のmRNAおよびpDNAを混合することにより、2つの異なる核酸をLRC(DOTAP/DOPE/Coatsome SS-M)と複合化し、N/P比が1.5および3であり、かつ1:2のmRNA:pDNA重量比であるリポプレックスを得た。
【0156】
インビトロトランスフェクション試験
C2C12筋芽細胞を実施例2に前述されているとおりに培養した。GFPおよびmScarletを同時に発現している筋芽細胞の割合を評価するためのフローサイトメトリーにより、トランスフェクション効率を試験した。筋芽細胞を平底12ウェルプレートにウェル当たり15000細胞の密度で播種した。mRNA-pDNA-LRC at an N/P比1.5および3で、ウェル当たり3 μgのmRNAおよび6 μgのpDNAに相当する量のmRNA-pDNA-LRCで、細胞を処理した。すべての処理を2時間放置した後、新鮮な培地に移した。48時間後、細胞をトリプシン-EDTA(0.5%、Gibco)を用いて酵素的に剥離し、Fixable Live/Dead Violet溶液で染色して細胞生存率を評価した。BD LSR 2フローサイトメーターを用いてデータを取得し、FlowJoソフトウェアを用いてデータを解析した。GraphPad Prism v8.1ソフトウェアを用いて統計解析を行った。
【0157】
結果
mRNA-pDNA-LRCの特性評価
マイクロ流体で製造されたリポソームとmRNAおよびpDNAの複合体形成により、mRNA-pDNA-LRCを得た。リポプレックスは、すべてのN/P比について、約150 nmの平均直径および0.2未満の多分散性指数を示した。ゲル電気泳動もまた、N/P比1.5および3で、mRNAおよびpDNAが同じ系内で効率的に複合化されたことを示した。
【0158】
細胞のトランスフェクション効率
GFP、mScarletまたは両方の蛍光タンパク質を同時に発現している筋芽細胞の総割合を評価するためのフローサイトメトリーにより、トランスフェクション効率を試験した(
図15)。その細胞は、LRCが2つの核酸を担持していたにもかかわらず、実施例2のとおりに約80%の筋芽細胞がmRNAによって誘導されたGFPを発現していた。pDNAによって誘導されたmScarlet発現に関しては、約30%の筋芽細胞がこのタンパク質に対して陽性であった。なおさらに興味深いことに、約30%の筋芽細胞がGFPとmScarletの両方を発現しており、異なる核酸を同時に送達する上でのこの製剤の効率を示し、CRISPR/Cas9などの遺伝子編集用途への道を開いている。
【国際調査報告】