(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-03
(54)【発明の名称】高血糖症及び2型糖尿病の治療のための(R)-2-(TERT-ブチルアミノ)-1-(5-フルオロピリジン-3-イル)-エタン-1-オールヘミ酒石酸塩の結晶形態
(51)【国際特許分類】
C07D 213/38 20060101AFI20241126BHJP
A61K 31/4406 20060101ALI20241126BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20241126BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
C07D213/38 CSP
A61K31/4406
A61P3/10
A61K45/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024534196
(86)(22)【出願日】2022-12-09
(85)【翻訳文提出日】2024-07-29
(86)【国際出願番号】 EP2022085133
(87)【国際公開番号】W WO2023105035
(87)【国際公開日】2023-06-15
(32)【優先日】2021-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】518320845
【氏名又は名称】アトロジー アーベー
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】ペルクマン,ベンジャミン
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084MA02
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZC35
4C086AA01
4C086AA03
4C086GA14
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZC35
(57)【要約】
本発明は、211℃の融点及び
図1のXRPDパターンを特徴とする、(R)-2-(tert-ブチルアミノ)-1-(5-フルオロピリジン-3-イル)エタノール(式(I))ヘミ-(2R,3R)-酒石酸塩の結晶形態を開示する。本発明はまた、ベータ2-アドレナリン受容体の活性化による高血糖症及び2型糖尿病の治療で使用するための該ヘミ酒石酸塩に関する。重要なことに、そのような塩は、著しいcAMP放出を介してそれらの効果を発揮することがないため、有益な副作用プロファイルを有するものと考えられる。
【化1】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Iの化合物:
【化1】
のヘミ酒石酸塩。
【請求項2】
前記タータラートが、(2R,3R)-タータラートを含む、請求項1に記載の塩。
【請求項3】
前記タータラートが、(2R,3R)-タータラートから本質的になる、請求項2に記載の塩。
【請求項4】
前記塩が、約90%超、好ましくは約95%超、より好ましくは約99%超の純度を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の塩。
【請求項5】
前記塩が、大気圧で約209~約213℃、例として約210~約212℃など、例えば約211℃の融点を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の塩。
【請求項6】
医薬において使用するための、請求項1~5のいずれか一項に記載の塩。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の塩と、任意に1つ以上の薬学的に許容され得るアジュバント、希釈剤、及び/又は担体と、を含む、医薬組成物。
【請求項8】
前記式Iの化合物が、少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、更により好ましくは少なくとも98%、最も好ましくは少なくとも99%のエナンチオマー過剰率を有する、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
高血糖症又は高血糖症を特徴とする障害の治療で使用するための、請求項1~5のいずれか一項に記載の塩。
【請求項10】
高血糖症又は高血糖症を特徴とする障害の治療のための薬剤の製造のための、請求項1~5のうち一項に記載の塩の使用。
【請求項11】
高血糖症又は高血糖症を特徴とする障害を治療する方法であって、それを必要とする患者へ、治療有効量の請求項1~5のいずれか一項に記載の塩を投与することを含む、方法。
【請求項12】
高血糖症又は高血糖症を特徴とする障害の前記治療で使用するための、請求項7又は8に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記高血糖症又は高血糖症を特徴とする障害が、重度のインスリン抵抗性を示す患者であるか、又は前記患者を特徴とする、請求項9~12のいずれか一項に記載の使用のための塩若しくは組成物、方法、又は使用。
【請求項14】
前記高血糖症を特徴とする障害が、2型糖尿病、ラブソン・メンデンホール症候群、ドナヒュー症候群(妖精症)、インスリン抵抗性のA型及びB型症候群、HAIR-AN(高アンドロゲン症、インスリン抵抗性、及び黒色表皮腫)症候群、偽先端巨大症、及び脂肪異栄養症からなる群から選択される、請求項9~12のいずれか一項に記載の使用のための塩若しくは組成物、方法、又は使用。
【請求項15】
組み合わせ製品あって、以下:
(a)請求項1~5のいずれか一項に記載の塩と、
(b)高血糖症又は高血糖症を特徴とする障害の前記治療に有用である1つ以上の他の治療剤と、
を含み、
ここで、構成要素(a)及び(b)の各々が、任意に1つ以上の薬学的に許容され得るアジュバント、希釈剤、又は担体と混合して製剤化される、
組み合わせ製品。
【請求項16】
キットオブパーツであって、以下:
(a)請求項7~8のいずれか一項に記載の医薬組成物と、
(b)1つ以上の薬学的に許容され得るアジュバント、希釈剤、又は担体と任意に混合された、高血糖症又は高血糖症を特徴とする障害の治前記治療で有用である1つ以上の他の治療剤と、
を含み、
構成要素(a)及び(b)が、各々、他方と併せて投与するのに好適な形態で提供される、キットオブパーツ。
【請求項17】
請求項1~5のいずれか一項に記載の塩の調製のためのプロセスであって、式(I)の化合物:
【化2】
を、酒石酸又は酒石酸の溶液と反応させる工程、例えば、前記酒石酸の溶液の溶媒が、エタノール又はエタノール-水混合物である、工程を含む、プロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の塩及び組成物、並びに高血糖症及び2型糖尿病などの高血糖症を特徴とする障害の治療におけるそれらの使用に関する。特に、本発明は、β2-アドレナリン受容体の活性化を介して2型糖尿病などの症状を治療するための、新規の塩、組成物、及び方法に関する。重要なことに、そのような塩は、著しいcAMP放出を介してそれらの効果を発揮することがないため、有益な副作用プロファイルを有するものと考えられる。
【背景技術】
【0002】
本明細書で見たところ先に公表された文献のリスト又は議論は、その文献が最新技術の一部であるか、又は共通の全般知識であることを認めるものと必ずしも解釈されるべきではない。
【0003】
高血糖症、又は高血糖は、過剰量のグルコースが血漿中を循環する症状である。治療されない場合、高血糖症は深刻な問題となり得、ケトアシドーシスなどの生命を脅かす症状に発展する可能性がある。例えば、慢性的な高血糖症は心臓への損傷を引き起こし得、冠動脈性心疾患又は心不全の病歴のない対象における心臓発作及び死亡に強く関連する。糖尿病及び重度のインスリン抵抗性を含む高血糖症の原因は多岐にわたる。
【0004】
重度のインスリン抵抗性(SIR)は、特許がインスリンに対する非常に低いレベルの(又は、極端な場合には、有意でない)応答を患う症状である。SIRを特徴とするいくつかの症候群が存在し、これらには、ラブソン・メンデンホール症候群、ドナヒュー症候群(妖精症)、インスリン抵抗性のA型及びB型症候群、HAIR-AN(高アンドロゲン症、インスリン抵抗性、及び黒色表皮腫)症候群、偽先端巨大症、並びに脂肪異栄養症が含まれる。これらの症状の大部分は、インスリン受容体遺伝子の突然変異などの遺伝的原因を有する。ドナヒュー症候群、ラブソン・メンデンホール症候群及びインスリン抵抗性のA型症候群の有病率は、100,000例中、約50例の報告事例から1例まで変動することが報告されている。しかしながら、いくつかの疾患は重度で極めて稀であるため、特に世界の開発途上地域では、多くの患者が死亡前に診断されない可能性が高い。したがって、これらの症候群を有する患者の正確な数を評価することは困難である。
【0005】
SIRを有する患者における高血糖症治療のための現在の標準は、メトホルミンなどのインスリン受容体感受性に影響を及ぼす薬物を補充した制限食、又はインスリン補充である。しかしながら、特にインスリン受容体遺伝子の突然変異によって引き起こされる障害については、この治療は十分に効果的ではなく、最終的には不成功に終わることが判明している。
【0006】
糖尿病は、2つの異なる疾患、すなわち1型(又はインスリン依存性糖尿病)及び2型(インスリン非依存性糖尿病)を含み、それらは両方ともグルコース恒常性の機能不全を伴う。2型糖尿病は、世界中で4億人を超える人々に影響を及ぼし、その数は急速に上昇している。2型糖尿病の合併症には、重度の心血管障害、腎不全、末梢神経障害、失明が含まれ、かつ該疾患の後期には、更には手足の喪失、最終的には死亡が含まれる。2型糖尿病は、骨格筋及び脂肪組織におけるインスリン抵抗性を特徴とし、現在のところ決定的な治療法はない。今日使用されるほとんどの治療は、機能不全のインスリンシグナル伝達を改善することか、又は肝臓からのグルコース産出を抑制することに焦点が当てられているが、それらの治療の多くは、いくつかの欠点及び副作用を有する。したがって、2型糖尿病を治療するための新規のインスリン非依存性の方法を特定することに大きな関心が寄せられている。
【0007】
2型糖尿病では、インスリンシグナル伝達経路は、脂肪組織及び骨格筋などの末梢組織で鈍くなる。2型糖尿病を治療するための方法には、典型的には、生活習慣の変更、並びにグルコース恒常性を調節するためのインスリン注射又は経口薬が含まれる。この疾患の後期段階の2型糖尿病を有する人々は、「ベータ細胞不全」、すなわち、膵臓が高血糖値に応答してインスリンを放出することができないことを発症する。この疾患の後期段階では、患者はしばしば、糖尿病を管理するために経口薬と組み合わせてインスリン注射を必要とする。更に、最も一般的な薬物は、インスリン経路の下方調節若しくは脱感作並びに/又は脂肪組織、肝臓及び骨格筋における脂質取り込みの促進を含む副作用を有する。したがって、これらの副作用を含まない、2型糖尿病を含む代謝性疾患を治療するための新規の方法を特定することに大きな関心が寄せられている。
【0008】
食事後、血糖値の上昇は、膵臓からのインスリン放出を刺激する。インスリンは、血糖値の正常化を媒介する。グルコース代謝に対するインスリンの重要な効果には、骨格筋及び脂肪細胞へのグルコース取り込みの促進、並びに肝臓におけるグリコーゲン貯蔵の増加が含まれる。骨格筋及び脂肪細胞は、摂食状態でのインスリン媒介性のグルコース取り込み及び利用を担っており、グルコース代謝にとって非常に重要な部位となっている。
【0009】
インスリン受容体の下流のシグナル伝達経路は、詳細に理解することが困難であった。要約すると、インスリンによるグルコース取り込みの制御は、インスリン受容体(insulin receptor:IR)、インスリン受容体基質(IRS)、ホスホイノシチド3-キナーゼ(PI3K)の活性化、ひいてはホスファチジルイノシトール(3,4,5)-トリホスフェート(PIP3)、ラパマイシンの哺乳動物標的(ラパマイシンの機序標的、mTORともまた呼ばれる)、Akt/PKB(Akt)、及びTBC1D4(AS160)の刺激に関与し、グルコース輸送体4(GLUT4)の細胞膜への転位をもたらす。Akt活性化は、GLUT4転位に必要であるとみなされている。
【0010】
骨格筋は、哺乳動物の体重の大部分を構成し、全身グルコース代謝の調節に重要な役割を果たし、全身グルコース処理の最大85%を担っていることに留意されたい。骨格筋におけるグルコース取り込みは、いくつかの細胞内及び細胞外シグナルによって調節される。インスリンは最もよく研究された介在物質であるが、他にも存在する。例えば、AMP活性化キナーゼ(AMPK)は、細胞内のエネルギーセンサーとして機能し、グルコース取り込み及び脂肪酸酸化を増加させることができる。骨格筋がグルコース恒常性に及ぼす大きな影響のために、更なる機序が存在すると考えられる。2型糖尿病の有病率の増加に照らして、筋肉細胞におけるグルコース取り込みを増加させるための新規のインスリン非依存性機序を見出し、特徴付けることに大きな関心が寄せられている。
【0011】
血糖値は、インスリン及びカテコールアミンの両方によって調節され得るが、それらは異なる刺激に応答して体内で放出される。インスリンは、血糖値の上昇(例えば、食事後)に応答して放出されるが、エピネフリン及びノルエピネフリンは、運動、感情及びストレスなどの様々な内的及び外的刺激に応答して、並びに組織恒常性の維持のために放出される。インスリンは、グルコース取り込み、グリコーゲン及びトリグリセリド形成を含む成長に関与する多くのプロセスを刺激する同化ホルモンであり、一方、カテコールアミンは、主に異化である。
【0012】
インスリン及びカテコールアミンは通常反対の効果を有するが、それらは骨格筋におけるグルコース取り込みに関して同様の作用を有することが示されている(Nevzorovaら、Br.J.Pharmacol,137,9,(2002))。特に、カテコールアミンがアドレナリン受容体を介してグルコース取り込みを刺激して(Nevzorovaら、Br.J.Pharmacol,147,446,(2006);Hutchinson,Bengtsson Endocrinology 146,901,(2005))、エネルギーに富む基質を筋細胞に供給することが報告されている。したがって、ヒトを含む哺乳動物では、アドレナリン系及びインスリン系は独立して働き、異なる状況において骨格筋のエネルギー需要を調節できる可能性が高い。インスリンはまた、例えば肥満につながる、組織への脂質取り込みの刺激などの望ましくない効果を促進するいくつかのものを含む、多くの同化プロセスを刺激するので、他の手段により、例えば、アドレナリン受容体(AR)の刺激により、グルコース取り込みを刺激することができれば有益であろう。
【0013】
全てのARは、細胞膜に位置し、細胞外N末端、それに続く7回膜貫通αヘリックス(TM-1~TM-7)、それに連結する3つの細胞内(IL-1~IL-3)及び3つの細胞外ループ(EL-1~EL-3)、並びに最終的に細胞内C末端を特徴とする、Gタンパク質共役受容体(GPCR)である。ARには、異なる発現パターン及び薬理学的プロファイルを有する3つの異なるクラス:α1-、α2-、及びβ-ARがある。α1-ARは、α1A、α1B、及びα1Dサブタイプを含むが、α2-ARは、α2A、α2B、及びα2Cに分類される。β-ARもまた、サブタイプβ1、β2、及びβ3に分類されるが、これらのうちβ2-ARは、骨格筋細胞における主要なアイソフォームである。ARは、環状アデノシン一リン酸(cAMP)及びホスホリパーゼC(PLC)などの古典的な二次メッセンジャーを介してシグナル伝達するGタンパク質共役受容体(GPCR)である。
【0014】
骨格筋におけるARの下流に生じる多くの効果は、cAMPレベル、PLC活性、及びカルシウムレベルの上昇などの古典的な二次メッセンジャーシグナル伝達に起因している。古典的な二次メッセンジャーに関与する刺激は、異なる組織において多くの効果を有する。例えば、上記刺激は、心拍数、血流、肺における気流及び肝臓からのグルコースの放出を増加させ、ARの刺激が2型糖尿病治療とみなされるべきである場合、それらは全てが有害であり得るか、又は望ましくない副作用とみなされ得る。古典的なARアゴニストの有害作用は、例えば、頻脈、動悸、振戦、発汗、激越及び血液中のグルコースレベル(肝臓からのグルコース産出)の増加である。したがって、cAMPなどのこれらの古典的な二次メッセンジャーを活性化せずにARを活性化して、望ましくない副作用を刺激することなく末梢組織におけるグルコース取り込みを増加することができれば有益であろう。
【0015】
グルコース取り込みは、ほとんどの細胞へのグルコース取り込みを媒介する促進性グルコース輸送体(GLUT)を介して主に刺激される。GLUTは、濃度勾配下で細胞膜にわたってグルコース及び/又はフルクトースの輸送を媒介する輸送体タンパク質である。GLUTファミリーには、それらの基質特異性及び組織発現に依存して、3つのクラス(クラスI、クラスII、及びクラスIII)に分類される、GLUT1~14と命名された14の既知のメンバーが存在する。GLUT1及びGLUT4は、最も集中的に研究されたアイソフォームであり、GLUT2及びGLUT3と一緒に、(フルクトースも輸送するクラスIIとは対照的に)主にグルコースを輸送するクラスIに属する。GLUT1は、遍在的に発現し、基礎的なグルコース輸送に関与する。GLUT4は、骨格筋、心筋及び脂肪組織などの末梢組織においてのみ発現する。GLUT4はまた、例えば、脳、腎臓、及び肝臓において発現することが報告されている。GLUT4は、インスリン刺激グルコース取り込みに関与する主要なアイソフォームである。インスリンシグナル伝達がグルコース取り込みを増加させる機序は、主に細胞内貯蔵から細胞膜へのGLUT4転位を介するものである。GLUT4転位が、β2-アドレナリン受容体の刺激によって誘導されることは既知である。
【0016】
したがって、2型糖尿病などの、哺乳動物におけるグルコース恒常性又はグルコース取り込みの調節不全に関与する症状の考えられる治療には、細胞膜へのGLUT4転位につながるβ2-アドレナリン受容体の活性化及び全身のグルコース恒常性の正常化につながる骨格筋へのグルコース取り込みの促進に関与し得る。加えて、治療がcAMPによるシグナル伝達に関与しない場合、好都合な副作用プロファイルにつながるため、有利であろう。
【0017】
(R)-2-(tert-ブチルアミノ)-1-(5-フルオロピリジン-3-イル)エタン-1-オールは、国際公開第2019/053427号に開示されており、かつβ2-アドレナリン受容体においてアゴニストとして作用し、これは、骨格筋におけるグルコース取り込みを増加させるが、環状アデノシン一リン酸(cAMP)の有意な放出をもたらさないことが示されている。
【0018】
(R)-2-(tert-ブチルアミノ)-1-(5-フルオロピリジン-3-イル)エタン-1-オールなどの活性成分の特性を改善して、特に薬剤の調製に使用される場合のそれらの使用の容易さを改善するための必要性が依然として存在する。特に、改善された配合の容易さ、改善された安定性、改善されたバイオアベイラビリティ、改善された味、改善されたスケールアップ能力、及び/又はより低い吸湿性を有する形態における活性成分を提供する必要性が依然として存在する。また、高収率及び高純度(いくつかの状況では、高いエナンチオマー過剰率を含む)で結晶性固体として活性成分を得ることができる必要性が依然として存在する。
【0019】
本明細書で見たところ先に公表された文献のリスト又は議論は、その文献が最新技術の一部であるか、又は共通の全般知識であることを認めるものと必ずしも解釈されるべきではない。
【発明の概要】
【0020】
本発明者らは、驚くべきことに、(R)-2-(tert-ブチルアミノ)-1-(5-フルオロピリジン-3-イル)-エタン-1-オール(すなわち、以下に記載される式Iの化合物)が、高純度及び高エナンチオマー過剰率を有するヘミ酒石酸塩として、高収率でスケーラブルな様式で調製され得ることを見出した。対照的に、この化合物の多くの他の塩形態は、結晶化の影響を受けにくいか、低い収率及び/又は低い純度でしか得ることができないかのいずれかであり、高い吸湿性を有することが判明し、医薬品としての使用に好適ではなく(例えば、毒性に関する懸念に起因する)、及び/又は濾過の問題に起因するスケールアップ産生に好適でないことが判明している。
【0021】
(R)-2-(tert-ブチルアミノ)-1-(5-フルオロピリジン-3-イル)エタン-1-オール(すなわち、式Iの化合物)は、β2-アドレナリン受容体のアゴニストとして作用し、骨格筋におけるグルコース取り込みを増加させることが見出されている。
【0022】
加えて、この効果が著しいcAMP放出を介して媒介されず、伝統的なβ2-アドレナリンアゴニストで見られる一般的に記載されている副作用の多く(例えば、頻脈、動悸、振戦、発汗、激越など)が低下し得ることが見出されている。
【0023】
医薬中の本明細書に記載される化合物のそのような塩形態の使用は、2型糖尿病などの高血糖値を特徴とする状態(すなわち、高血糖症)の治療のための有望な戦略を表す。
【0024】
本発明の化合物
本発明の第1の態様において、式I:
【0025】
【化1】
の化合物のヘミ酒石酸塩が提供され、この式Iの化合物は、本明細書において「本発明の化合物」と呼ばれてもよく、このヘミ酒石酸塩は、本明細書において「本発明の塩」と呼ばれてもよい。
【0026】
疑義を避けるために、当業者は、本明細書における本発明の特定の態様の塩(本発明の第1の態様など、例えば、式Iの化合物のヘミ酒石酸塩)への言及は、その全ての実施形態及び特定の特徴への言及を含み、その実施形態及び特定の特徴を組み合わせて、更なる実施形態が形成されてもよいことを理解するだろう。
【0027】
疑義を避けるために、式Iの化合物は、IUPAC名(R)-2-(tert-ブチルアミノ)-1-(5-フルオロピリジン-3-イル)エタン-1-オールによって別様に知られている。
【0028】
酒石酸は、2,3-ジヒドロキシブタン二酸又は2,3-ジヒドロキシ-コハク酸としても知られており、その構造は、以下のようにグラフで表され得る:
【0029】
【0030】
当業者は、酒石酸が、分子中に存在する2つの不斉炭素中心に起因する3つの立体異性体として存在し得ることを理解するであろう。
【0031】
(R,R)-酒石酸(デキストロ酒石酸(dextrotartaric acid)、(2R,3R)-酒石酸、L-(+)-酒石酸、及びL-酒石酸としてもまた知られる)は、酒石酸の一対のエナンチオマーのうち1つであり、以下のようにグラフで表され得る構造を有する:
【0032】
【0033】
(S,S)-酒石酸(左旋性酒石酸(levotartaric acid)、(2S,3S)-酒石酸、D-(-)-酒石酸、及びD-酒石酸としてもまた知られる)は、酒石酸の一対のエナンチオマーのうちもう1つであり、以下のようにグラフで表され得る構造を有する:
【0034】
【0035】
(2R,3S)-酒石酸(メソ酒石酸としてもまた知られる)は、酒石酸の立体異性体であり、以下のようにグラフで表され得る構造を有する:
【0036】
【0037】
疑義を避けるために、酒石酸の全ての立体異性体及びそれらの混合物(したがって、タータラート)は、本発明の範囲内に含まれる。
【0038】
「タータラート」という用語は、酒石酸のアニオンを指す。したがって、「式Iの化合物の酒石酸塩」という用語は、酒石酸のアニオンと式Iの化合物の関連カチオンとの集合体からなる化学化合物を指すことが理解されよう。
【0039】
酒石酸は、モノアニオン(酒石酸水素アニオン又は半酒石酸アニオンとしてもまた知られる)又はジアニオン(酒石酸ジアニオンとしてもまた知られる)として存在し得る。それゆえに、本明細書で使用される場合、「タータラート」という用語は、塩内に適切な電荷バランスを提供するために必要な酒石酸モノアニオン、酒石酸ジアニオン、及び/又はそれらの混合物を含むものと解釈される。
【0040】
本明細書で使用される場合、「式Iの化合物のヘミ酒石酸塩」の「ヘミ」という用語は、式Iの化合物と塩のタータラートとの間の化学量論が1:0.5(すなわち、2:1に相当)であることを意味する。それゆえに、式Iの化合物のヘミ酒石酸塩の構造は、例えば、以下のようにグラフで表され得る:
【0041】
【0042】
疑義を避けるために、本発明の第1の態様の塩は、周囲条件下において固体であり、したがって、本発明の範囲は、その全ての非晶質、結晶及び、部分結晶形態を含む。
【0043】
別途示されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0044】
本明細書で言及される本発明の全ての実施形態及び特定の特徴は、本発明の開示から逸脱することなく、単離して、又は本明細書で言及される任意の他の実施形態及び/又は特定の特徴と組み合わせて採用され得る(したがって、本明細書に開示される、より特定の実施形態及び具体的な特徴を記載する)。
【0045】
本発明の第1の態様のある特定の実施形態において、タータラート(すなわち、本発明の化合物中に存在するタータラート対イオン)は、(2R,3R)-タータラートを含む。
【0046】
より特定の実施形態において、酒石酸塩は、(2R,3R)-タータラートから本質的になる。「から本質的になる」とは、本発明者らは、酒石酸塩が、関連する形態の少なくとも90%、例えば少なくとも95%又は少なくとも98%など、例えば少なくとも99%、例えば少なくとも99.9%などを含むことを意味する。あるいは、関連する立体化学的配置(すなわち、酒石酸のもの)は、少なくとも90%(少なくとも95%、少なくとも98%、又は特に少なくとも99%若しくは少なくとも99.5%;例えば、少なくとも99.9%など)のエナンチオマー過剰率(e.e.)又はジアステレオマー過剰率(d.e.)で適切に存在していると言及され得る。
【0047】
本発明の第1の態様の特定の実施形態において、本発明の塩のタータラート構成要素は、(2R,3R)-タータラートである。
【0048】
当業者は、式Iの化合物の特定の立体異性体(すなわち、必須-OH基により置換された炭素が(R)立体配置である場合)への言及が、特定の実施形態では、対応する反対の立体異性体(すなわち、必須-OH基により置換された炭素が(S)立体配置である場合)の実質的な非存在下に存在する特定の立体異性体を指し得ることを理解するであろう。
【0049】
本明細書で使用される場合、対応する反対の立体異性体の実質的な非存在という言及は、反対の立体異性体に対して、少なくとも80%(例えば、少なくとも90%、例えば少なくとも95%など)の純度で存在する所望の立体異性体を指す。あるいは、このような場合、化合物は、他の立体配置(すなわち、(S)立体配置)にある化合物の実質的な非存在下において存在することが示されてもよく、このことは、関連する立体配置にある化合物が、少なくとも90%(少なくとも95%、少なくとも98%など、又は特に、少なくとも99%若しくは少なくとも99.5%;例えば、少なくとも99.8%)のエナンチオマー過剰率(e.e.)で存在することを示してしてもよい。
【0050】
疑義を避けるために、本発明の塩のエナンチオマー過剰率(e.e.)は、式Iの化合物のエナンチオマー過剰率(e.e.)化合物が本発明の塩を構成することを指す。
【0051】
ある特定の実施形態において、関連する塩形態(すなわち、式Iの化合物と酒石酸との組み合わせである、請求項に記載の塩形態)は、約80%又は90%超、好ましくは約95%超又は約98%超、より具体的には約99%超(この値は、必要に応じて、100%、又は例えば99.5%若しくは99.9%など、又は特に99.99%の100%に近い値であり得る、その状況で達成可能な最大値を上限点として有する範囲として表すことができる)の純度を有する。
【0052】
ある特定の実施形態において、塩は、大気圧で約209~約213℃の融点を有する。より特定の実施形態において、塩は、約210~約212℃、例えば約211℃などの融点を有する。
【0053】
本明細書で特定の値(量など)に関して使用する場合、「約」という用語(又は「およそ」などの同様の用語)は、かかる値が、定義された値の最大10%(特に、最大5%、例えば最大1%など)だけ変動する可能性があることを示すものとして理解される。各場合において、かかる用語は、表記「±10%」などと(又は関連する値に基づいて計算された特定量の変動を示すことによって)置き換えてもよいことが企図される。また、各場合において、かかる用語は削除されてもよいと考えられる。
【0054】
ある特定の実施形態において、塩は、結晶性である(すなわち、結晶性固体;室温、例えば20℃及び大気圧で観察した場合)。
【0055】
当業者は、本発明の化合物(塩)が結晶性であり、したがって部分結晶形態として存在し得ることを理解するであろう。当業者は、X線粉末回折(X-ray powder diffraction:XRPD)などの、そのような結晶形態を特徴付けるために使用され得る技術に精通している。
【0056】
特定の実施形態において、塩は、11.35、17.24、及び18.19のピークを含む、2θ角のX線粉末回折ピークを特徴とする。
【0057】
より特定の実施形態において、塩は、11.35、17.24、18.19、及び18.91のピークを含む、2θ角のX線粉末回折ピークを特徴とする。
【0058】
より特定の実施形態において、塩は、11.35、17.24、18.19、18.91、及び22.80のピークを含む、2θ角のX線粉末回折ピークを特徴とする。
【0059】
特定の実施形態において、塩は、表A(以下)に示すピークから選択される2θ角における、少なくとも3つのX線粉末回折ピークを特徴とする:
【0060】
【0061】
より特定の実施形態において、塩は、表Aのピークから選択される2θ角に、少なくとも6、7、8、又は9(又は特に、少なくとも10)のX線粉末回折ピークを含む、少なくとも4、例えば少なくとも5などを有することを特徴とする。
【0062】
更により特定の実施形態において、塩は、表Aのピークに対応する(又は実質的に対応する)ピークを含む、2θ角のX線粉末回折ピークを有することを特徴とする。
【0063】
ある特定の実施形態において、塩は、
図1に示すパターンと実質的に一致するX線粉末回折パターンを有することを特徴とする。
【0064】
ある特定の実施形態において、塩は、溶媒和物である。「溶媒和物」とは、本発明者らは、塩が結晶構造の内部に溶媒の分子を含有することを意味し、その溶媒は、その調製に使用される溶媒(例えば、i-PrOH、EtOH、又はEtOHと水の混合物;本明細書で提供される例を参照されたい)であり得る。
【0065】
より特定の実施形態において、塩は、水和物である。「水和物」とは、本発明者らは、塩が結晶構造の内部に水の分子を含有することを意味する。
【0066】
ある特定の実施形態において、塩は、実質的に非吸湿性又は非吸湿性であると記載されてもよく、この用語は当業者によって理解される。特に、実質的に非吸湿性という用語は、2日間にわたり40℃で相対湿度75%の条件に曝露した後、塩が、0.5重量%以下の水(0.3重量%未満又は0.2重量%の水、より具体的には0.1重量%以下の水など)を吸収することを意味するものと解釈され得る。
【0067】
医学的使用
本明細書に示されるように、本発明の化合物、ひいてはそれを含む組成物及びキットは、医薬品として有用である。
【0068】
したがって、本発明の第2の態様によれば、医薬品として使用するための(又は医薬に使用するための)、上記に定義される本発明の第1の態様の塩(すなわち、全ての実施形態及びそれらの特定の特徴を含む、本発明の第1の態様に定義される塩)が提供される。
【0069】
本明細書に示されるように、本発明の塩は、高血糖症又は高血糖症を特徴とする障害の治療に特に有用なものであり得る。
【0070】
したがって、本発明の第3の態様では、高血糖症又は高血糖症を特徴とする障害の治療に使用するための、上記に定義される本発明の第1の態様の塩が提供される。
【0071】
本発明の代替的な第3の態様において、高血糖症又は高血糖症を特徴とする障害の治療に使用するための薬剤の製造における、本発明の第1の態様の塩の使用が提供される。
【0072】
本発明の更なる代替的な第3の態様において、高血糖症又は高血糖症を特徴とする障害を治療する方法であって、それを必要とする患者に治療有効量の本発明の第1の態様の塩を投与することを含む方法が提供される。
【0073】
疑義を避けるために、本明細書で使用される場合、「高血糖症」という用語は、それを患う対象の血漿中を過剰量のグルコースが循環している症状を指すことは、当業者によって理解されるであろう。特に、該用語は、約10.0mmol/Lよりも高い(例えば、約11.1mmol/Lよりも高い、例えば、約15mmol/Lよりも高い)血糖値を有する対象(例えば、ヒト対象)を意味してもよいが、該用語は、また、長期間(例えば、24時間超、例えば、48時間超など)、約7mmol/Lよりも高い血糖値を有する対象(例えば、ヒト対象)も意味してもよい。
【0074】
当業者は、特定の症状の「治療」(又は、同様に、その症状を治療すること)への言及は、医薬分野におけるそれらの通常の意味であることを理解するであろう。特に、この用語は、症状に関連する1つ以上の臨床症候の重篤度の低下を達成することを指し得る。例えば、2型糖尿病の場合、この用語は、血糖値の低下を達成することを指し得る。特定の実施形態において、高血糖症又は高血糖症を特徴とする症状を治療する場合、この用語は、血糖値の低下を達成すること(例えば、約10.0mmol/mL以下(例えば、約4.0mmol/L~約10.0mmol/Lの範囲のレベルに)、例えば、約7.5mmol/mL以下(例えば、約4.0mmol/L~約7.5mmol/Lの範囲のレベルに)、又は約6mmol/mL以下(例えば、約4.0mmol/L~約6.0mmol/Lの範囲のレベルに))を意味してもよい。
【0075】
本明細書で使用される場合、患者への言及は、哺乳動物(例えば、ヒト)患者を含む、治療される生体を指す。したがって、本発明の第1の態様の特定の実施形態において、治療は哺乳動物(例えば、ヒト)において行われる。
【0076】
本明細書で使用される場合、治療有効量という用語は、治療される患者に治療効果を与える塩の量を指す。その効果は、客観的(すなわち、ある試験若しくはマーカーによって測定可能)又は主観的(すなわち、対象が効果の指標を与えるか、及び/若しくは効果を感じる)であってもよい。
【0077】
疑義を避けるために、本発明の第1の態様の化合物は、薬理学的活性を保有し、かつ/又は経口若しくは非経口投与後に体内で代謝されて薬理学的活性を保有する化合物を形成するので有用である。特に、本明細書に記載されるように、本発明の第1の態様の化合物は、高血糖症又は高血糖症を特徴とする障害(2型糖尿病など)の治療に有用であり、この用語は、(本明細書に記載されるように)当業者によって容易に理解されるであろう。
【0078】
特定の実施形態において、治療は、高血糖症を特徴とする障害(症状又は疾患とも呼ばれ得る)の治療である。
【0079】
特定の実施形態において、本発明の塩(すなわち、その全ての実施形態を含む、式Iの化合物のヘミ酒石酸塩)は、2型糖尿病の治療に使用するためのものである(又は、本明細書に記載されるような、そのような治療のための薬剤の製造において有用であるか、又はそのような治療のための方法において有用である)。
【0080】
本発明の第1の態様の特定の実施形態において、障害は、2型糖尿病、例えば、若年成人発症型糖尿病(MODY)、成人型ケトーシス性(ketosis-prone)糖尿病、成人型潜伏性自己免疫性糖尿病(LADA)、及び妊娠糖尿病からなるリストから選択されるサブタイプの2型糖尿病である。
【0081】
更なる特定の実施形態において、2型糖尿病の治療は、非肥満患者において行われる。
【0082】
疑義を避けるために、当業者は、30超の肥満度指数(BMI)を有する患者が肥満であるとみなされることを理解するであろう。
【0083】
特定の実施形態において、治療は、2型糖尿病を発症するリスクのある患者における高血糖症(この状態は、前糖尿病と定義され得る)の治療であり得る。したがって、本発明の塩は、2型糖尿病の予防に(例えば、前糖尿病を患っている患者において)有用であり得る。
【0084】
本明細書で使用される場合、予防(prevention)(及び、同様に、予防する(preventing))という用語には、疾患又は障害の予防(prophylaxis)への言及が含まれる(逆もまた同様である)。したがって、予防(prevention)への言及はまた、予防(prophylaxis)への言及であり得、逆もまた同様である。特に、この用語は、患者(又は健康な対象)が状態を発症する可能性の低下(例えば、少なくとも10%の減少、少なくとも20%、30%、又は40%の減少、例えば、少なくとも50%の減少)を達成することを意味してもよい。
【0085】
より特定の実施形態において、2型糖尿病は、重度のインスリン抵抗性(SIR)を示す患者を特徴とする。
【0086】
更なる実施形態において、治療は、1型糖尿病を有する患者における高血糖症の治療であり得る。したがって、本発明の塩は、1型糖尿病の高血糖症の治療に有用であり得る。
【0087】
当業者は、本発明の塩が、嚢胞性線維症を有する患者など、インスリン産生の障害を有する患者における高血糖症を治療するのに有用であり得ることを理解するであろう。したがって、更なる実施形態において、高血糖症を特徴とする障害は、嚢胞性線維症関連糖尿病である。
【0088】
言及され得る特定の実施形態において、高血糖症を特徴とする障害は、重度のインスリン抵抗性(SIR)であり(又はそれを特徴とし)、典型的には対象が正常なインスリン産生を有するか、又はいくつかの場合には、増加したインスリン産生を有するが、インスリン感受性が有意に低下している障害を指すことは、当業者によって理解され得る。特定の場合では、そのような患者は非肥満(例えば、健康的な体重であるもの)であってもよい。したがって、特定の実施形態において、そのような治療は、肥満であると定義されていない患者(例えば、健康的な体重であると定義されている患者)において行われる。
【0089】
例えば、SIRは、患者において、該患者の絶食時インスリンが150pmol/L超、及び/又はグルコース耐性試験におけるピークインスリンが1,500pmol/L超であることに基づいて、特に、30kg/m2未満のBMIを有する個人(この患者は、あるいは正常な耐糖能を有し得る)において、同定され得る。
【0090】
より具体的には、SIRは、インスリン受容体の機能における欠陥(例えば、遺伝子欠損)に起因してもよい、インスリンの存在に対して有意な応答を有しない患者を特徴とし得る。
【0091】
SIRを特徴とし得る特定の障害には、ラブソン・メンデンホール症候群、ドナヒュー症候群(妖精症)、インスリン抵抗性のA型及びB型症候群、HAIR-AN(高アンドロゲン症、インスリン抵抗性、及び黒色表皮腫)症候群、偽先端巨大症、並びに脂肪異栄養症が含まれる。
【0092】
SIRを特徴とし得るより具体的な障害には、ドナヒュー症候群及びインスリン抵抗性のA型症候群が含まれ、更により具体的には、ラブソン・メンデンホール症候群が含まれる。
【0093】
当業者は、本発明の第1の態様の塩を用いた治療が、同じ状態のための更なる(すなわち、追加の/他の)治療を更に含み(すなわち、それと組み合わされ)得ることを理解するであろう。特に、本発明の化合物を用いた治療は、2型糖尿病の治療のための他の手段、例えば、当業者に既知である2型糖尿病の治療に有用である1つ以上の他の治療剤を用いた治療、例えば、患者に食事の変更及び/若しくは一連の運動を行うこと要求することを含む療法、並びに/又は体重減少を促進するように設計された外科的処置(例えば、胃バンド手術)と組み合わされ得る。
【0094】
特に、本発明の塩を用いた治療は、(例えば、治療されている患者においてまた)、1つ以上の(例えば、1つの)更なる化合物(すなわち、治療剤)と組み合わせて、行われてもよく、この組み合わされる塩は、
(i)血糖値を低下させることができる、及び/又は
(ii)インスリン増感剤である、及び/又は
(iii)インスリン放出を増強するものであり、
これらの全ては、以下に記載されている。
【0095】
代替的な実施形態において、本発明の第1の態様の塩(すなわち、本発明の塩)は、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の治療に有用であり得る。
【0096】
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は、肝臓におけるトリグリセリドの形態での過剰な脂肪蓄積(脂肪変性)(組織学的に肝細胞の5%超の蓄積として指定される)により定義される。これは、先進国における最も一般的な肝障害であり(例えば、米国の成人の約30%が罹患している)、ほとんどの患者は、無症候性である。治療せずに放置した場合、状態は、次第に悪化し得、最終的に肝硬変を引き起こし得る。NAFLDは、肥満患者において特に一般的であり、約80%がこの疾患を有すると考えられている。
【0097】
NAFLD患者のサブグループ(例えば、米国の成人の2~5%)は、過剰な脂肪の蓄積に加えて、肝細胞の損傷及び炎症を呈する。非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)として指定されるこの状態は、実質的に、アルコール性脂肪性肝炎と組織学的に区別できない。NAFLDに見られる単純な脂肪変性は、短期の罹患率又は死亡率の増加と直接相関していないが、この状態からNASHへの進行は、肝硬変、肝不全及び肝細胞癌のリスクを劇的に増加させる。実際、NASHは現在、先進国の肝硬変(原因不明の肝硬変を含む)の主な原因の1つであると考えられている。
【0098】
NASHの正確な原因はまだ解明されておらず、全ての患者においてほぼ確実に同じではない。これは、インスリン抵抗性、肥満、及びメタボリックシンドローム(2型糖尿病、インスリン抵抗性、中枢性(トルン)肥満、高脂血症、低高密度リポタンパク質(HDL)コレステロール、高トリグリセリド血症、及び高血圧に関連する疾患が含まれる)と最も密接に関連している。しかしながら、これらの状態を有する全ての患者がNASHを有しているわけではなく、NASHを有する全ての患者がこれらの状態のうちの1つに罹患しているわけでもない。それにもかかわらず、NASHが肝硬変、肝不全及び肝細胞癌につながる潜在的に致命的な状態であることを考えると、効果的な治療に対する明らかな必要性が存在する。
【0099】
特定の実施形態において、非アルコール性脂肪性肝疾患の治療で使用するための(又はそのような治療のための薬剤の製造で使用するための)、本発明の塩(すなわち、全ての実施形態を含む、式Iの化合物のヘミタタラート塩(hemi-tatrate salts))が提供される。
【0100】
あるいは、非アルコール性脂肪性肝疾患を治療する方法であって、それを必要とする患者へ治療有効量の本発明の塩(すなわち、その全ての実施形態を含む、式Iの化合物のヘミ酒石酸塩)を投与することを含む方法が提供される。
【0101】
トリグリセリド脂肪が肝細胞に蓄積するプロセスは、脂肪変性(すなわち、脂肪肝)と呼ばれる。当業者は、「脂肪変性」という用語が、細胞内の脂肪(すなわち、脂質)の異常な保持を包含することを理解するであろう。したがって、本発明の第1の態様の特定の実施形態において、治療又は予防は、脂肪変性を特徴とする脂肪性肝疾患の治療又は予防である。
【0102】
脂肪変性の間、過剰な脂質は、細胞の細胞質を変位させる小胞中に蓄積する。経時的に、小胞は、核を歪めるのに十分大きく成長する場合があり、その状態は、大胞性脂肪変性として既知である。そうでない場合には、状態は、微小胞性脂肪変性と呼ばれ得る。脂肪症は、軽度の症例ではほとんど無害である。しかしながら、肝臓中に脂肪が大量に蓄積すると、重大な健康上の問題を引き起こす可能性がある。脂肪変性に関連する危険因子には、真性糖尿病、タンパク質栄養不良、高血圧、肥満、無酸素症、睡眠時無呼吸症、及び細胞内の毒素の存在が含まれる。
【0103】
本明細書に記載されるように、脂肪性肝疾患は、アルコール又はメタボリックシンドローム(例えば、糖尿病、高血圧、肥満、又は脂質異常症)と最も一般的に関連している。したがって、根本的な原因に応じて、脂肪性肝疾患は、アルコール関連脂肪性肝疾患又は非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)と診断され得る。
【0104】
アルコールに関連しない脂肪性肝疾患に関連する特定の疾患又は状態には、糖尿病、高血圧、肥満、脂質異常症、無ベータリポタンパク血症、グリコーゲン蓄積症、ウェーバー・クリスチャン病、妊娠の急性脂肪肝、及び脂肪異栄養症などの代謝状態が含まれる。脂肪性肝疾患に関連する他の非アルコール関連因子には、栄養失調、完全非経口栄養、重度の体重減少、再摂食症候群、空腸バイパス、胃バイパス、多嚢胞性卵巣症候群、及び憩室症が含まれる。
【0105】
本発明の塩は、アルコール関連ではない脂肪性肝疾患と呼ばれ得るNAFLDの治療又は予防に特に有用であることが見出されている。「アルコール関連ではない」脂肪性肝疾患は、患者のアルコール摂取量が主要な原因因子であるとみなされない場合に診断され得る。脂肪性肝疾患を「アルコール関連ではない」と診断するための典型的な閾値は、1日の摂取量が女性対象では20g未満、男性対象では30g未満である。
【0106】
治療せずに放置した場合、脂肪性肝疾患に罹患している対象は、肝臓の炎症(肝炎)を患い始める可能性がある。この炎症の考えられる原因のうちの1つは、肝臓細胞の膜への脂質過酸化損傷であり得ると仮定されている。脂肪肝の炎症は、多くの重篤な状態につながる可能性があるため、炎症が起こる前に脂肪性肝疾患を治療又は予防することが望ましい。したがって、本発明の第1の態様の特定の実施形態において、治療又は予防は、炎症に関連するNAFLDの治療又は予防である。
【0107】
非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)は、NAFLDの最も攻撃的な形態であり、過剰な脂肪蓄積(脂肪変性)が肝臓の炎症を伴う状態である。進行すると、NASHは、肝臓の瘢痕組織の発達(線維症)を引き起こし、最終的に肝硬変を引き起こし得る。上記のように、本発明の化合物は、特に肝臓の炎症を伴う場合、NAFLDの治療又は予防に有用であることが見出されている。したがって、本発明の塩はまた、NASHの治療又は予防に有用である。したがって、本発明の第1の態様の更なる実施形態において、治療又は予防は、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の治療又は予防である。
【0108】
当業者は、本発明の第1の態様の塩を用いた治療が、同じ状態のための更なる(すなわち、追加の/他の)治療を更に含み(すなわち、それと組み合わされ)得ることを理解するであろう。特に、本発明の塩による治療は、本明細書に記載されるような脂肪性肝疾患の治療のための他の手段、例えば、当業者に公知の脂肪性肝疾患の治療に有用な1つ以上の他の治療剤による治療などと組み合わせてもよい;例えば、患者が食事の変更を受けること、及び/又は運動レジメンに着手すること、及び/又は体重減少を促進するように設計された外科的処置(例えば胃バンド手術)の要求を含む療法。
【0109】
特に、本発明の塩を用いた治療は、(例えば、また治療されている患者において)、肝臓の脂肪(例えば、トリグリセリド)のレベルを低下させることができる1つ以上の(例えば、1つの)更なる化合物(すなわち、治療剤)と組み合わせて、行われてもよい。
【0110】
脂肪性肝疾患の治療への言及は、肝細胞の治療上有意な脂肪(例えば、トリグリセリドレベル)の減少の達成(例えば、少なくとも5重量%の減少、例えば、少なくとも10%、又は少なくとも20%、又は更には25%の減少)。
【0111】
医薬組成物
本明細書に記載されるように、本発明の第1の態様の塩は、医薬品として有用である。そのような塩は、単独で投与されても、既知の医薬組成物/製剤を経由して投与されてもよい。
【0112】
本発明の第4の態様において、本発明の第1の態様に定義される塩(すなわち、本発明の塩)と、任意に1つ以上の薬学的に許容され得るアジュバント、希釈剤、及び/又は担体と、を含む、医薬組成物が提供される。
【0113】
当業者は、特定の用途のためである本発明の第1の態様の塩(並びに、同様に、本発明の塩に関する使用及び使用方法)への本明細書での言及はまた、本明細書に記載される本発明の塩を含む医薬組成物に適用され得ることを理解するであろう。
【0114】
本発明の第5の態様において、本発明の第1の態様に定義される塩と、任意に1つ以上の薬学的に許容され得るアジュバント、希釈剤、及び/又は担体と、を含む、高血糖症又は高血糖症を特徴とする障害(本明細書に定義されるような、2型糖尿病など)の治療に使用するための医薬組成物が提供される。
【0115】
本発明の代替的な第5の態様において、本明細書に定義される非アルコール性脂肪性肝疾患の治療又は予防に使用するための医薬組成物が提供される。
【0116】
当業者は、本発明の第1(ひいては第2及び第3)の態様の塩は、全身的及び/又は局所的に(すなわち、特定の部位で)作用し得ることを理解するであろう。
【0117】
当業者は、本発明の第1~第5の態様に記載された塩及び組成物が、通常、経口、静脈内、皮下、頬側、直腸、皮膚、鼻腔、気管(tracheally)、気管支(bronchially)、舌下、鼻腔内、局所、他の非経口経路又は吸入を介して、薬学的に許容され得る剤形で投与されるであろうことを理解するであろう。本明細書に記載される医薬組成物には、経口投与のための錠剤、カプセル、又はエリキシル、直腸投与のための坐剤、非経口又は筋肉内投与のための滅菌溶液又は懸濁液などの形態の組成物が含まれる。あるいは、特に本発明のそのような塩が局所的に作用する場合、医薬組成物は局所投与用に製剤化されてもよい。
【0118】
したがって、本発明の第4及び第5の態様の特定の実施形態において、医薬製剤は、錠剤又はカプセル剤、経口的に又は注射によって摂取される液体形態、坐剤、クリーム剤、ゲル剤、フォーム剤、吸入剤、鼻腔内剤形、又は局所投与に好適な形態を含む、薬学的に許容され得る剤形で提供される。疑義を避けるために、そのような実施形態において、本発明の塩は、固体(例えば、固体分散物)、液体(例えば、溶液中)、又はミセルの形態などの他の形態で存在してもよい。
【0119】
例えば、経口投与のための医薬製剤の調製において、塩は、ラクトース、サッカロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アミロペクチン、セルロース誘導体、ゼラチン、又は別の好適な成分などの固体粉末成分と、並びにステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリルフマル酸ナトリウム、及びポリエチレングリコールワックスなどの崩壊剤及び滑沢剤と、混合され得る。次いで、混合物は、顆粒に加工され得るか、又は錠剤に圧縮され得る。
【0120】
軟質ゼラチンカプセル剤は、例えば、植物油、脂肪、又は軟質ゼラチンカプセルのための他の好適なビヒクルと一緒に、1つ以上の活性化合物(例えば、本発明の第1の態様の塩、したがって、並びに第2及び第3の態様の塩、並びに任意に追加の治療剤)を含有するカプセル剤で調製され得る。同様に、硬質ゼラチンカプセルは、そのような化合物を、ラクトース、サッカロース、ソルビトール、マンニトール、ジャガイモデンプン、トウモロコシデンプン、アミロペクチン、セルロース誘導体、又はゼラチンなどの固体粉末成分と組み合わせて含有し得る。
【0121】
直腸投与のための投薬単位は、(i)中性脂肪基剤と混合された化合物を含有する坐剤の形態;(ii)植物油、パラフィン油、又はゼラチン直腸カプセルのための他の好適なビヒクルとの混合物中に活性物質を含有するゼラチン直腸カプセルの形態;(iii)既製の微小浣腸剤の形態;又は(iv)投与直前に好適な溶媒中で再構成される乾燥微小浣腸製剤の形態で調製され得る。
【0122】
経口投与のための液体製剤は、化合物、並びに砂糖又は糖アルコールからなる製剤の残り、並びにエタノール、水、グリセロール、プロピレングリコール及びポリエチレングリコールの混合物を収容する、シロップ又は懸濁液、例えば、溶液又は懸濁液の形態で、調製されてもよい。所望であれば、そのような液体調製物は、着色剤、着香剤、防腐剤、サッカリン、及びカルボキシメチルセルロース、又は他の増粘剤を含有し得る。経口投与のための液体調製物はまた、使用前に好適な溶媒を用いて再構成される乾燥粉末の形態で調製され得る。
【0123】
非経口投与のための溶液は、薬学的に許容され得る溶媒中の化合物の溶液として調製され得る。これらの溶液はまた、安定化成分及び/又は緩衝成分を含有し得、アンプル又はバイアルの形態で単位用量に分配される。非経口投与のための溶液はまた、使用前に即興的に好適な溶媒を用いて再構成される乾燥調製物として調製され得る。
【0124】
当業者は、本発明の塩が様々な用量で(例えば、本明細書上記の製剤として)投与され得、好適な用量が当業者によって容易に決定されることを理解するであろう。経口、肺、及び局所投薬量(及び皮下投薬量、但し、これらの投薬量は比較的少なくてもよい)は、1日体重1kg当たり約0.01μg/kg/日(μg/kg/日)~1日体重1kg当たり約20mg/kg/日(mg/kg/day)、好ましくは約0.1μg/kg/日~約5mg/kg/日、及びより好ましくは約1μg/kg/日~約2mg/kg/日(例えば、約10μg/kg/日~約1mg/kg/日)の範囲であってもよい。例えば、経口投与される場合、そのような塩での治療は、典型的には、約1μg~約2000mg、例えば約10μg~約500mg、又は100μg~約200mg(例えば、約1mg~約100mg)の活性成分を含有する製剤の投与を含み得る。静脈内投与されるとき、最も好ましい用量は、定速注射中に約0.001~約10μg/kg/時の範囲であろう。有利には、治療は、そのような塩及び組成物を1日1回の投与で投与することを含んでもよく、又は1日総投薬量を、1日2回、3回又は4回の分割用量で(例えば、10mg、20mg、30mg又は40mgの1日2回、又は10μg、20μg、30μg又は40μgの1日2回の用量など、本明細書に記載されている用量に関して1日2回)で投与され得る。
【0125】
いずれの場合でも、当業者(例えば、医師)は、個々の患者に最も好適な実際の投薬量を決定することができ、これは、投与経路、治療されるべき症状の種類及び重篤度、並びに治療されるべき特定の患者の種、年齢、体重、性別、腎機能、肝機能及び応答によって様々である可能性が高い。上記の投与量は、平均的な場合の例であり、当然のことながら、より高い又はより低い投薬量範囲が妥当である個々の事例があり得、それらも本発明の範囲内である。
【0126】
本明細書で上記のように、当業者は、本発明の第1の態様の塩を用いた治療が、同じ状態のための更なる(すなわち、追加の/他の)治療を更に含み(すなわち、それと組み合わされ)得ることを理解するであろう。特に、本発明の塩を用いた治療は、高血糖症又は高血糖症を特徴とする障害(本明細書に定義されるような、2型糖尿病など)の治療のための他の手段、例えば、高血糖症又は高血糖症を特徴とする障害(本明細書に定義されるような、2型糖尿病など)の治療に有用である1つ以上の他の治療剤を用いた治療と組み合わされ得る。
【0127】
本発明の第4及び第5の態様の特定の実施形態において、医薬組成物は、1つ以上の追加の(すなわち、他の)治療剤を更に含み得る。
【0128】
より特定の実施形態において、1つ以上の更なる治療剤は、メトホルミン、スルホニル尿素(例えば、カルバタミド、アセトヘキサミド、クロルプロパミド、トルブタミド.グリピジド(グルコトール)、グリクラジド、グリベンクラミド、グリブリド(Micronase)、グリボルヌリド、グリキドン、グリソキセピド、グリコピラミド、グリメプリド(Amaryl)、グリミプリム、JB253又はJB558)、チアゾリジンジオン(例えば、ピオグリタゾン、ロシグリタゾン(Avandia)、ロベグリタゾン(Duvie)及びトログリタゾン(Rezulin))、ジペプチジルペプチダーゼ-4阻害剤(例えば、シタグリプチン、ビルダグリプチン、サクサグリプチン、リナグリプチン、アナグリプチン、テネリグリプチン、アログリプチン、トレラグリプチン、ゲミグリプチン、ドゥトグリプチン及びオマリグリプチン)、SGLT2阻害剤(例えば、ダパグリフロジン、エンパグリフロジン、カナグリフロジン、イプラグリフロジン、トホグリフロジン、セルグリフロジンエタボナート、レモグリフロジンエタボナート、及びエルツグリフロジン)、並びにグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)類似体などの、当業者に既知の2型糖尿病の治療のための薬剤である。
【0129】
当業者は、治療剤の組み合わせがまた、組み合わせ製品として記載され得、及び/又はキットオブパーツとして提供され得ることを理解するであろう。
【0130】
本発明の第6の態様において、
(A)本発明の第1の態様で定義した塩と、
(B)1つ以上の追加の治療剤と、を含み、
構成要素(A)及び(B)の各々が、任意に1つ以上の薬学的に許容され得るアジュバント、希釈剤、又は担体と混合して製剤化される、組み合わせ製品が提供される。
【0131】
本発明の第7の態様において、
(a)本発明の第1(又は第2及び/若しくは第3)の態様に定義される塩(又はそれを含む医薬組成物)又は本発明の第4若しくは第5の態様に定義される医薬組成物と、
(b)任意に1つ以上の薬学的に許容され得るアジュバント、希釈剤、又は担体と混合された、1つ以上の他の治療剤と、を含み、
構成要素(a)及び(b)が、各々、他方と併せて投与するのに好適な形態で提供される、キットオブパーツが提供される。
【0132】
特定の実施形態(例えば、本発明の第6及び第7の態様の)において、更なる治療剤は、当業者に知られているように(例えば、本明細書に記載されているもの)、高血糖症又は高血糖症を特徴とする障害(例えば、2型糖尿病)の治療に有用な治療剤である。
【0133】
例えば、本発明の第4から第5の態様の特定の実施形態において、追加の治療剤は、
(i)血糖値を低下させることができる、及び/又は
(ii)インスリン増感剤である、及び/又は
(iii)インスリン放出を増強することができる、薬剤であり、
上記の作用剤は、当業者によって容易に同定され、特に、市販されているそのような治療剤(例えば、欧州又は米国での販売許可のような1地域以上における販売許可の対象である薬剤)を含む。
【0134】
当業者であれば、血糖値を低下させることができる治療剤への言及は、関連する化合物での治療前の血糖値と比較して、その血液レベルを少なくとも10%(例えば、少なくとも20%、少なくとも30%、又は少なくとも40%、例えば、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、又は少なくとも80%、例えば、少なくとも90%)低下させることができる化合物を意味してもよいことを理解するであろう。
【0135】
本発明の第6及び第7の態様の代替的な実施形態において、追加の治療剤は、当業者によって容易に特定され、特に、市販のそのような治療剤が含まれる、非アルコール性脂肪性肝疾患(NASHなど)の治療又は予防のための薬剤(例えば、欧州又は米国の販売承認などの、1つ以上の地域での販売承認の対象となる薬剤)である。
【0136】
塩/組成物の調製
本明細書に記載される医薬組成物/製剤、組み合わせ製品及びキットは、標準的及び/又は許容される薬務に従って、調製され得る。
【0137】
したがって、本発明の更なる態様において、上記に定義されるような医薬組成物/製剤を調製するためのプロセスが提供され、このプロセスは、上記に定義されるような本発明の塩を、1つ以上の薬学的に許容され得るアジュバント、希釈剤、又は担体と関連付けることを含む。
【0138】
本発明の更なる態様において、本明細書にて上記に定義されるような組み合わせ製品又はキットオブパーツを調製するためのプロセスであって、本明細書にて上記に定義されるような本発明の塩、高血糖症又は高血糖症を特徴とする障害(例えば、2型糖尿病)の治療に有用である他の治療剤、及び少なくとも1種の薬学的に許容され得るアジュバント、希釈剤又は担体とを関連付けることを含むプロセスが、提供される。
【0139】
本明細書で使用される場合、関連付けることへの言及は、2つの構成要素を互いに併せて投与するのに好適なものにすることを意味する。
【0140】
したがって、明細書で上記に定義されるようなパーツキットを調製するためのプロセスに関して、2つの構成要素を互いに「関連付ける」ことにより、本発明者らは、パーツキットの2つの構成要素が、
(i)別個の製剤として(すなわち、互いに独立して)提供されてもよく、その後、併用療法において互いに併せて使用するために組み合わされるか、又は
(ii)併用療法において互いに併せて使用するための「コンビネーションパック」の別個の構成要素として一緒に包装され、提示され得ることを企図する。
【0141】
化合物及び塩の調製
本発明の第1(ひいては、第2及び第3)の態様に定義される化合物(すなわち、式Iの化合物)は、本明細書下記に提供される実施例に記載されるものなどの、当業者に周知の技術に従って調製され得る。例えば、式Iの化合物は、国際特許出願第2019/053427号に記載されている技術に従って作製されてもよく、その内容(特に、実施例)は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0142】
本発明の第1(ひいては、第2及び第3)の態様に定義される塩(すなわち、本発明の塩)は、本明細書下記に提供される実施例に記載されるものなどの、当業者に周知の技術に従って調製され得る。例えば、式Iの化合物は、酒石酸又は酒石酸の溶液と反応させてもよい(又は逆もまた同様である)。塩スイッチング技術もまた、1つの塩を別の塩に変換するために使用され得る。
【0143】
ある特定の実施形態において、本発明の塩は、式Iの化合物を、酒石酸の溶液反応させることによって調製される(又は逆もまた同様である)。
【0144】
言及され得る特定の実施形態において、溶液中の溶媒は、エタノール又はエタノール-水混合物である。溶媒としてエタノール又はエタノール-水混合物を使用することにより、高収率、高純度、及び高エナンチオマー純度での、式Iの化合物のヘミ酒石酸塩の製造のスケールアップが可能になる。
【0145】
本明細書に記載される塩(特に、本発明の第1の、並びにひいては、第2及び第3の態様で定義された塩)は、前述した症状において使用するためであるかにかかわらず、先行技術において知られている化合物よりも、より有効であり、より毒性が低く、より長く作用し、より効能があり、より副作用が少なく、より容易に吸収され、及び/又はより優れた薬物動態プロファイル(例えば、より高い経口バイオアベイラビリティ及び/又はより低いクリアランス)を有し、及び/又は他の有用な薬理学的、物理的又は化学的特性を有する、という利点を有してもよい。特に、そのような塩は、それらがより有効であり、及び/又はインビボで有利な特性を呈するという利点を有し得る。
【0146】
理論に拘束されることは望まないが、本発明の化合物は、骨格筋細胞におけるグルコース取り込みの増加を可能にする、β2-アドレナリン受容体の強力なアゴニストであると考えられている。本発明の化合物はまた、好適なレベルの代謝安定性を提供するものと考えられる。
【0147】
加えて、本明細書中に記載されるような塩は、cAMP産生を誘導することなく(又は(グルコース取り込みの増加を誘導する効果と比較した場合)、比較的小さい効果などにおいて、比較的最小の効果のみを伴う)、β2-アドレナリン受容体のアゴニストであるものと考えられる。これは、他の治療により生じ得るものより低いレベルの副作用を伴って、骨格筋細胞におけるグルコース取り込みの増加を可能にするものと考えられている。更に、本明細書に記載の塩を、血糖値を減少させることができる治療剤と組み合わせることは、有効な組み合わせ療法を提供すると考えられている。
【0148】
更に、本発明の塩及び組成物は、対応する遊離塩基(すなわち、式Iの化合物の遊離塩基)と比較して、いくつかの利点を有し得る。例えば、本発明の塩及び組成物は、製剤の改善された容易さ、改善された安定性、改善された純度、改善されたバイオアベイラビリティ、改善された味、製造プロセスにおいてスケールアップされる改善された能力、及び/又は対応する遊離塩基と比較して低い吸湿性を有し得る。そのような塩はまた、理想的には低い毒性を有し、したがって医薬における使用に好適である(すなわち、薬学的に許容され得る)。
【0149】
より具体的には、式Iの化合物の遊離塩基は、固体として調製することが困難であり、油又は固体のいずれかとして低収率で得られる。式Iの化合物の他の塩は、結晶化できなかったか、低収率並びに/若しくは低純度でしか結晶化できなかったか、又は濾過、単離、及びその後の合成のスケールアップが困難であるような小さな結晶を形成したかのいずれかであった。対照的に、式Iの化合物のヘミ酒石酸塩が、高収率、高純度(及び高エナンチオマー過剰率)、及び低吸湿性を実証する形態で、結晶性固体として容易に得られてもよいことが見出されたことは驚くべきことである。
【図面の簡単な説明】
【0150】
【
図1】(R)-2-(tert-ブチルアミノ)-1-(5-フルオロピリジン-3-イル)エタン-1-オールのヘミ酒石酸塩(hemitartrate salt)のXRPD分析を示す。
【実施例】
【0151】
本発明を以下の実施例により例証する。
【0152】
化学物質及び試薬は、商業的供給元から入手し、別途記載されない限り、受け取ったままの状態で使用した。感湿性試薬を伴う全ての反応は、窒素又はアルゴンの正圧下で、オーブン又は火炎乾燥したガラス器具内で行った。
【0153】
略語
本明細書で使用される略語は、当業者には既知であろう。特に、以下の略語が本明細書で使用され得る。
【0154】
【0155】
例示的な化合物及び塩
命名法と、図で示される化合物の構造との間に相違がある場合には、後者が優先される(但し、与えられ得るあらゆる実験の詳細によって矛盾が生じない限り、及び/又は文脈から明らかな場合を除く)。
【0156】
化合物例:(R)-2-(tert-ブチルアミノ)-1-(5-フルオロピリジン-3-イル)エタン-1-オール
【0157】
【0158】
(a)2-クロロ-1-(5-フルオロピリジン-3-イル)エタン-1-オン
【0159】
【0160】
塩化イソプロピルマグネシウム(THF中2M、10.47mL、20.94mmol)を、THF(8mL)中のLiCl(887.69mg、20.94mmol)の溶液に、室温で添加した。室温で15分後、THF(30mL)中の3-ブロモ-5-フルオロピリジン(3.35g、19.04mmol)を0℃で滴加した。混合物を室温で2時間にわたり撹拌し、氷浴で冷却した。2-クロロ-N-メトキシ-N-メチルアセトアミド(2.62g、19.04mmol)のTHF(30mL)中溶液を滴加し、混合物を室温で2時間にわたり撹拌した。NH4Cl(水溶液、10%)を添加し、混合物をEt2Oで抽出した。合わせた抽出物をブラインで洗浄し、乾燥させ(Na2SO4)、濃縮した。残渣をクロマトグラフィーにより精製して、副題化合物(1.52g、20.94mmol、46%)を得た。
【0161】
(b)(R)-2-クロロ-1-(5-フルオロピリジン-3-イル)エタン-1-オン
【0162】
【0163】
iPrOAc(250mL、10体積)、ペンタメチルシクロペンタジエニルロジウム(III)クロリド二量体(74mg、0.001当量)、(1S,2S)-(+)-N-p-トシル-1,2-ジフェニルエチレンジアミン(87mg、0.002当量)、及びNEt3(66μL、0.004当量)を、室温で1時間20分にわたり撹拌した後、2-クロロ-1-(5-フルオロピリジン-3-イル)エタン-1-オン塩酸塩(25g、1.00当量)を添加した。混合物を、7℃に冷却し、NEt3(83mL、5.00当量)を添加し、次いでHCOOH(9mL、2.00当量)を添加した。混合物を、室温で1時間にわたり撹拌した後、0.5M HCl水溶液で希釈し、iPrOAcで抽出し、H2Oで洗浄し、濃縮した。残渣を、iPrOHで希釈し、0℃に冷却し、次いでiPrOH中5.56M HCl(22mL、1.00当量)を添加した。固形物を集め、副題化合物(18.08g、72%、ee=98.7%)を得た。
【0164】
(c)(R)-2-(tert-ブチルアミノ)-1-(5-フルオロピリジン-3-イル)エタン-1-オール
【0165】
【0166】
tert-ブチルアミン(11.37mL、108.21mmol)、続いてNaOH(476.08mg、11.90mmol)を、2-クロロ-1-(5-フルオロピリジン-3-イル)エタン-1-オール(1.90g、10.82mmol)とiPrOH(1.66mL、21.64mmol)との混合物に、室温で添加した。混合物を75℃で4時間加熱し、冷却させ、EtOAcで希釈し、H2O及びブラインで洗浄し、乾燥させ(Na2SO4)、濃縮した。残渣を熱EtOAcに溶解し、冷却させた。ペンタンを添加し、混合物を-20℃で一晩維持した。固形物を集め、クロマトグラフィーにより精製して、表題化合物(1.43g、6.74mmol、62%、ee=98%)を得た。
【0167】
1H NMR(400MHz,CDCl3):δ8.43-8.27(m,2H),7.57-7.42(m,1H),4.62(dd,J=8.8,3.7Hz,1H),2.94(dd,J=12.1,3.8Hz,1H),2.53(dd,J=12.1,8.8Hz,1H),1.10(s,9H)。
【0168】
上記の実験において、表題化合物を、蒸発乾固によって遊離塩基として単離した。しかしながら、この単離方法は、典型的には実験室規模で実施された。したがって、異なる溶媒及び溶媒混合物を試験して、遊離塩基を結晶化させた。驚くべきことに、全ての初期の試みは、比較的低い収率(50%未満)での結晶の形成又は油分離のいずれかをもたらした。したがって、塩形態を調査することにした。
【0169】
塩実施例1:ヘミタータラート
L-(+)-酒石酸(6.21g、0.5当量)のEtOH(175mL)中溶液を、(R)-2-(tert-ブチルアミノ)-1-(5-フルオロピリジン-3-イル)エタン-1-オール(17.57g)のEtOH(525mL、30体積)及びH2O(7mL)中溶液に室温で加えた。全ての沈殿物が溶解するまで混合物を還流し、次いで冷却した。得られたスラリーを、室温で一晩、次いで0~5℃で2時間にわたり撹拌した。固形物を集めて、(R)-2-(tert-ブチルアミノ)-1-(5-フルオロピリジン-3-イル)エタン-1-オールの表題塩(19.9g、83%、HPLCによる純度100.0%、HPLCによる99.8%ee)を得た。
【0170】
ヘミタータラートの形成は、1H-NMRスペクトルによって確認され、これは、アミン:酸の比率2:1を示した。
【0171】
XRPD、DSC、及びDVS技術を用いた表題塩の固体状態特性の特性評価は、材料が211℃で高融点を有する結晶性であることを示した。塩は、吸湿性がなく、試験条件下(40℃及び75%RHで2日間)において物理的に安定であった。
【0172】
実験中に、ヘミ酒石酸塩の濾過が非常に良好であることが観察されたので、ヘミ酒石酸塩の形成のための条件を大規模に最適化するために更なる実験を実施した。結果を以下の表に示す。
【0173】
【0174】
全体として、(R)-2-(tert-ブチルアミノ)-1-(5-フルオロピリジン-3-イル)エタン-1-オールのヘミ酒石酸塩が、高収率、高純度、及び99%を超える(R)-2-(tert-ブチルアミノ)-1-(5-フルオロピリジン-3-イル)エタン-1-オールのエナンチオマー過剰率で得られた。特に、わずか95.6%の純度(HPLCによる)を有する(R)-2-(tert-ブチルアミノ)-1-(5-フルオロピリジン-3-イル)エタン-1-オールの遊離塩基の使用を使用して、99.8%を超える純度(HPLCによる)を有するヘミ酒石酸塩を調製し、これは、結晶化の際の有意な精製効果を示した。
【0175】
更に、合成は容易にアップスケーリングすることができ、(R)-2-(tert-ブチルアミノ)-1-(5-フルオロピリジン-3-イル)エタン-1-オールの他の塩形態の多くとは異なり、吸湿性が低く、かつ小さな結晶形成に起因するものと考えられた低速濾過の問題はなかった。
【0176】
ヘミ酒石酸塩の試料を、X線粉末回折によって分析したところ、
図1に示すような回折パターン生成ピークを有することが分かった。関連するピークのデータを以下の表に要約する。
【0177】
【0178】
比較塩実施例2:ジヒドロクロリド
塩酸水溶液(37%、1.1当量)を、(R)-2-(tert-ブチルアミノ)-1-(5-フルオロピリジン-3-イル)エタン-1-オール(300mg、1.0当量)のiPrOH(10体積)中溶液へ40℃で添加した。得られたスラリーを室温で一晩撹拌した。固形物を集めて、(R)-2-(tert-ブチルアミノ)-1-(5-フルオロピリジン-3-イル)エタン-1-オールの表題塩(47%)を得た。
【0179】
異なる溶媒及び酸を用いて合成を繰り返し、その結果を以下の表に示す。
【0180】
【0181】
(R)-2-(tert-ブチルアミノ)-1-(5-フルオロピリジン-3-イル)エタン-1-オールの表題塩のDSC分析は、約150℃で広範な吸熱事象を示し、脱水又は脱溶媒和の可能性に起因する質量損失、及び約220℃での2回目の吸熱事象を示した。二塩酸塩の合成中に集められた所見及び情報に基づいて、生成物は、塩調製中に水和物又は溶媒和物を形成する傾向が高いものと考えられる。二塩酸塩の良好な収率及び純度が達成されなかったので、この塩形態に対する作業を中止することにした。
【0182】
比較塩実施例3:エジシラート
1,2-エタンジスルホン酸(1.05当量)を、(R)-2-(tert-ブチルアミノ)-1-(5-フルオロピリジン-3-イル)エタン-1-オール(500mg、1.0当量)のiPrOH(20体積)中溶液へ室温で加えた。得られたスラリーを室温で一晩撹拌した。固形物を集めて、(R)-2-(tert-ブチルアミノ)-1-(5-フルオロピリジン-3-イル)エタン-1-オールの表題塩)を得た。
【0183】
塩は、試験条件下(40℃及び75%RHで2日間)において吸湿性であることが分かった。
【0184】
実験中、非常に微細な固形物の形成に起因して、エジシル酸塩の濾過が非常に遅いことが観察された。
【0185】
異なる溶媒及び酸を用いて合成を繰り返し、その結果を以下の表に示す。
【0186】
【0187】
塩形成から達成される精製が低いことに起因して、かつ医薬品グレード1,2-エタンジスルホン酸のバルク量での商業的利用可能性が限られていることに起因して、産生のためのエジシル酸塩の更なる開発は実施しなかった。
【0188】
比較塩実施例4:マレアート
マレイン酸(1.1当量)を、(R)-2-(tert-ブチルアミノ)-1-(5-フルオロピリジン-3-イル)エタン-1-オール(50mg、1.0当量)のiPrOH(10体積)中溶液へ40℃で添加した。得られたスラリーを室温で一晩撹拌した。固形物を集めて、(R)-2-(tert-ブチルアミノ)-1-(5-フルオロピリジン-3-イル)エタン-1-オールの表題塩)を得た。
【0189】
塩は、試験条件下(40℃及び75%RHで2日間)においてわずかに吸湿性であり、ここで、0.9重量%~1.4重量%の質量損失が、その後のTGMS分析の際に25~155℃の間で見られた水に起因した。
【0190】
実験中、非常に微細な固形物の形成に起因して、マレイン酸塩の濾過が非常に遅いことが観察された。
【0191】
(R)-2-(tert-ブチルアミノ)-1-(5-フルオロピリジン-3-イル)エタン-1-オールの表題塩を、再結晶化の試みに使用して、より大きな粒子の形成及び濾過の改善を促進する条件を見出した。スクリーニング実験で同定された条件を、50mgスケールでの塩形成実験に更に適用し、その結果を以下の表に示す。
【0192】
【0193】
比較塩実施例5:シトラート
クエン酸(1M、1.1当量)の水溶液を、(R)-2-(tert-ブチルアミノ)-1-(5-フルオロピリジン-3-イル)エタン-1-オール(40mg、1.0当量)のTHF/水(50:50v:v)中溶液へ室温で添加した。得られた混合物を一晩凍結乾燥した。結晶化は起こらなかった。
【0194】
混合物の半分をEtOAc中に溶解した;混合物の残りの半分をMeCN中に溶解した。溶液を、5℃~50℃で各々12時間にわたり3回の温度サイクルに供し、次いで室温で3日間にわたり放置した。結晶化は起こらなかった。
【0195】
比較塩実施例6:スクシナート
コハク酸(1.0当量)を、(R)-2-(tert-ブチルアミノ)-1-(5-フルオロピリジン-3-イル)エタン-1-オール(100mg、1.0当量)のiPrOH(20体積)中溶液へ40℃で添加した。得られた混合物を室温で一晩撹拌した。結晶化は起こらなかった。
【0196】
比較塩実施例7:p-トルエンスルホナート
p-トルエンスルホン酸(1.2当量)を、(R)-2-(tert-ブチルアミノ)-1-(5-フルオロピリジン-3-イル)エタン-1-オール(100mg、1.0当量)のi-PrOH(20体積)中溶液へ40℃で添加した。得られたスラリーを室温で一晩撹拌した。固形物を集めて、(R)-2-(tert-ブチルアミノ)-1-(5-フルオロピリジン-3-イル)エタン-1-オールの表題塩(106%、HPLCによる純度86.9%)を得た。
【0197】
実験中、非常に微細な固形物の形成に起因して、p-トルエンスルホン酸塩の濾過が非常に遅いことが観察された。
【0198】
塩は、試験条件下(40℃及び75%RHで2日間)においてわずかに吸湿性であり、ここで、1.6重量%~2.1重量%の質量損失が、その後のTGMS分析の際に25~160℃の間で見られた水に起因した。
【0199】
比較塩実施例8:フマラート
フマル酸(1.2当量)を、(R)-2-(tert-ブチルアミノ)-1-(5-フルオロピリジン-3-イル)エタン-1-オール(100mg、1.0当量)のEtOH(10体積)中溶液へ40℃で添加した。得られた混合物を室温で一晩撹拌した。結晶化は起こらなかった。
【0200】
混合物を蒸発乾固し、次いで、iPrOHから結晶化させた。固形物を集めて、(R)-2-(tert-ブチルアミノ)-1-(5-フルオロピリジン-3-イル)エタン-1-オールの表題塩)を得た。
【0201】
比較塩実施例9:オキサラート
シュウ酸(1M、1.1当量)の水溶液を、(R)-2-(tert-ブチルアミノ)-1-(5-フルオロピリジン-3-イル)エタン-1-オール(40mg、1.0当量)のTHF/水(50:50v:v)中溶液へ室温で添加した。得られた混合物を一晩凍結乾燥した。
【0202】
混合物の半分をEtOAc中に溶解した;混合物の残りの半分をMeCN中に溶解した。溶液を、5℃~50℃で各々12時間にわたり3回の温度サイクルに供し、次いで室温で3日間にわたり放置した。各場合において、固形物を集めて、(R)-2-(tert-ブチルアミノ)-1-(5-フルオロピリジン-3-イル)エタン-1-オールの表題塩(HPLCによる純度98.1%)を得た。
【0203】
オキサラートの形成は、1H-NMRスペクトルによって確認され、これは、アミン: 酸の比率1:1を示した。
【0204】
XRPD、DSC、及びDVS技術を用いた表題塩の固体状態特性の特性評価は、材料が171℃で高融点を有する結晶性であることを示した。塩は、物理的に安定であり、かつ試験条件下(40℃及び75%RHで2日間)において吸湿性ではなく、その後のTGMS分析の際に60~160℃で有意な質量損失を示さなかった。
【0205】
糖尿病患者における潜在的腎毒性に関する懸念に起因して、表題塩の更なるスケールアップは実施しなかった。
【0206】
比較塩実施例10:タータラート
L-(+)-酒石酸(1M、1.1当量)の水溶液を、(R)-2-(tert-ブチルアミノ)-1-(5-フルオロピリジン-3-イル)エタン-1-オール(40mg、1.0当量)のTHF/水(50:50v:v)中溶液へ室温で添加した。得られた混合物を一晩凍結乾燥した。結晶化は起こらなかった。
【0207】
混合物の半分をEtOAc中に溶解した;混合物の残りの半分をMeCN中に溶解した。溶液を、5℃~50℃で各々12時間にわたり3回の温度サイクルに供し、次いで室温で3日間にわたり放置した。結晶化は起こらなかった。
【0208】
生物学的実施例
L6-筋芽細胞を、10%ウシ胎仔血清、2mM L-グルタミン、50U/mLペニシリン、50μg/mLストレプトマイシン及び10mM HEPESを補充したグルコースを含む1g/Lグルコースを含有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)で増殖させた。細胞を、24ウェルプレート中に1×105細胞/mLで播種した。90%コンフルエンスに達した後、細胞を、2%FBSを含有する培地中で7日間増殖させ、そこで細胞を筋管に分化させた。
【0209】
生物学的実施例1:グルコース取り込み
分化させたL6-筋管を、0.5%無脂肪酸BSAを含有する培地中で一晩血清飢餓状態にし、最終濃度1×10-5Mのアゴニストで刺激した。1時間40分後、細胞を温かい無グルコース培地又はPBSで2回洗浄し、別の部分のアゴニストを無グルコース培地に添加した。20分後、細胞を50nM 3H-2-デオキシグルコースに10分間曝露した後、氷冷無グルコース培地又はPBSで3回洗浄し、0.2M NaOH(400μL/ウェル)に60℃で1時間溶解した。細胞溶解物を4mLのシンチレーション緩衝液(Emulsifier Safe、Perkin Elmer)と混合し、放射能をβ-カウンター(Tri-Carb 4810TR、Perkin Elmer)で検出した。
【0210】
化合物例1の化合物は、イソプロテレノールの活性の75%を超える活性を示した。
【0211】
生物学的実施例2:細胞内cAMPレベルの測定
分化させた細胞を、一晩血清飢餓状態にし、刺激緩衝液(1%BSA、5mM HEPES、及び1mM IBMXを補充したHBSS、pH7.4)中、最終濃度1×10-5Mのアゴニストで15分間刺激した。次いで、培地を吸引し、100μLの95%EtOHを24ウェルプレートの各ウェルに添加し、細胞を一晩-20℃に保った。EtOHを蒸発させ、500μLの溶解緩衝液(1%BSA、5mM HEPES及び0.3%Tween20、pH7.4)を各ウェルに添加した。プレートを-80℃で30分間維持し、次いで、試料を解凍する検出日まで-20℃で維持した。アルファスクリーンcAMPキット(Perkin Elmer社の6760635D)を使用して、細胞内cAMPレベルを検出した。
【0212】
化合物例1の化合物は、イソプロテレノールの活性の50%未満の活性を示した。
【国際調査報告】