IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アイビーエムソル カンパニー リミテッドの特許一覧

特表2024-544673SET7/9を用いたEndMT関連疾患の診断および治療用途
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-03
(54)【発明の名称】SET7/9を用いたEndMT関連疾患の診断および治療用途
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/573 20060101AFI20241126BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20241126BHJP
   C12Q 1/6876 20180101ALI20241126BHJP
   C07K 16/40 20060101ALI20241126BHJP
   C12N 15/54 20060101ALI20241126BHJP
   C12N 9/12 20060101ALI20241126BHJP
   A61K 31/4418 20060101ALI20241126BHJP
   A61K 31/4725 20060101ALI20241126BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
G01N33/573 A
G01N33/53 Y
G01N33/53 M
G01N33/53 D
C12Q1/6876 Z
C07K16/40
C12N15/54
C12N9/12
A61K31/4418
A61K31/4725
A61P9/12
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024532978
(86)(22)【出願日】2022-11-16
(85)【翻訳文提出日】2024-07-30
(86)【国際出願番号】 KR2022018093
(87)【国際公開番号】W WO2023101269
(87)【国際公開日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】10-2021-0170147
(32)【優先日】2021-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2022-0151892
(32)【優先日】2022-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】523212416
【氏名又は名称】アイビーエムソル カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】IBMsol Co., Ltd.
【住所又は居所原語表記】(Kyung Hee University Medical Center, Hoegi-dong) #502, 5th Floor, 23, Kyungheedae-ro, Dongdaemun-gu, Seoul 02447, Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】キム ジョンミン
(72)【発明者】
【氏名】クク ユンジン
(72)【発明者】
【氏名】イ アラム
(72)【発明者】
【氏名】ユン ウンシク
【テーマコード(参考)】
4B063
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ03
4B063QQ53
4B063QQ79
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS33
4B063QX02
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC21
4C086BC30
4C086DA27
4C086GA07
4C086GA12
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA42
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA30
4H045DA76
4H045EA50
(57)【要約】
本発明は、SET7/9を用いた内皮間葉転換(endothelial-mesenchymal transition;EndMT)関連疾患の診断および治療用途に関し、本発明者らは、TGF-β2とIL-1βの同時処理が強力な内皮間葉転換誘導条件であり、メチルトランスフェラーゼSET7/9が内皮間葉転換誘導過程の重要な後成的遺伝因子であり、SET7/9の阻害が線維化シグナル伝達を調節して内皮間葉転換を阻害することを確認した。また、SET7/9の阻害は、内皮間葉転換による血管内皮細胞機能障害を回復させ、内皮間葉転換は、肺血管疾患と密接な関連があることを明らかにした。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチルトランスフェラーゼ(Methyltransferase)SET7/9タンパク質またはそれをコードする遺伝子を有効成分として含む、内皮間葉転換(endothelial-mesenchymal transition;EndMT)関連疾患診断用バイオマーカー組成物。
【請求項2】
前記EndMT関連疾患は、肺線維症または肺動脈高血圧であることを特徴とする、請求項1に記載のEndMT関連疾患診断用バイオマーカー組成物。
【請求項3】
メチルトランスフェラーゼ(Methyltransferase)SET7/9の発現レベルを測定可能な製剤を有効成分として含む、EndMT関連疾患診断用組成物。
【請求項4】
前記SET7/9の発現レベルを測定可能な製剤は、前記SET7/9遺伝子に特異的に結合するプライマーまたはプローブ、前記SET7/9タンパク質に特異的に結合する抗体、ペプチド、アプタマー、または化合物であることを特徴とする、請求項3に記載のEndMT関連疾患診断用組成物。
【請求項5】
前記EndMT関連疾患は、肺線維症または肺動脈高血圧であることを特徴とする、請求項3に記載のEndMT関連疾患診断用組成物。
【請求項6】
請求項3~5のいずれか一項に記載の組成物を含む、EndMT関連疾患診断用キット。
【請求項7】
(1)患者から分離された試料からSET7/9遺伝子のmRNA発現レベルまたはSET7/9タンパク質の発現レベルを測定するステップと、(2)前記SET7/9遺伝子のmRNA発現レベルまたはSET7/9タンパク質の発現レベルを対照群試料と比較するステップと、(3)前記SET7/9遺伝子のmRNA発現レベルまたはSET7/9タンパク質の発現レベルが対照群試料よりも高い場合にEndMT関連疾患と判断するステップと、を含む、EndMT関連疾患の診断に必要な情報を提供する方法。
【請求項8】
前記EndMT関連疾患は、肺線維症または肺動脈高血圧であることを特徴とする、請求項7に記載のEndMT関連疾患の診断に必要な情報を提供する方法。
【請求項9】
(1)血管内皮細胞に試験物質を接触させるステップと、(2)前記試験物質を接触した血管内皮細胞におけるSET7/9タンパク質の発現または活性の程度を測定するステップと、(3)対照群試料と比較して前記SET7/9タンパク質の発現または活性の程度が減少した試験物質を選別するステップと、を含む、EndMT関連疾患治療剤のスクリーニング方法。
【請求項10】
前記EndMT関連疾患は、肺線維症または肺動脈高血圧であることを特徴とする、請求項9に記載のEndMT関連疾患治療剤のスクリーニング方法。
【請求項11】
SET7/9の発現または活性阻害剤を有効成分として含む、肺動脈高血圧の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項12】
前記SET7/9の発現または活性阻害剤は、(R)-PFI-2であることを特徴とする、請求項11に記載の肺動脈高血圧の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項13】
SET7/9の発現または活性阻害剤を有効成分として含む、インビトロ(in vitro)肺動脈血管内皮細胞またはインビボ(in vivo)肺動脈高血圧のラットモデルにおけるEndMT阻害用試薬組成物。
【請求項14】
前記SET7/9の発現または活性阻害剤は、シプロヘプタジン(cyproheptadine)または(R)-PFI-2であることを特徴とする、請求項13に記載のEndMT阻害用試薬組成物。
【請求項15】
SET7/9の発現または活性阻害剤をインビトロ(in vitro)で肺動脈血管内皮細胞に処理するか、またはインビボ(in vivo)で肺動脈高血圧のラットモデルに処理するステップを含む、肺動脈血管内皮細胞または肺動脈高血圧のラットモデルにおけるEndMTの阻害方法。
【請求項16】
前記SET7/9の発現または活性阻害剤は、シプロヘプタジン(cyproheptadine)または(R)-PFI-2であることを特徴とする、請求項15に記載のEndMTの阻害方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SET7/9を用いた内皮間葉転換(endothelial-mesenchymal transition;EndMT)関連疾患の診断および治療用途に関する。
【背景技術】
【0002】
内皮間葉転換(endothelial-mesenchymal transition;EndMT)とは、様々な外部刺激により血管内皮細胞の本質が消え、間葉幹細胞(Mesenchymal stem cell)、平滑筋細胞(Smooth muscle cell)、線維芽細胞(Fibroblast)などの細胞に再分化が可能な間葉細胞の特徴を有する細胞に変化する過程を総称する用語である。
【0003】
現在まで前記EndMTに関して研究されたことによると、前記内皮細胞の線維化(Fibrosis)は、炎症反応とともに一連の癌または動脈硬化症などの疾病を発生または悪化させるという報告があり、前記内皮細胞の損傷を引き起こす様々な外部刺激に関しては、まだ関連研究が多く行われている状況である。
【0004】
一方、従来、EndMTは、病理学的に癌や線維化などに影響を与える線維芽細胞(Fibroblast)および筋線維芽細胞(Myofibroblast)の原因として知られている。最近の新しい研究によると、形質転換された細胞がそれぞれ軟骨芽細胞(Chondroblast)、骨芽細胞(Osteoblast)、脂肪芽細胞(Adipoblast)に分化できることが知られている。しかし、EndMT研究は、上皮間葉転換(Epithelial-mesenchymal transition、EMT)研究に比べて非常に不十分な状況である。
【0005】
現在、EndMTにより引き起こされる関連疾病に関する研究開発者らが属する機関や企業などで関連技術に莫大な投資をしており、このような投資の生産性を向上させるために努力している。スクリーニングの通常の作業過程は化合物の分注、希釈、スクリーニング成分の混合、培養および検出、スクリーニングデータの分析および結果報告で構成され、このようなシステムを用いて数百万種のライブラリをスクリーニングしてデータを確保しているが、今後詳細な研究から導き出されると予想される数千種の活性物質に対して保有ライブラリをより迅速かつ効率的にスクリーニングするために新しいスクリーニング方法が継続的に求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、メチルトランスフェラーゼ(Methyltransferase)SET7/9タンパク質またはそれをコードする遺伝子を有効成分として含む、内皮間葉転換(endothelial-mesenchymal transition;EndMT)関連疾患診断用バイオマーカー組成物を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、メチルトランスフェラーゼ(Methyltransferase)SET7/9の発現レベルを測定可能な製剤を有効成分として含むEndMT関連疾患診断用組成物、および前記組成物を含むEndMT関連疾患診断用キットを提供することにある。
【0008】
本発明のまた他の目的は、患者から分離された試料におけるSET7/9の発現レベルの測定によるEndMT関連疾患の診断に必要な情報を提供する方法を提供することにある。
【0009】
本発明のさらに他の目的は、血管内皮細胞におけるSET7/9の発現または活性の程度の測定によるEndMT関連疾患治療剤のスクリーニング方法を提供することにある。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、SET7/9の発現または活性阻害剤を有効成分として含む、肺動脈高血圧の予防または治療用薬学的組成物を提供することにある。
【0011】
本発明のさらに他の目的は、SET7/9の発現または活性阻害剤を有効成分として含む、インビトロ(in vitro)肺動脈血管内皮細胞またはインビボ(in vivo)肺動脈高血圧のラットモデルにおけるEndMT阻害用試薬組成物を提供することにある。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、SET7/9の発現または活性阻害剤をインビトロ(in vitro)で肺動脈血管内皮細胞に処理するか、またはインビボ(in vivo)で肺動脈高血圧のラットモデルに処理するステップを含む、肺動脈血管内皮細胞または肺動脈高血圧のラットモデルにおけるEndMTの阻害方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために、本発明は、メチルトランスフェラーゼ(Methyltransferase)SET7/9タンパク質またはそれをコードする遺伝子を有効成分として含む、内皮間葉転換(endothelial-mesenchymal transition;EndMT)関連疾患診断用バイオマーカー組成物を提供する。
【0014】
また、本発明は、メチルトランスフェラーゼ(Methyltransferase)SET7/9の発現レベルを測定可能な製剤を有効成分として含む、EndMT関連疾患診断用組成物を提供する。
【0015】
また、本発明は、前記EndMT関連疾患診断用組成物を含む、EndMT関連疾患診断用キットを提供する。
【0016】
また、本発明は、(1)患者から分離された試料からSET7/9遺伝子のmRNA発現レベルまたはSET7/9タンパク質の発現レベルを測定するステップと、(2)前記SET7/9遺伝子のmRNA発現レベルまたはSET7/9タンパク質の発現レベルを対照群試料と比較するステップと、(3)前記SET7/9遺伝子のmRNA発現レベルまたはSET7/9タンパク質の発現レベルが対照群試料よりも高い場合にEndMT関連疾患と判断するステップと、を含む、EndMT関連疾患の診断に必要な情報を提供する方法を提供する。
【0017】
また、本発明は、(1)血管内皮細胞に試験物質を接触させるステップと、(2)前記試験物質を接触した血管内皮細胞におけるSET7/9タンパク質の発現または活性の程度を測定するステップと、(3)対照群試料と比較して前記SET7/9タンパク質の発現または活性の程度が減少した試験物質を選別するステップと、を含む、EndMT関連疾患治療剤のスクリーニング方法を提供する。
【0018】
また、本発明は、SET7/9の発現または活性阻害剤を有効成分として含む、肺動脈高血圧の予防または治療用薬学的組成物を提供する。
【0019】
また、本発明は、SET7/9の発現または活性阻害剤を有効成分として含む、インビトロ(in vitro)肺動脈血管内皮細胞またはインビボ(in vivo)肺動脈高血圧のラットモデルにおけるEndMT阻害用試薬組成物を提供する。
【0020】
また、本発明は、SET7/9の発現または活性阻害剤をインビトロ(in vitro)で肺動脈血管内皮細胞に処理するか、またはインビボ(in vivo)で肺動脈高血圧のラットモデルに処理するステップを含む、肺動脈血管内皮細胞または肺動脈高血圧のラットモデルにおけるEndMTの阻害方法を提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、SET7/9を用いた内皮間葉転換(endothelial-mesenchymal transition;EndMT)関連疾患の診断および治療用途に関し、本発明者らは、TGF-β2とIL-1βの同時処理が強力な内皮間葉転換誘導条件であり、メチルトランスフェラーゼSET7/9が内皮間葉転換誘導過程の重要な後成的遺伝因子であり、SET7/9の阻害が線維化シグナル伝達を調節して内皮間葉転換を阻害することを確認した。また、SET7/9の阻害は、内皮間葉転換による血管内皮細胞機能障害を回復させ、内皮間葉転換は、肺血管疾患と密接な関連があることを明らかにした。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1a-1f】ヒトPAECsにおけるTGF-β2とIL-1βの同時処理が強力な内皮間葉転換(EndMT)を誘導するという結果を示す。
図2a-2i】メチルトランスフェラーゼSET7/9がTGF-β2およびIL-1βにより誘導される内皮間葉転換遺伝子発現の変化に必要であるという結果を示す。
図3】SET7/9がTGF-β2とIL-1βの同時処理により誘導される線維化シグナル伝達を調節するという結果を示す。
図4】hPAECsにおいてSET7/9が主に細胞質に位置し、メチル化によりTGF-βR1の発現を調節するという結果を示す。
図5】SET7/9の阻害がTGF-β2およびIL-1βにより誘導される血管内皮細胞機能障害を回復させるという結果を示す。
図6】EndMTが肺血管疾患で起こり、SET7/9が肺動脈高血圧の動物モデルおよび肺線維症の動物モデルで大幅に上向きに調節されるという結果を示す。
図7】SET7/9阻害剤シプロヘプタジン(cyproheptadine)による内皮間葉転換の回復結果を示す。
図8】SuHx誘導肺動脈高血圧の動物モデルにおけるSET7/9阻害剤シプロヘプタジン(cyproheptadine)の効果の結果を示す。
図9】SET7/9特異的阻害剤(R)-PFI-2による内皮間葉転換の回復結果を示す。
図10】SuHx誘導肺動脈高血圧の動物モデルにおけるSET7/9特異的阻害剤(R)-PFI-2の効果の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、メチルトランスフェラーゼ(Methyltransferase)SET7/9タンパク質またはそれをコードする遺伝子を有効成分として含む、内皮間葉転換(endothelial-mesenchymal transition;EndMT)関連疾患診断用バイオマーカー組成物を提供する。
好ましくは、前記EndMT関連疾患は、肺線維症または肺動脈高血圧であってもよいが、これに限定されない。
【0024】
また、本発明は、メチルトランスフェラーゼ(Methyltransferase)SET7/9の発現レベルを測定可能な製剤を有効成分として含む、EndMT関連疾患診断用組成物を提供する。
【0025】
詳細には、前記SET7/9の発現レベルを測定可能な製剤は、前記SET7/9遺伝子に特異的に結合するプライマーまたはプローブ、前記SET7/9タンパク質に特異的に結合する抗体、ペプチド、アプタマー、または化合物であってもよいが、これに限定されない。
好ましくは、前記EndMT関連疾患は、肺線維症または肺動脈高血圧であってもよいが、これに限定されない。
【0026】
また、本発明は、前記EndMT関連疾患診断用組成物を含む、EndMT関連疾患診断用キットを提供する。
一方、本発明のキットは、マーカー成分に特異的に結合する抗体、基質との反応により発色する標識体が接合された二次抗体コンジュゲート(conjugate)、前記標識体と発色反応する発色基質溶液、洗浄液、および酵素反応停止液などを含んでもよく、用いられる試薬成分を含む複数の別のパッケージングまたはコンパートメントで製作されてもよい。
【0027】
本明細書において、「診断」という用語は、特定の疾病または疾患に対するある対象物の感受性(susceptibility)を判定すること、ある対象物が特定の疾病または疾患を現在有するか否かを判定すること、特定の疾病または疾患を有するある対象物の予後(prognosis)を判定すること、またはセラメトリクス(therametrics)(例えば、治療効能に関する情報を提供するために対象物の状態をモニタリングすること)を含む。
【0028】
本明細書において、「プライマー」という用語は、短い遊離3-ヒドロキシル基(free 3’-hydroxyl group)を有する核酸配列であって、相補的なテンプレート(template)と塩基対を形成することができ、テンプレート鎖をコピーするための開始点として作用する短い核酸配列を指す。プライマーは、適切な緩衝溶液および温度で重合反応のための試薬(すなわち、DNAポリメラーゼまたは逆転写酵素)および異なる4種類のヌクレオシドトリホスフェートの存在下でDNA合成を開始することができる。PCRの条件、センスおよびアンチセンスプライマーの長さは、当業界で公知の技術に応じて適宜選択することができる。
【0029】
本明細書において、「プローブ」という用語は、mRNA以外に特異的に結合できる、短くても数塩基ないし長くても数百塩基に相当するRNAまたはDNAなどの核酸断片を意味し、標識されているため、特定のmRNAの存在有無、発現量を確認することができる。プローブは、オリゴヌクレオチド(oligonucleotide)プローブ、一本鎖DNA(single strand DNA)プローブ、二本鎖DNA(double strand DNA)プローブ、RNAプローブなどの形態で製作することができる。適切なプローブの選択およびハイブリダイゼーション条件は、当該技術分野で公知の技術に応じて適宜選択することができる。
【0030】
本明細書において、「抗体」という用語は、当該技術分野で公知の用語であり、抗原性部位に対して指示される特異的な免疫グロブリンを意味する。本発明における抗体とは、本発明のSET7/9に対して特異的に結合する抗体を意味し、当該技術分野の通常の方法に従って抗体を製造することができる。前記抗体の形態は、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を含み、全ての免疫グロブリン抗体が含まれる。前記抗体とは、2つの全長軽鎖および2つの全長重鎖を有する完全な形態を意味する。また、前記抗体は、ヒト化抗体などの特殊抗体も含む。
【0031】
本明細書において、「ペプチド」という用語は、標的物質に対する結合力が高いという利点があり、熱/化学処理時にも変性が起こらない。また、分子サイズが小さいため、他のタンパク質に付着して融合タンパク質としての利用が可能である。具体的に、高分子タンパク質鎖に付着して利用可能であるため、診断キットおよび薬物送達物質として用いることができる。
【0032】
本明細書において、「アプタマー(aptamer)」という用語は、それ自体が安定した三次構造を有し、標的分子に高い親和性および特異性で結合できる特徴を有する特別な種類の一本鎖核酸(DNA、RNA、または修飾核酸)で構成されたポリヌクレオチドの一種を意味する。上述したように、アプタマーは、抗体と同様に抗原性物質に特異的に結合することができ、かつ、タンパク質よりも安定性が高く、構造が簡単であり、合成が容易なポリヌクレオチドで構成されているため、抗体の代わりに用いることができる。
【0033】
また、(1)患者から分離された試料からSET7/9遺伝子のmRNA発現レベルまたはSET7/9タンパク質の発現レベルを測定するステップと、(2)前記SET7/9遺伝子のmRNA発現レベルまたはSET7/9タンパク質の発現レベルを対照群試料と比較するステップと、(3)前記SET7/9遺伝子のmRNA発現レベルまたはSET7/9タンパク質の発現レベルが対照群試料よりも高い場合にEndMT関連疾患と判断するステップと、を含む、EndMT関連疾患の診断に必要な情報を提供する方法を提供する。
好ましくは、前記EndMT関連疾患は、肺線維症または肺動脈高血圧であってもよいが、これに限定されない。
【0034】
本明細書において、「患者から分離された試料」という用語は、前記SET7/9遺伝子またはSET7/9タンパク質の発現レベルにおいて、対照群とは差がある組織、細胞、全血、血清、血漿、唾液、喀痰、脳脊髄液、または尿のような試料を含むが、これに限定されない。
【0035】
詳細には、前記mRNA発現レベルを測定する方法としては、RT-PCR、競合RT-PCR(Competitive RT-PCR)、リアルタイムRT-PCR(Real-time RT-PCR)、RNaseプロテクションアッセイ(RPA;RNase protection assay)、ノーザンブロッティング(Northern blotting)、およびDNAチップを用いるが、これに限定されない。
【0036】
詳細には、前記タンパク質の発現レベルを測定する方法としては、ウェスタンブロット、ELISA(enzyme linked immunosorbent asay)、ラジオイムノアッセイ(Radioimmunoassay;RIA)、放射免疫拡散法(radioimmunodiffusion)、オクタロニー(Ouchterlony)免疫拡散法、ロケット(rocket)免疫電気泳動、組織免疫染色、免疫沈降アッセイ(Immunoprecipitation assay)、補体結合アッセイ(Complement Fixation Assay)、FACS、およびタンパク質チップを用いるが、これに限定されない。
【0037】
また、本発明は、(1)血管内皮細胞に試験物質を接触させるステップと、(2)前記試験物質を接触した血管内皮細胞におけるSET7/9タンパク質の発現または活性の程度を測定するステップと、(3)対照群試料と比較して前記SET7/9タンパク質の発現または活性の程度が減少した試験物質を選別するステップと、を含む、EndMT関連疾患治療剤のスクリーニング方法を提供する。
【0038】
本発明のスクリーニング方法を言及するときに用いられる「試験物質」という用語は、遺伝子の発現量に影響を与えるか否か、またはタンパク質の発現または活性に影響を与えるか否かを検査するために、スクリーニングで用いられる未知の候補物質を意味する。前記試料は、化学物質、ヌクレオチド、アンチセンス-RNA、siRNA(small interference RNA)、および天然物抽出物を含むが、これに限定されない。
【0039】
また、本発明は、SET7/9の発現または活性阻害剤を有効成分として含む、肺動脈高血圧の予防または治療用薬学的組成物を提供する。
好ましくは、前記SET7/9の発現または活性阻害剤は、SET7/9に特異的に結合するアンチセンスヌクレオチド、siRNA(small interfering RNA)およびshRNA(short hairpin RNA)、化合物、ペプチド、アプタマー、および抗体であってもよく、より好ましくは、前記SET7/9の発現または活性阻害剤は、(R)-PFI-2であってもよいが、これに限定されない。
【0040】
本発明の薬学的組成物は、有効成分以外に、薬学的に適合し、生理学的に許容される補助剤を用いて製造されてもよく、前記補助剤としては、賦形剤、崩壊剤、甘味剤、結合剤、被覆剤、膨張剤、潤滑剤、滑沢剤、または香味剤などの可溶化剤を用いてもよい。本発明の薬学的組成物は、投与のために、有効成分以外に、さらに薬学的に許容可能な担体を1種以上含む薬学的組成物として好ましく製剤化することができる。液状溶液に製剤化される組成物において、許容可能な薬学的担体としては、滅菌および生体適合性のあるものとして、生理食塩水、滅菌水、リンガー液、緩衝生理食塩水、アルブミン注射液、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノール、およびこれらの成分のうち1成分以上を混合して用いてもよく、必要に応じて、抗酸化剤、緩衝液、静菌剤などの他の通常の添加剤を添加してもよい。また、希釈剤、分散剤、界面活性剤、結合剤、および潤滑剤を付加的に添加し、水溶液、懸濁液、乳濁液などの注射用製剤、丸薬、カプセル、顆粒、または錠剤に製剤化してもよい。
【0041】
本発明の薬学的組成物の薬剤製剤の形態は、顆粒剤、散剤、コーティング錠、錠剤、カプセル剤、坐剤、シロップ、ジュース、懸濁剤、乳剤、点滴剤、または注射可能な液剤、および活性化合物の徐放型製剤などであってもよい。本発明の薬学的組成物は、静脈内、動脈内、腹腔内、筋肉内、動脈内、腹腔内、胸骨内、経皮、鼻側内、吸入、局所、直腸、経口、眼球内、または皮内経路を介して通常の方式で投与してもよい。本発明の薬学的組成物の有効成分の有効量とは、疾患の予防または治療に必要な量を意味する。したがって、疾患の種類、疾患の重症度、組成物に含まれた有効成分および他の成分の種類および含量、製剤の種類および患者の年齢、体重、一般的な健康状態、性別および食餌、投与時間、投与経路および組成物の分泌率、治療期間、同時に用いられる薬物をはじめとする様々な因子に応じて調節されてもよい。これに限定されるものではないが、例えば、成人の場合、1日1回~数回の投与時、本発明の組成物は、1日1回~数回の投与時、化合物の場合、0.1ng/kg~10g/kg、ポリペプチド、タンパク質、または抗体の場合、0.1ng/kg~10g/kg、アンチセンスヌクレオチド、siRNA、shRNAi、miRNAの場合、0.01ng/kg~10g/kgの用量で投与してもよい。
【0042】
また、本発明は、SET7/9の発現または活性阻害剤を有効成分として含む、インビトロ(in vitro)肺動脈血管内皮細胞またはインビボ(in vivo)肺動脈高血圧のラットモデルにおけるEndMT阻害用試薬組成物を提供する。
【0043】
好ましくは、前記SET7/9の発現または活性阻害剤は、シプロヘプタジン(cyproheptadine)または(R)-PFI-2であってもよいが、これに限定されない。
【0044】
また、本発明は、SET7/9の発現または活性阻害剤をインビトロ(in vitro)で肺動脈血管内皮細胞に処理するか、またはインビボ(in vivo)で肺動脈高血圧のラットモデルに処理するステップを含む、肺動脈血管内皮細胞または肺動脈高血圧のラットモデルにおけるEndMTの阻害方法を提供する。
【0045】
好ましくは、前記SET7/9の発現または活性阻害剤は、シプロヘプタジン(cyproheptadine)または(R)-PFI-2であってもよいが、これに限定されない。
【実施例
【0046】
以下、本発明の理解を助けるために実施例を挙げて詳しく説明する。ただし、下記の実施例は本発明の内容を例示するためのものにすぎず、本発明の範囲が下記の実施例に限定されるものではない。本発明の実施例は、当業界で平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0047】
<実験例>
下記の実験例は、本発明に係るそれぞれの実施例に共通に適用される実験例を提供するためのものである。
1.実験動物
ブレオマイシン(bleomycin)-誘導されたPFマウスモデルとしては、8週齢のC57BL/6マウス(specific-pathogen-free grade from SaeronBio、Republic of Korea)を用いた。マウスが呼吸麻酔下にあるとき、1×滅菌リン酸緩衝生理食塩水(phosphate-buffered saline;PBS)に溶解した2U/kgのブレオマイシン(Sigma、B2434)を気管内注射した。ブレオマイシン処理から3週間後にマウスの肺を採取した。
【0048】
PAHラットモデルは、8週齢の雄のSprague Dawley rats(specific-pathogen-free grade form SaeronBio、Republic of Korea)を対象とした。
【0049】
DMSOに溶解した後、緩衝液(脱イオン水に溶解した0.5% カルボキシメチルセルロースナトリウム、0.5% 塩化ナトリウム、0.4% Tween-80、および0.9% ベンジルアルコール)に懸濁したsemaxanib(DC Chemicals、SU5416)を20mg/kgでラットに皮下注射した。ラットは、3週間、10% Oの低酸素条件に曝露された。正常の酸素条件に回復させた後、シプロヘプタジン(Cyproheptadine;Cayman)または(R)-PFI-2(DC Chemicals)を投与した。シプロヘプタジン(Cyproheptadine)の投与は、2週間、5mg/kgで毎日腹腔内投与し、(R)-PFI-2は、3週間、10mg/kgで2日ごとに皮下投与した。右心室収縮期圧(right ventricular systolic pressure;RVSP)を測定し、ラットを犠牲にした。
【0050】
2.細胞培養およびトランスフェクション
肺動脈ECs(Pulmonary arterial ECs;PAECs)およびヒト臍帯静脈ECs(human umbilical vein ECs;HUVECs)は、MycoZap(Lonza)および1% ペニシリン-ストレプトマイシン(Welgene)を添加したEGM-2(Lonza)で培養された。ヒト微小血管ECs(Human Microvascular ECs;HMVECs)は、EGM-2-MV(Lonza)で培養され、Lenti-X-293TおよびMCF7細胞は、10% ウシ胎仔血清(FBS、HyClone)、1% ペニシリン-ストレプトマイシン(Welgene)、およびMycoZap(Lonza)を含むDMEM(Dulbecco’s modified Eagle medium)(HyClone)で培養された。全ての細胞株は、5% COインキュベータで37℃で培養され、90%の密度で培養された。
【0051】
3.試薬および薬物処理
TGF-β2は、Peprotechから購入し、0.1% ウシ血清アルブミン(bovine serum albumin;BSA)を含む純水に溶解した。IL-1βは、R&D Systemから購入し、0.1% BSAを含む1×PBSに溶解した。TGF-β2(10ng/ml)、IL-1β(1ng/ml)は、特定の時点で用いられた。PAECsは、1×PBSで2回洗浄した後、10% FBS、1% ペニシリン-ストレプトマイシン、およびMycoZapを添加したEGM-2(Lonza)とともに前記薬物を処理した。
【0052】
4.RNA抽出および定量的リアルタイムPCR
全RNAを分離するために、miRNeasy RNA isolation kit(QIAGEN)を用いた。精製されたRNAは、qPCRBIO cDNA Synthesis Kit(PCR-BIOSYSTEMS)を用いて逆転写させ、メーカーの指示に従って、qPCRBIO SyGreen Mix Hi-ROX(PCR-BIOSYSTEMS)を用いて、リアルタイムで定量的PCR(real-time quantitative PCR;qRT-PCR)を行った。動物の肺組織のRNA抽出物は、25周波数(Hz)で3分間均質化し、QIAZOL(provided by the miRNeasy RNA isolation kit)に溶解した。RNAの相対的な発現を測定するために、インビトロ(in vitro)およびインビボ(in vivo)の内部対照群としてribosomal 18S RNAを用いた。qRT-PCRに用いられたPCRプライマー配列を表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
5.免疫沈降法およびウェスタンブロット法
全ての細胞は、プロテアーゼ(GenDepot)およびホスファターゼ(phosphatase)(Sigma Aldrich)阻害剤を含むRIPA(radioimmunoprecipitation assay)緩衝液(Biosesang)に20分間溶解した。その後、4℃で13,000rpmで15分間遠心分離した。Pierce BCA Protein Assay Kit(Thermo Scientific)を用いてタンパク質濃度を測定し、同量のタンパク質にLaemmli SDS Sample Bufferを入れて沸騰させた。免疫沈降法のために、細胞をプロテアーゼ(GenDepot)およびホスファターゼ(phosphatase)(Sigma Aldrich)を含む免疫沈降緩衝液(50mM Tris-HCl(pH7.4)、50mM NaCl、1% Triton X-100、0.5% NP-40)に20分間溶解した後、4℃で13,000rpmで15分間遠心分離した。細胞溶解物にアガロースビーズ(Agarose bead)A/G(Sata Cruz)を入れ、4℃で1時間pre-clearingした後、抗体と4℃で一晩反応させた。その後、20ulのアガロースビーズ(Agarose bead)A/Gを入れ、4℃で2時間反応させた。それを遠心分離してできたペレットを免疫沈降緩衝液で数回洗浄し、Laemmli SDS Sample Bufferを入れて沸騰させた。
【0055】
タンパク質は、SDS-PAGE(sodium dodecyl sulfate polyacrylamide gel electrophoresis)で分離し、ポリビニリデンジフルオライド膜(Millipore)に移した。0.2% PBS with TweenR detergent(PBST)に溶解した3% BSAで前記膜を遮断した後、前記膜上のタンパク質を表2に記載の一次抗体と一晩反応させた。免疫検出のために、HRP-conjugated secondary antibodies(1:4000)を一次抗体と常温で1時間接合させ(平均温度22℃)、その後、enhanced chemiluminescence detection system(Thermo Scientific)を用いて検出した。細胞質と核タンパク質を分けるために、EpiQuik Nuclear Extraction Kit(EpiGentek)をメーカーの指示に従って用いた。動物の肺組織のタンパク質抽出物は、25周波数(Hz)で3分間RIPA bufferで均質化した。
【0056】
【表2】
【0057】
6.レンチウイルスの生産および感染
PAECsにおけるSET7/9過発現のために、SET7/9過発現レンチウイルスベクター(淑明女子大学校のキム・グンイル博士提供)を用いた。レンチウイルスを生産するためにLenti-X-293Tを用いたが、これは、ポリエチレンイミン(polyethylenimine;PEI)トランスフェクション試薬を用いて、second-generation packaging system(psPAX2およびpCL-VSVG)で一緒にレンチウイルスベクターでトランスフェクションした。細胞をトランスフェクションしてから48時間後、レンチウイルスを含む培地を採取し、さらに24時間、新鮮な完全培地に交換した。Amicon Centrifugal Filter Unit(Milipore)を用いて採取されたレンチウイルスを濃縮し、qPCR Lentivirus Titration Kit(Abmgood、LV900)を用いて定量した。PAECsは、無血清培地でSET7/9過発現レンチウイルス(100 multiplicity of infection [MOI])で感染させた。24時間後、培地を新鮮な完全培地に交換した。前記過程を合計2回繰り返した(全感染96時間)。
【0058】
7.免疫細胞化学
PAECsおよびLenti-X-293Tは、4% ホルムアルデヒドで固定し、1×PBSで洗浄した。その後、細胞は、0.2% Triton X-100で浸透させ、1×PBSに溶解した1% BSAで常温で1時間遮断した。細胞は、以下の一次抗体で4℃で一晩反応させた。anti-VE-cadherin(Cell Signaling、2500S、1:100)、anti-Fibronectin(BD Pharmigen、61007、1:100)、anti-TAGLN(Abcam、ab14106、1:200)、anti-α-SMA conjugated with Cy3(Sigma Aldrich、C6198、1:200)、anti-NF-κB p65(Cell Signaling、8242S、1:400)、anti-SET7/9(LsBio、C337450、1:100)、およびrhodamine phalloidin(Sigma Aldrich、1:1000)。donkey anti-goat Alexa Fluor 488およびdonkey anti-goat Alexa Fluor 568(Invitrogen、1:400)の二次抗体は、常温で1時間反応させた。免疫染色イメージを得るために、60×対物レンズ(Zeiss LSM-700)を備えた共焦点顕微鏡を用いた。
【0059】
8.免疫組織化学
採取された動物の肺組織は、パラフィンブロックに包埋した後、10μmに切断した。パラフィン切片は、Histoclearを用いて10分間脱パラフィン化した。前記切片を水和するために、純水に溶解したエタノールを濃縮勾配に応じて用いた(100%、90%、70%、50%、30%、および0%)。組織スライドをBorg Decloaker RTU antigen retrieval solution(Biocare Medical)の中に入れ、圧力鍋を用いて、前記切片を加熱し、抗原を回復させた。回復溶液の温度が下がると、前記切片を1×PBSでそれぞれ5分間3回洗浄した後、遮断緩衝液(1×PBSに溶解した1% BSAおよび5% Goat serum)で常温で30分間遮断した。一次抗体で4℃で一晩反応させた。anti-vWF conjugated with FITC(Abcam、ab8822、1:50)、anti-α-SMA conjugated with Cy3(Sigma Aldrich、C6198、1:100)、anti- SM22α(Abcam、ab14106、1:130)、およびanti-SET7/9(LsBio、C337450、1:50)が用いられた。蛍光染色のために、前記切片は、donkey anti-goat Alexa Fluor 568(Invitrogen、1:150~1:400)、Goat anti-Rabbit Alexa Fluor 647(Invitrogen、1:150)、およびdonkey anti-goat Alexa Fluor 568(Invitrogen、1:400)の二次抗体で常温で1時間反応させた。色染色のために、一次抗体と一晩反応させた後、Goat anti-Mouse IgG Secondary Antibody、HRP(Pierce、1:100)と1時間反応させ、DAB染色キット(Vector、SK-4800)を用いて色反応させた。ヘマトキシリンエオシン染色は、Vector社製の染色製品を用いて行った。40×対物レンズを備えたZeissおよびLeica社製の共焦点顕微鏡を用いてイメージ分析を行った。共局在化効果は、MOC(Mander’s overlap coefficient)により検証された。
【0060】
9.細胞移動分析
PAEC移動分析は、SPLScar Block(SPL)を含む12-ウェルプレートを用いて、メーカーの指示に従って行った。細胞は、10% FBS、1% ペニシリン-ストレプトマイシン、およびMycoZapを添加したEGM-2で培養し、それぞれの薬物で処理した。薬物処理に対する移動分析を行い、光学顕微鏡で観測した。移動終了は、Image J softwareを用いて分析した。
【0061】
10.デキストラン浸透分析
細胞培養インサート(SPL、0.4μm)を有する24-ウェルプレートのウェル当たり、PAECsは、2×10細胞で接種した。薬物処理後、前記インサートを無血清培地(serum-free media;SFM)を含むウェルに移し、インサートの培地をFITC-デキストラン(Sigma Aldrich、FD40S、1mg/ml)を含むSFMに交換した。その後、10分および1時間後にデキストラン浸透が起こったプレートウェルのSFMを一部取り出し、蛍光度を測定した。蛍光強度は、マイクロプレートリーダー(excitation、485nm;emission、530nm)上で測定した。
【0062】
11.Dil-Ac-LDL吸収分析
PAECsは、12-ウェルプレートのウェル当たり、2×10細胞で接種した。薬物処理後、細胞は、Dil-Ac-LDL(Invitrogen、10μg/ml)で37℃で3時間反応させた。反応後、細胞を1×PBSで4回洗浄し、その後、蛍光顕微鏡でイメージ分析を行った。
【0063】
12.統計分析
全ての実験データは、少なくとも3回以上実験を行った後に分析し、GraphPad Prism 5.0および7.0 softwareを用いて検証した。統計的差異は、2つのグループを比較するためのunpaired two-tailed Student’s t-testで分析した。グループが3つ以上である場合、One-way ANOVAで分析した。p-数値<0.05は、統計的有意性があるとみなした。
【0064】
<実施例1>強力な内皮間葉転換(EndMT)の誘導条件であるTGF-β2とIL-1βの同時処理
TGF-β2とIL-1βの同時処理が内皮間葉転換を強力に引き起こす誘導因子であるか否かを調べるために、2つの薬物をそれぞれまたは同時に処理し、内皮間葉転換の程度を比較した。ウェスタンブロット(図1A)とqRT-PCR(図1B)の結果、血管内皮細胞マーカーであるCD31(PECAM1)とVE-cadherin(CDH5)は、各薬物を単独で処理した場合よりも同時に処理したグループでより多く減少した。間葉細胞マーカーであるFibronectin(FN)、N-cadherin(CDH2)、SM22α(TAGLN)、MMP2、SNAILも、2つの薬物を同時に処理したグループでより多く増加した。内皮間葉転換が起こった場合、血管内皮細胞は、敷石状(cobblestone-like shape)である固有の特性を失い、長くて紡錘形をした間葉細胞のような形態に変化することになる。F-actinに結合するファロイジン(phalloidin)染色により、TGF-β2とIL-1βの同時処理による内皮間葉転換が起こった肺動脈血管内皮細胞(PAEC)では、細胞形態の変化と細胞骨格の変化が起こることを確認した(図1C)。TGF-β2とIL-1βを同時に1、3、5、7日間処理した場合、内皮間葉転換の程度を比較した結果、SNAILを除く間葉細胞マーカーのタンパク質発現の変化が時間の経過とともに増加した(図1D)。間葉細胞マーカーのmRNA発現も、時間の経過とともに発現の変化が増加するが、CDH2とSNAILは、1日処理グループで最も高く、その後、次第に減少する傾向を示した(図1E)。血管内皮細胞マーカーは、mRNAとタンパク質の発現ともに時間の経過とともに次第に減少した(図1Dおよび図1E)。免疫細胞化学染色を行った結果、TGF-β2とIL-1βの同時処理による内皮間葉転換誘導条件では、タンパク質とRNAの結果と同一の結果を示した(図1F)。
【0065】
<実施例2>内皮間葉転換誘導過程の重要な後成的遺伝因子であるメチルトランスフェラーゼSET7/9
TGF-β2、IL-1βにより誘導された内皮間葉転換条件から有意に変化する後成的遺伝因子を探すために、RT2 Profiler PCR Arraysを用いた。散布図(scatter plot)グラフとヒートマップ(heat map)を用いて分析した結果、SET7/9が有力な候補因子であることを発掘した。ウェスタンブロット(図2A)、qRT-PCR(図2B)、免疫細胞化学染色(図2C)実験を行った結果、TGF-β2とIL-1βの同時処理で内皮間葉転換が誘導された肺動脈血管内皮細胞におけるSET7/9のタンパク質とmRNA発現が増加し、これは、後成的遺伝因子Arrayの結果と一致することを確認した。次に、内皮間葉転換とSET7/9の関連性を調べるために、SET7/9ノックダウン(knockdown)による効果を観察した。SET7/9ノックダウン時、TGF-β2、IL-1β誘導内皮間葉転換による細胞表現型変化の程度が減少することをファロイジン染色により確認した(図2D)。また、SET7/9ノックダウンにより内皮間葉転換マーカーのタンパク質とmRNA発現が回復することをウェスタンブロット(図2E)、qRT-PCR(図2F)で確認した。SET7/9過発現時、血管内皮細胞の形状が間葉細胞と類似した形態に変化し(図2G)、内皮間葉転換マーカーのタンパク質、mRNA発現も変化することを確認した(図2Hおよび図2I)。
【0066】
<実施例3>線維化シグナル伝達を調節して内皮間葉転換を阻害するSET7/9の阻害
内皮間葉転換の下位シグナル伝達系を研究するために、代表的な線維化(pro-fibrotic)シグナル伝達であるTGF-β-SMAD2/3とNF-κBシグナル伝達を研究した。TGF-β2単独処理、およびTGF-β2とIL-1βの同時処理によるSMAD2/3シグナル伝達をSET7/9が調節するか否かを確認した。その結果、リン酸化されたSMAD2/3がTGF-β2単独処理群よりもTGF-β2とIL-1βの同時処理群でより増加することを確認し、SET7/9ノックダウンによりこのシグナル伝達が阻害されることを確認した(図3A)。また、SET7/9の過発現によりSMAD2/3のリン酸化が増加することを確認した(図3B)。次に、免疫細胞化学染色法により、TGF-β2とIL-1βの同時処理時に増加したp65の発現がSET7/9ノックダウンにより減少することを確認した(図3C)。細胞質と核に分画して確認した結果、TGF-β2とIL-1βの同時処理により、細胞質ではリン酸化されたIκBαの発現が増加し、核ではNF-κBの蓄積が起こることを確認したが、これはいずれもSET7/9ノックダウンにより回復した(図3D)。
【0067】
SET7/9は、ほとんど核よりも主に細胞質に位置するという研究結果があったため、PAEC、HUVEC、HMVEC、293T、MCF7の5つの細胞において、核と細胞質に分画し、SET7/9の発現を確認した。その結果、293T、MCF7と比較して、血管内皮細胞では、核よりも細胞質で高い発現を示した(図4Aおよび図4B)。SET7/9が認識してメチル化するK/R-S/T/A-Kモチーフがcanonical TGF-β-SMAD2/3とNF-κBシグナル伝達に関連するタンパク質に存在するか否かを確認した(図4C)。このうち、TGF-βR1の発現が内皮間葉転換誘導時に増加し、SET7/9ノックダウンにより調節された(図4D)。また、SET7/9の過発現によりTGF-βR1のタンパク質発現が増加することを確認した(図4E)。TGF-βR1がSET7/9のターゲットタンパク質であることを明らかにするために免疫沈降法を行い、先ず、内因性レベルでSET7/9とTGF-βR1が結合していることを確認した(図4F)。TGF-βR1がSET7/9によりメチル化されることを確認するために、SET7/9野生型(Wild type、WT)とメチル化に重要なアミノ酸を変異させた変異型(Mutant type、MT)をそれぞれ過発現させ、メチル化抗体で免疫沈降した。その結果、SET7/9変異型(MT)を過発現させたグループでは、TGF-βR1のメチル化が有意に減少したことを確認した(図4G)。
【0068】
<実施例4>内皮間葉転換による血管内皮細胞機能障害を回復させるSET7/9の阻害
血管内皮細胞機能障害におけるSET7/9の役割を確認するために、透過性分析(permeability)、移動性分析(migration)、Dil-Ac-LDL吸収分析(Dil-Ac-LDL uptake)実験を行った。内皮間葉転換誘導により増加した透過の程度がSET7/9ノックダウンにより回復することを確認した(図5A)。また、SET7/9ノックダウンは、血管内皮細胞の移動性を減少させた(図5B)。内皮間葉転換が誘導されると、血管内皮細胞がリポタンパク質を吸収する能力が減少するが、これは、SET7/9ノックダウンにより回復することを確認した(図5C)。
【0069】
<実施例5>肺血管疾患と密接な関連がある内皮間葉転換
内皮間葉転換と肺血管疾患の関連性を確認するために、肺線維症と肺動脈高血圧の動物モデルを用いた。ブレオマイシン誘導肺線維症のマウスモデルの肺組織では、ヘマトキシリンエオシン染色(H&E)とMasson’s trichrome染色(MTS)により、コラーゲンと結合組織が増加したことを確認した(図6Aおよび図6B)。ブレオマイシン誘導マウスの肺組織では、間葉細胞マーカーのタンパク質とmRNA発現が増加した(図6Cおよび図6D)。免疫組織化学染色法を用いて、ブレオマイシングループでは、血管内皮細胞マーカーvWFと間葉細胞マーカーα-SMAが同時に染色される内皮間葉転換が起こった部分が増加したことを確認した(図6E)。また、ブレオマイシングループでは、SET7/9のタンパク質とmRNA発現が増加したことを免疫蛍光染色(図6F)、ウェスタンブロットとqRT-PCR(図6G)で確認した。
【0070】
肺動脈高血圧の動物モデルとしてはSugen/hypoxia(SuHx)ラットモデルを用い、SuHxグループの肺組織では、間葉細胞マーカーが著しく増加することをウェスタンブロットで確認した(図6H)。また、SET7/9の発現が血管で増加することを2つの免疫組織化学染色法を用いて確認した(図6Iおよび図6J)。
【0071】
<実施例6>SET7/9阻害剤シプロヘプタジン(cyproheptadine)による内皮間葉転換の回復
シプロヘプタジン(Cyproheptadine)は、SET7/9を阻害する効果が報告されている薬物である。前記薬物の内皮間葉転換の阻害効果を確認するために、肺動脈血管内皮細胞にTGF-β2、IL-1βとともにシプロヘプタジン(cyproheptadine)を5、7日間同時処理するモデルを用いた。その結果、内皮細胞マーカーであるCD31(PECAM1)、VE-cadherin(CDH5)と、間葉細胞マーカーであるFibronectin(FN)、N-cadherin(CDH2)、SM22α(TAGLN)、SNAILの発現が回復することをウェスタンブロット(図7A)とqRT-PCR(図7B)で確認した。シプロヘプタジン(Cyproheptadine)処理群では、内皮間葉転換の特徴である細胞骨格の変化が減少することをファロイジン染色により確認した(図7C)。内皮間葉転換により発生した内皮細胞機能障害である透過性の増加(図7D)およびDil-Ac-LDL吸収能力の低下(図7E)が、シプロヘプタジン(cyproheptadine)により回復することを確認した。この際、シプロヘプタジン(Cyproheptadine)により、内皮間葉転換誘導により増加したTGFβR1の発現が回復し、下位シグナルであるSMAD2/3のリン酸化の程度が減少することを確認した(図7F)。
【0072】
<実施例7>SuHx誘導肺動脈高血圧の動物モデルにおけるSET7/9阻害剤シプロヘプタジン(cyproheptadine)の効果
SuHx誘導肺動脈高血圧のラットにシプロヘプタジン(cyproheptadine)を5mg/kgの濃度で2週間腹腔内投与したとき、右心室収縮期圧(RVSP mmHg)、右心室/左心室+中隔比(RV/LV+S%)、右心室重量(RV mg)が減少することを確認した(図8A-C)。免疫組織化学染色の結果、SuHxラット肺組織の約50μmサイズの血管に筋肉化(Muscularization)が見られるが、シプロヘプタジン(cyproheptadine)の投与時に筋肉化の程度が減少したことを確認した。SuHx肺組織では、内皮細胞と間葉細胞マーカーが同時に染色される内皮間葉転換現象が増加するが、このような現象が起こった血管では、SET7/9の発現が増加することを観察した。しかし、シプロヘプタジン(cyproheptadine)投与群では、血管のSET7/9の発現が減少し、内皮細胞と間葉細胞マーカーの同時染色部分が減少することから、内皮間葉転換が阻害されたことを確認した(図8D)。H&E染色により、シプロヘプタジン(cyproheptadine)を投与したラットグループの肺組織における閉塞または肥大した血管がSuHx誘導肺動脈高血圧グループに比べて減少したことを確認した(図8E)。シプロヘプタジン(Cyproheptadine)を投与したラットグループの肺組織では、N-cad、SM22αのような間葉細胞マーカーとSET7/9のターゲットタンパク質であるTGFβR1の発現が減少し、リン酸化されたSMAD2タンパク質の発現が有意に減少したことを確認した(図8F)。
【0073】
<実施例8>SET7/9特異的阻害剤(R)-PFI-2による内皮間葉転換の回復
(R)-PFI-2は、SET7/9の基質ペプチド結合溝(substrate peptide binding groove)に結合して作用する競合阻害剤(substrate competitive inhibitor)である。したがって、SET7/9特異的阻害剤である(R)-PFI-2による内皮間葉転換の回復効果を確認するために、肺動脈血管内皮細胞にTGF-β2、IL-1βと(R)-PFI-2を同時処理するモデルを用いた。その結果、内皮細胞マーカーであるCD31と、間葉細胞マーカーであるTNC、FN、Calponin、SM22αの発現が回復することをウェスタンブロット(図9A)で確認し、内皮細胞マーカーPECAM1と、間葉細胞マーカーFN、CDH2、COL3A1の発現が回復することをqRT-PCR(図9B)で確認した。ファロイジン染色により、(R)-PFI-2による細胞骨格の変化が減少(図9C)し、透過性(図9D)およびDil-Ac-LDL吸収能力(図9E)が回復することを確認した。
【0074】
<実施例9>SuHx誘導肺動脈高血圧の動物モデルにおけるSET7/9特異的阻害剤(R)-PFI-2の効果
動物モデルにおける(R)-PFI-2効果を確認するために、SuHx誘導肺動脈高血圧のラットに(R)-PFI-2を10mg/kgの濃度で3週間皮下投与した。(R)-PFI-2投与群では、右心室収縮期圧(RVSP mmHg)、右心室/左心室+中隔比(RV/LV+S%)、右心室重量(RV mg)が減少することを確認した(図10A-C)。免疫組織化学染色の結果、SuHxラット肺組織血管の筋肉化が(R)-PFI-2投与時に有意に減少した。また、SuHx肺組織では、内皮間葉転換が起こった血管のSET7/9の発現が高いことを観察したが、(R)-PFI-2投与群では、血管のSET7/9の発現が減少し、内皮細胞と間葉細胞マーカーの同時染色部分が減少することから、内皮間葉転換が阻害されたことを確認した(図10D)。H&E染色により、(R)-PFI-2を投与したラットグループの肺組織における閉塞または肥大した血管がSuHx誘導肺動脈高血圧グループに比べて減少したことを確認した(図10E)。(R)-PFI-2を投与したラットグループの肺組織では、Twist、pVIMのような間葉細胞マーカーとSET7/9のターゲットタンパク質であるTGFβR1の発現が減少し、リン酸化されたSMAD2タンパク質の発現が有意に減少したことを確認した(図10F)。
【0075】
以上、本発明の特定の部分を詳細に記載したが、当業界の通常の知識を有する者にとって、このような具体的記載は単なる好ましい実施例にすぎず、これにより本発明の範囲が限定されるものではないことは明らかである。したがって、本発明の実質的な範囲は、添付の請求項とこれらの等価物により定義されるといえる。
図1a
図1b
図1c
図1d
図1e
図1f
図2a
図2b
図2c
図2d
図2e
図2f
図2g
図2h
図2i
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【国際調査報告】